(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】情報処理装置、および自動分析システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241119BHJP
G06F 11/07 20060101ALI20241119BHJP
G06F 11/22 20060101ALI20241119BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20241119BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20241119BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
G06F11/07 190
G06F11/22 675E
G06Q10/20
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2021154440
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横張 孝志
(72)【発明者】
【氏名】西木健一郎
【審査官】田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/005861(WO,A1)
【文献】特開2018-164159(JP,A)
【文献】特開2018-045548(JP,A)
【文献】特開2008-257700(JP,A)
【文献】特開2004-178059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0394850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0193938(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111915192(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 - 23/02
G06F 11/07
G06F 11/22
G06Q 10/20
G06Q 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障影響毎に、チェック対象の情報と、チェック対象と故障影響との関連度の情報と、前記チェック対象の先行事象の情報とを含む、拡張したFMEAデータベースと、
事象として確認されたチェック対象の情報を取得し、当該取得したチェック対象に基づいて、前記故障影響に対応する故障モードを特定するプロセッサと、を備え、
前記FMEAデータベースはさらに、前記故障影響と、前記故障影響に対応する故障モードとの間の因果関係を定義しており、
前記プロセッサは、
前記チェック対象に関連する故障影響の情報を前記拡張したFMEAデータベースから抽出する第1処理と、
前記チェック対象と故障影響の関連度の情報を参照し、
前記関連度が高いほどスコア値が高くなるように、前記第1処理で抽出した故障影響のスコア値を算出する第2処理と、
前記
因果関係に基づいて、前記第1処理で抽出した故障影響に対応する故障モードを提示する
とともに前記スコア値を提示する第3処理と、
を実行
し、
前記プロセッサは、前記スコア値が高い故障影響に対応する故障モードを優先度が高くなるように前記第3処理を実行し、
前記プロセッサは、前記拡張したFMEAデータベースを参照して、前記チェック対象における前記先行事象を抽出する処理をさらに実行し、
前記プロセッサは、前記第1処理で抽出された前記故障影響のうち前記スコア値が同一の故障影響がある場合、ユーザによって指定された先行事象と同一の先行事象を有する故障影響の優先度を高くして前記第3処理を実行する、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記事象として確認されたチェック対象は、ユーザによって選択されたチェック対象である、情報処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記事象として確認されたチェック対象は、保全支援対象の装置から出力される事象データおよびセンサログデータから特定されるチェック対象である、情報処理装置。
【請求項4】
自動分析装置の故障影響毎に、チェック情報と、チェック情報と故障影響との関連度の情報と、前記チェック情報の先行事象の情報とを含む、拡張したFMEAデータベースと、
前記自動分析装置からイベントデータおよびセンサログデータを前記チェック情報として取得し、当該取得したチェック情報に基づいて、前記故障影響に対応する故障モードを特定するプロセッサと、を備え、
前記FMEAデータベースはさらに、前記故障影響と、前記故障影響に対応する故障モードとの間の因果関係を定義しており、
前記プロセッサは、
前記センサログデータに異常があるか否か判定する第1処理と、
前記異常があると判定した異常センサログデータに関連する故障影響の情報を前記拡張したFMEAデータベースから抽出する第2処理と、
前記異常センサログデータに対応するチェック情報と故障影響の関連度の情報を参照し、前記第2処理で抽出した故障影響のスコア値を算出する第3処理と、
前記
因果関係に基づいて、前記第2処理で抽出した故障影響に対応する故障モードを推定し、提示する
とともに前記スコア値を提示する第4処理と、
を実行
し、
前記プロセッサは、前記スコア値が高い故障影響に対応する故障モードを優先度が高くなるように前記第4処理を実行し、
前記プロセッサは、前記拡張したFMEAデータベースを参照して、前記チェック情報における前記先行事象を抽出する処理をさらに実行し、
前記プロセッサは、前記第2処理で抽出された前記故障影響のうち前記スコア値が同一の故障影響がある場合、ユーザによって指定された先行事象と同一の先行事象を有する故障影響の優先度を高くして前記第4処理を実行する、
自動分析システム。
【請求項5】
請求項
4において、
さらに、前記自動分析装置の動作イベントごとのセンサデータの正常範囲を規定するセンサ閾値の情報を保持する閾値情報データベースを備え、
前記第1処理において、前記プロセッサは、前記閾値情報データベースから前記取得したセンサログデータを検知したセンサに対応するセンサ閾値を取得し、前記センサログデータと前記センサ閾値とを比較することにより前記センサログデータに異常があるか否か判定する、自動分析システム。
【請求項6】
請求項
4において、
前記拡張したFMEAデータベースは、さらに、前記故障影響に対応する機能故障を復旧させるための対処情報を含み、
前記プロセッサは、前記推定した故障モードに対応する前記対処情報を前記拡張したFMEAデータベースから取得し、当該対処情報に基づいて前記自動分析装置を復旧させる、自動分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、および自動分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動分析システムに不具合が発生した際に、チェック対象(システムアラートの内容や、センサのログデータ等)を検査して故障内容の特定を行うことになる。しかし、検査者の経験が浅いとどの検査対象をチェックすれば良いかがわからず、また、複数のチェック対象に同時に異常が見られた場合などに故障の特定に時間が掛かってしまう。
【0003】
このような課題を解決するため、例えば、特許文献1は、故障症状毎にモニタしなければならない箇所を設計時に決定しておき、作業者が列挙表示される各種故障症状の中から特定の症状を選択することで適切な検査項目を選び出せるようにした車両用電子システムの故障診断装置について開示する。
【0004】
また、特許文献2は、故障知識データが記録された故障知識データベースを用いて、保全作業者に調査手順を提示する際の優先度を設定し、優先度に基づいて調査手順を診断インタフェースユニットに提示する保全作業支援システムについて開示する。
【0005】
さらに、特許文献3は、設備から出力されるイベント信号を基に運転状態別にモード分割し、モード毎に正常モデルを作成し、モード毎に学習データの十分性をチェックし、その結果に応じて設定したしきい値を用いて異常識別を行う設備状態監視方法について開示する。
【0006】
また、特許文献4は、点検記録と故障記録が蓄積されるデータベースを備え、発生中の故障記録と過去の故障記録とを比較して、類似度の高い故障記録に対応する対処項目を類似度の高い故障記録に対応するものから順次表示する機器保守方法及び装置について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-78376号公報
【文献】特開2019-204302号公報
【文献】特開2014-59910号公報
【文献】特開2019-191705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1から4において故障検知のために様々なセンサが用いられているが、多くのセンサ類は、故障モード(部品やコンポーネントの断線、短絡、折損、摩耗、特性の劣化などの構造の破壊)の発生そのものではなく、機能故障(部品の故障モードによって引き起こされる機能の障害)の発生による装置の状態変化(故障影響または機能故障影響)を検知している。このため、センサ類が異常値を出力した際の、故障モードを迅速に特定できず、保守作業の効率化を図ることができない。したがって、経験の浅いユーザにとっては、故障の特定に時間が掛かる状況が依然として改善されていない。
本開示は、このような状況に鑑み、故障モードを迅速に特定することを可能にする技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示は、故障影響毎に、チェック対象の情報と、チェック対象と故障影響との関連度の情報と、チェック対象の先行事象の情報とを含む、拡張したFMEAデータベースと、事象として確認されたチェック対象の情報を取得し、当該取得したチェック対象に基づいて、故障影響に対応する故障モードを特定するプロセッサと、を備え、当該プロセッサは、チェック対象に関連する故障影響の情報を拡張したFMEAデータベースから抽出する第1処理と、チェック対象と故障影響の関連度の情報を参照し、第1処理で抽出した故障影響のスコア値を算出する第2処理と、スコア値に基づいて、第1処理で抽出した故障影響に対応する故障モードを提示する第3処理と、を実行する情報処理装置を提案する。
【0010】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例をいかなる意味においても限定するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本開示の技術によれば、迅速に故障モードを絞り込むことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態による、保全支援装置(システム保全支援機能を有する情報処理装置)10の概略構成例を示す図である。
【
図2】保全支援関連処理部101および拡張したFMEAデータベース141のソフトウェア内部構成例を示す図である。
【
図3】FMEAにおける各状態の概念(各状態の関係:特に因果関係)を示す図である。
【
図4】故障影響とチェック情報(チェック対象、関連度、および先行事象の各情報を含む)との関係を示す図である。
【
図6】保全支援装置10における故障モード推定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【
図7】故障影響選択画面700のGUI構成例を示す図である。
【
図8】入力された故障影響に合致する機能故障および故障モードの候補を表示するGUI例を示す図である。
【
図9】チェック情報を入力するためのチェック情報入力GUIの画面構成例を示す図である。
【
図10】選択されたチェック情報に関連する故障影響のスコア値の例を示す図である。
【
図11】先行事象を考慮した故障影響の優先付けを説明するための図である。
【
図12】故障モード推定結果(優先度順)表示1200(一例)を示す図である。
【
図13】故障モード推定処理が組み込まれた自動分析システム1300の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態は、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)をベースにして、機能故障が発生した際の故障モードの特定を支援する技術について説明する。本実施形態では、機能故障の種類によって、その原因を特定するために有効なチェック対象が異なることに着目し、機能故障の影響毎に、「チェック対象」及び「チェック対象と機能故障影響との関連度」、「チェック対象の先行事象」を定義し、それを使って、故障事象とチェック結果との合致度を算出して、故障モードを絞り込む。
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
更に、本開示の実施形態は、後述されるように、汎用コンピュータ上で稼動するソフトウェアで実装しても良いし専用ハードウェア又はソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装しても良い。
【0017】
なお、以後の説明では「テーブル」形式によって本開示の各情報について説明することがあるが、これら情報は必ずしもテーブルによるデータ構造で表現されていなくても良く、リスト、DB、キュー等のデータ構造やそれ以外で表現されていても良い。そのため、データ構造に依存しないことを示すために「テーブル」、「リスト」、「DB」、「キュー」等について単に「情報」と呼ぶことがある。
【0018】
また、各情報の内容を説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「名前」、「ID」という表現を用いることが可能であり、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0019】
以下では「プログラム(各処理部)」を主語(動作主体)として本開示の実施形態における各処理について説明を行うが、プログラムはプロセッサによって実行されることで定められた処理をメモリ及び通信ポート(通信制御装置)を用いながら行うため、プロセッサを主語とした説明としてもよい。また、プログラムを主語として開示された処理は管理サーバ等の計算機、情報処理装置が行う処理としてもよい。プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、また、モジュール化されていても良い。各種プログラムはプログラム配布サーバや記憶メディアによって各計算機にインストールされてもよい。
【0020】
(1)第1の実施形態
<FMEAにおける用語の定義>
本実施形態では、FMEAにおける各故障状態を用いて故障解析を行うが、まずFMEAにおける各故障状態の定義について説明する。FMEAには、上述のように、故障状態として、故障モード、機能故障、故障影響がある。これらFMEAの状態に関しては、故障モード→機能故障→故障影響の順で因果関係が存在する。
【0021】
(i)用語の説明
故障モードとは、保全対象の装置やシステムにおいて発生した、部品や部位などの物理的な破損などを言う。当該破損した部品などを交換しなければならない状態である。
【0022】
機能故障とは、上記部品の破損によって引き起こされる装置やシステムの動作(現象や症状)を言う。保全対象の装置やシステムが本来の動作をしなくなったことにより引き起こされる現象や症状(例えば、液漏れの発生)である。
【0023】
故障影響とは、機能故障の結果として観察される事象をいう。例えば、測定結果不良などが該当する。また、チェック対象とは、ユーザが観察して確認できる事象であったり、センサログなどから確認できる事象を意味する。例えば、圧力上昇が起きているなどである。直接故障しているもの(部品や部位)をチェックするのではなく、故障しているものから何が起きているのかを検査するものである。つまり、ユーザとして容易に認知できることは、どの部品や部位が故障しているかよりも、システムにおいて通常とは異なる事象が起きているか否かの方が認知しやすい。このため、起きている事象をチェック対象とし、そこから関連する故障個所(故障モード)を特定していく。つまり、例えば、部品であるモータの歯車が欠損しているか否かは装置やシステムを分解して観なければ分からないが、歯車の欠損によって生じる影響は容易に観察(認知)することができるという考えに基づいている。
【0024】
(ii)具体例
例えば、自動分析装置において、故障モードをプランジャーの故障とする場合を考える。このとき、機能故障は、適切な容量で液体を送り出せない状態になっている。そして、適切な容量で液体を送り出せていないと測定結果不良が起きたり、洗浄ポンプによる送液不良が起きたりする(故障影響)。実際に、この故障影響が起きていることを検知する手段が圧力センサやポジションセンサであり、このセンサによる数値に異常がある場合には、これがチェック対象となる。つまり、チェック対象と故障影響とは直接リンクしている。そして、チェック対象から故障影響の候補を抽出することができ、各故障影響の候補から各機能故障および各故障モードを特定することができる。
【0025】
<保全支援装置の構成例>
図1は、本実施形態による、保全支援装置(システム保全支援機能を有する情報処理装置)10の概略構成例を示す図である。保全支援装置10は、通常のコンピュータにシステム保全支援機能を実装することにより実現することができる。
図1は、各種プログラムがプロセッサに諦観されている状態を示している。
保全支援装置10は、プロセッサ100と、通信装置110と、入力装置120と、出力装置130と、記憶装置140と、を備える。
【0026】
通信装置110は、保全支援装置10に接続された装置やシステムとの通信、ネットワークを介して接続されたコンピュータ(ユーザ端末など)との通信などを実行することができるように構成されている。また、入力装置120は、例えば、キーボードやマウスなどのデバイスによって構成され、ユーザがデータや指示を保全支援装置10に入力できるように構成されている。出力装置130は、例えば、表示装置などによって構成され、処理済の情報やデータを表示画面上に表示することができるように構成されている。
【0027】
記憶装置140は、例えば、メモリやHDDなどの記憶デバイスによって構成され、各種パラメータや処理済データを格納する。また、記憶装置140は、後述する拡張したFMEAデータベース141を保持している。当該拡張したFMEAデータベース141は、システム保全支援機能を実現する上で必要な情報を格納している。詳細については後述する。
【0028】
プロセッサ100は、各種プログラムに従って所定の処理を実行する。プロセッサ100は、記憶装置140から各種プログラムを読み込み、内部メモリ(図示せず)に展開することにより、少なくとも、保全支援関連処理部101、入出力制御部102、および通信制御部103を内部メモリ内に生成する。
【0029】
保全支援関連処理部101は、チェック対象の装置やシステムにおける故障モードを、優先順位をつけてユーザに提示する機能あるいは機能故障を自動的に復旧させる機能を有している。前者はGUI処理によってユーザに情報を提示し後者はバッチ処理(非GUI処理:第2の実施形態参照)によって機能故障を復旧させる機能である。保全支援関連処理部101の詳細機能構成および動作の詳細については後述する。
【0030】
入出力制御部102は、例えば、入力装置120から入力された情報あるいはデータを保全支援関連処理部101に引き渡したり、保全支援関連処理部101によって処理された情報やデータを出力(表示)したりするように出力装置130を制御する。
【0031】
なお、保全支援装置10をチェック対象(保全対象)の装置やシステムに直接あるいはネットワークを介して接続して、システム保全機能を実行するようにしてもよいし、チェック対象の装置やシステムに保全支援関連処理部101および拡張したFMEAデータベース141を実装するようにしてもよい。
【0032】
<保全支援関連処理部101および拡張したFMEAデータベース141の詳細>
図2は、保全支援関連処理部101および拡張したFMEAデータベース141のソフトウェア内部構成例を示す図である。
【0033】
保全支援関連処理部101は、機能故障影響入力処理部1011と、故障モード候補表示処理部1012と、チェック情報入力処理部1013と、故障影響関連度スコア算出部1014と、チェック対象先行事象評価部1015と、を含む。
【0034】
拡張したFMEAデータベース141は、通常のFMEAデータベースが保持する情報(装置や部品の機能の情報、機能故障の情報、故障影響の情報、故障モードの情報、故障リスクの情報)に加えて、チェック対象の情報、チェック対象と機能故障影響との関連度の情報、およびチェック対象の先行事象の情報を保持している。
【0035】
機能故障影響入力処理部1011は、ユーザによって指定された故障影響の情報あるいはシステムなどから故障影響の情報を受け付け、故障モード候補表示処理部1012に受け渡す。詳細については後述する。
【0036】
チェック情報入力処理部1013は、ユーザがチェック対象の情報を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を生成し、表示画面上に表示するとともに、ユーザからのチェック対象の指定を受け付け、これを故障モード候補表示処理部1012と故障影響関連度スコア算出部1014に受け渡す。詳細については後述する。
【0037】
故障影響関連度スコア算出部1014は、拡張したFMEAデータベース141からチェック対象と機能故障影響との関連度の情報を取得し、各故障影響における故障影響関連度スコアを算出する。詳細については後述する。
【0038】
チェック対象先行事象評価部1015は、入力された先行事象と各故障影響における関連の先行事象との一致および不一致を評価し、不一致の場合には表示優先度を下げるように故障モード候補表示処理部1012に通知する。詳細については後述する。
【0039】
故障モード候補表示処理部1012は、機能故障影響入力処理部1011から取得した機能故障の情報に基づいて、拡張したFMEAデータべ^ス141を検索し、関連する故障モードの情報を取得する。また、故障モード候補表示処理部1012は、ユーザによって入力されたチェック対象に関連する各故障影響、その関連度スコア(故障影響関連度スコア算出部1014から取得)、および先行事象の情報から、各機能故障とそれに対応する故障モードを優先度順に表示する処理を実行する。詳細については後述する。
【0040】
拡張されたFMEAデータベース141において、チェック対象の情報は、保全対象のシステムの種類によって異なってくる。チェック対象と機能故障影響との関連度の情報は、発生した事象(チェック対象)に対応して引き起こされる結果(故障影響)の関連度の深さを点数化した情報である。これは、例えば、故障影響1においてチェック情報Aという事象が発生する度合いに基づいて割り当てられた数値(点数)である。故障モード候補表示処理部1012は、この情報を、拡張したFMEAデータベース141から取得し、各故障モードにおけるチェック対象に対して関連度の情報を付与する(データベースから取得した点数を割り当てる)。さらに、各チェック対象にそれぞれよりも先行する事象(先行っして発生するチェック情報)が存在する場合には、当該チェック対象に対して先行事象が定義されている。
【0041】
<FMEAの概念>
図3は、FMEAにおける各状態の概念(各状態の関係:特に因果関係)を示す図である。FMEAとは故障モード影響解析と呼ばれる技法であり、製品及びプロセスの持っているリスクを、主に製品設計段階及びプロセス設計段階で評価し、そのリスクを可能な限り排除又は軽減するための手法を規定したものである。FMEAを実施する方法の詳細は省くが、本実施形態は、FMEAの各状態の関係に注目することにより、故障モードを網羅的に抽出することができることを利用する。
【0042】
図3から、故障モード1が発生すると、部品1の機能1および機能2に機能故障1および2が発生し、機能故障1により故障影響1および2、機能故障2により故障影響3がそれぞれ引き起こされることが分かる。また、故障モード2が発生すると、部品1の機能2に故障機能3が発生し、それが「故障影響4および5を引き起こすことが分かる。さらに、故障モード3が発生すると、部品2の機能3に「機能故障4が発生し、それが故障影響6および7が引き起こされることが分かる。つまり、故障モード1を起因として、機能故障2、機能故障3が発生するといった関連付け(リンク)を行っており、機能故障301(機能故障1および2)が故障モード1にリンクした機能故障、機能故障302(機能故障3)が故障モード2にリンクした機能故障、機能故障303(機能故障3)が故障モード3にリンクした機能故障である。故障モードから機能故障へのリンクは同一部品内のみとなる。このように、故障モードと機能故障の間には因果関係が存在し、機能故障と故障影響の間にも因果関係が存在する。したがって、故障影響からさかのぼって故障モードを特定することができる。
【0043】
なお、
図3で示した構造は、一般的な表作成ツールで人間が見易いように表現すれば良く、特にソフトウェアでの処理を考慮して作成する必要はない。部品名と故障モードには同じものは無いが、機能と機能故障、故障影響には同じものが存在する(機能故障1と機能故障3が同じ、故障影響2と故障影響5が同じなど)。例えば、歯車Aが故障しても歯車Bが故障しても、同じ伝達不良が発生するときは同じ故障影響となるが、故障モードが異なるといった場合がこれに該当する。
【0044】
<故障影響とチェック情報との関係>
図4は、故障影響とチェック情報(チェック対象、関連度、および先行事象の各情報を含む)との関係を示す図である。
図4において、故障は、故障影響1から故障影響4に関連付けられたチェック情報401から404が示されている。
【0045】
本実施形態では、FMEA(装置や部品の機能、機能故障、故障影響、故障モード、故障リスク等を体系的に分析したもの)をベースとし、ここに新たに、故障影響毎にチェック対象405、チェック対象と故障影響との関連度406、および先行事象407を設けている。つまり、本実施形態では、前述のように、故障影響1から故障影響4とチェック情報401からチェック情報404は関連付けられ、拡張したFMEAデータベース141に格納されている。例えば、ユーザが故障影響1を認知(確認)した場合、当該故障影響1に関連付けられたチェック対象405(チェック対象AからC)、それに対応する関連度406(5点、3点、1点)、および先行事象(先行事象408:チェック対象「B」の先行事象が「A」)が抽出される。
【0046】
ここでチェック対象について補足する。一般に、機能故障(ポンプの送液が不安定、溶存気体を除去できないなど)そのものは検知しにくいため、故障発生時の機器の振る舞い(故障影響)を検知している。システムアラートや各種センサから取得されるログデータなどのチェック対象(故障影響の発生に関連し、故障発生時に正常時とは異なる出力や状態が観察されるもの)を、故障影響毎に抽出している。
【0047】
<関連度の定義(例)>
図5は、関連度の定義を示す図である。チェック対象と故障影響との関連度を
図5のように定義して、ある機能故障により故障影響が生じている条件の下で、その故障影響のチェック対象毎に関連度を設定し、データベース化する。拡張したFMEAデータベース141を構築する場合、全ての故障影響において、全てのチェック対象の関連度が設定される。なお、先行事象に関しては、チェック対象の変化の発生に時系列的な前後関係がある場合に、先行事象として先に変化が発生するチェック対象を設定する。
【0048】
<故障モード推定処理>
図6は、保全支援装置10における故障モード推定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。また、
図7から
図12は、故障モード推定処理の各ステップにおけるGUI画面例の表示を示す図、あるいは処理内容の補足説明のための図である。各ステップの動作主体は、保全支援関連処理部101に含まれる各処理部1011から1015などであるが、これらはプログラムコードをプロセッサ100の内部メモリに展開して実現されるため、プロセッサ100を動作主体としてもよい。
【0049】
(i)ステップ601
機能故障影響入力処理部1011は、保全支援装置10の表示画面(出力装置130)上に
図7に示す故障影響選択画面700を表示する。ユーザは、故障影響選択画面700において、故障影響(装置に発生している異常な状態)をプルダウンリストから選択する。故障影響には、サービスへの影響701とシステムへの影響702がある。サービスへの影響とは、例えば、「機器使用不可」、「測定不可」、「測定結果不良」等である。システムへの影響とは、例えば、「分離能力低下」、「送液不良」、「洗浄不良」、「液漏れ」等である。
【0050】
ユーザによって故障影響(サービスへの影響701および/あるいはシステムの影響702)が選択されると、機能故障影響入力処理部1011は、入力された故障影響を受け付け、当該故障影響の情報を故障モード候補表示処理部1012に受け渡す。
【0051】
(ii)ステップ602
故障モード候補表示処理部1012は、ステップ601で取得した故障影響に合致する(紐づけられた)機能故障の候補(
図3参照)を、拡張したFMEAデータベース141から検索する。
図8は、入力された故障影響に合致する機能故障および故障モードの候補を表示するGUI例を示す図である。つまり、入力(選択)された条件(故障影響)に紐づけられた少なくとも1つの機能故障および故障モードの組が検索される。
【0052】
図8のGUIには、故障影響に関連する、機能故障801と機能故障の原因である故障モード802が表示される。チェック対象と故障影響との関連度に基づくスコア803には、この段階では初期値(例えば、ゼロ値)が表示される。
【0053】
(iii)ステップ603
故障モード候補表示処理部1012は、ステップ601で取得した故障影響に関連するチェック対象の情報を、拡張されたFMEAデータベース141から取得し、その情報をチェック情報入力処理部1013に受け渡し、かつチェック情報入力GUIを生成および表示するように指示する。
【0054】
チェック情報入力処理部1013は、故障モード候補表示処理部1012からの指示に応答して、受け取ったチェック対象を選択するためのチェック情報入力GUIを生成し、表示画面上に表示する。
【0055】
図9は、チェック情報を入力するためのチェック情報入力GUIの画面構成例を示す図である。チェック情報入力GUI900は、ユーザによって選択(指定)された故障影響に関連するチェック情報901と、表示されたチェック対象の中からユーザが選択するためのラジオボタン902と、先行事象選択するためのプルダウン903と、を含む。チェック情報入力GUI900は、ユーザによる選択結果から機能故障候補を絞り込むためのものである。
【0056】
チェック情報入力GUI900には、入力された故障影響と関連のあるチェック対象(例えば、チェック対象AからD)901が表示される。ユーザは、正常時と異なる動作、状態、センサ値が確認できるチェック対象をラジオボタン902で選択する。また、何れかのチェック対象に先行事象があれば(例えば、ユーザによって目視で先行事象が確認できる場合や測定結果ログデータから先行事象が特定できる場合)、ユーザは、対応するチェック対象の先行事象をプルダウン903から選択する。先行事象のプルダウンリストの内容は、現在選択されている故障影響に関する全てのチェック対象とする。
【0057】
図9の例では、チェック対象のA、B、Dに通常とは異なる事象が観察され(チェック対象Cには異常が観察されていない状況)、また、検査対象Bの先行事象としてAが観察されている場合の入力例を示している。最初から全てのチェック対象を入力する必要は無く、容易に確認できるチェック対象から入力して故障モードの候補を絞って行けば良い。
【0058】
(iv)ステップ604
故障影響関連度スコア算出部1014は、選択されたチェック対象(例えば、チェック対象A、B、およびD)に関連する故障影響の情報(例えば、故障影響1から3)を、拡張したFMEAデータベース141から取得する。ユーザが選択したチェック対象に関連する複数の故障影響(例えば、選択されたチェック対象を2つ以上含む故障影響)が抽出されるため、
図10では、ユーザがステップ601で選択していない故障影響もスコア値算出の対象となる。これにより、ユーザが意図しない(認識できない)故障影響に関連する故障モードをユーザに提示することが可能となる。
【0059】
続いて、故障影響関連度スコア算出部1014は、チェック対象と各故障影響(故障影響1から3)との関連度に基づき、故障影響毎に、チェック結果との合致具合を示すスコア値を算出する。
【0060】
図10は、選択されたチェック情報に関連する故障影響のスコア値の例を示す図である。GUI1001は、
図9のチェック対象の部分のみを示した表示であり、チェック対象1002のA、B、Dに印が付いた状態(選択された状態)が表示されている。また、
図10には、故障影響1~故障影響4における、チェック情報1003、1004、1005、および1006の中で選択されたチェック対象1002に対応する関連度1007~1010が示されている。そして、当該チェック対象1002に対応する関連度の値がスコア値算出に用いられる。
【0061】
ここでは説明を容易にするため、スコア値は、単純に関連度の和によって算出することにする。故障影響1のチェック情報1003の関連度1007に示されるように、故障影響1のチェック対象はA、B、Cであり、ユーザが選択したチェック対象とA、Bが一致する(一致チェック対象1007)。この時のチェック対象Aの関連度が「5」、チェック対象Bの関連度が「3」であるので全体のスコア値はこれらを加算して得られる「8」となる。同様に、故障影響2については、チェック対象A、B、Dが一致する(一致チェック対象1008)ので全体のスコア値は「9」、故障影響3についてはチェック対象A、B、Dが一致する(一致チェック対象1009)ので全体のスコア値は「9」、故障影響4についてはチェック対象B、Dが一致する(一致チェック対象1010)ので全体のスコア値は「8」となる。
【0062】
(v)ステップ605
故障モード候補表示処理部1012は、故障影響関連度スコア算出部1014から各故障影響(例えば、故障影響1から4)のスコア値を受け取るとともに、先行事象がマッチしない故障影響(
図10の例では、故障影響2は先行事象がAで一致するが、故障影響3は先行事象がDで一致していない)を検索する。
【0063】
図11は、先行事象を考慮した故障影響の優先付けを説明するための図である。
図11に示すチェック情報表示1101は、
図9に示すチェック情報入力GUI900と同じ表示である。チェック情報表示1101には、チェック対象Bに先行事象Aが選択されている状態が示されている(先行事象1102参照)。当該例において、優先付けの対象は故障影響1から故障影響4であり、優先度は、故障影響2に関連付けられたチェック対象、故障影響3に関連付けられたチェック対象、故障影響1に関連付けられたチェック情報、および故障影響4に関連付けられたチェック対象と、それらの合計スコア値と、先行事象の有無・一致とに基づいて判断される。故障影響2_1103のチェック対象は、ユーザが選択したチェック対象Bとその先行事象Aが合致している場合であり、故障影響1、3、および4_1104のチェック対象は先行事象が合致していない場合の例を示している(先行事象が異なる場合、あるいは先行事象が定義されていない場合)。
【0064】
故障モード候補表示処理部1012は、チェック対象の関連度のスコア値(ステップ604で算出されたスコア値)が同一であっても、先行事象が一致しない場合には優先度を下げる。
図11に示される例の場合、故障モード候補表示処理部1012は、スコア値が同一の故障影響2と故障影響3において、ユーザが選択した先行事象Aと同一の故障影響2の方の優先度を高く設定する。
【0065】
(vi)ステップ606
故障モード候補表示処理部1012は、ステップ605で優先度を決定した各故障モードに対応する機能故障および故障モードと、スコア値とを、優先度順に表示画面上に表示する。例えば、故障モード候補表示処理部1012は、
図3に示すFMEAにおける各状態の関係(因果関係)を参照して、各故障影響に対応する機能故障および故障モードを特定する。具体的に、
図3を参照すると、一番優先度が高い故障影響2に対応する機能故障は機能故障1(FF1)であり、機能故障1に対応する故障モードは故障モード1(FM1)であると特定される。また、次に優先度が高い故障影響3に対応する機能故障は機能故障2(FF2)であり、機能故障2に対応する故障モードは故障モード1(FF1)であると特定される。その次に優先度が高い故障影響1に対応する機能故障は機能故障1(FF1)であり、機能故障1に対応する故障モードは故障モード1であると特定される。さらに、一番優先度が低い故障影響4に対応する機能故障は機能故障3(FF3)であり、機能故障3に対応する故障モードは故障モード2であると特定される。
【0066】
図12は、故障モード推定結果(優先度順)表示1200(一例)を示す図である。
図12に示されるように、故障モード候補表示処理部1012は、機能故障1201、故障モード1202をスコア値1203の高い順に並べ替えて出力する。ある機能故障に複数の故障影響がある場合は、最も大きいスコアが採用される。なお、先行事象がマッチしないもの(例えば、前述の故障影響3、故障影響1、および故障影響4に対応する、機能故障2&故障モード1、機能故障1&故障モード1、機能故障3&故障モード2)は一覧表示から除外してもよいが、チェック対象が一致していることだけでも重要な情報であるため、先行事象がマッチしないもの(先行事象が無いものを含む)を除外せず、背景をグレーで表示して提示してもよい(表示1204)。
【0067】
(vii)ステップ607
故障モード候補表示処理部1012は、ユーザがチェック情報を変更して故障モード推定処理の再試行をしたか判断する。例えば、ユーザは、
図12の故障モード推定結果表示1200を見たとき、チェック情報(
図9参照)を変更して再度故障モード推定処理(ステップ603からステップ606の処理)を再度実行するか判断する。再実行する場合には再試行ボタン1206を押下し、提示された故障モード推定結果でOKの場合には完了ボタン1205を押下する。故障モード候補表示処理部1012は、ユーザによる当該指示を受け付け、ステップ603からの処理を繰り返すか判断する。
【0068】
(2)第2の実施形態
第1の実施形態では故障診断のためのGUIを設けたが、第2の実施形態は、第1の実施形態による故障モード推定技術を自動分析装置に組み入れる例について説明する。また、第2の実施形態では、ユーザの入力(チェック情報の入力や故障影響の入力)を必要とせず、バッチ処理によって故障モードを推定することが示されている。
【0069】
<故障モード推定処理が組み込まれた自動分析システムの構成例>
図13は、故障モード推移処理が組み込まれた自動分析システム1300の概略構成例を示す図である。自動分析システム1300は、自動分析装置1301と、保全支援関連処理部(GUI表示してユーザによる入力を促す処理を行うものではないという意味である。バッチ処理部とも言う)1302と、拡張したFMEAデータベース1303と、閾値情報データベース1304と、復旧アクション定義データベース1305と、を備える。なお、
図13では、自動分析システム1300において、上述の故障モード推定処理をバッチ処理するために必要な構成要素のみが示されている。また、保全支援関連処理部1302および各データベース1303から1305は、自動分析装置1301の中に組み込むように構成してもよいし、自動分析装置1301とは分離した装置(コンピュータ)として設置してもよい。
【0070】
自動分析装置1301は、システムアラート情報やセンサのログデータ等のチェック対象(例えば、自動分析ログに含まれる)の情報をバッチ処理部1302に出力する。保全支援関連処理部(バッチ処理部)1302は、自動分析装置1301のチェック対象を取り込み、故障モードを自動で推定する構成要素であり、チェック情報取り込み部13021と、チェック情報の異常判定部13022と、故障影響関連度スコア算出部13023と、故障モード表示指令部13024と、対応アクション実行部13025と、を含む。保全支援関連処理部1302は、プロセッサ(図示せず)が保全支援関連処理部1302を実現するためのプログラムをメモリなどの記憶デバイスから読み込み、プロセッサの内部メモリに展開することにより構築することができる。拡張したFMEAデータベース1303は、
図2の拡張したFMEAデータベース141に機能故障を復旧するための対応方法の情報が追加された構成となっている。
【0071】
保全支援関連処理部(バッチ処理部)1302において、チェック情報取り込み部13021は、自動分析装置1301との間の通信手段を用いて、自動分析装置1301から複数のチェック情報を取り込む。
【0072】
チェック情報の異常判定部13022は、取り込んだ複数のチェック情報(自動分析装置におけるイベントデータおよびセンサログデータを含む)に異常が観察されるかどうかを自動判定する。例えば、自動分析装置1301の動作イベント毎のセンサ閾値(正常値の範囲)を定義しておき(閾値情報データベース1304で定義)、自動分析装置1301のイベントデータと、時系列的なセンサデータとを同期させることにより、正常/異常の判定が可能なようにチェック情報の異常判定部13022を構成することができる。あるいは、自動分析装置1301の分析結果の時系列的変動(トレンド)をデータ分析して、例えば試薬の劣化具合などを予測することができ、それにより異常値に接近しているといった判定をすることができるようにチェック情報の異常判定部13022を構成してもよい。
【0073】
故障影響関連度スコア算出部13023は、第1の実施形態で示した故障影響関連度スコア算出部1014と同じ機能を備えている。故障モード表示指令部13024は、自動分析装置1301の表示部(図示せず)やそれに接続された端末等の表示部(図示せず)に故障モードを表示するように指令を出す。
【0074】
自動分析システム1300では、推定した故障モードを表示(優先度順に表示)するだけでなく、機能故障を復旧するための制御を自動分析装置1301に対して行うことができる(対応アクション実行部13025)。具体的には、対応アクション実行部13025は、故障モード推定結果に基づき、拡張したFMEAデータベース1303に格納された機能故障を復旧するための対応方法の情報を取得し、それに従って故障復旧のアクションを実行する。例えば、故障モードが「配管の詰まりによる送液不良」が想定された場合には、対応アクション実行部13025は、自動分析装置1301に対して「配管の強制洗浄」の指示を出して機能故障を復旧する。
【0075】
<具体的処理について>
さらに具体的な処理について説明する。ここでは一例として、自動分析装置1301の構成コンポーネントである液体クロマトグラフ装置(LC装置)を取り上げる。また、LC装置の複数の動作イベントとして試薬投入、分析、およびライン洗浄を仮定する。
【0076】
チェック対象の正常/異常を判定するための閾値情報データベース1304は、例えば、試薬投入、分析、ライン洗浄それぞれのイベント時のシリンジの圧力センサの正常範囲を、試薬投入時はxMpa以下、分析時はyMpa以下、ライン洗浄時はzMpa以下として格納する。シリンジの圧力センサは、特定の間隔で圧力データを時系列的にログファイルに出力する。また、動作イベントについても、ある時間帯に何の動作イベントを実行していたかが判別できるように、時系列的に動作イベントがログファイルとして出力される。
【0077】
保全支援関連処理部1302におけるチェック情報の異常判定部13022は、これらの2つの時系列データを対比して、現在からある特定の時間内に、シリンジの圧力データが正常範囲を外れていないかを調べる。正常範囲を外れている場合、チェック情報の異常判定部13022は、第1の実施形態で示した対話的な処理における異常が検出されたチェック対象と同様に、シリンジの圧力センサを「通常とは異なる事象が観察されたチェック対象」として扱う。続いて、故障影響関連度スコア算出部13023は、発生している可能性のある故障モードを順位付けして推定する。そして、故障モード表示指令部13024は、自動分析装置1301のコンソール等に不具合が発生していると想定される部品/部位を表示する。復旧アクション定義データベース1305は、機能故障の復旧アクションを定義したデータベースであり、機能故障毎に、機能故障を復旧するためのシーケンスの定義を格納している。発生している可能性の高い機能故障を復旧するためのアクションが復旧アクション定義データベース1305に定義されていた場合には、対応アクション実行部13025は、その復旧アクションを自動実行する。
【0078】
(3)まとめ
(i)従来技術によれば、システムの不具合が発生した際に、チェック対象(システムアラートの内容や、センサのログデータ等)を検査して故障内容の特定を行うが、特に複数のチェック対象に同時に異常が見られた場合などに、故障の特定に時間が掛かってしまい、保守時間の短縮が課題となっている。また、保全対象の装置の不具合の発生を事前に予知して、自動的に復旧制御を行うことで保守サイクルを長くすることが望まれている。
【0079】
このような課題に対応するために、本開示の技術は、拡張したFMEAデータベースを提供し、機能故障が発生した際の故障モードの特定を支援する。拡張したFMEAデータベースでは、機能故障の種類によって、その原因を特定するために有効なチェック対象が異なることに着目し、機能故障の影響毎に、「チェック対象」及び「チェック対象と機能故障影響との関連度」を定義する。本開示の保全支援装置は、拡張したFMEAデータベースに記録されている故障事象に対応するチェック対象の変化と、実際に観察されたチェック結果との合致度を算出して、故障モードを絞り込む。そして、当該保全支援装置は、診断作業の容易にすること(ユーザの入力を直感的でわかり易いものにする)と、スコア算出による故障モードの優先順位付けをする。
【0080】
以上のように、本開示は、単にチェック対象とマッチする故障モードを提示するだけでなく、チェック対象に発生した事象の時間的な前後関係も考慮して、そのチェック対象に異常が発生し易い故障モードを優先的に表示する。これにより、故障モードの絞り込みを迅速に行うことができる。また、保全対象の装置に致命的不具合が発生する前の予知診断にも適用可能である。さらに、装置本体のセンサ情報やシステムアラートとリンクして、センサ情報の異常の有無を判断する手段を設けることで、直接的に装置本体から故障モードの候補を出力することが可能となる。
【0081】
(ii)本開示の実施形態の機能は、ソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本開示を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0082】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0083】
さらに、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【0084】
最後に、ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できることを理解する必要がある。更に、汎用目的の多様なタイプのデバイスがここで記述した教授に従って使用可能である。ここで述べた方法のステップを実行するのに、専用の装置を構築するのが有益であることが判るかもしれない。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。本開示は、具体例に関連して記述したが、これらは、すべての観点に於いて限定の為ではなく説明の為である。本分野にスキルのある者には、本開示を実施するのに相応しいハードウェア、ソフトウェア、及びファームウエアの多数の組み合わせがあることが解るであろう。例えば、記述したソフトウェアは、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0085】
さらに、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【符号の説明】
【0086】
10 保全支援装置
100 プロセッサ
110 通信装置
120 入力装置
130 出力装置
140 記憶装置
141 拡張したFMEAデータベース
101 保全支援関連処理部(GUI処理部)
102 入出力制御部
103 通信制御部
1011 機能故障影響入力処理部
1012 故障モード候補表示処理部
1013 チェック情報入力処理部
1014 故障影響関連度スコア算出部
1015 チェック対象先行事象評価部
1300 自動分析システム
1301 自動分析装置
1302 保全支援関連処理部(非GUI処理部(バッチ処理部))
1303 拡張したFMEAデータベース
1304 閾値情報データベース
1305 復旧アクション定義データベース
13021 チェック情報取り込み部
13022 チェック情報の異常判定部
13023 故障影響関連度スコア算出部
13024 故障モード表示指令部
13025 対応アクション実行部