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特許7590417ミラーアセンブリ及びこれを備えた光学アセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ミラーアセンブリ及びこれを備えた光学アセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241119BHJP
   G02B 5/10 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G02B5/10 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022514236
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2020069905
(87)【国際公開番号】W WO2021043484
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】102019213345.2
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ パツィディス
(72)【発明者】
【氏名】ケルスティン ヒルド
(72)【発明者】
【氏名】ティーロ ポラック
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500593(JP,A)
【文献】特表2018-534602(JP,A)
【文献】特開2017-083824(JP,A)
【文献】特開2004-226457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0239822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G02B 5/08-5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーアセンブリ(30)であって、
放射線(5、108)を反射する鏡面(32a)を有する表側(31a)と、該表側(31a)とは反対側の、前記鏡面(32a)の変形を発生させる少なくとも1つのアクチュエータ(27)が配置された裏側(31b)とを含む、基板(31)を備え、
水蒸気(36)を収着する材料(33、42)が、前記基板(31)の前記裏側(31b)に形成され、前記水蒸気(36)を収着する材料は、前記基板(31)の前記裏側(31b)に前記少なくとも1つのアクチュエータ(27)を固定する接着層(33)を形成するミラーアセンブリ(30)において、
前記接着層(33)の表面(33a)が、水蒸気拡散バリアを形成するコーティング(37)で少なくとも部分的に覆われ、前記コーティング(37)は少なくとも1つの拡散バリア層(38)を含み、
前記拡散バリア層(38)は、Al、SiO、Ta、TiO、HfO、ZrO、Nb、La、Ta、Ti、Ru、Si、パリレン、特にハロゲン化パリレン、フルオロポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン、及びそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの材料を含むことを特徴とするミラーアセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載のミラーアセンブリにおいて、前記拡散バリア層(38)は、前記水蒸気(36)を収着する材料(33、42)からなる同じ厚さの層の水蒸気透過度(TW)より低い水蒸気透過度(TW)を有する、ミラーアセンブリ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のミラーアセンブリにおいて、前記コーティング(37)の表面(38a)及び/又は前記拡散バリア層(38)の材料は疎水性であるミラーアセンブリ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、
前記接着層(33)の前記表面(33a)は、前記コーティング(37)により部分的に覆われ、前記表面(33a)の他の部分では、前記接着層(33)の弾性率(E)より低い弾性率(E)を有する充填材料(39)で部分的に覆われることを特徴とするミラーアセンブリ。
【請求項5】
請求項4に記載のミラーアセンブリにおいて、前記充填材料(39)の前記弾性率(E)は1500MPa未満であるミラーアセンブリ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のミラーアセンブリにおいて、前記充填材料(39)は疎水性であるミラーアセンブリ。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、前記充填材料(39)は、ゴム、液状ゴム、ワックス、グリース、又は液体、特にオイルを含む群から選択されるミラーアセンブリ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、前記水蒸気(36)を収着する材料(33、42)の前記表面(33a、42a)は、可撓性材料により少なくとも部分的に覆われるミラーアセンブリ。
【請求項9】
請求項8に記載のミラーアセンブリにおいて、前記接着層(33)は、前記アクチュエータ(27)間の隙間(35)に延び、前記可撓性材料は、各隙間(35)まで延出し、前記接着層(33)の窪み(41)を覆うフィルム(40)であるミラーアセンブリ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、前記接着層(33)は、前記アクチュエータ(27)間の隙間(35)に延びるミラーアセンブリ。
【請求項11】
請求項10に記載のミラーアセンブリにおいて、前記アクチュエータ(27)間の前記隙間(35)における前記接着層(33)は、前記基板(31)の前記裏側(31a)を完全に覆わないミラーアセンブリ。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のミラーアセンブリにおいて、前記隙間(35)における前記接着層(33)は前記アクチュエータ(27)より突出するミラーアセンブリ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、前記アクチュエータ(27)は、ピエゾアクチュエータとして又は電歪アクチュエータとして構成されるミラーアセンブリ。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のミラーアセンブリにおいて、前記水蒸気(36)を収着する材料(33、42)は、有機材料であるミラーアセンブリ。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1つのミラーアセンブリ(30)を備えた光学アセンブリ。
【請求項16】
請求項15に記載の光学アセンブリであって、EUVリソグラフィ装置(1)又はDUVリソグラフィ装置(100)である光学アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2019年9月3日の独国特許出願第10 2019 213 345.2号の優先権を主張し、その全開示を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、ミラーアセンブリであって、放射線を反射する鏡面を有する表側と、表側とは反対側の、鏡面の変形を発生させる例えば1つ又は複数のアクチュエータアセンブリの形態の1つ又は複数のアクチュエータが配置された裏側とを含む基板を備えた、ミラーアセンブリに関する。水蒸気を収着する材料、特に有機材料が、基板の裏側に形成又は配置される。水蒸気を収着する材料は、基板の裏側に少なくとも1つのアクチュエータを固定する接着層を形成することが好ましく、当該接着層は、特にアクチュエータ間の隙間に延びる。本発明は、少なくとも1つの上記ミラーアセンブリを有する光学アセンブリ、特にEUVリソグラフィ装置又はDUVリソグラフィ装置にも関する。
【背景技術】
【0003】
上述のミラーアセンブリは、基板の裏側に固定されたアクチュエータにより、基板の表側に形成された鏡面の目標とする(局所的)変形を可能にする。鏡面の変形は、例えば、ミラーアセンブリが配置されるEUVリソグラフィ装置又はDUVリソグラフィ装置の目標とする収差補正を実行する働きをすることができる。アクチュエータは、この目的で、基板の裏側に規則的な配置で又は格子(アクチュエータアレイ)状に固定され得るが、原理上は基板の裏側のアクチュエータの任意所望の配置が可能である。隣接するアクチュエータ又は隣接するアクチュエータ群(アクチュエータアセンブリ)は、概して基板の裏側の所々で相互に接しているのではなく、相互に離間しており、つまり隣接するアクチュエータ又はアクチュエータアセンブリの対間に隙間又はギャップが形成される。
【0004】
特許文献1は、EUV放射線用のデフォーマブルミラーであって、デフォーマブルミラーの鏡面の変形を起こすために、ミラーの裏側を形成するフロントプレートとリアクションプレートとの間にアクチュエータが配置されて両方のプレートに結合される、デフォーマブルミラーを記載している。
【0005】
アクチュエータを基板に固定又は結合する別の可能性は、アクチュエータを間接的に、すなわち1つ又は複数の中間層を介して、又は直接的に基板の裏側に例えば接着結合により固定することである。接着結合の形態の固定の場合、問題は、ミラーアセンブリの周囲のガス雰囲気の組成が経時的に一定でなく、例えばミラーアセンブリが光学アセンブリに最初に導入又は設置されるとき、又は光学アセンブリが保守、修理等を受けるときに変わることである。後者は特に、光学アセンブリが真空条件下で又はパージガスを用いて作動されるが、修理、保守等のために真空又はパージを中断する必要がある場合である。その場合、ミラーアセンブリの周囲に存在する特に湿度、換言すれば周囲の水蒸気量の変化がある。
【0006】
基板に機械的に直接又は間接的に接続された接着層又は別の水蒸気を収着する材料、例えば有機材料が、周囲から吸湿した場合、この層又はこの材料が膨張し、材料に応力が導入され得る。材料の応力は概して基板に伝達されるので、基板が変形することで、鏡面のドリフト、すなわち経時的な(望ましくない)変化が生じ得る。したがって、材料関連ドリフトにより、光学アセンブリのビーム経路に収差が生じる。他の有機材料がアクチュエータに含まれ且つ/又はアクチュエータに形成されてもよいが、有機材料を基板の裏側に又はそこに形成された中間層に直接接続することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5,986,795号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ミラーアセンブリの周囲の湿度変化により起こる基板の変形を低減する、ミラーアセンブリ及び少なくとも1つの当該ミラーアセンブリを備えた光学アセンブリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、第1態様によれば、水蒸気を収着する材料の表面、特に接着層の表面が、水蒸気拡散バリアを形成するコーティングで少なくとも部分的に、特に完全に覆われる、上記種類のミラーアセンブリにより達成される。
【0010】
周囲の湿度が一定である場合、水蒸気を収着する材料の表面は周囲と平衡状態にある。水蒸気を収着する材料の周囲で湿度変化がある場合、拡散プロセスが材料に導入され、周囲の湿度の上昇の場合に材料を膨張させて上述のように変形させる。木材の結合に用いられる接着剤の水収着の結果が、例えばR. Wimmer他による論文「Water sorption mechanisms of commercial wood adhesive films」(Wood Science and Technology, 47(4), April 2013)に記載されている。
【0011】
本発明のこの態様に関連して、コーティングの形態の水蒸気拡散バリアにより、保護されなければ周囲の湿度変動を受けてしまう材料の表面を水蒸気の浸透から保護することが提案される。
【0012】
概して、材料により収着される水蒸気の量が、コーティングの形態の水蒸気拡散バリアにより全体的に低減されれば、換言すれば材料による水蒸気の収着がコーティング無しの場合より遅ければ有利である。換言すれば、水蒸気拡散バリアとして働くコーティングによる材料への水蒸気の浸透の減速は、単位時間当たりに基板に伝達される応力又は力を減らすことができるので、このようにすることで改善が得られる。
【0013】
水蒸気の拡散バリアとして働くコーティングは、1つ又は複数の層を含み得る。コーティングは、材料の露出面の全域に施され得るが、コーティングを材料の表面の部分領域のみに施すこと、すなわち材料の表面にコーティングが施されていない領域があることも可能である。この場合も、周囲に露出した材料の面積が減り、したがって基板の望ましくない変形が減る。
【0014】
コーティングで覆われない表面領域では、基板の変形を減らすために、以下に記載するように、他の措置、例えば接着層と基板との間の力の非干渉化を任意に行ってもよい。
【0015】
水蒸気拡散バリアを形成するコーティングは、表面領域を無機材料で覆うこともでき、特に基板の裏側全体及びその側に機械的に接続された全てのコンポーネントも覆うことができるが、それはこれが操作方式を簡略化できるからである。
【0016】
読み易いように、用語「接着剤」及び「接着層」を以下では頻繁に用いて、ミラー基板に直接又は間接的に機械的に接続された任意の水蒸気を収着する材料、特に有機材料を表す。以下の例は、例としてアクチュエータ間の接着層について示したものだが、当然ながら接着層はアクチュエータの外縁にも延びてよく、又はアクチュエータ(単数又は複数)自体に位置付けられてもよい。
【0017】
接着層は、通常は基板の裏側に2次元的に施され、したがって各アクチュエータと基板の裏側との間の領域に制限されるのではなく、アクチュエータ間の隙間及び/又はアクチュエータの外縁領域にも延びる。隙間の領域では、接着層は各アクチュエータと基板の裏側との間の領域より厚くなり得るが、アクチュエータ間の隙間又はギャップにおいて接着層がアクチュエータの下の接着層の厚さ以下である、又は隙間でより薄くなっているか若しくは単に漸減する程度に、接着層を薄く施すことも可能である。
【0018】
一実施形態において、コーティングは、水蒸気を収着する材料、特に接着剤の材料からなる同じ厚さの層の水蒸気透過度より低い水蒸気透過度を有する、少なくとも1つの拡散バリア層を含む。したがって、この種の拡散バリア層は、例えば同一の厚さの接着層より低い水蒸気透過度を有する。水蒸気透過度(「透湿度」、MVTR)は、材料構成に対する水蒸気の透過性の測度である。水蒸気透過度は、材料構成1平方メートルを24時間で通過する水の量を測定することにより求められる。水蒸気透過度は、1日に1平方メートルを通過した水のグラム数として、すなわち単位g/(md)で報告される。材料構成の水蒸気透過度は、例えば原子層堆積により施されたAlの例についてH. Klumbies他による論文「Thickness dependent barrier performance of permeation barriers made from atomic layer deposited alumina for organic devices」、Organic Electronics 17(2015), 138-143に記載されているように、直接測定又は間接測定により求めることができる。材料の水蒸気透過度は、拡散バリア層の材料を水蒸気がより透過し難いようにする表面処理により低減することもできる。この種の表面処理は、例えば、プラズマ処理又はUV放射線での処理であり得る。拡散バリア層の水蒸気透過度は、通常は1g/(md)未満とすべきである。
【0019】
一実施形態において、拡散バリア層は、Al、SiO、Ta、TiO、HfO、ZrO、Nb、La、Al、Ta、Ti、Ru、Si、パリレン、特にハロゲン化、特にフッ素化パリレン、フルオロポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(Teflon又はTeflonの品種、例えばDupontのTeflon AF)、及びそれらの混合物を含む群から選択された少なくとも1つの材料を含む。この群の材料は、比較的低い水蒸気透過度を有する。拡散バリア効果を高めるために、コーティングは、異なる材料から構成された複数の拡散バリア層を含み得る。換言すれば、コーティングは多層コーティングであり得る。
【0020】
コーティング及び/又は拡散バリア層の前述の材料及び他の材料は、種々のコーティング技術により接着層に、且つ存在するコーティングの下の層に施すことができる。材料は、例えば物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、特にプラズマCVD(PECVD)、原子層堆積(ALD)、若しくはプラズマALDにより、スパッタリングにより、アークコーティングにより、若しくはスピンコーティングにより、又はゾルゲル法で、気相から堆積させることができる。コーティング法の性質は、堆積材料の性質に応じて選択され得る。例えば、Si又はSiCOHは、前駆物質としてTMCTS(テトラメチルシクロテトラシロキサン)を用いてPECVDにより堆積され得る。概して、良好なバリア効果を得るために、拡散バリア層の材料が、層が最大密度を有し且つ水蒸気をその下の接着層に浸透させるピンホールをできる限り有しないように施されれば有利である。コーティングは、連続して実行される上述のプロセスの2つ以上の組合せにより施すこともできる。
【0021】
一実施形態において、コーティングの表面及び/又は拡散バリア層の材料は疎水性である。概して、周囲に面するコーティングの表面が疎水性であれば、コーティング又は各拡散バリア層が周囲に面するコーティングの表面を形成する場合にこのコーティング又は層による水分の吸収をさらに低減できるので有利である。コーティングの表面又は拡散バリア層の材料は、例えば、表面処理により、例えばプラズマ処理及び/又はUV放射線の(任意にパルス状の)照射により、コーティングにより、又は表面終端により、疎水性にすることができる。
【0022】
前述の態様と組み合わせることができる本発明のさらに別の態様において、特にアクチュエータ間の隙間における接着層の表面は、弾性率が接着層の弾性率より低い充填材料により少なくとも部分的に、特に完全に覆われる。充填材料は、延性でもあることが好ましく、つまり荷重下で塑性変形可能である。
【0023】
本発明のこの態様では、充填材料への水蒸気の浸透は防止されないが、充填材料の弾性率が低いので力の非干渉化があり、つまり充填材料が接着剤と同じ量又は場合によってはより多くの水を収着するにも関わらず、充填材料が基板又はアクチュエータに伝達する力が接着剤より大幅に小さい。この態様の場合に利用される別の要因は、光学素子の周囲の湿度の急変時に、水蒸気の大部分が接着層の上部体積領域に浸透し、比較的乾燥した周囲が回復すると上部体積領域から周囲に再度放出されることである。充填材料が十分に厚い場合、周囲の湿度の急変に伴い、水が充填材料のみに浸透するがその下の接着層には僅かにしか浸透しないので、この場合はあるとしても小さな短期の接着剤ドリフトしかない。
【0024】
一実施形態において、充填材料の弾性率は、1500MPa未満、好ましくは1000MPa未満、特に約500MPa未満である。例えばエポキシ樹脂系の通常用いられる接着剤については、弾性率は約3000MPa~6000MPaであり、つまり充填材料の弾性率は接着剤の弾性率の半分以下である。
【0025】
別の実施形態において、充填材料は、充填材料への水又は水蒸気の浸透を防止又は大幅に低減するために疎水性である。この場合の充填材料は、永久双極子モーメントを有しない非極性材料である。この材料は、特にワックス又はグリース(例えば、真空グリース、すなわち真空条件下で使用できるグリース、又はデシケータグリース、すなわちデシケータを密封するためのグリース)であり得る。
【0026】
充填材料は、ゴム、液状ゴム、ワックス、グリース、又は液体、特に(疎水性)油を含む群から選択されることが好ましい。ゴム又はエラストマーは、弾性率が低い。合成ゴム系の液状ゴムは、接着層の表面に吹付け又は刷毛塗りにより塗布され得る。ワックス又はグリースは、弾性率が低いだけでなく、概して疎水性でもある。例えば疎水性油等の液体は、可撓性に富み、接着層を水の浸透から保護するために接着層の表面全体を覆うことができる。異なる充填材料の鉛直方向又は横方向の組合せも可能である。例えば、例えばワックスを最初に塗布してさらにオイルで覆ってもよい。代替として又は追加として、エラストマーの形態の充填材料で覆われる表面領域と、ワックスで覆われる表面領域とがあってもよい。
【0027】
本発明のさらに別の態様において、特にアクチュエータ間の隙間における水蒸気を収着する材料の表面は、可撓性材料により、特にフィルムにより少なくとも部分的に、特に完全に覆われる。特にフィルムの形態の可撓性材料は、アクチュエータ間の隙間に導入することができ、接着剤の表面に接続又は強固に接着され得る。フィルムは、アクチュエータ間の隙間を2次元的に覆い得る。特に、単一のフィルムがアクチュエータ及びアクチュエータ間の隙間を覆うことができる。フィルムは、隙間まで延出することなく基板とは反対側のアクチュエータの表面に接着され得る。代替として、フィルムは、アクチュエータ間の各隙間まで延出し得る。フィルム又は可撓性材料は、この場合は特に各隙間の部分領域のみを覆うことができ、つまりフィルムはアクチュエータ間の隙間に導入されて隙間を画成するアクチュエータに接続されないので、フィルムの導入にも関わらずアクチュエータ間の接着層の表面の一部は露出する。
【0028】
前述のコーティングの場合のように、可撓性材料又はフィルムも拡散バリアを形成し得る。この場合、場合によっては例えば層の形態でフィルムに組み込まれた材料の形態のフィルムの材料は、水蒸気を収着する材料から構成された同じ厚さの層の水蒸気透過度より低い水蒸気透過度を有する。フィルムは、例えば、アルミニウム積層ポリマーフィルムであり得る。しかしながら、必ずしもこれが必要というわけではなく、その理由は、フィルムが接着層と基板との間の力の非干渉化に役立つ、換言すれば、接着剤ドリフトの場合に接着剤から構造(アクチュエータ)へ力を伝達する力線を中断し且つ/又はこれらの力線をアクチュエータから離すよう働き得るからである。
【0029】
一発展形態において、フィルムは各隙間まで延出し、各隙間における接着層の好ましくは鍋状又は溝状の窪みを覆う。この発展形態の場合、フィルムは通常はアクチュエータに固定されないか又は少なくとも直接固定されないので、接着層の表面の一部が露出する。窪みの上側で、フィルムは自由端を有し、これは、接着ドリフトが起きた場合に相互に接近離反することができると共に、接着剤からアクチュエータへの、したがって基板への力の伝達をこのようにして低減する。このように、特に短い時間スケール(上記参照)で起こる接着剤ドリフトを減らして、接着層の上部分における拡散プロセスに本質的に影響を及ぼすことが可能である。この種の短期の接着剤ドリフトにより、機械的応力/大きな力が接着層の上部分に主に導入される。フィルムを接着層に固定するために、通常は接着剤が完全に乾燥する前にフィルムを接着層に載せる。接着層に窪みを形成するには、窪みの領域の接着剤を変位させるためにフィルムの上側に圧力をかける。
【0030】
接着層の上部分に本質的に限定される短い時間スケールで起こる接着剤ドリフトだけでなく、長い時間スケールで働く接着剤ドリフト(長期の接着剤ドリフト)もあり、その場合は接着層の全体積が水を収着又は放出する。しかしながら、接着層の鍋状又は溝状の窪みにフィルムを導入すると、接着層の露出面の割合だけでなく接着層が占める全体積も減る。このようにして、短期の接着剤ドリフトだけでなく長期の接着剤ドリフトも減らすことが可能である。接着層がアクチュエータにかける力を最小化するために、接着層のできる限り小さな体積だけでなく、フィルムで覆われる接着層の表面の部分領域もできる限り小さくすべきであることが理解されよう。このように、アクチュエータに横力、ひいてはてこ作用を加える接着層の表面と平行な方向の力の伝達を特に減らすことが可能である。
【0031】
前述の態様の1つ又は複数と任意に組み合わせることができる本発明のさらに別の態様において、接着層は、基板の裏側のアクチュエータ間の隙間を完全に覆わない。ここに記載する態様の場合、接着層はアクチュエータ間の隙間で途切れ、つまり接着層は連続的に延びるのではなく、アクチュエータが基板に接着される基板の裏側の表面領域に実質的に制限される。前述の短期の接着剤ドリフトの結果として、応力/接着層の表面と実質的に平行に延びる力の作用がある。連続的に施された接着層の場合、接着層の表面は基板の裏側と実質的に平行に延びるので、この種の接着層は、基板の裏側と平行に延びる隙間を画成するアクチュエータに力の作用を及ぼし、アクチュエータの側面に押し当たり、アクチュエータにてこ作用を及ぼす。
【0032】
アクチュエータに対するてこ作用を回避するために、接着層の途切れにより、各隙間で接着層の表面は基板の裏側と平行に延びなくなり、つまり力の方向が変わる。しかしながら、接着層の途切れにより、接着層の露出面が通常は増えるので、接着層の絶対的な力の作用も概して同様に増加する。結果として、アクチュエータに対して、したがって基板に対して得られる接着層の力の作用は、途切れた接着層の特定の幾何学的形状に応じて変わる。理想的には、途切れた接着層はアクチュエータ間の隙間まで延出しないが、ある程度の余剰の接着剤は確実な結合に不可避/必要である。
【0033】
前述の態様の1つ又は複数と任意に組み合わせることができる本発明のさらに別の態様において、接着層は隙間においてアクチュエータより突出する。同様にこのようにして、接着層の突出部分の接着剤が横方向に膨張することができ、したがって接着剤の力の作用をアクチュエータから切り離すことができるので、短期の接着剤ドリフトを抑制又は低減することができる力の非干渉化を実現することが可能である。突出する接着層は、特に前述の本発明の態様の1つ又は複数と組み合わせることができる。例えば、隙間に導入されたフィルムで覆われない接着層の部分は、アクチュエータより突出し得る。接着層の突出部分の表面も、水素拡散バリアを形成するコーティングで完全に又は部分的に覆われ得る。なお、本発明の複数の態様をここに記載する以外の方法で相互に組み合わせることもできることが有利である。
【0034】
別の態様において、アクチュエータは、ピエゾアクチュエータ又は電歪アクチュエータとして構成される。アクチュエータを用いて、意図的に基板に非常に小さな変形を発生させることができる。アクチュエータは、例えば、基板に実質的に点状の力の作用を及ぼす直線作動モータであり得る。上記アクチュエータの代わりに、他の種類のアクチュエータを用いることもできることが理解されよう。アクチュエータは、基板の裏側に特に格子状に配置され得る。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、前述の少なくとも1つのミラーアセンブリを備えた、特にEUVリソグラフィ装置又はDUVリソグラフィ装置の光学アセンブリに関する。本願において、リソグラフィ装置は、リソグラフィの分野で用いることができる(光学)装置と理解される。半導体コンポーネントの製造に役立つリソグラフィユニットのほかに、当該装置は、例えば、リソグラフィユニットで用いるフォトマスク(以下ではレチクルとも称する)の検査用、構造化対象の半導体基板(以下ではウェーハとも称する)の検査用の検査システム、又はリソグラフィユニット又はその部品の測定に、例えば投影系の測定のために用いる計測システムであり得る。
【0036】
光学アセンブリ又はリソグラフィ装置は、特に、約5nm~約30nmのEUV波長域の波長の使用放射線用に構成されたEUVリソグラフィ装置であり得るか、又は約30nm~約370nmのDUV波長域の使用放射線用に構成されたDUVリソグラフィ装置であり得る。EUVリソグラフィ装置の光学素子は、通常は真空環境で作動される。前述のように構成されたミラーアセンブリを備えたEUVリソグラフィ装置では、少なくとも短期の接着剤ドリフトが低減される場合、起動時の且つ/又は例えば開放中等の真空破壊時の待ち時間を節約することが可能である。この場合、湿度の変化後に、リソグラフィ装置は(準)定常状態により急速に遷移し、より素早く(露光)動作に用いることができる。前述のミラーアセンブリの使用は、リソグラフィ装置に制限されず、例えばマスク検査システムのような他の用途にも有利に用いられ得ることが理解されよう。
【0037】
本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照して以下の本発明の例示的な実施形態の説明から、また特許請求の範囲から明らかである。個々の特徴は、単独で個別に、又は本発明の一変形形態において任意の所望の組み合わせで複数としてそれぞれ実現することができる。
【0038】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】収差補正用の複数のアクチュエータを備えたミラーを有するEUVリソグラフィユニットの概略図を示す。
図2】収差補正用の複数のアクチュエータを備えたミラーを有するDUVリソグラフィユニットの概略図を示す。
図3】アクチュエータを基板に固定するための接着層を有する図1のミラーアセンブリの概略断面図を示す。
図4】接着層の表面に施され水蒸気拡散バリアを形成するコーティングを有するミラーアセンブリの詳細の概略図を示す。
図5】接着層の表面が弾性充填材料で覆われている、図4と同様の概略図を示す。
図6】フィルムで覆われた窪みが接着層に形成されている、図4と同様の概略図を示す。
図7】アクチュエータ間の隙間で接着層が途切れている、図4と同様の概略図を示す。
図8】接着層が隙間でアクチュエータより突出している、図4と同様の概略図を示す。
図9図6に示すフィルムを図8の突出する接着層と組み合わせた、接着層の概略図を示す。
図10】水蒸気拡散バリアとして働くコーティングが露出面に施された、図9の接着層の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図面の以下の説明において、同一又は機能的に同一のコンポーネントには同一の参照符号を用いる。
【0041】
図1は、EUVリソグラフィユニット1の形態のEUVリソグラフィ用装置、具体的にはいわゆるウェーハスキャナの構成を概略的に示す。EUVリソグラフィユニット1は、50ナノメートル未満、特に約5ナノメートル~約15ナノメートルのEUV波長域で高いエネルギー密度を有する、EUV放射線を発生するEUV光源2を備える。EUV光源2は、例えばレーザ誘起プラズマを発生するプラズマ光源の形態で構成することができる。図1に示すEUVリソグラフィユニット1は、13.5nmのEUV放射線の動作波長用に設計される。しかしながら、EUVリソグラフィユニット1を例えば6.8nm等のEUV波長域の異なる動作波長用に構成することも可能である。
【0042】
EUVリソグラフィユニット1はさらに、EUV光源2のEUV放射線を集束させて束状の照明ビーム4を形成し且つエネルギー密度をこのようにしてさらに高めるために、コレクタミラー3を備える。照明ビーム4は、本例では5つの反射光学素子12~16(ミラー)を有する照明系10により、構造化された物体Mを照明するよう働く。
【0043】
構造化された物体Mは、例えば、物体M上の少なくとも1つの構造を作製する反射及び無反射又は少なくとも低反射領域を有する、反射型フォトマスクであり得る。代替として、構造化された物体Mは、各ミラーでのEUV放射線の入射角を設定するために、1次元又は多次元配置で配置され且つ少なくとも1つの軸周りで任意に可動である複数のマイクロミラーであり得る。
【0044】
構造化された物体Mは、照明ビーム4の一部を反射して投影ビーム経路5を整形し、投影ビーム経路5は、構造化された物体Mの構造に関する情報を運んで投影レンズ20に放射され、投影レンズ20は、構造化された物体M又はその各部分領域の投影像を基板W上に生成する。基板W、例えばウェーハは、半導体材料、例えばケイ素を含み、ウェーハステージWSとも称するマウンティング上に配置される。
【0045】
本例では、投影レンズ20は、構造化された物体Mに存在する構造の像をウェーハW上に生成するために6つの反射光学素子21~26(ミラー)を有する。投影レンズ20のミラーの数は、通常は4つ~8つである。しかしながら、適切な場合はミラーを2つだけ用いることもできる。
【0046】
反射光学素子3、12~16、21~26に加えて、EUVリソグラフィ装置1は、例えば反射光学素子3、12~16、21~26、センサ、アクチュエータ等のための担持構造であり得る非光学コンポーネントも備える。図1に例示的に示すのは、投影レンズ20の第6ミラー26の目標変形を実行し、そうすることで構造が投影レンズ20によりウェーハWに結像されると生じる収差を補償するために、このミラーの裏側に取り付けられた複数のアクチュエータ27である。アクチュエータ27の目標とする駆動のために、EUVリソグラフィユニット1は、図示しない信号線を介してアクチュエータ27と通信する例えば制御コンピュータの形態の制御デバイス28を備える。
【0047】
図2は、ビーム整形・照明デバイス102及び投影レンズ104を備えたDUV投影露光ユニット100の概略図を示す。この場合、DUVは「深紫外」を表し、30nm~370nmの使用光の波長を示す。DUV投影露光ユニット100は、DUV光源106を備える。例えば、例えば193nmのDUV域の放射線108を発するArFエキシマレーザを、DUV光源106として設けることができる。
【0048】
図2に示すビーム整形・照明デバイス102は、DUV放射線108をフォトマスク120へ指向させる。フォトマスク120は、透過光学素子として形成され、ビーム整形・照明デバイス102及び投影レンズ104の外部に配置され得る。フォトマスク120は、投影レンズ104によりウェーハ124等に投影される構造を有する。
【0049】
投影レンズ104は、フォトマスク120をウェーハ124に投影するための複数のレンズ素子128、140及び/又はミラー130を有する。この場合、投影レンズ104の個々のレンズ素子128、140及び/又はミラー130は、投影レンズ104の光軸126に関して対称に配置され得る。DUV投影露光ユニット100のレンズ素子及びミラーの数は図示の数に限定されないことに留意されたい。設けられるレンズ素子及び/又はミラーの数を増減することもできる。さらに、ミラーは、ビーム整形のために表側が概して湾曲している。
【0050】
最終レンズ素子140とウェーハ124との間の空隙を、屈折率>1を有する液状媒体132に置き換えることができる。液状媒体132は、例えば高純度水であり得る。このような設定は液浸リソグラフィとも称し、高いフォトリソグラフィ分解能を有する。
【0051】
図3は、対応するミラーアセンブリ30の一部としての図1のミラー26又は図2からのミラー130を詳細図で示す。ミラーアセンブリ30は、図示の例ではチタンドープ溶融シリカ(ULE)又は溶融シリカから形成される基板31を備える。熱膨張率が低いか又は熱膨張率の温度依存性が非常に低い他の材料も、基板材料として用いることができる。基板31の表側31aには、反射コーティング32が施され、これは、入射EUV放射線5又はDUV放射線108が、13.5ナノメートル、又は例えば特定の入射角範囲で193.4ナノメートルの動作波長付近の狭いスペクトル域で比較的高い反射率で反射されるように構成される。
【0052】
図1のEUVミラー26の場合、反射コーティング32は、EUV放射線5を反射するための干渉層系として働くように構成される。この場合、反射コーティング32は、ケイ素の形態の第1層材料の層とモリブデンの形態の第2層材料の第2層とを交互に含む。動作波長に応じて、例えばモリブデン及びベリリウムの形態の異なる第1及び第2層材料も可能である。
【0053】
図3に示すミラーアセンブリ30は、DUV投影露光ユニット100の図2に示すミラー130にも対応して形成され得る。この種のミラー130も、基板31及び反射コーティング32を備える。この場合の基板31は、例えば溶融シリカからなり得る。この場合の反射コーティング32は、入射DUV放射線5が、特定の入射角範囲で例えば157nm、193nm、248nm、又は360nmのDUV光源106の動作波長付近の狭いスペクトル域で比較的高い反射率で反射されるように構成される。この場合も、反射コーティング32は、干渉効果によりミラー130の最大反射率を発生させるために多層系として構成され得る。DUVミラー130は、代替として、金属ミラー、保護金属ミラー、又は誘電体強化金属ミラーであり得る。
【0054】
反射コーティング32に形成された鏡面32aの目標局所変形に用いられるのは、アクチュエータ27であり、これは、図3に示す例ではピエゾアクチュエータとして構成される。アクチュエータ27は、基板31の裏側31bに接着層33により固定される。接着層33は、基板31の裏側31bに直接施され得る。しかしながら、図示の例では、基板31の裏側31bに施された中間層34があり、接着層33はこの中間層34に施される。中間層34の材料は、例えば、Cr、V、Si、Al、Ta、Ti、Al、Ta、TiO、酸化クロム、酸化バナジウム、La、ZrOを含み得る。
【0055】
図示の例では、接着層33は(アクチュエータ27の領域を除いて)、一定の厚さDを有し、基板31の裏側31bに2次元的に施される。アクチュエータ27は、接着層33に部分的に埋め込まれ、上側又は端面側が接着層33より突出する。アクチュエータ27は、相互に2次元格子状に離間して基板31の裏側31bに接着される。説明の便宜上、隙間35が間に形成された直接隣接するアクチュエータ27を2つだけ図3に示す。概して格子状に、非常に多数のアクチュエータ27があり、隣接するアクチュエータ27の各対が隙間25により相互に離間していることが理解されよう。アクチュエータ27間の隙間25は概して同じ幅を有し、つまりアクチュエータ27は基板31の裏側31bに均一に分配される。アクチュエータ27は、ギャップ又は隙間25を有するアセンブリを形成することもでき、又は複数のアクチュエータアセンブリを基板31の裏側31bに施すことができる。
【0056】
接着層33は、アクチュエータ27の下又はアクチュエータ27と基板31の裏側31bとの間だけでなく、2つの隣接するアクチュエータ27間の各隙間35内にも延びる。図3に示す例の場合、接着層33の厚さDは、隙間35が接着層33で略完全に満たされるように選択される。接着層33の厚さDは、代替として、アクチュエータ27の下側と基板31の裏側31b又は中間層34との間の距離未満であるように選択され得る。接着層33は、より薄くすることもでき、又は規則的な厚さDを有することもできる。
【0057】
図1のEUVリソグラフィユニット1の照明系10の反射光学素子3、12~16及び投影レンズ20の反射光学素子21~26は、残留ガス雰囲気がある真空環境に配置される。図2のDUVリソグラフィユニット100の照明系102の反射素子及び投影レンズ104の反射素子130は、HOの残留分圧を有するパージ環境に配置される。ミラーアセンブリ30の周囲には、したがって接着層33の周囲にも、極僅かな水蒸気36があり、その濃度はEUVリソグラフィユニット1又はDUVリソグラフィユニット100の定常状態動作で実質的に一定である。水蒸気36の一部は、接着層33から表面33aを介して拡散し、つまり一定の周囲湿度では接着層33又はその表面33aが動的平衡にある。動的平衡では、表面33aにより接着層33内に拡散する水蒸気の量が表面33aから出る水蒸気36の量と同じである。内方拡散及び外方拡散を、図3に鉛直方向に延びる2つの両矢印で示す。
【0058】
ミラーアセンブリ30の周囲の湿度変化の場合に、動的平衡は乱れる。これは特に、例えばEUVリソグラフィユニット1又はDUVリソグラフィユニット100の保守、修理等の間のように、ミラーアセンブリ30の周囲の水分圧の急上昇がある場合である。周囲湿度の急変の場合、接着剤又は接着層33が表面33aにより水を急速に収着又は放出する短期の接着剤ドリフトがあり、これは接着層33の接着剤の膨張又は収縮につながることにより、接着層33に応力を発生させる。周囲湿度の急上昇の場合、接着層33はその上部分に水を収着させ、これが接着層33の接着剤を横方向に、すなわち接着層の表面33aと実質的に平行に膨張させ、この過程で接着層33に応力を発生させ、これを図3に水平方向に延びる両矢印で示す。
【0059】
図3に両矢印で示し且つ接着層33の表面33aと平行に延びる接着層33の応力に対応して、2つの隣接するアクチュエータ27の相互に対面する側面に力が入力される。この力の入力は、アクチュエータ27にてこ作用を発生させ、アクチュエータ27の望ましくない傾斜、したがって基板31の望ましくない変形をもたらす。
【0060】
図3に示すミラーアセンブリ30の場合、接着層33が水蒸気を収着する材料、概して有機材料から形成されるだけでなく、有機材料42がアクチュエータ27上に形成され、各アクチュエータ27の上側又は側部に接続される。有機材料42は、例えばアクチュエータ27の保護層、絶縁層、(電)線用の埋込み材料、導電性接着剤、又は供給線用の接着剤を含み得る。水蒸気36を吸収する有機材料42の場合も、ミラーアセンブリ30の周囲の湿度変化の場合に、水蒸気が表面42aにより有機材料42内/外に拡散し、これが基板31の変形につながり得るという問題がある。
【0061】
材料ドリフトによる基板31の変形を回避する可能性には様々なものがある。いくつかのそのような可能性を、接着層33に基づいて例示的に図4図10を参照して以下でより詳細に説明する。
【0062】
図4に示す例の場合、拡散バリアを形成するコーティング37が各隙間35における接着層33の表面33aに施される。隙間35において、コーティング37は接着層33の表面33aを完全に覆う。図4において、コーティング37は、個別拡散バリア層38からなり、その水蒸気透過度TWは、接着層33の材料からなり拡散バリア層38と同じ厚さを有する層の水蒸気透過度TWより低い(TW<TW)。図示の例では、拡散バリア層38の水蒸気透過度TWは、1g/(md)未満である。接着層33の材料からなり拡散バリア層38と同じ厚さを有する層の水蒸気透過度TWは、通常は数オーダ以上大きい。
【0063】
図示の例の拡散バリア層38は、Alから形成される。代替として又は追加として、拡散バリア層38は、SiO、Ta、Al、Ta、Ti、Ru、Si、TiO、HfO、ZrO、La、Nb、パリレン、フルオロポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン、及びそれらの混合物を含む群から例えば選択され得る他の材料も含み得る。コーティング37又は拡散バリア層38は、例えば気相からの堆積により、すなわちPVD、CVDにより、例えばプラズマCVDにより、ALDにより、プラズマALDにより、スパッタリングにより、アークコーティングにより、若しくはスピンコーティングにより、又はゾルゲル法で、接着層33の表面33aに種々の方法で施すことができる。コーティング37又は拡散バリア層38を施す際のプロセスパラメータは、最大密度で且つできる限りピンホール無しで接着層33の表面33aに施すことができるように通常は選択される。
【0064】
コーティング37を水蒸気36がより透過し難いようにするために、コーティング37の上側を形成する拡散バリア層38の表面38aに表面処理を施すことができる。表面処理は、例えば、プラズマ処理又は短波での、場合によっては例えばUV波長域のパルス放射線での表面38aの照射であり得るか、又はコーティング又は表面終端により施され得る。表面処理について考えられる特定の効果として、拡散バリア層38の表面38aは疎水性を有し、すなわち撥水性である。追加として又は代替として、拡散バリア層38は、特にテフロン含有フルオロポリマーを含むフルオロポリマー等の疎水性材料からそれ自体が形成されてもよく、例えばDupontのTeflon AFから形成され得る。
【0065】
拡散バリアとしての効果を高めるために、コーティング37は、場合によっては異なるプロセスで施された異なる材料でできた2つ以上の拡散バリア層38を有し得る。これは特に、単一の拡散バリア層38から構成されたコーティング37が拡散バリア層38の層間剥離の危険をもたらすほどの厚さを有する場合に有利である。コーティング37又は拡散バリア層38の通常の厚さは、約10nm~100μmのオーダにある。1つの層にあるピンホール又は欠陥が次の層のピンホール又は欠陥に続かないので、複数の拡散バリア層38を重ねて施すことも有利であり得る。
【0066】
図5は、接着層33の弾性率Eより低い弾性率Eを有する充填材料39により、2つの隣接するアクチュエータ27間の隙間35において接着層33の表面33aが完全に覆われるミラーアセンブリ30の例を示す。図示の例では、充填材料39の弾性率Eは1500MPa未満、好ましくは1000MPa未満、特に約500MPa未満である。これに対して、例えばエポキシ樹脂系の接着層33の接着剤の弾性率Eは、通常は約3000MPa~約6000MPaのオーダにある。図示の例では、充填材料39は固体、より詳細にはエラストマー(ゴム)である。図5に示す例では、充填材料39への水の浸透は実際には防止されないが、その低い弾性率Eにより、弾性の充填材料39が2つの隣接するアクチュエータ27に伝達する力は接着層33の場合よりかなり小さい。充填材料33は、場合によっては同様に拡散バリアを形成することができる。換言すれば、比較的低い弾性率Eに加えて、この材料は、水蒸気透過度TWより低い水蒸気透過度TWを有し得る。
【0067】
ゴムの代わりに、充填材料39は、例えばワックス又はグリース等の異なる弾性及び/又は延性材料、例えば真空グリースも含み得る。充填材料39は、液体、特に非極性液体、例えばオイルでもあり得る。概して例えばグリース又はオイルの場合のように、充填材料39自体が疎水性であれば有利である。充填材料39の表面39aは、例えばプラズマ処理又はUV放射線の照射のような表面処理により、任意に疎水性にすることができる。
【0068】
図5は、フィルム40の形態の可撓性材料が隣接するアクチュエータ27間の空間35に導入された、ミラーアセンブリ30の例を示す。フィルム40は、隙間35まで延出し、つまり上記フィルムは2つのアクチュエータ27の上側から基板31の裏側31aの方向に下方に延びる。図5に示す例では、フィルム40は接着層33に形成された鍋状の窪み41を覆う。図5に示す例では、窪み41は、アクチュエータ27の下側の高さに概ね達するまで隙間35内に延びる。窪み41の結果として、隙間35内に位置付けられる接着剤の体積が減る。これは、接着層33の全体積が水を収着又は放出させて基板31の応力につながる、いわゆる長期の接着剤ドリフトを減らすために有利である。
【0069】
図5に示す例では、フィルム40は2つの隣接するアクチュエータ27に接続されない。このように、接着層33の表面33aより僅かに上方に突出するフィルム40の自由端は、接着剤ドリフトが起こると相互に接近離反するよう移動可能であり、これを図5に2つの水平両矢印で示す。フィルム40も同様に拡散バリアを形成することができ、つまり接着層33への水蒸気の浸透を防止又は低減する材料からなり得るか又はかかる材料を含み得る。フィルム40は、例えばアルミニウム積層ポリマーフィルムを含み得る。フィルム40は、疎水性材料から形成され得るか、又は水の収着を低減するために疎水性の表面40aを有し得る。フィルム40は、特に表面40aに例えばTeflon AFの疎水性コーティングを有することができ、このコーティングはさらに拡散バリアとして働く。
【0070】
フィルム40を接着層33に施すことは、接着層33が、図5の図とは異なり、各アクチュエータ27の下側と基板31の裏側31a又は中間層34の上側との間の距離に対応する厚さDを有する場合にも有用であり得る。この場合、フィルム40は、通常は隙間35まで延出するが、接着層33の窪みを形成しない。この場合のフィルム40は、特に、隙間35又は隙間35における接着層33の表面33aを完全に覆い得る。
【0071】
接着層33の接着剤がアクチュエータ27にかける力の量だけでなく、別の関連要因は、アクチュエータ27にかかる力の力方向である。てこ作用に関する限り、アクチュエータ27の側面に対して垂直な向きの力方向(図3参照)は特に有害である。短期の接着剤ドリフトの場合、水の収着及び放出に関連して、力方向は接着層33の表面33aと実質的に平行に延び、基板31の変形を減らす1つの可能性は、アクチュエータ27又は基板31の裏側31bに対する接着層33の表面33aの向きを変えることである。
【0072】
図7に示す例では、これはアクチュエータ27間の各隙間35における接着層33の途切れにより達成される。換言すれば、層33は隙間35を完全に覆わない。接着層33が途切れる結果として、隙間35における接着層の表面33aは、基板30の裏側31a及びアクチュエータ27の側面に対して斜めの向きである。したがって、図7に2つの両矢印で示すように、水の収着に対する接着層33の力作用もアクチュエータ27の側面に対して斜めの向きである。しかしながら、隙間35で接着層33が途切れる結果として、接着層33の表面33aは連続した接着層33に比べて大きい。したがって、図7に示す例の場合、表面33aの拡大、したがって力の絶対量の増加にも関わらず、接着層33の表面33aの向きの適当な急勾配によりアクチュエータ27が基板31にかける力作用が減るように、接着層33の幾何学的形状を選択する必要がある。
【0073】
図8に示す例では、アクチュエータ27と接着層33の接着剤で発生する力作用との間に非干渉化がある。これは、2つの隣接するアクチュエータ27間の隙間35において、接着層33がアクチュエータ27より、より詳細にはそれらの上側より突出することにより達成される。したがって、図3の図とは異なり、接着層33は均一な厚さDを有しない。その代わりに、その厚さは接着層33の突出部分の厚さだけ隙間35で増加する。接着層33が水平方向の力作用を受ける水の収着時には、図8に2つの両矢印で示すように、接着層33は各隙間35で横方向に膨張する。このように、接着層33からアクチュエータ27への、したがって基板31への力の伝達が事実上低減され得る。
【0074】
図8に示す例の場合、接着層33の上部のみが拡散プロセスに関与して、短期の接着剤ドリフトが補償され得る。長期の接着剤ドリフトも減らすために、図8に示す突出する接着層33を、図9に示すように接着層33の窪み41を覆うフィルム40で部分的に覆うことができる。したがって、図9に示すミラーアセンブリ30の場合、図8及び図6で述べた措置が組み合わせられる。この場合、フィルム40で覆うことにより隙間35における接着層33の体積を減らすことが可能であり、結果として接着層33の長期の接着剤ドリフトも減る。
【0075】
図10は、最後に、図9で述べた措置に加えて接着層33の表面33aの突出部、つまりフィルム40で覆われない部分がコーティング37で、より詳細には拡散バリア層38で覆われた、ミラーアセンブリ30を示す。フィルム40が拡散バリアも形成する場合、接着層33の表面33aは、この場合は水蒸気36の浸透から完全に保護される。
【0076】
接着剤ドリフト及び/又は基板に対する接着剤ドリフトの効果は、前述の措置の1つにより、又はこれらの措置の2つ以上の組合せにより減らすことができる。このように、接着剤ドリフトに起因するEUVリソグラフィユニット1又はDUVリソグラフィユニット100の収差を減らすことが可能である。接着層33が周囲と動的平衡にある定常状態を得るのに要する時間が上述のように短縮されるので、ミラーアセンブリ30の周囲の湿度の変化後にEUVリソグラフィユニット1又はDUVリソグラフィユニット100の起動を加速させることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10