(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】次亜塩素酸イオンを含む半導体ウェハの処理液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241119BHJP
C11D 7/08 20060101ALI20241119BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20241119BHJP
H01L 21/308 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
C11D7/08
C11D7/50
H01L21/308 F
(21)【出願番号】P 2023111596
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2020191395の分割
【原出願日】2019-01-15
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018005201
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018005202
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018199949
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】東野 誠司
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-227749(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074601(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208749(WO,A1)
【文献】特開昭63-033401(JP,A)
【文献】国際公開第2008/114309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/08
C11D 7/50
H01L 21/306
B08B 1/04
B08B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にルテニウムおよびタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有する半導体ウェハを洗浄し、該金属を除去するための処理液であって、
(A)次亜塩素酸イオン、
(B1)アルキルアンモニウムイオン、および
(C)溶媒
を含み、前記(B1)アルキルアンモニウムイオンの濃度が、0.1~8.33質量%である処理液
(ただし、臭素含有化合物を含むものを除く)。
【請求項2】
前記溶媒(C)が有機溶媒を含む、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の処理液の製造方法であって、
(a)アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備する工程、
及び(b)前記アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂と、次亜塩素酸イオンを含む水溶液とを接触させる工程を含む、処理液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において使用される、半導体ウェハの端面部や裏面部を洗浄する新規な処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進み、半導体素子製造工程における不純物管理に対する要求がより厳しくなっている。半導体素子の製造工程で発生する不純物は、製造工程毎に異なる。このため、製造工程毎に汚染源を特定し、さらに、その汚染源となる不純物の濃度を管理することが重要である。特に、金属や金属酸化物などの不純物は製造装置内に滞留するため、金属や金属酸化物を次工程へ持ち込まないことが重要である。
【0003】
また、近年、半導体素子の製造効率を向上させるために、300mmを超える大口径の半導体ウェハが使用されている。大口径の半導体ウェハでは、電子デバイスが作製されない端面部や裏面部の面積が小口径の半導体ウェハと比較して大きい。そのため、金属配線を形成する工程やバリアメタルを形成する工程において、半導体素子を形成する半導体ウェハ表面の素子形成部だけでなく、端面部や裏面部などにも金属配線材料やバリアメタル材料(以下、まとめて「金属材料等」とする場合もある)が付着し易くなる。その結果、半導体ウェハの口径が増加するにつれ、ウェハの端面部や裏面部に付着する余剰の金属材料等の量が増加している。
【0004】
半導体ウェハの端面部や裏面部に付着した余剰の金属材料等は、金属配線やバリアメタル形成後の工程である酸素によるアッシング工程やプラズマによるドライエッチング工程において、金属、もしくは金属酸化物のパーティクルとして製造装置内を汚染する。その後、製造装置内に搬入される他のウェハにパーティクルが付着し汚染することがある。この汚染は、クロスコンタミネーションと呼ばれる。クロスコンタミネーションを抑制するため、ウェハの端面部や裏面部に付着した金属材料等は、次工程に持ち込む前に除去する必要がある。
【0005】
これら金属材料等の中でも、白金、ルテニウムに代表される貴金属類およびタングステンは素子形成工程において使用されることが多い。これらの金属は、その後のエッチング工程や洗浄工程では酸化され難く、また溶解も困難であり、除去が難しく、不純物として存在し続けることが知られている。そのため、これら貴金属類およびタングステンは、他の金属材料よりも優先して半導体ウェハから除去することが好ましい。特に、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合よりも抵抗値を低減可能という理由で、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として多用されているため、不要な箇所から素早く除去することが望まれている。また、タングステンあるいはタングステン合金はゲート電極、配線、ビアホール等の材料として多用されているが、CVDやスパッタなどで成膜されるため、所望の箇所以外にも付着する。このため、ルテニウムと同様に、タングステンも不要な箇所から素早く除去することが望まれている。
【0006】
このような貴金属類やタングステンは、一般的には、強力な酸化剤により酸化して水に溶解する化合物として除去する方法が提案されている。例えば、貴金属類の洗浄液として、特許文献1には、硝酸セリウム(IV)アンモニウムに、さらに硝酸などの強酸を添加して、ルテニウムを酸化して除去する洗浄方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、半導体ウェハの端面部に付着したルテニウムを処理する方法として、酸化還元電位が標準水素電極電位に対して300mV以上大きい酸化性のある液で洗浄する方法が知られている。なお、該液は、具体的にはpHが12以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液、又は次亜塩素酸アンモニウムである。
【0008】
さらに、特許文献3には、ルテニウム膜のエッチング方法として、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、又はオルト過ヨウ素酸水溶液が使用されている。そして、この方法においては、銅配線の腐食防止のために、ベンゾトリアゾールを供給しながらルテニウムをエッチングしている。
【0009】
また、貴金属類の除去以外にも、デバイス基板(半導体ウェハ)の洗浄において、配線や絶縁膜、容量膜等のデバイス材料の腐食や溶解を防止しつつ、ウォーターマークの発生を防止して、材料の特性を劣化させることなく、基板上のパーティクル等の汚染を効果的に除去できる洗浄液として、特許文献4の実施例5には、次亜塩素酸を含むpH7の洗浄液が提案されている。
【0010】
特許文献5には、マイクロエレクトロニクス基板からフォトレジストまたは残渣を洗浄するための洗浄組成物の酸化剤として、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムを使用した洗浄組成物が提案されている。
【0011】
また、タングステンのエッチングを目的とした洗浄液も多種知られている。たとえば特許文献6には、過酸化水素、有機酸塩および水からなる洗浄液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-234373
【文献】特開2002-161381
【文献】特開2009-081247
【文献】特開2003-119494
【文献】特開2005-227749
【文献】特許第5523325号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者の検討によれば、前記の従来の洗浄液では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0014】
例えば、特許文献1に記載の方法では、半導体ウェハの端面部や裏面部に付着したルテニウムは酸化ルテニウムとなり剥離されるものの、剥離した酸化ルテニウムが洗浄液に完全には溶解しないことが分かった。そのため、剥離した酸化ルテニウムが製造装置内に残留し、クロスコンタミネーションの原因となることがあった。また、酸化ルテニウムが基板から剥離しきれない場合があり、半導体ウェハの洗浄が不十分となり改善の余地があった。
【0015】
また、特許文献2に記載のpH12以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液では、ルテニウムに対する酸化力が不十分であり、ルテニウムのエッチング速度が遅いということが分かった。ルテニウムのエッチング速度は、特に半導体ウェハの大口径化、スループット向上において、生産性に大きく影響を与えるため、特許文献2の次亜塩素酸水溶液では改善の余地があった。加えて、次亜塩素酸ナトリウムを使用しているため、洗浄液に含まれるナトリウムイオンが多くなる。その結果、半導体素子にナトリウムイオンが付着し易くなり、半導体素子の歩留まりを低下させる傾向にあった。
【0016】
また、特許文献3に記載の洗浄液では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液でルテニウム膜をエッチングする方法が提案されている。エッチング後に洗浄液に起因するナトリウムを除去するために、フッ酸洗浄を行うことが記載されている。フッ酸洗浄は、半導体ウェハや、Si酸化被膜をもエッチングするおそれがあり、半導体素子の歩留まりを低下させる場合がある。
【0017】
また、特許文献4の実施例5では、次亜塩素酸を含むpH7の洗浄液が提案されているが、この洗浄液は、金属膜や金属酸化物膜を備えた基板の洗浄に使用されるものであり、ウォーターマークの発生防止を目的とするものであり、特に貴金属の除去を目的とはしていない。そのため、次亜塩素酸を500ppm添加して、酸化還元電位を612mVに調整したpH7の洗浄液で半導体ウェハの端面部や裏面部を洗浄したとしても、ルテニウムを溶解させることが困難であり、また、除去が難しく、さらなる改良が必要であった。加えて、この洗浄液では、pH調整剤としてアンモニアを使用し、洗浄液のpHを調整しているが、アンモニアは揮発性が高く、洗浄液の安定性という点で改善の余地があった。しかも、次亜塩素酸イオンとアンモニアとは反応して爆発性の高いトリクロラミンを一部生成するため、pH調整後の洗浄液の取り扱いが困難であった。
【0018】
特許文献5記載の洗浄液では、酸化剤として、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムを含む洗浄液が提案されている。本発明者等の検討によれば、該洗浄液のpHは12を超えるものである。例えば、特許文献5の製剤Aとして記載されているTMAOClを17.6質量%、TMAClを6.6質量%、TMAHを0.43質量%、水を85.3質量%、及びゾニールFSHを0.05質量%含有する製剤Aは、pHが12.7となる。しかしながら、この洗浄液は、フォトレジストや残渣の洗浄のために使用される洗浄液であり、ルテニウムを含む銅やアルミニウムの金属被覆は洗浄対象ではなく保護対象である。したがって、特許文献5に記載の洗浄液は、貴金属の除去を目的としている洗浄液ではないため、特許文献5に記載の洗浄液を使用したとしても、貴金属を除去することが出来ないという点で改善の余地があった。
【0019】
特許文献6に記載の洗浄液は、過酸化水素および有機酸塩を含有し、現状ではタングステンに対するエッチング液の主流である。この洗浄液はシリコン基板へのダメージが少ない点で大きな利点がある。しかし、タングステンに対するエッチング速度が十分ではなく、スループット向上の観点から、タングステンに対するエッチング速度がより速く、かつ基板へのダメージの無い洗浄液が要望される。
【0020】
したがって、本発明の目的は、半導体ウェハの端面部や裏面部に付着した余剰の金属材料等を容易に除去(洗浄)でき、特に、ルテニウムのような貴金属類あるいはタングステンの除去に効果を発揮する処理液を提供することにある。
【0021】
加えて、本発明の他の目的は、上記目的を達成し、かつアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを低減し、半導体素子の歩留まりを改善することが可能な、より改善された処理液を提供することにある。また、上記に加え、さらに保存安定性にも優れた処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、貴金属類やタングステンの酸化剤である次亜塩素酸イオンを利用することを検討した。単に、次亜塩素酸イオンを含む処理液では、貴金属類等の除去効果が十分でないため、種々条件を精査したところ、適切なpH範囲とすることで、洗浄性や保存安定性が顕著に改善されることが見出した。
【0023】
さらに、次亜塩素酸イオンの対カチオンとしてアルキルアンモニウムイオンを用いることで、次亜塩素酸イオンを安定化し、保存安定性が向上し、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンに起因する悪影響を低減できることを見出した。また、次亜塩素酸イオンの対カチオンとしてアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを用いる場合であっても、これらを所定の濃度範囲とすることで、保存安定性を損なうことなく、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンに起因する悪影響を低減できることを見出した。
【0024】
すなわち、本発明は半導体ウェハを洗浄するための処理液に関し、
(1)第1の実施形態に係る処理液は、
(A)次亜塩素酸イオン、および
(C)溶媒
を含み、25℃でのpHが7を超え12.0未満である処理液である。
本発明の処理液によれば、次亜塩素酸イオンもしくは塩素によってルテニウムもしくはタングステンが酸化される。たとえばルテニウムでは、酸化ルテニウムイオン(RuO4
-)として溶解し、系内から除去されると考えられる。
【0025】
また、処理液は、アルカリ成分として(B1)アルキルアンモニウムイオンをさらに含むことが好ましい。
すなわち、(2)第2の実施形態に係る処理液は、
(A)次亜塩素酸イオン、
(B1)アルキルアンモニウムイオン、および
(C)溶媒
を含み、25℃でのpHが7を超え12.0未満である処理液である。
【0026】
第2の実施形態に係る処理液が貴金属類、例えば、ルテニウムをエッチングするメカニズムとしては、以下のことが考えられる。つまり、該アルキルアンモニウムイオンの存在下においては、活性化した次亜塩素酸イオンがルテニウムと接触し、ルテニウムが酸化され、イオン化して、除去されると考えられる(式1参照)。
2Ru+7ClO-+2OH- ⇔ 2RuO4
-+7Cl-+H2O (式1)
【0027】
また、処理液は、アルカリ成分として特定量の(B2)アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンをさらに含むことが好ましい。
すなわち、(3)第3の実施形態に係る処理液は、
(A)次亜塩素酸イオン、
(B2)アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオン、および
(C)溶媒
を含み、前記(B2)金属イオンの濃度が質量基準で1ppm以上20000ppm以下であり、25℃でのpHが7を超え12.0未満である処理液である。
【0028】
第3の実施形態においても、第2の実施形態と同様にルテニウムが酸化され、イオン化して、除去されると考えられる。
以上のような反応は、本発明者等の検討によって、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンが特定量、すなわち、その濃度が、質量基準で1ppm以上20000ppm以下である場合に顕著に進行することを突き止めた。
本発明は、以下の態様をとることもできる。
【0029】
(4)前記(A)次亜塩素酸イオンの濃度が0.05~20.0質量%である(1)~3の何れかに記載の処理液。
(5)前記(B1)アルキルアンモニウムイオンが、第4級アルキルアンモニウムイオンである(2)に記載の処理液。
(6)前記(B2)金属イオンが、ナトリウムイオンである(3)に記載の処理液。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の処理液と半導体ウェハとを接触させることを特徴とする半導体ウェハの洗浄方法。
(8)前記半導体ウェハがその表面にルテニウムおよびタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有し、該金属を除去する(7)に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
(9)上記(2)に記載の処理液の製造方法であって、
(a)アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備する工程、及び
(b)前記アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂と次亜塩素酸イオンとを含む水溶液とを接触させる工程
を含む、処理液の製造方法。
(10)上記(9)に記載の処理液の製造方法であって、
前記(b)工程の後にpHを調整する工程(c)を含む、処理液の製造方法。
【0030】
この方法によって得られる処理液は、次亜塩素酸塩を形成する塩由来のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが低減された処理液である。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合には、処理液に含まれるナトリウムイオン(アルカリ金属イオン)が低減された処理液である。その結果、該方法により得られる処理液を使用すれば、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンに起因する問題、たとえば半導体ウェハへのアルカリ金属の付着がなくなり、半導体素子を製造する際の歩留まりが改善できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の処理液によれば、ルテニウムおよびタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(以下、「Ru/W」と略記することがある)を含む金属成分がその表面に存在する半導体ウェハの洗浄に用いた場合、洗浄の条件を整えれば、ルテニウムのエッチング速度を5nm/分以上、好ましくは10nm/分以上として、半導体ウェハを清浄化することが出来る。また、タングステンのエッチング速度を50nm/分以上、好ましくは100nm/分以上として、半導体ウェハを清浄化することが出来る。
また、第2の実施形態に係る処理液では、洗浄後の半導体ウェハの表面に残存する陽イオン(アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン)の濃度を、条件を調整すれば、1.5×1015atoms/cm2未満、好ましくは6.2×1014atoms/cm2未満とすることも出来る。
【0032】
さらに、第2の実施形態に係る処理液は、pHに加え、アルキルアンモニウムイオンの濃度を特定の範囲にすることによって、長期保存安定性に優れるという効果も発揮される。製造装置内および半導体ウェハに残存するアルカリ金属やアルカリ土類金属は、電子デバイスの短絡等を引き起こし、半導体素子の歩留まり低下につながるため、洗浄後に残存するアルカリ金属やアルカリ土類金属を低減することが望まれている。
【0033】
また、第3の実施形態に係る処理液では、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの濃度が質量基準で1ppm以上20000ppm以下とすることによって、洗浄後に残存するナトリウムイオン等を低減でき、さらに長期保存安定性に優れるという効果も発揮される。そして、製造装置内および半導体ウェハに残存するナトリウムイオン等を低減することができる。その結果、電子デバイスの短絡等を引き起こす要因と考えられていたナトリウムイオン等を低減できるため、半導体素子の歩留まりを改善することができる。
【0034】
さらに、本発明の処理液によれば、半導体ウェハの主材であるSiや、回路形成時に生成するSi含有被膜(たとえばSiO2、Si3N4、SiOC、SiC等)を過度にエッチングせずに、除去が必要な金属(Ru/W)のみを効率的にエッチングできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の処理液が好適に採用できる半導体ウェハの端面部の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(処理液)
本発明の処理液は、半導体ウェハにダメージを与えることなく、端面部や裏面部に付着した貴金属類やタングステンを除去できる。そのため、本発明の処理液は、貴金属類やタングステンが表面に残存する半導体ウェハの洗浄に好適に用いることができる。ただし、洗浄の対象物がこれに限定される訳ではなく、当然のことながら、表面に貴金属類やタングステンを有さない半導体ウェハの洗浄にも利用できる。
【0037】
本発明の処理液が適用される金属類、特にRu/Wは、主に半導体素子工程で使用されるCVD、スパッタ法によって、半導体ウェハの表面だけでなく端面部や裏面部に付着する(
図1参照)。
図1に示すように、この半導体ウェハ1は、端面部3、および裏面部4に、ルテニウムおよびタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属2が付着してしまう。このような傾向は、直径が300mmを超えるような大口径の半導体ウェハを使用する場合に顕著となる。なお、本発明において、半導体ウェハがその表面にRu/Wを有するとは、半導体ウェハ表面の半導体素子形成領域外だけでなく、端面や裏面に存在するRu/Wを含む。
【0038】
例えば、Ru/Wは、金属配線やバリアメタルの材料として使用されるため、半導体ウェハを構成するシリコン、もしくはシリコンに積層されたシリコン酸化物に成膜された状態となっている。
【0039】
本発明の処理液は、特に制限されるものではないが、上記のような半導体ウェハの洗浄に好適に採用できる。そして、該処理液は、(A)次亜塩素酸イオン、および(C)溶媒を含み、好ましくは(B1)アルキルアンモニウムイオンまたは(B2)アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む。以下、順を追って説明する。
【0040】
(A)次亜塩素酸イオン
本発明で使用される次亜塩素酸イオンは、次亜塩素酸塩を水などの適用な溶媒に溶解させることにより、発生させることが可能である。次亜塩素酸塩における塩は、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属であることが好ましい。中でも、洗浄効果を考慮すると、ナトリウムであることが最も好ましい。
【0041】
本発明の処理液において、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は、好ましくは0.05~20質量%である。上記範囲内であれば、Ru/Wを十分に溶解し、洗浄することが可能である。次亜塩素酸イオンの濃度が20質量%を超えると、次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなる傾向にある。一方、0.05質量%未満の場合には、エッチング速度が遅くなり、洗浄性が低下する傾向にある。そのため、次亜塩素酸イオンの範囲は、好ましくは0.1~15質量%であり、より好ましくは0.3~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~6質量%であり、特に好ましくは0.5~4質量%である。
【0042】
また、本発明において、処理液の次亜塩素酸イオンの分解反応を抑制し、該次亜塩素酸イオン濃度の低下を抑制するためには、処理液のpHが7を超え12未満であることが好ましい。処理液のpHが7以下の場合は、次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなり、次亜塩素酸イオン濃度が低下し易い傾向にある。以下、処理液中の次亜塩素酸イオンの分解反応を抑制し、該次亜塩素酸イオン濃度の低下を抑制する効果を、「保存安定性」がよいとする場合もある。
【0043】
さらに、処理液の保存安定性を考慮すれば、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は、0.05~6質量%であることが好ましい。この範囲であれば、高い保存安定性を確保できる。次亜塩素酸イオンの濃度が、6質量%を越える場合は、次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなる傾向にある。そのため、Ru/Wのエッチング速度、洗浄性、および処理液自体の保存安定性を考慮すると、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は、0.1~6質量%がより好ましく、0.3~6質量%がさらに好ましく、0.5~4質量%が特に好ましい。
【0044】
したがって、Ru/Wのエッチング速度、洗浄性、処理液自体の保存安定性を両立するためには、次亜塩素酸イオンの濃度範囲が0.05~6質量%であり、pHが7超12未満である処理液が特に好ましい。前記範囲内であれば、保存中に次亜塩素酸イオン濃度が低下し難く、例えば、20℃の暗所で、15日間保存した後でも、Ru/Wの洗浄性が十分に発揮される処理液とすることが出来る。
【0045】
次亜塩素酸イオンの濃度は、処理液の製造時に計算で求めることもできるし、処理液を直接分析することにより確認することもできる。下記の実施例で記載した次亜塩素酸イオンの濃度は、処理液の有効塩素濃度を測定することにより求めた。具体的には、厚生労働省告示第三百十八号(最終改正2005年3月11日)を参考に、次亜塩素酸イオンを含む溶液にヨウ化カリウムと酢酸を加え、遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム水溶液で酸化還元滴定して有効塩素濃度を算出した。
【0046】
(C)溶媒
本発明の処理液において、(A)、(B1)、(B2)および下記に詳述するその他の添加剤以外の残分は、溶媒であり、(A)、(B1)、(B2)およびその他の添加剤を調整後、合計100質量%となるように、残分を溶媒で調整する。
【0047】
溶媒としては、水が最も好ましく用いられる。本発明の処理液に含まれる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水または超純水が好ましい。その場合、水の濃度は各種薬剤を除いた残分である。
【0048】
また、次亜塩素酸イオンが安定に存在する限りにおいて有機溶媒を使用しても良い。有機溶媒としては、たとえばアセトニトリル、スルホラン等が用いられる。
【0049】
また、溶媒として水と有機溶媒とを併用してもよい。水と有機溶媒とを併用することで、Ru/Wの酸化が比較的穏やかに進行するため、回路形成部の配線等の酸化を抑制し、半導体ウェハの端面部や裏面部に付着した余剰のRu/Wを効率的に除去できる。水と有機溶媒とを併用する場合、水と有機溶媒との質量比(水/有機溶媒)は、60/40~99.9/0.1程度であってもよい。
【0050】
本発明の処理液は、アルカリ成分を含有することが特に好ましい。アルカリ成分としては、(B1)アルキルアンモニウムイオン(第2実施形態)、または所定量の(B2)アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオン(第3実施形態)が用いられる。
【0051】
(B1)アルキルアンモニウムイオン
第2の実施形態で使用されるアルキルアンモニウムイオンは、処理液の保存安定性を向上、および、pHを調整するために処理液に含まれる。
【0052】
アルキルアンモニウムイオンは、特に制限されるものではなく、第1級アルキルアンモニウムイオン、第2級アルキルアンモニウムイオン、第3級アルキルアンモニウムイオン、および第4級アルキルアンモニウムイオンの何れであってもよく、これらの混合物であってもよい。中でも、処理液自体の製造のし易さ、処理液の洗浄効果をより高めるためには、第4級アルキルアンモニウムイオンが好ましい。
【0053】
また、アルキルアンモニウムイオンの炭素数も、特に制限されるものではない。中でも、処理液自体の製造のし易さ、処理液の洗浄効果をより高めるためには、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、さらに炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0054】
そのため、アルキルアンモニウムイオンとしては、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5の第4級アルキルアンモニウムイオンが好適である。具体的なイオンを例示すると、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンである。上記のアルキルアンモニウムイオンであれば、処理液の洗浄性には影響を与えることがなく、処理液の保存安定性を高めることが出来る。
【0055】
アルキルアンモニウムイオンの濃度範囲は、好ましくは0.1~30質量%である。アルキルアンモニウムイオンの濃度がこの範囲を満足することにより、Ru/Wを酸化、溶解、除去したとしても、処理液のpHの変動を少なくすることができる。その結果、安定してエッチングを行うことができ、長期保存安定にも優れる。この効果をさらに発揮するためには、アルキルアンモニウムイオンの濃度は、より好ましくは0.15~20質量%であり、さらに好ましくは0.3~15質量%であり、特に好ましくは0.5~8質量%である。
【0056】
また、第2の実施形態に係る処理液には、pHを調整するため、あるいは処理液の製造工程において不可避的に混入されるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオンが含まれてもよい。ただし、これらアルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンは、半導体ウェハに対して悪影響(半導体ウェハの歩留まり低下等の悪影響)を及ぼすことがあり、その配合割合は少ない方が好ましく、実際には限りなく含まれない方がよい。具体的には、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、500ppb以下であることが最も好ましい。
【0057】
アルキルアンモニウムイオンは、次亜塩素酸イオンの対カチオンとして存在し、次亜塩素酸イオンを安定化する。また、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンとは異なり、半導体ウェハに対して悪影響(半導体ウェハの歩留まり低下等の悪影響)を及ぼすこともなく、洗浄後の半導体ウェハの高品質化に寄与する。
【0058】
(B2)アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオン
第3の実施形態で使用されるアルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオン(以下、単に「金属イオン」とする場合もある)は、処理液自体の生産性を考慮すると、(A)次亜塩素酸イオンを発生させるための塩として処理液に持ち込まれる、次亜塩素酸イオンの対イオンであることが好ましい。そのため、使用する原料によってその種類が決まる。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを使用して、次亜塩素酸イオンを調整した場合は、ナトリウムイオンが処理液に存在することになる。ただし、該金属イオンを含まない次亜塩素イオンを含む溶液を準備して、それに金属イオンを添加することもできる。
【0059】
なお、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンとは、当然のことながら、アルカリ金属イオンだけでもよいし、アルカリ土類金属イオンだけでもよいし、両方が含まれてもよい。両方含まれる場合には、下記に詳述する濃度は、両方の合計量を基準にしたものである。
【0060】
第3の実施形態において、金属イオンの濃度は、質量基準で1ppm以上20000ppm以下でなければならない。上記範囲内であれば、ルテニウムを酸化、溶解、除去しても、処理液のpHが変動せず、安定してエッチングを行うことができる。さらに、上記範囲内であれば、長期保存安定に優れた処理液とすることが出来る。
【0061】
すなわち、金属イオンの濃度が、質量基準で1ppm未満の場合は、次亜塩素酸イオンの対となるイオンの比率が減少し、次亜塩素酸イオンの分解が促進される。一方、金属イオンの濃度が質量基準で20000ppmを越える場合は、対イオンとなる金属イオンが多く存在するため、次亜塩素酸イオンは安定に存在させることができるが、洗浄後の半導体ウェハの表面が金属イオンで汚染される。そのため、半導体素子の歩留まり低下を引き起こすことになる。第3の実施形態に係る処理液においては、その配合量を調整することにより、洗浄後の半導体ウェハ洗浄面には、1×1015atoms/cm2未満のナトリウム(金属イオン)しか残存させないことができる。その結果、半導体ウェハの裏面部や端面部の洗浄液として好適に使用することが出来る。
【0062】
処理液の保存安定性、および洗浄効果を考慮すると、金属イオンの濃度は、質量基準で1ppm以上20000ppm以下であり、10ppm以上15000ppm以下であり、より好ましくは200ppm以上13000ppm以下であり、さらに好ましくは1000ppm以上10000ppm以下である。上記範囲内であれば、Ru/Wを除去(洗浄)しても、処理液のpHが変動せず、安定して処理することができる。
【0063】
なお、次亜塩素酸イオンの対イオンとして処理液に含まれた金属イオンが多過ぎ、該金属イオンを低減する必要がある場合には、以下の方法を採用して本発明の要件を満足するように調製すればよい。具体的には、次亜塩素酸ナトリウムを水に溶解させた後、陽イオン交換樹脂に接触させて、ナトリウムイオンを水素イオンに置換する方法を採用できる。金属イオンの低減が不十分な場合は、上記の陽イオン交換樹脂に接触させる操作を繰り返し行うことで、低減できる。
【0064】
第3の実施形態に係る処理液のpHを調整して、その保存安定性を向上させるため、アミン類、好ましくは有機アミンを配合することもできる。有機アミンは、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等となるアミンであれば特に制限されない。中でも、好ましくは、第4級アルキルアンモニウムイオンとなる有機アミンである。また、第4級アルキルアンモニウムイオンの炭素数も特に制限されないが、好ましくは、炭素数1~10のアルキル基であり、特に好ましくは、炭素数1~5のアルキル基であり、具体的には、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンである。なお、第3の実施形態において、アミン類を配合する場合には、処理液のpHが7超10.0以下の範囲を満足する量を配合することが好ましい。ただし、このアミン類は必須成分ではない。第3の実施形態に係る処理液は、特定の量の金属イオンを含むため、アミン類は含まれなくとも優れた効果を発揮する。該金属イオンは、製造条件を調整して次亜塩素酸塩水溶液から直接製造することができる。そのため、処理液の製造のし易さを考慮すると、特定量の金属イオンのみが含まれることが好ましい。
【0065】
(その他の添加剤)
本発明の処理液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で従来から半導体用処理液に使用されている添加剤を配合してもよい。例えば、添加剤として、酸、金属防食剤、フッ素化合物、酸化剤、還元剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤などを加えることができる。
【0066】
(処理液のpH)
本発明の処理液は、前記(A)次亜塩素酸イオンおよび前記(C)溶媒を含み、好ましくは前記(B1)アルキルアンモニウムイオンを含むか、または所定量の(B2)金属イオンを含み、ならびに必要に応じその他の添加剤を含む。好適な(A)次亜塩素酸イオン濃度(0.05~20質量%)、(B1)アルキルアンモニウムイオン濃度(0.1~30質量%)あるいは(B2)金属イオン濃度(1ppm以上20000ppm以下)であれば、容易に処理液のpHを7超12未満とすることができる。本発明の処理液のpHが各成分量により7超12未満となることにより、Ru/Wを酸化、溶解、除去しても、処理液のpHが変動せず、安定して除去することができる。さらに、上記範囲内であれば、長期保存安定に優れた処理液とすることが出来る。処理液のpHが12以上の場合は、著しくRu/Wのエッチング速度が低下する。
【0067】
また、処理液のpHが7以下となる場合は、処理液に含まれている次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなる傾向にある。そのため、安定した処理液の使用と処理液自体の保存安定性とを考慮すると、処理液のpHは、8以上12未満がより好ましく、8以上11未満がさらに好ましい。
【0068】
本発明の処理液の製造方法は特に限定はされない。第1の実施形態に係る処理液は、第2あるいは第3の実施形態に係る処理液の製法に準じて製造できる。以下、第2および第3の実施形態に係る処理液の製造方法について、溶媒として水を使用した場合を例にとり説明する。
(第2の実施形態に係る処理液の製造方法)
第2の実施形態に係る処理液は、アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備し、該イオン交換樹脂に、次亜塩素酸イオンを含む水溶液を接触させることで製造することが出来る。
【0069】
以下、各工程について、詳細を説明する。
(a)アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備する工程
アルキルアンモニウムイオンあるいはハロゲン化アルキルアンモニウムイオンを含む水溶液、具体的には、アルキルアンモニウムハイドロキサイド水溶液をイオン交換樹脂に接触させ、アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備する。
【0070】
イオン交換樹脂に付加するアルキルアンモニウムは、特に制限されるものではなく、第1級アルキルアンモニウム、第2級アルキルアンモニウム、第3級アルキルアンモニウム、および第4級アルキルアンモニウムの何れであってもよく、これらの混合物であってもよい。ただし、前記の通り、処理液に含まれるアルキルアンモニウムイオンは、第4級アルキルアンモニウムイオンであることが好ましい。そのため、前記アルキルアンモニウムは、第4級アルキルアンモニウムが好ましい。第4級アルキルアンモニウムの炭素数も、前記第4級アルキルアンモニウムイオンと同じく、炭素数1~10であることが好ましく、炭素数1~5であることがより好ましい。具体的な化合物を例示すると、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイドである。そのため、本実施形態においては、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液をイオン交換樹脂に接触させることで、アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備することが好ましい。
【0071】
なお、使用するイオン交換樹脂は、公知の陽イオン交換樹脂であれば、特に制限なく使用できる。例えば、水素型イオン交換樹脂、ナトリウム型イオン交換樹脂でも使用することが出来る。ただし、ナトリウム型イオン交換樹脂の場合は、得られる処理液にナトリウムが含まれるため、水素型イオン交換樹脂が好ましい。また、水素型イオン交換樹脂でも、弱酸性、強酸性のイオン交換樹脂を使用することが出来る。
【0072】
(b)前記アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂と次亜塩素酸イオンを含む水溶液とを接触させる工程
前記アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備した後、次亜塩素酸イオンを含む水溶液を接触させることで、本実施形態の処理液を製造することが出来る。
【0073】
次亜塩素酸イオンを含む水溶液は、次亜塩素酸塩を水に溶解させることにより、準備することが出来る。また、次亜塩素酸塩として、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられるが、保存安定性、ハンドリングが良好であるという点で、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0074】
準備した次亜塩素酸イオンを含む水溶液を前記アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂と接触させることにより、次亜塩素酸イオンとアルキルアンモニウムイオンを含む処理液を製造することが出来る。
【0075】
本実施形態において、(b)のイオン交換する工程を繰り返し行ってもよい。イオン交換工程を繰り返し行うことで、次亜塩素酸イオンを含む水溶液に含まれる次亜塩素酸の対イオンとなる陽イオン、例えば、ナトリウムやカルシウムを低減することが出来る。前記の通り、処理液に含まれるナトリウムやカルシウムなどのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンは、半導体素子の歩留まり低下の原因となる。そのため、前記の通り、処理液に含まれるアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの合計が、1質量%以下、好ましくは、0.7質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは10ppm以下であり、特に好ましくは1ppm以下である。なお、半導体素子のデザインルールが10nm以下である製造工程に、本発明の処理液を適用する場合は、10ppmレベルのアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンが半導体素子の歩留まりに影響を与えるため、500ppb以下であることが好ましい。(b)工程を繰り返し行うことにより、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの処理液に含まれる合計量を限りなく低減することができる。
【0076】
なお、必要に応じて配合されるその他の添加剤は、前記(b)工程の後、得られた溶液(処理液)に必要な添加剤を混合すればよい。
【0077】
以上、第2の実施形態に係る処理液の製造法を説明したが、例えば、次亜塩素酸イオンを含む水溶液をイオン交換樹脂に接触させ、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが低減された次亜塩素酸イオンを含む水溶液とアルキルアンモニウムイオンが含まれる水溶液を混合することにより、本発明の処理液を製造してもよく、アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂に、陽イオンが低減された次亜塩素酸イオンを含む水溶液を接触させ本発明の処理液を製造してもよい。
【0078】
ただし、次亜塩素酸イオンを含む水溶液からアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが低減された次亜塩素酸イオンを含む水溶液の製造工程において、水溶液のpHが酸性側になれば、次亜塩素酸イオンの分解反応が始まり、保存安定性が低下する。したがって、まず、アルキルアンモニウムが付加されたイオン交換樹脂を準備し、該イオン交換樹脂に次亜塩素酸イオンを含む水溶液を接触させる製造方法が、製造工程での次亜塩素酸イオンの分解がなく、安定的に本発明の処理液を製造できる。
【0079】
(c)pH調整工程
第2の実施形態に係る処理液の製造において、上記(b)工程の後に、pHを調整する工程(c)を含むことができる。処理液のpHの調整は、(b)工程で得られた処理液を、水素型のカチオン交換樹脂に通液させる、又は、塩酸などの酸を添加することで、処理液のpHを低下ができる(酸性側に調整)。また、(b)工程で得られた処理液を、水酸化物型のアニオン交換樹脂に通液させる、又は、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液などの水酸化アルキルアンモニウム溶液を添加することで、処理液のpHを上昇できる(アルカリ性側に調整)。
【0080】
(第3の実施形態に係る処理液の製造方法)
第3の実施形態に係る処理液は、次亜塩素酸塩を水溶液として、該溶液から次亜塩素酸イオンの対イオンである、金属イオンを低減することで製造できる。
【0081】
金属イオンを低減する方法としては、イオン交換樹脂と次亜塩素酸塩とを接触させ、金属イオンを水素イオンに置換する方法を採用すればよい。
【0082】
具体的には、まず、次亜塩素酸ナトリウムを水に溶解させ、次亜塩素酸イオンを含む水溶液を準備し、この溶液を陽イオン交換樹脂と接触させる。次亜塩素酸イオンを含む水溶液に含まれている金属イオンをイオン交換樹脂に吸着させて、金属イオン濃度を調製(1ppm以上20000ppm以下)することで、第3の実施形態に係る処理液を製造することができる。
【0083】
なお、イオン交換樹脂は、強酸性イオン交換樹脂、弱酸性イオン交換樹脂等、陽イオン交換樹脂であれば、特に制限なく使用するが出来る。弱酸性イオン交換樹脂と次亜塩素酸ナトリウム水溶液と接触させた時に、イオン交換樹脂の膨潤が少なく、塩素が発生しないため、ハンドリングに優れている点で、弱酸性イオン交換樹脂の方がより好ましい。
【0084】
陽イオン交換樹脂と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを接触させる方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用すればよい。具体的には、陽イオン交換樹脂を封入したカラムに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を通液することで接触させる方法等である。
【0085】
その他、必要に応じて、イオン交換樹脂を再生してもよい。イオン交換樹脂の再生方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用すればよい。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を通液後の陽イオン交換樹脂を封入したカラムに、塩酸または硫酸を通液する方法等である。
また、上記工程の後、第2の実施形態と同様に、処理液のpHを調整する工程(c)を含んでいても良い。
【0086】
(保管方法)
本発明の処理液の保管方法は、特に制限されるものではないが、次亜塩素酸イオンの分解は、温度の上昇とともに増加するため、20℃以下で保管することが好ましい。また、次亜塩素酸イオンは、紫外線によっても分解するので、暗所に保管することが好ましい。このような保存条件を適用すれば、処理液の保存安定性をさらに高めることが出来る。
【0087】
(半導体ウェハの洗浄方法)
本発明の処理液を使用する洗浄条件は、温度は10~80℃、好ましくは20~70℃の範囲であり、使用する洗浄装置の洗浄条件にあわせて適宜選択すればよい。
【0088】
また、Ru/Wのエッチング速度は洗浄温度によって変化する。そのため、Ru/Wの洗浄性を向上させる場合には、洗浄時の温度は、上記温度範囲の中でも50~70℃を選択すればよい。50~70℃の温度範囲であれば、エッチング速度を速めることができ、かつ簡易的な装置で操作性よく処理することができる。例えば、枚葉式で洗浄する場合とバッチ式で洗浄する場合とでは、同じ洗浄条件を選択した場合でも洗浄性が異なることが知られている。したがって、洗浄装置の方式によって、Ru/Wの洗浄性が不足する場合は、洗浄温度を高めに設定するなど、洗浄条件は適宜選択すればよい。
【0089】
本発明の処理液を使用する時間は0.1~120分、好ましくは0.5~60分の範囲であり、エッチングの条件や使用される半導体素子により適宜選択すればよい。本発明の処理液を使用した後のリンス液としては、アルコールのような有機溶剤を使用することもできるが、脱イオン水でリンスするだけでも十分である。
【0090】
以上のように、本発明の処理液は、Ru/Wを効率良くエッチングできる。ルテニウムに関してはエッチング速度が5nm/分以上、好ましくは10nm/分以上とすることができる。また、タングステンに関してはエッチング速度が50nm/分以上、好ましくは100nm/分以上とすることができる。また、洗浄後の半導体ウェハ洗浄面には、金属(例えば、ナトリウム)の残存量が、1.0×1015atoms/cm2未満、好ましくは6.2×1014atoms/cm2未満のレベルまで低減できる。加えて、条件を調整すれば、洗浄後のRu/Wのエッチング速度(除去速度)を十分に速くでき、金属残渣をさらに低減することも可能となる。このことから明らかな通り、本発明の処理液は、半導体ウェハの端面部や裏面部に付着したRu/Wを除去する工程を含む半導体素子の製造方法において好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0092】
(pH測定方法)
実施例および比較例で調製した処理液30mLを、卓上型pHメーター(LAQUA F―73、堀場製作所社製)を用いてpH測定した。pH測定は、処理液を調整後、25℃で安定した後に、実施した。
【0093】
(有効塩素濃度および次亜塩素酸イオン濃度の算出方法)
実施例および比較例の処理液を調整した後、100mL三角フラスコに処理液0.5mLとヨウ化カリウム(和光純薬工業社製、試薬特級)2g、10%酢酸8mL、超純水10mLを加え、固形物が溶解するまで撹拌し、褐色溶液を得る。調整した褐色溶液は0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液(和光純薬工業社製、容量分析用)を用いて溶液の色が褐色から極薄い黄色になるまで酸化還元滴定し、次いで、でんぷん溶液を加え薄紫色の溶液を得る。この溶液に更に0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液を続けて加え、無色透明になった点を終点として有効塩素濃度を算出した。また得られた有効塩素濃度から次亜塩素酸イオン濃度を算出した。例えば有効塩素濃度1%であれば次亜塩素酸イオン濃度は0.73%となる。
【0094】
(ナトリウムイオン濃度の算出方法)
実施例および比較例の処理液を調整した後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(iCAP6500DuO、Thermo SCIENTIFIC社製)を用いてNa濃度を分析した。
【0095】
(アルキルアンモニウムイオン濃度の算出方法)
実施例および比較例の処理液中のアルキルアンモニウムイオン濃度はpH、次亜塩素酸イオン濃度、ナトリウムイオン濃度から計算によって求めた。
【0096】
(Ru/Wのエッチング速度の算出方法)
シリコンウェハ上にバッチ式熱酸化炉を用いて酸化膜を形成し、その上にスパッタ法を用いてルテニウムまたはタングステンを120nm(±10%)成膜した。四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)によりシート抵抗を測定して膜厚に換算した。
【0097】
実施例および比較例の組成に調整した処理液30mlを蓋付きフッ素樹脂製容器(AsOne製、PFA容器94.0mL)に準備し、処理液中に10×20mmとした各サンプル片を、23℃で1分間浸漬し、処理前後の膜厚変化量を浸漬した時間で除した値を23℃でのエッチング速度として算出した。また、同様に処理液30mLを準備した蓋付きフッ素樹脂製容器を65℃に加温したウォーターバス(ThermoFisher Scientific製、Isotemp汎用フード付きウォーターバス)に1時間浸漬した後、処理液中に10×20mmとした各サンプル片を、65℃で1分間浸漬し、処理前後の膜厚変化量を浸漬した時間で除した値をエッチング速度として算出し、本発明におけるエッチング速度として評価した。
【0098】
また、ルテニウム膜を完全にエッチングした後に、シリコンウェハ表面を20000倍の顕微鏡にて観察した。この際に何らかの異物が観察された場合を不良(B)、何ら異物が確認されなかった場合を優(A)とした。この異物の由来、組成は必ずしも明らかではないが、処理液中に溶出した何らかの成分が、ウェハ表面に再付着したものと考えられる。なお、Ruエッチング速度が極めて遅い場合には、Ru膜の除去に時間がかかるため、異物の評価を行わない。
【0099】
(ウェハの洗浄面に残存したナトリウム濃度の評価方法)
実施例および比較例の処理液30mL中に10×20mmに切断した各サンプル片を、1分間浸漬させる。その後、予め超純水30mLをフッ素樹脂製容器に入れたリンス液を4つ用意し、処理液浸漬後の各サンプル片を揺動しながら1分間浸漬して洗浄する操作を合計4回行った後、4回目のリンス液中に含まれるNa濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(iCAP6500DuO、Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて分析した。残留Na濃度が1.0×1015atoms/cm2を上回ると半導体素子表面に残り、半導体デバイスの歩留まりを大幅に低下させてしまうことがある。本測定法の定量下限(検出限界値)は6.2×1014atoms/cm2未満であった。本測定による評価結果は、処理液を用いて半導体ウェハを洗浄した際に、処理液に含まれるナトリウムがウェハに残着する傾向を示す指標となる。なお、残留Na濃度が1.0×1015atoms/cm2を上回る場合であっても、繰り返し洗浄を行うことで、残留Na濃度を低減できる。
以下の基準で評価した。
A:6.2×1014atoms/cm2未満
B:6.2×1014atoms/cm2以上1.0×1015atoms/cm2未満C:1.0×1015atoms/cm2以上
【0100】
(保存安定性の評価方法)
実施例および比較例の処理液30mLをフッ素樹脂容器に収納し、20℃で15日間暗所にて保存した。15日間保存後、処理液の有効塩素濃度を測定し、次亜塩素酸イオン濃度に換算した。製造直後と15日保存後の次亜塩素酸イオン濃度を比較し、その比率(製造直後/15日後)が0.5以上1.0以下を優(A)、0.5未満を不可(B)とした。
【0101】
実施例1
(処理液の製造)
<イオン交換樹脂の前処理 水素型イオン交換樹脂>
内径約45mmのガラスカラム(AsOne社製、バイオカラムCF-50TK)に、強酸性イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIR-120BNa)を200mL投入した。その後、水素型に交換するため1規定の塩酸(和光純薬工業社製、容量分析用)を1L、イオン交換樹脂カラムに通液し、イオン交換樹脂を水洗するため、超純水1Lを通液した。
【0102】
<(a)工程>
さらに、水素型に交換された2meq/mL-Rのイオン交換樹脂209mLに、10%水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を1L通液し、イオン交換樹脂を水素型からテトラメチルアンモニウム(TMA)型にイオン交換した。イオン交換後、イオン交換樹脂を水洗するため、超純水1Lを通液した。
【0103】
<(b)工程>
次亜塩素酸ナトリウム五水和物(和光純薬工業社製、試薬特級)69gを2Lのフッ素樹脂容器に入れた後、超純水931gを添加して、3.11質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調整した。調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液1Lをテトラメチルアンモニウム型に交換したイオン交換樹脂に通液し、表2に記載にされた組成の処理液を得た。
【0104】
<評価>
得られた処理液のpH、有効塩素濃度、次亜塩素酸イオン濃度を評価し、アルキルアンモニウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、ルテニウムエッチング速度、タングステンエッチング速度、異物の残留、「ウェハの洗浄面に残存したナトリウム濃度」、および保存安定性を評価した。結果を表3に示す。
【0105】
実施例2
実施例1において、(a)工程のイオン交換樹脂量を282mLとし、(b)工程の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を4.20質量%とした以外は同様の操作を行い、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0106】
実施例3
実施例1において、(a)工程のイオン交換樹脂量を141mLとし、(b)工程の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を2.10質量%とした以外は同様の操作を行い、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0107】
実施例4
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、水素型に交換した2meq/mL-Rの陽イオン交換樹脂50mLを充填したガラスカラムに該処理液を通液することで表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0108】
実施例5
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、該処理液に、pHが11.5になるまで25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液を添加し、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0109】
実施例6
実施例1において、(a)工程のイオン交換樹脂量を31mLとし、(b)工程の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を0.46質量%とした以外は同様の操作を行い、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0110】
実施例7
実施例1において、(a)工程のイオン交換樹脂量を564mLとし、10%水酸化テトラメチルアンモニウム溶液の通液量を2Lとし、(b)工程の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を8.39質量%とした以外は同様の操作を行い、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0111】
実施例8
実施例1において、(a)工程のイオン交換樹脂量を705mLとし、10%水酸化テトラメチルアンモニウム溶液の通液量を2Lとし、(b)工程の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を10.49質量%とした以外は同様の操作を行い、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0112】
実施例9
次亜塩素酸イオンが2.15質量%となるように、次亜塩素酸ナトリウム五水和物(和光純薬工業社製、試薬特級)を水に溶解し、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0113】
比較例1
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、水素型に交換した2meq/mL-Rの陽イオン交換樹脂203mLを充填したガラスカラムに該処理液を通液することで表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0114】
比較例2
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、水素型に交換した2meq/mL-Rの陽イオン交換樹脂208mLを充填したガラスカラムに該処理液を通液することで表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0115】
比較例3
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、水素型に交換した2meq/mL-Rの陽イオン交換樹脂209mLを充填したガラスカラムに該処理液を通液することで表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0116】
比較例4
実施例1と同様の操作を行い、処理液を得た後、さらにpH調整工程(c)として、該処理液に、pHが13.0になるまで25%水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を添加し、表2に記載にされた組成の処理液を得た。評価結果を表3に示す。
【0117】
表1に上記実施例および比較例の製造工程における主な条件を示し、表2に各処理液の組成、表3に評価結果を示す。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
表3に示したように、本実施形態の処理液は、ルテニウムおよびタングステンのエッチング速度が速く、これらの金属の除去に有効であり、異物の残留も無いことが確認できた。実施例5、6の処理液は、23℃でのエッチング速度は低いが、エッチング温度を上げることで、エッチング速度が向上し、実用上、問題無く使用出来ることが確認できた。実施例9の処理液はNaイオンが多いため、洗浄後のNa残留量は多いが、かかる残存Naは繰り返し洗浄することで、十分に低減できる。また、本実施形態の処理液であれば、保存安定性にも優れる。さらに、本実施形態の処理液について、半導体ウェハの主材であるSiおよび回路形成時に生成するSi含有被膜(SiO2、Si3N4)に対するエッチング性を評価したところ、いずれも0.1nm/分以下であり、除去対象であるルテニウムおよびタングステンを効率的にエッチングできることが確認できた。
【0122】
比較例1、2、3の処理液は、pHが低く、エッチング速度が遅い。また、エッチング後には異物の残留が認められ、保存安定性も低い。
【0123】
比較例4では、pHが12よりも高いため、23℃および65℃で処理したとしても半導体ウェハの端面部や裏面部に付着したルテニウムをエッチングするには十分な速度ではないことが分かる。
【0124】
実施例10
実施例2において得られた処理液に、アセトニトリルを添加し、表4に記載された組成の処理液を得た。本処理液のpHおよびRu被膜に対する23℃でのエッチング速度を評価した。結果を表4に示す。
【0125】
実施例11
実施例2において得られた処理液に、スルホランを添加し、表4に記載された組成の処理液を得た。本処理液のpHおよびRu被膜に対する23℃でのエッチング速度を評価した。結果を表4に示す。
【0126】
【0127】
実施例10および11の処理液は、溶媒として水と有機溶媒を併用した他は、実施例2と同様の組成を有する。有機溶媒の種類によりRuエッチング速度が変化した。アセトニトリル、スルホランともに、Ruエッチング速度が低下することがわかった。
【0128】
実施例12
(処理液の製造)
<イオン交換樹脂の前処理 水素型イオン交換樹脂>
弱酸性イオン交換樹脂として、アクリル系ダイヤイオン(三菱化学株式会社製、WK40L)をカラムに封入し、所定の次亜塩素酸イオン濃度になるように調製した次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカラムに通液することで表5に示す処理液を得た。具体的には、実施例12に示した処理液の場合、1.3mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入し、3%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカラムに通液することで得た。
【0129】
また、通液後の処理液のpHを確認することで、イオン交換が十分に進行したかを確認することができ、不十分な場合は、所定のpHになるまでカラムへの通液を繰り返すことで所望のNaを低減した処理液を得た。低減するナトリウムの濃度に応じて、イオン交換樹脂と次亜塩素酸ナトリウム水溶液を接触させる面積を調整し、表5に示す処理液を得た。
【0130】
<評価>
得られた処理液のpH、次亜塩素酸イオン濃度、ナトリウムイオン濃度、23℃でのルテニウムエッチング速度、異物の残留、「ウェハの洗浄面に残存したナトリウム濃度」および保存安定性を評価した。結果を表5に示す。なお、ルテニウムのエッチング速度は10nm/分以上を優(A)とし、5nm/分以上10nm/分未満を良(B)とした。
【0131】
実施例13
実施例12において、1.2mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0132】
実施例14
実施例12において、6.5mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入し、2%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカラムに通液した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0133】
実施例15
実施例12において、1.6mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入し、4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカラムに通液した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0134】
比較例5
実施例12において、290mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0135】
比較例6
実施例12において、287mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0136】
比較例7
処理液に含まれているナトリウムイオン濃度が10ppb以下となるまで、イオン交換樹脂と接触させた以外は、実施例12と同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0137】
実施例16
実施例12において、3.4mmol/LのNaイオンと当量のイオン交換容量を有するイオン交換樹脂をカラムに封入し、8%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカラムに通液した以外は同様の操作を行い、表5に記載にされた組成の処理液を得た。結果を表5に示す。
【0138】
【0139】
表5に示したように、実施例12~15の処理液は、ルテニウムのエッチング速度が速く、洗浄後のナトリウム残存が少ない処理をすることが可能であり、保存安定性にも優れる。
【0140】
比較例5、6の処理液では、異物の残留が確認された。また、比較例7ではpHが3.0と低くかつ次亜塩素酸イオンの対イオンが少ないため、保存安定性が低下した。
【0141】
実施例16は、ルテニウムのエッチング速度が良好であり、実用上、問題無く使用出来ることが確認できた。実施例16の処理液はNaイオンが多いため、洗浄後のNa残留量は多いが、かかる残存Naは繰り返し洗浄することで、十分に低減できる。
【符号の説明】
【0142】
1 半導体ウェハ
2 ルテニウムおよび/またはタングステン
3 端面部
4 裏面部