(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】石英基板に形成された表面弾性波センサデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 29/02 20060101AFI20241119BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N29/02 501
H03H9/25 C
H03H9/25 Z
(21)【出願番号】P 2023512318
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 IB2021000128
(87)【国際公開番号】W WO2022049418
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/074865
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】バランドラス, シルヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】ラロシュ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クルジョン, エミリエ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール, フローラン
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-151352(JP,A)
【文献】特開2020-077927(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02871474(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0049714(US,A1)
【文献】特開2019-161634(JP,A)
【文献】特開2008-224582(JP,A)
【文献】特開2016-038241(JP,A)
【文献】特表平01-500052(JP,A)
【文献】特表2018-532117(JP,A)
【文献】特開2004-029022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siバルク基板又はサファイアバルク基板と、
平面状表面を備える石英材料層であって、前記Siバルク基板又は前記サファイアバルク基板に形成された石英材料層と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成されたすだれ状トランスデューサと、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第1の反射構造体と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第2の反射構造体と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第1の反射構造体との間に形成された第1の共振空洞と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第2の反射構造体との間に形成された第2の共振空洞と
を備え
る音波センサデバイスであって、
前記石英材料層の前記平面状表面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψを有する前記石英材料層の石英材料の結晶カットにより画定されており、
前記角度φ、前記角度θ、及び前記角度ψは、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定さ
れ、
前記すだれ状トランスデューサにより生成される音波の前記第2の共振空洞における伝搬特性が、前記すだれ状トランスデューサにより生成される音波の前記第1の共振空洞における伝搬特性と異なるように、前記第2の共振空洞の上面が、物理的及び/又は化学的に改質されている、音波センサデバイス。
【請求項2】
前記第1の反射構造体及び前記第2の反射構造体のうちの少なくとも一方が、ブラッグミラーを備える又はブラッグミラーから成る、請求項1に記載の音波センサデバイス。
【請求項3】
前記第1の反射構造体及び前記第2の反射構造体のうちの少なくとも一方が、溝、又は端面反射構造体、又は3つ以下の電極を備える短い反射器を備える、請求項1又は2に記載の音波センサデバイス。
【請求項4】
前記物理的及び/又は化学的改質が、前記第2の共振空洞の前記上面に形成されたメタライゼーション層又はパッシベーション層から成る、請求項
1に記載の音波センサデバイス。
【請求項5】
前記第1の共振空洞及び前記第2の共振空洞の延在長さが互いに異なる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の音波センサデバイス。
【請求項6】
前記すだれ状トランスデューサが2つの部分に分割され、前記すだれ状トランスデューサの前記2つの部分の間に配置された第3の反射構造体をさらに備える、請求項1~
5のいずれか一項に記載の音波センサデバイス。
【請求項7】
前記第3の反射構造体がブラッグミラーである、請求項
6に記載の音波センサデバイス。
【請求項8】
前記すだれ状トランスデューサの前記2つの部分の一方の長さが、前記2つの部分の他方の長さと異なり、及び/又は、前記すだれ状トランスデューサの前記2つの部分の一方の音響開口が、前記すだれ状トランスデューサの前記2つの部分の他方の音響開口と異なる、請求項
6又は
7に記載の音波センサデバイス。
【請求項9】
前記第1の共振空洞が、前記第1の反射構造体の第1の反射サブ構造体により互いに離隔された第1の共振サブ空洞を備え、前記第2の共振空洞が、前記第2の反射構造体の第2の反射サブ構造体により互いに離隔された第2の共振サブ空洞を備える、請求項1~
8のいずれか一項に記載の音波センサデバイス。
【請求項10】
前記音波センサデバイスが、温度、化学種、歪み、圧力、又は回転軸のトルクのうちの1つから選択される環境パラメータを検知するように構成された受動型表面弾性波センサデバイスである、請求項1~
9のいずれか一項に記載の音波センサデバイス。
【請求項11】
Siバルク基板又はサファイアバルク基板と、
平面状表面を備える石英材料層であって、前記Siバルク基板又は前記サファイアバルク基板に形成された石英材料層と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成されたすだれ状トランスデューサと、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第1の反射構造体と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第2の反射構造体と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第1の反射構造体との間に形成された第1の共振空洞と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第2の反射構造体との間に形成された第2の共振空洞と
を備える音波センサデバイスであって、
前記石英材料層の前記平面状表面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψを有する前記石英材料層の石英材料の結晶カットにより画定されており、
前記角度φ、前記角度θ、及び前記角度ψは、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定され、
前記すだれ状トランスデューサが2つの部分に分割され、前記すだれ状トランスデューサの前記2つの部分の間に配置された第3の反射構造体をさらに備える、音波センサデバイス。
【請求項12】
Siバルク基板又はサファイアバルク基板と、
平面状表面を備える石英材料層であって、前記Siバルク基板又は前記サファイアバルク基板に形成された石英材料層と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成されたすだれ状トランスデューサと、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第1の反射構造体と、
前記石英材料層の前記平面状表面に形成された第2の反射構造体と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第1の反射構造体との間に形成された第1の共振空洞と、
前記すだれ状トランスデューサと前記第2の反射構造体との間に形成された第2の共振空洞と
を備える音波センサデバイスであって、
前記石英材料層の前記平面状表面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψを有する前記石英材料層の石英材料の結晶カットにより画定されており、
前記角度φ、前記角度θ、及び前記角度ψは、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定され、
前記第1の共振空洞が、前記第1の反射構造体の第1の反射サブ構造体により互いに離隔された第1の共振サブ空洞を備え、前記第2の共振空洞が、前記第2の反射構造体の第2の反射サブ構造体により互いに離隔された第2の共振サブ空洞を備える、音波センサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波タイプのセンサに関し、特に、石英基板に形成されたトランスデューサ及び反射構造体を備える表面弾性波センサデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
センサは、重要性を増しており、日常生活においてますます普及している。微小電気機械システム(MEMS)は、センサの性能の向上並びにサイズ及びコストの低減の必要性に応える魅力的な選択肢である。表面弾性波(SAW)センサ、及び、程度はより小さいがバルク弾性波(BAW)センサ又はLamb波若しくはLove波音響センサは、例えば温度、圧力、歪み及びトルクを含む多様な環境パラメータを測定可能であるため、特に有利な選択肢を提供する。
【0003】
音波センサは、圧電効果を利用して、電気信号を機械波/音波に変換する。SAWベースのセンサは、特にシリコンに堆積された、石英(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ランガサイト(LGS)のような単結晶圧電材料、又は窒化アルミニウム(AlN)若しくは酸化亜鉛(ZnO)のような多結晶圧電材料に、或いはさらに、必要に応じて例えばシリコン酸化物層のような接合層を介して例えばシリコンのような支持基板に接合された、例えばタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムなどの圧電材料、特に単結晶材料の層を備えるピエゾ-オン-インシュレータ(Piezo-On-Insulator)(POI)複合材料に構築される(一般に、単結晶圧電材料と非圧電性基板との任意の組み合わせが、熱弾性特性又は音響品質のような特定の特性を考慮して用いられ得る)。
【0004】
表面弾性波センサの場合、すだれ状トランスデューサ(IDT)が、電気信号の電気エネルギーを音波エネルギーに変換する。音波は、デバイス基板の表面(又はバルク)にわたっていわゆる遅延線を経由し、検出可能な電気信号に音波を再び変換する別のトランスデューサ、特にIDTへと進行する。一部のデバイスにおいては、干渉パターンを防止し挿入損失を低減するために、機械的吸収材及び/又は反射器が設けられる。一部のデバイスにおいては、他方の(出力)IDTが、生成された音波を、センサデバイスの遠隔インテロゲーションのためにアンテナに結合され得る(入力)IDTに再び反射する反射器により置き換えられる。測定を完全に受動的に行うことができる、すなわちセンサを電源により駆動する必要がない点が有利である。
【0005】
特定の種類の音波センサは、周囲条件の変動に応じて変動する共振周波数を呈する共振子を備える。
図1は、共振音波センサの一例を示す。表面弾性波共振子は、ブラッグミラーMの間に配置されたすだれ状櫛形電極C及びC’を有する電気音響すだれ状トランスデューサIDTを備える。櫛形電極は、それぞれ反対の電位+V及び-Vに設定される。電極のジオメトリは、ピッチp、すなわち励振される表面弾性波の伝搬方向における交互配置された電極C及びC’の空間的な繰り返し周波数、励振される表面弾性波の伝搬方向に垂直な方向における電極C及びC’の間の間隙の長さ、間隙の間における電極C及びC’の長さにより与えられる音響開口領域の長さ、及び、いわゆるメタライゼーション比a/pを決定する電極C及びC’の幅aにより画定される。IDTは、例えば励振される表面弾性波の波長λがピッチpの2倍に等しいブラッグ条件において動作可能である。
【0006】
共振周波数において、反射器間の同期の条件が満たされることにより、反射器の下方で生じる異なる反射のコヒーレントな足し合わせが可能となる。音響エネルギーの最大値が共振空洞内で観測され、電気的な観点では、トランスデューサにより流される電流の振幅の最大値が観測される。原則として、示差式音波センサは、異なる共振周波数を呈する2つ以上の共振子又はマルチモード(複数の共振周波数)で動作する共振子を備える場合があり、測定された周波数の差が、例えば温度、圧力又は歪みのような測定対象の環境パラメータ(測定変量)の変動を反映する。
【0007】
しかしながら、近年の工学的発展にもかかわらず、インテロゲータが適切な無線周波数(RF)信号を送信し、この信号が受信アンテナを介して音波センサにより受信され、トランスデューサにより表面弾性波(又は、バルク音波センサタイプのデバイスの場合にはバルク波)に変換され、この波がRF信号に変換され、このRF信号が送出アンテナを介して再送信され、インテロゲータにより受信及び解析されるという全体的なインテロゲーションプロセスは、依然として要求の厳しい技術的課題をもたらしている。
【0008】
高信頼な測定結果を得るために、測定変量に対して用いられる(1つ又は複数の)共振子の適切な示差感度に基づく真の示差測定は、正確に観測される必要がある。これは、生産プロセスの公差及びウエハごとの物理的特性の再現性に関して厳しい要求をもたらす。加えて、誘導、容量又は放射の方式でセンサデバイス及びインテロゲータにより形成されるRFリンクに起因して、センサデバイスとインテロゲータとの間の何らかの相対運動が測定結果に大きな影響を及ぼす場合がある。測定環境における他の環境的影響、例えば温度変化もまた、測定結果の信頼性に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は、従来技術の音波センサデバイスと比較して、向上した信号対雑音比及びより高信頼な測定結果を可能とする音波センサを提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、
平面状(上部)表面を備える(石英材料から成る又は石英材料を備える)石英材料層と、
石英材料層の平面状表面に(over)(又は平面状表面に(on))形成された(櫛形電極を備える)第1のすだれ状トランスデューサと、
石英材料層の平面状表面に(over)(又は平面状表面に(on))形成された第1の反射構造体と、
石英材料層の平面状表面に(over)(又は平面状表面に(on))形成された第2の反射構造体と、
第1のすだれ状トランスデューサと第1の反射構造体との間に形成された(石英材料層の一部を備える)第1の共振空洞と、
第1のすだれ状トランスデューサと第2の反射構造体との間に形成された(石英材料層の一部を備える)第2の共振空洞と
を備え、
石英材料層の平面状表面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψ、特に-17°~-22°の範囲の角度φ、-30°~-40°の範囲の角度θ、及び+10°~+25°の範囲の角度ψ、より詳細には-19°~-21°の範囲の角度φ、-33°~-39°の範囲の角度θ、及び+15°~+25°の範囲の角度ψを有する石英材料層の石英材料の結晶カットにより画定されている、
音波センサデバイスを備える音波センサデバイス、例えば表面弾性波センサデバイスを提供することにより、上記の目的に対処する。特に、結晶カットの角度は、φ=-20°、θ=-36°、ψ=15°~25°、特に17°であってもよい。
【0011】
上記の規定は、Z軸周りに回転させた結晶カット(すなわち、所与の結晶カットについてφ及びψの角度が非ゼロ)の対称条件に従って、+14°~+24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び-8°~-28°の範囲の角度ψと等価であることに留意されたい。より明示的には、対称性規則に従って、(YXwlt)/+φ/+θ/+ψのカットは、(YXwlt)/-φ/+θ/-ψのカットと等価であると言える。
【0012】
結晶カットを画定し、よって平面状表面を画定する角度は、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定される(以下の詳細な説明も参照)。石英結晶は、切断平面(X,Z)に対して基準系(X”,Y”,Z”)において規定される切断平面(X”,Z”)を有してもよく、ここで、X、Y、Zは石英の結晶軸であり、波の伝搬方向が軸X’’’に沿って規定され、第1の切断平面(X’,Y’)が、軸Zと同じである軸Z’を有する第1の基準系(X’,Y’,Z’)を規定するように平面(X,Z)の軸Z周りの角度φによる回転により規定され、第2の切断平面(X”,Z”)が、軸X’と同じである軸X”を有する第2の基準系(X”,Y”,Z”)を規定するように平面(X’,Z’)の軸X’周りの角度θによる回転により規定され、軸X’’’に沿った伝搬方向は、軸Y”周りの平面(X”,Z”)における軸X”の角度ψによる回転により規定され、本開示によれば、φは-14°~-24°の範囲であり、θは-25°~-45°の範囲であり、ψは+8°~+28°の範囲である。
【0013】
そのような種類の結晶カットにより得られる音波センサデバイス用の石英材料層は、機械的応力に対する低い感度及び環境的影響に対する測定の堅牢性を提供できることが、実験により示されている。示差周波数感度の線形感度(温度-周波数依存性の線形性)を実現することができる。実際、得られる共振周波数感度は、提供される音波センサデバイスを用いた温度測定に関して、1ppm毎ケルビンよりも大きい測定感度を可能とする。2又はさらに1ppb K-2の示差周波数の2次温度係数の変動を実現することができる。
【0014】
他方、従来技術の音波センサデバイスに用いられる圧電材料と比較して、測定変量に関連しない他のパラメータに対する感度、すなわち残留応力感度を低減することができる。特に、用いられる結晶カットは、石英の比較的高い反射係数及び電気機械的結合、並びに最小で5°及びさらには10°の伝搬方向範囲にわたる表面弾性波の一定の波速を提供する。
【0015】
石英材料層は、石英バルク基板、又は非圧電性バルク基板に形成された石英層であってもよい。後者の場合、非圧電性バルク基板は、シリコン基板であってもよく、任意選択で(例えば多結晶シリコンの層により提供される)いわゆるトラップリッチ層を表面に備えてもよい。トラップリッチ層は、シリコン基板との界面に誘起される電荷トラップにより、挿入損失の低減及びRF損失の低減を可能とする。非圧電性バルク基板はまた、基板における上記粘弾性損失を最小化することにより共振の品質因子を最大化するのに非常に有用であるサファイア基板であってもよい。サファイアは、(イットリウム系ガーネット、より詳細にはイットリウムアルミニウムガーネットYAGとともに)その側面に関して最も有利な材料の1つとして知られている。
【0016】
一実施形態によれば、第1の反射構造体及び第2の反射構造体のうちの少なくとも一方が、(互いに平行に配置された細長電極を備える)ブラッグミラーを備える又はブラッグミラーから成る。代替的に、第1の反射構造体及び第2の反射構造体のうちの少なくとも一方が、溝、又は端面反射構造体、又は3つ以下の電極を備える短い反射器を備えてもよい。そのような反射構造体は、容易に形成でき、高い反射率を提供することができる。例えば所与の結晶配向、偏波及び電極特性について実現可能である20%を超える反射係数を提供するためにブラッグミラーの電極の溝の深さ又は厚さを調整する方法は、当業者には既知であろう。
【0017】
別の実施形態によれば、第2の共振空洞の(石英材料層の平面状表面の一部を備える)上面は、第1の共振空洞の(石英材料層の平面状表面の一部を備える)上面と比較して、物理的及び/又は化学的改質を備える。例えば、物理的及び/又は化学的改質は、第2の共振空洞の上面に形成されたメタライゼーション層又はパッシベーション層から成る。
【0018】
メタライゼーション層は、AlCu及びTiのうちの少なくとも1つを備える又はそれから成るものであってもよく、パッシベーション層は、限定されるものではないがSi3N4、Al2O3、AlN、Ta2O5及びSiO2のうちの少なくとも1つを備える又はそれから成るものであってもよい。メタライゼーション層は、第1のトランスデューサの電極と同じ材料から作製されてもよい(よって、電極の形成に用いられるものと同じ処理ステップで形成されてもよい)。反射構造体としてブラッグミラーが用いられる場合、ブラッグミラーは、メタライゼーション層及び/又は第1のトランスデューサの電極の形成に用いられるものと同じ金属材料から作製されてもよい。
【0019】
第2の共振空洞の上面を物理的に改質する別の選択肢は、第1の共振空洞の上面に対して第2の共振空洞の表面を陥凹させることを含む。
【0020】
第1の共振空洞の上面にも、上述のような物理的及び/又は処理が、しかし第2の共振空洞の表面と比較して異なる方法で施されてもよい。
【0021】
メタライゼーション層又はパッシベーション層による共振空洞の第1及び第2の上面の一方の改質の結果として、すだれ状トランスデューサにより生成される音波の伝搬特性が、第2の共振空洞においては第1の共振空洞におけるものと異なる場合がある。以て、非常に高信頼かつ高感度な示差式センサデバイスを提供することができる。改質なしの場合、第1及び第2の上面は、自由(露出)表面、特に石英材料層圧電層の自由表面である。
【0022】
上述の例の全てにおいて、第1の共振空洞及び第2の共振空洞の共振のスペクトル応答を互いにより明確に分離するために、第1の共振空洞及び第2の共振空洞の延在長さは、互いに異なっていてもよい。
【0023】
特定の実施形態によれば、上述の例の全てにおいて、すだれ状トランスデューサは、2つの部分に分割されてもよく、デバイスは、トランスデューサの2つの部分の間に配置された第3の反射構造体(例えばブラッグミラー)をさらに備えてもよい。そのような構成は、トランスデューサの反射係数が共振空洞の共振間の十分に明確な分離を可能とするのに十分高いものでない動作状況において、特に有利である。
【0024】
一実施形態によれば、すだれ状トランスデューサの第1の部分の開口は、すだれ状トランスデューサの第2の部分の開口と同じであり、及び/又はすだれ状トランスデューサの第2の部分の開口と同じであり、及び/又は、すだれ状トランスデューサの第1の部分のメタライゼーション比は、すだれ状トランスデューサの第2の部分のメタライゼーション比と同じであり、及び/又は、すだれ状トランスデューサの第1の部分の電極の数及び/又は電極の長さは、すだれ状トランスデューサの第2の部分の電極の数及び/又は電極の長さと同じである。トランスデューサの第1及び第2の部分の両方が、先細り状電極を備えてもよい。
【0025】
他の実施形態によれば、すだれ状トランスデューサの第1の部分は、第1の数の電極を備え、すだれ状トランスデューサの第2の部分は、第2の数の電極を備え、電極の第1の数は、第2の数とは異なっていてもよい。追加的に又は代替的に、第1の数の電極のうちの少なくとも一部の電極の長さは、第2の数の電極のうちの少なくとも一部の電極の長さとは異なっていてもよい(すなわち、表面弾性波の進行方向に垂直な方向における2つのトランスデューサの長さ)。さらに、トランスデューサの第1及び第2の部分の開口は、互いに異なっていてもよい。そのようなアプローチにより、拡散、波速変化、最適共振条件の変化等に起因してメタライゼーション又はパッシベーション層により生じる固有損失を補償するための微調整が可能となる。
【0026】
さらに、原則として、他の適用例においては、トランスデューサの第1及び第2の部分が、互いに並列に動作しない2つの個別のトランスデューサとして考えられてもよいことに留意されたい。
【0027】
また、共振の数を低減して一意の測定結果を得るために、上述の実施形態のうちの1つに係る音波センサデバイスにおいて、縦続接続された共振空洞が形成されてもよい。よって、上述の例のうちの1つに係る音波センサデバイスは、第1の共振空洞が、第1の反射構造体の第1の反射サブ構造体により互いに離隔された第1のサブ空洞を備え、第2の共振空洞が、第2の反射構造体の第2の反射サブ構造体により互いに離隔された第2の共振サブ空洞を備えるように構成されてもよい。反射サブ構造体の各々は、互いに平行に配置された細長電極から成るものであってもよい。
【0028】
一般に、上述の例のうちの1つに係る音波センサデバイスは、環境パラメータ、例えば温度、化学種、歪み、圧力、又は回転軸のトルクのうちの1つを検知するように構成される受動型表面弾性波センサデバイスであってもよい。
【0029】
さらに、インテロゲーションデバイス及び音波センサデバイス、並びに/又は、インテロゲーションデバイスに通信可能に結合された上述の実施形態のうちの1つに係る音波センサアセンブリを備える、環境パラメータ、例えば、温度、歪みレベル、圧力、又は回転軸のトルクレベル、化学種等を監視/測定するためのシステムが提供される。
【0030】
音波センサをインテロゲートするためのインテロゲーションデバイスは、音波センサデバイスにRFインテロゲーション信号を送信するように構成された送信アンテナと、同様に送信/受信アンテナを備え得る音波センサデバイスからRF応答信号を受信するように構成された受信アンテナと、検知対象の環境パラメータを決定するためにRF応答信号を処理/解析するための処理手段とを備えてもよい。
【0031】
本発明のさらなる特徴及び利点について、図面を参照して説明する。説明において、本発明の好適な実施形態を例示することを意図した添付の図面が参照される。そのような実施形態は、本発明の全範囲を表すものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】従来技術に係る表面弾性波センサデバイスの一例を表す。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、2つの部分に分割されるトランスデューサ及びトランスデューサの2つの部分の間に配置される中央のミラーを備える表面弾性波センサデバイスを示す原理概略図を表す。
【
図3】本発明に係る表面弾性波センサデバイスを示す原理概略図を表す。
【
図4】縦続接続された共振空洞を備える表面弾性波センサデバイスの一実施形態の図示を表す。
【
図5】トランスデューサがブラッグ条件において動作しない、音波センサデバイスの縦続接続された共振空洞構成の図示を表す。
【
図6】トランスデューサがブラッグ条件において動作しない、音波センサデバイスの別の縦続接続された共振空洞構成の図示を表す。
【
図7】本発明の一実施形態に係る、結合音波圧力及び温度センサデバイス(combined acoustic wave pressure and temperature sensor device)を示す原理概略図を表す。
【
図8】本発明の別の実施形態に係る、結合音波圧力及び温度センサデバイスを示す原理概略図を表す。
【
図9】圧電プレートの座標及び角度を示す概略図を表す。
【
図10】三重回転(triple-rotated)結晶カットの座標及び角度を示す概略図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、高い信号対雑音比、感度及び信頼性、特に、測定変量の変動により生じるものではない環境的影響及び残留応力に対する堅牢性、並びに示差測定の高い精度を特徴とする音波センサ、特に受動型SAWセンサを提供する。これらの利点は特に、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψで画定される結晶カットにより得られる平面表面により特徴付けられる共振空洞を提供する圧電石英材料層を用いることにより実現される。
【0034】
温度測定に関して、例えば、得られる共振周波数感度は、1ppm毎ケルビンよりも大きい示差測定感度を可能とする。音波センサは、インテロゲートされる音波センサからの応答スペクトルを決定するように構成される任意のインテロゲータによりインテロゲートすることができる。インテロゲートされる音波センサは、例えば共振器デバイス、例えば示差式SAWセンサであってもよい。言うまでもなく、本発明は、音波センサ又は誘電体共振器、RLC回路等を用いる任意のデバイスにおいて実施可能である。
【0035】
本発明の音波センサデバイスのうちの1つをインテロゲートするインテロゲーションデバイス(ユニットとも称される)は、センサデバイスにRFインテロゲーション信号を送信するための送信アンテナ、及びセンサデバイスから無線周波数応答信号を受信するための受信アンテナを備えてもよい。送信アンテナにより送信される無線周波数インテロゲーション信号は、無線周波数合成器又は制御発振器、及び、任意選択で、送信アンテナにより送信される信号の好適な周波数変換及び/又は増幅を提供する何らかの信号整形モジュールを備え得る信号発生器により生成されてもよい。信号発生器により生成される無線周波数インテロゲーション信号は、音波センサデバイスの共振周波数に従って選択される周波数を有するパルス信号又はバースト信号であってもよい。送出アンテナ及び受信アンテナは、同じアンテナであってもよいことに留意されたい。この場合、送出及び受信のプロセスは、例えば好適に制御されたスイッチを用いて、互いに同期されるべきである。
【0036】
さらに、インテロゲーションデバイスは、受信アンテナに接続された処理手段を備えてもよい。処理手段は、フィルタリング手段及び/又は増幅手段を備えてもよく、受信アンテナにより受信されたRF応答信号を解析するように構成されてもよい。例えば、センサデバイスは、434MHz又は866MHz又は915MHz又は2.45GHz(上記のISMバンド)の共振周波数において動作する。
【0037】
インテロゲーションデバイスは、長いRFパルスを送信してもよく、送信が止まった後、センサデバイスの共振空洞が、Qf/πFに等しい時定数τで共振固有周波数での発振を行う。ここで、Fは中央周波数であり、Qfは共振の品質因子であり、Qfは、共振中央周波数とインテロゲーションプロセスにおいて用いられるバンドパスの半値幅との間の比に相当する。例えば、共振子が上記共振において動作するように設計される場合、Qfは、共振子のアドミタンスの実部(当該コンダクタンス)に対して推定される共振品質因子に相当する。インテロゲーションデバイスの処理手段によって行われるスペクトル解析により、共振子の周波数/複数の周波数を算出することが可能となり、以て環境パラメータの検知が可能となる。受信されたRF応答信号を、従来技術において既知のいわゆるI-Qプロトコルに従って処理手段によりRFインテロゲーション信号と混合することで、実部及び虚部(信号振幅Y及び信号位相φとして同相成分I=Ycosφ及び直交成分Q=Ysinφ)を得ることができ、次いで実部及び虚部から係数及び位相を導出することができる。
【0038】
図2は、本発明の表面弾性波(SAW)センサデバイス20の例示的実施形態を示す。
図2に示すセンサデバイス20及び以下で説明するセンサデバイスは、圧電層として石英材料層Qを用いて形成される。石英材料層Qは、石英バルク基板であってもよい。代替的に、石英層Qは、何らかの非圧電性バルク基板、例えばSi基板に形成されてもよく、すなわち、石英材料層Qは、ピエゾ-エレクトリック-オン-インシュレータ(piezo-electric-on-insulator)(POI)基板の一部であってもよい。石英層は、例えばシリコン酸化物層のような(誘電性)接合層を介して非圧電性バルク基板に接合されてもよい。いわゆるトラップリッチ層(例えば多結晶シリコン)が、非圧電性バルク基板との界面に存在する場合がある。
【0039】
図2に示す実施形態及び以下で説明する他の実施形態において、石英材料層Qは、上部動作平面状表面を備え、石英材料層Qの平面状表面は、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψを有する石英材料層の石英材料の結晶カットにより画定される。これらの角度は、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定される。この特定のカット系が、上記で言及及び説明した利点を提供する。
【0040】
本発明の一実施形態に係るSAWセンサデバイス、例えば
図2に示すSAWセンサデバイス20は、トランスデューサを備える。
図2に示す実施形態において、トランスデューサは、第1の部分T1及び第2の部分T2(又は第1のトランスデューサT1及び第2のトランスデューサT2)に分割される。トランスデューサT1及びT2は、電磁波を受信し、電磁波を表面弾性波に変換するためのアンテナ(
図2では不図示)に接続されるすだれ状(櫛形)トランスデューサであってもよい。実際、トランスデューサの第1の部分T1及び第2の部分T2は、並列に動作し(以て単一のトランスデューサとして機能し)、電磁波E1を受信し、受信された電磁波E1を表面弾性波に変換し、この表面弾性波は、ミラーに反射された後にトランスデューサの2つの部分T1及びT2により再び検知され、RF信号S1に再変換される。再変換された音波はその後、RF応答信号としてアンテナ(又は別のアンテナ)により送信される。
【0041】
図示の例において、トランスデューサの第1の部分T1及びトランスデューサの第2の部分T2は、それらの間に配置された1つのブラッグミラー構造体M1を共有する。表面弾性波センサデバイス20は、長さg1の共振空洞によりトランスデューサの第1の部分T1から離隔された第2のブラッグミラー構造体M2を備える。さらに、表面弾性波センサデバイス20は、長さg2>g1の共振空洞によりトランスデューサの第2の部分T2から離隔された第3のブラッグミラー構造体M3を備える。原則として、2つの共振空洞は、同じ長さを有していてもよい、又はg1<g2が成り立っていてもよいことに留意されたい。一方の共振空洞の長さを変化させることは、生成される表面弾性波の波動伝搬条件を局所的に改変することになる。
【0042】
表面弾性波センサ20(及び他の図を参照して以下で説明するデバイス)は、励振される表面弾性波の波長が櫛形トランスデューサの櫛形電極のピッチの何らかの倍数となるブラッグ条件において動作してもよい。ブラッグ条件において動作が行われる場合、櫛形トランスデューサ自体が実質的にミラーとして機能する。しかしながら、トランスデューサの反射係数が個々の共振空洞間の十分に明確な分離を可能とするのに十分高いものではない動作状況においては、
図2に示すように、トランスデューサを2つの部分T1及びT2に分割し、それらの間にミラーM1を配置することが有利である。分割されたトランスデューサ及び追加のミラーを用いて空洞共振の分離を改善することは、レイリー波、又はより一般的には楕円偏波とともに動作するのに特に有用である。
【0043】
トランスデューサの第1及び第2の部分T1及びT2の電極は、Al又はAlCuから作製される又はそれを含むものであってもよいことに留意されたい。例えばモリブデン又は金又は白金又はタンタル又はタングステンのような比較的高い分子数を有する材料を用いることにより、より大きい反射係数を可能とすることができる。その場合、分割されたトランスデューサの間隙における追加のミラー、及びトランスデューサの分割自体の必要性は、もはや必要でない場合がある。
【0044】
電気的応答の最適化のために、トランスデューサの第1及び第2の部分T1及びT2は、異なる(表面波の進行方向に垂直な)長さ及び/又は開口を呈してもよい。これは、表面状態の異なる2つの共振空洞は異なる物理的特性を呈し、そのため、センサの電気的応答に対する対応するモードの寄与が不均衡になり得るためである。例えば、メタライゼーションが施された共振空洞は、自由表面を有する共振空洞よりも(金属特性自体又は例えば表面粗さの劣化に起因して)大きい損失を呈する場合がある。したがって、トランスデューサの2つの部分の一方の長さを大きくして、対応する空洞における損失の増大を補償することで、共振モードの均衡の取れた寄与を提供することが有用であり得る。しかしながら、このアプローチは、センサの電気的応答全体を実質的に改変するおそれもあり、実際、物理的及び/又は化学的改質により生じるさらなる漏洩を被っていないトランスデューサに、改質されたトランスデューサのいくらかの静電容量を与える。これに関して、改質されたトランスデューサの開口を低減することで、延長された長さを利用して、信号強度の向上、及びトランスデューサの狭帯域化をもたらし、トランスデューサの静電容量を制御して電気的センサ応答を維持することが考えられる。この状況において、センサデバイス20の両側における最適な音響的動作を保証するために、中央のミラーは実際に、2つのトランスデューサのうち大きい方の音響開口を呈してもよい。
【0045】
第2のブラッグミラー構造体M2及び第3のブラッグミラー構造体M3のミラー格子は、互いに異なっていてもよく、最適な共振条件をもたらすように好適に構成されてもよい。
【0046】
図2に示す実施形態によれば、長さg1の共振空洞の上面は、長さg2の共振空洞の上面と比較して、物理的及び/又は化学的改質を備える。代替的に、長さg2の共振空洞の上面が、長さg1の共振空洞の上面と比較して、物理的及び/又は化学的改質を備える場合もある。しかしながら、他の代替的実施形態においては、表面改質が存在しなくてもよい。
【0047】
示差パラメータ感度を呈する伝搬波動モードを実現するために、物理的及び/又は化学的改質を提供するための多様な手段が存在する。これらの手段は、例えば、メタライゼーション層及び/又はパッシベーション層の形成による物理的及び/又は化学的改質の実現を含む。例えば、厚さ約100nmのメタライゼーション層が長さg1の共振空洞の領域に形成されてもよく、長さg2の共振空洞にはメタライゼーション層が形成されなくてもよい。メタライゼーション層は、トランスデューサT及び/又はブラッグミラー構造体M1及び/又はブラッグミラー構造体M2の電極と同じ材料から形成されてもよい。
【0048】
メタライゼーション、並びに櫛形トランスデューサT及びブラッグミラー構造体M1及びM2の電極の形成に同じ材料が用いられる場合、これらの要素の全てを同じ堆積プロセスで堆積させることができる。他の実施形態においては、異なる材料がメタライゼーションに用いられる。例えば、1つの材料の1つのメタライゼーション層又はパッシベーション層が、長さg1の第1の共振空洞に形成され、別の材料の別のメタライゼーション層又はパッシベーション層が、長さg2の第2の共振空洞に形成される。別の例によれば、一方の共振空洞には正温度変化材料、例えばSiO2又はTa2O5が形成され、他方の共振空洞には、負温度変化材料、例えばSi3N4又はAlNが形成されるか、又は追加の材料が形成されない。
【0049】
パッシベーションは、Si3N4、Al2O3又はAlNから作製される又はそれを含むパッシベーション層を形成することにより実現されてもよい。他の実施形態によれば、両方の共振空洞に材料層が形成されてもよい。加えて、共振空洞のうちの1つ又は複数に形成された材料層は、音波の伝搬方向に沿って不均一な厚さを有していてもよい。さらに、共振空洞のうちの1つ又は複数に多層が形成されてもよい。これに関して、一般に、材料層を共振空洞に設けることにより、特にPt、Au又はWのような高原子数の材料の層が用いられる場合、質量負荷効果に起因して音波の位相速度の低減が生じる場合があることに留意されたい。この効果は、例えばAlN、Si3N4,Al2O3といった比較的高い音響速度を呈する層を、石英材料層に隣り合うように追加することにより補償することができる。共振空洞は、表面の異なる処理により生じる異なる共振特性が提供されることに起因して、測定変量に対する異なる感度を呈し、よって示差測定を可能とする。
【0050】
代替的に又は追加的に、物理的及び/又は化学的改質は、長さg2の共振空洞の表面に対する長さg1の共振空洞の表面の陥凹を含んでもよい。そのような種類の改質は、生成される音波の1波長よりも小さい厚さの圧電層を有するPOI基板の場合に特に有利であり得る。さらなる実施形態によれば、長さg1の共振空洞は、長さg2の共振空洞のものとは異なる別の物理的及び/又は化学的改質を備える。共振空洞の異なる共振特性を保証するために、空洞の表面の改質が互いに異なる限り、言及した改質のあらゆる組み合わせが想定される。よって、共振空洞の上述の表面改質は、本明細書に開示の実施形態のいずれにおいても提供され得ることを理解すべきである。
【0051】
さらに、
図2に示すセンサデバイス20の構成は、音波の横モードを抑制するために、(生成される音波の伝搬方向に垂直な)電極の横方向の広がりがトランスデューサの長さに沿って変動する先細り状トランスデューサを備えてもよいことに留意されたい。同じ目的で、何らかの質量負荷が電極の縁部に設けられてもよい。
【0052】
上述の実施形態においては、共振空洞を形成するために、ブラッグミラーが設けられる。しかしながら、代替的実施形態によれば、ブラッグミラーのうちの1つ又は複数が、
図2に示す構成及び以下で説明する実施形態の両方において、純粋せん断モード誘導のための側面/端面反射構造体により置き換えられてもよい。以て、いかなるエネルギー損失又はモード変換もなく、ブラッグ反射が平坦面反射により置き換えられるという点で、非常に小型な構成を実現することができる。純粋せん断モード誘導のための側面/端面反射構造体を有する構成は、液体中の環境パラメータを検知するのに特に有用である。せん断波は、液体中プロービングに非常に好適である。特に、高結合モード(>5%)と(例えば30よりも大きい誘電率kを有する)高k材料との組み合わせは、液体中アプリケーションにおいて魅力的である。他の実施形態によれば、1つ又は複数の反射構造体は、3つ以下の電極を備える短い反射器の形態で実現される。
【0053】
図3は、SAWセンサデバイス30の別の実施形態を示す。SAWセンサデバイス30は、電磁波E
1を受信し、電磁波E
1を表面弾性波に変換するためのアンテナ(
図3では不図示)に接続されるすだれ状トランスデューサTを備える。櫛形トランスデューサTは、すだれ状電極を備える。それぞれ広がり(間隙)g
1及びg
2を有する2つのSAW共振空洞R
1及びR
2が、櫛形トランスデューサTとそれぞれブラッグミラーM
1及びM
2との間に設けられる。よって、
図2に示す実施形態とは異なり、トランスデューサTは、2つの部分(
図2に示す部分T1及びT2)に分割されない。トランスデューサは、40λの音響開口を示してもよい。
図2に示す構成に関してなされる全ての他の特徴の説明が、
図3に示す構成についても当てはまる。
【0054】
ブラッグミラーを備える上述の実施形態においては、単純な共振空洞が用いられている。しかしながら、これらの実施形態は、代替的に、複数のミラー電極構造体を備える縦続接続された共振空洞を用いてもよい。2つの共振の間のスペクトル距離、及び共振の結合係数は、ミラー電極構造体及び共振サブ空洞の数により制御することができる。
【0055】
縦続接続された共振空洞を備える音波センサ40の例示的実施形態を、
図4に示す。この実施形態において、共振サブ空洞を生じさせる間隙g
1及びg
2により離隔された3つのミラー電極構造体が、IDTの各側に設けられる。空洞g
1及びg
2の異なる幅により、50Ωに整合された共振の数が2つのみに制限される場合がある。これは、前述の実施形態において生じる2つよりも多くの共振とは異なる。2つの共振の間の距離、及び共振の結合係数は、ミラー電極構造体及び共振サブ空洞の数により制御することができる。
【0056】
縦続接続された共振器空洞を用いる場合、ブラッグ条件において動作しないトランスデューサを用いることが可能である。例えば、トランスデューサは、1波長ごとに3つ又は4つのフィンガ、又はさらに2波長ごとに5つのフィンガ、及び、一般に、IDT電極における波の反射なしで所与の同期において波を励振することが可能なあらゆる好適な構造を呈してもよい。
【0057】
この点に関する可能な構成についての2つの例を、
図5及び
図6に示す。1つの構成(
図5参照)によれば、音波センサ50は、トランスデューサの近くに配置されたより小さいミラーを備え、より小さいミラーからそれぞれ距離g
1及びg
2により離隔されたより大きいミラーが、共振空洞における共振を保証するために追加的に設けられる。
図6は、左手側においてトランスデューサの動作についてブラッグ条件が満たされていない音波センサ60の構成を示す。共振空洞のうちの1つ又は複数が、上述のように物理的及び/又は化学的に改質されてもよい。
図5及び
図6に示す例において、IDT領域自体においていくつかの補足的な共振が確立され、すなわち、IDTが、場合により測定を完成させるために用いられ得る補足的な空洞として動作することは留意に値する。
【0058】
一般に、上述の例の各々に係る音波センサデバイスは、環境パラメータ、例えば温度、化学種、歪み、圧力、又は回転軸のトルクのうちの1つを検知するように構成される受動型表面弾性波センサデバイスであってもよい。
【0059】
上述の実施形態に係る単一の音波センサデバイスは、1つ又は複数の追加の音波センサデバイスにより補足されてもよい。例えば、
図7及び
図8に例示するように、以て結合音波圧力及び温度センサデバイスを実現することができる。
図7に示す結合音波圧力及び温度センサデバイス100は、第1のセンサデバイスの第1のトランスデューサT101及び第2のセンサデバイスの第2のトランスデューサT102を備える。原則として、第2のトランスデューサT102は、第1及び第2のセンサデバイスの両方の一部であってもよい。トランスデューサT101及びT102は、電磁波を受信し、電磁波を表面弾性波に変換するためのアンテナに接続されるすだれ状(櫛形)トランスデューサであってもよい。
【0060】
第2のトランスデューサT102を備える第2のセンサデバイスは、周囲温度を検知するように構成される。第1のトランスデューサT101を備える第1のセンサデバイスは、上述の実施形態に従って圧力を検知するように構成される。追加的に、第1のセンサデバイスはまた、周囲温度を検知するように構成されてもよい。この場合、周囲温度の検知に関して、第1及び第2のセンサデバイスは、示差式音波温度センサデバイスを構成する。
【0061】
第1のセンサデバイスは、長さg1の第1の共振空洞により第1のトランスデューサT101から離隔された第1のブラッグミラー構造体M101を備える。さらに、第1のセンサデバイスは、長さg2の第2の共振空洞により第1のトランスデューサT101から離隔された第2のブラッグミラー構造体M102を備える。第1のセンサデバイスは、単一のトランスデューサを備えてもよい。代替的に、第1のセンサデバイスは、
図2に関して説明したように、2つのトランスデューサと、2つのトランスデューサの間に配置される中央の追加のブラッグミラーとを有する構成を備えてもよい。第2のセンサデバイスは、それぞれ第1及び第2の空洞の長さg1及び/又はg2と異なっていてもよい、又は異なっていなくてもよい長さg3の第3の共振空洞により第2のトランスデューサT102から離隔された第3のブラッグミラー構造体M103を備える。これらの構造体の全ては、上述の結晶カットにより得られる石英材料基板111に形成されてもよい。
【0062】
長さg4の別の空洞が、第2のブラッグミラー構造体M102と第2のトランスデューサT102との間に形成される。長さg4の空洞、及び第2のセンサデバイスの第3のブラッグミラー構造体M103は、いくらかの外部圧力が印加された場合に上述の屈曲を受ける上述の石英材料層又は石英材料基板111に形成されない。
【0063】
特に、長さg1の第1の共振空洞の上面及び/又は長さg2の共振空洞の上面は、上述したように、何らかの表面改質を備えてもよい、又は備えなくてもよい。
【0064】
改質なしの場合、第1及び第2の上面は、自由(露出)表面、特に結合音波圧力及び温度センサデバイスの圧電層の自由表面である。
【0065】
図8は、
図7に示すものに対する代替的構成を示す。
図7に示す構成と比較して、
図8に示す実施形態によれば、結合音波圧力及び温度センサデバイス200は、4つではなく3つのみの空洞を備える。
【0066】
図8に示す結合センサデバイス200は、第1のセンサデバイスの第1のトランスデューサT201及び第2のセンサデバイスの第2のトランスデューサT202を備える。第2のトランスデューサT202を備える第2のセンサデバイスは、周囲温度を検知するように構成される。トランスデューサT201及びT202は、電磁波を受信し、電磁波を表面弾性波に変換するためのアンテナに接続されるすだれ状(櫛形)トランスデューサであってもよい。第1のトランスデューサT201を備える第1のセンサデバイスは、上述の実施形態に従って圧力を検知するように構成される。追加的に、第1のセンサデバイスはまた、周囲温度を検知するように構成されてもよい。この場合、周囲温度の検知に関して、第1及び第2のセンサデバイスは、示差式音波温度センサデバイスを構成する。
【0067】
第1のセンサデバイスは、長さg1の第1の共振空洞により第1のトランスデューサT201から離隔された第1のブラッグミラー構造体M201を備える。さらに、第1のセンサデバイスは、長さg2の第2の共振空洞により第1のトランスデューサT201から離隔された第2のブラッグミラー構造体M202を備える。結合音波圧力及び温度センサデバイス200の第1のセンサデバイスは、単一のトランスデューサを備えてもよい。代替的に、第1のセンサデバイスは、
図2に関して説明したように、2つのトランスデューサと、2つのトランスデューサの間に配置される中央の追加のブラッグミラーとを有する構成を備えてもよい。第2のセンサデバイスは、それぞれ第1及び第2の空洞の長さg1及び/又はg2と異なっていてもよい、又は異なっていなくてもよい長さg3の第3の共振空洞により第2のトランスデューサT202から離隔された第3のブラッグミラー構造体M203を備える。
図8に示す実施形態によれば、結合センサデバイス200は、第2のブラッグミラー構造体M202と第2のトランスデューサT202との間に共振空洞を備えない。
【0068】
長さg3の空洞、及び第2のセンサデバイスの第3のブラッグミラー構造体M203は、上述の屈曲を受ける上述の石英材料層に形成されない。
図8に示すセンサデバイス200は、従来技術において既知のように、支持基板、蓋及び/又はシールをさらに備えてもよい。
【0069】
ここでもまた、長さg1の第1の共振空洞の上面及び/又は長さg2の共振空洞の上面は、上述したように、何らかの表面改質を備えてもよい、又は備えなくてもよい。
【0070】
全ての前述の実施形態は、限定として意図されたものではなく、本発明の特徴及び利点を示す例として働く。上述の特徴の一部又は全ては、異なる方法で組み合わせることもできることを理解されたい。
【0071】
本開示において、結晶カットは、1949年12月12日のIEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949に従って規定される。この規格では、SAWアプリケーション用の結晶カットが、3つの角度、すなわち、結晶の、当該結晶の基準構成に適合する回転を規定するφ及びθ、並びに、波が伝搬する方向を示し、したがって当該波を出射可能なトランスデューサの位置を示す平面(φ,θ)内において規定される伝搬方向を規定するψにより、一意に規定される。Y及びXは、結晶プレートの初期状態の規定のための基準として考えられる結晶軸を表す。第1のものは当該プレートに垂直な軸であり、第2の軸は当該プレートの長さに沿って延びる。プレートは、矩形と仮定され、長さl、幅w及び厚さtにより特徴付けられる(
図9参照)。所与の(YX)軸系を考えると、長さlは結晶軸Xに沿って延び、幅wはZ軸に沿って延び、厚さtはY軸に沿って延びる。(YXwlt)/0°/0°/0°の場合は、実際に、
図9に示す構成に一致することに留意されたい。
【0072】
ここで、これらの角度のいずれもゼロでないと仮定し、三重回転又は三重回転カットの一般的な場合を考える。この状況において、
図10に示すように、石英結晶は、切断平面(X,Z)に対して、また基準系(X”,Y”,Z”)において、規定される切断平面(X”,Z”)を有し、ここで、X、Y、Zは石英の結晶軸であり、波の伝搬方向が軸X’’’に沿って規定され、第1の切断平面(X’,Y’)が、軸Zと同じである軸Z’を有する第1の基準系(X’,Y’,Z’)を規定するように平面(X,Z)の軸Z周りの角度φによる回転により規定され、第2の切断平面(X”,Z”)が、軸X’と同じである軸X”を有する第2の基準系(X”,Y”,Z”)を規定するように平面(X’,Z’)の軸X’周りの角度θによる回転により規定され、軸X’’’に沿った伝搬方向は、軸Y”周りの平面(X”,Z”)における軸X”の角度ψによる回転により規定される。
【0073】
以下、石英に関して、いくつかの対称性規則が想起される。石英は、晶族32の三方晶系結晶である。したがって、石英は、3回対称軸(ternary axis)、すなわち、以下の関係を確立可能なZ軸により特徴付けられる。
(YXw)/φ=(YXw)/φ+120°
【0074】
2つの他の軸は2回対称(binary)であり、したがって、以下の対称性関係が成り立つ。
(YXl)/θ=(YXl)/θ+180°,(YXt)/ψ=(YXt)/ψ+180°
【0075】
単純な幾何学的理由から、以下の軸の組が等価であることを示すことは容易である。
(YXwlt)/+φ/+θ/+ψ=(YXwlt)/-φ/+θ/-ψ
【0076】
実際、上面(表面波が伝搬すると想定される面)がφについてプラス符号で識別されると仮定すると、符号をマイナスに変化させることにより、プレートの底面が得られる。対称操作によりψの符号が変化しないと考えると、底面におけるZ’’’の方向は不変であると仮定されるが、実際には180°回転している。したがって、頂面の状態に戻すためには、実際には符号変化と等価な180°の回転をψに適用することが必須である。Z周りの回転なし(φ=0°)の結晶カットについては、以下の対称性が成り立つことに留意されたい。(YXlt)/+θ/+ψ=(YXlt)/+θ/-ψ