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  • 特許-ポリマー電解質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ポリマー電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/06 20060101AFI20241119BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241119BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20241119BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M4/06 K
H01B1/06 A
H01M10/0565
C08G65/336
C08G81/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023539032
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2021087465
(87)【国際公開番号】W WO2022136630
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】20217308.4
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅敬
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-165349(JP,A)
【文献】特開2003-257239(JP,A)
【文献】特開平03-190960(JP,A)
【文献】特開2000-154254(JP,A)
【文献】特表2015-506388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G、H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、ポリマー電解質とを含むリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記ポリマー電解質
i.少なくとも1つのポリエーテルポリマー[以下、ポリマー(P)]であって、前記ポリマー(P)は:
a)少なくとも70.0モル%のオキシエチレン単位(EO)、
b)0.0~10.0モル%のオキシプロピレン単位(PO)、及び
c)1.00~4.0モル%の、一般式(I)又は一般式(II):
【化1】
又は
【化2】
(式中、
及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-6アルカンジイルであり、前記C1-6アルカンジイルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素及びC1-4アルキルの群から選択され、nは、整数0又は1又は2であり、
Xの各々は、ハライド、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、及びメタンスルホネートからなる群から選択される脱離基である)
の少なくとも1つのモノマー[以下、モノマー(M)]から誘導された繰り返し単位
を含む、ポリマー(P)と、
ii.式(III):
【化3】
(式中、
、R、R、R、及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルからなる群から選択され、前記C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素、C1-4アルキル、及びヒドロキシル保護基からなる群から選択され、
mは、少なくとも3の整数である)を有する少なくとも1つのポリシロキサン化合物と、の間の反応によって得られ、
式(III)を有する前記少なくとも1つのポリシロキサン化合物は、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも一部と、式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、前記少なくとも1つのポリマー(P)にグラフトされている、リチウムイオン二次電池用正極
【請求項2】
前記ポリマー(P)の前記繰り返し単位の80.0モル%~99.0モル%が、EO単位である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項3】
前記ポリマー(P)の前記繰り返し単位の0.5モル%~5.0モル%が、PO単位である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項4】
前記ポリマー(P)の前記繰り返し単位の1.2モル%~4.0モル%が、一般式(I)又は一般式(II)(式中、R、R、n、及びXは、請求項1で定義された通りである)の前記モノマー(M)から誘導された繰り返し単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項5】
前記モノマー(M)が、式(II)
【化4】
(式中、
及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-2アルカンジイルであり、nは、整数0又は1である)のものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項6】
前記ポリマー(P)が、少なくとも10000g/molかつ多くとも150000g/molのMn(数平均分子量)を有するランダムコポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項7】
、R、及びRの各々が、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-6アルキルであり、R及びRの各々が、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-4アルキル又はフェニルから選択され、前記C1-4アルキルが、ハライド、C1-4アルキル又はCFから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、mが、少なくとも5かつ多くとも1000の整数である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項8】
前記ポリマー(P)及び式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びシメンからなる群から選択される有機溶媒に少なくとも部分的に溶解されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項9】
式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物が、触媒の存在下で、前記ポリマー(P)にグラフトされている、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項10】
式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物が、カルシュテット触媒、ウィルキンソン触媒、シュパイアー触媒、又はこれらの混合物の中から選択されるヒドロシリル化触媒の存在下で、前記ポリマー(P)にグラフトされている、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【請求項11】
式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物が、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも10モル%かつ多くとも90モル%と、前記式(III)を有する前記ポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、ポリマー(P)にグラフトされている、請求項1~10のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池における使用に好適なポリマー電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー電解質は、電池における液体電解質の興味深い代替物である。これに関連して、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide、PEO)系電解質は、文献において広範に研究されている。
【0003】
例えば、J.Appl.Electrochem.35,163-168(2005)においてRuoyuan Taoらは、ポリ(エチレンオキシド)及びLiTFSIとも呼ばれるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(N(SOCF))を含む正極を開示している。PEO及びLiTFSIは、電解質溶液を調製するために、アセトニトリルに溶解された。この電解質溶液に正極活物質を添加した。
【0004】
米国特許第7,585,934(B2)号は、固体ポリマー電解質膜としてのEO/PO/AGE及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、Li(N(SOCF))の使用を開示している。この文献は、実施例において、EO、PO、及びAGEの共重合手順を開示している。特に、LiTFSIを、Li塩として、当該EO/PO/AGEコポリマーを含むポリエーテルポリマー組成物に、(電解質塩中のリチウム原子のモル数)/(ポリエーテルポリマー中の酸素原子のモル数)の比が0.05となるような量で添加した。
【0005】
この分野における最近の進歩にもかかわらず、PEO系固体電解質が電池に使用されるとき、依然として容量リークが問題である。容量リークは、電解質が電子伝導性を獲得し、アノードからカソードに電子電流をリークさせる現象である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7585934号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.Appl.Electrochem.35,p.163-168(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、改善されたポリマー電解質、特に、電池に使用したときに容量リークを低減するポリマー電解質が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、上述の必要性を満たす改善されたポリマー電解質を提供することが可能であることを見出した。
【0010】
本発明の主な目的は:リチウムイオン二次電池における使用に好適なポリマー電解質であって、
i.少なくとも1つのポリエーテルポリマー[以下、ポリマー(P)]であって、当該ポリマー(P)は:
a)少なくとも70.0モル%のオキシエチレン単位(EO)、
b)0.0~10.0モル%のオキシプロピレン単位(PO)、及び
c)1.00~4.0モル%の、一般式(I)又は一般式(II):
【0011】
【化1】
【0012】
又は
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、
及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-6アルカンジイルであり、当該C1-6アルカンジイルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素及びC1-4アルキルの群から選択され、nは、整数0又は1又は2であり、
Xの各々は、ハライド、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、及びメタンスルホネートからなる群から選択される脱離基である)の少なくとも1つのモノマー[以下、モノマー(M)]から誘導された繰り返し単位
を含む、少なくとも1つのポリエーテルポリマーと、
ii.式(III):
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、
、R、R、R、及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルからなる群から選択され、当該C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素、C1-4アルキル、及びヒドロキシル保護基からなる群から選択され、
mは、少なくとも3の整数である)を有する少なくとも1つのポリシロキサン化合物と、の間の反応によって得られ、
式(III)を有する当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物が、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも一部と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、当該少なくとも1つのポリマー(P)にグラフトされている、ポリマー電解質である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ポリマー電解質、ポリマー(P)、及びポリシロキサンのGPC溶出曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ポリマー電解質
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素又はステップを排除するものではない。それは、言及された特徴、整数、ステップ、又は言及したような成分の存在を明記するものとして解釈される必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ若しくは成分、又はこれらの群の存在若しくは追加を排除するものではない。したがって、「成分A及びBを含む組成物」という表現の範囲は、成分A及びBのみからなる組成物に限定されるべきではない。それは、本発明に関して、組成物の唯一の関連成分がA及びBであることを意味する。したがって、「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、より限定的な用語「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を包含する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」又は「任意選択的に」は、その後に記載される事象又は状況が、起り得る、又は起り得ないことを意味し、その記載は、当該事象又は状況が起こる場合、及びその状況が起こらない場合を含む。
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明によるポリマー電解質が、電池、特に、固体リチウムイオン電池において使用されるとき、容量漏れ(容量リーク)が低減され、その結果、実施例において実証されるように、性能が改善された電池が得られることを見出した。
【0021】
本発明の文脈において、「少なくとも1つのポリエーテルポリマー[以下、ポリマー(P)]」という表現は、1つ又は2つ以上のポリマー(P)を意味することを意図している。同様に、「式(III)を有する少なくとも1つのポリシロキサン化合物」という表現は、式(III)を有する1つ又は2つ以上のポリシロキサン化合物を意味することを意図している。
【0022】
本文の残りにおいて、「ポリマー(P)」及び「式(III)を有するポリシロキサン化合物」という表現は、本発明の目的のために、複数形及び単数形の両方で理解される。
【0023】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、当技術分野で概ね理解されている最も広い意味を有し、直鎖若しくは分岐鎖、又はこれらの組み合わせである部分を含み得る。
【0024】
「アルキル」という用語は、単独で又は組み合わせて、直鎖又は分岐鎖アルカン誘導基を意味し、例えば、CF-Gアルキルは、F~G個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を定義し、例えば、C1-4アルキルは、例えば、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル(イソプロピル)、1-ブチル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピル(tert-ブチル)、2-メチル-1-プロピル(イソブチル)などの1~4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を定義する。
【0025】
「シクロアルキル」という用語は、単独で又は組み合わせて、環状アルカン誘導基を意味し、例えば、CL-Mシクロアルキルは、L~M個の炭素原子を有する環状アルキル基を定義し、例えば、C3-6シクロアルキルは、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの3~6個の炭素原子を有する環状アルキル基を定義する。
【0026】
「アリール」という用語は、単独で又は組み合わせて、好ましくは5~7員環、より好ましくは5~6員環のシクロアルキル又はヘテロシクリルと任意選択的に炭素環式縮合された、及び/又は1~5個の基若しくは置換基で置換されたフェニル、ナフチル、又はアントラセニルを意味している。アリールは、任意選択的に置換されてもよく、それにより、置換基は、アリールに対して1つの点で結合されているか、又は置換基は、アリールに対して2つの点で結合されて、二環式系、例えば、ベンゾジオキソール、ベンゾジオキサン、ベンゾイミダゾールを形成する。
【0027】
「ヘテロシクリル」という用語は、単独で又は組み合わせて、環状アルカン誘導基であって、少なくとも1個の炭素原子が、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から独立して選択されるヘテロ原子によって置き換えられている(例えば、ピロリジン、ピペリジン、又はモルホリンなど)、環状アルカン誘導基を意味している。
【0028】
「アルコキシ」という用語は、単独で又は組み合わせて、直鎖又は分岐鎖のアルカン由来の基であって、その基を有する炭素原子は、酸素原子で置き換えられている、基を意味している。アルコキシ部分は、-O-R構造を有し、式中、Rはアルキルである。
【0029】
「アルカンジイル」という用語は、単独で又は組み合わせて、直鎖又は分岐鎖アルキル由来の二価の基を意味する。
【0030】
上記のように、ポリマー(P)は、
a)少なくとも70.0モル%の、オキシエチレン単位(EO)の繰り返し単位、
b)0.0~10.0モル%のオキシプロピレン単位(PO)、及び
c)1.00~4.0モル%の、一般式(I)又は一般式(II):
【0031】
【化4】
【0032】
又は
【0033】
【化5】
【0034】
(式中、
及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-6アルカンジイルであり、当該C1-6アルカンジイルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素及びC1-4アルキルの群から選択され、nは、整数0又は1又は2であり、
Xの各々は、ハライド、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、及びメタンスルホネートからなる群から選択される脱離基である)のうちの少なくとも1つのモノマー[以下、モノマー(M)]から誘導された繰り返し単位を含む。
【0035】
したがって、ポリマー(P)の繰り返し単位の少なくとも70.0モル%、好ましくは少なくとも80.0モル%、好ましくは少なくとも85.0モル%、好ましくは少なくとも90.0モル%、より好ましくは少なくとも92.0モル%、より好ましくは少なくとも94.0モル%は、オキシエチレン繰り返し単位(EO)である。
【0036】
ポリマー(P)の繰り返し単位の多くとも99.0モル%、より好ましくは多くとも98.5モル%、より好ましくは多くとも98.0モル%は、EO単位である、ことが更に理解される。
【0037】
好ましい実施形態では、当該ポリマー(P)は、少なくとも80.0モル%かつ多くとも99.0モル%、好ましくは少なくとも90.0モル%かつ多くとも98.5モル%、好ましくは少なくとも92.0モル%かつ多くとも98.5モル%のEO単位、好ましくは少なくとも94.0モル%かつ多くとも98.5モル%のEO単位を含む。
【0038】
オキシプロピレン繰り返し単位(PO)がポリマー(P)中に存在するとき、ポリマー(P)の繰り返し単位の多くとも10.0モル%、より好ましくは多くとも6.0モル%、更により好ましくは多くとも5.0モル%、更により好ましくは多くとも4.0モル%、更により好ましくは多くとも3.0モル%は、PO単位である。
【0039】
有利には、当該ポリマー(P)は、少なくとも0.1モル%、又は少なくとも0.5モル%、又は少なくとも1.0モル%のPO単位を含む。
【0040】
好ましい実施形態において、当該ポリマー(P)は、少なくとも0.5モル%かつ多くとも6.0モル%、又は少なくとも0.5モル%かつ多くとも5.0モル%、又は少なくとも0.5モル%かつ多くとも4.0モル%、又は少なくとも1.0モル%かつ多くとも4.0モル%、又は少なくとも1.0モル%かつ多くとも3.0モル%のPO単位を含む。
【0041】
PO単位の存在は、ポリマー(P)の結晶化度を低減することを可能にし、それは、そのイオン伝導性を改善する。
【0042】
本発明の目的のために、「オキシプロピレン(PO)」という用語は、式-O-CH-CH-CH-又は-O-CH-CH(CH)-、好ましくは-O-CH-CH(CH)-を指すことが意図される。
【0043】
好ましくは、ポリマー(P)の繰り返し単位の少なくとも1.2モル%、又は少なくとも1.5モル%、又は少なくとも1.8モル%、又は少なくとも2.2モル%は、上で詳述した一般式(I)又は一般式(II)のモノマー(M)から誘導された繰り返し単位である。
【0044】
ポリマー(P)の繰り返し単位の多くとも4.0モル%、より好ましくは多くとも3.5モル%、更により好ましくは多くとも3.0モル%が、上で詳述した一般式(I)又は一般式(II)のモノマー(M)から誘導された繰り返し単位である、ことが更に理解される。
【0045】
好ましい実施形態では、当該ポリマー(P)は、少なくとも1.2モル%かつ多くとも4.0モル%、好ましくは少なくとも1.5モル%かつ多くとも3.5モル%、好ましくは少なくとも1.5モル%かつ多くとも3.0モル%の、上で詳述した一般式(I)又は一般式(II)の少なくとも1つのモノマー(M)から誘導された繰り返し単位を含む。
【0046】
ポリマー(P)中の繰り返し単位が、一般式(II)のモノマー(M)から誘導されたとき、繰り返し単位は、エポキシド部分の開環重合の結果である、と理解される。
【0047】
ポリマー(P)中の繰り返し単位が、Xがアシルクロリド又はアシルブロミドである一般式(I)のモノマー(M)から誘導されたとき、繰り返し単位は、モノマー(M)と、例えば、ジヒドロキシ末端ポリエチレンオキシド(又はPEO-co-PPOコポリマー)のEO単位又はPO単位の末端OH基との間の反応の結果であることによって、エステル部分を形成するができることが理解される。
【0048】
ポリマー(P)中の繰り返し単位が、Xがトリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、又はメタンスルホネートである一般式(I)のモノマー(M)から誘導されたとき、繰り返し単位は、当該モノマー(M)と、例えば、ジヒドロキシ末端ポリエチレンオキシド(又はPEO-co-PPOコポリマー)のEO単位又はPO単位の末端OH基との間の、NaHなどの強塩基の存在下でのウィリアムソン型反応の結果であることによって、アルコレート形成及びその後のモノマー(M)のX部分の置換を介して、エーテル部分を形成するができる。
【0049】
これらの重合反応は、当技術分野で既知であり、特に、H.-Q.Xie,J.-S.Guo,G.-Q.Yu,and J.Zu,in Journal of Applied Polymer Science 2001,80,2446によって記載されている。
【0050】
好ましくは、一般式(I)のモノマー(M)中のXの各々は、ハライド、より好ましくはクロライド、ブロマイド、及びアイオダイドからなる群から選択されるハライドである。
【0051】
リチウムイオン二次電池における使用に好適なポリマー電解質の好ましい実施形態によれば、モノマー(M)は、式(II)
【0052】
【化6】
【0053】
(式中、
及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-2アルカンジイルであり、nは、整数0又は1であり、好ましくは、nは、1である)のものである。
【0054】
リチウムイオン二次電池における使用に好適なポリマー電解質の別の好ましい実施形態では、本発明によるモノマー(M)は、式、(IA)~(IF)及び、(IIA)~(IIE):
【0055】
【化7】
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
【化16】
【0065】
【化17】
【0066】
(式中、Xは、ハライド、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、及びメタンスルホネート、アシルクロライド、臭アシルブロマイドからなる群から選択される)のものの中から選択される。好ましくは、Xは、ハライドであり、より好ましくはクロライド、ブロマイド、及びアイオダイドからなる群から選択されるハライドである。更により好ましくは、Xは、ブロマイドである。
【0067】
より好ましくは、本発明によるモノマー(M)は、式(IA)~(IF)のものの中から選択される化合物である。
【0068】
最も好ましくは、当該モノマー(M)は、式(IA)の化合物である。
【0069】
リチウムイオン二次電池における使用に好適なポリマー電解質の好ましい実施形態によれば、ポリマー(P)は、本質的に、
a)94.0~98.5モルのEO繰り返し単位と、
b)0.5~3.0モル%のPO繰り返し単位と、
c)1.0~3.0モル%の、一般式(II):
【0070】
【化18】
【0071】
(式中、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、C1-2アルカンジイルであり、nは、整数0又は1であり、好ましくは、nは、1である)のモノマー(M)から誘導された繰り返し単位と、からなる。鎖欠陥又は非常に少量の他の単位が存在し得ることが理解され、これらの後者は、ポリマー(P)の特性を実質的に改変しないことが理解される。
【0072】
好ましくは、上で詳述した当該ポリマー(P)は、少なくとも10000g/mol、より好ましくは少なくとも20000g/mol、更により好ましくは少なくとも40000g/mol、更により好ましくは少なくとも50000g/molのMw(重量平均分子量)を有する。
【0073】
当該ポリマー(P)は、上で詳述したように、好ましくは、多くとも150000g/mol、より好ましくは多くとも100000g/molのMwを有することが理解される。
【0074】
好ましい実施形態では、当該ポリマー(P)は、上で詳述したように、少なくとも10000g/molかつ多くとも150000g/mol、好ましくは少なくとも20000g/molかつ多くとも150000g/mol、より好ましくは少なくとも40000g/molかつ多くとも100000g/mol、更により好ましくは少なくとも50000g/molかつ多くとも100000g/molのMwを有する。
【0075】
本発明によれば、Mwは、PEO標準での較正を用いてGPCによって測定される。したがって、言及したMwは、PEO当量である。
【0076】
あるいは及び更に好ましくは、上で詳述した当該ポリマー(P)は、少なくとも10000g/mol、より好ましくは少なくとも20000g/mol、更により好ましくは少なくとも40000g/mol、更により好ましくは少なくとも50000g/molのMn(数平均分子量)を有する。
【0077】
当該ポリマー(P)は、上で詳述したように、好ましくは、多くとも150000g/mol、より好ましくは多くとも100000g/molのMnを有することが理解される。
【0078】
好ましい実施形態では、当該ポリマー(P)は、上で詳述したように、少なくとも10000g/molかつ多くとも150000g/mol、好ましくは少なくとも20000g/molかつ多くとも150000g/mol、より好ましくは少なくとも40000g/molかつ多くとも100000g/mol、更により好ましくは少なくとも50000g/molかつ多くとも100000g/molのMnを有する。
【0079】
本発明によれば、Mnは、PEO標準での較正を用いてGPCによって測定される。したがって、言及したMnは、PEO当量である。
【0080】
好ましくは、本発明によるポリマー(P)は、ランダム又はブロックコポリマー、より好ましくはランダムコポリマーである。
【0081】
好ましくは、本発明によるポリマー(P)は、直鎖又は分岐鎖であり、より好ましくは直鎖である。
【0082】
特に好ましいポリマー(P)は、主鎖を特に式(IV):
【0083】
【化19】
【0084】
(式中、ポリマー(P)の式(IV)におけるoのqに対する比(o/q)は、25~100、又は35~75、又は40~60である)によって表すことができる直鎖ランダムコポリマーである。ポリマー(P)の式(IV)におけるpのqに対する比(p/q)は、有利には0.05~1.50、好ましくは0.10~1.00、好ましくは0.20~0.60である。
【0085】
このようなポリマー(P)は、特に、Alkox(登録商標)CP-Aシリーズの商品名でMeisei Chemical works ltdから市販されている。
【0086】
上記したように、式(III):
【0087】
【化20】
【0088】
(式中、
、R、R、R、及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルからなる群から選択され、当該C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、C1-6アルコキシ、ヘテロシクリルは、ハライド、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、CF、ORから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、Rの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、水素、C1-4アルキル、及びヒドロキシル保護基からなる群から選択され、
mは、少なくとも3の整数である)を有する少なくとも1つのポリシロキサン化合物は、
モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも一部分と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、上で詳述したように、ポリマー(P)にグラフトされている。
【0089】
好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-6アルキルであり、より好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルであり、更により好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、メチルである。
【0090】
好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、独立して、C1-4アルキル又はフェニルから選択され、当該C1-4アルキルは、ハライド、C1-4アルキル、又はCFから選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換され、より好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルであり、更により好ましくは、R及びRの各々は、互いに同じか又は異なり、各出現において、メチルである。
【0091】
好ましくは、Rの各々は、C1-6アルキルであり、より好ましくは、Rの各々は、C1-4アルキルであり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、又はtert-ブチルである。
【0092】
好ましくは、mは、少なくとも5、より好ましくは少なくとも7、更により好ましくは少なくとも8の整数である。
【0093】
mは、好ましくは多くとも1000、より好ましくは多くとも500、更により好ましくは多くとも100、更により好ましくは多くとも20、更により好ましくは多くとも15の整数であることが更に理解される。
【0094】
本発明の好ましい実施形態では、mは、少なくとも5かつ多くとも1000、好ましくは少なくとも5かつ多くとも500、より好ましくは少なくとも5かつ多くとも100、更により好ましくは少なくとも5かつ多くとも20、更により好ましくは少なくとも7かつ多くとも20、更により好ましくは少なくとも8かつ多くとも15の整数である。
【0095】
本発明の文脈内で、モノマー(M)の-CH=CH部分は、上で詳述したように、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分と反応して、両方の部分の間に共有結合を得ることができると理解される。このような反応は、全般に、ヒドロシリル化反応と呼ばれる。当該反応は、金属錯体及びシグマ錯体を含む1つ以上の中間体の形成を伴い得ることが更に理解される。
【0096】
上で詳述したように、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも一部と、上で詳述した式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分とを反応させるために、当技術分野で既知のいくつかの技術をうまく使用することができる。
【0097】
上で詳述したポリマー(P)と、上で詳述した式(III)を有するポリシロキサンとは、特に、溶融状態で反応させることができ、この目的のために、押出機、溶融混練機、又は他のデバイスなどの溶融配合機を有利に使用することができる。
【0098】
上で詳述したポリマー(P)と、上で詳述した式(III)を有するポリシロキサンとは、特に、溶液で反応させることができ、この実施形態によれば、ポリマー(P)及び上で詳述した式(III)を有するポリシロキサンは、溶媒中に少なくとも部分的に溶解される。溶解は、室温で、又は好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも80℃まで、更により好ましくは溶媒の還流温度で、加熱すると、得ることができる。この溶媒の選択は、上で詳述したように、溶媒がポリマー(P)及び式(III)を有するポリシロキサンの両方を効率的に溶媒和し、ヒドロシリル化反応を妨げない限り、重要ではない。概して、有機溶媒が好ましくは選択される。これらの有機溶媒の中では、特に、ベンゼン、トルエン、キシレン、シメンなどを挙げることができる。
【0099】
更に、上で詳述したポリマー(P)と、上で詳述した式(III)を有するポリシロキサンとは、特に、触媒、特に、ヒドロシリル化触媒の存在下で反応させることができる。
【0100】
このようなヒドロシリル化触媒は、当技術分野において既知である。特に、ルテニウム、白金、又はロジウム系触媒、例えば、特に、カルシュテット(Karstedt’s)触媒、ウィルキンソン(Wilkinson)触媒、シュパイアー(Speier)触媒、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0101】
本発明の文脈では、「モノマー(M)の-CH=CHの少なくとも一部と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して」という表現は、モノマー(M)の-CH=CHの一部のみ又は全部が、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分と反応できることを意味している。
【0102】
好ましくは、上で詳述した式(III)を有する当該ポリシロキサン化合物は、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも10モル%、より好ましくは少なくとも15モル%、更により好ましくは少なくとも20モル%、更により好ましくは少なくとも25モル%、更により好ましくは少なくとも30モル%、更により好ましくは少なくとも35モル%、更により好ましくは少なくとも40モル%、更により好ましくは少なくとも45モル%と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、上で詳述したポリマー(P)にグラフトされている。
【0103】
上で詳述した式(III)を有するポリシロキサン化合物は、モノマー(M)の-CH=CH部分の100モル%、好ましくは多くとも95モル%、より好ましくは多くとも90モル%、更により好ましくは多くとも85モル%、更により好ましくは多くとも80モル%、更により好ましくは多くとも75モル%、更により好ましくは多くとも70モル%、更により好ましくは多くとも65モル%、更により好ましくは多くとも60モル%と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、上で詳述したポリマー(P)にグラフトできることが更に理解される。
【0104】
好ましい実施形態では、上で詳述した式(III)を有する当該ポリシロキサン化合物は、モノマー(M)の-CH=CH部分の少なくとも10モル%かつ多くとも90モル%、より好ましくは少なくとも30モル%かつ多くとも70モル%、更により好ましくは少なくとも40モル%かつ多くとも60モル%と、式(III)を有するポリシロキサン化合物のH-Si部分との反応を介して、上で詳述したポリマー(P)にグラフトされている。
【0105】
反応は、実験の部で例示するように、特に、GPC又はH-NMR法を使用するなどの既知の分析方法を使用することによって、モニターすることができる。
【0106】
好ましくは、当該ポリマー電解質は、当該少なくとも1つのポリマー(P)と、当該少なくとも1つのポリマー(P)及び当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物の総量に対して少なくとも6重量%又は少なくとも7重量%又は少なくとも8重量%の当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物との間の反応によって、得られる。
【0107】
好ましくは、当該ポリマー電解質は、当該少なくとも1つのポリマー(P)と、当該少なくとも1つのポリマー(P)及び当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物の総量に対して多くとも27重量%又は多くとも25重量%又は多くとも22重量%の当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物との間の反応によって、得られる。
【0108】
好ましい実施形態では、当該ポリマー電解質は、当該少なくとも1つのポリマー(P)と、当該少なくとも1つのポリマー(P)及び当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物の総量に対して少なくとも6重量%かつ多くとも27重量%又は少なくとも7重量%かつ多くとも25重量%又は少なくとも8重量%かつ多くとも22重量%の当該少なくとも1つのポリシロキサン化合物との間の反応によって、得られる。
【0109】
[実施例]
以下の実施例は、本発明を更に明確にすることを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0110】
1. 実施例1
1.1. 材料及び方法
特に明記しない限り、以下の材料を、以下に記載するように使用した。
【0111】
ランダムポリマー(P)は、明成化学工業からCPシリーズCP-Aの商品名で購入した。あるいは、ポリマー(P)は、H.-Q.Xie,J.-S.Guo,G.-Q.Yu,and J.Zu,Journal of Applied Polymer Science 2001,80,2446に開示されている以下の手順によって、調製することができる。
【0112】
モノヒドリド末端ポリジメチルシロキサン(SiH末端PDMS、M=850g/mol)は、Gelest,Inc.から購入した。
【0113】
シリカ担持カルステッド型触媒は、Q.J.Miao,Z.-P.Fang,and G.P.Cai,Catalysis Communications 2003,4,637-639に従って調製した。
【0114】
LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニ)イミド塩、99.95% 微量金属基準)は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0115】
99.8重量%無水アセトニトリルは、Sigma-Aldrichから購入した。
【0116】
Timcal Super Pは、Imerys Graphite&Carbonによって製造された伝導性カーボンブラック粉末(CAS番号1333-86-4)である。
【0117】
ポリエチレンオキシド(1,000,000のMを有するPEO)は、Alfa Aesarから購入した。
【0118】
Hスペクトルは、JEOL JNM ECZ 500MHz NMRスペクトル計で室温において記録した。ポリマー試料をCDClに溶解し、内部標準を、テトラメチルシラン(TMS)を用いて最適化した。
【0119】
誘導結合プラズマ(ICP)測定は、Agilent 720 ICP-OES(Agilent Technologies,https://www.agilent.com/cs/library/brochures/5990-6497EN%20720-725_ICP-OES_LR.pdf)を使用して行った。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ(Erlenmeyer flask)内の50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末が完全に溶解するまで、フラスコを時計皿で覆い、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、第1のメスフラスコの250mLを標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全な均質化法(1回目の希釈)を行った。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために第2の250mLメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0120】
1.2. ポリマー電解質の調製
特徴が表1に示されているランダム直鎖コポリマーであるポリマー(P)を、以下の手順に従うヒドロシリル化によって、モノヒドリド末端ポリジメチルシロキサン(SiH末端PDMS)と反応させる。
【0121】
【表1】
【0122】
2.0gのポリマー(P)及び0.36gのSiH末端PDMSを含有する混合物を、20mgのシリカ担持カルステッド型触媒を含有する50mLのベンゼンに添加し、窒素雰囲気下、90℃で48時間加熱する。
【0123】
加熱した混合物をセライトで濾過して固体触媒を除去し、次いで減圧下に置いて溶媒を除去する。50モル%のAGE単位の-CH=CHと、PDMSのH-Si部分との反応を介して、PDMSをポリマー(P)にグラフトした。
【0124】
グラフト化の成功は、H-NMR及びGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって確認した。
【0125】
ポリマー(P):H-NMR(TMS,CDCl,500MHz):δ(ppm)1.2(d,PO単位のCH),4(m,AGE単位の-OCH-CH=CH),5.2(m,AGE単位のCH=CH-),5.8(m,AGE単位の-CH=CH)。
【0126】
モノヒドリドPDMS:H-NMR(TMS,CDCl,500MHz):δ(ppm)0.5(m,-Si-CH-CH-),0.9(t,CH-CH-),1.3(br,-Si-CH-CH-CH-CH),4.8(m,H-Si-)。
【0127】
ポリマー電解質:H-NMR(TMS,CDCl,500MHz):δ(ppm):0.5(br,PDMSの-Si-CH-CH-),0.9(br,PDMSのCH-CH-),1.1(d,PO単位のCH),1.2(br,PDMSの-Si-CH-CH-CH-CH),1.4(br,-OCH-CH-CH-Si-)。
【0128】
高分子電解質(polyelectrolyte)の1H-NMRスペクトルにおける1.4ppmでのブロードピークの存在及びH-Siに帰属するピークの非存在は、ヒドロシリル化が成功したことを示している。
【0129】
図1は、上で調製されたポリマー電解質、ポリマー(P)、及びポリシロキサンのGPC溶出曲線を示している。
【0130】
ポリマー(P)と比較してポリマー電解質のより短い溶出時間は、ポリマー電解質がポリマー(P)よりも高い分子量を有していること、及びそれによりPDMSがポリマー(P)上に首尾よくグラフトされたことを示している。
【0131】
1.3. 正極活物質の調製
ICPによって測定して一般式Li1.010(Ni0.621Mn0.224Co0.1550.9902.00を有するリチウム遷移金属複合酸化物を、以下のプロセスに従って正極活物質として調製する。
【0132】
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:ICPによって測定して金属組成Ni0.621Mn0.224Co0.155を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH1)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製する。
【0133】
ステップ2)1回目の混合:ステップ1)で調製されたTMH1を、LiCOと工業用ブレンダー内で混合して、リチウムと金属との比が0.85である第1の混合物を得る。
【0134】
ステップ3)1回目の焼成:ステップ2)からの第1の混合物を、乾燥空気雰囲気中で、900℃で10時間焼成して、第1の焼成ケーキを得る。第1の焼成ケーキを粉砕して、第1の焼成粉末を得る。
【0135】
ステップ4)2回目の混合:ステップ3)からの第1の焼成粉末を、LiOHと工業用ブレンダー内で混合して、リチウムと金属との比が1.01である第2の混合物を得る。
【0136】
ステップ5)2回目の焼成:ステップ4)からの第2の混合物を、乾燥空気中で、930℃で10時間焼成し、続いて、粉砕(ビーズミリング)及び篩分けプロセスによって、第2の焼成粉末を得る。
【0137】
ステップ6)3回目の混合:ステップ5)からの第2の焼成粉末を、Ni、Mn、及びCoの総モル含有量に対して1.5モル%のLiOHと、工業用ブレンダー内で混合して、第3の混合物を得る。
【0138】
ステップ7)3回目の焼成:ステップ6)からの第3の混合物を、乾燥空気中で、750℃で10時間焼成して、正極活物質を得る。
【0139】
1.4. 正極の調製
セクション1.3に従って調製した正極活物質と、セクション1.2に従って調製したポリマー電解質とを含む正極を、以下の手順に従って調製する。
【0140】
ステップ1)、セクション1.1によるポリマー電解質と、LiTFSIとを含むポリマー電解質溶液を、99.8重量%無水アセトニトリル中で調製するステップ。ポリマー電解質溶液は、ポリマー電解質:LiTFSIの重量比が74:26である。
【0141】
ステップ2)ステップ1)で調製したポリマー電解質溶液と、セクション1.2に従って調製した正極活物質と、アセトニトリル溶液中のカーボンブラック粉末(Timcal Super Pカーボンブラック)とを、21:75:4の重量比で混合して、スラリー混合物を調製するステップ。混合は、ホモジナイザーによって5000rpmで45分間行われる。
【0142】
ステップ3)ステップ2)からのスラリー混合物を、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面上に100μmのコーターギャップでキャストするステップ。
【0143】
ステップ4)スラリーをキャストした箔を30℃で12時間乾燥させ、続いて打ち抜いて直径14mmの正極を得るステップ。
【0144】
1.5. 固体ポリマー電解質(SPE)の調製
PEO系固体ポリマー電解質(SPE)を、以下のプロセスに従って調製する。
【0145】
ステップ1)ポリエチレンオキシド(分子量1,000,000のPEO)と、LiTFSI(Sigma AldrichではなくSoulbrain Co.,Ltd.から購入)とを、99.8重量%無水アセトニトリル中、ミキサーを使用して、毎分2,000回転(rpm)で30分間混合するステップ。エチレンオキシドとリチウムとのモル比は20である。
【0146】
ステップ2)ステップ1)からの混合物をテフロン(登録商標)皿に注ぎ、25℃で12時間乾燥させる。
【0147】
ステップ3)乾燥したSPEを皿から取り外し、乾燥したSPEを打ち抜いて、厚さ300μm及び直径19mmのSPEディスクを得る。
【0148】
1.6. ポリマーセルの組み立て
コイン型ポリマーセルを、アルゴンを充填したグローブボックス内で、下から上への順序で、2032コインセル缶、セクション1.4に従って調製した正極、セクション1.5に従って調製したSPEポリマー電解質、ガスケット、Liアノード、スペーサ、波形ばね、及びセルキャップの順で組み立てる。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0149】
2. 比較例
2.1. ポリマー電解質
本発明によるポリマー電解質の代わりに、Alfa Aesarから購入したポリ(エチレンオキシド)(PEO)粉末(1,000,000g/molのMw)を使用する。
【0150】
2.2. 正極の調製
セクション1.3に従って調製した正極活物質と、セクション2.1によるポリマー電解質とを含む正極を、以下の手順に従って調製する。
【0151】
ステップ1)セクション2.1によるポリマー電解質と、リチウムLiTFSIとを含むポリマー電解質溶液を、99.8重量%無水アセトニトリル中で調製するステップ。ポリマー電解質溶液は、ポリマー電解質:LiTFSIの重量比が74:26である。
【0152】
ステップ2)ステップ1)からの調製したポリマー電解質溶液と、セクション1.3に従って調製した正極活物質と、アセトニトリル溶液中のカーボンブラック粉末(Timcal Super Pカーボンブラック)とを、21:75:4の重量比で混合して、スラリー混合物を調製するステップ。混合は、ホモジナイザーによって5000rpmで45分間行われる。
【0153】
ステップ3)ステップ2)からのスラリー混合物を、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面上に100μmのコーターギャップでキャストするステップ。
【0154】
ステップ4)スラリーをキャストした箔を30℃で12時間乾燥させ、続いて打ち抜いて直径14mmの正極を得るステップ。
【0155】
2.3. ポリマーセルの組み立て
コイン型ポリマーセルを、アルゴンを充填したグローブボックス内で、下から上に、2032コインセル缶、セクション2.2からの調製した正極、セクション1.5からの調製したSPE、ガスケット、Liアノード、スペーサ、波形ばね、及びセルキャップの順で組み立てる。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0156】
3. 比較及び試験法(Qtotal)
漏れ容量(Qtotal)を、セクション2.3及びセクション1.6で調製したコインセルについて測定した。セクション2.3で調製したコインセルは、現行技術によるポリマー電解質を含み、セクション1.6で調製したコインセルは、本発明によるポリマー電解質を含む。
【0157】
各コイン型ポリマーセルを、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(東洋システム製,
http://www.toyosystem.com/image/menu3/toscat/TOSCAT-3100.pdf)を使用して、80℃でサイクルさせる。コインセルの試験手順では、下のスケジュールに従って、4.4~3.0V/Li金属のウィンドウ範囲において160mA/gの1Cの電流定義を使用する。
【0158】
ステップ1)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電し、続いて10分間休止する。
【0159】
ステップ2)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電し、続いて10分間休止する。
【0160】
ステップ3)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電する。
【0161】
ステップ4)定電圧モードに切り替え、4.4Vを60時間維持する。
【0162】
ステップ5)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電する。
【0163】
totalは、記載された試験方法に従って、ステップ4)における高電圧及び高温での総漏れ容量として定義される。Qtotalの値が小さいことは、高温動作時における正極活物質粉末の安定性が高いことを示す。
【0164】
【表2】
【0165】
表2には、実施例1のセクション1.6及び比較例のセクション2.3で調製された正極を含むポリマー電池のQtotalをまとめている。表2によれば、本発明によるポリマー電解質を含むポリマー電池(実施例1)は、比較例2によるポリマー電解質を含むポリマー電池よりも大幅に低いQtotalを有することが観察される。これは、本発明によるポリマー電解質の使用が、従来のポリマー電解質であるPEOの使用よりも良好な電気化学的性能をもたらすことを示している。Qtotalの値が小さいということは、高温での高電圧印加におけるリチウムイオン二次電池の安定性が高いことを示している。
図1