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  • 特許-ハードマスクの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ハードマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
C23C14/34 N
C23C14/34 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024533055
(86)(22)【出願日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2024005418
【審査請求日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2023088871
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小梁 慎二
(72)【発明者】
【氏名】西村 元秀
(72)【発明者】
【氏名】新井 彗太
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-204214(JP,A)
【文献】特開2004-270035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0079093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内に希ガスと窒素ガスとを導入して反応性スパッタリング法により被処理基板の表面に窒化タングステン膜を成膜する第1工程と、
ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内でスパッタリング法により窒化タングステン膜の表面にタングステン膜を成膜する第2工程とを含むハードマスクの製造方法において、
第1工程にて窒素ガスに対する希ガスの流量比を1.5以下且つ処理室内の全圧を1Pa以上に設定し、
第2工程にて処理室内の全圧及び成膜時に被処理基板に投入されるバイアス電力の少なくとも一方の制御によってタングステン膜の膜厚に応じた応力を調整し、被処理基板の面内全面に亘ってグレインサイズが60nm以下の微細結晶のタングステン膜が成膜されることを特徴とするハードマスクの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程にて、前記処理室内の全圧が0.1Pa~30Paの範囲となるようにアルゴンガスを導入することを特徴とする請求項1記載のハードマスクの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程にて、前記被処理基板に対して0W~300Wの範囲のバイアス電力を投入することを特徴とする請求項1または2記載のハードマスクの製造方法。
【請求項4】
前記タングステン膜の膜厚に応じた応力を±300MPa以内に調節することを特徴とする請求項1または2記載のハードマスクの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のハードマスクの製造方法であって、前記被処理基板へのバイアス電力がマッチングボックスを介して接続された交流電源により投入されるものにおいて、
前記バイアス電力の制御に、マッチングボックスによるインピーダンス整合までの時間を含むことを特徴とするハードマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】

例えば、半導体デバイスの製造工程において、基板等の被処理基板に成膜された所定の薄膜(例えばSiO膜)に対してドライエッチング処理を施す工程がある。このとき、被処理基板の表面に例えば(メタル)ハードマスクを設けてドライエッチングの処理範囲が制限される。この種のハードマスクとして、下地層としての窒化タングステン膜と、この窒化タングステン膜に積層されるタングステン膜とを有するものが例えば特許文献1で知られている。このものでは、第1工程として、ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内に希ガスと窒素ガスとを導入して反応性スパッタリング法により被処理基板の表面に窒化タングステン膜を成膜する。第2工程として、ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内でスパッタリング法により窒化タングステン膜の表面にタングステン膜を成膜する。その後に、例えばリソグラフィ技術により所望の開口部がパターニング形成される。
【0003】

ここで、スパッタリング法により成膜されるタングステン膜は、カーボン膜等と比較して高い密度を有し、ドライエッチング耐性に優れている一方で、グレインサイズが大きい(100nm以上の)結晶膜となって後工程での開口部のパターニング形成時に加工形状の悪化を招く場合があることが知られている。そのため、このようなタングステン膜が可及的にグレインサイズの小さい微細結晶膜であることが望まれるが、タングステン膜の用途によってはその膜応力が所定範囲内に維持されることも求められる。例えばリソグラフィ工程で十分にフォーカスできることが求められるような場合には、膜応力が例えば±300MPa以内(より好ましくは例えば±100MPa以内)に維持されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-27215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

本発明は、以上の点に鑑み、タングステン膜を微細結晶膜としながら、膜厚に応じて膜応力の調整を可能としたハードマスクの製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のハードマスクの製造方法は、ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内に希ガスと窒素ガスとを導入して反応性スパッタリング法により被処理基板の表面に窒化タングステン膜を成膜する第1工程と、ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内でスパッタリング法により窒化タングステン膜の表面にタングステン膜を成膜する第2工程とを含み、第1工程にて窒素ガスに対する希ガスの流量比を1.5以下且つ処理室内の全圧を1Pa以上に設定し、第2工程にて処理室内の全圧及び成膜時に被処理基板に投入されるバイアス電力の少なくとも一方の制御によってタングステン膜の膜厚に応じた応力を調整し、被処理基板の面内全面に亘ってグレインサイズが60nm以下の微細結晶のタングステン膜が成膜されることを特徴とする。この場合、第2工程にて、処理室内の全圧が0.1Pa~30Paの範囲となるようにアルゴンガスを導入することで、処理室内の全圧を制御することができ、また、被処理基板に対して0W~300Wの範囲のバイアス電力を投入することで、被処理基板に投入されるバイアス電力を制御することができる。
【0007】

ここで、本願発明者らの鋭意研究の結果、次のことを知見するのに至った。即ち、第1工程にて反応性スパッタリング法により被処理基板の表面に窒化タングステン膜を成膜する際に、希ガスに対する窒素ガスの流量比と処理室内の圧力とを増加させていくと、第2工程にて成膜されるタングステン膜のグレインサイズが小さくなる一方で、タングステン膜の応力(絶対値)が大きくなることを知見するのに至った。このような知見を基に、本発明では、第1工程にて窒素ガスに対する希ガスの流量比を1.5以下且つ処理室内の圧力を1Pa以上に設定して、窒化タングステン膜を成膜し、その後の第2工程にて窒化タングステン膜の表面にタングステン膜を成膜する構成を採用することで、被処理基板の面内全面に亘ってグレインサイズの小さい(例えば、60nm以下の)微細結晶のタングステン膜を成膜することができる。そして、第2工程にて処理室内の全圧及び成膜時に被処理基板に投入されるバイアス電力の少なくとも一方を制御すれば、タングステン膜の応力をその膜厚に応じて所定範囲(例えば±300MPa以内、より好ましくは例えば±100MPa以内)に調整することができる。
【0008】

なお、本発明においては、被処理基板へのバイアス電力がマッチングボックスを介して接続された交流電源により投入される場合、バイアス電力の制御には、マッチングボックスによるインピーダンス整合までの時間が含まれることが好ましい。これによれば、第2工程の処理室内の圧力が比較的高い場合でも、タングステン膜の応力を効果的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態のハードマスクを示す模式断面図。
図2】本実施形態のハードマスクの製造方法の実施が可能なスパッタリング装置を模式断面図。
図3】(a)~(c)は、本発明の効果を確認する発明実験の結果を夫々示すAFM像であり、(d)~(f)及び(g)~(i)は、比較実験1及び比較実験2の結果を示すAFM像。
図4】アルゴンガス流量を変化させたときのタングステン膜の応力の変化を示すグラフ。
図5】バイアス電力を変化させたときのタングステン膜の応力の変化を示すグラフ。
図6】バイアス電力投入時のインピーダンス整合までの時間を変化させたときのタングステン膜の応力の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】

以下、図面を参照して、被処理基板(以下、「基板Sw」という)に対してドライエッチング処理を施す際に、基板Swの表面に形成されてそのエッチング処理範囲を制限する、本発明のハードマスクHm及びその製造方法の実施形態について説明する。
【0011】

図1を参照して、ハードマスクHmは、基板Swの表面に成膜される窒化タングステン(WN)膜Ly1と、この窒化タングステン膜Ly1に積層されるタングステン(W)膜Ly2とを有する。基板Swとしては、シリコンウエハ等の基板や、基板表面に所定の薄膜(例えば、SiO膜(TEOS膜)等の絶縁膜やAl膜等の金属膜)が成膜されたものを用いることができる。窒化タングステン膜Ly1の膜厚は、例えば5~15nmの範囲内に設定することができる。また、タングステン膜Ly2の膜厚は、例えば100~500nmの範囲内に設定することができる。そして、ハードマスクHmには、所定の輪郭を持つ開口部Opが公知のリソグラフィ技術によりパターニング形成され、この開口部Opの底部に露出する基板Swの部分がドライエッチングされて、所望のエッチング形状に加工される。以下、本実施形態のハードマスクHmの製造方法について説明する。
【0012】

図2を参照して、Smは、本実施形態のハードマスクHmの製造方法の実施が可能なスパッタリング装置である。スパッタリング装置Smは、真空雰囲気を形成可能な真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1により処理室Pcが画成される。真空チャンバ1の底壁には、ターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空ポンプユニットPuに通じる排気管11が接続され、真空チャンバ1を真空排気することができる。排気管11には、真空ポンプユニットPuの実効排気速度を調整できるようにコンダクタンスバルブ12が介設されている。真空チャンバ1の側壁には、マスフローコントローラ13が介設されたガス管14が接続され、真空雰囲気中の真空チャンバ1に希ガス(例えばアルゴンガス)と窒素ガスとを夫々所定流量で導入できるようになっている。以下においては、「上」「下」といった方向を示す用語は、図2に示す設置姿勢を基準として説明する。
【0013】

真空チャンバ1の底部にはステージ2が配置されている。ステージ2は、絶縁体Iを介して真空チャンバ1下壁に設けられる、熱伝導性を有する金属製(例えばSUS製)の基台21と、基台21上に設けられるチャックプレート22とを備える。また、基台21にはバイアス電源Pbとしての高周波電源からの出力がマッチングボックスMbを介して接続され、スパッタリング時、所定周波数(例えば13.56MHz)の高周波電力を基台21に投入することで、基板Swに所定のバイアス電力を投入することができる。なお、チャックプレート22、バイアス電源Pb及びマッチングボックスMbとしては、公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、特に図示して説明しないが、基台21には、ヒータや冷媒循環路が組み付けられ、外部の電源からヒータに通電し、または、図外のチラーユニットから冷媒を冷媒循環路に循環させ、基台21からの熱伝導で基板Swを所定温度に制御することができる。
【0014】

真空チャンバ1の天井部にはカソードユニットCuが取付けられている。カソードユニットCuは、基板Swに対向して配置されるタングステン製のターゲット3と、このターゲット3の上方に配置された磁石ユニット4とを有する。ターゲット3は、基板Swの輪郭に応じた形状(平面視円形)を有し、絶縁体Iを介して真空チャンバ1に取り付けられたバッキングプレート31の下面に装着されている。ターゲット3には、DC電源等のスパッタ電源Eからの出力が接続され、成膜時、ターゲット3に所定電力を投入できるようになっている。磁石ユニット4としては、ターゲット3のスパッタ面3aの下方空間に磁場を発生させ、スパッタリング時にスパッタ面3aの下方で電離した電子等を捕捉してターゲット3から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の構造を有するものを利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0015】

また、スパッタリング装置Smは、特に図示しないが、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段を有し、制御手段によりスパッタ電源Eやバイアス電源Pbの稼働、コンダクタンスバルブ12の開度、マスフローコントローラ13の稼働、真空ポンプユニットPuの稼働や磁石ユニット4の稼働等を統括制御するようにしている。以下、上記スパッタリング装置Smを用いて、本実施形態のハードマスクHmを製造する方法を具体的に説明する。
【0016】

真空チャンバ1内に配置されたステージ2の上面に基板Swを設置し、真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気し、所定圧力に達すると、真空チャンバ1内にアルゴンガスを150~300sccmの流量で、窒素ガスを100sccm以上の流量で夫々導入し(このとき、窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比を1.5以下且つ真空チャンバ1内の圧力を1Pa以上に設定する)、スパッタ電源Eからターゲット3に負の電位を持つDC電力(例えば2kW~6kW)を投入する。これにより、真空チャンバ1内にプラズマ雰囲気が形成され、タングステン製のターゲット3が反応性スパッタリングされて、基板Sw表面に窒化タングステン膜Ly1が成膜される(第1工程)。なお、窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比が1.5以下になるようにアルゴンガス及び窒素ガスの流量を夫々設定して導入した際に、真空チャンバ1内の圧力が1Paに達しないときにはコンダクタンスバルブ12の開度調整により真空ポンプユニットPuの実効排気速度を調整して、真空チャンバ1内の圧力を1Pa以上に維持すればよい。但し、真空チャンバ1内の圧力が例えば30Pa以上になると、後述の第2工程でのタングステン膜の応力調整が難しくなる。第1工程においては、成膜中にバイアス電源Pbから基板Swにバイアス電力(例えば50W~300W)を投入するようにしてもよい。
【0017】

基板Sw表面に窒化タングステン膜Ly1が所定膜厚で成膜されると(第1工程の終了後)、窒素ガスの導入のみを停止し、真空チャンバ1にアルゴンガスのみが150~300sccmの流量で導入された状態で(このとき、真空チャンバ1内の圧力は0.1Pa~30Paとなる)、スパッタ電源Eからターゲット3への投入電力を例えば4kW~12kWの範囲に変更する。これにより、タングステン製のターゲット3がスパッタリングされて、窒化タングステン膜Ly1の表面にタングステン膜Ly2が所定膜厚で成膜(積層)される(第2工程)。第2工程においては、上記第1工程と同様、バイアス電源Pbから基板Swにバイアス電力(例えば50W~300W)を投入するようにしてもよい。そして、タングステン膜Ly2の成膜終了後、公知のリソグラフィ技術等を用いて、タングステン膜Ly2及び窒化タングステン膜Ly1に開口部Opがパターニング形成される。なお、第2工程にて真空チャンバ1内の圧力が30Paを超えると、タングステン膜の応力調整が難しくなる。
【0018】

以上によれば、第1工程で窒素ガスに対する希ガスの流量比を1.5以下且つ真空チャンバ1内の圧力を1Pa以上に設定し、その後の第2工程で窒化タングステン膜Ly1の表面にタングステン膜Ly2を成膜したことで、基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズの小さい(例えば、60nm以下の)微細結晶のタングステン膜Ly2を成膜することができる。
【0019】

上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置Smを用いて、以下の実験を行った。発明実験では、Φ300mmのシリコンウエハの表面にSiO(TEOS)膜を100nm成膜したものを基板Swとし、真空チャンバ1にアルゴンガスを300sccmの流量、窒素ガスを200sccmの流量(窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比は1.5)で夫々導入するとともに、コンダクタンスバルブ12の開度を調整して真空チャンバ1内の圧力が1Paを維持するようにした。そして、タングステン製のターゲット3にDC電力を3kW投入するとともに、基板Swにバイアス電力を300W投入して、窒化タングステン膜Ly1を5nm成膜した(第1工程)。その後、真空チャンバ1にアルゴンガスを流量150sccmで導入し、タングステン製のターゲット3にDC電力を6kW投入して、タングステン膜Ly2を195nm成膜した(第2工程)。タングステン膜Ly2が成膜された基板Swの中央部(図3(a))、周縁部(図3(b))及びそれらの中間領域(図3(c))におけるタングステン膜Ly2の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察した結果(AFM像)を図3(a)~(c)に示す。これによれば、後述の比較実験1のもの(図3(d)~(f))及び比較実験2のもの(図3(g)~(i))と比較して、タングステン膜Ly2は基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズの小さい微細結晶であることが確認された。また、このタングステン膜Ly2の表面を走査透過電子顕微鏡(STEM)により観察したところ、グレインサイズは60nm以下であった。
【0020】

上記発明実験に対する比較実験1として、第1工程で真空チャンバ1に導入するアルゴンガスの流量を150sccm、窒素ガスの流量を70sccm(窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比は2.1)とし、真空チャンバ1内の圧力を1Pa未満で維持した点を除き、上記発明実験と同様の方法でタングステン膜Ly2が成膜された基板Swを得た。また、上記発明実験と同様に、タングステン膜Ly2が成膜された基板Swの中央部(図3(d))、周縁部(図3(e))及びそれらの中間領域(図3(f))におけるタングステン膜Ly2の表面をAFMにより観察した結果、上記発明実験のものと比較して、タングステン膜Ly2は基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズが大きい結晶膜であることが確認された。また、このタングステン膜Ly2の表面をSTEMにより観察したところ、グレインサイズは100nm以上であった。
【0021】

また、比較実験2では、第1工程で真空チャンバ1に導入するアルゴンガスの流量を132sccm、窒素ガスの流量を88sccm(窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比は1.5)とし、真空チャンバ1内の圧力を1Pa未満で維持した点を除き、上記発明実験と同様の方法でタングステン膜Ly2が成膜された基板Swを得た。また、上記発明実験と同様に、タングステン膜Ly2が成膜された基板Swの中央部(図3(g))、周縁部(図3(h))及びそれらの中間領域(図3(i))におけるタングステン膜Ly2の表面をAFMにより観察した結果、中央部と中間領域ではグレインサイズの小さい微細結晶である一方、周縁部はグレインサイズが大きい結晶膜であることが確認された。
【0022】

次に、上記発明実験の第1工程の条件(即ち、窒素ガスに対するアルゴンガスの流量比が1.5且つ真空チャンバ1内の圧力が1Pa)で窒化タングステン膜Ly1を成膜した基板Swを用いて、窒化タングステン膜Ly1の表面にタングステン膜Ly2を成膜する実験を行った。この場合、タングステン製のターゲット3への投入電力(DC電力)を6kWに設定した。そして、第2工程で、真空チャンバ1に導入されるアルゴンガスの流量を150~300sccmの範囲で変化させ、タングステン膜Ly2を195nm成膜した(このとき、真空チャンバ1内の圧力は0.1Pa~30Paの範囲となる)。アルゴンガス流量を変化させて成膜したタングステン膜Ly2の応力(MPa)を薄膜応力測定装置により測定し、その結果を図4に示す。これによれば、第2工程で真空チャンバ1に導入されるアルゴンガスの流量、即ち、真空チャンバ1内の圧力(全圧)が増加すると、タングステン膜Ly2の応力は、圧縮方向からゼロ点を経由して引張方向へと変化し、更に引張方向に増加することが確認された。なお、アルゴンガス流量を変化させて成膜したタングステン膜Ly2も、基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズの小さい微細結晶であることを確認した。
【0023】

また、上記発明実験の第1工程の条件で窒化タングステン膜Ly1を成膜した基板Swを用いるとともに、第2工程でタングステン製のターゲット3への投入電力(DC電力)を6kWに設定し、真空チャンバ1に導入するアルゴンガスの流量を300sccmに設定した。そして、バイアス電源Pbから基板Swに投入されるバイアス電力を0~300Wの範囲で変化させ、タングステン膜Ly2を195nm成膜した。バイアス電力を変化させて成膜したタングステン膜Ly2の応力(MPa)を薄膜応力測定装置により測定し、その結果を図5に示す。これによれば、投入されるバイアス電力が増加すると、タングステン膜Ly2の応力は、引張方向からゼロ点を経由して圧縮方向へと変化し、更に圧縮方向に増加することが確認された。なお、バイアス電力を変化させて成膜したタングステン膜Ly2も、基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズの小さい微細結晶であることを確認した。
【0024】

更に、上記発明実験の第1工程の条件で窒化タングステン膜Ly1を成膜した基板Swを用いるとともに、第2工程でタングステン製のターゲット3への投入電力(DC電力)を6kW、真空チャンバ1に導入するアルゴンガスの流量を150sccm、真空チャンバ1内の圧力を10Pa以上に設定し、バイアス電源Pbから基板Swに投入されるバイアス電力を800Wに設定した。そして、マッチングボックスMbによるインピーダンス整合までの時間を0.5~2.0sの範囲で変化させ、タングステン膜Ly2を195nm成膜した。インピーダンス整合までの時間を変化させて成膜したタングステン膜Ly2の応力(MPa)を薄膜応力測定装置により測定し、その結果を図6に示す。これによれば、インピーダンス整合までの時間を長くすると、タングステン膜Ly2の応力は、圧縮方向で減少することが確認された。なお、インピーダンス整合までの時間を変化させて成膜したタングステン膜Ly2も、基板Swの面内全面に亘ってグレインサイズの小さい微細結晶であることを確認した。
【0025】

以上の知見を基に、第2工程にて真空チャンバ1内の全圧及び成膜時に基板Swに投入されるバイアス電力の少なくとも一方を制御することで、タングステン膜Ly2の応力をその膜厚に応じて所定範囲(例えば±300MPa以内、より好ましくは例えば±100MPa以内)に調整することができる。また、基板Swへのバイアス電力がマッチングボックスMbを介して接続されたバイアス電源Pbにより投入される場合、マッチングボックスMbによるインピーダンス整合までの時間を制御することで、第2工程の真空チャンバ1内の圧力が比較的高い場合(例えば10Pa以上)でも、タングステン膜Ly2の応力をその膜厚に応じて所定範囲に調整することもできる。
【0026】

以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空チャンバ1内の全圧、成膜時に基板Swに投入されるバイアス電力及びインピーダンス整合までの時間を単独で変化させて、タングステン膜Ly2の応力を調整するものを例に説明したが、これらのうち2つ以上の条件を同時に変化させて、タングステン膜Ly2の応力を調整することもできる。
【符号の説明】
【0027】

Mb…マッチングボックス、Ly1…窒化タングステン膜、Ly2…タングステン膜、Pb…バイアス電源(交流電源)、Pc…処理室、Sw…基板(被処理基板)、3…ターゲット。
【要約】
タングステン膜を微細結晶膜としながら、膜厚に応じて膜応力の調整を可能としたハードマスクの製造方法を提供する。

ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内に希ガスと窒素ガスとを導入して反応性スパッタリング法により被処理基板Sw表面に窒化タングステン膜Ly1を成膜する第1工程と、ターゲットをタングステン製のものとし、真空雰囲気の処理室内でスパッタリング法により窒化タングステン膜の表面にタングステン膜Ly2を成膜する第2工程とを含む。第1工程にて窒素ガスに対する希ガスの流量比を1.5以下且つ処理室内の圧力を1Pa以上に設定して、第2工程にて処理室内の全圧及び成膜時に被処理基板に投入されるバイアス電力の少なくとも一方の制御によってタングステン膜の膜厚に応じた応力を調整する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6