IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】光経路切り替えシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/27 20130101AFI20241120BHJP
   H04J 14/02 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H04B10/27
H04J14/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023565819
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045407
(87)【国際公開番号】W WO2023105729
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 悠太
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-164847(JP,A)
【文献】特開2002-101432(JP,A)
【文献】国際公開第2021/131001(WO,A1)
【文献】特開2002-84228(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145886(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/27
H04J 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個のノード間に形成される光経路を切り替える光経路切り替えシステムであって、Nは2以上の整数であり、kは1以上N以下の整数であり、前記光経路切り替えシステムは、
波長を切り替えて光を出力することが可能なN個の波長可変レーザと、
前記ノード間の前記光経路に関連付けられた光信号についての情報に基づいて、前記波長可変レーザが出力する光の波長の切り替えを制御する波長可変レーザ制御回路と、
前記N個の波長可変レーザとN個の第1の光路を介して接続されたN個の光トランシーバであって、前記N個の光トランシーバのうちの第kの光トランシーバが、
前記N個のノードのうちの第kのノードと対応し、
電気信号を用いて入力された光を光信号に変換する光変調器と、
光信号を電気信号に変換する光受信器と
を備えている、N個の光トランシーバと、
前記N個の光トランシーバとN個の第2の光路を介して接続された、入力された光信号を分岐するN個のビームスプリッタであって、N個の第3の光路を介して前記波長可変レーザ制御回路と接続されたN個のビームスプリッタと、
前記N個のビームスプリッタとN個の第4の光路を介して接続された、入力された光の波長と入力ポートの位置に応じて出力ポートの位置が異なる、N個の入力ポートと、N個の出力ポートを有する波長ルータ装置であって、前記N個の出力ポートがN個の第5の光路を介して前記N個の光トランシーバと接続された波長ルータ装置と
を備え、
前記N個の波長可変レーザのうちの第kの波長可変レーザから出力された光が、
前記N個の第1の光路のうちの第kの第1の光路を介して、前記N個の光トランシーバのうちの第kの光トランシーバに入力され、
前記第kの光トランシーバの前記光変調器において光信号に変換された後に、前記第2の光路のうちの第kの光路を介して前記N個のビームスプリッタのうちの第kのビームスプリッタに入力され、
前記第kのビームスプリッタにおいて分割された前記光信号の一方が、前記N個の第3の光路のうちの第kの光路を介して前記波長可変レーザ制御回路に入力され、分割された前記光信号の他方が前記N個の第4の光路のうちの第kの光路を介して前記波長ルータ装置の前記N個のポートに入力され、
前記波長ルータ装置においてルーチングされて前記N個の出力ポートのうちの第kの出力ポートから出力された前記光信号が、前記第5の光路のうちの第kの光路を介して、前記N個の光トランシーバのうちの第kの光トランシーバが備える前記光受信器に入力される
ように構成された、光経路切り替えシステム。
【請求項2】
前記第kの光トランシーバの前記光受信器が、
入力される互いに波長の異なる複数の光信号を、波長ごとに受信するように構成されている、請求項1記載の光経路切り替えシステム。
【請求項3】
前記第kの波長可変レーザと前記第kの光トランシーバとを接続する光ファイバと、
前記光ファイバに接続されたサーキュレータであって、前記第kの波長可変レーザと接続される第1のポートと、前記第kの光トランシーバと接続される第2のポートと、前記第kのビームスプリッタと接続される第3のポートとを有するサーキュレータと
をさらに備え、
前記第1の光路の一部と前記第2の光路の一部が1つの前記光ファイバを共有しており、
前記サーキュレータは、前記第1のポートから入力された光を前記第2のポートへ透過し、前記第2のポートから入力された光を前記第3のポートへ透過するように構成されている、請求項1記載の光経路切り替えシステム。
【請求項4】
前記N個の第1の光路、前記N個の第2の光路、前記N個の第3の光路、前記N個の光路、または前記N個の光路のうちの1つまたは複数が、2つ以上のコアを有する1つの多芯線型のファイバにおいて集約されている、請求項1記載の光経路切り替えシステム。
【請求項5】
前記波長可変レーザ制御回路は、
前記波長可変レーザから出力される光が、前記光変調器における変調に用いる信号と干渉しない領域の周波数で変調されるように、前記波長可変レーザを制御し、これにより前記N個の光トランシーバが常に同期する、請求項1記載の光経路切り替えシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光経路切り替えシステム、より詳細には、異なるノード間を簡素な構成で光通信接続する光経路切り替えシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術は長距離伝送では海底ケーブル通信や、近距離ではfiber to the homeなどの数km以上のノード間の通信への応用が一般的であった。また、近年においては、データセンタ内のサーバ間の通信などにも応用が試みられている。(非特許文献1参照)
【0003】
更には、データセンタを構成する個々のサーバ内にすら光通信技術を導入する試みもなされている。この背景には、サーバが処理するデータ量の急激な増加がある。膨大なデータ処理を効率よく実行するために、中央演算装置(CPU)ですべての計算を実施するのではなく、特定の計算に特化した計算回路(アクセラレータ)に分担させる手法が採られる。
【0004】
CPUの負担を軽減することで計算に必要とする低電力化や高速化が期待されている。ただしこのような手法を実現するには、CPUからアクセラレータへのデータ転送の時間を十分短く、かつ低消費電力で実施する必要がある。
【0005】
データ転送を効率化するために、従来のCPUを中心としたコンピュータ設計から、CPUやアクセラレータが大規模なメモリに接続される形態のメモリを中心とした、いわゆるメモリセントリックなコンピュータアーキテクチャの検討が盛んになされている。このようなメモリを中心としたコンピュータアーキテクチャの場合も、CPUやアクセラレータとメモリとの間の高速・低電力通信が重要となる(非特許文献2参照)。
【0006】
コンピュータを構成する要素(以下、本明細書においてノードと呼ぶ)間の通信を高速にするために、CPU、アクセラレータ、およびメモリなどの複数のノードを極力高密度に実装することで、各ノード間の物理的距離を最短化して通信のための電気信号損失を最小化する手法が一般的である。
【0007】
ただし、このような物理的距離を最短化する実装手法においては、集積できるノード数に空間的な制限があるだけでなく、複数のノードが高密度に実装された電子機器の局所発熱が問題となる。
【0008】
そこで、各ノード間の通信を電気から光に置き換えることでこの問題を解決する手法が盛んに検討されている。
【0009】
これは、従来の電気通信が伝送距離によって通信品質が大きく劣化する一方で光通信では通信品質の劣化が著しく小さいからである。
【0010】
すなわち、各ノード間の通信を電気から光に置き換えることにより、コンピュータを構成する各ノード間の物理的に距離に対する要件を緩和する事が可能となる。
【0011】
コンピュータ内の通信を光に置き換える際の大きな問題の1つは、その光通信網の光経路切り替えである。
【0012】
例えば従来は、多数のマッハツェンダ干渉計(MZI)型のスイッチをカスケード接続する事による大規模な光スイッチが報告されている(非特許文献3参照)。
【0013】
ただし、MZI型のスイッチをカスケード接続した光スイッチには、次のような問題がある。
・スイッチの規模が大規模になるほど各MZIスイッチを個別に制御するための制御回路が複雑化する
・光信号はバッファリングする事が非常に困難なため、異なる入力ポートから同一の出力ポートへ光信号が衝突する事を回避するための複雑なスケジューリングのアルゴリズムが必要となる
【0014】
上記の問題を解決するために、高速な波長可変光源と波長ルータ装置(非特許文献4参照)による光経路制御も検討されている。
【0015】
図1は、波長ルータ装置の概略を説明する図である。波長ルータ装置WRは、入力ポート1~8と出力ポート1~8を備えている。入力ポート1~8の各々には、波長λ~λを高速に切り替えることが可能な波長可変光源(不図示)からの光信号が入力される。波長ルーチング機能部は、カスケード接続されたMZIスイッチで構成され、入力ポート1~8から入力した光信号を出力ポート1~8のいずれかにルーチングする。図1において、入力ポート1から入力する光信号の8つの波長をλ1-1~λ8-1として示し、入力ポート2から入力する光信号の8つの波長をλ1-2~λ8-2として示し、入力ポート8から入力する光信号の8つの波長をλ1-8~λ8-8として示している。波長ルーチング機能部において、入力ポート1から入力する波長λ1-1~λ8-1の光信号は出力ポート1~8にそれぞれルーチングされ、入力ポート8から入力する波長λ1-8~λ8-8の光信号は出力ポート8~1にそれぞれルーチングされている。
【0016】
すなわち、図1に示す通り、波長ルーチング機能部は、波長ルータ装置WRのある入力ポートから光信号を入力する際に、所望の出力ポートに光信号が出力されるように光の波長を選択する。
【0017】
波長可変光源の波長さえ正確に制御できれば、それ以降は完全に受動光回路のみを用いた構成で自律的に光信号の経路を制御することが可能になる。
【0018】
ただし、この波長を用いる経路制御においても幾つかの課題がある。まず、波長可変光源の波長精度が課題となる。コンピュータ内に実装される波長可変光源はその物理的なサイズの要請から半導体を用いて構成されたレーザ(以下、単導体レーザ)となるが、半導体レーザは一般に環境温度による波長変動が大きく、ペルチェによる温度制御が必要となる。ここで、各ノードにペルチェの温調機構を実装する事は各ノードのコストの増大や消費電力の増大を意味する。
【0019】
また、各ノードに対応する波長可変光源が光信号を送信する際の、行先に応じた波長に関する情報や(上述の衝突の問題などから)光信号の送信のタイミングに関する情報が必要になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【文献】Ken-ichi Sato, “Realization and Application of Large-Scale Fast Optical Circuit Switch for Data Center Networking,” J. Lightw. Technol., vol. 36, p.1411, 2018.
【文献】Near Margalit, Chao Xiang, Steven M. Bowers, Alexis Bjorlin, Robert Blum, and John E. Bowers , "Perspective on the future of silicon photonics and electronics", Appl. Phys. Lett. 118, 220501 (2021)
【文献】Ryotaro Konoike, Keijiro Suzuki, Shu Namiki, Hitoshi Kawashima, and Kazuhiro Ikeda, "Ultra-compact silicon photonics switch with high-density thermo-optic heaters," Opt. Express 27, 10332-10342 (2019)
【文献】原田啓司、小泓正博、原田秀丸、野口一人、”スター型WDMシステムの開発”, NTT技術ジャーナル 2003.10, p.46
【発明の概要】
【0021】
本開示は、この問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、波長可変光源と波長ルータ装置との組み合わせによる光経路切り替えシステムにおいて、各ノードに波長可変光源を実装する際のコストの増大、消費電力の増大、または、送信制御に付随する遅延を軽減できる光経路切り替えシステムを提供することにある。
【0022】
このような目的を達成するために、本開示の一実施形態は、N個のノード間に形成される光経路を切り替える光経路切り替えシステムであって、Nは2以上の整数であり、kは1以上N以下の整数であり、光経路切り替えシステムは、100ナノ秒以下の時間で波長を切り替えて光を出力することが可能なN個の波長可変レーザ(TL)と、ノード間の光経路に関連付けられた光信号についての情報に基づいて、波長可変レーザ(TL)が出力する光の波長の切り替えを制御する波長可変レーザ制御回路(TLC)と、N個の波長可変レーザとN個の第1の光路(A)を介して接続されたN個の光トランシーバ(TR)であって、N個の光トランシーバのうちの第kの光トランシーバ(TR)が、N個のノードのうちの第kのノードと対応し、電気信号を用いて入力された光を光信号に変換する光変調器(OM)と、光信号を電気信号に変換する光受信器(OR)とを備えている、N個の光トランシーバと、N個の光トランシーバとN個の第2の光路(B)を介して接続された、入力された光信号を分岐するN個のビームスプリッタ(BS)であって、N個の第3の光路(C)を介して波長可変レーザ制御回路と接続されたN個のビームスプリッタと、N個のビームスプリッタとN個の第4の光路(D)を介して接続された、入力された光の波長と入力ポートの位置に応じて出力ポートの位置が異なる、N個の入力ポートと、N個の出力ポートを有する波長ルータ装置(WR)であって、N個の出力ポートがN個の第5の光路(E)を介してN個の光トランシーバと接続された波長ルータ装置とを備える。
【0023】
上記光経路切り替えシステムにおいて、N個の波長可変レーザのうちの第kの波長可変レーザ(TL)から出力された光が、N個の第1の光路(A)のうちの第kの第1の光路(A)を介して、N個の光トランシーバのうちの第kの光トランシーバ(TR)に入力され、第kの光トランシーバの光変調器(OM)において光信号に変換された後に、第2の光路(B)のうちの第kの光路を介してN個のビームスプリッタのうちの第kのビームスプリッタ(BS)に入力され、第kのビームスプリッタ(BS)において分割された光信号の一方が、N個の第3の光路のうちの第kの光路(C)を介して波長可変レーザ制御回路(TLC)に入力され、分割された光信号の他方がN個の第4の光路のうちの第kの光路(D)を介して波長ルータ装置(WR)のN個のポートに入力され、波長ルータ装置(WR)においてルーチングされてN個の出力ポートのうちの第kの出力ポートから出力された光信号が、第5の光路のうちの第kの光路(E)を介して、N個の光トランシーバ(TR)のうちの第kの光トランシーバが備える光受信器(OR)に入力される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、波長ルータ装置の概略を説明する図である。
図2A図2Aは、一実施形態の光経路切り替えシステムの概略構成を示す図である。
図2B図2A中の光トランシーバTRの概略構成を示す図である。
図3A図3Aは、波長可変レーザTLが出力する光の波長がλの状態を示す図である。
図3B図3Bは、波長可変レーザTLが出力する光の波長がλに変わった際の状態を示す図である。
図4図4は、一実施形態の光経路切り替えシステムにおける光トランシーバTRの概略構成を示す図である。
図5A図5Aは、一実施形態のサーキュレータCRを配置した光経路切り替えシステムの概略構成を示す図である。
図5B図5Bは、図5A中の光トランシーバTRの概略構成を示す図である。
図6A図6Aは、本実施形態の光をタップしてモニタする機構(Mk)を配置した光経路切り替えシステムの概略構成を示す図である。
図6B図6Bは、図6A中の光トランシーバTRの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(実施形態1)
図2A、2B、3A、3Bを参照して実施形態1の光経路切り替えシステムを説明する。以下の説明において、Nを2以上の任意の整数とし、kを1以上N以下の整数とする。
【0027】
図2Aに示す光経路切り替えシステムは、N個の波長可変レーザTLと、波長ルータ装置WRと、N個の光トランシーバTRと、N個のビームスプリッタBSと、を備える。また、光経路切り替えシステムは、N個の波長可変レーザTLを制御する波長可変レーザ制御回路TLCをさらに備える。
【0028】
図2Aは、N=8の場合の光経路切り替えシステムを例示するが、本開示の要旨を逸脱しない限り、Nは他の値であってもよい。
【0029】
波長可変レーザTLは、100ナノ秒以下の速さで波長を切り替えることができる波長可変レーザであり、波長λからλの光を選択的に出力することができる。
【0030】
波長ルータ装置WRは、N個の入力ポートと、N個の出力ポートと、N個の入力ポートとN個の出力ポートとの間を接続するN×Nチャネルを有する。波長ルータ装置WRは、周回性アレー回折格子を用いて構成してもよく、リング共振器を用いて構成してもよい。図2Aにおいて、上からk番目の入力ポートを単に入力kと示し、同様に上からk番目の出力ポートを単に出力kと示している。
【0031】
光トランシーバTRは、光を送受信する機能を有する。図2Bは、光トランシーバTRの概略構成を示す図である。図2Bに示すように、光トランシーバTRは、2つの入力ポートと1つの出力ポートを有し、一方の入力ポートから入力された光(被変調光)を電気信号で変調することで光信号に変換して出力ポートから出力する光変調器OMと、もう一方の入力ポートから入力された光信号を電気信号に変換して出力する光受信器ORとを備える。以下、もう一方の入力ポートを受信ポートともいう。
【0032】
ここで光変調器OMの材料や構成は問わない。例えばシリコンによるマッハツェンダ変調器や化合物半導体による電界吸収型変調器を用いることができる。
【0033】
図2Aに示す様に、波長可変レーザTLと光トランシーバTRとの間が光路Aで接続される。光トランシーバTRとビームスプリッタBSとの間が光路Bで接続される。ビームスプリッタBSと波長可変レーザ制御回路TLCとの間が光路Cで接続されるとともに、ビームスプリッタBSと波長ルータ装置WRとの間が光路Dで接続される。波長ルータ装置WRと光トランシーバTRとの間が光路Eで接続される。
【0034】
本実施形態の光経路切り替えシステムは、初期状態として全ての波長可変レーザTLからそれぞれ波長λの光が送信されているとする。
【0035】
図3Aを参照して、本実施形態の光経路切り替えシステムの動作を説明する。図3Aの構成は、図2Aを参照して説明した構成と同じであるため、繰り返しの説明は省略する。図3Aでは特にk=1に関する光の経路を太線で示している。
【0036】
図3Aにおいて、ノードkは、CPU、アクセラレータ、またはメモリなどのコンピュータの構成要素とともに光トランシーバTRを備え、互いに光信号を用いて通信する。
【0037】
波長可変レーザTLから出力された光は光路Aを通じてノードkに実装されている光トランシーバTRの1つの入力ポートに入力される。
【0038】
光トランシーバTRに入力された光は、光トランシーバTRが有する光変調器OMを通過して、光路Bに入力されて、ビームスプリッタBSに達する。
【0039】
ビームスプリッタBSに達した光の一部または全ては、光路Cを通じて、波長可変レーザ制御回路TLCへ入力される。また、ビームスプリッタBSに達した光の一部または全ては、光路Dを通じて波長ルータ装置WRに入力される。換言すると、ビームスプリッタBSに達した光の一部は、光路Cを通じて波長可変レーザ制御回路TLCへ入力され、光の残りの一部は光路Dを通じて波長ルータ装置WRに入力される。あるいは、ビームスプリッタBSに達した光の全ては、光路Cを通じて波長可変レーザ制御回路TLCへ入力されるか、または光路Dを通じて波長ルータ装置WRに入力される。
【0040】
波長可変レーザTLから送信される波長λの光について考えているので、波長ルータ装置WRの入力ポートkに入力された光は、出力ポートkから出力されて光路Eを通じて、ノードkが有する光トランシーバTRの受信ポートに入力される。光トランシーバTRに入力された光は内蔵されている光受信器ORに入力される。
【0041】
従って、この状態においては光トランシーバTRから見ると自身の光変調器OMで変調した光信号について、再び自身の光受信器ORにて受信していることになる。
【0042】
ここでノードk=1がノードk=8と通信を行いたい場合を考える。まずノード1が備える光トランシーバTRが有する光変調器OMによって通信を実施したい相手(すなわちノード8)や通信に伴う関連情報を光信号として出力する。
【0043】
光変調器OMには光路Aを通じて非変調光が入力されており、さらに光路B、光路Cを通じて波長可変レーザ制御回路TLCまでの通信接続があらかじめ成立している点に注意する。
【0044】
光変調器OMで変調された光は、光路B、ビームスプリッタBS、光路Cを経由して波長可変レーザ制御回路TLCに入力される。
【0045】
波長可変レーザ制御回路TLCは、受信された信号(すなわちノード1からノード8への通信要求)によって波長可変レーザTLの出力波長をλからλに変更する。
【0046】
図3Bは、波長可変レーザTLが出力する光の波長がλに変わった際の状態を示す図である。
【0047】
波長可変光源TLの波長切り替え時間は100ナノ秒以下である必要がある。コンピュータを構成する要素(すなわちノード)間における高速な通信に本開示の光経路切り替えシステムを適用することを考慮した場合に、一般的に好ましいと考えらえる波長切り替え時間である。たとえば、ノード間のビットストリームの発現頻度または粒度や、実装における費用対効果を考慮した場合に、波長切り替え時間は、100ナノ秒以下が好ましいと言える。しかしながら、波長可変光源TLの波長切り替え時間は、100ナノ秒以下に限定されず、本開示の光経路切り替えシステムを適用する任意のシステムに要求される任意の切り替え時間とすることができる。
【0048】
これによって光トランシーバTRが備える光変調器OMに波長λの光が入力されることになる。
【0049】
光変調器OMにおいて波長λの光(非変調光)を必要な情報を含むように変調して出力される光信号が、光路B、ビームスプリッタBS、光路Dを通じて波長ルータWRに入力される。
【0050】
波長ルータWRに入力された波長λの光はλに対応する光トランシーバTR(すなわちノード8)に入力され、光トランシーバTRが有する光受信器OMにより受信される。これにより、ノード1とノード8との間の通信が実現される。
【0051】
本開示は、発振波長が環境温度に敏感な光源機能を各ノードに持たせる必要が無い。すなわち温調機能を一か所に集中できるため、光源温調の消費電力を節約できる。
【0052】
また、ノードと対応する波長の情報についても波長可変レーザ制御回路TLCにおいて一元的に管理されていることに加えて、波長可変レーザ制御回路TLCを波長可変光源TRの近くに配置することで、両者の電気的接続(たとえば波長可変光源TRの波長を高速に切り替える高速な電気信号の品質な送受信)も容易になる。
【0053】
さらに、トランシーバTR(すなわちノードk)が追加・変更されても光経路切り替えシステムとして動作する事が可能であるため、保守性や拡張性が担保され得る。
【0054】
(実施形態2)
実施形態1の光経路切り替えシステムの波長ルータ装置WRの出力ポート8において、ノード1以外の他のノードからの光が入力されている場合は、光トランシーバTR(すなわちノード8)が有する光受信器ORは、異なる波長の光信号を一括で受けることになる。すなわち混線が生じるために光信号を正確に受信することができない。
【0055】
それを回避するためには、例えば図3Bを参照して説明した光経路切り替えシステムの状態の場合、波長可変光源TL以外のノード8にアクセスしている波長可変光源TL(k≠1)の出力をOFFにするなどの処置が必要になる。この時、出力をOFFに波長可変光源TL(k≠1)を用いて通信をノードk(k≠1)は通信が遮断された状態となる。これを実現するには、波長可変レーザ制御回路TLCに競合の有無を判定して競合を解決する機構が必要となり、さらに、競合する複数の要求を含む光信号の少なくとも一部を光電変換してバッファリングする機能が必要となる。また、波長可変レーザ制御回路TLCが、ビームスプリッタを介して変調された光信号(データ搬送する光信号)を受信する場合には、必要に応じて波長可変光源TLが波長可変レーザ制御回路TLCでバッファリングした電気信号で所望の波長の光を変調した光信号を出力するように構成する必要がある。波長可変レーザ制御回路TLCが光信号を電気信号に変更してバッファリングする機能を有していたとしても、ノードk(k≠1)の通信に遅延が生じる。
【0056】
この問題を解決するために、周回性アレー回折格子の性質に注目する。図3Bを参照して説明した光経路切り替えシステムの状態におけるノード8が有するTRに注目する。
【0057】
波長ルータ装置WRのN個の入力ポートに入力された光の全てが1つの出力ポート8に出力される事を考えた時に、N個の入力ポートに入力される光の波長は全て異なる事になる(図1の通り)。
【0058】
言い換えると、ノード8に達した光の波長自体がその送信元の波長可変レーザTLがどのレーザに該当するかを示している。
【0059】
つまり、光トランシーバTRが有する光受信器ORが、異なる光波長毎に光を受信できる構成が取られていれば、光トランシーバTRに波長の異なる複数の光信号が入力された場合でも混線なく光信号を受信できる。
【0060】
すなわち、ノード8は自身を除く全てのノードk(k≠8)と並行して通信を実施する事ができるため、上述の混線の問題は解消される。
【0061】
図4は、本実施形態の光経路切り替えシステムにおける光トランシーバTRの概略構成を示す図である。図4の光トランシーバTRは、光受信器ORの構成が異なる点で、図2Bの光トランシーバTRと相違する。図4の光トランシーバTRの光受信器ORは、波長分波器WDと、波長分波器WDの出力に接続されたN個のフォトディテクタPDとを備える。
【0062】
波長分波器WDは、典型的に1×Nポートのアレー回折格子などの波長フィルタの各出力の先にフォトディテクタPDが集積される構成となるが、波長フィルタとしてリング共振器などを用いた他の構成でもより。
【0063】
尚、前述したように、本開示の目的の1つは各ノードの消費電力の低減であるから、図4の波長分波器WDを構成する波長フィルタは、無温調動作(アサーマル)である事が望ましい。例えばアサーマルアレー回折格子は既に市販にて入手できる部品である。
【0064】
(実施形態3)
図2を参照して説明したように、本開示の光経路切り替えシステムは、複数の光路(光路A,B,C,D,E)を含むが、サーキュレータを用いることによって光路の構成を簡素化する事が可能である。
【0065】
図5Aは、本実施形態のサーキュレータCRを配置した光経路切り替えシステムの概略構成を示す図である。サーキュレータCRは、波長可変レーザTLと光トランシーバTRとを接続する光ファイバの間に配置されている。
【0066】
サーキュレータCRは、波長可変レーザTLと接続される第1のポートと、光トランシーバTRと接続される第2のポートと、ビームスプリッタBSと接続される第3のポートとを有する。サーキュレータCRは、第1のポートを介して入力される波長可変レーザTLからの光を光トランシーバTRが接続された第2のポートへ透過し、第2のポートを介して入力される光トランシーバTRからの光をビームスプリッタBSとが接続された第3のポートへ透過する。
【0067】
サーキュレータCRと光トランシーバTRとを接続する1つの光ファイバは、光を双方向に伝搬させることで、光路Aおよび光路Bに対応付けることができる。これにより、配線を簡略化することができる。
【0068】
図5Aに示すように、波長可変レーザTLからサーキュレータCRまでの光路およびサーキュレータCRから光トランシーバTRまでの光路が、光路Aとなる。光トランシーバTRからサーキュレータCRまでの光路が、光路Bの一部となる。さらに、サーキュレータCRからビームスプリッタBSまでの光路が、光路Bの一部となる。
【0069】
図5Bは、本実施形態の光経路切り替えシステムにおける光トランシーバTRの概略構成を示す図である。図5Bの光トランシーバTRは、光変調器OMの入力および出力と接続されたサーキュレータCRを備える点で、図2Bの光トランシーバTRと相違する。図5Bに示すように、光トランシーバTRが備えるサーキュレータCRは、光路Aおよび光路Bを構成する光ファイバと接続される第1のポートと、光変調器OMの入力と接続される第2のポートと、光変調器OMの出力と接続される第3のポートとを有する。サーキュレータCRは、光ファイバ(光路A)が接続された第1のポートを介して入力される波長可変レーザTLからの光を光変調器OMの入力が接続された第2のポートへ透過し、第3のポートを介して入力される光変調器OMの出力からの光を光ファイバ(光路B)が接続された第1のポートへ透過する。このように、光トランシーバTRの中にも光路A→光変調器OM→光路Bの順に光を透過させるサーキュレータCRTRを設置すれば光路Aと光路Bを1つのファイバに集約できる。
【0070】
(実施形態4)
本開示の光経路切り替えシステムにおいて、複数のコアを持つマルチコアファイバ(多芯線型のファイバ)を用いることでも、複数の光路(光路A,B,C,D,E)の構成を簡素化することができる。
【0071】
例えば光路Aと光路Bは2コアファイバ(2つのコアを有するファイバ)にて集約できるので光トランシーバTRのファイバプラグは当該のマルチコアファイバと光路Eと合わせて2つで済む。
【0072】
たとえば、図2Aの光経路切り替えシステムにおいて、波長可変レーザTLと光トランシーバTRとを接続するk本の単一のコアを有する光ファイバを、N個のコアを有する1本のマルチモード光ファイバに集約することができる。
【0073】
また、図5Aの光経路切り替えシステムにおいて、波長可変レーザTLからサーキュレータCRまでの光路A、サーキュレータCRから光トランシーバTRまでの光路Aと光路B、およびサーキュレータCRからビームスプリッタBSまでの光路Bを1本のマルチモード光ファイバに集約することができる
【0074】
更に図2Aおよび図5Aの光経路切り替えシステムにおいて、光路Eについても、波長ルータ装置WRの出力ポートkと光トランシーバTRとの接続に、マルチコアファイバを用いることで、複数の光路を1本のマルチモード光ファイバに集約することができ。光トランシーバTRのファイバプラグは1つで済むことになる。同様に、ビームスプリッタBSと波長可変レーザ制御回路TLCとの間の光路C、およびビームスプリッタBSと波長ルータ装置WRとの間の光路Dを、1本のマルチモード光ファイバにそれぞれ集約してもよい。
【0075】
(実施形態5)
本開示の波長可変レーザ制御回路TLCがすべての波長可変レーザTLを一元的に管理または制御している。
【0076】
さらに、図2Aおよび図5Aを参照して説明した光経路切り替えシステムにおける光トランシーバTRのすべてが光を出力していれば、各光トランシーバTRは、経路Aを通じて、常に波長可変レーザTLからの光を受信していることになる。
【0077】
そこで、波長可変レーザTRにおいて、光変調器OMの変調信号と干渉しない領域の周波数で周期的に変調した光を同期信号として出力するとともに、光トランシーバTRにおいて、光路Aからの光の一部をタップして同期信号をモニタする機構(Mk)が備わっていれば、波長可変レーザTLと光トランシーバTRを常に同期しておくことが可能となる。
【0078】
図6Aは、本実施形態の光をタップしてモニタする機構Mを配置した光経路切り替えシステムの概略構成を示す図である。図6Aに示す構成は、図5Aに示す構成と略同じである。図6Aには波長可変レーザ制御回路TLCから波長可変レーザTLに対して供給される光の周波数(同期信号の周波数)と、波長可変レーザTRに入力される波長可変レーザTLからの光の周波数(同期信号の周波数)を示す正弦波の形状のシンボルが教示されている。
【0079】
図6Bは、図6A中の光トランシーバTRの概略構成を示す図である。図6Bの光トランシーバTRは、光路Aを介して波長可変レーザTLからの光が入力する入力ポートと、光変調器OMの入力との間に配置され、波長可変レーザTLからの光の一部をタップしてモニタする機構Mを備える点で、図2Bの光トランシーバTRと相違する。機構Mにおけるモニタの結果に基づくフィードバックが、任意の通信方式用いて波長可変レーザ制御回路TLCに提供されてもよい。
【0080】
上述の通り、波長可変レーザ制御回路TLCがすべての波長可変レーザTLを一元的に管理していることから、すなわち上記の同期機構を用いれば波長可変レーザ制御回路TLCがすべての光トランシーバTR間の同期を保つことが可能になる。
【0081】
したがって、例えば図3Bを参照して説明したように、ノード8がノード1からの光信号を受信する場合においてもノード8は直ちに光信号を受信できる(バースト対応である)ことになる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の光経路切り替えシステムによれば、異なるノード間を簡素な構成で光通信接続することが可能になる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B