(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】定着装置、及び、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G03G15/20 555
(21)【出願番号】P 2021017288
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100117215
【氏名又は名称】北島 有二
(72)【発明者】
【氏名】杉山 龍平
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/038532(WO,A1)
【文献】特開平09-281845(JP,A)
【文献】特開2003-066762(JP,A)
【文献】特開2012-252194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段によって加熱されて、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着部材と、
前記定着部材に圧接することでシートが搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、
前記定着部材又は前記加圧部材の幅方向端部の温度を検知する端部温度検知手段と、
を備え、
前記端部温度検知手段は、幅方向に移動可能に構成
され、
前記端部温度検知手段によって検知される温度に基づいて、前記ニップ部に搬送されたシートが基準位置に対して幅方向に位置ズレした状態で搬送されなかったか否かと、前記位置ズレが幅方向一端側へのものであるか幅方向他端側へのものであるかと、が判別されることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記端部温度検知手段は、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズの領域外であって、その幅方向サイズに応じて幅方向に移動されることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記端部温度検知手段は、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズが小さくなるときに幅方向中央側に移動して、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズが大きくなるときに幅方向端部側に移動することを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
加熱手段によって加熱されて、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着部材と、
前記定着部材に圧接することでシートが搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、
前記定着部材又は前記加圧部材の幅方向端部の温度を検知する端部温度検知手段と、
を備え、
前記端部温度検知手段は、
幅方向に移動可能に構成されて、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズの領域外であって、その幅方向サイズに応じて幅方向に移動されて、
前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズが小さくなるときに幅方向中央側に移動して、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズが大きくなるときに幅方向端部側に移動し、
前記端部温度検知手段によって検知される温度に基づいて、前記ニップ部に搬送されたシートが基準位置に対して幅方向に位置ズレした状態で搬送されなかったか否かと、前記位置ズレが幅方向一端側へのものであるか幅方向他端側へのものであるかと、が判別される
ことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
前記端部温度検知手段は、前記幅方向一端側に設置されて、前記ニップ部に搬送されるシートの幅方向サイズに応じて増減する非通紙領域において最も高温となることが予想される最大温度位置に対して幅方向中央側に移動され、
前記端部温度検知手段によって検知された温度が移動した位置における予想温度に略一致する場合には、前記ニップ部に搬送されたシートの前記基準位置に対する位置ズレはないものと判別され、
前記端部温度検知手段によって検知された温度が前記予想温度よりも小さい場合には、前記ニップ部に搬送されたシートが前記基準位置に対して幅方向一端側に位置ズレしたものと判別され、
前記端部温度検知手段によって検知された温度が前記予想温度よりも大きい場合には、前記ニップ部に搬送されたシートが前記基準位置に対して幅方向他端側に位置ズレしたものと判別されることを特徴とする
請求項1~請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記端部温度検知手段は、前記幅方向一端側に設置されて、
前記加圧部材の幅方向一端側と幅方向他端側とをそれぞれ冷却する第1状態と、前記加圧部材の幅方向一端側を冷却する第2状態と、前記加圧部材の幅方向他端側を冷却する第3状態と、を切替可能な冷却装置を備え、
前記ニップ部に搬送されたシートの前記基準位置に対する位置ズレはないものと判別された場合には、前記冷却装置が前記第1状態に切替えられ、
前記ニップ部に搬送されたシートが前記基準位置に対して幅方向他端側に位置ズレしたものと判別された場合には、前記冷却装置が前記第2状態に切替えられ、
前記ニップ部に搬送されたシートが前記基準位置に対して幅方向一端側に位置ズレしたものと判別された場合には、前記冷却装置が前記第3状態に切替えられることを特徴とする
請求項1~請求項5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記加圧部材を覆うケース部に、前記加圧部材の幅方向一端側に向けて開口する第1開口部と、前記加圧部材の幅方向他端側に向けて開口する第2開口部と、が形成され、
前記冷却装置は、
冷却ファンと、
前記冷却ファンから送出された空気を前記第1開口部と前記第2開口部とを介して前記加圧部材に向けて導くことが可能なダクトと、
前記第1開口部と前記第2開口部とを開放した前記第1状態と、前記第1開口部を開放して前記第2開口部とを閉鎖した前記第2状態と、前記第1開口部を閉鎖して前記第2開口部とを開放した前記第3状態と、を切替可能なシャッタ部材と、
を具備したことを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記定着部材の幅方向中央部の温度を検知する中央部温度検知手段を備え、
前記中央部温度検知手段の検知結果に基づいて前記加熱手段が制御されることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着装置と、それを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置における定着装置において、定着部材(定着ローラ)や加圧部材(加圧ローラ)の非通紙領域の温度を温度検知手段(温度センサ)で検知する技術が広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
詳しくは、定着装置は、定着ローラ(定着部材)に、加圧ローラ(加圧部材)が圧接していて、シート(用紙)が搬送されるニップ部(定着ニップ)が形成されている。定着ローラは、ヒータや電磁誘導コイルや抵抗発熱体などの加熱手段によって加熱される。そして、ニップ部に搬送されたシート上のトナー像が、定着ローラから受ける熱と、ニップ部の圧力と、によって、シート上に定着されることになる。
【0004】
一方、特許文献1には、幅方向サイズが異なるシートがニップ部に搬送されたときに幅方向に増減する非通紙領域の温度(定着ローラの温度)をそれぞれ検知するための温度センサを、異なる幅方向サイズごとに複数設置する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の定着装置は、幅方向サイズが異なるシートがニップ部に搬送されたときに増減する非通紙領域の定着部材(又は、加圧部材)の温度をそれぞれ検知するために、異なる幅方向サイズごとに複数の温度センサを設置していた。そのため、温度センサの数が多くなって、装置が大型化、高コスト化してしまっていた。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、複数の温度検知手段を設置することなく、幅方向サイズが異なるシートがニップ部に搬送されたときに幅方向に増減する非通紙領域の定着部材又は加圧部材の温度を検知することができる、定着装置、及び、画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明における定着装置は、加熱手段によって加熱されて、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着部材と、前記定着部材に圧接することでシートが搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、前記定着部材又は前記加圧部材の幅方向端部の温度を検知する端部温度検知手段と、を備え、前記端部温度検知手段は、幅方向に移動可能に構成され、前記端部温度検知手段によって検知される温度に基づいて、前記ニップ部に搬送されたシートが基準位置に対して幅方向に位置ズレした状態で搬送されなかったか否かと、前記位置ズレが幅方向一端側へのものであるか幅方向他端側へのものであるかと、が判別されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の温度検知手段を設置することなく、幅方向サイズが異なるシートがニップ部に搬送されたときに幅方向に増減する非通紙領域の定着部材又は加圧部材の温度を検知することができる、定着装置、及び、画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の実施の形態における画像形成装置を示す全体構成図である。
【
図3】定着ローラに対する端部温度センサと中央部温度センサとの幅方向の位置関係を示す概略図である。
【
図5】冷却装置によって定着ローラの非通紙領域における過昇温を軽減する効果を示す図である。
【
図6】シートのサイズと、中央位置からシート端部までの距離と、中央位置から移動後の端部温度センサまでの距離と、の関係を示すグラフである。
【
図7】(A)所定サイズのシートが幅方向他端側に位置ズレしたときの定着ローラの表面分布を示すグラフと、(B)所定サイズのシートが幅方向一端側に位置ズレしたときの定着ローラの表面分布を示すグラフと、である。
【
図8】端部温度センサを用いてシートの幅方向の位置ズレを判別する制御を示すフローチャートである。
【
図9】
図8の制御における温度T3、T4の関係を示すグラフである。
【
図10】変形例としての、定着装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
まず、
図1にて、画像形成装置1における全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのタンデム型カラー複写機、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部、3は原稿Dを原稿読込部4に搬送する原稿搬送部、4は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、を示す。
また、7は用紙等のシートPが収容される給紙部、9はシートPの搬送タイミングを調整するレジストローラ(タイミングローラ)、11Y、11M、11C、11BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナー像が形成される感光体ドラム、を示す。
【0012】
また、12は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面を帯電する帯電部、13は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に形成される静電潜像を現像する現像部、14は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に形成されたトナー像をシートPの表面に重ねて転写する1次転写ローラ、15は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に残留した未転写トナーを回収するクリーニング部、を示す。
また、16は中間転写ベルト17を清掃する中間転写ベルトクリーニング部、17は複数色のトナー像が重ねて転写される中間転写ベルト、18は中間転写ベルト17上のカラートナー像をシートP上に転写するための2次転写ローラ、20はシートP上のトナー像(未定着画像)を定着する定着装置、を示す。
【0013】
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成時の動作(印刷動作)について説明する。
まず、原稿Dは、原稿搬送部3の搬送ローラによって、原稿台から搬送されて、原稿読込部4のコンタクトガラス5上に載置される。そして、原稿読込部4で、コンタクトガラス5上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0014】
詳しくは、原稿読込部4は、コンタクトガラス5上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
【0015】
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応する感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に向けて発せられる。
【0016】
一方、4つの感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKは、それぞれ、
図1の反時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、帯電部12との対向部で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面には、帯電電位が形成される。
その後、帯電された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する(露光工程である。)。詳しくは、書込み部2において、4つの光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応してそれぞれ射出される。各レーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる。
【0017】
イエロー成分に対応したレーザ光は、紙面左側から1番目の感光体ドラム11Yの表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラーにより、感光体ドラム11Yの回転軸方向(主走査方向、幅方向)に走査される。こうして、帯電部12にて帯電された後の感光体ドラム11Y上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
【0018】
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、紙面左から2番目の感光体ドラム11Mの表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、紙面左から3番目の感光体ドラム11Cの表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、紙面左から4番目の感光体ドラム11BKの表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
【0019】
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、現像部13との対向位置に達する。そして、各現像部13から感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に形成された潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、中間転写ベルト17との対向部に達する。ここで、それぞれの対向部には、中間転写ベルト17の内周面に当接するように1次転写ローラ14が設置されている。そして、1次転写ローラ14の位置で、中間転写ベルト17上に、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に形成された各色のトナー像が、順次重ねて転写される(1次転写工程である。)。
【0020】
そして、転写工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、クリーニング部15との対向位置に達する。そして、クリーニング部15で、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、除電部を通過して、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKにおける一連の作像プロセスが終了する。
【0021】
他方、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面の各色のトナーが重ねて転写(担持)された中間転写ベルト17は、
図1の時計方向に走行して、2次転写ローラ18との対向位置に達する。そして、2次転写ローラ18との対向位置で、シートP上に中間転写ベルト17上に担持されたカラーのトナー像が転写される(2次転写工程である。)。
その後、中間転写ベルト17の表面は、中間転写ベルトクリーニング部16の位置に達する。そして、中間転写ベルト17上に付着した未転写トナーが中間転写ベルトクリーニング部16に回収されて、中間転写ベルト17における一連の転写プロセスが終了する。
【0022】
ここで、中間転写ベルト17と2次転写ローラ18との間(2次転写ニップである。)に搬送されるシートPは、給紙部7からレジストローラ9等を経由して搬送されるものである。
詳しくは、シートPを収納する給紙部7から、給紙ローラ8により給送されたシートPが、搬送経路を通過した後に、レジストローラ9に導かれる。レジストローラ9に達したシートPは、タイミングを合わせて、2次転写ニップに向けて搬送される。
【0023】
そして、フルカラー画像が転写されたシートPは、搬送ベルトによって定着装置20に導かれる。定着装置20では、定着ローラと加圧ローラとのニップ部(定着ニップ)にて、カラー画像(トナー像)がシートPの表面に定着される(定着工程である。)。
そして、定着工程後のシートPは、排紙ローラによって、装置本体1の外部に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセス(印刷動作)が完了する。
【0024】
次に、
図2等を用いて、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ローラ21、加熱手段としてのヒータ25、加圧部材としての加圧ローラ31、定着ローラ21の幅方向中央部の温度(表面温度)を検知する中央部温度検知手段としての中央部温度センサ40(固定温度センサ)、定着ローラ21の幅方向端部の温度(表面温度)を検知する端部温度検知手段としての端部温度センサ41(可動温度センサ)、端部温度センサ41を幅方向に移動するためのセンサ移動機構55、加圧ローラ31の幅方向端部の過昇温を軽減するための冷却装置70、等で構成されている。
【0025】
ここで、定着部材としての定着ローラ21(定着回転体)は、ステンレス鋼などの金属材料からなる中空構造の芯金21a上に、被覆層21b(弾性層と離型層とが積層されたものである。)が形成された多層構造のローラ部材であって、加圧部材としての加圧ローラ31に圧接してニップ部(定着ニップ)を形成している。
定着ローラ21の被覆層21bにおける弾性層は、フッ素ゴム、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム等の弾性材料で形成されている。定着ローラ21の被覆層21bにおける離型層は、PFA(4フッ化エチレンバーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)等で形成されている。定着ローラ21の表層に離型層を設けることにより、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保されることになる。定着ローラ21は、駆動モータ51によって
図2の時計方向に回転駆動される。
【0026】
中空構造の定着ローラ21(芯金21a)の内部には、加熱手段としてのヒータ25が固設されている。
ヒータ25は、棒状に形成されたハロゲンヒータであって、その両端部が定着装置20の側板に固定されている。そして、画像形成装置本体1のメインスイッチがオン(電源オン)された状態で、電源部(不図示)からヒータ25に電力が供給される。そして、制御部50により出力制御(PID制御)されたヒータ25からの輻射熱によって定着ローラ21が加熱されて、さらに加熱された定着ローラ21の表面からシートP上のトナー像Tに熱が加えられる。
ヒータ25の出力制御は、幅方向(
図2の紙面垂直方向であって、
図3、
図4の左右方向である。)の中央部において定着ローラ21表面に非接触で対向する中央部温度センサ40(中央部温度検知手段)によるローラ表面温度の検知結果に基づいておこなわれる。詳しくは、中央部温度センサ40(サーモパイル)の検知結果に基づいて定められる通電時間だけ、電源部からヒータ25に交流電圧が印加される。このようなヒータ25の出力制御によって、定着ローラ21の温度(定着温度)を所望の温度(目標制御温度)に調整制御することができる。
【0027】
また、加圧部材としての加圧ローラ31(加圧回転体)は、主として、芯金32と、芯金32の外周面を覆う被覆層としての弾性層33と、からなるローラ部材である。
加圧ローラ31の弾性層33(被覆層)は、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、等の材料で形成されている。なお、弾性層33の表層にPFA等からなる薄肉の離型層を設けて、弾性層33と離型層とで被覆層を構成することもできる。
そして、加圧ローラ31は、不図示の加圧機構によって定着ローラ21に圧接する。こうして、加圧ローラ31と定着ローラ21との間に、所望のニップ部が形成される。
加圧ローラ31は、定着ローラ21の回転にともない、
図2の反時計方向に従動回転する。
【0028】
なお、本実施の形態における定着装置20には、端部温度センサ41(端部温度検知手段)やセンサ移動機構55が設けられているが、これらについては後で
図3等を用いて詳しく説明する。
また、本実施の形態における定着装置20には、
図5に示すように加圧ローラ31の幅方向端部の過昇温を軽減するための冷却装置70が設けられているが、これについても後で
図4等を用いて詳しく説明する。
【0029】
上述のように構成された定着装置20は、次のように動作する。
装置本体1のメインスイッチが投入されると、不図示の電源部からヒータ25に交流電圧が印加(給電)される。
そして、印刷指令(プリント要求)が入力されると、駆動モータ51(駆動機構)によって定着ローラ21の時計方向の回転駆動が開始されて、加圧ローラ31の反時計方向の従動回転が開始される。その後、給紙部7からシートPが給送されて、2次転写ローラ18の位置で、中間転写ベルト17上のトナー像がシートP上に未定着画像として担持される。未定着画像T(トナー像)が担持されたシートPは、
図2の矢印方向に搬送されて、圧接状態にある定着ローラ21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。そして、定着ローラ21による加熱と、定着ローラ21及び加圧ローラ31の押圧力とによって、シートPの表面にトナー像Tが定着される。そして、定着工程後のシートPは、回転する定着ローラ21及び加圧ローラ31によって、ニップ部から矢印方向に送出される。
【0030】
以下、本実施の形態における定着装置20(画像形成装置1)において、特徴的な構成・動作について詳しく説明する。
先に
図2等を用いて説明したように、本実施の形態における定着装置20には、定着部材としての定着ローラ21の幅方向中央部の温度(表面温度)を検知する中央部温度検知手段としての中央部温度センサ40が設けられている。そして、この中央部温度センサ40の検知結果に基づいて、定着温度が所望の範囲内になるように、ヒータ25(加熱手段)が制御される。
ここで、上述した定着ローラ21の「幅方向中央部」は、幅方向の中央位置M(
図3参照)又はその近傍であって、通紙可能な最小サイズのシートPの通紙領域、すなわち、通紙可能なすべてのサイズのシートPに対して通紙領域となりうる部分である。
【0031】
また、本実施の形態において、シートPは、その幅方向サイズに関わらず、その幅方向の中心が、定着ローラ21や加圧ローラ31の中央位置Mと一致するように(センター基準となるように)、搬送される。ただし、給紙部7におけるシートPのセット状態や、給紙部7から定着装置20に至るシートPの搬送経路の部品精度や組付け精度や搬送精度などによって、シートPの幅方向中心と中心位置Mとが位置ズレした状態で搬送されてしまうことがある。すなわち、定着装置20のニップ部において、シートPが、基準位置(狙いの位置)に対して幅方向に位置ズレした状態(片寄った状態)で搬送されてしまうことがある。そして、本実施の形態では、中央部温度センサ40とは別に設けられた端部温度センサ41の検知結果に基づいて、そのようなニップ部におけるシートPの位置ズレ(片寄り)の有無や、その方向が判別されることになるが、これについては後で
図4、
図7等を用いて詳しく説明する。
【0032】
図3、
図4等に示すように、本実施の形態における定着装置20には、定着ローラ21(定着部材)の幅方向端部の温度を検知する端部温度検知手段としての端部温度センサ41が1つだけ設置されている。この端部温度センサ41(端部温度検知手段)は、定着ローラ21の表面に非接触で対向するサーモパイル、非接触サーミスタなどの非接触型温度センサであって、ニップ部におけるシートPの位置ズレ(片寄り)の有無や方向を判別するためのものである。
【0033】
そして、本実施の形態において、端部温度センサ41(端部温度検知手段)は、幅方向(シートPの搬送方向に直交する
図2の紙面垂直方向であって、
図3、
図4の左右方向である。)に移動可能に構成されている。
詳しくは、定着装置20には、
図2、
図3に示すように、端部温度センサ41を幅方向に移動可能なセンサ移動機構55が設けられている。具体的に、本実施の形態において、センサ移動機構55は、端部温度センサ41が保持された送りネジ57(幅方向に延びるように設置されている。)、送りネジ57を正逆双方向に回転可能なモータ56、端部温度センサ41が回転しないようにガイドするガイド部(不図示)、などで構成されている。
なお、センサ移動機構55は、このような構成のものに限定されることなく、種々の構成のものを用いることができる。
【0034】
さらに詳しくは、本実施の形態において、端部温度センサ41(端部温度検知手段)は、ニップ部(定着ニップ)に搬送されるシートPの幅方向サイズ(幅方向の大きさである。)の領域外(非通紙領域)であって、その幅方向サイズに応じて幅方向に移動される。
具体的に、制御部50によるセンサ移動機構55の制御によって、端部温度センサ41は、ニップ部(定着ニップ)に搬送されるシートPの幅方向サイズが小さくなるときに幅方向中央側に移動して、ニップ部に搬送されるシートPの幅方向サイズが大きくなるときに幅方向端部側に移動することになる。
なお、シートPの幅方向サイズに関する情報は、ユーザーによって操作パネル100(
図1、
図2参照)に入力されるシート情報に基づいて制御部50で把握することができる。また、給紙部7などにサイズ検知センサを設けて、そのサイズ検知センサによってシートPの幅方向サイズを直接的に検知して、その検知結果に基づいてシートPの幅方向サイズに関する情報を取得することもできる。
【0035】
さらに具体的に、本実施の形態では、
図6に示すように、幅方向サイズがA5サイズのシートPが通紙されるときには、中央位置Mからシート端部までの幅方向の距離(位置ズレがない正常時のものである。)が74mmであるのに対して、中央位置Mから端部温度センサ41までの幅方向の距離が95mmとなるように、センサ移動機構55によって端部温度センサ41を移動している。
これに対して、幅方向サイズがB5サイズのシートPが通紙されるときには、中央位置Mからシート端部までの幅方向の距離が91mmであるのに対して、中央位置Mから端部温度センサ41までの幅方向の距離が110mmとなるように、センサ移動機構55によって端部温度センサ41を移動している。
また、幅方向サイズがA4サイズのシートPが通紙されるときには、中央位置Mからシート端部までの幅方向の距離が105mmであるのに対して、中央位置Mから端部温度センサ41までの幅方向の距離が115mmとなるように、センサ移動機構55によって端部温度センサ41を移動している。
また、幅方向サイズがLTサイズ(レターサイズ)のシートPが通紙されるときには、中央位置Mからシート端部までの幅方向の距離が108mmであるのに対して、中央位置Mから端部温度センサ41までの幅方向の距離が120mmとなるように、センサ移動機構55によって端部温度センサ41を移動している。
また、幅方向サイズがB4サイズのシートPが通紙されるときには、中央位置Mからシート端部までの幅方向の距離が128.5mmであるのに対して、中央位置Mから端部温度センサ41までの幅方向の距離が135mmとなるように、センサ移動機構55によって端部温度センサ41を移動している。
なお、
図3に示す端部温度センサ41の幅方向の位置は、A4サイズのシートPが通紙されるときのものである。
【0036】
このように、
図6にシートサイズごとに示した端部温度センサ41の位置は、ニップ部に搬送されるシートPの幅方向サイズに応じて増減する非通紙領域(シートPが通過する幅方向の通紙領域の外側の領域であって、幅方向サイズが大きくなるほど幅方向の大きさが減少する領域である。)において最も高温となることが予想される最大温度位置(
図7参照)に対して幅方向中央側に僅かにズレた位置(中央部に比べて高温となる山部の中腹に相当する位置である。)である。
すなわち、本実施の形態において、端部温度センサ41(端部温度検知手段)は、幅方向一端側に設置されて、ニップ部に搬送されるシートPの幅方向サイズに応じて増減する非通紙領域において最も高温となることが予想される最大温度位置に対して幅方向中央側に移動されることになる。
このように、端部温度センサ41を最大温度位置に対して幅方向中央側に僅かにズレた位置にするのは、後で
図4を用いて説明するように、シートPの位置ズレ(片寄り)を判別するためである。
なお、シートPの幅方向サイズごとに異なる「最大温度位置(ピーク温度位置)」は、実験結果やシミュレーション結果に基づいて種々の印刷条件ごとに予め求められ、制御部50に記憶されたものである。
【0037】
そして、本実施の形態では、端部温度センサ41(端部温度検知手段)によって検知される温度に基づいて、ニップ部(定着ニップ)に搬送されたシートPが基準位置(シート幅方向中心と装置の中央位置Mとが一致する
図4(A)の位置である。)に対して幅方向に位置ズレした状態で搬送されなかったか否かと、その位置ズレが幅方向一端側(端部温度センサ41に近づく方向であって、
図4の左側である。)へのものであるか幅方向他端側(端部温度センサ41から遠ざかる方向であって、
図4の右側である。)へのものであるかと、が演算部91(制御部50)で判別されることになる。
【0038】
詳しくは、端部温度センサ41(端部温度検知手段)によって検知された温度が移動した位置における予想温度Tx(
図7参照)に略一致する場合(幅方向の温度分布(プロファイル)が
図7の実線に示すグラフR0に略一致した場合である。)には、
図4(A)に示すように、ニップ部に搬送されたシートPの基準位置に対する位置ズレはないものと判別される。
これに対して、端部温度センサ41によって検知された温度が上述した予想温度Txよりも小さい場合(幅方向の温度分布が
図7(B)の破線に示すグラフR2のようにシフトした場合である。)には、
図4(C)に示すように、ニップ部に搬送されたシートPが基準位置に対して幅方向一端側(
図4の左側である。)に位置ズレしたものと判別される。
さらに、端部温度センサ41によって検知された温度が上述した予想温度Txよりも大きい場合(幅方向の温度分布が
図7(A)の破線に示すグラフR1のようにシフトした場合である。)には、
図4(B)に示すように、ニップ部に搬送されたシートPが基準位置に対して幅方向他端側(
図4の右側である。)に位置ズレしたものと判別される。
このように、シートPの幅方向の位置ズレにともない、幅方向の温度分布(プロファイル)も位置ズレするのは、シートPの幅方向の位置ズレにともない非通紙領域も位置ズレするためである。そして、シートPの幅方向の位置ズレによって広くなった片側の非通紙領域では、狭くなったもう一方の側の非通紙領域に比べて、過昇温が生じやすくなる。
なお、上述した「非通紙領域の過昇温」は、ニップ部においてシートPが通過する通紙領域ではシートPによって定着ローラ21や加圧ローラ31の熱が奪われるのに対して、ニップ部においてシートPが通過しない非通紙領域ではそのようなシートPによる奪熱がなく、また先に説明したような中央部温度センサ40による温度制御により生じるものである。そして、そのような「非通紙領域の過昇温」は、シートPが連続的に通紙されるとき(連続通紙時)に顕著になる。
【0039】
ここで、このような端部温度センサ41によるシートPの位置ズレ(片寄り)に関する判別が精度良くおこなわれるためには、シートPの連続通紙がおこなわれて、非通紙領域における昇温が飽和状態になっている必要がある。しかし、そのように飽和状態になってからシートPの位置ズレを判別するのでは、飽和状態に至るまでの昇温によって定着ローラ21や加圧ローラ31に熱的損傷が生じてしまう可能性がある。そのため、本実施の形態では、上述したような飽和状態に達する前の過渡状態にて、シートPの位置ズレを判別している。
【0040】
以下、
図8のフローチャートを用いて、そのような過渡状態における制御について説明する。
まず、ユーザーによる操作パネル100の操作によって印刷(ジョブ)が開始されると(ステップS1)、通紙されるシートPの幅方向サイズに関する情報が制御部50にて取得される(ステップS2)。そして、そのシートPの幅方向サイズの情報に基づいて、センサ移動機構55が駆動されて、端部温度センサ41が
図6の表図に基づいた位置に移動される(ステップS3)。そして、その位置で端部温度センサ41によって初期温度T0が検知され、初期温度T0が記憶部91に記憶される(ステップS4)。また、それと同時に、制御部50にてカウンタ値が初期化されてカウンタ値が0として記憶される(ステップS5)。そして、ここから、シートPの位置ズレに関する判定が開始される。
【0041】
まず、端部温度センサ41の検知温度Tが第1所定温度T1より高いかが判別される(ステップS6)。なお、この第1所定温度T1は、先に
図7を用いて説明した予想温度Txであって、サイズごとに制御部50に記憶された温度である。また、ステップS6の判別は、印刷中は常におこなわれる。
その結果、端部温度センサ41の検知温度Tが第1所定温度T1より高いものと判別された場合には、
図4(B)に示すようにシートPが幅方向他端側に片寄って搬送されているものと判別される(ステップS7)。
これに対して、ステップS6にて、端部温度センサ41の検知温度Tが第1所定温度T1より高くないものと判別された場合には、カウンタ値が0であるかが判別されて(ステップS8)、カウンタ値が0でないときにはステップS6以降のフローが繰り返され、カウンタ値が0であるときには印刷スタートからの経過時間が所定時間t秒であるかがタイマー90(
図2参照)の時間から判別される(ステップS9)。すなわち、印刷スタートから所定時間t秒が経過したときに、一度だけ、
図4(C)に示すようにシートPが幅方向一端側に片寄って搬送されているかが判別される。
なお、上述した所定時間t秒は、任意に設定可能であるが、短すぎるとシートPの位置ズレ検知の精度が低くなってしまう。これに対して、所定時間t秒が長すぎると、シートPの位置ズレ検知に要する時間が長くなってしまう。本実施の形態では、このような観点から、所定時間t秒を通紙10枚分程度の時間に設定している。
【0042】
その結果、印刷スタートからの経過時間が所定時間t秒に達していない場合にはステップS6以降のフローが繰り返され、印刷スタートからの経過時間が所定時間t秒に達している場合には、さらステップS4で取得した初期温度T0が第2所定温度T2よりも高いかが判別される(ステップS10)。そして、初期温度T0が第2所定温度T2よりも高い場合には、印刷スタートから所定時間t秒が経過するまでに、端部温度センサ41によって検知された温度上昇量の平均値が第3所定温度T3よりも小さいかが判別される(ステップS11)。そして、その結果、温度上昇量の平均値が第3所定温度T3よりも小さい場合には、
図4(C)に示すようにシートPが幅方向一端側に片寄って搬送されているものと判別される(ステップS12)。
また、ステップS10にて初期温度T0が第2所定温度T2よりも高くない場合には、印刷スタートから所定時間t秒が経過するまでに、端部温度センサ41によって検知された温度上昇量の平均値が第4所定温度T4(>T3)よりも小さいかが判別される(ステップS13)。そして、その結果、温度上昇量の平均値が第4所定温度T4よりも小さい場合には、
図4(C)に示すようにシートPが幅方向一端側に片寄って搬送されているものと判別される(ステップS12)。
これに対して、ステップS11で温度上昇量の平均値が第3所定温度T3よりも小さくない場合や、ステップS13で温度上昇量の平均値が第4所定温度T4よりも小さくない場合には、カウンタ値を1として(ステップS14)、ステップS6以降のフローを繰り返す。
【0043】
ここで、上述した第3、第4所定温度T3、T4は、シートPが位置ズレしていない状態で通紙されたときの、印刷スタートから所定時間t秒が経過するまでの温度上昇量の時間平均値である。第3、第4所定温度T3、T4は、印刷の生産性や定着装置20の温まり具合によっても変化するものであって、
図9に示すように変化する。
図6において、横軸は所定時間tが経過するときのシートPの通過距離(搬送距離)を所定時間tで割った値であって、この値が高いほど印刷の生産性が高いことになる。
図9に示すように、印刷の生産性が高いほど温度上昇量の時間平均値が大きくなる。
また、第4所定温度T4は、初期温度T0が第2所定温度T2以下であって、定着装置20が冷えているときに使用される値である。定着装置20が冷えているときは、初期の温度上昇量も大きくなる。
これに対して、第3所定温度T3は、初期温度T0が第2所定温度T2より高くて、定着装置20が温まっているときに使用される値である。定着装置20が温まっているときは、冷えているときよりも、初期の温度上昇量が小さくなる。
このように、本実施の形態では、定着装置20の温まり具合を第2所定温度T2を設定して2段階に分けたが、定着装置20の温まり具合をさらに多段階に分けることもでき、そのような場合にはシートPの位置ズレ検知をさらに精度良くおこなうことができる。
【0044】
ここまで、説明したように、本実施の形態における定着装置20は、異なるシートサイズ(
図6参照)ごと(変化する非通紙領域ごと)に複数の端部温度センサを設置するのではなく、1つの移動可能な端部温度センサ41を用いて、シートサイズ(幅方向サイズ)が異なるシートPが通紙されるときに変化する、定着ローラ21における非通紙領域の表面温度を検知している。
そのため、通紙可能な異なるシートサイズの数が多くても、装置がそれほど大型化、高コスト化することなく、また複数の温度センサを設けるスペースを確保することが難しい場合であっても、幅方向サイズが異なるシートPが通紙されたときに幅方向の大きさが変化する非通紙領域の定着ローラ21の表面温度(温度分布)を精度良く把握することができる。
また、それにより、シートPの幅方向サイズに関わらず、シートPの幅方向の位置ズレ(片寄り)を精度良く検知することができる。
【0045】
以下、本実施の形態における冷却装置70について詳述する。
図4を参照して、冷却装置70は、
図4(A)に示すように加圧ローラ31(加圧部材)の幅方向一端側と幅方向他端側とをそれぞれ冷却する第1状態と、
図4(B)に示すように加圧ローラ31の幅方向一端側(
図4の左側であって、端部温度センサ41が設置された側である。)を冷却する第2状態と、加圧ローラ31の幅方向他端側(
図4の右側であって、端部温度センサ41が設置されていない側である。)を冷却する第3状態と、を切替可能に構成されている。
【0046】
詳しくは、
図4に示すように、定着装置20には、加圧ローラ31(加圧部材)を覆うケース部38(定着装置20全体の外装として機能している。)が設けられている。そして、ケース部38には、加圧ローラ31の幅方向一端側に向けて開口する第1開口部38aと、加圧ローラ31の幅方向他端側に向けて開口する第2開口部38bと、が形成されている。
一方、冷却装置70は、冷却ファン71、ダクト73、シャッタ部材72などで構成されている。
冷却ファン71は、外気を定着装置20に向けて
図4の白矢印方向に流動させるものである。
ダクト73は、冷却ファン71から送出された空気を第1開口部38aと第2開口部と38bを介して加圧ローラ31に向けて導くことが可能な部材である。ダクト73を設けることで、冷却ファン71から送出された空気が加圧ローラ31に向けて無駄なく効率的に導かれることになる。
シャッタ部材72は、
図4(A)に示すように第1開口部38aと第2開口部38bとを開放した第1状態と、
図4(B)に示すように第1開口部38aを開放して第2開口部38bとを閉鎖した第2状態と、
図4(C)に示すように第1開口部38aを閉鎖して第2開口部38bとを開放した第3状態と、を切替可能な部材である。具体的に、シャッタ部材72は、制御部50によって制御される不図示のシャッタ移動機構(例えば、ラック・ピニオン機構や、リンク機構などで構成されている。)によって、
図4の幅方向に移動することになる。
なお、本実施の形態では、定着装置20に冷却装置70を一体的に設けたが、定着装置20に対して冷却装置70を別体として着脱可能に構成することもできる。その場合、画像形成装置本体1に対して定着装置20が着脱される動作に連動することなく、冷却装置70を画像形成装置本体1に固定して設置することができる(装置本体1側の構成部材とすることができる)。
【0047】
そして、ニップ部(定着ニップ)に搬送されたシートPの基準位置(
図4(A)に示す幅方向の位置である。)に対する幅方向の位置ズレはないものと判別された場合には、
図4(A)に示すように冷却装置70が第1状態(デフォルト状態であって、位置ズレ有りの判定がされるまでこの状態が維持される。)に切替えられる。すなわち、制御部50によるシャッタ移動機構(不図示)の制御により、シャッタ部材72が
図4(A)の位置(第1、第2開口部38a、38bを開放する位置である。)に移動される。
これに対して、ニップ部に搬送されたシートPが上述した基準位置に対して幅方向他端側に位置ズレしたものと判別された場合には、
図4(B)に示すように冷却装置70が第2状態に切替えられる。すなわち、制御部50によるシャッタ移動機構(不図示)の制御により、シャッタ部材72が
図4(B)の位置(第2開口部38bを閉鎖する位置である。)に移動される。
また、ニップ部に搬送されたシートPが上述した基準位置に対して幅方向一端側に位置ズレしたものと判別された場合には、
図4(C)に示すように冷却装置70が第3状態に切替えられる。すなわち、制御部50によるシャッタ移動機構(不図示)の制御により、シャッタ部材72が
図4(C)の位置(第1開口部38aを閉鎖する位置である。)に移動される。
【0048】
このように冷却装置70を設けることで、
図5に示すように、冷却装置70を設けない場合に比べて、加圧ローラ31の非通紙領域における過昇温を軽減することができる。
特に、加圧ローラ31の弾性層33はシリコーン材料で形成されていて、シリコーン材料が高温に達するとシロキサン等を含む揮発性有機化合物(VOC)が多く発生してしまうため、加圧ローラ31の非通紙領域における過昇温を抑える必要がある。これに対して、本実施の形態では、そのような加圧ローラ31の非通紙領域における過昇温を軽減しているため、そのような揮発性有機化合物の発生を低減することができる。
【0049】
そして、本実施の形態では、先に
図7等を用いて説明したように、端部温度センサ41を用いたシートPの幅方向の位置ズレ検知によって、位置ズレがないものと判断された場合には、加圧ローラ31における非通紙領域における過昇温が幅方向両端部にそれぞれ同程度に生じるため、冷却装置70を第1状態にして加圧ローラ31の幅方向両端部をそれぞれ充分に冷却している。
これに対して、端部温度センサ41を用いたシートPの幅方向の位置ズレ検知によって、幅方向他端側への位置ズレが生じたものと判断された場合には、加圧ローラ31における非通紙領域における過昇温が幅方向一端側で大きく生じるため、冷却装置70を第2状態にして加圧ローラ31の幅方向一端側を充分に冷却している。
また、端部温度センサ41を用いたシートPの幅方向の位置ズレ検知によって、幅方向一端側への位置ズレが生じたものと判断された場合には、加圧ローラ31における非通紙領域における過昇温が幅方向他端側で大きく生じるため、冷却装置70を第2状態にして加圧ローラ31の幅方向他端側を充分に冷却している。
このような冷却装置70の制御をおこなうことで、シートPの幅方向の位置ズレ(片寄り)の有無やその方向に関わらず、加圧ローラ31の非通紙領域における過昇温を軽減して、揮発性有機化合物の発生を効率的に低減することができる。
【0050】
<変形例>
図10(A)、(B)は、それぞれ、変形例としての定着装置20を示す構成図であって、本実施の形態における
図2に対応する図である。
本実施の形態では、熱ヒータ方式の定着装置20であって、定着ローラ21の幅方向端部の温度を検知する端部温度センサ41(端部温度検知手段)を用いてシートPの位置ズレを検知した。
しかし、本発明が適用される定着装置20はこのような熱ヒータ方式のものに限定されることなく、例えば、
図10(A)に示すように、電磁誘導方式(IH方式)の定着装置20であって、電磁誘導加熱用の定着ローラ21(例えば、弾性層に、励磁コイルが巻装された誘導加熱部80によって電磁誘導加熱される発熱層21a1が形成されたローラ部材である。)が設置されたものに本発明を適用することもできる。
さらに、
図10(B)に示すように、加圧ローラ31の幅方向端部の温度を検知する端部温度センサ41(端部温度検知手段)を用いた場合であっても、先に
図7を用いて説明したようなシートPの位置ズレにともなう温度分布のシフトをある程度検知できるため、シートPの位置ズレを検知することができる。
そして、それらのような場合であっても、本実施の形態のものとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態における定着装置20は、ヒータ25(加熱手段)によって加熱されてトナー像Tを加熱してシートPの表面に定着する定着ローラ21(定着部材)と、定着ローラ21に圧接することでシートPが搬送されるニップ部を形成する加圧ローラ31(加圧部材)と、が設けられている。また、定着ローラ21(又は加圧ローラ31)の幅方向端部の温度を検知する端部温度センサ41(端部温度検知手段)が設けられている。そして、端部温度センサ41は、幅方向に移動可能に構成されている。
これにより、複数の端部温度センサ(温度検知手段)を設置することなく、幅方向サイズが異なるシートPがニップ部に搬送されたときに幅方向に増減する非通紙領域の定着ローラ21(又は、加圧ローラ31)の温度を検知することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、定着部材として定着ローラ21を用いて、加圧部材として加圧ローラ31を用いたが、定着部材や加圧部材はこれらに限定されることなく、例えば、定着部材として定着ベルトを用いることもできるし、加圧部材として加圧ベルトを用いることもできる。
また、本実施の形態では、
図3、
図4において端部温度センサ41を中央位置Mに対して左側端部に設置したが、端部温度センサ41を中央位置Mに対して右側端部に設置することもできる。すなわち、本実施の形態では、端部温度センサ41が設置された「幅方向一端側」を
図3、
図4の左側端部としたが、端部温度センサ41が設置された「幅方向一端側」を
図3、
図4の右側端部とすることもできる。
そして、それらのような場合にも、本実施の形態のものと同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明が本実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、本実施の形態の中で示唆した以外にも、本実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【0054】
なお、本願明細書等において、「幅方向」とは、シートの搬送方向に対して直交する方向であるものと定義する。
また、本願明細書等において、「シート」とは、紙(用紙)の他に、コート紙、ラベル紙、OHPシート、フィルムシート等のシート状の記録媒体のすべてを含むものと定義する。
【符号の説明】
【0055】
1 画像形成装置(画像形成装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ローラ(定着部材)、
25 ヒータ(加熱手段)、
31 加圧ローラ(加圧部材)、
38 ケース部、
38a 第1開口部、
38b 第2開口部、
40 中央部温度センサ(中央部温度検知手段、固定温度センサ)、
41 端部温度センサ(端部温度検知手段、可動温度センサ)、
55 センサ移動機構、
70 冷却装置、
71 冷却ファン、
72 シャッタ部材、
73 ダクト、
M 中央位置、
P シート(用紙)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】