(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】表面造形方法及び表面造形装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20241120BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241120BHJP
B23K 26/359 20140101ALI20241120BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20241120BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20241120BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/00 H
B23K26/359
B23K26/364
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2020195528
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019215176
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、文部科学省、光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)事業「光量子科学によるものづくりCPS化拠点」、「先端ビームによる微細構造物形成過程解明のためのオペランド計測」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】ヂン タンフン
(72)【発明者】
【氏名】錦野 将元
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 方一
(72)【発明者】
【氏名】東口 武史
(72)【発明者】
【氏名】坂上 和之
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215269(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014226917(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/352
B23K 26/00
B23K 26/359
B23K 26/364
B23K 26/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの表面を構成する材料の内殻吸収端に対応する波長に応じて、前記表面に照射するX線レーザの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する波長選択工程と、
前記表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する照射密度選択工程と、
前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザを前記表面に照射する照射工程と、を含む、
ことを特徴とする表面造形方法。
【請求項2】
前記表面造形の態様が細孔の形成である場合、
前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面造形方法。
【請求項3】
前記表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、
スリットを通過することによって、前記X線レーザから回折X線レーザを得る回折工程を更に含み、
前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、
前記照射工程は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれる前記回折X線レーザを前記表面に照射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面造形方法。
【請求項4】
前記表面造形の態様が格子模様の形成である場合、
前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、
前記照射工程は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれる前記X線レーザを、複数ショット前記表面に照射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面造形方法。
【請求項5】
前記材料は、シリコン又は窒化シリコンである、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の表面造形方法。
【請求項6】
ターゲットの表面にX線レーザを照射する表面造形装置であって、
前記表面を構成する材料の内殻吸収端に対応する波長に応じて、前記X線レーザの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する波長選択部と、
前記表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する照射密度選択部と、
前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザを前記表面に照射する照射機構と、を備えている、
ことを特徴とする表面造形装置。
【請求項7】
前記表面造形の態様が細孔の形成である場合、
前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する、
ことを特徴とする請求項6に記載の表面造形装置。
【請求項8】
前記表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、
前記X線レーザを通過させることによって回折X線レーザを得るスリットを更に備え、
前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、
前記照射機構は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれる前記回折X線レーザを前記表面に照射する、
ことを特徴とする請求項6に記載の表面造形装置。
【請求項9】
前記表面造形の態様が格子模様の形成である場合、
前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、
前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、
前記照射機構は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれる前記X線レーザを、複数ショット前記表面に照射する、
ことを特徴とする請求項6に記載の表面造形装置。
【請求項10】
前記X線レーザを生成するX線レーザ光源と、
前記X線レーザ光源を制御する光源制御部と、
X線フィルタと、を更に備え、
前記光源制御部は、前記X線レーザの波長が前記照射波長となるように前記X線レーザ光源を制御し、
前記X線フィルタは、前記X線レーザのエネルギー密度が前記照射エネルギー密度に近づくように、前記X線レーザの強度を低下させる、
ことを特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載の表面造形装置。
【請求項11】
前記X線レーザ光源は、前記X線レーザの波長を、少なくとも1nm以上200nm以下の範囲において変化させることができる波長可変レーザ光源であり、
前記X線フィルタは、前記表面における照射スポットにおけるエネルギー密度を、少なくとも10mJ/cm
2以上の範囲において変化させる、
ことを特徴とする請求項10に記載の表面造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面造形方法及び表面造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、解像度10nm以下の表面造形技術は、いわゆる低強度・低温造形プロセスを用いたリソグラフィによって実現されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、リソグラフィプロセスでは、パターンの造形にあたって露光から現像までに多数の工程が含まれているため、さらなる量産化や低価格化を実現するためには、より単純なプロセスを用いた直接的な精密加工技術(換言すれば表面造形方法)が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る表面造形方法は、ターゲットの表面を構成する材料の内殻吸収端に対応する波長に応じて、前記表面に照射するX線レーザの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する波長選択工程と、前記表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する照射密度選択工程と、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザを前記表面に照射する照射工程と、を含む。
【0005】
上記の構成によれば、照射波長が1nm以上200nm以下の範囲の何れかであり、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲の何れかであり、且つ、照射エネルギー密度が適宜選択されたX線レーザをターゲットの表面に照射することによって、前記表面に表面造形を施すことができる。本表面造形方法は、従来のリソグラフィプロセスのように複数のプロセスを必要しないので、リソグラフィプロセスと比較して、より単純であり、且つ、より直接的な表面造形方法である。
【0006】
本発明の第2の態様に係る表面造形方法は、上述した第1の態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記表面造形の態様が細孔の形成である場合、前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する、構成が採用されている。
【0007】
上記の構成によれば、ターゲットの表面のうちX線レーザを照射した照射領域の外縁近傍にリム部の生成が抑制された細孔を形成することができる。なお、本願明細書において、リム部とは、細孔の縁の外側近傍に環状に生じ得る盛りあがった部分のこと、すなわち熱影響を受けた意図しない構造を有する部分のことを指す。なお、熱影響を受けた意図しない構造を有する部分のことをHAZ(Heat Affected Zone)と呼ぶこともある。
【0008】
本発明の第3の態様に係る表面造形方法は、上述した第1の態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、スリット等の回折光学素子を通過することによって、前記X線レーザから回折X線レーザを得る回折工程を更に含み、前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、前記照射工程は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる前記回折X線レーザを前記表面に照射する、構成が採用されている。
【0009】
上記の構成によれば、ターゲットの表面のうちX線レーザを照射した照射領域にホログラフィックな模様を形成することができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る表面造形方法は、上述した第1の態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記表面造形の態様が格子模様の形成である場合、前記波長選択工程は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択工程は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、前記照射工程は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる前記X線レーザを、複数ショット前記表面に照射する、構成が採用されている。
【0011】
上記の構成によれば、ターゲットの表面のうちX線レーザを照射した照射領域に格子模様を形成することができる。
【0012】
本発明の第5の態様に係る表面造形方法は、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様の構成に加えて、前記材料は、シリコン又は窒化シリコンである、構成が採用されている。
【0013】
このように、ターゲットの材料としてはシリコン又は窒化シリコンが好適である。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の第6の態様に係る表面造形装置は、ターゲットの表面にX線レーザを照射する表面造形装置であって、前記表面を構成する材料の内殻吸収端に対応する波長に応じて、前記X線レーザの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する波長選択部と、前記表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する照射密度選択部と、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザを前記表面に照射する照射機構と、を備えている。
【0015】
上記の構成によれば、本発明の第1の態様に係る表面造形方法と同じ効果を奏する。
【0016】
本発明の第7の態様に係る表面造形装置は、上述した第6の態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記表面造形の態様が細孔の形成である場合、前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する、構成が採用されている。
【0017】
上記の構成によれば、本発明の第2の態様に係る表面造形方法と同じ効果を奏する。
【0018】
本発明の第8の態様に係る表面造形装置は、上述した第6の態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、前記X線レーザを通過させることによって回折X線レーザを得るスリットを更に備え、前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、前記照射機構は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる前記回折X線レーザを前記表面に照射する、構成が採用されている。
【0019】
上記の構成によれば、本発明の第3の態様に係る表面造形方法と同じ効果を奏する。
【0020】
本発明の第9の態様に係る表面造形装置は、上述した第6の態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記表面造形の態様が格子模様の形成である場合、前記波長選択部は、前記内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、前記照射密度選択部は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択し、前記照射機構は、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる前記X線レーザを、複数ショット前記表面に照射する、構成が採用されている。
【0021】
上記の構成によれば、本発明の第4の態様に係る表面造形方法と同じ効果を奏する。
【0022】
本発明の第10の態様に係る表面造形装置は、上述した第6の態様~第9の態様の何れか一態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記X線レーザを生成するX線レーザ光源と、前記X線レーザ光源を制御する光源制御部と、X線フィルタと、を更に備え、前記光源制御部は、前記X線レーザの波長が前記照射波長となるように前記X線レーザ光源を制御し、前記X線フィルタは、前記X線レーザのエネルギー密度が前記照射エネルギー密度に近づくように、前記X線レーザの強度を低下させる、構成が採用されている。
【0023】
本発明の範疇には、このようにX線レーザ光源を含んだ表面造形装置も含まれる。
【0024】
本発明の第11の態様に係る表面造形装置は、上述した第6の態様~第10の態様の何れか一態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記X線レーザ光源は、前記X線レーザの波長を、少なくとも1nm以上200nm以下の範囲において変化させることができる波長可変レーザ光源であり、前記X線フィルタは、前記表面における照射スポットにおけるエネルギー密度を、少なくとも10mJ/cm2以上の範囲において変化させる、構成が採用されている。
【0025】
上記の構成によれば、様々な材料により表面が構成されたターゲットに対して表面造形を施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、リソグラフィプロセスと比較して、より単純であり、且つ、より直接的な表面造形方法及び表面造形装置を提供すること。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表面造形装置の模式図である。
【
図2】(a)は、全開の状態を示す4象限スリットの正面図である。(b)は、下側に位置する障立が閉じた状態の4象限スリットの正面図である。
【
図3】
図1に示した表面造形装置が備えている制御部の機能ブロック図である。
【
図4】X線レーザを表面に照射されたターゲットの模式図である。
【
図5】本発明の一変形例である表面造形方法のフローチャートである。
【
図6】(a)~(f)は、それぞれ、シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン、サファイヤ、炭素、及びPMMAの吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
【
図7】(a)~(g)は、それぞれ、白金、金、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、及びジルコニウムの吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
【
図8】(a)は、本発明の第1の実施例により得られたシリコン製のターゲットの斜視図である。(b)は、(a)に示したシリコン製のターゲットの断面図である。(c)及び(d)は、それぞれ、本発明の第1の比較例及び第2の比較例により得られたシリコン製のターゲットの斜視図である。
【
図9】熱的加工及び非熱的加工における加工閾値の波長依存性を示すグラフである。
【
図10】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。(c)及び(d)は、本発明の第3の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。(e)及び(f)は、本発明の第4の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。
【
図11】本発明の第5の実施例により得られた窒化シリコン製のターゲットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔表面造形装置〕
本発明の一実施形態に係る表面造形装置10について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、表面造形装置10の模式図である。
図2の(a)は、全開の状態を示す4象限スリット12の正面図である。
図2の(b)は、下側に位置する障立123が閉じた状態の4象限スリットの正面図である。
図3は、表面造形装置10が備えているX線レーザ光源11が生成したX線レーザLを表面に照射されたターゲットTの模式図である。
図4は、表面造形装置10が備えている制御部18の機能ブロック図である。
【0029】
図1に示すように、表面造形装置10は、X線レーザ光源11と、4象限スリット12と、ガスエネルギーモニター13と、K-Bミラー14と、X線フィルタ15と、パソコンPCと、を備えている。4象限スリット12、ガスエネルギーモニター13、K-Bミラー14、及びX線フィルタ15は、照射機構10Aを構成する。照射機構10Aは、
図3に示す波長選択部161が選択する照射波長、及び、照射密度選択部162が選択する照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10
-18秒以上1×10
-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLをターゲットTの表面に照射する。波長選択部161及び照射密度選択部162を含む制御部16については、
図3を参照して後述する。
【0030】
表面造形装置10は、ターゲットTの表面に対して微細な表面造形を施すことができる。表面造形の態様としては、細孔の形成、ホログラフィックな模様の形成、及び、格子模様の形成が挙げられる。
【0031】
本実施形態においては、X線レーザLを照射されるターゲットTとして、(100)配向のp型シリコンの単結晶を採用している。ただし、ターゲットTを構成する材料は、シリコンに限定されるものではない。ターゲットを構成する他の材料としては、例えば、窒化シリコン、炭化シリコン、サファイヤ、炭素、ポリメチルメタクリレート(polymethylmetha crylate、PMMA)、白金、金、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、及びジルコニウムが挙げられる。炭素の態様は、限定されるものではなく、グラファイトであってもよいし、グラフェンであってもよいし、カーボンナノファイバであってもよいし、ダイヤモンドであってもよい。PMMAは、リソグラフィプロセスに用いられるレジスト材料の一例である。ターゲットTを構成する材料は、PMMA以外のレジスト材料であってもよい。なお、ターゲットTを構成する材料としては、シリコン又は窒化シリコンが好ましい。
【0032】
<X線レーザ光源>
X線レーザ光源11は、波長が1nm以上200nm以下の範囲に含まれ、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを生成する軟X線レーザ光源である。
【0033】
X線レーザ光源11は、X線レーザLの波長を少なくとも1nm以上200nm以下の範囲において変化させることができる波長可変レーザ光源であることが好ましい。
【0034】
本実施形態においては、X線レーザ光源11として、X線自由電子レーザ(X-ray Free Electron Laser :XFEL)の一例であるSACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)を採用している。表面造形装置10は、X線レーザ光源11が生成したX線レーザLを集光し、ターゲットTの表面に照射する。本実施形態において、X線レーザLのパルス幅として、70×10-15秒(70フェムト秒)を採用した。なお、X線レーザLのパルス幅は、パルスの半値幅を用いて定義している。また、本実施形態において、X線レーザ光源11は、X線レーザLの偏光方向が水平面と平行になるように構成されている。ただし、X線レーザLの偏光方向は、水平面と平行な方向に限定されるものではない。
【0035】
ただし、本発明の一態様において、X線レーザ光源11は、SACLAに限定されるものではなく、波長が1nm以上200nm以下の範囲に含まれ、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを生成するレーザ光源のなかから適宜選択することができる。例えば、X線レーザ光源11は、プラズマを用いたX線レーザ光源であってもよいし、高次高調波を用いて上述した波長のX線レーザを生成するX線レーザ光源であってもよい。
【0036】
<4象限スリット>
4象限スリット12は、X線レーザ光源11と、後述するガスエネルギーモニター13との間に配置されている。4象限スリット12は、互いに独立に動く4つの障立121,122,123,124を備えている。4象限スリット12は、スリットの一例である。なお、
図2の(a)及び(b)に示した4象限スリット12は、X線レーザ光源11の側から正面視した状態を示している。障立121,122,123,124の各々は、それぞれ、上側、右側、下側、左側の障立である。なお、4象限スリット12の配置位置は、後述するK-Bミラー14の上流側(X線レーザ光源11側)であればよいので、後述するガスエネルギーモニター13と、後述するK-Bミラーとの間でも構わない。
【0037】
障立121及び123は、近接する側の長辺同士が離間するように配置されている。
図1に示した状態において、障立121及び123の各々が、独立して上下方向に動くことによって、障立121及び123の近接する側の長辺同士の間隔(上下方向におけるスリットの間隔)と、上下方向におけるスリットの位置とを適宜変更することができる。同様に、障立122及び124は、近接する側の長辺同士が離間するように配置されている。
図1に示した状態において、障立122及び124の各々が、独立して左右方向に動くことによって、障立122及び124の近接する側の長辺同士の間隔(左右方向におけるスリットの間隔)と、左右方向におけるスリットの位置とを適宜変更することができる。例えば、
図2の(a)には、障立121,122,123,124が全開である状態の4象限スリット12を図示している。また、
図2の(b)には、障立123が閉じた状態の4象限スリット12を図示している。障立123を閉じることによって、X線レーザLは、下半分が遮られる。その結果、4象限スリット12を通過することによって、X線レーザLは、障立123の長辺のうち障立121側の長辺において回折される。以下において、この回折されたX線レーザ光のことを回折X線レーザと称する。
【0038】
なお、本実施形態において、4象限スリット12は、後述するパソコンPCにより障立121,122,123,124の各々の位置を制御されている。ただし、4象限スリット12は、手動により制御されるように構成されていてもよい。
【0039】
<ガスエネルギーモニター>
ガスエネルギーモニター13は、X線レーザLの1ショットごとのエネルギーを検出する。ガスエネルギーモニター13が検出したX線レーザLのエネルギーは、パソコンPCに供給される。
【0040】
<K-Bミラー>
K-B(Kirkpatrick-Baez)ミラー14は、X線レーザ光源11が生成したX線レーザLをターゲットTの表面に集光する。
【0041】
<X線フィルタ>
X線フィルタ15は、X線レーザLの強度を低下させる。本実施形態では、ジルコニウム製の板状部材と、シリコン製の板状部材とのうち少なくとも何れか一方を用いてX線フィルタ15を構成している。X線フィルタ15は、様々な膜厚をもつジルコニウム製の板状部材及びシリコン製の板状部材の各々の数を適宜調整することによって、X線レーザLの透過率を変化させることができる。その結果、X線フィルタ15は、X線レーザLの強度を所望の強度に調整することができるので、ターゲットTの表面における照射スポットにおけるエネルギー密度を所望のエネルギー密度に調整することができる。なお、X線フィルタ15は、照射スポットにおけるエネルギー密度を少なくとも10mJ/cm2以上の範囲において変化させることができるように、上記板状部材の膜厚及び数の組み合わせが構成されていることが好ましい。
【0042】
上述したように、本実施形態では、X線レーザLを照射されるターゲットTとして、(100)配向のp型シリコンの単結晶を用いている。p型シリコンの単結晶は、その主面がX線レーザLの光軸と直交するように、該光軸上に配置されている。また、上述したK-Bミラー14によって、X線レーザLは、ターゲットTの主面上に集光されている。
【0043】
<パソコン>
パソコンPCは、表面造形装置10を制御する制御部16を備えている。
図1に示すように、制御部16は、X線レーザ光源11及び4象限スリット12の各々を制御する。また、制御部16は、ガスエネルギーモニター13が検出したX線レーザLのエネルギーを取得し、表示部に表示させる。制御部16が備えている具体的な各機能ブロックついては、
図3を参照して次に説明する。
【0044】
図3に示すように、制御部16は、波長選択部161と、照射密度選択部162と、スリット制御部163と、光源制御部164とを備えている。
【0045】
(波長選択部)
波長選択部161は、ターゲットTの表面を構成する材料(本実施形態ではシリコン)の内殻吸収端に対応する波長に応じて、X線レーザLの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する。
【0046】
本実施形態では、波長選択部161が照射波長を選択するために用いる内殻吸収端としてシリコンのL殻吸収端を採用し、照射波長として10.3nmを採用している。
【0047】
(照射密度選択部)
照射密度選択部162は、ターゲットTの表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する。なお、表面造形の態様の具体例については、後述する。
【0048】
照射密度選択部162は、照射エネルギー密度を選択する場合に、予め定められた加工閾値を参照し、表面造形の態様に応じて、この加工閾値を上回るように又は下回るように、照射エネルギー密度を選択する。この加工閾値は、X線レーザLのエネルギー密度を変化させながら、ターゲットTの表面にX線レーザLを照射することによって、実験的に定めることができる。
【0049】
(スリット制御部)
スリット制御部163は、4象限スリット12が備えている障立121,122,123,124の各々の位置を制御することによって、上下方向におけるスリットの間隔及び位置と、左右方向におけるスリットの間隔及び位置を調整する。例えば、スリット制御部163は、
図2の(a)及び(b)に示すように4象限スリット12の状態を制御する。
【0050】
(光源制御部)
光源制御部164は、X線レーザLの波長が前記照射波長となるように、X線レーザ光源11を制御する。
【0051】
<X線レーザとターゲットとの相互作用>
上述したように構成された表面造形装置10は、ターゲットTの表面に集光した状態のX線レーザLを照射することができる。
図4には、X線レーザLを表面に照射されたターゲットTを模式的に示している。
【0052】
X線レーザLをターゲットTに照射することによってターゲットTをレーザ加工する場合、
図4に示すように、第1次相互作用領域R
1と、第2次相互作用領域R
2とが発生する。第1次相互作用領域R
1は、X線レーザLがターゲットTの表面に照射された照射スポットに対応する領域であり、X線レーザLとターゲットTを構成する材料とが直接相互作用する領域である。一方、第2次相互作用領域R
2は、X線レーザLを直接照射される領域ではないもの、第1次相互作用領域R
1において生じた熱の影響を受ける可能性がある領域である。
【0053】
従来、レーザ加工のために用いるレーザ光としては、波長が赤外域に属する赤外レーザが広く用いられていた。連続発振された赤外レーザ、あるいは、パルス幅が比較的長い赤外レーザ(例えばパルス幅がナノ秒オーダー)を用いた場合、第1次相互作用領域R1において生じた熱の影響を受けることにより、第2次相互作用領域R2では、変質や、開口外縁部の盛り上がり(以下においてリム部と称する)や、ひび割れなどといった、ユーザが意図しない構造が発生していた。その結果、加工精度が悪化していた。
【0054】
それに対して、フェムト秒オーダーのパルス幅をもつ赤外レーザを用いた場合、上述した意図しない構造の発生が抑制されることが知られている。しかし、より微細な表面造形を行うためには、X線レーザLの照射波長をより短くする必要があった。本発明の一態様は、このような技術思想に基づきなされている。
【0055】
(細孔の形成)
例えば、表面造形の態様が細孔の形成である場合、波長選択部161は、内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、照射密度選択部162は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。照射機構10Aは、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLをターゲットTの表面に照射する。
【0056】
本実施形態では、上述したように、波長選択部161が照射波長を選択するために用いる内殻吸収端としてシリコンのL殻吸収端を採用し、照射波長として10.3nmを採用している。
【0057】
その結果、ターゲットTの表面のうちX線レーザLを照射した照射領域の外縁近傍には、
図8の(a)及び(b)に示すような、リム部の生成が抑制された細孔が形成される。
【0058】
なお、シリコンにおける加工閾値は、照射波長が10.3nmである場合、106mJ/cm2であり、照射波長が13.5nmである場合、418mJ/cm2である。この加工閾値は、実験的に定めることができ、シリコン以外の他の材料に対しても定めることができる。例えば、窒化シリコンにおいては、照射波長が10.3nmである場合、加工閾値は200mJ/cm2であり、照射波長が13.5nmである場合、加工閾値は400mJ/cm2である。また、フッ化リチウムにおいては、照射波長が10.3nmおよび13.5nmである場合、加工閾値は多少の揺らぎを有するものの、10mJ/cm2以上20mJ/cm2以下の範囲内に含まれる。
【0059】
なお、本実施形態においては、表面造形の態様がホログラフィックな模様を形成する場合、及び、格子模様を形成する場合においても、波長選択部161が照射波長を選択するために用いる内殻吸収端としてシリコンのL殻吸収端を採用し、照射波長として10.3nmを採用し、加工閾値として106mJ/cm2を採用している。したがって、加工閾値の90%は、95.4mJ/cm2である。
【0060】
(ホログラフィックな模様の形成)
また、例えば、表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、スリット制御部163は、
図2の(b)に示すように、4象限スリット12の障立123を閉じるように4象限スリット12を制御する。その結果、X線レーザLが4象限スリット12を通過することによって、回折X線レーザが得られる。
【0061】
そのうえで、波長選択部161は、内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、照射密度選択部162は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。照射機構10Aは、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる回折X線レーザをターゲットTの表面に照射する。
【0062】
その結果、ターゲットTの表面のうちX線レーザLを照射した照射領域には、
図10に示すようなホログラフィックな模様が形成される。
【0063】
(格子模様の形成)
また、例えば、表面造形の態様が格子模様の形成である場合、波長選択部161は、内殻吸収端に対応する波長より短い波長を前記照射波長として選択し、照射密度選択部162は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。照射機構10Aは、前記照射波長及び前記照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを、複数ショットターゲットTの表面に照射する。本実施形態において、表面に照射するX線レーザLのショット数は、100ショットである。
【0064】
その結果、ターゲットTの表面のうちX線レーザLを照射した照射領域には、
図11に示すような格子模様が形成される。なお、X線レーザLの偏光方向は、
図11における上下方向と平行になるように定められている。一方、
図11を参照すれば、ターゲットTの表面に形成された格子模様の行及び列は、上述したX線レーザLの偏光方向から傾いていることが分かる。
【0065】
〔変形例〕
本発明の変形例である表面造形方法M10について、
図5を参照して説明する。
図5は、表面造形方法M10のフローチャートである。
【0066】
表面造形方法M10は、
図1に示した表面造形装置10を方法として表現したものである。したがって、表面造形方法M10は、表面造形装置10と対応している。したがって、本変形例においては、表面造形方法M10と表面造形装置10との対応関係を主に示し、各工程の詳細な説明は、省略する。なお、表面造形装置10の場合と同様に、ターゲットTを構成する材料は、シリコン又は窒化シリコンであることが好ましい。
【0067】
表面造形方法M10は、
図5に示すように、波長選択工程S11と、照射密度選択工程S12と、スリット制御工程S13と、照射工程S14とを含んでいる。
【0068】
<波長選択工程>
波長選択工程S11は、制御部16の波長選択部161に対応する。すなわち、波長選択工程S11は、ターゲットTの表面を構成する材料の内殻吸収端に対応する波長に応じて、前記表面に照射するX線レーザの波長である照射波長を1nm以上200nm以下の範囲から選択する。
【0069】
表面造形の態様が、細孔の形成である場合、ホログラフィックな模様の形成である場合、及び、格子模様の形成である場合、波長選択工程S11は、内殻吸収端に対応する波長より短い波長を照射波長として選択する。
【0070】
<照射密度選択工程>
照射密度選択工程S12は、制御部16の照射密度選択部162に対応する。すなわち、照射密度選択工程S12は、ターゲットTの表面に施す表面造形の態様に応じて、前記X線レーザのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する。
【0071】
表面造形の態様が細孔の形成である場合、照射密度選択工程S12は、予め定められた加工閾値を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。また、表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、照射密度選択工程S12は、予め定められた加工閾値の90%を上回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。また、表面造形の態様が格子模様の形成である場合、照射密度選択工程S12は、予め定められた加工閾値を下回るエネルギー密度を前記照射エネルギー密度として選択する。
【0072】
<スリット制御工程>
スリット制御工程S13は、スリット制御部163に対応する。すなわち、スリット制御工程S13は、
図1に示した4象限スリット12が備えている障立121,122,123,124の各々の位置を制御することによって、上下方向におけるスリットの間隔及び位置と、左右方向におけるスリットの間隔及び位置を調整する。
【0073】
表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、スリット制御工程S13は、
図2の(b)に示すように、4象限スリット12の障立123を閉じるように4象限スリット12を制御する。その結果、X線レーザLが4象限スリット12を通過することによって、回折X線レーザが得られる。
【0074】
一方、表面造形の態様が、細孔の形成及び格子模様の形成である場合、スリット制御工程S13は、
図2の(a)に示すように、全開になるように4象限スリット12を制御する。
【0075】
<照射工程>
照射工程S14は、
図1に示した照射機構10Aに対応する。
【0076】
すなわち、表面造形の態様が細孔である場合、照射工程S14は、波長選択工程S11が選択した照射波長及び照射密度選択工程S12が選択した照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを、ターゲットTの表面に照射する。
【0077】
また、表面造形の態様がホログラフィックな模様の形成である場合、照射工程S14は、波長選択工程S11が選択した照射波長及び照射密度選択工程S12が選択した照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれる回折X線レーザをターゲットTの表面に照射する。
【0078】
また、表面造形の態様が格子模様の形成である場合、照射工程S14は、波長選択工程S11が選択した照射波長及び照射密度選択工程S12が選択した照射エネルギー密度を有し、且つ、パルス幅が1×10-18秒以上1×10-10秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを、複数ショット前記表面に照射する。
【0079】
〔ターゲットを構成する材料及びその内殻吸収端〕
【0080】
ターゲットTを構成する材料及び各材料の内殻吸収端について、
図6及び
図7を参照して説明する。本項目は、表面造形装置10及び表面造形方法M10の両方に共通する。
【0081】
表面造形装置10の説明において上述したように、ターゲットTを構成する材料としては、例えば、シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン、サファイヤ、炭素、ポリメチルメタクリレート(polymethylmetha crylate、PMMA)、白金、金、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、及びジルコニウムが挙げられる。
【0082】
図6の(a)~(f)の各々は、それぞれ、シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン、サファイヤ、炭素、及びPMMAの吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
図7の(a)~(b)の各々は、それぞれ、白金、金、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、及びジルコニウムの吸収係数の波長依存性を示すグラフである。また、
図6及び
図7には、各材料における内殻吸収端に対応する波長の位置を矢印にて示している。
【0083】
上述したように、表面造形装置10及び表面造形方法M10においては、波長選択部161及び波長選択工程S11が照射波長を選択するために用いる内殻吸収端として、各材料のK殻、L殻、M殻、N殻、O殻の各内殻吸収端のうち予め定められた内殻吸収端を採用している。
図6及び
図7では、波長選択部161及び波長選択工程S11が照射波長を選択するために用いる内殻吸収端を、一点鎖線で囲っている。すなわち、本発明の一態様においては、(1)材料がシリコン、窒化シリコン、及び炭化シリコンである場合、シリコンのL殻吸収端を内殻吸収端として採用し、(2)材料がサファイヤである場合、アルミニウムのL殻吸収端を内殻吸収端として採用し、(3)材料が炭素及びPMMAである場合、炭素のK殻吸収端を内殻吸収端として採用し、(4)材料が白金及び金である場合、それぞれの材料のN殻吸収端及びO殻吸収端を内殻吸収端として採用し、(5)材料がアルミニウム及び銅である場合、それぞれの材料のL殻吸収端を内殻吸収端として採用し、(6)材料が鉄、ニッケル、及びジルコニウムである場合、それぞれの材料のM殻吸収端を内殻吸収端として採用する。材料が炭化シリコンである場合、シリコンのL殻吸収端の代わりに炭素のK殻吸収端を内殻吸収端として採用できる。
【0084】
〔第1の実施例及び比較例〕
表面造形装置10及び表面造形方法M10の第1の実施例及び比較例について、
図8を参照して説明する。
図8の(a)は、第1の実施例により得られたシリコン製のターゲットTの斜視図である。(b)は、(a)に示したシリコン製のターゲットTの断面図である。(c)及び(d)は、それぞれ、本発明の第1の比較例及び第2の比較例により得られたシリコン製のターゲットの斜視図である。なお、
図8の(b)においては、
図8の(a)に示したターゲットTの中心を原点としている。
図9は、熱的加工及び非熱的加工における加工閾値の波長依存性を示すグラフである。
【0085】
第1の実施例では、ターゲットTとして(100)配向のp型シリコンの単結晶を採用し、照射波長として、L殻吸収端に対応する波長より短い波長である10.3nmを採用し、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値を上回る107mJ/cm2を採用し、X線レーザLのパルス幅として70×10-15秒を採用した。なお、後述する第1の比較例、第2の比較例、第2~第5の実施例の各々においても、X線レーザLのパルス幅は、共通して70×10-15秒である。
【0086】
第1の比較例では、ターゲットTとして(100)配向のp型シリコンの単結晶を採用し、照射波長として、L殻吸収端に対応する波長より長い波長である13.5nmを採用し、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値を下回る294mJ/cm2を採用した。
【0087】
第2の比較例では、ターゲットTとして(100)配向のp型シリコンの単結晶を採用し、照射波長として、L殻吸収端に対応する波長より長い波長である13.5nmを採用し、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値を上回る460mJ/cm2を採用した。
【0088】
図8の(a)及び(b)を参照すれば、第1の実施例を施されたターゲットTには、X線レーザLを照射した照射領域の外縁近傍にリム部が生成されていない細孔が形成されたことが分かった。
【0089】
図8の(c)を参照すれば、第1の比較例を施されたターゲットTには、X線レーザLを照射した照射領域が一度溶融した痕跡が認められるものの、細孔は形成されていないことが分かった。
【0090】
図8の(d)を参照すれば、第2の比較例を施されたターゲットTには、X線レーザLを照射した照射領域の外縁近傍にリム部が生成されている細孔が形成されたことが分かった。
【0091】
また、第1の実施例及び第2の比較例の各々により得られたターゲットTの加工形状を、X線の吸収による原子と電子との振る舞いを組み込んだ分子動力学計算コードによる理論モデル計算と比較した。
図9には、シリコンにおける熱的加工及び非熱的加工における加工閾値の波長依存性と、第1の実施例及び第2の比較例の各々とを図示した。
【0092】
図9を参照すれば、第1の実施例によりターゲットTに施されたレーザ加工が非熱的加工の領域に含まれており、第2の比較例によりターゲットTに施されたレーザ加工が熱的加工の領域に含まれていることが分かった。この結果は、第1の実施例が施されたターゲットTにはリム部が生成されていない細孔が形成され、第2の比較例が施されたターゲットTには、リム部が生成されている細孔が形成されたことと整合している。
【0093】
〔第2~第4の実施例〕
表面造形装置10及び表面造形方法M10の第2~第4の実施例について、
図10を参照して説明する。
図10の(a)及び(b)は、第2の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。
図10の(c)及び(d)は、第3の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。
図10の(e)及び(f)は、第4の実施例により得られたシリコン製のターゲットの平面図及び斜視図である。
【0094】
第2の実施例では、ターゲットTとして(100)配向のp型シリコンの単結晶を採用し、
図2の(b)に示すように4象限スリット12の障立123を閉じることによってX線レーザLを回折X線レーザに変換し、照射波長として、L殻吸収端に対応する波長より短い波長である10.3nmを採用し、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値の90%を上回る98.5mJ/cm
2を採用した。なお、予め定められた加工閾値の90%は、95.4mJ/cm
2である。
【0095】
第3の実施例及び第4の実施例の各々では、第2の実施例と同様の条件を採用したうえで、それぞれ、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値の90%を上回る183mJ/cm2及び218mJ/cm2を採用した。
【0096】
図10を参照すれば、第2~第4の実施例の各々が実施されたターゲットTには、ホログラフィックな模様が形成されることが分かった。
【0097】
〔第5の実施例〕
表面造形装置10及び表面造形方法M10の第5の実施例について、
図11を参照して説明する。
図11は、第5の実施例により得られた窒化シリコン製のターゲットの平面図である。
【0098】
第5の実施例では、ターゲットTとして多結晶の窒化シリコン晶膜(厚さ50nm)を採用し照射波長として、L殻吸収端に対応する波長より短い波長である10.3nmを採用し、照射エネルギー密度として、予め定められた加工閾値を下回る162mJ/cm
2を採用し、ターゲットTの表面に照射するX線レーザLのショット数を100ショットとした。なお、X線レーザLの偏光方向は、
図11における上下方向と平行になるように定められている。
【0099】
図11を参照すれば、第5の実施例が施されたターゲットTには、格子模様が形成されることが分かった。また、
図11を参照すれば、ターゲットTの表面に形成された格子模様の行及び列は、上述したX線レーザLの偏光方向から傾いていることが分かった。
【0100】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
10 表面造形装置
10A 照射機構
11 X線レーザ光源
12 4象限スリット(スリット)
15 X線フィルタ
16 制御部
161 波長選択部
162 照射密度選択部
163 スリット制御部
164 光源制御部
T ターゲット
PC パソコン
M10 表面造形方法
S11 波長選択工程
S12 照射密度選択工程
S13 スリット制御工程
S14 照射工程