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特許7590730アンモニア合成触媒、アンモニア合成触媒の製造方法、及び、アンモニアの合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒、アンモニア合成触媒の製造方法、及び、アンモニアの合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20241120BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20241120BHJP
   B01J 37/03 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
B01J23/63 M
C01C1/04 E
B01J37/03 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020169151
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061257
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀行
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059190(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105692653(CN,A)
【文献】特開2014-014813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01C 1/04
C01F 17/241
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体と、
該複合酸化物担体に担持されたルテニウムと、
を備え、かつ、
前記複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が25/75であることを特徴とするアンモニア合成触媒。
【請求項2】
請求項1に記載のアンモニア合成触媒に、水素と窒素を含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成することを特徴とするアンモニアの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成触媒、アンモニア合成触媒の製造方法、並びに、アンモニアの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素エネルギーのエネルギーキャリア等の用途に応用することが可能な成分としてアンモニアが注目されている。このようなアンモニアを合成する方法として、従来より触媒として鉄系触媒を用いたハーバーボッシュ法が工業的に利用されてきたが、近年では、ハーバーボッシュ法よりも穏やかな条件でアンモニアを合成することを目的として、様々な種類のアンモニア合成触媒の研究が進められている。
【0003】
例えば、特開2016-155123号公報(特許文献1)においては、酸化プラセオジム担体にルテニウムを層状に担持したアンモニア合成触媒が開示されている。また、特開2017-1037号公報(特許文献2)においては、ランタノイドを含む化合物を形成材料とする担体と、前記担体に担持されたルテニウム、ルテニウムを含む合金又はルテニウムを含む化合物とを含む第1の成分と、アルカリ金属を含む化合物及び/又は多孔性金属錯体である第2の成分とが混合された組成物からなるアンモニア製造用触媒組成物が開示されている。また、特開2017-18907号公報(特許文献3)には、その実施例1~3において、酸化プラセオジムにルテニウムを担持したルテニウム-酸化プラセオジム組成物と炭酸セシウムとの摩砕混合組成物に水素還元を行って得られる触媒組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1~3に開示されているような触媒や触媒組成物は、アンモニアの生成活性の点で十分なものではなかった。なお、特許文献2においては、前記第1の成分の担体としてランタノイドを含む化合物を形成材料とする担体が記載されているものの、実施例において実際に実証されている第1の成分の担体はPr11、CeO又はLaであり、それ以外の担体を利用した第1の成分についての効果等は特に実証されていない。
【0004】
さらに、LIN Jianxin et al.,“Effects of Pr Doping on Structure and Catalytic Performance of Ru/CeO2 Catalyst for Ammonia Synthesis”,Chinese Journal of Catalysis,2012年,vol.33,No.3,536頁~542頁(非特許文献1)においては、担体中の金属成分に対するPr(金属)の含有量(添加量)が0モル%、1モル%、2モル%、4モル%、6モル%となるように、CeOにPrを添加した担体(CeO(単独)又はCeO-PrO)にRuが担持された触媒をそれぞれアンモニアの合成に利用することが検討され、CeOにPrを添加した担体(CeO-PrO)にRuを担持した触媒の方がCeO(単独)にRuを担持した触媒(Ru/CeO)よりも高い活性を示すこと、並びに、前記Prの含有量(添加量)が4モル%の場合にアンモニアの生成量が最大となること、が報告されている。しかしながら、上記非特許文献1に記載されているような触媒においても、アンモニアの生成活性が十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-155123号公報
【文献】特開2017-1037号公報
【文献】特開2017-18907号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】LIN Jianxin et al.,“Effects of Pr Doping on Structure and Catalytic Performance of Ru/CeO2 Catalyst for Ammonia Synthesis”,Chinese Journal of Catalysis,2012年,vol.33,No.3,536頁~542頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アンモニアの生成活性に優れ、アンモニアをより効率よく合成することを可能とするアンモニア合成触媒、そのアンモニア合成触媒を効率よく製造することが可能なアンモニア合成触媒の製造方法、及び、前記アンモニア合成触媒を用いたアンモニアの合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アンモニア合成触媒を、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体と;該複合酸化物担体に担持されたルテニウムと;を備えるものとしつつ、前記複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])を20/80~90/10とすることにより、該触媒のアンモニアの生成活性が優れたものとなり、アンモニアをより効率よく合成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のアンモニア合成触媒は、
セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体と、
該複合酸化物担体に担持されたルテニウムと、
を備え、かつ、
前記複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が25/75であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のアンモニアの合成方法は、上記本発明のアンモニア合成触媒に、水素と窒素を含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成することを特徴とする方法である。
【0014】
なお、本発明によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明のアンモニア合成触媒においては、担体として、セリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)とを含む複合酸化物担体を用いる。ここで、プラセオジム酸化物はセリウム酸化物よりも還元され易いため、前記複合酸化物担体中においてセリウムとプラセオジムとが共有する酸素は、セリウムよりもプラセオジムから電子を求引し易い状態(プラセオジムにより還元され易い状態)にあるものと考えられる。そのため、前記複合酸化物担体中のセリウムはより還元され易い状態になるものと考えれられる。したがって、このような複合酸化物担体においては、担体中のPrの存在によりCeの価数が4価から3価になり易くなり、担体中のCeOの還元性がより向上する。ここで、本発明においては、複合酸化物担体中に含まれるCeとPrとのモル比(Ce/Pr比)が20/80~90/10である。このように、本発明にかかる複合酸化物担体においては、複合酸化物担体中のCeとPrの総モル量(合計モル量)に対して、Prは10モル%~80モル%含まれることとなる。このような割合でPrを含むため、本発明においては、複合酸化物中のCeの量を十分なものとしつつ、その複合酸化物中において前述のCeの価数を4価から3価にする効果を十分に効率よく引き起こすことを可能としている。これにより、上記本発明のアンモニア合成触媒においては、3価のCeから活性種であるRuに対して、より効率よく電子供与を引き起こすことが可能となり、そのRuに窒素を接触させた際に窒素の活性化をより効率よく起こすことが可能となる。そのため、窒素と水素との反応が促進されて、アンモニアの生成がより効率よく進行するものと本発明者らは推察する。このように、本発明においては、複合酸化物担体の構成に基いて、Ceの価数を4価から3価にする効果を十分に効率よく引き起こすことが可能となり、これにより活性種のRuにより効率よく電子供与することが可能となって、アンモニアの生成活性がより高いものとなり、アンモニアをより効率的に合成できるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンモニアの生成活性に優れ、アンモニアをより効率よく合成することを可能とするアンモニア合成触媒、そのアンモニア合成触媒を効率よく製造することが可能なアンモニア合成触媒の製造方法、及び、前記アンモニア合成触媒を用いたアンモニアの合成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1、参考例1~3及び比較例1~6で得られた触媒のアンモニアの生成速度を示すグラフである。
図2】実施例1、参考例1~3及び比較例1~6で得られた触媒に利用した複合酸化物担体中のプラセオジムの含有量(モル%)と、実施例1、参考例1~3及び比較例1~6で得られた触媒のアンモニアの生成速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔アンモニア合成触媒〕
本発明のアンモニア合成触媒は、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体と;該複合酸化物担体に担持されたルテニウムと;を備え、かつ、前記複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明にかかる複合酸化物担体は、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体である。このような複合酸化物担体は、セリウムとプラセオジムを含むものであればよく、アンモニア合成の分野において触媒の担体に用いられる公知の他の成分(他の金属)を更に含んでいてもよい。このような複合酸化物担体においては、複合酸化物担体に含まれる全金属成分に対するセリウム及びプラセオジムの含有量が金属換算で70~100モル%であることが好ましく、80~100モル%であることがより好ましく、90~100モル%であることが特に好ましい。
【0020】
また、本発明にかかる複合酸化物担体において、該複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])は20/80~90/10である必要がある。このようなモル比に関して、セリウムの含有割合が前記下限未満では活性種であるRuに対して電子を供与するセリウムの量が少なくなってしまうため、触媒活性が低下する。他方、前記モル比においてセリウムの含有割合が前記上限を超えるとセリウムを十分に還元できなくなるため、セリウムから活性種であるRuに対して十分に電子を供与できなくなり、触媒活性が低下する。また、同様の観点から、このような複合酸化物担体中に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])は、25/75~80/20であることがより好ましく、25/75~75/25であることが更に好ましい。なお、ここにいう「セリウムとプラセオジムのモル比」は、複合酸化物担体を構成する金属成分であるセリウムとプラセオジムの金属換算によるモル比をいう。
【0021】
また、このような複合酸化物担体がセリウム及びプラセオジム以外の他の金属を含有する場合、そのような他の金属としては、特に制限されず、アンモニア合成の分野において触媒の担体に用いることが可能なものを適宜利用できる。このような他の金属としては、例えば、Sc、Y、La等が挙げられる。
【0022】
また、このような複合酸化物担体の形状は、特に制限されず、リング状、球状、円柱状、粒子状、ペレット状等の従来公知の形状とすることができる。なお、Ruを分散性の高い状態で、より多く含有することができるという観点から、粒子状のものを用いることが好ましい。このような複合酸化物担体が粒子状のものである場合には、該担体の平均粒子径は0.1~100μmであることが好ましい。
【0023】
また、このような複合酸化物担体の比表面積としては、特に制限されないが、1~300m/gであることが好ましく、10~200m/gであることがより好ましい。前記比表面積が前記下限未満では、担持物であるRuの分散性が低下し、触媒性能(アンモニア生成活性)が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体の耐熱性が低下するため触媒性能が低下する傾向にある。なお、このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。なお、このようなBET比表面積は、市販の装置を利用して求めることができる。
【0024】
なお、このような複合酸化物担体の製造するための方法としては、後述の本発明のアンモニア合成触媒の製造方法における「セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体を得る工程」と同様の工程により複合酸化物担体を製造する方法を採用することが好ましい。また、このような複合酸化物担体としては、セリウムの塩及びプラセオジムの塩を利用して共沈法により沈殿物を生成させた後、該沈殿物を焼成することにより生成されたものであることが好ましい。このような共沈法により得られた複合酸化物担体を利用した場合、担体中のセリウムとプラセオジムの均一性がより高くなり、より優れた触媒活性を得ることが可能となる。
【0025】
また、本発明のアンモニア合成触媒においては、前記複合酸化物担体にルテニウムが担持されている。このようなルテニウムの担持量は、特に制限されないが、前記複合酸化物担体100質量部に対して、ルテニウムの金属換算(メタル換算)で0.5~10質量部(より好ましくは1~5質量部)であることが好ましい。このようなルテニウムの担持量が前記下限未満では十分に高いアンモニアの生成活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、使用環境にもよるがルテニウムのシンタリングが生じ易くなって活性点であるルテニウムの分散度が低下し易くなり、ルテニウムの使用量に相応する効果を得ることが困難となるため、コスト面などで不利となる傾向にある。
【0026】
また、前記複合酸化物担体に担持されているルテニウムの粒子径(平均粒子径)としては、特に制限されないが、0.5~100nm(より好ましくは1~50nm)であることが好ましい。このようなルテニウムの粒子径が、前記下限未満では、メタル状態として利用することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒としての活性部位の量が著しく減少する傾向にある。
【0027】
また、本発明のアンモニア合成触媒においては、前記複合酸化物担体に、本発明の効果を損なわない範囲で、アンモニア合成触媒の分野において担体に担持して利用される公知の他の担持成分(添加剤等)を適宜担持してもよい。このような他の担持成分としては、例えば、Sc、Y、La等が挙げられる。
【0028】
また、本発明のアンモニア合成触媒の形態は、特に制限されず、例えば、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態にすることができ、更に、粉末状のものをそのまま所望の箇所に配置する形態とすることもできる。このような各種形態のアンモニア合成触媒を得るための方法としては特に制限されず、アンモニア合成触媒に対して公知の成型方法等を適宜採用して製造することができ、例えば、アンモニア合成触媒をペレット状に成型してペレット形状のアンモニア合成触媒を得る方法や、アンモニア合成触媒を触媒基材にコートすることにより、触媒基材にコート(固定)した形態のアンモニア合成触媒を得る方法等を適宜採用してもよい。なお、このような触媒基材は、特に制限されず、アンモニア合成触媒の利用方法等に応じて適宜選択でき、例えば、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等を好適に採用できる。また、このような触媒基材の材質も、特に制限されないが、例えば、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。更に、本発明のアンモニア合成触媒は、他の触媒と組み合わせて利用してもよい。
【0029】
また、このような本発明のアンモニア合成触媒を製造するための方法としては特に制限されないが、より効率よく本発明のアンモニア合成触媒を形成することが可能となることから、後述の本発明のアンモニア合成触媒の製造方法を採用することが好ましい。
【0030】
〔アンモニア合成触媒の製造方法〕
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法は、セリウムの塩とプラセオジムの塩とを、セリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10となる割合で含有する複合酸化物担体形成用溶液を用い、該溶液中に共沈法によりセリウムとプラセオジムとを含有する沈殿物を生成させた後、該沈殿物を焼成することにより、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体を得る工程(以下、場合により単に「担体調製工程」と称する)と;該複合酸化物担体に対してルテニウムの塩の溶液を用いてルテニウムを担持せしめた後、該担体を還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において焼成することにより、上記本発明のアンモニア合成触媒を得る工程(以下、場合により単に「触媒調製工程」と称する)と;を含むことを特徴とする方法である。
【0031】
〈担体調製工程〉
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、先ず、セリウムの塩とプラセオジムの塩とを、セリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10となる割合で含有する複合酸化物担体形成用溶液を用い、該溶液中に共沈法によりセリウムとプラセオジムとを含有する沈殿物を生成させた後、該沈殿物を焼成することにより、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体を得る(担体調製工程)。
【0032】
このような担体調製工程に用いるセリウムの塩としては特に制限されず、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、各種錯体等を適宜利用することができ、例えば、硝酸セリウム、硝酸第二セリウムアンモニウム、酢酸セリウム等を挙げることができる。また、プラセオジムの塩も特に制限されず、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、各種錯体等を適宜利用することができ、例えば、硝酸プラセオジム、酢酸プラセオジム等を挙げることができる。
【0033】
また、前記セリウムの塩と前記プラセオジムの塩とを含有する前記複合酸化物担体形成用溶液の溶媒としては、特に制限されないが、前記セリウムの塩と前記プラセオジムの塩とを溶解して、これらのイオン(セリウムイオン、プラセオジムイオン)を形成することが可能なものを好適に利用できる。このような溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、コストや安全性の観点からは、水を好適に利用できる。
【0034】
また、このような複合酸化物担体形成用溶液としては、前記セリウムの塩と前記プラセオジムの塩とを、セリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10(より好ましくは25/75~80/20、更に好ましくは25/75~75/25)となる割合で含有する。このようなモル比で前記セリウムの塩と前記プラセオジムの塩とを利用することで、得られる複合酸化物担体を、セリウムとプラセオジムを含み、かつ、セリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10(より好ましくは25/75~80/20、更に好ましくは25/75~75/25)である複合酸化物担体とすることが可能となる。このように、複合酸化物担体形成用溶液中のセリウムとプラセオジムのモル比は、基本的に、得られる複合酸化物担体中のセリウムとプラセオジムのモル比にそのまま反映させることが可能であるため、複合酸化物担体の設計に応じて、前記割合の範囲内で溶液中のCeとPrのモル比を設定することが好ましい。
【0035】
また、このような複合酸化物担体形成用溶液を用いる担体調製工程においては、該溶液中に共沈法によりセリウムとプラセオジムとを含有する沈殿物を生成させる。このような共沈法としては、前記複合酸化物担体形成用溶液中のセリウムイオン及びプラセオジムイオンを共沈殿させることが可能な方法であればよく、特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【0036】
また、本発明において、前記共沈法として、大きさや形、組成がより均一な粒子が生成し易いといった観点から、尿素を更に含有させた前記複合酸化物担体形成用溶液を用い、該溶液を加熱することによりセリウムとプラセオジムとを含有する沈殿物(共沈物)を生成する方法を採用することが好ましい。このように、尿素を更に含有させた前記複合酸化物担体形成用溶液を加熱することにより、尿素を加水分解して溶液中にアンモニアと二酸化炭素(CO)を発生させて、より均一な沈殿物を生成することが可能となり、セリウムとプラセオジムとが互いにより微細な状態でより分散して混合された状態の沈殿物を得ることが可能となる。このように、より均一な沈殿物を生成するといった観点からは、前記複合酸化物担体形成用溶液としては、尿素を更に含むものが好ましい。また、このような複合酸化物担体形成用溶液としては、該溶液中に含まれるセリウムとプラセオジムの総モル量に対して8~20倍(より好ましくは10~15倍)のモル量の尿素を更に含むものが好ましい。このような尿素の含有割合が前記下限未満では前記複合酸化物担体形成用溶液中のセリウムイオン及びプラセオジムイオンを全て沈殿させることが困難となり、目的とする設計の複合酸化物担体を形成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるても尿素による更なる添加効果は得られず、経済性が低下する傾向にある。
【0037】
また、前記沈殿物(共沈物)を生成する際に、尿素を含有する前記複合酸化物担体形成用溶液を加熱する方法を採用する場合、加熱温度は90℃以上とすることが好ましく、90~98℃とすることがより好ましい。このような加熱温度が前記下限未満では尿素が加水分解されず、沈殿物を生成することができなくなる傾向にある。また、このように、尿素を含有する前記複合酸化物担体形成用溶液を加熱する場合、より均一にセリウムとプラセオジムが分散してなる沈殿物を得るといった観点からは、前記複合酸化物担体形成用溶液を撹拌しながら加熱してセリウムとプラセオジムとを含有する沈殿物(共沈物)を生成することが好ましい。また、尿素を含有する前記複合酸化物担体形成用溶液を加熱する場合、その加熱時間(沈殿を生成させるための反応を行う時間、撹拌を行う場合には撹拌及び加熱時間)としては、特に制限されるものではないが、5~12時間(より好ましくは5~8時間)とすることが好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では、十分に沈殿を形成することができず、目的とする設計の複合酸化物担体を形成することが困難となる傾向にある。
【0038】
また、前記複合酸化物担体調製工程においては、前述のように共沈法により沈殿物を生成させた後、該沈殿物を焼成する。このような焼成工程により、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体を調製することが可能となる。このような焼成工程における焼成温度は650~800℃であることが好ましく、700~800℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、3~20時間とすることが好ましく、5~10時間とすることがより好ましい。焼成温度又は焼成時間が前記下限未満になると、沈殿物中に含まれ得るセリウムとプラセオジムの炭酸塩等を十分に分解できず、効率よく所望のセリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体が得られない傾向にある。他方、前記焼成温度又は前記焼成時間が前記上限を超えると、セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物の粒子が粒成長してしまい、比表面積が小さくなってしまうことから、Ruを担持した際にRuを十分に分散させて担持することができなくなり、十分な触媒性能(触媒活性)が得られなくなる傾向にある。また、このような焼成工程における雰囲気としては特に制限はないが、酸化雰囲気(例えば、大気中)又は不活性ガス(例えば、N)雰囲気が好ましい。
【0039】
なお、前記担体調製工程においては、均一に加熱する(分解する)といった観点から、前記焼成工程を実施する前に、沈殿物を乾燥させる処理を施すことが好ましい。このような乾燥処理の方法としては、特に制限されるものではないが、大気中、70℃~200℃で5~20時間静置する方法を採用することが好ましい。
【0040】
〈触媒調製工程〉
本発明のアンモニア合成触媒の製造方法においては、上述のようにして複合酸化物担体を得た後、該複合酸化物担体に対してルテニウムの塩の溶液を用いてルテニウムを担持せしめた後、該担体を還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において焼成することにより、上記本発明のアンモニア合成触媒を得る(触媒調製工程)。
【0041】
このような触媒調製工程に用いるルテニウムの塩としては特に制限されず、ルテニウムの酢酸塩、ルテニウムの炭酸塩、ルテニウムの硝酸塩、ルテニウムのアンモニウム塩、ルテニウムのクエン酸塩、ルテニウムのジニトロジアンミン塩、ルテニウムの錯体(例えば、テトラアンミン錯体、カルボニル錯体)等を用いることができる。また、このようなルテニウムの塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、ドデカカルボニル三ルテニウム(Ru(CO)12)、塩化ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトネート、ニトロシル硝酸ルテニウム、硝酸ルテニウム等を好適なものとして挙げることができる。
【0042】
また、このようなルテニウムの塩の溶液(ルテニウムの塩を含有する溶液)に用いる溶媒としては特に制限はないが、前記ルテニウムの塩を溶解することによって、ルテニウムイオンを形成することが可能な溶媒を適宜利用できる。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、水、アルコール等を好適に利用できる。なお、このような溶液中のルテニウムの塩の含有量は特に制限されず、目的とするルテニウムの担持量に応じて、その量(濃度等)を適宜変更すればよい。
【0043】
また、前記ルテニウムの塩の溶液を用いて、前記複合酸化物担体にルテニウムを担持せしめる方法は、特に制限されるものではないが、例えば、前記溶液を前記複合酸化物担体に接触させた後、乾燥処理を施すことで、前記複合酸化物担体にルテニウムを担持する方法を好適に採用することができる。また、前記溶液を前記担体に接触させる方法は、特に制限されるものではないが、例えば、前記ルテニウムの塩の溶液を前記複合酸化物担体に含浸させる方法、前記ルテニウムの塩の溶液を前記複合酸化物担体に吸着担持させる方法、等を好適な方法として挙げることができる。また、前記乾燥処理の方法は特に制限されず、例えば、50~150℃の温度条件下において、前記溶液を接触させた後の前記複合酸化物担体を静置する方法などを採用してもよい。
【0044】
また、前記複合酸化物担体にルテニウムを担持せしめる際には、前記複合酸化物担体に担持されるルテニウム(金属)の量が、前記複合酸化物担体100質量部に対して、ルテニウムの金属換算で0.5~10質量部(より好ましくは1~5質量部)となるように、前記ルテニウムの塩の溶液を用いて、前記複合酸化物担体にルテニウムを担持せしめることが好ましい。
【0045】
また、本発明においては、上述のように、前記複合酸化物担体に対してルテニウムを担持せしめた後、該担体を還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において焼成する。このように、焼成時の雰囲気を還元性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気とすることで、担体にルテニウムをメタル状態(金属状態)に還元して担持することが可能となる。
【0046】
なお、ここにおいて「還元性ガス雰囲気」とは、還元性ガス(例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、炭化水素ガス等)を含有する雰囲気をいい、例えば、Hガスを含有するArガス雰囲気や、Hガスを含有するNガス雰囲気等が挙げられる。なお、このような還元性ガス雰囲気としては、還元性ガスと不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)の混合ガスからなる雰囲気であることが好ましい。また、このような還元ガス雰囲気としては、還元性ガスを1~30容量%(より好ましくは5~20容量%)の割合で含むガス雰囲気であることが好ましい。さらに、このような還元性ガス雰囲気中に含有させる還元性ガスとしては、水素ガスがより好ましい。また、ここにおいて「不活性ガス雰囲気」とは、不活性ガスよりなる雰囲気をいう。このような不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトンやアルゴン等のガスが挙げられる。
【0047】
また、このようなルテニウム担持後の担体の焼成時の雰囲気としては、ルテニウムをより効率よくメタル状態(金属状態)に還元することが可能であるといった観点からは、還元性ガス雰囲気であることが好ましく、また、安全性の観点からは、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。また、ルテニウム担持後の担体の焼成時に前記還元性ガス雰囲気を採用する場合、ルテニウムを更に効率よくメタル状態(金属状態)に還元することが可能となるといった観点から、前記還元性ガス雰囲気は、水素還元が可能なガス雰囲気(還元性ガスとして水素ガスを含む雰囲気)であることがより好ましい。
【0048】
また、このような還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下における焼成において、加熱温度は200~500℃(より好ましくは300~500℃)とすることが好ましい。また、このような還元性ガス雰囲気下における焼成において、加熱時間としては、前記加熱温度により異なるものであるため一概には言えないが、0.5~10時間であることが好ましく、1~3時間であることがより好ましい。このような焼成時の加熱温度及び加熱時間が前記下限未満では、全てのルテニウムを十分にメタル状態(金属状態)に還元することができず、前駆体状態のルテニウムが残留する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担持粒子がシンタリングして、メタル状のルテニウムを十分に分散させた状態で担持させることが困難となり、触媒活性が低下してしまう傾向にある。
【0049】
このようにして、前記複合酸化物担体に対してルテニウムを担持せしめた後、該担体を還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下において焼成することにより、上記本発明のアンモニア合成触媒(セリウムとプラセオジムを含む複合酸化物担体と、該複合酸化物担体に担持されたルテニウムとを備え、かつ、前記複合酸化物担体に含まれるセリウムとプラセオジムのモル比([セリウム]/[プラセオジム])が20/80~90/10であるアンモニア合成触媒)を得ることができる。
【0050】
〔アンモニアの合成方法〕
本発明のアンモニアの合成方法は、上記本発明のアンモニア合成触媒に、水素と窒素を含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成することを特徴とする方法である。
【0051】
このような本発明のアンモニアの合成方法においては、触媒として上記本発明のアンモニア合成触媒を用いること以外は特に制限されず、例えば、触媒として上記本発明のアンモニア合成触媒を用いる以外は、触媒に水素と窒素を含有するガスを接触させてアンモニアを合成する公知の方法と同様の方法を採用してもよい。
【0052】
ここで、水素と窒素からアンモニアを合成する反応においては、理論上、窒素1molと水素3molとを反応させることで2molのアンモニアが得られる(N+3H→2NH)。そのため、本発明のアンモニアの合成方法において用いる「水素と窒素を含有するガス」としては、水素と窒素のモル比(H/N)が0.5/1~3/1(より好ましくは1.5/1~3/1)となるものを利用することが好ましい。また、このようなアンモニアの合成に利用する「水素と窒素を含有するガス」としては、水素ガス及び窒素ガス以外にキャリアガスとして、不活性ガス(アルゴン等)を更に含有するものであってもよいが、生成物量(アンモニア)を増加させるといった観点からは、水素ガス及び窒素ガスのみからなるものを利用することが好ましい。
【0053】
また、前記アンモニア合成触媒に水素と窒素を含有するガスを接触せしめる方法は特に制限されず、触媒にガスを接触させることが可能な公知の方法を適宜採用できる。このようなアンモニア合成触媒に水素と窒素を含有するガスを接触せしめる方法としては、例えば、密閉可能な反応容器内に前記アンモニア合成触媒を充填した後、該反応容器内の雰囲気ガスを前記水素と窒素を含有するガスと置換することにより、前記アンモニア合成触媒に水素と窒素を含有するガスを接触せしめる方法、ガス流通管の内部に前記アンモニア合成触媒を配置し、該ガス流通管内に前記水素と窒素を含有するガスを流通せしめることで前記アンモニア合成触媒に水素と窒素を含有するガスを接触せしめる方法、等を適宜採用することができる。
【0054】
さらに、上記本発明のアンモニア合成触媒に対して、水素と窒素を含有するガスを接触せしめてアンモニアを合成する反応を行う場合、その反応温度は、高温になるほど平衡濃度が低くなるといった観点から、300~500℃とすることが好ましく、350~450℃とすることがより好ましい。また、このような反応を行う際の圧力条件は特に制限されず、アンモニア生成に必要なエネルギーをより低減することが可能となることから、0.1~10MPaとすることが好ましく、1~8MPaとすることがより好ましい。
【0055】
なお、このような本発明のアンモニアの合成方法によれば、触媒として利用する上記本発明のアンモニア合成触媒がアンモニア生成活性に優れたものであることから、アンモニアをより効率的に合成することが可能となる。
【実施例
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
参考例1
先ず、硝酸セリウム(III)六水和物と、硝酸プラセオジム(III)六水和物と、尿素とをイオン交換水に溶解させて、複合酸化物担体形成用溶液を得た。このような複合酸化物担体形成用溶液の調製に際しては、金属成分であるセリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)の合計量(Ceのモル量+Prのモル量)が溶液1Lあたり0.15mol/Lとなり、かつ、CeとPrのモル比(Ce/Pr)が75/25となるような使用量で硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物とを用いた。また、かかる複合酸化物担体形成用溶液の調製に際しては、該溶液中の尿素の含有量が2mol/L(溶液中のCeとPrの総モル量に対して13.3倍となるモル量)となるように尿素を用いた。
【0058】
次に、前記複合酸化物担体形成用溶液を、大気中、95℃まで加熱した後、95℃に保持しながら5時間撹拌することにより、該溶媒中に沈殿物を生成せしめた。次いで、イオン交換水で洗い込みながら吸引ろ過を行う処理を、前記溶液中の沈殿物に対して施すことにより、該沈殿物を洗浄して回収した。次に、得られた沈殿物を100℃で一晩(12時間)乾燥させた後、700℃で5時間焼成して、CeとPrを含む複合酸化物担体を得た。なお、このようにして得られた複合酸化物担体中のCeとPrのモル比(Ce/Pr)は、前記複合酸化物担体形成用溶液の組成に由来して75/25となっていることは明らかである。
【0059】
次に、Ru(CO)12をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させたTHF溶液(Ru(CO)12の濃度:3mmol/L)を準備し、上述のようにして得られた複合酸化物担体に対して前記THF溶液を含浸させた後、溶媒を除去して、ルテニウム(Ru)を前記複合酸化物担体に担持せしめ、触媒前駆体を得た。なお、このような触媒前駆体を得る工程においては、最終的に得られるアンモニア合成触媒において前記複合酸化物担体100質量部に対するRuの担持量がRuの金属換算で3質量部となるように、前記THF溶液の使用量を調整した。次いで、前記触媒前駆体を70℃で12時間保持することにより乾燥した。次に、乾燥後の前記触媒前駆体に対して、H(10容量%)とN(90容量%)とからなる還元性ガス雰囲気下、300℃で1時間焼成(加熱)する処理(還元処理)を行って、前記CeとPrを含む複合酸化物担体と、前記複合酸化物担体に担持されたRuとを備えるアンモニア合成触媒を得た。
【0060】
(実施例1及び参考例2~3
複合酸化物担体形成用溶液の調製に際してCeとPrのモル比(Ce/Pr)がそれぞれ50/50(参考例2)、25/75(実施例)、90/10(参考例3)となるように、硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物の使用量を変更した以外は参考例1と同様にして、アンモニア合成触媒をそれぞれ得た。
【0061】
(比較例1~5)
複合酸化物担体形成用溶液の調製に際してCeとPrのモル比(Ce/Pr)がそれぞれ100/0(比較例1)、95/5(比較例2)、10/90(比較例3)、5/95(比較例4)、0/100(比較例5)となるように、硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物の使用量を変更した以外は、参考例1と同様にして、比較のためのアンモニア合成触媒をそれぞれ得た。
【0062】
(比較例6)
硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物をイオン交換水に溶解させて、溶液(A)を得た。なお、このような溶液(A)の調製に際しては、CeとPrの合計量(Ceのモル量+Prのモル量)が溶液1Lあたり0.2mol/Lとなり、かつ、CeとPrのモル比(Ce/Pr)がCe/Pr比が95/5となるように、硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物とを用いた。
【0063】
次に、KRuO水溶液(KRuOの濃度:0.4mol/L)を、KOH水溶液(KOHの濃度:2.0mol/L)に溶解させて溶液(B)を得た。なお、このような溶液(B)を得る際には、最終的に得られるアンモニア合成触媒において複合酸化物担体100質量部に対するRuの担持量がRuの金属換算で3質量部となるようにKRuO水溶液の使用量を調整し、また、KOHの量が溶液(A)中のCeとPrの総モル量に対して4.5倍のモル量となるようにKOH水溶液の使用量を調整した。
【0064】
次いで、前記溶液(A)を撹拌しながら、前記溶液(B)を前記溶液(A)中に滴下して混合液を得た。なお、このような混合液中には、前記溶液(B)の滴下により黒色の沈殿物が生成された。次いで、前記混合液を60℃に加熱した後、60℃に保持しながら1時間撹拌した。その後、前記混合液中に析出した沈殿物に対して、イオン交換水で洗い込みながら吸引ろ過を行う処理を施すことにより、該沈殿物を洗浄して回収した。次いで、このようにして得られた沈殿物を85℃で一晩(12時間)乾燥した後、500℃で1時間焼成することにより、比較のためのアンモニア合成触媒(複合酸化物担体100質量部に対するRuの担持量がRuの金属換算で3質量部の触媒)を得た。なお、このような比較のためのアンモニア合成触媒の製造に採用した方法は、上記非特許文献1において説明されている方法を参照して、担体の金属成分(Ce及びPr)とともにRuを共沈させる方法とした。
【0065】
〔実施例1、参考例1~3及び比較例1~6で得られたアンモニア合成触媒の性能の評価〕
実施例1、参考例1~3及び比較例1~6で得られたアンモニア合成触媒をそれぞれ用いて、以下のようにして各触媒のアンモニアの生成速度を求めた。なお、このようなアンモニアの生成速度の測定のために、固定床流通式反応装置を利用した。そして、アンモニアの生成速度の測定に際しては、該装置のガス流路に導入されたガス(入りガス)が、アンモニア合成触媒に接触した後(触媒通過後)にガス流路の出口に向かうように、該装置のガス流路にアンモニア合成触媒を0.2g設置し、また、前記入りガスとしてはH及びNを含有しかつHとNのモル比(H/N)が3/1であるガスを利用した。そして、先ず、前記ガス流路内に配置したアンモニア合成触媒に対して、大気圧下(0.1MPaの条件下)、前記入りガスを80mL/分の流量で供給しながら、前記アンモニア合成触媒を600℃で2.5時間保持する前処理を行った。次いで、大気圧下、入りガスを同条件(流量:80mL/分)で供給しながら、前記アンモニア合成触媒の加熱温度を600℃から375℃まで降温し、前記アンモニア合成触媒を375℃で1時間保持した後、ガス流路の出口から排出されるガス(出ガス)中のアンモニアの濃度を測定して、触媒1gあたりのアンモニアの生成速度を算出した。なお、出ガス中のアンモニアの濃度はIR分光分析法により測定した。得られた結果を表1及び図1に示す。また、各触媒の複合酸化物担体中のPrの含有量(モル%)と、アンモニアの生成速度との関係を示すグラフを図2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1及び図1~2に示した結果から明らかなように、CeとPrの総モル量に対するPrの含有量(モル比)が10~75モル%の範囲内にある複合酸化物担体を利用したアンモニア合成触媒(実施例1及び参考例1~3)はいずれも、触媒1gあたりのアンモニア生成速度が2.74mmol/g・h以上となっていた。これに対して、先ず、CeとPrの総モル量に対するPrの含有量(モル比)が5モル%以下となっている複合酸化物担体を利用した、比較のためのアンモニア合成触媒(比較例1~2及び比較例6)においてはいずれも、触媒1gあたりのアンモニア生成速度が2.69mmol/g・h以下となっており、実施例1及び参考例1~3で得られたアンモニア合成触媒と比較してアンモニア生成活性が十分なものとはならなかった。また、CeとPrの総モル量に対するPrの含有量(モル比)が90モル%以上となっている複合酸化物担体を利用したアンモニア合成触媒(比較例3~5)においては、触媒1gあたりのアンモニア生成速度が2.27mmol/g・h以下となっており、やはり実施例1及び参考例1~3で得られたアンモニア合成触媒と比較してアンモニア生成活性が十分なものとはならなかった。このようなアンモニア生成速度の結果から、実施例1及び参考例1~3で得られたアンモニア合成触媒(実施例1及び参考例1~3)は、375℃、0.1MPaといった条件下においてもアンモニア生成活性をより高いものとすることが可能であることが分かった。
【0068】
また、このような結果から、複合酸化物担体中のCeとPrの総量に対するPrの含有量(モル比)を10~75モル%の範囲内とした場合(CeとPrのモル比(Ce/Pr)を25/75~90/10とした場合)には、得られる触媒のアンモニアの生成活性をより優れたものとすることが可能であることが確認された。そして、このようなアンモニア生成速度の測定結果を考慮すれば、CeとPrのモル比(Ce/Pr)を20/80~90/10とした複合酸化物担体にRuを担持したアンモニア合成触媒によれば、アンモニアの生成効率をより向上させることが可能となることが明らかである。
【0069】
なお、比較例2と比較例6とを対比すると、触媒の製造方法が異なるが、Ce及びPrとともにRuを共沈させて比較のためのアンモニア触媒を調製した場合(比較例6)よりも、共沈法を利用して複合酸化物担体を生成した後に得られた複合酸化物担体にRuを担持して比較のためのアンモニア触媒を調製した場合(比較例2)にアンモニア生成速度がより向上することが確認され、複合酸化物担体を共沈法を採用して製造した後にRuを担持することで、より高い水準のアンモニア生成活性を達成できることも分かった。なお、Ce及びPrとともにRuを共沈させて比較のためのアンモニア触媒を調製した場合(比較例6)には、共沈物を焼成する際にRuの一部が担体の内部に取り込まれるため、触媒として利用する際に活性点が少なくなり、これに起因して、比較例2で得られたアンモニア触媒よりも活性が低くなってしまったものと本発明者らは推察する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明によれば、アンモニアの生成活性に優れ、アンモニアをより効率よく合成することを可能とするアンモニア合成触媒、そのアンモニア合成触媒を効率よく製造することが可能なアンモニア合成触媒の製造方法、及び、前記アンモニア合成触媒を用いたアンモニアの合成方法を提供することが可能となる。このように、本発明のアンモニア合成触媒は、アンモニアの生成活性に優れるため、工業的にアンモニアを製造する際に利用する触媒等として特に有用である。
図1
図2