(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20241120BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20241120BHJP
G11B 5/714 20060101ALI20241120BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20241120BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20241120BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20241120BHJP
G11B 5/008 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/714
G11B5/84 C
G11B5/78
G11B5/02 B
G11B5/008 Z
(21)【出願番号】P 2021572760
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001829
(87)【国際公開番号】W WO2021149716
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020007832
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 克紀
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】寺川 潤
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 奈津貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友恵
(72)【発明者】
【氏名】潟口 嵩
(72)【発明者】
【氏名】砥綿 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 章宏
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特許第6624332(JP,B1)
【文献】特開2019-175532(JP,A)
【文献】特開2019-023950(JP,A)
【文献】特開2008-189996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
G11B 5/00 - 5/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層および基体を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層はε酸化鉄を含む磁性粉を有し、
前記磁気記録媒体の垂直方向保磁力(Hc)に対する、パルス磁界を用いて前記磁気記録媒体の垂直方向に測定した残留保磁力(Hrp)の比(Hrp/Hc)が2.0以下であり、
前記磁気記録媒体の単位面積当りの飽和磁化(Mst)が4.5mA以上である
磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録媒体の面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて32.9°の第1ピークおよび36.6°の第2ピークを発現する
請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層の平均厚みは、80nm以下である
請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記垂直方向保磁力は、2000Oe以上6000Oe以下である
請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記垂直方向保磁力は、2500Oe以上4500Oe以下である
請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性粉の質量磁化は、30emu/g以上60emu/g以下である
請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性粉の平均粒子径は、20nm以下である
請求項1
から請求項6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記ε酸化鉄は、ジルコニウム(Zr)およびコバルト(Co)を含有する
請求項1
から請求項7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層における磁化と磁場との関係を表す磁化曲線(M-Hループ)は、-15kOe以上+15kOe以下の範囲で閉塞している
請求項1
から請求項8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記ε酸化鉄における鉄(Fe)とコバルトとを合わせた原子%を100としたときのコバルトのモル比は、3原子%以上20原子%以下である
請求項8記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記ε酸化鉄における鉄(Fe)とジルコニウムとを合わせた原子%を100としたときのジルコニウムのモル比は、1原子%以上8原子%以下である
請求項8記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子データの保存のために、テープ状の磁気記録媒体が幅広く利用されている。例えば特許文献1には、高温環境下における電磁変換特性に優れた磁気記録媒体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、このようなテープ状の磁気記録媒体に対しては、電磁変換特性を向上させつつ、高い長期信頼性を有することが期待されている。
【0005】
そこで、電磁変換特性の向上と高い長期信頼性の確保とを両立できる磁気記録媒体が望まれる。
【0006】
本開示の一実施形態としての磁気記録媒体は、磁性層および基体を有する。磁性層はε酸化鉄を含む磁性粉を有する。磁気記録媒体の垂直方向保磁力(Hc)に対する、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力(Hrp)の比(Hrp/Hc)は2.0以下であり、磁気記録媒体の単位面積当りの飽和磁化(Mst)は4.5mA以上である。
【0007】
本開示の一実施形態としての磁気記録媒体では、上述の構成を有するので、電磁変換特性の向上と熱安定性の向上とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る磁気記録媒体の断面図である。
【
図2】
図1に示した磁性層における面内X線回折(Cu管球)により測定される回折パターンの一例を模式的に表している。
【
図3A】
図1に示した磁性層における磁化曲線(M-Hループ)の一例を表している。
【
図3B】参考例としての磁性層における磁化曲線(M-Hループ)の一例を表している。
【
図4】
図1に示した磁性層に含まれるε酸化鉄粒子の断面構造を模式的に表す断面図である。
【
図5】
図1に示した磁気記録媒体における残留保磁力を測定するための残留磁化曲線の一例を表す特性図である。
【
図6】変形例としてのε酸化鉄粒子の断面構造を模式的に表す断面図である。
【
図7】他の変形例としての磁気記録媒体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.経緯
2.一実施の形態
2-1.磁気記録媒体の構成
2-2.磁気記録媒体の製造方法
2-3.効果
3.変形例
【0010】
<1.経緯>
まず、本開示の技術を創作するに至った経緯について説明する。これまでに、磁気記録媒体の磁性層を構成する磁性粉としてε酸化鉄の採用を検討してきた。磁気記録媒体における高密度記録を実現するには磁性粉の微細化が望ましいところ、このε酸化鉄は、微粒子化しても高い保磁力を有するからである。しかしながら、ε酸化鉄の質量磁化が小さいので、磁気記録媒体として出力および熱安定性が不十分である。なお、熱安定性は、後述する比Hrp/Hcを2.0以下とすることにより、その低下を回避できる。また、比Hrp/Hcが2.0以下であれば、後述する10年後の信号減衰率が改善され、長期信頼性を確保することができる。そこで、本開示は、例えばε酸化鉄を含む磁性層を採用しつつ、電磁変換特性の向上と熱安定性、すなわち長期信頼性の確保との両立を図るようにした磁気記録媒体を提案する。
【0011】
<2.一実施の形態>
[2-1 磁気記録媒体10の構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る磁気記録媒体10の断面構成例を表している。
図1に示したように、磁気記録媒体10は複数層が積層された積層構造を有する。具体的には、磁気記録媒体10は、長尺のテープ状の基体11と、基体11の一方の主面11A上に設けられた下地層12と、下地層12の上に設けられた磁性層13と、基体11の他方の主面11B上に設けられたバック層14とを備える。磁性層13の表面13Sが、磁気ヘッドが当接しつつ走行することとなる表面となる。なお、下地層12およびバック層14は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。なお、磁気記録媒体10の平均厚みは、例えば5.6μm以下であるとよい。
【0012】
磁気記録媒体10は長尺のテープ状をなし、記録動作および再生動作の際には、自らの長手方向に沿って走行することとなる。磁気記録媒体10は、例えば記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置に用いられるものであることが好ましい。
【0013】
(基体11)
基体11は、下地層12および磁性層13を支持する非磁性支持体である。基体11は、長尺のフィルム状をなしている。基体11の平均厚みの上限値は、好ましくは4.2μm以下、より好ましくは4.0μm以下である。基体11の平均厚みの上限値が4.2μ
m以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。基体11の平均厚みの下限値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上である。基体11の平均厚みの下限値が3μm以上であると、基体11の強度低下を抑制することができる。
【0014】
基体11の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体11以外の層、すなわち下地層12、磁性層13およびバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてミツトヨ(Mitutoyo)社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルである基体11の厚みを5点以上の位置で測定する。その後、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体11の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0015】
基体11は、例えば、ポリエステル類を主たる成分として含んでいる。または、基体11は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を主たる成分として含んでいてもよい。基体11は、ポリエステル類またはPEEKに加えて、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。基体11が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。
【0016】
基体11に含まれるポリエステル類は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。
【0017】
基体11に含まれるポリオレフィン類は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0018】
基体11に含まれるその他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)およびPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0019】
(磁性層13)
磁性層13は、信号を記録するための記録層であり、例えばε酸化鉄相を含む酸化鉄を有している。磁性層13は、例えば、磁性粉、結着剤および潤滑剤を含む。磁性層13が、必要に応じて、導電性粒子、研磨剤、防錆剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0020】
磁性層13がε酸化鉄相を含むことにより、例えば
図2に例示したように、磁気記録媒体10は、面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて32.9°の第1ピークPK1および36.6°の第2ピークPK2を発現する。なお、
図2は、面内X線回折(Cu管球)により測定される磁気記録媒体10の回折パターンの一例を模式的に表している。
図2に示した回折パターンのピーク位置は、X線回折(XRD)装置に付属している任意の解析ソフトを用いて行う。この際、得られた回折パターンの平均化など、解析に必要な一定の処理を行っても構わない。このように、磁性層13の面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて32.9°の第1ピークPK1と36.6°の第2ピークPK2とが検出されるということは、磁性層13がε酸化鉄相を含むことを表している。ε酸化鉄を磁性粉として含むことにより、磁性層13は、高い垂直方向保磁力Hcを有する。
面内XRDについては以下のように測定を行う。
測定サンプルはカートリッジ内に巻かれている磁気テープのうち、任意のデータ領域から切り出して準備する。切り出すサイズは、例えば12.65mm×60mmである。切り出したサンプルを非晶質のガラス基板に張り付け、ガラス基板をグリスを用いてXRDの測定ステージに固定をし、アライメント調整等、測定に必要な作業を行いin-plane XRDの測定を行う。以下に測定条件を示す。
装置名称:Rigaku ATX-G
管球(X線源):Cu Kα
管球出力:50 kV、200 mA
ステップ(2θ):0.05 degree
ステップ速度:1.5 degree/sec
【0021】
また、磁気記録媒体10の単位面積当りの飽和磁化Mstは4.5mA以上であるとよい。磁気記録媒体10の単位面積当りの飽和磁化Mstが4.5mA以上であることにより、磁気記録媒体10の出力をより向上させることができ、結果として良好なSNR(Signal-to-Noise Ratio)が実現できる。磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mstが大きくなるほど磁気記録媒体10としての出力が向上し、磁気ヘッドそのものが有するシステムノイズの影響が相対的に小さくなるからである。また、磁性層13に含まれる磁性粉の充填量や組成等を調整することにより、磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mstを調整できる。例えば、磁性層13中に含まれるバインダーなどの非磁性成分を低減することで磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mstを大きくすることができる。また、たとえばε酸化鉄粒子の鉄(Fe)の一部をコバルト(Co)などの添加元素で置換するなど、磁性粉の組成を調整したり、磁性粉の合成条件(焼成温度等)を調整したりすることで磁性粉の質量磁化を大きくし、磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mstを大きくすることができる。
【0022】
磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mstは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10を、両面テープを介して3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜くことにより、測定サンプルを作成する。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループを測定する。
【0023】
次に、アセトンまたはエタノール等を用いて塗膜、すなわち下地層12、磁性層13およびバック層14などを払拭し、基体11のみを残すようにする。そして、得られた基体11を両面テープを介して3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜くことにより、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に補正用サンプル)を得る。その後、VSMを用いて基体11の垂直方向(磁気記録媒体10の垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体11)のM-Hループを測定する。
【0024】
測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体11)のM-Hループの測定においては、例えば東英工業製の好感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とする。
【0025】
2つのM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体11)のM-Hループを差し引くことでバックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSMP7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0026】
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms(emu)と測定サンプルの面積(cm2)から、以下の式を用いて単位面積当りの飽和磁化Mstが算出される。
Mst(mA)=Ms(emu)/面積(cm2)×10000
【0027】
サンプルの面積は以下の式により算出される。
面積(cm2)=3.14×(0.639/2)2×3
【0028】
なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向において測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0029】
磁性層13は、例えば多数の凹みが設けられた表面13Sを有している。これらの多数の凹みには、潤滑剤が蓄えられている。多数の凹みは、磁性層13の表面に対して垂直方向に延設されていることが好ましい。磁性層13の表面13Sに対する潤滑剤の供給性を向上することができるからである。なお、多数の凹みの一部が垂直方向に延設されていてもよい。
【0030】
磁性層13の平均厚みの上限値は、好ましくは90nm以下、特に好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、さらにより好ましくは50nm以下である。磁性層13の平均厚みの上限値が90nm以下であると、記録ヘッドとしてはリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層13の厚み方向に均一に磁化を記録できるため、電磁変換特性を向上することができる。
【0031】
磁性層13の平均厚みの下限値は、好ましくは35nm以上である。磁性層13の平均厚みの上限値が35nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、電磁変換特性を向上することができる。
【0032】
磁性層13の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10の磁性層13の表面13Sおよびバック層14の表面14Sにカーボン膜を蒸着法により形成したのち、磁性層13の表面13Sを覆うカーボン膜の上にタングステン薄膜を蒸着法によりさらに形成する。これらのカーボン膜およびタングステン膜は、後述の薄片化処理においてサンプルを保護するものである。
【0033】
次に、磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。得られた薄片化サンプルの前記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
【0034】
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向の少なくとも10点以上の位置で磁性層13の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)した平均値を磁性層13の平均厚みとする。なお、前記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0035】
また、
図3Aに示したように、磁性層13における磁化Mと磁場Hとの関係を表す磁化曲線(M-Hループ)は、-15kOe超+15kOe未満の磁場Hの範囲で閉塞しているとよい。より良好な電磁変換特性が得られるからである。ここでいうM-Hループが「閉塞している」とは、
図3Aに示したように、-15kOe以上+15kOe以下の範囲の磁場HにおいてM-Hループに重なり合う部分が存在していることを意味する。
図3Aの例では、M-Hループのうち、磁場Hが-15kOeの近傍における端部領域MH-と、磁場Hが+15kOeの近傍における端部領域MH+との双方において、重なり合う部分が存在する。これに対し、M-Hループが「閉塞していない」とは、
図3Bに示したように、-15kOe以上+15kOe以下の範囲の磁場HにおいてM-Hループに重なり合う部分が存在しないことを意味する。
図3Bの例では、端部領域MH-および端部領域MH+の双方において、M-Hループには重なり合う部分が存在していない。なお、
図3Bは、参考例としての磁性層における磁化Mと磁場Hとの関係を表す磁化曲線(M-Hループ)の一例を表している。M-Hループが「閉塞していない」ということは、垂直方向保磁力Hcが過度に高いか、垂直方向保磁力Hcの分布が広範囲の磁場Hに及んでいる、ということである。したがって、磁気記録ヘッドでの飽和記録が難しくなることにつながる。その結果、良好な電磁変換特性を得ることが困難となると考えられる。
【0036】
(磁性粉)
磁性層13に含まれる磁性粉は、例えば30emu/g以上60emu/g以下の質量磁化σsを有するとよい。磁性粉の質量磁化σsが30emu/g以上であることにより、磁気記録媒体10としての出力の向上が期待できる。
【0037】
磁性粉は、例えば20nm以下の平均粒子径を有する複数の磁性粒子を含んでいる。具体的には、磁性粉は、例えば、ε酸化鉄を含有するナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末を含んでいる。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保磁力を得ることができる。磁性層13に含まれるε酸化鉄は、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0038】
図4は、磁性層13に含まれるε酸化鉄粒子20の断面構造の一例を模式的に表す断面図である。
図4に示したように、ε酸化鉄粒子20は、球状もしくはほぼ球状を有しているか、または立方体状もしくはほぼ立方体状を有している。ε酸化鉄粒子20が上記のような形状を有しているので、磁性粒子としてε酸化鉄粒子20を用いた場合、磁性粒子として六方晶フェライトなどの六角板状の磁性粒子を用いた場合に比べて、磁気記録媒体10の厚み方向における単位体積当たりの粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粉の分散性を高め、より良好なSNRを得ることができる。
【0039】
ε酸化鉄粒子20は、例えばコアシェル型構造を有していてもよい。具体的には、ε酸化鉄粒子20は、
図4に示したように、コア部21と、このコア部21の周囲に設けられた2層構造のシェル部22とを備える。2層構造のシェル部22は、コア部21上に設けられた第1シェル部22aと、第1シェル部22a上に設けられた第2シェル部22bとを有する。ε酸化鉄粒子20は、後述するように、添加元素としてコバルト(Co)およびジルコニウム(Zr)の双方を含んでいることが望ましい。
【0040】
ε酸化鉄粒子20は、例えば以下のように形成される。まず、鉄元素を含有する第1化合物と、上記添加元素を含む第2化合物とを含む溶液にケイ素化合物を添加して、鉄元素および上記添加元素をシリカ中に含んだシリカキセロゲルを生成する。次に、生成されたシリカキセロゲルを850~1300℃の温度で4~6時間に亘って熱処理する。こうすることにより、ε酸化鉄および上記添加元素を含むε酸化鉄粒子20が形成される。なお、本開示におけるε酸化鉄粒子20中の上記添加元素の量は、Feと添加元素とを合わせた原子%を100としたときの上記添加元素の存在比率(原子%、at%)のことをいう。
【0041】
ε酸化鉄粒子20中の上記添加元素の含有量は、例えば以下のように測定する。まず、磁気記録媒体10の磁性層13の表面13Sおよびバック層14の表面14Sにカーボン膜を蒸着法により形成したのち、磁性層13の表面13Sを覆うカーボン膜の上にタングステン薄膜を蒸着法によりさらに形成する。これらのカーボン膜およびタングステン膜は、後述の薄片化処理においてサンプルを保護するものである。 次に、磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。得られた薄片化サンプルの前記断面を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により、下記の条件で観察し、SEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。SEM像を得たのち、記録層について、以下の条件で元素分析を行う。<元素分析(面分析)>
分析手法 : エネルギー分散型X線分光法(EDS)
走査透過電子顕微鏡 : 日本電子製 JEM-ARM200F
加速電圧 : 200kV
ビーム径 : 約0.2nmφ
元素分析装置 : JED-2300T
X線検出器 : Siドリフト検出器
エネルギー分解能 : 約140eV
X線取出角 : 21.9°
立体角 : 0.98sr
取込画素数 : 256×256
次に、得られた元素分析の結果から、Fe原子%に対する添加元素の原子%を計算する。なお、ε酸化鉄粒子20中の上記添加元素の含有量の測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0042】
ε酸化鉄粒子20におけるコア部21は、ε酸化鉄を含んでいる。コア部21に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。ところで、磁気記録媒体10として高密度記録を実現するには、コア部21に含まれるε酸化鉄が微粒子化されたものであることが望ましい。しかしながら、微粒子化されたε酸化鉄は高い保磁力を示すものの、その質量磁化σsが小さくなってしまう傾向にある。磁性粉における質量磁化σsの低下は、磁気記録媒体10としての出力低下や熱安定性の低下を招く可能性があり、好ましくない。そこで、コア部21には、Co(コバルト)が添加されている。ε酸化鉄にCoを含有させることにより、ε酸化鉄粒子20の質量磁化σsの向上が期待できるからである。
【0043】
しかしながら、単相のε-Fe2O3に対しCo(コバルト)のみを添加すると、M-Hループの一部に歪みが生じてしまう。このような現象を解消するため、本開示では、コア部21が、Coと併せてZr(ジルコニウム)をさらに含むようにしている。コア部21の構成材料として、ε-Fe2O3に対し、添加元素としてCoおよびZrの双方を添加したものを用いることにより、M-Hループの歪みが緩和され、磁気記録媒体10のSFD(Switching Field Distribution)曲線においてサブピークが生じにくくなる。2価の元素のCoと共に4価の元素であるZrを併せて添加することにより、平均価数を3価にすることができ、Co元素が導入されやすくなる効果があるのではないかと考えている。したがって、3価の元素のFeを含むε酸化鉄に対し2価の元素のCoをより均質に分布させることができ、M-Hループの歪みを解消もしくは低減できると考えられる。その結果、磁気記録媒体10のSFD曲線におけるサブピークの発生が抑制され、磁性層13において磁気記録に寄与することのできる領域をより広く確保できる。よって、高密度記録に有利な磁気記録媒体10となる。なお、コア部21におけるCoの添加量は、FeとCoとを合わせた原子%を100としたとき、3原子%以上20原子%以下が好ましい。さらにその場合、コア部21におけるZrの添加量は、FeとCoとZrとを合わせた原子%を100としたとき、1原子%以上8原子%以下が好ましい。コア部21におけるCoの添加量およびZrの添加量を上記の範囲とすることにより、垂直方向の保磁力Hcをより高くしつつ、M-Hループの歪みを十分に低減できるので、高密度記録により有利な磁気記録媒体10となる。
【0044】
なお、コア部21は、Hf(ハフニウム)などの金属元素をさらなる添加元素として含んでいてもよい。
【0045】
第1シェル部22aは、コア部21の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部22aは、コア部21の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部21の周囲全体を覆っていてもよい。コア部21と第1シェル部22aの交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部21の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0046】
第1シェル部22aは、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金、CoOFe2O3またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、コア部21に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0047】
第2シェル部22bは、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部22bは、α酸化鉄、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を含む。α酸化鉄は、例えばFe3O4、Fe2O3およびFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含んでいる。第1シェル部22aがα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部22aに含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0048】
ε酸化鉄粒子20が、上述のように第1シェル部22aを有することで、熱安定性を確保するためにコア部21単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)20全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子20が、上述のように第2シェル部22bを有することで、磁気記録媒体10の製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子20が空気中に暴露されて粒子表面に錆び等が発生することによりε酸化鉄粒子20の特性が低下するのを抑制することができる。したがって、第1シェル部22aを第2シェル部22bにより覆うことで、磁気記録媒体10の特性劣化を抑制することができる。
【0049】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは20nm以下、より好ましくは8nm以上16nm以下、さらにより好ましくは8nm以上13nm以下である。磁気記録媒体10では、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、良好なSNRを得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが20nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10(例えば50nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10)において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0050】
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1以上3.0以下、より好ましくは1以上2.8以下、さらにより好ましくは1以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができると共に、磁性層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0051】
上記の磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。薄片化は磁気テープの長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行う。すなわち、この薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向および厚み方向の双方に平行な断面が形成される。得られた薄片サンプルについて、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から50個の粒子を無作為に選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSとを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸長DLと直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。
【0052】
続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0053】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5500nm3以下、より好ましくは270nm3以上5500nm3以下、さらにより好ましくは900nm3以上5500nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が5500nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを22nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が270nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0054】
ε酸化鉄粒子20が球状またはほぼ球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×(DLave)3
【0055】
(結着剤)
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等に架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体10に対して要求される物性等に応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体10において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0056】
例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0057】
また、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0058】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2等の極性官能基が導入されていてもよい。ここで、上記化学式中のMは、水素原子、またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属である。
【0059】
さらに、極性官能基としては、-NR1R2、-NR1R2R3+X-の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2+X-の主鎖型のものが挙げられる。ここで、上記式中のR1、R2、R3は、水素原子、または炭化水素基であり、X-は弗素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、または無機もしくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、エポキシ基等も挙げられる。
【0060】
(潤滑剤)
磁性層13に含まれる潤滑剤は、例えば脂肪酸および脂肪酸エステルを含有している。潤滑剤に含有される脂肪酸は、例えば下記の一般式<1>により示される化合物および一般式<2>により示される化合物のうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、潤滑剤に含有される脂肪酸エステルは、下記の一般式<3>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物のうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。潤滑剤が、一般式<1>により示される化合物および一般式<3>により示される化合物の2種を含むことにより、一般式<2>により示される化合物および一般式<3>により示される化合物の2種を含むことにより、一般式<1>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の2種を含むことにより、一般式<2>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の2種を含むことにより、一般式<1>により示される化合物、一般式<2>により示される化合物および一般式<3>により示される化合物の3種を含むことにより、一般式<1>により示される化合物、一般式<2>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の3種を含むことにより、一般式<1>により示される化合物、一般式<3>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の3種を含むことにより、一般式<2>により示される化合物、一般式<3>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の3種を含むことにより、または、一般式<1>により示される化合物、一般式<2>により示される化合物、一般式<3>により示される化合物および一般式<4>により示される化合物の4種を含むことにより、磁気記録媒体10における繰り返しの記録又は再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。その結果、磁気記録媒体10の走行性をさらに向上させることができる。
CH3(CH2)kCOOH ・・・<1>
(但し、一般式<1>において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)nCH=CH(CH2)mCOOH ・・・<2>
(但し、一般式<2>において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・<3>
(但し、一般式<3>において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)pCOO-(CH2)qCH(CH3)2…<4>
(但し、前記一般式<4>において、pは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、qは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0061】
(添加剤)
磁性層13は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等をさらに含んでいてもよい。
【0062】
(下地層12)
下地層12は、非磁性粉および結着剤を含む非磁性層である。下地層12が、必要に応じて、潤滑剤、導電性粒子、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。また、下地層12は、複数層が積層されてなる多層構造を有していてもよい。下地層12の平均厚みは、好ましくは0.5μm以上0.9μm以下、より好ましくは0.6μm以上0.7μm以下である。下地層12の平均厚みを0.9μm以下に薄くすることにより、基体11の厚みを薄くする場合よりも磁気記録媒体10全体のヤング率が効果的に低下する。このため、磁気記録媒体10に対するテンションコントロールが容易となる。また、下地層12の平均厚みを0.5μm以上とすることにより、基体11と下地層12との接着力が確保される。そのうえ、下地層12の厚みのばらつきを抑えることができ、磁性層13の表面13Sの粗さが大きくなるのを防ぐことができる。
【0063】
なお、下地層12の平均厚みは、例えば次のように求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの磁気記録媒体10について、下地層12および磁性層13を基体11から剥がす。次に、測定装置としてミツトヨ(Mitutoyo)社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用い、基体11から剥がした下地層12と磁性層13との積層体の厚みを、5点以上の位置で測定する。そののち、それらの測定値を単純平均(算術平均)し、下地層12と磁性層13との積層体の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。最後に、その積層体の平均厚みから、上述のようにTEMを用いて測定した磁性層13の平均厚みを差し引くことにより、下地層12の平均厚みを求める。
【0064】
下地層12は、細孔を有していてよく、すなわち、下地層12は、多数の細孔が設けられていてもよい。下地層12の細孔は、例えば磁性層13に細孔(凹み)を形成することに伴い形成されてよく、特には、磁気記録媒体10のバック層14の表面14Sに設けられた多数の突部を磁性層側表面に押し当てることによって形成されうる。すなわち、突部の形に対応する凹みが磁性層13の表面13Sに形成されることによって、磁性層13および下地層12に細孔がそれぞれ形成されうる。また、磁性層形成用塗料の乾燥工程で溶剤が揮発することに伴い細孔が形成されてもよい。また、磁性層13を形成するために磁性層形成用塗料を下地層12の表面に塗布した際に磁性層形成用塗料中の溶剤が下層を塗布乾燥させた際に形成された下地層12の細孔を通り、下地層12内に浸透しうる。そののち磁性層13の乾燥工程において下地層12内に浸透した溶剤が揮発する際に、下地層12内に浸透した溶剤が下地層12から磁性層13の表面13Sへ移動していくことによって細孔が形成されてもよい。このように形成された細孔は、例えば磁性層13と下地層12とを連通しているものでありうる。磁性層形成用塗料の固形分若しくは溶剤の種類及び/又は磁性層形成用塗料の乾燥条件を変更することによって、細孔の平均直径を調整することが出来る。磁性層13および下地層12の両方に細孔が形成されていることによって、良好な走行安定性のために特に適した量の潤滑剤が磁性層側表面に現れ、繰り返しの記録又は再生による動摩擦係数の増加をさらに抑制することができる。
【0065】
繰り返し記録または再生後における動摩擦係数の低下を抑制する観点からすると、下地層12の細孔と磁性層13の凹みとがつながっていることが好ましい。ここで、下地層12の細孔と磁性層13の凹みとがつながっているとは、下地層12の多数の細孔のうちの一部のものと、磁性層13の多数の凹みのうちの一部のものとがつながっている状態を含むものとする。
【0066】
磁性層13の表面13Sに対する潤滑剤の供給性を向上する観点からすると、多数の凹みは、磁性層13の表面13Sに対して垂直方向に延設されているものを含んでいることが好ましい。また、磁性層13の表面13Sに対する潤滑剤の供給性を向上する観点からすると、磁性層13の表面13Sに対して垂直方向に延設された下地層12の細孔と、磁性層13の表面13Sに対して垂直方向に延設された磁性層13の凹みとがつながっていることが好ましい。
【0067】
(下地層12の非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0068】
(下地層12の結着剤)
下地層12における結着剤は、上述の磁性層13と同様である。
【0069】
(バック層14)
バック層14は、例えば結着剤および非磁性粉を含んでいる。バック層14が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。バック層14における結着剤および非磁性粉は、上述の下地層12における結着剤および非磁性粉と同様である。
【0070】
バック層14における非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。バック層14の非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性層13における磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有するものを含んでいてもよい。
【0071】
バック層14の平均厚みの上限値は、好ましくは0.6μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。バック層14の平均厚みの上限値が0.6μm以下であると、磁気記録媒体10の平均厚みが5.6μm以下である場合でも、下地層12や基体11の厚みを厚く保つことができるので、磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層14の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上であり、特に好ましくは0.3μm以上である。
【0072】
バック層14の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてミツトヨ(Mitutoyo)社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルである磁気記録媒体10の厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、磁気記録媒体10の平均厚みtT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。続いて、サンプルの磁気記録媒体10からバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。そののち、再び上記のレーザーホロゲージを用い、磁気記録媒体10からバック層14を除去したサンプルの厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)してバック層14を除去した磁気記録媒体10の平均厚みtB[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。最後に、以下の式よりバック層14の平均厚みtb[μm]を求める。
tb[μm]=tT[μm]-tB[μm]
【0073】
(磁気記録媒体10の平均厚み)
磁気記録媒体10の平均厚み(平均全厚)の上限値は、好ましくは5.6μm以下、より好ましくは5.0μm以下、特に好ましくは4.6μm以下、さらにより好ましくは4.4μm以下である。磁気記録媒体10の平均厚みが5.6μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。磁気記録媒体10の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以上である。
【0074】
磁気記録媒体10の平均厚みtTは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0075】
(比Hrp/Hc)
さらに、磁気記録媒体10の膜面に垂直の方向における垂直方向保磁力Hc(
図3A参照)に対する、パルス磁界を用いて磁気記録媒体10の膜面に垂直の方向に測定した残留保磁力Hrp(
図3A参照)の比Hrp/Hcが2.0以下であるとよい。比Hrp/Hcを所定の範囲内に収めることにより、信号減衰量を改善することができる。すなわち、残留保磁力Hrpと垂直方向保磁力Hcとの差が小さく、比Hrp/Hcが1に近い値を示す磁気記録媒体10の熱安定性は高い。一方、残留保磁力Hrpと垂直方向保磁力Hcとの差が大きく、比Hrp/Hcの値が1よりも大幅に(例えば2を超える程度に)大きくなる磁気記録媒体10における熱安定性は低い。比Hrp/Hcを2.0以下とすることにより、熱安定性の低下を回避することができ、磁化信号の書き込み易さも確保できる。熱安定性の低下を回避することで、磁気記録媒体10が周囲の温度の影響を受けやすい不安定な状態になることを抑制し、データの保存性(磁気記録媒体10の長期信頼性)を改善することができる。なお、比Hrp/Hcを2.0以下とするには、例えば30emu/g以上60emu/g以下の質量磁化σsを有する磁性粉を用いて磁性層13を形成するとよい。本開示のε酸化鉄は、前述のように高い質量磁化σsを有し、かつ、ε酸化鉄本来の特徴である高い垂直方向保磁力Hcを有することから、微粒子においても高い熱安定性を有することが可能となる。同時に、質量磁化σsが高いことから、高いMst(単位面積当たりの飽和磁化)を確保でき、高い記録再生出力を維持できることになる。すなわち、前述のように、高い熱安定性、すなわち長期信頼性と高い電磁変換特性とを両立することが可能となる。なお、垂直方向保磁力Hcは、2000Oe以上6000Oe以下であることが望ましく、2500Oe以上4500Oe以下であることがより望ましい。
【0076】
垂直方向保磁力Hcの測定の際は、磁界を低速度で掃引させながら測定することから、測定中でも周囲の熱の影響を受けて磁性層13の質量磁化σが変動する。一方、残留保磁力Hrpの測定は、パルス状の磁界を印加して、一瞬で測定を行う。このため、周囲からの熱の影響が少なり、残留保磁力Hrpが大きくなると考えられる。熱安定性が高い磁気記録媒体であれば熱による垂直方向保磁力Hcの低下が少ないことから、比Hrp/Hcが小さくなると考えられる。これに対し、熱安定性が低い磁気記録媒体の場合、逆の現象が発生し、熱による垂直方向保磁力Hcの低下が大きくなり、比Hrp/Hcが大きくなると考えられる。
【0077】
垂直方向保磁力Hcは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10を両面テープを介して3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜くことにより、測定サンプルを作成する。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、VSMを用いて磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループを測定する。
【0078】
次に、アセトンまたはエタノール等を用いて塗膜、すなわち下地層12、磁性層13およびバック層14などを払拭し、基体11のみを残すようにする。そして、得られた基体11を両面テープを介して3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜くことにより、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に補正用サンプル)を得る。その後、VSMを用いて基体11の垂直方向(磁気記録媒体10の垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体11)のM-Hループを測定する。
【0079】
測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体11)のM-Hループの測定においては、例えば東英工業製の好感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とする。
【0080】
2つのM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体11)のM-Hループを差し引くことでバックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSMP7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0081】
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから垂直方向保磁力Hcが求められる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向において測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0082】
残留保磁力Hrpは以下のように求められる。測定サンプルは上述の垂直方向保磁力Hcの算出に使用したサンプルと同様のサンプルについて、ハヤマ社製高速応答特性評価装置HR-PVSM20を用いて膜面に対して垂直方向に残留磁化曲線を測定する。
【0083】
まず、サンプル全体に約-3980kA/m(約-15kOe)の垂直方向の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約40.2kA/m(約505Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。この際の印加磁界はパルス幅が10
-8secのパルス磁界である。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに約40.2kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を測定する。測定磁界は約20kOeまでとする。なお、バックグラウンド補正、反磁界補正は特には行わない。なお、サンプルに印加する磁界の大きさは、印加する電圧を変えることによって変える。そのステップ電圧は17.5V(磁界に換算すると約505Oeである)である。
主な測定条件を以下に示す。
初期着磁電圧:220V(-3980kA/mに相当)
測定開始電圧:0V(0Oeに相当)
ステップ電圧:17.5V(約505Oeに相当)
最大電圧:350V(20kOeに相当)
ロックインアンプの待ち時間:10秒
測定後に保存されるデータから、位相補正を行うことにより、残留磁化曲線が得られる(
図5)。
図5中でX軸を挟んだ2点(点P1および点P2)を直線で結び、X軸と交わる点を残留保磁力Hrpとして算出する。
磁化量の単位は本来emuであるが、上述の高速応答特性評価装置においては、各印加磁界での磁化量は電圧Vとして出力され、かつ、当該各印加磁界での磁化量(電圧V)は、正または負のいずれの値も正の値として出力される。そのため、各印加磁界での位相に応じた補正が必要である。この補正のために、上述の高速応答特性評価装置による出力結果に含まれる位相情報データが用いられる。位相情報データも、各印加磁界での磁化量(電圧V)と一緒に、各印加磁界について出力される。ある磁界について測定された磁化量(電圧V)の位相情報データが負の値である場合は、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じる必要があり、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じて得られた値が、残留磁化曲線を得るために用いられる。当該「-1」を乗じる処理が、上述の位相補正である。
他方で、ある磁界について測定された磁化量(電圧V)の位相情報データが正の値である場合は、当該測定された磁化量(電圧V)に「-1」を乗じる必要はなく、測定された磁化量(電圧V)がそのまま、残留磁化曲線を得るために用いられる。以上の通りにして得られた位相補正後の磁化量(「-1」が乗じられたもの)及び測定された磁化量(「-1」が乗じられていないもの)を、磁界に対してプロットすることによって、図に示されるような残留磁化曲線が得られる。
【0084】
[2-2 磁気記録媒体10の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体10の製造方法について説明する。まず、非磁性粉、結着剤および潤滑剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉、結着剤および潤滑剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。次に、結着剤および非磁性粉等を溶剤に混練、分散させることにより、バック層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料、下地層形成用塗料およびバック層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0085】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0086】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0087】
次に、下地層形成用塗料を基体11の一方の主面11Aに塗布して乾燥させることにより、下地層12を形成する。続いて、この下地層12上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層13を下地層12上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の厚み方向に磁場配向させることが好ましい。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体11の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このような磁場配向処理をすることで、磁性粉の垂直配向度(すなわち角形比S1)を向上することができる。磁性層13の形成後、バック層形成用塗料を基体11の他方の主面11Bに塗布して乾燥させることにより、バック層14を形成する。これにより、磁気記録媒体10が得られる。
【0088】
その後、得られた磁気記録媒体10にカレンダー処理を行い、磁性層13の表面13Sを平滑化する。次に、カレンダー処理が施された磁気記録媒体10をロール状に巻き取ったのち、この状態で磁気記録媒体10に加熱処理を行うことにより、バック層14の表面14Sの多数の突部を磁性層13の表面13Sに転写する。これにより、磁性層13の表面13Sに多数の凹みが形成される。
【0089】
加熱処理の温度は、50℃以上80℃以下であることが好ましい。加熱処理の温度が50℃以上であると、良好な転写性を得ることができる。一方、加熱処理の温度が80℃以下であると、細孔量が多くなりすぎ、磁性層13の表面13Sの潤滑剤が過多になってしまうおそれがある。ここで、加熱処理の温度は、磁気記録媒体10を保持する雰囲気の温度である。
【0090】
加熱処理の時間は、15時間以上40時間以下であることが好ましい。加熱処理の時間が15時間以上であると、良好な転写性を得ることができる。一方、加熱処理の時間が40時間以下であると、生産性の低下を抑制することができる。
【0091】
また、加熱処理の際に磁気記録媒体10に対して付与する圧力の範囲は150kg/cm以上400kg/cm以下であるとよい。
【0092】
最後に、磁気記録媒体10を所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上に
より、目的とする磁気記録媒体10が得られる。
【0093】
[2-3 効果]
このように、本実施の形態の磁気記録媒体10は、基体11と下地層12と磁性層13とバック層14とが順に積層されたテープ状の部材であり、以下の<1>から<3>の各構成要件を満たすようにしたものである。
<1>磁性層13がε酸化鉄を含む磁性粉を有する。
<2>膜面に垂直の方向における垂直方向保磁力(Hc)に対する、パルス磁界を用いて磁気記録媒体10の垂直方向に測定した残留保磁力(Hrp)の比(Hrp/Hc)が2.0以下である。
<3>単位面積当りの飽和磁化(Mst)が4.5mA以上である磁性層を有する。
【0094】
本実施の形態の磁気記録媒体10は、このような構成を有することにより、記録密度を高めた場合であっても優れた電磁変換特性と高い長期信頼性とを実現することができる。磁気記録媒体10は、例えば磁性層13が、例えばCoおよびZrが添加されたε酸化鉄を含有する磁性粉を有することにより、上述の構成要件を満たしている。CoおよびZrが添加されたε酸化鉄を含有する磁性粉は高い垂直方向保磁力Hcと質量磁化σsとを有する。そのため、そのような磁性粉を使用した磁気記録媒体10は、優れた電磁変換特性と高い長期信頼性との両立を実現することができる。
【0095】
<3.変形例>
(変形例1)
上記の一実施の形態では、2層構造のシェル部22を有するε酸化鉄粒子20(
図4)を例示して説明したが、本技術の磁気記録媒体は、例えば
図6に示したように、単層構造のシェル部23を有するε酸化鉄粒子20Aを含むようにしてもよい。ε酸化鉄粒子20Aにおけるシェル部23は、例えば第1シェル部22aと同様の構成を有する。但し、特性劣化を抑制する観点においては、変形例1のε酸化鉄粒子20Aよりも上記の一実施の形態で説明した2層構造のシェル部22を有するε酸化鉄粒子20が好ましい。
【0096】
(変形例2)
磁気記録媒体10は、例えば
図7に示したように、基体11の少なくとも一方の表面に設けられたバリア層15をさらに備えるようにしてもよい。バリア層15は、基体11が有する環境に応じた寸法変化を抑制するための層である。例えば、その寸法変化を及ぼす原因の一例として、基体11の吸湿性があるが、バリア層15を設けることにより基体11への水分の侵入速度を低減することができる。バリア層15は、例えば、金属または金属酸化物を含む。ここでいう金属としては、例えば、Al、Cu、Co、Mg、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Mo、Ru、Pd、Ag、Ba、Pt、AuおよびTaのうちの少なくとも1種を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、上記金属を1種または2種以上含む金属酸化物を用いることができる。より具体的には例えば、Al
2O
3、CuO、CoO、SiO
2、Cr
2O
3、TiO
2、Ta
2O
5およびZrO
2のうちの少なくとも1種を用いることができる。また、バ
リア層15が、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)またはダイヤモン
ド等を含むようにしてもよい。
【0097】
バリア層15の平均厚みは、好ましくは20nm以上1000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。バリア層15の平均厚みは、磁性層13の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、バリア層15の厚みに応じて適宜調整される。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0099】
以下の実施例および比較例において、磁性層13の単位面積当りの飽和磁化Mst、M-Hループ、垂直方向保磁力Hc、磁性層13の質量磁化σs、磁性層13の平均厚み、磁性粉の平均粒子サイズ、残留保磁力Hrp、ならびに磁性層13における面内X線回折(Cu管球)により測定される回折パターンにおける第1ピークおよび第2ピークの位置については、上述の一実施形態にて説明した測定方法により求められた値である。
【0100】
[実施例1]
実施例1としての磁気記録媒体を以下のようにして得た。
【0101】
<磁性層形成用塗料の調製工程>
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0102】
(第1組成物)
第1組成物における各構成要素および重量は以下の通りである。
・ε酸化鉄粒子の粉末(Co[at%]/Fe[at%]=0.14、Zr[at%]/Fe[at%]=0.05、球状、平均アスペクト比1.1、平均粒子サイズ16nm、粒子体積2150nm3、質量磁化σsは39emu/g):100質量部
・塩化ビニル系樹脂:42質量部 (溶剤含む)
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
・酸化アルミニウム粉末:5質量部(α-Al2O3、平均粒径0.1μm)
・カーボンブラック(東海カーボン社製、商品名:シーストTA):2質量部
【0103】
(第2組成物)
第2組成物における各構成要素および重量は以下の通りである。
・塩化ビニル系樹脂:3質量部(溶液含む)
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
・脂肪酸エステルとしてn-ブチルステアレート:2質量部
・メチルエチルケトン:121.3質量部
・トルエン:121.3質量部
・シクロヘキサノン:60.7質量部
【0104】
上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、脂肪酸としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0105】
<下地層形成用塗料の調製工程>
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0106】
(第3組成物)
第3組成物における各構成要素および重量は以下の通りである。
・針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.15μm):100質量部
・塩化ビニル系樹脂(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%):60.6質量部(溶液含む)
・カーボンブラック(平均粒径20nm):10質量部
【0107】
(第4組成物)
第4組成物における各構成要素および重量は以下の通りである。
・ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
・脂肪酸エステルとしてn-ブチルステアレート:2質量部
・メチルエチルケトン:108.2質量部
・トルエン:108.2質量部
・シクロヘキサノン:18.5質量部
【0108】
上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、脂肪酸としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0109】
<バック層形成用塗料の調製工程>
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。・小粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)20nm):90質量部
・大粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)270nm):10質量部
・ポリエステルポリウレタン(東ソー株式会社製、商品名:N-2304):100質量部
・メチルエチルケトン:500質量部
・トルエン:400質量部
・シクロヘキサノン:100質量部
【0110】
<塗布工程>
上述のようにして調製した磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、非磁性支持体である平均厚み4.0μmの長尺のポリエステルフィルムの一方の主面上に、カレンダー後に平均厚み0.6μmの下地層、および平均厚み80nmの磁性層になるように以下のようにして形成した。まず、ポリエステルフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcを表1に示す値に設定した。続いて、ポリエステルフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、平均厚み0.3μmのバック層を形成した。
【0111】
<カレンダー工程および転写工程>
続いて、カレンダー処理を行い、磁性層の表面を平滑化した。次に、磁性層の表面が平滑化された磁気記録媒体をロール状に巻き取ったのち、その状態のまま磁気記録媒体に60℃、10時間の加熱処理を行った。そして、内周側に位置している端部が反対に外周側に位置するように、磁気記録媒体をロール状に巻き直したのち、その状態のまま磁気記録媒体に60℃、10時間の加熱処理を再度行った。これにより、バック層の表面の多数の突部が磁性層の表面に転写され、磁性層の表面に多数の凹みが形成された。
【0112】
<裁断工程>
上述のようにして得られた磁気記録媒体を1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、目的とする長尺状の磁気記録媒体(平均厚み5.6μm)が得られた。
【0113】
上記のようにして得た実施例1としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが6.1mAであり、比Hrp/Hcが1.67であった。
【0114】
[実施例2]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを13nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.15とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを40emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例2としての磁気記録媒体を得た。
【0115】
[実施例3]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを19nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.15とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを40emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例3としての磁気記録媒体を得た。
【0116】
[実施例4]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。さらに、塗布工程において、磁性層の平均厚みを60nmとした。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例4としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例4としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが4.5mAであった。
【0117】
[実施例5]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.08とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを25emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例5としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例5としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが4.7mAであった。
【0118】
[実施例6]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.20とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを50emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例6としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例6としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが7.8mAであった。
【0119】
[実施例7]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.20とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを25emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例7としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例7としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが7.8mAであった。
【0120】
[実施例8]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.2nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.16とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを41emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例8としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例8としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが6.4mAであった。
【0121】
[実施例9]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。ε酸化鉄粒子におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.20とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを50emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例9としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例9としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが7.8mAであった。
【0122】
[実施例10]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。ε酸化鉄粒子の粉末におけるFeに対するCoの存在比率をモル比でCo[at%]/Fe[at%]=0.20とした。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを50emu/gとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例10としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例10としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが5.8mAであった。
【0123】
[実施例11]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを16.2nmとした。また、塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして実施例11としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た実施例11としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが6.1mAであった。
【0124】
[比較例1]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子にZrを添加しなかった。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを15emu/gとした。また、程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして比較例1としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た比較例1としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが2.3mAであった。
【0125】
[比較例2]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。また、ε酸化鉄粒子にZrを添加しなかった。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを16emu/gとした。さらに塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして比較例2としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た比較例2としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが2.5mAであった。
【0126】
[比較例3]
磁性層形成用塗料の調製工程において、ε酸化鉄粒子の平均粒子サイズを15.5nmとした。また、ε酸化鉄粒子にZrを添加しなかった。これにより、ε酸化鉄粒子の質量磁化σsを16emu/gとした。さらに塗布工程において、乾燥条件を調整し、磁気記録媒体の厚み方向(垂直方向)における保磁力Hcと、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpとを、それぞれ表1に示した値に設定した。これらを除き、他は上記実施例1と同様にして比較例3としての磁気記録媒体を得た。なお、このようにして得た比較例3としての磁気記録媒体では、磁性層における単位面積当りの飽和磁化Mstが4.7mAであった。
【0127】
[評価]
上述のようにして得られた実施例1~11および比較例1~3の磁気記録媒体について以下の評価を行った。
【0128】
(ループ閉塞)
M-Hループが、-15kOe以上+15kOe以下の範囲で閉塞しているかどうかについて確認した。表1では、M-Hループが-15kOe以上+15kOe以下の範囲で閉塞している場合にはOKと表示し、M-Hループが-15kOe以上+15kOe以下の範囲で閉塞していない場合にはNGと表示している。
【0129】
(面内XRDピーク検出)
面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて、32.9°の位置に第1ピークが発現し、36.6°の位置に第2ピークが発現しているかどうか、について確認した。表1では、32.9°の位置に第1ピークが発現している場合、および36.6°の位置に第2ピークが発現している場合にそれぞれOKと表示している。
【0130】
(SNR)
記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気記録媒体のSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。その結果を、比較例3のSNRを0dBとする相対値で表1に示した。
Y.Okazaki: ”An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0131】
(10年経過後の信号減衰量)
各実施例および各比較例のサンプルについて、以下のようにして10年経過後の信号減衰量を求めた。具体的には、Micro Physics社製「Tape Head Tester (以下THTとする)」を用いた。記録再生ヘッドにはIBM社製テープドライブ「TS1140」に搭載されているものをそのまま使用した。測定に際して磁気記録媒体としての磁気テープを90cmの長さに切り取り、磁気テープの記録層が裏になるようにリング状にした後、磁気テープ両端同士を磁気テープ裏面において粘着テープにより接合した。また、その接合部に隣接して、テープ周回位置を検出するための銀テープを貼った。リング状の磁気テープはTHTに取り付けた後、2m/secの速度で周回させた。
【0132】
次に、Tektronix社製信号発生機「ARBITRARY WAVEFORM GENERATOR AWG2021」を用いて発生させた10MHzの信号を、磁気テープに最適記録電流を用いて、テープ全長一周分だけ記録した。記録に続いて、次の周回からは、テープに記録された信号を連続して再生させ、再生出力を Hewlett Packard社製スペクトラムアナライザー「8591E」にて計測した。尚、この際のスペクトラムアナライザーの設定はRBW:1MHz、VBW:1MHz、SWP:500msec、point : 400、ゼロスパンモード とした。計測は、十分な記録が行われていない「テープ接合部近傍」を除いた「記録部」のみの間の0.4sec間だけ行い、この間の再生出力の平均値Yを計算した。計測はテープ一周毎に行い、其々の周回における再生出力の平均値Yを、信号記録終了時(t=0)からの経過時間における再生出力平均値Y(t)とした。計測は、t=100secまで行い、接続したパソコンへと適時送信し、記録させた。
【0133】
上述の測定フローを、同一の磁気テープを用いて4度行い、各測定により得られたY(t)値を、同じ経過時間t毎に平均化してYave(t)の数列とした。得られた Yave(t)をY軸、経過時間tをX軸にとりグラフにプロットし、このグラフから対数近似を用いて近似曲線を作成した。得られた近似曲線を用いて10年後の信号減衰量を算出した。
【0134】
表1に、各実施例および各比較例における磁気記録媒体の構成および評価結果をまとめて示す。
【0135】
【0136】
表1に示したように、実施例1~11では、面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて32.9°の第1ピークおよび36.6°の第2ピークを発現し、比Hrp/Hcが2.0以下であり、酸化鉄を含み、単位面積当りの飽和磁化Mstが4.5mA以上である磁性層を有するようにした。このため、実施例1~11では、SNRおよび信号減衰量の双方において良好な結果が得られた。
【0137】
特に、実施例9では、SNRおよび信号減衰量の双方において極めて良好な結果が得られた。実施例9では、単位面積当りの飽和磁化Mstが高いことに加え、パルス磁界を用いて測定した残留保磁力Hrpも低く抑えられている。このため、磁性層13に対して記録磁界が書き込み易く、磁性層13において急峻な磁化反転を形成できているので、良好なSNRが得られていると考えられる。
【0138】
実施例2では、磁性粒子を小さくしたので、より優れたSNRが得られた。また、実施例3では、比較的大きい磁性粒子を用いるようにしたので、信号減衰量において良好な結果が得られた。
【0139】
比較例1では、単位面積当りの飽和磁化Mstが4.5mA未満であるので、SNRに劣化が見られた。
【0140】
比較例2では、単位面積当りの飽和磁化Mstが4.5mA未満であるうえ、比Hrp/Hcが2.0を超えているので、SNRが不十分であった。また、10年経過後の信号減衰量についても劣化が見られた。
【0141】
比較例3では、比Hrp/Hcが2.0を超えており、磁性層の平均厚みも比較的厚いので、SNRが不十分であった。また、10年経過後の信号減衰量についても劣化が見られた。
【0142】
以上、実施の形態およびその変形例を挙げて本開示を具体的に説明したが、本開示は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0143】
例えば、上述の実施形態およびその変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。具体的には、本開示の磁気記録媒体は、基体、下地層、磁性層、バック層およびバリア層以外の構成要素を含んでいてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0144】
また、上述の実施形態およびその変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0145】
また、本明細書において段階的に記載された数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独で用いることができるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0146】
以上説明したように、本開示の一実施形態としての磁気記録媒体によれば、電磁変換特性の向上と高い長期信頼性の確保との両立が実現可能である。
なお、本開示の効果はこれに限定されるものではなく、本明細書に記載のいずれの効果であってもよい。また、本技術は以下のような構成を取り得るものである。
(1)
磁性層および基体を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層はε酸化鉄を含む磁性粉を有し、
前記磁気記録媒体の垂直方向保磁力(Hc)に対する、パルス磁界を用いて前記磁気記録媒体の垂直方向に測定した残留保磁力(Hrp)の比(Hrp/Hc)が2.0以下であり、
前記磁気記録媒体の単位面積当りの飽和磁化(Mst)が4.5mA以上である
磁気記録媒体。
(2)
面内X線回折(Cu管球)による回折パターンにおいて32.9°の第1ピークおよび36.6°の第2ピークを発現する
上記(1)記載の磁気記録媒体。
(3)
前記磁性層の平均厚みは、80nm以下である
上記(1)記載の磁気記録媒体。
(4)
前記垂直方向保磁力は、2000Oe以上6000Oe以下である
上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記垂直方向保磁力は、2500Oe以上4500Oe以下である
上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(6)
前記磁性粉の質量磁化は、30emu/g以上60emu/g以下である
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(7)
前記磁性粉の平均粒子径は、20nm以下である
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(8)
前記ε酸化鉄は、ジルコニウム(Zr)およびコバルト(Co)を含有する
上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(9)
前記磁性層における磁化と磁場との関係を表す磁化曲線(M-Hループ)は、-15kOe以上+15kOe以下の範囲で閉塞している
上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体。
(10)
前記ε酸化鉄における鉄(Fe)とコバルトとを合わせた原子%を100としたときのコバルトのモル比は、3原子%以上20原子%以下である
上記(8)記載の磁気記録媒体。
(11)
前記ε酸化鉄における鉄(Fe)とジルコニウムとを合わせた原子%を100としたときのジルコニウムのモル比は、1原子%以上8原子%以下である
上記(8)記載の磁気記録媒体。
【0147】
本出願は、日本国特許庁において2020年1月21日に出願された日本特許出願番号2020-007832号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0148】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。