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特許7590815印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20241120BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20241120BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20241120BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
B05D7/02
B05D3/06 Z
B41M1/30 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020073797
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2021038374
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019159257
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】草谷 光晴
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147242(JP,A)
【文献】特開2000-154266(JP,A)
【文献】特開2013-253132(JP,A)
【文献】特開2006-167507(JP,A)
【文献】特開2018-122257(JP,A)
【文献】国際公開第2007/097249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B41M
B29C
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、
前記樹脂組成物は、無機充填剤を含有しないポリアセタール樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリフェニレンサルファイド樹脂組成物であり、
前記印刷部が、レーザ光の照射による処理部を有し、前記処理部が深さ5~100μmかつ流動方向に対し±45°の斜格子状の溝を有する樹脂成形品(ただし、全面にレーザ光が照射された処理部を除く)。
【請求項2】
前記溝が、前記印刷部の20%以上の面積に形成されている、請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記印刷部に前記塗料が塗布されている、請求項1または2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記印刷部にプライマを塗布した上に、前記塗料が塗布されている請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
無機充填剤を含有しないポリアセタール樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる樹脂成形品への印刷方法であって、
前記樹脂成形品の表面に、レーザ光の照射による処理部を含む印刷部を設ける工程と、
前記印刷部に塗料を塗布し印刷層を形成する工程と、
を有し、
前記処理部は、深さが5~100μmかつ流動方向に対し±45°の斜格子状の溝を有する樹脂成形品への印刷方法。
【請求項6】
塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂組成物からなる溝を有する樹脂成形品の溝上に印刷層を有する印刷物であって、
前記印刷部が、レーザ光の照射による処理部を有し、
前記溝は、深さ5~100μmかつ流動方向に対し±45°の斜格子状であり、
前記樹脂成形品は、充填剤を含有しないポリアセタール樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリフェニレンサルファイド樹脂組成物である、
印刷物(ただし、全面にレーザ光が照射された処理部を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、その形状の自由度から自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした各種分野で用いられており、その活用分野は機構部品に留まらず、意匠性が要求される筐体等の外観部品にも及んでいる。それに伴い、樹脂成形品に意匠性を付与する方法として、樹脂成形品表面への印刷などの加飾技術が求められている。
【0003】
特許文献1は、結晶性熱可塑性樹脂からなる成形品の少なくとも一部の表面を、サンドブラスト、ショットブラスト、又は液体ホーニングにより、十点平均粗さRzが10μm≦Rz≦40μmとなるように粗化した後、粗化表面に二液硬化型樹脂組成物を塗膜状に付着させ、硬化させることを特徴とする樹脂成形品の塗膜形成方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂成形品と他の成形品とを一体化して複合成形品を製造する方法を開示する。この方法は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品にレーザ照射を施すことで樹脂の一部除去を行い、無機充填剤が橋架け状に露出した溝を有する溝付き樹脂成形品を得た後、溝付き樹脂成形品の溝を有する面を接触面として熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなる他の成形品と一体化する。この方法によると、橋架け状に露出した無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の界面でアンカーの役割を果たし、結果として複合成形品の強度を著しく高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許2002-97292号公報
【文献】特許第5632567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のサンドブラストやショットブラスト、液体ホーニング、あるいは、やすり掛け等、研削により成形品表面を粗化する技術では、粗化した印刷部に設けた印刷層の密着強度をある程度向上させることができたが、例えば屋外で用いられる成形品や、印刷部が他の部材と接触する成形品など、厳しい環境で使用される成形品では、印刷層の剥離が問題となる場合があり、更なる印刷層の密着強度の向上が要求されている。また、意匠性の観点で印刷の外観性(画質)も高いレベルで要求される。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、意匠性に優れ、高い密着強度の印刷部を有する樹脂成形品及び樹脂成形品への印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記によって上記課題を解決した。
【0009】
1. 塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、
該樹脂組成物は、無機充填剤を含有しない樹脂組成物であり、
該印刷部が、レーザ光の照射による処理部を有し、該処理部が深さ5~100μmの溝を有する樹脂成形品。
2. 前記溝が、前記印刷部の20%以上の面積に形成されている、前記1に記載の樹脂成形品。
3. 前記印刷部に前記塗料が塗布されている、前記1~2いずれかに記載の樹脂成形品。
4. 前記印刷部にプライマを塗布した上に、前記塗料が塗布されている前記1~3いずれかに記載の樹脂成形品。
5. 無機充填剤を含有しない樹脂組成物からなる樹脂成形品への印刷方法であって、該樹脂成形品の表面に、レーザ光の照射による処理部を含む印刷部を設ける工程と、該印刷部に塗料を塗布し印刷層を形成する工程、を有する樹脂成形品への印刷方法。
6. 溝を有する樹脂成形品の溝上に印刷層を有する印刷物であって、該溝は、深さ5~100μmであり、該樹脂成形品は、充填剤を含有しない樹脂組成物である、印刷物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、印刷の外観性に優れ、かつ樹脂成形品からの印刷層の剥離という課題を解決した、印刷部を有する成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1でサンプル画像を印刷した印刷物の写真である。
図2】実施例1でサンプル画像にカッターナイフで格子状に切り込みをいれた写真である。
図3】実施例1の印刷物のセロハンテープによる剥離試験後の写真である。
図4】実施例4の印刷物のセロハンテープによる剥離試験後の写真である。
図5】比較例3の印刷物のセロハンテープによる剥離試験後の写真である。
図6】比較例5の印刷物のセロハンテープによる剥離試験後の写真である。
図7】本発明の一実施態様に係る印刷物の写真である。破線内がレーザ処理部である。
図8図7に係る印刷物の試験後の写真である。破線内がレーザ処理部である。
図9】本発明の別の実施態様に係る印刷物の写真である。
図10図9に係る印刷物の未塗装部分の拡大写真である。
図11図9に係る印刷物の印刷された部分の拡大写真である。
図12図9に係る印刷物の試験後の未塗装部分の拡大写真である。
図13図9に係る印刷物の試験後の印刷された部分の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0013】
<樹脂成形品>
本発明の樹脂成形品は、塗料により印刷するための印刷部を有する樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、該樹脂組成物は無機充填剤を含有しない樹脂組成物であり、該印刷部が、レーザ光の照射による処理部を有し、該処理部が深さ5~100μmの溝を有することを特徴とする。
【0014】
<樹脂>
本発明の樹脂成形品を構成する樹脂組成物に含まれる樹脂は、後述するレーザ照射によって処理部が形成できるものであれば、特に限定されず、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂や、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等の非晶性樹脂が挙げられる。
【0015】
なお、後述する方法で樹脂を処理する上では樹脂成形品が不透明であることが望ましいため、樹脂としては結晶性樹脂を用いることが好ましく、全樹脂成分中の結晶性樹脂の割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の樹脂組成物を構成する樹脂が不透明であることが好ましいため、樹脂組成物には染料や顔料などの着色剤(光吸収剤)を添加することも好ましく、有機系の着色剤よりも無機系の着色剤(例えばカーボンブラック)を添加することがより好ましい。
【0017】
このような着色剤を添加することで、透明な非晶性樹脂にも後述する方法での樹脂の除去を行うことが可能となるが、非晶性樹脂は通常、耐薬品性が低い(すなわち塗料やインクとの親和性が高い)ことから、結晶性樹脂に比べ印刷が容易であるため、本発明は印刷性に対する要求が高い結晶性樹脂において、より効果を発揮するものである。
【0018】
<処理部>
本発明の処理部は、樹脂表面がレーザ照射による処理された箇所である。レーザ照射された処理部は、レーザの熱により発泡状態となったり、泡状表面(泡がはじけた形状、以下、合わせて泡形状ともいう)を有する溝を形成する。
【0019】
本発明の樹脂成形品の溝の形成は、溝を形成する前の樹脂成形品の表面にレーザ光を照射して、樹脂を一部除去することにより行うのが好ましい。レーザ光の種類や波長、出力や照射時間などの条件は、対象となる樹脂成形品を構成する樹脂組成物に応じて適宜選択すれば良いが、溝の深さが5~100μmとなるように調節することが好ましい。
【0020】
印刷の密着強度と画質の観点では、溝の深さは10~80μmであることがより好ましく、15~60μmであることがさらに好ましく、20~50μmであることが特に好ましい。
【0021】
本発明において印刷の密着強度と画質が向上する理由は、レーザ光照射により樹脂成形品表面に泡形状が形成されこの泡形状がインク等の塗料による印刷層と樹脂成形品との密着強度を向上させるとともに、インク等のぬれ性を改善し同時に過剰な広がりを抑制しているものと推定している。泡形状は、溝の底部、側面のいずれにも形成される。
【0022】
形成する溝の面積は、画質及び密着強度を確保する意味で、印刷部の面積に対し20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されず、印刷部全面(100%)にわたってレーザ光を照射しても良い。
【0023】
これは、溝形成のために照射するレーザ光の線幅が、レーザ光照射時の走査ピッチよりも大きい場合である。
【0024】
なお、樹脂成形品のある面において、全面にわたってレーザ光を照射し、当該ある面の全面に溝を設けた場合(すなわち当該ある面の表層を全面にわたって浚う場合)、当該処理後の樹脂成形品からは、溝の深さ(すなわち表層がどの程度の深さまで取り除かれたのか)を把握することが困難となる場合があるが、上述の溝の深さは、溝が深すぎる場合に、インク等の塗料が当該深い溝に沈み込むことで印刷表面の平滑性や発色性が不利となり画質が低下することを考慮して設定するものであるため、全面が同様に処理されているものについては、特に溝の深さを考慮する必要はない。
【0025】
なお、溝部のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、溝がレーザ光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0026】
樹脂成形品を構成する樹脂組成物は、その他公知の添加剤(酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、靱性改良剤、流動性改良剤、耐加水分解性改良剤等)を含有してもよい。特に本発明においては、溝部への泡形状の形成を促進する意味で、発泡剤、特にレーザ光照射時の熱によりガスを発生させる化学的発泡剤を含有してもよい。
【0027】
なお、上述の発泡剤のような樹脂を発泡させる成分を含まない樹脂組成物を用いる場合、樹脂組成物に含まれる樹脂は、レーザ光のエネルギーにより溶融し、さらにエネルギーを受けることで分解、昇華し、その際に発生するガスによって、溶融樹脂内に気泡が取り込まれ、樹脂成形品が前述の泡形状を有する状態となる。
【0028】
ここで、樹脂の融点または軟化温度と、分解温度の差が大きい場合、レーザ光照射により樹脂を溶融させても、さらに分解ガスの発生による発泡を促進するためには、より高いエネルギーを照射する必要がある。
【0029】
したがってレーザ照射装置の設定や仕様上の制限等から、照射するエネルギーが不足する場合、樹脂を溶融させることはできても、分解による発泡が不足し、泡形状の形成が少なくなる場合がある。化学的発泡剤は係る場合に有利である。
【0030】
また用いる樹脂としては、融点と分解温度の差がなるべく小さいものを選択することが好ましい。融点と分解温度の差(分解温度から融点を減じた値)としては、例えば250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、180℃以下であることが特に好ましく、160℃以下であることが最も好ましい。
【0031】
なお、ここでいう熱分解温度とは、熱重量分析(TGA)を用いて、空気中(流量100ml/min)、昇温レート10℃/minで測定した1%重量減少温度を指す。
【0032】
<溝を有する樹脂成形品への印刷層を形成する工程>
本発明の溝を有する樹脂成形品への印刷は、上記により溝を形成した印刷部にインクなどの塗料を塗布することにより行う。
【0033】
塗料としては、一般的な塗料、UV硬化する塗料、インク等のほか、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングの下地処理用のアンダーコート用の塗料やメッキの下地としての触媒含有塗料なども使用することができる。また塗料に含まれる添加剤により印刷層(ひいては当該印刷層を形成した樹脂成形品である印刷物)に機能を付与することもできる。
【0034】
例えば帯電防止剤や導電剤が含まれていれば帯電防止性や導電性(または電磁波シールド性や熱伝導性)、抗菌剤や防カビ剤を含んでいれば抗菌性、防カビ性、耐候剤や反射剤、蓄光剤が含まれていれば耐候性、高日射反射性、蓄光性など各種機能を印刷物に付与することができる。
【0035】
また印刷層の形成工程は、溝を形成する工程から時間が経過していても本発明の効果を発揮することができるが、溝への埃などの付着による画質の低下や塗料の密着強度の低下を避ける意味で、できるだけ時間を経過させないことが好ましい。連続的な工程とすることも好ましい。
【0036】
塗料の塗布方法は刷毛やブラシ等による塗布に限定されず、噴霧、転写、インクジェットなど、印刷において通常用いられる各種の方法を、樹脂成形品の材質や形状、印刷する画像のサイズや種類(写真、文字、塗り潰し等)などに応じ適宜選択すれば良い。
【0037】
また、樹脂組成物と塗料との親和性を考慮し、あらかじめ樹脂成形品の印刷部にプライマのような下地を塗布し、その上に塗料を塗布しても良い。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
カーボンブラックにより黒着色されたポリプラスチックス株式会社製のポリアセタール樹脂組成物(ジュラコン(登録商標)POM M90-44 CD3068、融点165°、熱分解温度281℃)を用いて、シリンダ温度200℃、金型温度80℃、射出速度16mm/sec、保圧力60MPaにて、80mm×80mm×3mmの平板状の樹脂成形品を射出成形した。
【0040】
得られた樹脂成形品の、突き出しピン跡のない平滑面側の中央64mm×64mmの領域に対し、キーエンス製レーザーマーカMD-X1520を用いて、波長1064nm、出力90%にてレーザ光を照射して、幅100μm、ピッチ250μmの格子状(流動方向に対し±45°の斜格子状)の溝を、深さ30μmとなるように形成した処理部を有する印刷部を設けた。
【0041】
次いで、処理部を有する印刷部の中央56mm×56mmの領域に対し、ミマキエンジニアリング社製フラットベッドUVインクジェットプリンタUJF-3042を用いて、ミマキエンジニアリング社純正UV硬化インクにて所定のサンプル画像を印刷して印刷層を形成し、印刷物を作製した。
【0042】
(実施例2)
溝の深さを15μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0043】
(実施例3)
溝の深さを5μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0044】
(比較例1)
溝の深さを200μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0045】
(比較例2)
溝の深さを1μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0046】
(比較例3)
レーザ光を照射せず溝を形成しなかった以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0047】
(比較例4)
レーザ光を照射する代わりに、JIS R6010に規定される粒度P120番の紙やすりで成形品表面を15μmの深さまで研磨し、それ以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0048】
(実施例4)
樹脂組成物として、カーボンブラックにより黒着色されたポリプラスチックス株式会社製のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(ジュラネックス(登録商標)PBT 2002 ED3002、融点224℃、熱分解温度379℃)を用いた以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0049】
(実施例5)
溝の深さを15μmとした以外は実施例4と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0050】
(実施例6)
溝の深さを5μmとした以外は実施例4と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0051】
(比較例5)
溝の深さを1μmとした以外は実施例4と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0052】
(実施例7)
樹脂組成物として、ポリプラスチックス株式会社製のカーボンブラックにより黒着色されたポリプラスチックス株式会社製のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(ジュラファイド(登録商標)PPS 0220A9 HD9100、融点278℃、熱分解温度494℃)を用い、また溝の深さを20μmとした以外は実施例1と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0053】
(比較例6)
溝の深さを3μmとした以外は実施例7と同様に樹脂成形品へ印刷層を形成した。
【0054】
<結果>
各実施例と比較例について、塗装面にカッターナイフを使用して縦及び横方向に2mm間隔でそれぞれ6本の傷を入れ、合計25個の2mm四方のマス目を形成し、そのマス目の上にJIS K5400(1990年)に準拠し、ニチバン製セロハンテープを貼り付け、塗装面に密着させた後、セロハンテープを剥がし、塗装面の剥離状況を観察し碁盤目試験の評価点数を確認した。なお試験数は各水準で5回実施しており、評価点数は5回の平均値を示した。
【0055】
JIS K5400の評価点数は10、8、6、4、2、0の6段階である。6段階は下記の基準による。
評価点数10:切り傷1本ごとが、細かくて両側が滑らかで、切り傷の交点と正方形の一目一目にはがれがない。
評価点数8 :切り傷の交点にわずかなはがれがあって、正方形の一目一目にはがれがなく、欠損部の面積は全正方形面積の5%以内である。
評価点数6 :切り傷の両側と交点にはがれがあって、欠損部の面積は全正方形面積の5%を超えて15%以内である。
評価点数4 :切り傷によるはがれの幅が広く、欠損部の面積は全正方形面積の15%を超えて35%以内である。
評価点数2 :切り傷によるはがれの幅は4点よりも広く、欠損部の面積は全正方形面積の35%を超えて65%以内である。
評価点数0 :はがれの面積は、全正方形面積の65%を超えている。
また、合わせて印刷の鮮明さについて目視で観察した。
【0056】
ポリアセタール樹脂組成物での結果として、実施例1と実施例2は10点、実施例3は8点、比較例2と比較例3は0点、比較例4は2点であった。比較例1は、剥離状況は10点であったが、剥離試験前の画質溝内にインクが沈み込んで画像がくすんだ状態となっており、鮮明な印刷ができていなかった。
【0057】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物での結果として、実施例4は10点、実施例5と実施例6は8点、比較例5は2点であった。剥離試験前の画質はいずれも鮮明であった。
【0058】
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物での結果として、実施例7は8点、比較例6は2点であった。剥離試験前の画質はいずれも鮮明であった。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表中の表示は下記を意味する。
* :印刷が不鮮明
**:紙やすりで処理
【0062】
カーボンブラックにより黒着色されたポリプラスチックス株式会社製のポリアセタール樹脂組成物(ジュラコン(登録商標)POM M90-44 CD3068、融点165°、熱分解温度281℃)を用いて、シリンダ温度200℃、金型温度80℃、射出速度16mm/sec、保圧力60MPaにて、50mm×70mm×3mmの平板状の樹脂成形品を射出成形した。
【0063】
得られた樹脂成形品の中央部の40mm×40mm部にキーエンス製レーザーマーカMD-X1520を用いて、波長1064nm、出力90%にてレーザ光を照射して、幅100μm、ピッチ250μmの格子状(流動方向に対し±45°の斜格子状)の溝を、深さ20μmとなるように形成し印刷部を設け、印刷部を含む樹脂成形品の片面を、2液ウレタン塗料を用いてアンダーコート塗装を行った後、真空蒸着によりアルミニウムを約10μm製膜して印刷物を作製した。図7は製膜後の印刷物である。
【0064】
得られた印刷物のレーザ処理されていた印刷部にカッターナイフを使用して縦及び横方向に2mm間隔でそれぞれ6本の傷を入れ、合計25個の2mm四方のマス目を形成し、そのマス目の上にJIS K5400(1990年)に準拠し、ニチバン製セロハンテープを貼り付け、製膜面に密着させた後、セロハンテープを剥がし、塗装/製膜部の剥離状況を観察した。図8は試験後の印刷物の写真であり、レーザ処理された部分の剥離状況は8点だったのに対し、レーザ処理されていない部分は全て剥離し、0点となった。
【0065】
カーボンブラックにより黒着色されたポリプラスチックス株式会社製のポリアセタール樹脂組成物(ジュラコン(登録商標)POM M90-44 CD3068、融点165°、熱分解温度281℃)を用いて、シリンダ温度200℃、金型温度80℃、射出速度16mm/sec、保圧力60MPaにて、50mm×70mm×3mmの平板状の樹脂成形品を射出成形した。
【0066】
得られた樹脂成形品の中央部40mm×40mm部分にキーエンス製レーザーマーカMD-X1520を用いて、波長1064nm、出力90%にてレーザ光を照射して、幅100μm、ピッチ250μmの格子状(流動方向に対し±45°の斜格子状)の溝を、深さ30μmとなるように形成し印刷部を設け、印刷部のうち35×35mm部分にミマキエンジニアリング社製フラットベッドUVインクジェットプリンタUJF-3042を用いて、ミマキエンジニアリング社純正UV硬化インクにて、印刷物を作製した。図9は印刷物を示す。図10図9の印刷物の未塗装部分の拡大写真であり、図11図9の印刷物の印刷された部分の拡大写真である。
【0067】
前記で得た印刷物を紫外線カーボンアークランプ、ブラックパネル温度83℃で600時間処理を行った。図12は印刷物の未塗装部分の拡大写真であり、表面に筋状のクラックが発生している。図13は印刷された部分の拡大写真でありクラックは発生していない。
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