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特許7590834共重合ポリエステルそれからなる成形品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】共重合ポリエステルそれからなる成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/668 20060101AFI20241120BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08G63/668
B29C49/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020150544
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045058
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】松木 浩志
(72)【発明者】
【氏名】尾下 瑞子
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-208818(JP,A)
【文献】特開2014-001257(JP,A)
【文献】特開2012-097163(JP,A)
【文献】特開2012-097164(JP,A)
【文献】特開平10-251387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
B29C 49/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位及び下記式(I)で表されるジオール単位(I)を主体とするジオール単位(α)、並びに下記式(II)で表されるトリオール単位(II)を含むトリオール単位(β)から主としてなる共重合ポリエステルであって、
ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)を1~15モル%含有し、
ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、トリオール単位(II)を0.005~1モル%含有し、
エチレングリコール単位及びトリオール単位(β)の含有量のモル比(エチレングリコール単位/トリオール単位(β))が2000以上13000以下であり、
バイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であることを特徴とする共重合ポリエステル。
【化1】
[式中、Aは-CH2CH2-又は-CH(CH3)CH2-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化2】
[式中、Aは-CH2CH2-又は-CH(CH3)CH2-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【請求項2】
前記エチレングリコール単位がバイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位を含み、
全エチレングリコール単位中のバイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合が20質量%以上100質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の共重合ポリエステル。
【請求項3】
前記バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位が、さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位であることを特徴とする、請求項2に記載の共重合ポリエステル。
【請求項4】
前記テレフタル酸単位がバイオマス由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位を含み、
全テレフタル酸単位中のバイオマス由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位の含有割合が15質量%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の共重合ポリエステル。
【請求項5】
前記テレフタル酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位のみからなることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の共重合ポリエステル。
【請求項6】
極限粘度が0.6~1.5dl/gであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の共重合ポリエステル。
【請求項7】
テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位及び下記式(I)で表されるジオール単位(I)を主体とするジオール単位(α)、並びに下記式(II)で表されるトリオール単位(II)を含むトリオール単位(β)から主としてなる共重合ポリエステルからなる成形品であって、
ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)を1~15モル%含有し、
ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、トリオール単位(II)を0.005~1モル%含有し、
バイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であることを特徴とする共重合ポリエステルからなる成形品。
【化3】
[式中、Aは-CH 2 CH 2 -又は-CH(CH 3 )CH 2 -で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化4】
[式中、Aは-CH 2 CH 2 -又は-CH(CH 3 )CH 2 -で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【請求項8】
押出ブロー成形品である、請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の共重合ポリエステルを押出ブロー成形する工程を含む、成形品の製造方法。
【請求項10】
テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸、エチレングリコール、下記式(III)で表されるジオール(III)、及び下記式(IV)で表されるトリオール(IV)を含む反応原料をエステル化反応又はエステル交換反応させた後、それを溶融重縮合させてポリエステルプレポリマーを形成し、前記ポリエステルプレポリマーを固相重合させる、請求項1~6のいずれかに記載の共重合ポリエステルの製造方法であって、
前記ジオール(III)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して1.9質量部~15質量部であり、
前記トリオール(IV)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して0.005~2質量部であり、
前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体中のバイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の含有割合が15質量%以下であり、
前記エチレングリコール中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有割合が20質量%以上100質量%以下であることを特徴とする、共重合ポリエステルの製造方法。
【化5】
[式中、Aは式:-CH2CH2-又は式:-CH(CH3)CH2-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化6】
[式中、Aは式:-CH2CH2-又は式:-CH(CH3)CH2-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【請求項11】
前記バイオマス由来のエチレングリコールが、さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールであることを特徴とする、請求項10に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出ブロー成形用の原料として適したバイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であることを特徴とする共重合ポリエステル、その製造方法及びそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂は、透明性、力学的特性、ガスバリヤー性、フレーバーバリヤー性などの特性に優れている。さらに、ポリエステル樹脂は、成形品にした際に残留モノマーや有害な添加剤の心配が少なく、衛生性及び安全性にも優れている。そのため、ポリエステル樹脂は、それらの特性を活かして、従来用いられてきた塩化ビニル樹脂に代わるものとして、ジュース、清涼飲料、調味料、油、化粧品、洗剤などを充填するための中空容器として近年広く使用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂からなる中空成形品を製造するための成形法として、ダイオリフィスを通して溶融可塑化した樹脂を円筒状のパリソンとして押出し、そのパリソンが軟化状態にある間に金型で挟んで内部に空気などの流体を吹き込んで成形を行う押出ブロー成形法が知られている。この方法は、射出ブロー成形法に比べて、工程が簡単で、しかも金型の作製及び成形に高度な技術を必要としないために、設備費や金型の製作費などが安価であり、多品種・少量生産に適している。しかも、細物、深物、大物、取っ手などを有する複雑な形状の成形品の製造も可能であるという利点がある。
【0004】
特許文献1には、押出ブロー成形に適した共重合ポリエステルとして、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸成分とエチレングリコールから主としてなるジオール成分とを用いてポリエステルを製造するにあたって、ジオール成分としてベンゼン核を有する特定のジオール成分を特定の割合で含有するものを用いると共に、さらにベンゼン核を有する特定のトリオール成分を特定の割合で使用すると、高い溶融粘度を有し、溶融成形性に優れ、さらに透明性、耐衝撃性などの力学的特性、耐熱性などにも優れる共重合ポリエステルが得られることが記載されている。
【0005】
また近年、循環型社会を目指し、カーボンニュートラルなバイオマスなどの植物由来の原料を用いたバイオマスポリエステル樹脂組成物の需要が高まっている。特許文献2には、バイオベースPETの製造方法、並びにバイオベースPETを使用した容器の製造方法として、バイオベース材料からモノエチレングリコール、及びテレフタル酸を形成し、バイオベースPETを溶融重合した後、固相重合し、押出ブロー成形により容器を製造する方法が記載されている。特許文献3には、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルと機械的特性などの物性面で遜色ないバイオマスポリエステル樹脂組成物として、ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位が化石燃料由来のジカルボン酸であるポリエステルを、樹脂組成物全体に対して、50~95質量%含有し、さらに可塑剤などの添加剤を含む樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-208818号公報
【文献】特開2012-519748号公報
【文献】特開2012-097163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
押出ブロー成形により形成された容器は、薬品や化粧品などを収容するのに好ましい容器として多用されている。かかる容器は、落下時の耐衝撃性や、周囲の物とぶつかった際、容器表面に傷がつきにくい硬度が要求される。しかし、特許文献1の共重合ポリエステルは、成形品の長期保管時の耐衝撃性、及び硬度に改善の余地があるとともに、化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルが検討されているのみで、バイオマス由来の原料は検討されておらず、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減については考慮されていなかった。また、特許文献2のバイオベースPETは、バイオベース材料からモノエチレングリコール、及びテレフタル酸を形成し、バイオベースPETを製造するものであるが、環境負荷低減についてのみ検討されており、実際の使用には、成形品の耐衝撃性が不足するものであり、また長期保管時の耐衝撃性も劣るものであった。特許文献3には、ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位が化石燃料由来のジカルボン酸であるポリエステルが検討されていたが、強度を付与するため多孔性シリカを10質量部配合するものであったため、不透明であり、成型品の耐衝撃性は低いものであった。
【0008】
本発明は、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果を有しながら、パリソンのドローダウン性に優れ、硬度、長期保管時の耐衝撃性及び色調が良好な成形品を得ることができ、厚肉成形品の製造や押出ブロー成形用の原料として好適に用いることができ、さらに環境負荷低減効果を有する共重合ポリエステル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討した結果、バイオマスプラスチック度が特定の範囲にあり、かつベンゼン核を有する特定のジオール単位及びトリオール単位を特定の割合で含有する共重合ポリエステルとすることで、長期保管時の耐衝撃性の低下が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば上記の目的は、
[1]テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位及び下記式(I)で表されるジオール単位(I)を主体とするジオール単位(α)、並びに下記式(II)で表されるトリオール単位(II)を含むトリオール単位(β)から主としてなる共重合ポリエステルであって、 ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)を1~15モル%含有し、ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、トリオール単位(II)を0.005~1モル%含有し、バイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であることを特徴とする共重合ポリエステル;
【化1】
[式中、Aは-CHCH-又は-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化2】
[式中、Aは-CHCH-又は-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
[2]前記エチレングリコール単位がバイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位を含み、全エチレングリコール単位中のバイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合が20質量%以上100質量%以下であることを特徴とする、[1]の共重合ポリエステル;
[3]前記バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位が、さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位であることを特徴とする、[1]又は[2]の共重合ポリエステル
[4]前記テレフタル酸単位がバイオマス由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位を含み、全テレフタル酸単位中のバイオマス由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位の含有割合が15質量%以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかの共重合ポリエステル;
[5]前記テレフタル酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位のみからなることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかの共重合ポリエステル;
[6]極限粘度が0.6~1.5dl/gであることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかの共重合ポリエステル;
[7][1]~[6]のいずれかの共重合ポリエステルからなる成形品;
[8]押出ブロー成形品である、[7]に記載の成形品;
[9][1]~[6]のいずれかの共重合ポリエステルを押出ブロー成形する工程を含む、成形品の製造方法;
[10]テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸、エチレングリコール、下記式(III)で表されるジオール(III)、及び下記式(IV)で表されるトリオール(IV)を含む反応原料をエステル化反応又はエステル交換反応させた後、それを溶融重縮合させてポリエステルプレポリマーを形成し、前記ポリエステルプレポリマーを固相重合させる、[1]~[6]のいずれかの共重合ポリエステルの製造方法であって、前記ジオール(III)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して1.9質量部~15質量部であり、前記トリオール(IV)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して0.005~2質量部であり、前記テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体中のバイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の含有割合が15質量%以下であり、前記エチレングリコール中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有割合が20質量%以上100質量%以下であることを特徴とする、共重合ポリエステルの製造方法;
【化3】
[式中、Aは式:-CHCH-又は式:-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化4】
[式中、Aは式:-CHCH-又は式:-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
[11]前記バイオマス由来のエチレングリコールが、さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールであることを特徴とする[10]に記載の共重合ポリエステルの製造方法;
を提供することで解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステルはバイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であり、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果を有しながら、押出ブロー成形時のパリソンのドローダウン性に優れるとともに、硬度、長期保管時の耐衝撃性及び色調が良好である成形品が得られる。本発明の製造方法によれば、このようなポリエステル樹脂ペレットを簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<共重合ポリエステル>
本発明の共重合ポリエステルは、テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位及び下記式(I)で表されるジオール単位(I)を主体とするジオール単位(α)、並びに下記式(II)で表されるトリオール単位(II)を含むトリオール単位(β)から主としてなる共重合ポリエステルであって、 ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)を1~15モル%含有し、 ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、トリオール単位(II)を0.005~1モル%含有し、バイオマスプラスチック度が5%以上40%以下であることを特徴とする共重合ポリエステルである。
【0012】
本発明の共重合ポリエステルのジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位を主体とする。ジカルボン酸単位の合計に対して、テレフタル酸単位の含有割合は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、前記共重合ポリエステル中のジカルボン酸単位が実質的にテレフタル酸単位のみであることが最も好ましい。テレフタル酸単位の含有割合が80モル%未満であると、融点が低下するとともに、長期保管時の耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0013】
本発明の共重合ポリエステルを構成するテレフタル酸単位には、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果の面から、バイオマス由来のテレフタル酸から誘導されたテレフタル酸単位を用いることができる。原料とする全テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体中のバイオマス由来のテレフタル酸の含有量は、15質量%以下が好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、バイオマス由来のテレフタル酸を使用せず化石燃料由来テレフタル酸のみを用いることが最も好ましい。バイオマス由来のテレフタル酸の含有量が15質量%を超えると、長期保管時の耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0014】
本発明の共重合ポリエステルのジオール単位(α)は、エチレングリコール単位及び下記式(I)で表されるジオール単位(I)を主体とする。ジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に対して、エチレングリコール単位の含有割合は、75~98モル%が好ましい。前記エチレングリコール単位の含有割合が75モル%未満の場合には、固相重合温度を高くすることが困難になり、生産性が低下するとともに、得られる成形品の色調が悪化する。前記エチレングリコール単位の含有割合は90モル%以上がより好ましい。一方、前記エチレングリコール単位の含有割合が98モル%を超える場合には、得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度が低下する。前記エチレングリコール単位の含有割合は、97モル%以下がより好ましい。
【0015】
本発明の共重合ポリエステルを構成するエチレングリコール単位としては、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果の観点から、バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位が好ましい。バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合は、原料とするエチレングリコール中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有割合に比例する。バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合は、20質量%以上100質量%以下が好ましい。バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合の下限が20質量%未満であると、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果が低下する。バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位は、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果、並びに得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度も良好となることから、40質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位の含有割合の上限は特に限定されないが、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果、並びに得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度も良好であることから、バイオマス由来のエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位のみであることが最も好ましい。
【0016】
共重合ポリエステルを構成するエチレングリコール単位としては、後述するさとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールから誘導されたエチレングリコール単位であることが好ましい。さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールを用いることで、得られる成形品の長期保管時の耐衝撃性、及び硬度が良好となる。
【0017】
本発明の共重合ポリエステルを構成するジオール単位(α)は、下記式(I)で表されるジオール単位(I)を含有する。
【化5】
[式中、Aは-CHCH-又は-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
また、本発明の共重合ポリエステルを構成するトリオール単位(β)は、下記式(II)で表されるトリオール単位(II)を含有する。
【化6】
[式中、Aは-CHCH-又は-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【0018】
ジオール単位(I)、並びにトリオール単位(II)において、基Aは、式:-CH2CH2-で表される基(エチレン基)又は式:-CH(CH3)CH2-で表される基(1,2-プロピレン基)である。本発明の共重合ポリエステルでは、基Aのすべてがエチレン基であっても、基Aのすべてが1,2-プロピレン基であっても、基Aの一部がエチレン基で残りの基Aが1,2-プロピレン基であってもよい。中でも、基Aがエチレン基であることが、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から好ましい。
【0019】
また、ジオール単位(I)、並びにトリオール単位(II)における基Bは、2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)である。基Bが2価の炭化水素基の場合は、炭素数1~8のアルキレン基、アルキリデン基、又は2価の芳香族基であることが好ましく、具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、エチリデン基、プロピレン基、プロピリデン基、トリメチレン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、エチルエチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピリデン基、1,2-ジメチルエチレン基、ペンチリデン基、1-メチルブチリデン基、ペンタメチレン基、1-エチル-2-メチルエチレン基、1,3-ジメチルトリメチレン基、1-エチルプロピリデン基、トリメチルエチレン基、イソプロピルメチレン基、1-メチルブチリデン基、2,2-ジメチルプロピリデン基、ヘキサメチレン基、1-エチルブチリデン基、1,2-ジエチルエチレン基、1,3-ジメチルブチリデン基、エチルトリメチルエチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、1,1-シクロペンチリデン基、1,1-シクロヘキシリデン基、1,1-シクロヘプチリデン基、1,1-シクロオクチリデン基、ベンジリデン基、1,1-フェニルエチリデン基などを挙げることができる。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルでは、共重合ポリエステル中に存在するジオール単位(I)及びトリオール単位(II)における基Bはすべて同じであっても、異なっていてもよい。中でも、本発明の共重合ポリエステルでは、ジオール単位(I)及びトリオール単位(II)における基Bがイソプロピリデン基、スルホニル基及び/又は1,1-シクロヘキシリデン基であることが、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から好ましい。
【0021】
さらに、ジオール単位(I)におけるj及びkはそれぞれ独立して1~8の整数であり、j及びkは同じ数であっても又は異なった数であってもよい。中でも、j及びkがそれぞれ独立して1又は2であることが、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から好ましい。
【0022】
本発明の共重合ポリエステルでは、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性透明性及び硬度の点から、ジオール単位(I)が、下記の式(V)で表される基であることが特に好ましい。
【化7】
【0023】
また、本発明の共重合ポリエステルにおいて、トリオール単位(II)におけるp、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数であり、したがってp、q及びrは同じ数であっても、異なった数であってもよい。中でも、p、q及びrがそれぞれ独立して1又は2であることが、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から好ましい。
【0024】
そして、本発明の共重合ポリエステルでは、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から、トリオール単位(II)が、下記の式(VI)で表される基であることが特に好ましい。
【化8】
【0025】
本発明の共重合ポリエステルでは、共重合ポリエステルを構成するジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)を1~15モル%含有する。ジオール単位(I)の含有量が1モル%未満であると、共重合ポリエステルを製造する際の固相重合速度が遅くなり、得られる共重合ポリエステルの融点が高くなるため、押出ブロー成形やその他の溶融成形を行う際のサイクルタイムが長くなり、成形品製造時の生産性が低下するとともに、耐衝撃性が低下する。一方、ジオール単位(I)の含有量が15モル%を超えると、共重合ポリエステルを製造する際の中間生成物であるポリエステルプレポリマーの融点が低下し、重合工程における予備結晶化時や固相重合時にポリエステルプレポリマーのチップ間に膠着が生じ、固相重合が不可能になったりするおそれがある。さらに生成する共重合ポリエステルの色調が不良となるおそれもある。全ジオール及びトリオールの合計モル数に基づいて、ジオール単位(I)の含有量の下限は、2モル%以上が好ましく、2.5モル%以上がさらに好ましい。ジオール単位(I)の含有量の上限は、10モル%以下が好ましく、7モル%以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明の共重合ポリエステルは、共重合ポリエステルを構成するジオール単位(α)及びトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、トリオール単位(II)を0.005~1モル%含有する。トリオール単位(II)の含有量が0.005モル%未満であると、共重合ポリエステル中の架橋構造部分が少なく、成形品の硬度が不足し、成形品表面に傷がつきやすくなる。その上、共重合ポリエステルを製造する際の固相重合の重合速度が低下し、生産性が劣るようになる。
【0027】
一方、トリオール単位(II)の含有量が1モル%を超えると、共重合ポリエステル中における架橋構造部分が多くなり過ぎて、成形品の耐衝撃性、並びに長期保管時の耐衝撃性共に低くなる。
【0028】
トリオール単位(II)の含有量の下限はジオール単位(α)及びこのトリオール単位(β)の合計モル数に基づいて、0.01モル%以上がより好ましい。また、トリオール単位(II)の含有量の上限は、0.5モル%以下であることが好ましく、0.1モル%以下であることが特に好ましい。トリオール単位の含有量が上記範囲であると、溶融粘度が充分に高くなって押出ブロー成形などの溶融成形性が良好になり、機械的強度に優れた成形品を得ることができ、しかも共重合ポリエステル自体の生産性が高いものとなる。
【0029】
本発明の共重合ポリエステルは、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性及び硬度に優れる点から、共重合ポリエステルを構成するジオール単位(I)とトリオール単位(β)の含有量のモル比(ジオール単位(I)/トリオール単位(β))が、35~400であることが好ましい。ジオール単位(I)とトリオール単位(β)の含有量のモル比の下限が35未満であると、硬度は高くなるが、耐衝撃性が低くなるという堅脆い性質となり、目的とした成形品を得られなくおそれがある。ジオール単位(I)とトリオール単位(β)の含有量のモル比は、50以上がより好ましく、65以上がさらに好ましい。ジオール単位(I)とトリオール単位(β)の含有量のモル比の上限が400を超えると、耐衝撃性は高くなるが、硬度が低くなり、得られる成形品の表面が傷つきやすくなるおそれがある。ジオール単位(I)とトリオール単位(β)の含有量のモル比は、350以下がより好ましく、300以下がさらに好ましく、280以下が特に好ましい。
【0030】
本発明の共重合ポリエステルは、共重合ポリエステルから得られる成形品の耐衝撃性及び硬度の点から、共重合ポリエステルを構成するエチレングリコール単位とトリオール単位(β)の含有量のモル比(エチレングリコール単位/トリオール単位(β))が、500~15000であることが好ましい。エチレングリコール単位とトリオール単位(β)の含有量のモル比の下限が500未満であると、硬度は高くなるが、耐衝撃性が低くなるという堅脆い性質となり、目的とした成形品を得られなくおそれがある。エチレングリコール単位とトリオール単位(β)の含有量のモル比は、700以上がより好ましく、800以上がさらに好ましく、2000以上が特に好ましい。エチレングリコール単位とトリオール単位(β)の含有量のモル比の上限が15000を超えると、耐衝撃性は高くなるが、硬度が低くなり、得られた成形品の表面が傷つきやすくなるおそれがある。エチレングリコール単位とトリオール単位(β)の含有量のモル比は、13000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましい。
【0031】
本発明の共重合ポリエステルは、上記したテレフタル酸単位、エチレングリコール単位、ジオール単位(I)、及びトリオール単位(II)以外に、その全構造単位に基づいて、10モル%以下であれば、他の2官能性化合物から誘導される構造単位を必要に応じて含有していてもよい。他の2官能性化合物から誘導される構造単位の例としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、スフホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;デカリンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシアクリル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アシアチン酸、キノバ酸、ヒドロキシ安息香酸、マンデル酸、マトロラクチン酸などのヒドロキシカルボン酸;ε-カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン;トリメチレングリコール、テトラメチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール;ヒドロキノン、カテコール、ナフタレンジオール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールS、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール;シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールなどの2官能性成分から誘導される構造単位などが挙げられる。また、本発明の共重合ポリエステルは、必要に応じて、共重合ポリエステルにおける全構造単位に基づいて、0.1モル%以下であれば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸などの多価カルボン酸や、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールなどの多官能性化合物から誘導される構造単位を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の共重合ポリエステルのバイオマスプラスチック度は、5%以上40%以下である。ここで、バイオマスプラスチック度とは、共重合ポリエステルのうち、バイオマス由来の原料にて構成される単位の割合を意味する。バイオマスプラスチック度は、後述する実施例に記載する方法により算出することができる。石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果の観点から、バイオマスプラスチック度は高い方が好ましいが、40%を超えると、長期保管時の耐衝撃性が低下するおそれがある。バイオマスプラスチック度の上限値は、共重合ポリエステルの長期保管時の耐衝撃性、及び硬度の観点から35%以下が好ましく、30%以下がさらに好ましい。バイオマスプラスチック度の下限は、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果の観点から、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
【0033】
また本発明の共重合ポリエステルは、ISO16620-2:2019に規定される14C法によるバイオベース炭素含有率の測定により、共重合ポリエステルを構成する成分の全炭素中のバイオベース炭素含有率を測定することが可能である。石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果の観点から、より好ましいバイオベース炭素含有率は5%以上、さらに好ましくは15%以上である。本実施形態の共重合ポリエステルのバイオベース炭素含有率の上限値は、共重合ポリエステルの長期保管時の耐衝撃性、及び硬度の観点から30%以下が好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の共重合ポリエステルの極限粘度は、共重合ポリエステルの溶融成形法の種類などに応じて変わり得るが、溶融押出を伴う溶融成形、特に押出ブロー成形に用いる場合は、0.6~1.5dl/gであることが好ましく、特に得られる押出ブロー成形品の機械的性質、外観、成形品製造時の生産性などの点から、0.9~1.4dl/gであることがより好ましい。特に、押出ブロー成形を行う場合に、共重合ポリエステルの極限粘度が0.6dl/g未満の場合は、押出ブロー成形時にパリソンのドローダウンが大きくなり成形不良となり易く、さらに得られる成形品の引張強さ、耐衝撃性などの機械的性質が低下し易い。一方、共重合ポリエステルの極限粘度が1.5dl/gよりも大きい場合は、溶融粘度が高くなり過ぎて、得られる成形品の外観が不良となり易く、しかも押出時にトルクが高くなるために押出量が不均一になり易いなどの成形上の問題を生じ易くなる。また所定量の共重合ポリエステルを押出すのに要する時間が長くなり、成形品の生産性が低下し易くなる。
【0035】
本発明の共重合ポリエステルを用いて、例えば、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形によってシートやフィルムなどの成形品を製造する場合には、ドローダウン、ネックイン、膜揺れ、未溶融ブツの発生がなく、高品質のシート又はフィルムを生産性よく製造することができる。そして、そのようにして得られたシート又はフィルムを用いて熱成形などの二次加工を行った場合には、深絞りの成形品や大型の成形品を成形する際に、ドローダウンが小さく、結晶化の程度が良好であり、真空吸引又は圧縮空気などの外力を加える工程での厚み斑や白化を生じにくく、良好な賦形性で目的とする成形品を得ることができる。
【0036】
押出成形の中でも、特に本発明の共重合ポリエステルを用いることが適しているのは押出ブロー成形である。押出ブロー成形の方法は特に制限されず、従来公知の押出ブロー成形法と同様に行うことができる。例えば、本発明の共重合ポリエステルペレットを溶融押出して円筒状のパリソンを形成し、このパリソンが軟化状態にある間にブロー用金型で挟んで、空気などの気体を吹き込んでパリソンを金型キャビィティの形状に沿った所定の中空形状に膨張させる方法によって行うことができる。本発明の共重合ポリエステルペレットを用いた場合には、押出されたパリソンのドローダウン性が良好であり、中空成形品を生産性よく製造することができる。
【0037】
こうして得られる成形品は、透明性に優れ、外観、色調が良好で、機械的強度、中でも耐衝撃性が高い。さらに、ガスバリヤー性、フレーバーバリヤー性、耐湿性、耐薬品性などの諸特性にも優れているので、様々な用途に用いることができる。また、他の熱可塑性樹脂などとの積層構造を有する成形品とすることもできる。
【0038】
また、本発明の共重合ポリエステルは、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上であることが好ましく、押出ブロー成形やその他の溶融成形によって得られる成形品の収縮を防止する点からは、ガラス転移温度が70℃以上であることがより好ましい。共重合ポリエステルのガラス転移温度が60℃未満の場合は、成形品、特に押出ブロー成形品を金型から取り出した後に、成形品に残存応力の緩和に伴う収縮を生じて成形品の外観を損なうことがある。ガラス転移温度は、押出ブロー成形やその他の溶融成形によって得られる成形品の耐衝撃性の観点より、85℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が85℃を超える場合、押出ブロー成形やその他の溶融成形によって得られる成形品の耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0039】
本発明の共重合ポリエステルは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸、エチレングリコール、下記式(III)で表されるジオール(III)、及び下記式(IV)で表されるトリオール(IV)を含む反応原料を、エステル化反応又はエステル交換反応させた後、それを溶融重縮合させてポリエステルプレポリマーを形成し、前記のポリエステルプレポリマーを固相重合させることによって、短時間で生産性よく製造することができる。
【化9】
[式中、Aは式:-CHCH-又は式:-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、j及びkはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【化10】
[式中、Aは式:-CHCH-又は式:-CH(CH)CH-で表される基を表し、Bは2価の炭化水素基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子又は直接結合(-)を表し、p、q及びrはそれぞれ独立して1~8の整数を表す]
【0040】
本発明の反応原料として使用するテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体には、バイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を使用することができる。バイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体は、バイオマス資源を原料として製造されたテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体である。バイオマス資源は植物の光合成作用により太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生成される再生可能な生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源、具体的には、デンプンやセルロースなどの形に変換されて蓄えられたものを加工してできる製品などが含まれ、そして化石資源を除く資源である。バイオマス資源はその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油など)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシなど)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油など)、パルプ黒液、植物油カスなどが挙げられる。
【0041】
本発明においては、バイオマス資源からテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を製造することができれば、その製造方法は特に限定はされないが、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。例えば、糖類などから得られるバイオエタノールからテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を製造する方法としては、バイオエタノールをゼオライト(H-ZSM-5型など)触媒上で芳香族混合物に接触転化し、芳香族混合物を蒸留などによって精製してパラキシレンを得た後、得られたパラキシレンを触媒を用いて酸化することでテレフタル酸を得る方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
バイオマス資源から得られるテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の原料としては、具体的にはメタンなどのアルカン、エチレンなどのアルケン、アセチレンなどのアルキン、キシロース、グルコース、セルロース、ヘミセルロースなどの糖類、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロールなどのアルコール類、リグニンやイソプレン、テレビン油、α-ピネン、リモネン、パラサイメン、1,8-シネオール、リナロール、ビサボラン、カリオフィレンなどのテルペン系化合物、オレイン酸などの不飽和脂肪酸やセバシン酸などの直鎖飽和二塩基酸などが挙げられる。バイオマス資源から生成されるテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体は、具体的には、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジイソプロピル、テレフタル酸ジ-n-プロピルなどが挙げられる。
【0043】
本発明のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の製造方法について以下に示す。芳香族部分を形成させる原料としては、バイオマス資源から合成された、オレフィン類、脂肪族アルコール類、環状テルペン類、不飽和脂肪酸、及び直鎖飽和二塩基酸などを用いることができる。オレフィン類としては、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、イソオクテンなどが挙げられる。脂肪族アルコールとしては、具体的にはメタノールやエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(テトラメチレングリコール、ブタンジオール)、グリセロール、ジグリセロール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、などのアルコール類、リナロール、ゲラニオールなどのテルペン系アルコール化合物などが挙げられる。環状テルペン類としては、具体的にはα-ピネン、β-ピネン、リモネン、パラサイメン、1,8-シネオール、1,4-シネオールなどが挙げられる。不飽和脂肪酸としては、具体的にはオレイン酸などが挙げられる。直鎖飽和二塩基酸としては、具体的にはセバシン酸などが挙げられる。二環以上の芳香族化合物や多縮合環を有する芳香族化合物を製造する際には、オルソキシレン、メタキシレンを用いることもできる。中でも環状テルペン類が好ましく、パラサイメンがより好ましい。
【0044】
パラサイメンは、構造中に芳香族環を有しており、通常用いられる酸化反応により芳香族環に直結したアルキル基を酸化させることでテレフタル酸を得ることができる。さらに得られたテレフタル酸を通常の手法によりメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのような低級のアルコールと酸触媒などの存在下にエステル化反応を行うことによりテレフタル酸のエステル形成性誘導体を得ることができる。テレフタル酸と低級アルコールをエステル化する際には高温高圧の条件下で行う条件を選択しなければならないこともある。そのような場合には、一旦エチレングリコールなどのジヒドロキシ化合物とエステル化反応を行い、ついでエステル交換反応触媒の存在下、上述の低級アルコールと反応させる手法を採用しても良い。このパラサイメンを経由して製造する方法は比較的容易にテレフタル酸を製造することができるので、テレフタル酸のエステル形成性誘導体を製造するには好ましく採用することができる。
【0045】
本発明で原料として使用するテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体中のバイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の含有割合は、15質量%以下が好ましい。バイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の使用は、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果があるものの、その含有割合が15質量%を超えると、長期保管時の耐衝撃性が低下するおそれがある。バイオマス由来のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体8質量%以下がさらに好ましく、バイオマス由来のテレフタル酸を使用せず化石燃料由来テレフタル酸のみを用いることが最も好ましい。
【0046】
本発明の反応原料として使用するエチレングリコールには、バイオマス由来のエチレングリコールを使用することができる。バイオマス由来のエチレングリコールは、バイオマス資源を原料として製造されたエチレングリコールであり、バイオマス資源は、上述のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体に用いられるものと同様のものを使用できる。
【0047】
本発明においては、バイオマス資源からエチレングリコールを製造することができれば、その製造方法は特に限定はされないが、上述のテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と同様、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。例えば、糖類などから得られるバイオマスエタノールを、従来公知の方法により、エチレンオキサイドを経由してエチレングリコールを生成する方法などにより、バイオマス由来のエチレングリコールを得ることができる。バイオマスエタノールの原料としては、例えばとうもろこし、さとうきび、ビート、マニオクなどが挙げられる。
【0048】
また、市販のバイオマスエチレングリコールを使用してもよく、例えば、インディアグライコール社から市販されているバイオマスエチレングリコールを好適に使用できる。なお、インディアグライコール社のバイオマスエチレングリコールは、さとうきびの廃糖蜜を原料としたものである。
バイオマス由来のエチレングリコールは、化石燃料由来のエチレングリコールと比較し、原料、並びに製造工程に由来する不純物を多く含む場合がある。また、バイオマス資源の種類により、得られる共重合ポリエステルの成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度は影響を受ける。前記成形品の物性について、バイオマス由来の共重合ポリエステルであっても、化石燃料由来の共重合ポリエステルと同等の物性が得られる観点から、バイオマス由来のエチレングリコールとして、さとうきびの廃糖蜜を原料としたエチレングリコールを用いることができる。
【0049】
本発明で原料として使用するエチレングリコール中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有割合は、20質量%以上100質量%以下が好ましい。バイオマス由来のエチレングリコールの含有割合の下限が20質量%未満であると、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果が低下する。バイオマス由来のエチレングリコールの使用は、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果、並びに得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度も良好となることから、40質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。原料として使用するエチレングリコール中のバイオマス由来のエチレングリコールの含有割合の上限は特に限定されないが、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の環境負荷低減効果、並びに得られる成形品の耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度も良好であることから、100質量%以下が好ましく、バイオマス由来のエチレングリコールのみを用いることが最も好ましい。
【0050】
本発明の共重合ポリエステルは、上記の原料を使用し、一連の反応を行うことによって、共重合ポリエステル中に、上記の式(III)で表されるジオール(III)からは前記したジオール単位(I)が形成される。また、上記の式(IV)で表されるトリオール(IV)からは前記したトリオール単位(II)が形成される。したがって、ジオールに係る上記の式(III)及びトリオールに係る上記の式(IV)において、基A及び基Bの種類や内容、好ましい基の種類、さらにはj、k、p、q、及びrの詳細な内容やその好ましい数値などは、本発明の共重合ポリエステル中におけるジオール単位(I)、ジオール単位(III)、トリオール単位(II)及びトリオール単位(IV)に関して説明したとおりである。特に、ジオール(III)、及びトリオール(IV)の好ましい具体例は下記のとおりである。
【0051】
本発明の共重合ポリエステルの製造に用いるジオール(III)の好ましい例としては、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-2-[4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-[4’-(2-ヒドロキシエトキシ(フェニル]スルホン、ビス{4-[2’-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-1-[4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1-ビス{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}シクロヘキサンなどを挙げることができる。中でも、共重合ポリエステルの耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から、ジオール(III)としては2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを用いることが好ましい。
【0052】
本発明の共重合ポリエステルの製造に用いるトリオール(IV)の好ましい例としては、2-[3-(2-ヒドロキシエチル)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-2-[3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-{3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}プロパン、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-{3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-2-{3’-(ヒドロキシエチル)-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}プロパン、2-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-2-{3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}プロパン、[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-[3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-[3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-{3’-(2-ヒドロキシエチル)-4-[2’-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}スルホン、[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}スルホン、{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-{3’-(ヒドロキシエチル)-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}スルホン、{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-{3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-[2-(2-ヒドロシキエトキシ)エトキシ]フェニル}スルホン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-1-[3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-1-[3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-1-{3’-(2-ヒドロキシエチル)-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}シクロヘキサン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-1-{3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-1-{3’-(ヒドロキシエチル)-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}シクロヘキサン、1-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-1-{3’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-4’-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}シクロヘキサンなどを挙げることができる。中でも、共重合ポリエステルの耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性、透明性及び硬度に優れる点から、トリオール(IV)として、2-[3-(2-ヒドロキシエチル)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを用いることが好ましい。
【0053】
本発明の共重合ポリエステルの製造にあたっては、上記したテレフタル酸、エチレングリコール、ジオール(III)、及びトリオール(IV)以外に、全反応成分に基づいて10モル%以下であれば、本発明の共重合ポリエステル中に含有し得る他の2官能性化合物から誘導される構造単位について上術したものと同じものを用いてもよい。
【0054】
共重合ポリエステルの製造にあたっては、前記のように、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸に対して、ジオール(III)を含有するエチレングリコールから主としてなるジオールと、トリオール(IV)含む反応原料をエステル化反応又はエステル交換反応させて低重合物を生成させるが、その場合に、ジオール(III)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して1.9質量部~15質量部であり、トリオール(IV)の含有量が、ジカルボン酸100質量部に対して0.005~2質量部になるようにして反応成分を混合して、エステル化反応又はエステル交換反応を行うとよい。
【0055】
上記のエステル化反応又はエステル交換反応は、通常、常圧下又は絶対圧で0.3MPa以下の加圧下に、230~280℃の温度で、生成する水を留去させながら行うとよい。そして、それに続いて、必要に応じて重縮合触媒、着色防止剤などの添加剤を添加した後、通常、5mmHg以下の減圧下に、200~280℃の温度で、溶融重縮合を行うことで、所望の粘度を有するポリエステルプレポリマーを形成させる。ポリエステルプレポリマーの取り扱い性などの点から、ポリエステルプレポリマーの極限粘度は0.40~0.80dl/gであることが好ましい。
【0056】
上記溶融重縮合反応において重縮合触媒を使用する場合は、ポリエステルの製造に通常用いられているものを使用することができ、例えば、酸化アンチモンなどのアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタンなどのチタン化合物;ジ-n-ブチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテートなどの錫化合物などを挙げることができる。これらの触媒化合物は単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。重縮合触媒を用いる場合は、ジカルボン酸成分の重量に基づいて0.002~0.8質量%の範囲内の量であることが好ましい。
【0057】
また、上記溶融重縮合反応において、着色防止剤を使用してもよく、例えば、亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフェートなどのリン化合物を用いることができ、これらのリン化合物は単独で使用しても又は2種以上を併用してもよい。上記リン化合物からなる着色防止剤を使用する場合は、ジカルボン酸成分の重量に基づいて0.001~0.5質量%の範囲内であることが好ましい。また、共重合ポリエステルの熱分解による着色を抑制するために、ジカルボン酸成分の重量に基づいて0.001~0.5質量%のマンガン化合物、例えば酢酸マンガンなどを添加することがよい。
【0058】
上記エステル化反応又はエステル交換反応、及び溶融重縮合反応は、ジエチレングリコールの副生抑制剤の存在下に行うことが好ましい。該副生抑制剤としては、例えばテトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどのテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド;トリエタノールアミン、トリエチルアミンなどの有機アミンなどが挙げられる。
【0059】
次いで、上記溶融重縮合反応により得られたポリエステルプレポリマーをダイス状、円柱状などの任意の形状のチップやペレットとし、通常190℃以下の温度で予備乾燥し、その極限粘度、MFRなどが所望の値になるまで固相重合を行い、目的とする共重合ポリエステルを形成させる。固相重合は、真空下、減圧下又は窒素ガスなどの不活性ガス中で行うことが好ましい。また、ポリエステルプレポリマーのチップやペレット同士が膠着しないように、転動法、気体流動床法などの適当な方法でチップやペレットを流動させながら固相重合を行うことが好ましい。固相重合は通常180~240℃の範囲内の温度で行うことが好ましく、200~240℃の範囲内の温度で行うことがより好ましい。さらに、固相重合の温度は、チップやペレット間の膠着を防止する観点から、前記した範囲内の温度であって、しかも製造を目的としている共重合ポリエステル(最終的に得られる共重合ポリエステル)の融点よりも15℃以上低い温度、好ましくは20℃以上低い温度とするとよい。また、固相重合の重合時間は通常4~40時間の範囲とすることが生産性などの点から好ましい。そして、上記一連の工程を行うことで、本発明の共重合ポリエステルを短時間に生産性よく製造することができる。
【0060】
本発明の共重合ポリエステルは、溶融成形性、透明性、耐熱性、力学的特性などに優れているので、押出ブロー成形法、射出・押出ブロー成形法、押出成形法、射出成形法、その他の溶融成形法によって各種の成形品に成形することができる。中でも、本発明の共重合ポリエステルは、溶融押出工程を伴う成形に用いるのに適しており、押出ブロー成形に用いるのに特に適している。本発明の共重合ポリエステルを用いて溶融成形、特に溶融押出を伴う押出ブロー成形、射出・押出ブロー成形、押出成形などを行った場合には、押出後の変形などを生ずることなく良好な生産性で製造することができ、得られる成形品は、透明性、耐衝撃性やその他の力学的特性、耐熱性、耐湿性などの諸特性に優れる。特に、本発明の共重合ポリエステルを用いて押出ブロー成形を行った場合には、押出されたパリソンのドローダウン性が良好であって、パリソンのドローダウン時間が適当な範囲に保たれ、パリソンの直径が均一になり、ブロー成形性が良好であり、成形時のトラブルを生ずることなく、歪みや変形のない良好な形状及び寸法精度を有する中空成形品を円滑に生産性よく製造することができる。また、得られる押出ブロー成形品は、透明性、耐衝撃性や引張強さ、硬度などの力学的特性、耐熱性の諸特性にも優れている。
【0061】
本発明の共重合ポリエステルを用いて押出ブロー成形を行う場合は共重合ポリエステルを溶融押出成形して円筒状のパリソンを形成し、このパリソンを軟化状態にある間にブロー用金型に挿入し、空気などの気体を吹き込んでパリソンを金型キャビィティの形状に沿った所定の中空形状に膨張させる方法によって行うことができる。そして、前記した方法で押出ブロー成形を行う場合は、その溶融押出温度を、(共重合ポリエステルの融点+10℃)~(共重合ポリエステルの融点+70℃)の範囲内の温度にすることが成形性などの点から好ましい。また、本発明の成形品の形状、構造なども特に制限されず、それぞれの用途などに応じて、例えば、中空成形品、管状体、板、シート、フイルム、棒状体、型物などの任意の形状や構造とすることができ、寸法なども何ら制限されない。中でも、本発明の成形品の製造方法は押出ブロー成形による中空成形に特に適している。
【0062】
さらに、本発明の共重合ポリエステルから得られる成形品は、本発明の共重合ポリエステル単独で形成されていても、他のプラスチック、金属、繊維、布帛などの他の材料との積層体の形態になっていても、又は本発明の共重合ポリエステルと前記した他の材料との積層構造以外の形態の成形品であってもよく、何ら制限されない。特に、本発明の成形品が押出ブロー成形品である場合は、例えば、本発明の共重合ポリエステルのみからなる単層中空成形品(中空容器など)、本発明の共重合ポリエステルとポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、又はポリエチレンテレフタレート(PET)などの他のプラスチックとの多層中空成形品であってもよい。より具体的には、例えばPET層/共重合ポリエステル層/PET層からなる三層ボトル、PET層/共重合ポリエステル層/PET層/共重合ポリエステル層/PET層からなる五層ボトルなどが挙げられる。
【0063】
本発明の共重合ポリエステルには、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂やポリエステル系樹脂に対して用いられる各種の添加剤、例えば染料や顔料などの着色剤、紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、潤滑剤、可塑剤、無機充填剤などを配合してもよい。各種の添加剤を配合する場合、その配合量は得られる成形品が耐衝撃性、長期保管時の耐衝撃性及び硬度に優れる点から、共重合ポリエステル100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
(1)バイオマスプラスチック度
実施例及び比較例で得られた共重合ポリエステルにおいて、バイオマス由来の原料にて構成される単位の質量%をバイオマスプラスチック度として算出した。具体的には、各実施例及び比較例で原料として用いた、バイオマス由来のエチレングリコール、又はバイオマス由来のテレフタル酸に由来する単位の割合を算出し、当該割合に基づき各単位の分子量から質量%を求めバイオマスプラスチック度とした。尚、ポリエステルの重合においては、エステル結合の形成の際に、ジオール中の2つの水素原子と、ジカルボン酸中の2つの酸素原子と、2つの水素原子とから、2モルの水分子が生成することを考慮して算出した。
【0066】
(2)バイオベース炭素含有率
各実施例及び比較例で得られた共重合ポリエステルを構成する成分の全炭素中のバイオベース炭素含有率を、ISO16620-2:2019に基づき測定した。
【0067】
(3)極限粘度(IV)
各実施例及び比較例で得られた共重合ポリエステルをフェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンのなど重量混合溶媒に投入し、30℃で、ウデローデ型粘度計(株式会社離合社製自動粘度測定装置「VMC-422型」)を用いて極限粘度を測定した。
【0068】
(4)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)
溶融重合後又は固相重合後の結晶ペレットの融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(TA インスツルメント製TA Q2000型)を用いて測定した。融点は、昇温速度10℃/分で30℃から280℃まで昇温したときの融解ピークとして測定し、ガラス転移温度(Tg)は昇温速度10℃/分で30℃から280℃まで昇温したのち、-50℃/分で30℃まで急冷してから、再び昇温速度10℃/分で昇温したときのデータより算出した。
【0069】
(5)樹脂色(b*値、L値)
共重合ポリエステルペレットを分光測色計(Hunter社製「LabScan XE」を用いて測定した。ガラスセルに測定用ペレットを詰め込み、ガラスセルを置く位置を変えて5回測定し、その平均値を算出した。b値が7を超えるとボトルの色調に黄色味が強くなり、外観が不良になる。b値が4以下であることが色調上好ましい。L値が75以下であると、ボトルがくすんでしまい、外観が不良になる。L値が80以上が色調上好ましい。
【0070】
(6)耐衝撃性(ボトル落下強度・加速ボトル落下強度)
押出ブロー成形装置(株式会社タハラ製「MSE-40E/32M-A(T1)型」)を用いて、シリンダー最高温度280~290℃、ダイス温度240~250℃、スクリュ回転数24rpm、押出し樹脂圧19~30MPa、金型温度30℃にて、容積220mLの透明ボトル(27.5g±0.5g)を成形した。成形後のボトルを23℃で24時間温調した。ボトル内に気泡が残らないよう23℃に温調した水を満たし、キャップで密封した後、垂直に設置された直径10cmの筒中を通過させて、高さ125cmから水平なコンクリート面と45度傾斜したコンクリート面に交互に落下させた。ボトルに割れ又は亀裂が発生し、内部に満たした水が漏洩するまでのサイクル数(1サイクルにつき、ボトルを、水平面に1回、45度斜面に1回の計2回落下させた)を測定した。最大20サイクル繰り返した。1組成につき、5本のボトルの落下試験を行い、その平均値をボトル落下強度とした。また、成形したボトルを50℃、6%RHの恒温機内に67時間保管した後、上記と同様にボトルの落下試験を行い、そのサイクル数の平均値を加速ボトル落下強度とした。ボトル落下強度を、耐衝撃性の指標とし、サイクル数が多いほど耐衝撃性に優れると評価した。
【0071】
(7)ロックウェル硬さ
(6)において成形した透明ボトルを、23℃で24時間温調した後、平滑な部分を切り出したもの(長さ3cm、幅2cm)をサンプルとした。硬さ試験機ロックウェル型3R(今井精機製)を用いて、Rスケールにてロックウェル硬さを測定した。室温下、各サンプルについて5回測定を行い、それらの平均値をロックウェル硬さとした。
【0072】
(8)押出ブロー成形時のパリソンのドローダウン性
(6)において、押出ブロー成形装置を用いて、容積220mLの透明ボトルを製造する際の、パリソンのドローダウン時間を測定した。パリソンが25cmドローダウンした時点で金型に挟みとってブローし、25cmドローダウンするのに要する時間(秒)をドローダウン時間として、以下の基準でドローダウン性を判定した。
A:ドローダウン時間が16秒以上18秒未満
B:ドローダウン時間が18秒以上25秒未満
C:ドローダウン時間が16秒未満、又は25秒以上
【0073】
[合成例1]
バイオマス(オレンジの皮やパルプ黒液)を原料として合成されたパラサイメンである、ヤスハラケミカル社製パラサイメン300質量部、酢酸501質量部、触媒として酢酸コバルト1.059質量部、酢酸マンガン1.101質量部、臭化リチウム1.317質量部をそれぞれチタン製のオートクレーブに仕込み、反応温度180℃、圧縮空気で反応系内の圧力を1.5MPaに調整し、圧縮空気を反応器に供給しながら、5時間撹拌して反応させた。反応後、反応液を吸引ろ過して固液分離し、得られた固形物を純水で2回洗浄ろ過、90℃で一昼夜乾燥し、バイオマス由来のテレフタル酸を240質量部得た。得られたバイオマス由来のテレフタル酸を共重合ポリエステル原料として使用した。
【0074】
[実施例1]
化石燃料由来テレフタル酸(TA)100質量部、バイオマス由来のエチレングリコール(EG;インディアグライコール社製)42.59質量部
下記の化学式(V);
【0075】
【化11】
で表される2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン(以下「EOBPA」という)9.49質量部、及び下記の化学式(VI)
【化12】
で表される2-[3-(2-ヒドロキシエチル)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン(以下「HEPP」という)0.039質量部からなるスラリーを調製し、これに0.012質量部の二酸化ゲルマニウム、及び0.012質量部の亜リン酸を加えた。このスラリーを加圧下(絶対圧0.25MPa)で250℃に加熱して、エステル化率が95%になるまでエステル化反応を行って低重合体を製造した。続いて、1mmHgの減圧下に、270℃の温度で前記の低重合体を溶融重縮合させて、極限粘度0.76dl/gの共重合ポリエステルのプレポリマーを生成させ、これをノズルからストランド状に押出して切断し、円柱状ペレット(直径2.5mm、長さ3.5mm)を得た。次いで、得られた共重合ポリエステルのプレポリマーのペレットを150℃の温度で5時間予備乾燥した後、0.1mmHgの減圧下に、融点より25℃低い温度(205℃)で固相重合を29時間行い、高分子量化された共重合ポリエステルペレットを得た。なお、ペレット同士の膠着を防ぐために、回転式固相重合装置でペレットを流動させて固相重合を行った。得られた共重合ポリエステルについて当該共重合ポリエステルを構成する単量体成分の比率を1H-NMRスペクトル(装置:日本電子社製「JNM-GX-500型」、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸)により確認した。各単量体成分比率を表1に示す。また上記各種測定を行った結果を表2に示す。
【0076】
[実施例2~8、比較例1~3]
ジカルボン酸成分、ジオール成分及びトリオール成分の種類及び使用量、並びに固相重合の温度と時間を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてエステル化反応、溶融重合反応及び固相重合を行い、共重合ポリエステルペレットを得た。得られた共重合ポリエステルにおける各構造単位の含有量、及び共重合ポリエステルの物性を実施例1と同様にして評価した結果を表1及び表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
<考察>
表2に示されるように、実施例1は、比較例1と比較し、バイオマスプラスチック度が27.8%、バイオベース炭素含有率が17.5%と高くなり、環境負荷低減効果が認められるとともに、色調、成形直後、加速試験後のボトル落下強度、及びロックウェル硬さは、比較例1と同程度となり、バイオマス由来の共重合ポリエステルであっても、化石燃料由来の共重合ポリエステルと遜色ない物性を示すことが明らかとなった。さらに、実施例2は、バイオマスプラスチック度が29.2%、バイオベース炭素含有率が18.5%と環境負荷低減効果が高く、ジオール単位(I)/トリオール単位(β)が72、エチレングリコール単位/トリオール単位(β)が2295であることから、成形直後、加速試験後のボトル落下強度、ロックウェル硬さ、及びパリソンのドローダウン性いずれも良好な成形体を得ることができる。
【0080】
実施例2と比較例3を比較すると、比較例3ではバイオマスプラスチック度が40.7%と実施例2の29.2%と比較すると環境負荷低減効果は高くなったものの、b*値が7.2と、比較例3の共重合ポリエステルペレットは、黄色く着色するとともに、成形直後のボトル落下強度が、2.0と耐衝撃性が低くなっていた。
【0081】
実施例5では、HEPPの配合量が多く、ジオール単位(I)/トリオール単位(β)が40、エチレングリコール単位/トリオール単位(β)が759であることから、ロックウェル硬さは高いものの、ボトル落下強度が低く、成形体が堅脆い傾向であることが認められた。
【0082】
実施例6~8は、バイオマス由来テレフタル酸を使用したものであるが、b*値が4.4~6.1と、共重合ポリエステルペレットが若干黄色に着色するとともに、加速試験後のボトル落下強度が低くなる傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の共重合ポリエステルは、各種成形品、特に押出ブロー成型品として有用である。