(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/322 20060101AFI20241120BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20241120BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H01L21/322 Y
C30B29/06 B
C30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2020156443
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100193378
【氏名又は名称】野口 明生
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】南 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 兼
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074139(JP,A)
【文献】特開2006-261632(JP,A)
【文献】特開2013-143504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0189169(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0001680(US,A1)
【文献】特開2008-207991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0105191(US,A1)
【文献】特開2011-243923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法
において、結晶の引き上げ速度と固液界面における結晶軸方向の温度勾配を制御して育成
された
無欠陥型の単結晶シリコンインゴットからスライスして得
られた
酸素濃度が0.5×10
18
/cm
3
以上1.0×10
18
/cm
3
以下であるシリコンウェーハに対し、
酸化性雰囲気下において、前記シリコンウェーハの表層に酸素を内方拡散させると供に、前記シリコンウェーハのバルク部に原子空孔を凍結させる第一熱処理工程と、
炉入れ温度から700℃までの体験時間を2時間未満とし、800℃以上1000℃以下で1時間以上10時間以下保持し、その後、1100℃以上1200℃以下まで昇温して10分以上4時間以下保持する
、非酸化性雰囲気下で行う第二熱処理工程と、
を備え
、前記第二熱処理工程は、前記第一熱処理工程後、前記シリコンウェーハに形成された酸化膜を剥離した後に行われることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記第一熱処理工程は、1300℃以上1350℃以下で、1秒以上60秒以下保持し、1000℃以下まで冷却速度50℃毎秒よりも速く120℃毎秒以下で急冷することを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用の基板として用いられるシリコンウェーハ(以下、単にウェーハと略すことがある)は、デバイス品質の向上を目的に、表層の無欠陥化のみならず、近年では、ウェーハの機械的強度や金属不純物を捕獲する、いわゆるゲッタリングの性能が要求されている。ゲッタリングとは、ウェーハ中の不純物が特定の領域に集まる現象を積極的利用することによって、最終製品の性能への悪影響を減らす技術であり、イントリンシック・ゲッタリングとエクストリンシック・ゲッタリングとに大きく分けることができる。
【0003】
イントリンシック・ゲッタリング(以下、こちらを単にゲッタリングという)では、BMD(Bulk Micro Defects)と呼ばれる酸素析出物をウェーハ内部に設計的に作り込むことで最終製品の性能への悪影響を減らす。ウェーハ内部のBMDは金属不純物と化合し固定化する働きをすることができる。そして、ゲッタリングの性能を向上するためには、BMDが析出する領域を上手く制御することが重要である。例えば、特許文献1では、ウェーハに1300℃以上の急速昇降温熱処理(以下、RTPという)を施すことで、点欠陥である空孔をウェーハのバルク(表層ではなく内部)に多量に残存させることで、その後のBMD析出熱処理時にBMDを高密度に形成させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、半導体デバイス形成工程における各種熱処理は、低温かつ短時間化している傾向がある。このことによって、シリコンウェーハ中に予期せずに入り込んだ金属不純物の拡散距離が短くなる。すると、BMDが形成されたゲッタリングサイトの深さまで金属不純物が拡散できなくなってしまい、十分なゲッタリング効果を得られなくなってしまう。そこで、近年ではシリコンウェーハの表層に十分な無欠陥層を確保しつつ、表層直下数μmにゲッタリングサイトを形成する、いわゆる近接ゲッタリングウェーハが求められている。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、表層に十分な無欠陥層を確保しつつ、表層直下数μmにゲッタリングサイトを形成することに寄与するシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のシリコンウェーハの製造方法においては、チョクラルスキー法で育成した単結晶シリコンインゴットからスライスして得たシリコンウェーハに対し、酸化性雰囲気下において、前記シリコンウェーハの表層に酸素を内方拡散させると供に、前記シリコンウェーハのバルク部に原子空孔を凍結させる第一熱処理工程と、炉入れ温度から700℃までの体験時間を2時間未満とし、800℃以上1000℃以下で1時間以上10時間以下保持し、その後、1100℃以上1200℃以下まで昇温して10分以上4時間以下保持する第二熱処理工程とを備える。
【0008】
このように、本発明のシリコンウェーハの製造方法は第一熱処理工程と第二熱処理工程の組み合わせによって、デバイス活性層の直下数μmにBMDの析出領域を形成する。第一熱処理工程では、表層に酸素を内方拡散させて表層領域の酸素濃度を増大させると伴に、ウェーハバルク部に原子空孔(以下、空孔)を凍結させる。そして、第二熱処理工程では、表層数μm領域に酸素析出物を顕在化させる。
【0009】
第二熱処理工程において、炉入れ温度から700℃までの体験時間を2時間未満とする理由は、表面直下1μm領域に酸素析出物を形成させるのを防ぐためである。また、800℃以上1000℃以下で保持する理由は、空孔起因で生じる酸素析出物の主たる核発生温度だからである。その後、1100℃以上1200℃以下で10分以上2時間以下保持する理由は、発生した酸素析出物の核を成長させ析出物の表面積を大きくして金属不純物のゲッタリング力を高めるためである。
【0010】
さらに、第一熱処理工程では、1300℃以上1350℃以下で、1秒以上60秒以下保持し、1000℃以下まで冷却速度50℃毎秒よりも速く120℃毎秒以下で急冷することが好ましい。1300℃以上1350℃以下で1秒以上60秒以下保持することで表層領域の酸素濃度を増大させると伴に、冷却速度を50℃毎秒よりも速くする理由は、増大させた酸素と空孔の外方拡散による濃度低下を防ぐためである。また、冷却速度を120℃毎秒以下とする理由は、熱応力によるスリップの発生を防止するためである。
【0011】
さらに、第一熱処理後、前記シリコンウェーハの表層を除去せずに前記第二熱処理を続けて行うことが好ましい。前記シリコンウェーハの表面から数μmの無欠陥層と、当該無欠陥層直下に酸素析出物の形成領域を作成するためである。
【0012】
さらに、第一熱処理後、前記シリコンウェーハに形成された酸化膜を剥離した後、前記第二熱処理を非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。酸素の外方拡散を促進し、無欠陥領域が約2μm確保するためである。
【0013】
さらに、チョクラルスキー法において、結晶の引き上げ速度と固液界面における結晶軸方向の温度勾配を制御することによって得られる無欠陥型シリコンインゴットを使用することが好ましい。第一熱処理方法では、表面から1μm領域内にボイド欠陥(結晶成長時導入欠陥)が残留する。ボイド欠陥が存在しない無欠陥型シリコンを使用することでこの問題を避けることができるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表層に十分な無欠陥層を確保しつつ、表層直下数μmにゲッタリングサイトを形成することに寄与するシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法に用いられるRTP装置の一例の概要を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法における熱処理のシーケンスを示す図である。
【
図4】
図4は、深さ方向の酸素濃度プロファイルを示す図である。
【
図5】
図5は、無欠陥層の厚さの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法に用いられるRTP装置の一例の概要を示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、RTP装置10は、雰囲気ガス導入口20a及び雰囲気ガス排出口20bを備えたチャンバ(反応管)20と、チャンバ20の上部に離間して配置された複数のランプ30と、チャンバ20内の反応空間25にウェーハWを支持するウェーハ支持部40とを備えている。
【0019】
ウェーハ支持部40は、ウェーハWの外周部を支持する環状のサセプタ40aと、サセプタ40aを支持するステージ40bとを備える。また、ウェーハ支持部40は、ウェーハWをその中心軸周りに所定速度で回転させる回転手段を備えている。
【0020】
チャンバ20は、例えば、石英で構成されている。ランプ30は、例えば、ハロゲンランプで構成されている。サセプタ40aは、例えば、シリコンで構成されている。ステージ40bは、例えば、石英で構成されている。
【0021】
図1に示すRTP装置10を用いてウェーハWに対しRTPを行う場合は、ウェーハWを反応空間25内に導入し、ウェーハ支持部40のサセプタ40a上にウェーハWを支持する。そして、雰囲気ガス導入口20aから後述する雰囲気ガスを導入すると共に、ウェーハWを回転させながら、ランプ30によりウェーハW表面に対してランプ照射をすることで行う。
【0022】
このRTP装置10における反応空間25内の温度制御は、ウェーハ支持部40のステージ40bに埋め込まれた複数の放射温度計50によってウェーハWの下部のウェーハ径方向におけるウェーハ面内多点の平均温度を測定し、その測定された温度に基づいて複数のハロゲンランプ30の制御(各ランプの個別のON-OFF制御や、発光する光の発光強度の制御等)を行う。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法の手順を示すフローチャートである。
図2に示すように、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法は、主にシリコンウェーハの準備工程S1と、第一熱処理工程S2と、第二熱処理工程S3とを備えている。
【0024】
シリコンウェーハの準備工程S1では、チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶インゴットからスライスされたシリコンウェーハを用意する。チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの育成は周知の方法にて行うことができる。石英ルツボに充填した多結晶シリコンを加熱してシリコン融液とし、このシリコン融液の液面上方から種結晶を接触させて、種結晶と石英ルツボを回転させながら引上げ、所望の直径まで拡径して直胴部を育成することでシリコン単結晶インゴットを製造する。
【0025】
ここで、チョクラルスキー法において、結晶の引き上げ速度と固液界面における結晶軸方向の温度勾配を制御することによって得られる無欠陥型シリコンインゴットを使用することが好ましい。後段の第一熱処理方法では、表面から1μm領域内にボイド欠陥(結晶成長時導入欠陥)が残留する。ボイド欠陥が存在しない無欠陥型シリコンを使用することでこの問題を避けることができるからである。
【0026】
こうして得られたシリコン単結晶インゴットは、周知の方法によりシリコンウェーハに加工される。シリコン単結晶インゴットを内周刃又はワイヤソー等によりウェーハ状にスライスした後、外周部の面取り、ラッピング、エッチング、研磨等の加工工程を経て、熱処理前のシリコンウェーハを作成する。
【0027】
第一熱処理工程S2では、酸化性雰囲気下において、シリコンウェーハの表層に酸素を内方拡散させると供に、シリコンウェーハのバルク部に原子空孔を凍結させる。そして、第二熱処理工程S3では、表層数μm領域に酸素析出物を顕在化させる。なお、第一熱処理工程S2および第二熱処理工程S3における最適条件については後に詳述するものとする。
【0028】
一方、第一熱処理S2の後、シリコンウェーハの表層を除去せずに第二熱処理S3を続けて行うことが好ましい。シリコンウェーハの表面から数μmの無欠陥層と、当該無欠陥層直下に酸素析出物の形成領域を作成するためである。また、第一熱処理S2の後、シリコンウェーハに形成された酸化膜を剥離した後、第二熱処理S3を非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。酸素の外方拡散を促進し、無欠陥層を十分に確保するためである。
【0029】
図3は、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法における熱処理のシーケンスを示す図である。
図3において、縦軸Tは温度を示し、横軸tは時間を示す。
図3に示すように、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、第一熱処理工程TH
1と第二熱処理工程TH
2を備えている。
【0030】
図3に示すように、第一熱処理工程TH
1は、温度T
1まで昇温し、当該温度で時間D
1保持し、冷却速度R
1で急速に冷却する。第一熱処理工程TH
1は、例えば
図1に示したようなRTP装置10を用いて、酸化性雰囲気下において行う。
【0031】
第一熱処理工程TH1における温度T1は、例えば1300℃以上1350℃以下とすることが好ましく、時間D1は、1秒以上60秒以下であることが好ましい。シリコンウェーハの表層領域の酸素濃度を十分に増大させるためである。また、第一熱処理工程TH1における冷却速度R1は、50℃毎秒よりも速く120℃毎秒以下であることが好ましい。酸化性雰囲気下で加熱することでシリコンウェーハ内に増大させた酸素と空孔の外方拡散による濃度低下を防ぐためである。
【0032】
図3に示すように、第ニ熱処理工程TH
2は、温度T
2まで昇温し、当該温度で時間D
2保持し、その後、温度T
3まで昇温し、当該温度で時間D
3保持する。ただし、温度T
2まで昇温する際の昇温速度は、炉入れ温度から温度T
4までの体験時間を時間D
4未満とする。
【0033】
第ニ熱処理工程TH2における温度T2は、例えば800℃以上1000℃以下とすることが好ましく、時間D2は、1時間以上10時間以下であることが好ましい。この温度条件は、空孔起因で生じる酸素析出物の主たる核発生温度だからであり、酸素析出物を発生させるために好ましいからである。また、温度T3は、例えば1100℃以上1200℃以下とすることが好ましく、時間D3は、10分以上4時間以下であることが好ましい。発生した酸素析出物の核を成長させ析出物の表面積を大きくして金属不純物のゲッタリング力を高めるためである。
【0034】
また、第ニ熱処理工程TH2における昇温時の温度T4は700℃とし、当該温度までの体験時間D4は2時間未満とすることが好ましい。表面直下1μm領域に酸素析出物を形成させるのを防ぎ、十分に広い無欠陥層を確保するためである。
【0035】
〔実施例〕
次に、上記説明した本発明に係るシリコンウェーハの製造方法の効果を検証した実施例について説明する。
【0036】
(検証実験1)
検証実験1では、酸素濃度の異なるシリコンウェーハと酸素析出物の発生領域との関係を調べた。検証実験1で用いた実施例のシリコンウェーハは以下の通りである。
【0037】
【0038】
これら実施例A~Cのシリコンウェーハに対し、第一熱処理工程と第二熱処理工程を施す。第一熱処理工程では、100%のO2雰囲気下にて、温度1350℃で30秒保持し、その後、冷却速度120℃毎秒で急冷した。そして、酸化膜を剥離した後、第二熱処理工程の条件では、100%Ar雰囲気下で、炉入れ温度600℃から700℃までの体験時間を60分とし、温度850℃で3時間保持し、続いて、温度1150℃で30分保持した。
【0039】
この第一熱処理工程と第二熱処理工程を施した実施例A~Cのシリコンウェーハに対し、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS))を用いて、深さ方向の酸素濃度プロファイルを分析した。
図4は、深さ方向の酸素濃度プロファイルを示す図である。なお、
図4には、比較のため、実施例Bに第一熱処理工程のみ施した例(比較例)と、酸素の拡散のみを考慮して計算した例(計算例)が示されている。
【0040】
図4に示されるように、第一熱処理工程のみ施した例(比較例)では、酸素の内方拡散によって表層で濃度が増大している。一方、第一熱処理工程および第二熱処理工程を施した例(実施例A~C)では、深さ1~6μmにかけて酸素析出物によるピークが検出されている。そして、実施例A~Cにおける酸素析出物のピークの高さは、第一熱処理工程を施す前のシリコンウェーハにおける酸素濃度に依存している。
【0041】
また、酸素の拡散のみを考慮して計算した例(計算例)との比較では、表面に向かって酸素濃度が低下している。一方、第一熱処理工程および第二熱処理工程を施した例(実施例A~C)では、深さ1~6μmにかけて酸素析出物によるピークが検出されていることから、このようなプロファイルが生じる原理は酸素の拡散のみでは説明できない。
【0042】
さらに、第一熱処理工程および第二熱処理工程を施した例(実施例A~C)では、表面からおよそ1μmまでは無欠陥層(DZ)が形成されている。しかも、この無欠陥層の厚さは、第一熱処理工程の前のシリコンウェーハにおける酸素濃度に依存しない。
【0043】
以上、この検証実験1から、第二熱処理工程は、第一熱処理工程によってシリコンウェーハの表層に内方拡散させた酸素濃度のプロファイルを、およそ1μmの無欠陥層を形成するとともに、深さ1~6μmにかけてゲッタリングサイト(GS)を形成することに有効であることが示された。
【0044】
(検証実験2)
次に、第ニ熱処理工程における炉入れ温度から温度700℃までの体験時間の影響を検証する実験を行った。この検証実験2に用いたシリコンウェーハは、実施例Cと同じ酸素濃度1.2×1018/cm3の直径300mmのシリコンウェーハであった。
【0045】
これを第一熱処理工程では、検証実験1と同様に、100%のO2雰囲気下にて、温度1350℃で30秒保持し、その後、冷却速度120℃毎秒で急冷した。そして、第一熱処理工程の後に酸化膜を剥離し、シリコンウェーハの表層は除去せずに第二熱処理工程を続けて行った。
【0046】
第一熱処理工程では、100%Ar雰囲気下で、炉入れ温度600℃から700℃までの体験時間を変化させ、この体験時間が酸素析出物のピークに与える影響を実験した。なお、酸素析出物のピークとは、先述した
図4に示されるような深さ方向の酸素濃度プロファイルにおけるピークのことである。この酸素濃度プロファイルは検証実験1と同様に二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて測定することができる。
【0047】
検証実験2において、変化させる炉入れ温度600℃から700℃までの体験時間を30分、60分、120分、180分、および240分とし、各体験時間において、表面直下1μm領域に酸素析出物のピークを形成させるか否かを測定した。十分に広い無欠陥層を確保する観点から、表面直下1μm領域に酸素析出物のピークを形成しない場合を良品(〇)とし、表面直下1μm領域に酸素析出物のピークを形成する場合を不良品(×)とする。
【0048】
【0049】
上記表に示されるように、第ニ熱処理工程TH2における昇温時の700℃までの体験時間D4は2時間未満とすることが好ましい。シリコンウェーハの表面直下1μm領域に酸素析出物を形成させるのを防ぎ、十分に広い無欠陥層を確保することができるからである。
【0050】
(検証実験3)
次に、十分に広い無欠陥層を作成するための条件について調べた。この検証実験3に用いたシリコンウェーハは、実施例Cと同じ酸素濃度1.2×1018/cm3の直径300mmのシリコンウェーハであった。
【0051】
これを第一熱処理工程では、検証実験1と同様に、100%のO
2雰囲気下にて、温度1350℃で30秒保持し、その後、冷却速度120℃毎秒で急冷した。酸化膜を剥離した後、第二熱処理工程の条件では、100%Ar雰囲気下で、炉入れ温度600℃から700℃までの体験時間を60分とし、温度850℃で3時間保持したが、続く温度1150℃で保持する時間を、1分間から5時間まで変化させた。この結果得られたシリコンウェーハに対して、無欠陥層の厚さの変化を調べた。
図5は、無欠陥層の厚さの変化を示す図である。
【0052】
図5に示されるように、温度1150℃の保持時間に依存して無欠陥層の厚さ(DZ幅)が増大する。これは、温度1150℃の保持時間が長いほど表層部の酸素の外方拡散が進行するからである。ただし、温度1150℃の保持時間が10分より短いと無欠陥層の厚さが不十分であるので好ましくない。一方、温度1150℃の保持時間が4時間よりも長くても無欠陥層の厚さに大きな変化は見られないので、効率性の観点から好ましくない。したがって、温度1150℃の保持時間は、10分以上4時間以下とすることが好ましい。
【0053】
以上、本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、無欠陥層の厚さが1~2μmであり、ゲッタリングサイトの深さが1~6μmである、いわゆる近接ゲッタリングウェーハの製造を行うことができることが示された。
【0054】
以上、図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記の実施形態よって限定されるものではない。特に、本明細書に記載した数値範囲については、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で修正ないし変更することが可能であると解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0055】
10 RTP装置
20 チャンバ
20a 雰囲気ガス導入口
20b 雰囲気ガス排出口
25 反応空間
30 ランプ
40 ウェーハ支持部