(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】食品組成物の製造方法及び前処理方法並びに食品組成物の微生物安全性を高める方法
(51)【国際特許分類】
A21D 15/00 20060101AFI20241120BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20241120BHJP
A21D 17/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A21D15/00
A21D2/18
A21D17/00
(21)【出願番号】P 2020509301
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013501
(87)【国際公開番号】W WO2019189539
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018065268
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 治子
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
(72)【発明者】
【氏名】味谷 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 順也
(72)【発明者】
【氏名】見澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 葉
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】宮久保 博幸
【審判官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-308751(JP,A)
【文献】特開昭62-036138(JP,A)
【文献】イプロスものづくり,2016.03.01[検索日 2022.09.02],インターネット:<URL:https://www.ipros.jp/product/detail/2000070126/>
【文献】食品衛生研究,1984,Vol.34,No.8,pp.769-774
【文献】宮城学院女子大学生活科学研究所研究報告,1980,Vol.13,pp.34-39
【文献】春夏秋凍,2015.09.15[検索日 2022.09.02],インターネット:<URL:https://shunkashutou.com/column/quick-defrost-guide/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A21D 2/18
A21D 15/00
A21D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分活性0.93以上の生地焼成食品を含む食品組成物の製造方法であって、
穀粉類を含む生地を焼成して前記生地焼成食品を得る工程と、
前記生地焼成食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、
前記冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上
72時間以下置く解凍工程と、
雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売される工程とを有
し、
前記生地焼成食品がパンケーキ類(ただし、有機酸及び乳酸菌が配合されたものを除く。)である、食品組成物の製造方法。
【請求項2】
前記生地焼成食品の水分活性が0.97以下である請求項1に記載の食品組成物の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍工程において、前記食品組成物を雰囲気温度が-10℃以下の環境に置く請求項1又は2に記載の食品組成物の製造方法。
【請求項4】
前記生地焼成食品のpHが5以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の食品組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分活性が比較的高く微生物リスクが懸念される食品を含む食品組成物において、その微生物安全性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉などの穀粉類を含む生地を焼成して得られる生地焼成食品の代表的なものとして、パン、ケーキなどのベーカリー食品がある。ベーカリー食品についても、他の食品と同様に、製造から流通を経て消費に至るフードチェーン全体にわたって微生物安全性を高め、食中毒菌の汚染・増殖などを抑制することが重要である。食品における微生物の増殖やそれによる腐敗は食品中の水分量に影響される。微生物が生存や増殖するために利用できるのは食品中の自由水と呼ばれる水分であり、食品に含まれる自由水の量は水分活性(Aw)という値で示される。一般に、水分活性の数値が高いほど微生物安全性が低く、即ち微生物が増殖しやすく、食品の保存性が低下し、食中毒などのリスクが高まる。
【0003】
水分活性を制御して食品の微生物安全性を高めるための種々の提案がなされている。例えば特許文献1には、スポンジ菓子、クレープ皮等の焼成菓子の製造方法において、小麦粉、卵製品等の配合原料中に、水溶性糊料類及び/又はグルテンと澱粉糖類とを添加して焼成することにより、水分活性が低く微生物の増殖抑制効果に優れながらも、食感が良好な焼成菓子が得られる旨記載されている。また特許文献1には、焼成菓子の水分活性の数値が0.92以上では微生物の増殖抑制効果が減少してしまうため、そうならないように水分含有量を調整することが好ましい旨記載されている。
【0004】
特許文献2には、パンケーキなどを作るための練り粉に関し、練り粉を澱粉成分の糊化温度未満の温度に、練り粉の細菌数を実質的に減少させるに十分な時間加熱することにより、水分活性が0.95以上と比較的高いにもかかわらず、微生物学的に安定であり、8℃以下の温度で少なくとも3週間保存できる、冷蔵可能な液体練り粉が製造できる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第04655125号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/043123号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、水分活性が比較的高い食品を含みながらも微生物安全性が高く、常温で流通・販売が可能な食品組成物を提供することである。
【0007】
本発明者は、水分活性が比較的高い生地焼成食品であるパンケーキ類に、常温で流通及び/又は販売可能な微生物安全性を付与するべく種々検討した結果、該パンケーキ類の冷凍物を、雰囲気温度が該常温の環境に置く前に、雰囲気温度が該常温よりも低く且つ該冷凍物の冷凍状態の維持が困難な温度帯にある環境に所定時間置くことにより、水分活性を低下させずとも微生物安全性が高まり、特にセレウス菌(Bacillus cereus)の増殖が効果的に抑制されることを知見した。このセレウス菌の増殖抑制効果は、増殖抑制対象のセレウス菌が寒天培地に存在する場合は確認できず、パンケーキ類(ベーカリー食品)に存在する場合に特に顕著であった。
【0008】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、水分活性0.93以上の生地焼成食品を含み、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売される食品組成物の製造方法であって、穀粉類を含む生地を焼成して前記生地焼成食品を得る工程と、前記生地焼成食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、前記冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置く解凍工程とを有する、食品組成物の製造方法である。
【0009】
また本発明は、水分活性0.93以上の食品を含む食品組成物を、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売可能にするための前処理方法であって、前記食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、前記冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置く解凍工程とを有する、食品組成物の前処理方法である。
【0010】
また本発明は、水分活性0.93以上の食品を含み、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売される食品組成物の微生物安全性を高める方法であって、前記食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、前記冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置く解凍工程とを有する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法の製造目的物たる食品組成物は、水分活性0.93以上の生地焼成食品を含み、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売されるものである。一般に、食品(食品組成物)に含まれる自由水の量の指標である水分活性(Aw)が高いほど、微生物リスクが高く、水分活性が0.93以上もあるような水分活性の高い食品を常温、具体的には雰囲気温度が12℃以上の環境で流通・販売するとなれば、その流通・販売の過程で食品の腐敗、変質等が生じることが懸念される。しかしながら、本発明によれば、水分活性の高い食品であっても、その高い水分活性を意図的に減じることなく、即ち食品が本来有する特性を実質的に変化させることなく、斯かる懸念を払拭し、食品の保存性を高めることが可能である。本発明は特に、水分活性が0.93以上0.97以下の範囲にある生地焼成食品に対して有効であり、斯かる高水分活性の生地焼成食品の微生物安全性を高めて、雰囲気温度12℃以上の環境での流通・販売を可能にし得る。
【0012】
本発明の食品組成物の製造方法は、生地焼成食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、該冷凍食品組成物を解凍する解凍工程とを有する。本発明の製造方法で用いる食品組成物、即ち前記冷凍工程に供される食品組成物は、生地焼成食品を含んで構成されるもので、1)生地焼成食品のみからなる形態、及び2)生地焼成食品とこれ以外の他の食品とを含む形態とが包含される。前記2)の形態の具体例としては、生地焼成食品としてのベーカリー食品と、該ベーカリー食品に外添、内添、内包等される他の食品とを含むものが挙げられる。このベーカリー食品と併用される他の食品としては、例えば、肉類、野菜類、魚介類などの各種総菜類;クリーム、バター、ジャム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の製造方法で用いる生地焼成食品は、小麦粉等の穀粉類を含む生地を焼成して得られるもので、具体例としてベーカリー食品が挙げられる。生地焼成食品としてのベーカリー食品は、穀粉類(穀粉及び澱粉)を必須成分とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの任意成分を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成して得られる食品である。生地焼成食品としてのベーカリー食品の具体例として、例えば、パン類;ピザ類;ケーキ類;ワッフル、シュー、ビスケット、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;ドーナツ等の揚げ菓子等が挙げられる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン、菓子パン等が挙げられる。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法で用いる生地焼成食品の好ましい一例として、パンケーキ、ホットケーキ等のパンケーキ類が挙げられる。パンケーキ類は通常、穀粉類(穀粉及び/又は澱粉)を必須成分とし、さらに糖類等の任意成分を含む。糖類としては、例えば、砂糖、グラニュー糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、トレハロース、オリゴ糖、デキストリン等の単糖、二糖又は多糖類;ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール;ハチミツ、水あめ、メープルシロップ等の液糖;その他甘味料が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の製造方法で用いる生地焼成食品、即ち前記冷凍工程で冷凍される生地焼成食品は、水分活性が0.93以上、好ましくは0.93以上0.97以下である。ここでいう、生地焼成食品の水分活性は、当該生地焼成食品において水分活性が最も高い部位の水分活性を意味する。生地焼成食品がベーカリー食品の場合、特にパンケーキ類の場合は、通常、生地焼成食品(ベーカリー食品)の中心部が最も水分活性の値が大きく、従って、その中心部の水分活性の値が、該生地焼成食品の水分活性の値となる。生地焼成食品の水分活性は、常法に従って測定することができる。
【0016】
本発明の製造方法で用いる生地焼成食品は、典型的には、穀粉類と液体とを混合・混捏して生地を調製し、該生地を焼成することで得られる。生地を調製する際に穀粉類と混合する液体としては、水性液が用いられる。この水性液は、典型的には水であるが、水の他に例えば、牛乳、卵等を用いることもでき、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、生地の焼成方法は特に限定されず、製造目的物である生地焼成食品の種類等に応じて適宜選択すれがよい。また、生地は、焼成する前に必要に応じ、発酵させてもよい。
【0017】
生地の必須成分である穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉としては、例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラムセモリナ等)、ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、コーングリッツ等が挙げられる。澱粉としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の未加工澱粉;該未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉が挙げられる。
【0018】
生地における穀粉類の含有量は、製造する生地焼成食品の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されない。例えば、製造する生地焼成食品がパンケーキ類の場合、そのパンケーキ類用生地における穀粉類(小麦粉)の含有量は、該生地の全質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10~50質量%である。
【0019】
生地の調製には、穀粉類以外の他の成分(任意成分)を用いることができ、具体的には例えば、ベーカリー食品の製造に使用可能な成分として、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等の膨張剤又はイースト;全卵、卵白、卵黄等の卵類;牛乳、脱脂粉乳、バター等の乳製品;食塩等の塩類;糖類、油脂類、乳化剤、増粘剤、酸味料、香料、香辛料、着色料、果汁、ビタミン類等が挙げられ、製造する生地焼成食品の種類等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の製造方法で用いる生地焼成食品のpHは、品質及び食味の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6~8である。生地焼成食品のpHが斯かる範囲にあることで、これを含む食品組成物は酸味を感じにくく食味が良いものとなる。生地焼成食品のpHを斯かる範囲に調整する方法としては、例えば、生地に重層又は酸味料を添加する方法が挙げられる。生地焼成食品のpHは、pH測定対象の生地焼成食品を脱イオン水で5倍希釈してミキサーにより粉砕し、その粉砕物のpHを常法に従って測定することで測定可能である。
【0021】
本発明の食品組成物の製造方法では、生地焼成食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る(冷凍工程)。冷凍する食品組成物は、水分活性0.93以上の生地焼成食品を含んでいればよく、前述した通り、該生地焼成食品以外の他の食品を含んでいてもよい。前記冷凍工程は、典型的には、食品組成物をそれが冷凍可能な環境に置く(静置する)ことで実施できる。前記冷凍工程における冷凍条件は特に制限されず、急速冷凍、緩慢冷凍いずれも採用でき、食品組成物(生地焼成食品)の種類等に応じて適宜選択すればよい。
【0022】
前記冷凍工程の好ましい一例として、食品組成物を雰囲気温度が-10℃以下、特に-30℃以上-18℃以下の環境に置く(静置する)工程が挙げられる。これは特に、食品組成物に含まれる生地焼成食品がパンケーキ類の場合に有効である。また、前記冷凍工程の時間、即ち食品組成物を雰囲気温度が-10℃以下の環境に置いておく時間(冷凍時間)は、少なくとも当初は非冷凍状態であった食品組成物が冷凍されて冷凍食品組成物となるのに要する時間であればよく、その下限は特に制限されないが、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上である。
【0023】
本発明の食品組成物の製造方法は、前記冷凍工程で得られた冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置き、斯かる工程(解凍工程)によって該冷凍食品組成物を、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売する前に解凍する点で特徴付けられる。このように、冷凍食品組成物を、その冷凍状態の維持が困難な温度帯(1℃以上)で且つ常温以下の温度帯(10℃以下)に静置するなどして、解凍することにより、その解凍後の食品組成物、即ち水分活性0.93以上の生地焼成食品を含む食品組成物の微生物安全性が高まり、特にセレウス菌の増殖が効果的に抑制され、結果として、該食品組成物を雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売することが可能となる。
【0024】
前記解凍工程の時間、即ち冷凍食品組成物を雰囲気温度1℃以上10℃以下の環境に置いておく時間(解凍時間)は、好ましくは24時間以上である。また、前記解凍時間の上限も特に制限されないが、品質及び微生物安全性の観点から、好ましくは168時間以下、より好ましくは120時間以下、さらに好ましくは72時間以下である。
【0025】
尚、前記解凍工程による微生物の増殖抑制効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、前記冷凍工程に供される食品組成物(冷凍食品組成物の冷凍前の状態)は、i)水分活性0.93以上の生地焼成食品のみからなるか、又はii)水分活性0.93以上の生地焼成食品とこれ以外の他の食品とを含み、且つ該他の食品が該生地焼成食品よりも水分活性が低い(即ち水分活性が0.93未満である)ことが好ましい。本発明の製造方法で用いる食品組成物、即ち前記冷凍工程に供される食品組成物には前述した通り、生地焼成食品(例えばパンケーキ類)とそれ以外の他の食品(例えばクリーム)とを含む形態が包含されるところ、斯かる形態において、該他の食品の水分活性が該生地焼成食品と同等以上で且つ該他の食品が該生地焼成食品と接触して配されていると、微生物リスクが特に高いため、本発明ではこのような特定形態の食品組成物は扱わないことが好ましい。
【0026】
本発明には、水分活性0.93以上の食品を含む食品組成物を、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売可能にするための前処理方法が包含される。この本発明の食品組成物の前処理方法は、水分活性0.93以上の食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、該冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置く解凍工程とを有する。
【0027】
また本発明には、水分活性0.93以上の食品を含み、雰囲気温度が12℃以上の環境で流通及び/又は販売される食品組成物の微生物安全性を高める方法が包含される。この本発明の微生物安全性向上方法は、水分活性0.93以上の食品を含む食品組成物を冷凍して冷凍食品組成物を得る冷凍工程と、該冷凍食品組成物を雰囲気温度が1℃以上10℃以下の環境に12時間以上置く解凍工程とを有する。
【0028】
前記の本発明の食品組成物の前処理方法及び微生物安全性向上方法の技術思想は、前述した本発明の食品組成物の製造方法のそれと同じであり、両方法については、特に断らない限り、前述した本発明の食品組成物の製造方法についての説明が適宜適用される。本発明の前処理方法及び微生物安全性向上方法において、これらの方法が適用される食品組成物に含まれる、「水分活性0.93以上の食品」は、典型的には、水分活性0.93以上、好ましくは0.93以上0.97以下の生地焼成食品であり、より具体的には、水分活性が斯かる範囲にあるベーカリー食品(パンケーキ類)である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(パンケーキの製造)
穀粉類を含む生地を焼成して、生地焼成食品のみからなる食品組成物としてのパンケーキA~Eをそれぞれ製造した。具体的には、下記配合で生地原料と水とを混合し、混捏してパンケーキ用生地を調製し、該生地を焼成機に充填して、該生地の一方の面を焼成後、該生地を反転して他方の面を焼成して、パンケーキA~Eをそれぞれ製造した。生地の焼成は、該生地の中心温度が80℃以上となる条件で行った。パンケーキA~Eは、水分活性(水分活性が最も高い部位の水分活性であり、具体的には、パンケーキの中心部の水分活性である。)が互いに異なっており、具体的には下記の通りである。パンケーキの水分活性は、生地原料の1つである下記オリゴトース(三菱ケミカルフーズ製、主成分マルトトリオース)の配合量を適宜調整することで調整した。パンケーキA~EのpHは、いずれも7.5±0.3であった。
・パンケーキA:水分活性0.92
・パンケーキB:水分活性0.93
・パンケーキC:水分活性0.94
・パンケーキD:水分活性0.95
・パンケーキE:水分活性0.97
【0031】
(パンケーキ用生地の配合)
小麦粉:25.0質量%、全卵:18.4質量%、砂糖(糖類):8.7質量%、麦芽糖(糖類):8.2質量%、植物油脂:6.2質量%、加工澱粉:12.1質量%、ベーキングパウダー:1.7質量%、オリゴトース:適宜。
【0032】
〔参考例〕
パンケーキA~Eそれぞれについて、1枚のパンケーキ(約20g)の内部における3箇所に、下記方法により調製したサンプル菌液20μLを接種した(初発菌数は約21og/g)。接種後、パンケーキを、雰囲気温度が室温(20~25℃)の環境に30分間静置することでこれを風乾した後、該パンケーキを無菌パウチに密封し、該パウチごと庫内温度-18℃の冷凍庫に入れて冷凍パンケーキ(冷凍食品組成物)とした。これらの冷凍パンケーキを冷凍庫に1日間保存した後に該冷凍庫から取り出し、雰囲気温度が25℃の環境に24時間静置して解凍した。
【0033】
(サンプル菌液の調製方法)
対象菌液として、セレウス菌(Bacillus cereus)の17株の芽胞液を用いた。標準寒天培地で培養した単一コロニーを白金耳で釣菌し、TSB10ml(シリコン栓付試験管)に植菌した。80℃10分の温浴槽でヒートショックを行った後、氷冷した。これを35℃で菌体増殖による培地の濁りが観察されるまで培養した後、得られた培養液をSEA(土壌エキス加酵母エキス加寒天培地)に塗抹し、35℃で2週間程度培養して芽胞を形成させた。形成した芽胞は、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.0)で回収し、遠心分離(回転数4000rpmで20分間を1セットとして3セット)により夾雑物を除いて精製した。こうして得られた精製芽胞液は、食品(パンケーキ)への接種試験を行うまで-30℃で冷凍保管した。接種試験を行う際は、冷凍保管された精製芽胞液を冷蔵により解凍し、80℃10分の温浴槽でヒートショックを行った後冷却し、その冷却した精製芽胞液を、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.0)で104cfu/mlに希釈して、サンプル菌液を調製した。
【0034】
〔評価試験1〕
参考例で得られた解凍直後のパンケーキA~Eについて、下記方法により微生物安全性を評価した。
【0035】
<微生物安全性(菌の増加数)の評価方法>
評価対象(解凍後のパンケーキ)を0.1質量%のペプトン水で10倍量に希釈し、60秒間ストマッキングした。そのストマッキング液を0.1ml採取し、適宜希釈しながら標準寒天培地を用いて菌数を測定し、その測定値と初発菌数(約21og/g)とから菌の増加数を求め、下記評価基準により評価した。斯かる菌の増加数が少ないほど、微生物安全性が高く高評価となる。
(評価基準)
A:初発からの菌数の増加数が10の1乗未満
B:初発からの菌数の増加数が10の1乗以上2乗未満
C:初発からの菌数の増加数が10の2乗以上
【0036】
参考例で得られた解凍直後のパンケーキA~Eそれぞれの微生物安全性の評価結果を下記に示す。参考例では、水分活性が互いに異なるパンケーキA~Eの冷凍物(冷凍パンケーキ)を雰囲気温度25℃の環境に静置して解凍しているところ、パンケーキの水分活性が0.93以下の場合は、初発からの菌数の増加が比較的少なく、微生物安全性が高い結果となったが、水分活性が0.94以上、特に0.95以上の場合は、初発からの菌数の増加が多数となり、微生物安全性が低い結果となった。このことから、水分活性が0.93を超えるパンケーキ(生地焼成食品)を冷凍してなる冷凍パンケーキを、そのまま雰囲気温度が常温(25℃)の環境に置いて自然解凍すると、微生物リスクが高まることがわかる。
【0037】
(参考例の結果)
・パンケーキA(水分活性0.92):微生物安全性の評価結果A
・パンケーキB(水分活性0.93):微生物安全性の評価結果A
・パンケーキC(水分活性0.94):微生物安全性の評価結果B
・パンケーキD(水分活性0.95):微生物安全性の評価結果C
・パンケーキE(水分活性0.97):微生物安全性の評価結果C
【0038】
〔実施例1及び2〕
パンケーキA~Eのうちで水分活性が最も高いパンケーキEに、前記の参考例と同様の方法でサンプル菌液20μLを接種し、乾燥後に無菌パウチに密封した。このパウチに密封されたパンケーキを、パウチごと雰囲気温度が-20℃の環境に置くことで冷凍して、冷凍食品組成物としての冷凍パンケーキを得た(冷凍工程)。この冷凍パンケーキを庫内温度-18℃の冷凍庫に24時間保存した後、該冷凍庫から取り出し、雰囲気温度が10℃の環境に24時間(実施例1)、48時間(実施例2)静置した(解凍工程)。
【0039】
〔比較例1及び2〕
解凍工程における解凍時の雰囲気温度及び解凍時間を下記表1のように変更した以外は、実施例1及び2と同様にした。
【0040】
〔評価試験2〕
各実施例及び比較例で得られた解凍直後のパンケーキについて、前記方法により微生物安全性を評価した。実施例1及び2についてはさらに、1)解凍直後のパンケーキを雰囲気温度が35℃の環境に9時間静置した態様、及び2)解凍直後のパンケーキを雰囲気温度が25℃の環境に24時間静置した態様についても、前記方法により微生物安全性を評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0041】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、水分活性が比較的高い食品を含みながらも微生物安全性が高く、常温で流通・販売が可能な食品組成物が提供される。