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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/005 20120101AFI20241120BHJP
   B24B 37/30 20120101ALI20241120BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20241120BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241120BHJP
   B24B 49/12 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
B24B37/005 A
B24B37/30 E
B24B49/04 Z
H01L21/304 621D
H01L21/304 622R
B24B49/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021076023
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170119
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】大田 真朗
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-217595(JP,A)
【文献】特開2020-110871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/005
B24B 37/30
B24B 49/04
H01L 21/304
B24B 49/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の圧力室を含む複数の圧力室を有する研磨ヘッドによって、基板を研磨パッドの研磨面に押し付ける研磨方法であって、
前記研磨方法は、
前記基板を第1研磨条件で研磨する第1研磨工程と、
前記基板とは異なる基板を予め前記第1研磨条件で研磨することによって得られる、前記特定の圧力室に対応する前記基板の特定領域の半径方向に沿った第1研磨プロファイルに基づいて決定された第2研磨条件で、前記基板を研磨する第2研磨工程と、を含み、
前記第2研磨条件は、前記第1研磨プロファイルの分布とは逆の分布を有する第2研磨プロファイルが形成されるように予め決定された研磨条件を含み、
前記第1研磨工程の後に、前記第2研磨工程を行
前記基板とは異なる基板は、研磨対象の基板と同じ、または同等の初期膜厚を有する基板であり、
前記第1研磨プロファイルおよび前記第2研磨プロファイルは、前記基板の膜厚分布または研磨レート分布を含む、研磨方法。
【請求項2】
前記特定の圧力室は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室を含む、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記第2研磨条件は、前記特定の圧力室以外の圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む、請求項1または請求項2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記第2研磨条件は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室に隣接する隣接圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記第2研磨条件は、前記基板の最外周を囲むように配置されたリテーナリングの、前記研磨面に対する押圧力を調整して決定される研磨条件を含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記第1研磨条件は、研磨中に、膜厚センサを用いて測定された、前記複数の圧力室のそれぞれに対応する前記基板の膜厚に基づいて、前記複数の圧力室のそれぞれの圧力をフィードバック制御しながら、前記基板を研磨する研磨条件を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記第1研磨条件で前記基板を研磨し、所定の切り替え条件を満たした後に、前記第2研磨条件で前記基板を研磨する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記切り替え条件として、前記特定領域の膜厚の最大値と最小値との差が所定のしきい値を超えて大きくなった場合に、前記第1研磨条件から前記第2研磨条件に切り替える、請求項7に記載の研磨方法。
【請求項9】
前記切り替え条件として、前記特定領域の膜厚の最大値と最小値との差を前記第2研磨条件で研磨することにより解消するために必要な時間と、最終目標膜厚までの残りの研磨時間に基づいて、前記第1研磨条件から前記第2研磨条件に切り替える、請求項7に記載の研磨方法。
【請求項10】
前記特定の圧力室は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室を含み、
前記第2研磨条件に基づいて、前記エッジ圧力室の圧力を制御しつつ、前記第1研磨条件に基づいて、前記エッジ圧力室を除く他の圧力室の圧力を制御する、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程における技術として、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)が知られている。CMPを行うための研磨装置は、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、ウェハを保持するための研磨ヘッドと、を備えている。
【0003】
このような研磨装置を用いてウェハの研磨を行う場合には、研磨ヘッドによりウェハを保持しつつ、このウェハを研磨パッドの研磨面に対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと研磨ヘッドとを相対運動させることによりウェハが研磨面に摺接し、ウェハの表面が研磨される。
【0004】
さらに、ウェハの膜厚に応じた信号を膜厚センサによって検出し、ウェハの膜厚分布を取得することが行われている。ウェハの膜厚分布に基づいて、研磨ヘッドに同心円状に設けた複数のエアバッグの圧力を制御することが行われている。膜厚センサは、研磨テーブルとともに回転し、ウェハを保持する研磨ヘッドも回転する。通常、ウェハの表面上を横切る膜厚センサの移動経路は、研磨テーブルが1回転するたびに異なる。各エアバッグの圧力を制御するための指標値として、通常、同心円状の各エアバッグの異なる測定点において測定された膜厚を平均化し、各エアバッグ内の膜厚を代表する数値を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/163164号
【文献】特開2005-11977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年は、必要とされる膜厚の均一性の度合いが高まっている。同心円状に配置されたエアバッグの1つに対応するウェハの領域内において、ウェハの半径方向における膜厚のばらつきが大きくなり、その領域に対応するエアバッグの圧力を調整しても、一定以上の膜厚の均一性の向上が実現できないという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ウェハの膜厚の均一性を向上させることができる研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、特定の圧力室を含む複数の圧力室を有する研磨ヘッドによって、基板を研磨パッドの研磨面に押し付ける研磨方法が提供される。前記研磨方法は、前記基板を第1研磨条件で研磨する第1研磨工程と、前記基板とは異なる基板を予め前記第1研磨条件で研磨することによって得られる、前記特定の圧力室に対応する前記基板の特定領域の半径方向に沿った第1研磨プロファイルに基づいて決定された第2研磨条件で、前記基板を研磨する第2研磨工程と、を含み、前記第2研磨条件は、前記第1研磨プロファイルの分布とは逆の分布を有する第2研磨プロファイルが形成されるように予め決定された研磨条件を含み、前記第1研磨工程の後に、前記第2研磨工程を行う。
【0009】
一態様では、前記特定の圧力室は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室を含む。
一態様では、前記第2研磨条件は、前記特定の圧力室以外の圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む。
一態様では、前記第2研磨条件は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室に隣接する隣接圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む。
【0010】
一態様では、前記第2研磨条件は、前記基板の最外周を囲むように配置されたリテーナリングの、前記研磨面に対する押圧力を調整して決定される研磨条件を含む。
一態様では、前記第1研磨条件は、研磨中に、膜厚センサを用いて測定された、前記複数の圧力室のそれぞれに対応する前記基板の膜厚に基づいて、前記複数の圧力室のそれぞれの圧力をフィードバック制御しながら、前記基板を研磨する研磨条件を含む。
一態様では、前記第1研磨条件で前記基板を研磨し、所定の切り替え条件を満たした後に、前記第2研磨条件で前記基板を研磨する。
【0011】
一態様では、前記切り替え条件として、前記特定領域の膜厚の最大値と最小値との差が所定のしきい値を超えて大きくなった場合に、前記第1研磨条件から前記第2研磨条件に切り替える。
一態様では、前記切り替え条件として、前記特定領域の膜厚の最大値と最小値との差を前記第2研磨条件で研磨することにより解消するために必要な時間と、最終目標膜厚までの残りの研磨時間に基づいて、前記第1研磨条件から前記第2研磨条件に切り替える。
一態様では、前記特定の圧力室は、前記基板の最外周を押圧するエッジ圧力室を含み、前記第2研磨条件に基づいて、前記エッジ圧力室の圧力を制御しつつ、前記第1研磨条件に基づいて、前記エッジ圧力室を除く他の圧力室の圧力を制御する。
【発明の効果】
【0012】
研磨方法は、第2研磨条件で基板を研磨する第2研磨工程を含む。第2研磨工程で基板を研磨することにより、ウェハの特定領域の膜厚の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】研磨ヘッドの断面図である。
図3】動作制御部によって生成されたスペクトルの一例を示す図である。
図4】複数の参照スペクトルを取得する工程の一例を示す図である。
図5】複数の圧力室に応じて分割されたウェハの複数の押圧領域を示す図である。
図6】第1研磨条件でウェハを研磨したときにおけるウェハの研磨プロファイルを示す図である。
図7】第2研磨条件を示す図である。
図8】第1研磨条件および第2研磨条件で研磨されたウェハの研磨レートを示す図である。
図9】研磨対象のウェハを研磨する工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、膜を有するウェハW(基板など)を研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5と、ウェハWの膜厚を測定する膜厚センサ40(本実施形態では、光学式膜厚センサ40)と、研磨装置の動作を制御するための動作制御部9と、を備えている。研磨パッド2の上面は、ウェハWを研磨する研磨面2aを構成する。
【0015】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は、ベルト等の連結手段を介して図示しない研磨ヘッドモータに連結されている。研磨ヘッドモータは、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させる。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。
【0016】
ウェハWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液供給ノズル5から研磨液が研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ウェハWは研磨ヘッド1によって、ヘッドシャフト10を中心に回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でウェハWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。研磨テーブル3は、その中心CPを中心に回転する。ウェハWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒または研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0017】
動作制御部9は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。動作制御部9は、プログラムが格納された記憶装置9aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置9bと、を備えている。演算装置9bは、記憶装置9aに格納されているプログラムに含まれている命令に従って演算を行うCPU(中央処理装置)またはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)などを含む。記憶装置9aは、演算装置9bがアクセス可能な主記憶装置(例えばランダムアクセスメモリ)と、データおよびプログラムを格納する補助記憶装置(例えば、ハードディスクドライブまたはソリッドステートドライブ)を備えている。
【0018】
動作制御部9は、膜厚センサ40に電気的に接続されている。本実施形態では、膜厚センサ40は、ウェハWの表面に光を導き、ウェハWからの反射光を検出し、ウェハWの膜厚に応じた信号を動作制御部9に出力する。動作制御部9は、膜厚センサ40から送られる信号(より具体的には、ウェハWからの反射光の強度測定データ)に基づいて、ウェハWの膜厚を測定する。
【0019】
本実施形態では、膜厚センサ40は、光学式の膜厚センサであるが、動作制御部9によってウェハWの膜厚を測定することができれば、他の膜厚センサであってもよい。言い換えれば、膜厚センサ40は、ウェハWの膜厚に関する物理量を検出するセンサである。一例として、膜厚センサ40は、渦電流センサであってもよい。渦電流センサは、そのセンサコイルがウェハWの導電性膜内に磁束を通過させて渦電流を発生させることにより、ウェハWの膜厚に応じた渦電流を検出し、渦電流信号を出力する。動作制御部9は、この渦電流信号に基づいて、ウェハWの膜厚を測定する。
【0020】
本実施形態では、膜厚センサ40は、光を発する光源44と、分光器47と、光源44および分光器47に連結された光学センサヘッド7と、を備えている。光学センサヘッド7、光源44、および分光器47は、研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。光学センサヘッド7の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のウェハWの表面を横切る位置である。
【0021】
記憶装置9aは、その内部に、後述するスペクトルの生成およびウェハWの膜厚検出を実行するためのプログラムを格納している。光源44から発せられた光は、光学センサヘッド7に伝送され、光学センサヘッド7からウェハWの表面に導かれる。光はウェハWの表面で反射し、ウェハWの表面からの反射光は光学センサヘッド7によって受けられ、分光器47に送られる。分光器47は反射光を波長に従って分解する。このようにして、膜厚センサ40は、各波長での反射光の強度を検出して、反射光の強度測定データを動作制御部9に送る。
【0022】
図2は、研磨ヘッドの断面図である。図2に示すように、研磨ヘッド1は、ウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付けるための弾性膜65と、弾性膜65を保持するヘッド本体21と、ヘッド本体21の下方に配置された環状のドライブリング62と、ドライブリング62の下面に固定された環状のリテーナリング60と、を備えている。
【0023】
弾性膜65は、ヘッド本体21の下部に取り付けられている。ヘッド本体21は、ヘッドシャフト10の端部に固定されており、ヘッド本体21、弾性膜65、ドライブリング62、およびリテーナリング60は、ヘッドシャフト10の回転により一体に回転するように構成されている。リテーナリング60およびドライブリング62は、ヘッド本体21に対して相対的に上下動可能に構成されている。ヘッド本体21は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。
【0024】
弾性膜65の下面は、ウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付ける基板押圧面65aを構成する。リテーナリング60は、基板押圧面65aを囲むように配置され、ウェハWはリテーナリング60によって囲まれている。弾性膜65とヘッド本体21との間には、4つの圧力室70,71,72,73が設けられている。
【0025】
圧力室70は、中央に位置する円形状の中央圧力室であり、圧力室73は、最外周に位置する環状のエッジ圧力室であり、圧力室71,72のそれぞれは、圧力室70と圧力室73との間に位置する中間圧力室である。
【0026】
圧力室70,71,72,73は弾性膜65とヘッド本体21によって形成されている。中央の圧力室70は円形であり、他の圧力室71,72,73は環状である。これらの圧力室70,71,72,73は、同心円状に配列(分割)されている。本実施形態では、弾性膜65は、4つの圧力室70~73を形成するが、上述の圧力室の数は例示であり、適宜変更してもよい。
【0027】
圧力室70,71,72,73にはそれぞれ気体移送ラインF1,F2,F3,F4が接続されている。気体移送ラインF1,F2,F3,F4の一端は、研磨装置が設置されている工場に設けられたユーティリティとしての圧縮気体供給源(図示せず)に接続されている。圧縮空気等の圧縮気体は、気体移送ラインF1,F2,F3,F4を通じて圧力室70,71,72,73にそれぞれ供給されるようになっている。圧力室70~73に圧縮気体が供給されることで、弾性膜65が膨らみ、圧力室70~73内の圧縮気体は、弾性膜65を介してウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。圧力室70~73は、ウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付けるためのアクチュエータとして機能する。
【0028】
リテーナリング60は、弾性膜65の周囲に配置されており、研磨パッド2の研磨面2aに接触する環状の部材である。リテーナリング60は、ウェハWの最外周を囲むように配置されており、ウェハWの研磨中にウェハWが研磨ヘッド1から飛び出してしまうことを防止するとともに、研磨パッド2の弾性的なふるまい(リバウンド)を調整してウェハWの最外周の膜厚分布を調整することができる。
【0029】
ドライブリング62の上部は、環状のリテーナリング押圧装置80に連結されている。リテーナリング押圧装置80は、ドライブリング62を介してリテーナリング60の上面60bの全体に下向きの荷重を与え、これによりリテーナリング60の下面60aを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。
【0030】
リテーナリング押圧装置80は、ドライブリング62の上部に固定された環状のピストン81と、ピストン81の上面に接続された環状のローリングダイヤフラム82と、を備えている。ローリングダイヤフラム82の内部にはリテーナリング圧力室83が形成されている。このリテーナリング圧力室83は、気体移送ラインF5を介して上記圧縮気体供給源に連結されている。圧縮気体は、気体移送ラインF5を通じてリテーナリング圧力室83内に供給される。
【0031】
上記圧縮気体供給源からリテーナリング圧力室83に圧縮気体を供給すると、ローリングダイヤフラム82がピストン81を下方に押し下げ、ピストン81はドライブリング62を押し下げ、さらにドライブリング62はリテーナリング60の全体を下方に押し下げる。このようにして、リテーナリング押圧装置80は、リテーナリング60の下面60aを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。ドライブリング62は、リテーナリング押圧装置80に着脱可能に連結されている。一実施形態では、リテーナリング押圧装置80は、研磨ヘッド1の下降力をリテーナリング60に作用させることによって、リテーナリング60の下面60aを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける構造を有してもよい。
【0032】
気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5は、ヘッドシャフト10に取り付けられたロータリージョイント25を経由して延びている。研磨装置は、圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5をさらに備えており、圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5は、気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5にそれぞれ設けられている。圧縮気体供給源からの圧縮気体は、圧力レギュレータR1~R5を通って圧力室70~73、およびリテーナリング圧力室83内にそれぞれ独立に供給される。圧力レギュレータR1~R5は、圧力室70~73、およびリテーナリング圧力室83内の圧縮気体の圧力を調節するように構成されている。圧力レギュレータR1~R5は、動作制御部9に接続されている。
【0033】
圧力レギュレータR1~R5は、圧力室70~73、およびリテーナリング圧力室83の内部圧力を互いに独立して変化させることが可能であり、これにより、ウェハWの対応する4つの領域、すなわち、中央部、内側中間部、外側中間部、およびエッジ部におけるウェハWの研磨面2aに対する押し付け力、およびリテーナリング60の研磨パッド2への押し付け力を独立に調整することができる。気体移送ラインF1,F2,F3,F4,F5は大気開放弁(図示せず)にもそれぞれ接続されており、圧力室70~73、およびリテーナリング圧力室83を大気開放することも可能である。本実施形態では、弾性膜65は、4つの圧力室70~73を形成するが、一実施形態では、弾性膜65は4つよりも少ない、または4つよりも多い圧力室を形成してもよい。
【0034】
図3は、動作制御部によって生成されたスペクトルの一例を示す図である。図3において、横軸はウェハから反射した光の波長を表わし、縦軸は反射した光の強度から導かれる相対反射率を表わす。相対反射率とは、反射光の強度を示す指標値であり、光の強度と所定の基準強度との比である。各波長において光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、装置の光学系や光源固有の強度のばらつきなどの不要なノイズを実測強度から除去することができる。
【0035】
基準強度は、各波長について予め測定された光の強度であり、相対反射率は各波長において算出される。具体的には、各波長での光の強度(実測強度)を、対応する基準強度で割り算することにより相対反射率が求められる。
【0036】
動作制御部9は、反射光の強度測定データから反射光のスペクトルを生成するように構成されている。反射光のスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフ(すなわち分光波形)として表される。反射光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値として表わすこともできる。
【0037】
実際の研磨では、実測強度からダークレベル(光を遮断した条件下で得られた背景強度)を引き算して補正実測強度を求め、さらに基準強度から上記ダークレベルを引き算して補正基準強度を求め、そして、補正実測強度を補正基準強度で割り算することにより、相対反射率が求められる。具体的には、相対反射率R(λ)は、次の式(1)を用いて求めることができる。
【数1】
ここで、λは基板から反射した光の波長であり、E(λ)は波長λでの強度であり、B(λ)は波長λでの基準強度であり、D(λ)は光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)である。
【0038】
動作制御部9は、反射光の強度測定データから図3に示すようなスペクトルを生成する。さらに、動作制御部9は、反射光のスペクトルからウェハWの膜厚を決定する。反射光のスペクトルは、ウェハWの膜厚に従って変化する。したがって、動作制御部9は、反射光のスペクトルからウェハWの膜厚を決定することができる。以下、本明細書において、研磨されるウェハWからの反射光から生成されたスペクトルを、測定スペクトルという。
【0039】
動作制御部9は、測定スペクトル(すなわち、測定データ)と複数の参照スペクトル(すなわち、参照データ)との比較から膜厚を決定するように構成されている。動作制御部9は、研磨中に生成された測定スペクトルと複数の参照スペクトルとを比較することで、測定スペクトルに最も形状の近い参照スペクトルを決定し、この決定された参照スペクトルに関連付けられた膜厚を取得する。測定スペクトルに最も形状の近い参照スペクトルは、参照スペクトルと測定スペクトルとの間の相対反射率の差が最も小さいスペクトルである。
【0040】
複数の参照スペクトルは、研磨対象のウェハ(以下、本明細書において、ウェハWは研磨対象のウェハに相当する)と同じ、または、同等の初期膜厚を有する参照ウェハを研磨することによって予め取得されたものであり、各参照スペクトルにはその参照スペクトルが取得されたときの膜厚を関連付けることができる。すなわち、各参照スペクトルは、異なる膜厚のときに取得されたものであり、複数の参照スペクトルは複数の異なる膜厚に対応する。したがって、測定スペクトルに最も形状の近い参照スペクトルを決定することにより、現在の膜厚を推定することができる。
【0041】
図4は、複数の参照スペクトルを取得する工程の一例を示す図である。まず、ウェハWと同じ、または、同等の膜厚を有する参照ウェハが用意される。参照ウェハは、膜厚測定器170(図1参照)に搬送され、参照ウェハの初期膜厚が膜厚測定器170によって測定される(ステップS101参照)。膜厚測定器170は、動作制御部9に電気的に接続されている。
【0042】
次に研磨液としてのスラリーが研磨パッド1に供給されながら参照ウェハが研磨される(ステップS102参照)。参照ウェハの研磨中、参照ウェハの表面に光が照射され、参照ウェハからの反射光のスペクトル(すなわち参照スペクトル)が取得される(ステップS103参照)。
【0043】
参照スペクトルは、研磨テーブル3が一回転するたびに取得される。したがって、参照ウェハの研磨中に、複数の参照スペクトルが取得される。参照ウェハの研磨が終了した後、参照ウェハは膜厚測定器170に再び搬送され、研磨された参照ウェハの膜厚(すなわち最終膜厚)が測定される(ステップS104参照)。
【0044】
参照ウェハの研磨レートが一定である場合、膜厚は研磨時間とともに直線的に減少する。研磨レートは、初期膜厚と最終膜厚との差を、最終膜厚に到達した研磨時間で割り算することにより算出することができる。参照スペクトルは、上述したように、研磨テーブル3が一回転するたびに周期的に取得されるので、それぞれの参照スペクトルが取得されたときの研磨時間は、研磨テーブル3の回転速度から算出することができる。このようにして、動作制御部9は、各参照スペクトルに対応する膜厚を決定する(ステップS105参照)。
【0045】
各参照スペクトルは、対応する膜厚に関連付けることができる(結び付けることができる)。したがって、動作制御部9は、ウェハWの研磨中に測定スペクトルに最も形状が近い参照スペクトルを決定することにより、その参照スペクトルに関連付けられた膜厚から、ウェハWの現在の膜厚を決定することができる。
【0046】
以下、研磨対象のウェハWを研磨する工程について、説明する。まず、研磨対象のウェハWの膜厚の均一性が所定の許容範囲内に収まる第1研磨条件(言い換えれば、最終目標膜厚フラット条件)を決定する必要がある。
【0047】
第1研磨条件は、最終目標膜厚がフラットになるように予め決定された研磨条件(複数の圧力室70,71,72,73,83のそれぞれの圧力の制御)であってもよい。動作制御部9は、第1研磨条件に基づいて、複数の圧力室70,71,72,73,83のそれぞれの圧力を制御しながら、ウェハWを研磨するように構成されている。
【0048】
図5は、複数の圧力室に応じて分割されたウェハの複数の押圧領域を示す図である。図5に示すように、動作制御部9は、複数の圧力室70,71,72,73に応じてウェハW上の複数の押圧領域A1~A4に分割する。これら押圧領域A1~A4は、ウェハWの中心CPWと同心円状に配置されている。ウェハWの外縁には、ノッチNtが形成されている。
【0049】
一実施形態では、第1研磨条件は、ウェハWの研磨中に膜厚センサ40によって測定された膜厚に基づいて、ウェハWの各領域A1~A4の膜厚(平均膜厚)がウェハWの全体の平均膜厚になるように、各圧力室70~73の圧力をリアルタイムでフィードバック制御する研磨条件(CLC:クローズドループコントロール)であってもよい。より具体的には、動作制御部9は、膜厚センサ40から出力された信号に基づいて測定されたウェハWの膜厚に基づいて、押圧領域A1~A4のそれぞれにおける平均膜厚値を算出する。その後、動作制御部9は、押圧領域A1~A4のそれぞれの平均膜厚値とウェハWの全体の平均膜厚値との差分が低減されるように、圧力レギュレータR1~R4のそれぞれを制御することにより、押圧領域A1~A4に対応する圧力室70~73内の圧力を制御する。
【0050】
動作制御部9は、上述した方法と同様の方法に基づいて、圧力レギュレータR5を制御することにより、リテーナリング圧力室83内の圧力を制御してもよい。
【0051】
図6は、第1研磨条件でウェハを研磨したときにおけるウェハの研磨プロファイルを示す図である。図6では、横軸はウェハWの半径方向の距離を表しており、縦軸はウェハWの膜厚分布を表している。図6における太線は、ウェハWの最外周に位置する、圧力室73に対応する押圧領域A4と、押圧領域A4の内側の押圧領域と、の境界線を示している。図6に示す実施形態では、ウェハWの研磨プロファイルとして、ウェハWを所定時間、研磨した際の研磨後のウェハWの半径方向における膜厚分布について説明するが、ウェハWの研磨プロファイルは、ウェハWの半径方向における研磨レート分布を含んでもよい。
【0052】
第1研磨条件でウェハWを研磨した場合、ウェハWの中央部を含む他の領域(すなわち、最外周を除く領域)では、ウェハWの膜厚の均一性は所定の許容範囲内に収まる一方で、ウェハWの最外周を含む特定領域では、ウェハWの残膜(研磨後の膜厚)の半径方向のばらつきが大きい場合がある。すなわち、ウェハWの最外周を含む特定領域内で、膜厚の大きい部分と小さい部分の膜厚差が大きくなっている。ウェハWの最外周は、研磨パッド2のリバウンドによる影響などで、研磨プロファイルが急峻で非対称になりやすく、ウェハWの最外周を含む特定領域の圧力室の圧力を調整するだけでは、フラットな膜厚分布を得ることは難しい。ウェハWの最外周を含む特定領域内における研磨後の膜厚のばらつき(いわゆる、残膜レンジ)は、第1研磨条件での研磨時間が長くなるほど大きくなる傾向がある。
【0053】
そこで、本実施形態では、動作制御部9は、ウェハWの最外周におけるウェハWの半径方向の膜厚のばらつきを低減させる第2研磨条件に基づいて、ウェハWを研磨するように構成されている。以下に示す実施形態では、ウェハWの特定領域の一例として、ウェハWの膜厚の最外周におけるウェハWの膜厚のばらつきを低減させる実施形態について説明するが、ウェハWの特定領域は、ウェハWの最外周には限定されない。ウェハWの最外周を除く他の領域においても、ウェハWの膜厚のばらつきは発生するおそれがある。
【0054】
図7は、第2研磨条件を示す図である。図7では、横軸はウェハWの半径方向の距離を表しており、縦軸はウェハWの膜厚分布を表している。図7に示す実施形態では、ウェハWの研磨プロファイルとして、ウェハWを所定時間、研磨した際の研磨後のウェハWの半径方向における膜厚分布について説明するが、ウェハWの研磨プロファイルは、ウェハWの半径方向における研磨レート分布を含んでもよい。
【0055】
動作制御部9は、第1研磨条件に基づいて、研磨対象のウェハWと同じ、または、同等の初期膜厚を有するウェハを研磨する。その後、動作制御部9は、第1研磨条件で研磨することによって得られる第1研磨プロファイル(研磨後のウェハWの膜厚分布または研磨レート分布)に基づいて、第2研磨条件を決定する。第2研磨条件は、第1研磨プロファイルの分布(より具体的には、特定の圧力室に対応するウェハW上の押圧領域の分布)とは逆の分布を有する第2研磨プロファイルが形成されるように、予め決定(調整)された研磨条件である。
【0056】
言い換えれば、第2研磨条件は、第1研磨条件で研磨された研磨後のウェハWの最外周における膜厚の厚い部分がより積極的に研磨され、研磨後のウェハWの最外周における膜厚の薄い部分の研磨が抑制されるような研磨条件である。第2研磨プロファイルは、第1研磨プロファイルの分布に対して、ウェハWの膜厚の厚さまたは研磨レートを示す数値の正負符号が反転した分布を有している。第2研磨プロファイルの分布を示す曲線および第1研磨プロファイルの分布を示す曲線は、理想的には、互いに線対称である。
【0057】
図7に示す実施形態では、ウェハWの半径方向の距離と、距離に対応するウェハWの膜厚と、から特定される座標系上の膜厚分布において、ウェハWの最外周の膜厚分布を示す曲線(第2研磨プロファイルの分布を示す曲線)は、基準線を中心として、第1研磨条件で研磨されたウェハWの最外周の膜厚分布を示す曲線(図7の一点鎖線参照)に対して、線対称である。なお、図7に示す実施形態では、第2研磨プロファイルの分布を示す曲線は、理想的な曲線として描かれている。
【0058】
第2研磨条件は、研磨対象のウェハWと同じ、または、同等の初期膜厚を有するウェハを研磨することにより、決定される。まず、予め、第1研磨条件でウェハWを研磨し、第1研磨プロファイルを確認する。その後、さらに別のウェハを研磨して、研磨終了後の研磨プロファイルが第1研磨プロファイルの分布とは逆の分布を有するように、実験的に第2研磨条件を決定する。あるいは、一実施形態では、まず、第1研磨条件でウェハWを研磨し、その後、続いて第1研磨条件から研磨条件を切り替えて、ウェハWを研磨する。研磨終了後の研磨プロファイルが平坦な分布を有するように、第1研磨条件からの切り替え条件である第2研磨条件を実験的に決定する。一実施形態では、第2研磨条件は、予め記憶装置9a内に格納された研磨条件と研磨プロファイルからなるデータベースから最適なものを選択してもよく、および/または、研磨シミュレーションにより決定されてもよい。
【0059】
動作制御部9は、その記憶装置9a内に第2研磨条件を格納しており、第2研磨条件に基づいて、ウェハWを研磨するように構成されている。より具体的には、動作制御部9は、第2研磨条件に基づいて、複数の圧力室70,71,72,73,83のうち、特定の圧力室の圧力を予め決定した固定値で制御しながら、ウェハWを研磨する。第2研磨条件は、第2研磨プロファイルに基づいて、特定の圧力室の圧力を予め決定した固定値で制御しながら、ウェハWを研磨する研磨条件を含む。
【0060】
本実施形態では、特定の圧力室は、ウェハWの最外周を押圧するエッジ圧力室73と、エッジ圧力室73に隣接する隣接圧力室と、を含む。隣接圧力室は、中間圧力室72およびリテーナリング圧力室83の少なくとも1つの圧力室を含む。本実施形態では、隣接圧力室は、中間圧力室72およびリテーナリング圧力室83の両方である。一実施形態では、特定の圧力室は、エッジ圧力室73のみであってもよい。
【0061】
第2研磨条件は、特定の圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む。一実施形態では、第2研磨条件は、特定の圧力室以外の圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含んでもよい。例えば、特定の圧力室がエッジ圧力室73である場合、第2研磨条件は、エッジ圧力室73に隣接する隣接圧力室の圧力を調整して決定される研磨条件を含む。
【0062】
一実施形態では、第2研磨条件は、ウェハWの最外周を囲むように配置されたリテーナリング60の、研磨面2aに対する押圧力を調整して決定される研磨条件を含んでもよい。この場合、動作制御部9は、第2研磨条件に基づいて、研磨ヘッド1の下降力をリテーナリング60に作用させるリテーナリング押圧装置80を制御する。
【0063】
本実施形態では、動作制御部9は、エッジ圧力室73および隣接圧力室72,83のそれぞれの圧力を、第2研磨条件に基づいて、制御しつつ、これらエッジ圧力室73および隣接圧力室72,83を除く他の圧力室70,71のそれぞれの圧力を、第1研磨条件に基づいて、フィードバック制御する。
【0064】
第1研磨条件は、研磨中に、膜厚センサ40から出力された信号に基づいて他の圧力室70,71のそれぞれに対応する領域の平均膜厚値とウェハWの全体の平均膜厚値との差分が低減されるように、圧力室70,71のそれぞれの圧力をフィードバック制御する研磨条件である。
【0065】
図8は、第1研磨条件および第2研磨条件で研磨されたウェハの研磨レートを示す図である。図8では、横軸はウェハWの半径方向の距離を表しており、縦軸はウェハWの研磨レートを表している。図8は、ウェハWの外側部分の研磨レートを拡大して示している。図8に示すように、第1研磨条件におけるウェハW上の押圧領域A4での研磨レートと第2研磨条件におけるウェハW上の押圧領域A4での研磨レートは、互いに反転している。したがって、動作制御部9は、第1研磨条件および第2研磨条件を組み合わせてウェハWを研磨することにより、ウェハWの最外周の膜厚の均一性を向上させることができる。
【0066】
図9は、研磨対象のウェハを研磨する工程の一例を示す図である。図9のステップS201に示すように、動作制御部9は、第1研磨条件でウェハWを研磨する(第1研磨工程)。その後、動作制御部9は、所定の切り替え条件を満たしたか否かを判断し(ステップS202参照)、切り替え条件を満たしていない場合(ステップS202の「No」参照)、ステップS201を継続する。切り替え条件を満たした場合(ステップS202の「Yes」参照)、動作制御部9は、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えて(ステップS203参照)、第2研磨条件でウェハWを研磨する(第2研磨工程)。
【0067】
ウェハWの最外周(すなわち、特定領域)の残りの膜厚のばらつき(より具体的には、膜厚の最大値と最小値との差)があまりにも大きい状態で、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えても、ウェハWの最外周の膜厚のばらつきが解消されないおそれがある。そこで、動作制御部9は、上記切り替え条件として、第1研磨条件下でのウェハWの研磨中におけるウェハWの最外周の膜厚の最大値と最小値との差(いわゆる、残膜レンジ)が所定のしきい値を超えて大きくなった場合に、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい(第1切り替え条件)。
【0068】
特定の圧力室に対応するウェハWの特定領域内における膜厚のばらつきが大きい場合、特定の圧力室の圧力を調整しても、膜厚のばらつきを解消することができないおそれがある。そこで、上述した実施形態では、動作制御部9は、第1研磨条件下でのウェハWの残膜レンジが所定のしきい値を超えて大きくなった場合に、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替える。
【0069】
残りの研磨時間があまりにも短い状態で、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えても、ウェハWの特定領域の膜厚のばらつきが解消されないおそれがある。そこで、動作制御部9は、上記切り替え条件として、ウェハWの最外周の膜厚の最大値と最小値との差を、第2研磨条件で研磨することにより解消するために必要な時間と、最終目標膜厚までの残りの研磨時間に基づいて、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい(第2切り替え条件)。
【0070】
第2研磨条件下でウェハWを研磨した場合における研磨レートは、第2研磨条件を決定する過程により予め分かっている。したがって、動作制御部9は、第2研磨条件下でウェハWを研磨した場合、第1研磨条件下でのウェハWの研磨中におけるウェハWの残膜レンジを低減(解消)するために必要な時間を算出することができる。そこで、一実施形態では、動作制御部9は、第2研磨条件下での必要研磨時間が所定の残り時間に到達し、あるいは近づいた場合に、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい。所定の残り時間は、例えば、切り替えタイミング以降に第2研磨条件下でウェハWを研磨した場合にウェハWの膜厚が最終目標膜厚になるまでに必要な時間と同一である。
【0071】
より具体的には、動作制御部9は、第1研磨条件下でのウェハWの研磨中において、ウェハWの残膜レンジを第2研磨条件で低減するために必要な時間(すなわち、上記必要研磨時間)と、残りの研磨時間(すなわち、上記残り時間)と、を算出する。残りの研磨時間は、次の計算式に基づいて算出される。残りの研磨時間=(ウェハWの現在の膜厚-ウェハWの目標膜厚)/第2研磨条件による想定研磨レート
【0072】
必要研磨時間が残り時間よりも小さい場合(必要研磨時間<<残り時間)、第2研磨条件での研磨時間が長くなり、ウェハWの残膜プロファイルが悪くなってしまう。必要研磨時間と残り時間が同一である場合(必要研磨時間=残り時間)、ウェハWの残膜レンジが解消され、ウェハWの膜厚が目標膜厚に到達する(理想的な状態)。必要研磨時間が残り時間よりも大きい場合(必要研磨時間>残り時間)、残膜レンジが解消される前に、ウェハWの膜厚が目標膜厚になってしまい、残膜レンジが解消しきれない。このまま研磨を継続することにより、過研磨になってしまう。そこで、動作制御部9は、必要研磨時間と残り時間とが同一である場合に、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えることが望ましい。
【0073】
第2切り替え条件によれば、トータルの研磨量に違いがあったときに、第1研磨条件による研磨で許容できる残膜レンジを変更することができるので、例えば、ウェハWの初期膜厚に違いがあったときに、それに応じた最適化が可能になる。なお、「最終目標膜厚になるまでに必要な時間」とは、ウェハW上の膜を除去する研磨の場合には、最終目標膜厚がゼロ、すなわち、余分な膜をクリアするために必要な時間を意味する。
【0074】
一実施形態では、動作制御部9は、第1切り替え条件および第2切り替え条件に基づいて、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい。一実施形態では、動作制御部9は、ウェハWの全体の平均膜厚が所定の膜厚になった場合に、研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい。一実施形態では、動作制御部9は、ウェハWの研磨時間が所定の研磨時間に到達した場合に研磨条件を第1研磨条件から第2研磨条件に切り替えてもよい。
【0075】
動作制御部9は、図9のステップS203を実行した後、ウェハWの全体の平均膜厚が目標膜厚に到達するか、またはウェハW上に形成された材料が異材料との界面に到達したことを示す終点検出信号を膜厚センサ40から受けることにより(ステップS204の「Yes」参照)、ウェハWの研磨を終了する(ステップS205参照)。終点検出信号を受けていない場合(ステップS204の「No」参照)、動作制御部9は、第2研磨条件でのウェハWの研磨を継続する。動作制御部9は、終点検出信号を受信した際に、特定領域内における残膜レンジが所定値以下になっていない場合、第2研磨条件下でのウェハWの研磨を継続してもよい。また、動作制御部9は、終点検出信号を受信した際に、特定領域内における残膜レンジが所定値以下になっていない場合、アラームを発してもよい。
【0076】
上述した実施形態において、研磨ヘッド1は複数の圧力室(エアバッグ)を有するが、ウェハWを押圧するための押圧要素はこれに限らない。ウェハWに同一の圧力を付与する押圧要素がウェハWの半径方向に複数配列されている場合、本発明の技術的思想は適用可能である。押圧要素としては、例えば圧電素子が挙げられる。
【0077】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0078】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 研磨液供給ノズル
6 テーブルモータ
7 光学センサヘッド
9 動作制御部
9a 記憶装置
9b 演算装置
10 ヘッドシャフト
21 ヘッド本体
25 ロータリージョイント
40 膜厚センサ
44 光源
47 分光器
60 リテーナリング
60a 下面
60b 上面
62 ドライブリング
65 弾性膜
65a 基板押圧面
70 中央圧力室
71 中間圧力室
72 中間圧力室
73 エッジ圧力室
80 リテーナリング押圧装置
81 ピストン
82 ローリングダイヤフラム
83 リテーナリング圧力室
170 膜厚測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9