(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】水溶性の雄型成形面ファスナーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20241120BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241120BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20241120BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241120BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A44B18/00
C08L29/04
C08L71/02
C08K3/34
B29C59/04 Z
(21)【出願番号】P 2022503371
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007542
(87)【国際公開番号】W WO2021172566
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2020031302
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宣広
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-313218(JP,A)
【文献】特開平06-220287(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159756(WO,A1)
【文献】特開平11-181306(JP,A)
【文献】特開平7-276372(JP,A)
【文献】特開2020-89424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
C08L 29/04
C08L 71/02
C08K 3/34
B29C 59/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体およびその表面から突出する複数の雄型係合素子を有し、以下の(1)
、(2)、(3)及び(Z)を満足している水溶性雄型成形面ファスナー。
(1)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状、あるいは各雄型係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有していること、
(2)基体および雄型係合素子が、ともに、ポリビニルアルコールと多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体と層状無機粒子の混合物からなり、
ここでポリビニルアルコールは酢酸ビニルの単独重合体の鹸化物であり、それらの混合割合が、該ポリビニルアルコール100質量部に対して該多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体が5~30質量部の範囲、層状無機粒子が3~20質量部の範囲であること、
(3)
前記ポリビニルアルコールが、重合度300~700で、鹸化度60~80モル%のものであること、
(Z)前記多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体がポリエチレングリコールであり、その数平均分子量300~700であること、
【請求項2】
雄型係合素子が、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが1.2mm以下であり、雄型係合素子が、その途中で列方向の前後に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが0.6mm以下である請求項1に記載の水溶性雄型成形面ファスナー。
【請求項3】
層状無機粒子がタルクである請求項1または
2のいずれかに記載の水溶性雄型成形面ファスナー。
【請求項4】
水溶性雄型成形面ファスナーが、25℃の水に20分以内に完全溶解する水溶性を有している請求項1~
3のいずれかに記載の水溶性雄型成形面ファスナー。
【請求項5】
雄型係合素子の98%以上が、途中で途切れることなく、基体表面に近づく方向を向いている先端部を有している請求項1~
4のいずれかに記載の水溶性雄型成形面ファスナー。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の水溶性雄型成形面ファスナーと水溶性繊維からなる水溶性ループ面ファスナーとの組み合わせ。
【請求項7】
水溶性ループ面ファスナーが、ポリビニルアルコール系繊維からなる不織布または織編物であり、その表面に前記ポリビニルアルコール系繊維と同一種の繊維からなるループが存在している請求項
6に記載の組み合わせ。
【請求項8】
下記(A)を満足している金属ロールの表面に下記
(4)、(5)及び(Z)を満足する混合物の溶融物を流すとともに同金属ロール表面に穿孔した雄型係合素子形状のキャビティ内に同溶融物を圧入し、その状態で同溶融物を冷却固化させた後、金属ロール表面から剥離するとともにキャビティから引き抜く水溶性雄型成形面ファスナーの製造方法。
(A)金属ロールが、雄型係合素子形状のキャビティを外円周上に複数彫った薄いリング状金型を重ね合わせたものであり、その金属ロールの表面に、複数の雄型係合素子用キャビティが該ロールの円周方向に列をなして並んでおり、各キャビティは、途中でキャビティの列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている、あるいは途中で二股に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいていること、
(4)ポリビニルアルコールと多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体と層状無機粒子の混合物からなり、
ここでポリビニルアルコールは酢酸ビニルの単独重合体の鹸化物であり、それらの混合割合が、該ポリビニルアルコール100質量部に対して該多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体が5~30質量部の範囲、層状無機粒子が3~20質量部の範囲であること、
(5)前記ポリビニルアルコールが、重合度300~700で、鹸化度60~80モル%の範囲のものであること、
(Z)前記多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体がポリエチレングリコールであり、その数平均分子量300~700であること、
【請求項9】
キャビティが、途中でキャビティの列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている形状を有している場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで1.2mm以下、あるいはキャビティが途中で二股に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている形状を有している場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで0.6mm以下である請求項
8に記載の水溶性雄型成形面ファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に雄型係合素子を有する水溶性の雄型成形面ファスナーおよびその製造方法、並びに同水溶性雄型成形面ファスナーと係合可能な水溶性ループ面ファスナーとの組み合わせに関する。詳しくは、常温の水に速やかに溶解して係合力を消失する水溶性の雄型面ファスナーであって、その雄型係合素子が柔軟で、係合素子に折れや基体に亀裂を生じておらず、しかも高い係合力を有し、さらに表面のべとつきが抑えられた水溶性の雄型成形面ファスナーおよびその製造方法、並びに同水溶性雄型成形面ファスナーと係合可能な水溶性ループ面ファスナーとの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物体の表面に対象物を取り付ける手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック型やキノコ型の雄型係合素子を有する雄型面ファスナーを取り付けるとともに、もう一方の表面にループ型係合素子を有するループ面ファスナーを取り付けて、そして両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、物体の表面に対象物を固定する方法が用いられており、係合・剥離を繰り返すことにより着脱を何回でもできることや取り付け位置が正確でなかった場合などには剥離して容易に位置調整が可能であることから取り付け手段として重宝がられている。
【0003】
近年、生理用品を肌着に固定するのに、あるいは使い捨ておむつの腰部固定に、このような面ファスナーが用いられており、もし、面ファスナーが水溶性を有するものであったら、生理用品や使い捨ておむつを水解性の不織布等とすることにより、使用後の生理用品や使い捨ておむつをそのまま水洗トイレに流すことができることとなる。また、面ファスナーで縛り付けた物品を水中に投下することにより、面ファスナーによる締結状態が消失して、物品が水中や水面上に広がることにより用を為すような用途もあり、このような用途に用いられる面ファスナーとして、水に触れると速やかに溶解するものであるならば更
に用途範囲が拡大することが期待される。
【0004】
さらに面ファスナーを構成する雄型面ファスナーとループ面ファスナーがともに水溶性であるならば、水に溶解して係合力が消失する速度を更に高めることができ、しかもこのような面ファスナーを構成する樹脂が溶解後に生分解する樹脂であるならば、環境にも優しいこととなり、社会のニーズに合致することとなる。
【0005】
このような要望から、面ファスナーとして水溶解速度の速いものが求められているが、面ファスナーのうち、ループ型係合素子を有するループ面ファスナーに関しては、表面にループ状繊維を有する水解性の不織布を用いることにより容易に得られるが、雄型係合素子を有する雄型面ファスナーに関しては、常温水に速やかに溶解し、かつ十分な係合力を有するものが得られ難く、現時点では、要望に沿うような水溶性の雄型面ファスナーは市販されていない。また水解性の不織布よりも速やかに係合力を消失することとなる水溶性繊維からなるループ面ファスナーに関しても未だ市販されていない。
【0006】
しかしながら、以前から水溶性の雄型面ファスナーを得ようという試みは為されている。例えば、特許文献1には、水溶性の雄型面ファスナーとして、水溶性ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂からなる成形雄型面ファスナーが記載されている。しかしながら、同文献には、具体的な水溶性ポリビニルアルコールについて記載がない。
【0007】
ポリビニルアルコールと言う樹脂は、湿式紡糸や乾式紡糸により強度等の物性に優れた繊維が得られるという特長を有する反面、溶融成形の場合には、ポリビニルアルコールは分解温度と溶融温度が極めて近く、溶融成形するために単にポリビニルアルコールを溶融させるべく加熱しても溶融する前に分解やゲル化を生じ、溶融成形できず、所望の成形物が得られないという大きな問題点を有している。特に、成形物が雄型係合素子のように小さいものである場合には、分解やゲル化の問題が大きく、基体のフィルム層は得られても、その表面に多数の雄型係合素子が途中で折れることなく、先端部まで伸びているような雄型成形面ファスナーは得られ難い。
【0008】
また特許文献2には、使い捨て製品に好適に使用できる水溶性の成形面ファスナーとして、ビニルアルコールとアリルアルコールの共重合体にポリオキシアルキレンをグラフト重合した水溶性樹脂を用いることが記載されている。しかしながら、このような複雑な共重合された水溶性樹脂は、現在、販売されておらず容易に入手できるものではなく、さらにこの複雑な共重合樹脂に類似した樹脂を用いて雄型成形面ファスナーを製造したところ、成形性が必ずしも満足できるものではなく、細かい雄型係合素子の場合には、その先端部まで伸びた係合素子を得ることが難しく、また得られる成形物の硬度が高く、係合素子が小さいと容易に折れること、さらに得られた雄型成形面ファスナーの表面がべとつき易く、使用し難いものであった。現に、特許文献2に記載されているような樹脂からなる水溶性の雄型成形面ファスナーは、製造販売されていない。
【0009】
また、上記特許文献1に水溶性の雄型面ファスナーとして、水溶性繊維からなる織物系の面ファスナーも記載されているが、織物系の面ファスナーの場合には、雄型係合素子はモノフィラメントからなるフック形状を有するものであるが、水溶性のポリビニルアルコールからなるモノフィラメントの場合には熱セット性に劣り、その結果、軽い係合により容易にフック形状が伸びて係合が外れ、十分な係合力が得られない。それを防ぐために高い熱セット性を有するポリビニルアルコールを使用すると、得られる面ファスナーは常温水に溶解しないものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-325939号公報
【文献】特開平09-313218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、常温水に速やかに溶解する雄型成形面ファスナーであって、雄型係合素子が柔軟で、成形に使用した樹脂が成形中にゲル化や分解を生じることが抑制されており、その結果、雄型係合素子の折れや基体層に亀裂等を殆ど生じておらず、しかも高い係合力を有し、さらに表面のべとつきが抑えられた水溶性の雄型成形面ファスナーその製造方法を提供することおよび同水溶性雄型成形面ファスナーと係合可能な水溶性ループ面ファスナーとの組み合わせを提供することを目的とするものである。そして好ましくは、水溶性雄型成形面ファスナーが、成形性に劣る小型の雄型係合素子を有するものであっても、上記した性能が殆ど劣ることがない水溶性の雄型成形面ファスナーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、基体およびその表面から突出する複数の雄型係合素子を有し、以下の(1)、(2)、(3)及び(Z)を満足している水溶性雄型成形面ファスナーである。
(1)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状、あるいは各雄型係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有していること、
(2)基体および雄型係合素子が、ともに、ポリビニルアルコールと多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体と層状無機粒子の混合物からなり、ここでポリビニルアルコールは酢酸ビニルの単独重合体の鹸化物であり、それらの混合割合が、該ポリビニルアルコール100質量部に対して該多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体が5~30質量部の範囲、層状無機粒子が3~20質量部の範囲であること、
(3)前記ポリビニルアルコールが、重合度300~700で、鹸化度60~80モル%のものであること、
(Z)前記多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体がポリエチレングリコールであり、その数平均分子量300~700であること、
【0013】
そして、好ましくは、このような水溶性雄型成形面ファスナーにおいて、雄型係合素子が、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが1.2mm以下であり、雄型係合素子が、その途中で列方向の前後に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが0.6mm以下である場合である。
【0014】
また好ましくは、上記した水溶性雄型成形面ファスナーにおいて、多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体がポリエチレングリコールであり、その数平均分子量300~700のものである場合であり、また層状無機粒子がタルクである場合であり、また上記した水溶性雄型成形面ファスナーが、25℃の水に20分以内に完全溶解する水溶性を有している場合、そして雄型係合素子の98%以上が、途中で途切れることなく、基体表面に近づく方向を向いている先端部を有している場合である。
【0015】
さらに本発明は、上記の水溶性雄型成形面ファスナーと水溶性繊維からなる水溶性ループ面ファスナーとの組み合わせであり、好ましくはこのような組み合わせにおいて、水溶性ループ面ファスナーがポリビニルアルコール系繊維からなる不織布であり、その表面に同繊維からなるループが存在している場合である。
【0016】
そして本発明は、下記(A)を満足している金属ロールの表面に下記(4)、(5)及び(Z)を満足する混合物の溶融物を流すとともに同金属ロール表面に穿孔した雄型係合素子形状のキャビティ内に同溶融物を圧入し、その状態で同溶融物を冷却固化させた後、金属ロール表面から剥離するとともにキャビティから引き抜く水溶性雄型成形面ファスナーの製造方法。
(A)金属ロールが、雄型係合素子形状のキャビティを外円周上に複数彫った薄いリング状金型を重ね合わせたものであり、その金属ロールの表面に、複数の雄型係合素子用キャビティが該ロールの円周方向に列をなして並んでおり、各キャビティは、途中でキャビティの列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている、あるいは途中で二股に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいていること、
(4)ポリビニルアルコールと多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体と層状無機粒子の混合物からなり、ここでポリビニルアルコールは酢酸ビニルの単独重合体の鹸化物であり、それらの混合割合が、該ポリビニルアルコール100質量部に対して該多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体が5~30質量部の範囲、層状無機粒子が3~20質量部の範囲であること、
(5)前記ポリビニルアルコールが、重合度300~700で、鹸化度60~80モル%の範囲のものであること、
(Z)前記多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体がポリエチレングリコールであり、その数平均分子量300~700であること、
【0017】
そして好ましくは、このような水溶性雄型成形面ファスナーの製造方法において、キャビティが、途中でキャビティの列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている形状を有している場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで1.2mm以下、あるいはキャビティが途中で二股に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、その先端部は金属ロール表面に近づいている形状を有している場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで0.6mm以下である場合である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、成形に使用する樹脂組成物が、特殊なポリビニルアルコールと多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体および層状無機粒子からなり、かつこれらが特定の量比で混合されている。このような特殊な樹脂組成物を使用することにより、常温水に速やかに溶解できる水溶性の雄型成形面ファスナーが得られることとなる。しかも、このような特殊な樹脂組成物は、溶融成形条件でゲル化や分解を生じることが殆どなく、さらに成形性に優れ、その結果、成形中に雄型係合素子の折れや基体層に亀裂等を殆ど生じない。さらに得られた雄型成形面ファスナーは柔軟であり、この点でも雄型係合素子に折れや基体層に亀裂が生じ難い。そして、本発明で得られる成形面ファスナーは、添加されている層状無機粒子が成形性を高めるとともに面ファスナー表面のべたつきを抑制でき、湿度の高い環境でも問題なく使用できることとなる。
【0019】
しかも本発明の雄型成形面ファスナーでは、上記したような金属ロールの表面に上記した特殊な樹脂組成物の溶融物を流すとともに同金属ロール表面に列をなして穿孔した雄型係合素子形状のキャビティ内に同溶融物を圧入し、その状態で同溶融物を冷却固化させた後、金属ロール表面から剥離するとともにキャビティから引き抜く方法を用いるものであり、その結果、得られる水溶性雄型成形面ファスナーは、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(以後、この形状を逆J字型と称する場合がある)、あるいは各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(以後、この形状をY字型と称する場合がある)を有している雄型係合素子を複数有している。
【0020】
このような雄型係合素子は曲がっている方向が統一されており、係合相手からの係合素子列方向の引っ張りに対して共働で抵抗するため、折れ難く、他の雄型成形面ファスナーのように、係合素子のヘッド部(係合用膨頭部)が係合素子列と交わる方向に伸びている場合やステムの先端部が傘状に広がっている場合などと比べて高い係合力が得られ易い。特に本発明において、雄型係合素子の高さが低い場合には、雄型係合素子が柔軟であることと合わせて、生理用品のように肌に接し易い部分に取り付けても異物感を抑制できるとともに肌に触れても肌荒れを起こし難く、しかも溶解に要する時間をより短縮できる。
【0021】
さらに本発明の水溶性雄型成形面ファスナーを構成しているポリビニルアルコール、多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体および層状無機粒子は、いずれも人の肌に接する用途の多量に用いられていることから、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーも人体に害を与え難い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の水溶性雄型成形面ファスナーの一例の斜視図である。
【
図2】本発明の水溶性雄型成形面ファスナーの他の一例の斜視図である。
【
図3】本発明の水溶性雄型成形面ファスナーの一例の表面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーについて、さらにその製造方法について詳細に説明する。まず本発明の水溶性雄型成形面ファスナーは、前記したように、特殊なポリビニルアルコール樹脂、多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体および層状無機粒子からなる。
【0024】
このうち、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す。)は、その重合度、すなわち粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する。)が300~700の範囲であらねばならない。重合度が300未満の場合得られる雄型成形面ファスナーの雄型係合素子の強度が低下し、逆に重合度が700を越える場合溶融粘度が高くなり成形性が低下してゲル化を生じ易く、キャビティの先端まで溶融樹脂が到達できず、その結果、先端まで伸びた雄型係合素子を有する雄型成形面ファスナーが得られ難くなる。特に雄型係合素子が細かい形状の場合には成形性低下の影響は顕著となる。好ましくは、重合度350~600の範囲、より好ましくは370~550の範囲である。
重合度(粘度平均重合度)は、JIS K 6726:1994に準じて測定して得られる値である。具体的には、鹸化度が99.5モル%未満の場合には、鹸化度99.5モル%以上になるまで鹸化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](L/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求める。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0025】
またPVAの鹸化度は、60~80モル%の範囲であらねばならない。鹸化度が60モル%未満の場合軟らかくなり過ぎて、面ファスナーの雄型係合素子として必要な強度・弾性率が得られず、係合力が得られない。特に雄型係合素子が細かい形状の場合には顕著となる。逆に鹸化度が80モル%を越える場合には、水溶性に劣り、速やかに溶解することできず、さらに成形性が低下してゲル化を生じ易く、キャビティの端まで溶融樹脂が到達できず、先端まで伸びた雄型係合素子を有する雄型成形面ファスナーが得られ難くなる。特に雄型係合素子が細かい形状の場合にはゲル化が顕著となる。好ましくは、鹸化度が70~80モル%の範囲であり、さらに好ましくは72~78モル%の範囲である。
鹸化度はJIS K6726:1994に準じて測定して得られる値である。
【0026】
このようなPVAの製法には関しては特に制限はないが、一般にはポリ酢酸ビニルの加水分解あるいはアルコリシスによって製造され、本発明においても、好ましくは酢酸ビニルの単独重合体の鹸化物である場合である。もちろんPVAの水溶性や成形性等を大きく損なわない範囲で、他のビニル単量体、例えばギ酸ビニル,酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等、さらにその他のα-オレフィン等が少量共重合されていてもよく、さらに重合体の末端を修飾したものも使用できる。そして、ポリ酢酸ビニルの重合方法としては、溶液重合、バルク重合、パール重合、乳化重合等が挙げられる。
【0027】
次に、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーを構成する原料として用いられる多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合体について説明する。
多価アルコールとしては3価以上の脂肪族アルコールで、具体例としてはグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられ、そのアルコール基にはエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加していてもよい。なかでもグリセリンとソルビトールに2~10モルのエチレンオキサイドが付加した物質がPVAの可塑化効果が高いことから好ましい。
またエチレンオキサイド系重合物の具体例としてポリエチレングリコールが挙げられ、特にブリードアウトし難いと言う点で、また面ファスナーの形成時に気化することが少なく、したがって職場環境の悪化を招かない点でポリエチレングリコールは数平均分子量が300~700という低重合体のものが、前記した多価アルコールまたはエチレンオキサイド系重合物のなかで最も好ましい。
このような数平均分子量の低いポリエチレングリコールを用いることにより、PVAの成形性を高め、さらに得られる雄型成形面ファスナーを柔軟なものとする。逆に数平均分子量が300以上であれば、得られる雄型成形面ファスナーの表面にポリエチレングリコールがブリードアウトし難く、表面がべとつき難い。また、700以下であれば、成形性がより優れるものとなる。より好ましくは数平均分子量350~500の範囲、特に好ましくは370~450の範囲のポリエチレングリコールである。
ポリエチレングリコールには少量のアルキレンオキサイド、例えばプロピレンオキサイドなどが共重合されていてもよい。
本発明におけるポリエチレングリコール類の数平均分子量は、下記のようにして測定した値である。測定対象のポリエチレングリコール試料1g(0.1mgの桁まで秤量)を、共栓付きフラスコで正確に秤量した無水フタルピリジン溶液25mL中に入れ、共栓をして沸騰水浴中で2時間加熱した後、室温になるまで放置する。その後、このフラスコに0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液50mL(正確に秤量する)及び滴定用フェノールフタレイン溶液10滴を入れる。このフラスコ中の液体を、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定を行い、液体が15秒間紅色を保つ点を終点とする。このようにして得られた本試験の滴定量M(mL)と、ポリエチレングリコール試料を用いない以外は上記と同様にして行った空試験により得られた滴定量R(mL)から、数平均分子量={(ポリエチレングリコール試料の採取量(g))×4000}/{(M-R)×0.5(mol/L)}より算出する。
【0028】
このような多価アルコールまたはエチレンオキサイド付加重合物(これら化合物を代表してポリエチレングリコール類と称する場合もある。)の添加量としてはPVA100質量部に対して5~30質量部の範囲である。5質量部未満の場合には、ポリエチレングリコールの添加効果、すなわち成形性の改善と成形品の柔軟性が得られず、30質量部を越える場合には、得られる雄型成形面ファスナーの表面にポリエチレングリコールがブリードアウトして、表面がべたつくこととなり、さらに得られる雄型成形面ファスナーの雄型係合素子が充分な強度を有さないこととなる。好ましくは7~25質量部の範囲、特に好ましくは8~23質量部の範囲である。
【0029】
そして、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーを構成する原料には層状無機粒子が添加されている。層状無機粒子は、得られる雄型成形面ファスナーの表面のべとつきを軽減し、さらに成形の際の樹脂の流れ方向に平行に層が並ぶことから、固形物添加にも拘らず溶融液の流れ性を大きく損なうことなく、得られた成形物に優れた強度等を与えることとなる。
しかも、金属ロール表面に穿孔した雄型係合素子形状のキャビティ内に樹脂溶融物を圧入し、その状態で同溶融物を冷却固化させた後、金属ロール表面から剥離する方法で雄型係合素子を製造する場合に、溶融樹脂の流れ方向に平行に溶融樹脂に添加した層状無機粒子の層面が並び、その結果、キャビティから冷却固化した雄型係合素子を引き抜く際に、雄型係合素子がキャビティ途中で折れたり引きちぎられたり、亀裂が入ることを阻止できるとともに、得られた雄型面ファスナーの雄型係合素子をループ状係合素子と係合させて剥離する際にも、雄型係合素子が折れたり、引きちぎられたりすることを阻止することができる。さらに、成形物の表面に平行に層状無機粒子の層面が並ぶことから、成形物内部から成形物表面にポリエチレングリコール類がブリードアウトすることを阻止し易い。一方、無機粒子が針状または粒状の形状を有している場合には、層状無機粒子ほどもブリードアウトを阻止し難い。
【0030】
具体的な層状無機粒子としては、カオリン、ハロイサイト、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、マイカなどが挙げられ、なかでもタルクが好ましい。タルクは、含水珪酸マグネシウムの粉砕物であって、雄型成形面ファスナーを成形する際の成形性を高め、また得られる雄型係合素子の強度を高め、さらに得られた雄型成形面ファスナーの表面をべとつかないものとする効果を有する。
【0031】
すなわち本発明の雄型成形面ファスナーは金型のキャビティから雄型係合素子を引き抜くことにより製造されるが、引き抜く際に、キャビティの途中で雄型係合素子が引きちぎられるのを防ぐことでき、また成形後の雄型係合素子が使用中に引きちぎられるのを防ぐことができ、さらに得られた雄型成形面ファスナーの表面が高湿度条件下でもべとつかなくするという特長を有する。このような層状無機粒子の平均粒子径としては0.1~100μmの範囲、特に1~20μmの範囲の粒子が好ましい。ここで言う「平均粒子径」とは、50%粒径(D50)を指し、レーザードップラー法を応用した粒度分布測定装置(日機装(株)製、ナノトラック(登録商標)粒度分布測定装置UPA-EX150)等により測定できる。
【0032】
そして、このような層状無機粒子の添加量は、PVA100質量部に対して、3~20質量部である。添加量が3質量部未満の場合には、上記したような層状無機粒子添加効果が得られず、逆に20質量部を越える場合には、樹脂の流動性を低下させ、成形性を損なうこととなる。好ましくは、4~15質量部の範囲であり、かつ上記ポリエチレングリコール類の添加量の1/3~2/3の範囲内である場合であり、特に好ましくは5~12質量部の範囲であり、かつ上記ポリエチレングリコール類の添加量の2/5~3/5の範囲内である。
【0033】
本発明の雄型成形面ファスナーは上記したようなPVA、ポリエチレングリコール類および層状無機粒子からなるが、これら以外に、成形性を損なわずかつ得られる雄型成形面ファスナーの強度や水溶解性等を損なわない範囲で他の物質が添加されていてもよい。例えば、顔料や染料等の着色剤が含有されていることにより、面ファスナーが水に溶解していく状態が容易に目視できることとなる。また補強用の充填材も添加できる。
雄型成形面ファスナーを構成する材料中における、PVA、ポリエチレングリコール類および層状無機粒子の合計は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%、さらに好ましくは95質量%以上、例えば100質量%である。
【0034】
次にこのようなPVA系の水溶性樹脂混合物から雄型成形面ファスナーを成形する方法について説明する。本発明の水溶性雄型成形面ファスナーを製造する具体的な方法としては、雄型係合素子形状のキャビティを表面に複数設けた金属ロールの表面に樹脂の溶融液をシート状に流すとともに該キャビティ内に該溶融液を圧入させ、冷却固化後に金属ロール面から剥がすと同時にキャビティからも引き抜いて、表面に雄型係合素子を複数有するシートを製造する方法が用いられる。
【0035】
このキャビティから引き抜く製造方法をより詳細に具体的に説明すると、逆J字型またはY字型等の雄型係合素子の形状の切込みを外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型とそのような形状の切込みに彫っていない金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面に雄型係合素子形状の切込みを有するキャビティを複数有する金型ロールを用意する。
【0036】
なお、逆J字型のように、係合できる方向が一方向の雄型係合素子の場合には、上記逆J字型形状と逆の方向に曲がっている逆J字型形状の切込みを外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型で、上記逆J字型切込みを有するリング状金型の半数を置き換えるのが好ましい。その際には、逆方向に曲がっている逆J字型のリング状金型と正方向に曲がっている逆J字型のリング状金型を交互に存在させてもよいし、さらに2枚以上の複数枚単位で交互に存在させてもよい。
【0037】
このような金属ロールは、その表面に、同ロール円周方向に曲がっている複数のキャビティが円周方向に列をなして並んでおり、更にそのような列が金属ロール幅方向に複数列平行に存在しており、逆J字型の場合にはキャビティの曲がっている方向が1列単位であるいは複数列単位で逆となっている。その際に、逆J字型の場合であってもY字型の場合であっても、該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に曲がり、先端部は金属ロール面に近づく方向を向いている。
【0038】
金属ロール表面に溶融した樹脂を流し成形する具体的な方法としては、この金属ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に樹脂溶融物を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内に同溶融物を圧入充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内を常時循環させている冷媒によりキャビティ内の同溶融物を冷却固化させるとともに、得られる雄型成形面ファスナーの基体が均一厚さとなるように隙間調整したニップローラーにより引き延ばし、そして冷却されたシートを金型ロール表面から引き剥がすとともに、該キャビティから雄型係合素子を引き抜く。これにより、表面に複数の雄型係合素子を有するシート状物、すなわち雄型成形面ファスナーが得られる。
【0039】
このような方法で得られた本発明の水溶性の雄型成形面ファスナーは、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型)、あるいは各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(Y字型)を有している。
このような形状を有していることにより、雄型係合素子が上からの圧力に対して倒れ難く、また係合相手のループ状係合素子からの係合素子列方向の引張力に対して複数の雄型係合素子が協同して対抗することから、高い係合力が得られる。
【0040】
なお、本発明において、雄型係合素子は基体表面から直接立ち上がっていてもよいが、基板表面に形成した畝状膨らみ部から立ち上がっていてもよい。このように雄型係合素子が畝状膨らみ部から立ち上がっている場合には、水に溶解する速度が高まり好ましい。畝状膨らみ部の高さとしては、基体表面から基体厚さの1/20~1/3の範囲が好ましい。雄型係合素子が畝状膨らみ部から立ち上がっているようにするためには、前記したキャビティ付のリング状金型を隣接するキャビティなしのリング状金型よりも径を僅かに小さくする、あるいはキャビティ付のリング状金型の中心を隣接するリング状金型の中心からずらす等の方法が挙げられる。なお、全ての雄型係合素子が畝状膨らみ部から立ち上がっている必要はなく、一部であってもそれなりの効果は得られる。
【0041】
図1に示す雄型成形面ファスナーは、複数の雄型係合素子(1)が列をなして並んでおり、各係合素子は基体(2)表面から立ち上がり、その途中から列方向(T)に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型形状)を有している場合であり、
図2に示す雄型成形面ファスナーは、複数の雄型係合素子(1)が列をなして並んでおり、各係合素子は基体(2)表面から立ち上がり、その途中で列方向(T)の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(Y字型形状)を有している場合である。
【0042】
特に本発明において、雄型係合素子が、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型形状)を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが1.2mm以下であるのが好ましく、また雄型係合素子が、その途中で列方向の前後に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(Y字型形状)を有している場合には、雄型係合素子の基体表面から雄型係合素子の頂部までの高さが0.6mm以下であるのが好ましい。
【0043】
一般に雄型成形面ファスナーの雄型係合素子の高さとしては1.5mm以上であることが多く、通常は2~3mm程度の高さを有しているが、本発明ではこのような従来の一般的な高さよりも低い、1.2mm以下あるいは0.6mm以下の高さのものが、水溶性の点で、さらに用途の点で好ましい。
このように雄型係合素子の高さが低い場合には、雄型係合素子が柔軟であることと合わせて、生理用品のように肌に接し易い部分に取り付けても異物感を抑制できるとともに肌に触れても肌荒れを起こし難く、しかも溶解に要する時間をより一層短縮できることとなる。
雄型係合素子の高さの下限値には特に制限は無いが、例えば0.1mmであり、0.2mmであってもよく、0.4mmであってもよい。雄型係合素子が逆J字型形状である場合、雄型係合素子の高さの下限値は、例えば0.4であり、0.6であってもよく、0.8mmであってもよい。
【0044】
このような背の低い雄型係合素子を得るためには、キャビティが金属ロール表面から深く彫りこまれていないものを用いることにより得られ、具体的には、雄型係合素子が、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型形状)を有しているものを製造する場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで1.2mm以下であるものを使用し、また雄型係合素子が、その途中で列方向の前後に分かれてそれぞれ列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(Y字型形状)を有しているものを製造する場合には、キャビティの金属ロール表面からの深さがもっとも深いところで0.6mm以下であるものを使用することにより容易に得られる。
【0045】
そして、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーにおいて、基体層の厚さとしては0.15~0.3mmの範囲が、速やかな水溶解性と面ファスナー強度の点で好ましい。また本発明の水溶性雄型成形面ファスナーにおいて、雄型係合素子の素子密度としては、60~160本/cm2が好ましい。
【0046】
そして、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーは、裏面に同様の水溶性雄型成形面ファスナーを熱圧着により、あるいは水溶性接着剤等により貼り合わせて、表裏両面に雄型係合素子を有する両面面ファスナーとしてもよいし、また成形の際に裏面側にも雄型係合素子が存在するように裏面側の金属ロールの表面にもキャビティを有するものを用いて裏面にも雄型係合素子が存在するようにして、表裏両面に雄型係合素子を有する両面面ファスナーとしてもよい。さらにループ繊維を表面に有する水解性の不織布などを同様に裏面側に一体化して、表面に雄型係合素子、裏面にループ状係合素子を有する水溶性の面ファスナーとすることもできる。
【0047】
このようにして得られた本発明の水溶性雄型成形面ファスナーは、25℃の水に20分以内に完全溶解する水溶性を有している。また同様に、本発明の水溶性雄型成形面ファスナーは、好ましくはその表面に存在している雄型係合素子の98%以上が、途中で途切れることなく、基体表面に近づく方向を向いている先端部を有している。
【0048】
本発明の水溶性雄型成形面ファスナーは、水に触れることにより溶解して係合能を消失し、さらに水溶性雄型成形面ファスナー自体が完全溶解して存在しなくなることから、係合相手となるループ面ファスナーも水溶性である必要はないが、必要により係合相手も水溶性であることにより、全ての面ファスナーの存在そのものをなくすることも可能である。
【0049】
このような係合相手として用いられる水溶性のループ面ファスナーとしては、常温水に溶解可能な水溶性繊維からなるものが挙げられ、特に水溶性繊維としてはPVA系のものが、優れた引張強度を有していることや取り扱い性に優れていることから好ましい。例えば(株)クラレから販売されている、鹸化度が85~90モル%で重合度が1500~2000のPVAをジメチルスルホオキシドに溶解した紡糸原液をメタノール浴中に乾湿式または湿式紡糸して得られる水溶性PVA系繊維(クラロンK-II(登録商標) WN2)や、鹸化度60~80モル%で重合度300~700のPVAにポリエチレングリコールやソルビトールのエチレンオキサイド付加物をブレンドして溶融紡糸することにより得られる水溶性PVA系繊維や、鹸化度85~95モル%のPVAを水に溶解した紡糸原液を飽和芒硝水溶液浴中に湿式紡糸することにより得られる水溶性PVA系繊維などが挙げられる。
【0050】
このような水溶性繊維からなるループ面ファスナーとしては、このような水溶性繊維からなる不織布や織編物の表面に同水溶性繊維からなるループを存在させたものが挙げられる。
具体的には、不織布の場合には、水溶性繊維をウェッブ化し、そしてニードルパンチ等により絡合させ、必要によりその表面を起毛することにより、その表面に同水溶性繊維からなるループを存在させた不織布が挙げられる。
【0051】
また、織編物の場合には、水溶性繊維を紡績糸とし、この紡績糸を経糸および緯糸として織物を作製し、さらにこのような紡績糸を経糸に平行に織物に織り込み、所々ループ状に織物表面に突出させた織物系ループ面ファスナーや、このような水溶性繊維からなる紡績糸を用いて編物を作製し、そして編物表面を針布等により起毛して織物表面に水溶性繊維からなるループを存在させた編物系ループ面ファスナーが挙げられる。さらに水溶性繊維がマルチフィラメント糸である場合には、マルチフィラメント糸を経糸および緯糸として使用して織物を作製し、さらにループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸に平行に織り込みつつ所々ループ状に織物表面に突出させた織物系ループ面ファスナーとすることもできる。
【0052】
さらにはこのような水溶性マルチフィラメント糸をスパンボンド方式により不織布化し、その表面を起毛することにより水溶性繊維からなるループをその表面に突出させたものであってもよい。
なおループ面ファスナーの場合には、裏面や裏面の一部を熱圧着させて繊維間を固定してループ状係合素子が基布から引き抜かれないようにするのが好ましい。
ただ常温水に溶解する水溶性繊維からなるループ面ファスナーは、ループ状係合素子を構成している常温水溶性繊維が、高湿条件で粘着性を帯びたり、ループ状係合素子が基布表面から立ち上がらずに倒れて雄型係合素子と充分に係合できなかったり、さらに係合できたとしてもループ状係合素子が容易に切断されて高い係合力の面ファスナーが得られなかったり、さらに常温水に溶解する繊維は、ループ面ファスナーを製造する工程や保管する工程や流通工程において、さらにこのようなループ面ファスナーを購入した消費者も、高湿度条件に晒されないように、さらに水分と触れないように管理・保管することが求められる等の問題点を有している。
このような問題点から解放される水溶性のループ面ファスナーとして、常温水では溶解しないが、50~80℃の温水と接すると初めて溶解する水溶性繊維からなるループ面ファスナーが挙げられ、このような水溶性ループ面ファスナーは常温水溶性とは言えないが、面ファスナーを取り付けた使い捨て製品を回収して再生する際に使用する温水により溶解されることから環境問題の点からは利用価値が高い。
このような温水で溶解するループ面ファスナーの具体例としては、具体的には、水溶解温度が50~80℃の水溶性PVA系繊維からなる基布の表面から同繊維からなるループ状係合素子が立ち上がっている水溶性ループ面ファスナーが挙げられ、その好ましい例として、鹸化度90~97モル%で重合度1200~2000のPVAを前記したジメチルスルホオキシドに溶解した紡糸原液をメタノール中に湿式紡糸あるいは乾湿式紡糸して得られる水溶性PVA繊維からなる織編物や不織布の表面に同繊維からなるループからなるループ状係合素子を多数存在させたループ面ファスナー、鹸化度90~97モル%で重合度250~500、好ましくは300~450、更に好ましくは350~400でエチレンを5~10モル%、好ましくは6.5~9.5モル%、更に好ましくは7.5~9.2モル%共重合したPVA系樹脂に前記したようにポリエチレングリコールやソルビトールのエチレンオキサイド付加物をブレンドし、そして溶融紡糸して得られるマルチフィラメント糸をトリコット編地とし、表面に同マルチフィラメント糸からなるループを多数有するトリコット編地などが挙げられる。特に、上記トリコット編地が係合力の点で好ましい。
さらに、上記したような表面に雄型係合素子、裏面にループ状係合素子が存在しているように両者を接合した水溶性面ファスナーの場合であって、雄型係合素子が表面、そして雄型係合素子が存在している場所から離れた場所の裏面にループ状係合素子が存在してように両者を接合した水溶性面ファスナーの場合には、水溶性ループ面ファスナーは、それ単独でも十分な引張強度を有していること求められることから、水溶性ループ面ファスナーとしては上記したトリコット編地が好ましい。
そして、このような水溶解温度70~90℃の水溶性繊維からなるループ面ファスナーは、常温水には溶解しないが、温水には容易に溶解でき、さらに廃棄されたとしても短期間で分解されるため、環境にも優しい。
【0053】
本発明により得られた水溶性の雄型成形面ファスナーは、十分な係合力を有し、かつ速やかに常温水に溶解する性質を有しており、さらに人体に害をなすものが添加されていない。したがって、水溶性の雄型成形面ファスナー単独で、あるいは水溶性雌型面ファスナーとの組み合わせにして、生理用品を下着に固定する固定材として、また使い捨ておむつの腰部固定材として、またその他の使い捨て用品の固定材として使用できる。
また面ファスナーを固定した物品を水中に投下することにより、直ちに面ファスナーによる固定が消失して、物品が水中や水面上に広がる用途等に使用できる。例えば、タンカーや工場等より油や汚染水が海面や河川等に拡散や流出するのを遮蔽するのに使用されるオイルフェンスや遮蔽シート等の不使用時の固定や結束に、さらに、上記の表面に雄型係合素子、裏面に雌型係合素子を有する水溶性の面ファスナーの場合には、濡れることにより結束が外れることとなる自己係合性の水溶性結束テープや固定用ベルトなどとしても使用できる。
このような表面に雄型係合素子、裏面に雌型係合素子(以下、ループ状係合素子と称す)を有する水溶性の面ファスナー(以下、水溶性ループ面ファスナーと略す)は、水溶性の雄型成形面ファスナーと水溶性ループ面ファスナーを係合素子がそれぞれ外側となるように背中合わせで重ね合せて、両者を水溶性接着剤や熱圧着により所々接合したものであってもよい。あるいは表面に雄型係合素子を有する水溶性の雄型成形面ファスナーの端部に、裏面にループ状係合素子を有する水溶性ループ面ファスナーの端部を、端部以外は重ならないように、かつ雄型係合素子が存在している面が表面側、ループ状係合素子が存在している面が裏面側となるように重ね合せ、そしてこの重ね合わさった部分で両者を水溶性接着剤や熱圧着により接合して、雄型係合素子が表面、そして雄型係合素子が存在している場所から離れた場所の裏面にループ状係合素子が存在してように(すなわち雄型係合素子が存在している場所とループ状係合素子が存在している場所が背中合わせではなく、接合された場所を挟んでそこからそれぞれが遠ざかる方向に延びている)両者を接合してもよい。
【実施例】
【0054】
以下本発明を実施例により説明する。実施例中、係合力は、係合相手のループ面ファスナーとしてE40000(クラレファスニング株式会社製)を用い、JIS L3416:2000にしたがって初期係合力および10回係合剥離を繰り返した後の係合力を測定した。
また、得られた水溶性雄型成形面ファスナーの水溶解性は、水温25℃の水100ccを200mlビーカーに入れ、この水中に0.025gの水溶性雄型成形面ファスナーを入れ、攪拌下(マグネットスターラーを使用し長さ12mmの撹拌子を用い1500rpm/minの速度で攪拌)で完全溶解に要する時間を測定した。
【0055】
また得られた水溶性雄型成形面ファスナーの雄型係合素子の形状完全性に関しては、水溶性雄型成形面ファスナーの任意に選び出した雄型係合素子100本のうち、基体表面に近づく方向を向いている先端部を有することなく途中で途切れている係合素子の数を数えた。
そして、得られた水溶性雄型成形面ファスナーの柔軟性に関しては、同面ファスナーを体重60キロの男性が素足で10回踏みつけて、係合素子の状態等を観察した。
さらに、表面のべとつきの有無に関しては、得られた面ファスナーを温度30℃で湿度100%の条件に4時間放置した後に、面ファスナー表面を触れて、その触感で有無を判断した。
【0056】
実施例1
金型として、深さ0.90mmのフック型係合素子(逆J字型係合素子)の形状を外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リング、上記フック型係合素子形状と逆の方向を向いているフック型係合素子形状を外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面に逆J字型係合素子形状のキャビティおよびその逆方向を向いている係合素子形状のキャビティを表面に複数有する幅120mmの金型ロールを用意した。なお、フック型係合素子形状を外円周上に彫ったリング状金型の径をその両隣に接するリングの径よりもわずかに(後述する高さ0.03mmの畝上膨らみ部が形成される程度に)小さくした。
【0057】
上記の金型ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に、重合度500の酢酸ビニルを鹸化度74モル%に鹸化して得られたPVA100質量部に対して数平均分子量400のポリエチレングリコール20質量部およびタルク(平均粒子径:4μm)10質量部混合した組成物を190℃で溶融した溶融物を押し出し、金型ロールとドラムロールとによって圧迫することによりそのキャビティ内に該樹脂組成物を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の樹脂組成物を冷却させたのち、基体厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールにより引き延ばすとともに冷却固化されたシートを金型ロール表面から引き剥がして、水溶性雄型成形面ファスナーを製造した。
【0058】
得られた水溶性雄型成形面ファスナーは、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は基体表面に形成された畝状膨らみ部(高さ0.03mm)の上から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型)で、その高さは0.94mm、さらに素子密度は110本/cm2であった。また基体の厚さは0.21mmであった。
【0059】
得られた水溶性雄型成形面ファスナーの性能を下記の表1に示す。この表から明らかなように、水溶性、係合力、表面の係合素子の状態、柔軟性および表面のべたつき性のいずれに関して殆ど問題なく、生理用品の肌着への取り付け材として適したものであり、使用後にトイレに流しても問題を生じないものであった。
【0060】
さらに、このような水溶性雄型成形面ファスナーの係合相手として、常温水に溶解可能な(株)クラレ製水溶性PVA繊維(クラロンK-IIWN2 太さ:2.2dtex、繊維長:51mm)をウェッブ化し、そしてニードルパンチにより絡合させ、さらにその表面を針布で起毛して、その表面に同繊維からなるループが存在している目付200g/m2の不織布を用いて係合させた。係合力は高く、表1に記載した値より僅かに劣る程度であり、係合性に優れていた。そして、このような水溶性雄型成形面ファスナーと水溶性繊維からなる不織布を係合させた状態で2cm角に切り出し、攪拌している25℃の常温水に漬け、その溶解状態を観察したところ、3分で面ファスナーの係合が剥がれ、そして15分で完全に両方とも溶解された。さらに、このような水溶性雄型成形面ファスナーの係合相手として、80℃の水に溶解可能な(株)クラレ製水溶性PVA系繊維(ミントバールCR-700P RS41T-6、 エチレンを8.5モル%共重合させた重合度390で鹸化度95モル%のPVA100に対してソルビトールにエチレンオキサイド2モル%付加物を8ブレンドした樹脂を溶融紡糸して得られた、太さ8.5dtexのフィラメントが12本集束しているマルチフィラメント糸)からなる、コース75c/インチ、ウェール28w/インチのトリコット編地で、目付145g/m2、ループ高さ1.1mmのループ面ファスナーを用いて係合させた。
このループ面ファスナーは、上記した不織布と比べて、ループ状係合素子が倒れずに基布面から立ち上がっている割合が高く、上記不織布の場合と比べて係合力が高かった。ただ、25℃の常温水には溶解しなかったが、80℃の温水には10分で完全に溶解し、さらに土中に埋めると24週間で完全になくなった。さらにこの水溶性トリコット編地の場合には、前記した水溶性の不織布と比べて、生産する上で、さらに保管する上において、湿度管理する必要がなく、通常の合成繊維のように扱うことができた。
【0061】
【0062】
実施例2~5、比較例1~4
上記実施例に使用したPVAを下記表2に示す重合度および鹸化度を有するPVAに変更する以外は実施例1と同様にして、水溶性雄型成形面ファスナーを製造した。得られた水溶性雄型成形面ファスナーは、いずれも、実施例1のものと同様に、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型)で、雄型係合素子の高さは0.94mm、さらに素子密度は110本/cm2で、また基体の厚さは0.25mであった。
【0063】
【0064】
得られた8種の水溶性の雄型成形面ファスナーの性能を下記の表3に示す。この表から明らかなように、実施例2~5の水溶性雄型成形面ファスナーは、いずれも、係合力、表面の係合素子の状態、柔軟性および表面のべたつき性のいずれに関して大きな問題がなく、そしてその具体的用途として、生理用品の肌着への取り付け材として使用可能で、水溶性に関しても使用後にトイレに流しても特に問題を生じないものであった。
【0065】
それに対して比較例1の重合度が低いPVAの場合には雄型係合素子の強度が低く、容易に折れるものであり、また重合度が高い比較例2のものは、溶融粘度が高くて金型内でゲル化を生じ、キャビティの先端まで溶融樹脂が到達できずに、先端まで伸びていない雄型係合素子が約20%ほど存在しており、さらに水溶性の点でも劣るものであった。
さらに比較例3のものは、軟らかくなり過ぎて、面ファスナーの雄型係合素子として必要な強度・弾性率が得られず、低い係合力のものであった。そして比較例4のものは、水溶性の点で劣り、さらに成形性が低下してゲル化を生じ易く、キャビティの端まで溶融樹脂が到達できず、先端まで伸びていない雄型係合素子が約15%ほど存在していた。
【0066】
【0067】
実施例6~7、比較例5~9
上記実施例1において、成形に使用するPVAとポリエチレングリコールとタルクの混合比を下記表4に記載したように変更する以外は実施例1と同様にして、水溶性雄型成形面ファスナーを製造した。
得られた水溶性雄型成形面ファスナーは、いずれも実施例1のものと同様に、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型)で、雄型係合素子の高さは0.94mm、素子密度は110本/cm2で、基体の厚さは0.25mであった。
【0068】
【0069】
得られた7種の水溶性雄型成形面ファスナーの性能を下記の表5に示す。この表から明らかなように、実施例6および7の水溶性雄型成形面ファスナーは、実施例1のものより水溶性、係合力、表面の係合素子の状態、柔軟性および表面のべたつき性のいずれかの点で僅かに劣るものの、いずれも大きな問題となるものではなく、そして具体的用途として、生理用品の肌着への取り付け材として使用可能であり、使用後にトイレに流しても問題を生じないものであった。
【0070】
それに対して、ポリエチレングリコールおよびタルクの配合量が共に多い比較例5の水溶性雄型成形面ファスナーは、成形性に劣り、雄型係合素子がキャビティから引き抜く際に途中で切断されているものが多く、また表面にポリエチレングリコールがブリードアウトして、タルクの添加量が多いにもかかわらず、表面がべたつき、さらに得られる雄型成形面ファスナーの雄型係合素子が充分な強度を有さないものであった。
【0071】
一方、比較例6のものは、逆にポリエチレングリコールおよびタルクの配合量がともに少ない場合、また比較例7は、ポリエチレングリコールを全く添加しなかった場合、さらに比較例9はポリエチレングリコールおよびタルクを全く添加しなかった場合であるが、これらの場合には、ともに成形の途中でゲル化が生じ、商品価値ある雄型成形面ファスナーは製造できず、特に比較例7および9では、面ファスナーの成形すらできなかった。
それに対して、比較例8は、タルクを全く添加しなかった場合であるが、この場合には、成形性が悪いながらも一応雄型成形面ファスナーを製造することは可能であったが、得られた雄型成形面ファスナーは、雄型係合素子が途中で折れたものがあり、また表面が非常にべたつき、到底、商品価値のあるものではなかった。
【0072】
【0073】
実施例8
上記実施例1において、成形に使用する金型ロールとして、その表面に彫られているキャビティの深さが1.2mmの厚さ0.3mmのリング状金型を使用して、実施例1と同様の樹脂混合物を使用して水溶性雄型成形面ファスナーを製造した。得られた水溶性雄型成形面ファスナーは高さ1.26mmの雄型係合素子を素子密度136本/cm
2で有していた。この面ファスナーの表面は、
図3に示すようなもの、すなわち複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状(逆J字型)の雄型係合素子を複数有するものであり、また基体の厚さは0.23mmであった。得られた水溶性雄型成形面ファスナーの性能を下記の表6に示す。
【0074】
この表から明らかなように、実施例1のものより水溶性の点で幾分劣るものではあるが、係合力、表面の係合素子の状態、柔軟性および表面のべたつき性のいずれに関して問題なく、ただ、生理用品等の肌着への取り付け材のように、肌に触れる用途には肌触りの点で若干劣るものであった。ただ、使用後にトイレに流せる点では、溶解時間が僅かに長くなる欠点を有していた。
【0075】
実施例9
上記実施例1において、成形に使用する金型ロールのキャビティの形状として、深さ0.55mmのY字型形状の切れ込みを外円周上に彫った厚さ0.3mmのリング状金型を使用し、実施例1と同様の樹脂混合物を使用して水溶性雄型成形面ファスナーを製造した。得られた水溶性雄型成形面ファスナーは、その表面に存在している雄型係合素子が列をなして並んでおり、各係合素子は基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれて列方向に曲がり、分かれた各先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状、すなわちY字型形状を有しており、その高さは0.55mmであり、そして素子密度は147本/cm2であり、基体の厚さは0.18mmであった。得られた水溶性雄型成形面ファスナーの性能を下記の表6に示す。
【0076】
この表から明らかなように、実施例1のものと同等の優れた水溶性、係合力、表面の係合素子の状態、柔軟性を有し、さらに表面のべたつき性に関しても実施例1のものと同様に感じられず、使いやすさの点で優れたものであった。さらに生理用品等の肌着への取り付け材のように、肌に触れる用途に関しても、肌触りの点で優しく優れており、さらに使用後にトイレに流しても、速やかに溶解できることから問題のない優れたものであった。
【0077】
【符号の説明】
【0078】
1:雄型係合素子
2:基体
T:雄型係合素子の列方向