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特許7591217散水・生物ろ過装置、被処理水の散水・生物ろ過方法、及び下水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】散水・生物ろ過装置、被処理水の散水・生物ろ過方法、及び下水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/04 20230101AFI20241121BHJP
   C02F 3/06 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
C02F3/04
C02F3/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021043279
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022142977
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506239304
【氏名又は名称】高知市
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 篤
(72)【発明者】
【氏名】中沢 仁吾
(72)【発明者】
【氏名】大和 信大
(72)【発明者】
【氏名】米津 直紀
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-025092(JP,A)
【文献】特開2018-069183(JP,A)
【文献】特開平04-187294(JP,A)
【文献】特開平05-015888(JP,A)
【文献】実開昭64-036095(JP,U)
【文献】特開2017-109195(JP,A)
【文献】特開2020-163273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0304369(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02 - 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ材が充填されたろ床と、
前記ろ床の上方に配置された被処理水の散水部と、
前記ろ床の下方に配置された処理水の流出部とを備え、
前記ろ床の下部及び下方に前記散水部から散水された被処理水が前記ろ床を流下して滞留する貯留部が設けられ、
前記ろ床の前記貯留部の水に浸漬されていない部分が、前記散水部から散水された被処理水が流下する散水ろ床をなし、
前記ろ床の前記貯留部の水に浸漬された部分が生物ろ過部をなしており、
前記散水ろ床の内部に空気を流通させるための空気流通手段が設けられており、
前記生物ろ過部の下部又は下方に曝気手段が設けられ、前記ろ床の下方に洗浄排水の流出部が設けられており、
前記散水ろ床の下部に曝気手段が設けられていることを特徴とする散水・生物ろ過装置。
【請求項2】
前記生物ろ過部を通過した水を前記散水部に戻す循環手段を有し、前記生物ろ過部が浸漬された貯留部の水の溶存酸素量が所定範囲に維持されるように、前記循環手段による循環量を制御する制御装置が設けられている、請求項1記載の散水・生物ろ過装置。
【請求項3】
前記貯留部に貯留される処理水の水面の高さを調整する貯留水位調整手段が設けられている、請求項1又は2記載の散水・生物ろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば下水処理施設などにおいて、被処理水から有機物や懸濁物質を除去するために用いられる散水・生物ろ過装置、それを利用した被処理水の散水・生物ろ過方法、及び下水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
散水ろ床型水処理装置は、ろ材を充填したろ材層を設けた水槽を有し、被処理水をろ材層の上方から散水して、被処理水がろ材層を通過する過程で、ろ材層のろ材表面に付着した微生物による有機物の分解や、浮遊する懸濁物質のろ材層による捕捉作用によって、被処理水に含まれる有機物や懸濁物質を除去するものである。
【0003】
散水ろ床型水処理装置は、曝気を必要としない省エネルギー型の水処理装置であるが、処理水の水質は活性汚泥法と概ね同程度であり、更なる処理性向上の余地があった。
【0004】
この問題に対処するため、下記特許文献1には、被処理水を処理する水処理装置であって;被処理水の散水手段、ろ材層、一次処理水の排出口および気体流入口を備える散水ろ床槽と;一次処理水の流入口、二次処理水の排出口、酸素を含む気体の供給手段および気体排出口を備える生物処理槽と;散水ろ床槽の気体流入口と、生物処理槽の気体排出口との間の接続部材とを有し;ろ材層の内部に、ろ材層を通過する被処理水の流れ方向と、生物処理槽から排出されて散水ろ床槽に流入する気体の流れ方向とが向流となる領域を有する、水処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-69183号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法によれば、散水ろ床槽を通過した水を、更に曝気がなされている生物処理槽に通過させることにより、被処理水中の有機物をより効果的に分解除去できると考えられる。
【0007】
しかしながら、生物処理槽で曝気を行うことによって、有機物の分解を行うために、エネルギーコストがかかるという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、エネルギーコストを低減しつつ、被処理水中の有機物や懸濁物質の除去効果を高めることができる、散水・生物ろ過装置、それを利用した被処理水の散水・生物ろ過方法、及び下水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の散水・生物ろ過装置は、
ろ材が充填されたろ床と、
前記ろ床の上方に配置された被処理水の散水部と、
前記ろ床の下方に配置された処理水の流出部とを備え、
前記ろ床の下部及び下方に前記散水部から散水された被処理水が前記ろ床を流下して滞留する貯留部が設けられ、
前記ろ床の前記貯留部の水に浸漬されていない部分が、前記散水部から散水された被処理水が流下する散水ろ床をなし、
前記ろ床の前記貯留部の水に浸漬された部分が生物ろ過部をなしており、
前記散水ろ床の内部に空気を流通させるための空気流通手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の被処理水の散水・生物ろ過方法は、
ろ材が充填されたろ床と、
前記ろ床の上方に配置された被処理水の散水部と、
前記ろ床の下方に配置された処理水の流出部と、
前記ろ床を通過した水が所定時間滞留する貯留部とを備えたろ過装置を用いて、
前記ろ床の下部を前記貯留部の水に浸漬させて生物ろ過部とし、
前記ろ床の前記貯留部の水に浸漬されていない部分を散水ろ床とし、
前記散水ろ床の内部に空気を流通させるための空気流通手段を設けて、前記散水ろ床に空気を流通させつつ、
被処理水を前記散水部から前記散水ろ床の上部に散水させ、前記散水ろ床、前記生物ろ過部を通過させ、前記貯留部で所定時間滞留させた後、前記流出部から取出すようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の下水処理方法の1つは、下水処理施設における流入水を、第1の固液分離装置に通して固液分離する第1固液分離工程と、前記第1の固液分離装置を通して得られる水を被処理水として、請求項6に記載した散水・生物ろ過方法で処理する散水・生物ろ過処理工程と、前記散水・生物ろ過処理工程で処理された水を、第2の固液分離装置に通して再度固液分離する第2固液分離工程とを経て、処理水として放流することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の下水処理方法のもう1つは、下水処理施設における流入水を、第1の固液分離装置に通して固液分離する第1固液分離工程と、前記第1の固液分離装置を通して得られる水を被処理水として、請求項6に記載した散水・生物ろ過方法で処理する散水・生物ろ過処理工程とを経て、処理水として放流することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ろ床の下部を貯留部の水に浸漬させて、生物ろ過部を設けたので、散水ろ床を通過した水に含まれる溶存酸素を利用して、生物ろ過部において微生物による有機物の分解とアンモニアの硝化がなされる。また、生物ろ過部において、懸濁物質(以下「SS」と略称する)の除去効果も高められる。したがって、散水ろ床と生物ろ過部との両方で、有機物の分解とアンモニアの硝化、及びSSの除去がなされるので、より浄化された処理水を得ることができる。また、仮に負荷変動によって散水ろ床の汚泥が剥離した場合であっても、生物ろ過部で一旦剥離汚泥を保持することができるため、突発的な水質悪化を緩和することができる。また、ろ材の洗浄時以外は、曝気処理を行う必要がないので、エネルギーコストを低減することができる。また、ろ床下部水位が高くなることにより、循環ポンプや揚水ポンプの揚程が小さくなり、電気代を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による散水・生物ろ過装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図2】本発明による散水・生物ろ過装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図3】本発明による散水・生物ろ過装置が適用された下水処理装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図4】試験例で用いた下水処理装置の概略構成を示す説明図である。
図5】試験例におけるBOD濃度の経日変化を示す図表である。
図6】試験例におけるSS濃度の経日変化を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明による散水・生物ろ過装置の実施形態を説明する。
【0016】
図1には、本発明による散水・生物ろ過装置の一実施形態が示されている。この散水・生物ろ過装置100は、被処理水が上方から散水されるろ過槽101を有している。ろ過槽101内の下方には多孔板102が配置され、この多孔板102上に多数のろ材103が積層されて、ろ床104が形成されている。ろ材103としては、特に限定されないが、例えばポリウレタンやポリプロピレン等の樹脂、セラミックス、石などでできたものを採用することができる。好ましい例としては、両端が開口する円筒状に形成された樹脂を用いることができる。
【0017】
ろ過槽101内の下方には、ろ床104を通過した水の貯留部105が設けられている。そして、ろ床104の下方部分が貯留部105の水に浸漬されており、ろ床104は、水に浸漬されていない散水ろ床106と、水に浸漬された生物ろ過部107とに分かれている。
【0018】
ろ過槽101の上方には、例えば、回転軸を中心として放射状に伸びた複数の散水管などで構成される散水部108が配置されており、被処理水が散水ろ床106の上面に散水されるようになっている。
【0019】
散水ろ床106の下部には、ろ過槽101内の空気を抜き出して、外部の空気を散水ろ床106に流通させる空気流通手段109が設けられている。したがって、散水ろ床106内は、空気が流通しており、散水ろ床106を通過する被処理水に空気を接触させて、被処理水の溶存酸素濃度が高まるようになっている。
【0020】
貯留部105は、連通部110を介して調整槽111に連通されている。貯留部105の水位と、調整槽111の水位は、パスカルの原理により同じ水位となる。したがって、どちらの水位が変化しても、最終的には同じ水位になるように水の移動がなされる。
【0021】
調整槽111には、第1ポンプ112が設けられ、第1ポンプ112によって処理水が次の処理工程に送り出されるようになっている。また、調整槽111には水面の高さを測定するレベル計113が取付けられており、測定された水面の高さは水位制御装置114に送信されるようになっている。
【0022】
水位制御装置114は、レベル計113で測定された水位に基づいてろ過槽101の水位を求め、ろ過槽101の水位が所定の範囲から外れたときは、第1ポンプ112に作動信号を送って調整槽111の水の流出量を制御し、ろ過槽101の水位が所定の範囲に維持されるように制御する。ろ過槽101の水位によって、生物ろ過部107の高さ方向の長さが設定されることになる。この実施形態では、レベル計113,水位制御装置114が、本発明における貯留水位調整手段を構成している。
【0023】
散水・生物ろ過装置100は、ブロア120を有している。ブロア120には、弁121を介して曝気管122が接続されており、曝気管122は、ろ過槽101の生物ろ過部107の最下部に挿入されて、多孔板102の下方に配置されている。この実施形態では、ブロア120、弁121、曝気管122が、本発明における曝気手段を構成している。ろ床104のろ材103に微生物やハエなどの生物や懸濁粒子等が付着して、散水される被処理水の通過抵抗が高くなったとき、連通部110を図示しないバルブや仕切り板などによって閉じ、散水ろ床106のろ材103も水に浸漬されるように、ろ過槽101に水を貯留させ、ブロア120を作動させて曝気管122から空気を噴出させることにより、ろ材103を攪拌洗浄できるようになっている。
【0024】
ろ過槽101の底部には、貯留部105の水を排出する排出管136が連結されており、排出管136に連結された第2ポンプ115によって貯留部105の水を流出できるようになっている。攪拌洗浄によってろ材103表面から剥離した汚泥を含有する洗浄排水は、第2ポンプ115によって排出管136を通して取出すことができるようになっている。ろ過槽101の底部の排出管136が連結された部分が、本発明における洗浄排水の流出部をなしている。
【0025】
また、排出管136の途中には、三方弁116を介して返送路117が連結されており、返送路117の先端は、散水部108に連結されていて、貯留部105の水を散水部108に循環できるようになっている。この実施形態では、三方弁116、返送路117が、本発明における循環手段を構成している。
【0026】
ろ過槽101の貯留部105には、溶存酸素計118が取付けられており、貯留部105の水の溶存酸素濃度を測定できるようになっている。溶存酸素計118で測定された溶存酸素濃度は、循環量制御装置119に送られ、循環量制御装置119は、貯留部105内の水の溶存酸素濃度が所定値より低くなったときに、第2ポンプ115及び三方弁116に信号を送って、貯留部105内の水を、返送路117を通して散水部108に送り、散水ろ床106に循環させるようになっている。なお、この溶存酸素118は取り付けてあることが望ましいが、なくても問題はない。あらかじめ循環率を変化させた実験を行うことにより、循環率と溶存酸素(DO)の関係を求め、その結果に基づいて循環率を設定できる。
【0027】
次に、この散水・生物ろ過装置100を用いた、本発明の被処理水の散水・生物ろ過方法の一実施形態を説明する。
【0028】
本発明において、被処理水としては、例えば、下水処理施設で処理される水であって、有機物や懸濁物質を含有する水が適用でき、例えば下水処理施設における最初沈殿池からの流出水や、流入下水を前段ろ過装置に通した水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
被処理水は、散水部108から散水ろ床106上面に散水され、散水ろ床106のろ材103の隙間を通って流下する。このとき、空気流通手段109によって、散水ろ床106のろ材103の隙間を流れる空気流が発生しており、被処理水はこの空気流に接触して溶存酸素濃度が高められる。そして、被処理水は、ろ材103の表面に接触して、ろ材103の表面に付着している微生物層によって有機物の分解やアンモニアの硝化がなされると共に、含有する懸濁物質(以下「SS」と略称する)のろ過除去がなされる。
【0030】
散水ろ床106を通過した被処理水は、次に貯留部105の水中に浸漬された生物ろ過部107を通過する。生物ろ過部107のろ材103には、散水ろ床106のろ材103よりも、より多くの微生物層が付着しており、散水ろ床106を通過するときに増加した水中の溶存酸素を利用して、有機物分解やアンモニアの硝化が更に効果的になされる。また、生物ろ過部107のろ材103の表面に付着した微生物層によってSSの除去効果も高められる。
【0031】
また、生物ろ過部107は貯留部105の水に浸漬されているので、被処理水の通過速度が低下し、被処理水は、貯留部105に所定時間滞留することとなる。これによって、微生物による有機物分解やアンモニアの硝化を時間をかけて進行させると共に、散水部108から供給される被処理水の流入量が変動したときのバッファー槽としての役割を果たすこともできる。
【0032】
ろ床104の高さ方向における散水ろ床106の長さと、生物ろ過部107の長さは、特に限定されないが、高さ方向において、ろ床104の全体の長さを10としたとき、散水ろ床106の長さ:生物ろ過部107の長さ=5~9.5:0.5~5となるようにすることが好ましく、8~9.5:0.5~2となるようにすることがより好ましい。上記範囲に設定することにより、散水ろ床106及び生物ろ過部107の両者において、有機物分解やアンモニアの硝化作用並びにSSの除去作用が良好に得られるようにすることができる。
【0033】
そして、この実施形態では、レベル計113によって調整槽111の水面の水位(ろ過槽101の水位と同じになる)が測定され、この水位が所定の範囲から外れたときは、第1ポンプ112に作動信号を送って調整槽111の水の流出量を制御し、ろ過槽101の水位が所定の範囲に維持されるように制御するので、生物ろ過部107の高さ方向の長さを常に好ましい範囲に保つことができる。
【0034】
また、被処理水が散水ろ床106を通過するときに増加した溶存酸素は、散水ろ床106のろ材103や、生物ろ過部107のろ材103の表面に付着する微生物が有機物を分解したり、アンモニアを硝化したりするのに利用されるのであるが、溶存酸素が不足すると、生物ろ過部107における有機物の分解やアンモニアの硝化作用が弱まる。
【0035】
そこで、この実施形態では、溶存酸素計118によって貯留部105の水の溶存酸素濃度が測定され、その測定値が循環量制御装置119に送られ、循環量制御装置119は、貯留部105内の水の溶存酸素濃度が所定値より低くなったときに、第2ポンプ115及び三方弁116に信号を送って、貯留部105内の水を、返送路117を通して散水部108に送り、散水ろ床106に循環させるようになっている。貯留部105内の水の循環量を増大させることにより、一部の水が散水ろ床106を複数回通過することとなり、散水ろ床106を流通する空気流に触れる時間が長くなって、貯留部105の水の溶存酸素濃度を高めることができる。
【0036】
一方、被処理水を散水ろ床106,生物ろ過部107に通してろ過処理運転を続けると、散水ろ床106のろ材103や、生物ろ過部107のろ材103の表面に付着した微生物やSSが汚泥となって溜まっていくことになる。この汚泥付着率には適切な範囲があり、汚泥が過剰に付着すると、処理性能が低下したり、被処理水の通過圧損が増大してろ過効率が低下したりすることになる。また、散水ろ床106のろ材103には、ハエの幼虫や卵が付着して悪臭を放つことがある。このため、所定のタイミングで、ろ材103の洗浄が必要となる。
【0037】
その場合には、連通部110を図示しない弁体によって閉塞し、ろ過槽101に水を貯めて散水ろ床106のろ材103も水没する状態にする。そして、弁121を開き、ブロア120を作動させて、曝気管122から空気を噴出して曝気を行う。それによって、散水ろ床106及び生物ろ過部107のろ材103が攪拌され、ろ材103の表面に付着した汚泥や、ハエの幼虫や卵などが剥離する。これらの汚泥やハエの幼虫や卵などは、貯留部105に沈降するので、第2ポンプ115を作動させ、排出管136を通して排水することができる。このような洗浄操作を、例えば定期的に、あるいは汚泥の量を検知してその量が増大したときに行うことにより、ろ過性能を回復して、被処理水の浄化作用を持続させることができる。
【0038】
なお、ろ過槽101に水を貯めて散水ろ床106のろ材103も水没する状態にした後、曝気を行わずに、第2ポンプ115を作動させ、排出管136を通して排水することもできる。
【0039】
図2には、本発明による散水・生物ろ過装置の他の実施形態が示されている。なお、図1の実施形態と実質的に同一部分には、同符号を付して、その説明を省略することにする。
【0040】
この散水・生物ろ過装置100aでは、ろ過槽101の底部に連結された排水管123がU字状に立ち上がり、伸縮管124を介して、流出部125に接続されている。そして、貯留部105内の貯留水の水位が流出部125の高さを超えると、処理水が流出部125を通して次の処理設備に流されるようになっている。したがって、この実施形態では、伸縮管124によって流出部125の高さを変えることにより、貯留部105の水面の高さを調整することができるようになっている。
【0041】
また、この実施形態では、曝気手段が前記実施形態と異なっている。すなわち、ブロア120に連結された送気管126が、第1分岐管127と第2分岐管128とに分岐している。そして、第1分岐管127は第1弁129を介して第1曝気管130に連結され、第1曝気管130は生物ろ過部107の最下部に挿入されて、生物ろ過部107の下方に配置されている。また、第2分岐管128は、第2弁131を介して第2曝気管132に連結され、第2曝気管132は、ろ過槽101内の散水ろ床106の下部に挿入配置されている。
【0042】
したがって、ろ材103の洗浄操作時に、ろ過槽101に水を貯めて散水ろ床106のろ材103も水没する状態にし、第2弁131を閉じて第1弁129を開き、第1曝気管130のみから曝気すれば、ろ床104全体のろ材103を撹拌することができる。また、第1弁129を閉じて第2弁131を開き、第2曝気管132のみから曝気すれば、散水ろ床106のろ材103のみを撹拌することができる。更に、第1弁129,第2弁131を両方開き、第1曝気管130と第2曝気管132の両方から曝気すれば、生物ろ過部107のろ材103よりも散水ろ床106のろ材103の方が強く撹拌されるようにすることができる。
【0043】
それによって、散水ろ床106のろ材103の汚泥やハエの幼虫や卵の付着状態、生物ろ過部107の汚泥の付着状態に応じて、それぞれのろ材103の洗浄効果を調整することができる。例えば、生物ろ過部107のろ材103に付着した微生物などの汚泥は、ある程度残存するように洗浄した方が、運転を再開したときに有機物の分解やアンモニアの硝化作用が迅速に立ち上がるので好ましい。これに対して、散水ろ床106のろ材103には、汚泥だけでなく、ハエの幼虫や卵などが付着していることがあり、生物ろ過部107のろ材103よりも強く洗浄する必要が生じることがある。したがって、散水ろ床106のろ材103の洗浄強度と、生物ろ過部107のろ材103の洗浄強度を調整することによって、それぞれのろ材103を適切な状態に維持することができる。
【0044】
図3には、本発明の散水・生物ろ過装置を下水処理装置に適用した一実施形態が示されている。なお、図1の実施形態と実質的に同一部分には、同符号を付して、その説明を省略することにする。
【0045】
この下水処理装置200は、第1の固液分離装置210と、散水・生物ろ過装置100と、第2の固液分離装置220とを備えている。第1の固液分離装置210は、例えば下水処理施設における流入下水から、SSを除去するための前段ろ過装置である。この第1の固液分離装置210は、被処理水導入路211と、ろ材層213を有するろ過槽212とを有している。被処理水導入路211から流入した被処理水は、被処理水導入路211内を下降してろ過槽212に入り、ろ材層213の下方から上方に通過してろ過された後、越流によって次の散水・生物ろ過装置100に送られるようになっている。ろ材層213としては、例えば浮上型のろ材を用いることができる。
【0046】
散水・生物ろ過装置100は、この実施形態の場合、複数のろ過槽101が生物処理槽133内に並んで配置されている。各ろ過槽101には、散水ろ床106,生物ろ過部107を有するろ床104と、生物ろ過部107を水没状態に保つ貯留部105とが設けられている。また、各ろ過槽101の散水ろ床106の上方には、散水部108がそれぞれ配置されている。各ろ過槽101の貯留部105は、包括処理槽133内で互いに連通しており、散水ろ床106、生物ろ過部107を通過した処理水が、共通の生物処理槽133内に貯留されるようになっている。生物処理槽133内には、第1ポンプ112が設けられ、散水ろ床106及び生物ろ過部107を通過した水を第2の固液分離装置220に送るようになっている。また、包括処理槽133内には第3ポンプ134が設けられ、散水ろ床106及び生物ろ過部107を通過して包括処理槽133内に貯留された水の一部を返送路117を通して散水部108に返送し、循環できるようになっている。
【0047】
第2の固液分離装置220は、ろ過槽221と、ろ材層222とを備え、散水・生物ろ過装置100で処理された水をろ過槽221の下方から導入して、ろ材層222を下方から上方に通過させ、残存するSSを更に除去して清浄化するようになっている。
【0048】
次に、この下水処理装置200を用いた、本発明による下水処理方法の一実施形態を説明する。
【0049】
例えば下水処理場の流入下水を被処理水として、この被処理水を第1の固液分離装置210の被処理水導入路211に導入し、ろ過槽212の下方に流入させて、ろ材層213を下方から上方に通過させることにより、被処理水に含まれるSSを除去する。
【0050】
次に、第1の固液分離装置210で処理された被処理水を散水・生物ろ過装置100の散水部108から散水ろ床106上に散水し、散水ろ床106を通過させた後、更に貯留部105の水に浸漬された生物ろ過部107を通過させる。これによって、前述したように、散水ろ床106のろ材103や、生物ろ過部107のろ材103の表面に付着した微生物による有機物の分解やアンモニアの硝化、被処理水に含まれるSSの更なる除去がなされる。なお、前述した態様で、貯留部105の水の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度が不足するときは、第3ポンプ134によって貯留部105の水を散水部108に循環させ、生物ろ過部107における微生物の活性を維持するようにする。
【0051】
更に、第1ポンプ112により、処理された被処理水を第1ポンプ112により第2の固液分離装置220に送り、ろ材層222を下方から上方に通過させてろ過することにより、残存するSSを更に徹底的に除去して、放流することができる。
【0052】
上記実施形態において、第1の固液分離装置210は、大きなSSを除去する役割をなし、この実施形態で示すような浮上ろ材を用いた上向きろ過装置に限定されることなく、例えば最初沈殿池のような沈殿池を用いることもできる。また、第2の固液分離装置220は、散水・生物ろ過装置100で処理された後も残存する細かいSSを除去する役割をなし、この実施形態で示されるような上向きろ過装置に限定されることなく、例えば最終沈殿池のような沈殿池を用いることもできる。
【0053】
また、散水・生物ろ過装置100での処理によって、被処理水中の有機物やSSが許容範囲まで低減されるのであれば、第2の固液分離装置220を設けることなく、散水・生物ろ過装置100で処理された水をそのまま放流することも可能である。それによって設備コストを低減することができる。
【実施例
【0054】
図4に示される下水処理装置200を用いて以下の試験を行った。この下水処理装置200は、図3に示した下水処理装置200を実験レベルで再現したものである。したがって、図3と共通する部分には、同符号を付してその説明を省略することにする。
【0055】
第1貯留槽214は、被処理水が導入される水槽であり、被処理水は第4ポンプ215を介して第1の固液分離装置210に送られるようになっている。第1の固液分離装置210は、ろ材層213を有し、被処理水はろ材層213を下方から上方に通過してろ過される。第2貯留槽216は、第1の固液分離装置210を通過した被処理水が貯留される水槽であり、ここに貯留された被処理水の一部は、第6ポンプ218により、本発明の実施例である散水・生物ろ過装置100に送られる。また、第2貯留槽216に貯留された被処理水の一部は、第7ポンプ219により、従来の散水ろ過装置300に送られる。
【0056】
散水・生物ろ過装置100においては、前述した態様で、第6ポンプ218によって導入された被処理水が散水ろ床106上に散水され、散水ろ床106、生物ろ過部107を通過して処理される。こうして処理された水は、第2ポンプ115により第2の固液分離装置220に送られ、更に第2の固液分離装置220のろ材層222を下方から上方に通過して、自然流下で排出されるようになっている。
【0057】
散水ろ過装置300においては、第7ポンプ219によって導入された被処理水が散水ろ床304上に散水され、散水ろ床304を上方から下方に通過して、第9ポンプ315により取出されるようになっている。
【0058】
下記表1に、散水・生物ろ過装置100及び散水ろ過装置300におけるろ過槽101、ろ過槽301の大きさと、運転条件を示す。なお、表1における「散水ろ床法」は、散水ろ過装置300のろ過槽301を用いたろ過(比較例)を意味し、「散水・生物ろ過法」は、散水・生物ろ過装置100のろ過槽101を用いたろ過(実施例)を意味する。なお、実験は実下水で行ったので、降雨などによって流入する被処理水の量やSS濃度は日々変化している。
【0059】
【表1】
【0060】
上記条件で被処理水の処理性能評価試験を行い、散水・生物ろ過装置100から流出する水に含まれるBOD濃度とSS濃度、散水ろ過装置300から流出する水に含まれるBOD濃度とSS濃度を測定した。その結果を図5,6に示す。図5の横軸は日付、縦軸はBOD濃度(mg/L)である。図6の横軸は日付、縦軸はSS濃度(mg/L)である。また、「ろ床流入水」は被処理水を意味し、「散水ろ床流出水」は散水ろ過装置300から流出する水(比較例)を意味し、「散水生物ろ過法流出水」は散水・生物ろ過装置100から流出する水(実施例)を意味する。
【0061】
図5に示すように、ろ床流入水(被処理水)に含まれるBOD濃度は、散水ろ床法流出水(比較例)よりも散水・生物ろ過法流出水(実施例)の方が低濃度まで除去できている。
【0062】
図6に示すように、ろ床流入水(被処理水)に含まれるSS濃度に比べて、散水ろ床法流出水(比較例)及び散水・生物ろ過法流出水(実施例)は、大幅にSS濃度が減少することがわかる。
【0063】
図6において、4/16頃に通常ろ床流出水のSS濃度が急激に上昇している。この要因として、その2~3日前には大雨が降っており、「水温低下」及び「ろ床流入負荷の減少」の少なくとも何れか一方が生じていたことが考えられる。このことにより、ろ材に付着した汚泥が剥離し、被処理液中に剥離した汚泥が分散した。
【0064】
この状態を見ると、散水・ろ床法流出水(比較例)のSS濃度が急激に増加しているのに対して、散水・生物ろ過法流出水(実施例)のSS濃度はそれほど大きく増加しておらず、SSの除去効果が持続していることがわかる。
【0065】
このように、散水ろ床106と生物ろ過部107とを設けた実施例の散水・生物ろ過装置100では、被処理水中のSSを効果的に除去できると共に、被処理水の流量が変動しても、SSの除去効果を維持できることがわかる。
【符号の説明】
【0066】
100 散水・生物ろ過装置
101 ろ過槽
102 多孔板
103 ろ材
104 ろ床
105 貯留部
106 散水ろ床
107 生物ろ過部
108 散水部
109 空気流通手段
110 連通部
111 調整槽
112 第1ポンプ
113 レベル計
114 水位制御装置
115 第2ポンプ
116 三方弁
117 返送路
118 溶存酸素計
119 循環量制御装置
120 ブロア
121 弁
122 曝気管
123 排水管
124 伸縮管
125 流出部
126 送気管
127 第1分岐管
128 第2分岐管
129 第1弁
130 第1曝気管
131 第2弁
132 第2曝気管
133 包括処理槽
134 第3ポンプ
135 供給管
136 排出管
200 下水処理装置
211 被処理水導入路
212 ろ過槽
213 ろ材層
214 第1貯留槽
215 第4ポンプ
216 第2貯留槽
217 第5ポンプ
218 第6ポンプ
219 第7ポンプ
220 第2の固液分離装置
221 ろ過槽
222 ろ材層
図1
図2
図3
図4
図5
図6