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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】凝集体積層膜を備える構造体
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20241121BHJP
   C04B 35/491 20060101ALI20241121BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20241121BHJP
   H01M 10/0583 20100101ALI20241121BHJP
【FI】
C01G25/00
C04B35/491
H01M10/056
H01M10/0583
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021522834
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020993
(87)【国際公開番号】W WO2020241714
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019100705
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度経済産業省「革新的なエネルギー技術の国際共同研究開発事業(革新的省エネルギー技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗泰
(72)【発明者】
【氏名】明渡 純
(72)【発明者】
【氏名】金澤 周介
(72)【発明者】
【氏名】板垣 元士
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 竣
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
(72)【発明者】
【氏名】牛島 洋史
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147387(WO,A1)
【文献】特開2014-096350(JP,A)
【文献】特開2004-261746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/00-35/84
C01G25/00
H01M10/056
H01M10/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、および前記基材の少なくとも一方の面上に設けられる凝集体積層膜を備える構造体であり、
前記凝集体積層膜は、第1のセラミックス粒子と前記第1のセラミックス粒子よりも平均粒径が小さい第2のセラミックス粒子を含み
前記基材上における前記凝集体積層膜の空隙率は20体積%以下であり、
前記基材上における前記凝集体積層膜の、全空隙体積に対する、外表面と連通した空隙の体積の比が65%以上であり、
前記第1のセラミックス粒子の少なくとも一部と前記第2のセラミックス粒子の少なくとも一部は、前記基材と接する、構造体
【請求項2】
前記凝集体積層膜は、相互に接合する前記第1のセラミックス粒子間の空隙中に前記第2のセラミックス粒子を有し、前記空隙中の複数の前記第2のセラミックス粒子間、及び、前記第2のセラミックス粒子と周囲の前記第1のセラミックス粒子間に、更に空隙とを有する、請求項1に記載の構造体
【請求項3】
前記空隙にシリコーンオイル、液体の樹脂、又は液状の重合体が含浸されている、請求項1または2に記載の構造体
【請求項4】
前記液体の樹脂が固化されている、請求項に記載の構造体
【請求項5】
前記基材の両面に前記凝集体積層膜と電極層と電気伝導性を有する網目状の箔が順次積層された請求項1または2に記載の構造体を有し
前記凝集体積層膜に樹脂又は重合体が含浸されている、電気素子ユニット。
【請求項6】
請求項に記載の電気素子ユニットが複数積層された、電気素子ユニット。
【請求項7】
電極シートを備える固体電池であり、
前記電極シートは、
求項1または2に記載の前記構造体、および
前記構造体が備える前記凝集体積層膜に含浸されたポリマー電解質を有し
前記凝集体積層膜に含まれる前記第1のセラミックス粒子と前記第2のセラミックス粒子は、活物質の粒子である、固体電池。
【請求項8】
正極用の前記電極シートと負極用の前記電極シートの対、および前記対に挟まれる前記ポリマー電解質を備える、請求項に記載の固体電池。
【請求項9】
前記固体電池が折れている形状を有する、請求項8に記載の固体電池。
【請求項10】
複数の前記固体電池が折られ、かつ、積層された、請求項8または9に記載の固体電池。
【請求項11】
前記第1のセラミックス粒子と前記第2のセラミックス粒子は、それぞれ、PZT、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸化物、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムリン酸鉄、およびチタン酸リチウムの粒子から選択される、請求項1に記載の構造体
【請求項12】
1μmから300μmの厚さを有する、請求項1に記載の構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックスの新たな構造体に関する。
酸化物セラミックスは、圧電性や誘電性などを利用した電子セラミックスとして広く応用されている。最近では、ウェアラブルデバイスへの適応に向けて、プラスチックなどの柔軟な有機物と電子セラミックスを複合化した「フレキシブルデバイス」の開発が求められている。
また、次世代蓄電池として注目を集めている「酸化物全固体リチウムイオン二次電池」については、酸化物セラミックスの活物質や固体電解質、導電性を補う助剤などを、隙間なく均一に金属箔上へ堆積した正極合材及び負極合材をそれぞれ用意し、さらに、酸化物の固体電解質でこれらの正極合材と負極合材を隙間なく接合すると言った、非常に高度な技術が要求されている。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミックスは、一般的に、高緻密に焼結するための焼成温度が非常に高いが、フレキシブルデバイスや酸化物全固体リチウムイオン二次電池で用いられるプラスチック、アルミや銅などの安価で柔軟性のある金属箔などは、耐熱温度が非常に低く、酸化物セラミックスの焼結温度や酸化雰囲気に耐えられない。
そこで従来は、酸化物セラミックスの構造体を作製するに際し、添加剤を加えることで焼結温度を低温化させたり耐還元性を付与したりする手法や、スパッタ法、PLD法、CVD法、MOD法(ゾルゲル法)、水熱合成法、スクリーン印刷法、EPD法、Cold Sintering法などを応用することで、焼結温度より低温で酸化物セラミック膜を堆積できるように工夫した手法、ナノサイズのシート状やキューブ状に原料粒子の形状を整えて積層する手法、原料粒子を常温で基材に衝突させて固化するエアロゾルデポジション(AD)法などが採られてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-100069号公報
【文献】特開2006-043993号公報
【文献】特開2012-240884号公報
【文献】特開2012-188335号公報
【文献】特願2018-110527号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】内田義男ら、住友化学 2000-I、P.45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物セラミックスは、その全般に亘って、ヤング率が高く、硬度も非常に高いことから内部に働く残留応力の影響を受けやすいことが良く知られている。
しかし、従来から採られているスパッタ法、PLD法、CVD法、MOD法(ゾルゲル法)、水熱合成法、スクリーン印刷法、EPD法、Cold Sintering法などの熱処理を伴った製造方法では、焼結温度より低い温度での堆積であっても、基材と酸化物セラミック膜の僅かな線膨張係数差が原因となって酸化物セラミック膜に残留応力が発生し、圧電性や誘電性の性能劣化に繋がることが知られている。
また、AD法などの常温で堆積したセラミック膜においても、ショットピーニング効果による内部圧縮応力が残留応力となって誘電性の劣化に繋がることが問題となっている。
酸化物全固体リチウムイオン二次電池では、活物質でのリチウムイオンの挿入離脱による膨張収縮が起因した内部応力の変化により、活物質そのものに割れが生じるなどして性能劣化に繋がることが問題となっている。
【0006】
大きな圧電性を示す強誘電体の分極機構は、結晶の異方性に起因して形成されたドメイン壁が、高電界を印加することで移動し、分極反転や分極回転が達成されることに由来するが、清浄な界面が形成されていない部分や、結晶性が不完全な部分(TEMで観察される格子像が不明瞭な部分)、酸素欠陥が含まれた部分があると、そこでドメイン壁の移動がピンニングあるいはクランピングされてしまい、十分な分極反転や分極回転が達成できず、結果として強誘電性や圧電性の劣化に繋がることが知られている。従って、結晶性が高く、欠陥の少ない酸化物を合成することが必要である。
同様に、酸化物固体電解質でも、主に、結晶内に形成された伝導パスを伝ってリチウムイオンが移動するので、結晶性が不完全な部分や、リチウムイオンのイオン伝導性を示さない結着材が粒子間にあると、イオン伝導度の低下につながることから、高品質な結晶を得ることが求められる。
しかし、従来の技術であるスパッタ法、PLD法、CVD法、MOD法(ゾルゲル法)、水熱合成法、スクリーン印刷法、EPD法、Cold Sintering法など、結晶成長を促して高緻密な膜を得るこれらの手法で低温堆積を行うと、高い結晶性を得ることが非常に困難であり、さらに、適応できる基材もかなり限定されるなどの問題があった。
また、AD法は、品質の高い酸化物セラミックス原料微粒子を利用して膜を堆積できるが、AD法特有の原料微粒子の微細化は、圧電性や誘電性が低下するサイズ効果が表れ、酸化物固体電解質においてもリチウムイオンの移動で障壁になる粒界を多く形成しイオン伝導度が低下してしまうなどの問題がある。
さらに、水熱合成法やEPD法など、水溶液中でセラミック膜の堆積する手段では、粒界に水酸基などが残留し、強誘電体のリーク電流の増加や、リチウムイオン伝導の阻害の要因になることも問題として知られている。
【0007】
従来技術であるスパッタ法、PLD法、CVD法、MOD法(ゾルゲル法)、水熱合成法、スクリーン印刷法、EPD法などのセラミック堆積技術は、基材の上に酸化物セラミック膜を堆積する技術である。しかし、酸化物全固体リチウムイオン二次電池などでは、集電体であるアルミ箔や銅箔の間に高緻密なセラミック膜を形成する必要があり、従来のセラミック堆積技術とは異なった接合も可能とする新たな堆積手法が求められている。
AD法では、堆積した硫化物固体電解質を対向させて、さらに加圧することで、硫化物固体電解質層の高緻密化に伴った接合を実現しているが(特許文献1)、リチウムイオンが結晶内を移動する酸化物固体電解質に適応した場合、微細化に伴ってリチウムイオンの移動の障壁となる粒界を多く形成するため、原料微粒子を破砕せずに接合することが課題である。
【0008】
加えて、スパッタ法、PLD法、CVD法、AD法などの真空プロセスや減圧プロセスよりも、大気圧中で高緻密に堆積できる手法が望まれている。
【0009】
従来からの熱処理による結晶成長を伴ったスパッタ法、PLD法、CVD法、MOD法(ゾルゲル法)、水熱合成法、スクリーン印刷法、EPD法などの堆積方法とは異なり、金型に原料微粒子をつめて加圧成形することで構造物を得る加圧成形法では、非特許文献1に示すように、原料微粒子を粉砕することなく構造物の相対密度を80%以上(空隙率にして20%以下)にすることが課題であった。
一般的に、どのような酸化物セラミックスの微粒子であっても「凝集する結合力」を必ず備えており、微粒子が小さくなって比表面積が広くなると、その結合力が強く働くため、凝集しやすくなることが知られている。従来の加圧成形法は、微粒子が空隙を埋めきる前に、この凝集する結合力が働き、そこへ成形圧力に起因した強い摩擦力も加わるため、高緻密化した構造物を製造できなかった。相対密度が80%以上(空隙率にして20%以下)の構造物を加圧成形によって製造するためには、AD法と同様に、原料微粒子の粉砕を伴った手法が採られてきた(特許文献2)。
また、Cold Sintering法は、原料微粒子の周りに非晶質の層を設けて加圧することで、高緻密な酸化物セラミックスを製造する手法であるが、非熱処理では原料微粒子周辺に非晶質の層が残留し、圧電性、誘電性、イオン伝導性などが低下してしまう課題があり、結局、非晶質の層が品質の高い結晶に成長するだけの熱処理が必要になることも課題であり、加えて、非晶質の層が形成できる原料微粒子が限られていることも問題となっている。
酸化物を薄くはく離したナノシート(特許文献3)は、高緻密な酸化物の層を熱処理なく堆積できるが、厚さ数nmの酸化物シートを1層ずつ堆積するため、サブミクロン程度の厚さまで堆積することに課題がある。
同様に、最近ではキューブ状のナノ粒子を規則正しく3次元的に配列する技術が注目されているが(特許文献4)、実際のところ、キューブ状原料微粒子のごくわずかな大きさの差が起因して広範囲に亘った亀裂が生じてしまい、基材上へ隙間なく均一な膜を設けることに課題がある。
【0010】
空隙率が20%よりも高い圧粉体や、20%以上の空隙を樹脂で埋めるなどして、微粒子を結着材で接合した成形体も、結晶構造に起因する機能性が得られない課題がある。例えば、圧電体や強誘電体の場合、機能性を有する酸化物の方が樹脂よりも比誘電率が50倍から1000倍以上も高いため、比誘電率が低い樹脂の方に電界集中が生じてしまい、酸化物に十分な電界がかからないことや、漏れ電流の増大、絶縁破壊強度の低下などの問題がある。酸化物全固体リチウムイオン電池においても、酸化物の固体電解質の空隙を埋めるようにポリマー電解質を混合、あるいは、含浸できても、ポリマー電解質の方が酸化物の固体電解質よりもLiイオン伝導性が50倍から1000倍以上も低く、ポリマー電解質のイオン伝導性に律速し、充放電に必要なLiイオンの拡散が生じないことが問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来技術の有する上述の課題を解決し得る構造体について、鋭意検討した結果、転写板上に設けたPZTなどの脆性材料微粒子の薄層を、当該微粒子が破砕するより低い圧力で基材上に転写することを繰り返すことにより、当該微粒子が緻密に配置され、空隙率が20%以下の構造体が作製できることを見出し、先に出願した(特許文献5、本発明の出願時には未公開)。本発明者らは、さらに、当該構造体が、緻密に配置された微粒子間に、当該構造体の全体に広がる網目状の微細なナノ空隙を備えることを見出し、当該構造体が上記課題を解決し得るものであることを見出した。このナノ空隙には、樹脂やシリコーンオイルなどの液状の有機物を含浸させてもよく、液状樹脂は高緻密凝集体に含浸後に固化してもよい。
具体的には、緻密に配置された粒径の大きい第1粒子間になお存在する空隙を、第1粒子より小さい第2粒子が埋めることにより、空隙率20%以下のきわめて緻密な凝集体の構造を作製する。
本発明による高密度凝集体は、上記製法により原料粒子の破砕が殆ど生じないことから、結晶構造に起因した機能性を維持しており、また、結晶成長や原料粒子の破砕を極力抑制することで、殆どの空隙がつながった網目状の構造を備える。本発明の高密度凝集体は、第1粒子と第2粒子を混合した粉体に存在する空間を、粒子間距離がナノメートル領域になるまで縮小した構造と見ることができるため、粉体の比表面積と、本発明の高緻密凝集体の比表面積がほぼ同じになる特徴も備える。
【0012】
この高緻密凝集体の空隙構造は、図1(a)に示すように、第1粒子間の空隙に第2粒子で形成されたナノ空隙を有する特徴を備えるのが好ましい。
これに対し、熱処理を伴う一般的な焼結体は、結晶成長によりナノ空隙が消失してしまい、原料粒子の破砕を伴う高緻密化も、同様にナノレベルの空隙を潰してしまうため、図1(b)に示すように、結果として、粒界三重点を含んだ空隙が点在する構造となる。
【0013】
以下は、高緻密凝集体を作製する一例である。
転写板として、加圧転写の際に脆性材料が残存することのない程度に弾性率の高い金属板を用い、脆性材料からなる粒子を転写板上に付着させる際に、粒径サイズの大きい第1の粒子を最初に付着させ、その後、当該第1の粒子より粒径サイズの小さい第2の粒子をその上に付着させ、当該第2の粒子を付着させた面側に、加圧転写の際に脆性材料が付着するのに十分な程度に弾性率の低い金属あるいは炭素からなる基材を配置して、これらの粒子が破砕するより低い圧力で加圧することにより、転写板上に付着した脆性材料の薄層を基材上に転写し、続いて、同様の手法により、転写板上に第1の粒子と第2の粒子を付着させ、第2の粒子を付着させた面側に、上記脆性材料の薄層が転写された基板の脆性材料の薄層側を配置して、加圧することにより、上記基材上の薄層上に転写板上に付着した脆性材料の薄層を転写し、積層する工程を繰り返すことにより、所望の厚みを有する脆性材料の構造体を基材上に作製する。
上記転写板上の脆性材料の薄層の形成にあたっては、粒径サイズの大きい第1の粒子を最初に付着させ、その後、第1の粒子と当該第1の粒子より粒径サイズの小さい第2の粒子の混合物をその上に付着させ、さらに、第2の粒子をその上に付着させてもよい。
また、転写板上に付着した脆性材料の薄層を基材に加圧転写するにあたっては、横方向に振動を加えてもよい。
【0014】
具体的には、本出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉脆性材料微粒子の高緻密凝集体であって、前記高緻密凝集体を構成する脆性材料微粒子間に粒子同士が相互に接合する界面と接合しない空隙とを有し、前記空隙の前記高緻密凝集体全体に対する体積割合である空隙率は20%以下であり、そして、前記高緻密凝集体の全体の空隙体積に対する前記高緻密凝集体の見かけの外表面と連通した空隙の体積の比が65%以上であることを特徴とする、高緻密凝集体。
〈2〉前記高緻密凝集体を構成する脆性材料微粒子は、第1の脆性微粒子と前記第1の脆性微粒子よりも小さい第2の脆性微粒子とからなり、相互に接合する前記第1の粒子間の空隙中に、前記第2の粒子を有し、当該空隙中の複数の第2の粒子間、及び、第2の粒子と周囲の第1の粒子間に、更に粒子間の接合界面と接合しない空隙とを有することを特徴とする、〈1〉に記載の高緻密凝集体。
〈3〉前記第2の粒子の粒形サイズは1μm以下であることを特徴とする、〈2〉に記載の高緻密凝集体。
〈4〉前記脆性材料微粒子間の平均空隙幅が200nm以下であることを特徴とする、〈1〉に記載の高緻密凝集体。
〈5〉前記高緻密凝集体の空隙にシリコーンオイル、粒径100nm以下のナノ粒子を分散した液体、又は液体の樹脂が含浸されている、〈1〉から〈4〉のいずれかに記載の高緻密凝集体。
〈6〉前記高緻密凝集体に含浸されている液体樹脂が固化されている、〈5〉に記載の高緻密凝集体。
〈7〉基材の両面に〈1〉から〈4〉のいずれかに記載の高緻密凝集体からなる膜と電極層と電気伝導性を有する網目状の箔とが順次積層してなり、当該高緻密凝集体には樹脂が含浸されていることを特徴とする、電気素子ユニット。
〈8〉〈7〉に記載のユニットが複数積層してなる、電気素子ユニット。
〈9〉〈1〉から〈4〉のいずれかに記載の高緻密凝集体に含浸されている第一重合体を有し、前記第一重合体はイオン伝導性を備えることを特徴とする、固体電池。
〈10〉前記第一重合体と、
前記第一重合体の上に形成された第二重合体と、を有し、
前記第二重合体はイオン伝導性を備え、
前記第二重合体は脆性材料粒子を含有する、〈9〉に記載の固体電池。
〈11〉前記固体電池が折れている形状である、〈10〉に記載の固体電池。
〈12〉前記固体電池が折れて積層している形状である、〈10〉または〈11〉に記載の固体電池
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い結晶性を有する脆性材料の原料微粒子の粉体を、当該粒子が破砕するより低い圧力で加圧することにより薄く加圧成形することで、高緻密に原料微粒子を配置した構造体を形成し、さらにその構造体の上に、一体化するように、同様に高緻密に原料微粒子を配置した構造体を加圧成形で積層することによって、原料微粒子の凝集により形成された、相対密度が80%以上(空隙率にして20%以下)の、高緻密凝集体を得ることができる。
【0016】
また、微細な第2粒子は、液体との接触による液体/固体の界面自由エネルギーが高く、液体の接触角が低くなることで優れた濡れ性を示す。本発明の高緻密凝集体の空隙の殆どが微細な第2粒子で作製されており、その空隙幅が200nm以下と極めて狭いことから、本発明の高緻密凝集体は非常に強い毛細管現象が生じる特徴を備える。すなわち、これまでのセラミックスは、高緻密化するに従い、気体や液体のバリア性が高くなるが、本発明による高緻密凝集膜は、緻密化が促進しても液体や気体のバリア性は示されず、含浸性が非常に高くなる特徴を備える。従って、本発明の高緻密凝集体は粘性の高い液体や表面張力の高い液体でも、構造体の隅々まで含浸させることができる。
【0017】
本発明の脆性材料構造体は、原料微粒子の凝集により形成されているため、元の原料微粒子の有する高い結晶性を維持することができ、内部応力が発生することも少ない。
【0018】
本発明によれば、従来、高密度の酸化物セラミックス構造体を作製するうえで必要とされた、焼結処理、原料微粒子の破砕、真空や減圧下におけるプロセスなどが必要ではなく、これらに伴う、結晶内の欠陥生成や内部応力の発生を抑えることができる。
【0019】
本発明によれば、高緻密凝集体を焼結処理しても、従来の熱処理を伴った窯業法と比べて堆積収縮を抑える効果がある。
【0020】
本発明によれば、圧電体や強誘電体の高緻密凝集体にシリコーンオイル、樹脂、又はナノ粒子などを含浸させることで、圧電体や強誘電体の脆性材料粒子にかかる電界強度を制御できるようになる。具体的には、圧電体や強誘電体の脆性材料微粒子よりも低い誘電率材料を含浸させることで抗電界を大きくし、絶縁破壊強度を向上することが可能となる。また、圧電体や強誘電体の脆性材料微粒子よりも比誘電率の大きなナノ粒子を含浸することで、圧電体や強誘電体の脆性材料微粒子にかかる電界強度を強くし、抗電界の低下と圧電性の向上が可能となる。加えて、酸化物固体電解質の高緻密凝集体にポリマー固体電解質を含浸することで、リチウムイオンが高速移動できる酸化物固体電解質の密度を向上し、ポリマー固体電解質中のリチウムイオンの移動距離を短縮することが可能となり、リチウムイオンの拡散性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による高緻密凝集体と従来の高密度セラミックス焼結体の空隙の構造の違いを示す模式図。
図2】本発明によるPZTの高緻密凝集膜の3次元SEM像。
図3】代表的なPZT焼結体の3次元SEM像。
図4】空隙率と外表面と連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度の関係における、従来窯業法により製造可能なセラミックスと高緻密凝集体を用いて製造可能なセラミックスの相違を示す図。
図5】PZT高緻密凝集膜にエポキシ樹脂またはPMMA樹脂を含浸した膜の破断面SEM像。
図6】PZT圧粉膜およびPZTの高緻密凝集膜の漏れ電流特性の対比図。
図7】シリコーンオイルを内包したPZT高緻密凝集膜とTiO2ナノ粒子を内包したPZT高緻密凝集膜の分極特性の対比図。
図8】基材の両面にPMMAを含浸させたPZT高緻密凝集膜と電極層と電気伝導性を有する網目状の箔を順次積層した素子ユニット1の模式図、ユニット1の外観を示す写真、及び、ユニット1を複数積層した素子ユニット2の模式図。
図9】電気伝導性を有する網目状の箔を基材として作製したPZT高緻密凝集膜の外観を示す写真。
図10】基材の両面に設けたPZT高緻密凝集膜に、PMMAを含浸させず、電極層を介さずに直接、電気伝導性を有する網目状の箔を積層すると、一体化した素子ユニットが得られない様子を示す写真。
図11】エポキシ樹脂を含浸して架橋したPZT高緻密凝集膜の表層のエポキシ樹脂のみを膨潤させて剥離し、PZT高緻密凝集膜の表面に備えた電極層を露出するための製造手順を示す模式図。
図12】表層のエポキシ樹脂を膨潤させて剥離したPZTの高緻密凝集膜の表面と、表層にエポキシ樹脂を備えるPZTの高緻密凝集膜の表面を対比したSEM像。
図13】表層のエポキシ樹脂を膨潤させて剥離したPZTの高緻密凝集膜と、表層にエポキシ樹脂を備えるPZTの高緻密凝集膜の分極特性の対比図。
図14】第1のLCO粒子と第2のLCO粒子のSEM像。
図15】第1のLTO粒子と第2のLTO粒子のSEM像。
図16】正極シートと負極シートにポリマー電解質を含浸し、それぞれのシートの表層に備えたポリマー電解質で接合してから架橋した固体電池の製造手順を示す模式図と、正極シートと負極シートの間にポリマー固体電解質のシートを備えた固体電池の模式図。
図17】正極シートと負極シートにポリマー電解質を含浸し、それぞれのシートの表層に備えたポリマー電解質で接合してから架橋した固体電池と、正極シートと負極シートの間にポリマー固体電解質のシートを備えた固体電池の充放電特性の対比図。
図18】電池シートを折り畳むことで製造した固体電池と、折れている形状の電池シートを積層することで製造した固体電池の模式図。
図19】脆性材料粒子を包埋したポリマー電解質層を有する固体電池の模式図と、折れている形状の固体電池の写真、及び、折れて積層している形状の固体電池でLEDを点灯した写真。
図20】折れている形状の固体電池の充放電特性。
図21】アルミ箔の間に備えたポリマー固体電解質を折る前後のインピーダンス特性の対比図
【実施例
【0022】
<実施例1> PZT粒子を用いた高緻密凝集膜の空隙構造
次に、本発明の構造体の具体的な製造方法について説明する。
ステンレスSUS304(膜厚20μm)の表面に、第1粒子となるPZT粒子(平均粒形:1550nm)を付着した。
第1のPZT粒子は堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて溶融塩法で合成した。第1のPZT粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により350W、20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、60℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のSUS304へスプレー塗装することで、第1のPZT粒子をSUS304表面に付着した。
【0023】
次に、第2粒子の混合割合(第2粒子の占める体積/第1粒子と第2粒子を合わせた体積)が15%~30 %の間に収まるように、第2粒子を第1粒子の上に付着した。
第2粒子のスプレー塗装は、第1粒子と同様である。第2粒子はPZT粒子(平均粒形:150nm)を用いた。第2のPZT粒子は、まず堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて焼結体を作製し、乳鉢で粉体にした後、ジルコニアボール、アセトンと一緒にジルコニア製ボールミルポットに入れ、遊星型ボールミルにより粉砕し、アセトンを乾燥させて得られた粉体をエタノールに分散して遠心器にかけ、分級処理することで得た。第2のPZT粒子も第1のPZTと同様、エタノール中に分散してからPZT粒子が付着しているSUS304の表面にスプレーすることで、第1のPZT粒子の上に付着した。
【0024】
第1と第2の粒子が付着したSUS304は、ホットプレートから取り外して1cm2φの円板状に複数枚くりぬき、アルミ箔(膜厚20μm)の基材に第1と第2の粒子を押し当てて、加圧・転写し、基材上に固化した。
基材は弾性率が180GPa以下の金属あるいは炭素が好ましい。固化圧力は、原料微粒子が破砕する圧力より低く、2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。この実験では、1000MPaと400MPaの二通りで加圧した。この第1と第2の粒子をSUS304上からアルミ箔基材上に加圧・転写することを9回繰り返すことで、PZTの高緻密凝集膜(1000MPaで加圧)および圧粉膜(400MPaで加圧)をアルミ箔上に積層した。
【0025】
比較参考例として、相対密度が80%程度になるように堺化学工業製のPZT-LQ粉末を焼結し、焼結体を得た。
【0026】
得られた高緻密凝集膜、圧粉膜、および低緻密焼結体について、多点BET法(Krガス吸着法)により比表面積を評価した。結果を表1にまとめる。
PZTの真密度として、8.0g/cm3を用いた。粉体時の比表面積は、第1と第2のPZT粒子の平均粒形を直径とした球体と近似して算出した。焼結体における粒子のサイズは、焼結後観察される、互いに結合した粒子の平均粒径であり、粉体時の比表面積は、これがそのまま粉体として存在すると仮定した際の、粒径から算出した。いずれの場合も、PZT粒子自体は無孔性であると仮定している。
高緻密凝集膜と圧粉膜のPZT層の重さは、第1と第2のPZT粒子をアルミ箔上に堆積する前後で重量を計測し、その差分から求めた。高緻密凝集膜と圧粉膜の膜厚は、断面SEM像を観察し、膜厚の平均値を求めることで得た。これらの結果から、高緻密凝集体膜と圧粉膜のPZT層の密度を算出し、これをPZTの真密度で割ることで、PZT層の相対密度(%)を算出し、100から減ずることで、PZT層の全体の空隙率(%)を算出した。
PZT層のBET法による比表面積は、アルミ箔上にPZT膜を堆積したまま評価した。アルミ箔の比表面積はPZT層の比表面積に比べると無視できるほど小さいため、BET法により得られたアルミ箔を含むPZT膜全体の重量当たりの比表面積値をPZT膜に含まれるPZT層の重量当たりの値に換算することにより、堆積したPZT膜の重量からPZT層だけの比表面積を算出した。
BET法により測定される表面積は、測定対象試料の見かけの外表面から測定ガスであるKrが到達できる範囲の表面積であることから、PZT層のBET法による比表面積は、粉体からPZT層が形成される際に粉体同士が相互に接合することにより生じる界面の比表面積、及び、これによりPZT層の内部に閉じられた空間となる空隙部分に対応する比表面積を、粉体の比表面積から差し引いた値に相当する。
ここで、高緻密凝集膜、圧粉膜、低密度焼結体の空隙の形状は、其々、全体として一様であるので、粉体時の比表面積に対するPZT層のBET法による比表面積の比は、PZT層が有する全体の空隙のうち、PZT層の見かけの外表面と連通する部分の空隙の割合と近似する、とすることができる。
【表1】
【0027】
400MPaでプレスして得たPZT膜は空隙率が33.5%で通常の圧粉体と同等であるが、1000MPaでプレスしたPZT膜は空隙率が10%で高緻密化していた。PZT圧粉膜とPZT高緻密凝集膜のPZT層の比表面積は、どちらとも1.29m2/gであり、見かけの外表面と連通する空隙の全空隙に対する体積密度も98%以上であることが示された。また、表1(6)の粉体時の比表面積と表1(16)のPZT層の比表面積の比較は、PZT高緻密凝集膜においてPZT微粒子間で接している面積、及び当該微粒子の、微粒子間の接合により内部に閉じ込められた空隙に面する部分の面積は、微粒子が有する比表面積全体のうち2%程度しかないことを意味しており、本発明によるPZT高緻密凝集膜は、空隙率が10%まで高緻密化していても、比表面積は粉体とほぼ一致している特徴を備えている。
比較参考例の焼結体は、空隙率が21.8%に対して比表面積が0.43m2/gであり、見かけの外表面と連通する空隙の全空隙に対する体積密度は42.8%であった。
このように、本発明によるPZT高緻密凝集膜は、空隙率が20%以下という、従来では、焼結処理や粒子の破砕がなければ到達しえない高密度の膜であるとともに、凝集前の微粒子の比表面積に匹敵する大きな比表面積を凝集後も維持することができるという、極めて特異的な特徴を有するものである。
【0028】
次に、PZT高緻密凝集膜およびPZT焼結体について、3次元SEM観察により、微細構造の詳細を調べた。
PZT高緻密凝集膜はBET評価で用いた試料と同様に作製した。プレス圧は750MPaであり、凝集膜の空隙率は14%である。比較参考例として、空隙率4%の焼結体を用意した。
3次元SEM像は、表面の平面像を取得した後、FIBにより観察した面を薄く削り(高緻密凝集膜については50nm厚、焼結体については100nm厚)、再び平面像を取得することを繰り返し、得られた膨大な画像データをデジタル処理することで3次元のCGとして再現し、微細構造などを数値解析することができる。実験条件と結果を表2にまとめる。
図2の(a)に、3次元SEM観察に用いたPZT高緻密凝集膜の断面SEM像を示す。3次元SEM観察においては、当該断面像のうち、四角(7μm×7μm)で囲った領域を奥行き7μmまで観察した。図2の(b)に、PZT高緻密凝集膜の微細構造を再現した3次元画像、(c)に、観察した領域全体の空隙構造、(d)に、全体の空隙のうち最大体積を持つ、相互に連通し、観察した領域の外表面とも連通した、空隙部分、(e)に、当該外表面と連通した空隙以外の、観察した領域内の内部に閉じられ、孤立した空隙部分の、それぞれの3次元画像を示す。また、図3の(a)は、焼結体の微細構造を再現した3次元SEM像、(b)は、観察した領域全体の空隙構造の3次元画像を示す。図3の(b)中の黒い部分は、観察した領域の外表面と連通した空隙部分、灰色の部分は、内部に孤立した空隙部分である。
図2(a)から、750MPaで堆積したPZT高緻密凝集膜は均一で密度が高い様子が確認できる。図2(c)、(d)から、PZT高緻密凝集体の空隙構造は、観察した領域に全体的に網目状に広り、その空隙のほとんどが一体化していることが確認でき、図2(e)から、内部に孤立する空隙は少ないことが確認できる。一方で、図3(b)の焼結体の空隙構造は、粒界3重点を起点にバルク内で点在しており、相互に連通することは少ないことが確認できる。
この3次元SEMによる微細構造の観察結果は、上述の多点BET法によるBET比表面積を用いて導き出されたPZT高緻密凝集体およびPZT焼結体の微細構造と矛盾するところはなく、BET比表面積を用いて行った上述の考察が妥当であることを裏付けている。
また、このことから、上記3次元SEM解析に用いたプレス圧750MPaで作成したPZT高緻密凝集膜の、外表面と連通する空隙部分の比表面積は、原料粒子の粒形サイズ、混合比(73.8:26.2)から算出される原料粒子の比表面積、及び3次元SEM像から解析される、外表面と連通する空隙部分の全体の空隙に対する体積密度(98%)より、11.23μm2/μm3と見積もることができる。
【表2】
【0029】
上述の多点BET法と3次元SEM像観察の結果から導き出された、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度と全体の空隙率の関係を図4に示す。
図4中の上方の実線上の三つの白丸は、本発明で用いた凝集体の製造方法により、右からそれぞれ固化圧力400MPa、750MPa、1000MPaを用いて得られたPZTの凝集体のプロットであり、このうち左の2つは、空隙率20%以下であり、本発明の高緻密凝集体に相当し、また、右の1つは、空隙率が33.5%の、本発明の範囲外の圧粉体である。これらは、いずれも、外表面と連通する空隙部分の比表面積が、原料粉体の比表面積とほぼ等しい。
図4中の下方の実線は、PZT焼結体の外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度と全体の空隙率の関係を示しており、右の黒丸は、焼結前の成形体(未圧縮)を、真ん中の黒丸は、本実施例で得られた空隙率21.8%の焼結体を、左の黒丸は、同じく空隙率4%の焼結体を、それぞれプロットしたものである。
このように、焼結体においては、焼結により原料粒子が結晶成長することにより、空隙率が減少するに伴い、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度も減少する。
図4中、中央の点線は、本発明の凝集体の製造方法によらず、原料粒子の破砕が極力抑制される範囲において、通常の一段階の圧縮により得られたアルミナ粒子の圧粉体により得られる成形体の、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度と全体の空隙率の関係を示している。
点線上の黒い四角は、特許文献5と非特許文献1に記載のアルミナを、原料粒子の破砕が極力抑制される範囲において、通常の一段階の圧縮により得られる、従来公知の最少の空隙率を有する成形体としてプロットしたものであり、当該アルミナが圧粉体であることを考慮して、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度は、図4上方の圧粉体と同様の値であると仮定して、図4上方の実線上にプロットしている。
当該成形体を、例えば焼結することにより、あるいは、原料粒子の破砕を伴う成形を行った場合には、空隙率を更に小さくすることは可能であると考えられるが、これにより、原料粒子が結晶成長することにより、あるいは破砕することによって、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度も、点線に示すように減少すると考えられる。
PZT焼結体、及びアルミナの上記プロットは、熱処理や粒子の破砕を伴った従来の窯業法では、空隙率が低下するに従い、圧粉体で一体であった空隙が点在化することで最大空隙密度が低下する傾向にあることを示している。
一方で、本発明による高緻密凝集体は、原料粒子の破砕を極力抑制し、結晶成長も生じていないことから、空隙率が20%以下でも、一般的な焼結前のペレット成形体と同じ、ほぼ100%の外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度を維持できる。
上記アルミナのプロット、及びPZTの焼結体による曲線から、従来技術による空隙率と外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度の限界領域を示すことができ、一方で、本発明による高緻密凝集体により、これを例えば更に焼結ないし圧縮することによって、空隙率20%以下を備え、かつ、外表面に連通する空隙の全体の空隙に対する体積密度が60~65%以上の構造体を製造できるようになったことは明らかである。
【0030】
本発明の高緻密凝集体の微粒子間の平均空隙幅は、後述するシリコーンオイル、ナノ粒子を分散させた液体、又は液体の樹脂を含浸させる観点から、200nm以下になることが好ましい。図4に示す3次元SEM像観察を行ったPZT高緻密凝集膜の外表面と連通する空隙部分の比表面積は、上述のとおり、11.23μm2/μm3と見積もることができ、PZT高緻密凝集膜におけるPZT粒子の外表面と連通する空隙部分の平均空隙幅は、「空隙体積(48.38μm3)」を「表面積の半数(11.23μm2/μm3×343 μm3/ 2)」で割った商で近似すると、25nmとなる。
【0031】
図5の(a)は、PZTの高緻密凝集膜にエポキシを含浸して固化した膜の破断面SEM像である。アルミ箔上に堆積したPZT高緻密凝集膜を直径11.24mmと13mmの円で打ち抜き、低粘度エポキシ樹脂50分硬化型2液タイプ(新日レジン株式会社製)をPZT膜表面に1滴落し、2つのPZT高緻密凝集膜を対向させ、400MPaの圧力を加えながら硬化させた。
図5の(b)は、PZTの高緻密凝集膜にPMMAを含浸して固化した膜の破断面SEM像である。PMMAをアセトンに溶かし、SUS箔上の第1、第2のPZT微粒子の上に吹き付けて乾燥させ、粉末に戻した。吹き付けたPMMAの量は、第1、第2のPZT微粒子を高緻密化した際に生じる空隙体積分と同等である。SUS箔上の第1、第2のPZT微粒子とPMMAの粉末をアルミ箔上にプレスを繰り返して積層することで高緻密凝集膜にした後、アセトンをスポイトで落としてPMMAを再び溶かし、乾燥させることで再度固化して作製した。
【0032】
<実施例2> PZT粒子を用いた高緻密凝集膜の物性
次に、本発明による高緻密凝集体膜の漏れ電流特性と分極特性を調べた。
電気的な物性を評価するため、それぞれのPZT表面に、面積0.5mm×0.5mm、厚み400nmのAu電極をスパッタ法により堆積した。図6は、シリコーンオイルを含浸した空隙率約35%のPZT圧粉体膜の漏れ電流特性、空隙率が11%から15%のPZT高緻密凝集膜のシリコーンオイルの含浸前後の漏れ電流特性の変化、シリコーンオイルを含浸した空隙率約10%以下のPZT高緻密凝集膜の漏れ電流特性を、それぞれ示す図である。
空隙率が約35%の通常の圧粉体では、シリコーンオイルを含浸しても、非常に高い漏れ電流によって直ぐに絶縁破壊に至った。これに対し、空隙率が11%から15%のPZT高緻密凝集膜では、漏れ電流は4桁程度減少し、これにシリコーンオイルを含浸することで、さらに1桁程度の漏れ電流の減少が確認できた。さらに、シリコーンオイルを含浸した空隙率約10%以下のPZT高緻密凝集膜は、500kV/cmの高い印加電界でも漏れ電流が4.67×10-7A/cm2という、非常に優れた絶縁性を示した。
【0033】
図7は、空隙率10%以下のPZT高緻密凝集膜にシリコーンオイルを含浸した場合と、空隙率約10%のPZT高緻密凝集膜にTiO2ナノ粒子をエタノールに分散した溶液を含浸して900MPaで再度プレスした場合の、それぞれの分極特性を示す図である。
どちらも飽和した分極特性を示しており、また、シリコーンオイルを含浸したPZT高緻密凝集膜では残留分極値(Pr)が38μC/cm2、抗電界(Ec)は280kV/cmであり、一方、TiO2ナノ粒子をエタノールに分散した溶液を含浸したPZT高緻密凝集体ではPrが37 μC/cm2、抗電界(Ec)は400kV/cmまで大きくなった。
これは、PZT高緻密凝集膜に対してナノ粒子や樹脂などを含浸させることで、その機能性を制御できることを示唆している。
【0034】
<実施例3> 電極層に挟まれた高緻密凝集体の積層(図8)
(1)ユニット1の製造
SUS304(膜厚20μm)の表面に、第1粒子となるPZT粒子(平均粒形:1550nm)を付着した。
第1のPZT粒子は堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて溶融塩法で合成した。第1のPZT粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により350W, 20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、60℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のSUS304へスプレー塗装することで第1のPZT粒子をSUS304表面に付着した。
【0035】
第2粒子の混合割合(第2粒子の占める体積/第1粒子と第2粒子を合わせた体積)が15%~30%の間に収まるように、第2粒子を第1粒子の上に付着した。
第2粒子のスプレー塗装は、第1粒子と同様に行った。第2粒子はPZT粒子(平均粒形:150nm)を用いた。第2のPZT粒子は、まず堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて焼結体を作製し、乳鉢で粉体にした後、ジルコニアボール、アセトンと一緒にジルコニア製ボールミルポットに入れ、遊星型ボールミルにより粉砕し、アセトンを乾燥させて得られた粉体をエタノールに分散して遠心器にかけ、分級処理することで得た。第2のPZT粒子も第1のPZT粒子と同様、エタノール中に分散してからPZT粒子が付着しているSUS304の表面にスプレーすることで、第1のPZT粒子の上に付着した。
【0036】
第1と第2の粒子が付着したSUS304は、ホットプレートから取り外して直径13mmの円板状に複数枚くりぬき、幅1mm、長さ5mmのアルミ端子が付いた直径13mmアルミ箔(膜厚20μm)の基材を、SUS304に付着した第1と第2のPZT粒子で挟み、固化圧力を加えることで、アルミ箔の基材の両面でPZT粒子を固化し、第1粒子と第2粒子を基材の両面に転写した。
基材は弾性率が180GPa以下の金属あるいは炭素が好ましい。固化圧力は原料微粒子が破砕する圧力より低く、固化圧力は2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。
この実験では、アルミ箔の両面に450MPaで第1粒子と第2粒子を8回転写した後、ハードクロームメッキを施した鋼材を用いて900MPaでプレスし、各面それぞれ20μmの厚みで、絶縁性を示すPZT層をアルミ箔上に堆積した。
基材と絶縁性のPZTの高緻密凝集体膜の間に電気伝導性を有する高緻密凝集膜を備えても良い。
【0037】
比較参考例として、基材として電気伝導性を有する網目状の箔を用い、第1と第2のPZT粒子の転写を試みた。電気伝導性を有する網目状の箔は、レーザー加工により直径250μmφの穴を300μmピッチで空けたPETの両面に金電極をスパッタすることで作製した。
図9に、得られた凝集膜の顕微鏡写真を示す。図9に示すように、基材の穴の部分と穴の周辺では第1と第2のPZT粒子を十分に転写することができず(14に点在する暗部)、第1と第2のPZT粒子を固化できなかった。なお、13は、凝集膜が形成されていない部分は暗部となることの目安として、転写により形成された凝集膜を一部ぬぐい取った個所である。
【0038】
次に、両面に備わるPZTの高緻密凝集膜の表面に1cm2φの金をスパッタすることで電極層を堆積した。
この電極層の堆積は、次工程でPZTの高緻密凝集膜にPMMAを含浸させることから、高緻密凝集体の細孔を塞がない堆積法により行うことが好ましく、スパッタ法でも良く、真空蒸着法でも良く、電気伝導性を有する高緻密凝集膜を形成させても良い。
【0039】
金電極をスパッタしたPZTの高緻密凝集膜の両面ともにPEGMEAに溶かしたPMMAを含浸させ、幅1mm長さ5mmの端子の付いた電気伝導性を有する1cm2φの網目状の箔で挟みこみ、6N/cm2で拘束しながら60℃でPEGMEAを揮発させ、PMMAを固化した。
この実験では、電気伝導性を有する網目状の箔は、レーザー加工により直径250μmφの穴を300μmピッチで空けたPETの両面に金電極をスパッタすることで作製したが、金属箔に同様の細かな穴を空けた箔でも好ましく、金属やカーボンなどの電気伝導性を有する糸を織り込んだクロスでも好ましく、3Dプリンタで製造した電気伝導性を有する網目状の箔でも好ましい。
このようにして得られたユニット1の比誘電率は、136であった。
【0040】
比較参考例として、電極層を備えずに、電気伝導性を有する網目状の箔を、基材両面の高緻密凝集膜へ、直接、PEGMEAに溶かしたPMMAを用いて上記と同様に接合したところ、得られたユニットの比誘電率は0.67であった。
このことから、電気伝導性を有する網目状の箔のみでは、PZTの高緻密凝集膜に対し、電極としての十分な密着が得られなかったものと考えられる。
【0041】
比較参考例として、PEGMEAに溶かしたPMMAを用いずに、直接、電気伝導性を有する網目状の箔とPZTの高緻密凝集膜を接触させ、1GPaの固化圧力を加えることで接合を試みたが、図10に示す通り、接合できなかった(図10の左右は網目状の箔、中央は両面に高緻密凝集膜を設けた基材)。
【0042】
(2)ユニット2の製造
上記(1)で製造したユニット1の素子を3個積層した(ユニット2)。各ユニット1の間にはPEGMEAに溶かしたPMMAを含浸させ、6N/cm2で拘束しながら60℃でPEGMEAを揮発させることでPMMAを固化した。
これにより、ユニット1を積層化するに際し、拘束治具などで常に押さえておく必要がない、一体化した電気素子ユニットを作製できた。
【0043】
<実施例4>高緻密凝集膜表面上で固化した樹脂の除去
プレス成型した高緻密凝集膜に樹脂を過不足なく含侵して固化し、高緻密凝集膜の表面だけを露出することは非常に困難である。例えば、溶媒に溶かして製造したPMMAなどの樹脂を含む液体を含侵してから、その溶媒を揮発させて固化した場合、溶媒の揮発による体積の減少によって高緻密凝集膜の表面まで固化した樹脂が届かない、あるいは、塗布した液体が多すぎて余剰樹脂が固化して表層を形成する課題がある。加えて、エポキシ樹脂等を含侵した場合、表面に溢れた固化する前の余剰をシリコーンゴム等でそぎ落とそうとすると、プレス成型しただけの高緻密凝集膜も容易に破壊される課題がある。
【0044】
例えば、強誘電性を示す高緻密凝集膜上に、余剰樹脂が固化して表層を形成したままスパッタ法等により上部電極を形成すると、その上部電極と強誘電性高緻密凝集膜の間の固化した余剰樹脂に電界が集中して、強誘電性や圧電性が示されなくなる課題がある。また、高緻密凝集膜上に予め上部電極を堆積してから樹脂を含侵し、余剰樹脂が固化して表層を形成すると、その表層の固化した余剰樹脂が上部電極と回路の接続を阻害する課題がある。
【0045】
本発明者らは、高緻密凝集膜の内部に含侵して固化した樹脂と表面で固化して表層となった樹脂との間で、有機溶剤への溶解する速度や有機溶剤に浸した際の膨潤する速度が異なることを見出し、当該製造方法が上述の課題を解決し得ることを見出した。次に、具体的な製造方法についてPZTを一例に説明する。
【0046】
ステンレスSUS304(膜厚20μm)の表面に、第1粒子となるPZT粒子(平均粒形:1550nm)を付着した。
第1のPZT粒子は堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて溶融塩法で合成した。第1のPZT粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により350W、20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、60℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のSUS304へスプレー塗装することで、第1のPZT粒子をSUS304表面に付着した。
【0047】
次に、第2粒子の混合割合(第2粒子の占める体積/第1粒子と第2粒子を合わせた体積)が15%~30%の間に収まるように、第2粒子を第1粒子の上に付着した。
第2粒子のスプレー塗装は、第1粒子と同様である。第2粒子はPZT粒子(平均粒形:150 nm)を用いた。第2のPZT粒子は、まず堺化学工業製のPZT-LQ粉末を用いて焼結体を作製し、乳鉢で粉体にした後、ジルコニアボール、アセトンと一緒にジルコニア製ボールミルポットに入れ、遊星型ボールミルにより粉砕し、アセトンを乾燥させて得られた粉体をエタノールに分散して遠心器にかけ、分級処理することで得た。第2のPZT粒子も第1のPZTと同様、エタノール中に分散してからPZT粒子が付着しているSUS304の表面にスプレーすることで、第1のPZT粒子の上に付着した。
【0048】
第1と第2の粒子が付着したSUS304は、ホットプレートから取り外して1cm2φの円板状に複数枚くりぬき、アルミ箔(膜厚20μm)の基材に第1と第2の粒子を押し当てて、加圧・転写し、基材上に固化した。
基材は弾性率が180GPa以下の金属あるいは炭素が好ましい。固化圧力は、原料微粒子が破砕する圧力より低く、2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。この実験では、1000MPaで加圧した。この第1と第2の粒子をSUS304上からアルミ箔基材上に加圧・転写することを9回繰り返すことで、PZTの高緻密凝集膜をアルミ箔上に積層した。図11の(a)は、このPZT高緻密凝集膜の表面にAu上部電極をスパッタした試料の模式図である。Au上部電極の面積は0.5mm×0.5mmであり、厚みは400nmとした。
【0049】
次に、図11の(b)に示すように、エポキシ樹脂が表面を覆うように含侵した。低粘度エポキシ樹脂50分硬化型2液タイプ(新日レジン株式会社製)を用いた。この含侵処理の後、70℃2時間以上の熱処理によってエポキシ樹脂を架橋して固化した。
【0050】
次に、図11の(c)に示すように、試料表面にシクロヘキサンを数mL表面に塗布して30分間静置し、表層の余剰エポキシ樹脂のみを膨潤させ、図11の(d)に示すようにピンセットで慎重にはく離し、図11の(e)に示すように、PZTの高緻密凝集膜とAu上部電極を露出させた。
【0051】
図12の(a)は、図11の(e)に示したAu上部電極の表面SEM像である。比較参考例として、図11の(b)に示した余剰エポキシ樹脂はく離前の表面SEM像を図12の(b)に示す。比較参考例では、表層の余剰エポキシ樹脂によってPZT粒子をSEMで確認することができないが、上述のシクロヘキサンによる膨潤処理とはく離によって、エポキシ樹脂を含侵したPZT高緻密凝集膜とAu上部電極が露出されていることを確認できる。
【0052】
固化した表層の過剰エポキシ樹脂は、シクロヘキサンと「面」で接触するが、PZTの高緻密凝集膜に含侵したエポキシ樹脂に到達したシクロヘキサンは「点」で接触するため膨潤しにくくなり、結果として表層の過剰エポキシ樹脂のみを除去することが可能になったと考えられる。
【0053】
図13の(a)はエポキシ樹脂を含侵したPZTの高緻密凝集膜の分極特性である。十分に飽和したヒステリシスループを確認することができる。図13の(b)に示す表層に過剰エポキシ樹脂を残した比較参考例では、その過剰エポキシ樹脂がAu上部電極と強誘電性評価装置との間での回路接続を阻害し、ヒステリシスループを示すことができなかった。
【0054】
加えて、この飽和したヒステリシスループを示すエポキシ樹脂を含侵したPZT高緻密凝集膜の表面にカプトン粘着テープを張り付けてから剥がしても、基材のアルミ箔からPZT高緻密凝集膜ははく離しなかったが、シリコーンオイルを含侵したPZTの高緻密凝集膜は基材のアルミ箔から容易にはがれた。
これにより、高い接合強度とセラミックスの機能性を有する高緻密凝集膜の作製ができた。
【0055】
<実施例5> 可撓性を有するシート状全固体リチウムイオン電池の作製
ポリマー固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池は、液系電解液に比べてイオン伝導度が低く、50℃以上の温度しなければ充放電できない課題がある。また、ポリマー電解質は粘性が高くて含浸に時間がかかるなどの課題があり、活物質を高密度に含めることによる高エネルギー密度化でも課題がある。本発明による高緻密凝集体は隅々まで液体を含侵する特徴を有しており、電極層にこの構造体を用いてポリマー固体電解質を含侵することで、リチウムイオンの拡散移動距離を大幅に縮め、室温でも動作できる全固体リチウムイオン電池が作製できることを見出した。
【0056】
この全固体リチウムイオン電池は、基材の上に正極活物質の高緻密凝集膜を形成した正極シートと、基材の上に負極活物質の凝集膜を形成した負極シートとを備えることが好ましく、これら正極シートと負極シートにポリマー電解質が含侵している特徴を備えることが好ましい。このポリマー電解質は架橋していないポリマー電解質でも良いが、架橋して固化したポリマー固体電解質であることが好ましい。また、正極活物質の高緻密凝集膜と負極活物質の凝集膜の間に、ポリマー電解質層を備えることが好ましい。
【0057】
正極シートの高緻密凝集体の厚みと負極シートの凝集膜の厚みは、それぞれ3μmから50μm程度が好ましく、1μmから300μmの間にあれば良い。また、正極シートの高緻密凝集体の空隙率は20%以下であることが好ましく、負極シートの凝集体の空隙率は35%以下で良い。
正極活物質は、次に限られることはないが、コバルト酸リチウム(LCO)、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸化物、ニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムリン酸鉄などが挙げられる。
負極活物質は、次に限られることはないが、チタン酸リチウム(LTO)、炭素、金属シリコンなどが挙げられる。
正極シートの基材はアルミが好ましいが腐食に強いAuやPtを被覆した弾性率が180GPa以下の金属あるいは炭素が好ましい。正極シートの基材の厚みは10μmから30μmの間にあることが好ましいが、5μmから50μmの間でも良い。
負極シートの基材は、Auを10nmから1μmの厚みで被覆したアルミが好ましいが、Li+に耐性のあるCuやPtを被覆した被覆した弾性率が180GPa以下の金属あるいは炭素でも良い。負極シートの基材の厚みは10μmから30μmの間にあることが好ましいが、5μmから50μmの間でも良い。
ポリマー電解質層は、架橋していないポリマー電解質でも良いが、架橋して固化したポリマー固体電解質を備えることが好ましい。また、ポリマー電解質層のイオン伝導率は高ければ高いほど良いが、1×10-6 S/cmから1S/cmを備えれば良い。ポリマー電解質層の厚みは、1μmから20μmであることが好ましいが、100nmから50μmの間にあれば良い。
次に、具体的な製造方法の一例を説明する。
【0058】
正極活物質にLiCoO2(LCO)の粉末を用いた。この粉末は市販のものである(日本化学工業株式会社製「セルシード5hV」)。0.5gのLCO、50mLのエタノール、窒化ケイ素のボール(10mmφ、5mmφ、2mmφを均等に合計約500g)を500ccのジルコニア製容器(フリッチュ製)に入れて、遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-6クラシックライン)により200rpmで12時間粉砕した。
【0059】
遊星型ボールミルから取り出した液体が250mLになるようにエタノールを加えて、470×gの遠心力で5分間の遠心分離を行った。沈殿した粒子のSEM像を図14の(a)に示す。平均粒子サイズは約1μm程度であった。この粒子を第1のLCO粒子とした。遠心分離で残った溶液は、70mL程度になるまで真空乾燥器内で揮発させた。得られた液体を第2のLCO溶液とし、第2のLCO溶液を乾燥させることで得られた粒子を第2のLCO粒子とした。第2のLCO粒子のSEM像を図14の(b)に示す。第2のLCO粒子は第1のLCO粒子よりも十分に粉砕されていることが確認できる。この第2のLCO粒子をより高倍率でSEM観察すると、図14の(c)に示すように、厚み数nmで広さが数nmから1μm程度までのナノシートが含まれていることを確認した。
【0060】
次に、ステンレスSUS304箔(膜厚20μm)に約1μm程度の厚みのアルミナ膜をAD法で堆積したアルミナ被覆SUS304を作製した。そのアルミナ膜面に、第1粒子となるLCO粒子を付着した。第1のLCO粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、超脱水ヘプタンを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により150W、20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、70℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のアルミナ被覆SUS304へスプレー塗装することで、第1のLCO粒子をアルミナ被覆SUS304表面に付着した。
【0061】
次に、第2のLCO粒子の混合割合(第2粒子の占める体積/第1粒子と第2粒子を合わせた体積)が15%~35%の間に収まるように、第2のLCO粒子を第1のLCO粒子の上に付着した。第2のLCO粒子のスプレー塗装は、第2のLCO溶液を用いた。第1のLCO粒子と同様、第1のLCO粒子が付着しているアルミナ被覆SUS304の表面にスプレーすることで、第1のLCO粒子の上に付着した。
【0062】
第1と第2のLCO粒子が付着したアルミナ被覆SUS304は、ホットプレートから取り外して、露点温度-40℃以下の空気中で350℃5分間の加熱処理を行った。
【0063】
次に、角状のアルミ箔(面積6mm×10mm、膜厚12μm)の基材を用意した。正極シートであることを容易に視認できるように、この角状のアルミ箔でLCOを固化する面の反対側の面にAu膜を400nmの厚みでスパッタした。露点温度-40℃以下の空気中で、第1と第2のLCO粒子をアルミの面に押し当てて、加圧・転写し、基材上に固化した。固化圧力は、原料微粒子が破砕する圧力より低く、2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。この実験では420MPaで加圧した。この第1と第2の粒子をアルミナ被覆SUS304上からアルミ箔基材上に加圧・転写することを4回繰り返すことで、LCOの高緻密凝集膜をアルミ箔上に積層した。LCO高緻密凝集膜の厚みは5μm程度であった。これらの方法で、正極シートを得た。
【0064】
負極活物質にLi4Ti5O12(LTO)の粉末を用いた。この粉末は、LTO粒子表面に炭素を被覆した市販のもの(Xiamen Tmax Battery Equipments Limited製、LTO-2)と、試薬から合成したものを用いた。
【0065】
まず、市販の炭素被覆LTO粒子1gをエタノール250mL中に分散した溶液を用意し、75×gの遠心力で遠心分離し、液体を取り出して十分に乾燥して粉体を得た。この粉体の粒子を第1のLTO粒子とする。図15の(a)にこの粒子のSEM像を示す。平均粒子サイズは800nm程度であった。
【0066】
次に、Li4Ti5O12の定比組成で20gになるように、炭酸リチウム(高純度化学製、LIH06XB)、酸化チタン(高純度化学製、TIO14PB)を秤量し、200mLのエタノールと窒化ケイ素のボール(10mmφ、5mmφ、2mmφを均等に合計約500g)とともに500ccのジルコニア製容器(フリッチュ製)に入れて、遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-6クラシックライン)により500rpmで2時間粉砕混合した。得られた液体をトレーに移して80℃で十分に乾燥した後、得られた混合粉末をアルミナのるつぼへ移して800℃6時間の熱処理を施した。得られた粉末を再び200mLのエタノールと窒化ケイ素のボール(10mmφ、5mmφ、2mmφを均等に合計約500g)とともに500ccのジルコニア製容器(フリッチュ製)に入れて、遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-6クラシックライン)により500rpmで2時間粉砕し、トレーに移して80℃で十分に乾燥してから得られた粉末をアルミナるつぼに移して800℃6時間の熱処理を施してLTO粉末を得た。
【0067】
このLTO粉末1gと50mLのエタノール、窒化ケイ素のボール(10mmφ、5mmφ、2mmφを均等に合計約500g)を500ccのジルコニア製容器(フリッチュ製)に入れて、遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-6クラシックライン)により250rpmで18時間粉砕した。得られた液体が500mLになるようにエタノールを追加してから、836×gの遠心力で15分間遠心分離し、この遠心分離した液体が100mLになるまで真空乾燥機内でエタノールを揮発した。この濃縮した液体を第2のLTO溶液とした。また、この第2のLTO溶液の半分(50mL)を別容器に移して真空乾燥機内でさらに十分に乾燥し、LTO粉末を得た。このLTO粉末の粒子を第2のLTO粒子とした。第2のLTO粒子のSEM像を図15の(b)に示す。第2のLTO粒子は第1のLTO粒子よりも十分に粉砕されていることが確認できる。この第2のLTO粒子をより高倍率でSEM観察すると、図15の(c)に示すように、厚み数nmで広さが数nmから1μm程度までのナノシートが含まれていることを確認した。
【0068】
次に、ステンレスSUS304箔(膜厚20μm)に約1μm程度の厚みのアルミナ膜をAD法で堆積したアルミナ被覆SUS304を作製した。そのアルミナ膜面に、第1粒子となるLTO粒子を付着した。第1のLTO粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により150W、20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、70℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のアルミナ被覆SUS304へスプレー塗装することで、第1のLTO粒子をアルミナ被覆SUS304表面に付着した。
【0069】
次に、第2のLTO粒子の混合割合(第2粒子の占める体積/第1粒子と第2粒子を合わせた体積)が25%程度になるように、第2のLTO粒子と第1のLTO粒子をそれぞれミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50 ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により150W、20kHzの超音波で1分間の分散処理した溶液を用意した。この第1と第2のLTO粒子を含む溶液を、第1のLTO粒子と同様、第1のLTO粒子が付着しているアルミナ被覆SUS304の表面にスプレーすることで、第1のLTO粒子の上に第1と第2のLTO粒子の混合を付着した。
【0070】
次に、最初にスプレーで付着した第1のLTO粒子と第2のLTO粒子の混合割合が15%~35%の間に収まるように、第2のLTO粒子を第1と第2が混合したLTO粒子の上に付着した。この第2のLTO粒子のスプレー塗装は、第2のLTO溶液を用いた。
【0071】
第1と第2のLTO粒子が付着したアルミナ被覆SUS304は、ホットプレートから取り外して、露点温度-75℃以下、酸素濃度50ppm以下の雰囲気中で350℃5分間の加熱処理を行った。
【0072】
表面にAuを400nm程度の厚みでスパッタした角状のアルミ箔(面積8mm×12mm、膜厚13μm)の基材を用意し、露点温度-40℃以下の空気中で、第1と第2のLTO粒子をAuスパッタした面に押し当てて、加圧・転写し、基材上に固化した。このAuスパッタ膜は、アルミとLi+が反応しないためのバリア層であり、Li+に対して耐性が高いCuやPtなどでも良い。固化圧力は、原料微粒子が破砕する圧力より低く、2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。この実験では420MPaで加圧した。この第1と第2の粒子をアルミナ被覆SUS304上からアルミ箔基材上に加圧・転写することを4回繰り返すことで、LTOの凝集膜をアルミ箔上に積層した。LTO凝集膜の厚みは5μm程度であった。これらの方法で、負極シートを得た。
【0073】
正極シート及び負極シートにポリマー固体電解質を含浸して、ポリマー固体電解質を用いて正極シートと負極シートを接合し、全固体リチウムイオン電池にする方法を説明する。ポリマー固体電解質には、市販の株式会社大阪ソーダ製の「商品名:全固体ポリマー電解質」(アセトニトリルに20wt%溶解したポリマー電解質及び架橋開始剤)を用いた。この実験で合成した全固体ポリマー電解質のイオン伝導度は2×10-5 S/cmであった。
【0074】
図16の(a)は負極シートである。露点温度-40℃以下の空気中でアセトニトリルに溶かしたポリマー電解質と架橋開始剤を指定の分量で十分混合し、図16の(b)に示すようにその溶液を負極シートへ含侵した。その後、アセトニトリルを十分に揮発させることで、図16の(c)に示すポリマー電解質と架橋開始剤を含侵した負極シートを用意した。正極シートも同様に含侵させて、アセトニトリルを十分に揮発させることで、ポリマー電解質と架橋開始剤を含浸した正極シートを用意した。これらの正負極2枚のシートを、図16の(d)に示すように空気が入らないように貼り合わせ、露点温度-70℃以下、酸素濃度50ppm以下で70℃1時間の熱処理を行い、ポリマー電解質を架橋させ、図16の(e)に示す全固体リチウムイオン電池を作製した。正極シートと負極シートの間に備えたポリマー電解質層の厚みはおよそ20μmであった。
【0075】
比較参考例として図16の(f)に示した、厚さ50μmの市販の全固体ポリマー電解質シート(イオン伝導度:5×10-5S/cm)を正極シートと負極シートの間に備えた全固体リチウムイオン電池も作製した。
【0076】
作製した全固体リチウムイオン電池の充放電曲線を図17に示す。評価条件は25℃、0.01Cである。高緻密凝集膜にポリマー固体電解質を含侵した全固体リチウムイオン電池からは典型的なLCOの充放電曲線を反映した特性が得られており、室温で充電および放電ができることを確認した。一方で、全固体ポリマー電解質シートを挟むことで作製した電池は、十分な充放電ができなかった。
【0077】
これにより、高緻密凝集膜の隅々までポリマー固体電解質を含侵させることで、室温でも動作できる酸化物系全固体リチウムイオン電池が動作できた。
【0078】
<実施例6> 可撓性を有した折れる全固体リチウムイオン電池
従来リチウムイオン電池は、液系、全固体に関わらず、「角型リチウムイオン電池」のように電池シートを巻いてケースに収める、あるいは、「ラミネート型リチウムイオン電池」のように電池シートを積層して縁から端子を取り出し接合することで高容量化を実現している。しかしながら、ケース形状や正負極それぞれの端子を縁から取り出す等、電池全体の形状に制約が生じる課題がある。
【0079】
発明者らは、高緻密凝集膜を電極層に用いて、この構造体にポリマー固体電解質を含侵し、加えて、ポリマー電解質層にセラミック粒子を包埋することで、可撓性を有して折ることもできる電池シートが作製できることを見出した。この電池シートにより、図18の(a)に示す折り畳んだ電池形状や、図18の(b)に示す電池シートの端を折り曲げて積層した電池形状など、形状自由度の高い電池が作製できると考えられる。さらに、これらの折って積層した電池構造ならば、正負極の両端子を縁だけでなく面からも直接に取り出すことができる。加えて、CFRPやFRPのように樹脂を含むクロスと、この折れた電池シートを積層し、全体を架橋した樹脂で覆った固体電池は、例えば、スマートフォンのケースなどの構造部材となりえる。
【0080】
この可撓性を有して折れる電池シートは、図19の(a)に示すように、ポリマー固体電解質を含侵した上述の正極シートおよび負極シートの間に、セラミック粒子を包埋したポリマー固体電解質層を備えることが好ましい。このセラミック粒子は充放電中にLi+と反応しない物、例えば、SiC、SiO2、Si3N4、及び、アルミナやジルコニアなどの酸化物でも良い。また、還元電位が負極活物質より低いリチウムイオン伝導体、例えばガーネット型リチウムイオン伝導体のLi7La3Zr2O12などでも良い。セラミック粒子の粒形は100nmから10μmの間にあることが好ましい。セラミック粒子を包埋したポリマー固体電解質層の厚みは1μmから10μm程度が好ましく、100nmから50μmの間にあれば良い。ポリマー固体電解質層のセラミック粒子の含有率は、リチウムイオン伝導性を示さない酸化物の場合は10%から70%の間にあることが好ましく、リチウムイオン伝導体であれば、10%から80%の間にあれば良く、高緻密凝集体であっても良い。
次に、折れて可撓性を有する全固体リチウムイオン電池の具体的な製造方法の一例を説明する。
【0081】
ステンレスSUS304(膜厚20μm)の表面に、アルミナ粒子(住友化学製、スミコランダムAA-2、平均粒形:2μm)を付着した。
AA-2粒子をミクロ分析天秤(SHIMADZU, MODEL:AEM-5200)で秤量して、エタノールを入れた50ccのガラス容器へ移し、超音波ホモジナイザー(SONIC & MATERIALS社製,MODEL:VCX750)により150W、20kHzの超音波で1分間の分散処理を行い、エアブラシ塗装システム(GSIクレオス製,PS311エアブラシセット)に溶液を移して、60℃に設定したホットプレートの上にあらかじめ用意しておいた転写板のSUS304へスプレー塗装することで、AA-2粒子をSUS304表面に付着した。
【0082】
AA-2が付着したSUS304は、ホットプレートから取り外して露点温度-40℃以下の環境で350℃5分間の熱処理の後、正極シートと負極シートにAA-2の粒子を押し当てて、加圧・転写した。正極シート及び負極シートの作製は、実施例5と同様である。加圧・転写圧力は、原料微粒子が破砕する圧力より低く、2GPa以下の特徴を備えることが好ましい。この実験では、420MPaで加圧した。このAA-2の粒子をSUS304上から正極シートおよび負極シートに加圧・転写することを1回行った。
【0083】
次に、AA-2が付着した正極シートと負極シートそれぞれに、実施例5と同様、株式会社大阪ソーダ製の20wt%の全固体ポリマー電解質を含侵し、アセトニトリルを十分揮発させてから、正極の高緻密凝集膜と負極の凝集膜を空気が入らないように貼り合わせた後、7kNのプレス圧をかけて、架橋前の余剰ポリマー電解質を押し出して電池シートを作製した。ポリマー電解質層の厚みは5μm程度になり、実施例5よりも薄く作製できた。
【0084】
実施例5のようにセラミック粒子を含まないポリマー電解質層を備える電池シートについて、プレス処理による過剰ポリマー電解質の押し出しを行うと、正極活物質の高緻密凝集膜と負極の凝集膜が接触して短絡した。
【0085】
得られた電池シートの端を180°折り曲げた後、露点温度-70℃以下、酸素濃度50ppm以下で70℃1時間の熱処理を行い、ポリマー電解質を架橋させ、全固体化した。図19の(b)と(c)に、折り曲げた全固体リチウムイオン電池シートの写真を記す。また、この折り曲げた全固体リチウムイオン電池シートを充電してから図18の(b)に示すように積層し、LEDに接続して光ることを確認した写真を図19の(d)に示す。
【0086】
図20に折り曲げた全固体リチウムイオン電池シートの充放電特性を示す。評価は0.01C、25℃で行った。LCO特有の充放電曲線を反映した特性を確認した。比較参考例として、実施例5の電池を同様に折り曲げてからポリマー固体電解質を架橋して全固体化したが、正極と負極が短絡して充電できなかった。また、実施例5の電池を折り曲げても、正極と負極が短絡して充電ができなかった。
【0087】
参考として、厚み9μmのポリマー固体電解質を厚み13μmアルミ箔の間に備えて折り曲げた前後のインピーダンス特性の対比を図21に示す。実施例5のポリマー電解質層より十分に薄いが、折り曲げた前後で変化は確認されず、短絡しなかった。実施例5の電池を折り曲げて短絡した原因は、電池を折ることで正極の高緻密凝集膜あるいは負極の凝集膜のセラミック粒子が流動し、ポリマー固体電解質に強い剪断力を与え、ポリマー固体電解質が切断されたためと考えられる。したがって、ポリマー電解質層に備えたセラミック粒子には、電池を折った際に働く正負極活物質の流動を抑制する効果があると考えられる。
これにより、可撓性を有して折れている形状の全固体リチウムイオン電池が作製できた。
【符号の説明】
【0088】
1:第1粒子
2:第1空隙
3:第2粒子
4:第2空隙
5:粒界3重点における空隙
6:焼結体粒子
7:ユニット1
8:ユニット2
9:基材
10:高緻密凝集膜
11:電極層
12:電気伝導性を有する網目状の箔
13:電気伝導性を有する網目状の箔上に残留した第1と第2のPZT粒子をウエスで除去した部分
14:電気伝導性を有する網目状の箔上に残留した第1と第2のPZT粒子(点在する明るい部分)
15:Auスパッタ上部電極
16:PZTセラミック粒子
17:アルミ基材
18:架橋したエポキシ樹脂
19:シクロヘキサンにより膨潤したエポキシ樹脂
20:負極活物質
21:負極シートの基材
22:溶媒に溶けた架橋前のポリマー電解質と架橋開始剤
23:溶媒を揮発させた架橋前のポリマー電解質と架橋開始剤
24:正極シートの基材
25:正極活物質
26:架橋して固化したポリマー電解質
27:電気伝導体
28:セラミック粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21