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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20241121BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241121BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20241121BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08K3/40
C08K7/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020210089
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096861
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】出井 秀和
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-069194(JP,A)
【文献】特開2016-037581(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106280456(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08K 3/013
C08K 3/40
C08K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が5~500Pa・sのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機ナノチューブ(但し、炭素原子を含まないものに限る。)を0.01質量部以上10質量部未満含む、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。(但し、ポリフェニレンサルファイド系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01~100重量部とからなるポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物を除く。)
【請求項2】
前記無機ナノチューブが、アルミノシリケートナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブ、酸化チタンナノチューブ、金属硫化物ナノチューブ、及び金属ハロゲン化物ナノチューブからなる群より選ばれる1種である、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルミノシリケートナノチューブが、ハロイサイトナノチューブ又はメタハロイサイトナノチューブである、請求項2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、非導電性無機充填剤(但し、前記無機ナノチューブを除く。)5~250質量部を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項5】
前記非導電性無機充填剤が、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム及びタルクからなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項4に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項6】
温度310℃及びせん断速度1200sec -1 で測定した溶融粘度が5~500Pa・sのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機ナノチューブ(但し、炭素原子を含まないものに限る。)を0.01質量部以上10質量部未満添加する、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物のバリの抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」と呼ぶ場合がある)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下「PAS樹脂」と呼ぶ場合がある)は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。しかしながら、PAS樹脂は、結晶化速度が遅いため成形時のサイクル時間が長い、また成形時にバリの発生が多いという問題があった。
【0003】
バリの発生を低減する方法としては、各種アルコキシシラン化合物を添加することが知られている(特許文献1~2参照)。各種アルコキシシラン化合物PAS樹脂との反応性が高く、機械的物性の改良、バリ発生を抑制する効果等が認められている。しかし、バリ発生の抑制効果には限界があり、市場の要求を充分満足させるには至っておらず、また結晶化速度を速くする効果を併せ持っていない。
【0004】
上記問題の解決を図るため、特定のPAS樹脂に特定のカーボンナノチューブ及び必要に応じて無機充填剤の各々特定量を配合した樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。その他、溶融粘度が異なる2種のPPS樹脂と、所定の平均粒子径を有するカオリン、アタパルジャイト、又はその混合物とを含む樹脂組成物が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平6-21169号公報
【文献】特開平1-146955号公報
【文献】特開2006-143827号公報
【文献】特開平09-157525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載の樹脂組成物は、バリの発生を十分に抑えるには、カーボンナノチューブを比較的多量に添加する必要がある。そうすると、カーボンナノチューブの導電性により、樹脂組成物が導電性を有することとなる。そして、そのような樹脂組成物は、絶縁性が要求される成形品に用いることができない。また、特許文献4には、所定の平均粒子径を有するカオリン、アタパルジャイト、又はその混合物について、「材料に揺変性を付与する効果(溶融粘度のせん断速度依存性を高める効果)があると思われ、射出成形における保圧過程(せん断速度が小さくなる過程)で材料の溶融粘度が一気に上昇することによりバリの発生が大幅に低減されると思われる。」と記載されている。つまり、カオリン等の無機充填材は、射出成形における材料の溶融粘度を一気に高めることを目的に使用されることから一定量以上の量が必要と考えられ、実際にPPS樹脂組成物100重量部に対し、10~150重量部が好ましい旨記載されている。カオリン等の無機充填材を添加することでバリの発生を抑えることができるが、添加量を多いことにより成形性や強度低下など別の問題が発生することが危惧される。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、バリの発生が少ないポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)温度310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が5~500Pa・sのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機ナノチューブ(但し、炭素原子を含まないものに限る。)を0.01質量部以上10質量部未満含む、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0009】
(2)前記無機ナノチューブが、アルミノシリケートナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブ、酸化チタンナノチューブ、金属硫化物ナノチューブ、及び金属ハロゲン化物ナノチューブからなる群より選ばれる1種である、前記(1)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0010】
(3)前記アルミノシリケートナノチューブが、ハロイサイトナノチューブ又はメタハロイサイトナノチューブである、前記(2)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0011】
(4)前記ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、非導電性無機充填剤(但し、前記無機ナノチューブを除く。)5~250質量部を更に含む、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0012】
(5)前記非導電性無機充填剤が、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム及びタルクからなる群より選ばれる1種又は2種以上である、前記(4)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バリの発生が少ないポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、温度310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が5~500Pa・sのポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機ナノチューブ(但し、炭素原子を含まないものに限る。)を0.01質量部以上10質量部未満含む。
【0015】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、無機ナノチューブを含むことによりバリの発生を抑えている。無機ナノチューブの添加によりバリが抑制されるメカニズムは、結晶化速度の向上(核剤効果による固化速度向上)が寄与していると推定される。また、結晶化速度の向上により、成形サイクルの短縮化を図ることができる。更に、無機ナノチューブは、一般に絶縁性を有するものが多く、絶縁性を有する無機ナノチューブを用いればPAS樹脂組成物の絶縁性が低下することはない。その点においてカーボンナノチューブを用いるものとは異なる。
以下に、本実施形態のPAS樹脂組成物の各成分について説明する。
【0016】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂]
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0017】
上記アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0018】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、p-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0019】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0020】
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1200sec-1)は、上記混合系の場合も含め、機械的物性と流動性のバランスの観点から、5~500Pa・sのものを用いる。PAS樹脂の溶融粘度は、7~300Pa・sが好ましく、10~250Pa・sがより好ましく、13~200Pa・sが特に好ましい。
【0021】
尚、本実施形態のPAS樹脂組成物は、その効果を損なわない範囲で、樹脂成分として、PAS樹脂に加えて、その他の樹脂成分を含有してもよい。その他の樹脂成分としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂、弗素樹脂、環状オレフィン系樹脂(環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等)、熱可塑性エラストマー、シリコーン系ポリマー、各種の生分解性樹脂等が挙げられる。また、2種類以上の樹脂成分を併用してもよい。その中でも、機械的性質、電気的性質、物理的・化学的特性、加工性等の観点から、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶樹脂等が好ましく用いられる。
【0022】
[無機ナノチューブ]
本実施形態において、無機ナノチューブはバリ発生の抑制を目的として使用される。無機ナノチューブによるバリ発生の抑制は、上述の通り、核剤効果による固化速度向上に起因すると考えられる。従って、比較的少量の添加であってもバリの発生を抑制することができる。なお、本実施形態において、無機ナノチューブは炭素原子を含まないものに限る。従って、無機ナノチューブにはカーボンナノチューブは含まない。尚、無機ナノチューブは、直径がナノメートルオーダーサイズのチューブ状の無機物質である。
【0023】
本実施形態において使用される無機ナノチューブは、アルミノシリケートナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブ、酸化チタンナノチューブ、金属硫化物ナノチューブ、金属ハロゲン化物ナノチューブ等が挙げられる。
アルミノシリケートナノチューブとしては、ハロイサイトナノチューブ又はメタハロイサイトナノチューブが好ましい。これらのうち、低コスト及び入手しやすさの観点からハロイサイトナノチューブが好ましい。
また、金属硫化物ナノチューブとしては、モリブデン、タングステン、又は銅硫化物ナノチューブ等が挙げられる。金属ハロゲン化物ナノチューブとしては、塩化ニッケル、塩化カドミウム、又はヨウ化カドミウムナノチューブ等が挙げられる。
【0024】
本実施形態において、無機ナノチューブの平均長さは100nm~20μmであることが好ましく、500nm~15μmであることがより好ましく、1~10μmであることが更に好ましく、1~5μmであることが特に好ましい。また、無機ナノチューブの平均外径は、5~100nmであることが好ましく、10~80nmであることがより好ましく、30~70μmであることが更に好ましい。更に、無機ナノチューブのアスペクト比は、1~4000が好ましく、5~2000がより好ましい。
ここで、無機ナノチューブのアスペクト比は、無機ナノチューブの長さを無機ナノチューブの直径で除した数値であり、メーカー値(メーカーがカタログ等において公表している数値)を採用することができる。
【0025】
本実施形態のPAS樹脂組成物において、PAS樹脂100質量部に対して、無機ナノチューブを0.01質量部以上10質量部未満含み、0.01質量部未満であると、バリ発生の抑制効果が不十分となり、10質量部以上であると、例えばシャルピー衝撃強度等の機械物性が悪化しやすい。無機ナノチューブの含有量は、好ましくは0.5~9.9質量部であり、より好ましくは1.0~9.5質量部である。
【0026】
本実施形態に係る無機ナノチューブの中でもハロイサイトナノチューブは、上市品としては、アプライド・ミネラルズ社製、「ハロイサイト G(685445)」等が挙げられる。
【0027】
[非導電性無機充填剤]
本実施形態においては、絶縁性を確保しつつ、機械的物性の向上を図る観点から、PAS樹脂組成物中に非導電性無機充填剤を含むことが好ましい。非導電性無機充填剤としては、繊維状無機充填剤、板状無機充填剤、粉粒状無機充填剤が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。尚、本明細書において、「無機充填剤」と記載した場合、導電性充填剤であることを明記していない限り、非導電性無機充填剤を意味する。
【0028】
繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、ウィスカー、ウォラストナイト、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、チタン繊維等の金属繊維状物質が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。
【0029】
ガラス繊維の上市品の例としては、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-790DE、平均繊維径:6μm)、オーウェンス コーニング ジャパン合同会社製、チョップドガラス繊維(CS03DE 416A、平均繊維径:6μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747H、平均繊維径:10.5μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747、平均繊維径:13μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド CSG 3PA-830(長径28μm、短径7μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド CSG 3PL-962(長径20μm、短径10μm)等が挙げられる。
【0030】
繊維状無機充填剤は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、PAS樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め繊維状無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、又は材料調製の際に同時に添加してもよい。
【0031】
繊維状無機充填剤の繊維径は、特に限定されないが、初期形状(溶融混練前の形状)において、例えば5μm以上30μm以下とすることができる。ここで、繊維状無機充填剤の繊維径とは、繊維状無機充填剤の繊維断面の長径をいう。
【0032】
粉粒状無機充填剤としては、タルク(粒状)、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ(粒状)等の導電性を有しない金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;半導体材料(Si、Ge、Se、Te等の元素半導体;酸化物半導体等の化合物半導体等)を用いた充填剤等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラスビーズ、炭酸カルシウムが好ましい。
炭酸カルシウムの上市品の例としては、東洋ファインケミカル(株)製、ホワイトンP-30(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。また、ガラスビーズの上市品の例としては、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EGB731A(平均粒子径(50%d):20μm)、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB-10(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。
粉粒状無機充填剤も、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0033】
板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ(板状)等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラスフレーク、タルクが好ましい。
ガラスフレークの上市品の例としては、日本板硝子(株)製、REFG-108(平均粒子径(50%d):623μm)、(日本板硝子(株)製、ファインフレーク(平均粒子径(50%d):169μm)、日本板硝子(株)製、REFG-301(平均粒子径(50%d):155μm)、日本板硝子(株)製、REFG-401(平均粒子径(50%d):310μm)等が挙げられる。
タルクの上市品の例としては、松村産業(株)製 クラウンタルクPP、林化成(株)製 タルカンパウダーPKNN等が挙げられる。
板状無機充填剤も、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0034】
本実施形態においては、以上の無機充填剤の中でも、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム及びタルクからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。また、機械的物性の向上の観点から、無機充填剤(但し、無機ナノチューブを除く。)は、PAS樹脂100質量部に対して5~250質量部含むことが好ましく、15~200質量部含むことがより好ましく、25~150質量部含むことが更に好ましく、30~110質量部含むことが特に好ましい。
【0035】
以上のように、本実施形態のPAS樹脂組成物は非導電性無機充填剤を含むことが好ましいが、導電性無機充填剤であっても、本実施形態の効果を妨げない範囲で含んでいてもよい。本実施形態のPAS樹脂組成物が導電性無機充填剤を含む場合、導電性無機充填剤の含有量は、成形品が電気絶縁性を示し得る量、具体的には、IEC60093に準拠して測定される成形品の常温(23℃)における体積固有抵抗を1×1014Ω・cm以上に保持し得る量で用いることが好ましい。尚、「導電性無機充填剤」の用語は当業者にはよく知られているが、カーボン系充填剤(カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛等)、金属系充填剤(SUS繊維等の導電性を有する金属繊維、導電性を有する金属又は金属酸化物粉末等)、金属表面コート充填剤等の導電性を有する無機充填剤を意味する。一実施形態では、これらの導電性無機充填剤の含有量が、例えば、本実施形態のPAS樹脂組成物全体の10質量%以下であり、6質量%以下が好ましく、4質量%以下が更に好ましい。尚、導電性無機充填剤が導電性を発現し得る含有量は、導電性無機充填剤の種類・形状・導電性によっても異なる場合があるため、上記の含有量以上であってもよい場合もある。
【0036】
[他の成分]
本実施形態においては、その効果を害さない範囲で、上記各成分の他、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、エラストマー、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。尚、本実施形態のPAS樹脂組成物によりバリの発生を抑えることができるが、必要に応じてアルコキシシラン化合物等のバリ抑制剤を併用してもよい。
【0037】
本実施形態のPAS樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPAS樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0038】
本実施形態のPAS樹脂組成物を成形してなる成形品としては、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料、水廻り関連部品材料等が挙げられる。具体的には、自動車の各種冷却系部品、イグニッション関連部品、ディストリビューター部品、各種センサー部品、各種アクチュエーター部品、スロットル部品、パワーモジュール部品、ECU部品、各種コネクター部品、配管継手(管継手)、ジョイント等が挙げられる。
また、その他の用途として、例えば、LED、センサー、ソケット、端子台、プリント基板、モーター部品、ECUケース等の電気・電子部品、照明部品、テレビ部品、炊飯器部品、電子レンジ部品、アイロン部品、複写機関連部品、プリンター関連部品、ファクシミリ関連部品、ヒーター、エアコン用部品等の家庭・事務電気製品部品に用いることができる。
【実施例
【0039】
以下に、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。尚、特に断りがない限り、原料は市販品を用いた。
【0040】
[実施例1~7、比較例1~2]
各実施例・比較例において、表1に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は二軸押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。尚、表1において、各成分の数値は質量部を示す。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0041】
(1)PAS樹脂
・PPS樹脂:(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:30Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
【0042】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
【0043】
(2)無機ナノチューブ
・アプライド・ミネラルズ社製、「ハロイサイト G(685445)」(平均直径:50nm、平均内径:15nm)
【0044】
(3)非導電性無機充填剤
・ガラス繊維:オーウェンス コーニング ジャパン合同会社製、チョップドストランド、繊維径:10.5μm、長さ3mm
【0045】
[評価]
得られた各実施例・比較例のペレットを用いて以下の評価を行った。
(1)バリ長
一部に20μmの金型間隙を有するバリ測定部が外周に設けられている円盤状キャビティーの金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、キャビティーが完全に充填するのに必要な最小圧力で射出成形し、その部分に発生するバリ長さを写像投影機にて拡大して測定した。測定結果を表1に示す。
【0046】
(2)樹脂組成物の溶融粘度
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec-1での溶融粘度(MV)を測定した。測定結果を表1に示す。溶融粘度が500Pa・s以下の場合に流動性が優れていると言える。
【0047】
(3)シャルピー衝撃強度
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO3167に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用いて、ISO179/1eAに準じてシャルピー衝撃強度(kJ/m)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、実施例1~7は比較例1と比較してバリの発生が抑制されていることが分かる。また、実施例1~7におけるシャルピー衝撃強度は、比較例1と比較すると若干の低下は見られるが許容範囲内である。一方、無機ナノチューブを過剰に添加した比較例2においては、バリの発生は抑制されたが、シャルピー衝撃強度が著しく低下していることが分かる。
以上より、PAS樹脂組成物に無機ナノチューブを所定量添加することにより、バリの発生を抑制可能であるとともに、シャルピー衝撃強度の低下を抑えられることが分かる。