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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】インコヒーレントホログラム撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/06 20060101AFI20241121BHJP
   G03B 35/08 20210101ALI20241121BHJP
   G02F 1/13 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
G03H1/06
G03B35/08
G02F1/13 505
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021027856
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022129232
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0060962(US,A1)
【文献】特開2019-144520(JP,A)
【文献】特表2019-501635(JP,A)
【文献】特表2017-538160(JP,A)
【文献】特表2016-533542(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050827(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/132781(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011564(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105009002(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104793475(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00-5/00
G02F 1/13;1/137-1/141
G03B 35/00-37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からのインコヒーレントな光を第1分割光と第2分割光に分割し、これら2つの分割光に係る複素振幅分布に互いに異なる球面位相を付与し、これら2つの分割光を互いに干渉させてホログラムを形成するホログラム光学系と、形成された該ホログラムを撮像する撮像素子を備えたインコヒーレントホログラム撮像装置において、
前記ホログラム光学系内の少なくとも1つのレンズ部分、および前記撮像素子を相対的に移動可能な移動ステージを備え、
前記ホログラム光学系を構成する各レンズ部分についての焦点距離と、該各レンズ部分同士の配設位置間隔と、前記インコヒーレントな光の波長と、該インコヒーレントな光の波長幅と、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔と、のすべての情報に基づいて、被写体のホログラム像に係る像特性を所望の値に調整し得るよう、前記少なくとも1つのレンズ部分および前記撮像素子が光軸方向に相対的に移動するように前記移動ステージの移動を指示する像特性制御部を備えたことを特徴とするインコヒーレントホログラム撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインコヒーレントホログラム撮像装置により撮像したホログラム、または該ホログラムから抽出された複素振幅分布に基づき、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔を計算する計算手段を備え、該計算手段により得られた、前記間隔に係る情報に基づき、その間隔に対応する位置に設定された被写体を、所望の分解能と像倍率で撮像することが可能となるように構成されていることを特徴とするインコヒーレントホログラム撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインコヒーレントホログラム撮像装置により撮像したホログラム、または該ホログラムから抽出された複素振幅分布に基づいて、伝搬距離あるいは再構成距離を段階的かつ連続的に、または極値を探索する最適化アルゴリズムに基づき変化させ、その変化の都度、再構成された再構成像の鮮鋭度を評価し、該鮮鋭度が最も高くなる伝搬距離に応じ、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔に係る情報を取得する信号処理手段を備え、
該信号処理手段により得られた前記間隔に係る情報を、実空間での前記間隔に係る情報に変換した後に、この変換した値に基づいて、前記間隔に設定された被写体を、所望の分解能と像倍率で撮像することが可能となるように構成されていることを特徴とするインコヒーレントホログラム撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体からのインコヒーレントな光を2経路に分割し、その後合成してホログラムを撮像する、インコヒーレントホログラム撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インコヒーレントホログラフィ(インコヒーレントディジタルホログラフィとも称する)の技術は、太陽光、LED、蛍光などの低コヒーレンス光源を用いて物体のホログラムを記録することができるため、受動的な立体撮像技術として有望視されている。
【0003】
インコヒーレントホログラフィでは、撮像時に、ホログラム撮像装置内で、被写体から伝搬してきたインコヒーレントな光を2系に分割する(以下では、これら2つの光を第1分割光と第2分割光と称する)。これら第1分割光と第2分割光に対して、凹面鏡、平面鏡、レンズ、空間光変調器などを用いて、互いに異なる位相分布をそれぞれ付与する。位相分布としては、レンズと等価な位相分布である球面位相や平面位相(球面位相の曲率半径を無限大にしたものに相当するため、広義には球面位相に含まれる)がよく用いられる。
【0004】
その後、波長フィルタを用いてコヒーレンス長を拡大し、これら2つの光波を撮像素子面で干渉させることにより、被写体の3次元情報が反映されたホログラムを形成する。このホログラムに対して、伝搬計算を適用し、被写体の3次元情報を再構成することにより、被写体の再構成像を得ることができる(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、これまでのインコヒーレントホログラフィの光学系においては、通常のカメラの光学系の構成をベースとして構築されていた。
すなわち、通常のカメラの光学系においては、被写体とカメラレンズの位置関係が、分解能を決定する最も重要なパラメータであり、カメラ内部のレンズ系の構成は、幾何光学に基づき焦点深度内で像が形成されるように設計すればよく、光源の波長幅の影響も無視することができる。
【0006】
従来のインコヒーレントホログラフィに基づくホログラム撮像装置においても、上述した、通常のカメラの光学系の構成を取り入れているため、(1)各レンズ系の焦点距離、(2)各光学素子間での光の伝搬距離、および(3)光源の波長幅、の3つの要素が固定された状態で光学系が構築されていた。
【0007】
しかしながら、インコヒーレントホログラフィの場合は、像を形成させる原理が、通常のカメラが利用する”結像”の現象とは異なり、”自己干渉”の原理を利用するため、上述した(1)、(2)、(3)の要素が、分解能や増倍率に大きく影響する。特に、通常のカメラのように幾何光学的に考察することが困難であり、波動光学の理論に基づき分解能を向上させ得る条件を見出すことが必要となる。
波動光学の理論に基づき検討した結果、インコヒーレントホログラフィでは、(1)ホログラム撮像装置を構成するレンズ系の焦点距離と(2)それらの素子間での光の伝搬距離、および(3)光源の波長幅、さらには、(4)被写体とホログラム撮像装置との間の距離によって、再構成像の分解能、像倍率が複雑に変化してしまう。このことは、本願発明者等によって既に開示されているところである(特許文献2、非特許文献2を参照)。なお、ここでのインコヒーレントホログラム撮像装置において用いる「焦点距離」との用語は、レンズの屈折力の逆数であって、通常のカメラのレンズのように、被写体にピントを合わせたときの、撮像素子とレンズとの間の距離を意味するものではない。
すなわち、立体映像の分解能と像倍率は、(4)被写体とホログラム撮像装置との間の距離(奥行き距離)に応じても、大きく変化してしまうことになる。
【0008】
特に、分解能に関しては、より高精細に被写体の立体映像を撮像したい場合に、可能な限り高いことが望まれるが、インコヒーレントホログラフィの分解能を最大にできる、(4)被写体とホログラム撮像装置との間の距離は、所定の一つの値に限定されてしまう。
【0009】
具体的には、光源の波長が単一の波長と仮定すると、撮像素子面上で、第1分割光と第2分割光の直径が等しくなったときに分解能が最良となる。
また、この分解能は、従来のカメラやイメージング技術よりも高分解能であることが知られている。しかし、被写体の奥行き位置が、この位置からずれてしまうと、第1分割光と第2分割光の各スポットの直径が互いに一致しなくなり、結果的に分解能が劣化し、通常のカメラよりも分解能が劣ってしまうという事態も起こり得る。
【0010】
従来のインコヒーレントホログラフィの技術において上述したような問題が決定的な欠点とならなかったのは、従来のインコヒーレントホログラフィの技術のほとんどが、蛍光顕微鏡で使用することを想定していたことによる。顕微鏡のシステムにおいては、被写体の奥行位置が大きく変動することはないため、その変動による分解能の劣化の影響は軽微であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2016-533542号公報
【文献】特願2018-192541号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】M. K. Kim,「Full color natural light holographic camera」,Optics Express,(2013),vol. 21,pp. 9636-9642.
【文献】T. Nobukawa, Y. Katano, T. Muroi, N. Kinoshita, and N. Ishii,「Sampling requirements and adaptive spatial averaging for incoherent digital holography」,Optics Express,(2019),vol. 27,pp. 33634-33651.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、インコヒーレントホログラフィに対する近年のニーズは、通常のビデオカメラのように、人や動物等を撮影して動画を得ることにあり、このような事情を考慮すると、被写体の奥行位置は、顕微鏡の場合とは異なり、大幅に変動することから、分解能の劣化の影響が顕著になる。
また静止画を撮影する場合であっても、撮像状況に応じては、被写体との距離の調整が困難な場合等も十分に想定され、このような場合にも適用し得るインコヒーレントホログラフィ技術が望まれていた。
【0014】
さらに、従来のインコヒーレントホログラフィの技術では、光源の波長を単一波長とみなして分解能が議論されているが、実際には光源の波長は単一ではなく、数nm~数十nmの幅を有していることが一般的である。光源の波長が単一ではない場合、分解能が最もよくなる面は、より複雑に変化する(本願発明者により開示された、特許文献2、非特許文献2を参照)。波長幅が非常に狭い、波長フィルタを用いれば、光源の波長を単一とみなすことができるが、光エネルギーの損失が大きくなってしまい、SN比が低下して、結果的に画質が大幅に低下するため、現実的な解決方法ではない。したがって、波長幅の影響を考慮し、被写体位置の影響も加味した、インコヒーレントホログラフィの分解能の変化を考えることが肝要である。
また、分解能だけでなく、立体映像の像倍率も被写体の奥行き位置に応じて変化してしまう。もし、ホログラム撮像装置自体を動かすことなく、撮影者が、撮像状況・被写体に応じて分解能、像倍率を容易に調整することができれば、臨機応変に、また撮影者の意図で、より高精細な立体映像を簡易に撮像できることができる。しかしながら、立体映像の分解能、像倍率を調整できるホログラム撮像装置は存在しない。
【0015】
このように、インコヒーレントホログラフィに基づく従来のホログラム撮像装置では、被写体の奥行き位置が変わってしまうと立体映像の分解能が低下してしまう。また、インコヒーレントホログラフィに基づく従来のホログラム撮像装置では、光源の波長を単一と仮定して、分解能が最も向上するように撮像装置が設計されているが、波長幅が広くなるほど、分解能を最も向上させ得る条件が複雑に変化する。
さらに、従来のホログラム撮像装置では、撮像装置の構成が固定されており、被写体位置に応じた分解能と像倍率の調整ができなかったことに加え、被写体位置が変化した場合に、分解能を向上できる撮像装置の設計指針は存在しなかった。
【0016】
本発明は、前記被写体と、当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置、との間隔が変化しても、立体映像の分解能と像倍率を所望の値に調整可能なインコヒーレントホログラム撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のインコヒーレントホログラム撮像装置は、
被写体からのインコヒーレントな光を第1分割光と第2分割光に分割し、これら2つの分割光に係る複素振幅分布に互いに異なる球面位相を付与し、これら2つの分割光を互いに干渉させてホログラムを形成するホログラム光学系と、形成された該ホログラムを撮像する撮像素子を備えたインコヒーレントホログラム撮像装置において、
前記ホログラム光学系内の少なくとも1つのレンズ部分および前記撮像素子を相対的に移動可能な移動ステージを備え、
前記ホログラム光学系を構成する各レンズ部分についての焦点距離と、該各レンズ部分同士の配設位置間隔と、前記インコヒーレントな光の波長と、該インコヒーレントな光の波長幅と、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔と、のすべての情報に基づいて、被写体のホログラム像に係る像特性を所望の値に調整し得るよう、前記少なくとも1つのレンズ部分および前記撮像素子が光軸方向に相対的に移動するように前記移動ステージの移動を指示する像特性制御部を備えたことを特徴とするものである。
なお、上記および下記の「基準位置」とは、例えば、最も被写体側に配されたレンズ面の光軸と交わる位置とする等、任意の位置とすることができる。
【0019】
上記ホログラム撮像装置において、「球面位相」の中には、球体の半径が無限大となった「平面位相」も含まれるものとする。
【0020】
た、上述したインコヒーレントホログラム撮像装置により撮像したホログラム、または該ホログラムから抽出された複素振幅分布に基づき、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔を計算する計算手段を備え、該計算手段により得られた、前記間隔に係る情報に基づき、その間隔に対応する位置に設定された被写体を、所望の分解能と像倍率で撮像することが可能となるように構成されていることが好ましい。
【0021】
また、上述したインコヒーレントホログラム撮像装置により撮像したホログラム、または該ホログラムから抽出された複素振幅分布に基づいて、伝搬距離あるいは再構成距離を段階的かつ連続的に、または極値を探索する最適化アルゴリズムに基づき変化させ、その変化の都度、再構成された再構成像の鮮鋭度を評価し、該鮮鋭度が最も高くなる伝搬距離に応じ、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔に係る情報を取得する信号処理手段を備え、
該信号処理手段により得られた前記間隔に係る情報を、実空間での前記間隔に係る情報に変換した後に、この変換した値に基づいて、前記間隔に設定された被写体を、所望の分解能と像倍率で撮像することが可能となるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のインコヒーレントホログラム撮像装置においては、ホログラム光学系を構成する各レンズ部分についての焦点距離と、該各レンズ部分同士の配設位置間隔と、前記インコヒーレントな光の波長と、該インコヒーレントな光の波長幅と、前記被写体と当該インコヒーレントホログラム撮像装置の基準位置との間隔と、の各情報のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、被写体のホログラム像に係る像特性を所望の値に調整し得る像特性制御部を備えている。
【0023】
この像特性制御部は、上記少なくとも1つの情報に基づいて、被写体のホログラム像に係る像特性を所望の値に調整し得るよう、少なくとも1つのレンズ部分、および撮像素子が光軸方向に相対的に移動するように移動ステージの移動を指示するものである
【0024】
上記像特性制御部において、(1)ホログラム光学系を構成する各レンズ部分についての焦点距離と、(2)各レンズ部分同士の配設位置間隔と、を所望の値に制御することができるため、被写体と当該ホログラム撮像装置の基準位置との間隔にかかわらず、分解能を改善させることができ、高精細な立体映像を撮像することができる。さらに、分解能および像倍率を所望の値に変更することができるため、立体映像の見え方を所望の値に変更することができ、映像表現の幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係るホログラム撮像装置の光学系を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態2に係るホログラム撮像装置の光学系を示す概略図である。
図3図2に示す実施形態2に係るホログラム撮像装置の光伝搬距離走査モジュールの構成を示す概略図である。
図4】本発明の実施形態3に係るホログラム撮像装置の光学系を示す概略図である。
図5】本発明の各実施形態に係る主要部の構成を導入した、共通光路干渉計タイプの光学系を備えた実施形態4に係るホログラム撮像装置の構成を示す概略図である。
図6図5に示す実施形態の一部を変更した(ビームスプリッタと反射型空間光変調器を用いた)変更態様1に係るホログラム撮像装置の構成を示す概略図である。
図7図5に示す実施形態の一部を変更した(光伝搬距離走査モジュールに反射型光変調器を用いた)変更態様2に係るホログラム撮像装置の構成を示す概略図である。
図8図5に示す実施形態の一部を変更した(光学系をマイケルソン干渉計タイプの構成とした)変更態様3に係るホログラム撮像装置の構成を示す概略図である。
図9】実施例に係る、伝搬距離zに対する、評価指標Fの評価値の変化を示すグラフである。
図10】実施例に係る(a)被写体の奥行位置zに対する像倍率の変化、および(b)被写体の奥行位置zに対する分解能の変化、を示すグラフである。
図11】実施例に係るホログラム撮像装置で用いられるテストチャート(テストターゲット)を示すものである。
図12】実施例に係るホログラム撮像装置で用いられるテストチャート(テストターゲット)を最も分解能が高くなる条件で撮像した再構成像である。
図13】実施例に係るホログラム撮像装置で用いられるテストチャート(テストターゲット)を最も分解能が高くなる条件で撮像した再構成像(図12の状態)から、被写体が奥行方向にずれた際に得られる再構成像である。
図14図12の再構成像が得られた撮像条件での、撮像素子の配置距離zに対する分解能の変化を示すグラフである。
図15図13の再構成像に対して分解能が改善するように、ホログラム撮像装置のパラメータを変更して撮像した再構成像である。
図16図13の再構成像が得られた撮像条件での、伝搬距離z(再構成像のぼけ量)に対する、評価指標Fの評価値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るインコヒーレントホログラム撮像装置について図面を用いて説明する。
まず、実施形態1~3に係るホログラム撮像装置の構成について図1~4を用いて説明する。
【0027】
(実施形態1)
この実施形態1に係るホログラム撮像装置50(ホログラム光学系30)は、被写体1からのインコヒーレントな光をレンズ系2において平行光に変換し、2重焦点レンズ系3において第1分割光15と第2分割光16に分割し、これら2つの分割光15、16を波長フィルタ5を介して撮像素子4上に照射する。2つの分割光は撮像素子4上で互いに干渉し、この干渉縞像がホログラムとして撮像される。
【0028】
2重焦点レンズ系3において分割された、2つの分割光15、16は、複素振幅分布に互いに異なる球面位相が付与されるように構成されるとともに、2重焦点レンズ系3と撮像素子4(波長フィルタ5が被写体側に配されている:以下、同じ)の各々を移動させて、互いの間隔を可変とし得るように、これら2重焦点レンズ系3と撮像素子4を各々光軸Lに沿って移動させる移動ステージ6a、bが設けられている。
【0029】
さらに、ホログラム光学系30を構成する所望の光学部材(レンズ系2、2重焦点レンズ系3)についての各焦点距離と、光学部材(レンズ系2、2重焦点レンズ系3、撮像素子4)同士の配設位置間隔(ここでは、レンズ系2と2重焦点レンズ系3の間隔z、および2重焦点レンズ系3と撮像素子4の間隔z)と、インコヒーレントな光の波長λと、該インコヒーレントな光の波長幅Δλと、被写体1およびホログラム撮像装置50の基準位置(ここではレンズ系2)との間隔(以下、奥行き位置と称する)zと、の各情報に基づいて、被写体1のホログラム像に係る像特性を所望の値に調整し得るように、移動ステージ6a、b上に設置された光学部材(ここでは、2重焦点レンズ系3および撮像素子4)を光軸L方向に移動するように移動ステージ6a、bに指示する像特性制御部8を備えている。なお、像特性制御部8は、種々の信号処理を行う信号処理部7内に配されている。
【0030】
上述した移動ステージ6a、bについて、図1を用いてさらに説明する。前述したように、実施形態1に係るホログラム撮像装置50では、2重焦点レンズ系3と撮像素子4を各々光軸Lに沿って移動させ得るように構成され、これにより、2重焦点レンズ系3と撮像素子4の相対的な距離zを所望の値に設定することができる。
【0031】
移動ステージ6a、bは、移動させる各部材3、4毎に設けられるとともに、信号処理部7に接続される。各移動ステージ6a、bには、この信号処理部7内に配された像特性制御部8にて演算された移動情報が入力され、この移動情報に基づき、各部材3、4を光軸L上の所望位置に移動させる。また、各移動ステージ6a、bからは、信号処理部7内の像特性制御部8に、移動ステージ6a、bの現在位置情報および移動ステージ6a、bの移動距離情報がフィードバックされる。
【0032】
これにより、ホログラム撮像装置50を構成するすべてのレンズ系(レンズ系2、2重焦点レンズ系3)の焦点距離と、光学部材(レンズ系2、2重焦点レンズ系3、撮像素子4)同士の配設位置間隔(ここでは、レンズ系2と2重焦点レンズ系3の間隔z、ならびに2重焦点レンズ系3および撮像素子4の間隔z)と、光源の波長λと、その波長幅Δλと、設定したい奥行き位置zと、の各情報に基づいて所定の演算が施されて、移動ステージ6a、bは、所望の位置に移動されて各部材3、4を移動させることができる。
【0033】
このような各調整を可能としているのは、信号処理部7内の像特性制御部8において、被写体と撮像装置間の距離は一般的に未知であり、撮影者が、設定したい奥行き位置zがある場合には、外部入力部(キーボード等)から、その奥行き位置情報が信号処理部7(像特性制御部8)に入力され、像特性制御部8により演算された情報が信号処理部7と接続された各移動ステージ6a、bに送出されることで、ホログラム光学系30の各光学部材の位置が調整され、目的とする分解能や像倍率を実現することができる。
【0034】
なお、奥行き位置情報が未知である特定の被写体に着目して、分解能や像倍率を変化させたい場合には、カメラのオートフォーカス技術と同等の機能を有する後述する測距技術(以下、オートフォーカス的な技術、と称する)を導入し、被写体1の奥行き位置zを測定する。
なお、実施形態1に係るホログラム撮像装置においては、物理的な移動距離が長いほど、分解能あるいは像倍率を制御する自由度が向上する。
【0035】
(実施形態2)
図2に示すように、この実施形態2に係るホログラム撮像装置150(ホログラム光学系130)も、被写体101からのインコヒーレントな光をレンズ系102において平行光に変換し、2重焦点レンズ系103において第1分割光115と第2分割光116に分割し、これら2つの分割光115、116を波長フィルタ105を介して撮像素子104上に照射し、被写体101のホログラムを撮像するようになっている。
【0036】
本実施形態が、上記実施形態1と相違するのは、光路上に光伝搬距離走査モジュール109を導入していることにある。
ここで、光伝搬距離走査モジュール109の構成を図3を用いて説明する。このモジュール109は、2組のレンズ系112、114の間に、1つの曲率変調素子よりなる可変焦点レンズ系113を配置した構成とされている。2組のレンズ系112、114の配置関係は4f光学系になるように配置されており、その空間周波数面に可変焦点レンズ系113が配置されている。このモジュール109内で、可変焦点レンズ系113の焦点距離を変更することで、任意の距離を伝搬したのと同等の光を生成することができる。
【0037】
したがって、本モジュール109は、上記実施形態1における、光学部材を物理的に移動させた場合と同等の機能を持たせているが、上記実施形態1のように、光学部材を物理的に移動させるのではなく、光伝搬距離走査モジュール109内の可変焦点レンズ系113の焦点距離を電気的に制御することで、光学部材間の光の伝搬距離を変調するようにしている。
【0038】
さらに、可変焦点レンズ系113は信号処理部107内の像特性制御部108に接続されており、可変焦点レンズ系113の曲率が変化するように指示されるとともに、可変焦点レンズ系113の焦点距離の情報が上記像特性制御部108にフィードバックされるように構成されている。
信号処理部107内の像特性制御部108における像特性を制御する手法については、基本的に上記実施形態1のものと同様である。
【0039】
(実施形態3)
図4に示すように、この実施形態3に係るホログラム撮像装置250(ホログラム光学系230)も、被写体201からのインコヒーレントな光を可変焦点レンズ系210において平行光に変換し、2重焦点の可変焦点レンズ系211において第1分割光215と第2分割光216に分割し、これら2つの分割光215、216を波長フィルタ205を介して撮像素子204上に照射し、被写体201のホログラムを撮像するようになっている。
【0040】
本実施形態が、上記実施形態2と相違するのは、光路上に、光伝搬距離走査モジュール109に替えて、レンズ系および2重焦点レンズ系の双方を可変タイプとした、可変焦点レンズ系210および2重焦点の可変焦点レンズ系211を配設している、ことにある。
なお、レンズ系および2重焦点レンズ系の一方のみを可変タイプとすることも可能である。
【0041】
本実施形態においては、可変焦点レンズ系210および2重焦点の可変焦点レンズ系211を備えたことにより、上記実施形態2における光伝搬距離走査モジュール109を備えた場合と同等の機能を持たせているが、上記実施形態2の場合よりも、より簡易な構成とされている。
信号処理部207内の像特性制御部208における像特性を制御する手法については、基本的に上記実施形態1、2のものと同様である。
【0042】
(オートフォーカス的な技術)
前述したように、被写体1、101、201の奥行き位置情報が未知である場合において、分解能や像倍率を変化させたい場合には、オートフォーカス的な技術を導入して、被写体1、101、201の奥行き位置zを求めることも有用である。
オートフォーカス的な技術を用いた場合は、追加の測距技術が不要で、被写体1、101、201の奥行き位置zを自動計測でき、計測された奥行き位置zの値に基づいて、ホログラム撮像装置50、150、250のパラメータを変更する。
【0043】
ここで説明するオートフォーカス的な技術は、ホログラム光学系30、130、230の焦点距離を変化させて測定するものではなく、信号処理部7、107、207内において、数値計算を用いて行われる手順であり、具体的には以下の通りである。
【0044】
すなわち、撮像したホログラム、あるいはそのホログラムから抽出した複素振幅分布に対して、段階的かつ連続的に伝搬距離あるいは再構成距離を変化させて再構成像を得、その都度、再構成像の鮮鋭度を評価し、鮮鋭度が最も高くなる伝搬距離を見出す。その伝搬距離を、実空間の奥行距離に変換すると、その値が被写体1、101、201と撮像素子4、104、204間の奥行き位置に対応しているため、その値をもって、被写体1、101、201の奥行き位置zとして同定することができる。このような測距技術は、信号処理部7、107、207内で被写体の再構成像の鮮鋭度が最も高くなる条件を探索しているという意味で、本実施形態においては、オートフォーカス的な技術と称する。
【0045】
(実施形態の組合せ)
以上に説明した実施形態1~3に示す各ホログラム撮像装置50、150、250においては、互いにパラメータが異なるものの、分解能を改善させる場合には、どの撮像装置を用いた場合においても、被写体1、101、201の奥行き位置zの変化に起因する第1分割光15、115、215と第2分割光16、116、216の、光ビームの中心位置および直径の大きさのずれを修正して、これら2つの光ビームの断面が一致するように、ホログラム撮像装置250内の各部材間隔等のパラメータを変化させている。また、実施形態1~3に示す各ホログラム撮像装置50、150、250を組み合わせることも可能である。組み合わせることにより、撮像素子4、104、204における、調整可能なパラメータの自由度が増加するため、分解能と像倍率の調整手法の自由度が格段に増加する。
そこで、以下、上記実施形態1~3に示す各ホログラム撮像装置50、150、250を組み合わせた、図5に示す実施形態4を用い、具体的な作用について説明する。
【0046】
(実施形態4)
本実施形態に係るホログラム撮像装置450(ホログラム光学系430)は、前述したように、実施形態1~3の特徴的な機能を全て含んだホログラム撮像装置として構成されている。
被写体401からのインコヒーレントな光を液晶レンズ(可変焦点レンズ系)412aで変調する。次に、偏光子413a-透過型空間光変調器414-偏光子413bからなる2重焦点の可変焦点レンズ系411で、そのインコヒーレント光の位相を変調する。光入射側の偏光子413aで直線偏光を得、その直線偏光を透過型空間光変調器414で変調する。
【0047】
透過型空間光変調器414としては、液晶型のものを用いているが、その他の空間光変調器を用いることも可能である。液晶分子の楕円形状に由来して、透過型空間光変調器414で位相を変調する際には、偏光の選択性が得られ、直交する2つの直線偏光のうち、一方の直線偏光のみの位相分布を変調することができる。光入射側の偏光子413aの透過軸の角度は、液晶分子の長軸、あるいは短軸に対して45度傾くように配置しているため、その直線偏光成分の水平または垂直の直線偏光成分の位相だけを変調する。この結果、上記インコヒーレントな光は互いに分割され、第1分割光415と第2分割光416が形成される。
【0048】
その後、光射出側の偏光子413bを透過させ、第1分割光と第2分割光の偏光状態を同一方向の直線偏光とすることで、これら2つの分割光を撮像素子404の撮像面上で互いに干渉させることができる。なお、透過型空間光変調器414に替えて、複屈折レンズやメタレンズを用いてもよい。要するに、直交する2つの偏光状態のうち互いに異なる偏光状態とすることができ、かつ両者の焦点距離を互いに異なったものとし得る2重焦点レンズを用いることが肝要である。
【0049】
その後に、2つのレンズ系417a、417bと液晶レンズ412bから構成されてなる光伝搬距離走査モジュール409で位相を変調する。2つのレンズ系417a、417bは4f光学系の配置となっており(図3を参照)、その空間周波数面(レンズ系417aの後側焦点面とレンズ系417bの前側焦点面が重なる位置)に液晶レンズ412bを配設している。なお、液晶レンズ412bに替えてモアレレンズや、Alvarezレンズ、液体レンズをはじめとする可変焦点レンズを用いることも可能である。
【0050】
最後に、2つに分割されたインコヒーレントな光を、時間的コヒーレンスを向上させるために波長フィルタ405に入射させ、その後、撮像素子404の撮像面に、互いの光スポットが良好に重複するように照射することで、ホログラムが形成される。撮像素子404は、そのホログラムをディジタル画像として撮像し、これを信号処理部407に転送する。また、高品質な立体映像を得るために、必要に応じて、透過型空間光変調器414により、位相シフト量が異なる複数枚のホログラムを撮像してもよい。また、特許第6245551号や特開2019-144520号公報に示されるように、1回の撮像で複数枚のホログラムを撮像する手法を導入してもよい。
【0051】
信号処理部407内で、撮像したホログラムあるいはホログラム群に対して位相シフト法やオフアクシス法の演算を適用して得られる複素振幅分布をO(x,y)とすると、下式(1)の伝搬計算を適用することにより、任意の距離zにおける物体の像を再生することができる。ここで、zは後述する式(10)において定義される条件を満たすときに、被写体との奥行き位置zとの対応関係を知ることができるが、概念的には、「像再構成時の撮像素子面から再構成した像面までの仮想的な距離」と称することができる。
【数1】
【0052】
任意の距離zの設定に関しては、撮影者(オペーレータ)が任意の値を入力してもよいし、被写体401の奥行き位置zの情報を考慮して入力してもよい。なお、この伝搬計算自体は、インコヒーレントホログラフィのホログラム撮像装置において一般的に用いられている計算手法である。また、位相シフト法やオフアクシス法に関しても、像を再構成する前に共役像、直接像、撮像素子のノイズを除去するための演算手法であり、ホログラフィの分野では一般的な技術である。
【0053】
【数2】
【0054】
【数3】
【0055】
【数4】
【0056】
【数5】
【0057】
光の波長幅がホログラムの直径に与える影響が無視できない場合には、上式(4)に替えて、ホログラムの直径を下式(6)により定義する。
【数6】
【0058】
このように、Dは波長幅によって決定される可干渉領域の直径であり、従来のインコヒーレントホログラフィの撮像装置では考慮されていなかったパラメータであって、例えば、下式(7)により与えられる。
【数7】
【0059】
上式(7)は、波長幅を考慮するための式の一例であり、光学系をどこまで厳密にモデル化するかによって式の形が変化する。すなわち、式の形が重要なのではなく、波長幅の増大によって分解能が低下し、また逆に、波長幅の減少によって分解能が改善する、という関連性を考慮することが重要である。なお、以上に説明した全てのパラメータ、および以下に示す全てのパラメータは信号処理部407内のメモリに保存されている。
【0060】
図5に示すホログラム光学系430においては、透過型空間光変調器414と撮像素子404が走査ステージに配置されており、zとzを機械的に変更可能である。また、被写体401に最も近い液晶レンズ412aと透過型空間光変調器414を用いることで、液晶レンズ412aの焦点距離f、2重焦点の可変焦点レンズ系411の第1の分割光415の焦点距離fd1、および2重焦点の可変焦点レンズ系411の第2の分割光416の焦点距離fd2を各々電気的に変更することができる。
【0061】
また、2つのレンズ系417a、417bと液晶レンズ412bで構成された光伝搬距離走査モジュール409により、zを電気的に変更することができる。具体的には、光伝搬距離走査モジュール409では、図3に示すように、焦点距離fのレンズ系112-焦点距離fの可変焦点レンズ系113-焦点距離fのレンズ系114からなる4f光学系により構成されているため、下式(8)に基づき、fを変更することでzを変更することが可能である。
【0062】
【数8】
【0063】
ここで、透過型空間光変調器414から撮像素子404までの実測距離は、zh1+zh2+2f+2fで固定されていることに注目する必要がある。しかし、上式(8)に基づいて光伝搬距離走査モジュール409内の液晶レンズ412bの焦点距離を変化させることにより、透過型空間光変調器414から撮像素子404までの”光の伝搬距離”を変更できる。この場合、像倍率はM・f/fとなる。zを変更する場合には、液晶レンズ412aの主平面と、透過型空間光変調器414の主平面の間に、光伝搬距離走査モジュール409を配置すればよい。
【0064】
光伝搬距離走査モジュール409を使用する利点は、前述したように、移動ステージ406a、406b等における機械的な駆動部を必要としないことにある。
上式(2)および上式(3)から明らかなように、分解能と像倍率は、被写体401の奥行き位置zsに応じて変化する。一方で、ホログラム撮像装置450を構成する、各レンズ系の焦点距離と、各光学部材間の光の伝搬距離に応じても変化する。したがって、これらの要素を上式(2)、および上式(3)に基づいて変更することにより、撮影者の意図に応じた所望の分解能および像倍率に変更可能である。また、被写体401の奥行き位置zsがずれて分解能が劣化しても、本実施形態のホログラム撮像装置450を用いて容易に改善することができる。
【0065】
<変更態様>
なお、以下、本実施形態の変更態様について説明するが、上記実施形態4の部材と同様の機能を有する部材については、実施形態4の部材に付して符号に対し、変更態様1については100を、変更態様2については200を、変更態様3については300を、各々加えた符号を付し、重複的な説明は省略する。
(変更態様1)
図5に示すホログラム撮像装置450においては、2重焦点の可変焦点レンズ系411において、透過型空間光変調器414を用いているが、図6に示すように、本実施形態のホログラム撮像装置550としては、2重焦点の可変焦点レンズ系511として反射型空間光変調器519を用いることも可能である。ただし、反射型空間光変調器519を用いる場合には、液晶レンズ512aと反射型空間光変調器519の間にビームスプリッタ518を挿入する必要がある。なお、これらビームスプリッタ518と2枚の偏光子513a、513bに替えて、偏光ビームスプリッタを配置してもよい。
【0066】
(変更態様2)
また、図6に示すホログラム撮像装置550においては、光伝搬距離走査モジュール509を構成する液晶レンズ512bとして透過型のものを用いているが、図7に示すホログラム撮像装置650では、光伝搬距離走査モジュール609を構成する反射型空間光変調器(液晶レンズ)619として反射型のものを用いている。また、反射型空間光変調器619から出力された2つの分割光615、616は、凹面鏡620により反射されて撮像素子604方向に射出される
【0067】
(変更態様3)
図5~7に示すホログラム撮像装置450、550、650は、いずれも第1分割光415、515、615と第2分割光416、516、616が同軸上を伝搬する共通光路干渉計タイプとされているが、図8に示すように、等光路長型のマイケルソン干渉計タイプのものとしてもよい。なお、他の等光路長型である、マッハ・ツェンダ干渉計タイプのもの、さらには迂回路型フィゾー干渉計タイプのもの等を適用してもよい。
図8に示すホログラム撮像装置750においては、2重焦点レンズの代わりに、焦点距離が異なる2枚の液晶レンズ712a、712bを用いている。
また、両方の光を各々反射する、焦点距離が無限大に相当する平面鏡721a、721bを用いているが、これらに替えて凹面鏡を用いてもよい。
【0068】
(その他の変更態様)
上述した各ホログラム撮像装置50等で用いる撮像素子4等に関して、種々のタイプのものを使用することができ、例えば、単色のもの、ベイヤー配列等の色情報を取得できるもの、さらには、偏光子アレイが搭載されたものを使用することができる。
また、以上に説明した実施形態4および変更態様1~3に係るホログラム撮像装置450、550、650、750においては、ホログラム撮像装置50、150、250の3つのパラメータを変更するための構成となっており、一方、上記実施形態1~3に係るホログラム撮像装置50等、150、250においては、図1、2、4に示すように1つのパラメータのみを変更するための構成となっているが、上記のうちの2つのパラメータを変更するような構成としてもよい。
【0069】
(奥行き位置の値の計算手法)
被写体1等の奥行き位置zが定量的にわかならい場合に、前述したオートフォーカス的な技術を用いて被写体1等の奥行き位置zを求めるようにしてもよいが、下記測距技術を用いて求めるようにしてもよい。
【0070】
まず、上述したいずれかのホログラム撮像装置50等により、ホログラムを撮像する。撮像されたホログラムデータは、信号処理部7等において解析され、また、ホログラム撮像装置50等の配置パラメータおよび各光学部材のパラメータが信号処理部7等に保存される。
撮像されたホログラムデータから信号処理部7等において複素振幅分布が抽出され、信号処理部7等に保存されているパラメータに基づいて、光の逆伝搬計算により被写体1等の立体像が再構成される。このとき、図9で示すように、伝搬計算適用時の伝搬距離zの設定に応じて、再構成像のぼけ量が変化する。このぼけ量の違いから被写体1等の奥行き位置zを知ることができる。
【0071】
ぼけ量が最も小さい場合の伝搬距離zは、後述するように被写体1等の奥行き位置zに対応している。ぼけ量が小さい伝搬距離zを求めるために、例えば、下式(9)で示される指標を用いて、各再構成像のぼけ量を評価する。
【数9】
【0072】
この鮮鋭度の評価指標の評価値が高いほど、ぼけ量が小さいことを意味する。したがって、この値が最も高い伝搬距離z図9においては、z=z)が被写体の奥行位置zに対応している。上式(9)は一例を示すものであり、1回微分や2回微分に基づく、他の鮮鋭度の評価指標を用いることも可能である。
このような評価を全ての伝搬距離zに対して行い、さらに、この評価処理における計算速度や効率を向上させたい場合には、黄金分割法や勾配法、ニュートン法やルンゲクッタ法などのアルゴリズムを適用して、最も評価値が大きい伝搬距離zの条件を見い出す。
【0073】
インコヒーレントディジタルホログラフィでは、伝搬距離zと物体の奥行き位置zはかならずしも一致しておらず、両者は、下式(10)に示す関係にある。
【数10】
【0074】
上式(10)から被写体の奥行き位置zを求めることができる。この奥行き位置zの情報を参照し、上式(2)、上式(3)に代入することで、目的の分解能あるいは像倍率を実現するための、ホログラム撮像装置50等におけるレンズ系の焦点距離、各光学部材間での光の伝搬距離を導くことができる。これらの導いた条件を信号処理部7等からホログラム撮像装置50等にフィードバックし、レンズ系の焦点距離や各光学部材間での光の伝搬距離を変更する。
【0075】
上述の説明では、立体映像の分解能と像倍率に関する数式を示し、これらを調整する過程について説明した。しかし、分解能と像倍率が、像品質、視野、被写界深度、奥行き分解能にも影響していることは明らかであるから、像品質、視野、被写界深度、奥行き分解能等の像特性に係る数式を導出することは容易である。したがって、分解能と像倍率に替えて、上述した他の像特性を任意に変更するために、本実施形態に係るインコヒーレントホログラム撮像装置の手法を用いることも可能である。
以下、本発明のインコヒーレントホログラム撮像装置について、具体的な数値を設定した実施例を用いて、さらに説明する。
【実施例
【0076】
撮像素子を移動ステージ上に設置したホログラム撮像装置によって、ホログラムを撮像し、再構成することにより得られたシミュレーション結果を以下に示す。
本シミュレーションでは、角スペクトル法による光波の回折計算を用いており、光の伝搬やレンズ透過後の光の振る舞いを正確に計算することができる。
具体的には、本実施例に係るホログラム撮像装置としては、図1に係るホログラム撮像装置50を用い、2重焦点レンズ系3に係る移動ステージ6aは設けず、撮像素子4(被写体側に波長フィルタ5を一体的に設けている)を搭載した移動ステージ6bのみを設けた。
【0077】
被写体1に照射される、光源からの光の波長は633nmとし、波長幅は1nmとした。また、レンズ系2の焦点距離fは250mm、2重焦点レンズ系3の、第1の焦点距離(第1分割光15)fd1は300 mm、第2の焦点距離(第2分割光16)fd2は∞ mm(曲率がない平面の分布に相当)、レンズ系2と2重焦点レンズ系3間の距離zは100 mm、2重焦点レンズ系3と撮像素子4間の距離zは600 mmとした。また、撮像素子4としては、画素数2048×2048、画素ピッチ6.5 μm、階調数16 bitのものを用いた。
【0078】
以上のように設定したホログラム撮像装置50の実施例装置において、被写体1の配設位置(奥行き位置)zに対する像倍率および分解能の変化を、上式(2)と上式(3)に基づいて求めたものをプロットしたグラフを、それぞれ図10(a)および図10(b)に示す。
図10(a)および図10(b)から明らかなように、被写体1の配設位置zに応じて、像倍率および分解能が変化する。特に、図10(b)から、被写体1の配設位置zが250 mm付近のときに、最も分解能が高いことがわかる。すなわち、zが、250 mmよりも奥行き方向に離れている被写体1を撮像する場合には、分解能が劣化する。この劣化は、従来型のホログラム撮像装置では抑制することが困難であった。
【0079】
以下、本発明の実施例に係る撮像装置において、被写体1の配設位置zが変化した場合であっても分解能を改善可能なことを示す。z=250 mmに配置された図11に示す被写体(テストチャート)1を撮像した結果(再構成像)を図12に示す。図10(b)からも明らかなように、このとき(z=250 mm)の再構成像が、分解能が最も高くなる条件における撮像結果である。
次に、上記と同様の被写体1が奥行き方向に200 mm移動した場合、すなわちz=450 mmとした場合、その撮像した結果(再構成像)を図13に示す。なお、多くの場合、この被写体1の奥行き位置zは未知の情報であり、その場合には、前述したように、信号処理部7内でオートフォーカス(オートフォーカス的技術を含む)を適用して、被写体1の奥行き位置zの情報を取得する。
【0080】
次に、本実施例における、分解能を改善する流れの全体像を説明する。なお、被写体1の奥行き方向の移動量が既知であるものとして説明する。
上述した図12および図13の各再構成像の状態を比較すると、図13においては、テストチャートの細かい構造がぼけており、分解能が劣化していることが明らかである。この劣化具合は図10(b)から予測される通りである。また、前述したように、この結果は従来のホログラム撮像装置で撮像することと対応しており、比較例としてみることができる。一方、本実施例に係る撮像装置50では、撮像素子4の配設位置を変更し得る構成とされているため、この配設位置を適切に設定することができれば分解能を改善することができる。
【0081】
被写体1の配設位置zを450 mmに設定されたテストチャートを撮像する場合、信号処理部7内で、その配設位置zと、2重焦点レンズ系3-撮像素子4間の距離zを除く、撮像装置50の他のパラメータに係る情報全てを(3)式に代入して、上記zに対する分解能の関係を評価する。その関係をプロットしてグラフとしたものを図14に示す。
この図14から明らかなように、図10(b)に示す結果とは異なり、z=260 mmのとき、すなわち、撮像素子4の配設位置zを450 mmから260 mmに変更したときに、分解能が最も高くなる。
【0082】
実際に、本発明の実施例に係るホログラム撮像装置50で移動ステージ6bに設置した撮像素子4をz=260 mmの位置まで移動して、被写体1のホログラムを撮像し、再構成した結果を図15に示す。図13の結果と比べると、本実施例の結果を示す図15では、分解能が改善していることが明らかである。
【0083】
以上の結果から、本実施例に係るホログラム撮像装置50においては、分解能が、被写体1の配置距離zに依存することなく、大きく改善される。また、以上の例では、分解能が最良となるように撮像素子4の配置を調整しているが、図14に基づき、分解能をあえて低下させて、ぼけ味の強い撮像結果を得ることもできる。
また、以上においては、分解能を改善することを目的とした場合の説明を行ったが、像倍率をはじめ、被写界深度、視野を撮像装置を構成する光学素子の焦点距離、各素子の配設位置等のパラメータは、分解能や像倍率の関数であるから、これらのパラメータに依存する各像特性の調整を目的とした場合についても、上記と同様の手順で調整することができる。
【0084】
また、上記実施例は、ホログラム撮像装置50の所定の光学素子を機械的に移動せしめて、所定の光学素子の配設位置を移動させる態様を示すものであるが、本発明の実施形態2のホログラム撮像装置150のように、光伝搬距離走査モジュール109を用いれば、機械的駆動に頼ることなく、電子的な走査だけで振動等の影響を排除して、ホログラム撮像装置50と同様の効果を奏することができる。また、本発明の実施形態3のホログラム撮像装置250のように、可変焦点レンズ210、211を導入した態様によっても、ホログラム撮像装置50、150と同様に、分解能および像倍率等を任意に制御可能であり、同様の効果を奏することができる。
【0085】
ホログラム面から、伝搬距離zを段階的かつ連続的に変化させ、その都度、再構成像を形成し、その再構成像に対して上式(9)の指標を求めることにより、像のぼけ量や鮮鋭度を評価した結果をプロットしたグラフである図16が得られる。
図16において、この評価結果が最大となる位置が、最もぼけ量が小さく、鮮鋭度が高いため、被写体の配設位置に対応している。この計算では、zを1mmずつ変化させて再構成像を取得した後に、最大値となる伝搬距離を特定しているが、計算時間を短縮したい場合には、前述したように、黄金分割法や勾配法、さらにはニュートン法等に基づく最適化アルゴリズムの手法を用い、少ない伝搬計算で、鮮鋭度が最大値となる伝搬距離を特定することが好ましい。以上の操作により、鮮鋭度が最も高くなるzを同定し、上式(10)に基づく変換を行うことで、被写体と撮像素子間の距離zが得られる。
【符号の説明】
【0086】
1、101、201、401、501、601、701 被写体
2、102、112、114、417a、b、517a、b、617、717a、b
レンズ系
3、103 2重焦点レンズ系
4、104、204、404、504、604、704 撮像素子
5、105、205、405、505、605、705 波長フィルタ
6a、b、406a、b、506a、b、606a、b、706a、b
移動ステージ
7、107、207、407、507、607、707 信号処理部
8、108、208、408、508、608、708 像特性制御部
30、130、230、430、530、630、730 ホログラム光学系
50、150、250、450、550、650、750 ホログラム撮像装置
109、409、509、609、709 光伝搬距離走査モジュール
113、210 可変焦点レンズ系
211、411、511、611、711 2重焦点の可変焦点レンズ系
412a、b、512a、b、612、712a、b、c、d 液晶レンズ
413a、b、513a、b、613a、b 偏光子
414、614 透過型空間光変調器
15、115、215、415、515、615、715 第1分割光
16、116、216、416、516、616、716 第2分割光
518、718 ビームスプリッタ
519、619 反射型空間光変調器
620 凹面鏡
721a、b 平面鏡
L 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16