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特許7591474畜肉系フライ食品用のピックル液、及び畜肉系フライ用食品の製造方法
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  • 特許-畜肉系フライ食品用のピックル液、及び畜肉系フライ用食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】畜肉系フライ食品用のピックル液、及び畜肉系フライ用食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/70 20230101AFI20241121BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
A23L13/70
A23L13/00 A
A23L13/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021127857
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022784
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】397010859
【氏名又は名称】四国日清食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154276
【弁理士】
【氏名又は名称】乾 利之
(72)【発明者】
【氏名】久保 広大
(72)【発明者】
【氏名】實原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】八田 瞳
(72)【発明者】
【氏名】植松 紗和子
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄右
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209042(JP,A)
【文献】特開2020-141657(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174229(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン及びカラギーナンを含有する畜肉系フライ食品用のピックル液。
【請求項2】
畜肉に請求項1に記載のピックル液を含有させた後に、衣付け処理することにより製造する畜肉系フライ用食品の製造方法。
【請求項3】
前記畜肉系フライ用食品をさらに冷凍する請求項2に記載の畜肉系フライ用食品の製造方法。
【請求項4】
前記畜肉が豚肉である請求項2又は3に記載の畜肉系フライ用食品の製造方法。
【請求項5】
請求項2又は3のいずれかに記載の畜肉系フライ用食品を、さらにフライ処理することにより製造する畜肉系フライ食品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の畜肉系フライ食品をさらに冷凍する請求項5に記載の畜肉系フライ食品の製造方法。
【請求項7】
前記畜肉が豚肉である請求項5又は6に記載の畜肉系フライ食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉系フライ食品の製造において、畜肉に含有させるピックル液組成物に関するものである。より詳細には、すでに衣が付与された状態でかつ、フライ処理前の畜肉フライ用食品(例えば、衣付きの冷凍とんかつ(未加熱))をフライ調理した際に生じる衣の破裂(パンク)や膨らみを低減することを可能とするピックル液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷凍食品等においてフライ調理して喫食される未加熱の畜肉系フライ用食品が数多く販売されている。より具体的には、畜肉に対してパン粉等の衣付けがされた状態で冷凍されて市販されている冷凍食品(例えば、冷凍とんかつ)のような場合がある。
一方、このような畜肉系のフライ用食品をフライ調理した際において、加熱により衣の内部の畜肉からアク汁(畜肉中のたんぱく・水分等)が漏れ出し、当該漏れ出したアク汁がフライ調理における加熱によって気化する等によって、衣の内部からアク汁が噴き出し、衣が破裂(パンク)したり、衣の内部で膨らみ(膨化)が発生したりする場合があった(衣の破裂(パンク)又は膨化)。
【0003】
一方、当該衣の破裂(パンク)等を低減するための方法としては、例えば、以下の先行技術1が開示されている。当該先行技術1においては、衣の材料として“もろこし粉”を使用する技術が開示されているが、これ以外にも衣の破裂(パンク)や膨化を低減する方法はあり得ることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-61231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、上述のようなフライ処理中のフライ食品における衣の破裂(パンク)又は膨化を低減する新たな方法を開発することを課題とした。
従来より、畜肉の加工食品の製造時における歩留まり向上、味・食感向上、色調改善、保存性向上等の観点から、食塩、糖類、タンパク、油脂等を含むピックル液を畜肉に注射したり、浸漬することによって含有させる方法が利用されている。
本発明者らはこの点に着目し、ピックル液の配合を検討することで、フライ時の衣の破裂(パンク)又は膨化を低減できるかを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの種々の鋭意研究の結果、ピックル液の配合において、加工デンプンのヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンと、増粘剤のカラギーナンの両方を利用することによって、フライ時の衣の破裂(パンク)又は膨化を低減できることを見出した。
すなわち、本願第一の発明は、
“ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン及びカラギーナンを含有する畜肉系フライ食品用のピックル液。”、である。
【0007】
次に、本発明者らは、畜肉に請求項1に記載のピックル液を使用した後、衣付け処理することによってフライ処理前の畜肉系フライ用食品の製造方法も意図している。
すなわち、本願第二の発明は、
“畜肉に請求項1に記載のピックル液を含有させた後に、衣付け処理することにより製造する畜肉系フライ用食品の製造方法。”、である。
【0008】
次に、本発明者らは、請求項2に記載の製造方法によって製造した畜肉系フライ用食品をさらに冷凍することも意図している。このように冷凍することで市場に流通等が容易となる。
すなわち、本願第三の発明は、
“前記畜肉系フライ用食品をさらに冷凍する請求項2に記載の畜肉系フライ用食品の製造方法。”、である。
【0009】
次に、本発明においては、畜肉として豚肉を利用すると好適である。
すなわち、本願第四の発明は、
“前記畜肉が豚肉である請求項2又は3に記載の畜肉系フライ用食品の製造方法。”、である。
【0010】
次に、本発明者らは上述の請求項2又は3のいずれかに記載の畜肉系フライ用食品を実際にフライ処理する製造方法も意図している。
すなわち、本願第五の発明は、
“請求項2又は3のいずれかに記載の畜肉系フライ用食品を、さらにフライ処理することにより製造する畜肉系フライ食品の製造方法。”、である。
【0011】
次に、本発明者らは、請求項5に記載する畜肉系フライ食品をさらに冷凍することも意図している。
すなわち、本願第六の発明は、
“請求項5に記載の畜肉系フライ食品をさらに冷凍する請求項5に記載の畜肉系フライ食品の製造方法。”、である。
【0012】
次に、本発明においては、畜肉として豚肉を利用すると好適である。
すなわち、本願第七の発明は、
“前記畜肉が豚肉である請求項5又は6に記載の畜肉系フライ食品の製造方法。”、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のピックル液を利用し、当該ピックル液を畜肉に含有させて畜肉系フライ用食品を製造し、当該畜肉系フライ用食品をフライ処理することによって、衣の破裂や膨化を低減させた畜肉系フライ食品(とんかつ等)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例1及び実施例1の畜肉系フライ食品(とんかつ)の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の内容を詳細に説明する。本願第一の発明は、“ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン及びカラギーナンを含有する畜肉系のフライ食品用のピックル液”に関するものである。
尚、本発明における、“畜肉系フライ用食品”とは、畜肉に衣付けを実施した後であってフライ処理前の状態のものをいうものとする。また、“畜肉系フライ食品”とは、畜肉系フライ用食品に対してフライ処理を実施した後の状態のものというものとする。
【0016】
〇畜肉系フライ食品用のピックル液
本発明にいう畜肉系のフライ食品用のピックル液とは、畜肉を衣付けしてフライ処理し、フライ食品を製造する場合において、当該畜肉に対して衣付けする前に注入又は浸漬等することによって畜肉に含有させておく調味液をいう。
【0017】
―畜肉―
本発明にいう畜肉とは、豚肉、牛肉、鶏肉、馬肉及び羊肉等が挙げられる。これらの畜肉を用いて本発明の畜肉系フライ用食品(畜肉系フライ食品)の製造を行う。また、本発明においてはこれらの畜肉のうち、特に、豚肉を好適に利用することができる。
【0018】
また、上記畜肉を利用する場合、当該畜肉が凍結されていることも多い。当該畜肉をスライスする場合、凍結状態や完全に解凍された状態でも勿論可能であるが、生産性等の問題やカットの容易性等から、当該畜肉の状態として、半解凍状態とするのが好適である。ここで、半解凍状態とは、一般には、冷蔵2~10℃、氷温貯蔵(チルド)-2~2℃、冷凍(凍結)-18℃以下との分類があり、半解凍とは、品温が概ねー7℃~-3℃程度の範囲内にある状態をいう。
【0019】
─スライス処理等─
例えば、豚肉の場合、原料の豚肉として塊状のブロック(原木)を用いる場合、当該ブロック(原木)をスライスして用いる場合が多い。尚、この際の厚みとしては特に限定されるものでないが、概ね3~18mm程度が好適である。さらに、より好ましくは、6~15mm程度である。
【0020】
次に、畜肉はブロック状のような塊状のものをスライスしたタイプに限られず、薄切りや細かくカットされたタイプでも利用可能である。さらに、ミンチ状等に処理したものに対しても適用可能である。例えば、畜肉(例えば、牛肉や豚肉)をミンチとして、さらに適宜たまねぎ等の野菜を加えて成型したメンチカツ等の畜肉系のフライ食品にも適用することができる。
【0021】
尚、ひき肉等の畜肉を用いてメンチカツ等を調製する場合、たまねぎやにんにく等の野菜系の原料も用いられるが、このような野菜系の原料の他、醤油及びソース等の調味料並びに香辛料が用いられてもよいことは勿論である。
【0022】
─畜肉系フライ食品─
本発明にいう畜肉系フライ食品とは、前記のスライス等した畜肉に対して衣付けを行い、植物油脂や動物油脂のフライ油で揚げる等の処理を施したものをいう。
ここでいう衣付けには、小麦粉や片栗粉等、卵及びパン粉を付着させる、いわゆる“フライもの”と称されるフライ食品に相当するタイプや、小麦粉及び水、卵等の混合物であるバッターを付着させた後に、フライ処理する“天ぷら”タイプや、必要な調味料を添加した後、小麦粉や片栗粉をまぶしてフライ処理する、いわゆる“から揚げ”と称されるタイプのいずれも含むものとする。
【0023】
具体的にはパン粉を利用する“フライもの”としては、とんかつ、チキンかつ、牛かつ等の畜肉系フライ食品が相当する。また、“天ぷら”としては、豚天、鳥天(鶏天)等のいわゆる天ぷら系統のフライ食品が該当する。さらに、豚のから揚げや鳥(鶏)のから揚げ等も含まれる。
【0024】
―ピックル液―
本発明に言うピックル液とは、畜肉の歩留まり改良、色調改善、食味改善、保存性向上等の目的で、畜肉を衣付け及びフライ処理による加熱処理する前に含有させる調味液のことをいう。畜肉製品に含有させることで一定期間、低温で保持して浸透させることが多い。塩せきとも呼ばれる場合もある。
本発明のピックル液については、特にヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン及びカラギーナンを含有することを特徴とする。
【0025】
〇ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン
本発明にいうヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンとは、澱粉をヒドロキシプロピル化し、かつ、リン酸架橋した澱粉をいう。
ここで、ヒドロキシプロピル化とは、所定の原料デンプンをプロピレンオキシドでエーテル化したものである。一般には、でん粉を酸化プロピレンでエーテル化して得ることができる。でん粉へのヒドロキシプロピル基の導入により親水性が増し、糊化開始温度が低下する。耐老化性に優れ、冷蔵安定性や凍結融解にも優れた特徴を有する。
【0026】
尚、製法については特に限定されない。ここで、原料デンプンは、タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉等の種々の澱粉を用いることができる。
次に、リン酸架橋とは、特にトリメタリン酸ナトリウム等でエステル化処理も施したヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンであることをいう。
リン酸架橋は、トリメタリン酸ナトリウム(またはオキシ塩化リン)でエステル化して得られる。でん粉の分子内または分子間の水酸基が架橋して、糊化が抑制され、耐せん断性や耐酸性を有する特徴が付与される。
【0027】
尚、ヒドロキシプロピル化の置換の程度及びリン酸の架橋度については、特に限定されず市販で流通しているタイプを用いればよい。
また、本発明のピックル液におけるヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの含有量は、2重量%~30重量%程度となることが好ましい。より好ましくは4重量%~20重量%程度である。最も好ましくは、6重量%~10重量%程度である。
【0028】
〇カラギーナン
カラギーナン(別名:カラギナン、カラゲナン、カラゲーナン、カラゲニン)は、多糖類であり、特に増粘多糖類と称される。
カラギーナンは直鎖含硫黄多糖類の一種で、ガラクトース又は3,6-アンヒドロ-ガラクトースと硫酸から構成される高分子化合物である。通常、紅藻類からアルカリ抽出により得られる。ゲル化する性質を有しており、この性質を利用して種々の食品に利用される。
【0029】
また、カラギーナンには、硬く強いゲルとなるκ(カッパ)、比較的柔らかいゲルとなるι(イオタ)、タンパク質と混ぜると柔らかいゲルとなるλ(ラムダ)の各タイプが存在する。尚、本発明においてはκ(カッパ)タイプを利用することが好ましい。
次に、本発明のピックル液におけるカラギーナンの含有量は、0.1重量%4重量%程度となることが好ましい。より好ましくは0.2重量%~2重量%程度である。最も好ましくは、0.3重量%~1重量%程度である。
【0030】
次にピックル液のその他の成分として以下の素材を含有することができる。
〇ピックル液のその他の成分
─食塩─
食塩については、味付け及び保存性に影響するこのため必要に応じて適宜使用する量を調整することができる。
【0031】
─糖類─
糖類としては、単糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、マンノース、ソルビトール等)、二糖類類(ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、セロビオース、イソマルトース等)、多糖類(デキストリン、アミロース、アミロペクチン、澱粉、セルロース、アガロース等)を利用することができる。これらの糖類のうちでは、特に二糖類としてトレハロースを利用することが好ましい。
【0032】
─増粘剤─
本発明においては、増粘剤として特にカラギーナンを利用するが、これら以外にも必要に応じて、種々の増粘剤を利用することができる。グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース等が例示として挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0033】
─加工デンプン─
本発明においては、加工デンプンとして特にヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを利用するが、これ以外にも必要に応じて、種々の加工デンプン利用することができる。
具体的には、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロオキシプロピルデンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン等が挙げられる。但し。これらに限定されるものではない。
【0034】
─油脂─
油脂としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれも利用することができる。使用できる油脂の種類としては、植物油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、パーム油、パーム核油、コプラ油、ゴマ油、アマニ油、ひまし油、オリーブ油、トウモロコシ油等が挙げられる。また、動物性油脂としては、ラード、牛脂、鶏脂、魚脂が、これに限定されるものではない。
【0035】
─植物タンパク質─
植物性タンパクとしては、大豆タンパクや小麦タンパク、エンドウ豆タンパク、そら豆タンパク、トウモロコシ蛋白等を利用することができる。但し、これに限定されるものではない。
【0036】
─動物性タンパク質─
動物性タンパク質としては、乳タンパク(カゼインタンパク、ホエイタンパク)、卵タンパク(全卵タンパク、卵白タンパク、卵黄タンパク)等を利用することができる。但し、これに限定されるものではない。
【0037】
─香辛料─
コショウ、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、オールスパイス、オレガノ、カルダモン、クミン、クローブ、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サンショウ、シナモン、ショウガ、セージ、セロリ、タイム、ターメリック、陳皮、唐辛子、ナツメグ、ニンニク、ハッカ、バニラ、パプリカ、ヒハツ、フェンネル、ブラッククミン、ホースラディッシュ、ミント、マスタード、ミョウガ、ラッキョウ、ローズマリー、ローリエ、ワサビ、五香粉、ガラムマサラ、カレー粉、七味唐辛子、チリパウダー、柚子胡椒等の種々の香辛料を利用することが可能である。但し、これに限定されるものではない。
【0038】
─調味料─
グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム、タンパク加水分解物、酵母エキス等があげられるがこれに限定されるものではない。
【0039】
─香料─
必要に応じて、天然香料及び合成香料の種々を利用することができる。
【0040】
─食品添加物─
上述の各種素材以外の食品添加物としてリン酸塩、重合リン酸塩類、アルカリ性塩類、酸化防止剤、硝酸塩、亜硝酸塩等を始め種々の乳化剤、甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、発色剤を利用することができる。但し、これに限定されるものではない。
【0041】
─その他─
醤油、みりん、酒、だし汁等の各種素材、甘味料、食用卵殻粉等についても必要に応じて利用することができる。さらに、ピックル液の調製の際には水を利用することも勿論である。
【0042】
〇畜肉系フライ食品(畜肉系フライ用食品)の製造方法
以下の上記のピックル液を利用して畜肉系フライ食品(畜肉系フライ用食品)を製造する場合の工程について説明する。
【0043】
─畜肉に対するピックル液の付与─
畜肉に対してピックル液を付与する。ここで、畜肉については種々の前処理を行うことが可能である。すなわち、畜肉をそのままの形状でピックル液を含有させることも可能であるし、所定の形状に成型した後にピックル液を畜肉中に含有させる方法が可能である。
当該成型の方法としては、畜肉に対して筋切り等のカット処理のみ行った後でもよいし、また、所定のサイズにスライス等のカットした後でもよい。
【0044】
次に、ピックル液を含ませる方法としては、畜肉に注射器により注入する(インジェクション)方法が挙げられる。また、その他の方法としては、ピックル液に浸漬しておく方法も可能である。
【0045】
尚、畜肉に対してピックル液を含有させることができるのであれば、種々の方法を利用できるのは勿論である。
さらに、畜肉のミンチ等を利用してこれに野菜等を加えて塊状にする場合(例えば、ミンチカツ等)には当該塊状中に本発明のピックル液が含有させるようにしておけばよい。
【0046】
─畜肉に対するピックル液の付与量─
畜肉に対するピックル液の付与量としては特に限定されないが、畜肉の重量に対して10重量%~80重量%が一般的である。また、好ましくは15重量%~60重量%程度であり、もっとも好ましくは、25重量%~50重量%程度である。
【0047】
─タンブリング処理─
畜肉に対するピックル液を注入後においては、当該畜肉のタンブリング処理を行うことも好ましい。ここでタンブリング処理とは、ピックル液を注入後の畜肉を回転させたり、振動させたり又は、揉む等の処理を施すことによって注入したピックル液を畜肉中に分散させる効果と、畜肉を均一に柔らかくする効果を有する。
具体的なタンブリングのための装置としては、回転式のドラム式のタンブラー装置にピックル液を注入した肉を収納し、回転させてもよい。また、真空タンブラーを使用することも好ましい。さらにこれ以外にも振動装置やマッサージ装置を利用してもよい。
【0048】
─ケーシング充填─
タンブリング後の畜肉に対しては、必要に応じてケーシング充填処理を行ってもよい。ケーシング充填とは、所定の形状の袋体や型枠に畜肉を収納して、所定の太さやサイズに畜肉を調整するため等に利用することができる。
また、畜肉をケーシングした状態で凍結して、別の工場に搬送することも可能である。尚、本ケーシング充填の工程は任意であり、ケーシング充填を行わないことも勿論可能である。
【0049】
─プレス処理─
ケーシングして凍結した畜肉を解凍しつつ所定の型枠に収納して、プレス整形することも可能である。プレス整形することで畜肉を所定の形状とすることができる。尚、プレス整形せずに、次のスライス工程を行ってもよいことは勿論である。
【0050】
─スライス工程─
畜肉を塊状(原木)の状態でピックル液を含有させる場合においては、必要に応じて上述のタンブリング処理、ケーシング充填、プレス処理等を行った後、所定のサイズにスライスする。例えば、豚肉の場合、原料豚肉として塊状のブロックを用いる場合、当該ブロックをスライスして所定のスライス厚とすることができる。尚、スライス厚については、上記した通りである。
【0051】
─衣付け─
本発明は、畜肉をフライ処理するフライ食品を対象とする。ここで、畜肉のフライ食品とは、畜肉に対して衣付けを行い、油で揚げる等の処理を施したものをいう。
尚、ここでいう衣付けには、小麦粉や片栗粉等、卵及びパン粉を付着させる、いわゆる“フライ”と称されるフライ食品に相当するタイプや、小麦粉及び水、卵等の混合物であるバッターを付着させた後に、フライ処理する“天ぷら”タイプや、必要な調味料を添加した後、小麦粉や片栗粉をまぶしてフライ処理する、いわゆる“から揚げ”と称されるタイプのいずれも含むものとする。
【0052】
衣付けの方法としては、特に限定されないが、小麦粉や片栗粉等の紛体や卵、水等の液状物を付着させる工程が挙げられる。具体的には、いわゆる“フライ”タイプでは、小麦粉や片栗粉等→卵、水、ミルク等→パン粉等を付着させた後にフライ処理する工程を経る。
また、小麦粉及び水、卵等の混合物であるバッターを付着させた後に、フライ処理する“天ぷら”タイプや、必要な調味料を添加した後、小麦粉や片栗粉をまぶしてフライ処理する、いわゆる“から揚げ”と称されるタイプのいずれも可能である。
【0053】
ここで、特に“フライ”タイプの場合、パン粉を付与することになるが、パン粉については、電極式パン粉(通電式パン粉)と焙焼式パン粉の2種類がある。ここで、電極式パン粉とは、発酵させたパン生地に電流を通過させて加熱して製造するパン粉(比較的白い)をいう。また、焙焼式パン粉とは、発酵させたパン生地を通常のパンと同様にオーブンで焼き上げ、これより得られたパン粉をいう。本発明においては、上記いずれもパン粉も用いることができる。
【0054】
また、本発明に用いる衣材の原料としては、小麦粉、片栗粉、卵液、卵白、大豆蛋白、ベーキングパウダー、乳アルブミン等の一種類以上の粉体原料及び水などの原料からなり、その他の原料を適宜混合することができる。
さらに、小麦粉以外にも、穀粉として、米粉、コーンフラワー等の穀粉や各種の澱粉を必要に応じて、本発明に使用することができる。また、食塩や、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ベーキングパウダー等の膨張剤、全卵液、ビタミンE等の酸化防止剤、グルタミン酸ソーダなどの調味料、クチナシ色素、アナトー色素等の食用色素も使用することができる。グアーガム等の増粘剤を添加することができる。
【0055】
また、上記のように衣付けした状態で冷凍することでフライ処理前の状態である、畜肉系フライ用食品は完成する。当該畜肉系フライ用食品はフライ処理前の商品として、各種流通経路を経て需要者や事業者に販売・搬送等をすることが可能である。
【0056】
―フライ処理―
衣付けを行った畜肉系フライ用食品に対してフライ処理を行う。フライ処理については種々の条件で実施することができる。使用できる油としては、植物油脂(パーム油、菜種油、コーン油、大豆油、白絞油等)や動物油脂(ラード、牛脂等)のいずれも使用することできる。
【0057】
次に、フライ温度としては、概ね140℃~190℃程度の範囲内が一般的であるが、特に165℃~180℃程度が好ましい。また、フライ時間としては、畜肉の厚みにもよるが概ね1分~20分程度が可能であるが、好ましくは、3分~16分程度である。
さらに、フライ処理の条件は常圧下のみでなく、フライ処理を減圧下で実施する減圧フライや、高圧下で行う高圧フライも可能であることは勿論である。
フライ処理後においては、フライ処理後のフライ食品を網状体の上に配置等することで余分な油脂を除去して、フライ食品を回収する。
【実施例
【0058】
以下に本発明の実施例を記載する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
─畜肉系フライ食品(とんかつ)の製造─
以下の実施例における畜肉系フライ食品は畜肉として豚肉を利用した。すなわち、畜肉として豚肉を利用する“とんかつ”を製造した。
【0060】
[実施例1]
畜肉である豚肉原料(原木)(厚み60~100mm、円周250~300mm、長さ500~600mm、重量2.6~3.2kg)を準備し、当該豚肉原料(原木)の筋切り(筋の部分をカットした)を行った。次に、表1の実施例1に示す配合のピックル液を準備しておき、前記の筋切り後の原木に対して剣山状に複数の針先を備えた注射器を利用して、前記ピックル液を豚肉の原木畜肉100g当たり35gとなるように注入した。
【0061】
当該ピックル液を注入した豚肉原木を回転式のタンブリング装置内に収納し、1時間のタンブリング処理を行った。次に、タンブリング処理後の豚肉を軟包材性のケーシング袋に充填して凍結した後、凍結して1~7日間保持した。
凍結保持後の豚肉について半解凍するとともにプレス成型して所定形状とした状態で厚み(高さ)15mmごとにスライスしてピックル液を含む豚肉スライス品(厚み15mm、縦100mm、横90mm)を得た。
【0062】
当該豚肉スライス品に対して、衣付けとして、バッター液(成分として、加工デンプン、大豆粉、食用油脂、調味香辛料料、増粘多糖類等を含む)をその表面に付着させた後、パン粉として焙焼式パン粉を付着させ、フライ処理前の畜肉系フライ用食品(畜肉としては豚肉を使用した、いわゆる“とんかつ”)を完成させた。
尚、当該畜肉系フライ用食品はそのまま凍結して、保存することができ、凍結した状態で出荷することができた。
【0063】
次に、当該パン粉付着後の畜肉系フライ用食品(畜肉としては豚肉を使用した、いわゆる“とんかつ”)を、フライ処理(なたね油、約170℃、約12分)を行い、約10分間、油切することでフライ処理を完成させ、フライ食品(とんかつ)を完成させた。当該フライ食品(とんかつ)を約50枚製造し、これらのフライ後の畜肉フライ食品(とんかつ)の衣の破裂又は膨らみ状態を検査した。さらに、本フライ食品(とんかつ)を喫食試験に供し、官能評価した。
【0064】
〇官能評価
─評価方法について─
フライ処理後の“とんかつ”の膨らみ又は破裂の程度は、1~10の10段階評価とした。また、評価基準は次の通りである。
評価1:ほぼすべての“とんかつ”の衣に破裂又は膨らんでいるもの
評価10:ほぼすべての“とんかつ”の衣に破裂又は膨らみがないもの
とし、破裂又は膨らみの程度に応じて10段階で評価した。
さらに、フライ処理後の“とんかつ”を喫食し、喫食時の食感についても評価した。
尚、官能評価は、熟練の技術者8人で行いその平均値を四捨五入して評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1~4及び実施例2~4]
比較例1~4及び実施例2~4についてはピックル液の配合を表1に示す各組成とした以外は実施例1と同様にして畜肉系フライ用食品を調製した。また、当該畜肉系フライ用食品を、フライ処理(なたね油、約170℃、約12分)を行い、約10分間、油切することでフライ処理を完了し、畜肉系フライ食品(とんかつ)を完成させた。当該畜肉系フライ食品(とんかつ)について実施例1と同様に喫食し、官能評価に供した。結果を表1に示す。
尚、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを多量に加えると肉の食感がやわらかくなった。また、食用卵殻粉を使用することによって、ピックル液中の各成分の分散性を高めることができ、これによってフライ後の衣の破裂又は膨らみを抑制できることがわかった。
【表1】
【0066】
尚、表1における加工デンプンとは、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン以外の加工デンプンであって、酢酸デンプンとリン酸架橋デンプンを98:2の重量比としたものである。また、表1における増粘多糖類は、カラギーナン以外の増粘多糖類であって、キサンタンガムとタマリンドシードガムを含有したものである。
【0067】
また、図1に比較例1の畜肉系フライ食品(とんかつ)の断面写真(衣の内部の膨らみがみられるもの)と、実施例1の畜肉系フライ食品(とんかつ)の断面写真(衣の内部の膨らみが無く正常なもの)を示す。
結果として、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン及びカラギーナンの両方を利用した場合、フライ後において衣の破裂又は膨らみが低減されることが判明した。
図1