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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-20
(45)【発行日】2024-11-28
(54)【発明の名称】放射温度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/02 20220101AFI20241121BHJP
   G01J 5/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01J5/02 J
G01J5/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022533903
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2021023721
(87)【国際公開番号】W WO2022004507
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020111469
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 悠
(72)【発明者】
【氏名】藤野 翔
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-182426(JP,U)
【文献】特開2006-226864(JP,A)
【文献】米国特許第07402802(US,B1)
【文献】特開2003-188489(JP,A)
【文献】特開2008-187284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0223245(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109405978(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサと、
前記赤外線センサから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部と、前記デジタル信号から温度を算出する温度算出部とを有する信号処理部と、
前記赤外線センサ及び前記信号処理部を収容するケーシングとを備え、
前記信号処理部は、複数の基板をスペーサを介して積み重ねて構成されており、
前記複数の基板は、基板間コネクタを用いて接続されており、
前記基板間コネクタは、互いに隣接する2つの前記基板の対向面のそれぞれに設けられて互いに嵌合するコネクタで構成されている、放射温度計。
【請求項2】
前記複数の基板は、前記ケーシングに弾性部材を介して固定されている、請求項1に記載の放射温度計。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記複数の基板を積み重ねた方向から前記複数の基板を押さえつけるものである、請求項2に記載の放射温度計。
【請求項4】
前記複数の基板において前記赤外線センサが搭載する第1基板を有し、
前記第1基板は、前記ケーシングに接触して設けられ、又は、前記ケーシングとの間で放熱部材を挟んで設けられている、請求項1乃至3の何れか一項に記載の放射温度計。
【請求項5】
前記赤外線センサの前方に設けられたレンズをさらに備え、
前記ケーシングは、前記赤外線センサ及び前記信号処理部を収容する第1ケーシング部と、前記レンズを収容する第2ケーシング部とを有しており、
前記第1ケーシング部と前記第2ケーシング部とは互いに分離可能に構成されている、請求項1乃至4の何れか一項に記載の放射温度計。
【請求項6】
前記第1ケーシング部は、前記赤外線センサの前方に設けられ、前記第2ケーシング部からの熱輻射を遮る絞り部を有する、請求項5に記載の放射温度計。
【請求項7】
前記第1ケーシング部は、前記赤外線センサの前方に設けられた波長選択フィルタを有する、請求項5又は6に記載の放射温度計。
【請求項8】
前記第2ケーシング部は、前記レンズを保持するレンズブロックを有しており、当該レンズブロックが交換可能に構成されている、請求項5乃至7の何れか一項に記載の放射温度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射温度計は、特許文献1に示すように、測定対象から放出された赤外線を赤外線検出素子(赤外線センサ)によって検出することで、その検出強度に基づいて測定対象の温度を測定できるように構成されている。
【0003】
この放射温度計は、赤外線センサをケーシングに収容して構成された測定部を有しており、当該測定部は、設置場所の制約などにより小型化が望まれている。このため、測定部のケーシングは、通常、赤外線センサのみを収容する構成、又は、赤外線センサ及びプリアンプ基板を収容する構成とされている。また、放射温度計の測定部には電気ケーブルを介して演算部が接続されており、当該演算部において、測定部から出力されるアナログ信号から温度を算出するように構成されている。
【0004】
しかしながら、上記の通り、測定部を小型化すると、ケーシングには最小限の回路しか収容することができない。また、ケーシングに収容する回路を最小限にすると、赤外線センサからのアナログ信号を外部に出力する構成となってしまい、電磁ノイズ(EMCノイズ)に弱くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-100987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、放射温度計を小型化するとともに回路規模を大きくすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る放射温度計は、赤外線センサと、前記赤外線センサの信号を処理する信号処理部と、前記赤外線センサ及び前記信号処理部を収容するケーシングとを備え、前記信号処理部は、複数の基板をスペーサを介して積み重ねて構成されていることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、信号処理部が複数の基板をスペーサを介して積み重ねて構成されているので、信号処理部を小型化することができるとともに、回路規模を大きくすることができる。その結果、ケーシングに収容する回路の自由度を増すことができ、赤外線センサと同一のケーシング内において、赤外線センサからのアナログ信号をデジタル信号に変換できるようになる。したがって、ケーシングからデジタル信号を出力できるようになり、電磁ノイズに強くなる。
【0009】
複数の基板を電気ケーブルで接続した場合にも電磁ノイズの影響が出てしまう。このため、前記複数の基板は、基板間コネクタを用いて接続されていることが望ましい。また、基板間コネクタにより複数の基板を接続することにより、基板同士の接続を簡単にできる。
【0010】
積み重ねられた複数の基板をねじ止めなどで固定すると、基板に過度の応力がかかってしまう等により、複数の基板を安定して固定することができない。このため、前記複数の基板は、前記ケーシングに弾性部材を介して固定されていることが望ましい。
【0011】
複数の基板を基板間コネクタで接続する場合には、基板間コネクタが抜けないように固定する必要がある。このため、前記弾性部材は、前記複数の基板を積み重ねた方向から前記複数の基板を押さえつけるものであることが望ましい。この構成であれば、基板間コネクタが抜けることなく、複数の基板を安定して固定することができる。
【0012】
本発明では、前記複数の基板において例えば最外側に位置する第1基板に前記赤外線センサが搭載されている構成とすることが考えられる。この構成の場合には、基板で生じる熱が赤外線センサに伝達してしまい、赤外線センサの出力がドリフトしてしまう。この問題を好適に解決するためには、前記第1基板は、前記ケーシングに接触して設けられ、又は、前記ケーシングとの間で放熱部材を挟んで設けられていることが望ましい。この構成であれば、基板で生じる熱をケーシングに逃がすことができるので、赤外線センサの出力のドリフトを低減することができる。
【0013】
測定対象の温度を精度良く測定するためには、放射温度計は、前記赤外線センサの前方に設けられたレンズをさらに備えていることが望ましい。
ここで、赤外線センサ及びレンズを同一のケーシングに収容した場合には、レンズ等の光学系が赤外線センサに与える熱影響をキャンセルするために、ケーシングの温度分布を均一化するなどの対策が必要となってしまう。
そこで、本発明では、前記ケーシングは、前記赤外線センサ及び前記信号処理部を収容する第1ケーシング部と、前記レンズを収容する第2ケーシング部とを有しており、前記第1ケーシング部と前記第2ケーシングとは互いに分離されていることが望ましい。この構成であれば、第1ケーシング部と第2ケーシング部に分割して熱的に分離しているので、レンズ等の光学系が赤外線センサに与える影響を低減することができる。
【0014】
ここで、第2ケーシングからの熱輻射を赤外線センサが検出すると測定誤差になってしまう。この測定誤差を低減するためには、前記第1ケーシング部は、前記赤外線センサの前方に設けられ、前記第2ケーシング部からの熱輻射を遮る絞り部を有することが望ましい。また、前記絞り部の内径は、レンズを通って、前記赤外線センサに入射する測定対象からの赤外線を遮ることなく、前記第2ケーシング部からの熱輻射を遮る径であることが望ましい。
【0015】
赤外線センサによる測定精度を向上するためには、赤外線センサの前方に波長選択フィルタを設けることが考えられる。この波長選択フィルタを第2ケーシング部に設けた場合には、赤外線センサと波長選択フィルタとの温度差が大きくなってしまい、波長選択フィルタから出る赤外線の影響を受けてしまう。そこで、前記第1ケーシング部は、前記赤外線センサの前方に設けられた波長選択フィルタを有することが望ましい。このように波長選択フィルタを第1ケーシング部に設けることによって、赤外線センサ及び波長選択フィルタの温度差を小さくすることができ、波長選択フィルタから出る赤外線による測定誤差を低減することができる。
【0016】
放射温度計の用途に応じて種々のレンズに交換可能にするためには、前記第2ケーシング部は、前記レンズを保持するレンズブロックを有しており、当該レンズブロックが交換可能に構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上に述べた本発明によれば、放射温度計を小型化するとともに回路規模を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る一実施形態の放射温度計の構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態において第4基板を第3基板から分離した状態を示す斜視図である。
図3】同実施形態の熱の流れを示す模式図である。
図4】放熱部材の有無及び基板とケーシングを直接接触した場合における赤外線センサの出力信号の時間変化を示す実験結果である。
図5】絞り部の有無による測定値(指示値)の時間変化を示す実験結果である。
図6】波長選択フィルタをレンズユニットに設けた場合とセンサユニットに設けた場合の測定値(指示値)の時間変化を示す実験結果である。
図7】変形実施形態の信号処理部におけるスペーサ及び基板間コネクタの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
100・・・放射温度計
2 ・・・赤外線センサ
3 ・・・レンズ
4 ・・・信号処理部
41 ・・・第1基板
42 ・・・第2基板
43 ・・・第3基板
44 ・・・第4基板
45 ・・・スペーサ
46 ・・・基板間コネクタ
5 ・・・ケーシング
51 ・・・第1ケーシング部
52 ・・・第2ケーシング部
521・・・レンズブロック
7 ・・・弾性部材
8 ・・・放熱部材
9 ・・・絞り部
10 ・・・波長選択フィルタ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る放射温度計について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
<放射温度計の装置構成>
本実施形態の放射温度計100は、測定対象から放射される赤外線の強度に基づいて非接触で測定対象の温度を測定するものである。
【0022】
具体的に放射温度計100は、赤外線センサ2と、赤外線センサ2の測定対象側である入射側前方に設けられたレンズ3と、赤外線センサ2の信号を処理して温度を算出する信号処理部4と、赤外線センサ2及び信号処理部4を収容するケーシング5とを備えている。なお、信号処理部4により算出された温度データは、電気ケーブル6を介して外部の表示部200や温度制御機器等の外部装置(不図示)に出力される。
【0023】
赤外線センサ2は、測定対象から放射される赤外線を検出して、検出した赤外線のエネルギーに応じた強度信号(アナログ信号)を出力するものである。具体的に赤外線センサ2は、例えば赤外波長帯の全波長帯の赤外線を検出するものであり、ここではサーモパイルなどの熱型のものである。なお、赤外線センサとしては、その他のタイプのもの、例えば、HgCdTe、InGaAs、InAsSb、PbSeなどの量子型光電素子を用いても構わない。また、赤外線センサ2には、所定の波長帯域の光(電磁波)のみを通過させる波長選択フィルタ(不図示)が設けられている、ここでは例えば波長が8μm~14μmの帯域の赤外線のみを通過させるものが用いられており、この波長選択フィルタ10を通過した赤外線のみ受光されるように構成してある。
【0024】
レンズ3は、測定対象から放射される赤外線を赤外線センサ2に集光する赤外線レンズである。本実施形態では、一方の面が凸面であり、他方の面が平面の平凸レンズを用いている。また、レンズ3は、平面視において円形状をなすものである。なお、レンズ3は、両面が凸面の両凸レンズであっても良いし、形状やサイズは適宜変更して構わない。
【0025】
信号処理部4は、赤外線センサ2のアナログ信号を処理して、測定対象の温度を算出するものである。この信号処理部4は、赤外線センサ2のアナログ信号を増幅する増幅部4aと、増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部4bと、AD変換されたデジタル信号から温度を算出するCPU等の温度算出部4cと、算出された温度を示す温度データ(デジタル信号)を外部に出力するための入出力インターフェース部4dとを有している。
【0026】
ケーシング5は、赤外線センサ2、信号処理部4及びレンズ3を収容するものであり、概略円筒形状をなすものである。このケーシング5は、赤外線センサ2及び信号処理部4を収容する第1ケーシング部51と、レンズ3を収容する第2ケーシング部52とを有している。なお、第1ケーシング部51及び第2ケーシング部52は、例えばアルミニウム製又は銅製といった熱伝導率が高い材料から構成されていることが望ましい。
【0027】
しかして、本実施形態の信号処理部4は、図1に示すように、複数の基板41~44をスペーサ45を介して厚み方向に積み重ねて構成されている。本実施形態では、4枚の基板41~44をスペーサ45を介して積み重ねて構成された4段構成のものである。
【0028】
最外側である最上段(図1の最前側)に位置する第1基板41の上面には、赤外線センサ2が半田付けされて搭載されている。また、第1基板41には、赤外線センサ2のアナログ信号を増幅する増幅部4aが設けられている。ここで、第1基板41の上面には、赤外線センサ2が搭載されることから、増幅部4aは、第1基板41の裏面に設けられている。
【0029】
また、第1基板41の次の第2基板42には、増幅部4aにより増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部4bが搭載されている。図1においてAD変換部4bは、増幅部4aと物理的に干渉しないように第2基板42の裏面に搭載されているが、第2基板42の上面に設けても良い。
【0030】
さらに、第2基板42の次の第3基板43には、変換されたデジタル信号から温度を算出するCPU等の温度算出部4cが設けられている。図1において温度算出部4cは、AD変換部4bと物理的に干渉しないように第3基板43の裏面に搭載されているが、第3基板43の上面に設けても良い。
【0031】
その上、第3基板43の次の第4基板44には、温度算出部4cにより算出された温度データを外部に出力するための入出力インターフェース部4dが設けられている。また、第4基板44は、コネクタを介して外部装置に接続される電気ケーブル6が接続される。
【0032】
これら基板41~44は、スペーサ45によって、所定の距離離れた状態とされている。なお、スペーサは、例えば銅に錫メッキを施したもの、又は、アルミニウムに錫メッキを施したもの等を用いることができる。互いに隣り合う基板の間には、1又は複数のスペーサ45が設けられている。このスペーサ45によって、各基板41~44に搭載された電子部品4a~4dが他の基板又は他の基板に搭載された電子部品に物理的に干渉しないように構成されている。
【0033】
さらにこれら基板41~44は、基板間コネクタ46を用いて接続されている。基板間コネクタ46は、嵌合タイプのものであり、垂直接続されるものである。具体的に基板間コネクタ46は、図2に示すように、互いに隣接する2つの基板の対向面において一方に設けられたプラグ461と、他方に設けられたレセプタクル462とからなる。なお、基板間コネクタ46も上述のスペーサ45と同様の機能を有し、基板41~44間を所定距離離れた状態にする。
【0034】
また、信号処理部4を構成する複数の基板41~44は、ケーシング5(ここでは第1ケーシング部51)に例えばシリコンゴム等の弾性部材7を介して固定されている。具体的には、弾性部材7は、第1ケーシング部51及び複数の基板41~44の間に介在することにより、複数の基板41~44を積み重ねた方向(図1では前後方向)から複数の基板41~44を押さえつけるものである。本実施形態では、赤外線センサ2が搭載された第1基板41とは反対側の第4基板44と第1ケーシング部51との間に弾性部材7が設けられている。
【0035】
ここで、第1基板41と第1ケーシング部51との間に放熱部材8が設けられている。つまり、第1基板41に放熱部材8が接触して設けられ、放熱部材8は、第1ケーシング部51に接触して設けられている。なお、上述した弾性部材7との関係でいえば、複数の基板41~44は、弾性部材7及び放熱部材8により挟まれた構造となる。放熱部材8を設けることなく、第1基板41を第1ケーシング部51に直接接触させても良い。
【0036】
また、放熱部材8は、例えばアクリル系やシリコーン系のシート状のものである。そして放熱部材8は、基板41~44で発生する熱を第1ケーシング部51に逃がすことにより、赤外線センサ2の温度ドリフトを低減するものである。この放熱部材8は、第1基板41において赤外線センサ2を取り囲むように設けられている。複数の基板41~44に搭載された電子部品のうち温度算出部(CPU)4cの発熱が大きく、図3に示すように、当該温度算出部4cが搭載された第3基板43からの熱が主にスペーサ45を介して第1基板41側に伝わる。この第1基板41に伝わった熱は、放熱部材8を介して第1ケーシング部51に伝達される。このように放熱部材8により基板41~44で生じる熱を第1ケーシング部51に逃がすことにより、図4に示すように、赤外線センサ2の温度ドリフトを低減することができる。また、第1基板41を第1ケーシング部51に直接接触させることによっても、赤外線センサ2の温度ドリフトを低減することができる。なお、図4は、放熱部材8を用いずに、放熱部材8の場所が断熱層になっている場合と、放熱部材8を用いた場合と、放熱部材8を用いずに、第1基板41を第1ケーシング部51に直接接触させてネジ固定した場合における赤外線センサ2の出力信号の変化を示す実験結果である。
【0037】
また、ケーシング5を構成する第1ケーシング部51と第2ケーシング部52とは互いに分離されている。具体的には、第1ケーシング部51と第2ケーシング部52とは互いに別部材により構成されており、第1ケーシング部51及び第2ケーシング部52は、互いに熱伝導率が異なる材質により構成しても良い。また、第1ケーシング部51の前端面と第2ケーシング部52の後端面とが当接するように接続されている。ここでは、図示しないねじを用いて接続されている。なお、第1ケーシング部51の後端面には、電気ケーブル6が延出される第3ケーシング53が接続される。その他、第1ケーシング部51及び第2ケーシング部52の外側周面は、第4ケーシング部54により覆われており、ここでは、第4ケーシング部54と第1ケーシング部51との間には円筒状の隙間S1が形成されている。この隙間S1は断熱層として機能する。
【0038】
第1ケーシング部51には、赤外線センサ2の測定対象側である入射側前方に設けられ、第2ケーシング部52からの熱輻射を遮る絞り部9が形成されている。この絞り部9は、円形状の開口を形成するものであり、第1ケーシング部51の前端側に形成されている。この絞り部9により、赤外線センサ2に入射する第2ケーシング部52からの熱輻射を低減できる。その結果、図5に示すように、センサユニット(赤外線センサ2を収容した第1ケーシング部51)とレンズユニット(レンズ3を収容した第2ケーシング部52)とを分離したことによって生じる温度影響による測定値(指示値)の悪化を防ぐことができる。なお、図5は、絞り部9を設けない場合と、絞り部9を設けた場合とにおける測定値(指示値)の時間変化を示す実験結果である。
【0039】
また、第1ケーシング部51には、赤外線センサ2の測定対象側である入射側前方に第2の波長選択フィルタ10が設けられている。この第2の波長選択フィルタ10は、赤外線センサ2に設けられた波長選択フィルタではカットしきれない測定波長以外の波長帯の透過をカットするものである。具体的に第2の波長選択フィルタ10は、第1ケーシング部51において絞り部9の前側に設けられている。このように第1ケーシング部51に第2フィルタ10を設けることにより、図6に示すように、第2ケーシング部52(レンズユニット)に設ける場合に比べて、赤外線センサ2と第2の波長選択フィルタ10との温度差を小さくして温度影響による測定値(指示値)の悪化を防ぐことができる。なお、第2の波長選択フィルタ10を設けない構成としても良い。
【0040】
一方で、第2ケーシング部52は、レンズ3を保持するレンズブロック521と、当該レンズブロック521が着脱されるケーシング本体522とを有しており、ケーシング本体522に対してレンズブロック521が交換可能に構成されている。レンズブロック521は、視野特性に応じて、光学系の長さやレンズ3の種類が異なるものが用意されており、放射温度計100の用途に応じて、ケーシング本体522に対して取り付けられる。
【0041】
<本実施形態の効果>
本実施形態の放射温度計100によれば、信号処理部4が複数の基板41~44をスペーサ45を介して積み重ねて構成されているので、信号処理部4を小型化することができるとともに、回路規模を大きくすることができる。その結果、ケーシング5に収容する回路の自由度を増すことができ、赤外線センサ2と同一のケーシング5内において、赤外線センサ2からのアナログ信号をデジタル信号に変換できるようになる。したがって、ケーシング5からデジタル信号を出力できるようになり、電磁ノイズに強くなる。
【0042】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0043】
例えば、前記実施形態の信号処理部4は、4枚の基板41~44を用いて構成されているが、2枚以上の基板をスペーサを介して積み重ねたものであれば良い。複数の基板は、互いに異なる形状であっても良い。
【0044】
また、前記実施形態では、基板41~44においてそれらの積層方向において、スペーサ45が一列となるように配置され、基板間コネクタ46が一列となるように配置されているが、図7に示すように、基板41~44においてそれらの積層方向において、スペーサ45と基板間コネクタ46とが交互に配置されるように構成しても良い。また、図7に示すように、放熱部材8を用いずに、第1基板41を第1ケーシング部51に直接接触させて固定した構成としても良い。この場合であっても図4に示すように、放熱部材8を用いた場合と同等又はそれ以上の効果を奏することができる。
【0045】
また、前記実施形態では、弾性部材7が複数の基板41~44を積み重ねた方向から押さえつける構成であったが、複数の基板41~44を周囲から押さえつける構成であっても良い。
【0046】
また、前記実施形態では、放熱部材8を第1ケーシング部51と第1基板41との間に設けているが、温度算出部(CPU)4cが搭載された第3基板43と第1ケーシング部51との間に介在させても良い。また、複数の基板41~44それぞれと第1ケーシング部51との間に介在させても良い。
【0047】
前記実施形態では信号処理部4の機能を4つに分けて4つの基板41~44に分配しているが、当該4つの機能を分解する基板数は4つに限られない。また、信号処理部4の複数の基板への機能の分配の仕方は前記実施形態に限られない。
【0048】
さらに、ケーシング5は第1ケーシング部51及び第2ケーシング部52に分離せずに一体としても良いし、第1ケーシング部51及び第2ケーシング部52に分離する場合には、それらの間に、断熱部材又は熱伝導部材を介在させても良い。
【0049】
その上、前記実施形態では、第2ケーシング部52においてレンズブロック521が交換可能に構成されているが、第1ケーシング部51に対して第2ケーシング部52を交換可能にしてレンズ3を交換できるように構成しても良い。
【0050】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、放射温度計を小型化するとともに回路規模を大きくすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7