IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧 ▶ JNC石油化学株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 千葉大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】1-アルケン-3-オール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/56 20060101AFI20241122BHJP
   C07C 33/025 20060101ALI20241122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C07C29/56 B
C07C33/025
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021066927
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162225
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
(72)【発明者】
【氏名】小澤 知弘
(72)【発明者】
【氏名】笹田 康幸
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-058004(JP,A)
【文献】ChemCatChem,2013年,Vol.5,pp.2879-2882
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む触媒担体に、担持および/または複合物化したものを300℃以上で1から500時間焼成した触媒の存在下で、反応温度が200℃から300℃のいずれかである、2-アルケン-1-オールから1-アルケン-3-オールを生成する工程を含む1-アルケン-3-オールの製造方法。
【請求項2】
工程が連続式である、請求項1に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【請求項3】
工程が気相で行われる、請求項1または2に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【請求項4】
触媒がバナジウムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【請求項5】
触媒の担体が酸化ケイ素である、請求項1~4のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【請求項6】
炭素数5から16である1-アルケン-3-オールが製造される、請求項1~5のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-アルケン-1-オール類から、1-アルケン-3-オール類を高い収率で効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-オクテン-3-オール(マツタケオール)やリナロールに代表される1-アルケン-3-オール類は香料の他、医薬原料中間体などとして用いられ、化学工業上重要な物質である。
例えば、1-オクテン-3-オールは、n-ヘキシルアルデヒドへビニルマグネシウムクロライドを作用させる方法により合成されている。
またリナロールはイソプレンやα-ピネンを原料とした多段階での合成方法によって製造されており、大量に合成するためには少ない工程数であり、かつ大型の反応器で連続運転が可能な方法が求められていた。
【0003】
そのような中、近年ゲラニオールを原料とし、鉄、コバルト、亜鉛を作用させてリナロールを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。ゲラニオールを原料とし、ヒドロキシピリジンを配位子とするタングステン触媒を作用させてリナロールを製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの製造方法は収率が十分でないことから、効率の面で改善の余地を残す方法であった。
【0004】
また、ヘキサメチルジシロキサンの過酸化物存在下、バナジルアセチルアセトナートを作用させることによりゲラニオールからリナロールを製造する方法も既に報告されている(非特許文献1参照)。この製造方法は、ヘキサメチルジシロキサンの過酸化物を合成する際過酸化水素を使用する為、実際に大量合成を考慮した場合、危険性が高く優れた方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許出願公開111087343号明細書
【文献】中国特許出願公開108892602号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bulletin of the ChemicalSociety of Japan 1985,(3),844-849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2や非特許文献1で提案されている、2-アルケン-1-オール類から、1-アルケン-3-オール類を合成する方法では、収率が低い事や過酸化物といった危険な原料を使用するという問題を有していた。
即ち、本発明の目的は、上記従来の技術課題を解決することであり、2-アルケン-1-オール類から、1-アルケン-3-オール類を高い選択率で収率よく製造することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、酸化ケイ素などに担時させた触媒を用いることにより、2-アルケン-1-オール類から高い反応率及び選択率で、1-アルケン-3-オール類を合成できることを見出した。また気相状態での反応でも高い選択率で連続的に収率良く進行させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の1-アルケン-3-オールの製造方法は以下の項などである。
(1) 触媒存在下で、2-アルケン-1-オールから1-アルケン-3-オールを生成する工程を含む1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0010】
(2) 触媒が、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、およびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、項(1)に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0011】
(3) 触媒が、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む触媒担体に、担持および/または複合物化したものである項(1)または(2)に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0012】
(4) 触媒が300℃以上で1から500時間焼成したものである、項(1)~(3)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0013】
(5) 触媒における触媒成分の含有量が、0.1から20.0モル%である、項(1)~(4)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0014】
(6) 工程において、反応温度が200から300℃である、項(1)~(5)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0015】
(7) 工程が連続式である、項(1)~(6)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0016】
(8) 工程が気相で行われる、項(1)~(7)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0017】
(9) 触媒がバナジウムを含む、項(1)~(8)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0018】
(10) 触媒の担体が酸化ケイ素である、項(1)~(9)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【0019】
(11) 炭素数5から16である1-アルケン-3-オールが製造される、項(1)~(10)のいずれか1項に記載の1-アルケン-3-オールの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法は、酸化ケイ素などに担時させた触媒を用いることにより、2-アルケン-1-オール類から高い反応率及び選択率で、1-アルケン-3-オール類を製造する事が出来る。また触媒を固定層とし、原料を気相状態にて反応させれば、連続的かつ収率良く合成することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(触媒)
本発明の触媒である金属はジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステンからから選ばれる1種類以上の金属であり、金属-触媒担体複合体はジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステンからから選ばれる1種類以上の金属を、酸化アルミニウム、酸化ケイ素から選ばれる1種類以上の触媒担体に担持した金属-触媒担体複合体である。
【0022】
(触媒前駆体)
本発明の生成物製造用触媒における金属は市販品、市販品を還元したもの、当該金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩などを熱分解したもの、あるいは熱分解後に公知の方法にて還元したもの等、いずれの形態でも触媒として使用することが可能である。同様に金属-触媒担体複合体についても市販品、市販品を還元したもの、当該金属の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩などを触媒担体に担持させ熱分解したもの、あるいは熱分解後に公知の方法にて還元したもの等、いずれの形態でも触媒として使用することが可能である。
【0023】
(触媒調製方法)
金属-触媒担体複合体における触媒担体への金属成分の担持方法は含浸法、共沈法等公知の方法を用いることが可能である。例えば、バナジウム等の金属硝酸塩を触媒担体成分の前駆体である硝酸アルミニウム等と共に水に溶解し、そこにアルカリ水溶液を加えることによって得られる沈殿を乾燥、焼成、および還元して得られる複合体が触媒として使用可能である。
【0024】
(金属-触媒担体複合体)
金属-触媒担体複合体における、金属-触媒担体の含有比(金属:触媒)は、重量比で0.1:99.9から、50:50まで選択可能である。金属-触媒担体中の金属の含有比が0.1以上50以下のとき、十分な触媒活性を得ることができるので好ましい。
【0025】
(製造方法および反応形態)
本発明の生成物製造方法は、二重結合に隣接する水酸基を有する原料を、触媒として金属、または金属および触媒担体複合体を用い、転位反応で進行させることが特徴である。また、原料は混合物であっても、反応系内で同時に対応する生成物を製造することができる。
【0026】
(本発明の製造方法に用いられる原料)
本発明の原料である2-アルケン-1-オール類としては、例えば市販されているトランス-2-ヘキサノール、2-ブテン-1-オール、2-エチル-2-ブテン-1-オール、2-オクテン-1-オールや、天然物から得られるゲラニオールなどが挙げられる。
ただし、本発明はこれら例示した2-アルケン-1-オール類に限定されない。
【0027】
(原料中の水分)
原料の2-アルケン-1-オール類中の水分は、0~95重量%の範囲が好ましい。
【0028】
(反応装置)
本発明の生成物の製造で使用される反応装置は特に限定されない。たとえば、気相流通反応装置に所定量の触媒前駆体を入れ、これを公知の方法で還元することにより活性な触媒層を気相流通反応装置内に形成させる。ここに、原料の2-アルケン-1-オール類を供給することにより生成物を製造することが可能である。
【0029】
(反応条件としての温度)
本発明の生成物製造方法の反応温度は、150℃から400℃の温度範囲、すなわち、原料が気相状態として存在する温度が好適である。反応を十分に進行させるためには200℃以上が好ましく、生成物選択率を良好に保つためには350℃以下が好ましい。更に好ましい温度範囲としては200℃から300℃の範囲である。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例に用いた固定床常圧気相流通反応装置は、内径20mm、全長300mmの反応器であり、その上端にキャリアガス導入口と原料流入口があり、下端にガス抜け口を有する反応粗液捕集容器(冷却)を有するものである。
触媒である酸化バナジウム(V)-酸化ケイ素は、市販の試薬(和光純薬製、特級グレード)を原料に用いた。
捕集容器に捕集された反応粗液は、ガスクロマトグラフィーにて測定し、検量線補正後、1-アルケン-3-オールなどの収量、2-アルケン-1-オールなどの原料の残量を決定し、この値から、反応転化率(モル%)および目的生成物の選択率(モル%)を求めた。
【0031】
[準備例1]
<酸化バナジウム(V)-担体複合体の調製>
酸化タングステン-担体複合体の詳細な調製手順は、以下の通りである。
サンプル管に入れた純水5gに0.0079gのメタバナジン(V)酸アンモニウム(NHVO)を溶解させ、含浸液を調製した。調製した含浸液に2g秤量したシリカ担体(フジシリシア化学株式会社、CARiACT Q-10)を浸漬させた。シリカ細孔内の気泡を抜くために真空オーブン内で室温、6時間脱気させた後、15時間静置した。その後、40℃で真空乾燥を行い、溶媒を除去した。溶媒を除去した後、得られた試料を、常圧110℃で15時間乾燥させた。さらに500℃(焼成温度)で3時間焼成して、酸化バナジウム(V)-酸化ケイ素担体複合体を調製した。
なお分析した結果、バナジウム担持量は0.2mol%であった。
【0032】
[実施例1から4]
<生成物の製造>
実施例1で得られた酸化バナジウム(V)-酸化ケイ素を触媒層として充填させた固定床常圧気相流通反応装置の上部から、キャリアガスとして窒素を30ml/min.の流速で流した。この窒素と共に気化層で気化させた2-ヘキセン-1-オール溶液を12.9mmol/hにて触媒層へ供給し、200℃にて反応を行った。触媒として使用した酸化バナジウム(V)-酸化ケイ素の重量を変化させたときにおける、2-ヘキセン-1-オールの反応転化率および1-ヘキセン-3-オール選択率を、表1に示す。
【0033】
表1

【0034】
例えば、2-ヘキセン-1-オールの反応転化率は69.5%である反応条件下において、1-ヘキセン-3-オール選択率は79.7%と、副生成物が少ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、2-アルケン-1-オール類から、1-アルケン-3-オール類を収率良く効率的に製造することができるので、香料や医薬原料中間体などとして有用な化合物の製造に有効である。