(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】有機生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/32 20060101AFI20241122BHJP
C07C 15/14 20060101ALI20241122BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20241122BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C07C1/32
C07C15/14
C07F5/02 C
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020189991
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発/連続分離・精製技術の開発/連続抽出技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】石坂 孝之
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 哲
(72)【発明者】
【氏名】古屋 武
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-221371(JP,A)
【文献】国際公開第2020/002361(WO,A1)
【文献】特表2016-525526(JP,A)
【文献】特開平8-59514(JP,A)
【文献】特表2017-516746(JP,A)
【文献】特表2002-527443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0114638(US,A1)
【文献】特開2007-16001(JP,A)
【文献】特開2001-240563(JP,A)
【文献】特開平8-40948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0246905(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/32
C07C 15/14
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機
ホウ素化合物
と有機ハロゲン化物からなる
反応基質を、
無機塩基の存在下、水及び水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールを含む反応溶媒中で
クロスカップリング反応させて
炭素-炭素結合を有する有機生成物を製造する方法であって、
前記反応溶媒の一相領域温度で
前記反応基質を反応させて有機生成物を得る第一の工程、
前記反応溶媒の温度を二相領域温度に変更してアルコールリッチ相と水リッチ相の二相溶液とするとともに、前記二相溶液のアルコールリッチ相に前記有機生成物を抽出する第二の工程、及び、
前記二相溶液を液-液相分離して、前記二相溶液のアルコールリッチ相に抽出された前記有機生成物を、前記反応における副生成無機化合物及び未反応無機化合物と分離する第三の工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールが、1-ブタノール、1-ヘキサノール、及び2-ブトキシエタノールのいずれか1以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応溶媒が、さらに、水及び前記水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールのいずれに対しても、任意の割合で均一相を取り、前記臨界相溶温度を調節する溶媒を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記臨界相溶温度を調節する溶媒が、メタノール、エタノール、又はエチレングリコールのいずれか1以上である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の工程から前記第三の工程を連続して行う請求項1~
4のいずれか一に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機生成物の製造方法に関し、より詳細には、臨界相溶温度を有する水-アルコール溶媒を用い、一相領域温度で有機生成物を生成した後、二相領域温度で前記有機生成物をアルコールリッチ相に抽出し、液-液相分離することにより、有機生成物を副反応物及び未反応物と分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液相中で有機生成物を製造する場合、化学反応は反応に関与する分子間の衝突で起こるから、各分子が均一に溶解する一相状態の反応溶媒中で行うことが好ましく、そのため、反応後の抽出には、有機生成物を含む反応溶媒に抽出溶媒を加え、振とうによって反応溶媒と抽出溶媒の液-液界面積を増大させて抽出を完了させていた。したがって、反応溶媒を大容量化すると、反応溶媒とは別種の抽出溶媒も大量に使用する必要があり、かつ、抽出のために大量の振とうエネルギーが必要であった。
そこで、臨界相溶温度を有する混合溶媒を用い、相溶状態で反応を行った後、温度を変更して二相状態とし、一方の相に溶解した反応生成物を回収することによって、他方の相に溶解した触媒等と分離する技術が開発された。
【0003】
例えば、特許文献1には、一方がシクロアルカン系の化合物であり、他方がニトロアルカン、ニトリル、アルコール、ハロゲン化アルキル、アミド化合物、スルフォキサイドヘキサンとジメチルホルムアミド(DMF)等である臨界相溶温度を有する混合溶媒システムであって、この溶媒中、加熱下の均一相溶状態で化学反応を進行させた後、冷却して相分離した一の層に反応生成物を分離することが記載されている(請求項1~3、実施例1~8、
図1)。
【0004】
非特許文献1には、相転移を調整するポリマーに担持された触媒を含む反応系において、均一混合溶媒中で反応後、温度変化によって液―液分離することにより、前記触媒を生成物と分離して回収することが記載されており、前記混合溶媒が体積比1:1の90%エタノール水溶液とヘプタン、又は体積比1:1のDMA(ジメチルアセトアミド)とヘプタンであることが記載されている(p9059左欄1~2行目、Figure 1. P.9059右欄~p.9060左欄、“Pd(0)-Catalyzed Reaction Using PNIPAM-PPh2 under Thermomorphic
Condition”, Table.1)。
【0005】
また、特許文献2には、ハロゲン化ビフェニルアニリドの製造方法であって、反応が20~100℃の温度で、水-有機溶媒の混合物中で行われること(請求項1,12,13)、一態様では、有機溶媒が1-ブタノール、又はテトラヒドロフランであり、水に溶解しない反応生成物の場合、水溶性の触媒と錯体配位子は水リッチ相を粗生成物から分離することによって除去されることが記載されている(段落[0080]~[0083])。しかし、製造例及び実施例には、60℃の水/1-ブタノール中で反応生成物を攪拌した後、室温まで冷却し、塩酸を加えて酸性化し、酢酸エチルで反応混合物を抽出した後、乾燥、溶媒除去により粗生成物を得たことが記載されているだけである([0087]、[0093])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3538672号公報
【文献】特開2016-525526号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Am. Chem. Soc., Vol.122, 2000, p.9058-9064
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、有機化合物の合成反応については、できるだけ安全性が高い環境で行うことが望まれるから、水系での反応が望ましい。
しかし、特許文献1、非特許文献1に記載された有機生成物の製造方法は、有機混合溶媒を用いた反応を用いているから、環境負荷が高い。また、反応に必要な塩基等の化合物が有機物であると、生成物と分離して回収、再利用することが困難である。
特許文献2には、有機溶媒を含む水系の混合溶媒中で反応を行い、反応後、水リッチ相を粗生成物から分離することは記載されているが、反応生成物を抽出するために酸性化を行っているから、溶媒の化学的状態が変化してしまうし、反応溶媒と異なる酢酸エチルの添加を行っているから、使用溶媒量を削減することが困難である。
【0009】
本発明は、臨界相溶温度を有する水系の混合溶媒を用い、水溶性の無機化合物の存在下、有機化合物からなる基質から有機生成物を得る反応と、有機生成物の抽出とを、温度変化のみで行うことが可能な有機生成物の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
[1] 有機化合物からなる基質を、水溶性の無機化合物の存在下、水及び水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールを含む反応溶媒中で反応させて有機生成物を製造する方法であって、
前記反応溶媒の一相領域温度で基質を反応させて有機生成物を得る第一の工程、
前記反応溶媒の温度を二相領域温度に変更してアルコールリッチ相と水リッチ相の二相溶液とするとともに、前記二相溶液のアルコールリッチ相に前記有機生成物を抽出する第二の工程、及び、
前記二相溶液を液-液相分離して、前記二相溶液のアルコールリッチ相に抽出された前記有機生成物を、前記反応における副生成無機化合物及び未反応無機化合物と分離する第三の工程、を含む方法。
[2] 前記水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールが、1-ブタノール、1-ヘキサノール、及び2-ブトキシエタノールのいずれか1以上である前記[1]の方法。
[3] 前記反応溶媒が、さらに、水及び前記水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールのいずれに対しても、任意の割合で均一相を取り、前記臨界相溶温度を調節する溶媒を含む前記[1]又は[2]の方法。
[4] 前記臨界相溶温度を調節する溶媒が、メタノール、エタノール、又はエチレングリコールのいずれか1以上である前記[3]の方法。
[5] 前記水溶性の無機化合物が、無機塩基である、前記[1]~[4]のいずれか一の方法。
[6] 前記の方法が、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物からなる反応基質を、反応溶媒中でクロスカップリング反応させて、炭素―炭素結合を有する有機生成物を製造する方法である、前記[5]の方法。
[7] 前記第一の工程から前記第三の工程を連続して行う前記[1]~[6]のいずれか一の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基質から有機生成物を得る反応と、有機生成物の抽出を、温度変化のみで行うことができるとともに、反応溶媒と抽出溶媒が同じなので、溶媒の種類、及び使用量を低減することができる。
また、本発明をバッチ式反応に適用する場合、反応と抽出を同一容器内で行うことができるので、反応容器からの移し替え工程を省略できる。
さらに、本発明をマイクロリアクターなどのフロー式反応に適用する場合、マイクロ熱交換器の使用により、省スペース化と、抽出の高速化を図ることができる。なお、バッチ式は回分式、フロー式は連続式と同義である。
本発明は、特に、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物からなる反応基質を、無機塩基の存在下、反応溶媒中でクロスカップリング反応させて、炭素―炭素結合を有する有機生成物の製造に、好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】メタノール分率と水/1-ブタノールの下相分率、及び相転移温度の関係図
【
図4】高温相溶型溶媒における第三の溶媒(メタノール)の分率と相転移温度の関係図
【
図5】高温相溶型溶媒における第三の溶媒(エタノール)の分率と相転移温度の関係図
【
図6】高温相溶型溶媒における第三の溶媒(エチレングリコール)の分率と相転移温度の関係図
【
図7】低温相溶型溶媒における第三の溶媒(メタノール)の分率と相転移温度の関係図
【
図8】第三の溶媒(メタノール)を含む高温相溶型溶媒における溶質濃度と相転移温度の関係図
【
図9】第三の溶媒(エタノール)を含む高温相溶型溶媒における溶質濃度と相転移温度の関係図
【
図10】第三の溶媒(エチレングリコール)を含む高温相溶型溶媒における溶質濃度と相転移温度の関係図
【
図11】第三の溶媒(メタノール)を含む低温相溶型溶媒における溶質濃度と相転移温度の関係図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、水溶性の無機化合物の存在下、溶液中で有機生成物を製造する際に、温度を変更するだけで、有機物の合成反応と抽出とを行うことができる溶媒系を鋭意、検討したところ、水と、水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールとの混合溶媒を用いることにより、アルコールリッチ相に高収率で有機生成物を抽出することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実実施形態」という。)について説明するが、これらは、この発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明は、様々な実施の形態及びその変形を含むものであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0015】
本実施形態は、有機生成物を製造する方法であって、有機化合物からなる基質を、水溶性の無機化合物の存在下、水及び水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールを含む反応溶媒中で、前記反応溶媒の一相領域温度で基質を反応させて有機生成物を得る第一の工程、前記反応溶媒の温度を二相領域温度に変更してアルコールリッチ相と水リッチ相の二相溶液とするとともに、前記二相溶液のアルコールリッチ相に前記有機生成物を抽出する第二の工程、及び、前記二相溶液を液-液相分離して、前記二相溶液のアルコールリッチ相に抽出された前記有機生成物を、前記反応における副生成無機化合物及び未反応無機化合物と分離する第三の工程、を含む。
【0016】
水と混合した場合に臨界相溶温度を有するアルコールは、炭素数が3よりも長鎖のアルコールであり、1-ブタノール、1-ヘキサノール、及び2-ブトキシエタノール等が例示される。
図1に水と1-ブタノールの相図を示す(J. Phys. Chem. Ref. Data, 35 (2006) 1391参照)。水と1-ブタノール、又は水と1-ヘキサノールの混合溶媒は、臨界相溶点が二相領域の上方に位置しているから、上限臨界相溶温度(Upper Critical Solution Temperature :UCST)を有する高温相溶型である。高温相溶型溶媒の相転移温度は、溶質が溶解すると、後述のとおり、より高温側に移動する性質がある。相転移温度が高すぎると、反応工程のために大きな熱エネルギーが必要であり、かつ、蒸発による溶媒の消失が生じ易いので、好ましくない。したがって、相転移温度をより低温側に移動させるために、相転移温度を調整する第三の溶媒を添加することが好ましい。
第三の溶媒は、水、アルコールのいずれに対しても、任意の割合で均一相を取る溶媒であって、メタノール、エタノール、又はエチレングリコールのいずれか1以上であることが好ましい。
図2に、水と1-ブタノールの混合溶媒にメタノールを加えた場合のメタノール分率と、下相(水リッチ相)分率及び相転移温度との関係を示す。メタノ―ル分率が高まるほど、下相分率及び相転移温度を低減できることがわかる。
【0017】
一方、
図3に示すように、水と2-ブトキシエタノールの混合溶媒は、臨界相溶点が二相領域の下方に位置しているから、下限臨界相溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)を有する低温相溶型である。低温相溶型溶媒が溶質を含む場合、後述のとおり、転移温度がより低温側に移動する性質を有する。そのため、水溶性の無機化合物の添加量が増大すると、アルコールの体積分率が大きい範囲で塩が析出してしまったり、水の体積分率が大きい範囲で液相-固相の二相に分かれてしまったりして、相溶温度における反応の進行に支障が出る場合がある。
そこで、低温相溶型の混合溶媒に上記の相溶温度を調整する第三の溶媒を添加すると、後述のとおり、高温溶解型の場合とは逆に、転移温度をより高温側に移動させることができるので、好ましい。
【0018】
本発明の実施形態において、第一の工程は、水溶性の無機化合物の存在下で行われる。基質以外の、反応に関与する化合物が有機物であると、第二の工程で、未反応有機化合物や副生成有機化合物が有機生成物とともにアルコールリッチ相に抽出され、第三の工程における分離工程が煩雑化してしまう。水溶性の無機化合物であると、未反応無機化合物や副生成無機化合物は水リッチ相に回収されるので、有機生成物の分離、精製をより簡便に行うことができる。
【0019】
本発明の実施形態としては、反応基質が、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物からなり、金属水酸化物や炭酸塩などの無機塩基の存在下、反応溶媒中でクロスカップリング反応させて、炭素―炭素結合を有する有機生成物を製造する方法に適用されることが好ましい。
【0020】
以下、高温相溶型、及び低温相溶型の混合溶媒における第三の溶媒の添加効果、及び溶質濃度による相転移温度の依存性について詳述する。
【0021】
[第三の溶媒の添加効果の確認]
高温相溶型の混合溶媒(水と1-ブタノール)に一定量の溶質を添加した溶液に、分率を変化させた第三の溶媒(メタノール、エタノール、又はエチレングリコール)を添加し、その分率と相転移温度との関係を確認した。結果を
図4~6に示す。
第三の溶媒を加えた結果、相転移温度が低化することがわかる。
【0022】
低温相溶型を有する混合溶媒(水と2-ブトキシエタノール)に一定量の溶質を添加した溶液に、分率を変化させた第三の溶媒(メタノール)を添加し、その分率と相転移温度との関係を確認した。結果を
図7に示す。
第三の溶媒を加えた結果、相転移温度が上昇することがわかる。
【0023】
[溶質濃度による転移温度依存性の確認]
次に、高温相溶型の混合溶媒(水と1-ブタノール)に一定量の第三の溶媒(メタノール、エタノール、又はエチレングリコール)を添加した溶液に、濃度を変化させた溶質を加え、その濃度と相転移温度との関係を確認した。
また、低温相溶型の混合溶媒(水と2-ブトキシエタノール)に一定量の第三の溶媒(メタノール)を添加した溶液に、濃度を変化させた溶質を加え、その濃度と相転移温度との関係を確認した。
高温相溶型の場合は、溶質濃度が高いほど、相転移温度が上昇し(
図8~10参照)、低温相溶型の場合は、溶質濃度が高いほど相転移温度が低下する(
図11)ことがわかる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を以下の(式1)に示す鈴木-宮浦クロスカップリング反応をモデル反応として説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0025】
【0026】
[バッチ抽出工程]
(実施例1)
1-ブタノール:水:メタノールの仕込み体積比が50.9:31.0:18.1の溶媒中に、式1のクロスカップリング反応において、0.1Mの基質(モル比1:1のフェニルボロン酸と4-ブロモトルエン)と0.3Mの塩基(KOH)が定量的に反応した場合の反応生成物(4-メチルビフェニル)と塩類の最終濃度に相当する溶質を加え、加熱して、相転移温度を測定した。次に、80℃で10分間加熱を行い、その後、室温まで冷却し、上相と下相を分離し、上相、及び下相からの反応生成物の抽出率を算出した。なお、抽出率は、上相及び下相中の反応生成物の濃度をガスクロマトグラフで測定し、上相及び下相の体積を乗ずることで、上相及び下相中の反応生成物の絶対量を算出し、添加した反応生成物の全量を基準として算出を行った。
【0027】
(実施例2)
溶媒の仕込み体積比を、1-ブタノール:水:メタノール=58.1:34.0:7.9に変更し、溶質の濃度を実施例1の1/10とした以外は実施例1と同様にして、上相、及び下相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0028】
(実施例3)
溶媒の仕込み体積比を、1-ブタノール:水:メタノール=38.3:39.8:21.9に変更し、上記のクロスカップリング反応において、塩基を実施例1のKOHからK2CO3に変更した場合の反応生成物(4-シアノ―4’-ヒドロキシビフェニル)と塩類の最終濃度の溶質を加えた以外は、実施例1と同様にして、下相及び上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0029】
(実施例4)
溶媒の仕込み体積比を、1-ブタノール:水:メタノール=54.2:36.3:9.5に変更し、溶質の濃度を実施例3の1/10とした以外は、実施例3と同様にした。
実施例1~4の結果を以下の表1に示す。
【0030】
【0031】
実施例1~4によれば、上相(アルコールリッチ相)に抽出された反応生成物の抽出率は、いずれも90%以上と高かったことがわかる。
【0032】
(実施例5)
実施例1における第三の溶媒をメタノールからエタノールに変更し、溶媒の仕込み体積比を1-ブタノール:水:エタノール=38.3:40.7:21.0に変更した以外は、実施例1と同様にし、上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0033】
(実施例6)
実施例5における溶媒の1-ブタノールを1-ヘキサノールに変更し、仕込み体積比を1-ヘキサノール:水:エタノール=31.9:32.5:35.6に変更した以外は、実施例5と同様にし、上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0034】
(実施例7)
実施例1における溶媒の1-ブタノールを1-ヘキサノールに変更し、仕込み体積比を1-ヘキサノール:水:メタノール=34.1:34.4:31.5に変更した以外は、実施例1と同様にし、上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0035】
(実施例8)
溶質の濃度を実施例7の2.5倍とし、溶媒の仕込み体積比を1-ヘキサノール:水:メタノール=31.7:33.3:35.0に変更した以外は、実施例7と同様にし、上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
【0036】
(実施例9)
実施例1における第三の溶媒をメタノールからエチレングリコールに変更し、溶媒の仕込み体積比を1-ブタノール:水:エチレングリコール=79.3:5.8:14.9に変更した以外は、実施例1と同様にし、上相からの反応生成物の抽出率を算出した。
実施例5~9の結果を以下の表2に示す。
【0037】
【0038】
実施例5~9によれば、水と混合して臨界相溶温度を有するアルコールが1-ヘキサノールである場合、及び/又は相転移温度を調整する第三の溶媒がエタノール、又はエチレングリコールである場合にも、実施例1~4と同様に、上相(アルコールリッチ相)から反応生成物が90%以上抽出されることがわかる。
【0039】
[フロー抽出工程]
(実施例10)
図12に示すフロー工程に従い、以下の溶媒と溶質を含むモデル溶液(1L)を80.0℃に加温し、流量10mL/分で、15℃に水冷されている直径1.58mm、長さ200cmのテフロン(登録商標)チューブに送液し(滞留時間23.5秒)、液―液分離器(親水化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜)で水リッチ相とアルコールリッチ相に分離した後、アルコールリッチ相からの4-メチルビフェニルの抽出率を算出した。
溶質
4-メチルビフェニル:0.1mol/L
KBr:0.1mol/L
KOH:0.2mol/L、
B(OH)
3:0.1mol/L
溶媒
1-ブタノール:水:メタノール=50.5:31.6:17.9(体積比)
【0040】
(実施例11)
溶質濃度を実施例10の1/10にし、溶媒の仕込み体積比を1-ブタノール:水:メタノール=63.6:28.7:7.7に変更した以外は、実施例10と同様にして、アルコールリッチ相からの4-メチルビフェニルの抽出率を算出した。
実施例10、11の結果を以下の表3に示す。
【0041】
【0042】
実施例10、11によれば、フロー工程においても、温度変化のみで、短時間、省スペースで、高収率な有機生成物の分離、抽出プロセスを提供できることがわかる。
【0043】
[バッチ反応・抽出工程]
(実施例12~15)
以下の基質、塩基、溶媒:A又はB、及び触媒を用いて、75℃、180分間、式1の鈴木-宮浦クロスカップリング反応を行った。反応終了後、親水性PTFE製のシリンジフィルター(孔径0.45μm)を用いて反応溶液から触媒を除去した後、室温で60分静置し、二相分離後、4-ブロモトルエン転化率、4-メチルビフェニル収率、及び上相(アルコールリッチ相)への4-メチルビフェニルの抽出率を算出した。
基質:
フェニルボロン酸(Sigma-Aldrich, ≧97%)
4-ブロモトルエン(TCI, ≧99%)
塩基:
KOH(和光純薬),基質に対して3当量
溶媒:
A:1-ブタノール:純水:メタノール
B:1-ヘキサノール:純水:メタノール
触媒:
PS-PPH3-Pd* (Polystyrene Triphenylphosphine Palladium(0),イオタージ・ジャパン),0.5mol%(基質に対して)
*:75-150mmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体ビーズに触媒を0.11mmol/g担持したもの
【0044】
4-ブロモトルエンの転化率は、上相及び下相中の4-ブロモトルエンの濃度をガスクロマトグラフで測定し、上相及び下相の体積を乗ずることで、上相及び下相中の4-ブロモトルエンの絶対量を算出、合算して全量を算出し、最初に添加した4-ブロモトルエンの全量を基準として算出を行った。
4-メチルビフェニルの収率は、上相及び下相中の4-メチルビフェニルの濃度をガスクロマトグラフで測定し、上相及び下相の体積を乗ずることで、上相及び下相中の4-メチルビフェニルの絶対量を算出、合算して全量を算出し、最初に添加した基質が定量的に反応して生成すべき4-メチルビフェニルの全量を基準として算出を行った。
【0045】
【0046】
実施例12~15によれば、本発明に係る溶媒を実際の鈴木―宮浦クロスカップリング反応に適用した場合、高い抽出率で反応生成物を分離可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、効率よく純度の高い化学品を製造できるから、医薬品、液晶、太陽電池等の機能性化学品を精密に作製したり、連続工程で大量生産するプロセスに利用可能である。