(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】メモリスタ、それを備えた半導体素子およびメモリスタを備えたアレイシステム
(51)【国際特許分類】
H10B 63/00 20230101AFI20241122BHJP
H10B 99/00 20230101ALI20241122BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241122BHJP
G06N 3/063 20230101ALI20241122BHJP
G11C 11/54 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H10B63/00
H10B99/00 451
H01L29/06 601N
G06N3/063
G11C11/54
(21)【出願番号】P 2020214807
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2019235344
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第67回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集(2020上智大学 四谷キャンパス) 14a-A301-9
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Mamoru Joko,Yusuke Hayashi,Tetsuya Tohei,and Akira Sakai,“Fabrication of GaO▲x▼ based crossbar array memristive devices and their resistive switching properties”,Japanese Journal of Applied Physics 59,SMMC03(2020)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第81回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集(2020オンライン開催) 9a-Z28-5
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【氏名又は名称】松山 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】林 侑介
(72)【発明者】
【氏名】藤平 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 朗
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0182107(US,A1)
【文献】国際公開第2013/136798(WO,A1)
【文献】清水拓磨,永田善也,竹内正太郎,藤平哲也,酒井朗,酸素空孔分布制御型4端子メモリスタ素子の抵抗変化特性精密制御,第65回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,日本,2018年03月05日,65,05-085,18p-C102-10
【文献】上甲 守治,林 侑介, 藤平 哲也, 酒井 朗,GaOx を用いたクロスバーアレイメモリスタの開発と抵抗変化特性,第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,80,日本,2019年09月04日,19-029,20a-F211-10
【文献】三宅 亮太郎,林 侑介, 藤平 哲也,酒井 朗,4端子TiO2-x 薄膜メモリスタ素子によるシナプス特性の実装,第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,日本,2019年09月04日,80,19-028,20a-F211-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 63/00
H10B 99/00
H01L 29/06
G06N 3/063
G11C 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁破壊プロセスを必要としないメモリスタであって、
ドーパントを含む酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層に電圧を印加し、前記ドーパントの分布を3次元分布に制御する端子とを備え、
前記端子は、前記酸化物半導体層に電圧を印加し、前記ドーパントの分布を3次元分布に制御する3個以上の端子からな
り、
前記3個以上の端子は、
前記酸化物半導体層の厚み方向の一方の面に配置された第1の端子と、
前記酸化物半導体層の厚み方向の他方の面に配置された第2の端子と、
前記酸化物半導体層の厚み方向に平行な側面に配置されたn(nは、1以上の整数)個の第3の端子とを含む、メモリスタ。
【請求項2】
前記第1の端子と前記酸化物半導体層との接触面積よりも小さい面積を有する第1の貫通孔を有し、かつ、前記第1の端子と前記酸化物半導体層との間に配置された第1の絶縁層と、
前記第2の端子と前記酸化物半導体層との接触面積よりも小さい面積を有する第2の貫通孔を有し、かつ、前記第2の端子と前記酸化物半導体層との間に配置された第2の絶縁層とを更に備え、
前記第1の端子は、前記第1の貫通孔を介して前記酸化物半導体層に接触しており、
前記第2の端子は、前記第2の貫通孔を介して前記酸化物半導体層に接触している、請求項
1に記載のメモリスタ。
【請求項3】
前記第1の端子は、前記メモリスタの断面においてT字形状の断面形状を有し、
前記第2の端子は、前記酸化物半導体層の厚み方向に垂直な方向において前記T字の縦棒部分の幅に等しい寸法を有する、請求項
1に記載のメモリスタ。
【請求項4】
前記酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含む非晶質酸化ガリウムからなる、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のメモリスタ。
【請求項5】
前記酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含み、(001)方向の結晶面を有する単結晶酸化チタンからなる、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のメモリスタ。
【請求項6】
クロスバー構造のアレイシステムであって、
平面状に配列された複数の第1のナノワイヤと、
平面状に配列され、前記複数の第1のナノワイヤと交差する複数の第2のナノワイヤと、
平面状に配列され、前記複数の第1のナノワイヤおよび前記複数の第2のナノワイヤと交差する複数の第3のナノワイヤと、
前記第1のナノワイヤ、前記第2のナノワイヤおよび前記第3のナノワイヤの交差部に配置されたメモリスタとを備え、
前記メモリスタは、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のメモリスタからなる、アレイシステム。
【請求項7】
絶縁破壊プロセスを必要としないメモリスタと、
前記メモリスタを制御する制御回路とを備え、
前記メモリスタは、
ドーパントを含む酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層に電圧を印加し、
平面視における前記ドーパントの分布を2次元分布に制御する端子とを含み、
前記端子は、
前記酸化物半導体層の面内方向に平行な第1の方向において前記酸化物半導体層の第1の端部に配置された第1の端子と、
前記第1の方向において前記第1の端部に対向する前記酸化物半導体層の第2の端部に配置された第2の端子と、
前記酸化物半導体層の面内方向であり、かつ、前記第1の方向と異なる第2の方向において前記酸化物半導体層の第3の端部に配置された第3の端子と、
前記第2の方向において前記第3の端部に対向する前記酸化物半導体層の第4の端部に配置された第4の端子とを含み、
前記制御回路は、第1の電圧制御、第2の電圧制御、第3の電圧制御および第4の電圧制御のいずれか1つの電圧制御を前記メモリスタに対して実行し、
前記第1の電圧制御は、スパイクタイミング依存可塑性を前記メモリスタに実装するための電圧制御であり、
前記第2の電圧制御は、パブロフ型条件付けを前記メモリスタに実装するための電圧制御であり、
前記第3の電圧制御は、入力によって増強された結合強度が第1の期間しか保持せずに減衰する短期増強と、前記増強された結合強度が前記第1の期間よりも長期間保持される長期増強とを前記メモリスタに実装するための電圧制御であり、
前記第4の電圧制御は、前記酸化物半導体層の低コンダクタンス化と高コンダクタンス化とを前記メモリスタに実装するための電圧制御である、半導体素子。
【請求項8】
前記制御回路は、前記第1の電圧制御において、
前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子にパルス電圧を印加して前記第1の端子と前記第2の端子との間における前記酸化物半導体層のコンダクタンスを初期化する第1のステップと、
前記第1のステップの後、前記酸化物半導体層のコンダクタンスを読み取るための読取電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加する第2のステップと、
前記第2のステップの後、方形波からなる第1のパルス電圧の電圧値から、前記方形波からなり、かつ、立ち上がりタイミングが前記第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第1のスパイク電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加する第3のステップと、
前記第3のステップの後、前記読取電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加する第4のステップと、
前記第4のステップの後、前記第1のステップを実行する第5のステップと、
前記第5のステップの後、前記第2の端子を接地した状態で前記第1のスパイク電圧を前記第1の端子に印加するとともに、前記方形波からなり、かつ、前記第1のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧の電圧値から前記第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第2のスパイク電圧を前記第3および第4の端子に印加し、または前記第2のスパイク電圧を前記第3および第4の端子に印加しない第6のステップと、
前記第1のパルス電圧の立ち上がりタイミングと前記第2のパルス電圧の立ち上がりタイミングとの差を変化させながら前記第1のステップから前記第6のステップを1回以上繰り返し実行する第7のステップとを実行する、請求項
7に記載の半導体素子。
【請求項9】
前記制御回路は、前記第1のステップにおいて、
前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に読取電圧を印加する第1のサブステップと、
前記第1のサブステップの後、第4のパルス電圧を前記第1および第2の端子を接地した状態で前記第3および第4の端子に印加する第2のサブステップと、
前記第2のサブステップの後、前記第1のサブステップを実行する第3のサブステップと、
前記第3のサブステップの後、前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に第5のパルス電圧を印加する第4のサブステップとを実行する、請求項
8に記載の半導体素子。
【請求項10】
前記制御回路は、前記第7のステップにおいて、前記第6のステップにおける前記第2のスパイク電圧の振幅を大きくしながら前記第1のステップから前記第6のステップを1回以上繰り返し実行する、請求項
8または請求項
9に記載の半導体素子。
【請求項11】
前記制御回路は、前記第2の電圧制御において、
前記第1および第2の端子に正の電圧を印加して初期化する第1のステップと、
前記第1のステップの後、前記第1の端子に第1の書込電圧を印加することを複数回実行する第2のステップと、
前記第2のステップの後、前記第1の書込電圧を前記第1の端子に印加すると共に前記第1の書込電圧と異なる第2の書込電圧を前記第4の端子に印加する第3のステップとを実行する、請求項
7に記載の半導体素子。
【請求項12】
前記制御回路は、前記第3の電圧制御において、
第1のパルス電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に複数回印加する第1のステップと、
前記第1のステップの後、正の電圧値からなる第1の電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加する第2のステップと、
前記第2のステップの後、負の電圧からなる第2の電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第3および第4の端子に印加する第3のステップとを実行する、請求項
7に記載の半導体素子。
【請求項13】
前記制御回路は、前記第2のステップにおいて、前記第1の電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加することを第1の頻度と前記第1の頻度よりも大きい第2の頻度とで実行する、請求項
12に記載の半導体素子。
【請求項14】
前記制御回路は、前記第4の電圧制御において、
前記第1および第2の端子を接地した状態で前記第3の端子と前記第4の端子との間に第1のパルス電圧を印加する第1のステップと、
前記第1のステップの後、前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に前記第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧を複数回印加して前記酸化物半導体層のコンダクタンスを第1の値に設定する第2のステップと、
前記第2のステップの後、前記酸化物半導体層のコンダクタンスが前記第1の値よりも小さい第2の値になるまで、前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に前記第2のパルス電圧を印加するとともに、前記第3および第4の端子に前記第1および第2のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧を印加し、または前記第3および第4の端子に前記第3のパルス電圧を印加しないことを繰り返し実行する第3のステップと、
前記第3のステップの後、前記酸化物半導体層のコンダクタンスが前記第1の値になるまで前記第2のパルス電圧の振幅を反転させた第4のパルス電圧を前記第2の端子を接地した状態で前記第1の端子に印加することを繰り返し実行する第4のステップと、
前記第4のステップの後、前記第3および第4のステップを繰り返し実行する第5のステップとを実行する、請求項
7に記載の半導体素子。
【請求項15】
前記酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含み、(001)方向の結晶面を有する単結晶酸化チタン、または非晶質酸化ガリウムからなる、請求項
7から請求項
14のいずれか1項に記載の半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メモリスタ、それを備えた半導体素子およびメモリスタを備えたアレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ノイマン型コンピュータは、論理的思考および計算等の左脳思考を忠実に再現するが、人工知能等に必須の画像・パターン認識、連想記憶等の右脳思考の効率が著しく低く、人間の脳の仕事率(待機時:20W、計算時;+1W程度)の数千万倍の消費電力が必要となる。従って、非ノイマン型右脳(以下、脳型)コンピュータの開発は、低消費電力化に不可欠である。
【0003】
脳型コンピュータは、基幹となるシナプス素子を相互に繋ぐ、生体神経系を模した集積回路からなる。基幹シナプス素子は、信号の入力状態によって出力信号を変化させる素子であり、通常、多数のトランジスタから構成される。
【0004】
近年、このシナプス素子を電荷の入力履歴によって電気抵抗が不揮発に変化する単体の2端子メモリスタに置き換える研究が興隆している。
【0005】
2端子メモリスタを備えた3次元クロスバーアレイシステムとして特許文献1に記載のものが知られている。この3次元クロスバーアレイシステムは、複数のクロスバーアレイと、第1のデマルチプレクサと、第2のデマルチプレクサと、第3のデマルチプレクサとを含む。各クロスバーアレイは、ナノワイヤの第1の層、ナノワイヤの第1の層に重なるナノワイヤの第2の層、及びナノワイヤの第2の層に重なるナノワイヤの第3の層を含む。第1のデマルチプレクサは、各クロスバーアレイのナノワイヤの第1の層におけるナノワイヤをアドレス指定するように構成され、第2のデマルチプレクサは、各クロスバーアレイのナノワイヤの第2の層におけるナノワイヤをアドレス指定するように構成され、第3のデマルチプレクサは、各クロスバーアレイのナノワイヤの第3の層におけるナノワイヤに信号を供給するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、生体系のシナプスは、一入力のみで出力状態を決定するのではなく、自ら若しくは他のシナプスの影響を受けて伝達パラメータを自己調節し、連合学習および情報回帰・統合等の機能を発揮する。つまり、生体系が本来有する高次機能を模倣するには、2端子メモリスタでは限界がある。そして、特許文献1に記載の3次元クロスバーアレイシステムは、2端子メモリスタおよび3端子トランジスタによる構成が前提となっているため、連合学習および情報回帰・統合等の機能を発揮することができない。
【0008】
そこで、この発明の実施の形態によれば、生体系が有する高次機能を発揮できるメモリスタを提供する。
【0009】
また、この発明の実施の形態によれば、生態系が有する高次機能を発揮するメモリスタを備えた半導体素子を提供する。
【0010】
更に、この発明の実施の形態によれば、生体系が有する高次機能を発揮できるメモリスタを備えたアレイシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(構成1)
この発明の実施の形態によれば、メモリスタは、絶縁破壊プロセスを必要としないメモリスタであって、酸化物半導体層と、端子とを備える。酸化物半導体層は、ドーパントを含む。端子は、酸化物半導体層に電圧を印加し、ドーパントの分布を2次元分布または3次元分布に制御する。
【0012】
(構成2)
構成1において、端子は、第1の端子と、第2の端子と、n(nは、1以上の整数)個の第3の端子とを含む。第1の端子は、酸化物半導体層の厚み方向の一方の面に配置される。第2の端子は、酸化物半導体層の厚み方向の他方の面に配置される。n個の第3の端子は、酸化物半導体層の厚み方向に平行な側面に配置される。
【0013】
(構成3)
構成2において、メモリスタは、第1の絶縁層と、第2の絶縁層とを更に備える。第1の絶縁層は、第1の端子と酸化物半導体層との接触面積よりも小さい面積を有する第1の貫通孔を有し、かつ、第1の端子と酸化物半導体層との間に配置される。第2の絶縁層は、第2の端子と酸化物半導体層との接触面積よりも小さい面積を有する第2の貫通孔を有し、かつ、第2の端子と酸化物半導体層との間に配置される。そして、第1の端子は、第1の貫通孔を介して酸化物半導体層に接触しており、第2の端子は、第2の貫通孔を介して酸化物半導体層に接触している。
【0014】
(構成4)
構成2において、第1の端子は、メモリスタの断面においてT字形状の断面形状を有し、第2の端子は、酸化物半導体層の厚み方向に垂直な方向においてT字の縦棒部分の幅に等しい寸法を有する。
【0015】
(構成5)
構成1から構成4のいずれかにおいて、酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含む非晶質酸化ガリウムからなる。
【0016】
(構成6)
構成1から構成4のいずれかにおいて、酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含み、(001)方向の結晶面を有する単結晶酸化チタンからなる。
【0017】
(構成7)
また、この発明の実施の形態によれば、アレイシステムは、クロスバー構造のアレイシステムであって、複数の第1のナノワイヤと、複数の第2のナノワイヤと、複数の第3のナノワイヤと、メモリスタとを備える。
【0018】
複数の第1のナノワイヤは、平面状に配列される。複数の第2のナノワイヤは、平面状に配列され、複数の第1のナノワイヤと交差する。複数の第3のナノワイヤは、平面状に配列され、複数の第1のナノワイヤおよび複数の第2のナノワイヤと交差する。メモリスタは、第1のナノワイヤ、第2のナノワイヤおよび第3のナノワイヤの交差部に配置される。そして、メモリスタは、構成1から構成6のいずれかのメモリスタからなる。
【0019】
(構成8)
更に、この発明の実施の形態によれば、半導体素子は、メモリスタと制御回路とを備える。メモリスタは、絶縁破壊プロセスを必要としない。制御回路は、メモリスタを制御する。
【0020】
メモリスタは、酸化物半導体層と、端子とを含む。酸化物半導体層は、ドーパントを含む。端子は、酸化物半導体層に電圧を印加し、ドーパントの分布を2次元分布に制御する。端子は、第1の端子と、第2の端子と、第3の端子と、第4の端子とを含む。第1の端子は、酸化物半導体層の面内方向に平行な第1の方向において酸化物半導体層の第1の端部に配置される。第2の端子は、第1の方向において第1の端部に対向する酸化物半導体層の第2の端部に配置される。第3の端子は、酸化物半導体層の面内方向であり、かつ、第1の方向と異なる第2の方向において酸化物半導体層の第3の端部に配置される。第4の端子は、第2の方向において第3の端部に対向する酸化物半導体層の第4の端部に配置される。
【0021】
制御回路は、第1の電圧制御、第2の電圧制御、第3の電圧制御および第4の電圧制御のいずれか1つの電圧制御を前記メモリスタに対して実行する。第1の電圧制御は、スパイクタイミング依存可塑性をメモリスタに実装するための電圧制御である。第2の電圧制御は、パブロフ型条件付けをメモリスタに実装するための電圧制御である。第3の電圧制御は、入力によって増強された結合強度が第1の期間しか保持せずに減衰する短期増強と、増強された結合強度が第1の期間よりも長期間保持される長期増強とをメモリスタに実装するための電圧制御である。第4の電圧制御は、酸化物半導体層の低コンダクタンス化と高コンダクタンス化とをメモリスタに実装するための電圧制御である。
【0022】
(構成9)
構成8において、制御回路は、第1の電圧制御において、
第2の端子を接地した状態で第1の端子にパルス電圧を印加して第1の端子と第2の端子との間における酸化物半導体層のコンダクタンスを初期化する第1のステップと、
第1のステップの後、酸化物半導体層のコンダクタンスを読み取るための読取電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加する第2のステップと、
第2のステップの後、方形波からなる第1のパルス電圧の電圧値から、方形波からなり、かつ、立ち上がりタイミングが第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第1のスパイク電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加する第3のステップと、
第3のステップの後、読取電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加する第4のステップと、
第4のステップの後、第1のステップを実行する第5のステップと、
第5のステップの後、第2の端子を接地した状態で第1のスパイク電圧を第1の端子に印加するとともに、方形波からなり、かつ、第1のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧の電圧値から第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第2のスパイク電圧を第3および第4の端子に印加し、または第2のスパイク電圧を第3および第4の端子に印加しない第6のステップと、
第1のパルス電圧の立ち上がりタイミングと第2のパルス電圧の立ち上がりタイミングとの差を変化させながら第1のステップから第6のステップを1回以上繰り返し実行する第7のステップとを実行する。
【0023】
(構成10)
構成9において、制御回路は、第1のステップにおいて、
第2の端子を接地した状態で第1の端子に読取電圧を印加する第1のサブステップと、
第1のサブステップの後、第4のパルス電圧を第1および第2の端子を接地した状態で第3および第4の端子に印加する第2のサブステップと、
第2のサブステップの後、第1のサブステップを実行する第3のサブステップと、
第3のサブステップの後、第2の端子を接地した状態で第1の端子に第5のパルス電圧を印加する第4のサブステップとを実行する。
【0024】
(構成11)
構成9または構成10において、制御回路は、第7のステップにおいて、第6のステップにおける第2のスパイク電圧の振幅を大きくしながら第1のステップから第6のステップを1回以上繰り返し実行する。
【0025】
(構成12)
構成8において、制御回路は、第2の電圧制御において、
第1および第2の端子に正の電圧を印加して初期化する第1のステップと、
第1のステップの後、第1の端子に第1の書込電圧を印加することを複数回実行する第2のステップと、
第2のステップの後、第1の書込電圧を第1の端子に印加すると共に第1の書込電圧と異なる第2の書込電圧を第4の端子に印加する第3のステップとを実行する。
【0026】
(構成13)
構成8において、制御回路は、第3の電圧制御において、
第1のパルス電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に複数回印加する第1のステップと、
第1のステップの後、正の電圧値からなる第1の電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加する第2のステップと、
第2のステップの後、負の電圧からなる第2の電圧を第2の端子を接地した状態で第3および第4の端子に印加する第3のステップとを実行する。
【0027】
(構成14)
構成13において、制御回路は、第2のステップにおいて、第1の電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加することを第1の頻度と第1の頻度よりも大きい第2の頻度とで実行する。
【0028】
(構成15)
構成8において、制御回路は、第4の電圧制御において、
第1および第2の端子を接地した状態で第3の端子と第4の端子との間に第1のパルス電圧を印加する第1のステップと、
第1のステップの後、第2の端子を接地した状態で第1の端子に第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧を複数回印加して酸化物半導体層のコンダクタンスを第1の値に設定する第2のステップと、
第2のステップの後、酸化物半導体層のコンダクタンスが第1の値よりも小さい第2の値になるまで、第2の端子を接地した状態で第1の端子に第2のパルス電圧を印加するとともに、第3および第4の端子に第1および第2のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧を印加し、または第3および第4の端子に第3のパルス電圧を印加しないことを繰り返し実行する第3のステップと、
第3のステップの後、酸化物半導体層のコンダクタンスが第1の値になるまで第2のパルス電圧の振幅を反転させた第4のパルス電圧を第2の端子を接地した状態で第1の端子に印加することを繰り返し実行する第4のステップと、
第4のステップの後、第3および第4のステップを繰り返し実行する第5のステップとを実行する。
【0029】
(構成16)
構成8から構成15のいずれかにおいて、酸化物半導体層は、化学量論比の酸素量よりも少ない酸素量を含み、(001)方向の結晶面を有する単結晶酸化チタン、または非晶質酸化ガリウムからなる。
【発明の効果】
【0030】
生体系が有する高次機能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】この発明の実施の形態1によるメモリスタの平面図である。
【
図2】
図1に示す線II-IIにおけるメモリスタの断面図である。
【
図3】
図1,2に示すメモリスタの製造方法を示す工程図である。
【
図4】
図1,2に示すメモリスタにおけるドーパント(酸素空孔)の分布を示す平面図である。
【
図5】書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との関係を示す図である。
【
図6】書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との別の関係を示す図である。
【
図7】抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す図である。
【
図8】抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との別の関係を示す図である。
【
図9】抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との更に別の関係を示す図である。
【
図10】抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との更に別の関係を示す図である。
【
図11】メモリスタ10-1における抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を6周期分について示す図である。
【
図12】熱還元処理によって作製した酸化チタンを用いたメモリスタにおける抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を3周期分について示す図である。
【
図13】a-GaO
yの成膜前後におけるRHEEDパターンを示す図である。
【
図14】書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との関係を示す図である。
【
図15】メモリスタ10-2における抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す図である。
【
図16】メモリスタ10-2におけるドーパント(酸素空孔)の分布を示す概念図である。
【
図17】端子3-5間の抵抗値および端子4-6間の抵抗値とAr分圧との関係を示す図である。
【
図18】端子3-5間の抵抗値および端子4-6間の抵抗値とa-GaO
yの膜厚との関係を示す図である。
【
図19】抵抗比R
H/R
LとAr分圧およびa-GaO
yの膜厚との関係を示す図である。
【
図20】単結晶TiO
2-nの成膜前後のRHEEDパターンを示す図である。
【
図21】スパイク電圧の生成方法を説明するための図である。
【
図22】メモリスタに印加されるスパイク電圧とメモリスタにおけるドーパント(酸素空孔)の移動の様子との関係を示す概念図である。
【
図23】スパイクタイミング依存可塑性STDPにおけるスパイク電圧を示す図である。
【
図24】スパイクタイミング依存可塑性を実装するときの電圧印加プロトコルを示す図である。
【
図25】
図24に示す電圧印加プロトコルに従って電圧を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示す概念図である。
【
図26】V
gateスパイクV
gate-spikeを変化させたときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図27】
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(=n/a)におけるコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図28】
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが5VであるときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図29】
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが7VであるときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図30】パブロフ型条件付けとメモリスタの入出力との対応関係を示す図である。
【
図31】パブロフ型条件付けを実装するときの電圧印加プロトコルを示す図である。
【
図32】ベルの音に対応する電圧V
1、餌に対応する電圧V
4および反応の有無に対応するコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す第1の図である。
【
図33】ベルの音に対応する電圧V
1、餌に対応する電圧V
4および反応の有無に対応するコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す第2の図である。
【
図35】
図32および
図33に示す各工程におけるドーパント(酸素空孔)の分布変化を示す概念図である。
【
図36】結合強度と入力信号の頻度との関係を示す図である。
【
図37】初期化、増強および減衰に対応するドーパント(酸素空孔)の分布を示す概念図である。
【
図38】コンダクタンスG
3-5のV
1入力頻度依存性を示す図である。
【
図39】最大コンダクタンスから10%減衰するのに必要な減衰パルス数とゲート電圧(V
4,6)との関係を示す図である。
【
図40】シナプスの鋭敏化と馴化における電圧印加プロトコルを示す図である。
【
図41】コンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す図である。
【
図42】Depression(低コンダクタンス化)およびPotentiation(高コンダクタンス化)に要求される平均パルス数のゲート電圧依存性を示す図である。
【
図43】ドーパント(酸素空孔)の分布とゲート電圧との関係を示す概念図である。
【
図44】実施の形態1による別のメモリスタの概略図である。
【
図45】a-GaO
yの成膜前後におけるRHEEDパターンを示す図である。
【
図46】メモリスタ10-3における電流と電圧との関係を示す図である。
【
図47】
図46に示す電流-電圧特性において電流の絶対値と電圧との関係を示す図である。
【
図48】スパイク電圧および電圧印加プロトコルを示す図である。
【
図49】コンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図50】コンダクタンスG
3-5の変化量Δwの測定結果を示す図である。
【
図51】印加されるスパイク電圧とドーパント(酸素空孔)の分布とを示す図である。
【
図52】別のPre-spikeおよびPost-spikeを示す図である。
【
図53】
図52に示すPre-spikeおよびPost-spikeから生成されたスパイク電圧を印加したときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図54】更に別のPre-spikeおよびPost-spikeを示す図である。
【
図55】
図54に示すPre-spikeおよびPost-spikeから生成されたスパイク電圧を印加したときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
【
図56】メモリスタのアプリケーションの例を示す概念図である。
【
図57】実施の形態2によるメモリスタの平面図である。
【
図58】
図57に示す線XXXXXVIII-XXXXXVIIIにおけるメモリスタの断面図である。
【
図64】実施の形態2による別のメモリスタの平面図である。
【
図65】
図64に示す線XXXXXXV-XXXXXXVにおけるメモリスタの断面図である。
【
図66】実施の形態2による更に別のメモリスタの平面図である。
【
図67】
図66に示す線XXXXXXVII-XXXXXXVIIにおけるメモリスタの断面図である。
【
図75】実施の形態2による更に別のメモリスタの平面図である。
【
図76】
図75に示す線XXXXXXXVI-XXXXXXXVI間におけるメモリスタの断面図である。
【
図83】この発明の実施の形態によるアレイシステムの概念図である。
【
図85】この発明の実施の形態による別のアレイシステムの概念図である。
【
図87】平面型4端子クロスバー構造のアレイシステムの具体例を示す図である。
【
図88】縦型4端子クロスバー構造のアレイシステムの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0033】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1によるメモリスタの平面図である。
図2は、
図1に示す線II-IIにおけるメモリスタの断面図である。
【0034】
図1および
図2を参照して、この発明の実施の形態1によるメモリスタ10は、基板1と、酸化物半導体層2と、端子3~6とを備える。
【0035】
メモリスタ10は、例えば、正方形の平面形状を有する。酸化物半導体層2は、基板1に接して基板1上に配置される。端子3~6は、酸化物半導体層2に接して酸化物半導体層2の一方の面に配置される。端子3~6の各々は、例えば、三角形の平面形状を有する。そして、端子3,5は、1つの頂点が相互に対向するように正方形の対向する2辺に沿って配置され、端子4,6は、1つの頂点が相互に対向するように正方形の対向する2辺に沿って配置される。この場合、端子3,5が対向する方向は、端子4,6が対向する方向と直交する。
【0036】
基板1は、(001)面を有する単結晶酸化チタン(単結晶TiO2)または単結晶シリコンからなる。
【0037】
酸化物半導体層2は、基板1が単結晶TiO2からなるとき、ドーパントを含む単結晶酸化チタン(単結晶TiO2-x(0<x<2))からなる。また、酸化物半導体層2は、基板1が単結晶シリコンからなるとき、ドーパントを含む非晶質酸化ガリウム(a-GaOy(0<y<c,cは、化学量論比))からなる。このように、酸化物半導体層2は、化学量論比を有する単結晶TiO2またはa-GaOcにおける酸素量よりも少ない酸素量を含む。従って、酸化物半導体層2は、酸素空孔をドーパントとして含む。
【0038】
そして、単結晶TiO2-xおよびa-GaOyは、絶縁破壊プロセスを必要としない材料である。従って、酸化物半導体層2は、絶縁破壊プロセスを必要としない材料からなる。
【0039】
端子3~6の各々は、酸化物半導体層2が単結晶TiO2からなるとき、例えば、Ptからなり、Ptの膜厚は、例えば、50nmである。また、端子3~6の各々は、酸化物半導体層2がa-GaOyからなるとき、例えば、Ptからなり、Ptの膜厚は、例えば、50nmである。
【0040】
基板1は、例えば、500μmの厚みを有する。酸化物半導体層2は、単結晶TiO2-xからなるとき、例えば、60nmの厚みを有する。また、酸化物半導体層2は、a-GaOyからなるとき、例えば、60nmの厚みを有する。
【0041】
図1において、X-Y平面を規定する。端子3~6は、酸化物半導体層2に電圧を印加するための端子である。端子3-5間に電圧を印加すると、酸化物半導体層2のドーパント(酸素空孔)がY軸方向に移動してドーパント(酸素空孔)の分布が一次元に変化する。その結果、Y軸方向における酸化物半導体層2の抵抗値が変化する。
【0042】
また、端子4-6間に電圧を印加すると、酸化物半導体層2のドーパント(酸素空孔)がX軸方向に移動してドーパント(酸素空孔)の分布が一次元に変化する。その結果、X軸方向における酸化物半導体層2の抵抗値が変化する。
【0043】
従って、端子3-5間および端子4-6間に電圧を印加すると、酸化物半導体層2のドーパント(酸素空孔)がX軸方向およびY軸方向に移動してドーパント(酸素空孔)の分布が2次元に変化する。
【0044】
このように、メモリスタ10は、ドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御できる。
【0045】
図3は、
図1,2に示すメモリスタ10の製造方法を示す工程図である。
【0046】
図3を参照して、メモリスタ10の製造が開始されると、(001)面を有する単結晶TiO
2を洗浄して基板1を準備する(工程(a))。洗浄方法は、有機溶媒による超音波洗浄である。
【0047】
そして、TiO2をターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法(PLD:Pulse Laser Deposition)によって基板1上に単結晶TiO2-nからなる酸化物半導体層2を形成する(工程(b))。この場合、波長266nmのNd:YAGレーザを備える装置内を2.0×10-6Paまで排気し、その後、酸素分圧が2.0×10-5Paになるように装置に酸素ガスを供給し、500℃の基板温度で10Hzのパルスレーザをターゲット(TiO2)に照射して単結晶TiO2-nを形成した。なお、成膜レートは、2.5~3.0nm/minである。
【0048】
その後、酸化物半導体層2の表面にレジストを塗布し、その塗布したレジストをフォトリソグラフィー、または電子ビームリソグラフィーによってパターンニングしてレジストパターン11を形成する(工程(c))。
【0049】
そうすると、レジストパターン11をマスクとして蒸着法によってPtを酸化物半導体層2上に堆積して端子4,6を形成する(工程(d))。この場合、端子3,5も同時に形成される。また、レジストパターン11上にもPt12が堆積される。
【0050】
そして、レジストパターン11を除去する。この場合、レジストパターン11上に堆積されたPt12は、リフトオフによって除去される。これによって、メモリスタ10が完成する(工程(e))。
【0051】
酸化物半導体層2がa-GaO
yからなるときも、メモリスタ10は、
図3に示す工程図に従って製造される。この場合、基板1として単結晶シリコン基板が用いられ、工程(b)において、酸化ガリウムをターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によってa-GaO
yが基板1上に形成される。この場合、酸素分圧が4.0×10
-5Paになるように酸素ガスがパルスレーザ蒸着法の装置内に供給され、基板温度は、室温である。なお、成膜レートは、10.0nm/minである。また、工程(d)において、端子3~6として、50nmのPtを蒸着法によって酸化物半導体層2(a-GaO
y)上に順次形成する。
【0052】
図4は、
図1,2に示すメモリスタ10におけるドーパント(酸素空孔)の分布を示す平面図である。
【0053】
図4の(a)を参照して、プラスの電圧(+V)を端子3に印加し、端子5を接地電位GNDに接続し、端子4,6に電圧を印加しない場合、端子3から端子5へ向かう方向に電界が発生し、ドーパント(酸素空孔)は、端子5の周囲に集まり、端子3,4,6の周囲には集まらない。その結果、ドーパント(酸素空孔)は、Y軸方向に分布した1次元の分布DT1が得られる。
【0054】
一方、端子3,5を接地電位GNDに接続し、プラスの電圧(+V)を端子4,6に印加した場合、端子4から端子3へ向かう方向、端子4から端子5へ向かう方向、端子6から端子3へ向かう方向および端子6から端子5へ向かう方向に電界が発生し、ドーパント(酸素空孔)は、端子3,5の周囲および端子3-5間に集まり、端子4,6の周囲に集まらない。その結果、ドーパント(酸素空孔)は、X-Y平面に分布した2次元の分布DT2が得られる(
図4の(b)参照)。
【0055】
また、端子3,5を接地電位GNDに接続し、マイナスの電圧(-V)を端子4,6に印加した場合、端子3から端子4へ向かう方向、端子3から端子6へ向かう方向、端子5から端子4へ向かう方向および端子5から端子6へ向かう方向に電界が発生し、ドーパント(酸素空孔)は、端子4,6の周囲および端4,6間に集まり、端子3,5の周囲に集まらない。その結果、ドーパント(酸素空孔)は、X-Y平面に分布した2次元の分布DT3が得られる(
図4の(c)参照)。
【0056】
このように、端子3~6に印加する電圧を制御することによって、メモリスタ10におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御できる。
【0057】
基板1として、(001)面を有する単結晶TiO2(厚み:0.5mm)を用いて、単結晶TiO2-xをパルスレーザ蒸着法によって基板1上に形成してメモリスタ10-1を作製した。なお、単結晶TiO2-xの膜厚は、60nmである。
【0058】
そして、パルスレーザ蒸着法によって基板1上に形成されたTiO2-xが単結晶であることをRHEED(Reflection High Energy Electron Diffraction)パターンによって確認した。
【0059】
図5は、書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との関係を示す図である。
図5の(a)は、書込電圧V
4,6と電圧の印加回数との関係を示し、
図5の(b)は、読出電圧V
1,V
2と電圧の印加回数との関係を示す。
【0060】
図5の(a)を参照して、1V,2V,・・・,8Vの電圧を端子4-6間に印加して書込電圧V
4,6をメモリスタ10-1に印加する。各書込電圧V
4,6の印加時間は、例えば、100秒である。各書込電圧V
4,6をメモリスタ10-1の端子4-6間に印加することによって単結晶TiO
2-xにおいてドーパント(酸素空孔)の分布が2次元に制御され、書込電圧V
4,6の電圧値によってドーパント(酸素空孔)の2次元分布が異なる。
【0061】
また、端子3-5間に1Vの電圧を印加して読出電圧V1(○)をメモリスタ10-1に印加する。読出電圧V1(○)の印加時間は、例えば、1~2秒である。そして、読出電圧V1(○)を印加したときの端子3-5間の電流I3-5を測定して端子3-5間の抵抗R3-5を求める。同様に、端子4-6間に1Vの電圧を印加して読出電圧V2(●)をメモリスタ10-1に印加する。読出電圧V2(●)の印加時間は、例えば、1~2秒である。そして、読出電圧V2(●)を印加したときの端子4-6間の電流I4-6を測定して端子4-6間の抵抗R4-6を求める。
【0062】
各書込電圧V4,6を100秒印加する動作と、読出電圧V1(○)および読出電圧V2(●)を印加して電流I3-5および電流I4-6を測定する動作とを交互に行い、各電圧値の書込電圧V4,6がメモリスタ10-1に印加されたときの抵抗R3-5および抵抗R4-6を求める。
【0063】
図6は、書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との別の関係を示す図である。
図6の(a)は、書込電圧V
4,6と電圧の印加回数との関係を示し、
図6の(b)は、読出電圧V
1,V
2と電圧の印加回数との関係を示す。
【0064】
図6の(a)を参照して、例えば、-8V~+8Vの範囲の書込電圧V
4,6を、0V,1V,2V,3V,4V,5V,6V,7V,8V,7V,6V,5V,4V,3V,2V,1V,0V,-1V,-2V,-3V,-4V,-5V,-6V,-7V,-8V,-7V,-6V,-5V,-4V,-3V,-2V,-1V,0Vの順序でメモリスタ10-1の端子4-6間に100秒間づつ印加する。すなわち、電圧値を1Vづつ変化させて書込電圧V
4,6が-8V~+8Vの範囲で1周するように書込電圧V
4,6をメモリスタ10-1に印加する。
【0065】
図6の(b)に示す読出電圧V
1,V
2についての説明は、
図5の(b)と同じである。そして、各書込電圧V
4,6を100秒印加する動作と、読出電圧V
1(○)および読出電圧V
2(●)を印加して電流I
3-5および電流I
4-6を測定する動作とを交互に行い、各電圧値の書込電圧V
4,6がメモリスタ10-1に印加されたときの抵抗R
3-5および抵抗R
4-6を求める。
【0066】
図7は、抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す図である。
図8は、抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との別の関係を示す図である。
図9は、抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との更に別の関係を示す図である。
図10は、抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との更に別の関係を示す図である。
【0067】
図7から
図10において、(a)は、抵抗R
3-5と書込電圧V
4,6との関係を示し、(b)は、抵抗R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す。
【0068】
図7を参照して、0V,1V,2V,3V,4V,5V,6V,7V,8Vの書込電圧V
4,6を端子4-6間に順次印加して抵抗R
3-5および抵抗R
4-6を求める。その結果、抵抗R
3-5は、書込電圧V
4,6の増加に伴って減少する(曲線k1参照)。また、抵抗R
4-6は、書込電圧V
4,6の増加に伴って増加する(曲線k2参照)。
【0069】
図8を参照して、8Vの書込電圧V
4,6が端子4-6間に印加された後、7V,6V,5V,4V,3V,2V,1V,0V,-1V,-2V,-3V,-4V,-5V,-6V,-7V,-8Vの書込電圧V
4,6を端子4-6間に順次印加して抵抗R
3-5および抵抗R
4-6を求める。
【0070】
その結果、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が8V,7V,6V,5V,4Vであるとき、曲線k1と同じように変化し、書込電圧V4,6が3V,2V,1V,0V,-1V,-2V,-3V,-4V,-5V,-6V,-7V,-8Vであるとき、曲線k1と異なる曲線k3に従って変化し、書込電圧V4,6が-5V以下になると書込電圧V4,6の減少に伴って増加する(曲線k3参照)。
【0071】
一方、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が8Vから4Vへ減少するに伴って急峻に大きくなり、書込電圧V4,6が4V~0Vの範囲で減少すると、ほぼ一定であり、書込電圧V4,6が0V~-4Vの範囲で減少すると、徐々に減少し、書込電圧V4,6が-4V~―6Vの範囲で減少すると急峻に減少し、書込電圧V4,6が-6V~―8Vの範囲で減少すると一定値になる(曲線k4参照)。
【0072】
図9を参照して、-8Vの書込電圧V
4,6が印加された後、-7V,-6V,-5V,-4V,-3V,-2V,-1V,0V,1V,2V,3V,4V,5V,6V,7V,8Vの書込電圧V
4,6を端子4-6間に順次印加して抵抗R
3-5および抵抗R
4-6を求める。
【0073】
その結果、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が-8V,-7V,-6V,-5Vと増加するに伴って急峻に増加し、書込電圧V4,6が-5V,-4V,-3Vと増加すると、徐々に増加し、書込電圧V4,6が-3V,-2V,-1V,0V,1V,2V,3V,4Vと増加すると、徐々に減少し、書込電圧V4,6が4V,5V,6Vと増加すると急峻に減少し、書込電圧V4,6が6V,7V,8Vと増加すると、一定値を保持する(曲線k5参照)。
【0074】
一方、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が-8Vから5Vへと増加するに伴って一定値を保持し、書込電圧V4,6が5Vから8Vへと増加するに伴って増加する(曲線k6参照)。この場合、2回目に8Vの書込電圧V4,6が印加されときの抵抗R4-6(曲線k6に従って変化したときの抵抗R4-6)は、1回目に8Vの書込電圧V4,6が印加されときの抵抗R4-6(曲線k2に従って変化したときの抵抗R4-6)と一致する。
【0075】
図10を参照して、更に、8V,7V,6V,5V,4V,3V,2V,1V,0V,-1V,-2V,-3V,-4V,-5V,-6V,-7V,-8V,-7V,-6V,-5V,-4V,-3V,-2V,-1V,0V,1V,2V,3V,4V,5V,6V,7V,8Vの書込電圧V
4,6をメモリスタ10-1に順次印加したとき(2周目の書込電圧V
4,6を印加したとき)、抵抗R
3-5は、曲線k3,k5に従って変化し、抵抗R
4-6は、曲線k4によって示される抵抗R
4-6と書込電圧V
4,6との関係とほぼ同じ関係を有する曲線k7に従って変化する。
【0076】
そして、抵抗R
3-5と書込電圧V
4,6との関係を示す曲線の形状と、抵抗R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す曲線の形状とは、対称である(
図10参照)。
【0077】
このように、単結晶TiO2-xを酸化物半導体層2として用いたメモリスタ10-1に-8V~+8Vの範囲で1周する書込電圧V4,6を印加すると、抵抗R3-5,R4-6の書込電圧V4,6依存性は、ヒステリシスに変化する。つまり、抵抗R3-5,R4-6は、印加する書込電圧V4,6の各電圧値に応じて異なる値を保持するように変化する。従って、書込電圧V4,6によって単結晶TiO2-xのドーパント(酸素空孔)の2次元分布を各種の2次元分布に制御できる。
【0078】
図11は、メモリスタ10-1における抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を6周期分について示す図である。
図12は、熱還元処理によって作製した酸化チタンを用いたメモリスタCompにおける抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を3周期分について示す図である。
【0079】
図11および
図12において、(a)は、抵抗R
3-5と書込電圧V
4,6との関係を示し、(b)は、抵抗R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す。
【0080】
図11を参照して、実施の形態1によるメモリスタ10-1は、抵抗R
3-5の書込電圧V
4,6依存性の測定を6周期分繰り返し行っても、安定した特性を示す。
【0081】
一方、熱還元処理によって作製した酸化チタンを用いたメモリスタCompは、抵抗R3-5の書込電圧V4,6依存性の測定を3周期分繰り返し行っただけで非常に不安定である。
【0082】
また、実施の形態1によるメモリスタ10-1は、低抵抗値に対する高抵抗値の比が20倍と非常に大きいが、熱還元処理によって作製した酸化チタンを用いたメモリスタCompは、低抵抗値に対する高抵抗値の比が2~3倍と非常に小さい。
【0083】
このように、実施の形態1によるメモリスタ10-1は、熱還元処理によって作製した酸化チタンを用いたメモリスタCompに比べて、低抵抗値に対する高抵抗値の比が1桁以上大きいとい言う顕著な効果を有する。
【0084】
a-GaOyを酸化物半導体層2として用いたメモリスタ10-2について抵抗R3-5,R4-6と書込電圧V4,6との関係を実験した。
【0085】
実験に用いたメモリスタ10-2は、基板1として単結晶シリコン(001)/SiO2を用い、単結晶シリコン(001)/SiO2のSiO2上にパルスレーザ蒸着法によってa-GaOyを形成し、a-GaOyの表面上に端子3~6としてPtを蒸着した構造からなる。
【0086】
そして、
図3に示す工程(a)~工程(e)に従ってメモリスタ10-2を作製した。この場合、工程(b)において、酸素ガスに代えてアルゴン(Ar)ガスを用い、Arガスの分圧を4.0×10
-3Pa、4.0×10
-2Pa、4.0×10
-1Paおよび8.0×10
-1Paと変化させた。また、a-GaO
yの膜厚を50nm、90nmおよび120nmと変化させた。そして、基板温度は、室温である。
【0087】
図13は、a-GaO
yの成膜前後におけるRHEEDパターンを示す図である。
図13において、(a)は、a-GaO
yの成膜前におけるRHEEDパターンを示し、(b)は、a-GaO
yの成膜後におけるRHEEDパターンを示す。
【0088】
図13を参照して、a-GaO
yの成膜前において、RHEEDパターンは、ハロー状である((a)参照)。これは、基板1である単結晶シリコン(001)/SiO
2のSiO
2によりRHEEDパターンがハロー状になったものと考えられる。
【0089】
a-GaOyの成膜後においても、RHEEDパターンは、ハロー状である((b)参照)。従って、GaOyがアモルファスの構造を有することが確認された。
【0090】
図14は、書込電圧および読出電圧と電圧の印加回数との関係を示す図である。
図14の(a)は、書込電圧V
4,6と電圧の印加回数との関係を示し、
図14の(b)は、読出電圧V
1,V
2と電圧の印加回数との関係を示す。
【0091】
図14の(a)を参照して、-14V~+14Vの範囲の書込電圧V
4,6を、1V,2V,3V,4V,5V,6V,7V,8V,9V,10V,11V,12V,13V,14V,13V,12V,11V,10V,9V,8V,7V,6V,5V,4V,3V,2V,1V,0V,-1V,-2V,-3V,-4V,-5V,-6V,-7V,-8V,-9V,-10V,-11V,-12V,-13V,-14V,-13V,-12V,-11V,-10V,-9V,-8V,-7V,-6V,-5V,-4V,-3V,-2V,-1V,0Vの順序でメモリスタ10-2の端子4-6間に100秒間づつ印加する。すなわち、電圧値を1Vづつ変化させて書込電圧V
4,6が-14V~+14Vの範囲で1周するように書込電圧V
4,6をメモリスタ10-2に印加する。
【0092】
各書込電圧V4,6の印加時間は、例えば、100秒である。各書込電圧V4,6をメモリスタ10-2の端子4-6間に印加することによってa-GaOyにおいてドーパント(酸素空孔)の分布が2次元に制御され、書込電圧V4,6の電圧値によってドーパント(酸素空孔)の2次元分布が異なる。
【0093】
また、端子3-5間に1Vの電圧を印加して読出電圧V1(○)をメモリスタ10-2に印加する。読出電圧V1(○)の印加時間は、例えば、1~2秒である。そして、読出電圧V1(○)を印加したときの端子3-5間の電流I3-5を測定して端子3-5間の抵抗R3-5を求める。同様に、端子4-6間に1Vの電圧を印加して読出電圧V2(●)をメモリスタ10-2に印加する。読出電圧V2(●)の印加時間は、例えば、1~2秒である。そして、読出電圧V2(●)を印加したときの端子4-6間の電流I4-6を測定して端子4-6間の抵抗R4-6を求める。
【0094】
各書込電圧V4,6を100秒印加する動作と、読出電圧V1(○)および読出電圧V2(●)を印加して電流I3-5および電流I4-6を測定する動作とを交互に行い、各電圧値の書込電圧V4,6がメモリスタ10-2に印加されたときの抵抗R3-5および抵抗R4-6を求める。
【0095】
図15は、メモリスタ10-2における抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す図である。
図15において、(a)は、抵抗R
3-5と書込電圧V
4,6との関係を示し、(b)は、抵抗R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す。なお、
図15は、4.0×10
-1PaのAr分圧で形成された90nmの膜厚を有するa-GaO
yを酸化物半導体層2として用いたメモリスタ10-2における抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示す。
【0096】
図15の(a)を参照して、抵抗R
3-5は、書込電圧V
4,6が0Vから2Vへ増加するに伴って徐々に上昇し、書込電圧V
4,6が2Vから7Vへ増加するに伴って急激に減少し、書込電圧V
4,6が7Vから14Vに増加するに伴って徐々に減少する((a)の矢印I参照)。
【0097】
その後、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が14Vから-6Vへ減少するに伴ってほぼ一定である((a)の矢印II参照)。そして、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が-6Vから-10Vへ減少すると、急激大きくなり、書込電圧V4,6が-10Vから-14Vへ減少すると、ほぼ一定になる((a)の矢印III参照)。
【0098】
引き続いて、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が-14Vから-1Vに増加するに伴ってほぼ一定になり、書込電圧V4,6が-1Vから0Vに増加するに伴って徐々に上昇し、最初に書込電圧V4,6が0Vに設定されたときの抵抗値にほぼ一致する((a)の矢印IV参照)。
【0099】
このように、抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って時計回りに変化する。
【0100】
図15の(b)を参照して、抵抗R
4-6は、書込電圧V
4,6が0Vから7Vへ増加するに伴ってほぼ一定になり、書込電圧V
4,6が7Vから10Vに増加するに伴って急激に上昇し、書込電圧V
4,6が10Vから14Vに増加するに伴ってほぼ一定になる((b)の矢印I参照)。
【0101】
その後、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が14から1Vに減少するに伴ってほぼ一定であり、書込電圧V4,6が1Vから-2Vに減少するに伴って徐々に増加する((b)の矢印II参照)。
【0102】
引き続いて、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が-2Vから-8Vに減少するに伴って急激に減少し、書込電圧V4,6が-8Vから-14Vに減少するに伴って徐々に減少する((b)の矢印III参照)。
【0103】
その後、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が-14Vから0Vに増加するに伴ってほぼ一定になり、最初に書込電圧V4,6が0Vに設定されたときの抵抗値にほぼ一致する((b)の矢印IV参照)。
【0104】
このように、抵抗R4-6は、書込電圧V4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って反時計回りに変化する。
【0105】
抵抗R3-5,R4-6と書込電圧V4,6との関係をまとめると表1に示すようになる。
【0106】
【0107】
表1に示すように、書込電圧V4,6が0Vから14Vに上昇すると、抵抗R3-5は、減少し、抵抗R4-6は、増加する。また、書込電圧V4,6が14Vから0Vに減少すると、抵抗R3-5および抵抗R4-6は、ほぼ一定である。更に、書込電圧V4,6が0Vから-14Vに減少すると、抵抗R3-5は、増加し、抵抗R4-6は、減少する。更に、書込電圧V4,6が-14Vから0Vに増加すると、抵抗R3-5および抵抗R4-6は、ほぼ一定である。
【0108】
従って、抵抗R3-5および抵抗R3-5は、書込電圧V4,6が0Vから14Vに上昇するとき、および書込電圧V4,6が0Vから-14Vに減少するとき、相互に逆の書込電圧V4,6依存性を示すので、相互に対称な形状を有する曲線に従って変化する。
【0109】
図16は、メモリスタ10-2におけるドーパント(酸素空孔)の分布を示す概念図である。
図16の(a),(b),(c),(d)は、
図15の(a),(b)に示す矢印I,II,III,IVにそれぞれ対応するドーパント(酸素空孔)の分布を示す。
【0110】
図16の(a)を参照して、書込電圧V
4,6が増加するに伴ってドーパント(酸素空孔)が端子3,5の周辺に分布する。その結果は、抵抗R
3-5は、書込電圧V
4,6の増加に伴って減少するが、抵抗R
4-6は、書込電圧V
4,6の増加に伴って増加する(
図15の(a),(b)の矢印I参照)。
【0111】
図16の(b)を参照して、書込電圧V
4,6が減少してもしばらくはドーパント(酸素空孔)が端子3,5の周辺に分布する。その結果、抵抗R
3-5,R
4-6は、書込電圧V
4,6が減少してもほぼ一定になる(
図15の(a),(b)の矢印II参照)。但し、ドーパント(酸素空孔)が端子3,5の周辺に分布するため、端子3-5間においてドーパント(酸素空孔)が存在しない領域の長さは、端子4-6間においてドーパント(酸素空孔)が存在しない領域の長さよりも短いため、抵抗R
3-5は、抵抗R
4-6よりも低くなる(
図15の(a),(b)の矢印II参照)。
【0112】
図16の(c)を参照して、書込電圧V
4,6が増加するに伴ってドーパント(酸素空孔)が端子4,6の周辺に移動する。その結果は、抵抗R
3-5は、書込電圧V
4,6の増加に伴って増加するが、抵抗R
4-6は、書込電圧V
4,6の増加に伴って減少する(
図15の(a),(b)の矢印III参照)。
【0113】
図16の(d)を参照して、書込電圧V
4,6が増加してもしばらくはドーパント(酸素空孔)が端子4,6の周辺に分布する。その結果、抵抗R
3-5,R
4-6は、書込電圧V
4,6が増加してもほぼ一定になる(
図15の(a),(b)の矢印IV参照)。但し、ドーパント(酸素空孔)が端子4,6の周辺に分布するため、端子4-6間においてドーパント(酸素空孔)が存在しない領域の長さは、端子3-5間においてドーパント(酸素空孔)が存在しない領域の長さよりも短いため、抵抗R
4-6は、抵抗R
3-5よりも低くなる(
図15の(a),(b)の矢印IV参照)。
【0114】
図17は、端子3-5間の抵抗値および端子4-6間の抵抗値とAr分圧との関係を示す図である。
【0115】
図17においては、酸化物半導体層2としてのa-GaO
yを成膜するときのAr分圧は、4.0×10
-3Pa,4.0×10
-2Pa,4.0×10
-1Pa,8.0×10
-1Paと変えられた。また、酸化物半導体層2としてのa-GaO
yの膜厚は、90nmに設定された。
【0116】
図17を参照して、端子3-5間の抵抗値R
3-5は、Ar分圧を4.0×10
-3Pa,4.0×10
-2Pa,4.0×10
-1Pa,8.0×10
-1Paと変化させたとき、全てのAr分圧において、書込電圧V
4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って時計回りに変化する。一方、端子4-6間の抵抗値R
4-6は、Ar分圧を4.0×10
-3Pa,4.0×10
-2Pa,4.0×10
-1Pa,8.0×10
-1Paと変化させたとき、全てのAr分圧において、書込電圧V
4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って反時計回りに変化する。
【0117】
そして、端子3-5間の抵抗値R3-5および端子4-6間の抵抗値R4-6は、Ar分圧によって異なる。これは、Ar分圧の増加によってメモリスタ10-2のドーパント(酸素空孔)の密度が増大したためと考えられる。また、端子3-5間の抵抗値R3-5および端子4-6間の抵抗値R4-6は、Ar分圧が4.0×10-1Paであるとき、最も良好な特性を示す。
【0118】
図18は、端子3-5間の抵抗値および端子4-6間の抵抗値とa-GaO
yの膜厚との関係を示す図である。
【0119】
図18においては、酸化物半導体層2としてのa-GaO
yを成膜するときのAr分圧は、4.0×10
-1Paに設定された。これは、
図17に示すように、端子3-5間の抵抗値R
3-5および端子4-6間の抵抗値R
4-6は、Ar分圧が4.0×10
-1Paであるとき、良好な特性を示すからである。また、酸化物半導体層2としてのa-GaO
yの膜厚は、50nm、90nmおよび120nmと変えられた。
【0120】
図18を参照して、端子3-5間の抵抗値R
3-5は、a-GaO
yの膜厚を50nm、90nmおよび120nmと変化させたとき、全ての膜厚において、書込電圧V
4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って時計回りに変化する。一方、端子4-6間の抵抗値R
4-6は、a-GaO
yの膜厚を50nm、90nmおよび120nmと変化させたとき、全ての膜厚において、書込電圧V4,6が0V→14V→-14V→0Vと一周するに伴って反時計回りに変化する。
【0121】
そして、端子3-5間の抵抗値R3-5および端子4-6間の抵抗値R4-6は、a-GaOyの膜厚によって異なる。これは、a-GaOyの膜厚の増大によってドーパント(酸素空孔)の量が増大したためであると考えられる。また、端子3-5間の抵抗値R3-5および端子4-6間の抵抗値R4-6は、a-GaOyの膜厚が90nmであるとき、最も良好な特性を示す。
【0122】
図19は、抵抗比R
H/R
LとAr分圧およびa-GaO
yの膜厚との関係を示す図である。
【0123】
図19の(a)は、抵抗比R
H/R
LとAr分圧との関係を示し、
図19の(b)は、抵抗比R
H/R
Lとa-GaO
yの膜厚との関係を示す。抵抗比R
H/R
Lは、
図17および
図18に示す特性において、抵抗値R
3-5および抵抗値R
4-6が一定である領域の抵抗値の比である。
【0124】
図19の(a)において、縦軸は、抵抗比R
H/R
Lを表し、横軸は、Ar分圧を表す。そして、a-GaO
yの膜厚は、90nmである。また、
図19の(b)において、縦軸は、抵抗比R
H/R
Lを表し、横軸は、a-GaO
yの膜厚を表す。そして、Ar分圧は、4.0×10
-1Paである。
【0125】
図19を参照して、抵抗比R
H/R
Lは、Ar分圧が4.0×10
-1Paであるとき、a-GaO
yの膜厚が90nmであるとき、最も大きくなることが分かった。これは、a-GaO
yにおいてドーパント(酸素空孔)がAr分圧およびa-GaO
yの膜厚によって変化するためであると考えられる。
【0126】
また、
図19に示す特性は、高い抵抗比R
H/R
Lを得るためのAr分圧およびa-GaO
yの膜厚には最適な条件が存在しており、その指標を得ることができた。
【0127】
上述したように、メモリスタ10-2は、抵抗R3-5,R4-6の書込電圧V4,6依存性がヒステリシスを示すので、書込電圧V4,6の電圧値が同じであっても、抵抗R3-5,R4-6は、異なる2つの抵抗値を保持する。つまり、書込電圧V4,6の電圧値によって酸化物半導体層2におけるドーパント(酸素空孔)の分布が異なる2次元分布になる。従って、メモリスタ10-2を用いれば、異なる2つの状態を表現することができる。
【0128】
従って、a-GaO
yを酸化物半導体層2として用いたメモリスタ10-2においても、上述した
図7から
図11に示す抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係と同様な抵抗R
3-5,R
4-6と書込電圧V
4,6との関係を示すことが分かった(
図15、
図17および
図18参照)。
【0129】
上述したように、メモリスタ10は、抵抗R3-5,R4-6の書込電圧V4,6依存性がヒステリシスを示すので、書込電圧V4,6の電圧値が同じであっても、抵抗R3-5,R4-6は、異なる2つの抵抗値を保持する。つまり、書込電圧V4,6の電圧値によって酸化物半導体層2におけるドーパント(酸素空孔)の分布が異なる2次元分布になる。従って、メモリスタ10を用いれば、異なる2つの状態を表現することができる。
【0130】
メモリスタ10をシナプスとして使用する場合、抵抗R3-5(または抵抗R4-6)が減少(増加)したとすれば、入力信号に対してシナプス結合が増加(減少)したので、学習が完了したことになる。
【0131】
メモリスタ10においては、端子3-5間および端子4-6間に信号が入力する。そして、酸化物半導体層2中のドーパント(酸素空孔)は、端子4-6間に印加される電圧による電界の影響を受けるため、端子3-5間単独に電圧が印加される場合に比べて、形成されるドーパント(酸素空孔)の分布の形態が異なる。つまり、端子3-5間の抵抗、即ち、シナプス結合の重みが異なるため、これは、端子3への信号入力と端子4への信号入力との「連合学習」の結果とみなせる。
【0132】
従って、メモリスタ10を用いれば、連合学習の機能を実現でき、生体系が有する高次機能を発揮できる。
【0133】
図1および
図2に示すメモリスタ10を用いて実現したシナプス特性について説明する。この場合、試料は、
図3に示す工程(a)~工程(e)に従って作製された。なお、工程(b)において、(001)の面方位を有する単結晶TiO
2上に単結晶TiO
2-nを堆積するときの酸素分圧は、3.0×10
-5Paであり、レーザ強度は、70mJであり、単結晶TiO
2の厚みは、0.5mmであり、単結晶TiO
2-nの膜厚は、50nmであり、基板温度および成膜レートは、上記の工程(b)において説明した通りである。
【0134】
図20は、単結晶TiO
2-nの成膜前後のRHEEDパターンを示す図である。
図20において、(a)は、単結晶TiO
2-nの成膜前のRHEEDパターンを示し、(b)は、単結晶TiO
2-nの成膜後のRHEEDパターンを示す。
【0135】
図20の(b)に示すように、成膜後においては、スポットパターンが観測され、単結晶TiO
2-nのエピタキシャル成長が確認された。
【0136】
図21は、スパイク電圧の生成方法を説明するための図である。
図21を参照して、方形波からなるPre-spikeの立ち上がりタイミングと方形波からなるPost-spikeの立ち上がりタイミングとの差Δtを変えて、Pre-spikeからPost-spikeを減算することによって各種のスパイク電圧を生成する。
【0137】
図22は、メモリスタに印加されるスパイク電圧とメモリスタにおけるドーパント(酸素空孔)の移動の様子との関係を示す概念図である。
【0138】
図22において、(a)は、
図21に示すΔtが-25msであるときのPre-spikeからPost-spikeを減算して生成されたスパイク電圧SPK1を示し、(b)は、
図21に示すΔtが+25msであるときのPre-spikeからPost-spikeを減算して生成されたスパイク電圧SPK2を示す。
【0139】
また、
図22において、(c)は、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3にスパイク電圧SPK1を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示し、(d)は、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3にスパイク電圧SPK2を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示し、(e)は、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3,4,6にスパイク電圧SPK1を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示し、(f)は、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3,4,6にスパイク電圧SPK2を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示す。
【0140】
図22を参照して、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3にスパイク電圧SPK1を印加したとき、ドーパント(酸素空孔)は、端子3から端子5の周辺に移動する((c)参照)。また、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3にスパイク電圧SPK2を印加したとき、ドーパント(酸素空孔)は、端子5から端子3の周辺に移動する((d)参照)。更に、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3,4,6にスパイク電圧SPK1を印加したとき、ドーパント(酸素空孔)は、端子4,6から端子5の周辺に移動する((e)参照)。更に、メモリスタ10の端子5を接地した状態で端子3,4,6にスパイク電圧SPK2を印加したとき、ドーパント(酸素空孔)は、端子5から端子3,4,6の方向へ移動する((f)参照)。
【0141】
このように、端子3,4,5,6に印加する電圧を制御することによって単結晶TiO2-nにおけるドーパント(酸素空孔)の分布を制御することが可能であり、端子3と端子5との間のコンダクタンスG3-5が変化する。
【0142】
図22の(c),(d)においては、端子4,6に電圧が印加されておらず、(e),(f)においては、端子4,6に電圧が印加されている。(c),(d)に示すドーパント(酸素空孔)の移動と、(e),(f)に示すドーパント(酸素空孔)の移動とは、相互に異なるので、端子3-5間のコンダクタンスG
3-5は、端子4,6に印加される電圧によっても変化する。従って、端子4,6に印加される電圧をゲート電圧V
gateとすれば、ゲート電圧V
gateによってコンダクタンスG
3-5を制御することも可能である。
【0143】
[スパイクタイミング依存可塑性]
図1および
図2に示すメモリスタ10に実装したシナプス特性としてスパイクタイミング依存可塑性(STDP:Spike Timing Dependence Plasticity)について説明する。ここで、スパイクタイミング依存可塑性は、Pre-spikeの立ち上がりタイミングとPost-spikeの立ち上がりタイミングとの差Δtによってメモリスタ10が異なるコンダクタンスGを保持することである。
【0144】
図23は、スパイクタイミング依存可塑性STDPにおけるスパイク電圧を示す図である。
【0145】
図23を参照して、Pre-spikeは、7Vの振幅および25msの振幅幅を有する方形波からなる。Post-spikeは、Pre-spikeと同じ方形波からなり、かつ、立ち上がりタイミングがPre-spikeの立ち上がりタイミングとΔtだけ異なる。そして、Pre-spikeの電圧値からPost-spikeの電圧値を減算してV
1-spikeを生成する(
図23の(a)参照)。この場合、Δtは、例えば、-50ms~+50msの範囲で変更される。
【0146】
また、Gate-spikeは、1~7Vの振幅および25msの振幅幅を有する方形波からなる。そして、立ち上がりタイミングがGate-spikeの立ち上がりタイミングとΔtだけ異なるPost-spikeの電圧値をGate-spikeの電圧値から減算することによってV
gate-spikeを生成する(
図23の(b)参照)。この場合、Δtは、V
gate-spikeの最大電圧が負の電圧になる範囲に設定される。
【0147】
図24は、スパイクタイミング依存可塑性を実装するときの電圧印加プロトコルを示す図である。
図24を参照して、次の工程(i)~(viii)を説明する。
【0148】
(i)メモリスタ10における初期のコンダクタンスG3-5を測定するために、100mVの振幅および2msの振幅幅を有する読出電圧Readを、端子5を接地した状態で端子3に印加する。
【0149】
(ii)工程(i)の後、ドーパント(酸素空孔)を端子3-5間に集積させるために、12Vの振幅および50sの振幅幅を有するパルス電圧を、端子3,5を接地した状態で端子4,6に印加する。
【0150】
(iii)工程(ii)の後、コンダクタンスG3-5の変化を測定するために、端子5を接地した状態で読出電圧Readを端子3に印加する。
【0151】
(iv)工程(iii)の後、端子5を接地した状態で端子3に±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧を複数回印加してコンダクタンスG3-5を所望の値に初期化する。より具体的には、±1Vの範囲の振幅および3sの振幅幅を有するパルス電圧から始まって、パルス電圧の印加毎に振幅が0.2Vずつ大きくなって行くパルス電圧を用い、コンダクタンスG3-5を小さくする場合は、1V、1.2V、1.4V、・・・のように振幅を変化させ、コンダクタンスG3-5を大きくする場合は、-1V、-1.2V、-1.4V、・・・のように振幅を変化させ、最終的には、±16Vまで変化させることによってコンダクタンスG3-5を所望の値に初期化する。本実験では、例えば、コンダクタンスG3-5を2mSに初期化する。
【0152】
(v)工程(iv)の後、端子5を接地した状態でV1スパイクV1-spike(Spike1)を端子3に印加する。この場合、V1スパイクV1-spikeの印加前後に端子5を接地した状態で読出電圧Readを端子3に印加し、V1スパイクV1-spike(Spike1)の印加前後におけるコンダクタンスG3-5を測定し、コンダクタンスG3-5の変化量Δwを次式によって算出する。
【0153】
【0154】
(vi)工程(v)の後、上述した方法によって、再度、コンダクタンスG3-5を所望の値(=2mS)に初期化する。
【0155】
(vii)工程(vi)の後、端子5を接地した状態でV1スパイクV1-spike(Spike1)を端子3に印加するとともにVgateスパイクVgate-spike(Spike1’)を端子4,6に印加する。この場合、VgateスパイクVgate-spike(Spike1’)の印加前後に端子5を接地した状態で読出電圧Readを端子3に印加し、VgateスパイクVgate-spike(Spike1’)の印加前後におけるコンダクタンスG3-5を測定し、コンダクタンスG3-5の変化量Δwを式(1)によって算出する。
【0156】
(viii)工程(vii)の後、Δtを-50ms~+50msの範囲で変化させながらコンダクタンスG3-5の初期化とコンダクタンスG3-5の変化量Δwの算出とを繰り返し行う。
【0157】
図25は、
図24に示す電圧印加プロトコルに従って電圧を印加したときのドーパント(酸素空孔)の移動の様子を示す概念図である。
【0158】
図25の(a)を参照して、上述した工程(ii)において説明したように電圧を印加すると、ドーパント(酸素空孔)は、端子3-5間に集積される。
【0159】
また、
図25の(b)を参照して、上述した工程(iv)において説明したように端子5を接地した状態で端子3に種々のパルス電圧を印加すると、コンダクタンスG
3-5が所望の値に初期化される。
【0160】
更に、
図25の(c)を参照して、上述した工程(v)において説明したように、端子5を接地した状態でV
1スパイクV
1-spikeを端子3に印加すると、ドーパント(酸素空孔)が端子3-5間を移動し、V
1スパイクV
1-spikeの印加前後においてコンダクタンスG
3-5が変化する。
【0161】
更に、
図25の(d)を参照して、上述した工程(vii)において説明したように、端子5を接地した状態でV
1スパイクV
1-spike(Spike1)を端子3に印加するとともにV
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)を端子4,6に印加すると、ドーパント(酸素空孔)が端子5と端子3,4,6との間で移動し、V
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)の印加前後においてコンダクタンスG
3-5が変化する。
【0162】
図26は、V
gateスパイクV
gate-spikeを変化させたときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図26において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
図26においては、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(=n/a)、およびV
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが1V,2V,3V,4V,5V,6V,7Vである場合について、コンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す。
【0163】
図26を参照して、V
gateスパイクV
gate-spikeを変化させることによって、コンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係が変化する。例えば、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(=n/a)、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtが-25msであるとき最小値になり、Δtが+25msであるとき最大値になる(黒丸参照)。また、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが7Vである場合、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtが-25msであるとき最大値になり、Δtが+25msであるとき最小値になる(白三角参照)。
【0164】
図27は、
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(=n/a)におけるコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図27において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。また、Δtが-50ms~0msの領域は、Pre-spikeの立ち上がりタイミングがPost-spikeの立ち上がりタイミングよりも遅いときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示し、Δtが0ms~+50msの領域は、Pre-spikeの立ち上がりタイミングがPost-spikeの立ち上がりタイミングよりも早いときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す。
【0165】
図27を参照して、V
gateスパイクV
gate-spikeを端子4,6に印加しない場合(=n/a)、Δtが正の領域では、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが正になり、コンダクタンスG
3-5が上昇し、Δtが負の領域では、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが負になり、コンダクタンスG
3-5が減少する。また、Δtが±25msであるとき、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwの絶対値が最大値になる。
【0166】
Δtが-25msであるとき(A)、
図22の(a)に示すスパイク電圧SPK1が端子3に印加されるので(即ち、端子3に正の電圧が印加されるので)、ドーパント(酸素空孔)が端子5側に移動し(
図22の(c)参照)、コンダクタンスG
3-5が低下する。その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが負になる。
【0167】
一方、Δtが+25msであるとき(B)、
図22の(b)に示すスパイク電圧SPK2が端子3に印加されるので(即ち、端子3に負の電圧が印加されるので)、ドーパント(酸素空孔)が端子3側に移動し(
図22の(d)参照)、コンダクタンスG
3-5が上昇する。その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが正になる。
【0168】
図28は、
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが5VであるときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図28において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
【0169】
図28を参照して、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtが-50ms~0msの領域およびΔtが0ms~+50msの領域の両方において、正の領域に存在する。そして、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtが±25msであるとき最大値になるが、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(
図27参照)に比べ、小さい。
【0170】
図29は、
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが7VであるときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図29において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
【0171】
図29を参照して、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vが7Vである場合、Δtが正の領域では、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが負になり、コンダクタンスG
3-5が減少し、Δtが負の領域では、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが正になり、コンダクタンスG
3-5が上昇する。また、Δtが±25msであるとき、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwの絶対値が最大値になるが、V
gateスパイクV
gate-spikeを印加しない場合(
図27参照)に比べ、コンダクタンスG
3-5の変化の方向が逆になる。つまり、変化量Δwの極性が逆転する。
【0172】
Δtが-25msであるとき(C)、
図22の(a)に示すスパイク電圧SPK1が端子3,4,6に印加されるので(即ち、端子3,4,6に正の電圧が印加されるので)、ドーパント(酸素空孔)が
図22の(c)に示す場合よりも多く端子5側に集結し(
図22の(e)参照)、コンダクタンスG
3-5が上昇する。その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが正になる。
【0173】
一方、Δtが+25msであるとき(D)、
図22の(b)に示すスパイク電圧SPK2が端子3,4,6に印加されるので(即ち、端子3,4,6に負の電圧が印加されるので)、ドーパント(酸素空孔)が分散し(
図22の(f)参照)、コンダクタンスG
3-5が低下する。その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが負になる。
【0174】
従って、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅Vをn/a=0V、1V,2V,3V,4V,5V,6V,7Vと大きくすると、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが減少し、変化量Δwの極性が逆転することが分かった(
図29参照)。また、Δtが±25msであるときにコンダクタンスG
3-5の変化量Δwの絶対値が最大値を取ることが分かった。
【0175】
以上より、4端子メモリスタ(メモリスタ10)を用いたSTDP特性の実装およびSTDP特性のゲート電圧(=VgateスパイクVgate-spike)による変調が可能であることが示された。また、ゲート電圧(=VgateスパイクVgate-spike)による対称STDP特性および非対称STDP特性の切り替えも可能であることが示された。
【0176】
[パブロフ型条件付け]
図1および
図2に示すメモリスタ10に実装したシナプス特性としてパブロフ型条件付けについて説明する。
【0177】
パブロフ型条件付けとは、ベルの音だけでは反応を示さなかった犬が、ベルを鳴らすと同時に餌を与える工程を繰り返すことによって、ベルの音のみで唾液分泌をするようになるという学習過程である。
【0178】
図30は、パブロフ型条件付けとメモリスタの入出力との対応関係を示す図である。
図30を参照して、パブロフの犬を模倣するには、2入力1出力が必要であるので、端子3,6を入力とし、端子5を出力とする。端子3をベルの音(中性刺激、条件刺激)、端子6を餌(無条件刺激)、端子5を唾液分泌(無条件反射、条件反射)にそれぞれ対応付ける。
【0179】
学習前においてベルの音だけでは反応を示さない犬を、メモリスタ10において端子3に電圧V1を印加したとき低いコンダクタンスG3-5を出力することを対応付ける。また、学習中においてベルを鳴らすと同時に餌を与える工程を、メモリスタ10において端子3,6にそれぞれ電圧V1,V4を印加したとき高いコンダクタンスG3-5を出力することを対応付ける。更に、学習後においてベルの音のみで唾液分泌をするようになることを、メモリスタ10において端子3に電圧V1のみを印加しただけで、高いコンダクタンスG3-5を出力することを対応付ける。
【0180】
図31は、パブロフ型条件付けを実装するときの電圧印加プロトコルを示す図である。
図31を参照して次の工程(xi)~(xiv)を説明する。
【0181】
(xi)端子3,4に正の電圧を印加して端子3,4の周辺のドーパント(酸素空孔)を端子5,6側にドリフトさせ、初期化を行う。
【0182】
(xii)工程(xi)の後、端子5を接地した状態で100mVの振幅および2msの振幅幅を有する読取電圧Readを端子3に印加し、端子3-5間のコンダクタンスG3-5を測定する。
【0183】
(xiii)工程(xii)の後、-9Vの振幅および100msの振幅幅を有する書込電圧Write1を端子3に印加し、その後、端子5を接地した状態で100mVの振幅および2msの振幅幅を有する読取電圧Readを端子3に印加し、端子3-5間のコンダクタンスG3-5を測定する。そして、書込電圧Write1の印加と読取電圧Readの印加を9回繰り返し実行する。
【0184】
(xiv)工程(xiii)の後、書込電圧Write1を端子3に印加するとともに9Vの振幅および100msの振幅幅を有する書込電圧Write2を端子6に印加し、その後、端子5を接地した状態で100mVの振幅および2msの振幅幅を有する読取電圧Readを端子3に印加し、端子3-5間のコンダクタンスG3-5を測定する。そして、端子3,6への書込電圧Write1,Write2の印加および端子3への読取電圧Readの印加を繰り返し実行する。
【0185】
図32および
図33は、それぞれ、ベルの音に対応する電圧V
1、餌に対応する電圧V
4および反応の有無に対応するコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す第1および第2の図である。
【0186】
図32および
図33において、縦棒VBr1は、初期化プロセスを表し、縦棒VBr2は、端子3への電圧印加(ベルの音)後の端子3-5間のコンダクタンスG
3-5の値を表し、縦棒VBr3は、端子3への電圧印加(ベルの音)と端子6への電圧印加(餌)とを同時に行った後の端子3-5間のコンダクタンスG
3-5の値を表す。
【0187】
図32を参照して、初期化プロセスにおいてコンダクタンスG
3-5の値を0.6mSに初期化(
図32の“I”参照)した後、端子3への電圧印加(V
1印加(ベルの音))を9回行ったとき、コンダクタンスG
3-5に顕著な変化は見られなかった。
【0188】
次に、書込電圧Write1の端子3への印加と、書込電圧Write2の端子6への印加とを同時に行うと、コンダクタンスG
3-5は、わずかに上昇した。同様の工程を繰り返し行うと、3周期目に、書込電圧Write1の端子3への印加と、書込電圧Write2の端子6への印加とを同時に行ったとき、コンダクタンスG
3-5が大きく上昇するのが観測された(
図32の“II”参照)。その後、書込電圧Write1の端子3への印加のみを行った場合においても、コンダクタンスG
3-5は、高い値を示した。
【0189】
この結果は、ベルの音のみでは、唾液分泌反応を示さなかった犬が、ベルの音と餌を連合させることにより、ベルの音のみで唾液分泌反応を行うように学習したことと等価とみなすことができる。そして、このコンダクタンスG3-5の増加は、端子3および端子6に同時に電位を与えたことによって端子3,6間に大きな電位差が生じた結果、端子6周辺のドーパント(酸素空孔)が端子3周辺へドリフトしたためであると考えられる。
【0190】
その後、再度、初期化プロセスを行うことにより、コンダクタンスG
3-5を0.6mSに戻すことに成功した(
図32の“III”参照)。
【0191】
更に、パルス数が80までの範囲において、
図32に示す電圧印加プロトコルに従って電圧V
1,V
4の印加を繰り返すことによって同様のコンダクタンスの変化特性を得ることに成功した。
【0192】
図33を参照して、パルス数が80~200の範囲においては、書込電圧Write1(=V
1)の振幅を-6.5~0Vの範囲に設定し、書込電圧Write2(=V
4)の振幅を0~6.5Vの範囲に設定した。
【0193】
初期化プロセスにおいてコンダクタンスG
3-5の値を0.6mSに初期化(
図33の“IV”参照)した後、端子3への電圧印加(V
1印加(ベルの音))を9回行うことと、書込電圧Write1の端子3への印加と書込電圧Write2の端子6への印加とを同時に行うことと、端子3への電圧印加(V
1印加(ベルの音))を9回行うことと、書込電圧Write1の端子3への印加と書込電圧Write2の端子6への印加とを同時に行うことと、端子3への電圧印加(V
1印加(ベルの音))を9回行うこととを実行して結果、
図32に示す場合と同じ結果が得られた。そして、3周期目に、書込電圧Write1の端子3への印加と、書込電圧Write2の端子6への印加とを同時に行ったとき、コンダクタンスG
3-5が大きく上昇するのが観測された(
図33の“V”参照)。その後、書込電圧Write1の端子3への印加のみを行った場合においても、コンダクタンスG
3-5は、高い値を示した。
【0194】
引き続いて、パルス数が120~160の範囲および160~200の範囲において、パルス数が80~120の範囲における電圧印加と同じ電圧印加を行った結果、パルス数が120~160の範囲および160~200の範囲において、パルス数が80~120の範囲におけると同様に、3周期目にコンダクタンスG3-5が大きく上昇するのが観測された。
【0195】
従って、書込電圧Write1(=V1)の振幅を-6.5~0Vの範囲に設定し、書込電圧Write2(=V4)の振幅を0~6.5Vの範囲に設定することによって、初回の条件付けと2回目以降(パルス数が120~200の範囲)の条件付けに必要なベル(V1の印加)および餌(V4の印加)の回数を同じにすることができる。
【0196】
【0197】
図34を参照して、初期化プロセスを行った後の光学顕微鏡像(初期化1)により、端子5,6の先端に濃い着色領域が形成されていることがわかる((a)参照)。
【0198】
その後、30パルス目における高コンダクタンス化後の光学顕微鏡像(学習1)により、端子3の先端に濃い着色領域が形成されていることがわかる((b)参照)。その結果、コンダクタンスG3-5が増加したと考えられる。
【0199】
引き続いて、初期化2→学習2を行ったときに同様の光学顕微鏡像の変化が得られることから((c),(d)参照)、この着色領域の移動が繰り返し行われることによって、高いコンダクタンス状態であるHCS(High Conductance State)と低いコンダクタンス状態であるLCS(Low Conductance State)とが切り替えられたと考えられる。
【0200】
図35を参照して、初期化プロセスにおいては、端子3,4に正の電圧が印加されるため、ドーパント(酸素空孔)は、端子5,6周辺へ移動する((a)参照)。その結果、コンダクタンスG
3-5が低くなると考えられる。
【0201】
また、学習においては、負の書込電圧Write1が端子3に印加され、正の書込電圧Write2が端子6に印加されるため、ドーパント(酸素空孔)は、端子3の周辺へ移動する((b)参照)。その結果、コンダクタンスG3-5が高くなると考えられる。
【0202】
[短期増強/長期増強]
図1および
図2に示すメモリスタ10に実装したシナプス特性として短期増強/長期増強について説明する。
【0203】
人間の記憶、忘却は、シナプスへの信号入力によって変化する結合強度によるとされており、この信号入力の頻度によって記憶の保持特性が変化する。
【0204】
図36は、結合強度と入力信号の頻度との関係を示す図である。
図36において、曲線k8は、結合強度と入力信号の頻度との関係を示す。
【0205】
図36を参照して、入力が低頻度であれば、増強された結合強度は、短期間しか保持されず、減衰する。これを短期増強STP(Short-Term Potentiation)と言う。一方、入力が高頻度であれば、増強された結合強度は、長期間保持される。これを長期増強LTP(Long-Term Potentiation)と言う。
【0206】
従来、STP/LTP特性を2端子メモリスタ素子で模倣する場合、減衰が素子に依存するため、素子を作製した後は、STP/LTP特性の変調を制御することができなかった。
【0207】
そこで、この発明の実施の形態においては、変調可能なSTP/LTP特性を模倣するために、4端子メモリスタの端子3に電圧V1を印加することを4端子メモリスタへの信号入力に対応させ、端子4,6に電圧V4,6を印加することを忘却に対応させる。つまり、電圧V1によってコンダクタンスG3-5を増強し、電圧V4,6によってコンダクタンスG3-5を減衰する。
【0208】
図37は、初期化、増強および減衰に対応するドーパント(酸素空孔)の分布を示す概念図である。
【0209】
図37を参照して、初期化として、端子5を接地した状態で端子3に±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧からなる電圧V
1を複数回印加することでドーパント(酸素空孔)を端子3の周辺に集積させる((a)参照)。この場合、初期化後のコンダクタンスG
3-5は、例えば、600μSである。
【0210】
次に、増強として、端子5を接地した状態で端子3に正の電圧V1を印加することでコンダクタンスG3-5を増加させる((b)参照)。この場合、正の電圧V1は、例えば、18Vである。引き続いて、減衰として、端子5を接地した状態で端子4,6に負の電圧V4,6を印加することでコンダクタンスG3-5を減少させる((c)参照)。この場合、負の電圧V4,6は、例えば、-8V,-8.5V,-9Vである。そして、増強の頻度を変化させることによってSTP/LTP特性の制御を行う。
【0211】
図38は、コンダクタンスG
3-5のV
1入力頻度依存性を示す図である。
図38の(a),(b),(c)において、上段は、V
1入力を示し、下段は、コンダクタンスG
3-5の推移を示す。また、
図38の(a),(b),(c)において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5を表し、横軸は、パルス数を表す。更に、(a)は、V
1=18V、V
4,6=-9VであるときのコンダクタンスG
3-5のV
1入力頻度依存性を示し、(b)は、V
1=18V、V
4,6=-8.5VであるときのコンダクタンスG
3-5のV
1入力頻度依存性を示し、(c)は、V
1=18V、V
4,6=-8VであるときのコンダクタンスG
3-5のV
1入力頻度依存性を示す。
【0212】
図38の(a)を参照して、パルス数の領域REG1において、V
1が2回入力され、パルス数の領域REG2において、V
1が10回入力される。そして、領域REG2において、V
1が10回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰は、領域REG1において、V
1が2回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰よりも小さい。
【0213】
図38の(b)を参照して、パルス数の領域REG3において、V
1が2回入力され、パルス数の領域REG4において、V
1が10回入力される。そして、領域REG4において、V
1が10回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰は、領域REG3において、V
1が2回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰よりも小さい。
【0214】
図38の(c)を参照して、パルス数の領域REG5において、V
1が2回入力され、パルス数の領域REG6において、V
1が10回入力される。そして、領域REG6において、V
1が10回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰は、領域REG5において、V
1が2回入力された後のコンダクタンスG
3-5の減衰よりも小さい。
【0215】
このように、V1入力の頻度が多くなると、コンダクタンスG3-5の減衰が小さくなるので、V1が10回入力されることによって増強された結合強度の保持期間が、V1が2回入力されることによって増強された結合強度の保持期間よりも長くなる。
【0216】
従って、メモリスタ10-2において、短期増強STP/長期増強LTPが発現することを確認できた。
【0217】
図39は、最大コンダクタンスから10%減衰するのに必要な減衰パルス数とゲート電圧(V
4,6)との関係を示す図である。
図39において、縦軸は、減衰パルス数を表し、横軸は、ゲート電圧(V
4,6)を表す。なお、短期増強/長期増強をメモリスタ10-2に実装する実験においては、最大コンダクタンスから20%減衰することは無かったので、最大コンダクタンスから10%減衰するのに必要な減衰パルス数を示している。
【0218】
図39を参照して、入力頻度(V
1の印加頻度)によってコンダクタンスG
3-5の減衰に必要なパルス数が大きく変化していることが分かった。また、ゲート電圧(V
4,6)の絶対値が小さくなると、コンダクタンスG
3-5を減衰させるパルス数が増加することが分かった。その結果、ゲート電圧(V
4,6)によって保持特性を変調できることが示された。
【0219】
従って、メモリスタ10-2にSTP/LTP特性を実装し、またゲート電圧(V4,6)によるSTP/LTP特性の変調に成功した。
【0220】
[シナプスの鋭敏化と馴化]
図1および
図2に示すメモリスタ10に実装したシナプス特性としてシナプスの鋭敏化と馴化について説明する。
【0221】
図40は、シナプスの鋭敏化と馴化における電圧印加プロトコルを示す図である。
図40を参照して、次の工程(xxi)~(xxv)を説明する。
(xxi)端子3,5を接地した状態で端子4-6間に12Vの振幅および50sの振幅幅を有するパルス電圧をゲート電圧(V
gate)として印加する。
(xxii)工程(xxi)の後、初期化プロセスにおいて、端子5を接地した状態で端子3に±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧を複数回印加することによってコンダクタンスG
3-5を1.6mSに設定する。
(xxiii)工程(xxii)の後、Depressionプロセスにおいて、端子5を接地した状態で13Vの振幅および300msの振幅幅を有するパルス電圧を端子3に印加すると共にV
gateの振幅および300msの振幅幅を有するパルス電圧をゲート電極(端子4,6)に印加することをコンダクタンスG
3-5が1.0mSに到達するまで繰り返し行う。なお、V
gateは、印加しない(n/a),2V,4V,5V,6V,7V,8V,9V,10V,12V,13Vに変化された。
(xxiv)工程(xxiii)の後、Potentiationプロセスにおいて、端子5を接地した状態で-13Vの振幅および300msの振幅幅を有するパルス電圧を端子3に印加することをコンダクタンスG
3-5が1.6mSに到達するまで繰り返し行う。
(xxv)工程(xxiv)の後、DepressionプロセスおよびPotentiationプロセスを繰り返し実行する。
【0222】
なお、各パルス電圧印加の間に、コンダクタンスG3-5を測定するためのパルス電圧(振幅:100mV、振幅幅:2ms)を読出電圧Readとして印加する。
【0223】
図41は、コンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す図である。
図41において、(a)は、ゲート電圧V
gateが印加されていないときのコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示し、(b)は、ゲート電圧V
gate=2VであるときのコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示し、(c)は、ゲート電圧V
gate=7VであるときのコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示し、(d)は、ゲート電圧V
gate=13VであるときのコンダクタンスG
3-5とパルス数との関係を示す。また、
図41の(a),(b),(c),(d)において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5を表し、横軸は、パルス数を表す。
【0224】
図41を参照して、
図40に示す電圧印加プロトコルに従ってPotentiation(高コンダクタンス化)およびDepression(低コンダクタンス化)を多数回繰り返すことが可能であることを確認できた(
図41の(a)~(d)参照)。また、ゲート電圧V
gateが印加された場合、全てのゲート電圧V
gateにおいて、総パルスの印加回数は、2000回を超えている。更に、ゲート電圧V
gateの値によってPotentiation(高コンダクタンス化)およびDepression(低コンダクタンス化)に必要なパルス数が変化していることが分かる(
図41の(b)~(d)参照)。
【0225】
図42は、Depression(低コンダクタンス化)およびPotentiation(高コンダクタンス化)に要求される平均パルス数のゲート電圧依存性を示す図である。
【0226】
図42において、(a)は、Depression(低コンダクタンス化)に要求される平均パルス数のゲート電圧依存性を示し、(b)は、Potentiation(高コンダクタンス化)に要求される平均パルス数のゲート電圧依存性を示す。また、
図42の(a),(b)において、縦軸は、要求パルスの平均数を表し、横軸は、ゲート電圧V
gateを表す。
【0227】
図42の(a)を参照して、Depression(低コンダクタンス化)プロセスでは、要求パルスの平均数は、ゲート電圧V
gate=7Vを境にして異なる傾向を示すことが分かる。ゲート電圧V
gateが7V以下では、要求パルスの平均数は、ゲート電圧V
gateの値の上昇に伴って概ね上昇する傾向があるが、ゲート電圧V
gateが7V以上では、要求パルスの平均数は、ゲート電圧V
gateの値の上昇に伴って減少する。
【0228】
一方、Potentiation(高コンダクタンス化)プロセスでは、ゲート電圧Vgate=n/aを除けば、要求パルスの平均数は、概ね、100~150の間に収まっており、一定とみなすことができる。
【0229】
図43は、ドーパント(酸素空孔)の分布とゲート電圧との関係を示す概念図である。
図43の(a)は、ゲート電圧V
gateが印加されていない場合(n/a)のドーパント(酸素空孔)の分布を示し、(b)は、ゲート電圧V
gateがほぼ接地電圧であるときのドーパント(酸素空孔)の分布を示し、(c)は、ゲート電圧V
gateがほぼV
1/2であるときのドーパント(酸素空孔)の分布を示し、(d)は、ゲート電圧V
gateがほぼV
1であるときのドーパント(酸素空孔)の分布を示す。
【0230】
Depression(低コンダクタンス化)に必要なパルス数がゲート電圧印加の有無、およびゲート電圧V
gateの大きさにより変調される理由について考察する。Depression(低コンダクタンス化)特性は、V
gate=n/a、V
gate≒GND、V
gate≒V
1/2、およびV
gate≒V
1の大きく4つのグループに分類でき、それぞれ素子中の異なる領域でドーパント(酸素空孔)の分布が変化するため、異なる特性を有すると推測できる。まず、V
gate=n/aである場合では、端子3周辺のドーパント(酸素空孔)が電圧印加により端子5周辺へとドリフトするため、端子3-5間に低コンダクタンス領域が生じる結果、コンダクタンスG
3-5は減少する(
図43の(a)参照)。次にV
gate≒GNDである場合、端子3-5間と比較して、端子3-4間および端子3-6間の方が大きな電界分布が生じることが推測できるため、コンダクタンスG
3-5の変化への寄与が大きいと予想できる。端子3周辺のドーパント(酸素空孔)が端子4,6付近へとドリフトすることで、端子3周辺に低コンダクタンス領域が形成される結果、コンダクタンスG
3-5は減少すると考えられる(
図43の(b)参照)。
【0231】
一方、V
gate≒V
1/2である場合、(b)と比較して緩やかな電位勾配が各電極間に生じると考えられる。各Depressionのパルス電圧を印加した際のドーパント(酸素空孔)のドリフト量が少ないため、(b)と比較してDepressionプロセスに要するパルス数が増加したと推測できる(
図43の(c)参照)。最後に、V
gate≒V
1である場合、端子4-5間および端子5-6間のドーパント(酸素空孔)の分布変化がコンダクタンスG
3-5の変化に大きく寄与すると考えられる。(c)と比較して、端子4-5間および端子5-6間で大きな電界分布が生じ、その領域における1パルス辺りのドーパント(酸素空孔)のドリフト量が多いため、Depressionプロセスに必要なパルス数が少ないと考えることができる(
図43の(d)参照)。
【0232】
図44は、実施の形態1による別のメモリスタの概略図である。
図44を参照して、メモリスタ10-3は、基板11と、酸化物半導体層12と、端子13とを備える。基板11は、ガラス11-1とITO(Indium Tin Oxide)11-2とからなる。ITO11-2は、ガラス11-1の表面に形成される。そして、ITO11-2の膜厚は、例えば、140nmである。
【0233】
酸化物半導体層12は、基板11のITO11-2の表面に接してITO11-2上に配置される。そして、酸化物半導体層12は、a-GaOyからなる。a-GaOyの膜厚は、例えば、200nmである。端子13は、酸化物半導体層12の表面に接して酸化物半導体層12上に配置される。端子13は、Ptからなる。Ptの膜厚は、例えば、100nmである。
【0234】
このように、メモリスタ10-3は、酸化物半導体層12(a-GaOy)および端子13(Pt)を基板11上に順次堆積した構造からなり、基板11のITO11-2と端子13(Pt)とに電圧を印加して動作させるので、キャパシタ型の2端子メモリスタである。
【0235】
メモリスタ10-3は、ガラスの表面にITOが形成された基板11を有機溶媒によって洗浄し、その洗浄した基板11のITOの表面に、酸化ガリウムをターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によってa-GaOyを形成する。この場合、レーザ光源には、波長266nmのYAGレーザの第4次高調波が使用される。また、Arガスが用いられ、Arガスの分圧が4.0×10-1PaになるようにArガスがパルスレーザ蒸着法の装置内に供給され、基板温度は、室温である。
【0236】
a-GaOyを形成した後、100nmのPtを蒸着法によって酸化物半導体層2(a-GaOy)上に堆積し、端子13を形成する。これによって、メモリスタ10-3が作製される。
【0237】
図45は、a-GaO
yの成膜前後におけるRHEEDパターンを示す図である。
図45において、(a)は、a-GaO
yの成膜前のRHEEDパターンを示し、(b)は、a-GaO
yの成膜後のRHEEDパターンを示す。
【0238】
図45を参照して、a-GaO
yの成膜前後におけるRHEEDパターンは、ハロー状であるので、酸化ガリウムがアモルファス構造を有することを確認した。
【0239】
図46は、メモリスタ10-3における電流と電圧との関係を示す図である。
図46において、縦軸は、電流を表し、横軸は、電圧を表す。また、曲線k9~k13は、それぞれ、電圧を-1.75V~+1.75Vの間で掃引するときの1サイクル目の電流-電圧特性、2サイクル目の電流-電圧特性、3サイクル目の電流-電圧特性、4サイクル目の電流-電圧特性および5サイクル目の電流-電圧特性を示す。
【0240】
電圧の掃引は、挿入図に示すように、電圧が三角形状に変化するように4V/sの掃引速度で行われた。
【0241】
図46を参照して、電圧を0V→+1.75V→0V→-1.75V→0Vの順序で掃引することによって、1サイクル目~5サイクル目の全てにおいて、電流は、ヒステリシスな電圧依存性を示す。従って、メモリスタ10-3がメモリスタ動作を示すことが確認された。
【0242】
図47は、
図46に示す電流-電圧特性において電流の絶対値と電圧との関係を示す図である。
図47において、縦軸は、対数表記による電流を表し、横軸は、電圧を表す。また、曲線k9~k13については、
図46において説明した通りである。
【0243】
図47を参照して、0.1Vの測定電圧において、8.96倍の抵抗比を得ることができた。これは、酸素雰囲気下に代えてAr雰囲気下でa-GaO
yを成膜することによってドーパント(酸素空孔)の量が増大したためであると考えられる。
【0244】
メモリスタ10-3におけるSTDP特性について説明する。
図48は、スパイク電圧および電圧印加プロトコルを示す図である。
【0245】
0.75Vの振幅および25msの振幅幅(=周期50ms)を有する方形波からなるPre-spikeと、0.75Vの振幅および25msの振幅幅(=周期50ms)を有する方形波からなるPost-spikeとに基づいて、Pre-spikeの立ち上がりタイミングとPost-spikeの立ち上がりタイミングとの差Δtを所定の値に設定してPre-spikeの電圧値からPost-spikeの電圧値を減算してスパイク電圧Spikeを生成する。
【0246】
そして、メモリスタ10-3のITOを接地した状態でスパイク電圧Spike(=(Pre-spike)-(Post-spike))をPtに印加する。
【0247】
電圧印加プロトコルは、次の通りである。
(xxxi)直前の実験の影響を排除するために、まず、上述した方法によってコンダクタンスG3-5を初期化する。
(xxxii)工程(xxxi)の後、1Vの振幅および25msの振幅幅を有するパルス波形からなる読出電圧Readを印加してコンダクタンスG3-5を測定する。
(xxxiii)工程(xxxii)の後、ITOを接地した状態でスパイク電圧Spike(=(Pre-spike)-(Post-spike))をPtに印加し、その後、読出電圧Readを印加してコンダクタンスG3-5を測定する。
(xxxiv)工程(xxxiii)の後、工程(xxxi)~(xxxiii)を繰り返し実行する。
(xxxv)工程(xxxiv)の後、スパイク電圧Spikeの印加前後におけるコンダクタンスG3-5を式(1)に代入してコンダクタンスG3-5の変化量Δwを算出する。
(xxxvi)工程(xxxv)の後、Δtを変えながら工程(xxxi)~(xxxv)を繰り返し実行する。
【0248】
図49は、コンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図49を参照して、STDP特性は、主に、スパイクタイミングのずれ量Δtの正負によって結合強度変化の正負も決まる非対称STDP(Asymmetric STDP)特性と、Δtの絶対値によって結合強度変化が定まる対称STDP(Symmetric STDP)特性とに分類される。
【0249】
図50は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwの測定結果を示す図である。
図51は、印加されるスパイク電圧とドーパント(酸素空孔)の分布とを示す図である。
図50において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
【0250】
図50を参照して、Δtが正である場合、コンダクタンスG
3-5が大きくなり、その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが正になる。一方、Δtが負である場合、コンダクタンスG
3-5が小さくなり、その結果、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwが負になる。
【0251】
これは、次の理由による。Δtが負である場合、
図51の(a)に示すスパイク電圧がPtに印加される。その結果、正の電圧の振幅が最も大きくなるので、ドーパント(酸素空孔)がITO側に引き寄せられ(
図51の(c)参照)、コンダクタンスG
3-5が減少するからである。一方、Δtが正である場合、
図51の(b)に示すスパイク電圧がPtに印加される。その結果、負の電圧の振幅が最も大きくなるので、ドーパント(酸素空孔)がa-GaO
y全体に分布し(
図51の(d)参照)、コンダクタンスG
3-5が増加するからである。
【0252】
このように、メモリスタ10-3においては、酸化物半導体層(a-GaOy)の膜厚方向に平行な平面内におけるドーパント(酸素空孔)の分布が端子(Pt)に印加される電圧によって制御されるので、メモリスタ10-3の端子(Pt)は、ドーパント(酸素空孔)の分布を2次元分布に制御する端子である。
【0253】
図52は、別のPre-spikeおよびPost-spikeを示す図である。
図53は、
図52に示すPre-spikeおよびPost-spikeから生成されたスパイク電圧を印加したときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図53において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
【0254】
図52を参照して、1Vの振幅と50msの時間長とを有する鋸波と、-1Vの振幅と5msの時間長とを有する方形波とを組み合わせた波形をPre-spikeおよびPost-spikeとして用いた。そして、Pre-spikeの電圧値からPost-spikeの電圧値を減算してスパイク電圧を生成した。また、Pre-spikeの波形とPost-spikeの波形とが一致するタイミングをΔt=0とした。
【0255】
図53を参照して、Δtが正である場合およびΔtが負である場合の両方において、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwの絶対値は、Δtの絶対値が小さくなるに伴って大きくなる。つまり、結合強度変化は、Δtの絶対値が小さくなるに伴って大きくなる。従って、より生体シナプスに近い特性をメモリスタ10-3に実装することができた。
【0256】
図54は、更に別のPre-spikeおよびPost-spikeを示す図である。
図55は、
図54に示すPre-spikeおよびPost-spikeから生成されたスパイク電圧を印加したときのコンダクタンスG
3-5の変化量ΔwとΔtとの関係を示す図である。
図55において、縦軸は、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwを表し、横軸は、Δtを表す。
【0257】
図54を参照して、-0.75Vの振幅および5msの振幅幅を有する方形波をPre-spikeとして用い、0.75Vの最大振幅および100msの時間長を有する鋸波をPost-spikeとして用いた。そして、Pre-spikeの電圧値からPost-spikeの電圧値を減算してスパイク電圧を生成した。また、Pre-spikeの立ち下がりタイミングがPost-spikeの最大振幅に一致するタイミングをΔt=0とした。
【0258】
図55を参照して、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtが負であるとき、Δtが大きくなるに伴って大きくなり、Δtが正であるとき、Δtが大きくなるに伴って小さくなる。そして、コンダクタンスG
3-5の変化量Δwは、Δtの変化に伴ってΔt=0の線に対して左右対称に変化する。従って、Δtの絶対値によって結合強度変化が定まる対称STDP(Symmetric STDP)特性の実装に成功した。
【0259】
図56は、メモリスタのアプリケーションの例を示す概念図である。
図56の(a)を参照して、制御回路とメモリスタ10とを組み込んだ半導体素子SDを作製することによって、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」、「パブロフ型条件付け」、「短期増強/長期増強」および「シナプスの鋭敏化と馴化」を1つの半導体素子で実現できる。この場合、制御回路は、「スパイクタイミング依存可塑性」、「パブロフ型条件付け」、「短期増強/長期増強」および「シナプスの鋭敏化と馴化」のいずれかを実行するための信号を外部から受け、その受けた信号に応じて、「スパイクタイミング依存可塑性」、「パブロフ型条件付け」、「短期増強/長期増強」および「シナプスの鋭敏化と馴化」において説明した電圧印加プロトコルのいずれかをメモリスタ10に対して実行する。そして、メモリスタ10は、制御回路による電圧制御に従って、「スパイクタイミング依存可塑性」、「パブロフ型条件付け」、「短期増強/長期増強」および「シナプスの鋭敏化と馴化」のいずれかを示す特性を出力する。
【0260】
その結果、半導体素子SDにおいては、制御回路がメモリスタ10に印加する電圧を制御するだけであるので、制御回路とメモリスタ10との間で処理速度を律速することがない。
【0261】
また、メモリスタ10は、電圧が印加されると、その印加された電圧に応じてドーパント(酸素空孔)が移動し、その移動したドーパント(酸素空孔)の分布を記憶する。
【0262】
従って、半導体素子SDを用いることによってロジックインメモリ型コンピュータとして機能する。
【0263】
一方、
図56の(b)に示すように、フォン・ノイマン型コンピュータは、CPU(演算装置および制御装置として機能する)と主記憶装置との間の伝送路を通じて命令やデータを運んでおり、その速度が性能の律速となるボトルネックになり易いフォンノイマンボトルネックがある。その結果、出力の速度が遅くなる。
【0264】
図56の(a)に示す半導体素子SDが「スパイクタイミング依存可塑性」、「パブロフ型条件付け」、「短期増強/長期増強」および「シナプスの鋭敏化と馴化」のいずれかを実行するときの動作について説明する。
【0265】
メモリスタ10においては、端子3は、酸化物半導体層2の面内方向に平行な方向(第1の方向)において酸化物半導体層2の第1の端部に配置され、端子5は、第1の方向において第1の端部に対向する酸化物半導体層2の第2の端部に配置される。また、端子4は、酸化物半導体層2の面内方向であり、かつ、第1の方向と異なる第2の方向において酸化物半導体層2の第3の端部に配置され、端子6は、第2の方向において第3の端部に対向する酸化物半導体層2の第4の端部に配置される。そして、メモリスタ10における端子3を第1の端子とし、メモリスタ10における端子5を第2の端子とし、メモリスタ10における端子4を第3の端子とし、メモリスタ10における端子6を第4の端子とする。
【0266】
制御回路は、第1の電圧制御、第2の電圧制御、第3の電圧制御および第4の電圧制御のいずれかをメモリスタ10に対して実行する。そして、第1の電圧制御は、スパイクタイミング依存可塑性をメモリスタ10に実装するための電圧制御である。第2の電圧制御は、パブロフ型条件付けをメモリスタ10に実装するための電圧制御である。第3の電圧制御は、入力によって増強された結合強度が第1の期間しか保持せずに減衰する短期増強と、増強された結合強度が第1の期間よりも長期間保持される長期増強とをメモリスタ10に実装するための電圧制御である。第4の電圧制御は、酸化物半導体層2の低コンダクタンス化と高コンダクタンス化とをメモリスタ10に実装するための電圧制御である。
【0267】
以下、第1の電圧制御、第2の電圧制御、第3の電圧制御および第4の電圧制御について説明する。
【0268】
[スパイクタイミング依存可塑性]
半導体素子SDが「スパイクタイミング依存可塑性」を実行する場合、制御回路は、第1の電圧制御において、次のステップS1~ステップS7を実行する。
(S1)第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)にパルス電圧を印加して第1の端子(端子3)と第2の端子(端子5)との間における酸化物半導体層2のコンダクタンスG3-5を初期化する。このステップS1は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(i)~工程(iv)によって構成される。
(S2)ステップS1の後、酸化物半導体層2のコンダクタンスG3-5を読み取るための読取電圧Readを第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加する。このステップS2は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(v)に記載された「V1スパイクV1-spikeの印加前後に端子5を接地した状態で読出電圧Readを端子3に印加し、V1スパイクV1-spike(Spike1)の印加前後におけるコンダクタンスG3-5を測定し」の記載によって構成される。
(S3)ステップS2の後、方形波からなる第1のパルス電圧の電圧値から、方形波からなり、かつ、立ち上がりタイミングが第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第1のスパイク電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)にする。このステップS3は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(v)における「端子5を接地した状態でV1スパイクV1-spikeを端子3に印加する。」の記載によって構成される。そして、V1スパイクV1-spikeは、「第1のスパイク電圧」を構成し、V1スパイクV1-spikeを生成する元になったPre-spikeおよびPost-spikeは、それぞれ、「第1のパルス電圧」および「第2のパルス電圧」を構成する。
(S4)ステップS3の後、読取電圧Readを第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加する。このステップS4は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(v)に記載された「V1スパイクV1-spikeの印加前後に端子5を接地した状態で読出電圧Readを端子3に印加し、V1スパイクV1-spike(Spike1)の印加前後におけるコンダクタンスG3-5を測定し」の記載によって構成される。
(S5)ステップS4の後、ステップS1を実行する。このステップS5は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(vi)によって構成される。
(S6)ステップS5の後、第2の端子(端子5)を接地した状態で第1のスパイク電圧を第1の端子(端子3)に印加するとともに、方形波からなり、かつ、第1のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧の電圧値から第2のパルス電圧の電圧値を減算した減算結果からなる第2のスパイク電圧を第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に印加し、または第2のスパイク電圧を第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に印加しない。
【0269】
このステップS6は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(vii)の「端子5を接地した状態でV
1スパイクV
1-spike(Spike1)を端子3に印加するとともにV
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)を端子4,6に印加する。」の記載によって構成される。V
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)は、Gate-spikeからPost-spikeを減算して生成される(
図23の(b)参照)。そして、V
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)は、印加され、または印加されない(
図26参照)。その結果、Gate-spikeは、「第3のパルス電圧」を構成し、V
gateスパイクV
gate-spike(Spike1’)は、「第2のスパイク電圧」を構成する。
(S7)ステップS6の後、第1のパルス電圧の立ち上がりタイミングと第2のパルス電圧の立ち上がりタイミングとの差を変化させながら第1のステップS1から第6のステップS6を1回以上繰り返し実行する。このステップS7は、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(viii)によって構成される。
【0270】
制御回路は、ステップS1において、
第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に読取電圧Readを印加する第1のサブステップと、
第1のサブステップの後、第4のパルス電圧を第1の端子(端子3)および第2の端子(端子5)を接地した状態で第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に印加する第2のサブステップと、
第2のサブステップの後、第1のサブステップを実行する第3のサブステップと、
第3のサブステップの後、第5のパルス電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加する第4のサブステップと
を実行する。
【0271】
第1のサブステップ、第2のサブステップ、第3のサブステップおよび第4のサブステップは、それぞれ、上述した「スパイクタイミング依存可塑性」における工程(i),(ii),(iii),(iv)によって構成される。また、第4のパルス電圧は、
図24に示す12Vの振幅および50sの振幅幅を有するパルス電圧によって構成される。更に、第5のパルス電圧は、工程(iv)における「種々のパルス電圧」によって構成される。
【0272】
また、制御回路は、ステップS7において、ステップS6における第2のスパイク電圧の振幅を大きくしながら第1のステップS1から第6のステップS6を1回以上繰り返し実行する。これは、
図26において、V
gateスパイクV
gate-spikeの振幅が1V~7Vに変化されることによって構成される。
【0273】
[パブロフ型条件付け]
半導体素子SDが「パブロフ型条件付け」を実行する場合、制御回路は、第2の電圧制御において、次のステップS1~S5を実行する。
(S1)第1の端子(端子3)および第2の端子(端子5)に正の電圧を印加して初期化する。このステップS1は、上述した[パブロフ型条件付け]における工程(xi)によって構成される。
(S2)ステップS1の後、第1の端子(端子3)に第1の書込電圧を印加することを複数回実行する。このステップS2は、上述した[パブロフ型条件付け]における工程(xiii)によって構成される。そして、-9Vの振幅および100msの振幅幅を有する書込電圧Write1は、「第1の書込電圧」を構成する。
(S3)ステップS2の後、第1の書込電圧を第1の端子(端子3)に印加すると共に第1の書込電圧と異なる第2の書込電圧を第4の端子(端子6)に印加する。このステップS3は、上述した[パブロフ型条件付け]における工程(xiv)によって構成される。そして、9Vの振幅および100msの振幅幅を有する書込電圧Write2は、「第2の書込電圧」を構成する。
【0274】
[短期増強/長期増強]
半導体素子SDが「短期増強/長期増強」を実行する場合、制御回路は、第3の電圧制御において、次のステップS1~S3を実行する。
(S1)±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧からなる電圧V1を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に複数回印加する。このステップS1は、上述した「短期増強/長期増強」における「初期化として、端子5を接地した状態で端子3に±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧からなる電圧V1を複数回印加することでドーパント(酸素空孔)を端子3の周辺に集積させる」の記載によって構成される。そして、電圧V1は、「第1のパルス電圧」を構成する。
(S2)ステップS1の後、正の電圧値からなる第1の電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加する。このステップS2は、上述した「短期増強/長期増強」における「増強として、端子5を接地した状態で端子3に正の電圧V1を印加することでコンダクタンスG3-5を増加させる」の記載によって構成される。そして、は、正の電圧V1は、「第1の電圧」を構成する。
(S3)ステップS2の後、負の電圧からなる第2の電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に印加する。このステップS3は、上述した「短期増強/長期増強」における「減衰として、端子5を接地した状態で端子4,6に負の電圧V4,6を印加することでコンダクタンスG3-5を減少させる」の記載によって構成される。そして、負の電圧V4,6は、「第2の電圧」を構成する。
【0275】
そして、制御回路は、ステップS2において、第1の電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加することを第1の頻度と第1の頻度よりも大きい第2の頻度で実行する。これは、
図38の領域REG1,REG3,REG5において電圧V
1を2回の頻度で印加し、
図38の領域REG2,REG4,REG6において電圧V
1を10回の頻度で印加していることによってサポートされている。
【0276】
[シナプスの鋭敏化と馴化]
半導体素子SDが「短期増強/長期増強」を実行する場合、制御回路は、第4の電圧制御において、次のステップS1~S5を実行する。
(S1)第1の端子(端子3)および第2の端子(端子5)を接地した状態で第3の端子(端子2)と第4の端子(端子6)との間に第1のパルス電圧を印加する。このステップS1は、上述した「シナプスの鋭敏化と馴化」における工程(xxi)によって構成される。そして、12Vの振幅および50sの振幅幅を有するパルス電圧は、「第1のパルス電圧」を構成する。
(S2)ステップS1の後、第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧を複数回印加して酸化物半導体層のコンダクタンスを第1の値に設定する。このステップS2は、上述した「シナプスの鋭敏化と馴化」における工程(xxii)によって構成される。そして、±1~20Vの範囲の振幅および0.1~10sの範囲の振幅幅を有するパルス電圧は、第1のパルス電圧と異なる「第2のパルス電圧」を構成する。また、例えば、1.6mSのコンダクタンスG3-5は、「第1の値」を構成する。
(S3)ステップS2の後、酸化物半導体層のコンダクタンスが第1の値よりも小さい第2の値になるまで、第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に第1のパルス電圧と異なる第2のパルス電圧を印加するとともに、第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に第1および第2のパルス電圧と異なる第3のパルス電圧を印加し、または第3の端子(端子4)および第4の端子(端子6)に第3のパルス電圧を印加しないことを繰り返し実行する。
【0277】
このステップS3は、上述した「シナプスの鋭敏化と馴化」における工程(xxiii)によって構成される。そして、13Vの振幅および300msの振幅幅を有するパルス電圧は、「第2のパルス電圧」を構成し、V
gateの振幅および300msの振幅幅を有するパルス電圧は、「第3のパルス電圧」を構成し、例えば、1.0mSのコンダクタンスG
3-5は、「第2の値」を構成する。
(S4)ステップS3の後、酸化物半導体層のコンダクタンスが第1の値になるまで、第2のパルス電圧の振幅を反転させた第4のパルス電圧を第2の端子(端子5)を接地した状態で第1の端子(端子3)に印加することを繰り返し実行する。このステップS4は、上述した「シナプスの鋭敏化と馴化」における工程(xxiv)によって構成される。そして、
図40に示す“Potentiation”における「-13V 300msのパルス電圧」は、「第4のパルス電圧」を構成する。
(S5)ステップS4の後、ステップS3およびステップS4を繰り返し実行する。このステップS5は、上述した「シナプスの鋭敏化と馴化」における工程(xxv)によって構成される。
【0278】
上記においては、酸化物半導体層2が単結晶TiO2-xまたはa-GaOyからなるメモリスタ10について説明した。単結晶TiO2-xは、単結晶相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体であり、a-GaOyは、非晶質相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体である。
【0279】
従って、酸化物半導体層2は、単結晶相または非晶質相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体からなっていればよい。
【0280】
また、上記においては、メモリスタ10は、2個の端子(ITOおよびPt)または4個の端子3~6を備えると説明したが、実施の形態1においては、これに限らず、メモリスタ10は、3個の端子3~5を備えていてもよく、5個以上の端子を備えていてもよい。
【0281】
メモリスタ10が3個の端子3~5を備える場合、端子3,5を接地電位GNDに接続し、プラスの電圧(+V)またはマイナスの電圧(-V)を端子4に印加することによって端子3-4間および端子5-4間に電界が発生するので、
図4(b),(c)に示すように、酸化物半導体層2におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御できる。また、メモリスタ10が4個以上の端子3,4,5,6,・・・を備える場合、端子3,5を接地電位GNDに接続し、プラスの電圧(+V)またはマイナスの電圧(-V)を端子3,5以外の端子4,6,・・・に印加することによって端子3と端子3,5以外の端子4,6,・・・との間および端子5と端子3,5以外の端子4,6,・・・との間に電界が発生するので、
図4(b),(c)に示すように、酸化物半導体層2におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御できる。
【0282】
従って、一般的には、メモリスタ10は、2個以上の端子を備えていればよい。
【0283】
[実施の形態2]
図57は、実施の形態2によるメモリスタの平面図である。
図58は、
図57に示す線XXXXXVIII-XXXXXVIIIにおけるメモリスタの断面図である。
図57において、X-Y平面を規定する。
【0284】
図57および
図58を参照して、実施の形態2によるメモリスタ20は、基板21と、絶縁膜22と、端子23~26と、酸化物半導体層27とを備える。
【0285】
メモリスタ20は、例えば、正方形の平面形状を有する。絶縁膜22は、基板21に接して基板21上に配置される。端子23は、酸化物半導体層27に接して酸化物半導体層27上に配置される。また、端子23は、長さ方向がX軸方向と所定の角度を成すように配置される。端子24は、絶縁膜22および酸化物半導体層27に接して絶縁膜22と酸化物半導体層27との間に配置される。また、端子24は、長さ方向がX軸方向と所定の角度を成すとともに端子23と交差するように配置される。
【0286】
端子25は、酸化物半導体層27の厚み方向に平行な側面に接して酸化物半導体層27の面内方向における一方側に配置される。また、端子25は、長さ方向がY軸方向になるように配置される。そして、端子25は、絶縁層25-1、Pt25-2および絶縁層25-3を順次積層した積層構造からなる。絶縁層25-1の膜厚は、例えば、20nmであり、Pt25-2の膜厚は、例えば、40nmであり、絶縁層25-3の膜厚は、例えば、20nmである。絶縁層25-1および絶縁層25-3の材料は、SiOz(1.5≦z≦2)、またはドーパント(酸素空孔)密度が1015cm-3~1017cm-3である酸化物半導体からなる。
【0287】
端子26は、酸化物半導体層27の厚み方向に平行な側面に接して酸化物半導体層27の面内方向における他方側に配置される。また、端子26は、長さ方向がY軸方向になるように端子25と平行に配置される。そして、端子26は、絶縁層26-1、Pt26-2および絶縁層26-3を順次積層した積層構造からなる。絶縁層26-1の膜厚は、例えば、20nmであり、Pt26-2の膜厚は、例えば、40nmであり、絶縁層26-3の膜厚は、例えば、20nmである。絶縁層26-1および絶縁層26-3の材料は、SiOz(1.5≦z≦2)、またはドーパント(酸素空孔)密度が1015cm-3~1017cm-3である酸化物半導体からなる。
【0288】
端子23~26の各々は、幅Wを有する。幅Wは、例えば、50nm~5μmである。X軸方向における端子25と端子26との間隔は、Wであり、端子23と端子24とのなす角を60°とすれば、X軸方向における端子25の中心と端子26の中心との距離は、2Wである。
【0289】
酸化物半導体層27は、絶縁膜22および端子23~26に接して配置される。
【0290】
基板21は、単結晶シリコンからなる。酸化物半導体層27は、a-GaOyからなる。端子23は、例えば、膜厚が150nmであるPtからなる。端子24は、例えば、TiおよびPtを順次積層したTi/Ptの積層構造からなる。この場合、Tiの膜厚は、例えば、10nmであり、Ptの膜厚は、例えば、50nmである。端子25,26の各々は、例えば、膜厚が40nmであるPtからなる。
【0291】
【0292】
図59を参照して、メモリスタ20の製造が開始されると、単結晶シリコンを洗浄して基板21を準備する(工程(a))。洗浄方法は、有機溶媒による超音波洗浄である。
【0293】
そして、単結晶シリコンを熱酸化してSiO2からなる絶縁膜22を基板21上に形成する(工程(b))。なお、絶縁膜22は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって基板21上に形成されてもよい。この場合、材料として、例えば、SiH4ガスおよびN2Oが用いられる。
【0294】
工程(b)の後、レジストを絶縁膜22上に塗布し、その塗布したレジストをフォトリソグラフィーによってパターンニングしてレジストパターン12を絶縁膜22上に形成する(工程(c))。
【0295】
そして、レジストパターン12をマスクとしてスパッタリング、または電子ビームリソグラフィーによって絶縁膜22上にTiおよびPtを順次積層し、端子24を絶縁膜22上に形成する(工程(d))。この場合、TiおよびPtの積層物13がレジストパターン12上にも形成される。
【0296】
その後、レジストパターン12を除去する。この場合、積層物13は、リフトオフによって除去される。レジストパターン12の除去方法は、有機溶媒による溶解である。これによって、端子24が絶縁膜22上に形成される(工程(e))。
【0297】
図60を参照して、工程(e)の後、酸化ガリウムをターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によってa-GaO
y27-1を絶縁膜22および端子24上に形成する(工程(f))。パルスレーザ蒸着法における条件は、上述した通りである。
【0298】
そして、レジストをa-GaOy27-1上に塗布し、その塗布したレジストをフォトリソグラフィー、または電子ビームリソグラフィーによってパターンニングしてレジストパターン14をa-GaOy27-1上に形成する(工程(g))。
【0299】
その後、レジストパターン14をマスクとしてスパッタリングによってa-GaOy/Pt/a-GaOyをa-GaOy27-1上に順次積層して端子25,26をa-GaOy27-1上に形成する(工程(h))。この場合、a-GaOy/Pt/a-GaOyの積層物15がレジストパターン14上にも形成される。
【0300】
図61を参照して、上述した方法によってレジストパターン14を除去する。この場合、積層物15は、リフトオフによって除去される。その結果、端子25,26がa-GaO
y27-1上に形成される(工程(i))。
【0301】
そして、レジストをa-GaOy27-1上に塗布し、その塗布したレジストをフォトリソグラフィー、または電子ビームリソグラフィーによってパターンニングしてレジストパターン16をa-GaOy27-1上に形成する(工程(j))。
【0302】
その後、レジストパターン16をマスクとして、酸化ガリウムを用いたパルスレーザ蒸着法によってa-GaOy17をa-GaOy27-1および端子25,26上に形成する(工程(k))。この場合、パルスレーザ蒸着法における条件は、上述した通りである。そして、a-GaOy17の一部は、端子25,26上に形成されるが、端子25,26の最上部は、a-GaOyから成っているので、高品質なa-GaOy17を形成できる。また、a-GaOyがレジストパターン16上にも形成される。
【0303】
図62を参照して、上述した方法によってレジストパターン16を除去する。この場合、レジストパターン16上のa-GaO
yは、リフトオフによって除去される。その結果、a-GaO
y27-2がa-GaO
y27-1上に形成され、a-GaO
y27-1,27-2からなる酸化物半導体層27が形成される(工程l))。
【0304】
その後、レジストを酸化物半導体層27(a-GaOy27-1,27-2)上に塗布し、その塗布したレジストをフォトリソグラフィー、または電子ビームリソグラフィーによってパターンニングしてレジストパターン18を酸化物半導体層27(a-GaOy27-1,27-2)上に形成する(工程(m))。
【0305】
そして、レジストパターン18をマスクとしてスパッタリングによってPtを酸化物半導体層27(a-GaOy27-1,27-2)上に堆積して端子23を形成する(工程(n))。この場合、レジストパターン18上にも、Pt19が形成される。
【0306】
図63を参照して、工程(n)の後、上述した方法によって、レジストパターン18を除去する。この場合、レジストパターン18上に形成されたPt19は、リフトオフによって除去される。これによって、メモリスタ20が完成する(工程(q))。
【0307】
メモリスタ20は、膜厚方向における酸化物半導体層27の一方の表面に配置された端子23と、膜厚方向における酸化物半導体層27の他方の表面に配置された端子24と、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な一方の側面に配置された端子25と、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な他方の側面に配置された端子26とを備える。
【0308】
そして、端子23-24間および端子25-26間に印加される電圧を制御することによって酸化物半導体層27におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0309】
従って、メモリスタ20を用いて連合学習の機能を実現でき、生体系が有する高次機能を発揮することができる。
【0310】
また、メモリスタ20においては、4個の端子23~26のうち、2個の端子23,24の各々は、酸化物半導体層27の1つの表面に配置され、2個の端子25,26の各々は、酸化物半導体層27の1つの側面に配置される。
【0311】
その結果、基板21の面内方向においてメモリスタ20が占有する面積をメモリスタ10よりも小さくできる。従って、メモリスタ20を高密度に集積化できる。
【0312】
図64は、実施の形態2による別のメモリスタの平面図である。
図65は、
図64に示す線XXXXXXV-XXXXXXVにおけるメモリスタの断面図である。
【0313】
実施の形態2によるメモリスタは、
図64および
図65に示すメモリスタ20Aであってもよい。
【0314】
図64および
図65を参照して、メモリスタ20Aは、
図57および
図58に示すメモリスタ20の端子23,24をそれぞれ端子23A,24Aに変えたものであり、その他は、メモリスタ20と同じである。
【0315】
端子23Aは、T字の断面形状を有し、酸化物半導体層27に接して酸化物半導体層27上に配置される。端子23Aは、例えば、300nmの厚みを有する。端子23Aについてのその他の説明は、端子23についての説明と同じである。
【0316】
端子24Aは、絶縁膜22および酸化物半導体層27に接して絶縁膜22と酸化物半導体層27との間に配置される。端子24Aは、端子23Aの「T字」の縦棒部分の幅と同じ幅を有する。そして、端子24Aは、端子23Aの「T字」の縦棒部分に対向するように配置される。また、端子24Aは、幅W’を有する。幅W’は、例えば、50nm~500nmである。端子24Aについてのその他の説明は、端子24についての説明と同じである。
【0317】
メモリスタ20Aにおいては、端子23Aと酸化物半導体層27との接触面積および端子24Aと酸化物半導体層27との接触面積は、メモリスタ20における端子23と酸化物半導体層27との接触面積および端子24と酸化物半導体層27との接触面積よりも小さい。
【0318】
その結果、端子23A-24A間に印加される電界を閉じ込めることができ、より強い電界を端子23A-24A間に印加できる。
【0319】
メモリスタ20Aは、
図59から
図63に示す工程(a)~工程(q)に従って製造される。この場合、工程(c),(d)において、端子24Aを形成するとき、工程(c)において、レジストパターンが配置されていない領域の長さがレジストパターン12よりも短くなるようにレジストパターンを形成し、工程(d)において、その形成したレジストパターンを用いて端子24Aを形成する。
【0320】
また、工程(m),(n)において、端子23Aを形成するとき、工程(m)において、レジストパターンが配置されていない領域の断面形状がT字になるようにレジストパターンを形成し、工程(n)において、その形成したレジストパターンを用いて端子23Aを形成する。
【0321】
メモリスタ20Aは、膜厚方向における酸化物半導体層27の一方の表面に配置された端子23Aと、膜厚方向における酸化物半導体層27の他方の表面に配置された端子24Aと、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な一方の側面に配置された端子25と、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な他方の側面に配置された端子26とを備える。
【0322】
そして、端子23A-24A間および端子25-26間に印加される電圧を制御することによって酸化物半導体層27におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0323】
従って、メモリスタ20Aを用いて連合学習の機能を実現でき、生体系が有する高次機能を発揮することができる。
【0324】
図66は、実施の形態2による更に別のメモリスタの平面図である。
図67は、
図66に示す線XXXXXXVII-XXXXXXVIIにおけるメモリスタの断面図である。
【0325】
実施の形態2によるメモリスタは、
図66および
図67に示すメモリスタ20Bであってもよい。
【0326】
図66および
図67を参照して、メモリスタ20Bは、
図57および
図58に示すメモリスタ20に絶縁膜28,29を追加したものであり、その他は、メモリスタ20と同じである。
【0327】
絶縁膜28は、端子23および酸化物半導体層27に接して端子23と酸化物半導体層27との間に配置される。絶縁膜28は、貫通孔28-1を有する。そして、端子23は、絶縁膜28の貫通孔28-1を介して酸化物半導体層27に接する。貫通孔28-1の直径は、例えば、50nm~500nmである。その結果、貫通孔28-1は、メモリスタ20における端子23と酸化物半導体層27との接触面積よりも小さい面積を有する。絶縁膜28は、例えば、SiOz(1.5≦z≦2)からなり、例えば、20nmの膜厚を有する。
【0328】
絶縁膜29は、絶縁膜22および端子24に接して絶縁膜22および端子24上に配置される。絶縁膜29は、貫通孔29-1を有する。そして、端子24は、絶縁膜29の貫通孔29-1を介して酸化物半導体層27に接する。貫通孔29-1は、絶縁膜28の貫通孔28-1に対向するように配置される。貫通孔29-1の直径は、貫通孔28-1の直径と同じである。その結果、貫通孔29-1は、メモリスタ20における端子24と酸化物半導体層27との接触面積よりも小さい面積を有する。絶縁膜29は、例えば、SiOzからなり、例えば、20nmの膜厚を有する。絶縁膜29において、酸素の組成zは、絶縁膜28における酸素の組成zと同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、メモリスタ20Bにおいては、端子23は、100nmの膜厚を有する。
【0329】
【0330】
図68を参照して、メモリスタ20Bの製造が開始されると、
図59に示す工程(a)~工程(e)と同じ工程を順次実行する(
図68の工程(a)~工程(e))。
【0331】
図69を参照して、工程(e)の後、SiO
2をターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によってSiO
z31を絶縁膜22および端子24上に形成する(工程(f))。
【0332】
そして、レジストをSiOz31上に塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン32を形成する(工程(g))。
【0333】
その後、レジストパターン32をマスクとしてSiOz31をエッチングする(工程(h))。これによって、貫通孔29-1を有し、SiOzからなる絶縁膜29が形成される。
【0334】
引き続いて、
図60から
図62に示す工程(f)~工程(l)と同じ工程を順次実行する(
図69の工程(i)、
図70の工程(j)~工程(l)、および
図71の工程(m)~工程(o))。
【0335】
図72を参照して、工程(o)の後、a-GaO
y27-1、端子25,26およびa-GaO
y27-2上にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン33を形成する(工程(p))。
【0336】
そして、レジストパターン33をマスクとして用い、SiO2をターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によってSiOz34をa-GaOy27-2上に形成する(工程(q))。この場合、レジストパターン33上にSiOz35が形成される。
【0337】
その後、レジストをSiOz34上に塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン36を形成する(工程(r))。
【0338】
図73を参照して、レジストパターン36をマスクとして用いて、SiO
z34をエッチングする(工程(s))。
【0339】
そして、上述した方法によって、レジストパターン33,36を除去する。これによって、貫通孔28-1を有する絶縁膜28がa-GaOy27-2上に形成される(工程(t))。また、SiOz35は、レジストパターン33の除去に伴ってリフトオフにより除去される。
【0340】
その後、a-GaOy27-1、端子25,26およびa-GaOy27-2上にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン37を形成する(工程(u))。
【0341】
図74を参照して、レジストパターン37をマスクとしてスパッタリングによってPtを酸化物半導体層27(a-GaO
y27-1,27-2)上に堆積する(工程(v))。この場合、レジストパターン37上にも、Ptが形成される。
【0342】
工程(v)の後、上述した方法によって、レジストパターン37を除去する。この場合、レジストパターン37上に形成されたPtは、リフトオフによって除去される。これによって、端子23が酸化物半導体層27および絶縁膜28に接して酸化物半導体層27および絶縁膜28上に形成され、メモリスタ20Bが完成する(工程(w))。
【0343】
メモリスタ20Bにおいては、貫通孔28-1を有する絶縁膜28が端子23と酸化物半導体層27との間に配置され、貫通孔29-1を有する絶縁膜29が端子24と酸化物半導体層27との間に配置される。
【0344】
その結果、端子23-24間に印加された電圧は、貫通孔28-1,29-1を介して酸化物半導体層27に印加される。従って、端子23-24間に印加される電界を閉じ込めることができ、より強い電界を端子23-24間に印加できる。つまり、メモリスタ20Bにおいては、絶縁膜28,29は、酸化物半導体層27に印加される電界を閉じ込める機能を果たす。
【0345】
メモリスタ20Bは、膜厚方向における酸化物半導体層27の一方の表面に配置された端子23と、膜厚方向における酸化物半導体層27の他方の表面に配置された端子24と、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な一方の側面に配置された端子25と、酸化物半導体層27の膜厚方向に平行な他方の側面に配置された端子26とを備える。
【0346】
そして、端子23-24間および端子25-26間に印加される電圧を制御することによって酸化物半導体層27におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0347】
従って、メモリスタ20Bを用いて連合学習の機能を実現でき、生体系が有する高次機能を発揮することができる。
【0348】
図75は、実施の形態2による更に別のメモリスタの平面図である。
図76は、
図75に示す線XXXXXXXVI-XXXXXXXVI間におけるメモリスタの断面図である。
【0349】
実施の形態2によるメモリスタは、
図75および
図76に示すメモリスタ40であってもよい。
図75および
図76を参照して、メモリスタ40は、基板41と、端子42~45と、酸化物半導体層46とを備える。
【0350】
メモリスタ40は、例えば、正方形の平面形状を有する。基板41は、単結晶TiO2からなる。端子42は、酸化物半導体層46に接して酸化物半導体層46上に配置される。また、端子42は、長さ方向がX軸方向と所定の角度を成すように配置される。そして、端子42は、例えば、150nmの膜厚を有するPtからなる。
【0351】
端子43は、基板41を厚み方向に貫通して基板41および酸化物半導体層46に接して配置される。また、端子43は、長さ方向がX軸方向と所定の角度を成すとともに端子42と交差するように配置される。そして、端子43は、例えば、50nmの膜厚を有するPtからなる。
【0352】
端子44は、基板41の面内方向の一方側において、酸化物半導体層46の側面に接して配置される。また、端子44は、長さ方向がY軸方向になるように配置される。端子45は、基板41の面内方向の他方側において、酸化物半導体層46の側面に接して配置される。また、端子45は、長さ方向がY軸方向になるように配置される。そして、端子44,45の各々は、例えば、40nmの膜厚を有するPtからなる。
【0353】
端子42~45の各々は、幅Wを有する。X軸方向における端子44と端子45との間隔は、Wであり、端子42と端子43とのなす角を60°とすれば、X軸方向における端子44の中心と端子45の中心との距離は、2Wである。
【0354】
酸化物半導体層46は、基板41および端子42~45に接して配置される。そして、酸化物半導体層46は、単結晶TiO2-xからなる。
【0355】
【0356】
図77を参照して、メモリスタ40の製造が開始されると、上述した方法によって、(001)面を有する単結晶TiO
2を洗浄して基板41を準備する(工程(a))。
【0357】
そして、TiO2をターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によって基板41上に単結晶TiO2-n46-1を形成する(工程(b))。この場合、パルスレーザ蒸着法における条件は、上述した通りである。
【0358】
工程(b)の後、基板41の裏面(単結晶TiO2-n46-1が形成された面と反対側の面)にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン51を形成する(工程(c))。
【0359】
そして、レジストパターン51をマスクとして基板41をエッチングする(工程(d))。その後、上述した方法によってレジストパターン51を除去する。これによって、貫通孔41-1が基板41に形成される(工程(e))。
【0360】
引き続いて、基板41の裏面(単結晶TiO2-n46-1が形成された面と反対側の面)にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン52を形成する(工程(f))。
【0361】
図78を参照して、レジストパターン52をマスクとして、貫通孔41-1および基板41の裏面(単結晶TiO
2-n46-1が形成された面と反対側の面)にスパッタリングによってPtを堆積する(工程(g))。この場合、Pt53がレジストパターン52上に形成される。
【0362】
その後、上述した方法によってレジストパターン52を除去する(工程(h))。これによって、Pt53は、リフトオフによって除去され、端子43が単結晶TiO2-n46-1に接して形成される。
【0363】
そして、レジストを単結晶TiO2-n46-1上に塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン54を形成する(工程(i))。
【0364】
引き続いて、レジストパターン54をマスクとして、TiO2をターゲットとして用いたパルスレーザ蒸着法によって単結晶TiO2-n46-1上に単結晶TiO2-n55を形成する(工程(j))。この場合、パルスレーザ蒸着法における条件は、工程(b)における条件と同じである。
【0365】
図79を参照して、工程(j)の後、上述した方法によってレジストパターン54を除去する(工程(k))。そして、単結晶TiO
2-n46-1および単結晶TiO
2-n55上にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン56を形成する(工程(l))。
【0366】
その後、レジストパターン56をマスクとして、スパッタリングによってPtを単結晶TiO2-n46-1上に堆積し、単結晶TiO2-n55の両側の側面に接するように端子44,45を形成する(工程(m))。この場合、Pt57がレジストパターン56上にも堆積される。
【0367】
図80を参照して、上述した方法によってレジスタパターン56を除去する(工程(n))。これによって、レジスタパターン56上に堆積されたPt57は、リフトオフによって除去される。
【0368】
引き続いて、単結晶TiO2-n46-1,55および端子44,45上にレジストを塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン58を形成する(工程(o))。
【0369】
そして、レジストパターン58をマスクとして、単結晶TiO2-n55を所定の深さまでエッチングし(工程(p))、上述した方法によってレジストパターン58を除去する。これによって、単結晶TiO2-n46-2が形成される(工程(q))。
【0370】
その後、レジストを単結晶TiO2-n46-1,46-2および端子44,45上に塗布し、その塗布したレジストをパターンニングしてレジストパターン59を形成する(工程(r))。
【0371】
引き続いて、レジストパターン59をマスクとして、スパッタリングによってPtを単結晶TiO2-n46-2上に堆積し、端子42を形成する(工程(s))。この場合、Pt60がレジストパターン59上に堆積される。
【0372】
図82を参照して、工程(s)の後、上述した方法によってレジストパターン59を除去する。これによって、Pt60は、リフトオフによって除去され、単結晶TiO
2-n46-1,46-2からなる酸化物半導体層46を備えたメモリスタ40が完成する(工程(t))。
【0373】
メモリスタ40は、膜厚方向における酸化物半導体層46の一方の表面に配置された端子42と、膜厚方向における酸化物半導体層46の他方の表面に配置された端子43と、酸化物半導体層46の膜厚方向に平行な一方の側面に配置された端子44と、酸化物半導体層46の膜厚方向に平行な他方の側面に配置された端子45とを備える。
【0374】
そして、端子42-43間および端子44-45間に印加される電圧を制御することによって酸化物半導体層46におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0375】
従って、メモリスタ40を用いて連合学習の機能を実現でき、生体系が有する高次機能を発揮することができる。
【0376】
上記においては、a-GaOyからなる酸化物半導体層27を備えたメモリスタ20,20A,20B、および単結晶TiO2-xからなる酸化物半導体層46を備えたメモリスタ40について説明した。
【0377】
そして、メモリスタ20,20A,20B,40は、酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)の膜厚方向の両面にそれぞれ配置された2つの端子23,24(または2つの端子23A,24Aまたは2つの端子42,43)と、酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)の膜厚方向に平行な2つの側面にそれぞれ配置された2つの端子25,26(または2つの端子44,45)とを備えた構成からなる。
【0378】
また、単結晶TiO2-xは、単結晶相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体であり、a-GaOyは、非晶質相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体である。
【0379】
従って、酸化物半導体層27,46の各々は、単結晶相または非晶質相からなり、ドーパント(酸素空孔)を含む酸化物半導体からなっていればよい。
【0380】
また、上記においては、メモリスタ20,20A,20B,40は、4個の端子23~26(または4個の端子23A,24A,25,26または4個の端子42~45)を備えると説明したが、実施の形態2においては、これに限らず、メモリスタ20,20A,20B,40は、3個の端子23~25(または3個の端子23A,24A,25または3個の端子42~44)を備えていてもよく、5個以上の端子を備えていてもよい。
【0381】
メモリスタ20,20A,20B,40が3個の端子23~25(または3個の端子23A,24A,25または3個の端子42~44)を備える場合、端子23,24(または端子23A,24Aまたは端子42,43)を接地電位GNDに接続し、プラスの電圧(+V)またはマイナスの電圧(-V)を端子25(または端子(44)に印加することによって端子23-25間および端子24-25間(または端子23A-25間および端子24A-25間、または端子42-44間および端子43-44間)に電界が発生するので、酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。また、メモリスタ20,20A,20B,40が3個以上の端子23,24,25,26,・・・(または3個以上の端子23A,24A,25,26,・・・、または3個以上の端子42,43,44,45,・・・)を備える場合、端子23,24(または端子23A,24A、または端子42,43)を接地電位GNDに接続し、プラスの電圧(+V)またはマイナスの電圧(-V)を端子23,24以外の端子25,26,・・・(または端子23A,24A以外の端子25,26,・・・、または端子42,43以外の端子44,45,・・・)に印加することによって端子23と端子23,24以外の端子25,26,・・・との間および端子24と端子23,24以外の端子25,26,・・・との間(または端子23Aと端子23A,24A以外の端子25,26,・・・との間および端子24Aと端子23A,24A以外の端子25,26,・・・との間、または端子42と端子42,43以外の端子44,45,・・・との間および端子43と端子42,43以外の端子44,45,・・・との間)に電界が発生するので、酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0382】
従って、一般的には、メモリスタ20,20A,20B,40は、3個以上の端子を備えていればよい。
【0383】
上述したメモリスタ20,20A,20B,40は、電気的活性層(ドーパント(酸素空孔)の分布が変化する部分)がメモリスタ20,20A,20B,40の内部に埋もれているので、電気的活性層(ドーパント(酸素空孔)の分布が変化する部分)が露出することによる素子のばらつきを低減でき、素子が故障するのを抑制できる。
【0384】
また、メモリスタ20,20A,20B,40を用いてデマルチプレクサを形成する場合、厚さ方向に薄膜として一度に積層できるので、プロセスを簡便化できる。
【0385】
[応用例]
図83は、この発明の実施の形態によるアレイシステムの概念図である。
図83を参照して、アレイシステム100は、第1の層101と、第2の層102と、第3の層103とを備える。第1の層101、第2の層102および第3の層103の各々は、X-Y平面に沿って配置される。そして、第1の層101、第2の層102および第3の層103は、Z軸方向に積層して配置される。
【0386】
図84は、
図83に示す第1の層101の構成を示す概念図である。
図84を参照して、第1の層101は、ナノワイヤ111~113と、メモリスタ115とを含む。ナノワイヤ111は、例えば、Y軸方向に沿って配置される。ナノワイヤ112は、例えば、X軸方向に沿って配置され、ナノワイヤ111と交差する。ナノワイヤ113は、例えば、ナノワイヤ111,112と45°の角度で交差するように配置される。そして、ナノワイヤ113は、2本のナノワイヤ113a,113bからなる。ナノワイヤ111,112,113の各々は、X-Y平面に沿って平面状に配置される。また、ナノワイヤ111,112,113は、相互に交差する交差点においては、例えば、ナノワイヤ111、ナノワイヤ112およびナノワイヤ113の順に積層されて配置される。
【0387】
メモリスタ115は、ナノワイヤ111~113の交差点に配置される。メモリスタ115は、上述したメモリスタ10,20,20A,20B,40のいずれかからなる。例えば、メモリスタ115がメモリスタ10からなる場合、ナノワイヤ111は、メモリスタ10の端子3に電気的に接続され、ナノワイヤ112は、メモリスタ10の端子5に電気的に接続され、ナノワイヤ113の2本のナノワイヤ113a,113bの一方が端子4に電気的に接続され、ナノワイヤ113の2本のナノワイヤ113a,113bの他方が端子6に電気的に接続される。
【0388】
従って、ナノワイヤ111,112によって端子3-5間に電圧を印加し、ナノワイヤ113(113a,113b)によって端子4-6間に電圧を印加することによって酸化物半導体層2におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御できる。
【0389】
また、メモリスタ115がメモリスタ20からなる場合、ナノワイヤ111は、メモリスタ20の端子23に電気的に接続され、ナノワイヤ112は、メモリスタ10の端子24に電気的に接続され、ナノワイヤ113の2本のナノワイヤ113a,113bの一方が端子25に電気的に接続され、ナノワイヤ113の2本のナノワイヤ113a,113bの他方が端子26に電気的に接続される。
【0390】
なお、メモリスタ115がメモリスタ20A,20B,40のいずれかからなる場合も、ナノワイヤ111,112,113(113a,113b)は、メモリスタ115がメモリスタ20からなる場合と同様に4個の端子に電気的に接続される。
【0391】
従って、ナノワイヤ111,112によって端子23-24間(または端子42-43間)に電圧を印加し、ナノワイヤ113(113a,113b)によって端子25-26間(または端子44-45間)に電圧を印加することによって酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0392】
第2の層102および第3の層103の各々は、
図84に示す第1の層101と同じ構成からなる。
【0393】
アレイシステム100において、第1の層101、第2の層102および第3の層103の各々は、ナノワイヤ111,112,113が交差した交差点にメモリスタ115が配置され、交差したナノワイヤ111,112,113によって印加される電圧に応じてメモリスタ115におけるドーパント(酸素空孔)の分布が2次元または3次元に制御され、連合学習の機能を実現する構成を有する。従って、
図83に示すアレイシステム100は、クロスバー構造のアレイシステムである。
【0394】
図85は、この発明の実施の形態による別のアレイシステムの概念図である。この発明の実施の形態によるアレイシステムは、
図85に示すアレイシステム200であってもよい。
【0395】
図85を参照して、アレイシステム200は、第1の層201と、第2の層202と、第3の層203とを備える。第1の層201、第2の層202および第3の層203の各々は、X-Y平面に沿って配置される。そして、第1の層201、第2の層202および第3の層203は、Z軸方向に積層して配置される。
【0396】
図86は、
図85に示す第1の層201の構成を示す概念図である。
図86を参照して、第1の層201は、
図84に示す第1の層101のメモリスタ115をメモリスタ116に変え、ナノワイヤ114を追加したものであり、その他は、第1の層101と同じである。
【0397】
ナノワイヤ114は、ナノワイヤ111~113と交差する。そして、ナノワイヤ114は、2本のナノワイヤ114a,114bからなる。そして、ナノワイヤ111,112,113,114の各々は、X-Y平面に沿って平面状に配置される。また、ナノワイヤ111,112,113,114は、相互に交差する交差点においては、例えば、ナノワイヤ111、ナノワイヤ112、ナノワイヤ113およびナノワイヤ114の順に積層されて配置される。
【0398】
メモリスタ116は、ナノワイヤ111~114の交差点に配置される。そして、メモリスタ116は、6個の端子を有するメモリスタである。メモリスタ10において、酸化物半導体層2の面内方向の中心と、隣接する2つの端子とを結ぶ2本の線が60°の角度を成すように、6個の端子を円形状に酸化物半導体層2の膜厚方向の一方の面に配置すれば、6個の端子を有するメモリスタを構成することができる。
【0399】
また、メモリスタ20において、
図58の紙面の手前側における酸化物半導体層27の面と、
図58の紙面の奥側における酸化物半導体層27の面とに2個の端子を追加して配置すれば、6個の端子を有するメモリスタを構成することができる。更に、メモリスタ20において、端子25,26の下側または上側に端子25,26と同様に酸化物半導体層27の側面に2個の端子を追加すれば、6個の端子を有するメモリスタを構成することができる。メモリスタ20A,20B,40においても、同様にして6個の端子を有するメモリスタを構成することができる。
【0400】
6個の端子を端子TN1~TN6とすると、端子TN1~TN6を酸化物半導体層2の膜厚方向の一方の面に配置したとき、相互に向き合う2つの端子TN1,TN2にナノワイヤ111,112を接続し、ナノワイヤ113(113a,113b)を端子TN3~TN6のうちの2つの端子TN3,TN4に接続し、ナノワイヤ114(114a,114b)を端子TN3~TN6のうちの2つの端子TN5,TN6に接続する。
【0401】
また、端子TN1~TN6を上述した方法によって酸化物半導体層27に配置したとき、酸化物半導体層27の膜厚方向に配置された2つの端子TN1,TN2にナノワイヤ111,112を電気的に接続し、酸化物半導体層27の2つの側面に配置された端子TN3,TN4にナノワイヤ113(113a,113b)を電気的に接続し、酸化物半導体層27の2つの側面に配置された端子TN5,TN6にナノワイヤ114(114a,114b)を電気的に接続する。酸化物半導体層46に6個の端子TN1~TN6を配置するときも、同様にして、ナノワイヤ111,112,113(113a,113b),114(114a,114b)を6個の端子TN1~TN6に電気的に接続する。
【0402】
従って、ナノワイヤ111,112によって端子TN1-TN2間に電圧を印加し、ナノワイヤ113(113a,113b)によって端子TN3-TN4間に電圧を印加し、ナノワイヤ114(114a,114b)によって端子TN5-TN6間に電圧を印加することによって酸化物半導体層27(または酸化物半導体層46)におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御できる。
【0403】
第2の層202および第3の層203の各々は、
図86に示す第1の層201と同じ構成からなる。
【0404】
アレイシステム200において、第1の層201、第2の層202および第3の層203の各々は、ナノワイヤ111,112,113,114が交差した交差点にメモリスタ116が配置され、交差したナノワイヤ111,112,113,114によって印加される電圧に応じてメモリスタ116におけるドーパント(酸素空孔)の分布が2次元または3次元に制御され、連合学習の機能を実現する構成を有する。従って、
図85に示すアレイシステム200も、クロスバー構造のアレイシステムである。
【0405】
なお、3個の端子を有するメモリスタ、5個の端子を有するメモリスタおよび7個以上の端子を有するメモリスタを用いた場合も、同様にして、クロスバー構造のアレイシステムを構成することができる。従って、この発明の実施の形態によるアレイシステムは、3個以上の端子を有するメモリスタを備えていればよい。
【0406】
なお、アレイシステム100,200は、3つの層を備えると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、アレイシステム100,200は、1つ以上の層を備えていればよい。
【0407】
図87は、平面型4端子クロスバー構造のアレイシステムの具体例を示す図である。
図87の(a)は、ニューラルネットワークの概念図を示し、
図87の(b)は、平面型4端子クロスバー構造のアレイシステムの概念図である。
【0408】
図87の(a)を参照して、ニューラルネットワークにおいては、シナプス前細胞体様素子とシナプス後細胞体様素子との間に、入力信号ライン、出力信号ラインおよび修飾信号ラインが配置される。そして、入力信号ライン、出力信号ラインおよび修飾信号ラインの交差部にシナプス結合が形成される。
【0409】
図87の(b)を参照して、平面型4端子クロスバー構造のアレイシステムは、入力信号ライン、出力信号ライン、修飾信号ライン1,2、シナプス前細胞体様素子、シナプス後細胞体様素子およびシナプス結合を備える。
【0410】
シナプス前細胞体様素子およびシナプス後細胞体様素子は、平面的に配置される。1つのシナプス結合には、入力信号ライン、出力信号ラインおよび修飾信号ライン1,2が接続される。そして、入力信号ラインおよび出力信号ラインは、1つのシナプス結合の対向する2つの端子に接続され、修飾信号ライン1および修飾信号ライン2は、1つのシナプス結合の対向する2つの端子に接続される。
【0411】
従って、シナプス結合の部分にメモリスタ10を配置すれば、入力信号ラインおよび出力信号ラインは、それぞれ、
図1に示すメモリスタ10の端子3,5に接続され、修飾信号ライン1および修飾信号ライン2は、それぞれ、メモリスタ10の端子4,6に接続される。
【0412】
その結果、入力信号ラインおよび修飾信号ライン1,2を用いてメモリスタ10に印加する電圧を制御することによってメモリスタ10におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御でき、ドーパント(酸素空孔)の2次元分布を制御することによって入力信号ラインと出力信号ラインとの結合の強弱を制御できる。
【0413】
このように、メモリスタ10を用いて平面型4端子クロスバー構造のアレイシステムを作製することによって、ニューラルネットワークを実現できる。
【0414】
図88は、縦型4端子クロスバー構造のアレイシステムの具体例を示す図である。
図88を参照して、アレイシステム300は、駆動端子配線バー301,302と、修飾端子配線バー303,304と、メモリスタ305とを備える。
【0415】
駆動端子配線バー301は、Y軸方向に沿って配置され、駆動端子配線バー302は、X軸方向に沿って配置され、修飾端子配線バー303,304は、X-Y平面において、X軸またはY軸と所定の角度を成す方向に配置される。
【0416】
メモリスタ305は、Z軸方向に沿って配置され、Z軸方向の両端がそれぞれ駆動端子配線バー301および駆動端子配線バー302に接続される。また、メモリスタ305は、修飾端子配線バー303と修飾端子配線バー304との間において修飾端子配線バー303,304に接続される。
【0417】
メモリスタ305は、例えば、メモリスタ20からなる。従って、駆動端子配線バー301は、メモリスタ20の端子24に接続され、駆動端子配線バー302は、メモリスタ20の端子23に接続され、修飾端子配線バー303は、メモリスタ20の端子25に接続され、修飾端子配線バー304は、メモリスタ20の端子26に接続される。
【0418】
アレイシステム300においては、複数の駆動端子配線バー301が所定の間隔でX-Y平面に配置され、1対の修飾端子配線バー303,304が駆動端子配線バー301,302と所定の角度を成すように所定の間隔で複数の駆動端子配線バー301上に配置され、メモリスタ305が1対の修飾端子配線バー303,304に挟まれるように駆動端子配線バー301上に配置され、駆動端子配線バー302は、メモリスタ305に接するように最上層に配置される。
【0419】
その結果、メモリスタ305のX-Y平面方向のサイズによってアレイシステム300におけるメモリスタ305の密度を制御できる。即ち、メモリスタ305のX-Y平面方向のサイズを大きくすれば、レイシステム300におけるメモリスタ305の密度が低くなり、メモリスタ305のX-Y平面方向のサイズを小さくすれば、アレイシステム300におけるメモリスタ305の密度が高くなる。
【0420】
上述したように、メモリスタ305(=メモリスタ20)は、半導体プロセスを用いて作製することができるので、1つのメモリスタ305(=メモリスタ20)のX-Y平面におけるサイズを容易に小さくできる。
【0421】
また、隣接する駆動端子配線バー301の間隔を小さくすれば、アレイシステム300におけるメモリスタ305の密度を高くできる。
【0422】
更に、1対の修飾端子配線バー303,304を配置する間隔を小さくすれば、アレイシステム300におけるメモリスタ305の密度を高くできる。
【0423】
従って、縦型4端子クロスバー構造のアレイシステム300においては、メモリスタ305の密度を容易に高くできる。
【0424】
上述した実施の形態1においては、3個以上の端子を平面的に配置したメモリスタにおいて酸化物半導体層におけるドーパント(酸素空孔)の分布を2次元に制御することを説明し、上述した実施の形態2においては、3個以上の端子を立体的に配置したメモリスタにおいて酸化物半導体層におけるドーパント(酸素空孔)の分布を3次元に制御することを説明した。
【0425】
従って、この発明の実施の形態によるメモリスタは、絶縁破壊プロセスを必要としないメモリスタであって、ドーパントを含む酸化物半導体層と、酸化物半導体層に電圧を印加し、ドーパントの分布を2次元分布または3次元分布に制御する端子とを備えていればよい。
【0426】
ドーパントを含む酸化物半導体層と、酸化物半導体層に電圧を印加し、ドーパントの分布を2次元分布または3次元分布において各種の分布に制御する端子とを備えていれば、2つの刺激が与えられたときのシナプス結合の重みを実現でき、連合学習の機能を発揮できるからである。
【0427】
また、この発明の実施の形態によるアレイシステムは、クロスバー構造のアレイシステムであって、平面状に配列された複数の第1のナノワイヤと、平面状に配列され、複数の第1のナノワイヤと交差する複数の第2のナノワイヤと、平面上に配列され、複数の第1のナノワイヤおよび複数の第2のナノワイヤと交差する複数の第3のナノワイヤと、第1のナノワイヤ、第2のナノワイヤおよび第3のナノワイヤの交差部に配置されたメモリスタとを備え、メモリスタは、この発明の実施の形態によるメモリスタからなっていればよい。
【0428】
なお、この発明の実施の形態においては、メモリスタ10の端子3は、「第1の端子」を構成し、メモリスタ10の端子5は、「第2の端子」を構成し、メモリスタ10の端子4,5は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0429】
また、メモリスタ20の端子23は、「第1の端子」を構成し、メモリスタ20の端子24は、「第2の端子」を構成し、メモリスタ20の端子25,26は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0430】
更に、メモリスタ20Aの端子23Aは、「第1の端子」を構成し、メモリスタ20Aの端子24Aは、「第2の端子」を構成し、メモリスタ20Aの端子25,26は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0431】
更に、メモリスタ20Aの端子23Aは、「第1の端子」を構成し、メモリスタ20Aの端子24Aは、「第2の端子」を構成し、メモリスタ20Aの端子25,26は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0432】
更に、メモリスタ20Bの端子23は、「第1の端子」を構成し、メモリスタ20Bの端子24は、「第2の端子」を構成し、メモリスタ20Bの端子25,26は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0433】
更に、メモリスタ40の端子42は、「第1の端子」を構成し、メモリスタ40の端子43は、「第2の端子」を構成し、メモリスタ40の端子44,45は、「n(nは、1以上の整数)個の第3の端子」を構成する。
【0434】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0435】
この発明は、メモリスタ、それを備えた半導体素子およびメモリスタを備えたアレイシステムに適用される。
【符号の説明】
【0436】
1,21,41 基板 2,27,46 酸化物半導体層、3~6,23~26,23A,24A,42~45 端子、10,20,20A,20B,40,115,116,305 メモリスタ、22,28,29 絶縁膜、25-1,25-3,26-1,26-3 絶縁層、25-2,26-2 Pt、28-1,29-1 貫通孔、46-1,46-2 単結晶TiO2-x、100,200,300 アレイシステム、101,201 第1の層、102,202 第2の層、103,203 第3の層、111~113,113a,113b,114,114a,114b ナノワイヤ、301,302 駆動端子配線バー、303,304 修飾端子配線バー。