(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性複合体
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20241122BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20241122BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20241122BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20241122BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20241122BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20241122BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20241122BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241122BHJP
A01N 59/16 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01N25/34 Z
A01N33/12 101
A01N37/36
A01N37/44
A01N43/40 101K
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
(21)【出願番号】P 2023505508
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009483
(87)【国際公開番号】W WO2022191077
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2021036701
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021151045
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮治 裕史
(72)【発明者】
【氏名】西田 絵利香
(72)【発明者】
【氏名】浜本 朝子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 礼人
(72)【発明者】
【氏名】金本 佑生実
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第211348706(CN,U)
【文献】特公昭46-22116(JP,B1)
【文献】中国実用新案第206913845(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第111096499(CN,A)
【文献】中国特許第103598179(CN,B)
【文献】水で洗っても落ちない 抗菌・抗ウイルス酸化グラフェン複合膜を開発 ~種々の菌、新型コロナウイルスを不活,PRESS RELEASE 北海道大学病院 [オンライン],2021年10月14日,[検索日 2022/05/12],インターネット: <URL: https://www.huhp.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2021/10/release_20211014.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有
し、
該炭素材料が、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであり、
該抗菌・抗ウイルス剤が、カチオン性の構造を有することを特徴とする抗菌・抗ウイルス性複合体。
【請求項2】
前記抗菌・抗ウイルス剤が、第4級窒素カチオン含有基
及び第1~3級アミノ
基からなる群より選択される少なくとも1つを有することを特徴とする請求項
1に記載の抗菌・抗ウイルス性複合体。
【請求項3】
前記第4級窒素カチオン含有基は、第4級アンモニウム基、イミニウム基、及び、ピリジニウム基からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項
2に記載の抗菌・抗ウイルス性複合体。
【請求項4】
前記基材が、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質及び象牙質からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス性複合体。
【請求項5】
前記抗菌・抗ウイルス性複合体は、炭素材料の平均の層数が10以下であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス性複合体。
【請求項6】
基材に抗菌・抗ウイルス性のコートをする方法であって、該方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを含
み、
該炭素材料が、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであり、
該抗菌・抗ウイルス剤が、カチオン性の構造を有することを特徴とする抗菌・抗ウイルス性コート方法。
【請求項7】
前記製膜工程において、炭素材料の濃度が0.001~10質量%である炭素材料組成物を用いることを特徴とする請求項
6に記載の抗菌・抗ウイルス性コート方法。
【請求項8】
抗菌・抗ウイルス性複合体を製造する方法であって、該製造方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを含
み、
該炭素材料が、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであり、
該抗菌・抗ウイルス剤が、カチオン性の構造を有することを特徴とする抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法。
【請求項9】
前記製膜工程において、炭素材料の濃度が0.001~10質量%である炭素材料組成物を用いることを特徴とする請求項
8に記載の抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法。
【請求項10】
抗菌・抗ウイルス性複合体を製造するためのセットであって、該セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と抗菌・抗ウイルス剤又は抗菌・抗ウイルス剤組成物とを有
し、
該炭素材料が、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであり、
該抗菌・抗ウイルス剤が、カチオン性の構造を有することを特徴とする抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス性複合体、その製造方法及び抗菌・抗ウイルス性コート方法並びに抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セットに関する。より詳しくは、衛生用品、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に有用な抗菌・抗ウイルス性複合体、その製造方法及び抗菌・抗ウイルス性コート方法並びに抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やウイルス等による感染症は、人間の生命を脅かすことから、細菌やウイルス等に対する対策が世界的に求められている。近年、我が国では、消費者の清潔志向等から、医療や衛生分野にとどまらず、様々な分野において抗菌加工が施された種々のものが市販されている。抗菌・抗ウイルス加工に用いられる抗菌・抗ウイルス剤としては、例えば、有機系薬剤として第4級アンモニウム塩基を有するものや、無機系薬剤として銀、銅、亜鉛等の金属イオンを含むものが一般的によく知られている。
【0003】
近年、炭素材料の生物学的応用が検討されており、炭素材料を用いた抗菌・抗ウイルス剤が開発されている。炭素材料を含む抗菌剤に関して、特許文献1には、酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物であって、前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1~20質量%の範囲である、前記組成物が開示されている。特許文献2には、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料と亜鉛成分とを含有することを特徴とする抗菌剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-074636号公報
【文献】特開2020-070278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来、種々の抗菌・抗ウイルス剤が開示されているが、特許文献1に開示された抗菌剤は、抗菌性能において充分ではなく、また、特許文献2に開示された抗菌剤組成物は、炭素材料由来の着色に基づき、適用できる用途が限られており、抗菌性能に優れ、かつ、色調にも優れるものが求められていた。また、市販の水溶性抗菌・抗ウイルス剤は、水系であり、人体等の生体への利用が容易であることと、その抗菌・抗ウイルス性能は充分であるが、水溶性であることから長期的に生体表面に留まらせることが困難である。そのためこのような水溶性抗菌・抗ウイルス剤を表面上に留まらせる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、抗菌・抗ウイルス剤と基材表面との相互作用が強く、優れた抗菌・抗ウイルス性を発揮し、かつ、色調に優れる抗菌・抗ウイルス性複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、抗菌・抗ウイルス性の材料について種々検討したところ、基材に炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤をこの順に積層することで、抗菌・抗ウイルス剤と基材表面との相互作用が強く、優れた抗菌・抗ウイルス性を発揮し、かつ、色調にも優れることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有する抗菌・抗ウイルス性複合体である。
【0009】
上記炭素材料は、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであることが好ましい。
【0010】
上記抗菌・抗ウイルス剤は、第4級窒素カチオン含有基、第1~3級アミノ基、金属元素及びハロゲン元素からなる群より選択される少なくとも1つを有することが好ましい。
【0011】
上記第4級窒素カチオン含有基は、第4級アンモニウム基、イミニウム基、及び、ピリジニウム基からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
上記抗菌・抗ウイルス剤は、カチオン性の構造を有することが好ましい。
【0013】
上記基材は、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質及び象牙質からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
上記抗菌・抗ウイルス性複合体は、炭素材料の平均の層数が10以下であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、基材に抗菌・抗ウイルス性のコートをする方法であって、該方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを含む抗菌・抗ウイルス性コート方法でもある。
【0016】
上記製膜工程において、炭素材料の濃度が0.001~10質量%である炭素材料組成物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明は更に、抗菌・抗ウイルス性複合体を製造する方法であって、該製造方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを含む抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法でもある。
【0018】
上記製膜工程において、炭素材料の濃度が0.001~10質量%である炭素材料組成物を用いることが好ましい。
【0019】
本発明は更に、抗菌・抗ウイルス性複合体を製造するためのセットであって、該セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と抗菌・抗ウイルス剤又は抗菌・抗ウイルス剤組成物とを有する抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セットでもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、上述の構成よりなり、抗菌・抗ウイルス性能及び抗菌・抗ウイルス保持性能が高く、かつ、色調に優れるため、衛生用品、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1の抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、比較例1、2の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(2)及びコントロールについてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2の抗菌・抗ウイルス性複合体(2)、比較例1、3の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(3)及びコントロールについてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例3の抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、比較例4、5の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)、(5)及びコントロールについてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例4の抗菌・抗ウイルス性複合体(4)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図5】実施例5の抗菌・抗ウイルス性複合体(5)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図6】実施例6の抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図7】比較例6の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図8】比較例7の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(7)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図9】比較例8の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(8)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図10】比較例9の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(9)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図11】コントロールとして焼成した石英基板のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図12】実施例4~6の抗菌・抗ウイルス性複合体(4)~(6)及び比較例6の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のXPS分析によるC1sスペクトルを示すチャートである。
【
図13】比較例7~9の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(7)~(9)及びコントロールとして焼成した石英基板のXPS分析によるC1sスペクトルを示すチャートである。
【
図14】実施例4~6の抗菌・抗ウイルス性複合体(4)~(6)及び比較例6の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のXPS分析によるN1sスペクトルを示すチャートである。
【
図15】比較例7~9の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(7)~(9)及びコントロールとして焼成した石英基板のXPS分析によるN1sスペクトルを示すチャートである。
【
図16】実施例4の抗菌・抗ウイルス性複合体(4)のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図17】実施例5の抗菌・抗ウイルス性複合体(5)のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図18】実施例6の抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図19】比較例6の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図20】実施例7の抗菌・抗ウイルス性複合体(7)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図21】実施例8の抗菌・抗ウイルス性複合体(8)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図22】比較例10の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図23】比較例11の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(11)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図24】実施例7の抗菌・抗ウイルス性複合体(7)、比較例10、11の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)、(11)についてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(3)の結果を示す顕微鏡観察例(一例)及びグラフである。
【
図25】実施例9の抗菌・抗ウイルス性複合体(9)、比較例12、13の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(12)、(13)及びコントロールについてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)及びA.naeslundiiに対する抗菌性評価(5)の結果を示すグラフである。
【
図26】実施例10~15の抗菌・抗ウイルス性複合体(10)~(15)についてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(5)の結果を示すグラフである。
【
図27】実施例3の抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、比較例4、5の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)、(5)及びコントロールについてのEscherichica coliに対する抗菌性評価(4)の結果を示すグラフである。
【
図28】実施例2の抗菌・抗ウイルス性複合体(2)、比較例1、3の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(3)及びコントロールについてのコロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図29】実施例18の抗菌・抗ウイルス性複合体(18)、比較例1、14の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(16)についてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(3)の結果を示すグラフである。
【
図30】実施例19の抗菌・抗ウイルス性複合体(19)、比較例3、15の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、(15)及びコントロールについてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図31】実施例19の抗菌・抗ウイルス性複合体(19)、比較例3、15の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、(15)及びコントロールについてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図32】実施例20の抗菌・抗ウイルス性複合体(20)、比較例1、16の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(16)及びコントロールについてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図33】実施例20の抗菌・抗ウイルス性複合体(20)、比較例1、16の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(16)及びコントロールについてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図34】実施例21の抗菌・抗ウイルス性複合体(2W1、2W3、2W7、2W30、2W30+)及びコントロールついてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。なお本明細中では、「抗菌・抗ウイルス」という表現があるが、これは抗菌性、抗ウイルス性どちらかを有する、または抗菌性、抗ウイルス性をともに有することを意味する。また、抗菌と記載されているものは抗ウイルス性を有していても、有していなくてもよく、また抗ウイルスと記載されているものは抗菌性を有していても、有していなくてもよい。
【0023】
<抗菌・抗ウイルス性複合体>
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有する。上記抗菌・抗ウイルス性複合体は、基材上の炭素材料が基材及び抗菌・抗ウイルス剤と相互作用することで抗菌・抗ウイルス剤が基材に充分に保持され、これにより、優れた抗菌・抗ウイルス性・抗菌・抗ウイルス保持性を発揮することができる。更に、本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、臭いの原因になる細菌等の増殖を抑えることにより、防臭、脱臭効果を発揮することもできる。
【0024】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、抗菌・抗ウイルス性能を有するものであり、抗菌・抗ウイルス性能とは、殺菌(微生物を殺す、ウイルスを不活化する)、静菌(微生物、ウイルスの繁殖を抑える)、滅菌、消毒、制菌、除菌、防腐、防カビ等の性能を有することをいう。抗菌・抗ウイルスの対象となるのは、細菌、真菌、ウイルスであり、具体的には、Actinomyces naeslundii、Actinomyces viscosus等のアクチノバクテリア門;Streptococcus mutans、Staphylococcus aureus、Enterococcus faecalis等のファーミキューテス門;Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Escherichia coli、Salmonella enterica等のプロテオバクテリア門;Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythia等のバクテロイデス門;Fusobacterium nucleatum等のフソバクテリア門;Chlamydia trachomatis等のクラミジア門;Treponem denticola等のスピロヘータ門;Candida albicans等のアスコマイコータ門;influenza Viruses、SARS-CoV-2、human immunodeficiency virus type 1等のRNAウイルス;herpes simplex viruses、hepatitis B virus、adenovirus等のDNAウイルス等が挙げられる。
【0025】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有するものであれば特に制限されないが、炭素材料100質量%に対する抗菌・抗ウイルス剤の割合が、0.01~100質量%であることが好ましい。これにより、抗菌・抗ウイルス性・抗菌・抗ウイルス保持性をより充分に発揮することができる。より好ましくは0.05~10質量%であり、更に好ましくは0.1~5質量%である。
上記抗菌・抗ウイルス剤の割合は、XPSにより、炭素材料を製膜したのみのサンプルと複合体としたときのサンプルとのCおよび抗菌抗ウイルス剤のみに存在する元素(例えば窒素、金属など)の元素量の差分により算出することができる。
【0026】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、基材の表面積に対する炭素材料の含有量が0.1~100mg/m2であることが好ましい。より好ましくは0.5~50mg/m2であり、更に好ましくは1~10mg/m2である。
上記炭素材料の含有量は、AFMの測定により算出することができる。
【0027】
上記炭素材料としては抗菌・抗ウイルス剤と相互作用するものであれば特に制限されないが、酸素(O)と結合した炭素を有するものであることが好ましい。本発明の炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が0.5~20であることが好ましい。該比は、1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。また、該比は、10以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましく、4以下であることが一層好ましく、3以下であることが特に好ましい。酸素原子数に対する炭素原子数の比は、XPS測定で得られるO1s領域の全ピーク面積とC1s領域の全ピーク面積との比率により確認することができる。
【0028】
本発明の炭素材料としてより好ましくはグラフェン骨格を有するものである。上記グラフェン骨格を有する炭素材料は、sp2結合で結合した炭素(C)を有し、該炭素が平面的に並んだものである。より好ましくは酸素(O)と結合した炭素を有するものであり、更に好ましくは、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェンである。酸化グラフェンとしては、グラフェンの炭素に酸素が結合したものを部分的に還元して得られる還元型酸化グラフェンであってもよく、例えば、抗菌・抗ウイルス剤との複合化により酸化グラフェンが還元されることや、製膜中及び/又は製膜後の処理により還元されることもある。上記炭素材料が酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンである形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。炭素材料が上記のように炭素が平面的に並んだ構造により、基材と相互作用できる実効面積が増えることや、酸素(O)と結合した炭素を有することにより、基材表面や抗菌・抗ウイルス剤の官能基とより充分に相互作用することで本発明の効果をより充分に発揮することができる。
【0029】
本発明の炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、その製造方法としては、黒鉛を酸溶媒中で強力な酸化剤と作用させる方法が一般的であり、酸化剤として硫酸と過マンガン酸カリウムを用いるHummers法を使用できる。またその他の方法として、硝酸と塩素酸カリウムを用いるBrodie法、酸化剤として硫酸、硝酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法等を使用できる。Hummers法における酸化方法を採用した場合、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する方法であってもよい。このようにして得られた炭素材料は、通常、ろ過、デカンテーション、遠心分離、分液抽出、水洗等の手法により精製されるものである。精製は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよい。精製後に超音波処理やホモジナイザー処理を行うことで、各酸化グラフェン層を剥離し、層数を減少させることが可能である。
また、精製前又は精製後に、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基を用いて炭素材料を含む分散液を中和してもよい。
【0030】
上記炭素材料は、基材上に積層されたものであり、炭素材料の層数は特に制限されないが、平均の層数が10以下であることが好ましい。これにより、基材への密着性がより向上し、かつ、基材への着色がより充分に抑制されることになる。炭素材料の平均の層数としてより好ましくは8以下であり、更に好ましくは5以下であり、特に好ましくは3以下であり、最も好ましくは1である。上記炭素材料の層数は、走査型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡により測定することができる。
【0031】
上記基材上に積層された炭素材料は、紫外可視分光光度計で測定される波長660nmにおける吸光度が0.05以下であることが好ましい。より好ましくは吸光度が0.01以下である。
【0032】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体における基材は、炭素材料を積層できるものであれば特に制限されないが、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質、セメント質及び象牙質からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、ガラス、繊維、象牙質である。
【0033】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体における抗菌・抗ウイルス剤は、抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、炭素材料と相互作用するものであれば特に制限されないが、水溶性のものであることが好ましい。日用品等は、水等で洗浄されることが多いため、水溶性の抗菌・抗ウイルス剤で加工されたものの場合には洗い流されて抗菌・抗ウイルス性が充分に発揮できないことがある。これに対して本発明において基材、炭素材料及び抗菌・抗ウイルス剤をこの順に積層して複合化することにより、炭素材料と抗菌・抗ウイルス剤の強い相互作用により、抗菌・抗ウイルス剤が水溶性であっても洗い流されることが充分に抑制されるため、抗菌・抗ウイルス剤が水溶性である場合には、本発明の技術的意義をより効果的に発揮することができる。なお、特許文献1、2に記載のとおり、酸化グラフェンも抗菌・抗ウイルス性能を発揮することができるが、本発明における抗菌・抗ウイルス剤は、上述の炭素材料以外のものである。
【0034】
上記抗菌・抗ウイルス剤としてより好ましくは、第4級窒素カチオン含有基、第1~3級アミノ基、金属元素及びハロゲン元素からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであることが好ましい。上記第4級窒素カチオン含有基は、第4級窒素カチオンを有するものであれば特に制限されないが、第4級アンモニウム基、イミニウム基、及び、ピリジニウム基等が挙げられる。上記抗菌・抗ウイルス剤としてより好ましくは、第4級窒素カチオン基、金属元素又はハロゲン元素を有するものであり、最も好ましくは第4級窒素カチオン含有基である。第4級窒素カチオン含有基としてはアンモニウム基が最も好ましい。
【0035】
上記抗菌・抗ウイルス剤として更に好ましくは、第4級アンモニウム基、第1~3級アミノ基、イミニウム基や金属イオン等のカチオン性の構造を有するものである。これにより炭素材料との相互作用がより強まり、抗菌作用がより長時間持続することとなる。上記カチオン性の構造としては、例えば下記式(1)~(4);
【0036】
【0037】
(式中、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表す。R3、R4、R5は、同一又は異なって、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表す。R1、R2又はR3、R4若しくはR3、R4、R5のうちの2つが結合して環構造を形成していてもよい。X-は、陰イオンを表す。)で表される基や後述する金属元素のイオンが好ましい。
上記抗菌・抗ウイルス剤は、カチオン性の構造を1つ有するものであっても、2つ以上有するものであってもよい。
【0038】
上記炭素数1~30の炭化水素基としては、特に制限されないが、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、炭化水素基における炭素原子がヘテロ原子に置換されていてもよい。上記ヘテロ原子としては酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等が挙げられる。好ましくは酸素原子であり、上記炭化水素基が例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基等のエーテル基を有している形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0039】
上記炭素数1~30の炭化水素基の炭素数として好ましくは1~25であり、より好ましくは1~20である。
【0040】
上記X-は、陰イオンであり、特に制限されないが、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲン化物イオン;硫酸メチルイオン等の硫酸アルキルイオン;酢酸イオン等の有機酸のイオン等が挙げられる。
【0041】
上記第4級アンモニウム基、第1~3級アミノ基を有する抗菌・抗ウイルス剤としては低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。高分子化合物としては例えば、下記式(5)~(8);
【0042】
【0043】
(式(5)及び(6)中、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表す。式(7)及び(8)中、R3~R5は、同一又は異なって、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表す。Zは、水素原子又はメチル基を表す。Yは、2価の連結基を表す。X-は、陰イオンを表す。m、nは、同一又は異なって、1~3の整数である。)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体が挙げられる。
【0044】
上記式(5)~(8)で表される単量体として具体的には、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル等の(メタ)アクリル酸とアルカノールアミンとのエステル類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のN,N-ジアリルメチルアミン及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物;アリルアミン及びこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物;1-アリルオキシ-3-ジブチルアミノ-2-オール、1-アリルオキシ-3-ジエタノールアミノ-2-オール等の炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~24のアミン化合物との付加反応物及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物等が挙げられる。
【0045】
上記カチオン性基を有する低分子化合物としては、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、セトリモニウム、塩化ドファニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化ドミフェン、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム基を有する化合物;メチルアミン等のアルキルアミン、ジメチルアミン等のジアルキルアミン、トリメチルアミン等のトリアルキルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、アルキルジアミノエチルグリシン等の第1~3級アミノ基を有する化合物(及びそれらのプロトン付加体、例えば塩酸塩等)等が挙げられる。
【0046】
上記カチオン性基を有するものとしてより好ましくは、下記式(9)~(11);
【0047】
【0048】
(式中、R3、R4、R5、R6は、同一又は異なって、水素原子、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を表す。R3、R4、R5、R6のうちの2つが結合して環構造を形成していてもよい。R7は、炭素数1~24のアルキル基を表す。pは、0~3の数を表す。Xは、陰イオンを表す。)のいずれかで表される化合物である。
上記R7におけるアルキル基の炭素数として好ましくは4~18である。pとして好ましくは0~2である。
【0049】
上記カチオン性基を有するものとして更に好ましくは、第4級アンモニウム基を有する化合物であり、より好ましくは塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウムである。
【0050】
上記抗菌・抗ウイルス剤における金属元素としては、例えば、銀、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、カドミウム、錫、白金、金、水銀等が挙げられる。好ましくは銀、銅、亜鉛である。
【0051】
上記金属元素を有する抗菌・抗ウイルス剤としては、特に制限されないが、例えば、上記金属元素の硝酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、塩化物塩、フッ化物塩、臭素化物塩、ヨウ化物塩、酢酸塩、ホウ酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、過マンガン酸塩、チオシアン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩などが挙げられる。
【0052】
上記ハロゲン元素を有する抗菌・抗ウイルス剤としては、特に制限されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素を有するものであれば特に制限されないが、具体的には例えば、ヨウ素、ヨウ化水素、ポビドンヨード、フッ化ナトリウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウムビス、(1,4-ブロモアセトキシ)-2-ブテン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ビス(トリクロロ)スルホン、5-オキシ-3,4-ジクロロ-1,2-ジチオール、1-〔(ジヨードメチル)スルホニル〕-4-メチルベンゼン、3-ヨード-2-プロパルギルブチルカーバメート、N,N,N'-トリメチル-N'-フルオロジメチルチオ-N'-フェニルスルフィド、2,3,5,6-テトラクロルイソフタロニトリル、3,4,5-トリブロモサリチルアニリド、2,2-ジブロモ-1-インダノン等が挙げられる。
【0053】
上記第4級アンモニウム基、第1~3級アミノ基、イミニウム基、金属元素及びハロゲン元素からなる群より選択される少なくとも1つを有する抗菌・抗ウイルス剤は、上記基又は元素を複数含むものであってもよく、例えば上記第4級アンモニウム基を有する抗菌・抗ウイルス剤がハロゲン元素を有していてもよい。
【0054】
本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、上述の構成よりなり、抗菌・抗ウイルス性能に優れ、かつ、着色がほとんどないため、幅広い用途に用いることができ、具体的には、骨や皮膚等の組織再生、人工歯等に用いられる生体材料用途;洗濯洗浄剤、柔軟剤、住居用洗剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、ファンデーション、アイメイク製品等の化粧品、制汗剤等の化粧料用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)等の工業用途;マスク、眼帯、包帯、絆創膏、ガーゼ等の衛生用品;医療器具;衣類等の繊維製品;食品添加物、太陽電池モジュールや有機素子デバイス、熱線遮蔽フィルムなどの電子機器用途等に好適に用いることができる。特に本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体は、生体材料用途により好適に用いることができる。
【0055】
<抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法>本発明の抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法は特に制限されないが、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを行って製造することが好ましい。本発明は、抗菌・抗ウイルス性複合体を製造する方法であって、該製造方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程(以下、製膜工程ともいう)と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程(以下、複合化工程ともいう)とを含む抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法でもある。
【0056】
上記製膜工程は、基材上に炭素材料を製膜できる限り特に制限されないが、炭素材料を含む組成物(以下、炭素材料組成物ともいう)に基材を浸漬させる方法や、基材に炭素材料を含む組成物を塗布する方法等により行うことができる。
【0057】
上記製膜工程で用いる炭素材料組成物における炭素材料の濃度は、0.001~10質量%であることが好ましい。これにより、基材の被覆率がより向上する。より好ましくは0.005~5質量%であり、更に好ましくは0.1~2質量%である。
【0058】
上記炭素材料組成物は、炭素材料を含むものであれば特に制限されないが、溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい、上記溶媒としては、炭素材料を分散させるものであれば特に制限されず、水;N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等の極性溶媒が好ましい。上記炭素材料含有組成物が極性溶媒を含むことにより、炭素材料の分散性がより向上し、より均一に製膜することができる。より好ましくは水である。
【0059】
上記炭素材料組成物中に含まれていてもよいその他の成分としては特に制限されないが、例えば、界面活性剤等が挙げられる。これにより、炭素材料組成物の分散安定性がより向上する。
【0060】
上記抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法は、製膜工程後の基材を洗浄する工程を有していてもよい。これにより、製膜していない炭素材料をより充分に除去することができる。着色をより充分に抑制するために用いる炭素材料の濃度は上述の範囲であることが好ましいが、濃度が濃い場合であっても、基材最表面と相互作用していない余分な炭素材料を除去することで、限りなく無色に近づけることが可能である。この場合用いる炭素材料の濃度(量)に関わらず、最終的に基材表面に残る炭素材料量は基材最表面と相互作用可能な炭素材料量である。最表面のみの炭素材料であっても本発明の効果を十分に発揮する。また、洗浄処理により、多層の炭素材料が選択的に除去されることで、単層~10層程度の薄膜が残りやすい。さらに製膜工程、洗浄工程はそれぞれ複数回繰り返すことも好ましい。これにより炭素材料膜の膜厚や被覆率を任意に変更することが可能である。
【0061】
上記複合化工程は、製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させることができる限り特に制限されないが、製膜後の基材を抗菌・抗ウイルス剤を含む組成物(以下、抗菌・抗ウイルス剤組成物ともいう)に浸漬させる方法や、製膜後の基材に抗菌・抗ウイルス剤組成物を塗布する方法等により行うことができる。
【0062】
上記複合化工程で用いる抗菌・抗ウイルス剤組成物における抗菌・抗ウイルス剤の濃度は、0.001~100質量%であることが好ましい。これにより、より効率的に炭素材料と複合化することができる。より好ましくは0.01~50質量%であり、更に好ましくは0.1~10質量%である。
【0063】
上記抗菌・抗ウイルス剤組成物は、抗菌・抗ウイルス剤を含むものであれば特に制限されないが、溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。上記溶媒としては上述のものが挙げられ、好ましくは水である。
【0064】
上記抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法は、複合化工程後の基材を洗浄する工程を有していてもよい。これにより、複合化していない抗菌・抗ウイルス剤をより充分に除去することができる。また、複合化工程、除去工程は複数回繰り返してもよい。これにより炭素材料と抗菌・抗ウイルス剤を効果的に複合化することが可能である。
【0065】
<抗菌・抗ウイルス性コート方法>
本発明はまた、基材に抗菌・抗ウイルス性のコートをする方法であって、該方法は、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に抗菌・抗ウイルス剤を複合化させる工程とを含む抗菌・抗ウイルス性コート方法でもある。上記製膜工程、複合化工程は、上記抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法における製膜工程、複合化工程と同様である。また、上記抗菌・抗ウイルス性コート方法が、上述の洗浄工程を含んでいてもよい。
【0066】
<抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セット>
本発明は、抗菌・抗ウイルス性複合体を製造するためのセットであって、該セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と抗菌・抗ウイルス剤又は抗菌・抗ウイルス剤組成物とを有する抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セットでもある。上記抗菌・抗ウイルス性複合体製造用セットは、炭素材料組成物と抗菌・抗ウイルス剤組成物とを有するものであることが好ましい。上記セットにおける炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤の具体例及び好ましい例は抗菌・抗ウイルス性複合体において述べたとおりであり、上記炭素材料組成物、抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記抗菌・抗ウイルス性複合体の製造方法、抗菌・抗ウイルスコート方法で用いられるものと同様であることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0068】
各種物性の測定を以下の方法により行った。
<ラマンスペクトルの測定>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算32回(分解能=4cm-1)
【0069】
<X線光電子分光(XPS)による分析>
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
【0070】
<SEM観察>
SEM観察は走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7600F)を用いて、加速電子5.0keVで行い、二次電子像を観察した。
【0071】
<紫外可視分光光度計による測定>
石英基板の透過率を100%とし、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV-3100)を用いて各サンプルの660nmでの吸光度を測定した。
【0072】
<抗菌性評価(1)>
各試料を48穴プレートに作製し、Streptococcus mutans(ATCC 35668)(1.0×107CFU/mL)と培地(0.1%グラミシジン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、0.1%バシトラシン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、1%スクロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加したブレインハートインフュージョン培地(栄研化学株式会社製))からなる懸濁液をそれぞれに播種して37℃で24時間嫌気培養した後、可視光度計(フナコシ社製、CO7500)を用いて590nmで、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして試料を用いないものについても同様に試験を行った。
【0073】
<抗菌性評価(2)>
各試料を48穴プレートに静置し、Actinomyces naeslundii(ATCC 27039)(2.0×106CFU/mL)と培地(アクチノマイセス培地(ベクトン・ディッキンソン社製))からなる懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した後、可視光度計(フナコシ株式会社製、CO7500)を用いて590nmで、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして未処理ガーゼについても同様に試験を行った。
【0074】
<抗菌性評価(3)>
各試料を48穴プレートに静置し、Actinomyces naeslundii(ATCC 27039)(1.0×107CFU/mL)と培地(アクチノマイセス培地)からなる懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した。培養した試料をリン酸緩衝生理食塩水にて洗浄し、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて生死染色(生菌は緑色、死菌は赤色)し、蛍光顕微鏡にて観察した。画像処理ソフト(ImageJ)にて緑と赤の蛍光強度を測定した(図面では生菌が白、死菌は黒色で表示)。
【0075】
<抗菌性評価(4)>
菌種をEscherichia coli(ATCC 25922)、培地をブレインハートインフュージョン培地に変更した以外は、抗菌性評価(2)と同様に試験を行った。
【0076】
<抗菌性評価(5)>
菌種をActinomyces naeslundii(ATCC 2703)、培地をアクチノマイセス培地に変更した以外は、抗菌性評価(1)と同様に試験を行った。
【0077】
<抗ウイルス性評価(1)>
ウイルス液(SARS-CoV-2 JPN/TY/WK-521株)を、2%FCS入りのDMEM培地で希釈し10^6 TCID50/mLとなるように調製した。
ウイルス液をサンプルに0.25mLずつ入れて密封、室温で静置、24時間後に取り出して、ウイルスの感染価を測定した。ウイルスの感染価は、TMPRSS2発現VeroE6細胞を用いて、50% Tissue Culture Infectious Dose(TCID50)として分析した。
【0078】
<調製例1>酸化グラフェン分散液(1)の調製
酸化グラフェン(以下、GOともいう)分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、GO分散液(1)を調製した。
【0079】
<実施例1>抗菌・抗ウイルス性複合体(1)の調製
GO分散液を0.1%に濃度調整し、0.1mLを48穴プレートに滴下した。この時GO分散液はプレート底面を完全に覆っていた。常温下で乾固させ、その後、歯科用水銃(株式会社モリタ製作所製)で水を勢いよく吹きかけ、GO膜を洗浄し、余分なGOを取り除き、乾燥した。塩化セチルピリジニウム(CPC、東京化成工業株式会社製)を0.1%水溶液とし、GO成膜した48穴プレートに0.1mL滴下した。含侵後、蒸留水により3回洗浄して、余分なCPCを除去し、乾燥し、抗菌・抗ウイルス性複合体(1)を調製した。
【0080】
<実施例2>抗菌・抗ウイルス性複合体(2)の調製
CPCを塩化ベンザルコニウム(BAC、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(2)を調製した。
【0081】
<比較例1>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)の調製
CPCを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)を調製した。
【0082】
<比較例2>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(2)の調製
GOを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(2)を調製した。
【0083】
<比較例3>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(3)の調製
CPCをBACに変更した以外は、比較例2と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(3)を調製した
【0084】
<実施例3>抗菌・抗ウイルス性複合体(3)の調製
1cm角に裁断した小折ガーゼ(株式会社ニチエイ製)を、0.001%GO分散液に10秒浸漬させ、蒸留水にて3回洗浄した。その後、0.1%CPCに10秒浸漬させ、蒸留水にて3回洗浄し、乾燥し、抗菌・抗ウイルス性複合体(3)を調製した。
【0085】
<比較例4>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)の調製
CPCを用いなかったこと以外は、実施例3と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)を調製した。
【0086】
<比較例5>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(5)の調製
GOを用いなかったこと以外は、実施例3と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(5)を調製した。
【0087】
<実施例4>抗菌・抗ウイルス性複合体(4)の調製
前処理としてアズワン社製溶融石英研磨版20mm×20mm×1mmtを空気雰囲気下700℃2時間加熱することで、表面の有機物を焼き飛ばした。この石英基板を用いて、調製例1で合成したGO分散液を0.1%に濃度調整し、0.4mlを石英基板上にキャストした。この時GO分散液は石英基板を完全に覆っていた。常温真空下で乾固させ、その後、イオン交換水を勢いよく吹きかけ、GO膜を洗浄し、余分なGOを取り除いた。再び真空乾燥後、CPCを0.1%水溶液とし、その溶液中に基板ごと10秒間含侵させた。含侵後、水洗により余分なCPCを除去し、真空乾燥させ、抗菌・抗ウイルス性複合体(4)得た。吸光度は0.01未満であった。この抗菌・抗ウイルス性複合体(4)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、抗菌・抗ウイルス性複合体(4W)とした。抗菌・抗ウイルス性複合体(4W)に含まれるCPCはXPS分析から抗菌・抗ウイルス性複合体(4)と比較して、80%残存することが分かった。
【0088】
<実施例5>抗菌・抗ウイルス性複合体(5)の調製
CPCをBACに変更した以外は、実施例4と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(5)を調製した。吸光度は0.01未満であった。この抗菌・抗ウイルス性複合体(5)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、抗菌・抗ウイルス性複合体(5W)とした。抗菌・抗ウイルス性複合体(5W)に含まれるBACはXPS分析から抗菌・抗ウイルス性複合体(5)と比較して、100%残存することが分かった。
【0089】
<実施例6>抗菌・抗ウイルス性複合体(6)の調製
CPCを塩化ベンゼトニウム(BZC、東京化成工業株式会社製)に変更した以外は、実施例4と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(6)を調製した。吸光度は0.01未満であった。この抗菌・抗ウイルス性複合体(6)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、抗菌・抗ウイルス性複合体(6W)とした。抗菌・抗ウイルス性複合体(6W)に含まれるBZCはXPS分析から抗菌・抗ウイルス性複合体(6)と比較して、90%残存することが分かった。
【0090】
<比較例6>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)の調製
実施例4の余分なGOを取り除き、真空乾燥させた段階のものを用意した(GOのみで抗菌剤なし)。吸光度は0.01未満であった。この比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6W)とした。比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6W)に含まれるGOはXPS分析から比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)と比較して、100%残存することが分かった。
【0091】
<比較例7>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(7)の調製
実施例4で有機物を焼き飛ばしたのち、GO製膜工程を省き、CPC0.1%水溶液に基板ごと10秒間含侵させた。含侵後、水洗により余分なCPCを除去し、真空乾燥させた(CPCのみでGOなし)吸光度は0.01未満であった。
【0092】
<比較例8>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(8)の調製
CPCをBACに変更した以外は、比較例7と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(8)を調製した。吸光度は0.01未満であった。
【0093】
<比較例9>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(9)の調製
CPCをBZCに変更した以外は、比較例7と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(9)を調製した。吸光度は0.01未満であった。
【0094】
<実施例7>抗菌・抗ウイルス性複合体(7)の調製
ヒト歯根からダイヤモンドディスクを用いて厚さ1mmの象牙質チップを切り出し、蒸留水中で5分間超音波洗浄した後、0.01%GO分散液に10秒浸漬させ、洗浄せずに常温で風乾した。その後、0.1%CPCに10秒浸漬させ、蒸留水にて3回洗浄し、乾燥し、抗菌・抗ウイルス性複合体(7)を調製した。
【0095】
<実施例8>抗菌・抗ウイルス性複合体(8)の調製
CPCを塩化ベンザルコニウム(BAC)に変更した以外は、実施例7と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(8)を調製した。
【0096】
<比較例10>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)の調製
CPCを用いなかったこと以外は、実施例7と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)を調製した。
【0097】
<比較例11>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(11)の調製
GOを用いなかったこと以外は、実施例7と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(11)を調製した。
【0098】
<実施例9>抗菌・抗ウイルス性複合体(9)の調製
CPCを塩化ベンゼトニウム(BZC)に変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(9)を調製した。
【0099】
<比較例12>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(12)の調製
BZCを用いなかったこと以外は、実施例9と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(12)を調製した。
【0100】
<比較例13>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(13)の調製
GOを用いなかったこと以外は、実施例9と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(13)を調製した。
【0101】
<実施例10>抗菌・抗ウイルス性複合体(10)の調製
用いたCPC濃度を1%としたこと以外は、実施例1と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(10)を調製した。
【0102】
<実施例11>抗菌・抗ウイルス性複合体(11)の調製
用いたCPC濃度を0.1%としたこと以外は、実施例10と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(11)を調製した。
【0103】
<実施例12>抗菌・抗ウイルス性複合体(12)の調製
用いたCPC濃度を0.01%としたこと以外は、実施例10と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(12)を調製した。
【0104】
<実施例13>抗菌・抗ウイルス性複合体(13)の調製
用いたBAC濃度を1%としたこと以外は、実施例2と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(13)を調製した。
【0105】
<実施例14>抗菌・抗ウイルス性複合体(14)の調製
用いたBAC濃度を0.1%としたこと以外は、実施例13と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(14)を調製した。
【0106】
<実施例15>抗菌・抗ウイルス性複合体(15)の調製
用いたBAC濃度を0.01%としたこと以外は、実施例13と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(15)を調製した。
【0107】
<実施例16>抗菌・抗ウイルス性複合体(16)の調製
CPC0.1%水溶液の代わりに、亜鉛換算で0.1%の酢酸亜鉛水溶液(富士フイルム和光純薬社製)を用いた以外は実施例4と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(16)を調製した。
この抗菌・抗ウイルス性複合体(16)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、抗菌・抗ウイルス性複合体(16W)とした。抗菌・抗ウイルス性複合体(16W)に含まれる亜鉛はXPS分析から抗菌・抗ウイルス性複合体(16)と比較して、50%残存することが分かった。
【0108】
<実施例17>抗菌・抗ウイルス性複合体(17)の調製
CPC0.1%水溶液の代わりに、銀換算で0.1%の酢酸銀水溶液(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例4と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(17)を調製した。
この抗菌・抗ウイルス性複合体(17)を基板ごと、イオン交換水中で1か月間放置し、抗菌・抗ウイルス性複合体(17W)とした。抗菌・抗ウイルス性複合体(17W)に含まれる銀はXPS分析から抗菌・抗ウイルス性複合体(17)と比較して、30%残存することが分かった。
【0109】
<実施例18>抗菌・抗ウイルス性複合体(18)の調製
CPCを0.1%水溶液の代わりに、1%のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩水溶液(ADAEG、富士フイルム和光純薬社製)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(18)を調製した。
【0110】
<比較例14>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(14)の調製
GOを用いなかった以外は実施例18と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(14)を調製した。
【0111】
<調製例2>中和処理酸化グラフェン分散液(2)の調製
GO分散液(1)を水酸化カリウム水溶液でpH=6まで中和し、中和処理GO分散液(2)を調製した。
【0112】
<実施例19>抗菌・抗ウイルス性複合体(19)の調製
GO分散液の代わりに中和処理GO分散液(2)を使用した以外は実施例2と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(19)を調製した。
【0113】
<比較例15>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(15)の調製
BACを用いなかったこと以外は、実施例19と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(15)を調製した。
【0114】
<実施例20>抗菌・抗ウイルス性複合体(20)の調製
CPCをネオステリングリーンうがい液(NEO、有効成分:ベンゼトニウム塩化物、日本歯科薬品製、水で0.1%に薄めて使用)に変更した以外は、実施例1と同様にして抗菌・抗ウイルス性複合体(20)を調製した。
【0115】
<比較例16>比較抗菌・抗ウイルス性複合体(16)の調製
GOを用いなかったこと以外は、実施例20と同様にして比較抗菌・抗ウイルス性複合体(16)を調製した。
【0116】
<実施例21>抗菌・抗ウイルス性複合体(2W1、2W3、2W7、2W30)の調製
実施例2と同様にして、抗菌・抗ウイルス性複合体(2)を調製したのち、1、3、7、30日間水中で保管し、それぞれ抗菌・抗ウイルス性複合体(2W1、2W3、2W7、2W30)とした。後述するが、抗菌・抗ウイルス性複合体(2W30)については抗菌性が低下していたため、さらに0.1%のBAC水溶液をプレートに0.1mL滴下した。含侵後、蒸留水により3回洗浄して、余分なBACを除去し、乾燥し、抗菌・抗ウイルス性複合体(2W30+)を調製した。
【0117】
実施例1、2で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(2)、比較例1~3で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)~(3)及びコントロールとして未処理の培地について、S. mutansに対する抗菌性評価(1)を行った。結果を
図1及び2に示した。
【0118】
実施例3で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、比較例4、5で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)、(5)及びコントロールとして未加工のガーゼについて、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図3に示した。
【0119】
実施例4~6で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(4)~(6)、比較例6~9で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(6)~(9)及びコントロールとして焼成した石英基板について、ラマンスペクトル、XPS分析、SEM測定を行った。結果を
図4~19及び表1(XPS分析)に示した。
【0120】
実施例7、8で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(7)、(8)、比較例10、11で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)、(11)及びコントロールとして焼成した石英基板について、ラマンスペクトル、XPS分析を
図20~23及び表2(XPS分析)に示した。
【0121】
実施例7で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(7)、比較例10、11で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(10)、(11)について、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(3)を行った。結果を
図24に示した。
【0122】
実施例9で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(9)、比較例12、13で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(12)、(13)及びコントロールとして未処理の培地について、S. mutans及びA.naeslundiiに対する抗菌性評価(5)を行った。結果を
図25に示した。
【0123】
実施例10~15で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(10)~(15)、及びコントロールとして未処理の培地について、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(5)を行った。結果を
図26に示した。
【0124】
実施例3で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、比較例4、5の比較抗菌・抗ウイルス性複合体(4)、(5)及びコントロールとして未処理の培地について、Escherichica coliに対する抗菌性評価(4)を行った。結果を
図27に示した。
【0125】
実施例2で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(2)、比較例1、3で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(3)及びコントロールとして未処理の培地について、コロナウイルスに対する抗ウイルス性評価(1)を行った。結果を
図28に示した。
【0126】
実施例18で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(18)、比較例1、14で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(14)について、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図29に示した。
【0127】
実施例19で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(19)、比較例3、15で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(3)、(15)及びコントロールとして未処理の培地について、S. mutansに対する抗菌性評価(1)及びA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図30及び31に示した。
【0128】
実施例20で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(20)、比較例1、16で得られた比較抗菌・抗ウイルス性複合体(1)、(16)及びコントロールとして未処理の培地について、S. mutansに対する抗菌性評価(1)及びA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図32及び33に示した。
【0129】
実施例21で得られた抗菌・抗ウイルス性複合体(2W1、2W3、2W7、2W30、2W30+)及びコントロールついて、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図34に示した。
【0130】
【0131】
【0132】
図1~3、24~33の結果より、基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有する抗菌・抗ウイルス性複合体が、炭素材料のみの場合、抗菌・抗ウイルス剤のみの場合よりも抗菌・抗ウイルス性能に優れることが明らかとなった。また、抗菌・抗ウイルス性の指標(JIS等)として、24時間後の抗菌・抗ウイルス率が99%以上あるものが抗菌・抗ウイルス効果があると規定されるが、本発明のものでは実施例2の場合、99.3%以上の抗菌性と、99.7%以上の抗ウイルス性が確認できたことから、高い抗菌・抗ウイルス効果があると言える。
【0133】
ラマンスペクトルについて、
図4~7、20~23において、1600cm
-1、1350cm
-1付近にGO由来のピークが観測され、抗菌・抗ウイルス性複合体(4)~(8)には、GOが含まれることがわかる。また、GOのみを使用した比較抗菌・抗ウイルス性複合体(7)、(10)にもGOが含まれることが分かる。なお、
図7~11、20~23における2800cm
-1付近に観測されるピークは装置のノイズである。
【0134】
XPS分析について、表1より、比較例7~9では抗菌・抗ウイルス剤の塗布によりコントロールに対してCが増加しているが、Nが見られず、抗菌・抗ウイルス剤の量が非常に少ないことがわかる。これに対して実施例4~6は、GOのみの比較例6に対して、C、Nがともに増加し、抗菌・抗ウイルス剤が複合化していることがわかる。つまりGOが存在することにより抗菌・抗ウイルス剤が良好に保持されていることがわかる。
図12、13における矢印は、C-O由来のピークを示す。表2では、実施例7、8、比較例10、11では象牙質由来のCa量を基準として、C及びNの量の比を取り比較したところ、実施例7、8ではO及びNの比がControlと比較して増加していることからGO及び抗菌・抗ウイルス剤が確かに存在することが分かる。また、CPCのみの比較例11ではNの比はControlと比較して増加していないことから、やはりGOが存在しない条件では抗菌・抗ウイルス剤は保持されていないことがわかる。さらにGOと抗菌・抗ウイルス剤を併用することで、水中で1か月間保管したとしても充分な量の抗菌・抗ウイルス剤を維持できることが分かった。
【0135】
SEM測定について、
図16~19より、それぞれGOの存在が確認でき、単層~数層であることがわかる。
【0136】
図34の結果から、基材、炭素材料、抗菌・抗ウイルス剤がこの順に積層された構造を有する抗菌・抗ウイルス性複合体が、1週間水没させた後でも高い抗菌性を発揮したほか、1か月後では抗菌性が低下したが、再度抗菌剤を作用させることで再生させることができた。このことから、耐水性の高く、再生も容易な抗菌・抗ウイルス性複合体を提供できる。