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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20241122BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20241122BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/04 E
G01N27/12 D
G01N31/00 V
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023520911
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015642
(87)【国際公開番号】W WO2022239551
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021080920
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健司
(72)【発明者】
【氏名】洪 達超
(72)【発明者】
【氏名】石原 伸輔
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-136291(JP,A)
【文献】特開2010-175367(JP,A)
【文献】特開2002-168818(JP,A)
【文献】特開平02-073143(JP,A)
【文献】特開昭62-126341(JP,A)
【文献】特表2015-515622(JP,A)
【文献】国際公開第21/070705(WO,A1)
【文献】国際公開第19/049693(WO,A1)
【文献】国際公開第21/095440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
G01N 31/00 - 31/10
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ガス及び第2ガスを検出可能に構成され、
第1センサ部と、前記第1センサ部の上流に位置する第1通過部と、を有する第1流路と、
第2センサ部と、前記第2センサ部の上流に位置する第2通過部と、を有する第2流路と、
前記第1及び2センサ部が並列接続され、前記第1及び第2センサ部の前記並列接続間の中点電位を検出可能に構成されたブリッジ回路と、
を備え、
前記第1及び第2センサ部並びに前記第1及び第2通過部が、前記第1ガスを前記第1及び第2流路に流した場合と、前記第2ガスを前記第1及び第2流路に流した場合とで、前記中点電位の極性が異なるように構成されており、
前記第1ガスは、アルケン類であり、
前記第2ガスは、アルコール類である
ガス検出装置。
【請求項2】
請求項に記載のガス検出装置であって、
前記第1通過部では、前記第1ガスが通過した際の酸の発生量が前記第2通過部よりも多く、
前記第2通過部では、前記第2ガスが通過した際の酸の発生量が前記第1通過部よりも多く、
前記第1及び第2センサ部は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成されている
ガス検出装置。
【請求項3】
請求項に記載のガス検出装置であって、
前記第1通過部は、アルケン類をアルデヒド類に変換する第1触媒層と、前記第1触媒層より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第1反応層と、を有し、
前記第2通過部は、アルコール類をアルデヒド類に変換する第2触媒層と、前記第2触媒層より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第2反応層と、を有する
ガス検出装置。
【請求項4】
請求項又はに記載のガス検出装置であって、
酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、前記ブリッジ回路において前記第1及び第2センサ部に対して並列に接続された第3センサ部と、前記第3センサ部の上流に位置する第3通過部と、を有する第3流路を更に備え、
前記第3通過部では、前記第1ガスが通過した際の酸の発生量が前記第1通過部よりも少なく、前記第2ガスが通過した際の酸の発生量が前記第2通過部よりも少ない
ガス検出装置。
【請求項5】
請求項又はに記載のガス検出装置であって、
第3ガスを更に検出可能であり、
酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、前記ブリッジ回路において前記第1及び第2センサ部に対して並列に接続された第4センサ部と、前記第4センサ部の上流に位置し、前記第3ガスが通過した際の酸の発生量が前記第1及び第2通過部よりも少ない第4通過部と、を有する第4流路を更に備える
ガス検出装置。
【請求項6】
請求項に記載のガス検出装置であって、
第3ガスを更に検出可能であり、
酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、前記ブリッジ回路において前記第1、第2、及び第3センサ部に対して並列に接続された第4センサ部と、前記第4センサ部の上流に位置し、前記第3ガスが通過した際の酸の発生量が前記第1、第2、及び第3通過部よりも少ない第4通過部と、を有する第4流路を更に備える
ガス検出装置。
【請求項7】
請求項又はに記載のガス検出装置であって、
前記第3ガスはアルデヒド類である、
ガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検出するガス検出装置が様々な分野で活用されている。例えば、農業や食品の分野では、植物から放出されるエチレンや、エタノールなどの各種ガス分子を検出することで、その鮮度を評価して品質管理することが行われている。エチレン成分は、野菜や果物の熟成・老化を進行させる植物ホルモンであり、その濃度を適切に管理する必要がある。
【0003】
エチレンの濃度を電気化学的に検出可能な小型のガスセンサ(例えば、Drager社製、Sensor XS EC Organic Vapors 68 09 115)などが市販されている。
また、特許文献1では、エチレン分子が遷移金属錯体に配位したときの、カーボンナノチューブの導電性の変化量から、エチレンを検出するセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/184222号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなセンサを備えたガス検出装置では、エチレンの以外の有機化学物質にも応答することがあり、エチレンと、その他のガスとの2種以上のガスを識別して検出することに対応していない。
また、ガスクロマトグラフィーを用いた手法では、2種以上の各種ガスの検出が可能であるが、装置が大型であることに加え、分析に非常に多くの時間と手間がかかる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、1つのガス検出装置で2種以上のガスを識別可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るガス検出装置は、第1ガス及び第2ガスを検出可能に構成され、第1流路と、第2流路と、ブリッジ回路と、を備える。
上記第1流路は、第1センサ部と、上記第1センサ部の上流に位置する第1通過部と、を有する。
上記第2流路は、第2センサ部と、上記第2センサ部の上流に位置する第2通過部と、を有する。
上記ブリッジ回路は、上記第1及び2センサ部が並列接続され、上記第1及び第2センサ部の前記並列接続間の中点電位を検出可能に構成されている。
上記第1及び第2センサ部並びに上記第1及び第2通過部が、上記第1ガスを上記第1及び第2流路に流した場合と、上記第2ガスを上記第1及び第2流路に流した場合とで、上記中点電位の極性が異なるように構成されている。
【0008】
本発明のガス検出装置では、複数の流路に設けられるセンサ部を1つのブリッジ回路で並列接続することで、複数の流路に対して2種以上のガスを流したときにブリッジ回路から得られる出力結果が相互に異なるように構成することができる。したがって、本発明によれば、1つのガス検出装置で2種以上のガスを識別することが可能となる。
【0009】
ガス検出装置では、上記第1ガスをアルケン類とし、上記第2ガスをアルコール類とすることができる。
この場合、上記第1通過部では、上記第1ガスが通過した際の酸の発生量が上記第2通過部よりも多くすることができる。
上記第2通過部では、上記第2ガスが通過した際の酸の発生量が上記第1通過部よりも多くすることができる。
上記第1及び第2センサ部は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成することができる。
【0010】
上記第1通過部は、アルケン類をアルデヒド類に変換する第1触媒層と、上記第1触媒層より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第1反応層と、を有してもよい。
上記第2通過部は、アルコール類をアルデヒド類に変換する第2触媒層と、上記第2触媒層より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第2反応層と、を有してもよい。
【0011】
ガス検出装置は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、上記ブリッジ回路において上記第1及び第2センサ部に対して並列に接続された第3センサ部と、上記第3センサ部の上流に位置する第3通過部と、を有する第3流路を更に備えてもよい。
上記第3通過部では、上記第1ガスが通過した際の酸の発生量が上記第1通過部よりも少なく、上記第2ガスが通過した際の酸の発生量が上記第2通過部よりも少なくてもよい。
【0012】
ガス検出装置は、第3ガスを更に検出可能に構成することができる。
この場合、ガス検出装置は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、上記ブリッジ回路において上記第1及び第2センサ部に対して並列に接続された第4センサ部と、上記第4センサ部の上流に位置し、上記第3ガスが通過した際の酸の発生量が上記第1及び第2通過部よりも少ない第4通過部と、を有する第4流路を更に備えた構成とすることができる。
また、ガス検出装置は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、前記ブリッジ回路において前記第1、第2、及び第3センサ部に対して並列に接続された第4センサ部と、前記第4センサ部の上流に位置し、前記第3ガスが通過した際の酸の発生量が前記第1、第2、及び第3通過部よりも少ない第4通過部と、を有する第4流路を更に備えた構成とすることもできる。
ガス検出装置では、上記第3ガスをアルデヒド類とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、1つのガス検出装置で2種以上のガスを識別可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係るガス検出装置の模式図である。
図2】第1の実施形態に係るガス検出装置にエチレンとエタノールとをそれぞれを導入した時の第1及び第2センサ部の電流値の変化率を示すグラフである。
図3】第1の実施形態に係るガス検出装置にエチレンとエタノールとの両方を含む試料ガスを導入した時の中点電位V1の経時変化を例示するグラフである。
図4】本発明の第2の実施形態に係るガス検出装置の模式図である。
図5】第2の実施形態に係るガス検出装置の模式図である。
図6】第2の実施形態に係るガス検出装置の模式図である。
図7】第2の実施形態に係るガス検出装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
[ガス検出装置10の全体構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガス検出装置10の模式図である。ガス検出装置10は、相互に異なる種類の第1ガス及び第2ガスを検出可能に構成される。ガス検出装置10は、第1流路F1と、第2流路F2と、ブリッジ回路BCと、を備える。
【0016】
流路F1,F2は、相互に並列で配置されており、一方向に試料ガスGを流すことが可能なように構成されている。
第1流路F1は、第1センサ部S1と、第1センサ部S1の上流に位置する第1通過部T1と、を有する。
第2流路F2は、第2センサ部S2と、第2センサ部S2の上流に位置する第2通過部T2と、を有する。
【0017】
ガス検出装置10では、試料ガスGが、ポンプPを介して導入口F0から第1流路F1及び第2流路F2の両方に同時に導入される。第1流路F1に導入された試料ガスGは、第1通過部T1を通過して第1センサ部S1に到達する。第2流路F2に導入された試料ガスGは、第2通過部T2を通過して第2センサ部S2に到達する。
通過部T1,T2は、通過する過程の試料ガスGに含まれる第1及び第2ガスに対して相互に異なる作用を及ぼすように構成される。
センサ部S1,S2は、通過部T1,T2を通過した第1及び第2ガスを異なる電気信号として検出可能に構成される。
【0018】
ガス検出装置10は、センサ部S1,S2で検出される電気信号を統合して1つの出力結果を得るためにブリッジ回路BCを用いる。
ブリッジ回路BCは、センサ部S1,S2が並列接続され、センサ部S1,S2の並列接続間の中点電位V1を検出可能に構成される。つまり、ガス検出装置10では、センサ部S1,S2で検出される電気信号に応じた中点電位V1が、並列接続されたセンサ部S1,S2に接続された導線間の電位差として検出される。
より詳細に、ブリッジ回路BCは、直流電源PSと接地点との間において、第1センサ部S1と第1可変抵抗R1とを直列に接続した回路と、第2センサ部S2と第2可変抵抗R2とを直列に接続した回路と、が並列に接続された構成を有する。中点電位V1は、第1センサ部S1と第1可変抵抗R1との間の第1接続点と、第2センサ部S2と第2可変抵抗R2との間の第2接続点と、の間の電位差として得られる。ガス検出装置10では、第1及び第2接続点に接続された電位検出部Mによって中点電位V1を検出することができる。電位検出部Mは、少なくとも接続点間の電位差の極性を検出可能に構成されていればよく、例えば検流計を用いることができる。
【0019】
ガス検出装置10では、センサ部S1,S2部及び通過部T1,T2が、第1ガスを流路F1,F2に流した場合と、第2ガスを流路F1,F2に流した場合とで、中点電位V1の極性が異なるように構成される。センサ部S1,S2部及び通過部T1,T2の構成は、第1及び第2ガスの組み合わせに応じて様々に決定可能である。
これにより、ガス検出装置10は、中点電位V1の極性によって、試料ガスGに含まれる第1及び第2ガスを識別可能となる。
【0020】
なお、ブリッジ回路BCとしては、上記の構成に限定されず、上記と同様の機能が得られる範囲内において様々な構成を採用可能である。
【0021】
[ガス検出装置10の構成例]
第1の実施形態に係るガス検出装置10の構成例として、第1ガスをアルケン類とし、第2ガスをアルコール類とした場合の構成について説明する。アルケン類としては、例えば、エチレンやプロピレンなどが挙げられる。また、アルコール類としては、例えば、メタノールやエタノールやプロパノールなどが挙げられる。
【0022】
通過部T1,T2は、センサ部S1,S2間で検出される酸の空間濃度の差が、アルケン類とアルコール類とで逆方向の変化になるように、通過部T1,T2を通過したアルケン類及びアルコール類に対して作用を及ぼす構成とすることができる。
具体的に、第1通過部T1は、アルケン類が通過した際の酸の発生量が第2通過部T2よりも多くなるように構成される。この一方で、第2通過部T2は、アルコール類が通過した際の酸の発生量が第1通過部T1よりも多くなるように構成される。
センサ部S1,S2は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成される。
上記構成により、ガス検出装置10では、センサ部S1,S2が、アルケン類及びアルコール類に対して、相互に異なる電気抵抗値の変化を示すことで、アルケン類及びアルコール類に応じた異なる極性の中点電位V1が検出される。これにより、ガス検出装置10では、第1及び第2ガスの識別が可能となる。
【0023】
通過部T1,T2は、異なる酸化能を有する構成とすることができる。
具体的に、第1通過部T1には、アルケン類をアルデヒド類に変換する第1触媒層C1と、第1触媒層C1より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第1反応層A1と、を設けることができる。
第2通過部T2には、アルコール類をアルデヒド類に変換する第2触媒層C2と、第2触媒層C2より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第2反応層A2と、を設けることができる。
この構成により、通過部T1,T2間の酸の発生量の差から、アルケン類及びアルコール類がより選択的に検出されやすく、アルケン類及びアルコール類をより確実に識別することができる。
【0024】
ガス検出装置10におけるセンサ部S1,S2の一構成例について説明する。
本構成例に係るセンサ部S1,S2では、酸との接触によって電気抵抗値が減少する性質を有する半導体材料を用いた。半導体材料としては、超分子ポリマーで分散されたカーボンナノチューブを用いた。
また、第1触媒層C1では、Pd/V/TiOを用いた。第2触媒層C2では、V/TiOを用いた。反応層A1,A2ではいずれも、ヒドロキシルアミン塩類を用いた。触媒層C1,C2及び反応層A1,A2の構成の詳細については後述する。
中点電位V1の変化を最も高感度に検出するための初期設定として、最初に清浄ガス(空気)を導入し、RS1(第1センサ部S1の電気抵抗値)=RR1(第1可変抵抗R1の電気抵抗値)、RS2(第2センサ部S2の電気抵抗値)=RR2(第2可変抵抗R2の電気抵抗値)、V1(中点電位)=0に設定する。その後、ガス検出装置10にエチレン及びエタノールをそれぞれ導入し、センサ部S1,S2の電流値の変化を測定した。
【0025】
図2は、上記構成例に係るセンサ部S1,S2における電流値の変化率(%)を例示するグラフである。
図2に示されるように、エチレンを導入した時には第2センサ部S2より第1センサ部S1で電流値が上昇し、エタノールを導入した時には第1センサ部S1より第2センサ部S2で電流値が上昇する。つまり、エチレンを導入した時とエタノールを導入した時とで電流値が相対的に逆の変化を示す。
この結果、ガス検出装置10では、エチレンを検出すると中点電位V1が正電位を示し、エタノールを検出すると中点電位V1が負電位を示す。つまり、ガス検出装置10では、センサ部S1,S2間の中点電位V1の極性を検出するだけで、エチレンとエタノールとを即時に識別することができる。したがって、本発明のガス検出装置10では、独立した各センサの電気信号の検出や、各データの比較、解析を必要とせず、2種以上のガスを容易かつ即時に識別できる。
【0026】
ガス検出装置10における触媒層C1,C2及び反応層A1,A2の構成の具体例について説明する。
第1触媒層C1は、アルケン類を酸化させてアルデヒド類及び/又はケトン類に変換する性質を有し、アルコール類を酸化させる性能が乏しい触媒又は酸化触媒を備える。
第1触媒層C1には、パラジウム触媒を用いることが好ましい。
パラジウム触媒は、均一系(溶液系)及び不均一系(固体系)のパラジウム触媒が採用可能であるが、パラジウムイオン(Pd2+)、(Pd3+)、(Pd4+)、その金属酸化物、又は金属パラジウム(Pd(0))を無機固体物に担持した不均一系触媒(固相触媒)が、センサとしての取り扱いに優れ、パラジウム触媒とアルケン類の接触効率を向上させる上で好ましい。
【0027】
パラジウムイオン(Pd2+)、(Pd3+)、(Pd4+)、その金属酸化物、又は金属パラジウムを担持する無機固体物は、例示的には、活性炭、ゼオライト、二酸化チタン、シリカゲルなどの無機固体材料である。また、好ましくは、これらに塩化銅(CuCl、CuCl)や、酸化バナジウム(V)を添加する。これにより、アルケン類のアルデヒド類及び/又はケトン類への酸化(一般的にこの触媒反応はWacker酸化反応として知られる)が活性化し、安定性が向上し得る。
【0028】
無機固体物は、好ましくは、V-TiO、CeO-TiO、V-CeO、V-ゼオライト、CeO-ゼオライト、V-SiO、CeO-SiO、V-Al、CeO-Al、CuO-TiO、CuO-TiO、CuO-TiO、CuO-TiO、CuO-ゼオライト、CuO-SiO、CuO-ゼオライト、CuO-SiO、CuO-Al、CuO-Al、V-シリカアルミナ、CeO-シリカアルミナ、CuO-シリカアルミナ、CuO-シリカアルミナ、V-ZnO、CeO-ZnO、CuO-ZnO、CuO-ZnO、V-ZrO、CeO-ZrO、CuO-ZrO、CuO-ZrO、V-WO、CeO-WO、CuO-WO、及び、CuO-WOからなる群から選択される。ここで、表記「V-TiO」とは、TiOにVが添加されていることを意図し、他も同様である。
【0029】
固体触媒は、好ましくは、(Pd,PdO,PdO(V(TiOで表される。式中のx、y及びzはそれぞれ、0.0001≦x≦0.1、0.001≦y≦0.5、0.40≦z≦0.998、x+y+z=1を満たす。(Pd,PdO,PdO)は、PdとPdOとPdOが任意の存在比で混在している状態を示す。このような固体触媒を用いれば、上述したWacker反応が促進する。
【0030】
固体触媒は、好ましくは、粉末であり、多孔質材料に担持又は内包されていてもよい。これにより、パラジウム触媒とヒドロキシルアミン塩類と半導体材料との離隔を容易にする。
【0031】
このような多孔質材料は、好ましくは、紙、セルロース、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、多孔質ガラス、ガラスファイバー、多孔質炭素材料、及び、多孔質酸化物からなる群から選択される。これらの材料であれば、試料ガスが導入され、Wacker反応を阻害することはない。
【0032】
好ましくは、多孔質材料は、10m/g以上5000m/g以下の範囲の比表面積を有し、10nm以上100μm以下の範囲の細孔径を有し、0.05cm/g以上0.90cm/g以下の細孔容積を有する。これにより、反応に必要かつ将来的な交換を不要とするだけの固体触媒を担持できる。
【0033】
第1触媒層C1は、パラジウム触媒又は固体触媒を充填したカラムを備えてもよい。これにより、試料ガスに含まれるアルケン類とパラジウム触媒との接触を効率的に行うことができる。試料ガスはカラムに導入されるため、カラム内を通過する試料ガスの流速を遅くすれば、パラジウム触媒との接触時間が長くなり、アルケン類からアルデヒド類/ケトン類への変換率を向上することができる。
【0034】
第1触媒層C1は、加熱装置をさらに備えてもよい。これによりWacker反応触媒の活性が増大し得る。加熱装置は、パラジウム触媒を25℃以上200℃以下の温度範囲で加熱できる任意の加熱装置を採用できる。
【0035】
第1触媒層C1は、酸素(O)や水蒸気(HO)を加湿する加湿装置を前段にさらに備えてもよい。これによりWacker反応触媒の活性が増大し得る。
【0036】
第2触媒層C2は、アルコール類を酸化させてアルデヒド類及び/又はケトン類に変換する性質を有し、アルケン類を酸化させる性質を有しない触媒又は酸化触媒を備える。このような酸化剤又は酸化触媒は、クロロクロム酸ピリジニウム、ニクロム酸ピリジニウム、酸化バナジウム(V)等を担持させた二酸化チタンなどであるが、Vであることが好ましい。
【0037】
反応層A1,A2におけるヒドロキシルアミン塩類は、ヒドロキシルアミン(NHOH)を揮発性の酸で中和して得られる。例示的には、ハロゲン酸塩、硝酸塩及びトリフルオロ酢酸塩からなる群から選択される中和塩である。反応層A1,A2で発生した酸が揮発性であれば、離隔したセンサ部S1,S2まで拡散によって到達することができる。
【0038】
なお、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩など不揮発性の酸からなる中和塩に、NaClなどの揮発性の酸からなる中和塩を混合したものも、前述の揮発性の酸で中和して得られる塩(例示的には、ハロゲン酸塩、硝酸塩、及びトリフルオロ酢酸塩)に含まれる。
【0039】
これらのヒドロキシルアミン塩類は、容易に入手又は合成可能である。中でも、アルデヒド類又はケトン類と反応した際に揮発性の高い強酸が発生するものが、センサ部S1,S2に含まれる半導体材料を強く正孔ドープし、アルケン類の高感度検出につながるため好ましく、例示的には、ヒドロキシルアミンのハロゲン酸塩(NHOH・HCl、NHOH・HBr)やトリフルオロ酢酸塩(NHOH・CFCOOH)である。
【0040】
あるいは、ヒドロキシルアミン塩類は、ヒドロキシアミン誘導体NHOR(Rは、芳香族、環式若しくは非環式の炭化水素化合物、又は、それらの誘導体である)のハロゲン酸塩、硝酸塩、トリフルオロ酢酸塩からなる群から選択される有機化合物の中和塩である。例えば、メチル化、アセチル化されたヒドロキシルアミン塩類があり得る。中でも、Rが芳香族のベンゼン環又はニトロベンゼンを含むハロゲン酸塩(NHOR・HCl、NHOR・HBr)、トリフルオロ酢酸塩(NHOR・CFCOOH)等であり、O-ベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩などが例示される。なお、本明細書において、「誘導体」とは、官能基の導入、酸化、還元、原子の置換などを行っても元の構造や性質が大幅に変化しない程度に改変された化合物等を意図する。
【0041】
あるいは、ヒドロキシルアミン塩類は、ヒドロキシルアミンが、高分子や無機化合物の表面に坦持された固体材料NHOQ(Qは、高分子、ポリマービーズ、シリカゲルなど)であって、ハロゲン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸処理によって中和されたものであってもよい。
【0042】
ヒドロキシルアミン塩類の代わりに、カルボニル化合物と縮合反応を起こすことが知られているアミン塩類やヒドラジン塩類、及びそれらの誘導体を用いてもよい。
【0043】
ヒドロキシルアミン塩類が結晶又は粉末状態の場合には、多孔質フィルターに内包されていてもよい。これにより、反応層A1,A2の取り扱いが簡便になる。
【0044】
このような多孔質フィルターは、ヒドロキシルアミン塩類との反応性がなく、ヒドロキシルアミン塩類を担持可能な細孔を有する材料からなればよい。例示的には、ろ紙等に代表される紙、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、ポリマーフィルター、多孔質ガラス、多孔質炭素材料、及び多孔質酸化物からなる群から選択される材料からなる。これらは、市販品を容易に入手できる多孔質フィルターである。水による濡れを防ぐ目的では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの疎水性ポリマーからなる多孔質フィルターが好ましい。
【0045】
反応層A1,A2は、ヒドロキシルアミン塩類を充填したカラムを備えてもよい。これにより、触媒層C1,C2で生成したカルボニル化合物(アルデヒド類又はケトン類)とヒドロキシルアミン塩類との接触を効率的に行うことができる。生成したカルボニル化合物を含有するガスはカラムに導入されるため、カラム内を通過するガスの流速を遅くすれば、ヒドロキシルアミン塩類との接触時間が長くなり、アルデヒド類/ケトン類から酸への変換率を向上することができる。
【0046】
センサ部S1,S2における半導体材料は、酸の吸着によって電気抵抗値が変化する半導体材料であれば特に制限はないが、このような材料には、炭素材料、導電性高分子、無機半導体などがある。酸の吸着によって、電気抵抗値が増えるか減るかは、半導体材料の性質に依存するが、どちらの性質のものでも用いることができる。正孔ドープによって電気抵抗値が減少するp型半導体では、酸の吸着によって電気抵抗値が減少するものが多く、本明細書で用いているカーボンナノチューブはp型半導体であり、酸との接触によって電気抵抗値が減少することが知られている。なお、本明細書では、前述のように正孔ドープによって電気抵抗値が下がる半導体材料を例として説明を進めるが、正孔ドープによって電気抵抗値が上がる半導体材料を採用した場合には、同半導体材料を組み込んだブリッジ回路の中点電位の応答が逆となることは言うまでもない。
【0047】
炭素材料は、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、フラーレン、及び、これらの誘導体からなる群から選択される材料である。これらは、酸の吸着によって電気抵抗値が変化することが知られている。中でも、カーボンナノチューブは入手が容易であるとともに、優れた電気物性と安定性を有しており、好ましい。誘導体としては、表面にアミン、カルボン酸等の官能基を有するものや、表面を分散剤等により被覆したものを意図する。
【0048】
また、カーボンナノチューブは、グラフェンの重なりの層数によって、単層、二層、多層カーボンナノチューブと分けられるが、本発明ではいずれも採用できる。中でも、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の一部は、半導体性を有しており、酸に対して電気抵抗値の変化を生じやすいため好ましい。また、SWCNTの表面は疎水的で安定なグラフェンシートであり、湿度変化に対する応答が小さく、酸によって変性しにくいことからも好ましい。
【0049】
SWCNTが半導体となるか金属体となるかは、グラフェンシートの巻き方のキラリティーによって決定され、合成されたSWCNTは、半導体と金属体を2:1の割合で含む混合物である。酸の蒸気に対するSWCNTの応答感度、すなわち電気抵抗値の変化量を増大させる目的で、半導体SWCNTを分離精製し、半導体SWCNTを半導体材料として供することもできる。半導体を分離精製する方法は、国際公開2019/049693に記載のカラム分離法などが採用できる。金属型カーボンナノチューブ対する半導体型単層カーボンの含有量比が2よりも大きくてもよい。
【0050】
また、通常、強いπ-π相互作用によってバンドル構造を形成しているSWCNTを1本ずつに分散させてから電極上に塗布することで、酸蒸気と接触できるSWCNTの表面積が増すので、酸蒸気への応答感度が増大し、それにより、アルデヒドの検出感度を増大させることができる。SWCNTを分散させる方法としては、溶媒中での超音波処理に加えて、分散剤による分散処理を併用することが採用できる。分散剤としては、国際公開2019/049693に記載の超分子ポリマーの他、ポリフルオレンなどのπ共役高分子や、ドデシル硫酸ナトリウムなどの両親媒性界面活性剤が採用できる。溶媒としては、有機溶媒と水が採用できる。有機溶媒の中でも、オルトジクロロベンゼンはSWCNTの分散性が高いことが知れており、好ましい。
【0051】
半導体材料として用いられる導電性高分子は、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラフェニレン及びそれらの誘導体からなる群から選択される導電性高分子である。これらの導電性高分子であれば、酸の蒸気に接触することによって電気抵抗値が変化するので、センサ部S1,S2中の半導体材料として採用できる。
【0052】
例えば、p型半導体であるポリチオフェンの場合には、広く実用化されているPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-PSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸))のように、酸によって正孔ドープされることにより、導電性が上昇する。また、ポリアニリン、ポリピロールなどの塩基性官能基を含有した導電性高分子は、酸分子との親和性が高く、酸分子の吸着によるバンドギャップの変化に伴って電気抵抗値が変化するため、より好ましい。
【0053】
無機半導体は、例えば、SnO(酸化スズ)、In(酸化インジウム)、ZnO(酸化亜鉛)、Fe(酸化鉄)などガスセンサとして実績のある無機酸化物半導体が採用できる。
【0054】
半導体材料は、酸が吸着しやすいよう、内部空間を有しながら重なりあって、高い比表面積を有していることが望ましく、多孔体や網目構造体(ネットワーク)を形成してもよい。半導体材料は薄膜であることが、検出感度の向上において望ましい。
【0055】
半導体材料は、通常使用される電極材料からなる電極上に担持されるが、電極は、例示的には、Au、Pt、Ag及びこれらの合金、又はグラッシーカーボンなどの導電性炭素材料からなる群から選択される材料からなる。電極の形状は、例示的には、櫛形電極等である。
【0056】
流路F1,F2の通過部T1,T2での動作原理を説明する。
パラジウム触媒を含む第1触媒層C1は、試料ガスG中に含まれるアルケン類を酸化させてアルデヒド類及び/又はケトン類に変換する。アルケン類の酸化に関わる基質は、例示的には、酸素(O)と水(HO)である。前述の基質が酸素と水である場合には、大気成分から容易に入手できるため望ましい。また、第2触媒層C2は、試料ガスG中に含まれるアルコール類を酸化させてアルデヒド類及び/又はケトン類に変換する。
【0057】
反応層A1,A2では、ヒドロキシルアミン塩類が、触媒層C1,C2で生成したカルボニル化合物(アルデヒド類又はケトン類)と縮合反応し、酸の蒸気を発生する。ここでは、簡素化のため、カルボニル化合物としてアセトアルデヒド、及び、ヒドロキシルアミン塩類としてヒドロキシルアミン塩酸塩の場合を下記の式に示す。他のカルボニル化合物とヒドロキシアミン塩類の組み合わせであっても、同様の縮合反応によって酸を発生する。
CHCHO+NHOH・HCl→CHCH=NOH+HO+HCl
【0058】
第1の実施形態に係るガス検出装置10は、アルケン類及びアルコール類のいずれか一方を含む試料ガスGのみならず、アルケン類及びアルコール類の両方を含む試料ガスGからアルケン類及びアルコール類をそれぞれ検出することができる。一例として、ガス検出装置10は、中点電位V1の経時変化からアルケン類及びアルコール類をそれぞれ検出することができる。
【0059】
例えば、試料ガスGがエチレンとエタノールの両方を含むとき、エタノールが触媒に吸着するため、エタノール由来の酸の検出がエチレン由来の酸の検出よりも遅延する。これを利用して、中点電位V1の経時変化から、エタノールを識別することができる。
図3は、図1に示すガス検出装置10にエチレンとエタノールとの両方を含む試料ガスGを導入した時の中点電位V1の経時変化を例示するグラフである。
具体的には、時点aにおいてガス検出装置10に試料ガスGが導入された後、まずエチレン由来の酸がセンサ部S1,S2に到達し、中点電位V1が上昇する。この挙動により、エチレンの存在を確認することができる。その後、時点bにおいて空気を導入することにより、触媒に吸着したエタノールを押し流す。これにより、エタノール由来の酸がセンサ部S1,S2に到達し、エタノール由来の酸がエチレン由来の酸よりも多く検出されるようになることで中点電位が下降する。この挙動により、エタノールの存在を確認することができる。
このように、ガス検出装置10では、中点電位V1の経時変化から、エチレン及びエタノールの両方を含む試料ガスGからエチレン及びエタノールをそれぞれ検出することができる。
【0060】
<第2の実施形態>
[概要]
本発明の第2の実施形態に係るガス検出装置10は、流路F1,F2に加えて他の流路を設けている点で第1の実施形態と異なる。本実施形態では、ガス検出装置10に他の流路を設けることで、第1の実施形態の構成に対して追加の機能を付加することができる。
以下、本実施形態に係るガス検出装置10に設ける流路の一例として第3流路F3及び第4流路F4について説明するが、本実施形態に係るガス検出装置10に設ける各流路の構成及び流路の本数などといった構成は必要とされる機能に応じて適宜決定可能である。
【0061】
[第3流路F3を設けた構成]
図4は、第3流路F3が設けられたガス検出装置10の模式図である。図4に示すガス検出装置10では、第3流路F3を設けることで、アルケン類及びアルコール類の両方を含む試料ガスGから、中点電位V1の経時変化を考慮することなく、アルケン類及びアルコール類をそれぞれ即時に検出することが可能となる。
第3流路F3は、流路F1,F2に対して並列で配置され、第3センサ部S3と、第3センサ部S3の上流に位置する第3通過部T3と、を有する。ガス検出装置10では、試料ガスGが、ポンプPを介して導入口F0から第1流路F1、第2流路F2、及び第3流路F3に同時に導入される。
【0062】
第3センサ部S3は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、ブリッジ回路BCにおいてセンサ部S1,S2に対して並列に接続される。
ブリッジ回路BCには、第3センサ部S3に直列に接続する第3可変抵抗R3が設けられる。
第3通過部T3では、アルケン類が通過した際の酸の発生量が第1通過部T1よりも少なく、アルコール類が通過した際の酸の発生量が第2通過部T2よりも少ない。具体的に、第3通過部T3には、アルケン類及びアルコール類を実質的に変換しない第3触媒層C3と、第3触媒層C3より下流に位置し、アルデヒド類と反応して酸を発生させる第3反応層A3と、が設けられる。
第3触媒層C3は、例えば、触媒層C1,C2に用いられる触媒を担持しない無機固体物を用いることができる。特に、第1触媒層にPd/V/TiOを用い、第2触媒層にV/TiOに用いる場合には、第3触媒層C3にTiOを用いることが好ましい。
なお、第3通過部T3は、第3触媒層C3と第3反応層A3との少なくとも一方を設けない構成とすることもできる。
【0063】
ガス検出装置10では、ブリッジ回路BCが、センサ部S2,S3間の中点電位V2を更に検出可能に構成される。第2センサ部S2では、第3センサ部S3よりもアルコール類が通過した際の電流値の変化が大きくなる。これにより、センサ部S2,S3間の中点電位V2の極性によって、アルコール類の有無を識別することができる。
これにより、この構成のガス検出装置10では、例えば、中点電位V1の初期の極性からアルケン類を検出し、中点電位V2の極性からアルコール類を検出することができる。つまり、この構成のガス検出装置10では、アルケン類及びアルコール類の両方を含む試料ガスGから、中点電位V1の経時変化を考慮することなく、アルケン類及びアルコール類をそれぞれ即時に検出することができる。
なお、ガス検出装置10では、センサ部S1,S3間の中点電位V3を更に検出可能なようにブリッジ回路BCを構成することで、中点電位V3の極性からアルケン類をより確実に検出することが可能となる。
【0064】
[第4流路F4を設けた構成]
図5は、第4流路F4が設けられたガス検出装置10の模式図である。図5に示すガス検出装置10では、第4流路F4を設けることにより、第1及び第2ガスに加え、これらとは異なる種類の第3ガスを検出することが可能となる。第3ガスとしては、例えば、アルデヒド類が挙げられる。
第4流路F4は、流路F1,F2に対して並列で配置され、第4センサ部S4と、第4センサ部S4の上流に位置する第4通過部T4と、を有する。ガス検出装置10では、試料ガスGが、ポンプPを介して導入口F0から第1流路F1、第2流路F2、及び第4流路F4に同時に導入される。
【0065】
第4センサ部S4は、酸の空間濃度によって電気抵抗値が変化するように構成され、ブリッジ回路BCにおいてセンサ部S1,S2に対して並列に接続される。
ブリッジ回路BCには、第4センサ部S4に直列に接続する第4可変抵抗R4が設けられる。
第4通過部T4では、アルデヒド類が通過した際の酸の発生量が通過部T1,T2よりも少ない。具体的に、第4通過部T4には、アルケン類及びアルコール類を実質的に変換しない第4触媒層C4が設けられる。
第4触媒層C4は、例えば、触媒層C1,C2に用いられる触媒を担持しない無機固体物を用いることができる。特に、第1触媒層にPd/V/TiOを用い、第2触媒層にV/TiOに用いる場合には、第4触媒層C4にTiOを用いることが好ましい。
なお、第4通過部T4は、第4触媒層C4を設けない構成とすることもできる。
【0066】
ガス検出装置10では、ブリッジ回路BCが、センサ部S2,S4間の中点電位V4を更に検出可能に構成される。
第4通過部T4では、アルデヒド類が通過した際の酸の発生量が第2通過部T2よりも少ない。このため、第2センサ部S2では、第4センサ部S4よりもアルデヒド類が通過した際の電流値の変化が大きくなる。これにより、センサ部S2,S4間の中点電位V4の極性によって、アルデヒド類の有無を識別することができる。
また、ガス検出装置10では、ブリッジ回路BCが、センサ部S2,S4間の中点電位V4に代えて、センサ部S1,S4間の中点電位V5を検出可能に構成されていてもよい。この構成では、センサ部S1,S4間の中点電位V5の極性によって、アルデヒド類の有無を識別することができる。
【0067】
更に、ガス検出装置10では、図6に示すように、第2通過部T2における第2触媒層C2と第2反応層A2との間の位置において分岐させることで、第4流路F4を設けてもよい。この場合、第2通過部T2の第2触媒層C2が、第4通過部T4における図5に示す第4触媒層C4を兼ねる構成となる。第2触媒層C2ではアルデヒド類から実質的に酸を発生させないため、図6に示す構成でも図5に示す構成と同様の機能を得ることができる。
なお、上記のセンサ部S1,S4間の中点電位V5を検出する構成では、第1通過部T1における第1触媒層C1と第1反応層A1との間の位置において分岐させることで、第4流路F4を設けることができる。
【0068】
図7は、図4に示す第3流路F3が設けられた構成に対して第4流路F4が追加されたガス検出装置10の模式図である。図7に示すガス検出装置10では、第3流路F3による作用と第4流路F4による作用とが同時に得られる。第4流路F4は、流路F1,F2,F3に対して並列に接続されている。
ガス検出装置10では、ブリッジ回路BCが、センサ部S3,S4間の中点電位V6を更に検出可能に構成される。
【0069】
図7に示すガス検出装置10を用いることで、アルケン類、アルコール類、及びアルデヒド類の少なくとも1つを含み得る試料ガスGについて、当該試料ガスGに含まれるアルケン類、アルコール類、及びアルデヒド類の組み合わせを、中点電位V1,V2,V6の極性の組み合わせとして即時に識別することができる。
【0070】
なお、試料ガスGに含まれる2種以上のガスの濃度が極端に異なる場合には、極端に濃度の低いガスが含まれないものとして出力結果が得られることがある。このため、試料ガスGに含まれる2種以上のガスを精度よく識別するために、試料ガスGのうち最も高い濃度のガスと最も低い濃度のガスとの濃度の比率を、常識的な範囲に留めることが好ましく、具体的に、10000倍以内に留めることが望ましく、1000倍以内に留めることがより望ましく、100倍以内に留めることが更に望ましい。
【0071】
具体的に、第1触媒層C1にPd/V/TiOを用い、第2触媒層C2にV/TiO用い、第3触媒層C3にTiO用い、反応層A1~A3にヒドロキシルアミン塩類を用い、センサ部S1~S4に超分子ポリマーで分散させたSWCNTを用いた構成において、試料ガスGに含まれるエチレン、エタノール、及びアセトアルデヒドの組み合わせ(1)~(8)と、中点電位V1,V2,V6の極性の組み合わせと、の対応関係は表1に示すようになる。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、試料ガスGに含まれるエチレン、エタノール、及びアセトアルデヒドの組み合わせ(1)~(8)ではいずれも、中点電位V1,V2,V6の極性の組み合わせが相互に異なる。したがって、この構成のガス検出装置10では、中点電位V1,V2,V6の極性の組み合わせによって、試料ガスGにおけるエチレン、エタノール、及びアセトアルデヒドの有無を即時に判断することができる。
【符号の説明】
【0074】
10…ガス検出装置
F1~F4…流路
T1~T4…通過部
A1~A3…反応層
C1~C4…触媒層
S1~S4…センサ部
V1~V6…中点電位
R1~R4…可変抵抗
BC…ブリッジ回路
P…ポンプ
M…電位検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7