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特許7591863オルガノポリシロキサン、紫外線硬化性シリコーン組成物及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサン、紫外線硬化性シリコーン組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/388 20060101AFI20241122BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241122BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241122BHJP
   C08F 290/00 20060101ALI20241122BHJP
   C08F 299/08 20060101ALI20241122BHJP
   C08G 77/26 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C08G77/388
B29C64/314
B33Y70/00
C08F290/00
C08F299/08
C08G77/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019050681
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020152771
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-02-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
(72)【発明者】
【氏名】大竹 滉平
(72)【発明者】
【氏名】萩原 守
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】小出 直也
【審判官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-507563(JP,A)
【文献】特開2017-206626(JP,A)
【文献】特開2017-202023(JP,A)
【文献】特開2008-31307(JP,A)
【文献】特開2002-302664(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108752936(CN,A)
【文献】特開2009-288703(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194107(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/194108(WO,A1)
【文献】AIP Conference Proceedings,2010年,Vol.1278,p.843-851
【文献】European Polymer Journal,2012年,Vol.48,No.12,p.1976-1987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77, C07F7, C08F, C08L, B29C64, B33Y
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(4)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式(4)中、R 8 は夫々独立にメチル基、エチル基、又はフェニル基であり、2つの括弧内のシロキサン単位は、任意の配列順でよく、ブロックでもよいし、ランダムでもよい。p、qは、p≧1、q≧0、1≦p+q≦10,000を満たす数である。)
及び
(B)光重合開始剤:0.1~20質量部
を含有し、組成物中の(A)成分の含有量が30~99質量%であることを特徴とする紫外線硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
更に、(C)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物及び(D)シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の何れか一方又は両方を、(A)成分100質量部に対し、(C)成分と(D)成分との合計で1~500質量部含有することを特徴とする、請求項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
更に、(E)(a)R4 3SiO1/2単位(式中、R4は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO4/2単位とからなり、(a)単位:(b)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
更に、(F)(c)下記式(3)
【化2】
(式中、R5は、夫々独立に炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R6は、酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、R7は、夫々独立に、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、nは、0≦n≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)で示される単位と、(d)R4 3SiO1/2単位(式中、R4は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(e)SiO4/2単位とからなり、(c)単位と(d)単位との合計:(e)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にある架橋性オルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物を含む3Dプリンタ用組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサン、それを含む紫外線硬化性シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン組成物の硬化にはヒドロシリル化反応を用いた架橋反応や過酸化物を開始剤として用いた加熱硬化反応や大気中の水分を用いた縮合架橋反応が古くから用いられている。近年省エネルギー化や工程短縮化が益々要求される中で、室温にて短時間で硬化可能な紫外線硬化反応が注目されている。紫外線硬化反応のなかでも、特に紫外線硬化性ラジカル重合反応の反応系は1液化も可能であり、光を照射せずに保存すれば保存安定性にも優れている(特許文献1及び2)。しかしながら、既存の紫外線硬化性シリコーン組成物では大気中で硬化させようとすると酸素によって硬化阻害が生じてしまい硬化物の表面層が硬化しないという課題があった。既存の紫外線硬化性シリコーン組成物を透明部材に挟み込んで紫外線照射すれば硬化阻害は生じないが、該組成物が食み出た部分は酸素硬化阻害を受けてしまうので食み出た部分を拭き取ったり、洗浄等が必要となっていた。従ってこの課題を解決する紫外線硬化性シリコーン組成物が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-171734号公報
【文献】国際公開第WO2018/003381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、大気中で硬化させても表面硬化阻害を引き起こすことのない利便性に優れた紫外線硬化性オルガノポリシロキサン、それを含む組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン成分を用いることで、大気中においても表面硬化性に優れる紫外線硬化性シリコーン組成物を提供出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、下記の紫外線硬化性オルガノポリシロキサン、それを含むシリコーン組成物及びその硬化物を提供する。
[1]
下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン。
【化1】
(式(1)中、R1は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価脂肪族炭化水素基又は下記式(2)で示される基であるが、下記式(2)で示される基を1分子中に少なくとも1個有する。mは1≦m≦10,000を満たす数である。)
【化2】
(式(2)中、R2は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基又はメタクリロイルオキシアルキル基を少なくとも1つ有する基である。R3は炭素原子数1~20の二価炭化水素基である。)
[2]
(A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化3】
(式(1)中、R1は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価脂肪族炭化水素基又は下記式(2)で示される基であるが、下記式(2)で示される基を1分子中に少なくとも1個有する。mは1≦m≦10,000を満たす数である。)
【化4】
(式(2)中、R2は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基又はメタクリロイルオキシアルキル基を少なくとも1つ有する基である。R3は炭素原子数1~20の二価炭化水素基である。)
及び
(B)光重合開始剤:0.1~20質量部
を含有することを特徴とする紫外線硬化性シリコーン組成物。
[3]
更に、(C)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物及び(D)シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の何れか一方又は両方を、(A)成分100質量部に対し、(C)成分と(D)成分との合計で1~500質量部含有することを特徴とする、[2]に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
[4]
更に、(E)(a)R4 3SiO1/2単位(式中、R4は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(b)SiO4/2単位とからなり、(a)単位:(b)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部含有することを特徴とする、[2]または[3]に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
[5]
更に、(F)(c)下記式(3)
【化5】
(式中、R5は、夫々独立に炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R6は、酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、R7は、夫々独立に、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、nは、0≦n≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)で示される単位と、(d)R4 3SiO1/2単位(式中、R4は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)と(e)SiO4/2単位とからなり、(c)単位と(d)単位との合計:(e)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にある架橋性オルガノポリシロキサンレジンを、(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部含有することを特徴とする、[2]~[4]のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物。
[6]
[2]~[5]のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物を含む3Dプリンタ用組成物。
[7]
[2]~[5]のいずれか1項に記載の紫外線硬化性シリコーン組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のオルガノポリシロキサンおよびそれを含む紫外線硬化性シリコーン組成物は、酸素が存在する大気中においても表面硬化阻害を受けない。従って、本紫外線硬化性シリコーン組成物は酸素存在下でも問題なく紫外線照射により硬化させることができるため組成物の生産性および作業性に優れ、特に3Dプリンタ用材料、接着剤、粘着剤、マイクロトランスファープリンティング材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0009】
オルガノポリシロキサン
本発明のオルガノポリシロキサンは、下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。
【化6】
【0010】
上記式(1)におけるR1は、夫々独立に炭素原子数1~10の一価炭化水素基又は下記式(2)で示される基である。該一価炭化水素基としては、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-デシル基等のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
これらの一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部は、置換基で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル、ブロモエチル、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基が挙げられる。
これらの一価炭化水素基の中でも、炭素原子数1~6のアルキル基及びアリール基が好ましく、メチル基、エチル基、及びフェニル基がより好ましい。
【0011】
また、上記式(1)中のR1のうち少なくとも1つは、下記式(2)で示される基である。
【化7】
上記式(2)におけるR2は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を少なくとも1個有する基であり、該基の中でも、水素原子の少なくとも1つが、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基又はメタクリロイルオキシアルキル基で置換された炭素原子数1~20の一価炭化水素基が好ましく、水素原子の少なくとも1つが、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基又はメタクリロイルオキシアルキル基で置換された炭素原子数1~4の直鎖又は分岐のアルキル基がより好ましい。
【0012】
上記式(2)におけるR3は炭素原子数1~20の二価炭化水素基であり、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン基等のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、R3としては、メチレン、エチレン、及びトリメチレン基が好ましく、トリメチレン基がより好ましい。
【0013】
mは、1≦m≦10,000を満たす数であり、好ましくは50≦m≦5,000である。mが10,000を超えると、粘度が高くなり過ぎる事により作業性に劣る場合がある。
mの値は、例えば29Si-NMR測定などにより平均値として算出できるほか、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量から求めることができる。
【0014】
このようなオルガノポリシロキサンの例としては、例えば下記式(4)~(9)の化合物を挙げることができる。
【化8】
(式(4)中、R8は夫々独立にメチル基、エチル基、又はフェニル基であり、2つの括弧内のシロキサン単位は、任意の配列順でよく、ブロックでもよいし、ランダムでもよい。p、qは、p≧1、q≧0、1≦p+q≦10,000を満たす数である。)

【化9】
(式(5)中、R8は上記と同じ意味を表し、rは1≦r≦10,000を満たす数である。)

【化10】
(式(6)中、R8は上記と同じ意味を表し、sは1≦s≦10,000を満たす数である。)

【化11】
(式(7)中、2つの括弧内のシロキサン単位は、任意の配列順でよく、ブロックでもよいし、ランダムでもよい。)

【化12】
【化13】
【0015】
これらのオルガノポリシロキサンは、例えば、側鎖型アミノ変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-864)、及び両末端アミノ変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-8008)等のアミノ基を有するポリシロキサンと、2-(アクリロイルオキシ)エチルイソシアナート(昭和電工株式会社製カレンズAOI)、及び1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズBEI)等の化合物とを反応させることにより得られる。
【0016】
紫外線硬化性シリコーン組成物
(A)オルガノポリシロキサン
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物の(A)成分は、上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと同様である。
本発明の組成物中、(A)成分は、5~99.9質量%含有することが好ましく、20~99質量%含有することがより好ましく、30~99質量%含有することがさらに好ましい。
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、組成物の作業性や硬化物の力学特性をより向上させることを考慮すると、0.01~100,000Pa・sが好ましく、0.1~50,000Pa・sがより好ましい。なお、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメーター等)により測定できる。
【0017】
(B)光重合開始剤
光重合開始剤(B)としては、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF製Irgacure 651)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF製Irgacure 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 127)、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル(BASF製Irgacure MBF)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF製Irgacure 907)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(BASF製Irgacure 369)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0018】
上記(B)成分のうち、(A)成分との相溶性の観点から好ましいのは、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)である。
【0019】
光重合開始剤の添加量は(A)100質量部に対して、0.1~20質量部の範囲で配合される。0.1質量部未満であると硬化性が不足し、20質量部を超える量で添加した場合は深部硬化性が悪化する。
【0020】
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物は、上記必須成分以外に、必要により更に成分(C)及び成分(D)として、シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物及び多官能(メタ)アクリレート化合物の何れか一方又は両方を含んでもよい。
【0021】
(C)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物
シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物(C)としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート及びこれらの混合物等が挙げられ、特にイソボルニルアクリレートが好ましい。
【0022】
(D)シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物
シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物(D)としては、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びこれらの混合物等が挙げられ、特にジメチロール-トリシクロデカンジアクリレートが好ましい。
【0023】
(C)成分及び/又は(D)成分の(メタ)アクリレート化合物を用いる場合の添加量は、得られる硬化物のゴム物性の観点から、(A)成分100質量部に対して、(C)成分及び(D)成分の合計で1~500質量部の範囲が好ましく、より好ましくは10~100質量部である。また、高粘度の(A)成分と組み合わせる場合、(C)成分及び/又は(D)成分の添加量を増やすことにより組成物全体の粘度を下げることができる。
【0024】
また、本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物は、必要により更に成分(E)及び成分(F)として、何れか一方又は両方のオルガノポリシロキサンレジンを含んでもよい。
【0025】
(E)オルガノポリシロキサンレジン
(E)成分は、(a)R4 3SiO1/2単位(式中、R4は、互いに独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基である)と(b)SiO4/2単位からなり、(a)単位と(b)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンである。
4における炭素原子数1~10の一価炭化水素基の具体例としては、上述したR1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられるが、中でもメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等の炭素原子数1~6のアルキル基;フェニル、トリル基等の炭素原子数6~10のアリール基;ベンジル基等の炭素原子数7~10のアラルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等の炭素原子数2~6のアルケニル基などが好ましい。
なお、上記R4の一価炭化水素基も炭素原子に結合した水素原子の一部または全部が、上述した置換基で置換されていてもよい。
組成物の粘着力および力学的特性をより適切な範囲とすることを考慮すると、(E)成分では、(a)R4 3SiO1/2単位(M単位)と(b)SiO4/2単位(Q単位)のモル比がM単位:Q単位=0.4~1.2:1であることが好ましく、M単位:Q単位=0.6~1.2:1であることがより好ましい。
(E)成分のオルガノポリシロキサンレジンを用いる場合の添加量は、上記(A)成分100質量部に対して1~1,000質量部の範囲が好ましく、10~800質量部がより好ましく、20~500質量部が更に好ましい。
(E)成分の数平均分子量は、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した数平均分子量が500~10,000であることが好ましく、特に好ましくは1,000~8,000、更に好ましくは1,000~7,000である。
【0026】
(F)架橋性オルガノポリシロキサンレジン
(F)成分は、(c)下記式(3)で示される単位(以下、MA単位という)、(d)R4 3SiO1/2単位(M単位)及び(e)SiO4/2単位(Q単位)からなる(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有するオルガノポリシロキサンレジンである。なお、R4は上記と同じ意味を表す。
【化14】
上記式(3)におけるR5は、夫々独立に炭素原子数1~20の一価炭化水素基であり、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-デシル基等のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0027】
また、これら一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部は、置換基で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル、ブロモエチル、トリフルオロプロピル、シアノエチル基等のハロゲン置換炭化水素基;シアノ置換炭化水素基などが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、R5としては、炭素原子数1~5のアルキル基、及びアリール基が好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基がより好ましい。
【0029】
上記式(3)におけるR6は、酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基であり、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、R6としては、酸素原子、メチレン、エチレン、またはトリメチレン基が好ましく、酸素原子またはエチレン基がより好ましい。
【0031】
上記式(3)におけるR7は、夫々独立に、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基であり、これらの基におけるアルキル(アルキレン)基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。これらアルキル基の具体例としては、上述したR1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられる。
【0032】
上記式(3)におけるnは、0≦n≦10を満たす数であるが、0または1が好ましく、aは、1≦a≦3を満たす数であるが、1または2が好ましい。
【0033】
組成物の粘度および硬化物の力学的特性を考慮すると、(F)成分は、(c)上記式(3)で示される単位(MA単位)、(d)R4 3SiO1/2単位(M単位)及び(e)SiO4/2単位(Q単位)のモル比が、(MA単位+M単位):Q単位=0.4~1.2:1であることが好ましく、(MA単位+M単位):Q単位=0.6~1.2:1であることがより好ましい。
また、MA単位とM単位のモル比により、硬化物のゴム物性を調節できる。硬化物の強度を考慮すると、MA単位:M単位=0.01~1:1が好ましく、MA単位:M単位=0.05~0.5:1がより好ましい。
【0034】
(F)成分の架橋性オルガノポリシロキサンレジンを用いる場合の添加量は、(A)100質量部に対して、1~1,000質量部の範囲が好ましく、10~800質量部がより好ましく、20~500質量部が更に好ましい。
(F)成分の数平均分子量は、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した数平均分子量が1,000~10,000であることが好ましく、特に好ましくは2,000~8,000、更に好ましくは2,500~7,000である。
【0035】
その他の成分
なお、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、色材(顔料または染料)、シランカップリング剤、接着助剤、重合禁止剤、酸化防止剤、耐光性安定剤である紫外線吸収剤、光安定化剤等の添加剤を配合することができる。
また、本発明の組成物はその他の樹脂組成物と適宜混合して使用することもできる。
【0036】
製造方法
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物は、上記(A)及び(B)成分、並びに必要に応じて(C)~(F)成分およびその他の成分を、任意の順序で混合し、撹拌等して得ることができる。撹拌等の操作に用いる装置は特に限定されないが、擂潰機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。また、これら装置を適宜組み合わせてもよい。
【0037】
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物の粘度は、塗布時の形状保持性と作業性の観点から、回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が5,000Pa・s以下であることが好ましく、3,000Pa・s以下がより好ましく、1,500Pa・s以下がより一層好ましい。
【0038】
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物の硬化物は、紫外線を照射することにより速やかに得ることができる。
この場合、本発明の組成物に照射する紫外線の光源としては、例えば、UVLEDランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアークランプ、キセノンランプ等が挙げられる。
紫外線の照射量(積算光量)は、例えば、本発明の組成物を2.0mm程度の厚みに成形したシートに対して、好ましくは1~10,000mJ/cm2であり、より好ましくは10~8,000mJ/cm2である。すなわち、照度100mW/cm2の紫外線を用いた場合、0.01~100秒程度紫外線を照射すればよい。
【0039】
また、本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物からなる硬化物が優れたゴム物性を示す為には硬化後の硬度は20以上(TypeA)が好ましく、30以上(TypeA)であることがより好ましい。なお、これらの値は、JIS K 6249:2003に準じて測定したときの値である。
硬化後の硬度は、(C)成分及び(D)成分の添加量を増減することによって調整できる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
側鎖型アミノ変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-864)を1,000gと2-(アクリロイルオキシ)エチルイソシアナート(昭和電工株式会社製カレンズAOI)41.3gをフラスコに計量し、25℃で24時間攪拌し、下記平均構造式で表される、粘度46.3Pa・sのオルガノポリシロキサン(A-1)を得た。
【化15】
(式(A-1)中、2つの括弧内のシロキサン単位の配列はブロック又はランダムである。)
【0042】
[実施例2]
両末端アミノ変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-8008)1,000gと1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズBEI)49.4gをフラスコに計量し、25℃で24時間攪拌し、下記平均構造式で表される、粘度13.0Pa・sのオルガノポリシロキサン(A-2)を得た。
【化16】
【0043】
[実施例3]
両末端アミノ変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-8008)1,000gと2-(アクリロイルオキシ)エチルイソシアナート(昭和電工株式会社製カレンズAOI)29.1gをフラスコに計量し、25℃で24時間攪拌し、下記平均構造式で表される、粘度7.8Pa・sのオルガノポリシロキサン(A-3)を得た。
【化17】
【0044】
[実施例4~10および比較例1、2]
表1に示す組成で調製したシリコーン組成物について評価を行った。なお、下記の例で、粘度は回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
【0045】
硬化物の硬度はJIS K 6249:2003に準じて測定した。表面硬化性は指触で観察し、未硬化層がないものを「完全硬化」とし、未硬化層があるものを「不完全硬化」として評価した。
【0046】
上記(A)~(F)成分を表1の組成(質量部)で混合し、減圧下にて100℃でトルエンを留去し、表1に記載の各シリコーン組成物を調製した。
【0047】
調製した各シリコーン組成物を、アイグラフィック(株)製アイUV電子制御装置(型式UBX0601-01)を用い、大気中、室温(25℃)で、波長365nmの紫外光での照射量が4,000mJ/cm2となるように紫外線を照射し、硬化させた。
【0048】
なお、実施例4~10及び比較例1、2で使用した各成分の化合物は以下のとおりである。
【0049】
(A)成分
(A-1)実施例1で得られたオルガノポリシロキサン
(A-2)実施例2で得られたオルガノポリシロキサン
(A-3)実施例3で得られたオルガノポリシロキサン
(A-4)(比較例用)下記平均構造式で表されるオルガノポリシロキサン(粘度3.4Pa・s)
【化18】
(式(A-4)中、2つの括弧内のシロキサン単位の配列はブロック又はランダムである。)

(A-5)(比較例用)下記平均構造式で表されるオルガノポリシロキサン(粘度0.2Pa・s)
【化19】
【0050】
(B)成分
(B-1)2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)
(B-2)2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)
【0051】
(C)成分
(C-1)イソボルニルアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB-XA)
【0052】
(D)成分
(D-1)ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートDCP-A)
【0053】
(E)成分
(E-1)Me3SiO1/2単位およびSiO4/2単位を含有し、(Me3SiO1/2単位)/(SiO4/2単位)のモル比が0.85であるオルガノポリシロキサンレジン(数平均分子量3,500)の60質量%トルエン溶液
【0054】
(F)成分
(F-1)下記式で表されるメタクリロイルオキシ基含有単位、ViMe2SiO1/2単位、Me3SiO1/2単位およびSiO4/2単位を含有し、メタクリロイルオキシ基含有単位/(ViMe2SiO1/2単位)/(Me3SiO1/2単位)/(SiO4/2単位)のモル比が0.07/0.10/0.67/1.00であるオルガノポリシロキサンレジン(数平均分子量5,700)の50質量%キシレン溶液
【化20】
【0055】
【表1】
【0056】
本発明の紫外線硬化性シリコーン組成物(実施例4~10)は、大気中で硬化させた場合においても良好な表面硬化性を有し、3Dプリンタ等の造形用途向けのシリコーン材料として有用である。一方、比較例1および2では、表面硬化性が不十分であった。