(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】組織状大豆たん白の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/16 20060101AFI20241122BHJP
A23J 3/26 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
A23J3/16 501
A23J3/26 501
(21)【出願番号】P 2020128071
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 真也
(72)【発明者】
【氏名】岩井 洸
(72)【発明者】
【氏名】田辺 優希
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-152254(JP,A)
【文献】特開2015-144593(JP,A)
【文献】特開平01-030542(JP,A)
【文献】特開平01-016560(JP,A)
【文献】特開昭56-055158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性窒素指数が70以上の脱脂大豆Hを
、脱脂大豆の総質量に基づいて70~95質量%含有する脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含む組織状大豆たん白の製造方法であって、
前記脱脂大豆が、水溶性窒素指数が30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記脱脂大豆Lが、脱脂大豆を水と共に高温高圧処理する工程を含む方法で調製される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の製造方法によって製造された組織状大豆たん白を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む食品組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の製造方法によって製造された組織状大豆たん白、又は請求項
3に記載の製造方法によって製造された食品組成物を用いることを特徴とする加工食品の製造方法。
【請求項5】
水溶性窒素指数が70以上の脱脂大豆Hを
、脱脂大豆の総質量に基づいて70~95質量%含有する脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含む方法によって製造される組織状大豆たん白の硬さを向上させる方法であって、
前記脱脂大豆に、水溶性窒素指数が30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有させることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織状大豆たん白の製造方法に関し、食肉代替品用として良好な硬さがあり、且つ加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、組織状大豆たん白(粒状大豆たん白、TVP(textured vegetable protein)とも称される)は、脱脂大豆等を原料とし、押出成形機等で高温高圧処理して組織化、膨化等することによって製造される。従来から組織状大豆たん白は、例えば、食肉代替品として加工食品に混合される等、様々な料理に利用されている。そのため、組織状大豆たん白について、それらの用途に応じた食感や風味を改善する技術が種々開発されている。それらの技術としては、食品添加物の利用があるが、その場合、原料表示の必要があったり、製造面では後銘柄への影響を除くため、切換えロスの増加やライン洗浄のための製造停止など生産性に課題があったりすることから、食品添加物を使用しない改善技術が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1では風味及び食感の優れた組織状大豆蛋白質の製造方法について検討され、加熱処理により水溶性窒素指数を40以下にした脱脂大豆に水を加えて混錬し、押出成形機により加熱加圧し押し出すことを特徴とする組織状大豆蛋白質の製造法が見出されている。また、特許文献2では、従来の条件下では十分な組織化を行うことが出来ない、高度に変性した蛋白質素材もしくはリンおよびカリウム含有量を選択的に低減した大豆などを組織状たん白質食品の原料として使用し得るような条件について検討され、二軸エクストルーダ処理を行って組織状蛋白質食品を製造するにあたり、原料として可溶性窒素指数が15以下の植物性蛋白質素材を使用し、且つ該原料の温度がすくなくとも一度は、180℃以上250℃以下に保たれることを特徴とする組織状蛋白質食品の製造方法が見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-55158号公報
【文献】特開昭64-30542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、得られる組織状大豆たん白が、食肉代替品用として十分な硬さがない場合や、加工食品とした際に肉とは異なる色調のため、外観が好ましくない場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、食肉代替品用として良好な硬さがあり、且つ加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水溶性窒素指数(以下、NSIと称する)が低くなるように調製した脱脂大豆を、比較的高いNSIを有する脱脂大豆と混合して組織状大豆たん白を製造することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、NSIが70以上の脱脂大豆Hを、脱脂大豆の総質量に基づいて70~95質量%含有する脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含む組織状大豆たん白の製造方法であって、前記脱脂大豆が、NSIが30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有することを特徴とする製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、食肉代替品用として良好な硬さがあり、且つ加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白を製造することができ、食感、外観に優れた食肉代替品を含む加工食品を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[組織状大豆たん白の製造方法]
本発明の組織状大豆たん白の製造方法は、NSIが70以上の脱脂大豆Hを含有する脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含む組織状大豆たん白の製造方法であって、前記脱脂大豆が、NSIが30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有することを特徴とする。NSIは脱脂大豆の熱変性等の変性度の指標として用いられ、一般にNSIが低い程、たん白質の変性度が高い。特許文献1及び2に記載されたように、従来から、組織状大豆たん白の製造に、種々のNSIを有する脱脂大豆が用いられているが、NSIが高い低変性の脱脂大豆と、NSIが低くなるようにたん白質を変性させた脱脂大豆とを混合して組織状大豆たん白を製造することは、これまで検討されてこなかった。本発明においては、上記規定の脱脂大豆Hを含有する脱脂大豆に、上記規定の脱脂大豆Lを所定量含有させて組織状大豆たん白を製造することで、硬さが向上し、食肉代替品用として良好な硬さを有し、且つ色調が濃くなり、加熱加工食品において肉となじみの良い色調を有する組織状大豆たん白が得られることが見出された。後述する実施例で示す通り、脱脂大豆LのNSIが上記範囲を超える場合は、本発明の効果は得られない。また、前記脱脂大豆Lの含有量が多過ぎると、得られる組織状大豆たん白の硬さが逆に低下し、良好な硬さが得られず、色調も濃くなり過ぎ、加熱加工食品において肉となじみの良い色調から外れる。前記脱脂大豆H及び前記脱脂大豆Lは、それぞれ上記規定を満たせば、1種の脱脂大豆でもよく、複数種の脱脂大豆の組み合わせでもよい。なお、前記脱脂大豆Hと前記脱脂大豆Lの含有量から算出されるNSIの平均値と、同程度のNSIを有する脱脂大豆を単独で用いて組織状大豆たん白を製造しても、本発明の効果は得られない。
【0011】
脱脂大豆は、一般に、大豆から加工助剤等を用いて油分を抽出する脱脂工程を経た残渣を乾燥、粉砕したものである。脱脂大豆のNSIは、大豆の種類や状態、脱脂大豆の製造条件によって変化し得る。本発明において、前記脱脂大豆Hは、NSIが70以上のいわゆる低変性脱脂大豆であり、一般に、製造過程であまり高温条件にさらされていない。一方、前記脱脂大豆Lは、脱脂された大豆が、NSIが30以下になるように、たん白質が変性する条件にさらされている。前記脱脂大豆LのNSIを調整する方法は、特に制限はない。例えば、大豆の脱脂工程後、乾燥前に蒸気で加熱処理したり、高温高湿処理したりしてもよく、低変性脱脂大豆を、水と共に高温高圧処理する工程を含む方法で調製してもよい。脱脂大豆を、水と共に高温高圧処理する工程を含む方法の場合、既存の組織状大豆たん白の製造設備を用いることができ、また、容易にNSIが30以下に調整することができるので好ましい。なお、通常、組織状大豆たん白を製造する際、輸送工程、乾燥工程、整粒工程等において、大きさが規格を外れる粉粒体が一定量発生するが、それらを再利用することで、食品廃棄物の低減を図ることもできる。
【0012】
本発明において、前記脱脂大豆LのNSIは、5~30が好ましく、5~25がさらに好ましく、10~20が特に好ましい。また、前記脱脂大豆Lの含有量は、前記脱脂大豆の総質量に基づいて8~30質量%が好ましく、8~25質量%がさらに好ましく、10~20質量%が特に好ましい。前記脱脂大豆Lの粒度は特に制限はないが、前記脱脂大豆Hと混合した際分級するのを防ぐため、前記脱脂大豆Hと同程度の粒度が好ましく、中位径が20~100μmであることがより好ましい。さらに前記脱脂大豆Lの水分は特に制限はないが、前記脱脂大豆Hと混合するまでの保管中に変化しないように15%以下が好ましく、前記脱脂大豆Hと混合する際に粉舞いを防ぐため3%以上が好ましい。本発明において、脱脂大豆Lを前記脱脂大豆に含有させるタイミングは、脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理する前であれば、特に制限はない。高温高圧処理する直前であってもよく、上述の大豆の脱脂工程の際に所定量の脱脂大豆Lを混合してもよい。なお、NSIが30以下の脱脂大豆Lは、一般に消化性が高いので、脱脂大豆Lを含有する脱脂大豆は、飼料価値も高いものと考えられる。
【0013】
本発明において、前記脱脂大豆は、本発明の効果を阻害しない限り、前記脱脂大豆H及び前記脱脂大豆L以外の脱脂大豆を含んでいてもよい。本発明の効果を十分発揮するため、前記脱脂大豆は、前記脱脂大豆Hを前記脱脂大豆の総質量に基づいて70~95質量%含有することが好ましく、70~92質量%がさらに好ましく、75~92質量%がさらに好ましく、80~90質量%が特に好ましい。本発明において、前記脱脂大豆は、前記脱脂大豆H及び脱脂大豆Lのみを含むことが好ましい。
【0014】
本発明において、組織状大豆たん白を製造するための材料は、前記脱脂大豆及び水以外のその他の材料を含んでいてもよい。例えば、濃縮大豆たん白、分離大豆たん白、小麦たん白、乳たん白、卵たん白等の他のたん白材料;澱粉;食用油脂;食物繊維;調味料;無機塩類、ビタミン類、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、保存料、増粘剤、色素、香料等の添加剤を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明の組織状大豆たん白の製造は、前記脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含めば特に制限はない。前記高温高圧処理は、例えば、二軸エクストルーダ等の押出成形機を用いることができる。高温高圧処理後の膨化物を細断、乾燥、冷却、整粒工程等により所望の形態の組織状大豆たん白を製造することができる。本発明において、組織状大豆たん白の形態は、例えば、顆粒状、フレーク状等が挙げられる。好ましい形態は、硬くなりやすい顆粒状である。
【0015】
[食品組成物及び加工食品の製造方法]
本発明の食品組成物の製造方法は、本発明の製造方法によって製造された組織状大豆たん白を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む。本発明において、食品組成物は、加工食品を製造するために用いる組成物のことを称し、加工食品を製造する際に、添加して用いるものでも、そのまま加熱調理等することで加工食品を製造できるものでもよい。前記食品組成物は、本発明の製造方法によって製造された組織状大豆たん白単独でも、加工食品の種類によって、必要に応じて、その他の材料と混合して製造されるものでもよい。その他の材料としては、食肉類;卵類;魚介類;野菜類;澱粉、砂糖、ぶどう糖、水あめ等の糖質;食用油脂;水;酒類;果汁類;だし汁等の調味液類;食塩、しょう油、味噌、酢等の調味料;エキス類が挙げられる。本発明の食品組成物の製造方法においては、製造する食品組成物に応じて、上記の材料を混合する工程の他、吸水、加熱、成形、凍結、乾燥等の工程を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の加工食品の製造方法は、本発明の製造方法によって製造された組織状大豆たん白、又は本発明の製造方法によって製造された食品組成物を用いることを特徴とする。本発明において、加工食品は、本発明の製造方法によって製造された組織状大豆たん白を、その他の材料に添加、混合して加熱調理するか、又は本発明の製造方法によって製造された食品組成物を、直接加熱調理する、若しくはその他の材料に添加、混合して加熱調理する等によって製造させる。その他の材料としては、上述の通りである。本発明において、加工食品としては、特に制限はない。本発明の製造方法によって製造された組織状大豆たん白は、食肉代替品用として良好な硬さを有し、且つ加熱加工食品において肉に近い色調を有するので、本発明の製造方法によって製造される加工食品は、食肉を含み得る(食肉を含んでいなくてもよい)加工食品であることが好ましく、例えば、ハンバーグ、肉団子、メンチカツ、ミートコロッケ、つくね、ソーセージ、そぼろ、麻婆豆腐、餃子、肉みそ、ミートソース、チャーハン等が挙げられる。
【0017】
なお、本発明は、上述の説明から理解できるように、NSIが70以上の脱脂大豆Hを含有する脱脂大豆を含む材料を、水と共に高温高圧処理して組織化及び膨化する工程を含む方法によって製造される組織状大豆たん白の硬さを向上させる方法であって、前記脱脂大豆に、NSIが30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有させることを特徴とする方法にもある。上述の通り、NSIが30以下の脱脂大豆Lを所定量含有させることで、NSIが高い低変性の脱脂大豆のみを用いて製造された組織状大豆たん白と比較して硬さを向上させ、食肉代替品用として良好な硬さを有する組織状大豆たん白とすることができる。本発明の方法の好ましい態様は、上述の組織状大豆たん白の製造方法の場合と同様である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.脱脂大豆の調製
(1)脱脂大豆Hの調製
2種の原料大豆から、以下の方法で、脱脂大豆H1及び脱脂大豆H2を調製した。具体的には、ロール(株式会社スエヒロEPM製)を用いて各原料大豆を0.3mmに圧扁し、フレーク状にした。次いで、食品添加物ヘキサン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を溶媒として用いて40~60℃で4時間油分を抽出し、得られた残渣を風乾し、粉砕機(槇野産業株式会社製)を用いて粉砕し、脱脂大豆H1及び脱脂大豆H2を得た(油分:約1%)。
(2)脱脂大豆HLの調製
脱脂大豆H1を調製する際に採取した原料大豆を圧扁したフレーク状物100質量部に対し、後述する方法で調製した脱脂大豆L1を20質量部添加したものを用いて、(1)と同様に、油分を抽出し、得られた残渣を風乾し、粉砕し、脱脂大豆HLを得た(油分:約1%)。
(3)脱脂大豆Lの調製
(i)エクストルーダ処理
脱脂大豆H1を、二軸エクストルーダを使用し、下記条件にて膨化状況を観察しながら加圧加熱して組織化物を得た。
・加水量は、脱脂大豆の質量に基づいて約30~40質量%で調整。
・加熱時の加圧は3~4MPaの範囲。
・エクストルーダのスクリュー回転数の調整は、約200~900rpmの範囲。
・先端バレル温度は約140~180℃の範囲。
・加熱時間は、30~90秒の範囲に調整してダイから押出し、ダイ出口直後にカッター(回転数:500~1000rpm)で切断。
得られた組織化物は、カッティングヘッドが水平刃間隙300mm、垂直刃間隙4.0mmの分割機で分割し、フレーク状の組織物とした。
得られたフレーク状の組織化物は、恒温恒湿槽(EC-86MHHP、日立アプライアンス株式会社製)を用いて80℃の熱風で乾燥後、粉砕して水分約3~5質量%の脱脂大豆L1~L4を調製した。
(ii)恒温恒湿処理
脱脂大豆H1を、恒温恒湿槽(EC-86MHHP、日立アプライアンス株式会社製)を用いて、80℃、RH80%でNSIをモニタリングしながら処理した。処理後は、80℃の熱風で乾燥後、解砕して水分約3~5質量%の脱脂大豆L5及びL6を得た。
【0019】
(4)脱脂大豆の各特性の分析方法
(i)NSI
NSIは以下の通り測定した。まず、試料10.0gをビーカーへ秤量し、30℃の蒸留水450mLと消泡剤(シリコーンオイル)1滴を加えて撹拌し、10分間放置した。80℃の水浴中にビーカーを固定し、25分間加温撹拌した後、冷水で30℃まで冷却し、30℃の蒸留水を加えて500mLに定容した。得られた抽出液50mlを遠心分離(3000rpm、10分間)して、分離された上清25mLを分解蒸留管に移し、ケルダール法により前記上清中の全窒素量を測定した。具体的には、前記分解蒸留管に、分解助剤(CuSO4:CaSO4=9:1)4g、濃硫酸15mLを加え、420℃で1時間加熱分解を行い、放冷後、蒸留を行い、常法により窒素量を測定した。また、ケルダール法にて、試料中の全窒素量を測定し、熱水で抽出される窒素を全窒素に対する百分率でNSIを算出した。
(ii)中位径
中位径は、レーザー回折式粒度測定装置を用いて測定した。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS(株式会社日本レーザー製)を用い、フラウンホーファー回折によって体積基準分布(頻度分布)から累積50%粒径を求めた。
(iii)水分
水分は、基準油脂分析試験法(1.4.1-2013、日本油化学会)に基づいて測定した。
調製した各脱脂大豆のNSI、中位径、水分を表1及び表2に示す。
【0020】
【0021】
【0022】
2.組織状大豆たん白の製造及び評価
(1)組織状大豆たん白の製造
1.で調製した各脱脂大豆を用いて、各対照例、実施例、及び比較例の組織状大豆たん白を製造した。具体的には、表3~6に示した配合で各脱脂大豆を混合した脱脂大豆を、二軸エクストルーダを使用し、下記条件にて膨化状況を観察しながら加圧加熱して組織化物を得た。
・加水量は、脱脂大豆の質量に基づいて約30~40質量%で調整。
・加熱時の加圧は3~4MPaの範囲。
・エクストルーダのスクリュー回転数の調整は、約200~900rpmの範囲。
・先端バレル温度は約140~180℃の範囲。
・加熱時間は、30~90秒の範囲に調整してダイから押出し、ダイ出口直後にカッター(回転数:500~1000rpm)で切断。
なお、顆粒状の組織化物は、直径約4~7mmの組織化物である。一方、フレーク状の組織化物は、エクストルーダから排出された組織化物をカッティングヘッドが水平刃間隙300mm、垂直刃間隙4.0mmの分割機で分割し、製造した。
得られた顆粒状、フレーク状の組織化物は、恒温恒湿槽(EC-86MHHP、日立アプライアンス株式会社製)を用いて80℃の熱風で乾燥し、水分約8質量%の組織状大豆たん白を得た。
(2)組織状大豆たん白の評価
(i)吸水性
各試料30gを500mLビーカーに入れ、そこに20℃の水を300g加え、室温下に5分間静置し、試料を水戻しした。得られた水戻しした試料全量を目開き850μm(20メッシュ)の網かごの上に5分間置いて水切りを行った。水切り後の網かご上の試料の質量W(g)を測定し、吸水率X(%)を下記式により算出した。
X(%)=(W(g)/30(g))×100
(ii)硬さ
各試料30gを60gの熱湯で湯戻しした。湯戻しした試料を直径50mmのケーシング(クレハロンシーム(株式会社クレハトレーディング製)に詰めて両端を密封した。密封したケーシングを、30分間沸騰水浴中で加熱し、加熱後、水槽内で冷却した。冷却後、ケーシングを開封し、約25℃に調整した。前処理した試料20gを直径50mm、高さ26mmの円筒状の容器にとり、表面を平らに整え試験試料とした。
直径40mmの平滑プランジャーを有するレオメーター(SUN RHEO METER COMPAC-100II(株式会社サン科学製))を用いて、以下の条件で硬さを測定した。
・円筒状の容器内にある試料に対し、平滑プランジャー(φ48mm)を円筒状の容器の底面から18mmの深さまで押し込み(速度180mm/分)、その状態で2分間保持し、その後、平滑プランジャーに試料が付着しないように注意しながら試料から離した。
・次いで、平滑プランジャー(φ40mm)を円筒状の容器の底面から9mmの深さまで押し込み(速度180mm/分)、その際の最大荷重(単位:kg)を硬さの測定値とした。
(iii)外観
外観は、脱脂大豆Lを添加しないで製造した組織状大豆たん白を対照として、下記の評価基準に基づいて官能評価を行った。なお、評点は、0.5刻みの5段階で評価し、訓練を受けた専門パネル5名で合議して決定した。
3:対照に比べて、色が濃い
2:対照に比べて、色がやや濃い
1:対照に比べて、色が同程度
結果を表3~6に示す。
【0023】
【0024】
表3に示した通り、NSIが88の脱脂大豆H1を含む脱脂大豆に、NSIが13の脱脂大豆L1を、含有量を変えて配合し、二軸エクストルーダを用いて組織状大豆たん白を製造した。その結果、NSIが13の脱脂大豆L1を、前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有させた実施例1~4の組織状大豆たん白は、脱脂大豆L1を添加しないで製造した対照例1の組織状大豆たん白と比較して、吸水性は同程度であったが、硬さが向上し、且つ色調が濃くなった。一方、脱脂大豆L1を、前記脱脂大豆の総質量に基づいて40質量%含有させた比較例1の組織状大豆たん白では、硬さが向上せず、外観も色が濃くなりすぎていた。
【0025】
【0026】
表4に示した通り、NSIが75の脱脂大豆H2を含む脱脂大豆に、NSIが異なる脱脂大豆L1~L6を配合し、二軸エクストルーダを用いて組織状大豆たん白を製造した。その結果、NSIが8~28の脱脂大豆L1~L5を、前記脱脂大豆の総質量に基づいて20質量%含有させた実施例5~9の組織状大豆たん白は、脱脂大豆Lを添加しないで製造した対照例2の組織状大豆たん白と比較して、吸水性は同程度であったが、硬さが向上し、且つ色調が濃くなった。一方、NSIが35の脱脂大豆L6を配合した比較例2の組織状大豆たん白では、硬さが向上せず、外観も対照例2と同程度であった。
表3及び表4の結果から、組織状大豆たん白を製造する際に、材料として、NSIが70以上の脱脂大豆Hを含有する脱脂大豆に、NSIが30以下の脱脂大豆Lを前記脱脂大豆の総質量に基づいて5~30質量%含有させることで、硬さが向上し、食肉代替品用として良好な硬さを有し、且つ色調が比較的濃くなり、加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白を製造することが出来ることが示唆された。
【0027】
【0028】
表5に示した通り、フレーク状の組織状大豆たん白を製造した場合でも、NSIが88の脱脂大豆H1を含む脱脂大豆に、NSIが13の脱脂大豆L1を、前記脱脂大豆の総質量に基づいて20質量%含有させた実施例10の組織状大豆たん白は、脱脂大豆L1を添加しないで製造した対照例3の組織状大豆たん白と比較して、吸水性は同程度であったが、硬さが向上し、且つ色調が濃くなった。したがって、組織状たん白質の形状に係らず、上述の効果が得られることが示唆された。
【0029】
【0030】
表6に示した通り、NSIが88の脱脂大豆H1、及びNSIが13の脱脂大豆L1を、脱脂大豆H1を調製する際に採取した原料大豆を圧扁したフレーク状物80質量部に対して20質量部添加した脱脂大豆HLから、二軸エクストルーダを用いて組織状大豆たん白を製造した。その結果、NSIが13の脱脂大豆L1を大豆の脱脂工程の際に混合して調製された脱脂大豆HLを用いた実施例11の組織状大豆たん白は、脱脂大豆L1を添加しないで製造した対照例1の組織状大豆たん白と比較して吸水性は同程度であったが、硬さが向上し、且つ色調が濃くなった。したがって、脱脂大豆Lを脱脂大豆に含有させるタイミングは、大豆の脱脂工程の際であってもよく、高温高圧処理する前であれば、上述の効果が得られることが示唆された。
【0031】
3.ハンバーグの製造及び評価
(1)ハンバーグの製造
加工食品としてハンバーグを選定し、表7に示した配合で、組織状大豆たん白として、対照例1、及び実施例1~4で製造した組織状大豆たん白を用いて製造した。具体的には、玉ねぎをみじん切りにした後炒め、組織状大豆たん白及び水以外の材料とミキサーで混錬した。その後、予め、水と混ぜて15分間静置させた各組織状大豆たん白を加え、さらに混錬した。1個当たり、約80gに分割し、厚さ約1cm、10cm×5cmの楕円形にハンバーグ生地を成型した。成型したハンバーグ生地をコンベクションオーブン(株式会社エフ・エム・アイ製)を用いて、180℃、10分間焼成してハンバーグを得た。
(2)ハンバーグの評価
ハンバーグの食感と半分に切った際の断面の見た目を、対照例1の組織状大豆たん白を用いた対照例4のハンバーグを対照として、下記の評価基準に基づいて官能評価を行った。なお、評点は、0.5刻みの5段階で評価し、訓練を受けた専門パネル5名の評点の平均点を算出した。
<食感>
3:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の歯ごたえがあり、肉とのなじみがとてもよい
2:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の歯ごたえがややあり、肉とのなじみがよい
1:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の歯ごたえが同程度または弱く、肉とのなじみが同程度または違和感がある
<断面の見た目>
3:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の色が肉の色調にとても近く、肉とのなじみがとてもよい
2:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の色が肉の色調に近く、肉とのなじみがよい
1:対照例4に比べて、組織状大豆たん白の色が同程度で、肉とのなじみも同程度
結果を表7に示す。
【0032】
【0033】
表7に示した通り、実施例1~4の組織状大豆たん白を用いて製造した実施例12~15のハンバーグは、対照例4のハンバーグに比べて、組織状大豆たん白の歯ごたえがあり、肉なじみがよかった。また、半分に切った際の断面の見た目も、組織状大豆たん白の色が肉の色調に近く、肉なじみがよかった。特に、実施例2、3の組織状大豆たん白を用いて製造した実施例13、14のハンバーグは、組織状大豆たん白と肉との区別が困難なほど歯ごたえがあり、肉なじみがよかった。また、半分に切った際の断面の見た目も、組織状大豆たん白の色が肉の色調に近く、肉なじみがとてもよかった。したがって、上述の製造方法で得られた組織状大豆たん白は、食肉代替品用として良好な硬さ、色調を有することが示された。
【0034】
以上により、上述の組織状大豆たん白の製造方法によって、硬さが向上し、食肉代替品用として良好な硬さを有し、且つ色調が比較的濃くなり、加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白が得られることが示された。
【0035】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、食肉代替品用として良好な硬さがあり、且つ加熱加工食品において肉に近い色調を有する組織状大豆たん白を製造することができ、食感、外観に優れた食肉代替品を含む加工食品を提供することが出来る。