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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】真空処理方法及び真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20241122BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241122BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20241122BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20241122BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01L21/302 101B
H01L21/205
H05H1/46 M
C23C16/50
C23C16/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021057438
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154410
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】作石 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】大竹 文人
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏幸
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-119448(JP,A)
【文献】特開2017-152689(JP,A)
【文献】特開平06-260451(JP,A)
【文献】特表2012-513093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159703(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0229317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H05H 1/46
C23C 16/50
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を支持することが可能な第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に形成される空間にガスを供給するガス供給機構と、前記空間の圧力を検出する第1圧力計と、前記第1電極と前記第2電極とを収容する真空容器と、前記空間に導入された前記ガスを前記真空容器の外に排気する排気機構と、前記空間の外側であり前記真空容器の内部の圧力を検出する第2圧力計とを具備する真空処理装置において、
前記空間に一定流量の前記ガスが導入されたときの、前記第1圧力計によって検出される第1圧力値と前記第2圧力計によって検出される第2圧力値との差圧と、前記第1電極と前記第2電極との間の距離との相関関係を求め、
前記基板に真空処理をする前に、前記距離を目標値に設定するとき、前記相関関係において前記目標値に対応した前記差圧となるように前記距離を制御して、前記距離を前記目標値に合わせ込む
真空処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載された真空処理方法であって、
前記第1電極には、前記基板を支持する基板支持領域と、前記基板支持領域を囲み、前記基板の厚みよりも厚い第1環状部材とが設けられ、
前記第2電極には、前記空間に前記ガスを供給するガス供給領域と、前記ガス供給領域を囲み、前記第1環状部材に対向する第2環状部材とが設けられ、
前記距離として、前記第1環状部材と前記第2環状部材との間の距離を適用する
真空処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された真空処理方法であって、
前記第1電極及び第2電極の少なくともいずれかの保守点検が終了した後、前記距離の合わせ込みを行う
真空処理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載された真空処理方法であって、
前記目標値として、5mm以下が適用される
真空処理方法。
【請求項5】
基板を支持することが可能な第1電極と、
前記第1電極に対向する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間の距離を変更する駆動機構と、
前記第1電極と前記第2電極との間に形成される空間にガスを供給するガス供給機構と、
前記空間の圧力を検出する第1圧力計と、
前記第1電極と前記第2電極とを収容する真空容器と、
前記空間に導入された前記ガスを前記真空容器の外に排気する排気機構と、
前記空間の外側であり前記真空容器の内部の圧力を検出する第2圧力計と、
前記駆動機構を制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置には、前記空間に一定流量の前記ガスが導入されたときの、前記第1圧力計によって検出される第1圧力値と前記第2圧力計によって検出される第2圧力値との差圧と、前記第1電極と前記第2電極との間の距離との相関関係が記憶され、
前記基板に真空処理をする前に、前記制御装置は、前記距離を目標値に設定するとき、前記相関関係において前記目標値に対応した前記差圧となるように前記距離を制御して前記距離を前記目標値に合わせ込む
真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理方法及び真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング装置、CVD装置等の真空処理装置の中に、容量結合型プラズマ方式の真空処理装置がある。このような装置では、無磁場で高密度プラズマを得るために、対向する電極の間隔を狭くして、対向する電極間に処理ガスを導入しながら真空処理を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-181840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、対向する電極間の間隔が狭くなるほど、電極間のコンダクタンスが低下する。そして、電極の間隔が狭い状態で電極間隔がばらつくと、この低コンダクタンスが起因して電極間の圧力が変動することになる。これにより、エッチング速度、成膜速度といった処理速度が変動する現象が引き起こされてしまう。
【0005】
特に、真空処理装置の大気開放、あるいは、電極等の真空処理装置のメンテナンスなどを行った後、再び真空処理を開始するときには、電極間の状態が元の状態からずれやすく、上記変動が引き起こされる可能性が高くなる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理方法及び真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、
基板を支持することが可能な第1電極と、上記第1電極に対向する第2電極と、上記第1電極と上記第2電極との間に形成される空間にガスを供給するガス供給機構と、上記空間の圧力を検出する第1圧力計と、上記第1電極と上記第2電極とを収容する真空容器と、上記空間に導入された上記ガスを上記真空容器の外に排気する排気機構と、上記空間の外側であり上記真空容器の内部の圧力を検出する第2圧力計とを具備する真空処理装置において、
上記空間に一定流量の上記ガスが導入されたときの、上記第1圧力計によって検出される第1圧力値と上記第2圧力計によって検出される第2圧力値との差圧と、上記第1電極と上記第2電極との間の距離との相関関係が求められ、
上記距離を目標値に設定するとき、上記相関関係において上記目標値に対応した上記差圧となるように上記距離を制御して、上記距離が上記目標値に合わせ込まれる。
【0008】
このような真空処理方法によれば、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理が実現する。
【0009】
上記真空処理方法においては、上記第1電極には、上記基板を支持する基板支持領域と、上記基板支持領域を囲み、上記基板の厚みよりも厚い第1環状部材とが設けられ、上記第2電極には、上記空間に上記ガスを供給するガス供給領域と、上記ガス供給領域を囲み、上記第1環状部材に対向する第2環状部材とが設けられ、上記距離として、上記第1環状部材と上記第2環状部材との間の距離を適用してもよい。
【0010】
このような真空処理方法によれば、上記距離として、第1環状部材と第2環状部材との間の距離を適用することで、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理が実現する。
【0011】
上記真空処理方法においては、上記第1電極及び第2電極の少なくともいずれかの保守点検が終了した後、上記基板に真空処理をする前に、上記距離の合わせ込みを行ってもよい。
【0012】
このような真空処理方法によれば、保守点検が終了した後でも電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理が実現する。
【0013】
上記真空処理方法においては、上記目標値として、5mm以下が適用されてもよい。
【0014】
このような真空処理方法によれば、上記目標値として、5mm以下が適用されても、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理が実現する。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、基板を支持することが可能な第1電極と、上記第1電極に対向する第2電極と、上記第1電極と上記第2電極との間の距離を変更する駆動機構と、上記第1電極と上記第2電極との間に形成される空間にガスを供給するガス供給機構と、上記空間の圧力を検出する第1圧力計と、上記第1電極と上記第2電極とを収容する真空容器と、上記空間に導入された上記ガスを上記真空容器の外に排気する排気機構と、上記空間の外側であり上記真空容器の内部の圧力を検出する第2圧力計と、上記駆動機構を制御する制御装置とを具備する。
上記制御装置には、上記空間に一定流量の上記ガスが導入されたときの、上記第1圧力計によって検出される第1圧力値と上記第2圧力計によって検出される第2圧力値との差圧と、上記第1電極と上記第2電極との間の距離との相関関係が記憶され、
上記制御装置は、上記距離を目標値に設定するとき、上記相関関係において上記目標値に対応した上記差圧となるように上記距離を制御して上記距離を上記目標値に合わせ込む。
【0016】
このような真空処理装置によれば、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理が実現する。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によれば、電極間隔のばらつきが抑えられ信頼性の高い真空処理方法及び真空処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】図(a)は、本実施形態に係る真空処理装置の概要を示す模式的断面図である。図(b)は、真空処理装置の電極間部分の概要を示す模式的断面図である。
図2】図(a)は、基板が静電チャックに載置されていない状態での、距離d1と差圧ΔPとの関係を示すグラフである。図(b)は、距離d1の誤差(μm)と、エッチングレートの変化量(%)との関係を示すグラフである。
図3】本実施形態に係る距離d1を目標値に合わせ込む方法を示す概略図である。
図4】本実施形態の真空処理方法を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0020】
図1(a)は、本実施形態に係る真空処理装置の概要を示す模式的断面図である。図1(b)は、真空処理装置の電極間部分の概要を示す模式的断面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、真空処理装置1は、真空容器10と、下部電極21(第1電極)と、上部電極22(第2電極)と、駆動機構30と、ガス供給機構40と、圧力計51(第1圧力計)と、圧力計52(第2圧力計)と、制御装置60と、排気機構70とを具備する。
【0022】
真空処理装置1は、典型的には上下の電極が対向して真空処理を行う容量結合型の真空処理装置である。容量結合型の真空処理装置としては、例えば、狭ギャップ放電を利用したドライエッチング装置が適用される。また、真空処理装置1は、ドライエッチング装置に限らず、原料ガスを適宜変更することでCVD(Chemical Vapor deposition)装置にも変更される。なお、狭ギャップ放電を利用した真空処理装置を狭ギャップ型の真空処理装置と呼ぶ。
【0023】
真空容器10は、減圧維持可能な真空容器である。真空容器10は、下部電極21、上部電極22、駆動機構30の一部、及びガス供給機構40の一部等を収容する。真空容器10は、上部電極22から下部電極21に向かう方向(以下、上下方向)から見て(以下、上面視とする)、略円形に構成されてよく、略矩形に構成されてもよい。真空容器10は、例えば、接地電位に設定される。
【0024】
下部電極21は、本体部211と、環状部材212と、静電チャック213とを有する。下部電極21は、真空処理用のガスを放電する電極であるとともに、基板(不図示)を支持する支持台でもある。例えば、下部電極21は、基板を支持することが可能な基板支持領域213aを有する。
【0025】
本体部211は、下部電極21の基体であり、例えば、導電性材料を含む。本体部211を上面視した場合、その外形は、略円形でもよく、略矩形でもよい。本体部211には、図示しない電源から電力が供給される。ここで、電力とは、特に断らない限り、DC電力、RF、VHF等のAC電力、パルス電力等のいずれかが適用される。なお、本体部211には、基板を所定温度に加熱する加熱源あるいは基板を所定温度に冷却する冷媒流路が内蔵されてもよい。
【0026】
環状部材212は、上面視された場合、基板支持領域213a(静電チャック213)を囲む(図1(b))。環状部材212は、本体部211に直接的に放電プラズマが晒されないようにする防着機能を有する。環状部材212は、石英、アルミナ等の絶縁物を含む。環状部材212の厚みは、例えば、基板の厚みよりも厚く構成されてもよく、基板の厚みよりも薄く構成されてもよい。本実施形態では、環状部材212の厚みが基板の厚みよりも厚く構成された例が図示される。
【0027】
静電チャック213は、本体部211の中央に配置される。静電チャック213は、上面視された場合、略円形でもよく、略矩形でもよい。静電チャック213には、図示しない電源から基板を吸着する静電力を生じさせるためのDC電力が供給される。例えば、静電チャック213に真空処理用の基板(例えば、Siウェーハ基板)が載置された後に、静電チャック213にDC電力が供給されると、該基板が静電力によって静電チャック213に吸着される。
【0028】
上部電極22は、本体部221と、環状部材222と、ガス噴射プレート223とを有する。上部電極22は、上下方向において下部電極21に対向する。上部電極22は、空間25に真空処理用のガスを供給するガス供給領域223aを有する(図1(b))。上部電極22は、真空処理用のガスをガス供給領域223aから静電チャック213の側に向けて放出する。
【0029】
本体部221は、上下方向において本体部211に対向する。本体部221は、上面視された場合、略円形でもよく、略矩形でもよい。本体部221の外形は、対向する本体部211の外形に合わせて適宜構成される。本体部221は、上部電極22の基体であり、例えば、導電性材料を含む。本体部221は、接地電位に設定されてもよく、あるいは、本体部221には、図示しない電源から電力が供給されてもよい。
【0030】
環状部材222は、上面視された場合、ガス供給領域223a(ガス噴射プレート223)を囲む。環状部材222は、上下方向において環状部材212に対向する。環状部材222は、本体部221に直接的に放電プラズマが晒されないようにする防着機能を有する。環状部材222は、石英、アルミナ等の絶縁物を含む。
【0031】
ガス噴射プレート223は、本体部221の中央部に配置される。ガス噴射プレート223は、上下方向において静電チャック213に対向する。ガス噴射プレート223には、複数の貫通孔223hが設けられている。複数の貫通孔223hのそれぞれは、上下方向にガス噴射プレート223内で貫通する。また、複数の貫通孔223hのそれぞれは、上下方向と直交する方向に並ぶ。上部電極22の内部には、本体部221とガス噴射プレート223とに囲まれた空間225が形成される。
【0032】
圧力計51は、真空容器10の外側に取り付けられる。圧力計51は、例えば、隔膜式真空計、電離真空計等である。圧力計51に接続された管状の経路53は、下部電極21の内部を貫通して、例えば、静電チャック213の中央部で開放される。これにより、下部電極21と上部電極22との間(以下、上下電極間と呼ぶ場合がある。)の狭い空間25に直接的に圧力計を設けなくとも、経路53を通じて圧力計51によって空間25の圧力が検出される。なお、圧力計51が検出した空間25の圧力は、制御装置60に送られる。
【0033】
圧力計52は、真空容器10の外部に取り付けられる。圧力計52は、例えば、隔膜式真空計、電離真空計等である。圧力計52は、空間25の外側であって真空容器10の内部の圧力を検出する。圧力計52が検出した、空間25外であって真空容器10の内部の圧力は、制御装置60に送られる。
【0034】
ガス供給機構40は、真空容器10の外側に設けられ、管状の経路41を通じて、下部電極21と上部電極22との間に形成される空間225に真空処理用のガスを供給する。ガス供給機構40に接続された経路41は、上部電極22の内部を貫通して、例えば、空間225で開放される。また、ガス供給機構40には、空間225に供給されるガスが一定流量になりように流量計が設けられている。
【0035】
なお、ガス供給機構40は、1つに限らず、複数の異なるガスが空間225に供給できるよう、複数設けられてもよい。
【0036】
真空処理装置1においては、空間225がガス噴射プレート223の上流側に形成されることにより、ガス供給機構40から供給されたガスの一旦、空間225で拡散し、その圧力が緩和される。これにより、複数の貫通孔223hのそれぞれからは、略均一の流量のガスが放出される。
【0037】
なお、真空処理装置1においては、ガス噴射プレート223に代えて、環状のパイプに複数の噴出孔が設けられた噴射ノズル(不図示)が用いられてもよい。この場合、この噴射ノズルは、空間225を介さず経路41に直結される。
【0038】
駆動機構30は、下部電極21と上部電極との間の距離を変更することができる。駆動機構30(駆動部301)は、制御装置60によって制御されている。駆動機構30は、駆動部301と、リンク部302と、ロッド部303、304とを有する。
【0039】
駆動部301は、例えば、サーボモータ、パルスモータ等であって、リンク部302を数10μm以下の精度(最小移動量:1μm)をもって上下方向に移動させる。これにより、上下電極間の距離d1が数10μmの精度で制御される。ロッド部303は、真空容器10を上下方向において貫通する。ロッド部303においては、一方の端部がリンク部302に接続され、他方の端部が上部電極22に接続される。また、ロッド部304は、ロッド部303と並び、真空容器10を上下方向において貫通する。ロッド部304においては、一方の端部がリンク部302に接続され、他方の端部が上部電極22に接続される。
【0040】
リンク部302が駆動部301によって上下方向に移動することにより、リンク部302に接続されたロッド部303、304が上下に移動する、これにより、下部電極21と上部電極との間の距離が適宜変更される。
【0041】
排気機構70は、圧力調整用のバルブ71を介して、空間225に導入されたガスを真空容器10の外部に排気する。排気機構70としては、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプが適用される。
【0042】
真空処理装置1がドライエッチング装置として適用される場合、空間25にエッチングガスが導入され、プラズマ放電によって空間25にエッチャントが発生すると、基板に形成された膜がエッチャントにより除去される。一方、真空処理装置1がCVD装置として適用され、空間25に成膜用の原料ガスが導入されると、プラズマ放電によって空間25に膜の前駆体が形成され、基板に膜が形成される。
【0043】
また、環状部材212、222のそれぞれが石英、アルミナ等の絶縁物を含むことにより、放電プラズマは、環状部材222から露出されたガス噴射プレート223と、環状部材212から露出された静電チャック213との間の狭い空間25の部分に効率よく閉じ込められる。これにより、高密度のプラズマが上下電極間に形成される。
【0044】
また、本実施形態では、下部電極21と上部電極22との間の距離として、上下方向における、環状部材212と環状部材222との間の距離d1が適用される。また、狭ギャップ放電を実現するための狭い空間25を形成するために、距離d1は、0.5mm以上5mm以下の範囲に設定される。距離d1は、静電チャック213とガス噴射プレート223との間の距離よりも短い。例えば、距離d1の一例として、2mmが適用される。
【0045】
真空処理装置1を用いた本実施形態の真空処理方法を説明する。
【0046】
制御装置60には、基板が下部電極21に載置されていない状態で空間25に一定流量のガス(例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N))が導入されたときの、圧力計51によって検出される圧力値P1(第1圧力値)と、圧力計52によって検出される圧力値P2(第2圧力値)との差圧ΔPと、下部電極21と上部電極22との間の距離d1との相関関係が予め実験、シミュレーション等によって求められて、その相関関係が記憶されている。
【0047】
例えば、図2(a)は、基板が静電チャックに載置されていない状態での、距離d1と差圧ΔPとの関係を示すグラフである。空間25に供給するガスは、Arである。ここで、下部電極21及び上部電極22には、電力が投入されず、下部電極21と上部電極22との間には、プラズマ放電を立てない。また、図2(b)は、距離d1の誤差(μm)と、エッチングレートの変化量(%)との関係を示すグラフである。ここで、変化量(%)は、距離d1が基準値の時のエッチングレートに対するエッチングレート変化の割合で定義される。例えば、距離d1が基準値であるときのエッチングレートをR、基準値から誤差分逸れたときのエッチングレートをRとしたとき、変化量は、((R-R)/R)×100(%)で表される。
【0048】
図2(a)に示すように、距離d1が10mm以上では、差圧ΔPは、略0Paとなるものの、距離d1が10mmより短くなると、差圧ΔPが距離d1が短くなるほど増大することが分かる。
【0049】
例えば、距離d1が10mm以上では、下部電極21と上部電極22とが上下方向において充分に離れることから、ガス供給領域223aから放出されガスが速やかに真空容器10内の全体に拡散する。これにより、真空容器10内の圧力は、任意の位置で略同じ圧力となり、圧力値P1と圧力値P2との間に差が生じないと考えられる。
【0050】
一方、距離d1が10mmよりも短くなると、静電チャック213とガス噴射プレート223との間の距離よりも、距離d1のほうが短いことから、ガス供給領域223aから放出されたガスにとっては、環状部材212と環状部材222との間の空間が流路抵抗となる。これにより、静電チャック213とガス噴射プレート223との間の空間に、いわゆるガス溜りが生じる。この結果、差圧ΔPは、距離d1が10mm以上の場合よりも大きくなって、特に、距離d1が5mm以下となると急激に増大する。
【0051】
換言すれば、図2(a)に示す、距離d1と差圧ΔPとの関係は、距離d1が10mm以下において、ある距離d1における差圧ΔPがどれ程になるかの目安(指標)であって、所定の差圧ΔPとなるように距離d1を調整すれば、所定の差圧ΔPに対応した距離d1が必ず得られることになる。
【0052】
ここで、比較例の真空処理装置として、駆動機構30を具備していない狭ギャップ型の真空処理装置を想定してみる。そして、このような比較例に係る装置に対して、保守点検(メンテナンス)を行うために、真空容器10を大気開放し、下部電極21または上部電極22の分解、下部電極21または上部電極22の洗浄、下部電極21及び上部電極22のそれぞれの少なくとも一部の部品交換等の作業がなされたとする。
【0053】
このような場合、メンテナンス作業の前後においては、下部電極21と上部電極22との間隔が元の状態から若干ずれる場合がある。このような電極間のずれが生じると、距離d1の誤差に応じて、相対レートが変動する場合がある。例えば、図2(b)においては、距離d1として2mmを設定値とし、この2mmからずれた場合における相対レートの変動が示されている。
【0054】
ここで、図2(b)の横軸では、距離d1がメンテナンス前後において2mmからずれなかった場合を0mm(基準値)とし、距離d1がメンテナンス前後においてずれて、2mmよりも長くなった場合のずれ量を正側(μm)、2mmよりも短くなった場合のずれ量を負側(μm)としている。
【0055】
この場合、距離d1がメンテナンス前後においてずれなかった場合は(0mm(基準値))、当然に相対レートは変動しない(0%)。しかし、距離d1がメンテナンス前後でずれて、ずれ量が正側に100μmシフトすると、相対レートは-3%減少する。さらに、ずれ量が正側に200μmシフトすると、相対レートは-7%にまで減少する。これは、実際には、距離d1が設定値である2mmよりも誤差分だけ長くなっているため、その分、空間25におけるガス圧が減少して、例えば、プラズマ密度が所望とするプラズマ密度よりも減少する現象等が起きることによる。
【0056】
一方、距離d1がメンテナンス前後においてずれて、ずれ量が負側に-100μmシフトすると、相対レートは2%増加し、ずれ量が負側に-200μmシフトすると、さらに相対レートは3%にまで増加する。これは、実際には、距離d1が設定値である2mmよりも誤差分だけ短くなっているため、その分、空間25におけるガス圧が増大して、例えば、プラズマ密度が所望とするプラズマ密度よりも増加する現象等が起きることによる。
【0057】
このように、駆動機構30を具備していない狭ギャップ型の真空処理装置では、距離d1が数100μm程度ばらつくことによって、相対レートが変動することが分かる。
【0058】
これに対して、本実施形態に係る真空処理方法では、距離d1を目標値に設定するとき(例えば、2mm)、図2(a)に示す相関関係において、目標値(例えば、2mm)に対応した差圧ΔPとなるように制御装置60が距離d1を制御して距離d1を目標値に合わせ込む。
【0059】
図3は、本実施形態に係る距離d1を目標値に合わせ込む方法を示す概略図である。図3では、距離d1が0mm~5mmの範囲での距離d1と差圧ΔPとの関係が示されている。
【0060】
例えば、距離d1の目標値を2mmとする。このときの差圧ΔPは、距離d1と差圧ΔPとの関係から30Paになるはずである。換言すれば、差圧ΔPが30Paであれば、距離d1は、2mmになっている。
【0061】
ここで、差圧ΔPが30Paよりも低いΔPaと計測された場合は、距離d1と差圧ΔPとの関係から距離d1は、2mmよりも大きい距離daになっている判断できる。従って、制御装置60は、駆動機構30を制御して差圧ΔPが30Paに漸近するように下部電極21と上部電極22との間の距離を狭める制御を行う。これにより、距離d1は、目標値である2mmに合わせ込まれる。
【0062】
一方、差圧ΔPが30Paよりも高いΔPbと計測された場合は、距離d1と差圧ΔPとの関係から距離d1は、2mmよりも短い距離dbになっていると判断できる。従って、制御装置60は、駆動機構30を制御して差圧ΔPが30Paに漸近するように下部電極21と上部電極22との間の距離を離す制御を行う。これにより、距離d1は、目標値である2mmに合わせ込まれる。
【0063】
図4は、本実施形態の真空処理方法を示すフローである。
【0064】
まず、真空処理装置1において、空間25に一定流量のガス(例えば、Ar、N)が導入されたときの、圧力値P1と圧力値P2との差圧ΔP(P1-P2)と、下部電極21と上部電極22との間の距離d1との相関関係が予め求められる(ステップS10)。
【0065】
次に、距離d1の目標値(例えば、2mm)が設定される(ステップS20)。次に、差圧ΔPが略0Paとなるように、距離d1を充分に長く設定され(例えば、15mm以上)、一定流量のガスをガス供給領域223aから上下電極間に導入する(ステップS30)。
【0066】
次に、バルブ71の開閉度を調整して、圧力値P2が所定の圧力値Pβになるように設定される(ステップS40)。次に、上下電極間の間隔を狭めながら、圧力値P1を計測し、差圧ΔP(P1-P2)が距離d1の目標値に対応する差圧ΔPとなるように上下電極間を調整する(ステップS50)。
【0067】
次に、差圧ΔP(P1-P2)が距離d1の目標値に対応する差圧ΔPになっていれば(ステップS60、YES)、そのときの距離d1をもって、距離d1の調整を終了とする。すなわち、距離d1は、目標値に設定されたことになる。一方、差圧ΔP(P1-P2)が距離d1の目標値に対応する差圧ΔPになっていなければ(ステップS60、NO)、ステップS50に遡り、ステップS50とステップS60とのルーチンが繰り返される。
【0068】
このように、距離d1を目標値に設定するとき、帰還制御によって距離d1の目的値との差(オフセット値)が補正される。例えば、距離d1と差圧ΔPとの相関関係において距離d1の目標値に対応した差圧Δとなるように距離d1を制御して、距離d1が目標値に合わせ込まれる。
【0069】
このような距離d1の目標値への合わせ込みは、下部電極21及び上部電極22の少なくともいずれかの保守点検が終了した後、基板に真空処理をする前に実施される。保守点検とは、例えば、真空容器10を大気開放し、下部電極21または上部電極22の分解、下部電極21または上部電極22の洗浄、下部電極21及び上部電極22のそれぞれの少なくとも一部の部品交換等の作業を意味する。
【0070】
このような保守点検が行われたとしても、上下電極間隔のばらつきが抑えられ、上下電極間の距離d1がプロセス処理前に常に同じ目標値に設定される。このため、その後のプロセス処理では、上下電極間に同じ状態の放電プラズマを安定して形成することができる。この結果、真空処理の信頼性が向上する。
【0071】
なお、上下電極間の距離を機械的な計測器で計測する方法もある。しかし、機械的な測定は、測定精度として数10μm以下の精度を確保することが難しい。また、測定する度に大気開放を要し、結局、上下電極間の距離がずれる虞がある。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…真空処理装置
10…真空容器
21…下部電極
22…上部電極
25…空間
30…駆動機構
40…ガス供給機構
41…経路
51、52…圧力計
53…経路
60…制御装置
70…排気機構
71…バルブ
211…本体部
212…環状部材
213…静電チャック
213a…基板支持領域
221…本体部
222…環状部材
223…ガス噴射プレート
223a…ガス供給領域
223h…貫通孔
225…空間
301…駆動部
302…リンク部
303、304…ロッド部
図1
図2
図3
図4