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特許7591987多結晶シリコンロッドの製造装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】多結晶シリコンロッドの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
C01B33/035
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021111400
(22)【出願日】2021-07-05
(65)【公開番号】P2023008110
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】星野 成大
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111360(JP,A)
【文献】特開2006-240934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C23C
C30B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンを析出させるためのシリコン芯線と、
底板を貫通して設けられた芯線用電極と、
前記シリコン芯線と前記芯線用電極との間に設けられ、前記底板に対して移動可能な調整部材と、
前記調整部材を冷却可能な冷却部と、
を備え
前記冷却部は、気体を前記調整部材に向かって気体を吹き付けるノズルを有する、多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項2】
前記気体はシラン原料ガスである、請求項に記載の多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項3】
多結晶シリコンを析出させるためのシリコン芯線と、
底板を貫通して設けられた芯線用電極と、
前記シリコン芯線と前記芯線用電極との間に設けられ、前記底板に対して移動可能な調整部材と、
前記調整部材を冷却可能な冷却部と、
を備え、
前記冷却部は、前記底板と前記調整部材との間に設けられ、前記調整部材を前記底板によって冷却するための放熱絶縁部材を有する多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項4】
多結晶シリコンを析出させるためのシリコン芯線と、
底板を貫通して設けられた芯線用電極と、
前記シリコン芯線と前記芯線用電極との間に設けられ、前記底板に対して移動可能な調整部材と、
前記調整部材を冷却可能な冷却部と、
を備え、
前記調整部材は、前記芯線用電極の材質と異なる材質からなる多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項5】
多結晶シリコンを析出させるためのシリコン芯線と、
底板を貫通して設けられた芯線用電極と、
前記シリコン芯線と前記芯線用電極との間に設けられ、前記底板に対して移動可能な調整部材と、
前記調整部材を冷却可能な冷却部と、
を備え、
前記調整部材は、前記芯線用電極よりも抵抗率が低い多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項6】
前記冷却部は、前記芯線用電極内に設けられ、冷却液を流すための流路を有する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項7】
前記調整部材は、前記芯線用電極の中心軸と前記シリコン芯線の中心軸とが異なるように、前記芯線用電極と前記シリコン芯線とを連結している、請求項1乃至のいずれか1項に記載の多結晶シリコン棒の製造装置。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の多結晶シリコン棒の製造装置を用いた多結晶シリコン棒の製造方法であって、
前記シリコン芯線に多結晶シリコンを析出させる工程を備え、
前記多結晶シリコンを析出させる工程において、前記冷却部によって調整部材を冷却する、多結晶シリコン棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱されたシリコン芯線の表面に原料ガスを供給することにより多結晶シリコンを析出させるための多結晶シリコン製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体用の単結晶シリコンあるいは太陽電池用シリコンの原料である。多結晶シリコンの製造方法としては、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、一般にシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、シリコン芯線の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて多結晶シリコンを析出させる方法である。
【0003】
シーメンス法は、シリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の逆U字型に組み立て、逆U字型シリコン芯線の両端部をそれぞれ芯線ホルダに接続し、底板上に配置した一対の金属製の電極に固定する。一般的には反応炉内には複数組の逆U字型シリコン芯線を配置した構成となっている。
【0004】
逆U字型のシリコン芯線を析出温度まで通電により加熱し、原料ガスとして例えばトリクロロシランと水素の混合ガスをシリコン芯線上に接触させ、シリコンが気相成長し、所望の直径の多結晶シリコン棒が逆U字状に形成される。
【0005】
シーメンス法に使用される底板において、シリコン芯線用電極は反応炉の底板の貫通孔内に挿入されているのが一般的である。そして、上述のように複数組のシリコン芯線を配置することから底板を貫通するシリコン芯線用電極は複数個存在している。
【0006】
そのような中で、電極の配置について様々な提案がなされている。
【0007】
特許文献1(特開2011-231005号公報)では、表面形状不良やソリがないように多結晶シリコンを析出することが容易な多結晶シリコン還元炉を提供するために、シリコン芯棒と原料ガス供給口、排気口の位置関係が提案されている。
【0008】
特許文献2(WO2011/123998)では、熱効率、ガス流れの均一性を上げて、生産量の増加、表面品質の改善、エネルギー消費の削減を可能な配置が提案されている。
【0009】
特許文献3(WO2012/171149)や特許文献4(WO2013/093051)においても、生産性や反応炉内の均一性を目的として反応炉内の配置が提案されている。
【0010】
そのような中で、特許文献5(特開2014-101256号公報)には、炉内に設置するヒータの寿命を延ばすため、配置を可変とするための提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-231005号公報
【文献】WO2011/123998
【文献】WO2012/171149
【文献】WO2013/093051
【文献】特開2014-101256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1~4で提案されている最適な配置はそれぞれ異なっている。また、反応炉の大型化も進んでおり、反応器にかかるコストは非常に大きい。それにもかかわらず、底板を貫通するシリコン芯線用電極は、設置前に配置を決定する必要がある。
【0013】
しかし、実際には、設置した反応器そのもので多結晶シリコンを成長させてみないと、多結晶シリコンの成長形状はわからない。
【0014】
また、特許文献5のような態様も提案されているが、特許文献5によってヒータの配置を最適化できても、アダプタ等には多結晶シリコンが析出してしまうことから、芯線の配置を再調整することもできず、アダプタ等自体の再利用も困難となり廃棄せざるを得ない。仮に再利用できたとしても、配置の再調整の際には析出してしまった多結晶シリコンが調整部材から剥がれ落ちることがある。アダプタ等に析出してしまった多結晶シリコンは部材と接触しており、品質が低下する。その多結晶シリコンが炉内に落下し、結果として炉内の汚染が増加してしまう。また、これらの析出してしまった多結晶シリコンは半導体向けや太陽電池向けの多結晶シリコンとして適していないため、品質要求の低い製品に振り向けるしかない。
【0015】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、アダプタ等へのシリコンの析出を抑制し、支障なく芯線用電極の位置を移動させることのできる多結晶シリコン棒の製造装置及び多結晶シリコン棒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置は、
多結晶シリコンを析出させるための芯線と、
底板を貫通して設けられた芯線用電極と、
前記シリコン芯線と前記芯線用電極との間に設けられ、前記底板に対して移動可能な調整部材と、
前記調整部材を冷却可能な冷却部と、
を備えてもよい。
【0017】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記冷却部は、気体を前記調整部材に向かって気体を吹き付けるノズルを有してもよい。
【0018】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記気体はシラン原料ガスであってもよい。
【0019】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記冷却部は、前記底板と前記調整部材との間に設けられ、前記調整部材を前記底板によって冷却するための放熱絶縁部材を有してもよい。
【0020】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記冷却部は、前記芯線用電極内に設けられ、冷却液を流すための流路を有してもよい。
【0021】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記調整部材は、前記芯線用電極の中心軸と前記シリコン芯線の中心軸とが異なるように、前記芯線用電極と前記シリコン芯線とを連結してもよい。
【0022】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記調整部材は、前記芯線用電極の材質と異なる材質からなってもよい。
【0023】
本発明による多結晶シリコン棒の製造装置において、
前記調整部材は、前記芯線用電極よりも抵抗率が低くてもよい。
【0024】
本発明による多結晶シリコン棒の製造方法は、
前述した多結晶シリコン棒の製造装置を用いて、芯線に多結晶シリコンを析出させる工程を備え、
前記多結晶シリコンを析出させる工程において、前記冷却部によって調整部材を冷却してもよい。
【発明の効果】
【0025】
多結晶シリコン棒を成長させる装置又は方法に対し本発明を適用することにより、シリコン芯線用電極の位置の移動をスムーズに行うことができ、配置の最適化を進めることができる。
【0026】
本発明の一態様として調整部材を冷却するための機構や部材を採用することで、多結晶シリコンの製造時に調整部材を冷却できることから、調整部材への多結晶シリコンの堆積を防ぎ、調整部材の可動に支障をきたさないようにすることができた。その結果、調整部材が支障なく可動することにより、成長中や製造後冷却中の多結晶シリコンによって芯線用電極にかかる応力を緩和することができ、成長中や製造後冷却中の多結晶シリコンの割れや倒壊を防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態による反応炉の縦断面図。
図2】本発明の実施の形態で用いられるシリコン芯線、調整部材等を上方から見た平面図。
図3図2の状態から、シリコン芯線用電極の中心軸の周りで転回させた状態を示した平面図。
図4】本発明の実施の形態で用いられる調整部材の一例を示した縦断面図。
図5】本発明の実施の形態で用いられる調整部材を冷却するための機構の一例を示した縦断面図。
図6】本発明の実施の形態で用いられる調整部材を冷却するための機構の別の例を示した縦断面図。
図7】本発明の実施の形態で用いられる調整部材を移動させるための機構であって、図2乃至図4で示した態様とは異なる態様を示した縦断面図。
図8】本発明の実施の形態で用いられる調整部材を冷却するための機構、制御部及び温度計を示した縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0029】
〈構成〉
図1に示すように、シーメンス法に使用される反応炉100は、底板(ベースプレート)80と、ベルジャ81とを有している。シリコン芯線用電極60は反応炉100の底板80の貫通孔内に挿入されているのが一般的である。一般的には複数組のシリコン芯線1を配置することから、底板80を貫通するシリコン芯線用電極60は複数個存在している。
【0030】
そのため、反応炉100を設計する時点で底板80の貫通孔の位置を決定しなければならない。しかし、実際には、設置した反応炉100そのもので多結晶シリコンを成長させてみないと、多結晶シリコンの成長形状はわからない。
【0031】
全く同じ条件において、反応炉100を増設させる場合には大きな問題とはならない。しかしながら、多くの場合、生産性や表面形状の一種であるポップコーン形状、成長時の多結晶シリコンの形状の改善等を目的として改善された反応炉100を設計することとなる。その際には、反応炉100内の配置においてはシリコン芯線用電極60のみでは無く、供給ガス入口91、排気ガス出口96の炉内配置の変更を行うことが多い。反応条件においては温度、供給ガス濃度、供給ガス流量、反応圧力等の変更も合わせて行うことが多い。その場合、配置が変更され、さらには反応条件が変更されていることになるため、実際には、設置した反応炉100そのもので多結晶シリコンを成長させてみないと、ポップコーン形状を含めた多結晶シリコンの成長形状はわからない。
【0032】
また、特許文献5で示されているように、ヒータのみの配置を最適化できても、ヒータは初期加熱のために用いられ、多結晶シリコンが成長中にはヒータは通電を停止しているため、ヒータへの多結晶シリコンの析出はほとんどない。このため、多結晶シリコンが析出する前にヒータの位置だけを調整するには特許文献5でもよいが、多結晶シリコンが析出した後でのシリコン芯線1の配置を移動させる際には支障が出ることがある。
【0033】
このため、反応ガスが供給された状態で通電し、反応温度に到達している状態や、反応終了後の冷却時において、底板80上でシリコン芯線1の配置が移動する場合、移動する部材への多結晶シリコンの析出を防ぐケアが必要となる。
【0034】
本実施の形態においては、シリコン芯線用電極60の貫通孔位置に左右されることなく、底板80上に自由に配置することができる。その際には、底板80上で調整できる構成とすることができる。
【0035】
一例として、本実施の形態の多結晶シリコン棒の製造装置は、シーメンス法によって多結晶シリコン棒を製造するための装置である。図1に示すように、多結晶シリコン棒の製造装置は、多結晶シリコンを析出させるためのシリコン芯線(芯線)1と、底板80を貫通して設けられたシリコン芯線用電極(芯線用電極)60と、シリコン芯線1とシリコン芯線用電極60との間に設けられ、底板80に対して移動可能なアダプタ等からなる調整部材10と、調整部材10を冷却可能な冷却部(冷却機構)と、を有している。
【0036】
反応時に多結晶シリコンの径が大きくなってくる際や、反応終了時に多結晶シリコン棒を冷却する際に応力を緩和させるために、調整部材10が面内で自然と移動するが、成長した多結晶シリコンの径が大きくなるほど反応時、あるいは冷却時、あるいは反応時と冷却時に移動する調整部材10の移動量は大きくなる。反応炉内の多結晶シリコンの平均径が150mmの場合、調整部材10の移動量は最大で10mmであった。同様に多結晶シリコン径が120mmの場合、移動量は最大で7mmであった。
【0037】
アダプタ等の調整部材10は、底板80上で、シリコン芯線用電極60の中心軸とシリコン芯線1の中心軸とが異なるように連結してもよい。調整部材10とシリコン芯線1との間には芯線保持部材2が設けられてもよい(図5及び図6参照)。
【0038】
図1に示すように、逆U字状のシリコン芯線1の両下端部は、調整部材10を介して、一対のシリコン芯線用電極60に固定されている。シリコン芯線用電極60は、絶縁物61を挟んで底板80を貫通している。
【0039】
図4に示すように、調整部材10は、中央に凹部を有する電極結合部材11と、シリコン芯線1の下端部を保持するとともに電極結合部材11の中心軸の周りを回動可能な保持部材12と、電極結合部材11の上記凹部に挿入されて保持部材12を支持するためのネジ等の締結部材13とを有してもよい。シリコン芯線1の下端部は保持部材12に設けられた穴部12aに挿入される態様で固定されてもよい。
【0040】
図2は、シリコン芯線1の調整部材10の一対にシリコン芯線1の両下端部を保持させた状態を底板80の上方向から示した図であり、この図には2つのシリコン芯線1が設けられた態様が示されている。なお、図2では、後述する冷却用のノズル20がシリコン芯線1の両下端部に隣接して設けられる態様となっている。図3は、図2の状態の調整部材10をシリコン芯線用電極60の中心軸の周りで転回させた態様である。このように本実施の形態のシリコン芯線1の両下端部は移動可能となっている。なお、シリコン芯線1の両下端部を移動させる態様は様々であり、例えば、シリコン芯線1の両下端部を面内方向(水平方向)でスライドさせることで移動させるようにしてもよい(図7参照)。この場合には、例えば、調整部材10の底面に凹部115が設けられ、この凹部115に挿入される凸部110が芯線用電極60の上面に設けられてもよい。そして、調整部材10が凸部110に沿って移動可能となり、締結部材120によって底板80に固定された固定具121に対してその位置が固定されるようにしてもよい。
【0041】
図6に示すように、冷却部は、貯留した気体又は生成した気体を供給する気体供給部25と、調整部材10に向かって気体を吹き付けるノズル(冷却ノズル)20と、気体供給部25とノズル20との間に設けられ、気体供給部25から供給される気体をノズル20へと導く気体供給管26と、を有してもよい。気体供給部25から供給される気体はシラン原料ガスであってもよい。この場合には、シラン原料ガスは、例えばトリクロロシランと水素の混合ガスからなってもよい。多結晶シリコンの析出反応中及び/又は多結晶シリコン棒の冷却中の応力発生による調整部材10の移動距離は10mm程度であることから、ノズル20の位置を固定していても、調整部材10を十分に冷却することができる。但し、このような態様に限られることはなく、スライドする等してノズル20の位置が面内方向で移動可能となってもよい。また、気体供給部25からの気体の供給量及び/又はノズル20の方向は自在に変更できるようになっており、気体の供給量やノズル20の方向を調整することで、多結晶シリコンの析出反応中及び/又は多結晶シリコン棒の冷却中の応力発生によって調整部材10が移動しても、調整部材10に対して十分な冷却を行えるようにしてもよい。この際の各部材の制御は制御部50(図8参照)からの指令を受けて行われてもよい。
【0042】
図5及び図6に示すように、冷却部は、底板80と調整部材10との間に設けられ、調整部材10を底板80によって冷却するための放熱絶縁部材30を有してもよい。底板80の内部には、冷却水等の冷却液が通過する底板冷却液通路70が設けられ、底板冷却液通路70を冷却液が通過することによって、底板80が冷却されてもよい。前述した放熱絶縁部材30を設けることで、冷やされた底板80によって調整部材10を冷却することができるようになる。放熱絶縁部材30としては、シリコンゴム等に熱伝導性充填剤を配合したものを使用してもよい。例えば、シリコンゴム等の合成ゴム100重量部に、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を100~800重量部配合した絶縁性組成物を用いてもよい。さらにはセラミックスを使用してもよい。また放熱絶縁部材30の別の例としては、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、ジルコニア等を用いてもよい。なお、芯線用電極60が銅である場合には、熱伝導率は非常に高い。そして、芯線用電極60内に冷却水が流れている場合には、芯線用電極60によって放熱絶縁部材30を冷却でき、その結果として、調整部材10を冷却することも可能である。
【0043】
放熱絶縁部材30は調整部材10に固定され、底板80には固定されないようにしてもよい。この場合には、調整部材10の移動に伴って放熱絶縁部材30も移動することになる。なお、放熱絶縁部材30が調整部材10の可動距離に対して面内方向(水平方向)で十分な大きさを有している場合には、放熱絶縁部材30が底板80に固定され、調整部材10が10mm程度の範囲で移動しても底板80は移動しない態様としてもよい。一例として、多結晶シリコンの析出反応中及び/又は多結晶シリコン棒の冷却中に調整部材10が10mm程度で移動する場合には、放熱絶縁部材30の面内方向での大きさがそれほど大きくなくても、調整部材10の位置に関わらず、調整部材10と底板80とを放熱絶縁部材30を介して常に接触させることができる。
【0044】
図5及び図6に示すように、冷却部は、冷却水等の冷却液を供給する液体供給部40と、芯線用電極60内に設けられ、冷却液を流すための電極冷却液流路41と、を有してもよい。芯線用電極60は通常、通電する電極を冷却するために冷却水等の冷却液を流しており、好ましい。
【0045】
前述したように、冷却部として、調整部材10に向かって冷却用の気体を吹き付ける機構、放熱絶縁部材30を介して調整部材10を底板80に連結させることでの放熱効果によって冷却する機構及び冷却液によって芯線用電極60を介して調整部材10を冷却する機構のいずれか1つ以上又はこれら全てを採用することで、調整部材10に対してシリコンの結晶が析出することを防止できる。つまり、冷却部(冷却機構)を設けない場合には、通電による発熱等によって、調整部材10にシリコンの結晶が析出してしまうことがある。このようにシリコンの結晶が調整部材10に析出すると、次の多結晶シリコン(新しい多結晶シリコン)の成長を開始する前に調整部材10の位置を調整して移動させる場合には、移動の際に析出した結晶が炉内に落下し、汚染となる。また、このようにシリコンの結晶が調整部材10に析出すると、調整部材10による調整がスムーズに行えないという問題も生じ得る。この点、前述したような冷却部を採用することで、調整部材10における通電による発熱を除熱でき、このような問題が生じることを未然に防止できる点で非常に有益である。また、本態様によれば、発熱によって調整部材10の抵抗値が上がってしまうことも防止できる。
【0046】
また、このように調整部材10を冷却する冷却部(冷却機構)を採用することで、多結晶シリコンの製造時に調整部材を冷却できることから、調整部材10への多結晶シリコンの堆積を防ぎ、調整部材10の可動に支障をきたさないようにすることもできる。その結果、調整部材10を支障なく移動させることができ、成長中の多結晶シリコンや、成長が終了した冷却工程における多結晶シリコンによって芯線用電極60にかかる応力を緩和することができる。このため、成長中や製造後冷却中の多結晶シリコンの割れや倒壊を防止することができる。なお、成長が終了した後に応力緩和のための加熱工程を行ってもよいが、その際にも調整部材10を支障なく移動させることができるので、芯線用電極60にかかる応力を緩和することができる。
【0047】
調整部材10は、シリコン芯線用電極60の材質と異なる材質からなってもよい。一例として、シリコン芯線用電極60としては金属が用いられているが、調整部材10には同一の金属を用いることもできるし、異種の金属、さらにはカーボン、その他通電が可能な材質を使用することができる。
【0048】
調整部材10は、シリコン芯線用電極60に設けられたシリコン芯線用電極60よりも抵抗率が低くてもよい。このような態様を採用することで、余分な発熱を避けることができる点で有益である。
【0049】
調整部材10に本実施の形態による冷却部(冷却機構)が無い場合には、多結晶シリコンの析出時には調整部材10の温度が400℃を超えることになり、調整部材10に多結晶シリコンが析出することになる。他方、本実施の形態で示した冷却部を採用することで、調整部材10の温度を400℃以下、好ましくは350℃以下、さらに好ましくは200℃以下とすることができ、調整部材10に多結晶シリコンが析出することを防止できる。なお、調整部材10に、調整部材10の温度を測定するための温度計90が設置され、当該温度計90における測定結果を受けて、冷却部による調整部材10の冷却温度を制御部50で制御できるようにしてもよい(図8参照)。なお、制御部50は、温度計90の他、液体供給部40、気体供給部25等の他の部材とも通信可能となり、液体供給部40、気体供給部25等を制御できるようにしてもよい。
【0050】
調整部材10を使用した装置を用いれば、シリコン芯線用電極60の貫通孔の真上に配置した構造において成長させた結果、例えばポップコーンの発生状況、成長したロッドの形状が望まないものであった場合に、それらを解決すべく配置の調整を行い、成長させることにより所望の多結晶シリコンを得ることができる。
【0051】
〈方法〉
多結晶シリコン棒の製造装置を用いた多結晶シリコン棒の製造方法の一例について説明する。
【0052】
シリコン芯線用電極60に電流を流すことで、シリコン芯線1に多結晶シリコンを析出させる。この際、シラン原料ガスが原料ガス供給部の供給ガス入口91から供給されることになり、多結晶シリコンの成長に用いられなかったシラン原料ガスが排気ガス出口96から排出されることになる。
【0053】
このように多結晶シリコンを析出させる工程において、冷却部によって調整部材10を冷却する。この際には、図6に示すように調整部材10に向かってノズルから冷却用の気体を吹き付ける機構、図5及び図6に示すように放熱絶縁部材30を介して調整部材10を底板80に連結させることでの放熱効果によって冷却する機構、及び冷却液によって調整部材10を間接的に冷却する機構のいずれか1つ以上又はこれら全てを採用すればよい。
【0054】
多結晶シリコンの径が大きくなってくる際や多結晶シリコン棒を冷却する際に応力を緩和させるために、調整部材10が面内で自然と移動することが生じるが、本実施の形態で説明した冷却部(冷却機構)を採用することで、シリコン芯線1が底板80に対してスムーズに移動することになる。つまり、本実施の形態で説明した冷却部を採用することで、調整部材10に対してシリコンの結晶が析出することを防止でき、その結果として、調整部材10による調整をスムーズに行うことができることになる。
【0055】
また、成長した多結晶シリコン棒を除去した後に、次の多結晶シリコン棒(新しい多結晶シリコン棒)を生成する工程を行うことになるが、次の多結晶シリコンを成長させる前に調整部材10の位置を調整して移動させることが必要になることもある。本実施の形態によれば、調整部材10に対してシリコンの結晶が析出することを防止できるので、このように調整部材10の位置を調整して移動させる場合にも、調整部材10に析出した結晶が調整部材10による調整の際に炉内に落下し、汚染となることを防止でき、また調整部材10による調整がスムーズに行えないという問題が生じることも防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本実施の形態によれば、反応炉100内の最適な位置にシリコン芯線1を設置することができ、その配置の元、所望の多結晶シリコンを得るべく成長させることが可能となる。また、多結晶シリコンの成長過程において、多結晶シリコンに発生する応力を緩和するために、支障なくシリコン芯線1の位置を移動(調整)することができる。
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8