(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/04 20060101AFI20241125BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20241125BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20241125BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B24B49/04 Z
B24B49/12
B24B49/10
B24B7/04 A
(21)【出願番号】P 2021031794
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】若林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】長井 修
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206076(JP,A)
【文献】特開2009-182170(JP,A)
【文献】特開2014-172131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/00-7/08,41/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する円錐面状の保持面を有し該保持面の中心を貫くテーブル回転軸の周りに回転可能なチャックテーブルと、
該チャックテーブルの該保持面と対向する面に環状に配置された複数の研削砥石を有する研削ホイールと、該研削ホイールが下端に装着されたスピンドルと、該スピンドルを昇降させる昇降機構と、を備え、該テーブル回転軸の周りに回転する該チャックテーブルの該保持面上で保持された被加工物を該被加工物の中心から外周に至る領域で研削する研削ユニットと、
該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きを調整する傾き調整ユニットと、
該チャックテーブルで保持された該被加工物の厚みを測定する厚み測定器と、
制御ユニットと、を備える研削装置であって、
該厚み測定器は、
該研削ユニットによって研削される該被加工物の上面の一部と対面し該被加工物の厚みを測定する測定部と、
該チャックテーブルで保持された該被加工物の外周の上方と、該研削ユニットに干渉しない該被加工物の上方と、の間の測定軌道上で該測定部を往復移動させる測定部移動機構と、を備え、
該制御ユニットは、
該被加工物を保持する該チャックテーブルを該テーブル回転軸の周りに回転させるとともに該研削ユニットの該研削ホイールを該スピンドルの周りに回転させつつ該スピンドルを該昇降機構で下降させ、該研削砥石を該被加工物の上面に接触させて該被加工物を研削する研削制御部と、
該測定部移動機構により該測定部を該測定軌道上で往復移動させつつ該測定部で該被加工物の各点の厚みを測定し、該測定部が該測定軌道の往路で該被加工物の厚みを測定して取得した往路厚み測定値と、復路で該被加工物の厚みを測定して取得した復路厚み測定値と、の平均値である厚み平均値を算出し、該各点における該厚み平均値から該被加工物の断面形状を算出する断面形状算出部と、
該被加工物の該断面形状を基にして、該研削砥石で研削された該被加工物が仕上げ形状に近づくように該傾き調整ユニットによる該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きの調整量を算出する傾き調整量算出部と、を備えることを特徴とする研削装置。
【請求項2】
該制御ユニットは、該断面形状算出部で算出された該被加工物の該断面形状から最小二乗法により該被加工物の中心部の断面形状を算出して該被加工物の該断面形状を補完する断面形状補完部をさらに有し、
該傾き調整量算出部は、該断面形状補完部が補完した該被加工物の該断面形状を基にして該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きの該調整量を算出することを特徴とする請求項1に記載の研削装置。
【請求項3】
該測定部は、非接触で該被加工物の厚みを測定する非接触式センサーであることを特徴とする請求項1乃至請求項
2のいずれかに記載の研削装置。
【請求項4】
該測定部は、該被加工物の厚みを測定する複数のセンサーを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項
2のいずれかに記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルのテーブル回転軸の傾きを調整が可能であり、該チャックテーブルで保持された該基板を研削する研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated circuit)やLSI(Large Scale Integration)等のデバイスを搭載したデバイスチップは、円板状のウェーハから製造される。ウェーハの表面に複数のデバイスを設け、該ウェーハを裏面側から研削して薄化し、該ウェーハをデバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップが得られる。
【0003】
ウェーハ等の被加工物の研削は、研削装置で実施される(特許文献1参照)。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、チャックテーブルで保持された被加工物を研削する研削ユニットと、を有する。研削ユニットは、チャックテーブルの保持面とおおよそ平行な面内で環状に並ぶ研削砥石が固定された研削ホイールを備える。
【0004】
そして、研削装置は、保持面の中心を通るテーブル回転軸の周りにチャックテーブルを回転できるとともに、研削ホイールを回転させて研削砥石を環状軌道上に回転できる。研削ユニットを下降させ回転する研削砥石を被加工物に接触させると、被加工物が研削される。ここで、チャックテーブルの保持面は緩やかに傾斜する円錐面である。該保持面を構成する母線のうち研削砥石の環状軌道を含む回転面に最も近い母線が該回転面と平行となるように、テーブル回転軸の傾きが決定される。
【0005】
テーブル回転軸の傾きは、研削砥石で研削された被加工物の被研削面が一様な高さとなるように予め調整される。従来、ウェーハを試験的に研削砥石で研削し、研削後の被加工物の厚み分布を測定し、その結果に基づいてこの傾きが調整されていた。しかしながら、テーブル回転軸が調整される前に研削されたウェーハは、厚みが不均一となりやすく、デバイスチップの製造には不適であり、廃棄される。
【0006】
そこで、被加工物の研削を一時停止して研削ホイールを退避させ、厚み測定器で被加工物の各所の厚みを測定し、測定結果に基づいてテーブル回転軸の傾きを調整し、その後研削を再開する方法が提案されている(特許文献2参照)。ただし、この方法では無駄になる被加工物を削減できるが、研削が一時的に停止されるため、加工効率が低くなるとの問題がある。
【0007】
これに対して、被加工物の研削中に厚み測定器の測定部(センサー)を被加工物の上方で移動させつつ、該被加工物の各所の厚みを厚み測定器で監視する方法が提案されている(特許文献3参照)。ただし、被加工物の中心部では研削砥石が常に該被加工物を研削するため、被加工物の中心部には測定部がアクセスできず、被加工物の中心部の厚みを厚み測定器で測定できない。
【0008】
そこで、被加工物の断面形状の典型例で構成される複数のデータマップを予め制御ユニット等に記憶させておくと、被加工物の中心部以外の部分の断面形状に基づいて被加工物の中心部における厚みを予測できる。すなわち、被加工物の中心部以外の断面形状を制御ユニットに記憶された各データマップと照合して、該断面形状に最も近いデータマップを選択する。そして、選択された該データマップに基づいてテーブル回転軸の傾きを調整する。この方法によると、被加工物の研削を一時停止させる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-141176号公報
【文献】特開2013-119123号公報
【文献】特開2016-184604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、被研削面上で厚み測定器の測定部(センサー)を移動させ各所の厚みを測定する間にも被加工物の研削が絶えず進行するため、各測定位置では測定が実施される時間に差が生じる。すなわち、この方法では、ある時点における被加工物の全域の精密な厚み分布を得ることができない。被加工物の断面形状のデータマップは該被加工物の研削が進行途上であることを想定したものではないため、厚み測定器により測定された被加工物の厚み分布を該データマップと高精度に照合することはできない。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、研削途上にある被加工物の厚み分布を測定し、測定結果に基づいて精密にチャックテーブルのテーブル回転軸及びスピンドルの相対的な傾きを調整できる研削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によると、被加工物を保持する円錐面状の保持面を有し該保持面の中心を貫くテーブル回転軸の周りに回転可能なチャックテーブルと、該チャックテーブルの該保持面と対向する面に環状に配置された複数の研削砥石を有する研削ホイールと、該研削ホイールが下端に装着されたスピンドルと、該スピンドルを昇降させる昇降機構と、を備え、該テーブル回転軸の周りに回転する該チャックテーブルの該保持面上で保持された被加工物を該被加工物の中心から外周に至る領域で研削する研削ユニットと、該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きを調整する傾き調整ユニットと、該チャックテーブルで保持された該被加工物の厚みを測定する厚み測定器と、制御ユニットと、を備える研削装置であって、該厚み測定器は、該研削ユニットによって研削される該被加工物の上面の一部と対面し該被加工物の厚みを測定する測定部と、該チャックテーブルで保持された該被加工物の外周の上方と、該研削ユニットに干渉しない該被加工物の上方と、の間の測定軌道上で該測定部を往復移動させる測定部移動機構と、を備え、該制御ユニットは、該被加工物を保持する該チャックテーブルを該テーブル回転軸の周りに回転させるとともに該研削ユニットの該研削ホイールを該スピンドルの周りに回転させつつ該スピンドルを該昇降機構で下降させ、該研削砥石を該被加工物の上面に接触させて該被加工物を研削する研削制御部と、該測定部移動機構により該測定部を該測定軌道上で往復移動させつつ該測定部で該被加工物の各点の厚みを測定し、該測定部が該測定軌道の往路で該被加工物の厚みを測定して取得した往路厚み測定値と、復路で該被加工物の厚みを測定して取得した復路厚み測定値と、の平均値である厚み平均値を算出し、該各点における該厚み平均値から該被加工物の断面形状を算出する断面形状算出部と、該被加工物の該断面形状を基にして、該研削砥石で研削された該被加工物が仕上げ形状に近づくように該傾き調整ユニットによる該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きの調整量を算出する傾き調整量算出部と、を備えることを特徴とする研削装置が提供される。
【0013】
好ましくは、該制御ユニットは、該断面形状算出部で算出された該被加工物の該断面形状から最小二乗法により該被加工物の中心部の断面形状を算出して該被加工物の該断面形状を補完する断面形状補完部をさらに有し、該傾き調整量算出部は、該断面形状補完部が補完した該被加工物の該断面形状を基にして該テーブル回転軸及び該スピンドルの相対的な傾きの該調整量を算出する。
【0015】
好ましくは、該測定部は、非接触で該被加工物の厚みを測定する非接触式センサーである。
【0016】
また、好ましくは、該測定部は、該被加工物の厚みを測定する複数のセンサーを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る研削装置では、研削砥石で被加工物を研削する間、厚み測定器の測定部を測定軌道上で往復移動させつつ該測定部で該被加工物の各点の厚みを測定する。そして、測定部が該測定軌道の端部に達したときにおける該各点における被加工物の厚みを算出し、その時点における被加工物の厚み分布(断面形状)を得る。これにより、測定部の移動に伴う測定時間の差の影響を受けることなく被加工物の各所の厚みを精密に算出でき、テーブル回転軸及びスピンドルの相対的な傾きの高精度な調整が可能となる。
【0018】
したがって、本発明により、研削途上にある被加工物の厚み分布を測定し、測定結果に基づいて精密にチャックテーブルのテーブル回転軸及びスピンドルの相対的な傾きを調整できる研削装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】研削装置及び被加工物を模式的に示す斜視図である。
【
図2】研削ユニット及びチャックテーブルを模式的に示す断面図である。
【
図3】チャックテーブル及び研削ホイールの位置関係を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4(A)は、被加工物の厚み分布の一要素を模式的に示すグラフであり、
図4(B)は、被加工物の厚み分布の他の一要素を模式的に示すグラフである。
【
図5】厚み測定器の検出部の位置と、被加工物の厚みと、の関係を示すグラフである。
【
図6】研削される被加工物の厚みの偏りの時間変化と、テーブル回転軸の傾きの調整量の時間変化と、を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る研削装置は、被加工物を研削して薄化する。まず、被加工物について説明する。
図1には、被加工物1を模式的に示す斜視図が含まれている。
【0021】
被加工物1は、例えば、Si、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料からなる略円板状のウェーハ等である。ただし、被加工物1は、これに限定されない。
【0022】
円板状のウェーハ等の被加工物1の表面1aに複数のデバイスを行列状に配し、被加工物1をデバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップが得られる。この際、予め研削装置2で被加工物1を裏面1b側から研削して該被加工物1を薄化しておくと、最終的に薄型のデバイスチップが得られる。研削装置2で研削される被加工物1の表面1a側には、該表面1aに形成されたデバイス等を保護するテープ状の保護部材3が貼着される。
【0023】
次に、本実施形態に係る研削装置2について詳述する。研削装置2は、各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の前端にはカセット載置台26a,26bが固定されている。例えば、カセット載置台26a上には研削前の被加工物1を収容したカセット28aが載置され、カセット載置台26b上には研削の終了した被加工物1を収容するためのカセット28bが載置される。
【0024】
基台4上のカセット載置台26a,26bに隣接した位置には、ウェーハ搬送ロボット30が据え付けられている。ウェーハ搬送ロボット30は、カセット載置台26aに載せられたカセット28aから被加工物1を搬出し、基台4上の該ウェーハ搬送ロボット30に隣接した位置に設けられた位置決めテーブル32に被加工物1を搬送する。
【0025】
該位置決めテーブル32は、環状に並ぶ複数の位置決めピンを有する。位置決めテーブル32は、中央の載置領域に被加工物1が載置された際、それぞれの位置決めピンを径方向内側に連動させて移動させることにより、被加工物1を予定された位置に位置付ける。
【0026】
基台4の上面の該位置決めテーブル32に隣接した位置には、ローディングアーム34と、アンローディングアーム36と、が設けられる。位置決めテーブル32により予定された位置に位置付けられた被加工物1は、ローディングアーム34により搬送される。
【0027】
基台4の中央上面には、円板状のターンテーブル6が水平面内において回転可能に設けられている。ターンテーブル6の上面には、円周方向に互いに120度離間した3個のチャックテーブル8が備えられている。ターンテーブル6を回転させると、被加工物1を保持する各チャックテーブル8を移動できる。
【0028】
図2には、チャックテーブル8を模式的に示す断面図が含まれている。チャックテーブル8は、被加工物1と同等の径を有する円板状の多孔質部材8cと、該多孔質部材8cを収容する凹部が上方に露出したステンレス鋼製の枠体8bと、を備える。チャックテーブル8の枠体8bには、一端が凹部の底面に達する吸引路が設けられており、該吸引路の他端には吸引源(不図示)が接続される。
【0029】
被加工物1をチャックテーブル8の多孔質部材8cの上に載せ、該吸引源を作動させると、吸引路及び多孔質部材8cを介して被加工物1に負圧が作用し、被加工物1がチャックテーブル8に吸引保持される。すなわち、チャックテーブル8の上面は、被加工物1を保持する保持面8aとなっている。この保持面8aは、後述の通り極めて傾斜の緩やかな円錐面状となっている。
【0030】
また、チャックテーブル8の底部にはモータ等の回転駆動源56が接続されており、チャックテーブル8は保持面8aの中心を貫くように設定されるテーブル回転軸58の周りに回転できる。
【0031】
また、チャックテーブル8の底部54は、回転が妨げられない態様で複数の支持軸により支持されており、一つ又は複数の該支持軸は伸縮可能である。例えば、本実施形態に係る研削装置2では、一つの固定軸60と、2つの伸縮可能な調整軸62,64により支持されている。そして、これらの調整軸62,64の長さを調整すると、保持面8aの傾き(テーブル回転軸58の傾き)を変更できる。すなわち、調整軸62,64がテーブル回転軸58の傾きを調整する傾き調整ユニットとして機能する。
【0032】
図1に戻り説明を続ける。チャックテーブル8への被加工物1の搬出入は、ターンテーブル6のウェーハ搬入・搬出領域で実施される。ウェーハ搬入・搬出領域では、ローディングアーム34により被加工物1をチャックテーブル8に搬入できるとともにアンローディングアーム36により被加工物1をチャックテーブル8から搬出できる。
【0033】
ウェーハ搬入・搬出領域に位置付けられたチャックテーブル8にローディングアーム34により被加工物1を搬入した後、ターンテーブル6を回転させて、チャックテーブル8を次の粗研削領域に移動させる。
【0034】
基台4の後方側上面のターンテーブル6の外側には、粗研削領域に位置付けられたチャックテーブル8に保持された被加工物1の裏面1bを粗研削する第1の研削ユニット10aが配されている。第1の研削ユニット10aにより被加工物1の粗研削が実施された後、ターンテーブル6を回転させて、チャックテーブル8を該粗研削領域に隣接する仕上げ研削領域に移動させる。
【0035】
基台4の後方側上面のターンテーブル6の外側には、仕上げ研削領域に位置付けられたチャックテーブル8に保持された被加工物1の裏面1bを仕上げ研削する第2の研削ユニット10bが配されている。第2の研削ユニット10bにより被加工物1の仕上げ研削が実施された後、ターンテーブル6を回転させて、チャックテーブル8をウェーハ搬入・搬出領域に戻し、アンローディングアーム36により被加工物1をチャックテーブル8から搬出する。
【0036】
基台4の上面のアンローディングアーム36と、ウェーハ搬送ロボット30と、の近傍には、研削された被加工物1を洗浄及びスピン乾燥するスピンナ洗浄装置38が配設されている。そして、スピンナ洗浄装置38により洗浄及び乾燥された被加工物1は、ウェーハ搬送ロボット30によりスピンナ洗浄装置38から搬送され、カセット載置台26bに載置されたカセット28bに収容される。
【0037】
基台4の後部にはコラム22a,22bが立設されている。コラム22aの前面には、第1の研削ユニット10aが昇降可能に配設されており、コラム22bの前面には、第2の研削ユニット10bが昇降可能に配設されている。
【0038】
第1の研削ユニット10aは、鉛直方向に沿って伸長する第1のスピンドル14aと、該第1のスピンドル14aの上端に接続されたスピンドルモータ12aと、を備える。また、第2の研削ユニット10bは、鉛直方向に沿って伸長する第2のスピンドル14bと、該第2のスピンドル14bの上端に接続されたスピンドルモータ12bと、を備える。
【0039】
第1の研削ユニット10aは、第1のスピンドル14aを含む該第1の研削ユニット10aの構成要素を鉛直方向に沿って移動可能に支持する第1の昇降機構24aを備える。第2の研削ユニット10bは、第2のスピンドル14bを含む該第2の研削ユニット10bの構成要素を鉛直方向に沿って移動可能に支持する第2の昇降機構24bを備える。なお、各スピンドル14a,14bの向きは調整可能でもよい。
【0040】
図1及び
図2には、第2の昇降機構24bが模式的に示されている。第2の昇降機構24bは、コラム22bの正面に鉛直方向に沿って設けられた一対のガイドレール24cと、ガイドレール24cにスライド可能に支持された昇降プレート50と、一対のガイドレール24cと平行なボールねじ44と、を備える。昇降プレート50の表面側には、第2の研削ユニット10bの構成要素が支持される。
【0041】
昇降プレート50の裏面側にはナット部46が設けられており、このナット部46がボールねじ44に螺合されている。ボールねじ44の上端には、パルスモータ48が接続されている。このパルスモータ48を作動させるとボールねじ44が回転し、昇降プレート50が昇降する。第1の昇降機構24aは、第2の昇降機構24bと同様に構成される。
【0042】
第1のスピンドル14aの下端には、円板状のホイールマウント16aが配設され、該ホイールマウント16aの下面には第1の研削ホイール18aが固定されている。すなわち、第1のスピンドル14aの下端には、第1の研削ホイール18aが固定されている。粗研削領域に位置付けられたチャックテーブル8の保持面8aと対向する第1の研削ホイール18aの面(下面)には、環状に配置された複数の第1の研削砥石20aが装着されている。
【0043】
第2のスピンドル14bの下端には、円板状のホイールマウント16bが配設され、該ホイールマウント16bの下面には第2の研削ホイール18bが固定されている。すなわち、第2のスピンドル14bの下端には第2の研削ホイール18bが固定されている。仕上げ研削領域に位置付けられたチャックテーブル8の保持面8aと対向する第2の研削ホイール18bの面(下面)には、環状に配置された複数の第2の研削砥石20bが装着されている。
【0044】
スピンドルモータ12aを作動させ第1のスピンドル14aを回転させると、第1の研削ホイール18aが回転して第1の研削砥石20aが第1の環状軌道上を移動する。そして、昇降機構24aを作動させて第1のスピンドル14aを下降させ、第1の研削砥石20aをチャックテーブル8に保持された被加工物1の裏面1b(上面)に接触させると、該被加工物1が研削される。
【0045】
また、スピンドルモータ12bを作動させスピンドル14bを回転させると、第2の研削ホイール18bが回転して第2の研削砥石20bが第2の環状軌道上を移動する。そして、昇降機構24bを作動させて第2のスピンドル14bを下降させ、第2の研削砥石20bをチャックテーブル8に保持された被加工物1の裏面1b(上面)に接触させると、該被加工物1が研削される。
【0046】
第1の研削ユニット10aでは、昇降機構24aによる研削送りが比較的速い速度で実施され、被加工物1が粗研削される。第1の研削ユニット10aによる粗研削では、被加工物1の仕上げ厚みに至るまでの総研削量の大部分が除去される。第2の研削ユニット10bでは、昇降機構24bによる研削送りが比較的低い速度で実施され、被加工物1が仕上げ研削される。第2の研削ユニット10bによる仕上げ研削では、被加工物1が仕上げ厚みに至るまで研削され、裏面1b側の粗さが除去される。
【0047】
第1の研削砥石20a及び第2の研削砥石20bは、ダイヤモンド等で形成された砥粒と、砥粒を分散固定する結合材と、を含む。仕上げ研削に使用される第2の研削砥石20bは、粗研削に使用される第1の研削砥石20aが含む砥粒の粒径よりも小さい粒径の砥粒を含むことが好ましい。この場合、第1の研削砥石20aで被加工物1を早く粗研削できる一方で、第2の研削砥石20bで被加工物1を高品質に仕上げ研削できる。
【0048】
基台4の上面の第1の研削ユニット10aの近傍には、第1の研削ユニット10aにより粗研削される被加工物1の厚みを測定する第1の厚み測定器40が配設されている。基台4の上面の第2の研削ユニット10bの近傍には、第2の研削ユニット10bにより仕上げ研削される被加工物1の厚みを測定する第2の厚み測定器42が配設されている。
【0049】
第1の厚み測定器40は、例えば、被加工物1の裏面1bに接触する接触式の厚み測定器である。接触式の厚み測定器は、例えば、チャックテーブル8の上方に伸びた2つのプローブと、を備える。
【0050】
それぞれのプローブは、水平方向に伸びた腕部の先端から下方に伸びた接触部を備える。一方のプローブは、被加工物1の裏面1bに該接触部の下端を接触させることで被加工物1の裏面1bの高さを測定する。また、他方のプローブは、チャックテーブル8の保持面8aに該接触部の下端を接触させることで該保持面8aの高さを測定する。
【0051】
被加工物1は、チャックテーブル8の保持面8a上に保護部材3を介して載せられ保持される。そのため、接触式の厚み測定器は、測定された被加工物1の裏面1bの高さと、チャックテーブル8の保持面8aの高さと、の差から被加工物1及び保護部材3の総厚みを算出できる。
【0052】
また、第2の厚み測定器42は、例えば、被加工物1の裏面1bに物理的に接触しない非接触式の厚み測定器である。非接触式の厚み測定器は、例えば、被加工物1の裏面1bの直上に配設された測定部42aから裏面1bに超音波またはプローブ光を送り、反射された超音波等を該測定部42aで受け、該超音波等を解析することで被加工物1の裏面1bの高さを測定する。このように、測定部42aは、非接触式センサーである。
【0053】
非接触式の第2の厚み測定器42は、例えば、研削装置2の基台4の上面から立設された回転可能な軸部42bと、該軸部42bの上端から水平方向に伸びた腕部42cと、を有し、この腕部42cの先端に測定部42aが固定されている。軸部42bの下端には、ピストン又はモータ等で構成される図示しない回転機構が接続されており、該回転機構が軸部42bを回転させる。
【0054】
軸部42bを回転させると、該軸部42bを中心とした円弧状の測定軌道上を測定部42aが移動する。すなわち、研削装置2は、チャックテーブル8で保持された被加工物1の上方において、測定軌道上で測定部42aを往復移動させる測定部移動機構を備える。測定部42aは、第2の研削ユニット10bにより被加工物1の裏面1bが研削される間、裏面1bの上方で移動可能であり、被加工物1の裏面1bの各所の厚みを測定できる。
【0055】
ただし、測定部42aは、被加工物1を研削する第2の研削ユニット10bに干渉する位置に進入できない。被加工物1が研削される間、被加工物1の中心部は常に第2の研削砥石20bが当たり続けるため、被加工物1の中心部上方に測定部42aが進入できるタイミングはない。すなわち、測定部移動機構は、チャックテーブル8で保持された被加工物1の外周の上方と、研削ユニット10a,10bに干渉しない該被加工物の上方と、の間の該測定軌道上で測定部42aを往復移動させる。
【0056】
研削装置2は、さらに、各構成要素を制御する制御ユニット90を備える。制御ユニット90は、例えば、ターンテーブル6、チャックテーブル8、研削ユニット10a,10b、ウェーハ搬送ロボット30、位置決めテーブル32、ローディングアーム34、アンローディングアーム36、スピンナ洗浄装置38等を制御する。
【0057】
制御ユニット90は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはマイクロプロセッサ等の処理装置と、フラッシュメモリまたはハードディスクドライブ等の記憶装置と、を含むコンピュータによって構成される。そして、制御ユニット90は、記憶装置に記憶されるプログラム等のソフトウェアに従い処理装置を動作させることによって、ソフトウェアと処理装置(ハードウェア資源)とが協働した具体的手段として機能する。
【0058】
制御ユニット90は、各種の被加工物1を研削ユニット10a,10bで研削する加工条件や、各種の情報等を記憶装置で記憶する。記憶装置に記憶される加工条件は、加工の対象となる被加工物1の種別や大きさ、粗研削及び仕上げ研削における仕上げ厚み及びスピンドル14a,14bの回転速度等の情報を含む。
【0059】
ここで、
図2等に示す通り、チャックテーブル8の保持面8aは、中心を頂点とする極めて緩やかな円錐面により構成される。保持面8aが円錐面であると、チャックテーブル8で被加工物1を吸引保持したときに、被加工物1が保持面8aに追従して僅かに変形する。なお、各図に記載の被加工物1やチャックテーブル8等の形状は、説明の便宜のために特徴が誇張されている。
図2で示す第2の研削ユニット10bにより実施される仕上げ研削を例に説明を続ける。
【0060】
被加工物1を研削する際には、この状態でチャックテーブル8をテーブル回転軸58の周りに回転させ、第2のスピンドル14bを回転させつつ下降させ、第2の研削砥石20bを被加工物1の裏面1bに接触させる。すると、被加工物1の中心から外周に至る円弧状の領域で研削加工が進行しつつチャックテーブル8に載る被加工物1が回転し、被加工物1の全域が研削される。
【0061】
研削された被加工物1の表面1aと裏面1bが平行となるように、円錐面で構成される保持面8aを構成する母線のうち第2の研削砥石20bの環状軌道を含む回転面に最も近い母線が該回転面と平行となるようにテーブル回転軸58の傾きを調整する。そして、第2の厚み測定器42により被加工物1の厚みを監視し、被加工物1が所定の厚みとなったときに昇降機構24bによる第2のスピンドル14bの下降を停止して被加工物1の研削を終了する。
【0062】
ここで、チャックテーブル8のテーブル回転軸58の傾きが適切でない場合、被加工物1の厚み分布が均一とはならず、厚みに偏りが生じ、研削後の被加工物1の表面1aと裏面1bとが平行にならない。そこで、被加工物1が研削されている間、第2の厚み測定器42の測定部42aを移動させて被加工物1の各所の厚みを測定する。そして、被加工物1の厚み分布を監視し、該厚み分布に問題が生じたときに傾き調整ユニットでテーブル回転軸58の傾きを調整することが考えられる。
【0063】
ただし、被加工物1の中心部では第2の研削砥石20bが常に該被加工物1を研削するため、被加工物1の中心部には測定部42aがアクセスできず、被加工物1の中心部の厚みを第2の厚み測定器42で測定できない。
【0064】
そこで、被加工物1の断面形状の例で構成される複数のデータマップを予め制御ユニット90等に記憶させておくと、被加工物1の中心部以外の部分の断面形状に基づいて被加工物1の中心部における厚みを予測できる。すなわち、被加工物1の中心部以外の断面形状を制御ユニット90に記憶された各データマップと照合して、該断面形状に最も近いデータマップを選択する。そして、選択された該データマップに基づいて被加工物1の全域の厚み分布を予測し、テーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0065】
しかしながら、第2の厚み測定器42の測定部(センサー)42aを移動させ各所の厚みを測定する間にも被加工物1の研削が絶えず進行するため、各測定位置では測定が実施される時間に差が生じる。すなわち、この方法では、ある時点における被加工物1の全域の精密な厚み分布を得ることができない。そして、被加工物1の断面形状のデータマップは被加工物1の研削が進行途上であることを想定したものではないため、測定された被加工物1の厚み分布を該データマップと高精度に照合することはできない。
【0066】
そこで、本実施形態に係る研削装置2では、研削途上で厚みが絶えず変化する被加工物1のある時点における全域の厚み分布を予測する。そして、予測された被加工物1の厚み分布に応じて傾き調整ユニットを作動させてテーブル回転軸58の傾きを調整し、厚みに偏りのない被加工物1となるように該被加工物1を研削する。以下、ある時点における被加工物1の全域の厚み分布の予測に寄与する研削装置2の構成について詳述する。
【0067】
研削装置2における被加工物1の全域の厚み分布の予測は、該研削装置2の各構成要素を制御する制御ユニット90により実施される。そして、該制御ユニット90により傾き調整ユニットの動作内容が決定される。
【0068】
制御ユニット90は、各構成要素を制御して被加工物1の研削を実施させる研削制御部92を備える。被加工物1が研削される際、研削制御部92は、被加工物1を保持するチャックテーブル8をテーブル回転軸58の周りに回転させるとともに研削ユニット10a,10bの研削ホイール18a,18bをスピンドル14a,14bの周りに回転させる。そして、スピンドル14a,14bを昇降機構24a,24bで下降させ、研削砥石20a,20bを被加工物1の上面(裏面1b)に接触させて被加工物1を研削する。
【0069】
研削制御部92は、制御ユニット90に記憶された研削条件に従って各構成要素を制御する。研削制御部92は、被加工物1の研削を進行させる間、厚み測定器40,42により被加工物1の厚みを監視し、被加工物1が所定の厚みになったときにスピンドル14a,14bの下降を停止し、被加工物1の研削を停止する。また、厚み測定器40,42により被加工物1の厚みの分布を監視し、被加工物1に大きな厚みの偏りが検出される場合に傾き調整ユニットを制御してテーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0070】
テーブル回転軸58の傾きの調整を調整する際に、被加工物1の断面形状が参照される。制御ユニット90は、測定部移動機構により測定部42aを測定軌道上で移動させつつ該測定部42aで被加工物1の各点の厚みを測定し、被加工物1の断面形状を算出する断面形状算出部94を備える。
【0071】
さらに、制御ユニット90は、算出された被加工物1の断面形状を基にして、研削砥石20a,20bで研削された被加工物1が仕上げ形状に近づくように傾き調整ユニットによるテーブル回転軸58の傾きの調整量を算出する傾き調整量算出部96を備える。研削制御部92は、傾き調整量算出部96の算出結果を参照して該傾き調整ユニットを制御し、テーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0072】
ここで、研削過程にある被加工物1の厚み分布の偏りと、テーブル回転軸58の傾きと、の関係について詳述する。以下、第2の研削ユニット10bで被加工物1を仕上げ研削する場面を例に説明するが、該関係は、第1の研削ユニット10aで被加工物を粗研削する場合も同様である。
【0073】
図3は、チャックテーブル8の保持面8aと、第2の研削砥石20bが移動する環状軌道20cと、の平面的な位置関係を模式的に示す平面図である。
図3には、チャックテーブル8の円錐面状の保持面8aの輪郭と、環状軌道20cと、が模式的に円形に示されている。環状軌道20cは、チャックテーブル8の保持面8aと径と同等の円形である。そして、チャックテーブル8のテーブル回転軸58は、保持面8aの中心68を貫く。
【0074】
また、
図3には、チャックテーブル8を下方から支持する固定軸60と、2つの調整軸62,64と、の位置が示されている。固定軸60は、第2の研削ホイール18bの概ね中心の下方に位置しており、該固定軸60と、2つの調整軸62,64と、はそれぞれ正三角形の頂点を構成するように配設される。チャックテーブル8は、固定軸60と、調整軸62,64と、により支持されており、調整軸62,64が傾き調整ユニットとして機能する。
【0075】
例えば、調整軸62を伸縮させずに調整軸64を伸縮させると、チャックテーブル8は、固定軸60及び調整軸62を結んだ第1軸74の周りで回転するように傾きが変化する。また、調整軸64を伸縮させずに調整軸62を伸縮させると、チャックテーブル8は、固定軸60及び調整軸64を結んだ第2軸76の周りで回転するように傾きが変化する。すなわち、調整軸62及び調整軸64を伸縮させると、テーブル回転軸58の傾きを変更できる。
【0076】
被加工物1を研削する際には、環状軌道20cと重なる保持面8aの中心68及び外周66を結ぶ母線が環状軌道20cと平行になるように傾き調整ユニットによりテーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0077】
そして、環状軌道20cに沿って移動する第2の研削砥石20bが、保持面8aの中心68の上方と、外周66の上方と、の間の研削領域72で被加工物1の裏面1bに接触し、被加工物1が研削される。なお、保持面8aの中心68の上方と、別の外周70の上方と、の間の領域では第2の研削砥石20bが被加工物1に接触しない。
【0078】
図4(A)及び
図4(B)は、テーブル回転軸58の傾きが不適切であるときに被加工物1に実施された研削により被加工物1に現れる厚み分布を説明するグラフである。それぞれのグラフにおいて、横軸は、被加工物1の中心からの距離を表し、縦軸は、被加工物1の厚みの偏りの量を表す。
【0079】
被加工物1を研削する際、チャックテーブル8をテーブル回転軸58の周りに回転させるとともに、第2の研削ホイール18bを第2のスピンドル14bの周りに回転させる。このときに、被加工物1の中心から任意の距離だけ離れた円状の領域は同様に研削されるため、該円状の領域では被加工物1の厚み分布は概略一定となる。そのため、
図4(A)及び
図4(B)のグラフで示すように、被加工物1の中心からの距離と、被加工物1の厚みの偏りの量と、の関係により被加工物1の厚み分布を評価できる。
【0080】
図4(B)のグラフで示される厚み分布は、被加工物1の中心と外周の間の研削領域72の全域にわたる傾斜が生じている場合に被加工物1に現れる厚み分布の例である。この厚み分布は、第2の研削砥石20bの環状軌道20cと、保持面8aの中心68及び外周66を結ぶ母線と、が平行でない場合に被加工物1に現れる厚み分布である。
【0081】
より詳細には、
図4(B)のグラフで示される厚み分布は、保持面8aと環状軌道20cとの距離が該保持面8aの外周66よりも中心68において大きい場合における厚み分布である。そして、被加工物1の中心における厚みと、被加工物1の外周における厚みと、の差が厚みの偏りaとして
図4(B)に示されている。なお、保持面8aと環状軌道20cとの距離が該保持面8aの中心68よりも外周66において大きい場合、偏りaが負の値となる。
【0082】
なお、この偏りaに起因して被加工物1に現れる断面形状に因み、この偏りaを“凸量”と呼ぶこともできる。
図4(B)のグラフで示される厚み分布の偏りを解消するためには、保持面8a及び環状軌道20cが平行になるように、主に調整軸64の長さを調節すればよい。
【0083】
図4(B)に示されるように、この厚みの偏りは、被加工物1の中心からの距離(横軸)と、被加工物1の厚みの偏りの量(縦軸)と、の一次関数により表現できる。この一次関数は、横軸がゼロであるときに縦軸がaとなり、横軸が被加工物1の半径の値であるRとなるときに縦軸がゼロとなる。
【0084】
図4(A)のグラフで示される厚み分布は、被加工物1の中心と外周の間の研削領域72の中央部において第2の研削砥石20bの研削深さが浅くまたは深くなる場合に被加工物1に現れる厚み分布の例である。
図4(A)で示される厚み分布の偏りを解消するためには、主に調整軸62を調整しつつ、該調整軸62の調整により変化する研削領域72の全域にわたる傾きの変化に対応するように調整軸64を伸縮させるとよい。
【0085】
より詳細には、
図4(A)のグラフで示される厚み分布は、被加工物1の中心と外周の間の研削領域72の中央部において第2の研削砥石20bの研削深さが浅い場合における厚み分布である。そして、被加工物1の研削領域72の該中央部における厚みと、中心及び外周における厚みと、の差が厚みの偏りmとして
図4(A)に示されている。被加工物1の研削領域72の該中央部が周囲より深く研削される場合、mがマイナスの値となる。
【0086】
なお、この偏りmに起因して被加工物1に現れる断面形状に因み、この偏りmを“カモメ量”と呼ぶこともできる。調整軸62,64の調整量は、この偏りmがゼロとなるように決定されるとよい。
【0087】
図4(A)に示されるように、この厚みの偏りmは、被加工物1の中心からの距離(横軸)と、被加工物1の厚みの偏りの量(縦軸)と、の二次関数により表現できる。この二次関数は、横軸がゼロであるときに縦軸がゼロとなり、横軸が0.5Rであるときに縦軸がmとなり、横軸がRであるときに縦軸がゼロとなる。
【0088】
なお、調整軸62,64の長さがいずれも適切である場合には、被加工物1の厚みが全域で同一となる。また、調整軸62及び調整軸64の長さがいずれも不適切である場合には、
図4(A)に示すグラフで表された厚み分布と、
図4(B)に示すグラフで表された厚み分布と、を足した厚み分布が被加工物1に現れる。逆に、テーブル回転軸58の傾きが不適切である場合に被加工物1に現れる厚み分布は、
図4(A)に示すグラフで表される厚み分布と、
図4(B)に示すグラフで表される厚み分布と、に分離可能である。
【0089】
制御ユニット90の傾き調整量算出部96は、
図4(A)で示されるグラフにおいて偏りmがゼロになるように、かつ、
図4(B)で示されるグラフにおいて偏りaがゼロになるように、調整軸62,64の調整量を算出する。研削制御部92は、傾き調整量算出部96の算出結果を参照して傾き調整ユニットを制御し、調整軸62,64の長さを調整することでテーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0090】
傾き調整量算出部96が調整軸62,64の長さの調整量を算出する際に、被加工物1の厚み分布、すなわち、被加工物1の断面形状を参照する。ここで、調整量の算出の基準となる被加工物1の断面形状は、該被加工物1の研削が進行している間、絶えず変化する。その上、被加工物1の厚み測定する測定部42aは、第2の研削ユニット10bに干渉する領域、すなわち、保持面8aの中心68の上方には進入できず、被加工物1の中心部で該被加工物1の厚みを測定できない。
【0091】
そこで、制御ユニット90の断面形状算出部94は、第2の厚み測定器42の測定部42aで可能な範囲で被加工物1の各点の厚みを測定し、測定結果に基づいて被加工物1の中心部を含む被加工物1の全域の断面形状を算出する。特に、断面形状算出部94は、測定部42aが被加工物1の各点で厚みを測定する時間の差を考慮して、ある時点における被加工物1の断面形状を算出する。以下、断面形状算出部94による被加工物1の断面形状の算出方法の一例について説明する。
【0092】
図5は、被加工物1の研削が進行する間における測定部移動機構により移動される測定部42aの被加工物1の中心からの距離rと、被加工物1の厚さTと、の関係を示すグラフである。横軸の位置Iは、測定部42aの移動経路である測定軌道の端部で被加工物1の中心に近い位置を表す。そして、横軸の位置Oは、測定部42aの測定軌道の逆側の端部で被加工物1の外周の上方の位置を表す。測定部42aは、被加工物1が研削加工される間、位置Iと、位置Oと、の間の測定軌道上で往復移動する。
【0093】
図5に示されるグラフの縦軸は、測定部42aで測定される被加工物1の厚さTを表す。なお、ここでは、被加工物1の裏面1bの全域で同じ研削速度で均一に研削が進行する場合を例に説明する。T(I
1)は、測定部42aが測定軌道の位置Iにあるときに測定される被加工物1の厚みの値であり、T(O
1)は、測定部42aが測定軌道の位置Oにあるときに測定される被加工物1の厚みの値である。そして、T(I
2)は、測定軌道の位置Iに戻った測定部42aで測定される被加工物1の厚みを表す。
【0094】
本実施形態に係る研削装置2では、測定部42aが測定軌道の往路で被加工物1の厚みを測定して取得した往路厚み測定値と、復路で被加工物1の厚みを測定して取得した復路厚み測定値と、の平均値である厚み平均値を算出する。この厚み平均値を算出する意義について説明する。一つの例として、測定軌道の2つの端部である位置I及び位置Oの間の任意の位置aにおける被加工物1の厚みの変化に着目する。
【0095】
測定軌道を往復移動する測定部42aが位置Iを出発した後、位置aを通過する際に測定する被加工物1の厚みの値をT(a1)とする。便宜上、このときの測定部42aの移動経路を往路と呼び、このT(a1)を往路厚み測定値と呼ぶ。その後、測定部42aが位置Oで進行方向を反転させた後、再び位置aを通過する際に測定する被加工物1の厚みの値をT(a2)とする。便宜上、このときの測定部42aの移動経路を復路と呼び、このT(a2)を復路厚み測定値と呼ぶ。
【0096】
ここで、測定部移動機構により測定軌道を往復移動する測定部42aの移動速度の変化は周期的である。すなわち、測定部42aは、位置Iを出発して測定軌道の中央に到達するまで加速し、該中央から位置Oに到達するまで減速する。また、位置Oを出発して測定軌道の中央に到達するまで加速し、該中央から位置Iに到達するまで減速する。この測定部42aの速度の変化は、例えば、該測定軌道の中央を境に加速時と減速時で対称となり、往路及び復路において同様となる。
【0097】
そのため、測定部42aが位置aを通過してから位置Oに到達するまでに要する時間と、位置Oを出発して位置aを再び通過するまでに要する時間と、が一致する。そして、被加工物1の研削の進行速度は一定である。
【0098】
そのため、測定部42aが位置aを通過してから位置Oに到達するまでの時間で研削される被加工物1の研削量と、測定部42aが位置Oを出発してから位置aに到達するまでの時間で研削される被加工物1の研削量と、が一致する。したがって、T(a1)及びT(a2)の平均値は、測定部42aが位置Oに到達した時点における該測定軌道の位置aと重なる位置における被加工物1の厚みとなる。
【0099】
同様に、測定軌道の位置aとは異なる位置bにおいて、測定軌道の往路を進む測定部42aが測定する被加工物1の厚みをT(b1)とし、復路を進む測定部42aが測定する被加工物1の厚みをT(b2)とする。このとき、T(b1)及びT(b2)の平均値は、測定部42aが位置Oに到達した時点における該測定軌道の位置bと重なる位置における被加工物1の厚みとなる。
【0100】
こうして、測定部42aが往路で被加工物1の厚みを測定して取得した往路厚み測定値と、復路で被加工物1の厚みを測定して取得した復路厚み測定値と、の平均値を被加工物1の各点において算出する。得られた各点における厚み平均値の分布は、測定部42aが位置Oに到達した時点における被加工物1の厚みの分布(断面形状)と一致する。ここで重要なことは、この手法によると測定時間の差の影響を排除した被加工物1の厚み分布が得られるということである。
【0101】
ここで、測定軌道の復路を進行し位置Iで進行方向を切り替えて再び位置aに到達した測定部42aが測定する被加工物1の厚みの測定値をT(a3)とするとき、T(a2)とT(a3)の厚み平均値を算出してもよい。この厚み平均値は、測定部42aが位置Iに到達した時点における該測定軌道の位置aと重なる位置における被加工物1の厚みとなる。すなわち、同様の手法によりこの時点における被加工物1の厚み分布(断面形状)を算出でき、同様の手法で被加工物1の厚み分布(断面形状)をくり返し算出できる。
【0102】
なお、
図5では、説明の便宜のため測定部42aが位置Iと位置Oの間で往復移動する測定部42aにより検出される被加工物1の厚みの変化をサインカーブのような曲線で示しているが、グラフの形状はこれに限定されない。厳密には、厚み測定器42の軸部42bの位置、腕部42cの長さ、及び軸部42bの回転速度の時間変化等の影響により測定部42aの軌跡は変化し、このグラフの形状が変化する。
【0103】
しかしながら、測定軌道の任意の位置において、該位置を測定部42aが通過してから該測定軌道の端部に達するまでの時間と、該端部を出発してから再び該位置を測定部42aが通過するまでの時間と、が一致していれば被加工物1の厚み分布を算出できる。すなわち、これが実現されるように測定部42aが移動していれば、以上に説明した手法により被加工物1の厚み分布の算出が可能である。
【0104】
ところで、測定部42aは被加工物1の上方に進入できないため、断面形状算出部94では被加工物1の中心部の厚み分布(断面形状)を算出できない。しかしながら、被加工物1の中心部を除く部分の厚み分布(断面形状)に基づいて被加工物1の中心部の厚み分布(断面形状)を計算することは可能である。
【0105】
例えば、制御ユニット90は、断面形状算出部94で算出された被加工物1の断面形状から被加工物1の中心部の断面形状を算出して被加工物1の断面形状を補完する断面形状補完部98をさらに有してもよい。この場合、傾き調整量算出部96は、断面形状補完部98が補完した被加工物1の断面形状を基にしてテーブル回転軸58の傾きの調整量を算出する。
【0106】
例えば、断面形状補完部98は、被加工物1の中心部以外の断面形状から最小二乗法により被加工物1の上面の高さ分布を表す近似式を導出し、この近似式により被加工物1の中心部における断面形状を算出することで被加工物1の断面形状を補完する。この過程で最小二乗法により作成される被加工物1の上面の高さ分布を表す近似式は、測定部42aにより測定された被加工物1の各点における厚みの測定値に必然的に生じる誤差やばらつきの影響を最小化することにも寄与する。
【0107】
測定部42aによる被加工物1に厚みの測定値に生じる誤差やばらつきを修正する方法について、最小二乗法によらない他の方法としては、被加工物1の上面の一定長さ毎の厚み平均値や、厚みの中間値を算出する方法が考えられる。また、被加工物1の各点において、複数回の厚み測定を実施してその平均値や中間値を算出する方法が考えられる。しかしながら、最小二乗法以外のこれらの方法では、測定値の誤差やばらつきを修正した後に、測定値が得られない被加工物1の中心部の厚みを算出するさらなる手法が必要となる。
【0108】
また、被加工物1の中心部の厚み分布(断面形状)を導出する方法について、最小二乗法によらない他の方法としては、予め被加工物1の厚み分布の典型例をデータマップとして制御ユニット90に登録しておき、照合する方法が考えられる。この方法では、被加工物1の中心部以外の厚み分布を断面形状算出部94で算出し、得られた厚み分布を制御ユニット90に登録された複数のデータマップと照合して最も適合するデータマップを選び、このデータマップを被加工物1の全域の厚み分布とする。
【0109】
しかしながら、研削される過程にある被加工物1の断面形状は、被加工物1の研削面でない下面の形状や、チャックテーブル8の保持面8aの形状、研削装置2の予期せぬ不具合等により通常想定されないような形状となる場合がある。すなわち、制御ユニット90に登録された複数のデータマップのいずれもが被加工物1の厚み分布に好適に適合できない場合も想定される。
【0110】
これに対して、最小二乗法で被加工物1の厚み分布(断面形状)を補完する方法は、被加工物1が通常想定されないような未知の厚み分布となる場合においても、被加工物1の上面の近似式を算出し、被加工物1の断面形状を補完できる。そして、被加工物1が未知の厚み分布となる場合においても、後述の通り、被加工物1の全域が最終的に均一な厚みとなるようにテーブル回転軸58の傾きを修正できる。
【0111】
そして、最小二乗法で被加工物1の厚み分布(断面形状)を補完する方法は、測定部42aの被加工物1が未知の厚み分布となる場合にも対応可能である上、測定値の誤差等の影響を低減できるとともに、被加工物1の中心部の厚み分布の補完もできる。さらに、最小二乗法で導出される被加工物1の厚み分布の近似式を利用すると、被加工物1の厚み分布を
図4(A)及び
図4(B)に示す2つのグラフへ分離することも容易である。
【0112】
より詳細には、二次関数で表される
図4(A)に示すグラフと、一次関数で表される
図4(B)に示すグラフと、の足し合わせが被加工物1の厚み分布であると想定する。そして、最小二乗法で導出される被加工物1の厚み分布の近似式に基づいて、
図4(A)におけるmの値と、
図4(B)におけるaの値と、を算出する。その後、得られたmの値及びaの値に基づいてテーブル回転軸58の傾きを調整できる。
【0113】
次に、傾き調整量算出部96によりテーブル回転軸58の傾きの調整量を算出し、被加工物1の全域が均一に仕上げ厚みとなるようにテーブル回転軸58の傾きを調整しつつ被加工物1を研削する方法について説明する。
図6は、研削される被加工物1の厚みの偏りの時間変化と、テーブル回転軸58の傾きの調整量の時間変化と、を模式的に示すグラフである。
図6に示すグラフの横軸は時間を表し、縦軸は各量の大小を表す。
【0114】
このグラフでは、時間Aにおいて被加工物1の裏面1bに研削砥石20bが接触して研削が開始され、時間Fにおいて研削砥石20bの下降が終了して被加工物1の研削が終了する。
図6に示すグラフの破線86は調整軸62の長さの時間変化(調整量)であり、破線88は調整軸64の長さの時間変化(調整量)である。
【0115】
また、実線82は、
図4(A)のグラフの偏りmで表される被加工物1の厚み分布の偏りの時間変化であり、実線84は、
図4(B)のグラフの偏りaで表される被加工物1の厚み分布の偏りの時間変化である。被加工物1の厚み分布の偏りは、厚み測定器42により測定された被加工物1の厚みの測定値に基づいて断面形状算出部94が算出し断面形状補完部98が補完する被加工物1の厚み分布(断面形状)から算出される。
【0116】
第2の研削ユニット10bにより被加工物1の研削が進行する過程の一例について、
図6を用いて説明する。研削を開始する際、制御ユニット90の研削制御部92は、第2のスピンドル14bの回転を開始するとともに昇降機構24bで該第2のスピンドル14bの下降を開始する。そして、時間Aにおいて第2の研削砥石20bが被研削面である被加工物1の裏面1bに接触し、被加工物1の研削が開始される。
【0117】
このとき、テーブル回転軸58の傾きが適切に調整されていなければ、被加工物1に厚みの偏りが生じる。例えば、
図6に示すグラフにおいては、実線82で示される通り偏りmが一定の値で生じつつ、実線84で示される通り偏りaが次第に小さくなり絶対値が増大し続ける。このままでは、研削が完了した際に被加工物1に厚みの偏りが残る。そこで、テーブル回転軸58の傾きを調整する。
【0118】
時間Bでは、テーブル回転軸58の傾きの調整が開始される。傾き調整量算出部96は、被加工物1の厚みの偏りa及び偏りmの値を参照して傾き調整ユニットとして機能する各調整軸62,64の長さの調整量を算出する。そして、制御ユニット90は、算出された調整量に基づいて各調整軸62,64の長さを変える。
【0119】
より詳細には、時間Bから調整軸62の長さを増大させ始め、時間Cにおいて調整軸62の長さの増大を終了させる。すると、実線82で表される被加工物1の厚さの偏りmが時間Bから徐々に減少し、時間Cで偏りmの減少が停止する。しかしながら、
図6に示す例では、時間Cに至る際に偏りmがゼロよりも低くなり、時間Cで負の値となる。これは、調整軸62の長さが過剰に調整され増大しすぎていることに起因する。そこで、時間Eで調整軸62の長さを少し戻す。すると、偏りmがゼロに近づく。
【0120】
また、時間Bから調整軸64の長さを減少させ始め、時間Dにおいて調整軸64の長さの減少を終了させる。すると、実線84で表される被加工物1の厚さの偏りaの値が時間Bから徐々に上昇してゼロに近づき始め、時間Dで偏りaの上昇が停止する。しかしながら、
図6に示す例では、時間Dにおいても偏りaが依然としてゼロとはならない。これは、調整軸64の長さの調整が不十分であることに起因する。そこで、時間Eで調整軸64の長さをさらに減少させる。すると、偏りaがゼロに近づく。
【0121】
その後、時間Fに至るまで偏りm及び偏りaがゼロに極めて近い状態が続き、時間Fで被加工物1の厚みが仕上げ厚みに到達すると、スピンドル14bの下降が停止して研削が完了する。このとき、厚みの偏りm及び偏りaがゼロに極めて近いため、被加工物1が全域にわたり高精度に仕上げ厚みとなる。
【0122】
ここで、以上に説明した本実施形態に係る研削装置2が実施する被加工物1の研削方法について、総括する。研削装置2では、まず、チャックテーブル8で被加工物1を保持する。次に、チャックテーブル8をテーブル回転軸58の周りに回転させるとともに研削ユニット10a,10bの研削ホイール18a,18bをスピンドル14a,14bの周りに回転させつつ該スピンドル14a,14bを被加工物1の上面に向けて下降させる。そして、環状軌道上を移動する研削砥石20a,20bを被加工物1の上面に接触させ、該被加工物1の研削を開始する。
【0123】
被加工物1の研削が実施される間、厚み測定器42の測定部42aを被加工物1の上方の研削ユニット10a,10bに干渉しない測定軌道上で往復移動させながら、該測定部42aで被加工物1の厚みを測定する。そして、測定部42aが該測定軌道の往路で被加工物1の厚みを測定して取得した往路厚み測定値と、復路で被加工物1の厚みを測定して取得した復路厚み測定値と、の平均値である厚み平均値を算出する。その後、被加工物1の該各点における該厚み平均値から被加工物1の断面形状を算出する。
【0124】
ただし、被加工物1の中心部の上方には測定部42aが進入できないため、測定部42aでは被加工物1の中心部の厚みを測定できない。そこで、被加工物1の断面形状を算出する際には、例えば、被加工物1の該断面形状を表す近似式を最小二乗法により作成し、この近似式を利用して該被加工物1の中心部の断面形状を算出して該被加工物1の該断面形状を補完するとよい。ただし、被加工物1の断面形状の補完方法はこれに限定されない。
【0125】
その後、研削砥石20a,20bで研削された被加工物1が仕上げ形状に近づくように、テーブル回転軸58の傾きを調整する。この傾きの調整における調整量は、算出された被加工物1の断面形状を基にして算出する。すなわち、被加工物1の厚み分布の偏りa及び偏りmがゼロに近づくようにテーブル回転軸58の傾きを調整する。そして、被加工物1の研削を実施する間、テーブル回転軸58の傾きの調整を適宜実施し、最終的に厚さが均一で所定の仕上がり厚さとなった被加工物1を得る。
【0126】
このように、本実施形態に係る研削装置2では、研削され絶えず厚みが変化する被加工物1について、測定部42aを被加工物1の上方で往復移動させつつ厚み測定器42で被加工物1の厚みを測定する。そして、各点における厚み測定の時間の差の影響を排除して、被加工物1の全域における厚み分布(断面形状)を算出する。そのため、テーブル回転軸58の傾きを適切に調整でき、厚さが均一な被加工物1を得られる。
【0127】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、被加工物1の測定部42aを往復移動させつつ被加工物1の各点の厚みを測定し、往路厚み測定値と、復路厚み測定値と、の平均値である厚み平均値を算出し、被加工物1の断面形状を算出することについて説明した。しかしながら、本発明の一態様はこれに限定されない。
【0128】
すなわち、各点における厚み測定の時間の差の影響を排除して、被加工物1の全域における厚み分布(断面形状)を算出するために、他の計算方法が用いられてもよい。例えば、被加工物1の研削速度(研削レート)が略一定であると仮定し、各点における厚み測定の時間の差による研削の進行度の差の影響を排除してある時点における被加工物1の厚み分布を算出してもよい。
【0129】
例えば、測定部42aが測定軌道の端部の位置Iに位置する時に被加工物1の厚みを測定し、次に、測定部42aが測定軌道上の特定の位置にあるときに被加工物1の厚みを測定する場合を考える。この場合、測定部42aが位置Iから該特定の位置に移動する時間と、研削速度と、の積を測定部42aが該特定の位置に位置するときに測定される被加工物1の厚みに加える。すると、測定部42aが位置Iに位置していた時点における該特定の位置の被加工物1の厚みを算出できる。
【0130】
この場合においても、断面形状算出部94は、測定部42aで被加工物1の各点の厚みを測定し、該被加工物1の中心部以外の断面形状を算出する。そして、断面形状補完部98は、算出された被加工物1の中心部以外の断面形状から最小二乗法により被加工物1の中心部の断面形状を算出して該被加工物1の該断面形状を補完する。
【0131】
傾き調整量算出部96は、被加工物1の該断面形状を基にして、研削砥石20bで研削された被加工物1が仕上げ形状に近づくようにテーブル回転軸58の傾きの調整量を算出する。この方法によると、測定部42aを測定軌道の一端から他端に移動させるだけで測定時間の差の影響を排除した被加工物1の厚み分布(断面形状)を算出できる。ただし、この場合、上述の厚み平均値を算出する方法と比較して、計算が複雑化する場合がある。
【0132】
また、例えば、厚み測定器42の測定部42aは、複数のセンサーを備えてもよい。この場合、測定部42aを固定して各センサーを移動させることなく各センサーで被加工物1の各所の厚みを同時に測定できる。そのため、測定時間の差による影響を受けることなく被加工物1の厚み分布が得られる。ただし、この場合、複数のセンサーを有する厚み測定器42を研削装置2に組み込む必要があり、研削装置2のコストが増大するだけでなく、センサーが配置されていない位置では被加工物1の厚みを測定できない。
【0133】
さらに、上記の実施形態では、被加工物1の厚みが均一となるようにテーブル回転軸58の傾きを調整しつつ該被加工物1を研削する場合について説明した。しかしながら、傾き調整ユニットは、必ずしもテーブル回転軸58の傾きを調整する必要はなく、傾き調整量算出部96は、テーブル回転軸58の傾きの調整量を算出する必要はない。
【0134】
本発明の一態様に係る研削装置2では、チャックテーブル8のテーブル回転軸58の傾きに代えてスピンドル14a,14bの傾きが変更可能でもよく、テーブル回転軸58及びスピンドル14a,14bの両方の傾きが変更可能でもよい。すなわち、傾き調整ユニットは、テーブル回転軸58と、スピンドル14a,14bと、の一方または両方を調整し、結果としてテーブル回転軸58及びスピンドル14a,14bの相対的な傾きを調整する。
【0135】
そして、傾き調整量算出部96は、テーブル回転軸58と、スピンドル14a,14bと、の一方または両方の傾きの調整量を算出する。結果として、傾き調整量算出部96は、傾き調整ユニットにより実施されるテーブル回転軸58及びスピンドル14a,14bの相対的な傾きの調整における調整量を算出する。
【0136】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0137】
1 被加工物
1a 表面
1b 裏面
3 保護部材
2 研削装置
4 基台
6 ターンテーブル
8 チャックテーブル
8a 保持面
8b 枠体
8c 多孔質部材
10a,10b 研削ユニット
12a,12b スピンドルモータ
14a,14b スピンドル
16a,16b ホイールマウント
18a,18b 研削ホイール
20a,20b 研削砥石
20c 環状軌道
22a,22b コラム
24a,24b 昇降機構
24c ガイドレール
26a,26b カセット載置台
28a,28b カセット
30 ウェーハ搬送ロボット
32 位置決めテーブル
34 ローディングアーム
36 アンローディングアーム
38 スピンナ洗浄装置
40,42 厚み測定器
42a 測定部
42b 軸部
42c 腕部
44 ボールねじ
46 ナット部
48 パルスモータ
50 昇降プレート
54 底部
56 回転駆動源
58 テーブル回転軸
60 固定軸
62,64 調整軸
66,70 外周
68 中心
72 研削領域
74 第1軸
76 第2軸
82,84 実線
86,88 破線
90 制御ユニット
92 研削制御部
94 断面形状算出部
96 傾き調整量算出部
98 断面形状補完部