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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20241125BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20241125BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20241125BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B23K26/064 Z
B23K26/08 F
H01L21/78 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021065607
(22)【出願日】2021-04-08
(65)【公開番号】P2022161073
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】大町 修
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-129225(JP,A)
【文献】特開2018-181938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/064
B23K 26/082
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のストリートが設定された被加工物を保持するチャックテーブルと、
該チャックテーブルによって保持された該被加工物に対してレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットであって、レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射した該レーザービームを集光する集光レンズと、それぞれが該レーザー発振器と該集光レンズとの間に配置されるとともに該レーザービームを分岐させる第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子と、を備える該レーザービーム照射ユニットと、
該チャックテーブルと該レーザービームとを、加工送り方向及び該加工送り方向と垂直な割り出し送り方向に沿って相対的に移動させる移動ユニットと、
該チャックテーブル、該レーザービーム照射ユニット及び該移動ユニットに接続されている制御ユニットと、を備えたレーザー加工装置であって、
該第1の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該レーザービームの複数の集光領域の該割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更可能であり、
該第2の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該集光領域で集光する該レーザービームの複数の集光スポットを該加工送り方向と非平行な方向に沿って配列可能であり、
該制御ユニットは、
該第1の回折光学素子の回転角度と該集光領域の間隔との関係を示す第1回転角度情報と、該第2の回折光学素子の回転角度と該集光領域の幅との関係を示す第2回転角度情報と、を記憶する記憶部と、
該第1回転角度情報を参照し、該該集光領域の間隔と該ストリートの間隔とが一致する際の該第1の回折光学素子の第1指定角度を特定するとともに、該第2回転角度情報を参照し、該集光領域の幅が該ストリートの幅未満となるとともに該集光スポットの配列方向が該ストリートの長さ方向に対して傾斜する際の該第2の回折光学素子の第2指定角度を特定する回転角度特定部と、
該第1の回折光学素子を該第1指定角度で配置するとともに該第2の回折光学素子を該第2指定角度で配置する回転指示部と、を備えるレーザー加工装置。
【請求項2】
複数のストリートが設定された被加工物を保持するチャックテーブルと、
該チャックテーブルによって保持された該被加工物に対してレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットであって、レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射した該レーザービームを集光する集光レンズと、それぞれが該レーザー発振器と該集光レンズとの間に配置されるとともに該レーザービームを分岐させる第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子と、を備える該レーザービーム照射ユニットと、
該チャックテーブルと該レーザービームとを、加工送り方向及び該加工送り方向と垂直な割り出し送り方向に沿って相対的に移動させる移動ユニットと、を備え、
該第1の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該レーザービームの複数の集光領域の該割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更可能であり、
該第2の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該集光領域で集光する該レーザービームの複数の集光スポットを該加工送り方向と非平行な方向に沿って配列可能であるレーザー加工装置において該被加工物を加工する被加工物の加工方法であって、
該集光領域の間隔と該ストリートの間隔とが一致する際の該第1の回折光学素子の第1指定角度と、該集光領域の幅が該ストリートの幅未満となるとともに該集光スポットの配列方向が該ストリートの長さ方向に対して傾斜する際の該第2の回折光学素子の第2指定角度と、を特定する特定ステップと、
該特定ステップの後に、該第1の回折光学素子を回転させて該第1指定角度で配置するとともに該第2の回折光学素子を回転させて該第2指定角度で配置する配置ステップと、
該配置ステップの後に、該レーザービームを該ストリートに沿って照射する加工ステップと、
を備える被加工物の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザービームの照射によって被加工物を加工するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造工程では、格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
ウェーハの分割には、環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が用いられる。一方、近年では、レーザー加工によってウェーハを分割するプロセスの開発も進められている。例えば特許文献1には、レーザービームの照射によってウェーハに溝を形成する手法が開示されている。ストリートに沿って溝が形成されたウェーハに外力を付与すると、溝が分割起点として機能し、ウェーハがストリートに沿って分割される。
【0004】
レーザービームをウェーハのストリートに沿って照射すると、ストリートに隣接して形成されているデバイスにレーザービームの照射による影響(発熱等)が及び、デバイスの動作不良や損傷が生じるおそれがある。そのため、レーザービームの照射条件(パワー、スポット径、繰り返し周波数等)はデバイスに悪影響を与えない範囲内で設定される。そして、ウェーハに所望の加工が施されるまで、レーザービームが各ストリートに沿って複数回ずつ照射される。
【0005】
しかしながら、各ストリートに沿ってレーザービームを複数回ずつ照射すると、ウェーハの加工効率が低下し、デバイスチップの生産性も低下してしまう。そこで、レーザービームを分岐させ、ウェーハの異なる領域に同時にレーザービームを照射することにより、レーザービームの走査回数を低減する方法が用いられることがある。例えば特許文献2には、レーザービームを回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)によって分岐させ、ストリートの内側の複数の領域でレーザービームを集光させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-305420号公報
【文献】特開2018-181938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、レーザービームを回折光学素子によって分岐させることにより、被加工物の複数の領域にレーザー加工を同時に施すことが可能となる。例えば、レーザービームを分岐させて複数のストリート上で集光させることにより、1回のレーザービームの走査で複数のストリートに沿って被加工物を加工できる。また、レーザービームを分岐させてストリートの内側の複数の領域で集光させることにより、1回のレーザービームの走査で加工される領域の幅を広くすることができる。
【0008】
しかしながら、ストリートの間隔や幅は、被加工物の種類、寸法、加工内容等によって異なる。そのため、分岐したレーザービームを被加工物に適切に照射するためには、被加工物ごとに専用の回折光学素子を準備し、レーザー加工の対象となる被加工物が変更されるたびに回折光学素子を交換する必要がある。その結果、レーザー加工に要する手間とコストが増大してしまう。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、回折光学素子を交換することなく様々な被加工物を加工することが可能なレーザー加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、複数のストリートが設定された被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルによって保持された該被加工物に対してレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットであって、レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射した該レーザービームを集光する集光レンズと、それぞれが該レーザー発振器と該集光レンズとの間に配置されるとともに該レーザービームを分岐させる第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子と、を備える該レーザービーム照射ユニットと、該チャックテーブルと該レーザービームとを、加工送り方向及び該加工送り方向と垂直な割り出し送り方向に沿って相対的に移動させる移動ユニットと、該チャックテーブル、該レーザービーム照射ユニット及び該移動ユニットに接続されている制御ユニットと、を備えたレーザー加工装置であって、該第1の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該レーザービームの複数の集光領域の該割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更可能であり、該第2の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該集光領域で集光する該レーザービームの複数の集光スポットを該加工送り方向と非平行な方向に沿って配列可能であり、該制御ユニットは、該第1の回折光学素子の回転角度と該集光領域の間隔との関係を示す第1回転角度情報と、該第2の回折光学素子の回転角度と該集光領域の幅との関係を示す第2回転角度情報と、を記憶する記憶部と、該第1回転角度情報を参照し、該該集光領域の間隔と該ストリートの間隔とが一致する際の該第1の回折光学素子の第1指定角度を特定するとともに、該第2回転角度情報を参照し、該集光領域の幅が該ストリートの幅未満となるとともに該集光スポットの配列方向が該ストリートの長さ方向に対して傾斜する際の該第2の回折光学素子の第2指定角度を特定する回転角度特定部と、該第1の回折光学素子を該第1指定角度で配置するとともに該第2の回折光学素子を該第2指定角度で配置する回転指示部と、を備えるレーザー加工装置が提供される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、複数のストリートが設定された被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルによって保持された該被加工物に対してレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットであって、レーザー発振器と、該レーザー発振器から出射した該レーザービームを集光する集光レンズと、それぞれが該レーザー発振器と該集光レンズとの間に配置されるとともに該レーザービームを分岐させる第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子と、を備える該レーザービーム照射ユニットと、該チャックテーブルと該レーザービームとを、加工送り方向及び該加工送り方向と垂直な割り出し送り方向に沿って相対的に移動させる移動ユニットと、を備え、該第1の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該レーザービームの複数の集光領域の該割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更可能であり、該第2の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、該集光領域で集光する該レーザービームの複数の集光スポットを該加工送り方向と非平行な方向に沿って配列可能であるレーザー加工装置において該被加工物を加工する被加工物の加工方法であって、該集光領域の間隔と該ストリートの間隔とが一致する際の該第1の回折光学素子の第1指定角度と、該集光領域の幅が該ストリートの幅未満となるとともに該集光スポットの配列方向が該ストリートの長さ方向に対して傾斜する際の該第2の回折光学素子の第2指定角度と、を特定する特定ステップと、該特定ステップの後に、該第1の回折光学素子を回転させて該第1指定角度で配置するとともに該第2の回折光学素子を回転させて該第2指定角度で配置する配置ステップと、該配置ステップの後に、該レーザービームを該ストリートに沿って照射する加工ステップと、を備える被加工物の加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係るレーザー加工装置は、レーザービームを分岐させる第1の回折光学素子と、レーザービームを所定の形状に成形する第2の回折光学素子とを備える。そして、第1の回折光学素子は、光軸を回転軸として回転することにより、レーザービームの複数の集光領域の割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更できる。これにより、被加工物の種類、寸法、加工内容等に応じてレーザービームが照射される領域(被照射領域)を変更でき、回折光学素子を交換することなく様々な被加工物を適切に加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】レーザー加工装置を示す斜視図である。
図2】被加工物を示す斜視図である。
図3】レーザー加工装置を示す一部断面正面図である。
図4図4(A)は第1の回折光学素子を示す斜視図であり、図4(B)は第2の回折光学素子を示す斜視図である。
図5図5(A)は第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を示す斜視図であり、図5(B)は被加工物の表面側を示す平面図である。
図6図6(A)は第1の回折光学素子を回転させた際の第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を示す斜視図であり、図6(B)は第1の回折光学素子を回転させた際の被加工物の表面側を示す平面図である。
図7図7(A)は第2の回折光学素子を回転させた際の第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を示す斜視図であり、図7(B)は第2の回折光学素子を回転させた際の被加工物の表面側を示す平面図である。
図8図8(A)は第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を回転させた際の第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を示す斜視図であり、図8(B)は第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を回転させた際の被加工物の表面側を示す平面図である。
図9図9(A)は複数の矩形状の集光領域を形成する第1の回折光学素子及び第2の回折光学素子を示す斜視図であり、図9(B)はレーザービームが矩形状の集光領域に照射される被加工物の表面側を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係るレーザー加工装置の構成例について説明する。図1は、レーザー加工装置2を示す斜視図である。なお、図1において、X軸方向(加工送り方向、第1水平方向)とY軸方向(割り出し送り方向、第2水平方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(高さ方向、鉛直方向、上下方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0015】
レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2を構成する各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の上面は水平方向(XY平面方向)と概ね平行であり、基台4の上面上には移動ユニット(移動機構)6が設けられている。移動ユニット6は、割り出し送りユニット(Y軸移動ユニット、Y軸移動機構)8と、加工送りユニット(X軸移動ユニット、X軸移動機構)18と、Z軸移動ユニット(Z軸移動機構)32とを備える。
【0016】
割り出し送りユニット8は、基台4の上面上にY軸方向に沿って配置された一対のY軸ガイドレール10を備える。一対のY軸ガイドレール10には、平板状のY軸移動テーブル12が、Y軸ガイドレール10に沿ってスライド可能な状態で装着されている。
【0017】
Y軸移動テーブル12の裏面(下面)側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、一対のY軸ガイドレール10の間にY軸方向に沿って配置されたY軸ボールねじ14が螺合されている。また、Y軸ボールねじ14の端部には、Y軸ボールねじ14を回転させるY軸パルスモータ16が連結されている。Y軸パルスモータ16でY軸ボールねじ14を回転させると、Y軸移動テーブル12が一対のY軸ガイドレール10に沿ってY軸方向に移動する。
【0018】
加工送りユニット18は、Y軸移動テーブル12の表面(上面)側にX軸方向に沿って配置された一対のX軸ガイドレール20を備える。一対のX軸ガイドレール20には、板状のX軸移動テーブル22が、X軸ガイドレール20に沿ってスライド可能な状態で装着されている。
【0019】
X軸移動テーブル22の裏面(下面)側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、一対のX軸ガイドレール20の間にX軸方向に沿って配置されたX軸ボールねじ24が螺合されている。また、X軸ボールねじ24の端部には、X軸ボールねじ24を回転させるX軸パルスモータ26が連結されている。X軸パルスモータ26でX軸ボールねじ24を回転させると、X軸移動テーブル22が一対のX軸ガイドレール20に沿ってX軸方向に移動する。
【0020】
X軸移動テーブル22の表面(上面)上には、レーザー加工装置2による加工の対象となる被加工物11(図2参照)を保持するチャックテーブル(保持テーブル)28が設けられている。また、チャックテーブル28の周囲には、被加工物11を支持する環状のフレーム17(図2参照)を把持して固定する複数のクランプ30が設けられている。
【0021】
チャックテーブル28の上面は、水平方向(XY平面方向)に沿って形成された平坦面であり、被加工物11を保持する保持面28aを構成している。保持面28aは、チャックテーブル28の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0022】
Y軸移動テーブル12をY軸方向に沿って移動させると、チャックテーブル28がY軸方向に沿って移動する。また、X軸移動テーブル22をX軸方向に沿って移動させると、チャックテーブル28がX軸方向に沿って移動する。さらに、チャックテーブル28にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されており、この回転駆動源はチャックテーブル28をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させる。
【0023】
基台4の後端部(割り出し送りユニット8、加工送りユニット18、チャックテーブル28の後方)には、Z軸移動ユニット32が設けられている。Z軸移動ユニット32は、基台4の上面上に配置された支持構造34を備える。支持構造34は、基台4に固定された直方体状の基部34aと、基部34aの端部から上方に突出する柱状の支持部34bとを含む。支持部34bの表面(側面)は、Z軸方向に沿って平面状に形成されている。
【0024】
支持部34bの表面には、一対のZ軸ガイドレール36がZ軸方向に沿って設けられている。一対のZ軸ガイドレール36には、平板状のZ軸移動テーブル38が、Z軸ガイドレール36に沿ってスライド可能な状態で装着されている。
【0025】
Z軸移動テーブル38の裏面側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、一対のZ軸ガイドレール36の間にZ軸方向に沿って配置されたZ軸ボールねじ(不図示)が螺合されている。また、Z軸ボールねじの端部には、Z軸ボールねじを回転させるZ軸パルスモータ40が連結されている。さらに、Z軸移動テーブル38の表面側には、支持部材42が固定されている。Z軸パルスモータ40でZ軸ボールねじを回転させると、Z軸移動テーブル38及び支持部材42が一対のZ軸ガイドレール36に沿ってZ軸方向に移動する。
【0026】
また、レーザー加工装置2には、レーザービーム照射ユニット44が搭載されている。レーザービーム照射ユニット44は、チャックテーブル28によって保持された被加工物11にレーザービーム46を照射することにより、被加工物11にレーザー加工を施す。なお、レーザービーム照射ユニット44の少なくとも一部の構成要素(レーザー加工ヘッド等)は、支持部材42によって支持されている。
【0027】
レーザービーム照射ユニット44の先端部には、チャックテーブル28によって保持された被加工物11等を撮像する撮像ユニット48が設けられている。撮像ユニット48は、可視光を受光して電気信号に変換する撮像素子を備える可視光カメラ、赤外線を受光して電気信号に変換する撮像素子を備える赤外線カメラ等を備える。撮像ユニット48で被加工物11を撮像することによって取得された画像に基づいて、チャックテーブル28とレーザービーム46との位置合わせ等が行われる。
【0028】
Z軸移動テーブル38をZ軸方向に沿って移動させると、レーザービーム照射ユニット44のレーザー加工ヘッド及び撮像ユニット48がZ軸方向に沿って移動(昇降)する。これにより、レーザービーム照射ユニット44から照射されるレーザービームのZ軸方向における集光位置の調節や、撮像ユニット48のピント合わせ等が行われる。
【0029】
割り出し送りユニット8、加工送りユニット18、及びZ軸移動ユニット32によって、移動ユニット6が構成される。移動ユニット6は、チャックテーブル28及び撮像ユニット48と、レーザービーム照射ユニット44から照射されたレーザービーム46とを、加工送り方向(X軸方向)及び割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って相対的に移動させる。
【0030】
また、レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2に関する各種の情報を表示する表示ユニット(表示部、表示装置)50を備える。例えば、表示ユニット50としてタッチパネルが用いられる。この場合、表示ユニット50にはレーザー加工装置2に情報を入力するための操作画面が表示される。そして、レーザー加工装置2のオペレーターは、表示ユニット50のタッチ操作によってレーザー加工装置2に情報を入力できる。すなわち、表示ユニット50は、レーザー加工装置2に各種の情報を入力するための入力部(入力ユニット、入力装置)としても機能し、ユーザーインターフェースとして用いられる。ただし、入力部は、表示ユニット50とは別途独立して設けられたマウス、キーボード等であってもよい。
【0031】
さらに、レーザー加工装置2は、レーザー加工装置2を制御する制御ユニット(制御部、制御装置)52を備える。制御ユニット52は、レーザー加工装置2を構成する各構成要素(移動ユニット6、チャックテーブル28、クランプ30、レーザービーム照射ユニット44、撮像ユニット48、表示ユニット50等)に接続されている。制御ユニット52は、レーザー加工装置2の構成要素の動作を制御する制御信号を生成することにより、レーザー加工装置2を稼働させる。
【0032】
例えば、制御ユニット52はコンピュータによって構成される。具体的には、制御ユニット52は、レーザー加工装置2の稼働に必要な各種の演算を行うCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、レーザー加工装置2の稼働に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶するROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリとを含んで構成される。
【0033】
レーザー加工装置2によって、被加工物11にレーザー加工が施される。図2は、被加工物11を示す斜視図である。例えば被加工物11は、シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)13によって、複数の矩形状の領域に区画されている。
【0034】
ストリート13によって区画された複数の領域の表面11aにはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス15が形成されている。被加工物11をストリート13に沿って分割することにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。
【0035】
ただし、被加工物11の種類、材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる任意の形状及び大きさのウェーハであってもよい。また、デバイス15の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物11にはデバイス15が形成されていなくてもよい。
【0036】
レーザー加工装置2(図1参照)で被加工物11を加工する際には、被加工物11の取り扱い(搬送、保持等)の便宜のため、被加工物11が環状のフレーム17によって支持される。フレーム17はSUS(ステンレス鋼)等の金属でなり、フレーム17の中央部にはフレーム17を厚さ方向に貫通する円形の開口17aが設けられている。なお、開口17aの直径は、被加工物11の直径よりも大きい。
【0037】
被加工物11及びフレーム17には、円形のテープ19が貼付される。例えばテープ19は、円形に形成されたフィルム状の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを含む。基材は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなる。また、粘着層は、エポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。なお、粘着層には、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型の樹脂を用いてもよい。
【0038】
被加工物11をフレーム17の開口17aの内側に配置した状態で、テープ19の中央部を被加工物11の裏面11b側に貼付するとともに、テープ19の外周部をフレーム17に貼付すると、被加工物11がテープ19を介してフレーム17によって支持される。
【0039】
図3は、レーザー加工装置2を示す一部断面正面図である。レーザー加工装置2によって被加工物11を加工する際には、まず、被加工物11がチャックテーブル28によって保持される。例えば被加工物11は、表面11a側が上方に露出し、裏面11b側(テープ19側)が保持面28aに対面するように、チャックテーブル28上に配置される。また、フレーム17が複数のクランプ30によって固定される。この状態で、保持面28aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がテープ19を介してチャックテーブル28によって吸引保持される。
【0040】
また、レーザービーム照射ユニット44は、YAGレーザー、YVOレーザー等のレーザー発振器60と、レーザー発振器60から出射したレーザービーム46をチャックテーブル28によって保持された被加工物11へと導く光学系62とを備える。光学系62は複数の光学素子を含んで構成され、レーザービーム46の進行方向、形状等を制御する。
【0041】
光学系62は、レーザー発振器60から出射したレーザービーム46を集光する凸レンズ等の集光レンズ64を含む。また、光学系62は、レーザービーム46を分岐させる回折光学素子(第1の回折光学素子)66と、レーザービーム46を所定の形状に成形する回折光学素子(第2の回折光学素子)68とを含む。回折光学素子66及び回折光学素子68は、レーザービーム46の光路においてレーザー発振器60と集光レンズ64との間に配置されている。
【0042】
レーザー発振器60から出射したレーザービーム46は、回折光学素子66,68を通過してミラー70に到達する。そして、ミラー70で反射したレーザービーム46は集光レンズ64に導かれ、集光レンズ64によって所定の位置で集光される。例えばレーザービーム46は、被加工物11の表面11a又は内部で集光して被加工物11を加工する。
【0043】
図4(A)は、回折光学素子66を示す斜視図である。回折光学素子66は、レーザービーム46に対して透過性を有する材質(ガラス、樹脂等)でなり、互いに概ね平行な第1面66aと第2面66bとを含む。回折光学素子66は、第1面66a及び第2面66bが光学系62の光軸と垂直になるように配置される。
【0044】
回折光学素子66の第1面66a側には、レーザービーム46を分岐させるための周期的な凹凸パターン(回折格子)66cが形成されている。なお、凹凸パターン66cは回折光学素子66の第2面66b側に形成されていてもよい。
【0045】
レーザービーム46が回折光学素子66の第1面66a側に入射すると、凹凸パターン66cが形成された領域においてレーザービーム46の回折が生じ、レーザービーム46が分岐される。そして、分岐されたレーザービーム46が回折光学素子66の第2面66b側から出射する。
【0046】
また、回折光学素子66には回転駆動源72が連結されている。回転駆動源72は、パルスモータ等によって構成され、光学系62の光軸(回折光学素子66の光軸)を回転軸として回折光学素子66を回転させる。例えば、回折光学素子66は筐体に収容され、回転駆動源72の出力軸(回転軸)は筐体に固定される。また、筐体と回転駆動源72とが一体化した偏光子ホルダ(自動偏光子ホルダ)に回折光学素子66を収容してもよい。回転駆動源72を作動させると、回折光学素子66が光軸の周りを回転(自転)する。これにより、回折光学素子66を所望の角度で配置できる。
【0047】
図4(B)は、回折光学素子68を示す斜視図である。回折光学素子68は、レーザービーム46に対して透過性を有する材質(ガラス、樹脂等)でなり、互いに概ね平行な第1面68aと第2面68bとを含む。回折光学素子68は、第1面68a及び第2面68bが光学系62の光軸と垂直になるように配置される。
【0048】
回折光学素子68の第1面68a側には、レーザービーム46を所定の形状に成形するための周期的な凹凸パターン(回折格子)68cが形成されている。なお、凹凸パターン68cは回折光学素子68の第2面68b側に形成されていてもよい。
【0049】
レーザービーム46が回折光学素子68の第1面68a側に入射すると、凹凸パターン68cが形成された領域においてレーザービーム46の回折が生じ、レーザービーム46が所定の形状に成形される。そして、成形されたレーザービーム46が回折光学素子68の第2面68b側から出射する。例えば回折光学素子68は、回折光学素子66(図4(A)参照)によって分岐されたレーザービーム46をさらに分岐させる。
【0050】
また、回折光学素子68には回転駆動源74が連結されている。回転駆動源74は、パルスモータ等によって構成され、光学系62の光軸(回折光学素子68の光軸)を回転軸として回折光学素子68を回転させる。例えば、回折光学素子68は筐体に収容され、回転駆動源74の出力軸(回転軸)は筐体に固定される。また、筐体と回転駆動源74とが一体化した偏光子ホルダ(自動偏光子ホルダ)に回折光学素子68を収容してもよい。回転駆動源74を作動させると、回折光学素子68が光軸の周りを回転(自転)する。これにより、回折光学素子68を所望の角度で配置できる。
【0051】
図3に示すように、例えば光学系62は、回折光学素子66、回折光学素子68、ミラー70、集光レンズ64をレーザービーム46の光路に沿って順に配置することによって構成される。この場合、レーザー発振器60から出射したレーザービーム46(レーザービーム46a)が回折光学素子66に入射し、回折光学素子66から出射したレーザービーム46(レーザービーム46b)が回折光学素子68に入射する。そして、回折光学素子68から出射したレーザービーム46(レーザービーム46c)がミラー70で反射し、集光レンズ64によって集光される。
【0052】
図5(A)は、回折光学素子66,68を示す斜視図である。回折光学素子66の凹凸パターン66cは、回折光学素子66に入射したレーザービーム(第1のレーザービーム)46aが複数のレーザービームに分岐されるように設計される。すなわち、回折光学素子66から出射するレーザービーム(第2のレーザービーム)46bは、レーザービーム46aの分岐によって形成された複数のレーザービーム(分岐レーザービーム)を含む。
【0053】
例えば回折光学素子66は、レーザービーム46aを4本の分岐レーザービームに分岐させる。この場合には、4本の分岐レーザービームを含むレーザービーム46bが回折光学素子68の第1面68a側に入射する。
【0054】
回折光学素子68の凹凸パターン68cは、回折光学素子68に入射したレーザービーム46bが所定の形状のレーザービーム(第3のレーザービーム)46cに成形されるように設計される。例えば回折光学素子68は、回折光学素子66によって形成された各分岐レーザービームを更に4本のレーザービーム(再分岐レーザービーム)に分岐させる。この場合には、16本の再分岐レーザービームを含むレーザービーム46cが集光レンズ64(図3参照)に入射する。
【0055】
そして、集光レンズ64は、レーザービーム46c(16本の再分岐レーザービーム)を集光させる。なお、集光レンズ64のサイズ、開口数(NA)等は、レーザービーム46cが所定の位置で集光されるように適宜設定される。
【0056】
図5(B)は、被加工物11の表面11a側を示す平面図である。被加工物11には、複数のストリート13が所定の幅Ws及び所定の間隔Isで配列されている。なお、ストリート13の幅Wsは、ストリート13の長さ方向と垂直な方向におけるストリート13の両端の距離に相当する。また、ストリート13の間隔Isは、ストリート13の幅方向における中心位置の間隔に相当する。
【0057】
レーザービーム46が回折光学素子66を介して被加工物11の表面11a側に照射されると、回折光学素子66によって分岐されたレーザービーム46は、割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における位置が異なる複数の集光領域80で集光される。具体的には、回折光学素子66及び集光レンズ64(図3参照)は、複数の集光領域80の間隔Icがストリート13の間隔Isと概ね等しくなるように設計、配置される。そのため、複数の集光領域80はそれぞれ異なるストリート13上に位置付けられる。例えば、回折光学素子66によってレーザービーム46aが4本の分岐レーザービームに分岐される場合には、図5(B)に示すように、4つの集光領域80が4本のストリート13上に位置付けられる。
【0058】
また、レーザービーム46が回折光学素子68を介して被加工物11の表面11a側に照射されると、回折光学素子68によって成形されたレーザービーム46がストリート13の内側で集光される。具体的には、回折光学素子68及び集光レンズ64(図3参照)は、回折光学素子66によって生成された4本の分岐レーザービームがそれぞれ、加工送り方向(X軸方向)と平行な方向における位置が異なる複数の集光スポット80aで集光されるように設計、配置される。そのため、各ストリート13上において複数の集光スポット80aが加工送り方向(X軸方向)に沿って所定の間隔で配列される。
【0059】
このように、回折光学素子66,68によってそれぞれレーザービーム46を分岐させることにより、レーザービーム46を、割り出し送り方向(Y軸方向)又は/及び加工送り方向(X軸方向)における位置が異なる複数の領域(16の集光スポット80a)で集光させることができる。そして、レーザービーム46を被加工物11に照射しつつチャックテーブル28(図3等参照)を加工送り方向(X軸方向)に沿って移動させると、被加工物11がストリート13に沿って加工される。このとき、4本のストリート13に沿ってレーザービームを4回ずつ照射する場合と同等のレーザー加工が、1度のレーザービーム46の走査によって実現される。
【0060】
さらに、本実施形態においては、回転駆動源72,74(図4(A)及び図4(B)参照)で回折光学素子66,68を回転させることにより、レーザービーム46の集光領域80の位置及び形状を変化させることができる。具体的には、回折光学素子66を光軸の周りで回転させることにより、割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における集光領域80の間隔Icを変更できる。また、回折光学素子68を光軸の周りで回転させることにより、ストリート13内における集光スポット80aの位置を変更できる。
【0061】
図6(A)は回折光学素子66を回転させた際の回折光学素子66,68を示す斜視図であり、図6(B)は回折光学素子66を回転させた際の被加工物11の表面11a側を示す平面図である。回折光学素子66を回転させると、回折光学素子66によるレーザービーム46の分岐の方向が変化し、割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における集光領域80の間隔Icが変化する。そのため、加工対象となる被加工物11が変更されてストリート13の間隔Isが変化した場合にも、回折光学素子66を回転させることにより、集光領域80の間隔Icをストリート13の間隔Isに合わせて調節することができる。
【0062】
図7(A)は回折光学素子68を回転させた際の回折光学素子66,68を示す斜視図であり、図7(B)は回折光学素子68を回転させた際の被加工物11の表面11a側を示す平面図である。回折光学素子68を回転させると、回折光学素子68によるレーザービーム46の分岐の方向が変化し、各集光領域80に含まれる複数の集光スポット80aの割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における位置が変化する。その結果、複数の集光スポット80aが加工送り方向(X軸方向)と非平行な方向に沿って配列される。
【0063】
なお、各集光領域80に含まれる集光スポット80aは、ストリート13の内側、すなわち、ストリート13の幅方向における一対の端部(第1エッジ及び第2エッジ)の間に位置付けられる。そして、第1エッジに最も近い集光スポット80aの第1エッジ側の端部と、第2エッジに最も近い集光スポット80aの第2エッジ側の端部との割り出し送り方向(Y軸方向)における距離は、集光領域80の幅に相当する。
【0064】
集光スポット80aの配列方向をストリート13の長さ方向に対して傾斜させると、集光領域80の幅が変化し、レーザービーム46を走査した際にレーザー加工が施される領域の幅も変化する。これにより、加工対象となる被加工物11が変更されてレーザー加工によって加工すべき領域の幅が変化した場合にも、回折光学素子66を回転させることによって集光領域80の幅を調節することができる。
【0065】
図8(A)は回折光学素子66,68を回転させた際の回折光学素子66,68を示す斜視図であり、図8(B)は回折光学素子66,68を回転させた際の被加工物11の表面11a側を示す平面図である。回折光学素子66,68を回転させると、割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における集光領域80の間隔Icが変化するとともに、割り出し送り方向(Y軸方向)と平行な方向における集光スポット80aの位置が変化する。このように、回折光学素子66,68の回転角度を制御することにより、集光領域80及び集光スポット80aの位置を調節することができる。これにより、被加工物11に設定されたストリート13の間隔Is及び幅Ws、レーザー加工の内容等に応じて、レーザービーム46の被照射領域を変更することが可能となる。
【0066】
なお、回折光学素子66,68の回転角度の調節は、レーザー加工装置2によって自動で実施されてもよい。具体的には、制御ユニット52(図1参照)によって回転駆動源72,74(図4(A)及び図4(B)参照)が制御され、回折光学素子66,68の回転角度が調節される。
【0067】
図1に示すように、制御ユニット52は、処理部90及び記憶部92を含む。処理部90は、外部から入力された情報(信号、データ等)を処理するとともに、各種の情報(信号、データ等)を生成して外部に出力する。また、記憶部92は、処理部90における処理に用いられる情報(データ、プログラム等)を記憶する。
【0068】
記憶部92には、回折光学素子66の回転角度とレーザービーム46の集光領域80の間隔Ic(図5(B)等参照)との関係を示す情報(第1回転角度情報)が予め記憶されている。例えば、回折光学素子66の回転角度と、回折光学素子66を該回転角度で配置した際における集光領域80の間隔Icとを示す複数のデータセットを含むテーブルが、第1回転角度情報として記憶部92に記憶される。
【0069】
また、記憶部92には、回折光学素子68の回転角度とレーザービーム46の集光領域80の形状との関係を示す情報(第2回転角度情報)が予め記憶されている。例えば、回折光学素子68の回転角度と、回折光学素子68を該回転角度で配置した際における集光領域80の幅とを示す複数のデータセットを含むテーブルが、第2回転角度情報として記憶部92に記憶される。
【0070】
レーザー加工装置2で被加工物11を加工する際には、オペレーターが表示ユニット50(タッチパネル)を操作して、レーザー加工装置2に加工条件を入力する。加工条件には、被加工物11に設定されたストリート13の間隔Is及び幅Ws(図5(B)等参照)が含まれる。そして、ストリート13の間隔Is及び幅Wsは、処理部90の回転角度特定部90aに入力される。なお、制御ユニット52は、撮像ユニット48によって取得された被加工物11の画像に画像処理を施すことにより、ストリート13の間隔Is及び幅Wsの値を自動で算出してもよい。
【0071】
回転角度特定部90aにストリート13の間隔Isが入力されると、回転角度特定部90aは記憶部92に記憶されている第1回転角度情報を参照し、集光領域80の間隔Icとストリート13の間隔Isとが概ね一致する際の回折光学素子66の回転角度(第1指定角度)を特定する。そして、第1指定角度の情報を含む信号が、回転角度特定部90aから回転指示部90bに出力される。
【0072】
また、回転角度特定部90aにストリート13の幅Wsが入力されると、回転角度特定部90aは記憶部92に記憶されている第2回転角度情報を参照し、集光領域80の幅がストリート13の幅Ws未満となる際の回折光学素子68の回転角度(第2指定角度)を特定する。そして、第2指定角度の情報を含む信号が、回転角度特定部90aから回転指示部90bに出力される。
【0073】
回転指示部90bに第1指定角度が入力されると、回転指示部90bは回転駆動源72(図4(A)参照)に制御信号を出力し、回折光学素子66が第1指定角度で配置されるように回転駆動源72の出力軸の角度を制御する。また、回転指示部90bに第2指定角度が入力されると、回転指示部90bは回転駆動源74(図4(B)参照)に制御信号を出力し、回折光学素子68が第2指定角度で配置されるように回転駆動源74の出力軸の角度を制御する。これにより、ストリート13の間隔Is及び幅Wsに合わせてレーザービーム46の集光領域80の間隔Ic及び幅が調節される(図5(B)~図8(B)参照)。
【0074】
上記のように回折光学素子66,68の回転角度が調節された後、レーザービーム照射ユニット44から被加工物11に向かってレーザービーム46が照射されるとともに、チャックテーブル28が加工送り方向(X軸方向)に沿って移動する。これにより、複数のストリート13に沿ってレーザービーム46が同時に照射され、ストリート13の内側に位置する所望の領域が加工される。
【0075】
なお、レーザービーム46の照射条件は、被加工物11の施されるレーザー加工の内容に応じて設定される。例えば、被加工物11にアブレーション加工を施す場合には、レーザービーム46の波長は、少なくともレーザービーム46の一部が被加工物11に吸収されるように設定される。すなわち、レーザービーム46は被加工物11に対して吸収性を有する波長のレーザービームである。また、他のレーザービーム46の照射条件(パワー、スポット径、繰り返し周波数等)も、被加工物11にアブレーション加工が適切に施されるように設定される。
【0076】
上記のレーザービーム46を被加工物11の表面11a又は内部で集光させつつ、チャックテーブル28を加工送り方向(X軸方向)に沿って移動させると、レーザービーム46がストリート13に沿って走査される。その結果、被加工物11にアブレーション加工が施され、線状の溝(レーザー加工溝)がストリート13に沿って形成される。
【0077】
例えば、全てのストリート13に沿って被加工物11の表面11aから裏面11bに至る溝を形成することにより、被加工物11がストリート13に沿って分割される。また、全てのストリート13に沿って深さが被加工物11の厚さ未満の溝を被加工物11の表面11a側に形成した後、被加工物11の裏面11b側を研削して溝を被加工物11の裏面11bに露出させることにより、被加工物11がストリート13に沿って分割される。これにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。
【0078】
上記の被加工物11の加工は、制御ユニット52でレーザー加工装置2の各構成要素の動作を制御することによって実現される。具体的には、制御ユニット52の記憶部92(メモリ)には、回折光学素子66の第1指定角度及び回折光学素子68の第2指定角度を特定する処理(特定ステップ)、回折光学素子66を回転させて第1指定角度で配置するとともに回折光学素子68を回転させて第2指定角度で配置する処理(配置ステップ)、移動ユニット6及びレーザービーム照射ユニット44を制御してレーザービーム46をストリート13に沿って照射する処理(加工ステップ)を順にレーザー加工装置2に実施させるためのプログラムが記憶されている。
【0079】
そして、レーザー加工装置2で被加工物11を加工する際には、制御ユニット52が記憶部92から上記のプログラムを読み出して実行する。これにより、レーザー加工装置2の各構成要素の動作を制御するための制御信号が制御ユニット52によって順次生成され、特定ステップ、配置ステップ、加工ステップが順に実施される。
【0080】
以上の通り、本実施形態に係るレーザー加工装置2は、レーザービーム46を分岐させる回折光学素子66と、レーザービーム46を所定の形状に成形する回折光学素子68とを備える。そして、回折光学素子66は、光軸を回転軸として回転することにより、レーザービーム46の複数の集光領域80の割り出し送り方向と平行な方向における間隔を変更できる。これにより、被加工物11の種類、寸法、加工内容等に応じてレーザービーム46が照射される領域(被照射領域)を変更でき、回折光学素子を交換することなく様々な被加工物11を適切に加工することが可能となる。
【0081】
なお、本実施形態においては、複数の集光領域80がそれぞれ複数の円形の集光スポット80aを含む場合について説明したが(図5(B)~図8(B)参照)、集光領域80の形状は回折光学素子68の凹凸パターン68cを変更することによって適宜変更できる。
【0082】
図9(A)は、複数の矩形状の集光領域を形成する回折光学素子66,68を示す斜視図である。回折光学素子68の第1面68a側には、回折光学素子66から出射したレーザービーム46(レーザービーム46b)の集光領域82を矩形状に成形するための凹凸パターン(回折格子)68dが形成されている。
【0083】
図9(B)は、レーザービーム46が矩形状の集光領域82に照射される被加工物11の表面11a側を示す平面図である。回折光学素子68から出射したレーザービーム46が集光レンズ64(図3参照)を通過すると、トップハットビームが形成され、複数のストリート13上にそれぞれ矩形状の集光領域82が位置付けられる。なお、回折光学素子66を回転させると、集光領域82の割り出し送り方向(Y軸方向)における間隔Icが変化する。これにより、矩形状の集光領域82を所望の間隔で配置することができる。
【0084】
また、レーザービーム46の集光領域の形状は、円形状及び矩形状に限られない。例えば、回折光学素子68の凹凸パターンを変更することにより、長さ方向が加工送り方向(X軸方向、ストリート13の長さ方向)に沿う線状の集光領域を形成することもできる。
【0085】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0086】
11 被加工物
11a 表面
11b 裏面
13 ストリート(分割予定ライン)
15 デバイス
17 フレーム
17a 開口
19 テープ
2 レーザー加工装置
4 基台
6 移動ユニット(移動機構)
8 割り出し送りユニット(Y軸移動ユニット、Y軸移動機構)
10 Y軸ガイドレール
12 Y軸移動テーブル
14 Y軸ボールねじ
16 Y軸パルスモータ
18 加工送りユニット(X軸移動ユニット、X軸移動機構)
20 X軸ガイドレール
22 X軸移動テーブル
24 X軸ボールねじ
26 X軸パルスモータ
28 チャックテーブル(保持テーブル)
28a 保持面
30 クランプ
32 Z軸移動ユニット(Z軸移動機構)
34 支持構造
34a 基部
34b 支持部
36 Z軸ガイドレール
38 Z軸移動テーブル
40 Z軸パルスモータ
42 支持部材
44 レーザービーム照射ユニット
46 レーザービーム
46a レーザービーム(第1のレーザービーム)
46b レーザービーム(第2のレーザービーム)
46c レーザービーム(第3のレーザービーム)
48 撮像ユニット
50 表示ユニット(表示部、表示装置)
52 制御ユニット(制御部、制御装置)
60 レーザー発振器
62 光学系
64 集光レンズ
66 回折光学素子(第1の回折光学素子)
66a 第1面
66b 第2面
66c 凹凸パターン(回折格子)
68 回折光学素子(第2の回折光学素子)
68a 第1面
68b 第2面
68c,68d 凹凸パターン(回折格子)
70 ミラー
72 回転駆動源
74 回転駆動源
80 集光領域
80a 集光スポット
82 集光領域
90 処理部
90a 回転角度特定部
90b 回転指示部
92 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9