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特許7592390基油の耐摩耗性及び防カビ性を向上する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】基油の耐摩耗性及び防カビ性を向上する方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20241125BHJP
   C10M 129/38 20060101ALI20241125BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20241125BHJP
   C10M 135/36 20060101ALI20241125BHJP
   C10L 10/08 20060101ALI20241125BHJP
   C10L 1/26 20060101ALI20241125BHJP
   C10L 1/24 20060101ALI20241125BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241125BHJP
   C10N 30/16 20060101ALN20241125BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20241125BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M129/38
C10M137/04
C10M135/36
C10L10/08
C10L1/26
C10L1/24
C10N30:06
C10N30:16
C10N30:10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020036448
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138814
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】小田切 慶一
(72)【発明者】
【氏名】古小高 明洋
(72)【発明者】
【氏名】角 太郎
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508011(JP,A)
【文献】特開平09-111262(JP,A)
【文献】特開2017-141439(JP,A)
【文献】特表2017-522404(JP,A)
【文献】特開平06-248279(JP,A)
【文献】特開2016-098330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分としての基油に、(B)成分として脂肪酸、酸性リン酸エステル又はこれらの混合物と、(C)成分としてイソチアゾリン系化合物とを配合する、(A)成分の基油の保存安定性を低下させずに耐摩耗性及び防カビ性を向上する方法であって、(B)成分の配合量と(C)成分の配合量との比が、質量比で99:1~10:90であり、
(A)成分としての基油が、硫黄原子含有量が0~5000質量ppmである基油であ
(B)成分として、炭素数12~22のアルキル基を有する脂肪酸、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される酸性リン酸エステル、もしくはこれらの混合物を含み、
【化1】
(式中、R 、R 、R はそれぞれ独立して炭素数4~30の一価の炭化水素基を表し、R 、R 、R はそれぞれ独立して炭素数2~4のアルキレン基を表し、a、b、cはそれぞれ独立して0~10の数を表す。)
(C)成分として炭素数1~8のアルキル基を有するアルキルイソチアゾリンを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた取扱性を有し、高い耐摩耗性、防カビ性、保存安定性を発揮する摩耗防止剤組成物及びそれを含む燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関や工作機械等の機械類等に用いられる潤滑剤、作動油、加工油、及びグリースや、船舶、車両、農業機械、発電機等に用いられる燃料油等には、その潤滑性を向上させるために各種の耐摩耗剤が用いられている。従来の耐摩耗剤としては、各種のリン酸エステル(特許文献1)や、脂肪酸(特許文献2)等が知られている。しかし、これらの耐摩耗剤は耐摩耗特性には優れるものの、各種用途に適用する際に、基油への溶解等の問題により固化や沈殿が生じるなど、取扱い性の面において課題があった。
【0003】
また、潤滑油においては、使用目的や使用環境に適合するよう、さらに抗菌剤や防カビ剤を併用することがある。例えば、特許文献3には、合成油、第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤を含有する抗菌性潤滑剤組成物が、特許文献4には、特定のアニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤と両性界面活性剤からなる抗菌性潤滑剤組成物が、特許文献5には、金属加工油の腐敗及び/または異臭発生を防止することを目的にヨード酢酸エステルを添加した金属加工油が、それぞれ提案されている。
【0004】
さらに、燃料油組成物においても耐摩耗性及び防カビ性が求められることがあり、例えば、特許文献6には、特定のカチオン系界面活性剤と、脂肪酸と、有機溶剤とを含み、貯蔵安定性に優れ、燃料油に添加することによって、燃料油の防カビ性及び潤滑性を向上させることのできる組成物が記載されている。しかし特許文献6の組成物においても、耐摩耗特性及び保存安定性が十分でなく、依然として各種特性に優れる摩耗防止剤組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-107108号公報
【文献】特表2017-528588号公報
【文献】特開2009-286957号公報
【文献】特開平08-333592号公報
【文献】特開2000-109865号公報
【文献】特開2016-098330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、優れた取扱性を有し、高い耐摩耗性、防カビ性、保存安定性を発揮する摩耗防止剤組成物及びそれを含む燃料油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の組成の摩耗防止剤組成物が、優れた取扱性を有し、高い耐摩耗性、防カビ性、保存安定性を発揮することを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、(A)成分として基油、(B)成分として脂肪酸、酸性リン酸エステル又はこれらの混合物、(C)成分としてイソチアゾリン系化合物を含む摩耗防止剤組成物であって、摩耗防止剤組成物中の(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の比が、質量比で99:1~70:30である摩耗防止剤組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた取扱性を有し、高い耐摩耗性、防カビ性、保存安定性を発揮する摩耗防止剤組成物及びそれを含む燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の(A)成分として用いる基油としては、使用目的や条件に応じて適宜、鉱物基油、化学合成基油、動植物基油、ガソリン、軽油、重油、灯油、バイオ燃料及びこれらの混合基油等から選ぶことができる。ここで、鉱物基油としては、例えば、パラフィン基系原油、ナフテン基系原油、中間基系原油、芳香族基系原油があり、更にこれらを常圧蒸留して得られる留出油、或いは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油があり、また更にこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油及び白土処理油等が挙げられる。
【0010】
化学合成基油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン及びGTL基油等が挙げられる。これらの中でも、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル及びポリオールエステル等は汎用的に使用することができる。ポリ-α-オレフィンとしては例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン及び1-テトラデセン等をポリマー化又はオリゴマー化したもの、或いはこれらを水素化したもの等が挙げられる。ジエステルとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等の2塩基酸と、2-エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール及びトリデカノール等のアルコールのジエステル等が挙げられる。ポリオールエステルとしては例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール等のポリオールと、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等の脂肪酸とのエステル等が挙げられる。
【0011】
動植物基油としては、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油及びヤシ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂が挙げられる。
【0012】
これらの中でも、本発明の摩耗防止剤組成物を燃料油に用いる場合、(A)成分として用いる基油としては、ガソリン、軽油、重油、灯油、及びバイオ燃料から選ばれる1種又は2種以上の基油を用いることが好ましく、より具体的には、特1号軽油、1号軽油、2号軽油、3号軽油、特3号軽油、A重油、B重油、C重油、1号灯油、2号灯油、MGO(Marine Gas oil)、MDO(Marine Diesel Oil)、VLSFO(Very Low Sulfur
Fuel Oil)、及びULSFO(Ultra Low Sulfur Fuel Oil)から選ばれる1種又は2種以上の基油を用いることが好ましい。
【0013】
また、本発明の摩耗防止剤組成物を燃料油に用いる場合、(A)成分として用いる基油としては、基油中の硫黄原子含有量が0~5000質量ppmである基油が好ましく、100~5000質量ppmである基油がより好ましい。
【0014】
本発明の(A)成分として用いる基油の粘度は、摩耗防止剤組成物の取扱性の観点からは、40℃の動粘度が1~800mm/sであることが好ましく、2~500mm/sであることが更に好ましく、5~400mm/sであることが最も好ましい。なお本発明において、動粘度は、JIS K 2283に記載の方法により測定して得られる値である。
【0015】
本発明の(B)成分として用いる脂肪酸としては、カルボン酸基及び炭化水素基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等が挙げられる。また、酸性リン酸エステルとしては、リン酸基に含まれるP-OH結合のうちの1つ又は2つがエステル化された構造を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸モノエステル金属塩、リン酸ジエステル金属塩、リン酸モノエステルアミン塩、リン酸ジエステルアミン塩等が挙げられる。本発明においては、このような(B)成分を含むことで、(A)成分及び(C)成分と併用した際に(B)成分が耐摩耗剤として機能し、優れた取扱性を有し、高い耐摩耗性、防カビ性、保存安定性を発揮する摩耗防止剤組成物を得ることができる。
【0016】
ここで、脂肪酸としては、炭素数12~22のアルキル基を有する脂肪酸が好ましく、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エイコサジエン酸、ミード酸、アラキドン酸、エルカ酸等が挙げられ、これらの中でもオレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸が好ましい。
【0017】
また、酸性リン酸エステルとしては、下記一般式(1)または(2)で表されるものを挙げることができる:
【化1】
【0018】
一般式(1)のRは、炭素数4~30の一価の炭化水素基を表す。このような基としては、例えば、炭素数4~30の直鎖アルキル基、炭素数4~30の分岐アルキル基、炭素数4~30の直鎖アルケニル基、炭素数4~30の分岐アルケニル基、炭素数4~30の一価の脂環式炭化水素基、炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの中でも、高い耐摩耗性を発揮する観点から、Rは、炭素数6~24の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数6~18の直鎖アルキル基、炭素数6~18の分岐アルキル基、炭素数6~18の直鎖アルケニル基のいずれかであることがより好ましい。
【0019】
一般式(1)のRは、炭素数2~4のアルキレン基を表す。このような基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。これらの中でも、高い耐摩耗性を発揮する観点から、Rは、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0020】
一般式(1)のaは、0~10の数を表す。これらの中でも、取扱い性及び高い耐摩耗性を発揮する観点から、aは、0~6であることが好ましい。
【0021】
一般式(2)のR、Rは、それぞれ独立して炭素数4~30の一価の炭化水素基を表す。このような基としては、例えば、炭素数4~30の直鎖アルキル基、炭素数4~30の分岐アルキル基、炭素数4~30の直鎖アルケニル基、炭素数4~30の分岐アルケニル基、炭素数4~30の一価の脂環式炭化水素基、炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの中でも、高い耐摩耗性を発揮する観点から、R、Rは、それぞれ炭素数6~24の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数6~18の直鎖アルキル基、炭素数6~18の分岐アルキル基、炭素数6~18の直鎖アルケニル基のいずれかであることがより好ましい。
【0022】
一般式(2)のR、Rは、それぞれ独立して炭素数2~4のアルキレン基を表す。このような基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。これらの中でも、高い耐摩耗性を発揮する観点から、R、Rは、それぞれエチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0023】
一般式(2)のb、cは、それぞれ独立して0~10の数を表す。これらの中でも、取扱い性及び高い耐摩耗性を発揮する観点から、b、cは、それぞれ0~6であることが好ましい。
【0024】
本発明の(B)成分としては、これらの中でも、高い耐摩耗性及び保存安定性を発揮する観点から、炭素数12~22のアルキル基を有する脂肪酸、一般式(1)又は一般式(2)で表される酸性リン酸エステルの少なくとも1種を含むことが好ましく、一般式(1)又は一般式(2)で表される酸性リン酸エステルを少なくとも含むことがより好ましく、一般式(1)で表される酸性リン酸エステル及び一般式(2)で表される酸性リン酸エステルを含むことが更により好ましい。
【0025】
更に、本発明の(C)成分として用いるイソチアゾリン系化合物としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの中でも、保存安定性及び防カビ性の観点から、(C)成分として炭素数1~8のアルキル基を有するアルキルイソチアゾリン系化合物を含むことが好ましく、具体的には、(C)成分として2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン又は2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンを少なくとも含むことが好ましく、2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンを含むことがより好ましい。本発明においては、(C)成分としてこのようなイソチアゾリン系化合物を含むことで、優れた耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性を発揮できる。
【0026】
本発明の摩耗防止剤組成物は、摩耗防止剤組成物中の(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の比が、質量比で99:1~10:90である。耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性の観点からは、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の比が質量比で99:1~50:50であることが好ましく、質量比で98:2~70:30であることがより好ましい。本発明においては、(B)成分と(C)成分をこのような含有量の比で含むことで、優れた耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性を発揮することができる。
【0027】
本発明の摩耗防止剤組成物は、取扱い性の観点から、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量は、1~1000質量部であることが好ましく、100~1000質量部であることがより好ましく、200~500質量部であることが更により好ましい。また、(A)成分100質量部に対する(C)成分の含有量は、0.1~50質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが更により好ましい。
【0028】
本発明の摩耗防止剤組成物は、目的や用途に応じて溶剤を含んでいてもよい。このような溶剤としては、例えば、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤、アミド系溶剤、環状アミド系溶剤、エステル系溶剤又はアセテート系溶剤等が挙げられ、これらの中でも、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤が好ましい。摩耗防止剤組成物中の溶剤の含有量は特に限定されないが、摩耗防止剤組成物全量に対して0.01~40質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましい。
【0029】
本発明の摩耗防止剤組成物の製造方法は、上述した(A)成分、(B)成分、(C)成分を公知の方法により混合すればよく、例えば、常温~100℃の環境下で、(A)成分である基油へ、(B)成分及び(C)成分を一度に全量又は複数回に分割して添加し、常温~150℃で撹拌・混合することで製造することができる。
【0030】
本発明の摩耗防止剤組成物の用途は、摩耗防止剤が用いられる用途であれば特に限定されず、例えば、エンジン油、ギヤ油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、絶縁油、摺動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油等の潤滑油;軸受用グリース、歯車用グリース、ギヤ用グリース、ジョイント用グリース、ベアリング用グリース等のグリース;自動車用燃料油、船舶用燃料油、航空機用の燃料油等が挙げられ、これらの中でも、燃料油に好適に用いることができる。本発明の摩耗防止剤組成物を、これらの潤滑油、グリース、燃料油に用いる場合、用途や目的に応じて、その他の基油や添加剤を併用してもよい。
【0031】
本発明の燃料油組成物は、前述した摩耗防止剤組成物を含有する燃料油組成物である。本発明の燃料油組成物は、前述した摩耗防止剤組成物の他に、目的に応じて燃料油基油や添加剤をさらに含有していてもよく、このような添加剤としては例えば、表面着火防止剤、オクタン価向上剤、セタン価向上剤、殺菌剤・抗菌剤[本発明の(C)成分を除く]、防錆剤、堆積物改良剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、清浄剤・分散剤、流動性向上剤、氷結防止剤、アンチノック剤、腐食防止剤、帯電防止剤、助燃剤、染料等から選ばれる1種又は2種以上を、合計量で燃料油組成物全量に対して0.001~50質量%含有していてもよい。
【0032】
表面着火防止剤としては、例えば、トリブチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリクレジルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、メチルフェニルホスフェート等の有機リン系化合物;2-エチルヘキシルボロネート及びブチルジイソブチルボロネート等の有機ボロン系化合物が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。表面着火防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0033】
オクタン価向上剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸ブチル、メチル-tert-ブチルエーテル、エチル-tert-ブチルエーテル、メチル-tert-アミルエーテル、N-メチルアニリン、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル、テトラエチル鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。オクタン価向上剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0034】
セタン価向上剤としては、例えば、硝酸エチル、硝酸メトキシエチル、硝酸イソプロピル、硝酸アミル、硝酸ヘキシル、硝酸ヘプチル、硝酸オクチル、硝酸2-エチルヘキシル、硝酸シクロヘキシルなどの脂肪族ニトレート;ジ-tert-ブチルペルオキシドなどの過酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。セタン価向上剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0035】
殺菌剤・抗菌剤としては、例えば、硫酸銀、硝酸銀、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸銅、エチレンジアミン4酢酸銅等の無機系殺菌剤;ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン等の有機窒素系抗菌剤;2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-エタン、ビストリブロモメチルスルホン等の有機ブロム系抗菌剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。殺菌剤・抗菌剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0036】
防錆剤としては、例えば、脂肪族アミン及びその塩、有機リン酸エステル、有機スルホン酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。防錆剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0037】
堆積物改良剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンアミン、ポリエーテルアミン、ポリアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ポリアルキルフェノキシアミノアルカン、ポリアルキレンスクシンイミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。堆積物改良剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0038】
酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、N,N'-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジブチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジオクチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジトリル-p-フェニレンジアミン、N-トリル-N'-キシレニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤;2-t-ブチルフェノール、2,6-ジターシャリブチルフェノール、2,6-ジターシャリブチル-4-メチルフェノール、2,4-ジメチル-6-ターシャリブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0039】
金属不活性化剤としては、例えば、エチレンジアミン等のアミノ化合物;N,N'-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン、N,N'-ジサリチリデン-2-シクロヘキサンジアミン、N,N'-ジサリチリデンエチレンジアミン、N,N'-ビス(ジメチルサリチリデン)エチレンジアミン、N,N'-ビス(ジメチルサリチリデン)エチレンテトラミン、サリチルアルドキシム等のサリチリデン系化合物;1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル-1,2,4-トリアゾール、1-(1-ブトキシエチル)-1,2,4-トリアゾール、4,4’-メチレンビス(2-ウンデシル-5-メチルイミダゾール)、ビス[(N-メチル)イミダゾール-2-イル]カルビノールオクチルエーテル等のトリアゾール系化合物;4-アルキルベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾトリアゾール、5,5’-メチレンビスベンゾトリアゾール、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)トリアゾール、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール、1-(ノニルオキシメチル)ベンゾトリアゾール、1-(1-ブトキシエチル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。金属不活性化剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0040】
清浄剤・分散剤としては、例えば、リン酸アミド、アミノアルカン、アルキルアミンリン酸エステル、ポリエーテルアミン、ポリブテニルアミン、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、スルホン酸金属塩、カルボン酸金属塩、サリチル酸金属塩、ホスホン酸金属塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。清浄剤・分散剤の含有量は特に限定されないが、例えば、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%であることが好ましい。
【0041】
本発明の燃料油組成物中の前述した摩耗防止剤組成物の含有量は特に限定されないが、燃料油組成物の耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性の観点から、摩耗防止剤組成物中の(B)成分の含有量が、燃料油組成物全量に対して0.001~10質量%となる量であることが好ましく、0.005~5質量%となる量であることがより好ましく、0.01~1質量%となる量であることが更により好ましい。また、燃料油組成物の耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性の観点から、燃料油組成物中の(C)成分の含有量が、燃料油組成物全量に対して0.0001~1質量%となる量であることが好ましく、0.0003~0.5質量%となる量であることがより好ましく、0.0005~0.1質量%となる量であることが更により好ましい。
【0042】
燃料油組成物の保存安定性、耐摩耗性等の観点から、本発明の燃料油組成物は、硫黄原子含有量が0~5000質量ppmであることが好ましく、100~5000質量ppmであることが好ましい。
【0043】
本発明の燃料油組成物は、液体の燃料油を用いる用途であればその用途は制限されず、例えば、乗用車やトラック等の自動車用燃料油、旅客船や貨物船等の船舶用燃料油、飛行機やヘリコプター等の航空機用の燃料油、ディーゼル機関車等の鉄道車両用燃料油、農業機械用燃料油、建築機械用燃料油等として用いることができ、これらの中でも、船舶用燃料油として用いることが好ましい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、「%」は特に記載が無い限り質量基準である。実施例に使用した(A)成分~(C)成分を下記に示す。
【0045】
<使用した各成分>
(A)成分
基油1:ナフテン系鉱物油(硫黄原子含有量:200質量ppm、40℃動粘度: 9.1mm/s)
基油2:パラフィン系鉱物油(硫黄原子含有量:10質量ppm未満、40℃動粘 度:20mm/s)
基油3:灯油(硫黄原子含有量:10質量ppm未満、40℃動粘度:2.0
mm/s)
(B)成分
耐摩耗剤1:オレイン酸
耐摩耗剤2:一般式(1)において、Rが2-エチルヘキシル基であり、aが0 である化合物と、一般式(2)において、R、Rがそれぞれ2-エ チルヘキシル基であり、b、cがそれぞれ0である化合物との、モル比 で1:1の混合物からなる酸性リン酸エステル
耐摩耗剤3:一般式(1)において、Rがオレイル基であり、Rがエチレン基 であり、aが1~6(平均値は4)である化合物と、一般式(2)にお いて、R、Rがそれぞれオレイル基であり、R、Rがそれぞれエ チレン基であり、b、cがそれぞれ1~6(平均値は4)である化合物 との、モル比で1:1の混合物からなる酸性リン酸エステル
耐摩耗剤4:一般式(1)において、Rがオクチル基であり、aが0である化合 物と、一般式(2)において、R、Rがそれぞれオクチル基であり 、b、cがそれぞれ0である化合物との、モル比で1:1の混合物から なる酸性リン酸エステル
(C)成分
イソチアゾリン系化合物1:オクチルイソチアゾリン
その他成分
耐摩耗剤A(比較成分):下記一般式(3)で表される構造を有する中性リン酸エ ステル
耐摩耗剤B(比較成分):オレイルアルコール
耐摩耗剤C(比較成分):オレイン酸オクチル
殺菌剤A(比較成分):ジヒドロキシエチルラウリルアミン
溶剤1:ブチルジグリコール
【0046】
【化2】
(式中、nは1~3の数を表し、nの平均値は1.2である)
【0047】
<摩耗防止剤組成物の調製>
フラスコに、表1に示す含有比率(なお、表中の「%」は質量%を表す)で(A)成分、(B)成分、(C)成分及びその他成分を混合し、100℃で1時間撹拌することで、実施例1~2、比較例1~3の摩耗防止剤組成物を調製した。
【0048】
<取扱性の評価>
実施例1~2、比較例1~3で調製した摩耗防止剤組成物の取扱性について、それぞれ20gをガラス容器に投入し、常温で1か月静置した後の状態を、下記評価基準に基づき評価した。各評価結果をそれぞれ表1に示す。
取扱性の評価基準
○:液体状態及び流動性を保っていた
×:固化していた、又は流動性がほとんどなかった
【0049】
【表1】
【0050】
<燃料油組成物の調製>
フラスコに、表2~5に示す組成(表中の%は質量%を表す)で(A)成分、(B)成分、(C)成分及びその他の成分を混合し、50℃で1時間撹拌することで実施例3~9、比較例4~17の燃料油組成物を調製した。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
<耐摩耗性試験>
実施例3~9、比較例4~17で調製した燃料油組成物それぞれについて、ボールオンディスク形式の高周波往復装置(HFRR)を用いて摩耗痕径を測定した。具体的には、SUJ2試験板とSUJ2試験球を所定の位置にセットし、燃料油組成物によりそれぞれ潤滑した状態で、試験球を下記試験条件で運動させた後、試験球の摩耗痕径を測定した。摩耗痕径の数値が小さいほど耐摩耗性に優れることを示し、実用性の観点からは、摩耗痕径が460μm以下であることが求められる。摩耗痕径(μm)の測定結果をそれぞれ表2~5に示す。
試験条件
荷重:890kgf
振幅:10mm
周波数:1Hz
温度:60℃
【0056】
<防カビ性試験>
実施例3~9、比較例4~17で調製した燃料油組成物それぞれについて、防カビ試験により防カビ性の評価を行った。具体的には、直径90mmのシャーレ内にグルコース・ペプトン液体培地を入れ、直径55mm滅菌ろ紙を培地上にはり付け、JIS Z 2911:2018に準拠して調製した5種のカビ(アスペルギルス ニゲル、ペニシリウム シトリナム、リゾープス オリゼ、クラドスポリウム スファエロスペルマム、ケトミウム グロボスム)を含む胞子懸濁液を0.50ml滴下した後に各燃料油組成物15mlを注入し、29℃に保った恒温器で4週間培養した。培養後のカビの発育状態を観察し、胞子懸濁液の接した部分に認められるカビの発育部分の面積が1/3を超えていなければ評価結果“○”、1/3を超えている場合は評価結果“×”として評価した。評価結果をそれぞれ表2~5に示す。
【0057】
<保存安定性試験>
実施例3~9、比較例4~17で調製した燃料油組成物について、それぞれ20gをガラス容器に投入し、常温で1日静置した後の状態を、下記基準に基づき評価した。評価結果をそれぞれ表2~5に示す。
保存安定性の評価基準
○:全体透明状態を保っていた
×:底部に滞留物が観察された
【0058】
上記の結果から、本発明の摩耗防止剤組成物は、取扱い性に優れており、さらにこの摩耗防止剤組成物を用いることで、優れた耐摩耗特性、防カビ性及び保存安定性を発揮する燃料油組成物を得られることがわかる。