(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241125BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 643A
H01L21/304 651B
H01L21/304 648F
H01L21/304 648K
H01L21/304 643Z
H01L21/306 R
(21)【出願番号】P 2021005966
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】上村 史洋
(72)【発明者】
【氏名】南 輝臣
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168699(JP,A)
【文献】特開2016-042503(JP,A)
【文献】特開2018-056201(JP,A)
【文献】特開2020-035920(JP,A)
【文献】特開2019-204892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を回転させながら清浄液を前記基板に供給し、前記基板の表面に前記清浄液の液膜を形成する清浄液膜形成工程と、
前記清浄液膜形成工程の後に、前記基板を第1の回転速度で回転させながら、薬液を第1の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第1の厚さの薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第1薬液処理工程と、
前記第1薬液処理工程の後に、前記基板を第2の回転速度で回転させながら、前記第1薬液処理工程で用いた薬液と同じ薬液を第2の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第2の厚さの前記薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第2薬液処理工程と、
を備え、
前記清浄液は、前記第1および第2薬液処理工程で用いた前記薬液よりも清浄度が高い前記薬液とは異なる液であり、
前記第1の供給流量は前記第2の供給流量よりも大きく、かつ、前記第1の厚さは前記第2の厚さより厚
く、
前記基板への前記薬液の供給は、前記薬液を吐出する薬液ノズルと、前記薬液が循環する循環ラインから分岐して前記薬液ノズルに前記薬液を供給するディスペンスラインと、前記ディスペンスラインに設けられ、前記循環ラインから前記薬液ノズルへの前記薬液の供給を遮断する開閉弁とを有する薬液供給部を用いて実施され、
前記第1薬液処理工程の開始前に、前記開閉弁を開き、少なくとも前記ディスペンスラインの前記開閉弁から前記薬液ノズルに至るまでの区間に滞留していた前記薬液を予め定められた排出場所に排出するダミーディスペンス工程をさらに備えた、基板処理方法。
【請求項2】
基板を回転させながら清浄液を前記基板に供給し、前記基板の表面に前記清浄液の液膜を形成する清浄液膜形成工程と、
前記清浄液膜形成工程の後に、前記基板を第1の回転速度で回転させながら、薬液を第1の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第1の厚さの薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第1薬液処理工程と、
前記第1薬液処理工程の後に、前記基板を第2の回転速度で回転させながら、前記第1薬液処理工程で用いた薬液と同じ薬液を第2の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第2の厚さの前記薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第2薬液処理工程と、
を備え、
前記清浄液は、前記第1および第2薬液処理工程で用いた前記薬液よりも清浄度が高い前記薬液とは異なる液であり、
前記第1の供給流量は前記第2の供給流量よりも大きく、かつ、前記第1の厚さは前記第2の厚さより厚く、
前記基板への前記薬液の供給は、前記薬液を吐出する薬液ノズルと、前記薬液が循環する循環ラインから分岐して前記薬液ノズルに前記薬液を供給するディスペンスラインと、前記ディスペンスラインに設けられ、前記循環ラインから前記薬液ノズルへの前記薬液の供給を遮断する開閉弁とを有する薬液供給部を用いて実施され、
前記第1薬液処理工程は、少なくとも、前記開閉弁を開いて前記薬液ノズルから前記基板に前記薬液が吐出され始めた時点における少なくとも前記ディスペンスラインの前記開閉弁から前記薬液ノズルに至るまでの区間に存在していた前記薬液の全てが前記薬液ノズルから吐出され終わるまで実行され
る、基板処理方法。
【請求項3】
前記第1の回転速度は、前記第2の回転速度よりも高いか、あるいは前記第2の回転速度と等しい、請求項
1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
基板処理装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部を回転させる回転駆動部と、
前記基板保持部により保持された基板に清浄液を供給する清浄液供給部と、
前記基板保持部により保持された基板に薬液を供給する薬液供給部と、
前記基板処理装置の動作を制御して、請求項1から
3のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法を実行させる制御部と
を備えた基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、基板にエッチング用あるいは洗浄用の薬液等の処理液を供給して、基板に所定の液処理を施す液処理工程が含まれる。液処理後に基板上に残留するパーティクルを減少させるために、基板に供給される処理液中に含まれるパーティクルを減少させることが求められている。処理液中に含まれるパーティクルには、液処理ユニットに供給される処理液の流量調節のための制御弁から発生するパーティクルが含まれ、このようなパーティクルを減少させるための手段を備えた基板処理装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された基板処理装置は、処理液供給源に接続された第1ラインと、処理液供給源から前記第1ラインに処理液を送るポンプと、第1ラインに接続され、第1ラインを流れる処理液が流入する複数の第2ラインと、各第2ライン上の分岐点に接続された分岐ラインと、各分岐ラインを介して供給される処理液により基板に処理を施す液処理ユニットと、各第2ライン上の前記分岐点よりも上流側に設けられたオリフィスと、各第2ライン上の前記分岐点よりも下流側に設けられた第1制御弁と、を備えている。第1制御弁は、第1制御弁よりも下流側に流す処理液の量を変化させることにより対応する第2ラインの前記オリフィスと第1制御弁との間の区間内の処理液の圧力を制御し、対応する分岐ラインを通って対応する液処理ユニットに供給される処理液の流量を制御する。上記構成によれば、分岐ラインに流量調整のための制御弁を介在させる必要がなくなるので、このような制御弁から発生し得るパーティクルが液処理ユニットに流れることがなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、薬液の消費量を減少させつつ液処理後に基板上に残留するパーティクルを減少させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る基板処理方法は、基板を回転させながら清浄液を前記基板に供給し、前記基板の表面に前記清浄液の液膜を形成する清浄液膜形成工程と、前記清浄液膜形成工程の後に、前記基板を第1の回転速度で回転させながら、薬液を第1の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第1の厚さの薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第1薬液処理工程と、前記第1薬液処理工程の後に、前記基板を第2の回転速度で回転させながら、前記第1薬液処理工程で用いた薬液と同じ薬液を第2の供給流量で前記基板に供給し、前記基板の表面に第2の厚さの前記薬液の液膜を形成しながら前記基板を前記薬液により処理する第2薬液処理工程と、を備え、前記清浄液は、前記第1および第2薬液処理工程で用いた前記薬液よりも清浄度が高い前記薬液とは異なる液であり、前記第1の供給流量は前記第2の供給流量よりも大きく、かつ、前記第1の厚さは前記第2の厚さより厚い。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、薬液の消費量を減少させつつ液処理後に基板上に残留するパーティクルを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】基板処理装置の一実施形態に係る基板処理システムの構成を概略的に示す横断面図である。
【
図2】
図1に示した基板処理装置の処理液供給機構の構成を概略的に示した配管系統図である。
【
図3】
図2に示した1つの処理ユニットに関連する処理液供給機構の構成を概略的に示した配管系統図である。
【
図4】一実施形態における液処理の各工程における基板の回転速度および処理液の吐出流量を示すタイムチャートである。
【
図5】液処理の各工程における処理液の吐出状況を説明するための概略図である。
【
図6】初期厚膜形成工程の初期の状態を説明するための概略図でさる。
【
図7】初期厚膜形成工程の終期の状態を説明するための概略図でさる。
【
図8】薬液の液膜中における薬液の流速分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
基板処理装置の一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0011】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0012】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚の基板、本実施形態では半導体ウエハ等の基板Wを水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0013】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、基板Wを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間で基板Wの搬送を行う。
【0014】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0015】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、基板Wを保持する基板保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、基板保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間で基板Wの搬送を行う。
【0016】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送される基板Wに対して所定の基板処理を行う。
【0017】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0018】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0019】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCから基板Wを取り出し、取り出した基板Wを受渡部14に載置する。受渡部14に載置された基板Wは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0020】
処理ユニット16へ搬入された基板Wは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。そして、受渡部14に載置された処理済の基板Wは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0021】
次に、
図2および
図3を参照して、複数の処理ユニット16に処理液を供給する処理液供給系について説明する。処理液供給系は薬液供給系を含み、薬液供給系の配管系統が
図2に示されている。
【0022】
薬液供給系30は、薬液を貯留するタンク32と、タンク32から出てタンク32に戻る循環ライン34とを有している。循環ライン34にはポンプ36が設けられている。ポンプ36は、タンク32から出て循環ライン34を通りタンク32に戻る循環流を形成する。循環ライン34には、薬液に含まれるパーティクル等の汚染物質を除去するフィルタ38と、薬液を所定の温度に温調するための温調器40とが設けられている。薬液が基板Wに常温で供給される場合には、温調器40として、ペルチェ素子を用いて冷却・加熱を行う形式のものを用いることができる。
【0023】
循環ライン34に設定された接続領域42に、複数の分岐ライン(「ディスペンスライン」とも呼ぶ)44が並列に接続されている。各分岐ライン44は、循環ライン34を流れる薬液を対応する処理ユニット16に供給する。循環ライン34の接続領域42の圧力を安定化させるために、接続領域42の下流側に定圧弁43が設けられている。
【0024】
薬液供給系30は、タンク32に薬液または薬液構成成分を補充するタンク液補充部46をさらに有する。タンク32には、タンク32内の薬液を廃棄するためのドレン部48が設けられている。
【0025】
図3に示すように、1つの分岐ライン44には、上流側から順に、流量計50、流量制御弁としての定圧弁52および開閉弁54が設けられている。分岐ライン44の下流端には薬液ノズル56が設けられている。開閉弁54と薬液ノズル56との間において、分岐ライン44からドレンライン58が分岐している。ドレンライン58には開閉弁60が設けられている。
【0026】
流量計50および定圧弁52は、分岐ライン44を流れる薬液の流量を調整する流量調整部を構成する。定圧弁52は、図示しない電空レギュレータから定圧弁52のパイロットポートに供給された操作圧力(空気圧)に応じた二次側圧力が実現されるように動作する。定圧弁52のパイロットポートに供給される操作圧力は、流量計50の検出流量が所望の値(設定値)となるように制御装置(
図1の制御装置4またはその下位コントローラ)よりフィードバック制御される。
【0027】
薬液ノズル56は、
図3に概略的に示したノズルアーム62の先端部に担持されている。ノズルアーム62の先端部には、リンスノズル64およびIPAノズル66も担持されている。リンスノズル64およびIPAノズル66の少なくとも一方を、ノズルアーム62以外のノズルアーム(図示せず)により担持させてもよい。
【0028】
リンスノズル64には、リンス液供給源65Aから、リンス液供給制御部65Bが介設されたリンス液ライン65Cを介して、リンス液(例えばDIW)を制御された流量で供給することができる。リンス液供給制御部65Bは、リンス液の供給/供給停止の切り替えおよびリンス液の供給流量を制御するために開閉弁、流量制御弁等(図示せず)を備えている。
【0029】
IPAノズル66には、IPA供給源67Aから、IPA供給制御部67Bが介設されたIPAライン67Cを介して、IPA(イソプロピルアルコール)を制御された流量で供給することができる。IPA供給制御部67Bは、IPAの供給/供給停止の切り替えおよびIPAの供給流量を制御するために開閉弁、流量制御弁等(図示せず)を備えている。
【0030】
処理ユニット16は、スピンチャック(基板保持回転機構)70を有している。スピンチャック70は、基板Wを水平姿勢で保持する基板保持部(チャック部)72と、基板保持部72およびこれに保持された基板Wを鉛直軸線周りに回転させる回転駆動部74とを有している。
【0031】
基板保持部72は、基板Wの周縁部を把持爪等の保持部材により機械的に保持するメカニカルチャックと呼ばれるタイプのものであってもよく、基板Wの裏面中央部を真空吸着するバキュームチャックと呼ばれるタイプのものであってもよい。回転駆動部74は、例えば電気モータにより構成することができる。
【0032】
基板保持部の周囲には、回転する基板Wから飛散する処理液を捕集する液受けカップ76が設けられている。液受けカップ76により捕集された処理液は、液受けカップ76の底部に設けられた排液口78から処理ユニット16の外部に排出される。液受けカップ76の底部には排気口80も設けられており、排気口80を介して液受けカップ76の内部が吸引されている。
【0033】
ノズルアーム62により、薬液ノズル56、リンスノズル64およびIPAノズル66を、スピンチャック70により保持された基板Wの中心部の真上の位置(処理位置)と、液受けカップ76の外側(半径方向に関して外側)の位置(退避位置)との間で移動させることができる。薬液ノズル56、リンスノズル64およびIPAノズル66の下方には退避位置にあるノズル56,64,66から吐出された液を受けるダミーディスペンスポート82が設けられている。
【0034】
次に、
図4のタイムチャートおよび
図5の模式図を参照して、処理ユニット16にて基板Wに対して実行される液処理の一連の工程について説明する。一例として、基板Wは半導体ウエハであり、液処理はBEOL(配線工程)にて行われる薬液処理であり、薬液処理で用いる薬液としてはBHF(バッファードフッ酸)、DHF(希フッ酸)、NH
4F(フッ化アンモニウム)などを含む有機系薬液とすることができる。以下の液処理において用いる処理液(プリウエット液、薬液等)は全て常温である。なお、上述した液処理の種類、使用する薬液、処理液の温度等は例示であり、上述したものに限定されるものではない。
【0035】
図4のタイムチャートにおいて、上段は基板Wの回転速度を表示し、下段は処理液の吐出流量(破線が薬液、実線がプリウエット液およびリンス液、一点鎖線がIPAを示す)を表示している。
【0036】
なお、本実施形態では、従来から削減が求められていたサイズのパーティクルだけではなく、それよりも小さいサイズ(以下、本明細書において「微小サイズ」と呼ぶ)のパーティクル(例えば13nm程度のサイズのパーティクル)が基板Wに付着することを防止または抑制することを課題としていることに留意されたい。このような微小サイズのパーティクルは、例えば、開閉弁(54)において、弁体が弁座から離れるときあるいは弁体が弁座に着座するときに、弁体と弁座との干渉(例えば擦れ)による発塵の結果として生じ得る。分岐ライン44上に設けられた可動部を有するその他の弁(例えば流量制御弁(52))においても理論上は発塵が生じる可能性があるが、半導体製造装置の処理液供給系で用いられる流量制御弁(52)における発塵の可能性は、開閉弁(54)に比べるとずっと低いため、本明細書では流量制御弁(52)については考慮しないこととする。
【0037】
[薬液ダミーディスペンス工程(ステップS1)]
基板Wが処理ユニット16に搬入され、スピンチャック70により保持される。基板Wが処理ユニット16に搬入されるときには、薬液ノズル56は退避位置、すなわちダミーディスペンスポート82の真上にある。この状態から、まず、開閉弁54を開いて、薬液ノズル56からダミーディスペンスポート82に向けて所定時間薬液を吐出するダミーディスペンスを行う(
図5の(a)を参照)。
【0038】
ダミーディスペンスは、少なくとも分岐ライン44の開閉弁54から薬液ノズル56に至るまでの区間に滞留していた薬液の全てが薬液ノズル56から吐出されるまで行われる。具体的には例えば、ダミーディスペンスは、薬液ノズル56からの薬液の吐出流量を200mL/minとして30秒間行われる。薬液の吐出流量を増やして、吐出時間を短くしてもよい。
【0039】
ダミーディスペンスは、少なくとも分岐ライン44の全域(つまり循環ライン34との接続点から薬液ノズル56に至る区間)に滞留していた薬液の全てが薬液ノズル56から吐出されるまで行ってもよい。
【0040】
ダミーディスペンスを行うことにより、薬液ノズル56および分岐ライン44の内部の流路内に滞留しているかあるいは接液面に付着しているパーティクル等の汚染物質を排出することができる。また、ダミーディスペンス時に少なくとも分岐ライン44の開閉弁54から薬液ノズル56に至るまでの区間に滞留していた薬液の全てを薬液ノズル56から吐出することにより、ダミーディスペンスの停止直後に分岐ライン44内に一時的に滞留する薬液中に開閉弁54で生じた塵(パーティクル)が残留することを防止することができる。また、ダミーディスペンスを行うことにより、薬液ノズル56の周囲の雰囲気によりノズル内部が汚染されていたとしても、その汚染物質を排出することができる。
【0041】
薬液ノズル56とリンスノズル64とが別のノズルアームに担持されているのなら、薬液ダミーディスペンス工程を行っている期間の少なくとも一部が、後述のプリウエット工程を行っている期間と重複してもよい。
【0042】
[プリウエット工程(ステップS2)]
薬液ダミーディスペンス工程の終了後、リンスノズル64を基板Wの中心部の真上の位置に位置させるとともに、基板Wを比較的低い回転速度(例えば100~150rpm)で回転させる。この状態で、リンスノズル64から、プリウエット液として清浄液体、ここではDIW(純水)を大流量(例えば1500mL/min)で吐出する(
図5の(b)を参照)。プリウエット工程は、例えば5秒間行われる。基板Wの中心部に着液したプリウエット液は遠心力により基板Wの周縁に向けて広がりながら流れ、これにより、基板Wの表面の全体がプリウエット液の液膜により覆われる。
【0043】
なお、プリウエット液の吐出初期には、プリウエット液中に後述するような開閉弁の開放に伴う発塵に起因する塵が含まれ得るが、プリウエット液は大流量で供給されるため、塵(パーティクル原因物質)は基板Wの表面には殆ど付着しない。
【0044】
比較的厚いプリウエット液(DIW)の液膜(つまり、振り切りにより容易に消失することがない液膜)が基板Wの表面の全体に均一に形成されるのであれば、プリウエット工程における基板Wの回転速度およびプリウエット液の吐出流量は上記のものに限定されない。一例として、基板Wの表面に疎水面と親水面とが混在している場合には、液膜の均一性の観点からは基板の回転速度を高めに設定した方が好ましい。この場合、比較的厚い液膜を形成するためにプリウエット液の吐出流量を増やしてもよい。
【0045】
プリウエット工程の効果を確認するため、本明細書で説明した実施形態に基づく条件での処理(プリウエット工程有り)と、これに対してプリウエット工程が無い点のみが異なる条件での処理とを実際に行ってみた。その結果、プリウエット工程有りのパーティクル数は、プリウエット工程無しの場合のパーティクル数の約50%程度であった。
【0046】
また、プリウエット工程時における基板の回転速度を変更しながら(吐出流量は1500mL/minに固定)、本明細書で説明した実施形態に基づく条件での処理を行ってみた。その結果として、回転速度が小さい方が(つまり膜厚が大きい方が)パーティクル数が少なくなる傾向が認められた。
【0047】
プリウエット液として、希アンモニア水を用いることもできる。また、希アンモニア水は、後述のリンス工程におけるリンス液としても用いることもできる。一般的には、アルカリ性の液中では固体表面(基板表面およびパーティクル表面の両方)のゼータ電位がマイナスになるため、パーティクルが付着し難くなることが知られている。パーティクルの付着抑制が求められる本実施形態においても、希アンモニア水をプリウエット液およびリンス液のうちの少なくとも一方として利用することは有益である。実際のところ、プリウエット液およびリンス液として希アンモニア水を用いたところ、DIWを用いた場合と比較してさらなるパーティクルの減少が確認された。
【0048】
なお、本明細書において、「ノズルが基板Wの中心部の真上に位置している」ということは、ノズルが基板Wの回転中心点の真上に位置していることには限定されない。ノズルから吐出されて基板Wの表面に着液した液が着液直後に基板Wの回転中心点を濡らすことができる程度に広がるのであれば、基板Wの回転中心点からずれていても構わない。
【0049】
なお、本実施形態において、「液膜」は、液の種類に関わらず、回転する基板Wの中心部に着液した液が遠心力により基板Wの周縁に向けて広がりながら流れることにより基板Wの表面に形成される。液膜の厚さは、基本的には、基板Wの回転速度およびノズルからの液の吐出流量により決定される。
【0050】
プリウエット液として用いられるDIWおよび希アンモニア水は、薬液よりも清浄度が高い。清浄度が高いとは、パーティクル原因物質(塵等の粒子、析出等によりパーティクルを生じさせる物質を意味する)の含有量が少ないことを意味する。
【0051】
[初期厚膜形成工程(ステップS3)]
次に、リンスノズル64からのプリウエット液(DIW)の吐出を停止するとともにリンスノズル64を基板Wの中心部の真上の位置から退避させ、薬液ノズル56を基板Wの中心部の真上の位置に位置させる。そして開閉弁54を開いて、薬液ノズル56から、薬液を、次に行われる本処理工程よりも大きな吐出流量(例えば700mL/min程度の中流量)で吐出する(
図5の(c)を参照)。液吐出をリンスノズル64から薬液ノズル56に切り替えるとほぼ同時に、基板Wの回転速度をプリウエット工程よりも低い値(例えば30~50rpm程度の極低速)まで下げる。
【0052】
初期厚膜形成工程は、初期厚膜形成工程の開始直前までに少なくとも分岐ライン44の開閉弁54およびその下流側の区間に滞留していた薬液の全てが薬液ノズル56から吐出されるまで行う。なお、初期厚膜形成工程における薬液の総吐出量を増やすことは省薬液の観点からは好ましくないため、分岐ライン44の開閉弁54およびその下流側の区間に滞留していた薬液の全てが丁度排出されるまで初期厚膜形成工程を行ってもよい。一例として、初期厚膜形成工程は約10秒程度実施される。
【0053】
初期厚膜形成工程の前期においては、
図6に概略的に示すように、プリウエット工程により形成された清浄度の高い(汚染物質を殆ど含んでいない)プリウエット液(DIW)の液膜の上に、薬液ノズル56から薬液が供給される。このとき、例えば、開閉弁54を開くときに弁体が弁座に対して移動するため、前述した微小サイズのパーティクルの原因となり得る発塵が生じ得る。ここで発生した塵(パーティクル)は、薬液と一緒に基板Wに供給される。この塵を含んだ薬液は、保護膜として作用するプリウエット液の液膜の上に落ちる。薬液とプリウエット液とは相互拡散はするものの、薬液の塵が基板Wの表面まで到達することは困難であり、塵が基板Wの表面に付着することは殆ど無い。つまり、初期厚膜形成工程の前期においては、プリウエット液の液膜による保護効果により、基板表面への塵の付着が防止される。
【0054】
初期厚膜形成工程の開始からの時間経過とともに、プリウエット液は薬液に置換されてゆき、最後には、
図7に概略的に示すように、基板Wの表面にほぼ薬液のみが存在するようになる。この時点において分岐ライン44の開閉弁54およびその下流側の区間に滞留していた薬液の全てが薬液ノズル56から吐出され終わるような条件で、初期厚膜形成工程が実施されている。分岐ライン44の開閉弁54およびその下流側の区間に滞留していた薬液の全てが薬液ノズル56から吐出され終わった時点では、薬液ノズル56から吐出される薬液に、弁由来の塵は全く含まれていないか、殆ど含まれていない(
図7を参照)。仮に、薬液ノズル56から吐出される薬液に多少の塵が含まれていたとしても、初期厚膜形成工程では、比較的大きな流量(例えば700mL/min)で薬液が供給されているため、初期厚膜形成工程の終期において基板Wの表面に形成されている薬液の膜厚は比較的厚い。このため、液膜中の塵が基板Wの表面と接触する確率は低く、塵が基板Wの表面に付着することは殆ど無い。
【0055】
基板Wの中心部から周縁に向けて流れる液の流速は、
図8に示すように、基板Wの表面に近いほど低く、液膜表面に近いほど高い(符号Vが付けられた矢印の長さが速度を示している)。流速が低い基板表面付近においては、薬液中に含まれる塵(パーティクル原因物質)は基板Wの表面に付着しやすい。薬液の膜厚が薄い場合、薬液中に含まれる塵の多くは、基板Wの表面近傍を低速で移動するため、基板Wの表面に付着しやすい。また、塵(特に前述した微小サイズのもの)は、一旦基板Wの表面に付着すると、低流速の液流れに晒されても基板Wの表面から離れ難い。薬液の膜厚が厚い場合には、薬液中に含まれる塵の多くは比較的基板の表面から離れた位置を基板Wの周縁に向けて比較的高速で流れるため、基板Wの表面に付着する塵の量は少なくなる。つまり、ある程度の量の塵が含まれている薬液を基板Wに供給する場合、大流量かつ厚い膜厚が形成されるような基板Wの回転速度とした方が、塵(パーティクル)の付着を抑制することができる。このことを考慮して、初期厚膜形成工程における薬液の吐出流量および基板Wの回転速度が決定されている。
【0056】
初期厚膜形成工程の条件について考察するための実験を行ってみた。基板の回転速度を50rpmに固定して、薬液の吐出流量を200~700mL/min変化させたところ、薬液の吐出流量が大きいほど、基板に付着したパーティクルレベルが低下することが確認できた。また、薬液の吐出流量を200mL/minに固定して基板の回転速度を50~300rpmの間で変化させたところ、基板の回転速度が小さいほど基板に付着したパーティクルレベルが低下することが確認できた。このことから初期厚膜形成工程で形成する液膜の厚さは大きいほどパーティクルレベルが低下するといえる。
【0057】
[本処理工程(薬液処理)(ステップS4)]
次に、基板Wの回転速度を極低速(例えば初期厚膜形成工程と同じ速度)に維持したまま、薬液ノズル56からの薬液の吐出流量を小流量(例えば200mL/min)まで下げて、本処理工程を実行する(
図5の(d)を参照)。このとき、薬液の吐出流量が減少したことにより、基板Wの表面の液膜の厚さが薄くなる。もちろん、薬液の吐出流量は、基板Wの表面全域が切れ目無く薬液の液膜で覆われることが保証される値以上に維持される。一例として、本処理工程は70~80秒程度実施される。
【0058】
本処理工程を開始する時点では、弁由来の塵(パーティクル)のほぼ全てが薬液ノズルから吐出されているので、初期厚膜形成工程の時と比較して基板Wに供給される薬液の清浄度は高い。このため、液膜の厚さが薄くなっても、基板Wの表面への塵の付着は防止されるかあるいは十分に抑制される。本処理工程は、基板Wの表面に対して所望の薬液処理が完了するまで(例えば所望のエッチング量が得られるまで)行われる。本処理工程では薬液の吐出流量を低く抑えているため、特に高価な薬液を使用する場合の処理コストを低減することができる。
【0059】
[切り替え工程(本処理工程からリンス工程への移行)(ステップS5)]
次に、薬液ノズル56からの薬液の吐出流量を維持したまま、リンスノズル64を基板Wの中心部の真上の位置に位置させるとともに、リンスノズル64からリンス液としてのDIW(純水)を中流量(例えば700mL/min)で吐出し、基板の回転速度を低速(例えば200rpm)に増加させる(
図5の(e)を参照)。このとき、リンス液の吐出流量を上記のように低めに押さえることにより、液跳ねを防止することができる。2つのノズル(56,64)から同時に液を供給する場合、基板Wの表面での異なる液流れが干渉することにより液跳ねが生じ得る。跳ねた液はカップで跳ね返り基板Wの表面に再付着し、パーティクルの原因となり得るが、個々のノズル(56,64)からの吐出流量を低めに抑えることにより液跳ねを防止することができる。また、2つのノズル(56,64)から同時に液を供給することにより、個々のノズルからの液の吐出流量を低めに抑えても、液膜が千切れて基板Wの表面が露出することはない。薬液ノズル56およびリンスノズル64からの液の吐出が同時に行われている期間は例えば10秒程度とすることができる。
【0060】
[リンス工程(ステップS6)]
次に、薬液ノズル56からの薬液の吐出を停止するとともに、リンスノズル64からのリンス液の流量を大流量(例えば1500mL/min)に増大させ、さらに基板の回転速度を高速(例えば1000rpm)に増加させる(
図5の(f)を参照)。リンス工程は、本処理工程で使用した薬液および生じた反応生成物が十分に除去される時間、例えば30秒程度の間行うことができる。
【0061】
基板Wの表面に液で覆われていない領域が生じないことが保証されるのであれば、切り替え工程を行わずに、本処理工程からリンス工程へ直接移行してもよい。つまり、薬液ノズル56からの薬液の吐出の停止と同時、あるいはほぼ同時に、リンスノズル64からのDIWの吐出を開始してもよい。
【0062】
[IPA置換工程(ステップS7)]
基板Wの回転速度を高速(例えば1000rpm)に維持したまま、リンスノズル64からのDIWの吐出を停止し、かつ、IPAノズル66を基板Wの中心部の真上の位置に位置させるとともに、IPAノズル66からIPAを例えば100mL/min程度の小流量で0.5秒程度吐出する(
図5の(g)を参照)。その後、基板の回転速度を中速(例えば300rpm)に低下させ、IPAノズル66からのIPA吐出流量を維持したまま、IPAノズル66を基板Wの中心部の真上の位置と基板Wの周縁の真上の位置との間で往復させる(
図5の(h)を参照)。これにより、基板Wの表面(パターンの凹部内を含む)にあったDIWがIPAに置換される。
【0063】
[乾燥工程]
次に、基板Wの回転速度を維持するかあるいは増大させ、IPAノズル66からのIPAの吐出を停止する。これにより、IPAが基板Wの表面から除去され、基板Wが乾燥する。なお、この乾燥工程は
図4のタイムチャートには記載されていない。基板Wが乾燥したら、基板Wの回転を停止する。以上により基板に対する一連の処理が終了する。その後、処理済みの基板Wは処理ユニット16から搬出される。
【0064】
<実施形態の効果>
薬液処理時に薬液を比較的大流量で回転する基板に供給する場合には、厚い液膜が形成されるため、先に説明した理由により基板の表面にパーティクルが付着し難い。しかしながら、薬液が高価である場合には薬液の消費量の削減が求められる。薬液の消費量を削減する方法としては、基板への薬液供給量自体を減らす方法、あるいは、使用済み薬液を回収して再利用する方法がある。後者の場合、近年のパーティクル削減要求を満足しない場合がしばしばある。
【0065】
上記実施形態では、プリウエット工程および初期厚膜形成工程を実行することにより、微小サイズのパーティクルの原因物質が含まれている薬液が基板の表面上に吐出されたとしても、パーティクル原因物質が基板の表面に接触する(つまり付着する)機会を大幅に減少させている。本処理工程(薬液処理)においては含有するパーティクル原因物質の量が十分に低く抑制された薬液が基板に供給される。このため、液膜の厚さを薄くしても(つまり薬液の供給量を減少させても)基板に微小サイズのパーティクルが付着する恐れがない。上記実施形態によれば、薬液を常時大流量で吐出して薬液処理を行う場合と比較して、基板に付着するパーティクルレベルを同等以下に抑制しつつ、薬液の総消費量を削減することができる。
【0066】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0067】
基板は、半導体ウエハに限定されるものではなく、ガラス基板、セラミック基板等の半導体装置製造の技術分野で用いられる任意の種類の基板であってよい。