(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】放電部位検出方法および放電部位検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241125BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20241125BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01J37/147 C
H01L21/30 541Q
G03F7/20 504
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2021120646
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】有泉 亨
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335786(JP,A)
【文献】特開平06-124679(JP,A)
【文献】特開2014-165202(JP,A)
【文献】特開2012-044051(JP,A)
【文献】特開2020-047476(JP,A)
【文献】特開2015-135847(JP,A)
【文献】特開2012-114127(JP,A)
【文献】特開2010-232129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0154752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
H01L 21/30
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極にそれぞれ電圧を印加することにより、荷電粒子のビームを偏向させることが可能な第1のモードと、
前記電圧印加を行わず、前記ビームが放出されている間の前記複数の電極それぞれの電位を示すデータを取得することが可能な第2のモードと、
を切り替え可能に有する荷電粒子ビーム照射装置のための放電部位検出方法であって、
前記第2のモードにおいて、前記複数の電極のうち何れかにかかる前記データが示す電位の変動が所定の閾値を超えた場合に放電の発生として検出し、当該電極に対応する部位を放電が発生した部位として検出する
放電部位検出方法。
【請求項2】
前記複数の電極のうち2以上にかかる前記データが示す電位の変動が所定の閾値を超えた場合、当該変動が最も大きい当該電極に対応する部位を放電が発生した部位として検出する
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項3】
前記複数の電極のうち2以上にかかる前記データが示す電位の変動が所定の閾値を超えた場合、当該電位のピークのタイミングが最も早い当該電極に対応する部位を放電が発生した部位として検出する
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項4】
前記複数の電極それぞれの電位を示すデータの取得を、放射された前記ビームが、その経路上において
、前記荷電粒子ビーム照射装置内に設けられたコイルへ電流を流すことによる磁界変化により、偏向されている状態で行なう、
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項5】
前記複数の電極それぞれの電位を示すデータの取得を、放射された前記ビームが、その経路上において
、前記荷電粒子ビーム照射装置内に設けられたコイルへ電流を流すことによる磁界変化により、当該経路上に設けられた複数のアパーチャ部材の各開口を通過する状態で行なう、
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項6】
前記複数の電極それぞれの電位を示すデータの取得を、放射された前記ビームが、その経路上において
、前記荷電粒子ビーム照射装置内に設けられたコイルへ電流を流すことによる磁界変化により、当該経路上に設けられたアパーチャ部材の開口とは異なる位置に照射されている状態で行なう、
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項7】
前記荷電粒子ビーム照射装置に備えられた複数の検出器により各近傍の電界変動を示す第1のデータを取得し、
放電の発生が検出された場合、前記第1のデータを前記放電の発生の検出にかかる電極に対応付けて記憶し、
前記記憶後に前記複数の検出器がそれぞれの近傍の電界変動を示す第2のデータを取得し、
前記第1のデータと前記第2のデータとの比較に基づいて、当該電極の近傍で発生する放電を検出する
請求項1に記載の放電部位検出方法。
【請求項8】
それぞれ印加される電圧に基づいて荷電粒子のビームを偏向させる複数の電極と、
前記複数の電極の接続先が前記印加電圧の供給元から切り替えられた状態において前記各電極の電位を示すデータを取得する信号処理部と、
取得された前記データの何れかが示す電位の変動が所定の閾値を超えた場合に放電の発生として検出し、当該データにかかる前記電極に対応する部位を放電が発生した部位として検出する制御部と
を備える、放電部位検出装置。
【請求項9】
前記信号処理部は、前記電圧供給元の出力インピーダンスと実質同一の入力インピーダンスを有する、
請求項8に記載の放電部位検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、放電部位検出方法および放電部位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ技術は、半導体デバイスの配線パターンを形成するプロセスに用いられるものであり、半導体デバイスの製造プロセスにおいて極めて重要な役割を担っている。近年、半導体デバイスに要求される配線の線幅は、LSI(Large Scale Integration)の高集積化に伴い年々微細化されてきている。
【0003】
微細化が図られた線幅の配線パターンの形成には、高精度の原画パターン(レチクルまたはマスクとも称される。)が用いられる。高精度の原画パターンの生産には、例えば、優れた解像性を有する電子線(以下、電子ビームとも称する。)描画技術が用いられる。電子線描画技術を用いて原画パターンを生産する装置として、可変成形型電子線描画装置(以下、電子ビーム描画装置とも称する。)が知られている。
【0004】
電子ビーム描画装置は、可変成型方式により電子ビームを種々の形状に成形し、当該成形後の電子ビームを試料に照射する。当該照射により試料への描画が行われて原画パターンが生産される。
【0005】
ここで、電子ビーム描画装置内には、例えば、絶縁物の部品が存在し、さらに、意図しない絶縁物が存在することもある。これら絶縁物等は、散乱電子によって帯電して放電することがある。放電により当該装置内で一瞬の電界の変動が生じ、当該変動が原因で電子ビームの経路が変動し得る。描画中での電子ビームの経路の変動は、例えば描画パターンエラーにつながる。
【0006】
このような放電の頻度を減らすためには、放電の原因の箇所を特定して部品交換等により対処する。例えば、部品の放電痕を目視でまたは顕微鏡を用いて探すことにより、放電の原因の箇所を特定することができる。また、電子ビーム描画装置内に放電検出器が設けられているようにし当該放電検出器により放電を検出して放電の原因の箇所の大まかな位置を推測する技術も知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-134306号公報
【文献】特開昭63-216342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような放電検出器により電子ビーム描画装置内の全ての放電を検出することは難しい。例えば、電子ビーム描画装置内の或る偏向器の或る電極が放電の原因となっている場合に当該放電が検出されないことがあった。放電検出器の遠くで発生する放電に由来する電界の変動(放電に由来する電磁波を電流検出器がアンテナとして捉え、発生する電流変化を電圧に変換して測定される変動)を当該放電検出器が捉えられたとしても、当該放電の原因の箇所を推測するのは難しい。
【0009】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、放電の検出精度が向上され得る放電部位検出方法および放電部位検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の放電部位検出方法は、複数の電極にそれぞれ電圧を印加することにより、荷電粒子のビームを偏向させることが可能な第1のモードと、前記電圧印加を行わず、前記ビームが放出されている間の前記複数の電極それぞれの電位を示すデータを取得することが可能な第2のモードと、を切り替え可能に有する荷電粒子ビーム照射装置のための放電部位検出方法であって、前記第2のモードにおいて、前記複数の電極のうち何れかにかかる前記データが示す電位の変動が所定の閾値を超えた場合に放電の発生として検出し、当該電極に対応する部位を放電が発生した部位として検出する。
【発明の効果】
【0011】
実施形態の放電部位検出方法および放電部位検出装置は、或る電極の近傍で発生する放電の検出精度を向上可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成の一例を示す概略構成図。
【
図2】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の照明偏向器の構成の一例を示す概略構成図。
【
図3】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の投影偏向器の構成の一例を示す概略構成図。
【
図4】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の描画制御部および放電検出制御部の構成の一例を示すブロック図。
【
図5】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置により実行される、放電が検出される動作の一例を示すフロー図。
【
図6】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置において電子ビームが電子銃からステージ側に直進するように制御されている様子を示す図。
【
図7】複数の電圧データアイテムそれぞれをプロットしたグラフの一例を示す図。
【
図8】第1実施形態の第1変形例に係る電子ビーム描画装置において電子ビームが第2アパーチャ部材の開口とは異なる位置に照射されるように制御されている様子を示す図。
【
図9】第1実施形態の第2変形例に係る電子ビーム描画装置において電子ビームが照明コイルにより様々な方向に偏向されるように制御されている様子を示す図。
【
図10】第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置の放電検出制御部の構成の一例を示すブロック図。
【
図11】第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置により実行される、放電が検出される動作の一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。以下の説明において、同一の機能および構成を有する構成要素には共通する参照符号を付す。共通する参照符号を有する複数の構成要素を区別する場合には、当該共通する参照符号に添え字を付して区別する。複数の構成要素について特に区別を要さない場合には、当該複数の構成要素には、共通する参照符号のみを付し、添え字は付さない。以下に示す各実施形態は、技術思想を具体化するための装置および方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、および配置は示されるものに限定されるものではない。
【0014】
各機能ブロックを、ハードウェアおよびソフトウェアのいずれかまたは両方を組み合わせたものにより実現することが可能である。また、各機能ブロックが以下に説明されるように区別されていることは必須ではない。例えば、一部の機能が例示の機能ブロックとは別の機能ブロックによって実行されてもよい。さらに、例示の機能ブロックがさらに細かい機能サブブロックに分割されていてもよい。また、以下の説明における各機能ブロックおよび各構成要素の名称は便宜的なものであり、各機能ブロックおよび各構成要素の構成および動作を限定するものではない。
【0015】
<第1実施形態>
以下、本実施形態に係る放電部位検出装置を含む荷電粒子ビーム照射装置の非限定的な例として、或る電子ビーム描画装置について説明する。しかしながら、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態により開示される技術は、電子ビームおよびイオンビーム等の荷電粒子ビームを用いる他の装置にも適用可能である。これらの装置には、例えば、収束イオンビーム描画装置、原画パターンの検査装置、電子顕微鏡、および電解放出イオン顕微鏡等が含まれる。これらの装置で用いられるビームはシングルビームに限定されずマルチビームであってもよい。
【0016】
[構成例]
(1)電子ビーム描画装置
図1は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1の構成の一例を示す概略構成図である。
図1に図示される電子ビーム描画装置1の構成は一例に過ぎず、電子ビーム描画装置1の構成は図示されるものに限定されない。例えば、図示されるもの以外の、電子ビーム描画装置に通常設けられ得る他の構成要素を、電子ビーム描画装置1が含んでいてもよい。さらに、電子ビーム描画装置1の構成要素の各々の配置が、図示されるものと相違していてもよい。
【0017】
電子ビーム描画装置1は、例えば、描画部10、描画制御部11、電圧/電流制御部12、および高圧電源13を含む。
【0018】
描画部10は、電子銃101、第1アパーチャ部材102、照明コイル103、照明偏向器104、第2アパーチャ部材105、投影コイル106、投影偏向器107、第3アパーチャ部材108、対物コイル109、対物偏向器110、およびステージ111を含む。ステージ111上には、試料21が固定され得る。電子ビーム描画装置1は、電子銃101から放出される電子ビーム100を用いて、ステージ111上に固定される試料21への描画を行う。
【0019】
以下では、ステージ111のうち試料21が固定される面に平行な例えば互いに直交する2方向をそれぞれX方向およびY方向として定義する。当該面に交わり当該面から電子銃101側に向かう方向をZ方向として定義する。Z方向は、X方向およびY方向に直交するものとして説明するが、必ずしもこれに限定されない。以下では、Z方向を「上」とし、Z方向と反対方向を「下」として説明を行うが、この表記は便宜的なものに過ぎず、例えば重力の方向とは無関係である。
【0020】
高圧電源13は、電子銃101に接続され、電子銃101に高電圧を印加する。当該高電圧の印加に応じて、電子銃101から電子ビーム100が放出される。描画制御部11は、例えば、プロセッサP1およびメモリM1を含む。プロセッサP1は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。メモリM1は、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)等の、プログラムおよび/またはデータを記憶するためのメモリである。描画制御部11は、電圧/電流制御部12に制御信号を送る。電圧/電流制御部12は、当該制御信号に基づいて、例えば、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々に含まれる各電極に印加される電圧を制御することにより、電子ビーム100が通過する領域の電界を制御する。電圧/電流制御部12は、当該制御信号に基づいて、例えば、照明コイル103、投影コイル106、および対物コイル109、の各々に流れる電流を制御することにより、電子ビーム100が通過する領域の磁界を制御する。
【0021】
電子銃101とステージ111との間に、上方から順に、第1アパーチャ部材102、第2アパーチャ部材105、および第3アパーチャ部材108が設けられる。
【0022】
第1アパーチャ部材102には、例えば開口が設けられている。当該開口は、例えば、第1アパーチャ部材102の上面での電子ビーム100の電流分布の分布中心に位置する。
【0023】
照明コイル103および照明偏向器104は、例えば、第1アパーチャ部材102と第2アパーチャ部材105との間に設けられる。第2アパーチャ部材105には、例えば矩形の開口が設けられている。照明偏向器104は、例えば2つの電極を含む。照明偏向器104は、これらの電極に挟まれる領域の電界を変化させることにより、第1アパーチャ部材102の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させ得る。例えば、当該経路の変化により、電子ビーム描画装置1は、ビームON状態とビームOFF状態とのいずれかとなる。ビームON状態では、第2アパーチャ部材105に設けられる開口を当該電子ビーム100の一部が通過する。ビームOFF状態では、当該開口を当該電子ビーム100の全部が通過しない。第2アパーチャ部材105を通過した電子ビーム100は、当該開口に応じた例えば矩形に成形される。例えば、照明偏向器104の各電極に0Vの電圧が印加されて電子ビーム100の経路が照明偏向器104により変化されない間、電子ビーム描画装置1はビームON状態となり得る。照明コイル103は、例えばアライメントコイルとも称されるビーム調整用偏向コイルであり、照明偏向器104を囲むように設けられる。照明コイル103は、近傍の磁界を変化させることにより電子ビーム100の経路を変化させ得る。照明コイル103により当該経路を変化させる制御は、例えば、照明偏向器104による当該経路の制御の後の当該経路の微調整に用いてもよい。
【0024】
照明コイル103は、照明偏向器104を囲むように配置されることにより、照明偏向器104の電極に挟まれる領域の電界を変化させ、第1アパーチャ部材102の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させた。しかし、照明コイル103の配置は、これらの配置に限定されるものではなく、照明コイル103は、描画部10内の任意の位置に配置されることが可能である。
【0025】
投影コイル106および投影偏向器107は、例えば、第2アパーチャ部材105と第3アパーチャ部材108との間に設けられる。第3アパーチャ部材108には開口が設けられている。投影偏向器107は、例えば8つの電極を含む。投影偏向器107は、これらの電極に挟まれる領域の電界を変化させることにより、第2アパーチャ部材105の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させ得る。投影偏向器107は、当該経路を変化させることにより、第3アパーチャ部材108の上面を含む平面上に電子ビーム100が投影される位置を制御する。当該平面上に投影された電子ビーム100のうち、第3アパーチャ部材108の開口の領域に投影された部分が第3アパーチャ部材108を通過する。当該制御により、第3アパーチャ部材108を通過する電子ビーム100の形状および寸法を変化させることが可能である。例えば、投影偏向器107の各電極に0Vの電圧が印加されて電子ビーム100の経路が投影偏向器107により変化されない場合には、電子ビーム100の全部が第3アパーチャ部材108の開口を通過し得る。投影コイル106は、例えばアライメントコイルとも称されるビーム調整用偏向コイルであり、投影偏向器107を囲むように設けられる。投影コイル106は、近傍の磁界を変化させることにより電子ビーム100の経路を変化させ得る。投影コイル106により当該経路を変化させる制御は、例えば、投影偏向器107による当該経路の制御の後の当該経路の微調整に用いてもよい。
【0026】
投影コイル106は、投影偏向器107を囲むように配置されることにより、投影偏向器107の電極に挟まれる領域の電界を変化させ、投影偏向器107の電極に挟まれる領域の電界を変化させることにより、第2アパーチャ部材105の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させた。しかし、投影コイル106の配置は、これらの配置に限定されるものではなく、投影コイル106は、描画部10内の任意の位置に配置されることが可能である。
【0027】
対物コイル109および対物偏向器110は、例えば、第3アパーチャ部材108とステージ111との間に設けられる。ステージ111は、例えばX方向およびY方向に連続移動可能である。対物偏向器110は、例えば8つの電極を含む。対物偏向器110は、これらの電極に挟まれる領域の電界を変化させることにより、第3アパーチャ部材108の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させ得る。対物偏向器110は、当該経路を変化させることにより、連続移動するステージ111上の試料21に電子ビーム100が照射される位置を制御する。対物コイル109は、例えばアライメントコイルとも称されるビーム調整用偏向コイルであり、対物偏向器110を囲むように設けられる。対物コイル109は、近傍の磁界を変化させることにより電子ビーム100の経路を変化させ得る。対物コイル109により当該経路を変化させる制御は、例えば、対物偏向器110による当該経路の制御の後の当該経路の微調整に用いてもよい。
【0028】
対物コイル109は、対物偏向器110の電極を囲むように配置されることにより、対物偏向器110の電極に挟まれる領域の電界を変化させ、第3アパーチャ部材108の開口を通過した後の電子ビーム100の経路を変化させた。しかし、対物コイル109の配置は、これらの配置に限定されるものではなく、対物コイル109は、描画部10内の任意の位置に配置されることが可能である。
【0029】
ステージ111上の、試料21が固定される位置とは異なる位置に、例えばファラディカップ41が設けられる。ファラディカップ41は、例えば電流計42に接続される。ファラディカップ41および電流計42は、電子ビーム描画装置1とは別個で用意されるものであってもよいし、電子ビーム描画装置1に含まれるものであってもよい。
【0030】
ファラディカップ41は、電子ビーム100に由来する電子を捕捉し得る。電流計42は、当該捕捉される電子に応じた電流を計測する。電流計42は、例えば、当該計測される電流の大きさを示す信号を描画制御部11に送る。
【0031】
描画部10内では、電子ビーム100の散乱電子により絶縁物等が帯電して放電することがある。このような放電を検出する目的で、電子ビーム描画装置1は、次の構成を含み得る。
【0032】
描画部10は、電流検出器141、142、および143を含み得る。電流検出器141、142、および143、の各々は、例えば、アンテナとしての金属板である。電流検出器141は、例えば、第1アパーチャ部材102と照明偏向器104との間に設けられる。電流検出器142は、例えば、照明偏向器104と第2アパーチャ部材105との間に設けられる。電流検出器142は、ビームを偏向により振りながら電子ビーム100が第2アパーチャ部材105により反射された反射電子を捉えることで電流を検出する。検出された電流の値はビームの通過位置を所望の位置となるよう調整するために用いられる。電流検出器143は、例えば、投影偏向器107と第3アパーチャ部材108との間に設けられる。各電流検出器の配置はこれらに限定されるものではなく、各電流検出器は描画部10内の任意の位置に配置されることが可能である。各電流検出器は、放電に由来する当該電流検出器の近傍の電界の変動(放電に由来する電磁波を電流検出器がアンテナとして捉え、発生する電流変化を電圧に変換して測定される変動)を検出することが可能である。
【0033】
電子ビーム描画装置1はさらに、放電検出部30を含む。放電検出部30は、電子ビーム描画装置1とは別個で用意されるものであってもよく、この場合には、電子ビーム描画装置1に接続可能である。電子ビーム描画装置1に含まれる構成要素のうち、放電検出に関係し得るものを任意に組み合わせたものを放電部位検出装置と称してもよい。放電部位検出装置は、例えば、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110のうちの複数の電極と、放電検出部30とを含む。
【0034】
放電検出部30は、放電検出制御部301、信号処理部302A、302B、および302C、記憶部303、ならびにモニタ304を含む。
図1では、放電検出部30がさらに信号処理部305を含むものと図示されているが、信号処理部305については、後述する或る変形例において説明する。
【0035】
放電検出制御部301は、放電の検出に係る制御を行う。放電検出制御部301は、例えば、プロセッサP2およびメモリM2を含む。プロセッサP2は、例えばCPUである。メモリM2は、ROMまたはRAM等の、プログラムおよび/またはデータを記憶するためのメモリである。
【0036】
信号処理部302の各々は、例えばオシロスコープである。照明偏向器104の各電極は、例えば、信号処理部302Aと電圧/電流制御部12とのいずれか一方に電気的に接続可能である。本明細書では、各電極が、信号処理部に接続される状態をセンサーモード、電圧/電流制御部12に接続される状態を偏向モードと呼ぶ。照明偏向器104の各電極は、例えばMOSトランジスタを介して信号処理部302Aに接続される。当該トランジスタのゲートに印加される制御信号により、当該電極と信号処理部302Aとの間の電気的な接続の制御がされる。当該制御信号は、例えば、放電検出制御部301により供給される。同様に、投影偏向器107の各電極は信号処理部302Bに電気的に接続可能であり、対物偏向器110の各電極は信号処理部302Cに電気的に接続可能である。
【0037】
記憶部303は、HDD(Hard Disc Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発メモリのような記憶媒体により構成される。
【0038】
信号処理部302Aは、信号処理部302Aに接続される或る電極の電位に基づく電流のアナログデータを取得し、当該アナログデータにアナログデジタル変換処理を行い、当該処理により生成されるデータアイテム(以下では、電圧データアイテムとも称する。)を記憶部303に記憶させる。当該電圧データアイテムは、例えば、当該電極の電位と時間との関係を表す。以下では、説明を簡潔にするため、当該電極のことを当該電圧データアイテムに「対応する」電極とも表記し、当該電圧データアイテムのことを当該電極に「対応する」電圧データアイテムとも表記する。以下の同様の表記についても同じである。信号処理部302Aは、複数の電極に電気的に接続される場合、例えば、接続される電極の全てについて、実質的に同一の時間期間の電流のアナログデータアイテムをそれぞれ取得する。信号処理部302Aは、電極毎に、上述したように電圧データアイテムを生成し、当該生成される電圧データアイテムを記憶部303に記憶させる。信号処理部302Bおよび302Cについても同様である。異なる信号処理部302それぞれにより生成された電圧データアイテムが実質的に同一の時間期間についてのものであるか否かも判別可能とするため、例えば、信号処理部302A、302B、および302Cが用いる時計は同一のものであってもよい、または、互いに同期可能なものであってもよい。なお、実質的に同一とは、必ずしも同一でなくとも、同一となるように生成または製造される場合に生じ得る誤差を許容するために用いている表現である。以下の同様の表現についても同じである。本明細書では、記憶部303による電圧データアイテムのこのような記憶に関連して、用語「記憶」と用語「記録」を置換可能に用いる。
【0039】
放電検出制御部301は、記憶部303に記憶される1以上の電圧データアイテムを読出し、当該1以上の電圧データアイテムに基づいて、放電に由来する電界の変動(放電に由来する電磁波を電流検出器がアンテナとして捉え、発生する電流変化を電圧に変換して測定される変動)を検出する放電検出処理を行い、当該処理の結果を記憶部303に記憶させる。記憶部303に記憶される当該処理の結果が、例えば、モニタ304に表示される。あるいは、記憶部303に記憶される1以上の電圧データアイテムの各々が表す電位と時間との関係がモニタ304に表示されてもよい。モニタ304上での当該表示に基づいて、放電検出処理が実行されることも可能である。
【0040】
(2)偏向器
図2は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1の照明偏向器104の構成の一例を示す概略構成図である。
図2では、例えば、照明偏向器104を上方から見た場合の図が示されている。
【0041】
照明偏向器104は、電極1041および1042を含む。
図2では、照明偏向器104が2つの電極により構成される場合が図示されているが、本実施形態は図示されるものに限定されない。電極1041および1042の各々が、図示される以外の形状でおよび/または図示される以外の配置に設けられるものであってもよいし、照明偏向器104が2つ以外の数の電極により構成されるものであってもよい。
【0042】
電極1041および1042それぞれの上端は、例えばZ方向において実質的に同一の位置にある。電極1041および1042それぞれの下端は、例えばZ方向において実質的に同一の位置にある。
【0043】
電極1041および1042は、例えばX方向に沿って間隔を有するように設けられる。電極1041および1042の各々は、例えばY方向およびZ方向に延びる平板状である。この場合、例えば、電極1041のX方向の長さと比較して、電極1041のY方向の長さがより長く、電極1041のZ方向の長さもより長い。電極1042についても同様である。X方向、Y方向、およびZ方向、の各方向における電極1041および1042それぞれの長さは、例えば実質的に同一である。
【0044】
電圧/電流制御部12が、電極1041および1042の各々に電圧を印加することにより、電極1041と電極1042との間の領域の電界を制御する。当該領域内を、第1アパーチャ部材102の開口を通過した後の電子ビーム100が通過する。
図2は、当該領域内のX方向およびY方向に平行な或る平面における、当該電子ビームが通過し得る領域の一例を、領域1000として示している。
【0045】
図3は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1の投影偏向器107の構成の一例を示す概略構成図である。
図3では、例えば、投影偏向器107を上方から見た場合の図が示されている。以下では、投影偏向器107の構成について説明するが、対物偏向器110も投影偏向器107と同様の構成を有し得る。対物偏向器110は、投影偏向器107と同様の構成がZ方向に複数段重なる構成を有していてもよい。
【0046】
投影偏向器107は、電極1071、1072、1073、・・・、および1078を含む。
図3では、投影偏向器107が8つの電極により構成される場合が図示されているが、本実施形態は図示されるものに限定されない。電極1071、1072、1073、・・・、および1078の各々が、図示される以外の形状でおよび/または図示される以外の配置に設けられるものであってもよいし、投影偏向器107が8つ以外の数の電極により構成されるものであってもよい。
【0047】
電極1071、1072、1073、・・・、および1078の任意の組み合わせまたは全てそれぞれの上端は、例えば、Z方向において実質的に同一の位置にある。電極1071、1072、1073、・・・、および1078の任意の組み合わせまたは全てそれぞれの下端は、例えば、Z方向において実質的に同一の位置にある。
【0048】
Z方向に平行な或る直線(以下では、基準線とも称する。)周りに各電極が位置する方向について説明する。例えば、照明コイル103、照明偏向器104、投影コイル106、および投影偏向器107により電子ビーム100が偏向されていない場合、電子ビーム100は基準線上を通過してもよい。電極1071、1072、1073、・・・、および1078が、基準線から見て互いに異なる方向に設けられる。以下では、基準線から例えばX方向に向かう方向を基準の0°の方向とし、上方から見て反時計回りを正とする角度を用いて説明する。
【0049】
基準線周りの0°の方向に、例えば、電極1071中の基準点が位置する。基準点とは、電極1071の例えば中心または重心が位置する点である。以下、基準点という用語を他の電極に用いる場合も同じである。基準線周りの45°の方向に、例えば、電極1072中の基準点が位置する。基準線周りの90°の方向に、例えば、電極1073中の基準点が位置する。基準線周りの135°の方向に、例えば、電極1074中の基準点が位置する。基準線周りの180°の方向に、例えば、電極1075中の基準点が位置する。基準線周りの225°の方向に、例えば、電極1076中の基準点が位置する。基準線周りの270°の方向に、例えば、電極1077中の基準点が位置する。基準線周りの315°の方向に、例えば、電極1078中の基準点が位置する。
【0050】
電極1071は、例えばY方向およびZ方向に延びる平板状である。この場合、例えば、電極1071のX方向の長さと比較して、電極1071のY方向の長さがより長く、電極1071のZ方向の長さもより長い。以下では、説明を簡潔にするため、電極1071のうちY方向およびZ方向に延びる面のように、平板状の電極のうち、或る方向の長さより長い別の2方向に延びる面のことを、平板面と称する。
【0051】
電極1072、1073、・・・、および1078の各々も、電極1071と同様に、当該電極の或る方向の長さに比較して、当該電極の別の2方向の長さの各々が長くなるような、平板状である。
図2を参照して電極1041と電極1042の関係について説明したように、例えば、電極1071、1072、1073、・・・、および1078の任意の組み合わせまたは全てが、互いに実質的に同一の寸法を有していてもよい。
【0052】
例えば、基準線から、電極1071、1072、1073、・・・、および1078の任意の組み合わせまたは全ての各々の基準点までの距離は、実質的に同一である。例えば、基準線から電極1071の基準点に向かう直線は、電極1071の平板面に垂直に交わる。電極1072、1073、・・・、および1078の各々についても同様である。
【0053】
電圧/電流制御部12が、電極1071、1072、1073、・・・、および1078の各々に電圧を印加することにより、電極1071、1072、1073、・・・、および1078に囲まれる領域の電界を制御する。当該領域内を、第2アパーチャ部材105の開口を通過した後の電子ビーム100が通過する。
図3は、当該領域内のX方向およびY方向に平行な或る平面における、当該電子ビームが通過し得る領域の一例を、領域2000として示している。
【0054】
(3)描画制御部および放電検出制御部
放電検出制御部301が放電検出処理を行う場合の例を説明する。
【0055】
図4は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1の描画制御部11および放電検出制御部301の構成の一例を示すブロック図である。
【0056】
描画制御部11は、例えばビーム経路制御部1101を含む。放電検出制御部301は、例えば電圧データ取得部3011および電圧データ解析部3012を含む。描画制御部11および放電検出制御部301の各々は、メモリMに格納されるプログラムをプロセッサPに実行させることにより、当該制御部が含む各部における処理機能を実現する。なお、当該処理機能は、メモリMに格納されるプログラムを用いて実現されるものに限定されない。当該処理機能は、例えば、ネットワークを通して提供されるプログラムを用いて実現されるものであってもよい。
【0057】
記憶部303は、例えば電圧データ記憶部3031および放電情報記憶部3032を含む。
【0058】
電圧データ記憶部3031は、電圧データアイテムを記憶する。
【0059】
放電情報記憶部3032は、放電検出制御部301による放電検出処理の結果の情報を記憶する。
【0060】
ビーム経路制御部1101は、例えば、放電検出処理を行う際の電子ビーム100の経路の制御に係る制御信号を電圧/電流制御部12に送る処理を行う。当該制御信号に基づいて、電圧/電流制御部12は、上述したように、描画部10内の電界および/または磁界を制御する。
【0061】
電圧データ取得部3011は、例えば、当該電界および/または磁界の制御の下で電子ビーム100が放出されている間に、任意の信号処理部302に電圧データ処理要求を送る処理を行う。当該信号処理部302は、当該電圧データ処理要求に応じて、上述したように電圧データアイテムを生成して電圧データ記憶部3031に記憶させる。電圧データ取得部3011は、電圧データ記憶部3031に記憶される或る電圧データアイテムを読み出す処理を行う。
【0062】
電圧データ解析部3012は、当該電圧データアイテムに基づいて、当該電圧データアイテムに対応する電極の近傍での放電が検出されたか否かを判定する処理を行う。より具体的には、次の通りである。電圧データ解析部3012は、当該電圧データアイテムにおいて当該電極の電位にピークが見られ当該ピークでの電位の変動の大きさが閾値を超える場合に放電が検出されたと判定し、それ以外の場合には放電が検出されなかったと判定する処理を行う。あるいは、電圧データ解析部3012は、当該判定処理を、例えば、当該電位の変動の高周波成分の解析に基づいて行ってもよい。電圧データ解析部3012は、放電が検出されたと判定した場合、当該判定に係るピークの電圧に対応付けられている時刻を、当該電圧データアイテムが表す電圧と時間との関係を用いて判定する処理を行い得る。
【0063】
電圧データ解析部3012は、上記放電が検出されたか否かの判定の結果を、放電情報記憶部3032に記憶させる処理を行う。電圧データ取得部3011が電圧データ記憶部3031から複数の電圧データアイテムを読み出す場合、電圧データ解析部3012は、当該複数の電圧データアイテムの各々で同様の判定処理を行い、当該判定の結果を放電情報記憶部3032に記憶させる処理を行う。
【0064】
電圧データ解析部3012は、例えば実質的に同一の時間期間についての2以上の電極にそれぞれ対応する電圧データアイテムの各々で上記判定を行い、かつ、或る電極の近傍での放電が検出されたと判定した場合は次の処理を行い得る。当該2以上の電極は、例えば同一の偏向器に含まれるものであるがこれに限定されない。電圧データ解析部3012は、これらの電圧データアイテムに基づいて、当該2以上の電極のうち1つの電極を特定する処理を行う。あるいは、電圧データ解析部3012は、放電が検出されたと判定された1以上の電圧データアイテムについて上記判定された時刻を識別する情報を用いて、当該特定処理を行ってもよい。当該特定処理では、例えば絶縁物のような放電の原因の箇所により近い電極またはもっとも近い電極が特定される。電圧データ解析部3012は、特定した電極を識別する情報を放電情報記憶部3032に記憶させる処理を行う。
【0065】
電圧データ解析部3012は、特定した電極に基づいて、放電が発生した位置を推測する処理を行い得る。例えば、電圧/電流制御部12から当該特定された電極への電圧供給ライン(例えばケーブル)に絶縁物があり、当該絶縁物で放電が発生したものと推測される。あるいは、当該特定された電極に絶縁物が付着しており、当該絶縁物で放電が発生したものと推測される。あるいは、当該特定された電極から或る距離内の空間のうち、当該2以上の電極の他の電極のいずれよりも当該特定された電極に近い位置で、放電が発生したものと推測される。当該距離は、例えば上記閾値に基づくものであってもよい。当該距離は、例えば、上記閾値が大きいほど小さい。当該2以上の電極にそれぞれ対応する電圧データアイテムのうち複数の電圧データアイテムにおいて電極の電位のピークが見られた場合には、当該位置の推測は次のようであってもよい。例えば、ピークがより大きな電圧データアイテムに対応する電極ほど放電が発生した位置に近いものとして、当該放電が発生した位置が推測される。このようにして、放電が発生した部位として、特定した電極に関係する部位(以下、特定した電極に対応する部位とも称する。)が検出される。電圧データ解析部3012は、推測した位置を識別する情報を放電情報記憶部3032に記憶させる処理を行う。
【0066】
[動作例]
電子ビーム描画装置1により実行される、放電が検出される或る動作について詳細に説明する。当該動作は、例えば、照明偏向器104の各電極が信号処理部302Aに電気的に接続され、投影偏向器107の各電極が信号処理部302Bに電気的に接続され、対物偏向器110の各電極が信号処理部302Cに電気的に接続された状態(センサーモード)で実行される。以下では、各電極がこのように接続されている場合について説明するが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0067】
(1)放電検出処理に係る動作全体のフロー
図5は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1により実行される当該動作の一例を示すフロー図である。
【0068】
ステップST00において、放電検出制御部301は、例えば投影偏向器107の各電極の接続先を電圧/電流制御部12から信号処理部302Bに切り替える。当該偏向モードからセンサーモードへの切り替えは、例えば、電気的な接続の切り替えのことであり、
図1を参照して説明したように、放電検出制御部301からの制御信号に基づいて実現されるものであってもよい。なお、投影偏向器107の各電極の接続先の切り替えは、物理的に配線を繋ぎ替えることにより実現されるものであってもよい。以下の同様の表現についても同じである。同様に、照明偏向器104の各電極の接続先が信号処理部302Aに切り替えられ、対物偏向器110の各電極の接続先が信号処理部302Cに切り替えられる。
【0069】
ステップST01において、描画制御部11は、ビーム経路制御部1101の制御の下、電子銃101から放出される電子ビーム100の経路を制御する。より具体的には、次の通りである。描画制御部11は、ビーム経路制御部1101の制御の下、電圧/電流制御部12に制御信号を送る。電圧/電流制御部12が、当該制御信号に基づいて、電子ビーム100が通過する領域の電界および/または磁界を制御する。電子ビーム100の経路は、当該電界および/または磁界の制御に応じたものとなる。描画制御部11は、ビーム経路制御部1101の制御の下、例えば、電子ビーム100が電子銃101からステージ111側に直進するように制御する。以下では、電子ビーム100がこのように直進するように制御される場合の例を説明する。また、ステップST02以降は、投影偏向器107に含まれる電極に関係する処理を例に挙げて説明する。しかしながら、当該処理の代わりに、あるいは、当該処理と並行して、照明偏向器104および/または対物偏向器110に含まれる電極について同様の処理が行われてもよい。
【0070】
ステップST02において、放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、例えば投影偏向器107に含まれる電極それぞれに対応する電圧データアイテムを取得する。より具体的には、次の通りである。放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、電子ビーム100が上記制御の下で放出されている間に、例えば信号処理部302Bに電圧データ処理要求を送る。当該電圧データ処理要求に応じて信号処理部302Bにより、投影偏向器107に含まれる電極それぞれに対応する電圧データアイテムが生成される。当該生成される電圧データアイテムは、例えば実質的に同一の時間期間についてのものである。当該生成される電圧データアイテムの各々は、例えば、電子ビーム100が上記制御の下で放出されている間の電圧と時間との関係を、少なくとも一部において表すものである。放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、当該生成される電圧データアイテムを取得する。なお、これらの電圧データアイテムの必ずしも全てが取得される必要はない。ステップST03以降の動作は、例えば、電子ビーム100が上記制御の下で放出されている間に実行されるが、これは必ずしも必要とされない。
【0071】
ステップST03において、放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、例えば実質的に同一の時間期間についての、投影偏向器107に含まれる電極それぞれに対応する電圧データアイテムの各々で、当該電圧データアイテムに対応する電極の近傍での放電が検出されたか否かを判定する。
【0072】
いずれの電圧データアイテムにおいても放電が検出されたと判定されなかった場合には動作が終了するが、或る電極の近傍での放電が検出されたと判定された場合にはステップST04に進む。
【0073】
ステップST04において、放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、これらの電圧データアイテムに基づいて、投影偏向器107に含まれる電極のうち、放電の原因の箇所にもっとも近い電極を特定する。当該特定処理では次の処理が行われる。放電検出制御部301は、例えば、ステップST03において1つの電圧データアイテムのみで放電が検出されたと判定された場合、当該電圧データアイテムに対応する電極を特定する。放電検出制御部301は、例えば、ステップST03において2以上の電圧データアイテムで放電が検出されたと判定された場合、後述するように、当該放電が検出されたと判定された電圧データアイテム間で当該判定に係るピークの高さおよび/またはタイミングの比較を行う。
【0074】
ステップST05において、放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、特定した電極に基づいて、放電が発生した位置を推測し、動作が終了する。例えば、電圧/電流制御部12から当該特定された電極への電圧供給ラインに絶縁物があり、当該絶縁物で放電が発生したものと推測される。あるいは、当該特定された電極に絶縁物が付着しており、当該絶縁物で放電が発生したものと推測される。あるいは、当該特定された電極から或る距離内の空間のうち、投影偏向器107に含まれる他の電極のいずれよりも当該特定された電極に近い位置で、放電が発生したものと推測される。このようにして、放電が発生した部位として、特定した電極に対応する部位が検出される。
【0075】
上記では、ステップST02以降の動作について、投影偏向器107に含まれる電極に関係する処理を例に挙げて説明したが、本実施形態はこれに限定されない。上述したように、ステップST02以降の動作では、2以上の偏向器に含まれる電極について同様の処理が行われてもよい。この場合、ステップST04では、例えば、当該2以上の偏向器に含まれる電極のうち、放電の原因の箇所にもっとも近い電極が特定される。この場合、ステップST05では、例えば、当該特定された電極から或る距離内の空間のうち、当該2以上の偏向器に含まれる他の電極のいずれよりも当該特定された電極に近い位置で、放電が発生したものと推測される。あるいは、複数の電圧データアイテムにおいて電極の電位のピークが見られた場合は次の通りであってもよい。この場合、ステップST05では、ピークがより大きな電圧データアイテムに対応する電極ほど放電が発生した位置に近いものとして、当該放電が発生した位置が推測される。
【0076】
(2)ビーム経路制御処理の詳細
図5のステップST01のビーム経路制御処理の詳細を説明する。
【0077】
図6は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1において電子ビーム100が電子銃101からステージ111側に直進するように制御されている様子を示す。当該制御により、電子ビーム100は、例えば、第2アパーチャ部材105の開口と第3アパーチャ部材108の開口とを通ってステージ111に向かう。
図6では、参照を容易にするため、放電検出部30の図示は省略されている。この図より後の他の同様の図でも同じである。
【0078】
電子ビーム100がこのように直進するように、描画制御部11のビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、例えば、照明コイル103、投影コイル106、および対物コイル109、のうちの少なくとも1つを用いて磁界を変化させる制御を行わせる。照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110のうちに、電圧/電流制御部12に電気的に接続されている電極がある場合、ビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、当該電極に電圧を印加して電界を変化させる制御を行わせ得る。ビーム経路制御部1101は、電子ビーム100が上述したように直進するように、電圧/電流制御部12に、上述した磁界を変化させる制御、および/または、電界を変化させる当該制御、を行わせる。
【0079】
図6に示されるように、当該電子ビーム100がファラディカップ41に照射されるような位置に、ステージ111が移動されている。ファラディカップ41は、当該照射される電子ビーム100に由来する電子を捕捉し、電流計42が、当該捕捉される電子に応じた電流を計測する。電流計42は、例えば、当該計測される電流の大きさを示す信号をビーム経路制御部1101に送る。ビーム経路制御部1101は、当該信号が示す電流の大きさが最大となるように、電圧/電流制御部12に、例えば、照明コイル103、投影コイル106、および対物コイル109、のうちの少なくとも1つを用いて電子ビーム100の経路を微調整させる。
【0080】
本明細書では、例えば、電子ビーム100の経路がこのように制御されている場合に、ビーム経路制御部1101により電子ビーム100が直進するように制御されていると称している。しかしながら、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ファラディカップ41を用いての電子ビーム100の経路の微調整は、必ずしも必要とされない。
【0081】
上記では、ビーム経路制御部1101が、ファラディカップ41を用いて検出される電流の大きさに基づいて、照明コイル103、投影コイル106、および対物コイル109、のうちの少なくとも1つを用いて電子ビーム100の経路を微調整する場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。ビーム経路制御部1101は、他の何らかの指標に基づいて、照明コイル103、投影コイル106、および対物コイル109、のうちの少なくとも1つを用いて電子ビーム100の経路を微調整してもよい。
【0082】
(3)電圧データ解析処理の詳細
図5のステップST03およびステップST04の電圧データ解析処理の詳細を説明する。
【0083】
図7は、実質的に同一の時間期間についての複数の電圧データアイテムそれぞれをプロットしたグラフの一例を示す。当該複数の電圧データアイテムはそれぞれ、例えば、投影偏向器107の電極1071、1072、1073、および1074に対応する。各グラフにおいて、横軸は時間に対応し、縦軸は、プロットされた電圧データアイテムが対応する電極の電位に対応している。
図7の例では、参照を容易にするため、投影偏向器107の全ての電極ではなく4つの電極それぞれについてのグラフが示されている。以下では、投影偏向器107のこれらの電極について
図5のステップST03およびステップST04の電圧データ解析処理が行われる場合の例を説明するが、投影偏向器107の全ての電極について同様の処理が行われ得る。投影偏向器107の代わりに、あるいは、投影偏向器107に加えて、照明偏向器104および/または対物偏向器110について同様の処理が行われてもよい。
【0084】
図7に示されるグラフでは、例えば、電極1071および1072の各々の電位のピークでの電位の変動の大きさが閾値を超えているのに対して、電極1073および1074の各々の電位の変動の大きさは閾値を超えない。このため、ステップST03において、電極1071および1072の各々について当該電極の近傍での放電が検出されたと判定され、電極1073および1074の各々について当該電極の近傍での放電が検出されなかったと判定される。
【0085】
このように判定されるのは、電極1071および1072が、電極1073および1074のいずれよりも、放電の原因の箇所に近いためと考えられる。また、電極1072のピークの方が電極1071のピークより高く、また、電極1072のピークのタイミングの方が電極1071のピークのタイミングより早い。これは、電極1072が電極1071より、放電の原因の箇所に近いためと考えられる。このため、ステップST04において、例えば、放電が検出されたと判定された電圧データアイテムのうち例えば電位のピークがもっとも高い電圧データアイテム、に対応する電極1072が特定される。あるいは、このような電圧データアイテムのうち例えば電位のピークがもっとも早い電圧データアイテム、に対応する電極1072が特定されてもよい。
【0086】
例えば、特定された電極1072を電子ビーム描画装置1から取り除いた上で、
図5を参照して説明した動作が再度実行されてもよい。この場合、近傍での放電が検出されたと判定されていた、電極1072以外の他の電極、例えば電極1071、について、当該電極の近傍での放電が検出されなかったと判定されれば、特定された電極に散乱電子が集まりやすい環境が生じていたことが確認できる。このような環境は、例えば、特定された電極自体に放電の原因となる絶縁物が付着しているような場合に生じ得る。このような確認は、例えば、放電が検出されたと判定された任意の電圧データアイテムについて、当該電圧データアイテムに対応する電極を取り除いて行われてもよい。
【0087】
[効果]
第1実施形態に係る電子ビーム描画装置1では、例えば、照明偏向器104の各電極が信号処理部302Aに、投影偏向器107の各電極が信号処理部302Bに、および、対物偏向器110の各電極が信号処理部302Cに電気的に接続される。各信号処理部302が、当該信号処理部に接続される電極にそれぞれ対応する複数の電圧データアイテムを生成する。電子ビーム描画装置1は、このような電圧データアイテムに基づいて、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極の近傍で発生する放電を検出可能である。検出される放電には、電子ビーム描画装置1内に従来設けられていた電流検出器(なお、この電流検出器については、電流検出器であるファラディカップ41との区別をするため中間検出器とも呼ばれている)では検出不可能だったものも含まれ得る。
電子ビーム描画装置1は、放電の検出箇所がこのように大幅に増やされたものとなっている。このため、電子ビーム描画装置1によれば、当該装置内のより多くの放電の検出が可能となり得、また、放電の原因の箇所の推測をより広い領域で行うことが可能となり得る。電子ビーム描画装置1は、放電検出処理に用いる閾値をより大きな値にすればするほど、或る電圧データアイテムで放電を検出する場合、当該電圧データアイテムに対応する電極のより近傍で発生する放電、および/または、例えば描画中に発生していたとしたら描画パターンエラーにつながる可能性がより高い放電、を検出し得る。さらには、放電が検出されたと判定された或る電圧データアイテムに対応する電極自体が放電の原因であったことまで確認し得る。
【0088】
電子ビーム描画装置1は、例えば実質的に同一の時間期間についての2以上の電極にそれぞれ対応する電圧データアイテムに基づいて、当該2以上の電極のうち、放電の原因の箇所により近い電極またはもっとも近い電極を特定し得る。当該2以上の電極は、例えば同一の偏向器に含まれるものである。電子ビーム描画装置1は、特定した電極に基づいて、放電が発生した位置を推測し得る。このように、電子ビーム描画装置1によれば、放電の原因の箇所であると推測される領域をより狭めることが可能となる。さらには、特定された電極自体が放電の原因であったことまで確認し得る。
【0089】
このような放電検出処理は、例えば、電子ビーム100が電子銃101からステージ111側に直進するように制御されている間に実行される。この場合、電子ビーム100は、照明偏向器104の2つの電極1041および1042の間を通過し、投影偏向器107の8つの電極1071、1072、・・・、および1078に囲まれる領域を通過し、さらに、対物偏向器110の例えば8つの電極に囲まれる領域を通過する。これらの電極のいずれの近傍に放電の原因となる箇所が存在する場合であっても、当該箇所に当該電子ビーム100の散乱電子が集まって放電が発生し得る。このような放電が放電検出処理において検出される。このため、電子ビーム描画装置1によれば、これらの電極のいずれの近傍に放電の原因となる箇所が存在する場合であっても、放電検出処理により当該箇所の存在を漏れなく捉えることが可能となる。
【0090】
[変形例]
電子ビーム描画装置1により実行される、放電が検出される他の動作について説明する。各変形例について、上述した構成例、動作例、および効果と相違する点を中心に説明する。
【0091】
(1)第1変形例
第1実施形態の第1変形例に係る電子ビーム描画装置1では、
図5のステップST01のビーム経路制御処理において、電子ビーム100の経路が次のように制御される。
【0092】
図8は、第1実施形態の第1変形例に係る電子ビーム描画装置1において電子ビーム100が第2アパーチャ部材105の開口とは異なる位置に照射されるように制御されている様子を示す。
【0093】
電子ビーム100がこのような位置に照射されるように、描画制御部11のビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、例えば、照明コイル103を用いて磁界を変化させる制御を行わせる。なお、電子ビーム100の必ずしも全てが第2アパーチャ部材105の開口とは異なる位置に照射される必要はなく、電子ビーム100の一部が第2アパーチャ部材105の開口を通過していてもよい。照明偏向器104のうちに、電圧/電流制御部12に電気的に接続されている電極がある場合、ビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、当該電極に電圧を印加して電界を変化させる制御を行わせ得る。ビーム経路制御部1101は、電子ビーム100が上述したように照射されるように、電圧/電流制御部12に、上述した磁界を変化させる制御、および/または、電界を変化させる当該制御、を行わせる。
【0094】
ステップST02以降では、例えば照明偏向器104および/または投影偏向器107に含まれる電極のうち、信号処理部302のいずれかに電気的に接続される電極、それぞれに対応する電圧データアイテムについて処理が行われる。
【0095】
一般的に、電子ビーム描画装置1は、試料21への描画を開始してから完了するまで、ビームON状態であるより遥かに長い時間ビームOFF状態となっている。ビームOFF状態では、電子ビーム100は、第2アパーチャ部材105の開口とは異なる位置に照射され当該開口を通過しない。例えば、電子ビーム描画装置1がビームOFF状態の間に、放電の原因となる箇所に散乱電子が集まり、電子ビーム描画装置1がビームON状態の間に、当該集まった散乱電子により放電が発生して例えば描画パターンエラーが発生する。第1実施形態の第1変形例に係る電子ビーム描画装置1は、電子ビーム100が第2アパーチャ部材105の開口とは異なる位置に照射されるように制御している間に放電検出処理を実行する。すなわち、当該放電検出処理は、電子ビーム100がビームOFF状態と同様に照射されている間に実行される。このため、第1実施形態の第1変形例に係る電子ビーム描画装置1によれば、試料21への描画が行われる場合に特に放電を起こしやすい箇所に由来する放電を検出することが可能となる。
【0096】
(2)第2変形例
第1実施形態の第2変形例に係る電子ビーム描画装置1では、
図5のステップST01のビーム経路制御処理において、電子ビーム100の経路が次のように制御される。
【0097】
図9は、第1実施形態の第2変形例に係る電子ビーム描画装置1において電子ビーム100が照明コイル103により様々な方向に偏向されるように制御されている様子を示す。当該制御では、電子ビーム100は任意の方向に任意の時間にわたり偏向され得る。当該制御では、電子ビーム100は、試料21への描画が行われる場合に照明コイル103および照明偏向器104により偏向されるより大きく偏向されてもよい。当該制御では、電子ビーム100は、試料21への描画が行われる場合に照明コイル103および照明偏向器104により偏向される以外の方向に偏向されてもよい。
【0098】
以下では、電子ビーム100がこのように制御される場合の例を説明するが、電子ビーム100が投影コイル106または対物コイル109により様々な方向に偏向されるように制御される場合についても同様である。
【0099】
電子ビーム100がこのように偏向されるように、描画制御部11のビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、例えば、照明コイル103を用いて磁界を変化させる制御を行わせる。照明偏向器104のうちに、電圧/電流制御部12に電気的に接続されている電極がある場合、ビーム経路制御部1101は、電圧/電流制御部12に、当該電極に電圧を印加して電界を変化させる制御を行わせ得る。ビーム経路制御部1101は、電子ビーム100が上述したように偏向されるように、電圧/電流制御部12に、上述した磁界を変化させる制御、および/または、電界を変化させる当該制御、を行わせる。
【0100】
ステップST02以降では、例えば照明偏向器104および/または投影偏向器107に含まれる電極のうち、信号処理部302のいずれかに電気的に接続される電極、それぞれに対応する電圧データアイテムについて処理が行われる。
【0101】
第1実施形態の第2変形例に係る電子ビーム描画装置1は、電子ビーム100が様々な方向に偏向されるように制御している間に放電検出処理を実行する。電子ビーム100が様々な方向に偏向されることにより、電子が電子ビーム描画装置1内で広範囲に散乱する。このため、第1実施形態の第2変形例に係る電子ビーム描画装置1によれば、より広範囲に位置する放電の原因となる箇所に由来する放電を検出することが可能となる。
【0102】
以上、第1変形例および第2変形例の各々において、
図5のステップST01のビーム経路制御処理の別の例を説明した。本明細書により開示されるビーム経路制御処理のいくつかの例を任意に組み合わせて実行するような動作を、電子ビーム描画装置1は実行してもよい。例えば、
図5のステップST03において、いずれの電圧データアイテムにおいても放電が検出されたと判定されなかった場合に動作が終了するのではなくステップST01に戻るようにする。ステップST01に戻って実行されるビーム経路制御処理では、ステップST01に戻る前に実行されていたビーム経路制御処理とは異なる制御が行われるようにする。例えば、最初のステップST01において、電子ビーム100が電子銃101からステージ111側に直進するように制御されていた場合、次のステップST01では、電子ビーム100が照明コイル103等により様々な方向に偏向されるように制御されてもよい。
【0103】
放電検出時に、上記第1変形例のように電子ビーム100の一部は第2アパーチャ部材105の開口を通過し、残る部分は第2アパーチャ部材105により遮蔽されるようにしてもよい。また、第2変形例では電子ビーム100の一部は第3アパーチャ部材108の開口を通過し、残る部分は第3アパーチャ部材108により遮蔽されるようにしてもよい。
【0104】
(3)第3変形例
図10は、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1の放電検出制御部301の構成の一例を示すブロック図である。
【0105】
既に
図1に図示したように、放電検出部30は信号処理部305を含む。電流検出器141、142、および143の各々は、信号処理部305に電気的に接続される。
【0106】
信号処理部305は、電流検出器141からの電流を、図示しないI/Vアンプを用いて電圧に変換し、この電圧(電圧データアイテム)を測定する。これにより信号処理部305は、電流検出器141からの電流を、この電流に応じた電圧(電圧データアイテム)を測定することで得る。或いは、上記I/Vアンプの入力インピーダンス(抵抗)に発生する電圧を横から(並列接続で)オシロスコープで測定することにより、電流検出器141からの電流に応じた電圧(電圧データアイテム)を測定する。信号処理部305は、電流検出器142および143からの電流に応じた電圧(電圧データアイテム)も同様にして測定する。このように信号処理部305からの電圧データアイテムは、電流検出器からの電流値に応じたものとなっている。信号処理部305は、電流検出器141、142および143それぞれに対応する電圧データアイテムを生成して記憶部303に記憶させる。
【0107】
例えば、電流検出器141に対応する電圧データアイテムは、電流検出器141により検出された電流に応じた電位と時間との関係を表す。電流検出器142および143の各々に対応する電圧データアイテムについても同様である。異なる信号処理部それぞれにより生成された電圧データアイテムが実質的に同一の時間期間についてのものであるか否かを判別可能とするため、例えば、信号処理部305ならびに信号処理部302A、302B、および302Cが用いる時計は、同一のものであってもよい、または、互いに同期可能なものであってもよい。
【0108】
電圧データ取得部3011は、例えば、
図4を参照して説明したように任意の信号処理部302に電圧データ処理要求を送る処理を行うとともに信号処理部305にも電圧データ処理要求を送る処理を行う。信号処理部305は、電圧データ処理要求に応じて、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムを生成して電圧データ記憶部3031に記憶させる。これらの電圧データ処理要求に応じて信号処理部302および305により生成される電圧データアイテムは、例えば実質的に同一の時間期間のものである。
【0109】
図4を参照して説明したように、例えば、当該信号処理部302により生成され電圧データ記憶部3031に記憶される複数の電圧データアイテムに基づいて、電圧データ解析部3012が、放電を検出する処理を行い、当該放電の原因の箇所に近い電極を特定する処理を行う。さらに、
図4を参照して説明したように、電圧データ解析部3012が、特定した電極に基づいて、放電が発生した位置を推測する処理を行い得る。
【0110】
電圧データ取得部3011は、電圧データ記憶部3031に記憶される電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムを読み出す処理を行う。電圧データ解析部3012は、例えば電流検出器141に対応する電圧データアイテムが表す電位と時間との関係の波形(以下、当該電圧データアイテムの波形とも称する。)に、当該放電に由来する何らかの波形が捉えられているか否かを判定する処理を行う。例えば、当該電圧データアイテムにおいて電流検出器141の電位にピークが見られても当該ピークでの電位の変動の大きさが、上述したような閾値を超えていないような場合であっても、当該放電に由来する何らかの波形が当該電圧データアイテムに捉えられていると判定されることもあり得る。電圧データ解析部3012は、当該放電に由来する何らかの波形が捉えられていると判定した場合、当該電圧データアイテムを上記特定された電極の近傍での放電に対応付けて、記憶部303の放電波形記憶部3033に記憶させる処理を行う。以下では、当該対応付けについて、説明を簡潔にするため、当該電圧データアイテムと当該電極とが互いに対応付けられているとしても説明を行う。電圧データ解析部3012は、電流検出器142および143それぞれに対応する電圧データアイテムについても同様の処理を行う。以下では、このように電圧データアイテムと、特定された電極の近傍での放電と、が対応付けられるものとして説明を行うが、本実施形態はこれに限定されない。例えば放電が発生した位置が推測されていた場合には、電圧データ解析部3012は、電圧データアイテムを当該推測された位置で発生する放電に対応付けて、放電波形記憶部3033に記憶させる処理を行ってもよい。
【0111】
以上の処理が繰り返し行われると、放電波形記憶部3033に、例えば、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極について、当該電極に対応付けられた、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテム(以下、放電波形データアイテムとも称する。)が記憶される。なお、或る電極に対応付けられた放電波形データアイテムとしては、必ずしも電流検出器141、142、および143それぞれに対応する放電波形データアイテム全てが記憶されている必要はない。また、或る電極に対応付けられた放電波形データアイテムが1つも記憶されていないような場合があってもよい。また、或る電流検出器に対応し或る電極に対応付けられた放電波形データアイテムが、複数記憶されていてもよい。
【0112】
放電波形データアイテムの放電波形記憶部3033への記憶処理が行われるのは、上述したように或る電極の特定処理が行われた場合の代わりに、あるいは、当該特定処理が行われた場合に加えて、
図4を参照して説明したように或る電極の近傍での放電が検出されたと判定された場合、および/または、
図7を参照して説明したように或る電極に散乱電子が集まりやすい環境が生じていたことが確認された場合であってもよい。
【0113】
このように放電波形データアイテムが放電波形記憶部3033に記憶された後に、放電検出制御部301は次に説明する処理を行う。次に説明する処理は、試料21への描画中に行われることも可能である。
【0114】
電圧データ取得部3011は、信号処理部305に電圧データ処理要求を送る処理を行う。信号処理部305は、電圧データ処理要求に応じて、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテム(以下、被検査電圧データアイテムとも称する。)を生成して電圧データ記憶部3031に記憶させる。電圧データ取得部3011は、電圧データ記憶部3031に記憶される或る電流検出器に対応する被検査電圧データアイテムを読み出す処理を行う。
【0115】
電圧データ解析部3012は、データ照合部30121を含む。
データ照合部30121は、放電波形記憶部3033に記憶される、当該電流検出器に対応する或る放電波形データアイテムを読み出す処理を行う。データ照合部30121は、例えば、当該被検査電圧データアイテムの波形が当該放電波形データアイテムの波形に類似しているか否かを判定する処理を行う。データ照合部30121は、当該被検査電圧データアイテムの波形が当該放電波形データアイテムの波形に類似していると判定した場合、当該放電波形データアイテムに対応付けられた電極の近傍での放電が検出されたと判定する処理を行う。データ照合部30121は、当該判定の結果を、例えば放電情報記憶部3032に記憶させる処理を行う。放電波形記憶部3033に、当該電流検出器に対応する他の1以上の放電波形データアイテムが記憶されている場合、データ照合部30121は、当該他の1以上の放電波形データアイテムについても同様の処理を行う。データ照合部30121は、他の電流検出器それぞれに対応する被検査電圧データアイテムについても同様の処理を行う。放電情報記憶部3032に記憶されたこのような判定の結果は、例えばモニタ304に表示される。
【0116】
次に、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1により実行される、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、のいずれかの電極の近傍で発生する放電を、例えば試料21への描画中に検出する動作について詳細に説明する。
【0117】
図11は、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1により実行される当該動作の一例を示すフロー図である。
【0118】
ステップST10は、
図5のステップST00と同じであり、ステップST11は、
図5のステップST01と同じである。
【0119】
ステップST12において、放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、
図5のステップST02において説明した動作を行うとともに、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムを取得する。より具体的には、次の通りである。放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、電子ビーム100が上記制御の下で放出されている間に、例えば信号処理部302Bに電圧データ処理要求を送るとともに信号処理部305にも電圧データ処理要求を送る。当該電圧データ処理要求に応じて信号処理部305により、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムが生成される。これらの電圧データ処理要求に応じて信号処理部302Bおよび305により生成される電圧データアイテムは、例えば実質的に同一の時間期間についてのものである。放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、投影偏向器107に含まれる電極それぞれに対応する電圧データアイテムと、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムとを取得する。なお、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテムの必ずしも全てが取得される必要はない。
【0120】
ステップST13において、放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、投影偏向器107に含まれる電極それぞれに対応する電圧データアイテムに基づいて、放電検出処理を実行する。当該放電検出処理では、例えば、
図5のステップST03およびステップST04において説明した動作が実行されるが、ステップST04において説明した動作が必ずしも実行される必要はない。例えば、投影偏向器107に含まれる電極のうち、放電の原因の箇所にもっとも近い電極1072が特定される。
【0121】
ステップST14において、放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、放電波形データアイテムを放電波形記憶部3033に記憶させる。より具体的には、次の通りである。放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、例えば電流検出器141に対応する電圧データアイテムの波形に、当該放電に由来する何らかの波形が捉えられているか否かを判定する。放電検出制御部301は、電圧データ解析部3012の制御の下、当該放電に由来する何らかの波形が捉えられていると判定した場合、当該電圧データアイテムを上記特定された電極1072に対応付けて放電波形データアイテムとして放電波形記憶部3033に記憶させる。電流検出器142および143それぞれに対応する電圧データアイテムについても同様の処理が行われる。
【0122】
ステップST11からステップST14の動作は任意の回数繰り返され、放電波形記憶部3033に、例えば、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極について、当該電極に対応付けられた、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する電圧データアイテム(以下、放電波形データアイテムとも称する。)が記憶される。
【0123】
このように放電波形データアイテムが放電波形記憶部3033に記憶された後に、ステップST20以降の動作が実行される。
【0124】
ステップST20において、放電検出制御部301は、例えば投影偏向器107の各電極の接続先を信号処理部302Bから電圧/電流制御部12に切り替える。同様に、照明偏向器104および対物偏向器110の各電極の接続先も電圧/電流制御部12に切り替えられる。
【0125】
ステップST21において、例えば試料21への描画中に、放電検出制御部301は、電圧データ取得部3011の制御の下、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する被検査電圧データアイテムを取得する。当該取得される被検査電圧データアイテムの各々は、例えば試料21への描画が行われている間の電圧と時間との関係を表すものである。なお、電流検出器141、142、および143それぞれに対応する被検査電圧データアイテムの必ずしも全てが取得される必要はない。ステップST22以降の動作は、例えば、試料21への描画が行われている間に実行されるが、これは必ずしも必要とされない。
【0126】
ステップST22において、放電検出制御部301は、データ照合部30121の制御の下、或る被検査電圧データアイテムの波形が或る放電波形データアイテムの波形に類似しているか否かを判定する。より具体的には、次の通りである。放電検出制御部301は、データ照合部30121の制御の下、放電波形記憶部3033に記憶される例えば電流検出器141に対応する或る放電波形データアイテムを読み出す。当該放電波形データアイテムは、例えば電極1072に対応付けられている。放電検出制御部301は、データ照合部30121の制御の下、例えば、電流検出器141に対応する被検査電圧データアイテムの波形が、当該放電波形データアイテムの波形に類似しているか否かを判定する。当該被検査電圧データアイテムと、放電波形記憶部3033に記憶される電流検出器141に対応する全ての放電波形データアイテムの各々と、の各組み合わせについて、同様の処理が行われる。電流検出器142および143それぞれに対応する被検査電圧データアイテムについても同様の処理が行われる。
【0127】
或る被検査電圧データアイテムの波形が或る放電波形データアイテムの波形に類似していると判定された場合にはステップST23に進み、それ以外の場合は動作が終了する。
【0128】
例えば、ステップST22において、電流検出器143に対応する被検査電圧データアイテムの波形が、電流検出器143に対応し電極1072に対応付けられた放電波形データアイテムの波形に類似していると判定されていた場合について説明する。この場合、ステップST23において、放電検出制御部301は、データ照合部30121の制御の下、電極1072の近傍で発生した放電が検出されたと判定する。
【0129】
例えば描画装置による描画前の測定時にステップST12で、各偏向器電極で検出した放電と検出したときの各電流検出器141~143の電流波形データとを対応付けて記憶しておく。描画装置による描画中、偏向器電極が放電検出器として使えない場合であっても、各電流検出器141~143により放電検出することが可能となる。
【0130】
上記では、或る電極に対応付けられた放電波形データアイテムが用いられる場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されない。各放電波形データアイテムは、上述したように、以前に推測された位置で発生する放電に対応付けられていてもよい。この場合、ステップST13では、
図5のステップST05において説明した動作が実行され、ステップST23では、以前に推測された位置で発生する放電が検出されたと判定される。
【0131】
第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1は、第2変形例までに説明した放電検出処理を実行して照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、に含まれる或る電極の近傍での放電を検出するとともに、次の処理を行う。すなわち、当該電子ビーム描画装置1は、当該放電に由来する何らかの波形が捉えられた、電流検出器141、142、および143のいずれかに対応する或る電圧データアイテムを、当該電極に対応付けて放電波形データアイテムとして記憶させておく。このような処理が繰り返され、例えば、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極について、当該電極の近傍で放電が発生する場合の放電波形データアイテムが用意される。その後に、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1は、次のように放電を検出する。例えば、試料21への描画中に、当該電子ビーム描画装置1は、電流検出器141、142、および143のうちの或る電流検出器に対応する被検査電圧データアイテムを取得する。当該電子ビーム描画装置1は、当該被検査電圧データアイテムの波形が、当該電流検出器に対応する放電波形データアイテムのいずれかの波形に類似している場合、当該放電波形データアイテムに対応付けられた電極の近傍で発生した放電が検出されたと判定する。
【0132】
このように、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1は、電流検出器141、142、および143を用いて、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極の近傍で発生する放電を検出可能である。当該電子ビーム描画装置1は、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110を用いて電子ビーム100を偏向させている間であっても、電流検出器141、142、および143それぞれの電圧データアイテムを取得可能である。このため、第1実施形態の第3変形例に係る電子ビーム描画装置1によれば、例え試料21への描画中であっても、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、の各々の各電極の近傍で発生する放電の検出が可能となり得る。
【0133】
(4)第4変形例
照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、に含まれる電極のうちの或る電極に着目して説明を行う。電圧/電流制御部12は、当該電極に電圧供給ラインを介して電気的に接続され、当該電極に電圧を印加する。一方、或る信号処理部302が、当該電極に電気的に接続され、当該電極の電位に係る情報を取得する。当該電極との電気的な接続について、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと、当該信号処理部302の入力インピーダンスと、に関係する説明を行う。
【0134】
当該信号処理部302の入力インピーダンスは例えば調整可能である。例えば、当該信号処理部302が、予めいくつかの値の間で当該入力インピーダンスを切り替え可能であるように構成されている。当該入力インピーダンスは、例えば、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと実質的に同一とされる。電圧/電流制御部12の出力インピーダンスは、例えば、電圧/電流制御部12に含まれるデジタルアナログ変換アンプ(DACアンプ)の出力インピーダンスのことである。
【0135】
当該信号処理部302が、当該信号処理部302自体では当該入力インピーダンスを調整可能であるように構成されていない場合についても説明する。当該信号処理部302と当該電極との電気的な接続において、当該信号処理部302側に或る終端抵抗を介するようにする。当該信号処理部302と当該終端抵抗との組み合わせを、当該信号処理部302の入力インピーダンスと当該終端抵抗とを合成した結果のインピーダンスを入力インピーダンスとする1つの信号処理部とみなすことが可能である。
【0136】
例えば、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスが50Ωであり、或る信号処理部302の入力インピーダンスが1MΩである場合、50Ωの終端抵抗を上述したように設けるようにする。当該信号処理部302と当該終端抵抗との組み合わせを、並列接続された1MΩの抵抗と50Ωの抵抗との合成抵抗である49.99・・・Ωを入力インピーダンスとする1つの信号処理部とみなすことが可能である。これにより、当該信号処理部の入力インピーダンスは、例えば、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと実質的に同一とされる。
【0137】
上記では、1つの電極との接続に着目して電圧/電流制御部12の出力インピーダンスおよび信号処理部302の入力インピーダンスについて説明した。照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、に含まれる他の電極についても、同様である。さらに、照明偏向器104、投影偏向器107、および対物偏向器110、に含まれる電極それぞれとの接続について、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスは同一であってもよい。
【0138】
上述したように、各電極との接続について、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと、当該電極に電気的に接続される信号処理部302の入力インピーダンスとが実質的に同一である場合は、次に説明するような効果が奏せられ得る。
【0139】
例えば、電圧/電流制御部12が照明偏向器104の或る電極に印加する電圧が或る範囲外となった場合に電子ビーム描画装置1がビームOFF状態となるように電子ビーム描画装置1が設計されている場合について説明する。当該電極との接続について、当該電極に電気的に接続される信号処理部302Aの入力インピーダンスが、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと実質的に同一の場合、信号処理部302Aは、放電により当該電極に実際に印加される電圧を計測可能である。このため、上述したように放電が検出され、さらに、当該放電により当該電極に印加される電圧が上記の範囲外となったことを信号処理部302Aが計測した場合、次のような予測が可能である。すなわち、第2アパーチャ部材105の開口を電子ビーム100が通過できない期間が生じることが予測され、ゆえに、描画に用いられる電子ビーム100のドーズ量が減少してしまうことが予測される。
【0140】
また、電圧/電流制御部12が投影偏向器107の電極それぞれに印加する電圧に応じて、第3アパーチャ部材108を通過する電子ビーム100の形状および寸法がどのように変化するかが予め分かっている。投影偏向器107の各電極との接続について、当該電極に電気的に接続される信号処理部302Bの入力インピーダンスが、電圧/電流制御部12の出力インピーダンスと実質的に同一の場合、信号処理部302Bは、放電により当該電極に実際に印加される電圧を計測可能である。このため、上述したように放電が検出され、さらに、信号処理部302Bが計測する、当該放電にも基づきこれらの電極それぞれに印加される電圧に基づいて、次のような予測が可能である。すなわち、当該放電が原因で、第3アパーチャ部材108を通過する電子ビーム100の形状および寸法がどのように変化するかが予測される。
【0141】
このように予測される、放電による電子ビーム100への影響は、電子ビーム100を用いて行われる試料21への描画にも影響を及ぼし得る。したがって、描画パターンエラーとの照合により、検出された放電のうちから、描画パターンエラーに特につながる可能性が高い放電を特定し得る。
【0142】
<他の実施形態>
上記では、電子ビームの経路がさまざまな制御をされている間に放電検出処理が実行されることを説明した。電子ビームの経路の制御は上述したものに限定されない。例えば、投影偏向器の8つの電極のうち、基準線周りの1つおきの電極である4つの電極が電圧/電流制御部に電気的に接続され、ビーム経路制御部が、電圧/電流制御部に当該4つの電極を用いて電子ビームの経路を制御させてもよい。これにより、例えば試料への描画が行われている状態が模擬可能である。この場合、投影偏向器の8つの電極のうちの残りの4つの電極が信号処理部に接続され、当該4つの電極にそれぞれ対応する電圧データアイテムに基づいて放電検出処理が実行されてもよい。投影偏向器の代わりに、あるいは、投影偏向器に加えて、対物偏向器の各電極が同様に用いられてもよい。
【0143】
放電検出する際、電子ビームを偏向するために、電子ビーム経路上の磁界を変えるコイルについては、必ずしもコイルが電子ビームの経路を囲んでいる必要はない。例えば、電子ビームの経路を囲まないコイルによって、電子ビーム経路上の磁界を変えて電子ビームを偏向してもよい。
【0144】
上記では、偏向器に含まれる各電極が放電検出部に電気的に接続され、放電検出部により当該電極の電位に基づいて放電検出処理が実行される場合の例を説明した。しかしながら、必ずしもこれに限定されない。荷電粒子ビーム照射装置内に存在する他の電極が放電検出部に電気的に接続され、当該放電検出部により当該電極の電位に基づいて放電検出処理が実行されてもよい。
【0145】
本明細書において“接続”とは、電気的な接続のことを示しており、例えば間に別の素子を介することを除外しない。
【0146】
本明細書において、同一、一致、一定、および維持等の表記は、実施形態に記載の技術を実施する際に設計の範囲での誤差がある場合も含むことを意図して用いている。また、或る電圧を印加または供給するとの表記は、当該電圧を印加または供給するような制御を行うことと、当該電圧が実際に印加または供給されることとの両方を含むことを意図して用いている。さらに、或る電圧を印加または供給することは、例えば0Vの電圧を印加または供給することを含んでいてもよい。
【0147】
上記ではいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0148】
1…電子ビーム描画装置、10…描画部、100…電子ビーム、101…電子銃、102…第1アパーチャ部材、103…照明コイル、104…照明偏向器、105…第2アパーチャ部材、106…投影コイル、107…投影偏向器、108…第3アパーチャ部材、109…対物コイル、110…対物偏向器、111…ステージ、11…描画制御部、1101…ビーム経路制御部、12…電圧/電流制御部、13…高圧電源、141,142,143…電流検出器、21…試料、30…放電検出部、301…放電検出制御部、3011…電圧データ取得部、3012…電圧データ解析部、30121…データ照合部、302,305…信号処理部、303…記憶部、3031…電圧データ記憶部、3032…放電情報記憶部、3033…放電波形記憶部、304…モニタ、41…ファラディカップ、42…電流計、P1,P2…プロセッサ、M1,M2…メモリ、1041,1042,1071,1072,1073,1074,1075,1076,1077,1078…電極、1000,2000…領域。