(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】新規スズ化合物、該化合物を含有する薄膜形成用原料、該薄膜形成用原料を用いて形成される薄膜、該薄膜を製造するために該化合物をプリカーサとして用いる方法、及び該薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/22 20060101AFI20241125BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C07F7/22 M CSP
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2021552376
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038451
(87)【国際公開番号】W WO2021075397
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2019189930
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智晴
(72)【発明者】
【氏名】大江 佳毅
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0059742(KR,A)
【文献】特表平06-502877(JP,A)
【文献】SHIZUYOSHI S., et. al.,REACTIONS OF 2,2-DIALKYL-1-OXA-3-AZA-2-STANNACYCLOPENTANES AND 2,2-DIALKYL-1,3-DIAZA-2-STANNACYCLOPENTANES WTIH CARBON DISULFIDE AND PHENYL ISOTHIOCYANATE,Journal of Organometallic Chemistry,vol. 50,1973年,p.p. 113-119
【文献】ZEITSCHRIFT FUR NATURFORSCHUNG,vol.20b, No. 2,1965年,p. 183-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F7/00-7/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスズ化合物。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
4は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1~12のアルキル基を表し、R
5は、炭素原子数1~15のアルカンジイル基を表す。
ただし、R
1
及びR
4
がともに、水素原子又はメチル基である化合物を除く。)
【請求項2】
請求項1記載のスズ化合物を含有する薄膜形成用原料。
【請求項3】
請求項2記載の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜。
【請求項4】
化学蒸着法によりスズ原子を含有する薄膜を製造するために、請求項1記載のスズ化合物をプリカーサとして用いる方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法を用いて製造される薄膜。
【請求項6】
請求項2記載の薄膜形成用原料を気化させた原料ガスを、基体が設置された処理雰囲気に導入し、前記原料ガス中の前記スズ化合物を、処理雰囲気内で、分解及び/又は化学反応させて、前記基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を製造する、薄膜の製造方法。
【請求項7】
原子層堆積法により、基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を製造する方法であって、
請求項2記載の薄膜形成用原料を気化させた原料ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体の表面に前記原料ガス中の前記スズ化合物を堆積させて前駆体層を形成する第1工程と、
反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記前駆体層と前記反応性ガスを反応させる第2工程とを含む、薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程と前記第2工程の間及び前記第2工程の後の少なくとも一方に、前記処理雰囲気のガスを排気する工程を含む、請求項7記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規スズ化合物、該化合物を含有する薄膜形成用原料、該薄膜形成用原料を用いて形成されるスズ原子を含有する薄膜、該薄膜を製造するために該化合物をプリカーサとして用いる方法、及び該薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スズは、化合物半導体を構成するための成分として用いられており、スズ原子を含有する薄膜を製造するための薄膜形成用原料として、様々な化合物が報告されている。
【0003】
薄膜の製造方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法及びゾルゲル法等のMOD法、化学蒸着法(「CVD法」という場合もある)等が挙げられる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有することから、CVD法の一種である、原子層堆積法(「ALD法」という場合もある)が最適な製造プロセスである。
【0004】
ALD法は、真空を利用した成膜技術であり、プリカーサ(前駆体)の投入とパージのサイクルを繰り返すことで、原子層を一層ずつ堆積して成膜することができる。ALD法の成膜技術は、他の化学蒸着法の成膜技術と比べて、極薄の成膜、アスペクト比の高い構造への成膜、ピンホールフリーの成膜、低温での成膜等が可能であるため、特に、ナノテクノロジー、コンデンサー電極、ゲート電極、集積回路等の電子材料装置の製造に利用されている。
【0005】
ALD法のプリカーサとしては、例えば、特許文献1において、ケイ素化合物、特許文献2において、モリブテン原子、バナジウム原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、又はクロム原子を含有する化合物、特許文献3において、ジアザジエニル化合物、特許文献4において、ジルコニウム原子、チタン原子、又はハフニウム原子を含有する化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-129317号公報
【文献】特開2018-035375号公報
【文献】特開2018-035072号公報
【文献】特開2018-203641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄膜形成用原料として、特にALD法に用いられるプリカーサは、高い熱安定性を有すること、高い蒸気圧を示すこと、高品質な薄膜を形成できることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、新規構造のスズ化合物が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のスズ化合物は、一般式(1)で表される化合物である。
【0010】
【0011】
上記一般式(1)中、R1~R4は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1~12のアルキル基を表し、R5は炭素原子数1~15のアルカンジイル基を表す。
【0012】
本発明の薄膜形成用原料は、本発明のスズ化合物を含有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、化学蒸着法によりスズ原子を含有する薄膜を製造するために、本発明のスズ化合物をプリカーサとして用いる方法を提供するものである。
【0014】
本発明の薄膜は、本発明の薄膜形成用原料を用いて製造されるスズ原子を含有する薄膜であることに特徴を有する。また、本発明の薄膜は、本発明のスズ化合物をプリカーサとして用いる方法を用いて製造されるスズ原子を含有する薄膜であることに特徴を有する。
【0015】
また、本発明の薄膜の製造方法は、本発明の薄膜形成用原料を気化させた原料ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内(処理雰囲気)に導入し、前記原料ガス中のスズ化合物を、処理雰囲気内で、分解及び/又は化学反応させて、該基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を製造することに特徴を有する。
【0016】
本発明の薄膜の製造方法は、ALD法により基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を製造する方法であって、本発明の薄膜形成用原料を気化させた原料ガスを基体が設置された成膜チャンバー内(処理雰囲気)に導入し、該基体の表面に前記原料ガス中のスズ化合物を堆積させて前駆体層を形成する第1工程と、反応性ガスを処理雰囲気内に導入し、前記前駆体層と前記反応性ガスを反応させる第2工程とを含むことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスズ化合物は、熱安定性に優れるとともに、蒸気圧が高いため、より低温で気化させることができることから、薄膜形成用原料に適している。本発明のスズ化合物を含有する薄膜形成用原料を用いて、ALD法により薄膜を製造した場合、ALDウィンドウが広く、残留炭素が少ない高品質のスズ原子を含有する薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の別の例を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置のさらに別の例を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置のさらに別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<スズ化合物>
先ず、本発明のスズ化合物について説明する。本発明のスズ化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0020】
【0021】
(式(1)中、R1~R4は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1~12のアルキル基を表し、R5は、炭素原子数1~15のアルカンジイル基を表す。)
【0022】
上記一般式(1)における、R1~R4で表される炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖であってもよく分岐を有するものであってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基等が挙げられる。炭素原子数が12を超えるアルキル基は、融点が高く、薄膜形成用原料として用いることができない場合がある。
本発明のスズ化合物においては、R1~R4は、高い蒸気圧が得られるので炭素原子数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基であることがより好ましく、R2及びR3がメチル基であり、且つ、R1及びR4がメチル基、エチル基又はイソプロピル基であることがさらに好ましく、R2及びR3がメチル基であり、且つ、R1及びR4がエチル基又はイソプロピル基であることがなおさらに好ましく、R2及びR3がメチル基であり、且つ、R1及びR4がイソプロピル基であることが最も好ましい。
【0023】
上記一般式(1)における、R5で表される炭素原子数1~15のアルカンジイル基は、直鎖であってもよく分岐を有するものであってもよい。本発明のスズ化合物においては、R5は、下記(x-1)~(x-24)で表されるユニットの群から選択されるものが好ましく、R5が(x-6)で表されるユニットであることがより好ましい。
なお、*は、一般式(1)の窒素原子と連結する位置を表す。また、「Me」は、「メチル基」を表し、「Et」は、「エチル基」を表し、「iPr」は、「イソプロピル基」を表し、「nPr」は、「直鎖のプロピル基」を表す。
【0024】
【0025】
本発明のスズ化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の合成方法で製造することができる。例えば、ジメチルスズジクロリド、ジエチルスズクロリド、ジnーブチルクロリド等のジアルキルスズクロリドを、触媒を使用して、ジアルキルアルキレンジアミンと反応させることで本発明のスズ化合物を製造することができる。
【0026】
本発明のスズ化合物の具体的な構造は、下記の化学式(化合物No.1~化合物No.60)が挙げられるが、本発明は、これらの化合物によって限定されるものではない。なお、下記化合物No.1~化合物No.60において、「Me」は、「メチル基」を表し、「Et」は、「エチル基」を表し、「iPr」は、「イソプロピル基」を表し、「nPr」は、「直鎖のプロピル基」を表す。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
本発明のスズ化合物の好ましい分子量は、200~500であり、230~300がより好ましい。分子量200未満であると、熱安定性に乏しい場合があり、分子量が500を超えると、融点が高くなりすぎて薄膜形成用原料としての利用が困難になる場合がある。
【0031】
本発明のスズ化合物を、示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で、室温から昇温して得られたDSCチャートにおいて、発熱反応がピークトップになる温度を熱分解開始温度(℃)とした場合、熱分解開始温度が高いほど、スズ化合物の耐熱性が優れるので好ましい。好ましい熱分解開始温度は、180℃以上であり、200℃以上であることがより好ましい。
【0032】
本発明のスズ化合物を、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、760Torr、昇温速度10℃/分の条件で、室温から昇温して得られたDTAチャートにおいて、スズ化合物の質量が50質量%減少した時の温度を、常圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)とした場合、この温度が低いほど、蒸気圧が高く、より低温でスズ化合物を気化させることができるので好ましい。好ましい常圧TG-DTA50質量%減少時の温度は、200℃以下であり、180℃以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明のスズ化合物を、TG-DTAを用いて、10Torr、昇温速度10℃/分の条件で、室温から昇温して得られたDTAチャートにおいて、スズ化合物の質量が50質量%減少した時の温度を、減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)とした場合、この温度が低いほど、蒸気圧が高く、より低温でスズ化合物を気化させることができるので好ましい。好ましい減圧TG-DTA50質量%減少時の温度は、180℃以下であり、150℃以下であることがより好ましい。
【0034】
さらに、本発明のスズ化合物を用いて薄膜を製造する成膜装置において、成膜装置の配管内の輸送性を確保するために、本発明のスズ化合物は、常温で液体であることが好ましい。例えば、化合物No.6及びNo.7が好ましい。
【0035】
上記一般式(1)で表されるスズ化合物において、R2及びR3がメチル基であり、且つ、R1及びR4がイソプロピル基である化合物が、常温で液体であり、高い熱安定性を有するので好ましい。さらに、R5が上記X-6である化合物(化合物No.7)が、より好ましい。
【0036】
<薄膜形成用原料>
次に、本発明の薄膜形成用原料について説明する。
本発明の薄膜形成用原料は、本発明のスズ化合物を含有し、薄膜のプリカーサとするものであればよく、その組成は目的とする薄膜の種類によって異なる。例えば、金属としてスズのみを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、スズ以外の金属化合物、半金属化合物は非含有である。一方、スズ金属と、スズ以外の金属及び/又は半金属とを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、本発明のスズ化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、「他のプリカーサ」と称する)を含有することができる。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、さらに、有機溶剤、及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
【0037】
また、複数のプリカーサを用いる多成分系の化学蒸着法の場合において、本発明のスズ化合物と共に用いられる他のプリカーサとしては、特に制限を受けず、薄膜形成用原料に用いられている周知一般のプリカーサを用いることができる。
【0038】
上記の他のプリカーサとしては、例えば、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と、珪素又は金属との化合物が挙げられる。また、プリカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、ラジウム、スカンジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0039】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-sec-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0040】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、例えば、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0041】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるβ-ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0042】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、sec-ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、tert-ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0043】
上記の他のプリカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プリカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、例えば、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0044】
上述したような多成分系の化学蒸着法においては、薄膜形成用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と称する)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と称する)がある。
シングルソース法の場合、上記の他のプリカーサとしては、本発明のスズ化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましい。
カクテルソース法の場合、上記の他のプリカーサとしては、発明のスズ化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさないものが好ましい。
カクテルソース法の場合、本発明のスズ化合物と他のプリカーサとの混合物若しくは該混合物を有機溶剤に溶かした混合溶液を薄膜形成用原料とすることができる。この混合物や混合溶液はさらに求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0045】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく、周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本発明の薄膜形成用原料が、上記有機溶剤との混合溶液である場合、プリカーサを有機溶剤に溶かした溶液である薄膜形成用原料中におけるプリカーサ全体の量が0.01モル/リットル~2.0モル/リットル、特に0.05モル/リットル~1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0047】
ここで、プリカーサ全体の量とは、本発明の薄膜形成用原料が、スズ化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、本発明のスズ化合物及びスズを含む他のプリカーサの合計量であり、本発明の薄膜形成用原料が、該スズ化合物に加えて他の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(他のプリカーサ)を含有する場合、本発明のスズ化合物及び他のプリカーサの合計量である。
【0048】
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明のスズ化合物及び他のプリカーサの安定性を向上させるため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、例えば、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。これら求核性試薬の使用量は、プリカーサ全体の量1モルに対して0.1モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~4モルの範囲がより好ましい。
【0049】
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まないようにすることが望ましい。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましい。また、水分は、薄膜形成用原料中でのパーティクル発生、及び薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プリカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プリカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0050】
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることがより好ましい。
【0051】
<薄膜の製造方法>
次に、上記薄膜形成用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法について説明する。
ここでは、一実施形態として、ALD法により、スズ原子を含有する薄膜(以下、「スズ含有薄膜」と称する)を製造する方法について説明する。
【0052】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知のALD装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図1及び
図3のようにプリカーサをバブリング供給することのできる装置、並びに
図2及び
図4のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3及び
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。なお、
図1~
図4のような成膜チャンバー(以下、「堆積反応部」と称する)を備えた枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。なお、これらはCVD装置としても用いることができる。
【0053】
本発明の薄膜の製造方法は、基体の表面にスズ含有薄膜を製造する方法であって、上記一般式(1)で表されるスズ化合物を含有する本発明の薄膜形成用原料を気化させた蒸気(以下、「原料ガス」と称する)を堆積反応部(処理雰囲気)に導入する「原料ガス導入工程」及び基体の表面に該原料ガス中のスズ化合物を堆積させて前駆体層を形成する「前駆体層形成工程」を含む第1工程と、未反応の原料ガスを排気する「排気工程」と、反応性ガスを堆積反応部(処理雰囲気)に導入し、該前駆体層と反応性ガスを反応させる第2工程と、未反応の反応性ガス及び副生ガスを排気する「排気工程」と、を含むことを特徴とするものである。
【0054】
本発明における薄膜の製造方法の一実施形態として、第1工程、排気工程、第2工程及び排気工程を順に行う、一連の操作による堆積を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返して、スズ含有薄膜を製造する方法について説明する。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0055】
(第1工程)
・原料ガス導入工程
原料ガス導入工程における薄膜形成用原料の輸送供給方法としては、
図1及び
図3に示すように、本発明の薄膜形成用原料が貯蔵される容器(以下、「原料容器」と称する)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とした原料ガスを、必要に応じてアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、基体が設置された堆積反応部へと導入する気体輸送法、並びに
図2及び
図4に示すように、薄膜形成用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とした原料ガスを堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。
気体輸送法の場合、上記一般式(1)で表されるスズ化合物そのものを薄膜形成用原料とすることができる。
液体輸送法の場合、上記一般式(1)で表されるスズ化合物、又は、該化合物を有機溶剤に溶かした溶液を薄膜形成用原料とすることができる。これらの薄膜形成用原料は、さらに、他のプリカーサ、求核性試薬等を含んでもよい。
【0056】
また、上記気体輸送法及び液体輸送法以外にも、原料ガス導入工程に用いられる方法としては、多成分系のALD法として、薄膜形成用原料の欄に記載したようなシングルソース法とカクテルソース法があるが、いずれの導入方法を用いた場合においても、本発明の薄膜形成用原料は0℃~200℃で気化させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする場合の原料容器内の圧力及び気化室内の圧力は、1Pa~10,000Paの範囲内であることが好ましい。
【0057】
ここで、堆積反応部に設置される上記基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト、金属ルテニウム等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0058】
・前駆体層形成工程
前駆体層形成工程では、基体が設置された堆積反応部に導入された原料ガス中のスズ化合物を基体表面に堆積させて、基体表面に前駆体層を形成する。このとき、基体を加熱するか、又は堆積反応部を加熱して熱を加えてもよい。前駆体層を形成する際の条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等を所望の前駆体層の厚さ及び薄膜形成用原料の種類に応じて適宜決めることができる。反応温度については、本発明の薄膜形成用原料が充分に基体表面と反応する温度である50℃以上が好ましく、50℃~400℃がより好ましい。膜厚は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。反応圧力は1Pa~1,0000Paが好ましく、10Pa~1,000Paがより好ましい。
【0059】
なお、薄膜形成用原料が、本発明のスズ化合物以外の他のプリカーサを含む場合は、スズ化合物とともに、他のプリカーサも基体の表面に堆積される。
【0060】
(排気工程)
前駆体層を形成後、基体の表面に堆積しなかったスズ化合物を含む未反応の原料ガスを堆積反応部から排気する。この際、原料ガスが堆積反応部から完全に排気されることが理想的であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより堆積反応部の系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paの範囲が好ましく、0.01Pa~100Paの範囲がより好ましい。
【0061】
(第2工程)
第2工程では、排気工程後、堆積反応部に反応性ガスを導入して、反応性ガスの作用又は反応性ガスの作用と熱の作用により、反応性ガスを、前駆体層、すなわち基体の表面に堆積させたスズ化合物と反応させる。
上記反応性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス、水素等の還元性ガス、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガスなどが挙げられる。これらの反応性ガスは、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、本発明の薄膜形成用原料は、酸化性ガスと特異的に低い温度で反応する性質を有しており、特にオゾン及び水蒸気と低い温度で反応することができる。1サイクル当たりに得られる膜厚が厚く、生産性よく薄膜を製造することができるという点で、反応性ガスとしてオゾン又は水蒸気を含有するガスを用いることが好ましく、水蒸気を含有するガスを用いることがより好ましい。
反応性ガスが酸化性ガスであり、第1工程におけるプリカーサとして本発明のスズ化合物のみを用いた場合には、基体の表面のスズ原子が酸化され、酸化スズ薄膜が形成される。この際、前駆体層中のスズ原子以外の成分は副生ガスとなる。
【0062】
反応条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等を、所望の膜厚及び反応性ガスの種類に応じて適宜決めることができる。熱を用いて作用させる場合の温度は、室温~500℃の範囲が好ましく、50℃~400℃の範囲がより好ましい。本発明の薄膜形成用原料と反応性ガスとを組み合わせて使用した場合のALDウィンドウは概ね50℃~200℃の範囲であるため、50℃~200℃の範囲で前駆体層を反応性ガスと反応させることがさらに好ましい。本工程が行われる際の堆積反応部における圧力は1Pa~10,000Paが好ましく、10Pa~1,000Paがより好ましい。
【0063】
本発明の薄膜形成用原料は、反応性ガスとの反応性が良好であり、本発明の薄膜形成用原料を用いることにより、残留炭素含有量が少ない高品質なスズ含有薄膜を生産性よく製造することができる。
【0064】
(排気工程)
上記第2工程の後に、未反応の反応性ガス及び副生ガスを堆積反応部から排気する。この際、反応性ガス及び副生ガスが堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法及び減圧する場合の減圧度は、上述した第1工程と第2工程の間に行う排気工程と同様である。
【0065】
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、第1工程、排気工程、第2工程及び排気工程をこの順に行い、一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとする。このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返すことで、所望の膜厚を有するスズ含有薄膜を製造することができる。ALD法による薄膜の製造方法によれば、形成されるスズ含有薄膜の膜厚を上記サイクルの回数でコントロールすることができる。
【0066】
1サイクル当たりに得られるスズ含有薄膜の膜厚が厚いと薄膜の特性が悪化する場合があり、薄いと生産性に問題があるので、1サイクル当たりに得られるスズ含有薄膜の膜厚は、0.001nm~1nmが好ましく、0.01nm~0.5nmがより好ましい。
【0067】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、
図3及び
図4に示すように、堆積反応部にプラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。該エネルギーを印加する時期及び触媒を用いる時期は、特には限定されず、例えば、原料ガス導入工程における薄膜形成用原料の原料ガスを堆積反応部に導入する時、前駆体層形成工程の加熱時、第2工程における反応性ガスの導入時若しくは反応性ガスと前駆体層を反応させる際の加熱時、排気工程における系内の排気時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0068】
また、本発明の薄膜の製造方法において、反応性ガスは製造方法における全ての工程の間で堆積反応部へ導入し続けてもよく、前駆体層と反応性ガスを反応させる工程の際にのみ、反応性ガスに対してプラズマ処理を行ったものを堆積反応部に導入してもよい。プラズマ処理時の高周波(以下、RFという場合もある)出力は、低すぎると良好なスズ含有薄膜となりにくく、高すぎると基体へのダメージが大きいため0W~1,500Wが好ましく、50W~600Wがより好ましい。
【0069】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、スズ含有薄膜の形成後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200℃~1,000℃が好ましく、250℃~500℃がより好ましい。
【0070】
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造されるスズ含有薄膜は、他のプリカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の基体を被覆して、所望の種類の薄膜とすることができる。本発明のスズ含有薄膜は電気特性及び光学特性に優れるため、例えば、DRAM素子に代表されるメモリー素子の電極材料、抵抗膜、ハードディスクの記録層に用いられる反磁性膜及び固体高分子形燃料電池用の触媒材料等の製造に広く用いることが可能である。
【0071】
本実施形態では、ALD法によりスズ含有薄膜を製造する方法について説明したが、本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する方法は、上記に限定されるものではなく、
薄膜形成用原料を気化させた原料ガスを基体が設置された堆積反応部に導入し、原料ガス中のスズ化合物を、堆積反応部内で、分解及び/又は化学反応させて、基体の表面にスズ含有薄膜を製造する方法であればよい。
例えば、本発明のスズ化合物を含む薄膜形成用原料を用い、CVD法によりスズ含有薄膜を製造してもよく、この場合には、原料ガスと反応性ガスを基体が設置された堆積反応部に導入し、堆積反応部内で原料ガス中のスズ化合物と反応性ガスとを反応させて、基体の表面にスズ含有薄膜を製造する。
【0072】
さらに、本発明のスズ化合物は、上述したALD法及びCVD法以外に、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法及びゾルゲル法等のMOD法による薄膜形成用原料としても用いることができる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有していることから、ALD法が好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、製造例、実施例等を用いて本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって制限を受けるものではない。
【0074】
〔製造例1〕化合物No.5の合成
100mlの3つ口フラスコに、ジメチルスズジクロリド1.9g(0.009mol)、ジエチルエーテル12.6gを入れて、室温下で撹拌した。撹拌後、氷冷して、N,N’-ジメチルエチレンジアミン0.8g(0.009mol)、ジエチルエーテル12.9g及びn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液7.6g(n-ブチルリチウムが0.009mol)をあらかじめ調製した溶液を、氷冷下で滴下した。滴下後、室温まで昇温し、18時間撹拌した。撹拌後、濾別し、得られた濾液を脱溶媒して得られた残渣を、クーゲルロール精製装置を用いて、加熱温度115℃、圧力87Paの条件で蒸留を行い、白色ゲル固体を得た。得られた白色固体は、1H-NMR及びICP-AESによる分析の結果、目的化合物の化合物No.5であることを確認した。得られた白色固体の1H-NMR及びICP-AESによる分析結果を以下に示す。
【0075】
(1H-NMR(重ベンゼン))による分析結果
0.11ppm(6H、s)、2.54(6H、s)、2.83ppm(4H、bs)
【0076】
(ICP-AESによる分析結果)
スズ含有量:49.8質量% (理論値:50.53質量%)
【0077】
〔製造例2〕化合物No.6の合成
300mlの四つ口フラスコに、ジメチルスズジクロリド11.5g(0.052mol)及びジエチルエーテル32.0gを入れて、室温下で撹拌した。撹拌後、氷冷して、N,N’-ジエチルエチレンジアミン6.5g(0.056mol)、ジエチルエーテル30.5g及びn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液47.1g(n-ブチルリチウムが0.110mol)により調製した溶液を氷冷下で滴下した。滴下後、室温まで昇温し、17時間撹拌した。撹拌後、濾別して得られた濾液を脱溶媒し、残渣をバス温度90℃、微減圧下で蒸留を行い、無色液体3.6gを得た。得られた無色液体は、1H-NMR及びICP-AESによる分析の結果、目的化合物の化合物No.6であることを確認した。得られた白色固体の1H-NMR及びICP-AESによる分析結果を以下に示す。
【0078】
(1H-NMR(重ベンゼン)による分析結果)
21ppm(6H、s)、1.04-1.08(6H、t)、2.97ppm(4H、m)、3.04ppm(4H、bs)
【0079】
(ICP-AESによる分析結果)
スズ含有量:45.2質量% (理論値:45.14質量%)
【0080】
〔製造例3〕化合物No.7の合成
300mlの四つ口フラスコに、ジメチルスズジクロリド12.5g(0.057mol)及びジエチルエーテル49.8gを入れて、室温下で撹拌した。撹拌後、氷冷して、N,N-ジイソプロピルエチレンジアミン8.9g(0.062mol)、ジエチルエーテル42.2g及びn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液51.3g(n-ブチルリチウムが0.119mol)により調製した溶液を、氷冷下で滴下した。滴下後、室温に昇温してから、20時間撹拌し、濾別した。得られた濾液を脱溶媒して残渣をバス温度100℃、微減圧下で蒸留を行い、無色液体11.7gを得た。得られた無色液体は、1H-NMR及びICP-AESによる分析の結果、目的化合物のNo.7であることを確認した。得られた白色固体の1H-NMR及びICP-AESによる分析結果を以下に示す。
【0081】
(1H-NMR(重ベンゼン))による分析結果
31ppm(6H、s)、1.05-1.07(12H、d)、3.13ppm(4H、s)、3.16-3.22(2H、m)
【0082】
(ICP-AESによる分析結果)
スズ含有量:40.9質量% (理論値:40.79質量%)
【0083】
〔評価例〕
上記製造例1~3で得られた実施例1~3の化合物を用いて、下記の評価を行った。これらの結果についてそれぞれ表1に示す。
【0084】
(1)状態及び融点の評価
目視によって、常圧25℃における化合物の状態を観察し、固体化合物については微小融点測定装置を用いて融点を測定した。これらの結果について、それぞれ表1に示す。
【0085】
(2)熱分解開始温度(℃)
示差走査熱量計DSCを用いて、昇温速度10℃/分、走査温度範囲を70℃~500℃として測定したDSCチャートにおいて、発熱反応がピークトップになる温度を、「熱分解開始温度(℃)」とした。これらの結果についてそれぞれ表1に示す。
【0086】
(3)常圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)
TG-DTAを用いて、760Torr、Ar流量:100mL/分、昇温速度10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、試験化合物の重量が50質量%減少した時の温度(℃)を「常圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)」として評価した。常圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)が低いほど、低温で蒸気が得られることを示す。これらの結果についてそれぞれ表1に示す。
【0087】
(4)減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)
TG-DTAを用いて、10Torr、Ar流量:50mL/分、昇温速度10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、試験化合物の重量が50質量%減少した時の温度(℃)を「減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)」として評価した。減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)が低いほど、低温で蒸気が得られることを示す。これらの結果についてそれぞれ表1に示す。
【0088】
【0089】
[実施例4]ALD法によるスズ含有薄膜の製造
化合物No.7(実施例3)を薄膜形成用原料として、
図1のALD装置を用いて下記の条件でシリコンウェハ上にスズ含有薄膜を製造した。得られた薄膜についてX線光電子分光法で薄膜組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素は検出されなかった。また、走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は17.2nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.049nmであった。なお、化合物No.7のALDウィンドウは50℃~200℃であることを確認した。
【0090】
(ALD装置条件)
基体:シリコンウェハ
反応温度(シリコンウェハ温度):75℃
反応性ガス:水蒸気
【0091】
(工程)
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、350サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:50℃、原料容器内圧力:100Paの条件で気化させた薄膜形成用原料の蒸気(原料ガス)を堆積反応部に導入し、系圧力:100Paで60秒間、シリコンウェハの表面にスズ化合物を堆積させて、前駆体層を形成する。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、基体の表面に堆積しなかったスズ化合物を含む原料ガスを堆積反応部から排気する。
(3)反応性ガスを堆積反応部に導入し、系圧力:100Paで60秒間、前駆体層と反応性ガスを反応させる。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応の反応性ガス及び副生ガスを堆積反応部から排気する。
【0092】
[比較例1]
薄膜形成用原料として、下記の比較化合物No.1を用いた以外は、実施例4と同様の条件で酸化スズ薄膜を製造した。得られた薄膜についてX線光電子分光法で薄膜組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素は10atom%以上含有していた。走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は14.0nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.04nmであった。なお、比較化合物No.1のALDウィンドウは50℃~150℃であることを確認した。
【0093】
【0094】
実施例2,3より、本発明のスズ化合物は熱分解開始温度が200℃以上であり、熱安定性に優れることを確認できた。また、実施例1~3より、本発明のスズ化合物は、常圧TG-DTA50質量%減少時の温度が200℃以下であり、減圧TG-DTA50質量%減少時の温度が180℃以下であることから、高い蒸気圧を示し、より低温で気化されることが、確認できた。
【0095】
また、比較例1より、本発明以外のスズ化合物を薄膜形成用原料に用い、ALD法により薄膜を製造した場合、得られた薄膜は、炭素成分が薄膜中に大量に残留していたのに対し、実施例4より、本発明のスズ化合物を含有する薄膜形成用原料を用いて製造した薄膜は、残留炭素は検出されず、品質の良いスズ含有薄膜を製造できることが確認できた。また、ALDウィンドウは、本発明の薄膜形成用原料の方が、比較化合物No.1を含有する薄膜形成用原料よりも広いことが確認できた。
以上より、本発明のスズ化合物は、優れた熱安定性と高い蒸気圧を示し、本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造した場合、広範囲なALDウィンドウを有し、高品質なスズ含有薄膜を製造できることを確認した。