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特許7592780交通参加者行動を予測する方法、運転システムおよび車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】交通参加者行動を予測する方法、運転システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023066111
(22)【出願日】2023-04-14
(65)【公開番号】P2023162129
(43)【公開日】2023-11-08
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】22169922
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522296653
【氏名又は名称】コンチネンタル・オートモーティヴ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Continental-Plaza 1, 30175 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】イェルク・ライヒャルト
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-516382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通参加者行動を予測する方法において:
第1時間において少なくとも1つの交通参加者の第1キネマティック状態分布を取得するステップと;
第2時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第2キネマティック状態分布(13)を投影するステップであって、前記第2時間は、前記第1時間から未来への第1時間スパンであるステップと;
軌道分布(14)を定義するステップであって、前記軌道分布(14)の各軌道が前記第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を前記第2キネマティック状態分布(13)のキネマティック状態にリンクさせているステップと;
第3時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第3キネマティック状態分布(15)を取得するステップであって、前記第3時間は前記第1時間よりも後の第2時間スパンであり、前記第2時間スパンは、前記第1時間スパンよりも短いステップと;
前記第3キネマティック状態分布(15)と前記第3時間における前記軌道分布(14)の前記軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態分布との間の適合性を決定するステップと;
前記決定された適合性に基づいて前記軌道分布(14)の前記軌道に確率を割り当てるステップとを備える方法。
【請求項2】
前記第1キネマティック状態分布、前記第2キネマティック状態分布(13)および/または前記第3キネマティック状態分布(15)は、群のうちの少なくとも1つを備え、前記群は、位置、速度、加速度およびジャークからなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの交通参加者は、自車両(11)および/または少なくとも1つの他の交通参加者である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの交通参加者の前記第1キネマティック状態分布および/または前記第3キネマティック状態分布(15)は、複数物体複数仮説トラッカを用いて、前記少なくとも1つの交通参加者を追跡することにより取得される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2キネマティック状態分布(13)を投影するステップにおいて、前記少なくとも1つの交通参加者と静的環境および/または前記少なくとも1つの交通参加者同士の相互作用が考慮に入れられる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1時間スパンは、3秒~10秒、または約5秒である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記軌道分布(14)の前記軌道は、パラメータ軌道表現を用いて与えられる、すなわち前記軌道は、キネマティック空間における点集合ではなく、時間の関数として与えられ、この時間の関数は、パラメータの数に依存する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記軌道分布(14)の前記軌道は、所定数の基底関数の線形結合として与えられ、前記所定数は、空間次元毎に5~8、または6である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基底関数は、単項式またはバーンスタイン多項式である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第3キネマティック状態分布と前記第3時間における前記軌道分布(14)の前記軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態分布との間の適合性を決定するステップ;および
前記決定された適合性に基づいて前記軌道分布(14)の前記軌道に確率を割り当てるステップは、
コスト関数を設定するステップと;
前記第2キネマティック状態分布(13)の離散オプションに関して前記コスト関数を最小化するステップと;
前記最小化されたコスト関数の1つの最小値および/または複数の最小値を求めるために標準複数物体複数仮説トラッカアルゴリズムを適用するステップとを備える請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
第4時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第4キネマティック状態分布を予測するステップにおいて、前記第4時間は、前記第3時間と前記第2時間との間であり、前記第4キネマティック状態分布のキネマティック状態は、前記軌道分布(14)により与えられた前記軌道の前記確率を用いた、前記第4時間における前記軌道分布(14)の各軌道の評価から得られるステップを前記方法(1)はさらに備える請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記予測された第4キネマティック状態分布は、マルチモーダル分布、または複数物体マルチモーダル分布である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記軌道分布(14)に基づいておよび/または前記予測された第4キネマティック状態分布に基づいて前記自車両(11)を制御するステップを前記方法(1)はさらに備える請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項13に記載の前記方法(1)を実行するように構成される運転システムおよび/または運転者支援システムおよび/または自律運転システム。
【請求項15】
請求項14に記載の運転システムを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通参加者行動を予測する方法、この交通参加者行動を予測する方法を実行するように構成される運転システム、特に、運転者支援システムおよび/または自律運転システム、ならびにこの運転システムを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
安全および/または快適な運転を提供するために、運転システム、例えば、運転者支援システムおよび/自律運転システムは、先行プラニングを必要とする。この文脈において、先行とは、運転システムが、車両周囲における動的エージェント、つまり、交通参加者の未来の運動に関する見込みを組み入れることができることを意味する。
【0003】
一般に、運転システムは、環境におけるエージェントの運動プランへのアクセスを有しておらず、エージェントがその意図について明白に能動的に信号で知らせることは稀である。従って、エージェントの未来の行動を予測するために、運転システムは、過去の観測値に基づいて推論する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エージェントのキネマティック状態(位置、速度、加速度)に基づく単純な外挿は、一般に、未来の約2秒までしか有効ではない。その一方、運転システムにはこれよりも長期の予測が有益とされる。
【0005】
周知の軌道予測システムは、多くの場合、過去の観測値のみに基づく予測を行い、新規の予測は、予測が行われて以来収集された観測値により過去の予測がサポートされているか否かに照らして、過去の予測を評価することなく行われており、つまり、新規の予測は追跡アルゴリズムを組み入れていない。
【0006】
他の周知の軌道予測システムは、現在の観測値から時間的に前進して軌道予測を生成する。これにより、予測誤差が蓄積するため、演算的にコストがかかり、多くの場合、動的に実現不可能な軌道が得られることになる。
【0007】
従って、本発明の課題は、改善された、交通参加者行動を予測する方法、それに対応する運転システムおよびそのような運転システムを備える車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、独立請求項の主題により解決され、さらなる形態は独立請求項に含まれている。
【0009】
本発明の第1態様によると、交通参加者行動を予測する方法が提供される。この文脈において、交通は、陸上交通を示すものであってよく、例示的な交通参加者は、歩行者、自転車乗用者、自動二輪車、乗用車、トラックである。代替的または追加的に、交通は、航空交通を示すものであってよく、例示的な交通参加者は、飛行機、ヘリコプタ、飛行船、熱気球、ドローンであり、および/または海上交通を示すものであってよく、例示的な交通参加者は、船である。また、この文脈において、行動は、交通参加者の運動、例えば、その位置、速度および/または加速度を示す。
【0010】
本方法によると、第1時間において少なくとも1つの交通参加者の第1キネマティック状態分布が取得される。ここで、第1時間は、好ましくは、現時点または現時点の直前の時間、つまり、現時点の最大で1秒前、好ましくは、現時点の数分の1秒前である。つまり、第1キネマティック状態分布は、リアルタイムで取得される。
【0011】
特に、第1キネマティック状態分布は、第1キネマティック状態変数の分布であり、確率密度が全ての第1キネマティック状態変数に同時に割り当てられる。
【0012】
また、少なくとも1つの交通参加者の第2キネマティック状態分布が投影され、第2キネマティック状態分布のキネマティック状態変数は、第2時間における少なくとも1つの交通参加者のキネマティック状態変数である。第2時間は、第1時間から未来への第1時間スパンであり、つまり、第2時間と第1時間との差は第1時間スパンである。第2キネマティック状態分布は、各交通参加者に関して、キネマティック状態変数の連続的および/または排反する分布であってよい。
【0013】
その次に、軌道分布が定義され、軌道分布の各軌道が第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を第2キネマティック状態分布のキネマティック状態にリンクさせている。つまり、軌道が第1時間で評価される場合、この軌道は第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を有し、軌道が第2時間で評価される場合、この軌道は第2キネマティック状態分布のキネマティック状態を有するように各軌道は構成されている。また、中間キネマティック状態が軌道により与えられ、つまり、交通参加者の経路とこの経路に沿う運動との両方が軌道により与えられる。
【0014】
また、少なくとも1つの交通参加者の第3キネマティック状態分布が取得され、第3キネマティック状態分布は、第3時間におけるキネマティック状態の確率分布である。第3時間は第1時間よりも後の第2時間スパンであり、第2時間スパンは、第1時間スパンよりも短い。特に、第2時間スパンは、第1時間スパンよりも大幅に短い。一例として、第2時間スパンは、キネマティック状態分布の2つの連続する決定間の時間に対応してよく、つまり、第3キネマティック状態分布は、第1キネマティック状態分布後の決定されたキネマティック状態分布の次の反復である。さらに一例として、第2時間スパンは、数分の1秒、例えば、10分の1秒または2分の1秒または1秒であってもよい。
【0015】
次に、第3時間において軌道分布の軌道が評価され、つまり、第3時間における軌道に対応するキネマティック状態が決定される。第3キネマティック状態分布と第3時間における軌道の評価から得られたキネマティック状態変数の分布との間の適合性が決定される。つまり、得られた第3キネマティック状態と軌道は適合しているか否か、つまり、どの確率で第3キネマティック状態が軌道上に位置するかが決定される。
【0016】
この決定された適合性に基づいて、確率が軌道分布の軌道に割り当てられ、つまり、軌道の確率分布が更新される。軌道は第2キネマティック状態に対応しているため、軌道分布の軌道への確率の割り当ては、第2キネマティック状態分布のキネマティック状態への確率の割り当てに対応している。確率の割り当ては、ベイズ的に尤度計算として行われてよい。特に、いくつかの軌道および/または第2キネマティック状態はより尤もらしいと決定され、他の軌道および/または第2キネマティック状態はあまり尤もらしくないと決定される。
【0017】
第2キネマティック状態分布は行われる唯一の投影であり、キネマティック状態の剰余は、第2キネマティック状態に対応する軌道から決定されるため、本方法により良好な演算効率が得られる。
【0018】
様々な軌道が様々な操作、例えば、車線変更または車線維持に対応する場合があることから、様々な軌道の確率を評価することにより、操作確率を堅実な統計学的手法を用いて評価することができるようになる。
【0019】
実施形態によると、第1キネマティック状態分布、第2キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布は、群のうちの少なくとも1つを備え、群は、位置、速度、加速度およびジャークからなり、ジャークは、位置の3階時間微分である。この群からの選択は、第1キネマティック状態分布、第2キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布について同一である必要は必ずしもないことが理解されるが、好ましい実施形態において、第1キネマティック状態分布、第2キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布の各々は、位置、速度および加速度を備える。当然、第1キネマティック状態分布、第2キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布のキネマティック状態は、位置のさらに高階の時間微分も備えてよい一方、これらさらに高階の微分は得ることがますます難しく、これらさらに高階の微分における不確かさは非常に大きい。陸上車両および海上車両に関しては、多くの場合、キネマティック状態を2次元、つまり、水平面に限定すれば十分である。他方、航空交通に関しては、キネマティック状態は、垂直次元も含むべきである。
【0020】
実施形態によると、少なくとも1つの交通参加者は、自車両および/または少なくとも1つの他の交通参加者である。この文脈において、車両は、任意の陸上、航空または海上の車両であってよく、本方法を実行するように構成されるスマートデバイスを有する歩行者でさえも「車両」と称されてよい。一例として、本方法は、自車両のセンサにより検出可能な全ての交通参加者について実行されてよい。さらに一例として、本方法は、自車両のセンサにより検出可能な、自車両から所定半径内の全ての交通参加者について実行されてよい。この所定半径は、例えば、自車両の速度等に依存してよい。さらに一例として、本方法は、自車両に最接近している最大で所定数の交通参加者について実行されてよい。さらに一例として、本方法は、第2時間までに自車両に接近してくる可能性がある全ての交通参加者について実行されてよい。
【0021】
実施形態によると、少なくとも1つの交通参加者の第1キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布は、少なくとも1つの交通参加者を追跡することにより取得される。ここで、追跡は、自車両のセンサ、例えば、カメラ、ライダおよび/またはレーダを用いて行われる。特に、追跡は、観測値と共に物体の識別を把握する複数物体複数仮説トラッカを用いて行われる。当然、少なくとも1つの交通参加者が自車両である場合、第1キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布は、例えば、速度計の測定、ハンドル角の測定、慣性計測装置による測定等を介して決定されてよい。この場合、第1キネマティック状態分布および/または第3キネマティック状態分布は非常に幅狭であってよく、上記測定における不確かさに対応する確率分布の幅を有してよい。
【0022】
実施形態によると、第2キネマティック状態分布を投影するステップにおいて、少なくとも1つの交通参加者と静的環境の相互作用が考慮に入れられる。このために、例えば、マップおよび/または車両センサから、静的環境に関するデータが提供されてよい。一例として、モータビークルの考えられる第2キネマティック状態は道路においてのみ選択されてよく、歩道、建物内部(屋内駐車場を除く)または草地においては選択されない。第2キネマティック状態分布の考えられるキネマティック状態は、追い越しが許可され、例えば、遅い先行車両による表示がなされていない限り、道路の正しい側にさらに限定され、またはさらなる交通規則に従って限定される。また、第2キネマティック状態分布の考えられるキネマティック状態は、実行可能なキネマティック特性を有する軌道、例えば、車両の最高速度を超過しないか、車両の実現可能な加速度を超過しない軌道が得られるような状態に限定されてよい。これらの規定により、多くの場合、第2キネマティック状態分布において複数の局所化されたピークが生じ、マルチモーダル分布が得られる。
【0023】
追加的または代替的に、交通参加者同士の相互作用が考慮に入れられてよい。ここで、例えば、交通参加者が衝突を回避することが考慮に入れられてよい。さらに一例として、1つの交通参加者の異なる行動が、別の交通参加者の異なる状況を生じさせる場合がある。具体例として、遅い先行車両が交差点で右折する場合、直進ならばこの車両を追い越す必要はない。さらに一例として、交通規則は、別の交通参加者が右折、直進または左折するか否かに応じて、交差点で異なる行動を要求する。これらの規則が適用される場合、各交通参加者について第2キネマティック状態分布において複数の局所化されたピークが存在することになり、上述のように、これらのピークは、他の交通参加者の第2キネマティック状態分布に依存する。従って、その結果得られる確率分布は、複数物体マルチモーダル分布である。
【0024】
実施形態によると、第1時間スパンは、3秒~10秒、特に、約5秒である。これより短い第1時間スパンは、キネマティック状態の単純なキネマティック外挿を超える情報をあまり与えるものではない。その一方、これより長い時間スパンは信頼性高く予測することができないのは、各交通参加者の行動の複数の変化の時間を提供するからであり、これらの変化を正確に予測するエビデンスが十分ではない。また、10秒の時間スパン、そして5秒の時間スパンでさえも、通常の場合、安全で快適な運転を提供するのに十分である。
【0025】
実施形態によると、軌道分布の軌道は、パラメータ軌道表現を用いて与えられる。つまり、軌道は、キネマティック空間における点集合ではなく、時間の関数として与えられ、この時間の関数は、パラメータの数に依存する。各軌道が第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を第2キネマティック状態分布のキネマティック状態にリンクさせる必要があるため、第1時間において評価された軌道は、第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を戻す必要があり、第2時間に置いて評価された軌道は、第2キネマティック状態分布のキネマティック状態を戻す必要がある。従って、軌道のパラメータは、これらの要件が満たされるように選択される必要がある。ある程度の退化が存在しない限り、軌道の一意的な定義を提供するために、パラメータの数は境界値の数と等しい必要がある。一例として、第1および第2キネマティック状態分布のキネマティック状態の各々について位置、速度および加速度が与えられる場合、第1キネマティック状態分布のキネマティック状態から空間次元毎に3個の境界値が存在し、第2キネマティック状態分布のキネマティック状態から空間次元毎に3個の境界値が存在する。従って、空間次元毎に合計で6個の境界値が存在し、軌道の一意的な定義には、パラメータ表現のパラメータ数は、空間次元の数の6倍である必要がある。
【0026】
実施形態によると、軌道は、所定数の基底関数の線形結合として与えられる。従って、パラメータは、基底関数の各々の係数である。この場合、基底関数とその導関数(第1および第2キネマティック状態分布が位置、速度および加速度を備える場合は1階および2階)を第1時間で評価し、そして第2時間で評価することでも十分である。その場合、パラメータを求める問題は、単純な線形方程式系へと還元される。
【0027】
特に、所定数は、空間次元毎に5~8、最も特に6である。空間次元毎の5個の基底関数は、例えば、第1キネマティック状態分布のキネマティック状態の位置、速度および加速度ならびに第2キネマティック状態分布のキネマティック状態の位置および速度に対応する。空間次元毎の6個の基底関数は、例えば、第1キネマティック状態分布および第2キネマティック状態分布の両方のキネマティック状態の位置、速度および加速度に対応する。空間次元毎の8個の基底関数は、例えば、第1キネマティック状態分布および第2キネマティック状態分布の両方のキネマティック状態の位置、速度、加速度およびジャークに対応する。多くの場合、空間次元毎の6個の基底関数は、正確度と利用可能なキネマティック状態データとの間の最適なトレードオフである。空間次元毎の5個未満の基底関数は、正確度の損失となり、空間次元毎の8個超の基底関数は、通常の場合、利用可能なキネマティック状態データによりサポートされない。
【0028】
実施形態によると、基底関数は単項式であり、つまり、軌道は、
【数1】
として与えられ、他の空間次元についても同様であり、Nは基底関数の数、aは係数である。多くの応用について、この単純なアプローチにより軌道の優れたパラメータ化が得られる。
【0029】
代替的に、基底関数はバーンスタイン多項式であり、つまり、
【数2】
である。ここで、第1時間と第2時間は、第1時間がt=0、第2時間がt=1であるようにスケールされる必要がある。このアプローチにより、パラメータ値が特に直感的で解釈可能になる。
【0030】
実施形態によると、第3キネマティック状態分布と第3時間における軌道分布の軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態変数の分布との間の適合性を決定するステップと、決定された適合性に基づいて軌道分布の軌道に確率を割り当てるステップは、以下のように解かれる。
【0031】
まず、コスト関数を設定する。このコスト関数は、第1時間における交通参加者xに依存し、第1時間における交通参加者xとは、第1キネマティック状態分布が取得された際の交通参加者であるが、第1時間においてまだ検出されなかった交通参加者xも包含してよい。ここで、添字jは第1時間において検出された交通参加者の数に未検出の交通参加者の数を加えたものに等しい。コスト関数は、第2時間における交通参加者xの未来のオプションo j,k_jにも依存してよく、この未来のオプションは、第2キネマティック状態分布の離散オプションである。最後に、コスト関数は、第3時間において検出された交通参加者o、つまり、第3キネマティック状態分布が取得された際の交通参加者に依存する。
【0032】
ここで、コスト関数o j,k_j:Cijk_j=-lnP(o|x,o j,k_j)は、観測oが、未来のオプションo j,k_jを有する物体xについて行われる確率の負の対数尤度として与えられる。
【0033】
このコスト関数に関するデータ関連性問題は、最小値
【数3】
を求めることであり、データ関連性行列Xijk_jは全てのiについて
【数4】
、全てのjについて
【数5】
の性質を有する。特に、データ関連性行列は0と1の成分のみを有する。
【0034】
複数物体複数仮説トラッカから知られる標準アルゴリズムを用いてデータ関連性問題を解くために、第2キネマティック状態分布の離散オプションに関して、つまり、k_jに関してコスト関数を最小化して、最小化されたコスト関数
【数6】
を得る。最小化されたコスト関数の各成分となる第2キネマティック状態分布のオプションは、
【数7】
により与えられる。この場合、未来のオプションが与えられた時、観測値への物体の割り当ては、タプル(i,j,k_j)のリストにより与えられてよい。
【0035】
最後に、最小化されたコスト関数の最小値または所定数の(最も低い)最小値を求めるために標準複数物体複数仮説トラッカアルゴリズムを適用し、つまり、式
【数8】
が解かれ、ここでもXはデータ関連性行列であり、全てのiについて
【数9】
、全てのjについて
【数10】
である。
【0036】
この効率的な標準複数物体複数仮説トラッカアルゴリズムが利用可能であるため、コスト関数を最小化するための演算コストは、本来の最小化問題
【数11】
の直接的な解法と比べて低い。
【0037】
実施形態によると、本方法は、少なくとも1つの交通参加者の第4キネマティック状態分布を予測するステップをさらに備える。ここで、第4キネマティック状態分布は、第4時間におけるキネマティック状態の確率分布を含む。特に、この第4時間は、第3時間と第2時間との間であり、つまり、未来であるが、第2時間により有界である。この第4キネマティック状態分布は、上述のように、第4時間における軌道分布の軌道の各々の評価から得られる。ここで、第4キネマティック状態分布のキネマティック状態の確率は、軌道分布により与えられた確率を通して決定される。
【0038】
実施形態によると、予測された第4キネマティック状態分布は、マルチモーダル分布である。これは、特に、第2キネマティック状態分布が、例えば、静的環境との相互作用の要件に起因して、既にマルチモーダル分布である場合である。特に、第4キネマティック状態分布は、複数物体マルチモーダル分布である。これは、特に、第2キネマティック状態分布が、例えば、互い同士の相互作用の要件に起因して、既に複数物体マルチモーダル分布である場合である。この場合、これらの分布の確率は、通常、同時確率であり、分解は適用されないことが指摘される必要がある。
【0039】
実施形態によると、本方法は、軌道分布に基づいておよび/または第4キネマティック状態分布に基づいて自車両を制御するステップをさらに備える。つまり、自車両およびそれ以外の交通参加者の予測された軌道を用いて、最も安全、最も快適、最も効率的および/または最も高速の運転となる軌道が求められる。この場合、自車両は制御され、例えば、速度と方向が調整され、自車両はそれに対応する自車両の軌道に沿って移動される。このために、本方法は、高速で確実な軌道予測を提供する。
【0040】
本発明の第2態様によると、運転システムが提供される。この運転システムは、運転者支援システムおよび/または自律運転システムであってよい。運転システムは、上記記載による方法を実行するように構成される。従って、特に、運転システムは、交通参加者軌道分布を予測し、自車両にとって最も安全、最も快適、最も効率的および/または最も高速の運転を提供する軌道を選択する。
【0041】
本発明の第3態様によると、上記記載による運転システムを備える車両が提供される。従って、車両の運転システムは、自車両にとって最も安全、最も快適、最も効率的および/または最も高速の運転を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下の説明において一例として記載される実施形態と添付の図面を参照することによりさらに明らかになり、解明される。
【0043】
図1図1は、交通参加者行動を予測する方法のフロー図を示す。
図2図2は、予測された交通参加者行動に基づいて車両を制御する方法のフロー図を示す。
図3図3は、交差点における自車両の上面図を示す。
【0044】
図は純粋に模式的であり、縮尺通りではないことに注意すべきである。図中、既に説明された要素に対応する要素には同じ参照符号が付されていることがある。実施例、実施形態または任意の特徴は、非限定的であると示されているか否かにかかわらず、特許請求される発明を限定するものと理解されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、交通参加者行動を予測する方法1のフロー図を示す。この方法のステップ2において、第1時間において少なくとも1つの交通参加者の第1キネマティック状態分布が取得される。第1キネマティック状態分布のキネマティック状態は、位置、速度、加速度またはジャークのうちの少なくとも1つであってよい。少なくとも1つの交通参加者は、自車両および/または他の交通参加者であってよい。交通参加者は、例えば、歩行者、二輪乗用者、自動二輪車、乗用車、トラック等の陸上車両、例えば、飛行機、ヘリコプタ、飛行船、熱気球、ドローン等の航空車両および/または、例えば、船等の海上車両であってよい。第1キネマティック状態分布の取得は、自車両のセンサ、例えば、カメラ、ライダおよび/またはレーダを用いて、特に、複数物体複数仮説トラッカを用いて、少なくとも1つの交通参加者を追跡することにより行われてよい。
【0046】
この方法のステップ3では、第2時間においてこの少なくとも1つの交通参加者の第2キネマティック状態分布が投影される。ここで、第2時間は、第1時間から未来への第1時間スパンである。この第1時間スパンは、3秒~10秒、特に、約5秒であってよい。この投影された第2キネマティック状態分布のキネマティック状態は、擬似観測値と称されてもよい。
【0047】
第2キネマティック状態分布の投影には、少なくとも1つの交通参加者と静的環境4との相互作用が考慮に入れられる。つまり、経路オプションが、例えば、マップおよび/またはセンサ測定値に基づいて生成される。特に、第2キネマティック状態分布内のキネマティック状態は、許可されない場合には除外される。
【0048】
また、第2キネマティック状態分布の投影には、他の交通参加者との相互作用が考慮に入れられ、他の交通参加者のデータは、ステップ2で取得された第1キネマティック状態分布に由来する。
【0049】
ステップ2で取得された第1キネマティック状態分布およびステップ3で投影された第2キネマティック状態分布に基づいて、軌道分布の各軌道が第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を第2キネマティック状態分布のキネマティック状態にリンクさせている、軌道分布がステップ5において定義される。軌道分布のこの軌道は、特に、パラメータ軌道表現を用いて、特に、所定数の基底関数の線形結合として与えられてよい。例えば、第1および第2キネマティック状態分布のキネマティック状態が、各々、位置、速度および加速度を備える場合、軌道が一意的に定義されるように空間次元毎に6個の基底関数が存在するはずである。
【0050】
また、ステップ5は、第3時間における軌道分布の軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態分布を予測することを備え、第3時間は、第1時間よりも後の第2時間スパンであり、第2時間スパンは、第1時間スパンよりも短い。従って、第3時間は第1時間と第2時間との間である。ステップ5において、確率を把握するために、カルマンフィルタが用いられてよい。
【0051】
ステップ6では、第3時間において少なくとも1つの交通参加者の第3キネマティック状態分布が取得される。これは、第1キネマティック状態分布の取得と同様に行われ、特に、センサからの新規観測値が評価される。
【0052】
ステップ7では、ステップ6で直接的に取得された第3キネマティック状態分布とステップ5での第3時間における軌道分布の評価から得られた第3時間におけるキネマティック状態分布との間の適合性が決定される。特に、データ関連性コスト行列が設定され、それに対応するデータ関連性問題が解かれる。
【0053】
データ関連性問題の解法を用いて、軌道トラッカのカルマン更新ステップがステップ8において実行される。その後、軌道分布の確率がステップ9において更新され、特に、第1キネマティック状態分布における所定数M個の最も尤もらしいキネマティック状態のリストと第3キネマティック状態分布における所定数M個の最も尤もらしいキネマティック状態のリストが更新される。従って、交通参加者行動の予測が行われたことになる。
【0054】
その後、ステップ9の更新された確率は、ステップ2の入力として再び用いられてよい。
【0055】
図2は、予測された交通参加者行動に基づいて車両を制御する方法1のフロー図を示す。この方法のステップ2~ステップ9は、交通参加者行動を予測する方法1と同一である。その一方、ステップ9の結果は、ステップ10で自車両を制御するために、運転システム、特に、運転者支援システムおよび/または自律運転システム用の入力として用いられる。
【0056】
一例として、図3は、交差点12における自車両11の上面図を示す。自車両11の第2キネマティック状態分布13は、3つの離散オプション13.1,13.2,13.3を備え、第1オプション13.1は、直進車両に対応し、第2オプション13.2は、右折車両に対応し、第3オプション13.3は、左折車両に対応する。これら離散オプション13.1,13.2,13.3の各々について、軌道14.1,14.2,14.3はそれぞれ、自車両の現在位置、つまり、第1キネマティック状態を第2キネマティック状態分布のキネマティック状態にリンクさせていることを示している。
【0057】
第3キネマティック状態分布15が後の時間に取得される場合、この第3キネマティック状態分布15とそのような後の時間に評価された軌道14との適合性を、自車両の未来の行動を予測するために用いることができる。
【0058】
2つ以上の交通参加者が関与する場合、つまり、自車両以外に少なくとも1つの交通参加者が関与する場合、車両の第2キネマティック状態分布は互いに依存し合い、相異なる離散オプションの確率は、一般に、分解されない。
【0059】
図面、本開示および添付の特許請求の範囲を詳細に検討すれば、特許請求される発明を実施する当業者は、開示されている実施形態の他の変形例を理解し実現することができる。上記において、「備える」という用語は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除するものではない。ある手段が互いに異なる従属上記において記載されているという単なる事実は、これら手段の組み合わせを有利に用いることができないということを示すものではない。上記における参照符号は、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る:
1.
交通参加者行動を予測する方法において:
第1時間において少なくとも1つの交通参加者の第1キネマティック状態分布を取得するステップと;
第2時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第2キネマティック状態分布(13)を投影するステップであって、前記第2時間は、前記第1時間から未来への第1時間スパンであるステップと;
軌道分布(14)を定義するステップであって、前記軌道分布(14)の各軌道が前記第1キネマティック状態分布のキネマティック状態を前記第2キネマティック状態分布(13)のキネマティック状態にリンクさせているステップと;
第3時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第3キネマティック状態分布(15)を取得するステップであって、前記第3時間は前記第1時間よりも後の第2時間スパンであり、前記第2時間スパンは、前記第1時間スパンよりも短いステップと;
前記第3キネマティック状態分布(15)と前記第3時間における前記軌道分布(14)の前記軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態分布との間の適合性を決定するステップと;
前記決定された適合性に基づいて前記軌道分布(14)の前記軌道に確率を割り当てるステップとを備える方法。
2.
前記第1キネマティック状態分布、前記第2キネマティック状態分布(13)および/または前記第3キネマティック状態分布(15)は、群のうちの少なくとも1つを備え、前記群は、位置、速度、加速度およびジャークからなる上記1に記載の方法。
3.
前記少なくとも1つの交通参加者は、自車両(11)および/または少なくとも1つの他の交通参加者である上記1または2に記載の方法。
4.
前記少なくとも1つの交通参加者の前記第1キネマティック状態分布および/または前記第3キネマティック状態分布(15)は、特に、複数物体複数仮説トラッカを用いて、前記少なくとも1つの交通参加者を追跡することにより取得される上記1~3の何れか1つに記載の方法。
5.
前記第2キネマティック状態分布(13)を投影するステップにおいて、前記少なくとも1つの交通参加者と静的環境および/または前記少なくとも1つの交通参加者同士の相互作用が考慮に入れられる上記1~4の何れか1つに記載の方法。
6.
前記第1時間スパンは、3秒~10秒、特に、約5秒である上記1~5の何れか1つに記載の方法。
7.
前記軌道分布(14)の前記軌道は、パラメータ軌道表現を用いて与えられる上記1~6の何れか1つに記載の方法。
8.
前記軌道分布(14)の前記軌道は、所定数の基底関数の線形結合として与えられ、特に、前記所定数は、空間次元毎に5~8、最も特に6である上記7に記載の方法。
9.
前記基底関数は、単項式またはバーンスタイン多項式である上記8に記載の方法。
10.
前記第3キネマティック状態分布と前記第3時間における前記軌道分布(14)の前記軌道の各々の評価から得られたキネマティック状態分布との間の適合性を決定するステップ;および
前記決定された適合性に基づいて前記軌道分布(14)の前記軌道に確率を割り当てるステップは、
コスト関数を設定するステップと;
前記第2キネマティック状態分布(13)の離散オプションに関して前記コスト関数を最小化するステップと;
前記最小化されたコスト関数の1つの最小値および/または複数の最小値を求めるために標準複数物体複数仮説トラッカアルゴリズムを適用するステップとを備える上記1~9の何れか1つに記載の方法。
11.
第4時間において前記少なくとも1つの交通参加者の第4キネマティック状態分布を予測するステップにおいて、前記第4時間は、特に、前記第3時間と前記第2時間との間であり、前記第4キネマティック状態分布のキネマティック状態は、前記軌道分布(14)により与えられた前記軌道の前記確率を用いた、前記第4時間における前記軌道分布(14)の各軌道の評価から得られるステップを前記方法(1)はさらに備える上記1~10の何れか1つに記載の方法。
12.
前記予測された第4キネマティック状態分布は、マルチモーダル分布、特に、複数物体マルチモーダル分布である上記11に記載の方法。
13.
前記軌道分布(14)に基づいておよび/または前記予測された第4キネマティック状態分布に基づいて前記自車両(11)を制御するステップを前記方法(1)はさらに備える上記1~12の何れか1つに記載の方法。
14.
上記13に記載の前記方法(1)を実行するように構成される運転システム、特に、運転者支援システムおよび/または自律運転システム。
15.
上記14に記載の運転システムを備える車両。
【符号の説明】
【0060】
1 交通参加者行動を予測する方法
2 第1キネマティック状態分布の取得
3 第2キネマティック状態分布の投影
4 静的環境
5 軌道分布の定義
6 第3キネマティック状態分布の取得
7 適合性の決定
8 軌道トラッカの更新
9 軌道分布の更新
10 自車両の制御
11 自車両
12 交差点
13 第2キネマティック状態分布
13.1-13.3 第1~第3オプション
14 軌道分布
14.1-14.3 第1~第3オプション
15 第3キネマティック状態分布
図1
図2
図3