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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】表面保護フィルム及び光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/29 20180101AFI20241125BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241125BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20241125BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20241125BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20241125BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241125BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241125BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J7/38
C09J133/14
C09J175/04
C09J11/00
G02B5/30
B32B27/00 M
B32B27/30 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023128635
(22)【出願日】2023-08-07
(62)【分割の表示】P 2019086696の分割
【原出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2023160818
(43)【公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】ZACROS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 毅
(72)【発明者】
【氏名】春日 充
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038265(JP,A)
【文献】特開2017-056568(JP,A)
【文献】特開2017-156445(JP,A)
【文献】特開2014-233929(JP,A)
【文献】特開2018-159054(JP,A)
【文献】特開2011-037929(JP,A)
【文献】特開2018-193443(JP,A)
【文献】特開2013-216738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
G02B 5/30
B32B 27/00、 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーと、(D)架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、ポリエステルフィルムの基材の片面に積層してなる表面保護フィルムであって、
前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーと、を共重合させたアクリル系ポリマーであり、
前記基材の、前記粘着剤層が積層された面とは反対側の面に、基材の背面層が積層してなり、
前記基材の背面層が、シリコーン化合物を含まず、長鎖アルキルペンダント化合物を含有する樹脂組成物が積層された剥離層であり、水に対する接触角が110°以下であり、
前記表面保護フィルムが、離型フィルムを使用しないで巻き回してなり、前記基材の背面層と、前記粘着剤層とが接してなるロール体であり、
前記アクリル系ポリマーが、
前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートからなる化合物群の中から選択される少なくとも1種以上の合計の100重量部に対して、
前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、ポリアルキレンオキサイドを構成するアルキレンオキサイドの平均繰り返し数が4~14である化合物の少なくとも1種以上の合計を1.0~20重量部と、
前記(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーとして、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の合計を4.0~10重量部と、
を共重合させたアクリル系ポリマーであり、
前記粘着剤組成物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(D)架橋剤として、3官能以上のイソシアネート化合物であって、ヘキサメチレンジイソシアネートの、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物の合計を0.5~5重量部と、さらに、(E)架橋促進剤として、アルミキレート化合物、チタンキレート化合物、鉄キレート化合物からなる群から選択された少なくとも1種以上の合計を0.001~0.5重量部と、(F)ケトエノール互変異性体化合物を0.1~300重量部との割合で含有してなり、
前記(F)ケトエノール互変異性体化合物/前記(E)架橋促進剤の重量部比率が70~1000であり、
前記粘着剤層の厚みが1~20μmであり、
前記ロール体を巻き戻して、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度0.3m/minで剥離するときの剥離力が0.1N/25mm以下であり、
前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.3N/25mm以下であることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
前記基材の背面層が、前記剥離層の付着量が0.005g/m以上0.1g/m以下であことを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムの基材の厚みが38μmであり、
前記粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、剥離速度0.3m/minで剥離するときに0.01N/25mm以上0.1N/25mm以下であり、且つ剥離速度30m/minで剥離するときに1.0N/25mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表面保護フィルムが、貼合されてなることを特徴とする光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレーター(離型フィルム)を用いないセパレーターレスタイプの表面保護フィルムに関する。さらに詳細には、セパレーターレスタイプの、ロール状に巻回されているロール体の表面保護フィルムであって、前記基材の背面層が、印字性に優れ、シリコーンを含有する剥離層を備えていなくとも、前記基材の背面層と、前記粘着剤層との剥離力が低減され、且つ被着体に対する汚染性が低減された表面保護フィルムに関する。
さらに、本発明は、低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取り、被着体から高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できる、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの構成部材として使用される偏光板や位相差板などの、光学フィルムを製造する工程においては、その光学フィルムの表面に、表面保護フィルムを貼着して、光学フィルムの表面に汚れや傷が付くことを防止している。また、偏光板や位相差板などの光学フィルムの外観検査を、貼着した表面保護フィルムを剥離することなく行うこともある。そのため、表面保護フィルムを製造する工程においても、高度な清浄度が保たれるように管理し、ゴミの混入及び付着を防止することが求められている。
【0003】
ところで、表面保護フィルムは、典型的には、基材フィルムの片面に、微粘着性の粘着剤層を設けた構成を有している。粘着剤層は、表面保護フィルムを偏光板や位相差板などの光学フィルムに貼着するための層である。粘着剤層を微粘着性とするのは、用済み後の表面保護フィルムを、偏光板や位相差板などの光学フィルムから剥離除去するときに、円滑に剥離され、かつ糊残りがないようにするためである。
また、偏光板や位相差板などの光学フィルムの表面を保護するための表面保護フィルムは、「基材フィルム層/粘着剤層/剥離処理された離型フィルム層」の基本の層構成を有し、この状態で巻き回されたロール体として、偏光板や位相差板などの光学フィルムの製造者に提供されている。
また、表面保護フィルムの利用者となる、偏光板や位相差板などの光学フィルムの製造者では、前記ロール体の表面保護フィルムを巻き戻してから、剥離処理された離型フィルム層を剥がして、「基材フィルム層/粘着剤層」の構成をした表面保護フィルムを、粘着剤層を介して、偏光板や位相差板などの光学フィルムに貼着する。
このため、剥離処理された離型フィルムは、表面保護フィルムの粘着剤層を保護するためだけに役立つものであって、表面保護フィルムの粘着剤層から剥がされた後に、廃棄される。
【0004】
したがって、剥離処理された離型フィルムは、偏光板や位相差板などの光学フィルムの表面を保護することに、直接的には何ら寄与していない。
また、剥離処理された離型フィルムは、表面保護フィルムの粘着剤層から剥がされた後に、高度な清浄度が保たれるように管理しながら離型フィルムを再利用することが困難であることから、巻き取って繰り返して再利用することは成されていない。
このような、繰り返して再利用されない剥離処理された離型フィルムは、資源の有効利用の観点において、改善すべき余地があった。
【0005】
また、一般的に、従来の表面保護フィルムは、表面保護フィルムの粘着剤層を保護するために貼合されている離型フィルムが、該粘着剤層から剥離し易いようにするために、剥離性に優れているシリコーン系剥離剤を用いて剥離層が形成されている。この結果、離型フィルムを剥がした後の表面保護フィルムを、表面保護フィルムの該粘着剤層を介して、被着体である光学フィルムの表面に貼合すると、被着体の表面に、離型フィルムの剥離層から該粘着剤層の表面に移行したシリコーンが付着し、シリコーンによる汚染が起きることが懸念される。したがって、被着体に対するシリコーンによる汚染を防ぐためには、表面保護フィルムの構成部材である離型フィルムの剥離層が、シリコーン系剥離剤を使用しないで形成されていることが必要である。
【0006】
一方、一般的な粘着テープなどの技術分野においては、「剥離層/基材フィルム層/粘着剤層」の層構成を有する、セパレーターレスタイプの粘着テープがロール状に巻き取られて製造された、粘着テープのロール体が広く使用されている。
例えば、特許文献1には、粘着剤層を備えた表面保護フィルムであって、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという。)を基材とする、セパレーターを用いない表面保護フィルムが開示されている。
また、特許文献2には、樹脂製フィルム(シート)またはコーティング加工製品を積み重ねたときや、ロール状に巻き取った際のブロッキングを防止するためや、製品の表面を保護するためのセパレーターのない表面保護フィルムをロール状に巻き取った表面保護フィルムロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-266554号公報
【文献】特開2008-266591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の発明は、粘着剤層を構成する粘着剤に金属キレートを架橋剤として添加することで、巻出し強度を所望の強度に維持しつつ、巻出し時に粘着剤層に凝集破壊が生じることを抑制できる、としている。
しかし、特許文献1の発明に係わる表面保護フィルムでは、実施例1~14の全てにおいて、剥離速度300mm/分における巻出し強度が0.17N/25mmを超えていることから、さらに巻出し強度を低減させて、巻出し時の操作性を向上させる必要があるという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の発明は、反応性希釈剤を添加し、電子線照射により粘着剤層を架橋させることにより、表面保護フィルムの養生が不要で、セパレーターを介さずにそのままロール状に巻き取り可能な硬さの粘着剤層を形成することができる、としている。
しかし、特許文献2の発明に係わる表面保護フィルムロールでは、基材の粘着剤層が積層された面とは反対側の面に、熱硬化型のシリコーン系離型剤層が積層されていることから、被着体に対するシリコーンによる汚染が起きることが懸念されるという問題があった。
【0010】
このように、従来技術においては、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムにおいては、巻出し強度の低減、並びに、被着体に対する汚染性の低減を同時に図ることが困難であった。
【0011】
また、偏光板や位相差板などの光学フィルムの製造工程においては、その表面の汚れや傷付きを防止するために、表面保護フィルムの粘着剤層を介して、表面保護フィルムを貼着した後、光学フィルムの反対面に、第2の粘着剤層を積層して(第2の粘着剤層の表面は剥離フィルムで被覆した状態になるようにしておく)積層体となし、さらに目的の大きさに断裁する。
また、積層体の層構成は、「表面保護フィルム/光学フィルム/第2の粘着剤層/剥離フィルム」である。積層体の断裁品は、後の工程に供されるまで、積み重ねた状態で取り扱われる。
ところで、このような積層体においては、断裁品の表面保護フィルムの上から油性インクで偏光角度や位相角度をマーキングしたり検査印を押したりするときに、ハジキを生ずることなくきれいに印字できることが必要とされている。
しかし、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムにおいては、巻出し強度の低減、並びに、印字性を優れたものにすることを同時に図ることが困難であった。
【0012】
このような状況に鑑み、本発明は、セパレーターレスタイプの、ロール状に巻回されているロール体の表面保護フィルムであって、前記基材の背面層が、印字性に優れ、シリコーンを含有する剥離層を備えていなくとも、前記基材の背面層と、前記粘着剤層との剥離力が低減され、且つ被着体に対する汚染性が低減された表面保護フィルムを提供することを課題とする。
さらに、本発明は、低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取り、被着体から高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できる、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、粘着剤層と、基材と、基材の背面層とが順に積層されてなるセパレーターレスタイプの表面保護フィルムにおいて、前記粘着剤層を、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーと、を共重合させたアクリル系ポリマーと、架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋させて形成し、前記基材の背面層を、シリコーン化合物を含まずに積層された剥離層であり、水に対する接触角が110°以下にした剥離層とすることにより、優れた印字性と剥離力とを持たせることを技術思想としている。
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、アクリル系ポリマーと、(D)架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、ポリエステルフィルムの基材の片面に積層してなる表面保護フィルムであって、前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーと、を共重合させたアクリル系ポリマーであり、前記基材の、前記粘着剤層が積層された面とは反対側の面に、基材の背面層が積層してなり、前記基材の背面層が、シリコーン化合物を含まずに積層された剥離層であり、水に対する接触角が110°以下であり、前記表面保護フィルムが、離型フィルムを使用しないで巻き回してなり、前記基材の背面層と、前記粘着剤層とが接してなるロール体であり、前記ロール体を巻き戻して、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度0.3m/minで剥離するときの剥離力が0.1N/25mm以下であることを特徴とする表面保護フィルムを提供する。
【0015】
また、前記基材の背面層が、シリコーン化合物を含まず、長鎖アルキルペンダント化合物を含有する樹脂組成物が剥離層として積層されていることが好ましい。
【0016】
また、前記アクリル系ポリマーが、前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートからなる化合物群の中から選択される少なくとも1種以上の合計の100重量部に対して、前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、ポリアルキレンオキサイドを構成するアルキレンオキサイドの平均繰り返し数が4~14である化合物の少なくとも1種以上の合計を1.0~20重量部と、前記(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーとして、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上の合計を1.0~10重量部と、を共重合させたアクリル系ポリマーであり、前記粘着剤組成物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(D)架橋剤として、3官能以上のイソシアネート化合物であって、ヘキサメチレンジイソシアネートの、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物の合計を0.5~5重量部と、さらに、(E)架橋促進剤として、アルミキレート化合物、チタンキレート化合物、鉄キレート化合物からなる群から選択された少なくとも1種以上の合計を0.001~0.5重量部と、(F)ケトエノール互変異性体化合物を0.1~300重量部との割合で含有してなり、前記(F)/前記(E)の重量部比率が70~1000であることが好ましい。
【0017】
また、前記基材の背面層が、前記剥離層の付着量が0.005g/m以上0.1g/m以下であり、前記粘着剤層の厚みが1~20μmであり、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.3N/25mm以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記ポリエステルフィルムの基材の厚みが38μmであり、前記粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、剥離速度0.3m/minで剥離するときに0.01N/25mm以上0.1N/25mm以下であり、且つ剥離速度30m/minで剥離するときに1.0N/25mm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、上記の表面保護フィルムが、貼合されてなることを特徴とする光学フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セパレーターレスタイプの、ロール状に巻回されている表面保護フィルムであって、前記基材の背面層が、印字性に優れ、シリコーンを含有する剥離層を備えていなくとも、前記基材の背面層と、前記粘着剤層との剥離力が低減され、且つ被着体に対する汚染性が低減された表面保護フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取り、被着体から高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できる、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0022】
本実施形態の表面保護フィルムは、アクリル系ポリマーと、(D)架橋剤とを含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、ポリエステルフィルムの基材の片面に積層してなる表面保護フィルムであって、前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーと、を共重合させたアクリル系ポリマーであり、前記基材の、前記粘着剤層が積層された面とは反対側の面に、基材の背面層が積層してなり、前記基材の背面層が、シリコーン化合物を含まずに積層された剥離層であり、水に対する接触角が110°以下であり、前記表面保護フィルムが、離型フィルムを使用しないで巻き回してなり、前記基材の背面層と、前記粘着剤層とが接してなるロール体であり、前記ロール体を巻き戻して、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度0.3m/minで剥離するときの剥離力が0.1N/25mm以下であることを特徴とする。
【0023】
本実施形態の表面保護フィルムの粘着剤層に係わるアクリル系ポリマーは、(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーと、(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーと、を共重合させたアクリル系ポリマーである。本明細書中、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0024】
前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート等の少なくとも1種以上が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれでもよい。
前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一部又は全部が、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートからなる化合物群の中から選択される少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0025】
前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、ポリアルキレングリコールの有する複数の水酸基のうち、一つの水酸基が(メタ)アクリル酸エステルとしてエステル化された化合物であればよい。(メタ)アクリル酸エステル基が重合性基となるので、前記アクリル系ポリマーに共重合させることができる。他の水酸基は、OHのままでもよく、メチルエーテルやエチルエーテル等のアルキルエーテルや、酢酸エステル等の飽和カルボン酸エステル等となっていてもよい。
【0026】
前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーにおいて、ポリアルキレングリコールの有するアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール等、1分子中に2種類以上のアルキレン基を有するポリアルキレングリコールであってもよい。前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーが、ポリアルキレンオキサイドを構成するアルキレンオキサイドの平均繰り返し数が4~14である化合物の少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0027】
前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの中から選択された、少なくとも1種以上であることが好ましい。より具体的には、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートからなる化合物群の中から選択される少なくとも1種以上の合計の100重量部に対して、前記(B)ポリアルキレングリコール鎖含有モノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、ポリアルキレンオキサイドを構成するアルキレンオキサイドの平均繰り返し数が4~14である化合物の少なくとも1種以上の合計を1.0~20重量部の割合で含有することが好ましく、1.0~16重量部の割合で含有することがより好ましく、2.0~14重量部の割合で含有することが特に好ましい。
【0028】
前記(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーとしては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート類や、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有(メタ)アクリルアミド類などの少なくとも1種以上が挙げられる。前記(B)が水酸基を有してもよい場合は、前記(C)がポリアルキレングリコール鎖を有しないことが好ましい。
前記(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーとしては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上であることが好ましく、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上を含有することが好ましい。
前記(A)アルキル基の炭素数がC5~C14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートからなる化合物群の中から選択される少なくとも1種以上の合計の100重量部に対して、前記(C)官能基としてカルボキシル基を含有せず水酸基を含有する共重合性ビニルモノマーの少なくとも1種以上の合計を1.0~10重量部の割合で含有することが好ましく、1.0~8重量部の割合で含有することがより好ましく、1.0~6重量部の割合で含有することが特に好ましい。
【0029】
アクリル系ポリマーの重合方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、乳化重合法等、適宜、公知の重合方法が使用可能である。アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリレートモノマー等のアクリル系モノマーを50~100重量%の割合で共重合させてなることが好ましい。
アクリル系ポリマーを構成するモノマーは、前記(A)~(C)に限られないが、前記(A)~(C)のみでもよい。アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーを共重合させていないことが好ましい。例えば、透明導電性フィルムのITO表面などの腐食し易い被着体に対する腐食性への影響を避ける観点から、アクリル系ポリマーの酸価が1以下であることが好ましい。
【0030】
アクリル系ポリマーは、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アルミニウムキレート系架橋剤等の少なくとも1種以上からなる(D)架橋剤により、架橋されることが好ましい。イソシアネート系架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の2官能イソシアネート(ジイソシアネート化合物)や、これらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオールとのアダクト体などが挙げられる。
【0031】
(D)架橋剤の中では、3官能以上のイソシアネート化合物が好ましく、その中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体からなる群より選択される少なくとも1種以上の3官能以上のイソシアネート化合物であることが好ましい。前記粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(D)架橋剤の少なくとも1種以上の合計を、0.5~5重量部の割合で含有することが好ましい。
【0032】
前記粘着剤組成物は、さらに、(E)架橋促進剤を含有することが好ましい。前記(E)架橋促進剤は、3官能以上のイソシアネート化合物等のポリイソシアネート化合物を(D)架橋剤とする場合に、アクリル系ポリマーと(D)架橋剤との反応(架橋反応)に対して触媒として機能する物質であればよく、第三級アミン等のアミン系化合物、金属キレート化合物、有機錫化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物等の有機金属化合物等が挙げられる。
【0033】
前記(E)架橋促進剤としては、金属キレート化合物が好ましく、その中でも、アルミキレート化合物、チタンキレート化合物、鉄キレート化合物からなる群から選択された少なくとも1種以上であることが好ましい。有機錫化合物を使用しないことにより、より安全性の高い物質の使用が要求される規制等への対応が容易になる。
前記(E)架橋促進剤として用いられる金属キレート化合物は、多座配位子として、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステルや、アセチルアセトン(別名2,4-ペンタンジオン)、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトン等から選択される少なくとも1種以上のケトエノール互変異性体化合物、又はそのエノールが脱プロトンしたエノラート(例えばアセチルアセトネート)を有することが好ましい。
前記粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(E)架橋促進剤の少なくとも1種以上の合計を、0.001~0.5重量部の割合で含有することが好ましい。
【0034】
前記粘着剤組成物は、さらに、(F)ケトエノール互変異性体化合物を含有することが好ましい。前記(F)ケトエノール互変異性体化合物は、3官能以上のイソシアネート化合物等のポリイソシアネート化合物を(D)架橋剤とする場合に、(D)架橋剤の有するイソシアネート基をブロックすることにより、(D)架橋剤の配合後における粘着剤組成物の過剰な粘度上昇やゲル化を抑制し、粘着剤組成物のポットライフを延長することができる。
前記(F)ケトエノール互変異性体化合物としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステルや、アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトン等が挙げられる。前記粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(F)ケトエノール互変異性体化合物の少なくとも1種以上の合計を、0.1~300重量部との割合で含有することが好ましい。
【0035】
また、(F)ケトエノール互変異性体化合物は、(E)架橋促進剤とは反対に、架橋を抑制する効果を有することから、(E)架橋促進剤に対する(F)ケトエノール互変異性体化合物の割合を適切に設定することが好ましい。粘着剤組成物のポットライフを長くし、貯蔵安定性を向上させるには、(F)/(E)の重量部比率が、70~1000であることが好ましく、70~700であることがより好ましく、80~600であることが特に好ましい。ここで、(F)/(E)の重量部比率とは、(F)ケトエノール互変異性体化合物の重量部を(E)架橋促進剤の重量部で除算して得られた商の値である。
【0036】
前記粘着剤組成物は、任意の成分として、酸化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤、硬化促進剤、可塑剤、充填剤、架橋触媒、架橋遅延剤、硬化遅延剤、加工助剤、老化防止剤などの公知の添加剤を適宜に配合することができる。これらの添加剤は、単独で、もしくは2種以上併せて用いてもよい。前記粘着剤組成物は、ポリシロキサン等のシリコーン化合物を含有しないことが好ましい。
【0037】
本実施形態の粘着剤層は、前記粘着剤組成物を基材や離型フィルムに塗布した後、前記粘着剤組成物を架橋することで作製することができる。離型フィルム上で粘着剤層を作製した場合は、離型フィルムから基材上に粘着剤層を転写させることができる。この粘着剤層の転写に用いる離型フィルムは、剥離層を有しないフィルムであるか、又はシリコーン化合物を含まない剥離層を有するフィルムであることが好ましい。
基材の片面に粘着剤層を積層した粘着フィルムは、表面保護フィルムとして用いることができる。表面保護フィルムにおける粘着剤層の厚みとしては、1~20μmが好ましく、1~18μmがより好ましく、3~18μmが特に好ましい。
【0038】
前記基材としては、透明性及び可撓性を有する樹脂フィルムが好ましい。これにより、表面保護フィルムを、容易にロール体とすることができ、また、ロール体から巻き戻した表面保護フィルムを、被着体である光学フィルムに貼合した状態で、光学フィルムの外観検査を行うことができる。前記基材として用いる透明性を有する樹脂フィルムは、好適には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムのほか、必要な強度を有し、かつ光学適性を有するものであれば、他の樹脂フィルムも使用可能である。前記基材は、無延伸フィルムであっても、一軸または二軸に延伸されたフィルムでもよい。また、前記基材は、延伸フィルムの延伸倍率や、延伸フィルムの結晶化に伴い形成される軸方向の配向角度を、特定の値に制御してもよい。
【0039】
前記基材の厚みは、特に限定はないが、例えば、12~100μm程度の厚みが好ましく、20~50μm程度の厚みであれば取り扱い易く、より好ましい。より具体的には、前記ポリエステルフィルムの基材の厚みが38μmであってもよい。
また、前記基材の、前記粘着剤層が積層される側の表面、又は後述する剥離層が積層される側の背面に、コロナ放電による表面改質、アンカーコート剤の塗付などの易接着処理を施してもよい。
【0040】
また、前記粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、低速の剥離速度0.3m/minで剥離するときに0.01N/25mm以上0.1N/25mm以下であることが好ましく、0.01N/25mm以上0.08N/25mm以下であることがより好ましく、0.01N/25mm以上0.06N/25mm以下であることが特に好ましい。また、前記粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、高速の剥離速度30m/minで剥離するときに1.0N/25mm以下であることが好ましく、0.8N/25mm以下であることがより好ましく、0.6N/25mm以下であることが特に好ましい。これにより、剥離速度に対する粘着力の変化が少ない性能が得られる。また、貼り直しのため、一旦、前記表面保護フィルムを剥離するときは、より低速の剥離速度により、より小さい力での剥離が可能になる。
【0041】
本実施形態の表面保護フィルムにおいては、前記基材の、前記粘着剤層が積層された面(表面)とは反対側の面(背面)には、基材の背面層が積層される。これにより、前記表面保護フィルムが、離型フィルムを使用しないで巻き回し、前記基材の背面層と、前記粘着剤層とが接してなるロール体を構成することができる。
【0042】
前記基材の背面層は、シリコーン化合物を含まずに積層された剥離層である。シリコーン系剥離剤以外である非シリコーン系剥離剤としては、フッ素系剥離剤、パラフィン化合物等のワックス系剥離剤、アルキルペンダント系剥離剤等が挙げられる。アルキルペンダント系剥離剤は、長鎖アルキルペンダント化合物を用いた剥離剤であり、その具体例としては、例えば、中京油脂株式会社のレゼム(商品名)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社のピーロイル(登録商標)、日本触媒株式会社のオクタデシルイソシアネート変性ポリエチレンイミン(商品名:RP-20)、また、特に商品名を挙げないが、側鎖として多数の長鎖アルキル基を持つアクリル酸系の高分子化合物等が挙げられる。側鎖に長鎖アルキル基を持つ高分子化合物の群は、その長鎖アルキル基によって剥離効果を奏すると考えられている。したがって、長鎖アルキル基の炭素数は、5以上、好ましくは12以上で、上限は特に制限はないが、炭素数が大きくなると融点が高くなる傾向があること、溶剤への溶解性が悪くなる傾向があることから、通常、24以下であることが好ましい。
【0043】
前記剥離層は、前記基材の背面に対し、面内の任意の方向に連続したベタ状に全面に積層されてもよく、ドット状(点状)、ストライプ状(縞状)等のパターン状に積層されてもよい。前記剥離層の付着量は、0.005g/m以上0.1g/m以下であることが好ましい。剥離剤を塗布乾燥して剥離層を形成する場合の付着量は、揮発成分を除外した乾燥後の付着量である。前記基材の背面層を、シリコーン化合物を含まずに積層された剥離層であり、水に対する接触角が110°以下にした剥離層とすることにより、優れた印字性と剥離力とを持たせることができる。前記剥離層は、水に対する接触角が110°以下であることが好ましく、108°以下であることがより好ましく、106°以下であることが特に好ましい。
【0044】
前記ロール体を巻き戻して、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度0.3m/minで剥離するときの剥離力が0.1N/25mm以下であることが好ましい。また、前記基材の背面層を、前記粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.3N/25mm以下であることが好ましい。これにより、剥離速度に対する剥離力の変化が少ない性能が得られる。また、表面保護フィルムをロール体から巻き戻す時等では、高速の剥離速度でも、円滑な剥離が容易になる。
【0045】
前記剥離層には、帯電防止剤を含有させ、帯電防止性能を付与してもよい。これにより、前記表面保護フィルムを帯電防止表面保護フィルムとして好適に用いることができる。前記剥離層の表面抵抗値は、1.0×10+11Ω/□以下であることが好ましい。前記剥離層の表面抵抗率を十分に小さくすることにより、前記粘着剤層を前記剥離層から剥離する時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電圧が低減されるので、前記表面保護フィルムを被着体に貼合した後も、被着体の電気制御回路等に影響することを抑制することができる。
帯電防止剤としては、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン等のカチオンと、六フッ化リン酸塩(PF )、チオシアン酸塩(SCN)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RCSO )、過塩素酸塩(ClO )、四フッ化ホウ酸塩(BF )、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(TFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸塩(TF)等のアニオンとを有するイオン性化合物が挙げられる。
また、前記粘着剤層に帯電防止剤を含有させてもよい。また、帯電防止剤を含有させていない前記粘着剤層に対して帯電防止剤を含有する前記剥離層を積層した後、時間の経過に従って帯電防止剤の一部を前記剥離層から前記粘着剤層に移行させることにより、前記剥離層を前記粘着剤層から剥離した後も、前記粘着剤層の表面に帯電防止剤を転写させてもよい。前記粘着剤層又はその表面に帯電防止剤を有する場合は、前記粘着剤層の表面抵抗値が、1.0×10+11Ω/□以下であることが好ましい。なお、前記剥離層又は前記粘着剤層の帯電防止性能は、必須の構成ではなく、適宜省略してもよい。
【0046】
前記表面保護フィルムの粘着剤層が貼合される被着体としては、光学ガラス、光学フィルム、又はこれらを含む積層体、パネル等が挙げられる。光学フィルムとしては、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、防眩(アンチグレア)フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、透明導電性フィルム等が挙げられる。製造工程又は製品に、前記表面保護フィルムが使用され得る電子装置としては、液晶パネル、有機ELパネル、タッチパネル、電子ペーパー等、又はこれらの部品等が挙げられる。
前記表面保護フィルムが貼合された光学フィルムを、電子装置等の製品に組み込むため、光学フィルムの、前記表面保護フィルムとは反対側の面には、第2の粘着剤層が積層されてもよい。この第2の粘着剤層には、他の光学部材を貼合することが可能であり、あるいは他の光学部材を貼合する前には、剥離フィルムを被覆してもよい。すなわち、「表面保護フィルム/光学フィルム/第2の粘着剤層/剥離フィルム」、「表面保護フィルム/光学フィルム/第2の粘着剤層/他の光学部材」等の積層体を構成することができる。これらの積層体の表面には、表面保護フィルムの、前記基材の背面層が露出される。前記基材の背面層の印字性が優れるため、積層体の管理に必要な情報等を、前記基材の背面層に印字することが可能である。油性インクの印字性が優れることにより、印字の固着性が優れたものとなる。なお、印字の手段は特に限定されず、版を用いた印刷、版を用いないインクジェット等のプリント、印やスタンプ等を用いることができる。印字情報は文字、数字に限らず、図柄、記号等を用いることもできる。
【0047】
前記表面保護フィルムの用途が偏光板(偏光フィルム)を被着体とする場合、前記粘着剤層が、偏光板の偏光子の保護層に貼合されてもよい。ここで、偏光板の偏光子の保護層としては、トリアセチルセルロース(TAC)系フィルム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルムからなる群より選択された少なくとも1種以上が挙げられる。また、偏光板の偏光子の保護層の表面に施されている表面処理が、未処理のプレーン層(Plain)、アンチグレア(AG)処理、ローリフレクション(LR)処理、アンチリフレクション(AR)処理、アンチグレア-ローリフレクション(AG-LR)処理、アンチグレア-アンチリフレクション(AG-AR)処理からなる群より選択された少なくとも1種以上であってもよい。
【0048】
偏光板(偏光フィルム)等の被着体の表面には、フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層を有してもよい。低屈折率層形成用の組成物に用いられるフッ素化合物としては、フッ素化オレフィン類、フッ素化ビニルエーテル類、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート等の1種又は2種以上の重合物である含フッ素共重合体、フッ素化アルキル基含有シラン化合物等の縮合物が挙げられる。含フッ素共重合体は、フッ素化されたモノマーに加えて、オレフィン類、ビニルエーテル類、(メタ)アクリレート等の、フッ素化されていないモノマーが共重合されていてもよい。低屈折率層は、高屈折率層等と組み合わせて反射防止層を構成してもよい。
【0049】
前記表面保護フィルムの製造方法は、前記基材の表面に粘着剤層を積層する工程と、前記基材の背面に剥離層を積層する工程とを有する。前記粘着剤層を積層する工程と、前記剥離層を積層する工程の順序は特に限定されず、いずれを先に実施してもよく、両方の工程を同時に実施してもよい。前記剥離層を積層する工程より前に、前記粘着剤層を積層する工程を実施する場合は、前記粘着剤層を保護するため、他の離型フィルムを貼り合せてもよい。この粘着剤層の保護に用いる離型フィルムは、剥離層を有しないフィルムであるか、又はシリコーン化合物を含まない剥離層を有するフィルムであることが好ましい。
【実施例
【0050】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0051】
<アクリル系ポリマーの製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置に2-エチルヘキシルアクリレート90重量部、イソノニルアクリレート10重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(アルキレンオキサイドの平均繰り返し数n=12)5重量部、8-ヒドロキシオクチルアクリレート4.0重量部とともに溶剤(酢酸エチル)を60重量部加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を2時間かけて滴下させ、65℃で6時間反応させ、実施例1に用いるアクリル系ポリマー溶液を得た。
[実施例2~4及び比較例1~4]
モノマーの組成を各々、表1の(A)群~(C)群の記載のようにする以外は、上記の実施例1に用いるアクリル系ポリマー溶液と同様にして、実施例2~4及び比較例1~4に用いるアクリル系ポリマー溶液を得た。
【0052】
<表面保護フィルムの製造>
[実施例1]
上記のとおり製造した実施例1のアクリル系ポリマー溶液に対して、コロネートHX2.0重量部、チタニウムトリスアセチルアセトネート0.1重量部、アセチルアセトン9重量部を加えて撹拌混合して、粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を、あらかじめ背面に、長鎖アルキルペンダント化合物(中京油脂株式会社製、商品名:レゼムP-677)を0.03g/mの付着量で塗布して剥離層を積層したポリエステルフィルムの表面の上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶剤を除去した。その後、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間エージングすることにより、粘着剤組成物を架橋し、実施例1の表面保護フィルムを得た。粘着剤層の厚みは、表4に示す。
[実施例2~4及び比較例1~4]
粘着剤組成物に対する添加剤の組成を各々、表1の(D)群~(F)群の記載のようにし、剥離層に用いる剥離剤及び付着量を表1の(G)群の記載のようにする以外は、上記の実施例1の表面保護フィルムと同様にして、実施例2~4及び比較例1~4の表面保護フィルムを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
表1では、(A)群の合計を、100重量部として求めた、重量部の数値を示す。(D)群~(F)群では、アクリル系ポリマーを100重量部として求めた重量部の数値を、括弧( )内に示す。また、(G)群では、付着量(g/m)の数値を示す。
【0055】
また、表1に用いた各成分の略記号の化合物名を、表2に示す。なお、コロネート(登録商標)HX及びHLは、東ソー株式会社の商品名であり、タケネート(登録商標)D-165N及びD-110Nは、三井化学株式会社の商品名である。レゼムP-677は、中京油脂株式会社の商品名であり、RP-20は、日本触媒株式会社の商品名であり、ピーロイル(登録商標)1010は、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社の商品名である。
【0056】
【表2】
【0057】
<測定方法及び評価>
実施例1~4及び比較例1~4における表面保護フィルムについて、下記の方法により、評価した。
【0058】
<接触角の測定方法>
表面保護フィルムの剥離層の表面に、純水を1滴滴下して接触させ、10秒経過した後に接触角計(協和界面科学株式会社製、型番:DMo-701)を用いて、接触角(°)を測定した。
【0059】
<剥離力の測定方法>
表面保護フィルムの基材の背面層を、粘着剤層から、180°方向に、0.3m/min又は30m/minの速度で剥離した時の剥離強度として、剥離力(N/25mm)を測定した。
【0060】
<印字性の評価方法>
スタンプ用の油性インク(製造者:シヤチハタ株式会社、商品名:XQTR-20-SG-R)を用いて、表面保護フィルムの剥離層の表面に印字し、油性インクを自然乾燥させた後、印字の鮮明性、にじみの有無を目視にて観察した。
印字性の評価基準は、印字が鮮明で、にじみがない場合を「○」、印字が不鮮明で、にじみがある場合を「×」と評価した。
【0061】
<粘着力の測定方法>
表面保護フィルムを、表面保護フィルムの粘着剤層を介して、アセトンで洗浄したソーダガラスの非錫面に圧着ロールで貼り合せ、50℃、0.5MPa×20分間の条件でオートクレーブ処理した後、23℃×50%RHの空気雰囲気下に戻し、1時間経過させた。その後、表面保護フィルムの剥離強度を、引張試験機によって、JIS Z0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠して測定し、180°方向に、0.3m/min又は30m/minの速度で剥離した時の剥離強度を、粘着剤層の粘着力(N/25mm)とした。
【0062】
<低汚染性の評価方法>
ガラス板の片面上に、被着体の偏光板を、貼合機を用いて、両面粘着テープ等の粘着剤層を介して貼合した。その後、前記偏光板の表面に、表面保護フィルムの粘着剤層を、貼合機を用いて貼合した。23℃×50%RHの空気雰囲気下で、3日間及び30日間の期間に渡って保管した後に、表面保護フィルムを剥がし、前記偏光板の表面の汚染状態を目視にて観察した。ここで、被着体の偏光板は、偏光子の保護層がトリアセチルセルロース(TAC)系フィルムからなり、前記保護層の表面に施されている表面処理が未処理(Plain)である。
低汚染性の評価基準は、前記偏光板の表面に対して、3日間保管及び30日間保管のいずれにおいても汚染なしの場合を「○」、3日間保管又は30日間保管のいずれかにおいてわずかに汚染ありの場合を「△」、3日間保管又は30日間保管のいずれかにおいて汚染ありの場合を「×」と評価した。
【0063】
表3に、表面保護フィルムの基材の背面層である剥離層について、上記の方法による接触角、剥離力、及び印字性の試験結果を示す。
【0064】
【表3】
【0065】
また、表4に、表面保護フィルムの粘着剤層について、粘着剤層の厚みと共に、上記の方法による粘着力、及び低汚染性の試験結果を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
本発明に係わる実施例1~4の表面保護フィルムは、基材の背面層を、粘着剤層から、剥離速度0.3m/minで剥離するときの剥離力が0.1N/25mm以下であり、基材の背面層を、粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.3N/25mm以下であることから、ロール体からの巻出し時の操作性を向上させることができる。
また、本発明に係わる実施例1~4の表面保護フィルムは、粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、低速の剥離速度0.3m/minで剥離するときに0.01N/25mm以上0.1N/25mm以下であり、且つ、高速の剥離速度30m/minで剥離するときに1.0N/25mm以下であることから、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスが優れていて、表面保護フィルムを被着体に貼り合せる前のリワーク(貼り直し)時や、用済み後の表面保護フィルムを被着体から剥離除去する時に、ハンドリング性(操作性)を向上させることができる。
また、本発明に係わる実施例1~4の表面保護フィルムは、基材の背面層がシリコーン化合物を含まずに積層された剥離層であり、被着体に対するシリコーンによる汚染の起きる懸念がなく、印字性にも優れている。
【0068】
すなわち、本発明に係わる実施例1~4の表面保護フィルムによれば、本発明の課題である、セパレーターレスタイプの、ロール状に巻回されているロール体の表面保護フィルムであって、前記基材の背面層が、印字性に優れ、シリコーンを含有する剥離層を備えていなくとも、前記基材の背面層と、前記粘着剤層との剥離力が低減され、且つ被着体に対する汚染性が低減された表面保護フィルムを提供することが達成できた。
また、本発明に係わる実施例1~4の表面保護フィルムによれば、本発明の別の課題である、低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取り、被着体から高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できる、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムを提供することが達成できた。
【0069】
比較例1の表面保護フィルムは、基材の背面層を、粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.60N/25mmと高く、粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、高速の剥離速度30m/minで剥離するときに2.8N/25mmと高かった。このため、比較例1の表面保護フィルムは、基材の背面層と、粘着剤層との剥離力が低減されておらず、また、被着体から高速剥離を行ったときに再剥離が困難である。
比較例2の表面保護フィルムは、粘着剤層のソーダガラス(非錫面)に対する粘着力が、低速の剥離速度0.3m/minで剥離するときに0.12N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minで剥離するときに1.5N/25mmであった。このため、比較例2の表面保護フィルムは、被着体から高速剥離を行ったときに再剥離が困難である。また、被着体に対する汚染性を低減することがやや劣っていた。
比較例3の表面保護フィルムは、基材の背面層が、シリコーン系剥離剤を含有する剥離層であるため、水に対する接触角が112°と大きく、また、印字性が劣っていた。
比較例4の表面保護フィルムは、基材の背面層を、粘着剤層から、剥離速度30m/minで剥離するときの剥離力が0.40N/25mmであった。このため、比較例4の表面保護フィルムは、基材の背面層と、粘着剤層との剥離力が低減されていない。
【0070】
このように、比較例1~4の表面保護フィルムでは、本発明の課題である、セパレーターレスタイプの、ロール状に巻回されているロール体の表面保護フィルムであって、前記基材の背面層が、印字性に優れ、シリコーンを含有する剥離層を備えていなくとも、前記基材の背面層と、前記粘着剤層との剥離力が低減され、且つ被着体に対する汚染性が低減された表面保護フィルムを提供することが達成できなかった。
また、比較例1、2の表面保護フィルムでは、本発明の別の課題である、低速度剥離領域及び高速度剥離領域においての粘着力のバランスを取り、被着体から高速剥離を行ったときでも小さな力で再剥離できる、セパレーターレスタイプの表面保護フィルムを提供することが達成できなかった。