(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/12 20060101AFI20241125BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20241125BHJP
C07C 67/333 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
C07C69/54 Z
C07C67/333
(21)【出願番号】P 2023208021
(22)【出願日】2023-12-08
【審査請求日】2023-12-08
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安富 陽一
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英則
(72)【発明者】
【氏名】塚本 昌利
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1579116(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0125466(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第113024378(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1048268(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0046658(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0031301(KR,A)
【文献】特開平09-324068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00- 17/04
C08J 11/00- 11/28
C07C 69/54
C07C 67/333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解部と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製部と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部と、
液状の熱分解
物に含まれる水を除去する脱水部と、を含み、
前記脱水部は脱水機能を有する物質と、液状の熱分解
物とを接触させることによって水を除去する、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置。
【請求項2】
液状の熱分解物を貯留する第1貯留部をさらに備える、請求項
1に記載の再生処理装置。
【請求項3】
液状の精製物を貯留する第2貯留部をさらに備える、請求項
1に記載の再生処理装置。
【請求項4】
前記精製物は(メタ)アクリル酸メチルを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の再生処理装置。
【請求項5】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解
物に含まれる水を除去する脱水工程と、を含み、
前記脱水工程は脱水機能を有する物質と、液状の熱分解
物とを接触させることによって水を除去する、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法。
【請求項6】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解
物に含まれる水を除去する脱水工程と、を含み、
前記脱水工程は脱水機能を有する物質と、液状の熱分解
物とを接触させることによって水を除去する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルを重合して得られるポリ(メタ)アクリル酸エステルは、透明性に優れており、さらには耐候性にも優れている。よって、ポリ(メタ)アクリル酸エステルは、自動車用部品、看板標識、表示装置等を構成する部材の材料として、広く用いられている。
【0003】
一方、近年の資源価格の高騰、さらには環境問題に対する意識の高まりに伴って、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体を回収してリサイクル(再資源化)する動きが広まっている。
【0004】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体のリサイクル方法の一つとして、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを熱分解(解重合)して得られるモノマーを回収し、このモノマーを用いて新たな成形体を製造する方法(以下、ケミカルリサイクルともいう)が知られている。ポリ(メタ)アクリル酸エステルは、300℃から500℃程度の比較的低い温度で加熱することによって熱分解物であるモノマーを高収率で回収することができるため、ケミカルリサイクルによる再生処理に適している。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む樹脂製品を加熱窯内で加熱して得られたガス状の熱分解物を冷却して液化し、次いで液化した熱分解物を蒸留により精製して(メタ)アクリル酸エステルを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルは水を吸収する性質を有するため、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置内に水が混入するおそれがある。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルとともに再生処理装置内に混入する水を除去する方法としては、熱分解物に含まれる不純物を除去するための精製工程で除去する方法が挙げられる。しかしながら、精製処理の対象物が水を含んでいると、対象物が水を含んでいない場合に比べて精製工程に要するエネルギーの消費量が増大するおそれがある。
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理において水を効率よく除去できるポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
<1>ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解部と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製部と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水部と、を含む、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置。
<2>前記脱水部は、前記精製部の上流側に配置される脱水部を含む、<1>に記載の再生処理装置。
<3>前記脱水部は、前記精製部の下流側に配置される脱水部を含む、<1>又は<2>に記載の再生処理装置。
<4>液状の熱分解物を貯留する第1貯留部をさらに備える、<1>~<3>のいずれか1項に記載の再生処理装置。
<5>液状の精製物を貯留する第2貯留部をさらに備える、<1>~<4>のいずれか1項に記載の再生処理装置。
<6>前記精製物は(メタ)アクリル酸メチルを含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の再生処理装置。
<7>ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程と、を含む、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法。
<8>ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程と、を含む、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理において水を効率よく除去できるポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る再生処理装置の構成例を示す概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
本開示の第1実施形態は、
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解部と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製部と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水部と、を含む、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置である。
【0012】
本実施形態の再生処理装置では、熱分解部においてポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行って、ガス状の熱分解物を得る。
ガス状の熱分解物は、回収対象である(メタ)アクリル酸エステルに加えて(メタ)アクリル酸エステル以外の物質を不純物として含む場合がある。
このため、本実施形態の再生処理装置では、熱分解物に含まれる不純物を除去するために精製部において熱分解物の精製を行う。
【0013】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解物は、水を不純物として含みうる。水の沸点は100℃であり、メタクリル酸メチルの沸点である101℃との差が小さい。このため、精製部においてメタクリル酸メチルと水とを分離しようとすると蒸留回数の増加等によってエネルギー消費量が増大するおそれがある。
そこで、本実施形態の再生処理装置は、熱分解部で得られたガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部と、精製部で得られたガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部と、第1冷却部で得られる液状の熱分解物又は第2冷却部で得られる液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水部と、を有する。
すなわち、本実施形態の再生処理装置では、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理における水の除去が主として脱水部で行われる。このため、精製部において水の除去を行う場合に比べて精製工程にかかる負荷が効果的に軽減される。
以下、本実施形態の再生処理装置に含まれる構成要素について説明する。
【0014】
(熱分解部)
本実施形態の再生処理装置は、熱分解部を含む。熱分解部は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物(以下、熱分解ガスともいう)を得る。
熱分解部としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを熱分解できる従来公知の任意好適な構成を有する装置を適用することができる。
熱分解部の例としては、押出機、ニーダー、および流動床加熱器が挙げられる。
【0015】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解処理を効率よく行う観点からは、熱分解部は、押出機を含むことが好ましい。熱分解部に含まれうる押出機の好適な例としては、二軸同方向回転押出機および二軸異方向回転押出機などの二軸押出機が挙げられる。
押出機は、原料の投入口と、シリンダと、シリンダの内部に配置されたスクリューとを備え、投入口から投入された原料を加熱しながら所定の方向に搬送可能な装置である。
【0016】
熱分解部に含まれうるニーダーの例としては、例えば、米国特許第10301235号明細書に記載の装置が挙げられる。
【0017】
熱分解部に含まれうる流動床加熱器の例としては、例えば、特開2009-112902号公報に記載の装置が挙げられる。
【0018】
熱分解部においてポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を生じさせる温度は、例えば、300℃~500℃、400℃~500℃、又は450℃~500℃の範囲から選択してもよい。
【0019】
熱分解部に供給されるポリ(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体の状態であってもよい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体としては、キャスト成形体、押出成形体等が挙げられる。ケミカルリサイクル処理との親和性の観点からは、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体としてはキャスト成形体が好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体は、所定の用途に使用された後に廃材として回収された成形体であってもよい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体は、裁断、粉砕等によってサイズが調整されていてもよい。
【0020】
熱分解部に供給されるポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル以外の成分を含んでいてもよい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル以外の成分としては、上述した水のほか、離型剤、重合調節剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、着色剤等の添加剤、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む成形体に付着している部品由来の物質などが挙げられる。
【0021】
熱分解部に供給されるポリ(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチル(MMA)又はアクリル酸メチル(MA)を主成分とする重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)又はポリアクリル酸メチル(PMA)を含むものであってもよい。
【0022】
本開示において「(メタ)アクリル」には、アクリル、メタクリル及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0023】
本開示において「ポリ(メタ)アクリル酸エステル」は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する重合体を意味する。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの好ましい例としては、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位のみからなる単独重合体、及び、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体(以下、他のビニル単量体ともいう)に由来する構造単位とからなる共重合体が挙げられる。共重合体中の他のビニル単量体に由来する単量体単位の割合は、0質量%を超えて15質量%以下であることが好ましい。
【0024】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとして具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、及びメタクリル酸イソブチルが挙げられる。これらのなかでも(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。
【0025】
炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体として具体的には、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸モノグリセロールなどの、炭素原子数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸又はこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;及びスチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0026】
(第1冷却部)
本実施形態の再生処理装置は、第1冷却部を含む。第1冷却部は、熱分解部で得られるガス状の熱分解物を冷却して液状化する。
ガス状の熱分解物を冷却する温度は、ガス状の熱分解物に回収対象として含まれる物質の沸点より低い温度であることが好ましい。ガス状の熱分解物が回収対象としてメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルを含む場合は、メタクリル酸メチルの沸点である101℃より低い温度、又はアクリル酸メチルの沸点である80℃より低い温度でガス状の熱分解物の冷却を実施することが好ましい。
第1冷却部の構成は特に制限されず、コンデンサー等の公知の装置を適用できる。
【0027】
(精製部)
本実施形態の再生処理装置は、精製部を含む。精製部は、第1冷却部で得られる液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る。
本開示において「熱分解物の精製」とは、熱分解物に含まれる成分のうち、回収対象である成分が占める割合を高めることを意味する。
【0028】
精製部に導入される液状の熱分解物は、水を含んでいても水を含んでいなくてもよい。
精製部に導入される液状の熱分解物が水を含む場合、精製部では水の除去を行っても水の除去を行わなくてもよい。
精製部の構成は特に制限されず、精製塔等の公知の精製装置を適用できる。
【0029】
(第2冷却部)
本実施形態の再生処理装置は、第2冷却部を含む。第2冷却部は、精製部で得られるガス状の精製物を冷却して液状化する。
ガス状の精製物を冷却する温度は、ガス状の精製物に回収対象として含まれる物質の沸点より低い温度であることが好ましい。ガス状の精製物が回収対象としてメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルを含む場合は、メタクリル酸メチルの沸点である101℃より低い温度、又はアクリル酸メチルの沸点である80℃より低い温度でガス状の精製物の冷却を実施することが好ましい。
第2冷却部の構成は特に制限されず、コンデンサー等の公知の装置を適用できる。
【0030】
(脱水部)
本実施形態の再生処理装置は、脱水部を含む。脱水部は、第1冷却部で得られる液状の熱分解物又は第2冷却部で得られる液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する。
本開示において「水の除去」には、熱分解物又は精製物に含まれる水を完全に除去する場合と、熱分解物又は精製物に含まれる水の量を許容可能な程度にまで低下させる場合とが含まれる。
【0031】
再生処理装置が脱水部を含むことで、精製部において熱分解物から水を除去する必要性が低下し、精製処理に係る負荷が軽減される。その結果、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理をより少ないエネルギーで実施することができる。あるいは、精製部内での(メタ)アクリル酸エステルの重合反応の抑制等の効果が期待できる。
【0032】
再生処理装置において、脱水部が配置される位置は特に制限されず、精製部の上流側であっても、精製部の下流側であっても、精製部の上流側と下流側の両方であってもよい。
精製部における精製処理の負荷を効果的に軽減する観点からは、脱水部は精製部の上流側に少なくとも配置されることが好ましい。
【0033】
脱水部において液状の熱分解物又は液状の精製物に含まれる水を除去する処理(以下、脱水処理ともいう)の方法は、特に制限されない。
脱水処理の方法として具体的には、液液分離、凍結濃縮分離、蒸留分離、膜分離、吸着分離、吸収分離、超音波霧化分離、クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0034】
脱水処理の効率の観点からは、脱水処理は、脱水機能を有する物質と、液状の熱分解物又は液状の精製物とを接触させることによって行うことが好ましい。脱水機能としては、水を吸着又は吸収する機能が挙げられる。
【0035】
脱水処理は、液状の熱分解物又は液状の精製物が流動している状態で行っても、静止した状態で行ってもよい。脱水処理の効率の観点からは、脱水処理は液状の熱分解物又は液状の精製物が流動している状態で行うことが好ましい。
【0036】
脱水部において液状の熱分解物又は液状の精製物から除去される水の量は、特に制限されない。
例えば、脱水部において除去される水の量は、脱水処理後の液状の熱分解物又は液状の精製物の水分含有率が好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5%質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、ことさらに好ましくは0.05質量%以下となる量であることが好ましい。
【0037】
脱水処理を実施する際の温度は、液状の熱分解物又は液状の精製物がガス化しない温度であってもよい。
液状の熱分解物又は液状の精製物がメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルを含む場合は、メタクリル酸メチルの沸点である101℃より低い温度、又はアクリル酸メチルの沸点である80℃より低い温度で脱水処理を実施することが好ましい。
【0038】
(第1貯留部)
本実施形態の再生処理装置は、液状の熱分解物を貯留する第1貯留部を含んでもよい。
第1貯留部は、例えば、第1冷却部と精製部との間に設けられて、第1冷却部から供給される液状の熱分解物を貯留するとともに液状の熱分解物を精製部に供給する。
第1貯留部は、内部に脱水部が配置されていてもよい。
第1貯留部の構成は特に制限されず、タンク等の公知の装置を適用できる。
【0039】
(第2貯留部)
本実施形態の再生処理装置は、液状の精製物を貯留する第2貯留部を含んでもよい。
第2貯留部は、例えば、第2冷却部の下流側に設けられて、第2冷却部から供給される液状の精製物を貯留する。
第2貯留部は、内部に脱水部が配置されていてもよい。
第2貯留部の構成は特に制限されず、タンク等の公知の装置を適用できる。
【0040】
(分縮器)
本実施形態の再生処理装置は、分縮器を含んでもよい。
分縮器は、例えば、熱分解部で得られるガス状の熱分解物に回収対象として含まれる物質よりも沸点の高い物質(以下、高沸点不純物ともいう)を凝縮(液化)して除去する。熱分解部の下流側に分縮器を配置することで、ガス状の熱分解物に含まれる高沸点不純物を除去することができ、精製部における精製処理の負荷をさらに軽減することができる。
【0041】
分縮器による高沸点不純物の除去は、例えば、熱分解物に回収対象として含まれる物質の沸点以上かつ発火点未満であるとともに、高沸点不純物の沸点未満かつ融点以上の温度にて実施される。すなわち、熱分解物が全体としてガスの状態を保った状態で高沸点不純物が除去される。分縮器によって除去される高沸点不純物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルとともに成形体に含まれうる着色剤が挙げられる。
【0042】
本実施形態の再生処理装置は、上述した構成要素以外の構成要素を特に制限なく含むことができる。例えば、本実施形態の再生処理装置はポンプ、各種計測器などを含んでもよい。
本実施形態の再生処理装置を構成する構成要素を接続する手段は特に制限されず、公知の配管を適用できる。
【0043】
以下、本実施形態の再生処理装置について、図面を参照して説明する。なお、図面には、本開示が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎない。本開示は以下の記述によって限定されるものではなく、それぞれの構成要素は本開示の要旨から逸脱しない範囲で改変可能である。
【0044】
図1は、本実施形態の再生処理装置の構成の一例を示す概略的な図である。
図1に示す再生処理装置100は、
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解部10と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部20と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製部30と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部40と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水部50と、を含む。
図1に示す再生処理装置100は、任意の構成要素として、液状の熱分解物を貯留する第1貯留部60及び液状の精製物を貯留する第2貯留部70を含んでもよい。
図1に示す再生処理装置100は、任意の構成要素として、熱分解物中の高沸点不純物を除去する分縮器80を熱分解部10と第1冷却部20との間に含んでもよい。
【0045】
再生処理装置100における脱水部50の位置は、液状の熱分解物又は液状の精製物に含まれる水を除去可能な位置であれば特に制限されない。再生処理装置100において脱水部50が配置される位置は、1か所でも2か所以上であってもよい。
【0046】
脱水部50によって液状の熱分解物に含まれる水を除去する場合、再生処理装置100に含まれる脱水部50の具体例としては、
第1冷却部20と精製部30との間に配置される脱水部50a;
第1冷却部20と第1貯留部60との間に配置される脱水部50b;
第1貯留タンク60と精製部30との間に配置される脱水部50c;及び
第1貯留タンク60の内部に配置される脱水部50dが挙げられる。
【0047】
脱水部50によって液状の精製物に含まれる水を除去する場合、再生処理装置100に含まれる脱水部50の具体例としては、
第2冷却部40と第2貯留部70との間に配置される脱水部50e;及び
第2貯留タンク70の内部に配置される脱水部50fが挙げられる。
【0048】
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態は、
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程と、を含む、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法である。
【0049】
本実施形態の方法によれば、原料としてのポリ(メタ)アクリル酸エステルを熱分解して得られる(メタ)アクリル酸エステルを回収することができる。
【0050】
本実施形態の方法は、第1冷却工程で得られる液状の熱分解物、又は、第2冷却工程で得られる液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程を含む。
脱水工程を含むことにより、精製工程における精製処理の負荷が効果的に軽減される。その結果、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理をより少ないエネルギーで実施することができる。あるいは、精製部内での(メタ)アクリル酸エステルの重合反応の抑制等の効果が期待できる。
【0051】
脱水工程は、精製工程の前に実施してもよく、精製工程の後に実施してもよく、精製工程の前と後の両方で実施してもよい。
精製工程における精製処理の負荷を効果的に軽減する観点からは、脱水工程は精製工程の前に少なくとも実施することが好ましい。
【0052】
本実施形態の方法は、例えば、上述したポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置を用いて実施できる。
【0053】
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態は、
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解工程と、
ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却工程と、
液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製工程と、
ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却工程と、
液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程と、を含む、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【0054】
本実施形態の方法によれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの原料となりうる(メタ)アクリル酸エステルを製造することができる。
【0055】
本実施形態の方法は、第1冷却工程で得られる液状の熱分解物、又は、第2冷却工程で得られる液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水工程を含む。
脱水工程を含むことにより、精製工程における精製処理の負荷が効果的に軽減される。その結果、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理をより少ないエネルギーで実施することができる。あるいは、精製部内での(メタ)アクリル酸エステルの重合反応の抑制等の効果が期待できる。
【0056】
脱水工程は、精製工程の前に実施してもよく、精製工程の後に実施してもよく、精製工程の前と後の両方で実施してもよい。
精製工程における精製処理の負荷を効果的に軽減する観点からは、脱水工程は精製工程の前に少なくとも実施することが好ましい。
【0057】
本実施形態の方法は、例えば、上述したポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置を用いて実施できる。
【符号の説明】
【0058】
10 熱分解部
20 第1冷却部
30 精製部
40 第2冷却部
50 脱水部
60 第1貯留部
70 第2貯留部
80 分縮器
100 再生処理装置
【要約】
【課題】ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理において水を効率よく除去できるポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理方法、および(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ(メタ)アクリル酸エステルの熱分解を行ってガス状の熱分解物を得る熱分解部10と、ガス状の熱分解物を冷却して液状の熱分解物を得る第1冷却部20と、液状の熱分解物の精製を行ってガス状の精製物を得る精製部30と、ガス状の精製物を冷却して液状の精製物を得る第2冷却部40と、液状の熱分解物又は液状の精製物の少なくとも一方に含まれる水を除去する脱水部50と、を含む、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの再生処理装置100。
【選択図】
図1