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特許7592892質量分析計、および質量分析計の制御方法
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  • 特許-質量分析計、および質量分析計の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】質量分析計、および質量分析計の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20241125BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20241125BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20241125BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241125BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241125BHJP
   H01J 49/10 20060101ALN20241125BHJP
【FI】
H01J49/16 500
H01J49/04 500
H01J49/14 500
G01N30/72 G
G01N27/62 X
H01J49/10 700
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023561974
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042194
(87)【国際公開番号】W WO2023089685
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 幹太郎
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-73848(JP,A)
【文献】特表2005-539358(JP,A)
【文献】特表2017-527078(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056182(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0341241(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
G01N 30/72
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
霧化した液体試料を気化、イオン化する加熱混合チャンバと、
種イオンガスから種イオンを生成し、前記加熱混合チャンバに前記種イオンを供給する電荷供給部と、
前記電荷供給部、および前記加熱混合チャンバにガスを供給するガス供給部と、を備えた質量分析計において、
前記ガス供給部は、
複数の異なるガス源と、
複数の異なる前記ガス源から供給されたガスを混合して混合ガスを作製する混合部と、
前記混合ガスの組成を制御する電磁弁と、を有し、
測定項目情報に基づいて、前記電荷供給部と前記加熱混合チャンバとに前記混合ガスを供給するように前記ガス供給部を制御する制御部を備える
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析計において、
前記測定項目情報は、測定目的物質の分子量の情報であり、
前記制御部は、前記分子量情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析計において、
前記測定項目情報は、測定目的物質を分離する液体クロマトグラフの分離方法情報であり、
前記制御部は、前記分離方法情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析計において、
前記測定項目情報は、前記ガス供給部から供給するガス種の情報であり、
前記制御部は、前記ガス種情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項5】
請求項4に記載の質量分析計において、
前記制御部は、測定中に前記ガス種を切り替える
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項6】
霧化した液体試料を気化、イオン化する加熱混合チャンバと、種イオンガスから種イオンを生成し、前記加熱混合チャンバに前記種イオンを供給する電荷供給部と、前記電荷供給部、および前記加熱混合チャンバにガスを供給するガス供給部と、を備えた質量分析計の制御方法において、
前記ガス供給部は、複数の異なるガス源と、複数の異なる前記ガス源から供給されたガスを混合して混合ガスを作製する混合部と、前記混合ガスの組成を制御する電磁弁と、を有し、
測定項目情報に基づいて、前記電荷供給部と前記加熱混合チャンバとに前記混合ガスを供給するように前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の質量分析計の制御方法において、
前記測定項目情報は、測定目的物質の分子量の情報であり、前記分子量情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計の制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の質量分析計の制御方法において、
前記測定項目情報は、測定目的物質を分離する液体クロマトグラフの分離方法情報であり、前記分離方法情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計の制御方法。
【請求項9】
請求項6に記載の質量分析計の制御方法において、
前記測定項目情報は、前記ガス供給部から供給するガス種の情報であり、前記ガス種情報に基づいて前記ガス供給部を制御する
ことを特徴とする質量分析計の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の質量分析計の制御方法において、
測定中に前記ガス種を切り替える
ことを特徴とする質量分析計の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計、および質量分析計の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法において液体試料を分析する代表的な分析装置には、液体クロマトグラフ質量分析計がある。液体クロマトグラフから送出された液体試料をイオン化し質量分析計に導入することで定性、定量測定を行う。代表的なイオン化法には大気圧イオン化法(以下APCI法)(非特許文献1)やエレクトロスプレーイオン化法(以下ESI法)(非特許文献2)がある。
【0003】
APCI法では、初めに測定試料を霧化する。測定試料は数~1000[μL/min]程度の溶媒とともに液体クロマトグラフから連続的に送液されるため、霧化には窒素ガス等を用いた気流支援によるスプレーを用いることが多い。その後、霧化試料を加熱することで気化し、気化した試料を針形状の電極で生成するコロナ放電中に導入しイオン化する。
【0004】
ESI法では、APCI法と同様に液体試料を気流支援によるスプレーによって霧化し、霧化器に高電圧を印加、霧を帯電液滴とする。もしくは測定試料自身に高電圧を印加し霧化、帯電液滴とする。帯電液滴を加熱乾燥させ帯電液滴を小型化、帯電液滴の小型化により過剰となった電荷がクーロン斥力によって、イオンが液滴から脱離しイオン化する。
【0005】
一般的にAPCI法は極性が低極性から中極性、ESI法では極性が中極性から高極性の測定試料に対してイオン化効率が高く、感度の良い測定が可能と言われている。そのため液体クロマトグラフ質量分析計を用いる測定者は、測定目的物質の極性を考慮してイオン化法の選択をする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Atmospheric pressure ionization mass spectrometry. Corona discharge ion source for use in a liquid chromatograph-mass spectrometer-computer analytical system”, D. I. Carroll, I. Dzidic, R. N. Stillwell, K. D. Haegele, and E. C. Horning, Anal. Chem., 47, 2369 (1975).
【文献】“Electrospray ionization for mass spectrometry of large biomolecules” JB Fenn, M Mann, CK Meng, SF Wong, CM Whitehouse, Science, 06 Oct 1989: Vol. 246, Issue 4926, pp. 64-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液体クロマトグラフ質量分析計の測定に用いるイオン化法は目的物質の極性や分子量、分子構造等により選択することが基本であるものの、実際はAPCI法やESI法で実際に測定した後で、測定感度の高いイオン化法を選択することが多い。
【0008】
イオン源には液体試料を乾燥されるための高温部があり、液体クロマトグラフで分離した目的物質ごとにイオン源を交換することは難しかった。そのため、液体クロマトグラフ質量分析計の測定者は、実試料の測定を行う際に目的物質のイオン化特性の近い試料を纏め測定を行っていた。
【0009】
このような課題を解決するために、APCI法とESI法との両方のイオン化法を搭載しているイオン源がある。液体クロマトグラフにて成分分離された目的物質を、イオン源に入る前に分岐、切り替えし、APCI法、ESI法のそれぞれが得意とする目的物質をイオン化する。
【0010】
この手法はイオン源までの試料導入距離が長くなり、液体クロマトグラフの分離が低下することや、単体のイオン源と比較するとイオン化条件が制限されることから、感度が低下するなどの課題があった。
【0011】
ここで、液体クロマトグラフ質量分析計では、測定試料を液体クロマトグラフで成分分離し目的物質の測定を行うことが多い。液体クロマトグラフの使用法には、水とアセトニトリル、メタノール等の有機溶媒を混合し、混合比を変えながら成分分離をする方法がある。この水と有機溶媒の混合液を溶離液と呼ぶ。
【0012】
しかし、目的物質が変わると、溶離液に使用する有機溶媒や混合比が変わる。そのため、質量分析計に導入される液体の組成は様々であり、一意に決定することができない、との問題がある。
【0013】
水と有機溶媒の混合物をイオン化すると、自分自身のイオン以外に、複数のイオンが結合したクラスターイオンと呼ばれる分子イオンが発生する場合がある。クラスターイオンには複数の水分子が結合した分子イオンや、水と有機溶媒イオンが結合した分子イオンなどがあり、クラスターイオンを質量分析計で測定すると、低分子量域に複雑なバックグラウンドとして信号が検出される。
【0014】
従来法の代表的なイオン化法であるAPCIは、気化した測定試料をコロナ放電中に導入しイオン化する。また、ESIは霧化器もしくは液体試料自身に高電圧を印加して、液体の霧化時にイオン化する。どちらのイオン化法も目的物質とともに溶離液もイオン化している。そのため、質量分析計では目的物質由来の信号と溶離液由来の信号とが同時に観測される。従って、測定したい目的物質の分子量が小さい場合、クラスターイオンの信号と目的物質からの信号とが重なることで感度が低下する場合があった。
【0015】
本発明の目的は、液体クロマトグラフ質量分析計の測定感度を従来に比べて向上させることが可能な質量分析計、および質量分析計の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、質量分析計において、測定項目情報に基づいて、電荷供給部と加熱混合チャンバとに混合ガスを供給するようにガス供給部を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液体クロマトグラフ質量分析計の測定感度を従来に比べて向上させることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例の質量分析計の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の質量分析計、および質量分析計の制御方法の実施例について図1を用いて説明する。
【0020】
最初に、質量分析計の全体構成について図1を用いて説明する。図1は本実施例の質量分析計の全体構成を示す図である。
【0021】
液体試料を分析する代表的な分析装置には、図1に示すような液体クロマトグラフ質量分析計(以下、質量分析計1と記載)がある。
【0022】
質量分析計1での測定試料は、液体クロマトグラフ300によって約数~1000[μL/min]の速さで連続して霧化器100に送液される。
【0023】
霧化器100は、液体クロマトグラフ300から送液された液体試料を霧化する。代表的な霧化器として、液体試料の流れる細管の周囲に高速ガスを流し、細管の出口で液体試料と高速ガスを接触させることで霧化する気体支援によるスプレーがある。高速ガスとしては、一般的に窒素ガスや空気が用いられる。気体支援によるスプレーに換えて、加湿器に用いられているような超音波霧化器を用いることができる。
【0024】
加熱混合チャンバ110は、霧化器100において霧化された測定試料流体(霧化流体)を気化、イオン化するために、霧化流体が導入される。加熱混合チャンバ110は、それ自体がヒータ等により加熱されており、導入された霧化流体が加熱混合チャンバ110からの伝熱によって気化が促進される。その他の加熱方法としては、加熱混合チャンバ110内に高周波加熱の電場を生成して霧化流体を加熱する方法や、赤外線を発生する光源により加熱する方法を用いることもできる。
【0025】
電荷供給部120は、加熱混合チャンバ110内で気化した測定試料流体(気化流体)に電荷を印加するための種イオンを種イオンガスから生成し、生成した種イオンを加熱混合チャンバ110に供給する。電荷供給部120は、APCIの針電極によるコロナ放電中に種イオンガス122を導入する手段や、種イオンガス122を用いたプラズマ放電による手段により、種イオンを生成する。
【0026】
また、電荷供給部120は、気化流体が流入しないように加熱混合チャンバ110より陽圧(高圧)とし、電荷供給部120から加熱混合チャンバ110へのガス流れを発生させる。
【0027】
電荷供給部120に供給する種イオンガス122は、空気,窒素,He,Ne,Ar,Xe、もしくはそれらの混合ガスである。
【0028】
霧化器110から供給され、加熱混合チャンバ110内で気化した測定試料と電荷供給部120から供給された種イオンとが加熱混合チャンバ110内で混合されることで、測定試料がイオン化される。電荷供給部120は加熱混合チャンバ110より陽圧となっているため、測定試料由来の流体が電荷供給部120に流入することが無く、測定試料由来の汚染を防ぐことができる。また、霧化器100は霧化のみの機能となり、電荷供給部120は電荷供給のみの機能となることから、測定安定性が向上する。
【0029】
イオン化した測定試料は第1細孔140と呼ばれる孔を通り、分析部150内に導入され、検出される。加熱混合チャンバ110は第1細孔140と接しており、伝熱により第1細孔140との温度差を低減する。
【0030】
分析部150では第1細孔140が大気と真空とを隔てるインターフェースとなっている。第1細孔140のある分析部150内の部屋(第1細孔140を有する真空室)は、真空ポンプ170に接続されており、第1細孔140の面積、長さ、真空ポンプ170の排気速度とによって、分析部150へのガス導入量が決定する。そのため、霧化器100からのガス供給量と電荷供給部120からのガス供給量との総和による測定気体の分析部150へのガス供給量と真空ポンプ170による分析部150へのガス導入量とが異なる場合がある。
【0031】
測定気体の分析部150へのガス供給量と分析部150へのガス導入量とを調整するために、補助ガス130を加熱混合チャンバに供給する。補助ガス130は空気,窒素,He,Ne,Ar,Xeもしくはそれらの混合ガスである。補助ガス130の流量は、導入している液体流量と種イオンガス122の流量との和と、第1細孔140を通過するガス流量との差分から決定することができ、他には第1細孔140を有する真空室の圧力に基づいて決定することができる。
【0032】
第1細孔140を有する真空室の圧力は、例えばその真空室に設けた圧力計160にて検出する。補助ガス130を供給することにより、装置環境条件に影響されにくいイオン化が実現する。
【0033】
このように、霧化器100、加熱混合チャンバ110、電荷供給部120を備えるイオン源によってイオン化した測定試料を質量分析計に導入し、質量分析計の検出部によって測定する。
【0034】
ガス供給部500は、電荷供給部120、および加熱混合チャンバ110にガスを供給する部分であり、ガス種の切り替えや流量制御は制御部400によって行われる。
【0035】
制御部400は、測定項目情報410に基づいて、電荷供給部120と加熱混合チャンバ110とに混合ガス(種イオンガス122、補助ガス130)を供給するようにガス供給部500を制御する機構であり、単一の制御装置であってもよいし、各々担当する機構の異なる複数の制御部によって構成されてもよい。
【0036】
種イオンガス122および補助ガス130は、上述の、空気,窒素,He,Ar,Xeもしくはそれらの混合ガスからなる。
【0037】
ガス供給部500は、流量0を含み、種イオンガス122のガス流量を制御する第1流量制御部510、流量0を含み、補助ガス130のガス流量を制御する第2流量制御部520、種イオンガスや補助ガスとする複合ガスを混合するガス混合部530、種イオンガスや補助ガスの基となる空気,窒素,He,Ar,Xe等の単体ガスの流量制御を行う単体ガス制御部540等により構成される。
【0038】
単体ガスの流量制御を行う単体ガス制御部540は、各々、複数の異なる種類の単体ガスの供給源570、ガス流れをOn/Offする電磁弁560、流量制御を行う単体ガス流量制御部550から構成される。
【0039】
この単体ガス制御部540は、1種類以上使用し、例えばAr,窒素、Heガスを使用する場合は、3系統接続する。
【0040】
次いで、上述の種イオンガスや補助ガスの流量制御の詳細について説明する。
【0041】
上述のように、液体クロマトグラフ質量分析計では、測定試料を液体クロマトグラフで成分分離し、目的物質の測定を行うことが多い。液体クロマトグラフによる成分分離では、同一分離条件、同じ物質であれば同じ時間(タイミング)に測定成分は分離される。この時間を保持時間と呼ぶ。故に液体クロマトグラフに測定試料を導入し、目的成分は決まった保持時間に分離されることになる。その成分分離される保持時間に合わせ、質量分析装置の測定条件(例えば観測する質量やMSMS条件)を変えて測定を行う。
【0042】
このため、測定する物質(目的物質)は、測定者が事前に把握している。少なくとも、測定する質量が既知であり、さらに分子構造も既知であることも多い。
【0043】
ここで、種イオンガス(特に希ガス)と放電を用いて目的成分をイオン化させる方法はペニングイオン化法と呼ばれている。
【0044】
ペニングイオン化法では、放電により生じた希ガスの準安定励起種から複数の反応を経て、分子のイオン化に至る。質量分析計1でのイオン化において、ペニングイオン化の重要点である種イオンガス種は、おのおの異なる内部エネルギーをもつため、種イオンガスを適宜選択することで,測定成分に与えるエネルギーを調節できる点にある。
【0045】
例えば,Heガスから生成される準安定励起種は、その内部エネルギーが19.8[eV]と高いため、ほぼあらゆる分子がイオン化できると考えられる。またArガスならイオン化エネルギーが11.7[eV]以下の分子を選択的にイオン化できる。
【0046】
上述の内部エネルギーは各ガス種により固有の値を持ち、ガス種の変更により変更可能、かつ測定目的物質も既知での測定であることから、測定目的物質により種イオンガスを選択制御、流量制御することで、溶媒由来のバックグラウンド信号を低下させ、目的物質自身のイオン化が可能となる。
【0047】
そこで、測定項目情報410として、測定目的物質の分子量の情報を用いることとし、制御部400は、分子量情報に基づいてガス供給部500を制御するものとする。
【0048】
例えば、液体クロマトグラフ質量分析計の測定者は、主に定量分析を行う際、測定前に目的物質の分子量情報を入力する。制御部400は測定時に入力された値に従って、測定するイオンを選択するようにガス供給部500を制御する。分子量とイオン化のエネルギーの関係は、一般的に低分子量側が高く、高分子量側が低い傾向にあるため、測定時のイオン選択時に種イオンガスも目的物質によって切り替えることで、高感度な測定が可能となる。
【0049】
また、例えば液体クロマトグラフによる分離方法として、逆相クロマトグラフィーがある。逆相クロマトグラフィーは、極性の低い分離カラムに、極性の高い溶媒を流し、炭素鎖の短い目的成分から炭素鎖の長い成分を溶出させる方法である。一般的に炭素鎖の短い成分は低分子量側、炭素鎖の長い成分は高分子量側となると想定される。上述のようにイオン化エネルギーは、一般的に低分子量側が高く、高分子量側が低い傾向にある。
【0050】
更に、液体クロマトグラフによる分離方法として、順相クロマトグラフィーもある。順相クロマトグラフィーは、極性の高い分離カラムに、極性の低い溶媒を流し、極性の低い目的成分から極性の高い成分を溶出させる方法である。目的成分の極性の大小も、質量分析計のイオン化法の選択において、測定感度に影響を与える因子である。一般的に極性が小さい目的成分はイオン化しにくいため、イオン化エネルギーが大きくなり、極性の大きな成分は、イオン化エネルギーが小さくなる傾向にある。
【0051】
上述の、液体クロマトグラフによる分離では、使用する分離条件により、分子量順や極性の大きさ順に成分が分離される。質量分析のイオン化では分子量順、極性の大きさにより、イオン化エネルギーが変化する傾向にある。
【0052】
そこで、測定項目情報410として、測定目的物質を分離する液体クロマトグラフの分離方法情報を用いることとし、制御部400は、分離方法情報に基づいてガス供給部500を制御するものとする。
【0053】
例えば、測定者が液体クロマトグラフによる分離方法を決定することで、分離方法の情報を元に、種イオンガスのガス種やその流量を選択する。ヘリウムガスは内部エネルギーが高く、質量分析計1でのイオン化の観点では最も使いやすいと考えられる。一方で資源としては有限であり、かつ高価という課題がある。
【0054】
そこで、測定項目情報410として、ガス供給部500から供給するガス種の情報を用いることとし、制御部400は、ガス種情報に基づいてガス供給部500を制御するものとする。この際、制御部400は、測定中にガス種を切り替えるものとする。
【0055】
例えば、空気の分離から生成可能な窒素を用い、目的成分や液体クロマトグラフによる分離方法情報を元に、種イオンガスを測定中に切り替える。
【0056】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0057】
上述した本実施例の質量分析計1は、ガス供給部500は、複数の異なる供給源570と、複数の異なる供給源570から供給されたガスを混合して混合ガスを作製するガス混合部530と、混合ガスの組成を制御する電磁弁560と、を有し、測定項目情報410に基づいて、電荷供給部120と加熱混合チャンバ110とに混合ガスを供給するようにガス供給部500を制御する制御部400を備える。
【0058】
よって、液体クロマトグラフ質量分析計において、測定目的物質の極性や分子量等の物性に由来する影響を低減し、高効率なイオン化(高感度)を実現することができる。また、液体クロマトグラフに使用する溶離液由来のクラスターイオン信号を低減し、バックグラウンド信号を低減することができる。従って、従来の質量分析計に比べて高感度な測定を実施することが可能となる。
【0059】
また、測定項目情報410は、測定目的物質の分子量の情報であり、制御部400は、分子量情報に基づいてガス供給部500を制御するため、高感度な測定が可能となる。
【0060】
更に、測定項目情報410は、測定目的物質を分離する液体クロマトグラフの分離方法情報であり、制御部400は、分離方法情報に基づいてガス供給部500を制御することで、目的成分自身のイオン化に適する、高効率なイオン化(高感度)が可能となる。
【0061】
また、測定項目情報410は、ガス供給部500から供給するガス種の情報であり、制御部400は、ガス種情報に基づいてガス供給部500を制御することにより、測定時の運用費用の低減を図ることができるようになり、より効率的な測定が可能となる。
【0062】
更に、制御部400は、測定中にガス種を切り替えることで、さらに効率的な測定が可能となる。
【0063】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0064】
1:質量分析計
100:霧化器
110:加熱混合チャンバ
120:電荷供給部
122:種イオンガス
130:補助ガス
140:第1細孔
150:分析部
160:圧力計
170:真空ポンプ
300:液体クロマトグラフ
400:制御部
410:測定項目情報
500:ガス供給部
510:第1流量制御部
520:第2流量制御部
530:ガス混合部
540:単体ガス制御部
550:単体ガス流量制御部
560:電磁弁
570:供給源(ガス源)
図1