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特許7592973定着装置、画像形成装置及び定着装置の温度制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】定着装置、画像形成装置及び定着装置の温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241126BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/00 502
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020029784
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021135338
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】醒井 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
(72)【発明者】
【氏名】平田 健太郎
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-210028(JP,A)
【文献】特開2002-116658(JP,A)
【文献】特開2007-309966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定手段と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得手段と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御手段と、を備え
連続印刷時に、
前記熱量外乱推定手段が、先行する記録媒体による抜熱量に基づき熱量外乱を予測し、
前記予見制御手段が、後行の記録媒体が前記定着ニップを通過する前にフィードフォワード信号を前記加熱源に入力することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定手段と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得手段と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御手段と、を備え、
前記定着ニップを通過した記録媒体の情報が、予め設定された記録媒体の情報と異なる場合、
前記予見制御手段は、前記定着ニップを通過した記録媒体による抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更することを特徴とす定着装置。
【請求項3】
連続印刷時に、
前記熱量外乱推定手段が、先行する記録媒体による抜熱量に基づき熱量外乱を予測し、
前記予見制御手段が、後行の記録媒体が前記定着ニップを通過する前にフィードフォワード信号を前記加熱源に入力することを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着ニップを通過した記録媒体の情報が、予め設定された記録媒体の情報と異なる場合、
前記予見制御手段は、前記定着ニップを通過した記録媒体による抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更することを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記記録媒体の情報が、記録媒体の厚さ及び記録媒体の長さのいずれかであることを特徴とする請求項2または4に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置の温度制御において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定工程と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得工程と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御工程と、を有し、
連続印刷時に、
先行する記録媒体による抜熱量に基づき熱量外乱を予測する工程と、
予測された熱量外乱に基づき決定されたフィードフォワード信号を、後行の記録媒体が前記定着ニップを通過する前に前記加熱源に入力する工程と、を有することを特徴とする定着装置の温度制御方法。
【請求項8】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置の温度制御において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定工程と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得工程と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御工程と、を有し、
前記定着ニップを通過した記録媒体の情報が、予め設定された記録媒体の情報と異なる場合、
前記定着ニップを通過した記録媒体による抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更する工程を有することを特徴とす定着装置の温度制御方法。
【請求項9】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置の温度制御において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定工程と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得工程と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御工程と、を有し、
電源電圧が、定格電圧より低い場合、
前記予見制御工程によるフィードフォワード制御のタイミングを早めることを特徴とす定着装置の温度制御方法
【請求項10】
加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置の温度制御において、
過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定工程と、
前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得工程と、
取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御工程と、を有し、
電源電圧が、定格電圧より低い場合、
前記予見制御工程によるフィードフォワード出力を抑制することを特徴とす定着装置の温度制御方法。
【請求項11】
連続印刷時に、
先行する記録媒体による抜熱量に基づき熱量外乱を予測する工程と、
予測された熱量外乱に基づき決定されたフィードフォワード信号を、後行の記録媒体が前記定着ニップを通過する前に前記加熱源に入力する工程と、を有することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の定着装置の温度制御方法。
【請求項12】
前記定着ニップを通過した記録媒体の情報が、予め設定された記録媒体の情報と異なる場合、
前記定着ニップを通過した記録媒体による抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更する工程を有することを特徴とする請求項7、9または10に記載の定着装置の温度制御方法。
【請求項13】
電源電圧が、定格電圧より低い場合、
前記予見制御工程によるフィードフォワード制御のタイミングを早めることを特徴とする請求項7、8または10に記載の定着装置の温度制御方法。
【請求項14】
電源電圧が、定格電圧より低い場合、
前記予見制御工程によるフィードフォワード出力を抑制することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の定着装置の温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置、画像形成装置及び定着装置の温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機等の画像形成装置に用いられる定着装置として、加熱源によって加熱される定着部材と、対向する加圧部材とが互いに接触して形成された定着ニップに、紙やOHP等の記録部材を通過させ、該記録部材上のトナー画像を熱と圧力によって定着するものが知られている。定着装置では、定着部材が所定の目標温度(定着温度)となるように制御されている。
【0003】
近年、省エネルギー化のために、定着部材を低熱容量化することで急速加熱を可能とし、予備加熱時間を大幅に短縮し、大気中への不要な放熱を低減した定着装置が主流となってきている。このような定着装置では、安定した定着性を確保するために、定着部材の温度検知手段からの温度情報に基づいたフィードバック制御が行われる。
【0004】
しかしながら、従来のPID制御等を用いたフィードバック制御では、記録媒体の通過による定着部材の抜熱を補償できず、トナーを溶融するために必要な熱量が不足し、画像オフセット等の不具合が発生するという問題があった。
定着部材の抜熱量は、通紙される記録部材の種類(サイズ、厚さ等)によって変化するため、記録部材の情報に基づいて適切な目標温度を設定し制御する必要がある。
【0005】
これに対し、記録媒体の通紙による定着部材の急速な温度低下を抑える目的で、予め取得した記録媒体の情報に基づいて、記録媒体が定着ニップに通紙される前から定着部材の加熱制御を行うフィードフォワード制御を併用した制御方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、予め設定されたものとは異なる種類の記録媒体が通紙された場合、対応する定着部材の適切な温度制御が行われないため、熱量が不足して画像オフセットが発生したり、熱量が過剰となって記録媒体にしわやカールが発生したりする等、画像の品質低下を招くおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、予め設定されたものとは異なる種類の記録媒体が通紙された場合であっても、定着時の温度制御を適切に行うことができ、印刷画像の品質低下を防止可能な定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、加熱源によって加熱される定着部材と、前記定着部材との間で定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記定着ニップに記録媒体を通過させて該記録媒体上の画像を定着する定着装置において、過去の定着時における記録媒体が前記定着ニップを通過する際に前記定着部材及び前記加圧部材から抜熱される抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定手段と、前記熱量外乱を取得する熱量外乱取得手段と、取得された前記熱量外乱に基づき、前記定着部材の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御手段と、を備え、連続印刷時に、前記熱量外乱推定手段が、先行する記録媒体による抜熱量に基づき熱量外乱を予測し、前記予見制御手段が、後行の記録媒体が前記定着ニップを通過する前にフィードフォワード信号を前記加熱源に入力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予め設定されたものとは異なる種類の記録媒体が通紙された場合であっても、定着時の温度制御を適切に行うことができ、印刷画像の品質低下を防止可能な定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の要部構成の説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る第1の定着装置の断面図である。
図3】定着装置の一例を示す斜視図である。
図4図3の定着装置の分解斜視図である。
図5】定着ベルトモジュールの外観斜視図である。
図6図5の定着ベルトモジュールの分解斜視図である。
図7】定着装置の一例を示す側面図である。
図8】定着装置の主要構成部材の長手方向の位置関係を示す説明図である。
図9】加熱源の発熱パターンの例を示す平面図である。
図10】本発明の実施形態に係る第2の定着装置の断面図である。
図11】本発明の実施形態に係る第3の定着装置の断面図である。
図12】本発明の実施形態に係る第4の定着装置の断面図である。
図13】本発明の定着装置の温度制御方法に係る制御のブロック図である。
図14】本発明の定着装置の温度制御方法の一例を示すフローチャートである。
図15】(A)は実施例1及び比較例1の印刷結果の評価を示す表であり、(B)は実施例1の熱量外乱を示すグラフであり、(C)は実施例1のフィードフォワード信号(C)を示すグラフである。
図16】(A)は実施例2及び比較例2の印刷結果の評価を示す表であり、(B)は実施例2の熱量外乱を示すグラフであり、(C)は実施例2のフィードフォワード信号(C)を示すグラフである。
図17】(A)は実施例3及び比較例3の印刷結果の評価を示す表であり、(B)は実施例3の熱量外乱を示すグラフであり、(C)は実施例3のフィードフォワード信号(C)を示すグラフである。
図18】(A)は実施例4及び比較例4の印刷結果の評価を示す表であり、(B)は実施例4の熱量外乱を示すグラフであり、(C)は実施例4のフィードフォワード信号(C)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る定着装置、画像形成装置及び定着装置の温度制御方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0012】
[画像形成装置]
図1は、後述する本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置の一実施形態としてのレーザプリンタの要部構成の説明図であり、原理を単純化して図示したものである。
図1に示すように、本実施形態に係る画像形成装置は、給紙手段4と、レジストローラ対6と、像担持体としての感光体ドラム8と、転写手段10と、定着装置1とを備えている。
【0013】
給紙手段4は、記録媒体(以下、「用紙」ともいう)Sが積載状態で収容される給紙トレイ14と、給紙トレイ14に収容された用紙Sを最上のものから順に1枚ずつ分離して送り出す給紙コロ16を有している。
給紙コロ16によって送り出された用紙Sはレジストローラ対6で一旦停止され、姿勢ずれを矯正された後、感光体ドラム8の回転に同期するタイミングで、すなわち、感光体ドラム8上に形成されたトナー像の先端と用紙Sの搬送方向先端部の所定位置とが一致するタイミングでレジストローラ対6により転写部位Tへ送られる。
【0014】
感光体ドラム8の周りには、矢印で示す回転方向順に、帯電手段としての帯電ローラ18と、図示しない露光手段の一部を構成するミラー20と、現像ローラ22aを備えた現像手段22と、転写手段10と、クリーニングブレード24aを備えたクリーニング手段24が配置されている。
【0015】
帯電ローラ18と現像手段22の間において、ミラー20を介して感光体ドラム8上の露光部26に露光光Lbが照射され、走査されるようになっている。
プリンタにおける画像形成動作は従来と同様に行われる。
すなわち、感光体ドラム8が回転を始めると、感光体ドラム8の表面が帯電ローラ18により均一に帯電され、画像情報に基づいて露光光Lbが露光部26に照射、走査されて作成すべき画像に対応した静電潜像が形成される。
この静電潜像は感光体ドラム8の回転により現像手段22へ移動し、ここでトナーが供給されて可視像化され、トナー像が形成される。
【0016】
感光体ドラム8上に形成されたトナー像は、所定のタイミングで転写部位Tに進入してきた用紙S上に転写手段10による転写バイアス印加により転写される。
トナー像を担持した用紙Sは定着装置1へ向けて搬送され、定着装置1で定着された後、図示しない排紙トレイへ排出・スタックされる。
【0017】
転写部位Tで転写されずに感光体ドラム8上に残った残留トナーは、感光体ドラム8の回転に伴ってクリーニング手段24に至り、このクリーニング手段24を通過する間にクリーニングブレード24aにより掻き落とされて清掃される。
その後、感光体ドラム8上の残留電位が図示しない除電手段により除去され、次の作像工程に備えられる。
【0018】
[定着装置]
図2は、本発明の実施形態に係る定着装置(第1の定着装置)の断面図である。
本実施形態の定着装置は、後述する本発明に係る温度制御方法により定着部材の温度が制御される。
【0019】
本実施形態の定着装置は、図2に示すように、加熱源であるヒータ50によって加熱される定着部材(以下、「定着ベルト」ともいう)28と、定着部材28との間で定着ニップNを形成する加圧部材(以下、「加圧ローラ」ともいう)30とを備えている。
定着装置は、定着ニップNに記録媒体Sを通過させて該記録媒体上の画像を定着する。
【0020】
定着ベルト28は、例えば、外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の基体を有している。また、定着ベルト28の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。基体と離型層の間には、厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。
また、定着ベルト28の基体はポリイミドに限定されず、PEEKなどの耐熱性樹脂や、ニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。内周面には、摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
【0021】
加圧ローラ30は、例えば外径が25mmであり、中実の鉄製芯金30aと、この芯金30aの表面に形成された弾性層30bと、弾性層30bの外側に形成された離型層30cとで構成されている。弾性層30bはシリコーンゴムで形成されており、厚みは、例えば3.5mmである。弾性層30bの表面は離型性を高めるために、厚みが例えば40μm程度のフッ素樹脂層による離型層30cを形成するのが望ましい。
加圧ローラ30は、付勢手段により定着ベルト28に対して圧接している。
【0022】
定着ベルト28の内側に、ステー61及びヒータホルダ53が軸線方向に配設されている。ステー61は金属製のチャンネル材で構成され、その両端部分が加熱装置の両側板に支持されている。ステー61は加圧ローラ30の押圧力を確実に受けとめて定着ニップNを安定的に形成する。
【0023】
ヒータホルダ53は、加熱源であるヒータ50の基材50bを保持するためのもので、ステー61によって支持されている。ヒータホルダ53は好ましくはLCPなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成することができ、これにより熱伝達が減って効率的に定着ベルト28を加熱することができる。
ヒータホルダ53の形状は、発熱抵抗体50aとの接触を回避するために、基材50bの短手方向両端部付近の各2箇所のみを支持する形状にしている。これにより、ヒータホルダ53に流れる熱量をさらに低減し、効率的に定着ベルト28を加熱することができる。
【0024】
図3及び図4に本実施形態の定着装置(定着ユニット)の斜視図を示す。図4は、図3の分解斜視図である。
定着装置は、第1のフレーム部材71と第2のフレーム部材72とが接合された枠の内側に、加圧ローラ30及び定着ベルト28を含む定着ベルトモジュール29が配設されている。
【0025】
第1のフレーム部材71は、コの字型の板金で形成されている。本実施形態において、第1のフレーム部材71は一枚の板金を曲げて形成されているが、例えば、側板と橋渡しの板のような2~3点の部材をネジなどで締結して形成されたものでもよい。
第1のフレーム部材71にはU字状の切欠部が二箇所形成され、端部にすべり軸受からなる加圧軸受73が設けられている。加圧軸受73に加圧ローラの芯金30aが嵌合し、加圧ローラ30が回転可能に保持される。なお、加圧軸受73は玉軸受であってもよい。
加圧ローラ30の一端には加圧ギヤ39が設けられ、画像形成装置本体側に設けられたギヤと連結して回転する。
【0026】
定着ベルトモジュール29は、第1のフレーム部材71の切欠部にスライド挿入される。第1のフレーム部材71と締結される第2のフレーム部材72と定着ベルトモジュール29との間には、加圧バネ(圧縮バネ)76を設ける。加圧バネ76により定着ベルトモジュール29を加圧ローラ30に付勢し、定着ニップNを形成する。
加圧バネ76は、定着ベルトモジュール29を直接付勢してもよいし、間にレバー部材等を介してもよい。レバー部材を介すことにより、テコの原理で弱いバネで大きな加圧力を得ることができる。
【0027】
図5及び図6に定着ベルトモジュール29の斜視図を示す。図6は、図5の分解斜視図である。
定着ベルトモジュール29は、ヒータ50、ヒータホルダ53、左フランジ74、右フランジ75、及びこれらに内周面を支持された定着ベルト28からなる。
【0028】
ヒータ50は、ヒータホルダ53に装着される。
ヒータホルダ53のヒータ50が配設されていない面は、ヒータホルダ53よりも剛性の高い板金からなるステー61に支持される。ヒータホルダ53の長手方向両端部には、フランジ(左フランジ74、右フランジ75)が設けられている。フランジは、定着ベルト28の内周面に当接して回動をガイドするとともに、端部と突き当ることで蛇行を防止するように規制している。
【0029】
ヒータ50及びヒータホルダ53は長手方向の位置決め形状P1を有し、ヒータホルダ53と左フランジ74は長手方向の位置決め形状P2を有している。位置決め形状P1及びP2は、長手方向一方端部側(本実施形態では左側)にのみ設けることで、熱膨張による変形の影響を緩和することができる。
ステー61は、左フランジ74及び右フランジ75と、ガタつきを有した状態で嵌合する。
【0030】
図10に本実施形態の定着装置(定着ユニット)の側面図を示す。
加圧ローラ30は、加圧ギヤ39(図示省略)が画像形成装置本体のギヤと噛み合って回転することにより、図中矢印D1の方向に回転する。
定着ベルト(図示省略)28は、加圧ローラ30に従動して矢印D2の方向に回転する。定着ベルト28は、定着ベルトモジュール29を構成する部材と摺動する内周面にグリスやオイル等を介在させることにより、摺動性を高めることができる。
【0031】
図9に、加熱源であるヒータ50の概略構成を示す。図9(A)及び図9(B)は、それぞれ異なる発熱体パターンの例を示したものである。
ヒータ50は、ヒータ基材50b上に配置された発熱体50a(素子501~508)を有し、さらに発熱体50aより抵抗値の小さな導体パターン50d、電極部(50e、50f)を有し、それらを覆うように絶縁層52が形成されている。
【0032】
ヒータ基板50bの材料としては、耐熱性および絶縁性に優れたものが好ましく、例えば、アルミナや窒化アルミなどのセラミック、ガラス、マイカ等が挙げられる。また、金属などの導電材料の上に絶縁性材料を積層したものでもよい。
これらの中でも、コスト面では低コストのアルミやステンレス等が好ましい。一方、定着部材の均熱性を高め、画像品質を高める観点では、銅、グラファイト、グラフェン等の高熱伝導率の材料が好ましい。
本実施形態のヒータ基板50bとしては、短手幅8mm、長手幅270mm、厚さ1.0mmのアルミナ基材を使用している。
【0033】
発熱体50aは、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等によりヒータ基板50bに塗工し、その後の焼成することによって形成することができる。
本実施形態の発熱体50aの発熱体素子501~508は、それぞれ抵抗値を常温で80Ωとした。
発熱体50aの材料は、上述の例以外に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO)の抵抗材料を用いてもよい。
【0034】
導電パターン50d及び電極部(50e、50f)は、銀(Ag)または銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷することにより形成される。
【0035】
絶縁層52は、厚さ75μmの耐熱性ガラスにより形成される。
絶縁層52は、ヒータ基材50b上の発熱体50a及び導体パターン50dを覆うように形成され、絶縁性とともに、定着ベルト28の内周面との摺動性が確保される。
ヒータ50は絶縁層52側で定着ベルト28に当接し、伝熱により定着ベルト28の温度を上昇させ、定着ニップNに搬送される用紙S上の未定着画像を加熱する。
【0036】
発熱体50aは、長手方向に分割された複数の発熱体素子501~508からなるパターンを有し、各発熱体素子501~508は、それぞれ電気的に並列に接続されている。
発熱体50aは、PTC(正の温度抵抗係数)特性を有する材料からなり、温度が上昇すると抵抗値が上昇(ヒータ出力が低下)する特徴を備えている。
これにより、発熱体50aの幅よりも狭い用紙Sを印刷した場合、用紙Sの紙幅より外側の発熱体素子は用紙Sに熱を奪われないため、温度が上昇し、抵抗値が上昇する。各発熱体素子501~508にかかる電圧は一定なので、相対的に紙幅より外側の発熱体素子の出力が低下し、温度上昇が抑制される。
発熱体素子を直列に接続した場合は、紙幅より外側の発熱体素子の温度上昇を抑制するために、連続印刷時に印刷速度を低下させる必要があるが、本実施形態のように発熱体素子を並列に接続した場合は、印刷速度を低下させる必要は無い。
【0037】
発熱体素子501~508を長手方向に並列に配置する場合は、各素子間に絶縁性を確保するための空間が生じ、発熱量低下が発生する。
このため、本実施形態では、図9(A)及び図9(B)のように各発熱体素子の端部を長手方向でオーバーラップさせた配置とすることにより、発熱量低下の影響を抑制する。
図9(A)は、発熱体素子501~508の端部にL字状の切り欠きによる段部を形成し、当該段部を隣接する抵抗発熱体の端部の段部とオーバーラップさせている。
図9(B)は、発熱体素子501~508の端部に斜めの切り欠きによる傾斜部を形成し、当該傾斜部を隣接する抵抗発熱体の端部の傾斜部とオーバーラップさせている。
また、発熱体素子501~508は、所望の出力(抵抗値)が得られるように発熱体の材料を折り返して形成してもよい。
【0038】
図8は、定着装置の主要構成部材の長手方向の位置関係を示す説明図である。
ヒータ50の長手方向の発熱領域は、用紙Sの紙幅よりも長く設けることが好ましい。
図中、用紙Sよりも長い部分を「L」で示している。具体的には、本実施形態の定着装置で通紙可能な最大サイズであるレターサイズ216mm幅に対し、Lが0.5~7mm(発熱体50aの長さが217~230mm)であることが好ましく、Lが1.0~5mm(発熱体50aの長さが219~226mm)であることがより好ましい。
これにより、装置立ち上げ直後の長手方向端部の温度低下や、連続通紙時における紙幅より外側の過昇温の発生を防止することができる。
【0039】
ヒータ50とヒータホルダ53は、上述のように図中左側に位置決め形状P1及びP2を有している。
位置決め形状P1は、ヒータ50の凹部にヒータホルダ53の凸部が嵌合する構成である。
位置決め形状P2は、左フランジ74に形成された溝部をヒータホルダ53が挟む構成である。
位置決め形状P3は、第2のフレーム72に形成された開口部に、画像形成装置本体の凸部が嵌合する構成である。
また、第1のフレーム部材71の凸形状が第2のフレーム部材72の孔部に嵌合して固定される。
これらの位置決めを設けることにより、ヒータ50の位置精度が向上する。
【0040】
給電コネクタ54は、熱膨張による変形でヒータ50との位置関係が変化しないよう、位置決め形状P1及びP2が設けられた側(図中、長手方向の左側)に設けることが好ましい。
また、加圧ギヤ39のギヤ噛合により発生する熱によって温度が上昇しないよう、加圧ギヤ39は給電コネクタ54が設けられていない側(図中、長手方向の右側)に設けることが好ましい。また、このような配置とすることで、加圧ギヤ39をフレーム側板に近づけることができ、剛性が高まるため芯金30aを細くすることが可能となり、軽量化や低コスト化を実現することができる。(加圧軸受73に固定され、加圧ギヤ39に力がかかる片持ち梁状態となる)。
【0041】
定着装置は、ヒータ50、定着ベルト28、加圧ローラ30のいずれかの温度を接触もしくは非接触で測定する温度検知手段(サーミスタ)34を有する。サーミスタ34は、位置精度を高めるために位置決め形状P1及びP2が設けられた側(図中、長手方向の左側)に設けることが好ましい。
ヒータ50の裏面にサーミスタ34を接触または近接させる場合、ヒータ50の裏面に別途ガラスやセラミック等からなる絶縁部材を設けてもよい。
【0042】
サーミスタ34により検知された温度は、電力制御部に入力される。電力制御部は、検知された温度に基いて、各発熱体素子501~508が所定目標温度になるように電極部(50e、50f)に対する供給電流を制御する。
電力制御部は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース等を包含するマイクロコンピュータで構成することができる。
用紙Sを定着ニップNに通紙すると、通紙による抜熱(用紙への熱移動分)が発生するので、抜熱量も考慮して供給電流を制御することで、定着ベルト28の温度を所望の温度に制御することができる。
本発明に係る定着装置の温度制御方法の詳細は後述する。
【0043】
(定着装置の他の実施形態)
定着装置1は上述の実施形態に限定されず、図10図12に示す第2~第4の形態とすることもできる。
【0044】
第2の定着装置は、図10に示すように、加圧ローラ30と反対側に押圧ローラ40を有し、当該押圧ローラ40とヒータ50との間で定着ベルト28を挟んで加熱する。
定着ベルト28の内側には、ニップ形成部材32が設けられている。
ニップ形成部材32は、定着ベルト28を介して加圧ローラ30と当接し、定着ニップNを形成している。
【0045】
第3の定着装置は、図11に示すように、ヒータ50が定着ニップNではない部位を加熱している。また、上述の第2の定着装置のように押圧ローラ40を備えていない。このため、定着ベルト28の内側に配設されたヒータ50を、定着ベルト28の曲率に合わせて湾曲させ、ヒータ50と定着ベルト28との周方向の接触部位を長くすることにより加熱される領域を確保している。
【0046】
第4の定着装置は、図12に示すように、定着ニップである第1のニップN1と、加熱ニップである第2のニップN2とが設けられている。
すなわち、加圧ローラ30の定着ベルト28との当接部とは反対側に、ニップ形成部材32とステー61を配置し、これらを内包するように加圧ベルト31を周回可能に配設している。加圧ベルト31と加圧ローラ30との間の定着ニップN1に用紙Sを通紙して、用紙S上のトナー像を加熱・定着する。
【0047】
[定着装置の温度制御方法]
(装置構成)
本発明に係る定着装置は、記録媒体Sが定着ニップNを通過する際に定着部材(定着ベルト)28及び加圧部材(加圧ローラ)30から抜熱される抜熱量を熱量外乱として取得する手段と、過去の定着時における記録媒体Sによる抜熱量に基づき熱量外乱を予測する熱量外乱推定手段と、熱量外乱推定手段により予測された熱量外乱に基づき、定着部材(定着ベルト)28の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する予見制御手段と、を備える。
【0048】
本実施形態に係る温度制御は、フィードフォワード制御を行うものであり、熱量外乱を検知する手段と、熱量外乱を予測する手段と、予測された熱量外乱に基づき操作量を決定する手段を備える。フィードフォワード制御の信号の流れは、熱量外乱の検知から操作量の決定という一方向の制御方式であるため、目標温度を維持するためにフィードバック制御と併用する。
【0049】
図13に、本発明に係る定着装置の温度制御の概要を示す。
図13のブロック図に示す本実施形態に係る制御手段は、定着システム80、FB(フィードバック)コントローラ81、FF(フィードフォワード)コントローラ82を備え、FFコントローラとして熱量外乱推定手段83、熱量外乱取得手段84、予見制御手段85を備えている。
記録媒体Sが定着ニップNに通紙される前に、熱量外乱推定手段83が熱量外乱を推定し、定着ベルト28の温度変動(温度リップルや温度低下)を抑制するように予見制御手段85からヒータ電力を入力する。
【0050】
記録媒体Sの熱量外乱推定には、外乱オブザーバを用いる。
熱量外乱取得手段84は、外乱オブザーバの予測した熱量外乱を取得する。
外乱オブザーバは、制御対象の定着システム80に侵入する熱量外乱を制御対象の状態の一部として推定するものであり、制御対象の入力と出力を監視して熱量外乱を計測し、定着システム80の制御にフィードバックする仕組みである。
熱量外乱推定手段83は、定着システム80に入力される入力(操作量)と、各部材の温度出力(制御量)に基づいて予測を行う。この予測情報は、次の印刷の際に用いられる。
【0051】
本実施形態では、予測情報の熱量外乱に基づいて、定着システム80に印加される熱量外乱を最小にするためのフィードフォワード信号(操作量である電力)を決定する。
熱量外乱を最小にすることにより、定着ベルト28の通紙時における温度の変動(リップルや温度の落ち込み)を抑制し、目標温度と予測温度との偏差を縮小し、定着動作時の消費エネルギーを低減することができる。
これにより、安定した定着を実現することができ、印刷画像の品質低下を防止することができる。
【0052】
また、本実施形態の定着装置は、連続印刷時に、熱量外乱推定手段83が、先行する記録媒体Sによる抜熱量に基づき熱量外乱を予測し、予見制御手段85が、後行の記録媒体Sが定着ニップNを通過する前にフィードフォワード信号を加熱源であるヒータ50に入力する。
【0053】
定着ニップNを通過した記録媒体Sの情報が、予め設定された記録媒体Sの情報と異なる場合、予見制御手段85は、定着ニップNを通過した記録媒体Sによる抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更する。
ここで、記録媒体Sの情報とは、定着時の抜熱量に影響を与える要素であり、例えば、記録媒体Sの厚さ、記録媒体Sの長さ等が挙げられる。
【0054】
また、定着を行う際の電源電圧が定格電圧より低い場合は、予見制御手段85によるフィードフォワード制御のタイミングを早めることが好ましい。
さらに、定着を行う際の電源電圧が定格電圧より低い場合は、予見制御手段85によるフィードフォワード出力としての電力を抑制することが好ましい。
【0055】
(温度制御方法)
本発明に係る定着装置の温度制御方法は、定着ニップNを通過する際に定着部材(定着ベルト)28及び加圧部材(加圧ローラ)30から抜熱される抜熱量を熱量外乱として取得する工程と、過去の定着時における記録媒体Sによる抜熱量に基づき熱量外乱を予測する工程と、熱量外乱推定手段83により予測された熱量外乱に基づき、定着部材28の温度変動を抑制するためのフィードフォワード信号を決定する工程と、を有する。
【0056】
図14のフローチャートは、本実施形態の温度制御方法の流れの一例として、連続印刷時の制御の流れを示したものである。
まず、装置に対して記録媒体Sの情報(厚さやサイズ等)が設定され(ステップS001)、連続印刷が開始される(ステップS002)。
最初に通紙される記録媒体Sの印刷においては、ステップS001で設定された情報に基づいて予測された熱量外乱に基づき温度制御された定着装置にて定着が行われる(ステップS003及びS004)。
【0057】
ステップS004の1枚目(n=1)の印刷時における熱量外乱を取得し(ステップS005)、この熱量外乱に基づき2枚目(n+1、n=1)の熱量外乱を予測する(ステップS006)。予測された熱量外乱に基づきフィードフォワード信号を決定し(ステップS007)、決定されたフィードフォワード信号を、2枚目の記録媒体Sが定着ニップNを通過する前に前記加熱源に入力する。
【0058】
連続印刷を継続するか否かを判断し(ステップS009)、印刷を継続する場合はステップS005に戻り、以降、ステップS006の先行する記録媒体(n枚目)による抜熱量に基づき熱量外乱を予測する工程と、ステップS007の後行の記録媒体(n+1枚目)の熱量外乱を予測する工程を行う。
印刷を継続しない場合は印刷を終了する。
【0059】
このように、本実施形態の温度制御方法では、連続印刷時に、先行する記録媒体Sによる抜熱量に基づき熱量外乱を予測する工程と、予測された熱量外乱に基づき決定されたフィードフォワード信号を、後行の記録媒体が定着ニップNを通過する前に加熱源であるヒータ50に入力する工程と、を有する。
ここで、定着ニップNを通過した先行の記録媒体Sの情報が、予め設定された記録媒体Sの情報と異なる場合、実際に定着ニップNを通過した記録媒体Sによる抜熱量から予測された熱量外乱に基づき、フィードフォワード信号を変更する工程を有する。
【0060】
上述の構成により、予め設定されたものとは異なる種類の記録媒体が通紙された場合であっても、定着時の温度制御を適切に行うことができ、熱量が不足して画像オフセットが発生したり、熱量が過剰となって記録媒体にしわやカールが発生したりする等の印刷画像の品質低下を防止することができる。
【0061】
[実施例]
(実施例1)
本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体に対する連続印刷を行った。
印刷に使用する記録媒体の情報として、紙厚の区分「薄紙(坪量が59g/m以下の記録媒体)」を選択し、画像形成装置に設定した。
一方、給紙トレイには、紙厚の区分では「厚紙」に該当する坪量が105g/m以上の記録媒体をセットした。
【0062】
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。
実際には「厚紙」が通紙されたことにより、予測された熱量外乱と異なる抜熱量で定着の熱量が不足し、1枚目ではコールドオフセット画像が生じた。
2枚目の印刷時においては、熱量外乱推定手段が1枚目の抜熱量から熱量外乱を高い精度で予測し、「厚紙」に対する定着に最適なフィードフォワード信号をヒータに入力したため、コールドオフセット画像は発生しなかった。同様に3枚目以降の印刷においてもコールドオフセット画像は発生しなかった。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図15(A)に示す。表中「×」はコールドオフセット画像の発生を示し、「〇」はコールドオフセット画像が発生せず、良好な画像品質であることを示している。
【0063】
なお、フィードフォワード信号は、定着ベルト28や加圧ローラ30の温度が十分に上昇した温度飽和状態で検出しやすい。温度飽和状態では、抜熱量に相当する電力がヒータ50に入力されるためである。
本実施例は、事前に評価外の連続印刷を10分間行って定着装置を温度飽和状態とした後、上述の連続印刷を行った。以下の実施例も同様である。
【0064】
1~3枚目の印刷時に使用された熱量外乱を図15(B)に示す。
1枚目の印刷時は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱を用いている。
2枚目の印刷時は、1枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。同様に3枚目の印刷時は、2枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。
【0065】
1~3枚目の印刷時に入力されたフィードフォワード信号を図15(C)に示す。
フィードフォワード信号は、定着ベルト28の温度変動を抑制するため、具体的には温度の落ち込みが最小となるように制御するための信号であり、ヒータ50に入力される。
1枚目の印刷時の信号は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
2枚目の印刷時の信号は、1枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号であり、3枚目の印刷時の信号は、2枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
【0066】
(比較例1)
本発明に係る温度制御を行う手段を有していない従来の定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体(普通紙)に対する連続印刷を行った。
実施例1と同様、印刷に使用する記録媒体の情報として紙厚の区分を「薄紙」を選択し、画像形成装置に設定した。給紙トレイには紙厚の区分では「厚紙」に該当する記録媒体をセットした。
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。
実際には「厚紙」が通紙されたことにより、予測された熱量外乱と異なる抜熱量で定着の熱量が不足し、すべての印刷画像においてコールドオフセット画像が生じた。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図15(A)に示す。表中「×」はコールドオフセット画像の発生を示している。
【0067】
(実施例2)
本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体に対する連続印刷を行った。
印刷に使用する記録媒体の情報として、紙厚の区分「厚紙(坪量が105g/m以上の記録媒体)」を選択し、画像形成装置に設定した。
一方、給紙トレイには、紙厚の区分では「薄紙」に該当する坪量が59g/m以下の記録媒体をセットした。
【0068】
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「厚紙」の定着に適した温度(例えば、150℃)となるように制御された。
実際には「薄紙」が通紙されたことにより、熱量が過剰となり、1枚目ではホットオフセット画像の発生や記録媒体のカールや皺の発生が見られた。
2枚目の印刷時においては、熱量外乱推定手段が1枚目の抜熱量から熱量外乱を高い精度で予測し、「薄紙」に対する定着に最適なフィードフォワード信号をヒータに入力したため、ホットオフセット画像や記録媒体のカールや皺は発生しなかった。3枚目以降の印刷においても同様であった。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図16(A)に示す。表中「△」はホットオフセット画像の発生及び記録媒体のカールや皺の発生を示し、「〇」は良好な画像品質であることを示している。
【0069】
1~3枚目の印刷時に使用された熱量外乱を図16(B)に示す。
1枚目の印刷時は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱を用いている。
2枚目の印刷時は、1枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。同様に3枚目の印刷時は、2枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。
【0070】
1~3枚目の印刷時に入力されたフィードフォワード信号を図16(C)に示す。
フィードフォワード信号は、定着ベルト28の温度変動を抑制するため、具体的には温度の落ち込みが最小となるように制御するための信号であり、ヒータ50に入力される。
1枚目の印刷時の信号は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
2枚目の印刷時の信号は、1枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号であり、3枚目の印刷時の信号は、2枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である
【0071】
(比較例2)
本発明に係る温度制御を行う手段を有していない従来の定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体(普通紙)に対する連続印刷を行った。
実施例2と同様、印刷に使用する記録媒体の情報として紙厚の区分を「厚紙」を選択し、画像形成装置に設定した。給紙トレイには紙厚の区分では「薄紙」に該当する記録媒体をセットした。
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「厚紙」の定着に適した温度(例えば、150℃)となるように制御された。
実際には「薄紙」が通紙されたことにより、予測された熱量外乱と異なる抜熱量で定着の熱量が過剰となり、すべての印刷画像においてホットオフセット画像が生じ、記録媒体にカールや皺が発生した。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図16(A)に示す。表中「△」はホットオフセット画像の発生及び記録媒体のカールや皺の発生を示している。
【0072】
(実施例3)
本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体に対する連続印刷を行った。
印刷に使用する記録媒体の情報として、紙厚の区分「薄紙(坪量が59g/m以下の記録媒体)」を選択し、画像形成装置に設定した。
一方、給紙トレイには、紙厚の区分では「厚紙」に該当する坪量が105g/m以上の記録媒体をセットした。
また、電源電圧を定格電圧より低い電圧とした。具体的には100V仕様の画像形成装置において、80V程度で印刷を行った。
【0073】
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。ヒータの最大電力は1000Wから640W程度に低下した。
実際には「厚紙」が通紙されたことにより、予測された熱量外乱と異なる抜熱量で定着の熱量が不足し、1枚目ではコールドオフセット画像が生じた。
2枚目の印刷時においては、熱量外乱推定手段が1枚目の抜熱量から熱量外乱を高い精度で予測し、「厚紙」に対する定着に最適なフィードフォワード信号をヒータに入力したため、コールドオフセット画像は発生しなかった。
なお、低電圧状態で薄紙を通紙したときに最適なフィードフォワード信号をヒータに入力するために、フィードフォワード制御を実施例1におけるタイミングより早めに開始し、フィードフォワード出力(電力)は実施例1よりも低い値となった。
同様に3枚目以降の印刷においてもコールドオフセット画像は発生しなかった。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図17(A)に示す。表中「×」はコールドオフセット画像の発生を示し、「〇」はコールドオフセット画像が発生せず、良好な画像品質であることを示している。
【0074】
1~3枚目の印刷時に使用された熱量外乱を図17(B)に示す。
1枚目の印刷時は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱を用いている。
2枚目の印刷時は、1枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。同様に3枚目の印刷時は、2枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。
【0075】
1~3枚目の印刷時に入力されたフィードフォワード信号を図17(C)に示す。
フィードフォワード信号は、定着ベルト28の温度変動を抑制するため、具体的には温度の落ち込みが最小となるように制御するための信号であり、ヒータ50に入力される。
1枚目の印刷時の信号は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
2枚目の印刷時の信号は、1枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号であり、3枚目の印刷時の信号は、2枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
実施例1と比べて、信号入力のタイミングが早く、かつフィードフォワード出力(電力)は低くなっている。
【0076】
(比較例3)
本発明に係る温度制御を行う手段を有していない従来の定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体(普通紙)に対する連続印刷を行った。
実施例3と同様、印刷に使用する記録媒体の情報として紙厚の区分を「薄紙」を選択し、画像形成装置に設定した。給紙トレイには紙厚の区分では「厚紙」に該当する記録媒体をセットした。
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。
また、電源電圧を定格電圧より低い電圧とした。具体的には100V仕様の画像形成装置において、80V程度で印刷を行った。
実際には「厚紙」が通紙されたことにより、予測された熱量外乱と異なる抜熱量で定着の熱量が不足し、すべての印刷画像においてコールドオフセット画像が生じた。
1~3、5、7、10枚目の印刷画像品質の評価結果を図17(A)に示す。表中「×」はコールドオフセット画像の発生を示している。なお、コールドオフセットの程度は実施例1よりも顕著であった。
【0077】
(実施例4)
本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体に対する連続印刷を行った。
印刷に使用する記録媒体の情報として紙厚の区分を「薄紙(坪量が59g/m以下の記録媒体)」を選択した。また、紙サイズ区分として「不定型」を選択し、長さの値として「200mm」を設定手段から入力した。
給紙トレイには、「薄紙」に該当し、かつ長さが上記設定した値よりも短い150mmの記録媒体をセットした。
【0078】
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。
実際には長さが「150mm」の記録媒体が通紙されたことにより、1枚目の記録媒体の後端が通過した後も差分の50mmを加熱するためのヒータ入力があった。
2枚目の印刷時においては、熱量外乱推定手段が1枚目の抜熱量から熱量外乱を高い精度で予測し、長さが「150mm」の記録媒体に対する定着に最適なフィードフォワード信号をヒータに入力したため、無駄な加熱が行われなくなった。同様に3枚目以降の印刷においても適切な加熱時間となった。
1~3、5、7、10枚目の加熱時間の評価結果を図18(A)に示す。表中「△」は記録媒体通過後のヒータ入力がみられたことを示し、「〇」は適切なヒータ入力に記録媒体通過後にヒータ入力が終了し、無駄な加熱が行われなかったことを示している。
【0079】
1~3枚目の印刷時に使用された熱量外乱を図18(B)に示す。
1枚目の印刷時は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱を用いている。
2枚目の印刷時は、1枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。同様に3枚目の印刷時は、2枚目の印刷時に取得された熱量外乱に基づき予測された熱量外乱を用いている。
【0080】
1~3枚目の印刷時に入力されたフィードフォワード信号を図18(C)に示す。
フィードフォワード信号は、定着ベルトの温度変動を抑制するため、具体的には通紙中の消費電力が最小となるように制御するための信号であり、ヒータに入力される。
1枚目の印刷時の信号は、設定された情報に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
2枚目の印刷時の信号は、1枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号であり、3枚目の印刷時の信号は、2枚目の印刷に基づき予測された熱量外乱から決定された信号である。
【0081】
(比較例4)
本発明に係る温度制御を行う手段を有していない従来の定着装置を備えた画像形成装置にて10枚の記録媒体(普通紙)に対する連続印刷を行った。
実施例4と同様、印刷に使用する記録媒体の情報として紙厚の区分を「薄紙」を選択し、長さを「200mm」として画像形成装置に設定した。給紙トレイには紙厚の区分では「薄紙」に該当する記録媒体であって、長さが「150mm」の記録媒体をセットした。
印刷開始時、定着部材は設定された情報に基づき、「薄紙」の定着に適した温度(例えば、120℃)となるように制御された。
実際には長さが「150mm」の記録媒体が通紙されたことにより、記録媒体の後端が通過した後も差分の50mmを加熱するためのヒータ入力があった。
1~3、5、7、10枚目の加熱時間の評価結果を図18(A)に示す。表中「△」は記録媒体通過後にもヒータ入力がみられ、無駄な加熱があったことを示している。
【0082】
以上のように、本発明に係る定着装置によれば、予め設定されたものとは異なる種類の記録媒体が通紙された場合であっても、定着時の温度制御を適切に行うことができ、該定着装置を備えた画像形成装置における印刷画像の品質低下を防止することができる。また定着動作時における無駄な加熱防止し、定着動作中の消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 定着装置
28 定着部材(定着ベルト)
29 定着ベルトモジュール
30 加圧部材(加圧ローラ)
30a 芯金
30b 弾性層
30c 離型層
34 温度検知手段(サーミスタ)
50 加熱源(ヒータ)
50a 発熱体
50b ヒータ基材
50d 導電パターン
50e、50f 電極部
52 絶縁層
53 ヒータホルダ
61 ステー
83 熱量外乱推定手段
85 予見制御手段
N 定着ニップ
S 記録媒体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【文献】特開2011-90300号公報
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