(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】信号分離装置、プログラムおよび信号分離方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/245 20210101AFI20241126BHJP
【FI】
A61B5/245
(21)【出願番号】P 2020129329
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019214679
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊介
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0289847(US,A1)
【文献】特開2008-073342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0125268(US,A1)
【文献】特表2013-533782(JP,A)
【文献】特開2018-005805(JP,A)
【文献】国際公開第2023/073063(WO,A1)
【文献】清水孝一,体内蛍光像透視イメージング,日本レーザ医学会誌,日本,2005年,Vol.26, No.3,pp.206-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置において、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する際に、互いに異なる位置に設置された複数のセンサ上の空間情報に従って分離するように構成され、
第1の領域と第2の領域との間の一致の程度を計算するように構成され、該第1の領域は目的信号の部分空間領域であり、該第2の領域は目的信号が生成される場所であり、
前記一致の程度に基づいて空間分離パラメータを設定し、
設定された前記空間分離パラメータが適切かどうかを示す指標として分離度を決定し、当該分離度を用いて
設定される空間分離パラメータにより目的信号と目的信号以外の信号とを互いに分離するものであって、
前記目的信号の部分空間は、投影される空間情報を、目的信号を含む信号と含まない信号とに分離可能なベクトル空間である、
ことを特徴とする信号分離装置。
【請求項2】
前記目的信号が発生しうる領域を設定して、設定された前記空間分離パラメータに基づいて作成される投影行列を用い、前記目的信号の部分空間領域の内側と外側とに分離する空間分離手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号分離装置。
【請求項3】
前記空間分離手段で分離した各部分空間領域の時間方向の基底ベクトルを求め、前記目的信号以外の成分を分離する時間分離手段を備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の信号分離装置。
【請求項4】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置において、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する投影行列を作成する際に、前記目的信号が発生しうる領域に即した空間を、前記投影行列による前記目的信号の分離度合い
により、前記目的信号が発生しうる領域と一致するように設定
し、該作成された投影行列を用いて信号を分離する空間分離手段を備える、
ことを特徴とする信号分離装置。
【請求項5】
前記空間分離手段は、撮像機器や形状測定装置から得られた関心領域に関する情報を用いて、前記目的信号が発生しうる領域に即した空間を設定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の信号分離装置。
【請求項6】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置を制御するコンピュータを、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する際に、互いに異なる位置に設置された複数のセンサ上の空間情報に従って分離するように構成され、第1の領域と第2の領域との間の一致の程度を計算するように構成され、該第1の領域は目的信号の部分空間領域であり、該第2の領域は目的信号が生成される場所であり、前記一致の程度に基づいて空間分離パラメータを設定するパラメータ設定手段と、
前記パラメータ設定手段に設定された前記空間分離パラメータが適切かどうかを示す指標として分離度を決定し、当該分離度を用いて
設定される空間分離パラメータにより目的信号と目的信号以外の信号とを互いに分離する信号分離手段と、
として機能させ、
前記目的信号の部分空間は、投影される空間情報を、目的信号を含む信号と含まない信号とに分離可能なベクトル空間である、
ためのプログラム。
【請求項7】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置を制御するコンピュータを、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する投影行列を作成する際に、前記目的信号が発生しうる領域に即した空間を、前記投影行列による前記目的信号の分離度合い
により、前記目的信号が発生しうる領域と一致するように設定
し、該作成された投影行列を用いて信号を分離する空間分離手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置における信号分離方法であって、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する際に、互いに異なる位置に設置された複数のセンサ上の空間情報に従って分離するように構成され、第1の領域と第2の領域との間の一致の程度を計算するように構成され、該第1の領域は目的信号の部分空間領域であり、該第2の領域は目的信号が生成される場所であり、前記一致の程度に基づいて空間分離パラメータを設定するパラメータ設定工程と、
前記パラメータ設定工程で設定された前記空間分離パラメータが適切かどうかを示す指標として分離度を決定し、当該分離度を用いて
設定される空間分離パラメータにより目的信号と目的信号以外の信号とを互いに分離する信号分離工程と、
を含み、
前記目的信号の部分空間は、投影される空間情報を、目的信号を含む信号と含まない信号とに分離可能なベクトル空間である、
ことを特徴とする信号分離方法。
【請求項9】
空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置における信号分離方法であって、
互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する投影行列を作成する際に、前記目的信号が発生しうる領域に即した空間を、前記投影行列による前記目的信号の分離度合い
により、前記目的信号が発生しうる領域と一致するように設定
し、該作成された投影行列を用いて信号を分離する空間分離工程を含む、
ことを特徴とする信号分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号分離装置、プログラムおよび信号分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳磁図(MEG:Magneto-encephalography)測定機器などの生体磁気計測装置において同時計測されるノイズである妨害信号やアーチファクトは、解析の妨げとなるため、除去する必要がある。
【0003】
特許文献1には、多重チャンネル磁場または電荷ポテンシャル測定における妨害信号やアーチファクトを除去する目的で、信号を信号部分空間に分離し除去する技術であって、マスクウェルの方程式を用いた物理モデルで信号を空間的に分離する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の空間分離を用いた妨害信号やアーチファクトの除去技術では、パラメータを設定する必要があるが、従来は、パラメータが適切かどうかの指標がなく、最終的な処理結果を用いて試行する必要があり、より容易に適切な空間分離を行う手法が求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、適切な目的信号の部分空間を作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、空間分離を用いて信号を分離する信号分離装置において、互いに異なる位置に設置された複数のセンサの空間情報から目的信号と当該目的信号以外の信号とを分離する際に、互いに異なる位置に設置された複数のセンサ上の空間情報に従って分離するように構成され、第1の領域と第2の領域との間の一致の程度を計算するように構成され、該第1の領域は目的信号の部分空間領域であり、該第2の領域は目的信号が生成される場所であり、前記一致の程度に基づいて空間分離パラメータを設定し、設定された前記空間分離パラメータが適切かどうかを示す指標として分離度を決定し、当該分離度を用いて設定される空間分離パラメータにより目的信号と目的信号以外の信号とを互いに分離するものであって、前記目的信号の部分空間は、投影される空間情報を、目的信号を含む信号と含まない信号とに分離可能なベクトル空間である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適切な目的信号の部分空間を作成することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、情報処理装置が備えるアーチファクト除去機能を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、パラメータ決定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、関心領域をボクセルに区切った例を示す図である。
【
図6】
図6は、目的信号の部分空間の広がりとその指標(DSSP法)について説明する図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態にかかる目的信号の部分空間の広がりとその指標(tSSS法)について説明する図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態にかかる目的信号の部分空間の作成の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、目的信号の部分空間の指標(DSSP法)について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、信号分離装置、プログラムおよび信号分離方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
<システム構成>
図1は、第1の実施形態に係る情報処理システム1の構成例を示す図である。
図1において、情報処理システム1は、複数種類の生体信号、たとえば脳磁図(MEG:Magneto-encephalography)信号と脳波図(EEG:Electro-encephalography)信号を計測し、表示する。情報処理システム1は、測定装置3と、データ収録サーバ42と、情報処理装置20とを含む。情報処理装置20は、計測で得られた信号情報(計測情報)と解析結果を表示するモニタディスプレイ26を有する。ここでは、データ収録サーバ42と情報処理装置20が別々に描かれているが、データ収録サーバ42の少なくとも一部を情報処理装置20に組み込んでもよい。
【0011】
被測定者は、頭に脳波測定用の電極(またはセンサ)を付けた状態で測定テーブル4に仰向けで横たわり、測定装置3のデュワ30の窪み31に頭部を入れる。デュワ30は、液体ヘリウムを用いた極低温環境の保持容器であり、デュワ30の窪み31の内側には脳磁測定用の多数の磁気センサが配置されている。測定装置3は、電極からの脳波信号と、磁気センサからの脳磁信号を収集し、収集された生体信号(計測情報)をデータ収録サーバ42に出力する。データ収録サーバ42に収録された計測情報は、情報処理装置20に読み出されて表示され、解析される。一般的に、磁気センサを内蔵するデュワ30と測定テーブル4は磁気シールドルーム内に配置されているが、図示の便宜上、磁気シールドルームを省略している。
【0012】
上述したように、測定装置3は、脳磁図(MEG)測定機器などの生体磁気計測装置であって、多チャンネル計測装置として機能する。多チャンネル計測装置である測定装置3は、脳磁測定用の多数の磁気センサの位置や向きが既知であり、磁気センサ群に近い信号源を仮定したときに、その磁気センサの応答値を計算することができる。
【0013】
情報処理装置20は、複数の磁気センサからの脳磁信号の波形と、複数の電極からの脳波信号の波形を、同じ時間軸上に同期させて表示する。脳波信号は、神経細胞の電気的な活動(シナプス伝達の際にニューロンの樹状突起で起きるイオン電荷の流れ)を電極間の電圧値として表すものである。脳磁信号は、脳の電気活動により生じた微小な磁場変動を表わす。脳磁場は高感度の超伝導量子干渉計(SQUID)センサで検知される。
【0014】
<ハードウェア構成>
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置20は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)21、RAM(Random Access Memory)22、ROM(Read Only Memory)23、補助記憶装置24、入出力インタフェース25、及びモニタディスプレイ(表示装置)26を有している。CPU21、RAM22、ROM23、補助記憶装置24、入出力インタフェース25、及びモニタディスプレイ(表示装置)26は、バス27で相互に接続されている。
【0015】
CPU21は、情報処理装置20の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU21はまた、ROM23または補助記憶装置24に格納された情報処理プログラムを実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0016】
本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0017】
また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0018】
また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0019】
RAM22は、CPU21のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。ROM23は、基本入出力プログラム等を記憶する。本発明の情報処理プログラムもROM23に保存されてもよい。
【0020】
補助記憶装置24は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置であり、たとえば、情報処理装置20の動作を制御する情報処理プログラムや、情報処理装置20の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0021】
入出力インタフェース25は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、各種センサあるいはデータ収録サーバ42からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースの双方を含む。
【0022】
モニタディスプレイ26では、測定収録画面と解析画面が表示され、入出力インタフェース25を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0023】
<機能構成>
次に、本実施の形態の情報処理装置20の機能のうち、測定装置3において同時計測されるノイズである妨害信号やアーチファクトを除去する機能について説明する。
図3は、情報処理装置20が備えるアーチファクト除去機能を示すブロック図である。
【0024】
情報処理装置20は、信号分離装置として機能するものであって、計測情報取得手段201と、パラメータ設定手段202と、空間分離手段203と、時間分離手段204と、アーチファクト分離手段205と、を備える。
【0025】
計測情報取得手段201と、パラメータ設定手段202と、空間分離手段203と、時間分離手段204と、アーチファクト分離手段205とは、CPU21が、ROM23または補助記憶装置2に格納された情報処理プログラムを読み出して実行することで実現される。
【0026】
計測情報取得手段201は、測定装置3で計測した生体信号(計測情報)をデータ収録サーバ42から取得する。計測情報取得手段201は、測定装置3で計測したセンサ情報である生体信号(計測情報)を補助記憶装置24に格納する。
【0027】
パラメータ設定手段202は、測定装置3の磁気センサの位置と磁気センサの向きである空間情報を用いて、後述の空間分離における適切なパラメータを選択し、設定する。
【0028】
すなわち、パラメータ設定手段202は、目的信号の部分空間の広がりに基づいて算出された値をパラメータとして設定する。
【0029】
なお、パラメータ設定手段202は、パラメータ選択肢の中から目的信号の部分空間の広がりにかかる所定の基準に基づくパラメータを選択して、パラメータとして設定するようにしてもよい。
【0030】
また、パラメータ設定手段202は、目的信号の部分空間の広がりに基づいて算出された値を予め設定された値から置き換えてパラメータとして設定するようにしてもよい。
【0031】
空間分離手段203は、パラメータ設定手段202で設定されたパラメータに基づいて作成される投影行列を用い、目的信号の部分空間の内側と外側とに分離する。
【0032】
時間分離手段204は、空間分離手段203で分離した各部分空間の時間方向の基底ベクトルを、特異値分解などで求め、目的信号以外の成分を分離する。
【0033】
アーチファクト分離手段205は、信号分離手段として機能するものであって、時間方向の基底ベクトルに基づいて、妨害信号やアーチファクト成分を除去する。また、アーチファクト分離手段205は、パラメータ設定手段202に設定されたパラメータが適切かどうかの指標として、(空間の)分離度(本実施例では分離度として、分離のゲイン)を求める。
【0034】
ここで、測定装置3におけるパラメータの決定例について説明する。
【0035】
図4は、パラメータ決定処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、空間分離を用いた妨害信号およびアーチファクトの除去手法の1つであるDSSP法(非特許文献1参照)での処理例について述べる。
【0036】
空間分離手段203は、
図5に示すように、あらかじめ設定した関心領域(観測したい目的信号が発生しうる領域)をボクセルVに区切っておく。そして、
図4に示すように、空間分離手段203は、M個の磁気センサを備える測定装置3のデュワ30の磁気センサの位置と磁気センサの向きの空間情報から、関心領域内のr
i番目のボクセルVに信号源が存在した場合のセンサ応答L(r
i)を関心領域内の全てのボクセルVで算出し、下記に示す式(1)のように、事前情報Fを計算する(ステップS11)。
【0037】
【0038】
次いで、時間分離手段204は、下記に示す式(2)、(3)のように、ステップS11で算出した事前情報Fのグラム行列の固有ベクトルを目的信号の部分空間の基底ベクトルとし、目的信号の部分空間への投影行列Pを算出する(ステップS12)。時間分離手段204によって目的信号の部分空間への投影行列Pを算出する際、投影行列は事前情報の次元を圧縮して作成するため、これが目的信号の部分空間の次元ζ(0<ζ<M)となる。
【0039】
【0040】
なお、以上の処理は、空間分離を用いる妨害信号およびアーチファクトの除去手法の1つであるDSSP法の一部として知られている。
【0041】
次に、アーチファクト分離手段205は、任意の位置から発生する信号における測定装置3の複数の磁気センサの応答B(x,y,z)に対して目的信号の部分空間へ投影し目的信号を含む信号1と含まない信号2とに分離する投影行列Pの投影の性能を評価する目的信号の部分空間の定量指標を算出する(ステップS13)。
【0042】
より詳細には、アーチファクト分離手段205は、以下の式(4)に示すように、元信号B(x,y,z)の分離後の信号との強度比を用いて、目的信号の部分空間の定量指標を定義する。なお、式(4)では、目的信号を含まない信号2((I-P)B)を用いているが目的信号を含む信号1(PB)を用いても同義であり、ここで重要なのはその位置から発生した信号は信号1と信号2のどちらにどれだけの割合で分離されるかということである。ここでは、外側の部分空間への投影の場合で説明する。アーチファクト分離手段205は、様々な位置のB(x,y,z)に対する部分空間のゲインφ(x,y,z)を求める。
【0043】
【0044】
そして、アーチファクト分離手段205は、ゲインφが閾値以下の領域(白い領域)Rφと、ステップS11で設定した関心領域RIとの一致度を算出する(ステップS14)。本実施形態では、他の指標も加えるものとして、下記の示す式(5)のように、一致度の指標の1つであるJaccard Indexのスコアλを求める。
【0045】
【0046】
なお、他の一致度を求める手法としては、Dice Index、volume similarityなどの一般的な一致度や、Accuracy、F値のような二値分類モデルの評価指標、確率を用いた類似度などの手法を用いることができる。
【0047】
また、二値化を行わない場合でも、ROC曲線とそのArea Under the Curveなど、様々な確率分布とその評価指標や、画像比較手法を用いて求めることができる。なお、確率分布を用いれば上述の閾値を最適化することも可能である。
【0048】
続いて、アーチファクト分離手段205は、下記に示す式(6)のようにスコアλが最大となるようなζを求めることで、関心領域に最も適した目的信号の部分空間を作成するζを決定する(ステップS15)。
【0049】
【0050】
以上の処理は、DSSP法と同様に、目的信号の部分空間の広がりに影響を与えるパラメータを持つ手法で有効である。
【0051】
次に、具体的な目的信号の部分空間の広がりとその指標(DSSP法)について説明する。
【0052】
ここで、
図6は目的信号の部分空間の広がりとその指標(DSSP法)について説明する図である。
図6に示す(a),(b),(c)は、目的信号の部分空間の次元ζの値を変化させてゲインφの値を可視化した図である。
【0053】
図6に示すように、空間分離手段203は、関心領域(残したい信号が発生する領域)をボクセルVに区切った直方体に設定する。そして、空間分離手段203は、設定した直方体の所定のaxial断面を切り出して表示している。つまり、
図6に示す(a),(b),(c)の白枠が、設定した関心領域の範囲を表している。
図6に示す(a),(b),(c)は、白色が強いほどその位置から発生した信号について目的信号を含まない信号2に分離されるゲインが小さい、すなわち、その位置から発生した信号の大半を目的信号を含む信号1に分離するという意味になる。したがって、関心領域内の信号は目的信号である前提から、白枠内の領域は白色が強くなり、それ以外では抑制され、黒色になることが理想である。よって、白色の領域が目的信号の部分空間の広がりを表している。
【0054】
図6(a)においては、定義した関心領域に対して目的信号の部分空間が小さく、不十分であることを示している。一方、
図6(c)においては、定義した関心領域に対して目的信号の部分空間が大きく、関心領域外の妨害信号も目的信号に取り入れてしまうことを示している。したがって、
図6(b)が最適であることはわかるが、関心領域と目的信号の部分空間の領域の一致度を求めて広がりを定量化することでも、最適なパラメータを選択することが可能になる。
【0055】
また、
図6に示す(A),(B),(C)は、それぞれ、上述の
図6(a),(b),(c)を用いて妨害信号除去を行った結果波形である。その際に用いた妨害信号は、実際に左鎖骨付近にノイズ源を置き脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3で収録した妨害信号である。この妨害信号に対して、
図6(A),(B),(C)は、
図6(D)の模擬生体信号を重ね合わせたデータである。
図6(B)の波形が、
図6(D)の正解の波形に最も近いことは見て明らかである。
【0056】
このことから、関心領域に目的信号の部分空間の広がりを一致させたほうが最終的な結果が良くなるため、アーチファクト分離手段205は、目的信号の部分空間の広がりを指標としてパラメータを決定する。
【0057】
このように本実施形態によれば、設定されたパラメータが適切かどうかの指標として分離のゲインを求めることで、適切な目的信号の部分空間を作成することができる。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、パラメータを計測後に試行錯誤で探す必要がなくなる。また、本実施形態によれば、解析者によって選択するパラメータが異なることにより、結果が変わってしまうことがなくなる。さらに、本実施形態によれば、脳磁計の場合、患者ごとに合わせた目的信号の部分空間を作成することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0060】
第2の実施形態は、tSSS法を用いる点が、DSSP法を用いる第1の実施形態と異なる。以下、第2の実施形態の説明では、第1の実施形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施形態と異なる箇所について説明する。
【0061】
図7は、第2の実施形態にかかる目的信号の部分空間の広がりとその指標(tSSS法)について説明する図である。
【0062】
tSSS法では設定する球中心が目的信号の部分空間の広がりに関連するパラメータであるため、
図7に示す(a),(b),(c)は、球中心を変化させてゲインφの値を可視化した図である。
【0063】
なお、
図6に示したDSSP法と目的信号の部分空間の広がり方が異なるため、
図7ではsagittal中央断面を表し、
図7の右側がanterior、左側がposteriorを表す。また、tSSS法では関心領域が球体のため、
図7では、今回設置を仮定したセンサの位置を同時に投影している。
【0064】
図7に示す関心領域は、センサが設置されている領域の内部となる。なお、
図7に示す(a),(b),(c)おいては、白色が強いほどその位置から発生した信号について目的信号を含まない信号2に分離されるゲインが小さい、すなわちその位置から発生した信号の大半を目的信号を含む信号1に分離するという意味になる。したがって、関心領域内の信号は目的信号である前提から、球中心の領域は白色が強くなり、それ以外では抑制され、黒色になることが理想である。よって、白色の領域が目的信号の部分空間の広がりを表している。
【0065】
図7(a)においては、定義した関心領域に対して目的信号の部分空間が小さく、不十分であることを示し、一方、
図7(c)においては、定義した関心領域に対して目的信号の部分空間が大きく、関心領域外の妨害信号も目的信号に取り入れてしまうことを示している。したがって、
図7(b)が最適であることはわかるが、関心領域と目的信号の部分空間の領域の一致度を求めて広がりを定量化することでも、最適なパラメータを選択することが可能になる。
【0066】
また、
図7に示す(A),(B),(C)は、それぞれ、上述の
図7(a),(b),(c)を用いて妨害信号除去を行った結果波形である。その際に用いた妨害信号は、実際に左鎖骨付近にノイズ源を置き脳磁計である測定装置3で収録した妨害信号である。この妨害信号に対して、
図7(A),(B),(C)は、
図7(D)の模擬生体信号を重ね合わせたデータである。
図7(B)の波形が、
図7(D)の正解の波形に最も近いことは見て明らかである。
【0067】
このことから、関心領域に目的信号の部分空間の広がりを一致させたほうが最終的な結果が良くなるため、アーチファクト分離手段205は、目的信号の部分空間の広がりを指標としてパラメータを決定する。
【0068】
このように本実施形態によれば、tSSS法においても同様に、任意の信号源に対して算出された割合から目的信号の部分空間の広がりを定量化し、定量化した目的信号の部分空間の広がりに基づいて適切なパラメータを決定することができるので、適切な目的信号の部分空間を作成できる。
【0069】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0070】
第3の実施形態は、測定装置3における目的信号の部分空間の作成方法を説明するものである。以下、第3の実施形態の説明では、第1の実施形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施形態と異なる箇所について説明する。
【0071】
ここで、
図8は第3の実施形態にかかる目的信号の部分空間の作成の流れを示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、第1の実施形態で説明した
図4のステップS11における空間分離手段203による処理を詳述したものである。
【0072】
図8に示すように、空間分離手段203は、撮像機器や形状測定装置などの情報取得装置から得られた情報を用いて、手動ないし自動で信号発生領域を抽出する(ステップS111)。
【0073】
例えば、測定装置3が脳磁図(MEG)の場合においては、空間分離手段203は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)などの撮像機器にて得られた情報と測定装置3のデュワ30の磁気センサとの位置合わせを行うことにより、関心領域を実際の信号発生領域に合わせてボクセルやメッシュを作成する。ここで、信号発生領域とは、例えば脳磁図(MEG)の場合においては脳領域のことであり、観測したい目的信号が発生しうる領域のことを指す。
【0074】
次いで、空間分離手段203は、計測情報取得手段201を介して取得した測定装置3で計測したセンサ情報を用いて信号発生領域内の事前情報Fを計算する(ステップS112)。
【0075】
ここで、
図9は目的信号の部分空間の指標(DSSP法)について説明する図である。
図9(a)は、
図8のステップS111で定義されたボクセルで作成した投影行列を用いてDSSPを実行した結果波形である。一方、
図9(b)は、
図6で説明したような直方体で定義されたボクセルで作成した投影行列を用いてDSSPを実行した結果波形である。その際に用いた妨害信号は、実際に左鎖骨付近にノイズ源を置き脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3で収録した妨害信号である。この妨害信号に対して、
図9(a),
図9(b)は、
図9(c)の模擬生体信号を重ね合わせたデータである。
図9(a)の波形が、
図9(c)の波形に最も近いことは見て明らかである。
【0076】
このことから、ボクセルを作成するときは、MRIなどの撮像機器や形状測定装置にて得られた情報と測定装置3のデュワ30の磁気センサとの位置合わせによって得られた情報を基に、関心領域を実際の脳の形状に合わせてボクセルを作成する手法が有用であることがわかる。
【0077】
なお、実際の脳の形状を表現する方法として、単一球で近似する方法(Single-sphere Model)や複数の球で近似する(Overlapping-sphere Model)方法、実際の脳の形状を撮像された情報から抽出する方法などのいずれであってもよいし、これらに限定されない。
【0078】
このように本実施形態によれば、信号発生領域(観測したい目的信号が発生しうる領域)に即したボクセルを設定して空間を作成することで、空間分離性能が向上するため、適するパラメータを選択したときの妨害信号除去性能をより高めることができる。
【0079】
なお、各実施形態においては、生体として頭部を考慮した場合を例として詳細に説明したが、これに限るものではない。例えば、生体は、脊磁計(MagnetoSpinoGraphy(MSG))が対象とする頸椎などであってもよく、脊磁計計測における生体トラッキングも本発明の範囲にある。
【符号の説明】
【0080】
20 信号分離装置
202 パラメータ設定手段
203 空間分離手段
204 時間分離手段
205 信号分離手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【文献】特許第4875696号公報
【文献】K.Sekihara, Y.Kawabata, S.Ushio, S.Sumiya, S.Kawabata, Y.Adachi, S.S.Nagarajan, “Dual signal subspace projection(DSSP): a novel algorithm for removing large interference in biomagnetic measurements,” Journal of Neural Engineering, vol.13, no.3, 036007, 2016