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特許7593032電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、照明装置、表示素子、及び表示装置
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  • 特許-電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、照明装置、表示素子、及び表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、照明装置、表示素子、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/10 20230101AFI20241126BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20241126BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20241126BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 59/50 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 71/13 20230101ALI20241126BHJP
   H10K 77/10 20230101ALI20241126BHJP
【FI】
H10K85/10
C08G61/12
G09F9/30 365
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/17
H10K50/17 171
H10K59/50
H10K71/13
H10K77/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020163720
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055978
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宮 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】田村 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 悟史
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082396(WO,A1)
【文献】特開2020-145299(JP,A)
【文献】特開2019-083259(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067300(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/065926(WO,A1)
【文献】特開2017-123438(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139487(WO,A1)
【文献】特開2019-008200(JP,A)
【文献】特開2020-144160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-102/20
G09F 9/30
C08G 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子吸引性基を含むトリアリールアミン構造を有する2価の構造単位と、
アリールカルバゾール構造を有する3価以上の構造単位と、
フルオロアルキル基で置換されたアリール基を有する1価の構造単位と、
下記モノマー5に由来する構造単位及び下記モノマー6に由来する構造単位の少なくとも一方と、
【化1】
以下の構造と、を含有する電荷輸送性ポリマー。
【化2】
*は他の構造との結合部位を表し、Xは炭素-炭素不飽和結合を有する基を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の電荷輸送性ポリマーを含む、電荷輸送性材料。
【請求項3】
請求項1に記載の電荷輸送性ポリマー又は請求項2に記載の電荷輸送性材料と、溶媒と、を含む、インク組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の電荷輸送性ポリマー、請求項2に記載の電荷輸送性材料、又は請求項3に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【請求項5】
請求項4に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロニクス素子。
【請求項6】
請求項4に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項7】
フレキシブル基板をさらに備える、請求項6に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項8】
樹脂フィルム基板をさらに備える、請求項6に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項11】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置。
【請求項12】
請求項10に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、インク組成物、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(「有機EL素子」ともいう)、照明装置、表示素子、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子は、使用する有機材料から、低分子化合物を用いる低分子型有機EL素子と、高分子化合物を用いる高分子型有機EL素子の2つに大別される。有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる塗布式プロセスとの2つに大別される。簡易成膜が可能なため、塗布式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている。例えば、特許文献1には、3方向に分岐する構造を有するポリマー又はオリゴマーを含む有機エレクトロニクス材料が開示されている。
【0004】
また、有機EL素子の高効率化、及び/又は長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々の層の機能を分離する試みがなされている。例えば、特許文献2には、有機層を多層化するため、例えば、重合性基を少なくとも1つ有する化合物を利用する方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/140553号
【文献】特開2006-279007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、塗布式プロセスにおいては、電荷輸送性ポリマー等を含む溶液中において、不溶性の微細粒子が存在することがあり、この不溶物を含む材料を塗布して形成された有機層を有機EL素子等に用いると、量産における製品特性のばらつき及び歩留まりなどの特性に影響が生じることがあった。そこで、この微細粒子を除去するためにフィルターを用いたろ過が行われている。フィルターの細孔が細かいほど、微細粒子の除去効果が大きいため微細孔のフィルター通過性の良否が問題となる。
【0007】
本発明の実施形態は、上記に鑑み、塗布式プロセスに適し、フィルター通過性が良好であって、微細粒子の含有を抑制した電荷輸送性ポリマー及び電荷輸送性材料を提供することを課題とする。本発明の他の実施形態は、当該電荷輸送性材料を用いたインク組成物を提供することを課題とする。本発明の他の実施形態は、有機エレクトロニクス素子の特性向上に適した有機層を提供することである。本発明の他の実施形態は、優れた特性を有する有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の例を以下に列挙する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0009】
(1)電子吸引性基を含むトリアリールアミン構造を有する2価の構造単位と、アリールカルバゾール構造を有する3価以上の構造単位と、フルオロアルキル基で置換されたアリール基を有する1価の構造単位と、を含有する電荷輸送性ポリマー。
【0010】
(2)重合性置換基を有する1価の構造単位をさらに含む、(1)に記載の電荷輸送性ポリマー。
【0011】
(3)前記重合性置換基が、炭素-炭素不飽和結合を有する基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、縮合環基、環状エーテル基、及び複素環を有する基からなる群から選択される少なくとも1種の基を含む、(2)に記載の電荷輸送性ポリマー。
【0012】
(4)前記重合性置換基を有する1価の構造単位が、以下の構造を含む、(2)又は(3)に記載の電荷輸送性ポリマー。
【0013】
【化1】
【0014】
*は他の構造との結合部位を表し、Xは前記重合性置換基を含む基を表す。
【0015】
(5)(1)~(4)のいずれか1項に記載の電荷輸送性ポリマーを含む、電荷輸送性材料。
【0016】
(6)(1)~(4)のいずれか1項に記載の電荷輸送性ポリマー又は(5)に記載の電荷輸送性材料と、溶媒と、を含む、インク組成物。
【0017】
(7)(1)~(4)のいずれか1項に記載の電荷輸送性ポリマー、(5)に記載の電荷輸送性材料、又は(6)に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
【0018】
(8)(7)に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロニクス素子。
【0019】
(9)(7)に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
【0020】
(10)フレキシブル基板をさらに備える、(9)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0021】
(11)樹脂フィルム基板をさらに備える、(9)記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0022】
(12)(9)~(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【0023】
(13)(9)~(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【0024】
(14)(9)~(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置。
【0025】
(15)(14)に記載の表示装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明の実施形態によれば、塗布式プロセスに適し、フィルター通過性が良好、かつ、微細粒子の含有を抑制した電荷輸送性ポリマー及び電荷輸送性材料を提供することができる。また、本発明の他の実施形態によれば、当該電荷輸送性材料を用いたインク組成物を提供することができる。また、本発明の他の実施形態によれば、有機エレクトロニクス素子の特性の向上に適している有機層を提供することができる。本発明の他の実施形態によれば、優れた特性を有する有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0029】
<電荷輸送性ポリマー>
以下、電荷輸送性ポリマーについて説明する。
電荷輸送性ポリマーは電荷を輸送する能力を有する。「ポリマー」は、構造単位の繰り返し数が小さい、いわゆる「オリゴマー」も含む概念である。
【0030】
電荷輸送性ポリマーは、電子吸引性基を含むトリアリールアミン構造を有する2価の構造単位(以下、「構造単位(1)」ともいう)と、アリールカルバゾール構造を有する3価以上の構造単位(以下、「構造単位(2)」ともいう)と、フルオロアルキル基で置換されたアリール基を有する1価の構造単位(以下、「構造単位(3)」ともいう)とを少なくとも含む。
【0031】
[構造単位(1)]
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を含む。構造単位(1)は、電子吸引性基を含むトリアリールアミン構造を有し、かつ、他の構造との結合部位を2つ持つ2価の構造単位である。電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)を1種のみを含んでも、2種以上含んでもよい。
【0032】
【化2】
【0033】
上記構造単位(1)中、*は他の構造との結合部位、Arは、それぞれ独立に、置換又は非置換のアリール基又はアリーレン基を表す。少なくとも1つのArは、電子吸引性基を有するアリール基又はアリーレン基である。
【0034】
アリール基は、芳香族炭化水素から1個の水素原子を除いた原子団である。アリーレン基は、芳香族炭化水素から2個の水素原子を除いた原子団である。芳香族炭化水素の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレン等が挙げられる。電子吸引性基の例としては、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルアミノ基、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基)、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化スルファニル基等が挙げられる。
【0035】
Arは、それぞれ独立に、置換又は非置換のフェニル基又はフェニレン基、置換又は非置換のナフチル基又はナフチレン基、又は、置換又は非置換のアントラセニル基又はアントリレン基であることが好ましく、置換又は非置換のフェニル基又はフェニレン基、又は、置換又は非置換のナフチル基又はナフチレン基であることがより好ましい。電子吸引性基は、ハロゲン原子を含むことが好ましく、フルオロ基又はフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
上記構造単位(1)は、例えば、下記構造単位(1a)であることが好ましい。
【0037】
【化3】
【0038】
上記構造単位(1a)中、*は他の構造との結合部位、Rは水素原子又は置換基を表す。少なくとも1つのRは、置換基として上述の電子吸引性基を有する。Rにおける置換基は、それぞれ独立に、-R、-OR、-SR、-OCOR、-COOR、-SiR、及びハロゲン原子からなる群から選択されることが好ましい。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子であるか、又は、炭素数1~22個の、直鎖、環状又は分岐の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基、並びに炭素数2~30個の、アリール基及びヘテロアリール基、からなる群から選択される少なくとも1種である。ヘテロアリール基とは、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団をいう。上記アリール基及びヘテロアリール基はさらに置換基を有していてもよい。該置換基は、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐のアルキル基、又は炭素数2~30個のヘテロアリール基であることが好ましい。
【0039】
アリール基に含まれる芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレン等が挙げられる。芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、及びベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0040】
また、上記構造単位(1a)中、a1は、0~5の整数を表し、a2及びa3は、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。ただし、a1~a3の全てが0であることはない。他の構造との結合容易性の観点から、a2及びa3は0であることが好ましい。
【0041】
また、構造単位(1a)は、a1が1以上であり、かつ、Rが電子吸引性基を含むことが好ましく、例えば、電子吸引性基であるフルオロ基又はフルオロアルキル基を含むことが好ましい。さらに、フルオロ基又はパーフルオロメチル基を含む下記構造単位(1b)~(1e)からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位であることが好ましい。
【0042】
【化4】
【0043】
[構造単位(2)]
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(2)を含む。構造単位(2)は、アリールカルバゾール構造を有し、かつ、他の構造との結合部位を3つ以上持つ3価以上の構造単位(2)である。構造単位(2)を含むことにより、電荷輸送性ポリマーは、分岐状ポリマーとなり、1分子中に3個以上の末端を有するポリマーとなる。分岐状ポリマーは、分子量を容易に大きくでき、また、良好な溶解性を示す傾向がある。電荷輸送性ポリマーは、当該構造単位を1種のみ含んでも、2種以上含んでもよい。
【0044】
当該アリールカルバゾール構造は、1以上のアリール基又はアリーレン基で置換されたカルバゾール構造である。上記アリール基又はアリーレン基としては、例えば、構造単位(1)で例示したアリール基又はアリーレン基を用いることができる。当該カルバゾール構造は9位である窒素原子にアリール基又はアリーレン基が置換されていることが好ましい。また、当該カルバゾール構造に置換するアリール基又はアリーレン基の数は、1~7であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0045】
構造単位(2)は、例えば、下記構造単位(2a)であることが好ましい。
【0046】
【化5】
【0047】
上記構造単位(2a)中、*は他の構造との結合部位、Arは置換又は非置換のアリーレン基、Rは水素原子又は置換基を表し、該置換基は、それぞれ独立に、上述の-R、-OR、-SR、-OCOR、-COOR、-SiR、及びハロゲン原子からなる群から選択されることが好ましい。アリーレン基の炭素数は、2~30であり、例えば、構造単位(1)で例示したアリーレン基を用いることができる。
【0048】
また、上記構造単位(2a)中、b5及びb6は、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。他の構造との結合容易性の観点から、b5及びb6は0であることが好ましい。
【0049】
構造単位(2a)は、例えば、下記構造単位(2b)であることが好ましい。
【0050】
【化6】
【0051】
上記構造単位(2b)中、*は他の構造との結合部位、Rは水素原子又は置換基を表し、該置換基は、それぞれ独立に、上述の-R、-OR、-SR、-OCOR、-COOR、-SiR、及びハロゲン原子からなる群から選択されることが好ましい。
【0052】
また、上記構造単位(2b)中、b4は、0~4の整数を表し、b5及びb6は、それぞれ独立に、0~3の整数を表す。他の構造との結合容易性の観点から、b4~b6は0であることが好ましい。
【0053】
構造単位(2b)は、例えば、下記構造単位(2c)であることが好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
[構造単位(3)]
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(3)を含む。構造単位(3)は、フルオロアルキル基で置換されたアリール基を有し、かつ、他の構造との結合部位を1つ持つ1価の構造単位である。構造単位(3)は、電荷輸送性ポリマーのポリマー鎖の末端部に含まれる。構造単位(3)を含むことにより、電荷輸送性ポリマーの溶解性を向上させることができるため、電荷輸送性ポリマーを有機溶媒に溶解して得られる電荷輸送性ポリマー溶液の粘度が減少し、フィルター通過性が向上すると考えられる。電荷輸送性ポリマーは、構造単位(3)を1種のみ含んでも、2種以上含んでもよい。
【0056】
フルオロアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0057】
アリール基の炭素数は、2~30であり、例えば、構造単位(1)で例示したアリール基を用いることができる。
【0058】
構造単位(3)は、例えば、下記構造単位(3a)であることが好ましい。
【0059】
【化8】
【0060】
上記構造単位(3a)中、*は他の構造との結合部位、Rは、それぞれ独立に、フルオロ基又はフルオロアルキル基を表す。フルオロアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0061】
2つのRは、互いに同じでも異なってもよく、互いに同じであることが好ましい。Rは、それぞれ独立に、フルオロアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0062】
構造単位(3a)は、例えば、下記構造単位(3b)であることが好ましい。
【0063】
【化9】
【0064】
上記構造単位(3b)中、m及びnは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。m及びnは、互いに同じであっても異なってもよく、同じであることが好ましい。
【0065】
構造単位(3b)は、特に、下記構造単位(3c)であることが好ましい。
【0066】
【化10】
【0067】
本実施形態の電荷輸送性ポリマーは、少なくとも上記構造単位(1)~(3)を含有すればよく、このような構成にすることで、有機層を形成する際に使用する、電荷輸送性ポリマーをトルエンなどの有機溶媒に溶解して得る電荷輸送性ポリマー溶液の粘度を減少させることが可能であり、その結果、例えば、電荷輸送性ポリマー溶液が孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通過できる。これにより、孔径0.2μmより大きい粒子を含有しない電荷輸送性ポリマー溶液を得ることができ、良好な特性を有する有機エレクトロニクス素子を得ることができる。また、本実施形態の電荷輸送性ポリマーは、耐溶剤性に優れた有機層を得ることができ、有機エレクトロニクス素子に容易に多層の有機層を導入することができる。
【0068】
[任意の構造単位]
電荷輸送性ポリマーは、上記構造単位(1)~(3)と異なる他の任意の構造単位(以下、「任意の構造単位」という)をさらに含有してもよい。
【0069】
(重合性置換基を有する1価の構造単位)
電荷輸送性ポリマーは、さらに、上記構造単位(3)以外の1価の構造単位として、重合性置換基を有する1価の構造単位(以下、「構造単位(4)」ともいう)を含んでもよい。重合性置換基は、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる能力を有する。「重合性置換基」とは、熱及び/又は光を印加することにより、分子内及び/又は分子間で互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0070】
重合性置換基としては、炭素-炭素不飽和結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基等のシクロアルケニル基;ベンゾシクロブテニル基等の縮合環基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、ヘテロ原子を有する複素環を有する基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。重合性置換基としては、特に、エチニル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シクロブテニル基、エポキシ基、及びオキセタニル基が好ましく、透明性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、シクロブテニル基、エポキシ基、又はオキセタニル基がより好ましく、反応性の観点からエポキシ基又はオキセタニル基がさらに好ましい。また、上記の炭素-炭素不飽和結合を有する基、小員環を有する基、及びヘテロ原子を有する複素環を有する基は置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基を有することが好ましい。
【0071】
重合性置換基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性置換基とが、アルキレン鎖で連結されていてもよい。また、例えば、後述する有機層を電極上に形成する場合、ITO(酸化インジウム-酸化錫)等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていてもよい。さらに、重合性置換基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性置換基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。
【0072】
重合性置換基が電荷輸送性ポリマーの末端部に導入されていることにより、電荷輸送性ポリマーの硬化性及び電荷輸送性の両立を図ることができる。
【0073】
構造単位(4)の具体例として、例えば、下記構造単位(4a)が挙げられるが重合性置換基を含む基はこれに限定されるものではない。
【0074】
*-Ar-X (4a)
【0075】
上記構造単位(4a)中、*は他の構造との結合部位、Arは置換又は非置換のアリーレン基、Xは重合性置換基を表す。アリーレン基に含まれる芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレン等が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。重合性置換基は、上述の炭素-炭素不飽和結合を有する基、小員環を有する基、及び複素環を有する基等が挙げられる。
【0076】
上記構造単位(4a)は、有機層の耐溶剤性を向上させる観点から、例えば、下記構造式に示すような構造単位(4b)であると好ましい。
【0077】
【化11】
【0078】
上記構造単位(4b)中、*は他の構造との結合部位、Xは重合性置換基を含む基を表す。重合性置換基は、上述の炭素-炭素不飽和結合を有する基、小員環を有する基、及び複素環を有する基等が挙げられる。重合性置換基を含む基とは、重合性置換基それ自体、又は、重合性置換基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性置換基を含む基として、例えば、国際公開第2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0079】
構造単位(4b)における重合性置換基を含む基の具体例として、下記構造(4b-1)が挙げられるが重合性置換基はこれに限定されるものではない。
【0080】
-(CH-CH=CH(4b-1)
【0081】
上記構造(4b-1)中、nは0~20の整数である。nは、寿命特性の向上の観点から0~8であることが好ましく、0~6であることがより好ましく、0~3であることがさらに好ましく、0又は1であることが特に好ましい。nは、溶解性の向上の観点から4~20であることが好ましく、4~16であることがより好ましく、4~12であることがさらに好ましく、4~8であることが特に好ましい。
【0082】
上記構造(4b-1)は反応性に優れるため、電荷輸送性ポリマーの硬化反応を効率よく進めることができる。また、電荷輸送性ポリマーが、硬化反応に寄与する重合性置換基を含むことにより、後述する、優れた保存安定性を有するインク組成物を得ることができる。上記構造(4b-1)は、より良好な寿命特性を示す有機エレクトロニクス素子が得られるという点においては、nの値が小さいことが好ましい。一方で、上記構造は、優れた溶解性が得られるという点においては、nの値が大きいことが好ましい。
【0083】
また、上記構造単位(4b)は、例えば、下記に示すような構造であると好ましい。
【0084】
【化12】
【0085】
電荷輸送性ポリマーは、重合性置換基を有する1価の構造単位を1種のみ含んでも、2種以上含んでもよい。
【0086】
(その他の任意の構造単位)
その他の任意の構造単位は、例えば、上記構造単位(1)~(4)を除く、置換又は非置換の芳香族アミン構造、置換又は非置換のカルバゾール構造、置換又は非置換のチオフェン構造、置換又は非置換のフルオレン構造、置換又は非置換のベンゼン構造、置換又は非置換のビフェニル構造、置換又は非置換のターフェニル構造、置換又は非置換のナフタレン構造、置換又は非置換のアントラセン構造、置換又は非置換のテトラセン構造、置換又は非置換のフェナントレン構造、置換又は非置換のジヒドロフェナントレン構造、置換又は非置換のピリジン構造、置換又は非置換のピラジン構造、置換又は非置換のキノリン構造、置換又は非置換のイソキノリン構造、置換又は非置換のキノキサリン構造、置換又は非置換のアクリジン構造、置換又は非置換のジアザフェナントレン構造、置換又は非置換のフラン構造、置換又は非置換のピロール構造、置換又は非置換のオキサゾール構造、置換又は非置換のオキサジアゾール構造、置換又は非置換のチアゾール構造、置換又は非置換のチアジアゾール構造、置換又は非置換のトリアゾール構造、置換又は非置換のベンゾチオフェン構造、置換又は非置換のベンゾオキサゾール構造、置換又は非置換のベンゾオキサジアゾール構造、置換又は非置換のベンゾチアゾール構造、置換又は非置換のベンゾチアジアゾール構造、置換又は非置換のベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。
【0087】
その他の任意の構造単位は、1価以上であってもよく、1~6価であることが好ましく、1~4価であることがより好ましい。
【0088】
その他の任意の構造単位に含まれる置換基について、前記構造単位(1a)における置換基の説明を適用することができる。
【0089】
[各構造単位の含有量]
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(1)以外にも2価の構造単位を含んでもよい。構造単位(1)の含有量は、エネルギーレベルを調整する観点から、2価の構造単位の全量を基準として、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。構造単位(1)の含有量の上限は100モル%である。
【0090】
電荷輸送性ポリマーに含まれる2価の構造単位の含有量は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましい。また、2価の構造単位の含有量は、1価の構造単位及び3価以上の構造単位を考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0091】
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(2)以外にも3価以上の構造単位を含んでもよい。構造単位(2)の含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、3価以上の構造単位の全量を基準として、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。構造単位(2)の含有量の上限は100モル%である。
【0092】
電荷輸送性ポリマーに含まれる3価以上の構造単位の含有量は、耐溶剤性に優れた有機層を得る観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、3価以上の構造単位の含有量は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましく、20モル%以下が特に好ましい。
【0093】
電荷輸送性ポリマーは、構造単位(3)以外にも1価の構造単位を含んでもよく、例えば、構造単位(4)を含んでもよいし、構造単位(3)及び(4)以外の1価の構造単位を含んでもよい。構造単位(3)の含有量は、液状組成物の良好な保存安定性を得る観点から、1価の構造単位の全量を基準として、85モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上が更に好ましい。構造単位(3)の含有量の上限は100モル%である。
【0094】
電荷輸送性ポリマーに含まれる1価の構造単位の含有量は、電荷輸送性ポリマーの硬化性及び溶解性の観点、並びに、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、1価の構造単位の含有量は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0095】
電荷輸送性ポリマーは、任意の構造単位を含んでもよい。任意の構造単位の含有量は、構造単位(1)~(3)による十分な効果を得る観点から、全構造単位を基準として、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、20モル%以下が更に好ましく、10モル%以下又は5モル%以下が特に好ましい。任意の構造単位の含有量の下限は0モル%である。すなわち、電荷輸送性ポリマーは、任意の構造単位を含まなくてもよい。
【0096】
構造単位(4)の含有量は、ポリマー鎖の末端部を形成する1価の構造単位の全量を基準として1~99~モル%であることが好ましい。有機層の耐溶剤性を向上させる観点から、当該構造単位の含有量は、2モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、10モル%以上であることが特に好ましい。電荷輸送性を保つ観点から、当該構造単位の含有量は、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましい。高い電荷輸送性を得るために、75モル%以下であってもよく、50モル%以下であってもよい。
【0097】
構造単位(4)に含まれる重合性置換基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。また、重合性置換基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、全構造単位を基準として、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。なお、ここでの「重合性置換基の割合」とは、重合性置換基を有する構造単位の割合をいう。
【0098】
重合性置換基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、重合性置換基は、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性置換基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0099】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性置換基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性置換基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0100】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性置換基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性置換基の仕込み量(例えば、重合性置換基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性置換基数は、電荷輸送性ポリマーのH NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性置換基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0101】
電荷輸送性ポリマーに含まれる2価の構造単位、3価以上の構造単位、及び1価の構造単位の含有量の比(モル比)は、それぞれの構造単位による効果のバランスを考慮し、2価の構造単位:3価以上の構造単位:1価の構造単位=100:5~70:50~150が好ましく、100:10~60:60~135がより好ましく、100:15~50:80~120が更に好ましい。
【0102】
[電荷輸送性ポリマーの構造例]
電荷輸送性ポリマーは、少なくとも、構造単位(1)を含む2価の構造単位、構造単位(2)を含む3価以上の構造単位、及び、構造単位(3)を含む1価の構造単位を含む。3価以上の構造単位は電荷輸送性ポリマーの分岐部を形成し、1価の構造単位は電荷輸送性ポリマーの末端部を形成する。
【0103】
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は2価の構造単位Lを、「T」は1価の構造単位Tを、「B」は3価の以上の構造単位Bを表す。下記に示す電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造において式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0104】
【化13】
【0105】
[数平均分子量]
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。
【0106】
[重量平均分子量]
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下がさらに好ましい。
【0107】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0108】
[電荷輸送性ポリマーの製造方法]
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0109】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を援用できる。
【0110】
<電荷輸送性材料>
本発明の実施形態に係る電荷輸送性材料は、上述の電荷輸送性ポリマーを1種のみ又は2種以上含む。電荷輸送性材料は、任意の成分をさらに含有してもよい。
【0111】
[任意の成分]
有機エレクトロニクス素子の特性に悪影響を与えない範囲で、重合開始剤、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、着色剤、可塑剤、安定剤、充填剤等のいわゆる添加剤を添加してもよい。また、有機EL素子の発光効率及び寿命を改善する目的で、電荷輸送性材料にイオン性化合物を混合して用いてもよい。イオン性化合物を混合して用いることで、有機EL素子の導電性の向上及び安定性、長寿命化が見込まれる。
【0112】
(イオン性化合物)
ここで、本明細書等において、「イオン性化合物」とは、カチオンとアニオンからなる化合物のことをいう。導電性及び安定性の観点からアニオンが電子求引性の有機置換基を含むものが好ましく、その例示としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基、メシル基等のアルキルが置換したアルキルスルホニル基、トシル基、メシチル基等のアリール基が置換したアリールスルホニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上、好ましくは4以上25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基、アセトキシ等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数が通常1以上10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル基、ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基などが挙げられる。
【0113】
イオン性化合物におけるカチオンは、特に限定されないが、反応性及び取り扱い性の観点から1価のカチオンが好ましい。イオン性化合物のカチオンは、より好ましくは、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム(トリチル)、アニリニウム、ビスムトニウム、アンモニウム、セレニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキソニウム、キノリニウム、ピロリジニウム、アミニウム、イモニウム、トロピリウム、モルホリニウム、ピペリジニウム、キノリウム、イソキノリウム、チアゾニウム、アクリジウムなどである。
【0114】
上記カチオンは電荷輸送性ポリマーに含有されていてもよい。
【0115】
イオン性化合物は、電荷輸送性向上の観点からオニウム塩であることが好ましい。オニウム塩とは、例えば、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、セレニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、オキソニウムイオン、ビスムトニウムイオン等のカチオンと対アニオンからなる化合物をいう。アニオンの例としては、F、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオン;OH;ClO ;FSO 、ClSO 、CHSO 、CSO 、CFSO などのスルホン酸イオン類;HSO 、SO 2-などの硫酸イオン類;HCO 、CO 2-などの炭酸イオン類;HPO 、HPO 2-、PO 3-などのリン酸イオン類;PF 、PFOHなどのフルオロリン酸イオン類;BF 、B(C 、B(CCF などのホウ酸イオン類;AlCl ;BiF ;SbF 、SbFOHなどのフルオロアンチモン酸イオン類;AsF 、AsFOHなどのフルオロヒ素酸イオン類などが挙げられる。
【0116】
イオン性化合物は単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
(重合開始剤)
イオン性化合物は電荷輸送性ポリマーの硬化を促進させる重合開始剤として用いることができる。重合を開始させる契機としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、加熱によって重合を開始させるものが最も好ましい。
【0118】
重合開始剤を用いる条件は、電荷輸送性材料に対し、0.1~50質量%、より好ましくは0.1~25質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%である。重合開始剤を混合する割合がこれより少ない場合、重合が効率よく進行せず溶解度を十分に変化させることができない。また、これより多い場合には、多量の重合開始剤及び/又は分解物が残存することで、洗浄による効果が低くなってしまう。また、感光性及び/又は感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。
【0119】
<インク組成物>
本実施形態のインク組成物は、既述の電荷輸送性ポリマー又は電荷輸送性材料と、溶媒とを含むことを特徴としており、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
【0120】
インク組成物において、溶媒に対する電荷輸送性ポリマーの含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1~50質量%とすることが好ましい。成膜時に残存溶媒を減少させる観点から電荷輸送性ポリマーの含有量は0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、電荷輸送性材料を均一に溶解させる観点から含有量は40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0121】
<有機層>
本実施形態の有機層は、電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、又はインク組成物を用いて形成された層である。電荷輸送性ポリマー、電荷輸送性材料、又はインク組成物を用いることによって、塗布法により有機層に形成することが好ましい。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0122】
電荷輸送性ポリマーが、重合性置換基を含有すると、光照射、加熱処理等によりこれらの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。電荷輸送性材料において、イオン性化合物は、重合開始剤として機能し得る。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を援用できる。
【0123】
例えば、上述の電荷輸送性ポリマー、重合開始剤、溶媒を含むインク組成物より薄膜を形成した後、真空中、大気下あるいは窒素又はアルゴン等不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、有機層を形成することができる。加熱温度及び時間は、重合反応を十分に進行させられればよく、特に制限はないが、温度については、種々の基板を適用できることから、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。時間は、生産性を上げる観点から、好ましくは8時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0124】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、さらに好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。
【0125】
本実施形態の有機層は、後述する有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子に用いることができ、従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子を形成することができる。
【0126】
<有機エレクトロニクス素子>
本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、前記有機層を少なくとも一つ備える。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機発光ダイオード(OLED)等の有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、発光層、有機層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されない。有機層は、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、又は電子輸送層として使用することができる。
【0127】
<有機EL素子>
本実施形態の有機EL素子は、前記有機層を少なくとも一つ備える。本実施形態の有機EL素子は、発光層、有機層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されない。有機層は、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、又は電子輸送層として使用することができる。また、正孔注入層又は正孔輸送層に、本実施形態の有機層を適用することが好ましい。
【0128】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。図1に示す有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、及び陰極4がこの順に積層された多層構造を有している。以下、各層について詳細に説明する。
【0129】
(発光層)
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))、スチルベン、これらの誘導体が挙げられる。蛍光発光を利用するポリマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体及び混合物が好適に利用できる。
【0130】
一方、近年、有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金及びイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,Vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0131】
本実施形態の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、Ir及びPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を呈するFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C]ピコリネート〕、緑色発光を呈するIr(ppy)〔ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M.A.Baldo et al.,Nature,Vol.403,p.750(2000)参照)又は赤色発光を呈する(btp)Ir(acac){ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C〕イリジウム(アセチル-アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム〕(前記Adachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622参照)等が挙げられる。
【0132】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を呈する2、3、7、8、12、13、17、18-オクタエチル-21H、23H-フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。また、これらの誘導体も好適に使用できる。
【0133】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0134】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0135】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができるため、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0136】
(陰極)
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg-Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0137】
(陽極)
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0138】
(正孔輸送層、正孔注入層)
上述の有機層を、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用することが好ましい。上述のとおり、有機エレクトロニクス材料を含む有機層を用いることにより、これらの層を容易に形成することができる。また、例えば、有機EL素子が、上述の有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用してもよい。また、有機EL素子が、上述の有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用してもよい。さらに、有機EL素子が、上述の有機層を正孔輸送層及び正孔注入層として有してもよい。
【0139】
正孔注入層にトリフェニルアミン構造を含む材料を用いた場合、正孔の移動に対してエネルギー準位の観点から、正孔輸送層に上述の有機層を用いることが好適である。この場合、重合開始剤は、正孔輸送層である有機層に含有させても、又は、正孔輸送層の下層にある有機層に含有させてもよい。
【0140】
(電子輸送層、電子注入層)
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0141】
(基板)
本実施形態の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、フレキシブル基板として機能するため特に好ましい。
【0142】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0143】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気及び酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素及び窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0144】
(発光色)
本実施形態の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計及び液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0145】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0146】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本実施形態の表示素子は、前記有機EL素子を備えたことを特徴としている。例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0147】
また、本実施形態の照明装置は、前記有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本実施形態の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを上述の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例
【0148】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0149】
以下に、本実施例で用いた電荷輸送性材料の合成例を示す。
【0150】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム73.2mg(80μmol)を秤取り、トルエンを15mL加え30分間撹拌した。同様に、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(t-ブチル)ホスフィン129.6mg(640μmol)を秤取り、トルエンを5mL加え5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、80℃で2時間撹拌し、得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターで不溶物を除去した溶液を触媒とした。すべての溶媒は30分間以上窒素バブリングにより脱気したもの使用した。
【0151】
<電荷輸送性材料の合成>
(電荷輸送性ポリマー1の合成)
100mLの三口丸底ガラスフラスコに、下記モノマー1を2.34g(4.6mmol)、下記モノマー2を0.87g(1.8mmol)、下記モノマー3を0.91g(3.1mmol)、下記モノマー4を0.08g(0.3mmol)、下記モノマー5を0.09g(0.3mmol)及びトルエンを17.7mL加え、1質量%トリオクチルメチルアンモニウムクロリドのトルエン溶液を3.9mL及び3M水酸化カリウム水溶液を7.2mL加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブリングにより脱気したもの使用した。反応液が入ったフラスコに還流冷却管及び窒素ガスフロー管取り付け、60℃に加熱したオイルバスにフラスコを浸し30分攪拌し、モノマーを溶解させた。続けて上記調整したPd触媒溶液を1.0mL加え、オイルバスの温度を120℃にして反応を行った。反応液を2時間加熱還流した。反応はすべて窒素気流下で行った。
【0152】
【化14】
【0153】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)混合溶液に注いだ。生じた沈殿を濾別し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を酢酸エチルで洗浄し、溶出している固形物を真空乾燥した。乾燥した固形物をトルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、40℃で2時間撹拌した。撹拌終了後、溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してろ過して金属吸着剤と固形不純物を取り除き、溶液をメタノールに注いだ。沈殿物を吸引ろ過して、得られた沈殿物をメタノールで洗浄した後、固形物を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0154】
(電荷輸送性ポリマー2の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー5の代わりに下記モノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:3.1mmol、モノマー4:0.3mmol、モノマー6:0.3mmol)。
【0155】
【化15】
【0156】
(電荷輸送性ポリマー3の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー7を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:3.1mmol、モノマー5:0.3mmol、モノマー7:0.3mmol)。
【0157】
【化16】
【0158】
(電荷輸送性ポリマー4の合成)
上記電荷輸送性ポリマー3の合成において、モノマー5の代わりにモノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:3.1mmol、モノマー6:0.3mmol、モノマー7:0.3mmol)。
【0159】
(電荷輸送性ポリマー5の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー5の代わりにモノマー4を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー4の総量:0.6mmol)。
【0160】
(電荷輸送性ポリマー6の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりにモノマー5を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー5の総量:0.6mmol)。
【0161】
(電荷輸送性ポリマー7の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4及びモノマー5の代わりにモノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー6の総量0.6mmol)。
【0162】
(電荷輸送性ポリマー8の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4及びモノマー5の代わりにモノマー7を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー7の総量0.6mmol)。
【0163】
(電荷輸送性ポリマー9の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー3を0.75g(2.6mmol)、モノマー4を0.15g(0.6mmol)、モノマー5を0.19g(0.6mmol)用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー4:0.6mmol、モノマー5:0.6mmol)。
【0164】
(電荷輸送性ポリマー10の合成)
上記電荷輸送性ポリマー9の合成において、モノマー4の代わりにモノマー7を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー5:0.6mmol、モノマー7:0.6mmol)。
【0165】
(電荷輸送性ポリマー11の合成)
上記電荷輸送性ポリマー9の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー8を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー5:0.6mmol、モノマー8:0.6mmol)。
【0166】
【化17】
【0167】
(電荷輸送性ポリマー12の合成)
上記電荷輸送性ポリマー11の合成において、モノマー5の代わりにモノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー6:0.6mmol、モノマー8:0.6mmol)。
【0168】
(電荷輸送性ポリマー13の合成)
上記電荷輸送性ポリマー3の合成において、モノマー3を0.75g(2.6mmol)、モノマー5を0.28g(0.9mmol)、モノマー7を0.05g(0.3mmol)を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー5:0.9mmol、モノマー7:0.3mmol)。
【0169】
(電荷輸送性ポリマー14の合成)
上記電荷輸送性ポリマー13の合成において、モノマー5の代わりにモノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー6:0.9mmol、モノマー7:0.3mmol)。
【0170】
(電荷輸送性ポリマー15の合成)
上記電荷輸送性ポリマー13の合成において、モノマー7の代わりにモノマー8を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー3:2.6mmol、モノマー5:0.9mmol、モノマー8:0.3mmol)。
【0171】
(電荷輸送性ポリマー16の合成)
上記電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー3の代わりに下記モノマー9を用いて反応を行った以外は同様にして合成した(モノマー1:4.6mmol、モノマー2:1.8mmol、モノマー4:0.3mmol、モノマー5:0.3mmol、モノマー9:3.1mmol)。
【0172】
【化18】
【0173】
(フィルター通過性の評価)
上記電荷輸送性ポリマー(10.0mg)をトルエン0.9mLに溶解して電荷輸送性ポリマー溶液を作製した。電荷輸送性ポリマー溶液を3mLディスポシリンジに入れ、先端に孔径0.2μmのメンブレンフィルターを取り付け、電荷輸送性ポリマー溶液をガラスサンプル菅へ滴下した。全量滴下できたものを「通過」、溶液が出てこなかったものを「不通過」として評価した。
【0174】
(耐溶剤性の評価)
電荷輸送性ポリマーを用いて有機層を形成し、残膜率測定により耐溶剤性の評価を次のように行った。すなわち、以下に示す工程で有機層を形成し、形成した有機層付き石英板を大気下及び室温下でトルエン10mLに浸漬し、10分間静置した。有機層をトルエンに浸漬する前後の可視紫外分光法(UV-vis)スペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、以下の式を用いて、有機層の残膜率(%)を算出した。残膜率が大きいほど、耐溶剤性に優れている。
【0175】
残膜率(%)=(トルエン浸漬後の有機層の吸光度/トルエン浸漬前の有機層の吸光度)×100
【0176】
(実施例1)
上記電荷輸送性ポリマー1(10.0mg)をガラスサンプル菅に秤取り、トルエン0.9mLに溶解して電荷輸送性ポリマー溶液を作製した。電荷輸送性ポリマー溶液のフィルター通過性を評価した。また、電荷輸送性ポリマー溶液を大気下で石英板上に3,000rpmでスピンコートした。次いで、窒素雰囲気化のグローブボックスにスピンコートした石英板を投入し、窒素雰囲気化ホットプレート上で、230℃、30分間の条件で加熱して硬化反応を行い、有機層を形成し、有機層の残膜率(%)を算出した。
【0177】
(実施例2~16)
実施例1において、電荷輸送性ポリマー1の代わりに電荷輸送性ポリマー2~16のいずれか1種を用いた以外は同様の操作を行い、電荷輸送性ポリマー溶液のフィルター通過性を評価し、残膜率を測定した。
【0178】
(比較例1)
実施例1において、電荷輸送性ポリマー1の代わりに電荷輸送性ポリマー17を用いた以外は同様の操作を行い、電荷輸送性ポリマー溶液のフィルター通過性を評価した。比較例1の電荷輸送性ポリマーは、フィルターを通過しなかったため、成膜することができず、残膜率を測定することはできなかった。
【0179】
以下、表1に実施例1~16及び比較例1の結果を示す。
【0180】
【表1】
【0181】
実施例1~16より、電荷輸送性ポリマーがモノマー3を含むことによって、モノマー3を含まない比較例1と比べてフィルター通過性が良好であることが分かる。また、モノマー8を含む実施例11、12、及び15は、モノマー7を含む実施例10、13、及び14と比べて残膜率が向上していることが分かる。
【0182】
以上より、電荷輸送性ポリマーが少なくともモノマー1~3を含有することによって、良好なフィルター通過性を得ることでき、微細粒子の含有が抑制された電荷輸送性ポリマーを用いて良好な有機層の積層を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0183】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板
図1