(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】防曇ガラス
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20241126BHJP
C03C 17/38 20060101ALI20241126BHJP
C03C 17/42 20060101ALI20241126BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20241126BHJP
B60S 1/02 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
B32B17/10
C03C17/38
C03C17/42
C03C17/34 A
B60S1/02 300
(21)【出願番号】P 2020179881
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019203106
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】平社 英之
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016453(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016454(WO,A1)
【文献】特開2017-214059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/10
C03C 17/38
C03C 17/42
C03C 17/34
B60S 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板の一方の表面に、開口を画定するように設置された遮蔽層であって、上面視、前記開口と前記遮蔽層の間には、境界が画定される、遮蔽層と、
上面視、前記開口を覆い、前記境界の外側まで延在するように設置された防曇フィルムまたは電熱フィルムと、
を有し、
前記防曇フィルムは、前記ガラス板に近い側から、粘着層および防曇層を有し、
前記電熱フィルムは、前記ガラス板に近い側から、粘着層および電熱体を有し、
前記境界の近傍の前記境界よりも内側には、前記粘着層と前記ガラス板の間、または前記粘着層の中に、複数の気泡を含む気泡領域が設けられ、
前記気泡領域の1mm
2の領域において、前記複数の気泡が占める総面積は、0.01mm
2~0.13mm
2である、防曇ガラス。
【請求項2】
前記気泡領域は、前記境界から0.2mm~0.7mmだけ離れた位置に存在している、請求項1に記載の防曇ガラス。
【請求項3】
前記気泡領域は、前記境界の全周に沿って形成されている、請求項1または2のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項4】
各気泡の最大長さは、0.1mm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項5】
前記粘着層の厚さをt
aとし、前記遮蔽層の厚さをt
sとしたとき、比t
a/t
sは、1.5~3.3の範囲である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項6】
前記防曇フィルムの形状は、前記開口と相似形である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項7】
前記開口は、実質的に四角形状である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項8】
前記開口は、実質的に台形の形状を有する、請求項7に記載の防曇ガラス。
【請求項9】
前記四角形状は、少なくとも一つの辺が曲線状である、請求項7に記載の防曇ガラス。
【請求項10】
前記防曇フィルムまたは電熱フィルムは、前記開口の一対の向かい合う辺を被覆し、別の一対の向かい合う辺を被覆しない、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項11】
上面視、前記開口の全周にわたる前記防曇フィルムまたは前記電熱フィルムと前記遮蔽層の間の重なり部分の最小値は、2mm~8mmの範囲である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項12】
前記開口の全周にわたって、前記防曇フィルムまたは前記電熱フィルムと前記遮蔽層の間の重なり部分は、2mm~20mmの範囲である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項13】
前記防曇フィルムまたは前記電熱フィルムは、前記粘着層と前記防曇層または前記電熱体の間に基材層を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の防曇ガラス。
【請求項14】
前記粘着層の厚さを前記基材層の厚さで除した値が、0.25~1.0である、請求項13に記載の防曇ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の安全運転および自動運転に対する要望の高まりを受け、自動車のフロントガラスなどに、情報取得装置を装着することが一般的になってきている。例えば、車両のフロントガラスの上部略中央部分には、車両前方の情報を取得するためのカメラが装着されている。
【0003】
なお、通常、フロントガラスの周縁部、および上部略中央部分から下辺に向かって突出する突出部には、黒色のセラミックで構成された遮蔽層が設置される。
【0004】
しかしながら、カメラと対向する位置にそのような遮蔽層が存在すると、カメラの視野が遮蔽されてしまう。このため、フロントガラスのカメラと対向する部分には、遮蔽層が存在しない領域、すなわち開口が設けられる。
【0005】
また、車両の運転中に、この開口に曇りが生じると、この場合も、カメラの視野が遮蔽され、カメラの動作に影響が生じ得る。
【0006】
従って、そのような曇りの問題を回避するため、フロントガラスの開口には、該開口を覆うように防曇フィルムまたは電熱フィルムが設置される(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/016454号
【文献】国際公開第2010/149649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の防曇フィルムは、周囲が遮蔽層と重なり合うようにして、開口の上部に設置される。また、前述のように、遮蔽層は黒色のセラミックスで構成されるため、遮蔽層は、太陽光からの熱を吸収し易く、熱膨脹する傾向にある。
【0009】
従って、車両のフロントガラスに対して太陽光の日射が続くと、防曇フィルムと遮蔽層との間の熱膨張の差により、防曇フィルムに剥離が生じるおそれがある。
【0010】
一方、そのような剥離を抑制するため、防曇フィルムに対して各種対策を施そうとすると、今度は、フロントガラスの美感が損なわれる可能性が生じ得る。例えば、防曇フィルムの密着性を高めるため、防曇フィルムを顕著に薄く構成した場合、開口部の周囲に沿った凹凸が目立つようになり、外観が損なわれるおそれがある。
【0011】
なお、このような問題は、防曇フィルムの代わりに電熱フィルムを有する防曇ガラスにおいても、同様に生じ得る。
【0012】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、外観に悪影響を及ぼすことなく、防曇フィルムまたは電熱フィルムの剥離を有意に抑制することが可能な、防曇ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、
ガラス板と、
前記ガラス板の一方の表面に、開口を画定するように設置された遮蔽層であって、上面視、前記開口と前記遮蔽層の間には、境界が画定される、遮蔽層と、
上面視、前記開口を覆い、前記境界の外側まで延在するように設置された防曇フィルムまたは電熱フィルムと、
を有し、
前記防曇フィルムは、前記ガラス板に近い側から、粘着層および防曇層を有し、
前記電熱フィルムは、前記ガラス板に近い側から、粘着層および電熱体を有し、
前記境界の近傍の前記境界よりも内側には、前記粘着層と前記ガラス板の間、または前記粘着層の中に、複数の気泡を含む気泡領域が設けられ、
前記気泡領域の1mm2の領域において、前記複数の気泡が占める総面積は、0.01mm2~0.13mm2である、防曇ガラスが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、外観に悪影響を及ぼすことなく、防曇フィルムまたは電熱フィルムの剥離を有意に抑制することが可能な、防曇ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態による防曇ガラスの一構成例を模式的に示した上面図である。
【
図2(a)】本発明の一実施形態による防曇ガラスにおける遮蔽層の第2の部分の近傍を拡大して示した図である。
【
図2(b)】本発明の別の実施形態による防曇ガラスにおける遮蔽層の第2の部分の近傍を拡大して示した図である。
【
図2(c)】本発明のさらに別の実施形態による防曇ガラスにおける遮蔽層の第2の部分の近傍を拡大して示した図である。
【
図3】
図2(a)におけるI-I線に沿った断面を模式的に示した図である。
【
図3A】本発明の別の実施形態による防曇ガラスの断面の一部を模式的に示した図である。
【
図3B】本発明の別の実施形態による防曇ガラスにおける電熱フィルムの模式的な上面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による防曇ガラスの製造方法を模式的に示したフロー図である。
【
図5】防曇フィルムの一形態を模式的に示した断面図である。
【
図6】実施例において製造した防曇ガラスのサンプルの構成を模式的に示した上面図である。
【
図7】本発明の一実施形態による防曇ガラスのサンプルにおけるガラス板と遮蔽層との境界の近傍の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
(本発明の一実施形態による防曇ガラス)
図1乃至
図3を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0018】
図1には、本発明の一実施形態による防曇ガラスの概略的な上面図を示す。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態による防曇ガラス(以下、「第1の防曇ガラス」と称する)100は、ガラス板110と、該ガラス板の一方の表面に設置された遮蔽層120とを有する。
【0020】
ガラス板110は、上辺112、下辺114、および2つの側辺116を有する。遮蔽層120は、ガラス板110の周囲に沿って設置された第1の部分122と、ガラス板110の上辺112の略中央から下辺114に向かって突出する第2の部分124とを有する。なお、遮蔽層120の第2の部分124の一部には、遮蔽層120が存在しない部分、すなわち開口130が設けられている。
【0021】
第1の防曇ガラス100は、さらに、開口130を覆うように設置された防曇フィルム140を有する。
【0022】
図2(a)には、第1の防曇ガラス100における遮蔽層120の第2の部分124の近傍を拡大して示す。また、
図3には、
図2(a)におけるI-I線に沿った断面を模式的に示す。
【0023】
図2(a)および
図3に示すように、開口130には、遮蔽層120が設置されておらず、従って、上面視、遮蔽層120と開口130との間には、境界132が画定される。
図2(a)に示す一実施形態において、境界132は、開口130に沿った閉区画を形成する。
【0024】
なお、遮蔽層120は、開口130を画定するように設置されていればよく、遮蔽層120は、
図2(b)および
図2(c)に示すような形態であってもよい。すなわち、境界132は、開口130に沿った開区画を形成していてもよい。具体的には、開口130の下側に、遮蔽層120が設置されていない領域があってもよい。遮蔽層120が設置されていない領域がある場合、境界132の始点と終点とを直線または曲線で結ぶことで、開口130は画定される。
【0025】
また、防曇フィルム140は、上面視、境界132よりも外側まで延在するようにして、開口130上に設置される。換言すれば、防曇フィルム140は、その周囲が遮蔽層120とオーバーラップするように配置される。
【0026】
図2(a)に示した例では、開口130および防曇フィルム140は、実質的に台形の形状を有する。また、防曇フィルム140は、開口130と実質的に相似形状を有する。
【0027】
ただし、第1の防曇ガラス100において、開口130および防曇フィルム140の形状は、特に限られない。両者の形状に関する詳細は、後述する。
【0028】
図3に示すように、防曇フィルム140は、ガラス板110に近い順に、粘着層150、基材層170、および防曇層180を有する。
【0029】
粘着層150により、防曇フィルム140をガラス板110および遮蔽層120に接着することができる。また、防曇層180は、開口130の曇りを抑制する役割を有する。
【0030】
なお、
図3に示した例では、遮蔽層120の側端部と、防曇フィルム140の粘着層150との間に、断面が実質的に三角形状の隙間190が存在する。しかしながら、これは単なる一例であり、隙間190は、いかなる形態および寸法で、存在してもよい。あるいは、隙間190は、実質的に存在しなくてもよい。
【0031】
ここで、第1の防曇ガラス100は、上面視、遮蔽層120と開口130との境界132の近傍であって、境界132よりも内側の所定の位置に、気泡領域152を有する。本実施形態において、境界132の近傍とは、上面視、境界132から3mmまでの領域を意味する。
【0032】
具体的には、
図3に示すように、気泡領域152は、境界132から距離Dだけ離れた位置に形成される。以下、対象とする境界132と対象とする気泡領域152との間の部分を「遷移部分」158と称する。
【0033】
距離D、すなわち、遷移部分158の幅は、0~1mmの範囲である。
【0034】
気泡領域152には、多数の気泡154が存在する。具体的には、気泡領域152の1mm2当たりに含まれる気泡154が占める面積(以下、「気泡占有面積」という)は、0.01mm2~0.13mm2の範囲である。
【0035】
気泡領域152における気泡占有面積は、第1の防曇ガラス100の防曇フィルム140が設置されない面(
図3の下側)から、気泡領域152を光学顕微鏡で撮影した後、得られた画像を画像解析することにより、評価することができる。具体的には、得られた画像の気泡領域152について、平面視で、各気泡が占める面積を画像解析し、各気泡が占める面積の合計値を、撮影区画の気泡領域152の面積で除した値を、気泡領域152における気泡占有面積とする。なお、撮影倍率は、200倍から1000倍である。
【0036】
また、気泡領域152に含まれる気泡154は、200個/mm2~700個/mm2の範囲の密度を有することが好ましい。また、気泡154の平均最大長さは、0.01mm~0.06mmの範囲であることが好ましい。
【0037】
本願において、気泡154の平均最大長さは、各気泡154の最大長さdの平均値を表す。そのような最大長さdは、同様に、得られた画像を画像解析することにより、評価することができる。すなわち、画像内に含まれる全ての気泡154に対して最大長さdを求め、これを平均することにより、気泡154の平均最大長さを求めることができる。
【0038】
同様に、気泡154の密度は、得られた画像から気泡の個数を求め、これを撮影区画の気泡領域152の面積で除することにより、算定することができる。
【0039】
なお、
図3に示した例では、気泡領域152に含まれる気泡154は、気泡領域152全体にわたって、ほぼ均一に分散されている。ただし、これは単なる一例であって、気泡154は、粘着層150の厚さ方向または平面方向に分布を有してもよい。
【0040】
例えば、気泡154は、粘着層150の基材層170との界面に近い側に多く分布してもよく、特に、粘着層150の基材層170との界面に近い側にのみ、存在してもよい。あるいは、気泡154は、粘着層150のガラス板110との界面に近い側に多く分布してもよく、特に、粘着層150のガラス板110との界面に近い側にのみ、存在してもよい。
【0041】
また、気泡領域152は、必ずしも粘着層150の内部に形成される必要はなく、粘着層150とガラス板110の間に形成されてもよい。
【0042】
このような第1の防曇ガラス100は、例えば、車両のフロントガラス等に適用することができる。
【0043】
第1の防曇ガラス100を車両のフロントガラスに適用した場合、防曇フィルム140の効果により、雨や雪の日などに開口130に生じ得る曇りを、有意に抑制することができる。
【0044】
また、例えば、晴れた日において、太陽からの熱射により遮蔽層120が加熱されても、気泡領域152の存在により、遮蔽層120と防曇フィルム140との間の熱膨脹差によって生じ得る熱応力を有意に緩和することができる。その結果、防曇フィルム140の剥離を有意に抑制することができる。
【0045】
さらに、第1の防曇ガラス100では、気泡領域152における気泡占有面積は、1mm2当たり0.01mm2~0.13mm2の範囲に調整されている。このため、気泡領域152の存在により、第1の防曇ガラス100の見栄えが悪くなるという問題も生じ難い。
【0046】
以上のような効果により、第1の防曇ガラス100では、外観を損なうことなく、防曇フィルム140の剥離を有意に抑制することが可能となる。
【0047】
(本発明の一実施形態による防曇ガラスの各構成部材)
次に、本発明の一実施形態による防曇ガラスに含まれる各構成部材について、より詳しく説明する。なお、以下の記載では、前述の第1の防曇ガラス100を例に、その構成部材について説明する。従って、各構成部材を表す際には、
図1乃至
図3に使用した参照符号を使用する。
【0048】
(ガラス板110)
第1の防曇ガラス100に使用されるガラス板110の仕様、例えば、ガラス組成、構造、および厚さなどは、特に限られない。
【0049】
例えば、ガラス板110として、従来の車両用のフロントガラスに適用されるような、合わせガラスが使用されてもよい。合わせガラスは、2枚のガラス基板と、両者の間の中間膜とで構成される。
【0050】
あるいは、ガラス板110は、単一のガラスで構成されてもよい。
【0051】
(遮蔽層120)
遮蔽層120の仕様、例えば、組成、構造、および厚さなどは、特に限られない。遮蔽層120として、従来の車両用のフロントガラスに適用されるような、黒色のセラミックスが使用されてもよい。
【0052】
具体的には、遮蔽層120は、低融点ガラス粉末(ガラスフリット)、耐熱性の黒色顔料、フィラー、および樹脂を含んでもよい。
【0053】
遮蔽層120は、例えば、セラミックペーストをガラス板110上に印刷した後、ペーストを加熱してガラス板110に焼き付けることにより、形成されてもよい。
【0054】
この場合、セラミックペーストは、顔料の粉末をガラスフリットとともに樹脂および溶剤に加えて混練して、調製してもよい。また、セラミックペーストの印刷方法としては、例えば、スクリーン印刷法およびインクジェット印刷法などが利用されてもよい。
【0055】
遮蔽層120の厚さは、特に限られないが、通常の場合、10μm~20μmの範囲である。
【0056】
遮蔽層120の第2の部分124における開口130の形状は、特に限られない。開口130は、例えば、実質的に三角形状、または実質的に四角形の形状であってもよい。
【0057】
なお、本願において、「実質的に四角形」とは、数学的な意味での四角形の他に、一部に曲線または4辺とは別の直線を含む形状を含む概念であることを意味する。「実質的に四角形」には、例えば、四角形の4つのコーナーの少なくとも一つが丸みを帯びた形状、4つの辺の少なくとも一つが曲線状である形状、および4つのコーナーの少なくとも一つが直線で切除された形状があり得る。特に、4つの辺の少なくとも一つが曲線状であると、カメラの画角を確保しやすくなる。
【0058】
「実質的に三角形」という用語、および「実質的に○○形」という用語も、同様に解釈される。
【0059】
開口130は、例えば、実質的に正方形、実質的に長方形、実質的に菱形、または実質的に平行四辺形であってもよい。あるいは、開口130は、
図2(a)に示したような実質的に台形の形状であってもよい。また、開口130が実質的に台形の形状の場合、下辺の両側にある内角は、相互に異なっていてもよい。
【0060】
この他にも、開口130の形状として、各種形態が想定され得る。
【0061】
(防曇フィルム140)
前述のように、防曇フィルム140は、遮蔽層120と開口130の境界132よりも外側に、防曇フィルム140の端部が配置されるように設置される。すなわち、防曇フィルム140は、開口130の周囲に沿って、遮蔽層120とオーバーラップするように配置される。
【0062】
図3に示すように、オーバーラップ部分の寸法をLoとした場合、寸法Loの最小値は、例えば、2mm~8mmの範囲である。
【0063】
特に、オーバーラップ部分の寸法Loは、開口130の全周にわたって、2mm~20mmの範囲であることが好ましい。
【0064】
防曇フィルム140は、開口130と実質的に相似形であってもよい。
【0065】
防曇フィルム140の形状は、上面視、持ち手領域142および本体領域144を有することが望ましい。本体領域144は、開口130を覆う領域である。本体領域144および持ち手領域142は、実質的に四角形状であることが好ましい。持ち手領域142は、作業性の点で、台形形状であることが特に好ましい。
【0066】
また、防曇フィルム140のコーナー部は、曲線状、または直線で切除された形状であってもよい。この場合、防曇フィルム140の剥離をよりいっそう抑制することができる。
【0067】
なお、防曇フィルム140は、透明であり、従って、以下に示す防曇フィルム140を構成する各層は、いずれも透明な材料で構成される。
【0068】
(粘着層150)
防曇フィルム140の粘着層150は、防曇フィルム140を開口130に接着する機能を有する。また、粘着層150は、防曇フィルム140が開口130に接着された際に、開口130よりも内側に、前述のような特徴を有する気泡領域152が形成されるような材料から構成される。
【0069】
粘着層150として、アクリル系の材料、またはゴム系の材料が使用されてもよい。
【0070】
あるいは、粘着層150は、例えば、アクリル系のモノマーとメタクリル系のモノマーを共重合し、所望のガラス転移温度に設定した樹脂で構成されてもよい。
【0071】
アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル、およびアクリル酸2エチルヘキシル等が適用できる。
【0072】
また、メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、およびメタクリル酸ステアリルなどが適用できる。
【0073】
また、ヒートラミネートなどで形成する場合、ラミネート温度で軟化する有機物を用いても良い。
【0074】
ガラス転移温度は、例えば、メタクリル系のモノマーとアクリル系のモノマーを共重合した樹脂の場合、各モノマーの配合比を変更することにより、調整することができる。粘着層150のガラス転移温度は、10℃以下であることが好ましい。10℃以下とすることにより、気泡占有面積を確保しやすくなる。
【0075】
さらに、粘着層150の25℃における周波数1Hzにおけるせん断貯蔵弾性率は、0.01MPa~5MPaであることが好ましい。0.01MPa以上とすることにより、気泡占有面積を確保しやすくなる。せん断貯蔵弾性率は、0.2MPa以上であることがより好ましく、0.4MPa以上であることが特に好ましい。
【0076】
特に、粘着層150として好ましい材料として、例えば、アルキル(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられる。そのような粘着層150は、比較的好適な堅さを有する。従って、そのような粘着層150を開口130の周囲に設置した際に、気泡領域152に含まれる気泡154のサイズおよび密度、さらには気泡占有面積を比較的容易に調整することができる。
【0077】
なお、粘着層150の厚さをtaとし、遮蔽層120の厚さをtsとしたとき、比ta/tsは、1.5~3.3の範囲であることが好ましい。
【0078】
比ta/tsを1.5以上とすることにより、境界132での段差を目立たなくすることができる。特に、比ta/tsは、1.7以上であることが好ましい。
【0079】
比ta/tsを3.3以下とすることにより、粘着層150を構成する材料の吸湿による劣化の影響を低減できる。
【0080】
また、粘着層150の厚さをtaとし、基材層170の厚さをtbとしたとき、比ta/tbは、0.25~1.0の範囲であることが好ましい。
【0081】
比ta/tbを0.25以上とすることにより、境界132での段差を目立たなくすることができる。比ta/tbを1.0以下とすることにより、防曇フィルム140を開口130の周囲に沿って接着する時の作業性を向上できる。
【0082】
(基材層160)
防曇フィルム140の基材層160としては、従来の基材層160を使用することができる。
【0083】
基材層160は、例えば、ポリエチレンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂で構成されてもよい。
【0084】
基材層160の厚さは、特に限られない。基材層160は、20μm~100μmの厚さを有してもよい。
【0085】
(防曇層180)
防曇フィルム140の防曇層180は、防曇機能を有する限り、特に限られない。防曇層180には、例えば、従来から使用されているものが使用されてもよい。
【0086】
防曇層180は、便宜上、パッシブタイプおよびアクティブタイプの2種類に大別される。ここで、パッシブタイプとは、定常的に防曇機能を発揮する防曇層180を表す。一方、アクティブタイプとは、オン/オフにより防曇機能を切り替えることが可能な防曇層180を表す。
【0087】
以下、両タイプについて説明する。
【0088】
(パッシブタイプ)
パッシブタイプの防曇層180は、吸水性の樹脂または親水性の樹脂を有する。
【0089】
吸水性の樹脂としては、例えば、エポキシ、ウレタン、アクリル、およびポリビニルアセタールなどが挙げられる。
【0090】
また、親水性の樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0091】
(アクティブタイプ)
アクティブタイプの防曇層180は、基材層170の上に所定の材料の透明膜をコーティングすることにより形成される。
【0092】
透明膜は、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)、銀、銀ナノワイヤー、導電性高分子(PEDOT/PSS)、カーボンナノチューブ、およびグラフェンなどで構成されてもよい。あるいは、透明膜は銅メッシュで構成されてもよい。
【0093】
また、これとは別の形態として、アクティブタイプの防曇層180は、基材層170の上に細い線状パターンを形成することにより、形成されてもよい。そのような線状パターンは、例えば、銀で構成されてもよい。
【0094】
パッシブタイプおよびアクティブタイプのいずれの場合においても、防曇層180の厚さは、これに限られるものではないが、例えば、5μm~50μmの範囲である。
【0095】
(気泡領域152)
前述のように、気泡領域152は、上面視、境界132から距離Dだけ離れた位置に形成される。
【0096】
距離Dは、0~1mmの範囲である。距離Dは、0.2mm~0.7mmの範囲であることが好ましい。
【0097】
また、
図3に示した長さV、すなわち気泡領域152の幅Vは、0.1mm~1.0mmの範囲であってもよい。気泡領域152の幅Vは、0.2mm~0.5mmの範囲であることが好ましい。
【0098】
なお、気泡領域152は、必ずしも、境界132の周囲全体に形成されている必要はなく、気泡領域152は、境界132の一部分のみに沿って、形成されていてもよい。
【0099】
例えば、上面視、開口130および境界132が実質的に四角形状の場合、気泡領域152は、一つの辺、2つの辺、または3つの辺のみに沿って、形成されてもよい。
【0100】
また、上面視、開口130および境界132が実質的に円形の場合、気泡領域152は、円周の1/4以上の部分に沿って、形成されていればよい。
【0101】
ただし、防曇フィルム140の剥離を効果的に抑制するという観点からは、気泡領域152は、境界132の周囲全体に沿って形成されていることが好ましい。
【0102】
気泡領域152において、各気泡154の最大長さは、0.2mm以下であることが好ましい。
【0103】
(本発明の別の実施形態による防曇ガラス)
前述のように、防曇層180は、便宜上、パッシブタイプおよびアクティブタイプの2種類に大別される。
【0104】
このうち、アクティブタイプの防曇層180は、防曇フィルムに加えて、電熱フィルムへの適用も可能である。
【0105】
そこで、以下、
図3Aを参照して、防曇フィルムの代わり電熱フィルムを有する防曇ガラス(以下、そのような防曇ガラスを「第2の防曇ガラス」と称する)の具体的な実施形態について説明する。
【0106】
なお、第2の防曇ガラスの構成は、電熱フィルムの部分を除き、前述の第1の防曇ガラス100とほぼ同様である。従って、ここでは、第2の防曇ガラスの上面図は省略する。また、ここでは、前述の第1の防曇ガラス100と対応する部材等を表す際に、
図1~
図3に示した参照符号に200を加えた参照符号を使用する。
【0107】
図3Aには、第2の防曇ガラス300の概略的な断面図を示す。
【0108】
図3Aに示すように、第2の防曇ガラス300は、ガラス板310と、該ガラス板の一方の表面に設置された遮蔽層320とを有する。前述のように、遮蔽層320の一部には、該遮蔽層320が存在しない部分、すなわち開口330が設けられている。
【0109】
第2の防曇ガラス300は、さらに、開口330を覆うように設置された電熱フィルム341を有する。
【0110】
開口330には、遮蔽層320が設置されておらず、従って、上面視、遮蔽層320と開口330との間には、境界332が画定される。境界332は、開口330に沿った閉区画を形成する。
【0111】
また、電熱フィルム341は、上面視、境界332よりも外側まで延在するようにして、開口330上に設置される。換言すれば、電熱フィルム341は、その周囲が遮蔽層320とオーバーラップするように配置される。
【0112】
図3Aに示すように、電熱フィルム341は、ガラス板310に近い順に、粘着層350、基材層370、および電熱体381を有する。
【0113】
粘着層350および基材層370は、前述の第1の防曇ガラス100における防曇フィルム140に含まれる粘着層150および基材層170と同様である。
【0114】
一方、電熱体381は、電気抵抗体として機能する。電熱体381は、例えば、加熱可能被膜、印刷導体、メッシュ、および電熱線の少なくとも一つで構成される。
【0115】
電熱体381が加熱可能被膜または印刷導体で構成される場合、電熱体381は、12Vから15Vの電圧で、0.5オームパースクエアから100オームパースクエアのシート抵抗を有することが好ましい。また、電熱体381がメッシュまたは電熱線で構成される場合、メッシュまたは電熱線の直径は、例えば、10μmから100μmの範囲であってもよい。
【0116】
また、加熱可能被膜、メッシュおよび電熱線は、フッ素ドープ二酸化スズ(F:SnO2)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、銀、銅、スズ、金、アルミニウム、鉄、タングステン、クロム、またはそれらの合金を含んでもよい。これに加えて、またはこれとは別に、加熱可能被膜および電熱線は、少なくとも1つの導電性有機ポリマーを含んでもよい。
【0117】
加熱可能被膜および印刷導体は、例えば、0.01μmから50μm、好ましくは0.05μmから10μmの層の厚さを有する。
【0118】
加熱可能被膜は、任意で、静電防止機能、吸水性、親水性、疎水性、疎油性、および疎水性を有してもよい。
【0119】
加熱可能被膜は、親水性のポリエステルで構成されてもよい。あるいは、加熱可能被膜は、多糖、セルロース誘導体、およびポリエチレンオキシドなどの親水ポリマーを含んでもよい。また、加熱可能被膜は、疎水性を発現させるため、-CHF-、-CF2-、および/または-CF3-基を有するハロゲン化炭化水素を含んでもよい。
【0120】
電熱体381は、例えば、化学気相成膜(CVD)法、物理気相成膜(PVD)法、またはスパッタリング法など、従来の技術で成膜されてもよい。
【0121】
第2の防曇ガラス300では、粘着層350により、電熱フィルム341をガラス板310および遮蔽層320に接着することができる。また、電熱体381は、開口330の曇りを抑制する役割を有する。
【0122】
ここで、第2の防曇ガラス300は、上面視、遮蔽層320と開口330との境界332の近傍であって、境界332よりも内側の所定の位置に、気泡領域352を有する。本実施形態において、境界332の近傍とは、上面視、境界332から3mmまでの領域を意味する。
【0123】
具体的には、
図3Aに示すように、気泡領域352は、境界332から距離Dだけ離れた位置に形成される。前述のように、対象とする境界332と対象とする気泡領域352との間の部分を「遷移部分」358と称する。
【0124】
距離D、すなわち、遷移部分358の幅は、0~1mmの範囲である。
【0125】
気泡領域352の構成は、前述の第1の防曇ガラス100における気泡領域152と同様である。
【0126】
このような第2の防曇ガラス300も、例えば、車両のフロントガラス等に適用することができる。
【0127】
第2の防曇ガラス300を車両のフロントガラスに適用した場合、電熱フィルム341の効果により、雨や雪の日などに開口330に生じ得る曇りを、有意に抑制することができる。
【0128】
また、例えば、晴れた日において、太陽からの熱射により遮蔽層320が加熱されても、気泡領域352の存在により、遮蔽層320と電熱フィルム341との間の熱膨脹差によって生じ得る熱応力を有意に緩和することができる。その結果、電熱フィルム341の剥離を有意に抑制することができる。
【0129】
さらに、第2の防曇ガラス300では、気泡領域352における気泡占有面積は、1mm2当たり0.01mm2~0.13mm2の範囲に調整されている。このため、気泡領域352の存在により、第2の防曇ガラス300の見栄えが悪くなるという問題も生じ難い。
【0130】
以上のような効果により、第2の防曇ガラス300では、外観を損なうことなく、電熱フィルム341の剥離を有意に抑制することが可能となる。
【0131】
なお、上記記載では、電熱フィルム341は、ガラス板310に近い順に、粘着層350、基材層370、および電熱体381を有するものと仮定した。しかしながら、電熱フィルム341は、ガラス板310に近い順に、粘着層350、電熱体381、および基材層370を有してもよい。
【0132】
また、電熱フィルム341は、必ずしも、上面視、開口330全体を取り囲むように配置される必要はない。
【0133】
図3Bには、開口330Aの上に設置された電熱フィルム341Aの模式的な上面図を示す。
【0134】
図3Bに示した例では、電熱フィルム341Aは、開口330の上下を被覆していない。このような態様では、開口330に電熱フィルム341Aを設置する際に、気泡の発生を有意に抑制できる。また、このような態様では、電熱フィルム341Aの位置合わせが容易となり、電熱フィルム341Aを適正な位置に設置できる。なお、電熱フィルム341Aは、両端にバスバー349Aを有してもよい。
【0135】
(本発明の一実施形態による防曇ガラスの製造方法)
次に、
図4を参照して、本発明の一実施形態による防曇ガラスの製造方法の一例について説明する。
【0136】
図4には、本発明の一実施形態による防曇ガラスの製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0137】
図4に示すように、第1の製造方法は、
ガラス板の一方の表面に、開口が形成されるように遮蔽層を設置するステップ(S110)と、
前記開口を覆うように防曇フィルムを設置するステップであって、これにより、上面視、開口の内側に、気泡領域が形成される、ステップ(S120)と、
を有する。
【0138】
以下、各工程について説明する。なお、以降の記載では、本発明の一実施形態による防曇ガラスの一例として、前述の第1の防曇ガラス100を製造する場合について説明する。従って、各部材を表す際には、
図1乃至
図3に使用した参照符号を使用する。
【0139】
(ステップS110)
まず、ガラス板110が準備される。前述のように、ガラス板110は、上辺112、下辺114、および2つの側辺116を有する。
【0140】
次に、ガラス板110の一方の表面に、所定のパターンで遮蔽層120が設置される。
【0141】
遮蔽層120の設置方法は、特に限られない。遮蔽層120は、例えば、印刷法により設置されてもよい。
【0142】
遮蔽層120は、前述のように、第1の部分122および第2の部分124を有するように設置される。
【0143】
図1に示すように、第1の部分122は、ガラス板110の周囲に沿って、枠状に設置される。これに対して、第2の部分124は、ガラス板110の上辺112の略中央から下辺114に向かって突出するように設置される。また、第2の部分124は、所定の位置に、遮蔽層120が存在しない部分、すなわち開口130が形成されるように設置される。
【0144】
開口130の形状は、例えば実質的に台形であってもよい。
【0145】
(ステップS120)
次に、第2の部分124の開口130を覆うように、防曇フィルム140が設置される。
【0146】
防曇フィルム140は、開口130の周囲にわたって、遮蔽層120と重なり合うように設置される。
【0147】
防曇フィルム140は、ガラス板110から近い順に、粘着層150、基材層170、および防曇層180を有する。
【0148】
また、
図5に示すように、防曇フィルム140は、防曇層180の表面に保護層195を有してもよい。保護層195は、防曇層180と同じ形状であることが好ましい。さらに、防曇フィルム140は、粘着層150の基材層170とは反対の側にセパレータフィルム197を有していてもよい。セパレータフィルム197は、上面視、切れ目を有していてもよい。セパレータフィルム197は、上面視、粘着層150の表面を覆うように設けられることが好ましい。
【0149】
防曇フィルム140は、粘着層150が内側となるようにして、ガラス板110に設置される。防曇フィルム140がセパレータフィルム197を有する場合、まず、セパレータフィルム197が剥離される。露出した粘着層150の一部を遮蔽層120の上に仮固定した後、スキージを用いて、防曇フィルム140が開口130を覆うように密着される。
【0150】
防曇フィルム140の設置により、上面視、遮蔽層120と開口130との境界132から、該境界132の内側に向かって距離Dだけ離れた位置に、多数の気泡154を含む気泡領域152が形成される。
【0151】
特に、防曇フィルム140の粘着層150の材質、堅さ(貯蔵弾性率)、厚さta、ならびに前述の比ta/tsおよび比ta/tbを適正に選定することにより、気泡領域152における気泡占有面積を、所定の範囲に調整することができる。
【0152】
以上の工程により、第1の防曇ガラス100を製造することができる。
【0153】
なお、第2の防曇ガラス200についても、上記第1の製造方法と同様の方法により製造できることに留意する必要がある。
【実施例】
【0154】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことに留意する必要がある。
【0155】
以下の記載において、例1~例5は実施例であり、例11および例12は比較例である。
【0156】
(例1)
以下の方法により、防曇ガラスのサンプルを製造した。
【0157】
まず、縦100mm、横100mm、厚さ3.5mmのガラス板を準備した。次に、このガラス板の第1の表面(縦100mm×横100mmの一方の表面)に遮蔽層を形成した。遮蔽層は、遮蔽層用ペーストを所定のパターンでスクリーン印刷した後、560℃で7分間熱処理することにより形成した。遮蔽層用ペーストには、ガラスフリット、フィラー、顔料およびアクリル樹脂系ビヒクルを含む組成物を使用した。
【0158】
図6に示すように、遮蔽層220は、ガラス板210の第1の表面218の半分の領域のみに設置した。遮蔽層の厚さt
sは、約15μmであった。
【0159】
次に、以下の方法で、防曇フィルム240を調製した。
【0160】
まず、基材層として、厚さtb=100μmのPETフィルム(A4300;東洋紡社製)を準備した。次に、この基材層の一方の表面に、防曇層を形成した。防曇層は、防曇層用組成物を基材層上にスピンコートすることにより形成した。
【0161】
防曇層用組成物は、以下の方法で調製した。
【0162】
31.4gの水溶性エポキシデナコールEX1610(ナガセケムテックス社製)、33.4gのキレート化合物溶液A1、18.4gのネオアルコールIPM(大伸化学社製)、8.5gのイオン交換水、0.09gの硝酸(60wt%、純正化学社製)、および8.1gのアルコキシシラン化合物KBM403(信越化学社製)を、ガラス容器に添加した。ガラス容器を室温で60分間撹拌して、防曇層用組成物を得た。
【0163】
なお、キレート化合物溶液A1は、3.0gのアルミニウムトリスアセチルアセトナート(シグマアルドリッチ社製)と、97.0gのメタノール(特級;純正化学社製)を混合し、25℃で10分間撹拌することにより調整した。
【0164】
スピンコート後に、基材層を100℃で30分間保持することにより、基材層の上に防曇層が形成された。
【0165】
次に、基材層の防曇層とは反対の側に、粘着層を設置した。粘着層は、粘着剤(CS9861UAS;日東電工株式会社製)で構成した。粘着層の厚さtaは、25μmである。
【0166】
これにより、防曇フィルムが得られた。防曇フィルムの厚さは、145μmである。
【0167】
次に、
図6に示すように、ガラス板210の第1の表面218の略中央に、50mm×50mmの防曇フィルム240を設置した。防曇フィルム240は、粘着層の側がガラス板210と面するようにして、第1の表面218の中央に貼り付けた。
【0168】
その後、スキージを防曇フィルム240の一端(
図6における左端)に押し付けた状態で、スキージを遮蔽層220の側(
図6の右方向)に移動させ、防曇フィルム240をガラス板210および遮蔽層220に密着させた。
【0169】
これにより、防曇ガラスのサンプル(以下、「サンプル1」と称する)が製造された。
【0170】
(例2)
例1と同様の方法により、防曇ガラスのサンプル(以下、「サンプル2」と称する)を製造した。
【0171】
ただし、例2では、粘着層の厚さtaを50μmとした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0172】
(例3)
例1と同様の方法により、防曇ガラスのサンプル(以下、「サンプル3」と称する)を製造した。
【0173】
ただし、例3では、粘着層の厚さtaを75μmとした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0174】
(例4)
例1と同様の方法により、防曇ガラスのサンプル(以下、「サンプル4」と称する)を製造した。
【0175】
ただし、例4では、基材層の厚さtbを50μmとした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0176】
(例5)
例1と同様の方法により、防曇ガラスのサンプル(以下、「サンプル5」と称する)を製造した。
【0177】
ただし、例5では、基材層の厚さtbを50μmとし、粘着層の厚さtaを50μmとした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0178】
(例11および例12)
例1と同様の方法により、防曇ガラスのサンプル(以下、それぞれ、「サンプル11」および「サンプル12」と称する)を製造した。
【0179】
ただし、例11および例12では、基材層の厚さtbを、例1の場合とは変更した。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0180】
以下の表1には、各サンプルにおける基材層の厚さtb、遮蔽層の厚さts、粘着層の厚さta、比ta/ts、および比ta/tbをまとめて示した。
【0181】
【0182】
(評価)
各サンプルを用いて、以下の評価試験を実施した。
【0183】
(外観評価)
各サンプルにおいて、防曇フィルム240が設置されない面から、ガラス板210と遮蔽層220との境界(
図6の260参照)近傍を目視により観察した。境界近傍において、気泡領域が目立たない場合を○と判定し、目立つ場合を×と判定した。
【0184】
(気泡領域の観察)
各サンプルにおいて、ガラス板210と遮蔽層220との境界260の近傍を、光学顕微鏡により観察した。
【0185】
気泡領域の位置、気泡領域の寸法、気泡領域に含まれる気泡の平均最大長さ、気泡の密度、および気泡占有面積等を測定した。
【0186】
測定には、マイクロスコープ(VHX-5000;キーエンス社)、およびこれに付随の画像解析ソフトウェアもしくは画像解析ソフトウェアimageJを使用した。前述のように、気泡の平均最大長さおよび密度は、気泡領域を1000倍の倍率で撮影した後、得られた画像を画像解析することにより、評価した。また、気泡占有面積は、気泡領域を200倍の倍率で撮影した後、得られた画像を画像解析することにより評価した。
【0187】
図7には、サンプル1における境界260の近傍で撮影された顕微鏡写真の一例を示す。また、
図8には、
図7における境界260の近傍を拡大して示す。
【0188】
図7および
図8に示すように、サンプル1では、遮蔽層220とガラス板210の境界260の近傍に、気泡領域152が観察された。なお、サンプル2においても、同様の形態の気泡領域152が観察された。
【0189】
(熱衝撃試験)
各サンプルにおいて、防曇フィルムの耐剥離性を、熱衝撃試験により評価した。熱衝撃試験前後の防曇フィルムの外観を目視により観察した。試験前後で外観変化がなかった場合を○、試験後の防曇フィルムに浮き又は剥離の少なくとも一方が発生した場合を×と判定した。
【0190】
熱衝撃試験は、JIS C60068に従い実施した。具体的には、サンプルを、30分間100℃に保持した後、-40℃に30分間保持するサイクルを10サイクル繰り返した。
【0191】
サンプルの昇温速度および降温速度は、いずれも15℃/分とした。
【0192】
以下の表2には、各サンプルにおいて得られた評価結果をまとめて示した。
【0193】
【0194】
表2の結果から、気泡領域における気泡占有面積が0.003mm2のサンプル11では、防曇フィルムの密着性が悪くなり、防曇フィルムに剥離が生じ易くなることがわかった。
【0195】
また、気泡領域における気泡占有面積が0.153mm2のサンプル12では、目視でも気泡領域が目立つようになり、外観上好ましくないことがわかった。
【0196】
これに対して、気泡占有面積が0.01mm2~0.13mm2の範囲にあるサンプル1~サンプル5では、気泡領域が目立たない上、防曇フィルムの耐剥離性も良好であることがわかった。
【0197】
このように、気泡占有面積が0.01mm2~0.13mm2の範囲となるように気泡領域を形成することにより、防曇ガラスの外観に悪影響を及ぼすことなく、防曇フィルムの剥離が有意に抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0198】
100 第1の防曇ガラス
110 ガラス板
112 上辺
114 下辺
116 側辺
120 遮蔽層
122 第1の部分
124 第2の部分
130 開口
132 境界
140 防曇フィルム
142 持ち手領域
144 本体領域
150 粘着層
152 気泡領域
154 気泡
158 遷移部分
170 基材層
180 防曇層
190 隙間
195 保護層
197 セパレータフィルム
198 切れ目
210 ガラス板
218 第1の表面
220 遮蔽層
240 防曇フィルム
260 境界
300 第2の防曇ガラス
310 ガラス板
320 遮蔽層
330 開口
332 境界
341、341A 電熱フィルム
349A バスバー
350 粘着層
352 気泡領域
354 気泡
358 遷移部分
370 基材層
381 電熱体
390 隙間