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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】無アルカリガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20241126BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20241126BHJP
   C03C 3/118 20060101ALI20241126BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/118
G02F1/1333 500
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020571298
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004850
(87)【国際公開番号】W WO2020162606
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019020257
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019051570
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019141422
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019186805
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020017692
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 博文
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-302475(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087971(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0282450(US,A1)
【文献】国際公開第2013/183569(WO,A1)
【文献】特開2016-029001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で
SiO2 63~75%、
Al23 11.4~16%、
23 1.7~3.5%
MgO 0.1~11%、
CaO 4.5~12%、
SrO 1.3~8%、
BaO 0.1~0.5%を含み、
[MgO]/[CaO]が1.5超であり、
式(A)は1.131[SiO2]+1.933[Al23]+0.362[B23]+2.049[MgO]+1.751[CaO]+1.471[SrO]+1.039[BaO]-48.25であり、式(A)の値が82.5以上、
式(B)は35.59[SiO2]+37.34[Al23]+24.59[B23]+31.13[MgO]+31.26[CaO]+30.78[SrO]+31.98[BaO]-2761であり、式(B)の値が690以上、800以下、
式(C)は-9.01[SiO2]+36.36[Al23]+5.7[B23]+5.13[MgO]+17.25[CaO]+7.65[SrO]+10.58[BaO]であり、式(C)の値が100以下、
式(D)は-0.731[SiO2]+1.461[Al23]-0.157[B23]+1.904[MgO]+3.36[CaO]+3.411[SrO]+1.723[BaO]+(-3.318[MgO][CaO]-1.675[MgO][SrO]+1.757[MgO][BaO]+4.72[CaO][SrO]+2.094[CaO][BaO]+1.086[SrO][BaO])/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、式(D)の値が20以下であり、
ヤング率が83GPa以上であり、表面失透粘度ηcが104.2dPa・s以上である、無アルカリガラス。
【請求項2】
式(E)は4.379[SiO2]+5.043[Al23]+4.805[B23]+4.828[MgO]+4.968[CaO]+5.051[SrO]+5.159[BaO]-453であり、式(E)の値が1.50~5.50である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項3】
歪点が690℃以上である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
密度が2.8g/cm3以下、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃~45×10-7/℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1800℃以下、ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1400℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
内部失透温度が1320℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項7】
内部失透粘度ηdが104.4dPa・s以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項8】
結晶成長速度が100μm/hr以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項9】
酸化物基準のモル%表示で、Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選択される少なくとも1つを、酸化物基準のモル%表示で合計0.2%以下含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項10】
Fを1.5モル%以下含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項11】
酸化物基準のモル%表示で、SnO2を0.5%以下含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項12】
酸化物基準のモル%表示で、ZrO2を0.09%以下含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項13】
ガラスのβ-OH値が0.01mm-1以上、0.5mm-1以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項14】
徐冷点が850℃以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項15】
600℃、80minでの保持前後のコンパクションが150ppm以下である請求項1~14のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項16】
等価冷却速度が5℃/min以上、800℃/min以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項17】
エッチング処理時のスラッジ体積が30ml以下である、請求項1~16のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項18】
光弾性定数が31nm/MPa/cm以下である、請求項1~17のいずれか1項に記載の無アルカリガラス。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含むガラス板であり、少なくとも一辺が2400mm以上、厚みが1.0mm以下であるガラス板。
【請求項20】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有するディスプレイパネル。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する半導体デバイス。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する情報記録媒体。
【請求項23】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する平面型アンテナ。
【請求項24】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する調光積層体。
【請求項25】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する車両用窓ガラス。
【請求項26】
請求項1~18のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを有する音響用振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイ用、フォトマスク用、電子デバイス支持用、情報記録媒体用、平面型アンテナ用、調光積層体用、車両用窓ガラス用、音響用振動板用などの基板ガラス等として好適な無アルカリガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種ディスプレイ用、フォトマスク用、電子デバイス支持用、情報記録媒体用のガラス板(ガラス基板)、特に表面に金属または酸化物等の薄膜を形成するガラス板に用いるガラスでは、以下の(1)~(4)などの特性が要求されている。
(1)ガラスがアルカリ金属酸化物を含有している場合、アルカリ金属イオンが上記薄膜中に拡散して薄膜の膜特性を劣化させるため、ガラスが実質的にアルカリ金属イオンを含まないこと。
(2)薄膜形成工程でガラス板が高温にさらされる際に、ガラス板の変形およびガラスの構造安定化に伴う収縮(コンパクション)を最小限に抑えうるように歪点が高いこと。
【0003】
(3)半導体形成に用いる各種薬品に対して充分な化学耐久性を有すること。特にSiOxやSiNxのエッチングのためのバッファードフッ酸(BHF:フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液)、ITOのエッチングに用いる塩酸を含有する薬液、金属電極のエッチングに用いる各種の酸(硝酸、硫酸等)、および、レジスト剥離液のアルカリ等に対して耐久性のあること。
(4)内部および表面に欠点(泡、脈理、インクルージョン、ピット、キズ等)がないこと。
【0004】
上記の要求に加えて、近年、更に、以下の(5)~(9)の要求もなされている。
(5)ディスプレイ等において軽量化が要求され、ガラス自身も比重の小さいガラスが望まれる。
(6)ディスプレイ等において軽量化が要求され、ガラス板の薄板化が望まれる。
(7)これまでのアモルファスシリコン(a-Si)タイプの液晶ディスプレイに加え、熱処理温度の高い多結晶シリコン(p-Si)タイプの液晶ディスプレイが作製されるようになってきた(a-Siの耐熱性:約350℃、p-Siの耐熱性:350~550℃)ため、耐熱性が望まれる。
【0005】
(8)ディスプレイ等の作製の際の熱処理の昇降温速度を速くして生産性を上げたり、耐熱衝撃性を上げたりするために、ガラスの平均熱膨張係数の小さいガラスが求められる。一方で、ガラスの平均熱膨張係数が小さすぎる場合、ディスプレイ等の作製の際にゲート金属膜やゲート絶縁膜などの各種成膜工程が多くなると、ガラスの反りが大きくなってしまい、ディスプレイ等の搬送時に割れや傷が生じるなどの不具合が起きる、露光パターンのずれが大きくなる、などの問題がある。
(9)また、近年、ガラス基板の大板化・薄板化に伴い、比弾性率(ヤング率/密度)が高いガラスが求められている。
【0006】
上記のような要求を満たすために、これまで、例えば、ディスプレイパネル用ガラスでは、様々なガラス組成が提案されている(特許文献1~4参照)。
【0007】
また、近年、電子ディスプレイは更なる高解像度化へ向かっており、大型テレビにおいては高精細化に伴い、例えばCu配線の膜厚が上がるなど、各種の成膜により基板の反りが大きくなる問題がある。そこで、基板の反り量が少ない基板へのニーズが高まっており、これに応えるためにはガラスのヤング率を高くする必要がある。
しかし、特許文献3,4のような高ヤング率となるガラスは歪点が高く、ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4に比べて失透温度が高くなる傾向にある。その結果、ガラスの成型が難しくなり、製造設備への負荷が大きくなり生産コストの増加が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特許第5702888号明細書
【文献】国際公開第2013/183626号
【文献】日本国特許第5849965号明細書
【文献】日本国特許第5712922号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者らは、さらに、以下の懸念事項を見出した。
【0010】
上述したように、歪点や失透温度が高いと、ガラスの製造が難しくなるが、さらに、結晶成長速度が速いこともガラスの製造を難しくする問題であると判明した。すなわち、結晶成長速度が速いと、長期間生産を行った場合に析出した結晶が製造されるガラスに混入し、異物欠点となる。ガラスに混入する異物欠点は、極微小なサイズであっても、例えばサイズが大型化した基板を取り扱う際に、基板が破損する起点となるおそれもあるため、結晶成長速度を低くすることは重要である。なお、本願発明者らは、結晶成長速度と失透温度とは相関性が無いことを見出しており、結晶成長速度は失透温度とは独立した特性である。したがって、失透温度が低いガラスであっても、結晶成長速度が速いと、高い生産性で品質に優れる無アルカリガラスを得ることが難しくなる。
【0011】
本発明は、ガラス基板が反るなどのガラス基板の変形を抑制でき、成型性に優れ、製造設備への負担が低いことに加えて、結晶成長速度が低く、生産性および品質が更に優れるガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、酸化物基準のモル%表示で
SiO2 63~75%、
Al23 10~16%、
23 0.5%超、5%以下、
MgO 0.1~15%、
CaO 0.1~12%、
SrO 0~8%、
BaO 0~6%を含み、
[MgO]/[CaO]が1.5超であり、
式(A)は1.131[SiO2]+1.933[Al23]+0.362[B23]+2.049[MgO]+1.751[CaO]+1.471[SrO]+1.039[BaO]-48.25であり、式(A)の値が82.5以上、
式(B)は35.59[SiO2]+37.34[Al23]+24.59[B23]+31.13[MgO]+31.26[CaO]+30.78[SrO]+31.98[BaO]-2761であり、式(B)の値が690以上、800以下、
式(C)は-9.01[SiO2]+36.36[Al23]+5.7[B23]+5.13[MgO]+17.25[CaO]+7.65[SrO]+10.58[BaO]であり、式(C)の値が100以下、
式(D)は{-0.731[SiO2]+1.461[Al23]-0.157[B23]+1.904[MgO]+3.36[CaO]+3.411[SrO]+1.723[BaO]+(-3.318[MgO][CaO]-1.675[MgO][SrO]+1.757[MgO][BaO]+4.72[CaO][SrO]+2.094[CaO][BaO]+1.086[SrO][BaO])}/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、式(D)の値が20以下であり、
ヤング率が83GPa以上であり、表面失透粘度ηcが104.2dPa・s以上である、無アルカリガラス(1)を提供する。
【0013】
本発明の無アルカリガラス(1)は、式(E)は4.379[SiO2]+5.043[Al23]+4.805[B23]+4.828[MgO]+4.968[CaO]+5.051[SrO]+5.159[BaO]-453であり、式(E)の値が1.50~5.50が好ましい。
【0014】
本発明の無アルカリガラス(1)は、歪点が690℃以上が好ましい。
【0015】
本発明の無アルカリガラス(1)は、密度が2.8g/cm3以下、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃~45×10-7/℃が好ましい。
【0016】
本発明の無アルカリガラス(1)は、ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1800℃以下、ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1400℃以下が好ましい。
【0017】
本発明の無アルカリガラス(1)は、内部失透温度が1320℃以下が好ましい。
【0018】
本発明の無アルカリガラス(1)は、内部失透粘度ηdが104.4dPa・s以上が好ましい。
【0019】
本発明の無アルカリガラス(1)は、結晶成長速度が100μm/hr以下が好ましい。
【0020】
本発明の無アルカリガラス(1)は、Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選択される少なくとも1つを、酸化物基準のモル%表示で合計0.2%以下含有してもよい。
【0021】
また、本発明は、酸化物基準のモル%表示で
SiO2 50~80%、
Al23 8~20%、
Li2O+Na2O+K2O 0~0.2%、
25 0~1%、
[MgO]/[CaO]が1.5超、
ヤング率が83GPa以上、
歪点が690℃以上、
ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1400℃以下、
ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1800℃以下、
内部失透温度が1320℃以下、
内部失透粘度ηdが104.4dPa・s以上、
表面失透粘度ηcが104.2dPa・s以上、
結晶成長速度が100μm/hr以下、
密度が2.8g/cm3以下、
比弾性率が31以上、
50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃~45×10-7/℃
である、無アルカリガラス(2)を提供する。
【0022】
本発明の無アルカリガラス(2)は、酸化物基準のモル%表示で、B23を0~5%含むことが好ましい。
【0023】
本発明の無アルカリガラス(2)は、酸化物基準のモル%表示で、MgOを0.1~15%、CaOを0.1~12%、SrOを0~8%、BaOを0~6%含むことが好ましい。
【0024】
本発明の無アルカリガラス(2)は、酸化物基準のモル%表示で、B23を0~5%、MgOを0.1~15%、CaOを0.1~12%、SrOを0~8%、BaOを0~6%含むことが好ましい。
【0025】
本発明の無アルカリガラス(2)は、式(A)は1.131[SiO2]+1.933[Al23]+0.362[B23]+2.049[MgO]+1.751[CaO]+1.471[SrO]+1.039[BaO]-48.25であり、式(A)の値が82.5以上が好ましい。
【0026】
本発明の無アルカリガラス(2)は、式(B)は35.59[SiO2]+37.34[Al23]+24.59[B23]+31.13[MgO]+31.26[CaO]+30.78[SrO]+31.98[BaO]-2761であり、式(B)の値が690以上、800以下が好ましい。
【0027】
本発明の無アルカリガラス(2)は、式(C)は-9.01[SiO2]+36.36[Al23]+5.7[B23]+5.13[MgO]+17.25[CaO]+7.65[SrO]+10.58[BaO]であり、式(C)の値が100以下が好ましい。
【0028】
本発明の無アルカリガラス(2)は、式(D)は{-0.731[SiO2]+1.461[Al23]-0.157[B23]+1.904[MgO]+3.36[CaO]+3.411[SrO]+1.723[BaO]+(-3.318[MgO][CaO]-1.675[MgO][SrO]+1.757[MgO][BaO]+4.72[CaO][SrO]+2.094[CaO][BaO]+1.086[SrO][BaO])}/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、式(D)の値が20以下が好ましい。
【0029】
本発明の無アルカリガラス(2)は、式(E)は4.379[SiO2]+5.043[Al23]+4.805[B23]+4.828[MgO]+4.968[CaO]+5.051[SrO]+5.159[BaO]-453であり、式(E)の値が1.50~5.50が好ましい。
【0030】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、Fを1.5モル%以下含有してもよい。
【0031】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、酸化物基準のモル%表示で、SnO2を0.5%以下含有してもよい。
【0032】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、酸化物基準のモル%表示で、ZrO2を0.09%以下含有してもよい。
【0033】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、ガラスのβ-OH値が0.01mm-1以上、0.5mm-1以下が好ましい。
【0034】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、徐冷点が850℃以下が好ましい。
【0035】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、600℃、80minでの保持前後のコンパクションが150ppm以下が好ましい。
【0036】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、等価冷却速度が5℃/min以上、800℃/min以下が好ましい。
【0037】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、エッチング処理時のスラッジ体積が30ml以下が好ましい。
【0038】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)は、光弾性定数が31nm/MPa/cm以下が好ましい。
【0039】
本発明の無アルカリガラス(1),(2)を含むガラス板であり、少なくとも一辺が2400mm以上、厚みが1.0mm以下のガラス板が好ましい。
【0040】
本発明のガラス板は、フロート法又はフュージョン法で製造することが好ましい。
【0041】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有するディスプレイパネルを提供する。
【0042】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する半導体デバイスを提供する。
【0043】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する情報記録媒体を提供する。
【0044】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する平面型アンテナを提供する。
【0045】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する調光積層体を提供する。
【0046】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する車両用窓ガラスを提供する。
【0047】
また、本発明は、本発明の無アルカリガラス(1),(2)を有する音響用振動板を提供する。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、ガラス基板が反るなどのガラス基板の変形を抑制でき、成型性に優れ、製造設備への負担が低いことに加えて、結晶成長速度が低く、生産性および品質が更に優れるガラスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の無アルカリガラスを説明する。
以下において、ガラスの各成分の組成範囲は、酸化物基準のモル%で表示する。
但し、式(A)~式(E)における各成分は、SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、SrO、BaOの7成分の総量を100モル%として算出した各成分のモル%とする。
以下において、「数値A~数値B」で示された数値範囲は、数値Aおよび数値Bをそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示し、数値A以上、数値B以下を意味する。
【0050】
SiO2の含有量が50モル%(以下、単に、%という)未満では、歪点が充分に上がらず、かつ、平均熱膨張係数が増大し、比重が上昇する傾向がある。そのため、SiO2の含有量は50%以上であり、好ましくは55%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは63%以上、より好ましくは64%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは66%以上、特に好ましくは66.5%以上、最も好ましくは67%以上である。
SiO2の含有量が80%超では、ガラスの溶解性が低下し、ヤング率が低下し、失透温度が上昇する傾向がある。そのため、SiO2の含有量は80%以下であり、好ましくは75%以下、より好ましくは74%以下、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは72%以下、特に好ましくは71.5%以下、最も好ましくは71%以下である。
【0051】
Al23は、ヤング率を上げてたわみを抑制し、かつガラスの分相性を抑制し、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げる。Al23の含有量が8%未満では、これらの効果があらわれにくく、また、平均熱膨張係数を増大させる他成分が相対的に増加することになるため、結果的に平均熱膨張係数が大きくなる傾向がある。そのため、Al23の含有量は8%以上であり、8.5%以上が好ましく、好ましくは9%以上、より好ましくは9.5%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは10.2%以上、さらに好ましくは10.4%以上、さらに好ましくは10.6%以上、特に好ましくは10.8%以上、特に好ましくは11%以上、特に好ましくは11.2%以上、最も好ましくは11.4%以上である。
Al23の含有量が20%超ではガラスの溶解性が悪くなる、歪点を上昇させる、失透温度を上昇させるおそれがある。そのため、Al23の含有量は20%以下であり、好ましくは18%以下、好ましくは17%以下、好ましくは16.5%以下、より好ましくは16%以下、より好ましくは15.5%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは14.7%以下、特に好ましくは14.5%以下最も好ましくは14.3%以下である。
【0052】
23は、耐BHF性を改善し、かつガラスの溶解反応性をよくし、失透温度を低下させるため、5%以下含有できる。B23の含有量は、好ましくは4%以下、好ましくは3.5%以下、好ましくは3%以下、好ましくは2.8%以下、より好ましくは2.6%以下、さらに好ましくは2.5%以下、特に好ましくは2.4%以下、最も好ましくは2.3%以下である。なお、上記の作用効果を奏するには、B23の含有量は0.5%超が好ましく、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1.2%以上、特に好ましくは1.5%以上、最も好ましくは1.7%以上である。
【0053】
MgOは、比重を上げずにヤング率を上げるため、比弾性率を高くすることでたわみの問題を軽減でき、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げるため含有できる。また、MgOは溶解性も向上させる。MgOの含有量が0.1%未満では、これらの効果が現れにくく、また、熱膨張係数が低くなりすぎるおそれがある。そのため、MgOの含有量は0.1%以上が好ましい。MgOの含有量は4%以上がより好ましく、5%以上がより好ましく、5.5%以上がより好ましく、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは6.2%以上、最も好ましくは6.5%以上である。
しかし、MgO含有量が多すぎると、失透温度が上昇しやすくなる。そのため、MgOの含有量は15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13%以下がより好ましく、12%以下がより好ましく、11.5%以下がより好ましく、11%以下がより好ましく、さらに好ましくは10.5%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは9.5%以下である。
【0054】
CaOは、アルカリ土類金属中ではMgOに次いで比弾性率を高くし、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させる。さらに、MgOと比べて失透温度を高くしにくいという特徴も有するため含有できる。CaOの含有量が0.1%未満では、これらの効果が現れにくくなる。そのため、CaOの含有量は0.1%以上が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは3%以上であり、より好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは4.5%以上、特に好ましくは5%以上、特に好ましくは5.5%以上、特に好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上である。
CaOの含有量が12%超では平均熱膨張係数が高くなりすぎ、また失透温度が高くなってガラスの製造時に失透が問題となりやすくなる。そのため、CaOの含有量は12%以下が好ましく、より好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、特に好ましくは8.5%以下、最も好ましくは8%以下である。
【0055】
SrOは、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させるため含有できる。SrOの含有量は0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、特に好ましくは1.2%以上、最も好ましくは1.3%以上である。
SrOは上記効果がBaOよりも低く、SrOを多くしすぎるとむしろ比重が大きくなり、平均熱膨張係数も高くなりすぎる。そのため、SrOの含有量は8%以下が好ましく、より好ましくは6%以下であり、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0056】
BaOは、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させるため含有できる。BaOの含有量は0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上であり、特に好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1%以上である。
BaOは多く含有すると比重が大きくなり、ヤング率が下がり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、本発明の無アルカリガラスは、BaOの含有量は6%以下が好ましく、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは4.5%以下、最も好ましくは4%以下である。
【0057】
また、MgOおよびCaOの配合割合である[MgO]/[CaO]が大きいと、比弾性率が高くなる。ガラスの比弾性率(ヤング率/密度)を高くすることにより、大板化・薄板化したガラス基板がデバイス製造ラインにおいて撓んで不具合が生じることを抑制できる。そのため、[MgO]/[CaO]は1.5超とする。[MgO]/[CaO]は1.8以上が好ましく、2以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましい。
[MgO]/[CaO]は、20以下が好ましく、15以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。
なお、式における[金属酸化物]との記載、例えば[MgO]などは、金属酸化物成分のモル%を表す。
【0058】
本発明の無アルカリガラスは、Li2O、Na2O、K2O等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。本発明において、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。但し、特定の作用効果(歪点を下げる、Tgを下げる、徐冷点を下げるなど)を得る目的でアルカリ金属酸化物を所定量となるように含有させてもよい。具体的には、Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選択される少なくとも1つを、酸化物基準のモル%表示で合計0.2%以下含有してもよい。より好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.03%以下である。Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選択される少なくとも1つを、酸化物基準のモル%表示で合計0.001%以上含有してもよい。
【0059】
無アルカリガラス板をディスプレイ製造に用いたときに、ガラス板表面に設ける金属または酸化物等の薄膜の特性劣化を生じさせないために、本発明の無アルカリガラスはP25を実質的に含有しないことが好ましい。本発明において、P25を実質的に含有しないとは、例えば1%以下であり、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。さらに、ガラスのリサイクルを容易にするため、および環境負荷の観点から、本発明の無アルカリガラスはPbO、As23、Sb23を実質的に含有しないことが好ましい。本発明において、PbO、As23、Sb23を実質的に含有しないとは、PbO、As23、Sb23の含有量がそれぞれ、例えば0.01%以下であり、好ましくは0.005%以下である。
【0060】
一方、ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善するため、As23およびSb23のうちの1種以上を総量で1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.1%以下含有してもよい。
【0061】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善するため、本発明の無アルカリガラスには、ZrO2、ZnO、Fe23、SO3、F、Cl、およびSnO2のうちの1種以上を総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下で含有してもよい。
これらの中で、ガラスの溶解性、清澄性を改善するためFを含有させる場合、Fの含有量は1.5%以下(0.43質量%以下)が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下である。なお、Fの含有量は、ガラス原料における投入量ではなく、溶融ガラス中に残存する量である。この点については、後述するClの含有量についても同様である。
これらの中で、ガラスの溶解性、清澄性を改善するためSnO2を含有させる場合、SnO2の含有量は0.5%以下(1.1質量%以下)が好ましい。
ZrO2は、ガラス溶融温度を低下させる、ヤング率を上げる、耐薬品性を向上させるために、0.001%以上(0.001質量%以上)含有させてもよい。
但し、ZrO2含有量が多すぎると、失透温度を高くする、誘電率εが高くなる、ガラスが不均一になるおそれがある。また、半導体デバイスに適用した場合、α線による故障を生じさせるおそれがある。ZrO2の含有量は0.09%以下(0.09質量%以下)が好ましく、より好ましくは0.08%以下(0.08質量%以下)、さらに好ましくは0.07%以下(0.07質量%以下)、さらに好ましくは0.06%以下(0.06質量%以下)、さらに好ましくは0.05%以下(0.05質量%以下)、さらに好ましくは0.04%以下(0.04質量%以下)、特に好ましくは0.03%以下(0.03質量%以下)、実質的に含有しないことが最も好ましい。ZrO2を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0062】
ガラスの溶解性を向上させるためにFe23を0.001%以上、0.05%以下で含有してもよい。ガラスの鉄量を低くすると、溶解工程においてFe2+による赤外線吸収量が低下し、結果的にガラスの熱伝導率が増加する。それにより、例えばガラス溶解炉でバーナー炎などの熱線でガラスを加熱して溶解した際、溶融ガラスの温度分布が小さくなり、溶融ガラスの対流速度が低下し、ガラス製品の泡品質や均質性が悪化するおそれがある。なお、清澄性や均質性は溶融ガラスの十分な対流に依存する。
ガラスの鉄量が多くなると、鉄はガラス中でFe2+もしくはFe3+として存在し、ガラスの透過率が低下するおそれがある。特にFe3+は波長300nm以下の範囲に吸収を持つため、ガラスの紫外線透過率が低くなるおそれがある。板厚0.5mmで波長300nmにおける透過率が20%以上のガラスとするためには、Fe含有量(Fe23換算)は、0.05%以下が好ましく、0.04%以下がより好ましく、0.03%以下がさらに好ましく、0.02%以下がさらに好ましく、0.01%以下がさらに好ましく、0.008%以下がさらに好ましく、0.006%以下がさらに好ましく、0.004%以下がさらに好ましく、0.002%以下が特に好ましい。
一方、ガラスの溶解性を向上させたい場合には、Fe含有量(Fe23換算)は、0.001%以上が好ましく、0.002%以上がより好ましく、0.005%以上がさらに好ましく、0.008%以上がさらに好ましく、0.01%以上がさらに好ましく、0.02%以上がさらに好ましく、0.03%以上がさらに好ましく、0.04%以上が特に好ましい。
【0063】
ガラスの清澄性を向上させるために、Clを0.1~1.0%含有してもよい。Cl含有量が0.1%未満だと、ガラス原料の溶解時における清澄作用が低下するおそれがある。Cl含有量は、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.25%以上、特に好ましくは0.3%以上である。
Cl含有量が1.0%超だと、ガラス製造時に泡層の肥大化を抑制する作用が低下するおそれがある。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下である。
【0064】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善するため、特定の波長における吸収を得る、密度、硬度、曲げ剛性、耐久性等を改善するため、本発明の無アルカリガラスには、Se23、TeO2、Ga23、In23、GeO2、CdO、BeOおよびBi23のうちの1種以上を総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下で含有してもよい。GeO2含有量は、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.03%以下、最も好ましくは0.01%以下、実質的に含有しないことが最も好ましい。GeO2を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0065】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善する、ガラスの硬度、例えばヤング率などを改善するため、本発明の無アルカリガラスは、希土類酸化物、遷移金属酸化物を含んでもよい。
【0066】
本発明の無アルカリガラスは、希土類酸化物として、Sc23、Y23、La23、Ce23、CeO2、Pr23、Nd23、Pm23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23およびLu23のうちの1種以上を総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下で含有してもよい。La23含有量は、好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.1%以下、最も好ましくは0.05%以下、実質的に含有しないことが最も好ましい。La23を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0067】
本発明の無アルカリガラスは、遷移金属酸化物として、V25、Ta23、Nb25、WO3、MoO3およびHfO2のうちの1種以上を総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下で含有してもよい。
【0068】
ガラスの溶解性等を改善するため、本発明の無アルカリガラスは、アクチノイド酸化物である、ThO2を2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%以下、最も好ましくは0.005%以下で含有してもよい。
【0069】
本発明の無アルカリガラスは、β-OH値(mm-1)が0.01mm-1以上、0.5mm-1以下が好ましい。
β-OH値は、ガラス中の水分含有量の指標であり、ガラス試料について波長2.75~2.95μmの光に対する吸光度を測定し、吸光度の最大値βmaxを該試料の厚さ(mm)で割ることで求める。β-OH値が0.5mm-1以下であると、後述する600℃80min保持前後のコンパクションを達成しやすい。β-OH値は0.45mm-1以下がより好ましく、より好ましくは0.4mm-1以下であり、より好ましくは0.35mm-1以下であり、さらに好ましくは0.3mm-1以下、さらに好ましくは0.28mm-1以下、さらに好ましくは0.25mm-1以下、さらに好ましくは0.23mm-1以下、さらに好ましくは0.2mm-1以下、さらに好ましくは0.15mm-1以下、さらに好ましくは0.1mm-1以下、特に好ましくは0.08mm-1以下、最も好ましくは0.06mm-1以下である。一方、β-OH値が0.01mm-1以上であると、後述するガラスの歪点を達成しやすい。そのような場合、β-OH値は0.05mm-1以上がより好ましく、より好ましくは0.08mm-1以上、より好ましくは0.1mm-1以上であり、さらに好ましくは0.13mm-1以上、特に好ましくは0.15mm-1以上、最も好ましくは0.18mm-1以上である。
【0070】
本発明の無アルカリガラスは、下記式(A)で表される値が82.5以上が好ましい。
1.131[SiO2]+1.933[Al23]+0.362[B23]+2.049[MgO]+1.751[CaO]+1.471[SrO]+1.039[BaO]-48.25・・・式(A)
式(A)で表される値は、本発明の無アルカリガラスにおけるヤング率の指標であり、この値が82.5未満であるとヤング率が低くなりやすい。本発明の無アルカリガラスにおいてヤング率を高くするには、式(A)で表される値は83以上が好ましく、83.5以上がより好ましく、84以上がさらに好ましく、84.5以上が特に好ましく、85以上が最も好ましい。
【0071】
本発明の無アルカリガラスは、下記式(B)で表される値が690以上、800以下が好ましい。
35.59[SiO2]+37.34[Al23]+24.59[B23]+31.13[MgO]+31.26[CaO]+30.78[SrO]+31.98[BaO]-2761・・・式(B)
式(B)で表される値は、本発明の無アルカリガラスにおける歪点の指標であり、この値が800超であると歪点が高くなりやすい。式(B)で表される値が800以下であれば、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスの成形に用いるロールの表面温度を低くすることができ、設備の寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。本発明の無アルカリガラスにおいて歪点を低くするには、式(B)で表される値が760以下がより好ましく、750以下がさらに好ましく、745以下が特に好ましく、740以下が最も好ましい。
この値が690未満であると、コンパクションが大きくなり過ぎる恐れがあるため、690以上である。式(B)で表される値が695以上が好ましく、700以上がより好ましく、710以上がさらに好ましく、715以上が特に好ましく、720以上がさらに好ましく、725以上がさらに好ましく、730以上が最も好ましい。
【0072】
本発明の無アルカリガラスは、下記式(C)で表される値が100以下であることが好ましい。
-9.01[SiO2]+36.36[Al23]+5.7[B23]+5.13[MgO]+17.25[CaO]+7.65[SrO]+10.58[BaO]・・・式(C)
式(C)で表される値は、本発明の無アルカリガラスにおける結晶成長速度の指標であり、この値が100以下であると結晶成長速度が低くなる。本発明の無アルカリガラスにおいて溶融ガラスの流路における結晶成長速度を低くするには、式(C)で表される値が95以下がより好ましく、90以下がさらに好ましく、85以下がさらに好ましく、80以下が特に好ましく、75以下が最も好ましい。
なお、本願発明者らは、結晶成長速度と失透温度とは相関性が無いことを見出しており、結晶成長速度は失透温度とは独立した特性である。失透温度が低いガラスであっても、結晶成長速度が速いと、高い生産性で品質に優れる無アルカリガラスを得ることが難しくなる。
【0073】
表面洗浄や薄板化のため、例えばフッ酸(HF)を含有するエッチング液でガラス板をエッチング処理(以下、『エッチング処理』という。)する場合がある。そのため、ガラス板はエッチング処理時の加工性が良好であることが求められる。すなわち、エッチング処理速度が現実的な範囲であり、かつ、エッチング処理時のスラッジ量が少ないこと、エッチング処理時に生じたスラッジがゲル化し難いことが求められる。
本発明の無アルカリガラスは、下記式(D)で表される値が20以下であることが好ましい。
{-0.731[SiO2]+1.461[Al23]-0.157[B23]+1.904[MgO]+3.36[CaO]+3.411[SrO]+1.723[BaO]+(-3.318[MgO][CaO]-1.675[MgO][SrO]+1.757[MgO][BaO]+4.72[CaO][SrO]+2.094[CaO][BaO]+1.086[SrO][BaO])}/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])・・・式(D)
式(D)で表される値は、本発明の無アルカリガラスにおけるエッチング処理時のスラッジ体積の指標であり、この値が20以下であると、例えばフッ酸エッチング処理時のスラッジ体積が少ない。そのため、エッチング処理時に発生したスラッジがガラス表面に再付着することが抑制され、表面を均一に処理することができ、表面粗さ、表面平坦性に優れたガラス製品を得ることができる。また、表面清浄性に優れたガラス製品を提供できる。式(D)で表される値が、18以下がより好ましく、16以下がさらに好ましく、15以下がさらに好ましく、14以下がさらに好ましく、13.5以下がさらに好ましく、12以下がさらに好ましく、11以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましく、9以下が最も好ましい。
【0074】
ガラス板表面の洗浄目的や、ガラス板の薄板化目的で、ガラス板に対しエッチング処理する場合がある。ガラスは、エッチング処理時において、適度なエッチングレートを示すことが求められる。
本発明の無アルカリガラスは、下記式(E)で表される値が1.50~5.50であることが好ましい。
4.379[SiO2]+5.043[Al23]+4.805[B23]+4.828[MgO]+4.968[CaO]+5.051[SrO]+5.159[BaO]-453・・・式(E)
式(E)で表される値は本発明の無アルカリガラスにおけるエッチング処理速度の指標であり、この値が1.50以上であるとエッチング処理速度が現実的な範囲となる。但し、エッチング処理速度が速すぎると、エッチング処理の制御が困難になり、ガラス板の表面粗さの悪化等の問題が生じるおそれがある。この値が5.50以下であれば、このような問題が生じるおそれがない。式(E)で表される値が、1.90以上がより好ましく、2.00以上がより好ましく、2.50以上がさらに好ましく、3.00以上がさらに好ましく、3.20以上がさらに好ましく、3.50以上がさらに好ましく、4.00以上が特に好ましく、4.30以上が最も好ましい。式(E)で表される値は、5.00以下がより好ましく、4.80以下がより好ましく、4.60以下がさらに好ましい。
【0075】
本発明の無アルカリガラスは、ヤング率が83GPa以上である。ヤング率が上記範囲であれば、外部応力に対する基板の変形が抑制される。例えば、ガラス基板の表面に成膜したときに基板が反ることを抑制できる。具体的な例としては、フラットパネルディスプレイのTFT側基板の製造において、基板の表面に銅などのゲート金属膜や、窒化ケイ素などのゲート絶縁膜を形成したときの基板の反りが抑制される。また、例えば基板のサイズが大型化したときのたわみも抑制される。また、サイズが大型化した基板を取扱うとき、基板が破損することを抑制できる。ヤング率はより好ましくは83.5GPa以上、より好ましくは84GPa以上、さらに好ましくは84.5GPa以上、特に好ましくは85GPa以上、最も好ましくは85GPa超である。本発明の無アルカリガラスにおいて、ヤング率は超音波法により測定できる。ヤング率は、115GPa以下が好ましい。
【0076】
本発明の無アルカリガラスは、歪点が690℃以上が好ましい。歪点が690℃未満であると、ディスプレイの薄膜形成工程でガラス板が高温にさらされる際に、ガラス板の変形およびガラスの構造安定化に伴う収縮(コンパクション)が起こりやすくなる。歪点は好ましくは700℃以上であり、より好ましくは710℃以上、さらに好ましくは720℃以上、特に好ましくは725℃以上、最も好ましくは730℃以上である。一方、歪点が高すぎると、それに応じて徐冷装置の温度を高くする必要があり、徐冷装置の寿命が低下する傾向があるため、800℃以下が好ましい。また、歪点が低い方がガラスの成形性に優れる。歪点は好ましくは780℃以下であり、より好ましくは760℃以下であり、さらに好ましくは750℃以下であり、特に好ましくは745℃以下、最も好ましくは740℃以下である。
【0077】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1400℃以下が好ましい。これにより、ガラスの成形性に優れる。また、例えば、ガラス成形時の温度を低くすることでガラス周辺の雰囲気中の揮散物を低減でき、それによりガラスの欠点を低減できる。低い温度でガラスを成形できるので、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスなどの設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。T4は1350℃以下が好ましく、1340℃以下がより好ましく、1330℃以下がより好ましく、1320℃以下がさらに好ましく、1310℃以下がさらに好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1295℃以下がさらに好ましく、1290℃以下が特に好ましく、1285℃以下が最も好ましい。
4はASTM C 965-96(2017年)に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、104dPa・sとなるときの温度として求めることができる。なお、後述する実施例では、装置校正用の参照試料としてNBS710およびNIST717aを使用した。
【0078】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1800℃以下が好ましい。T2が1800℃以下であることにより、ガラスの溶解性に優れ、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを溶解する窯など設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。また、窯由来の欠陥(例えば、ブツ欠陥、Zr欠陥など)を低減できる。T2は1770℃以下がより好ましく、1750℃以下がより好ましく、1740℃以下がさらに好ましく、1730℃以下がさらに好ましく、1720℃以下がさらに好ましく、1710℃以下がさらに好ましく、1700℃以下がさらに好ましく、1690℃以下が特に好ましく、1680℃以下が最も好ましい。
【0079】
本発明の無アルカリガラスは、内部失透温度が1320℃以下が好ましい。これにより、ガラスの成形性に優れる。成形中にガラス内部に結晶が生じて、透過率が低下するのを抑制できる。また、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスやフュージョンなどの設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。
内部失透温度は、1310℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1280℃以下がさらに好ましく、1260℃以下が特に好ましく、1240℃未満が最も好ましい。
本発明における内部失透温度は、下記のように求めることができる。すなわち、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後に光学顕微鏡を用いて、ガラスの内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察し、その平均値を内部失透温度とする。
【0080】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス内部失透粘度ηdが104.4dPa・s以上が好ましい。これにより、フュージョン法またはフロート法による成形の際に失透による異物欠点が発生しにくくなる。より好ましくは104.5dPa・s以上、さらに好ましくは104.6dPa・s以上、特に好ましくは104.7dPa・s以上、最も好ましくは104.8dPa・s以上である。
本発明における内部失透粘度ηdは、下記のように求めることができる。すなわち、前述の方法により、ガラス内部失透温度を求め、ガラス内部失透温度におけるガラスの粘度ηを測定して、ガラス内部失透粘度(ηd)を求める。
【0081】
本発明の無アルカリガラスは、表面失透温度が1370℃以下が好ましい。これにより、ガラスの成形性に優れる。成形中にガラス内部に結晶が生じて、透過率が低下するのを抑制できる。また、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスやフュージョンなどの設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。
表面失透温度は、1360℃以下がより好ましく、1350℃以下がさらに好ましく、1340℃以下がさらに好ましく、1330℃以下がさらに好ましく、1320℃以下がさらに好ましく、1310℃以下がさらに好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1290℃以下がさらに好ましく、1280℃以下が特に好ましく、1270℃以下が最も好ましい。
本発明における表面失透温度は、下記のように求めることができる。すなわち、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後に光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察し、その平均値を表面失透温度とする。
【0082】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス表面失透粘度ηcが104.2dPa・s以上である。これにより、フュージョン法またはフロート法による成形の際に失透による異物欠点が発生しにくくなる。好ましくは104.3dPa・s以上、より好ましくは104.4dPa・s以上、さらに好ましくは104.5dPa・s以上、特に好ましくは104.6dPa・s以上である。
本発明におけるガラス表面失透粘度ηcは、下記のように求めることができる。すなわち、前述の方法により、ガラス表面失透温度を求め、ガラス表面失透温度におけるガラスの粘度ηcを測定して、ガラス表面失透粘度(ηc)を求める。
【0083】
本発明の無アルカリガラスは、結晶成長速度が100μm/hr以下が好ましい。これにより、溶融ガラスの流路における結晶析出により製造設備の寿命が短くなること防止できる。また、析出した結晶が製造されるガラスに混入して異物欠点となるおそれが低くなる。なお、ガラスに混入する異物欠点は、極微小なサイズであっても、例えばサイズが大型化した基板、例えば、一辺が2400mm以上の基板を取扱うとき、基板が破損する起点となるおそれがあるため、結晶成長速度を低くすることは重要である。
本発明における結晶成長速度は、下記のように求めることができる。すなわち、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、表面失透温度付近に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、ガラスの表面に微小な結晶初晶を析出させた初晶サンプルを複数作製する。作製した初晶サンプルをガラス粘度が104~106dPa・sとなる温度範囲で、20℃間隔で1~4時間保持し、各保持温度において結晶を成長させる。各保持温度で保持する前と後の結晶粒において最も長い部分を測長し、各保持温度で保持する前と後の結晶サイズの差分を求め、結晶サイズの差分を保持時間で割り、各保持温度における結晶成長速度を求める。本発明において、ガラス粘度が104dPa・s~106dPa・sとなる温度範囲における成長速度の最大値を結晶成長速度とする。
結晶成長速度は、80μm/hr以下がより好ましく、65μm/hr以下がさらに好ましく、50μm/hr以下が特に好ましく、40μm/hr以下が最も好ましい。
【0084】
本発明の無アルカリガラスは、密度が2.8g/cm3以下が好ましい。これにより、自重たわみが小さくなり、大型基板の取り扱いが容易になる。また、ガラスを用いたデバイスの重量を軽量化できる。密度は2.7g/cm3以下がより好ましく、2.68g/cm3以下がより好ましく、2.65g/cm3以下がより好ましく、2.63g/cm3以下がさらに好ましく、2.6g/cm3未満が特に好ましい。なお、大型基板とは、例えば、少なくとも一辺が2400mm以上の基板である。
【0085】
本発明の無アルカリガラスは、ガラスの比弾性率(ヤング率/密度)が31以上が好ましい。ガラスの比弾性率(ヤング率/密度)を高くすることにより、大板化・薄板化したガラス基板がデバイス製造ラインにおいて撓んで不具合が生じることを抑制できる。ガラスの比弾性率(ヤング率/密度)は、31.5以上が好ましく、32以上がより好ましく、32.2以上がさらに好ましく、32.4以上がさらに好ましく、32.6以上がさらに好ましく、32.8以上が特に好ましく、33以上が最も好ましい。
【0086】
本発明の無アルカリガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃以上が好ましい。50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃未満の場合、例えば、フラットパネルディスプレイのTFT側基板の製造においては、無アルカリガラス上に銅などのゲート金属膜、窒化ケイ素などのゲート絶縁膜が順に積層されることがあるが、基板表面に形成される銅などのゲート金属膜との熱膨張差が大きくなり、基板が反る、膜剥がれが生じる等の問題が生じるおそれがある。
50~350℃での平均熱膨張係数は33×10-7/℃以上が好ましく、35×10-7/℃以上がより好ましく、36×10-7/℃以上がさらに好ましく、特に好ましくは37×10-7/℃以上、最も好ましくは38×10-7/℃以上である。
一方、50~350℃での平均熱膨張係数が45×10-7/℃超だと、ディスプレイなどの製品製造工程でガラスが割れるおそれがある。そのため、45×10-7/℃以下が好ましい。
50~350℃での平均熱膨張係数は43×10-7/℃以下が好ましく、42×10-7/℃以下がより好ましく、41.5×10-7/℃以下がより好ましく、41×10-7/℃以下がさらに好ましく、40.5×10-7/℃以下が特に好ましく、40.3×10-7/℃以下が最も好ましい。
【0087】
本発明の無アルカリガラスは、600℃で80min保持前後のコンパクションが150ppm以下が好ましい。コンパクションとは、加熱処理の際にガラス構造の緩和によって発生するガラス熱収縮率である。コンパクションが上記範囲であれば、各種ディスプレイを製造する過程で実施される薄膜形成工程で、高温にさらされた際に、ガラスの変形およびガラスの構造安定化に伴う寸法変化を最小限に抑制することができる。
なお、コンパクションは次の手順で測定できる。ガラス板試料(酸化セリウムで鏡面研磨した長さ100mm×幅10mm×厚さ1mmの試料)をガラス転移点+120℃の温度で5分間保持した後、毎分40℃で室温まで冷却する。ここで試料の全長(長さ方向)L1を計測する。その後、毎時100℃で600℃まで加熱し、600℃で80分間保持し、毎時100℃で室温まで冷却し、再度試料の全長L2を計測する。600℃での熱処理前後での全長の差(L1-L2)と、600℃での熱処理前の試料全長L1と、の比(L1-L2)/L1をコンパクションの値とする。上記評価方法において、コンパクションはより好ましくは100ppm以下、より好ましくは90ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、特に好ましくは70ppm以下、最も好ましくは65ppm以下である。コンパクションの絶対値は0ppmに近いことが好ましい。コンパクションの絶対値が小さいほど、ガラス熱収縮が生じないので好ましい。
【0088】
本発明の無アルカリガラスは、コンパクションを低減させるため、例えば、等価冷却速度を800℃/min以下とすることが好ましい。ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。10mm×10mm×1mmの直方体に加工したガラスを、赤外線加熱式電気炉を用い、ガラス転移点+120℃にて5分間保持し、その後、ガラスを室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度を1℃/minから1000℃/minの範囲で変更した複数のガラスサンプルを作製する。島津デバイス社製の精密屈折計KPR-2000を用いて、これらのサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率ndを、Vブロック法により測定する。得られたndを、前記冷却速度の対数に対してプロッ卜することにより、前記冷却速度に対するndの検量線を得る。次に、実際に例えば電気炉で溶解して、成形、冷却したガラスのndを、上記測定方法により測定する。得られたndに対応する対応冷却速度(本発明において等価冷却速度という)を、前記検量線より求めることができる。
等価冷却速度は、5℃/min以上、800℃/min以下がコンパクションと、生産性のバランスの観点から好ましい。生産性の観点から、等価冷却速度は、10℃/min以上がより好ましく、15℃/min以上がさらに好ましく、20℃/min以上が特に好ましく、25℃/min以上が最も好ましい。コンパクションの観点から、等価冷却速度は、500℃/min以下がより好ましく、300℃/min以下がより好ましく、200℃/min以下がさらに好ましく、150℃/min以下が特に好ましく、100℃/min以下が最も好ましい。
【0089】
本発明の無アルカリガラスは、エッチング処理時のスラッジ体積が30ml以下が好ましい。エッチング処理時のスラッジ体積が上記範囲であると、エッチング処理時に発生したスラッジがガラス表面に再付着することが抑制され、表面を均一に処理することができ、表面粗さ、表面平坦性に優れたガラス製品を得ることができる。また、表面清浄性に優れたガラス製品を提供できる。スラッジ体積は、20ml以下がより好ましく、15ml以下がより好ましく、12ml以下がさらに好ましく、10ml以下が特に好ましく、8ml以下が最も好ましい。
本発明におけるエッチング処理時のスラッジ体積は、下記のように求めることができる。
20mm×30mmに切断した0.5mmtの無アルカリガラス基板1を洗浄後、乾燥した後に質量を測定する。フッ酸5質量%、塩酸2質量%となるように調整した水溶液(薬液)をテフロン(登録商標)製の容器に入れ、恒温槽を用いて薬液を40℃に保持し、無アルカリガラス基板1全体を薬液中に浸漬し、無アルカリガラス基板1を完全に溶解させる。エッチングによるフッ酸の消費量を補うため、上記薬液に50質量%フッ酸を1.8ml添加し、サイズが20mm×30mm×0.5mmtの新しい無アルカリガラス基板2を薬液に浸漬し、新しい無アルカリガラス基板2も完全に溶解させる。さらに上記薬液に50質量%フッ酸を1.8ml添加し、同様の手順でサイズが20mm×30mm×0.5mmtの新しい無アルカリガラス基板3を薬液に完全に溶解させる。無アルカリガラス基板を溶解した薬液をマグネットスターラーで撹拌したまま一昼夜(24時間)保持し、薬液中に不溶物であるスラッジを生成させる。なお、薬液の蒸発を防ぐため、試験中はテフロン(登録商標)製のフタをする。その後、テフロン(登録商標)容器内の薬液とスラッジをメスシリンダーに移し、24時間おいてスラッジを沈降させた後、スラッジの体積をメスシリンダーの目盛りで計測し、これをスラッジ体積とする。
【0090】
本発明の無アルカリガラスは、エッチング処理時のエッチングレートが5.5μm/min以下が好ましい。エッチング処理速度が速すぎると、エッチング処理の制御が困難になり、ガラス板の表面粗さの悪化等の問題が生じるおそれがある。エッチングレートは、5.0μm/min以下がより好ましく、4.5μm/min以下がさらに好ましく、4.2μm/min以下が特に好ましく、4.0μm/min以下が最も好ましい。
エッチング処理時のエッチングレートは2.40μm/min以上が好ましい。エッチング処理時のエッチングレートが上記範囲であると、エッチング処理速度が現実的な範囲となる。エッチング処理時のエッチングレートは、2.50μm/min以上がより好ましく、2.70μm/min以上がさらに好ましく、2.90μm/min以上が特に好ましく、3.00μm/min以上が最も好ましい。
本発明におけるエッチング処理時のエッチングレートは、下記のように求めることができる。
20mm×30mmに切断した0.5mmtの無アルカリガラス基板を洗浄後、乾燥した後に質量を測定する。フッ酸5質量%、塩酸2質量%となるように調整した水溶液(薬液)をテフロン(登録商標)製の容器に入れ、恒温槽を用いて薬液を40℃に保持し、無アルカリガラス基板全体を薬液中に20分間浸漬する。浸漬後の無アルカリガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後に質量を測定する。サンプル寸法から表面積を算出し、質量減少量を密度で割った値を表面積で割り、さらに浸漬時間で割ることで、単位時間当たりのエッチングレートを算出する。
【0091】
本発明の無アルカリガラスは、徐冷点が850℃以下が好ましい。徐冷点が850℃以下であれば、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスの成形に用いるロールの表面温度を低くすることができ、設備の寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。徐冷点は820℃以下がより好ましく、810℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましく、790℃以下が特に好ましく、780℃以下が最も好ましい。徐冷点は700℃以上が好ましい。
【0092】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス転移点が850℃以下が好ましい。ガラス転移点が850℃以下であれば、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスの成形に用いるロールの表面温度を低くすることができ、設備の寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。ガラス転移点は820℃以下がより好ましく、810℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましく、790℃以下が特に好ましく、780℃以下が最も好ましい。ガラス転移点は690℃以上がより好ましい。
【0093】
本発明の無アルカリガラスは、光弾性定数が31nm/MPa/cm以下が好ましい。
液晶ディスプレイパネル製造工程や液晶ディスプレイ装置使用時に発生した応力により、ガラス基板が複屈折性を有し、黒の表示がグレーになり、液晶ディスプレイのコントラストが低下することがある。光弾性定数が31nm/MPa/cm以下であれば、この現象を抑制できる。光弾性定数はより好ましくは30nm/MPa/cm以下、さらに好ましくは29nm/MPa/cm以下、さらに好ましくは28.5nm/MPa/cm以下、特に好ましくは28nm/MPa/cm以下である。
他の物性確保の容易性を考慮すると、光弾性定数が23nm/MPa/cm以上が好ましく、より好ましくは25nm/MPa/cm以上である。なお、光弾性定数は円盤圧縮法により測定波長546nmにて測定できる。
【0094】
本発明の無アルカリガラスは、好ましくはヤング率が82.5GPa以上と高く、外部応力に対する基板の変形が抑制され、結晶成長速度は低く、基板が破損する起点となる異物がガラスに混入することが抑制されているため、大型基板として使用するガラス板に好適である。大型基板とは、例えば少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、具体的な例としては、長辺2400mm以上、短辺2000mm以上のガラス板である。
本発明の無アルカリガラスは、少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、例えば、長辺2400mm以上、短辺2100mm以上のガラス板により好ましく、少なくとも一辺が3000mm以上のガラス板、例えば、長辺3000mm以上、短辺2800mm以上のガラス板にさらに好ましく、少なくとも一辺が3200mm以上のガラス板、例えば、長辺3200mm以上、短辺2900mm以上のガラス板に特に好ましく、少なくとも一辺が3300mm以上のガラス板、例えば、長辺3300mm以上、短辺2950mm以上のガラス板に最も好ましい。
本発明のガラス板は、厚みが1.0mm以下が軽量化が達成できるため好ましい。本発明の無アルカリガラスは、厚みが0.7mm以下がより好ましく、0.65mm以下がさらに好ましく、0.55mm以下がさらに好ましく、0.45mm以下がさらに好ましく、最も好ましくは0.4mm以下である。厚みを0.1mm以下、あるいは0.05mm以下とすることもできる。ただし、自重たわみを防ぐ観点からは、厚みは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0095】
本発明の無アルカリガラスを含むガラス板の製造は、例えば、以下の手順で実施できる。
上記各成分の原料をガラス組成中で目標含有量となるように調合し、これを溶解炉に投入し、1500~1800℃に加熱して溶解して溶融ガラスを得る。得られた溶融ガラスを成形装置にて、所定の板厚のガラスリボンに成形し、このガラスリボンを徐冷後、切断することによってガラス板が得られる。
本発明の無アルカリガラスは、コンパクションを低減させるための製造方法を取り入れることができる。具体的には、例えば、等価冷却速度が500℃/min以下が好ましい。ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。10mm×10mm×1mmの直方体に加工したガラスを、赤外線加熱式電気炉を用い、ガラス転移点+120℃にて5分間保持し、その後、ガラスを室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度を1℃/minから1000℃/minの範囲で変更した複数のガラスサンプルを作製する。島津デバイス社製の精密屈折計KPR-2000を用いて、これらのサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率ndを、Vブロック法により測定する。得られたndを、前記冷却速度の対数に対してプロッ卜することにより、前記冷却速度に対するndの検量線を得る。次に、実際に生産ラインにて溶解、成形、冷却等の工程を経て製造されたガラスのndを、上記測定方法により測定する。得られたndに対応する対応冷却速度(本発明において等価冷却速度という)を、前記検量線より求めることができる。
ガラスリボンの徐冷時の等価冷却速度は、5℃/min以上、500℃/min以下がコンパクションと、生産性のバランスの観点から好ましく、10℃/min以上、300℃/min以下がより好ましく、15℃/min以上、100℃/min以下がさらに好ましい。
【0096】
本発明においては、溶融ガラスをフロート法またはフュージョン法等にてガラス板に成形することが好ましい。
【0097】
次に、本発明のディスプレイパネルを説明する。
本発明のディスプレイパネルは、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。本発明の無アルカリガラスを有する限り、ディスプレイパネルは特に限定されず、液晶ディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイパネルなど、各種ディスプレイパネルであってよい。各種ディスプレイパネルにおいて、本発明の無アルカリガラスのガラス基板は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)を用いた駆動回路または走査回路などを有してもよい。
薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の場合を例にとると、その表面にゲート電極線およびゲート絶縁用酸化物層が形成され、さらに該酸化物層表面に画素電極が形成されたディスプレイ面電極基板(アレイ基板)と、その表面にRGBのカラーフィルタおよび対向電極が形成されたカラーフィルタ基板とを有し、互いに対をなす該アレイ基板と該カラーフィルタ基板との間に液晶材料が挟み込まれてセルが構成される。液晶ディスプレイパネルは、このようなセルに加えて、周辺回路等の他の要素を含む。本発明の液晶ディスプレイパネルは、セルを構成する1対の基板のうち、少なくとも一方に本発明の無アルカリガラスが使用されている。
【0098】
次に、本発明の半導体デバイスは、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。具体的には、例えば、MEMS、CMOS、CIS等のイメージセンサ用のガラス基板として、本発明の無アルカリガラスを有する。また、プロジェクション用途のディスプレイデバイス用のカバーガラス、例えばLCOS(Liquid Cristyal ON Silicon)のカバーガラスとして、本発明の無アルカリガラスを有する。
【0099】
次に、本発明の情報記録媒体は、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。具体的には、例えば、磁気記録媒体用、光ディスク用のガラス基板として本発明の無アルカリガラスを有する。磁気記録媒体としては、例えば、エネルギーアシスト方式の磁気記録媒体や垂直磁気記録方式の磁気記録媒体がある。
【0100】
次に、本発明の平面型アンテナは、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。具体的には、指向性及び受信感度の良好なアンテナとして、例えば液晶アンテナ、マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)のような平面形状を有する平面液晶アンテナ用のガラス基板として本発明の無アルカリガラスを有する。液晶アンテナについては、例えば、国際公開第2018/016398号に開示されている。パッチアンテナについては、例えば、日本国特表2017-509266号公報や、日本国特開2017-063255号公報に開示されている。
【0101】
本発明の無アルカリガラスは、平面型アンテナにおいて、例えば、アンテナ設置用基板や保護材となる。保護材は、紫外線、湿気(水蒸気)、水によるアンテナ機能の劣化や、機械的接触によるアンテナ機能の損傷、破壊を防止できる。
本発明の無アルカリガラスを有する平面型アンテナは、アルカリ成分による放射効率の低下を防止でき、ヤング率が高く損傷・破壊が防止できるため、高周波の周波数帯域の電波を送受信するアンテナにより好適である。
高周波の周波数帯域の電波とは、例えば、マイクロ波やミリ波等の高周波帯(例えば、0.3GHz~300GHz)の電波であり、第5世代移動通信システム(5G) 用の高周波数帯(例えば、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz)、28GHz帯(27.5~29.5GHz))を包含する3.6~29.5GHzの周波数帯)の電波を含む。
高周波の周波数帯域の電波を受信可能なアンテナについては、例えば、WO2019/026963号公報や、WO2019/107514号公報に開示されている。
【0102】
本発明の調光積層体は、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。調光積層体とは、例えば、電気的制御によって光の透過状態を制御する調光機能材料を備えた調光積層体(調光装置又は調光ガラスとも称される)である。調光積層体は、光の透過状態を制御することにより、利用者の視野を遮蔽したり開放したり赤外線の流入を制御することができるので、室内の間仕切り材、外窓等の建材、映像表示するスクリーン等に使用できる。調光積層体については、例えば、国際公開第2017/213191号や、日本国特開2017-90617号公報に開示されている。
【0103】
本発明の車両用窓ガラスは、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス板として有する。本発明の無アルカリガラスを有する車両用窓ガラスは、上述したように、高周波の周波数帯域の電波を安定して送受信でき、損傷・破壊もし難いため、自動運転の車両用窓ガラスに好適である。
【0104】
本発明の音響用振動板は、上述した本発明の無アルカリガラスをガラス基板として有する。本発明の無アルカリガラスは、ヤング率が高く音響用として好適である。音響用振動板については、例えば、WO2019/070007号公報、WO2018/181626号公報、日本国特開2019-68368号公報に開示されている。
【実施例
【0105】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下において、例1~5、例9~13は実施例であり、例6~8、例14~16は比較例である。
ガラス組成が例1~16に示す目標組成(単位:モル%)になるように、各成分の原料を調合し、白金坩堝を用いて1600℃で1時間溶解した。溶解後、溶融液をカーボン板上に流し出し、(ガラス転移点+30℃)の温度にて60分保持後、毎分1℃で室温(25℃)まで冷却して板状ガラスを得た。これを鏡面研磨し、ガラス板を得て、各種評価を行った。結果を表1,2に示す。なお、表1,2において、括弧内に示す値は計算値または推定値である。表1,2において、ROはアルカリ土類金属酸化物の合量を表す。
【0106】
以下に各物性の測定方法を示す。
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。測定温度範囲は室温~400℃以上とし、50~350℃における平均熱膨張係数を、単位を10-7/℃として表した。
(密度)
JIS Z 8807(2012年)に規定されている方法に従い、泡を含まない約20gのガラス塊を液中ひょう量法によって測定した。
【0107】
(歪点)
JIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い、繊維引き伸ばし法により測定した。
(徐冷点)
JIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い、繊維引き伸ばし法により測定した。
(ガラス転移点)
JIS R3103-3(2001年)に規定されている方法に従い、熱膨張法により測定した。
(ヤング率)
JIS R 1602(1995年)に規定されている方法に従い、厚さ1.0~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。
【0108】
(T2
ASTM C 965-96(2017年)に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、102dPa・sとなるときの温度T2(℃)を測定した。
(T4
ASTM C 965-96(2017年)に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、104dPa・sとなるときの温度T4(℃)を測定した。
【0109】
(表面失透温度Tc
ガラスを粉砕し、試験用篩を用いて粒径が2~4mmの範囲となるように分級した。得られたガラスカレットをイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行い、イオン交換水で洗浄した後、乾燥させ、白金製の皿に入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間の熱処理を行った。熱処理の温度は10℃間隔で設定した。
熱処理後、白金皿よりガラスを取り外し、光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察した。
ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度は、それぞれ1回測定した。なお、結晶析出の判断が難しい場合、2回測定することもある。
ガラス表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との測定値を用いて平均値を求め、ガラス表面失透温度(Tc)とした。
(表面失透粘度ηc
前述の方法により、ガラス表面失透温度(Tc)を求め、ガラス表面失透温度(Tc)におけるガラスの粘度を測定して、ガラス表面失透粘度(ηc)を求めた。
【0110】
(内部失透温度Td
ガラスを粉砕し、試験用篩を用いて粒径が2~4mmの範囲となるように分級した。得られたガラスカレットをイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行い、イオン交換水で洗浄した後、乾燥させ、白金製の皿に入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間の熱処理を行った。熱処理の温度は10℃間隔で設定した。
熱処理後、白金皿よりガラスを取り外し、光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察した。
ガラスの内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度は、それぞれ1回測定した。なお、結晶析出の判断が難しい場合、2回測定することもある。
ガラス内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との測定値を用いて平均値を求め、ガラス内部失透温度(Td)とした。
(内部失透粘度ηd
前述の方法により、ガラス内部失透温度(Td)を求め、ガラス内部失透温度(Td)におけるガラスの粘度を測定して、ガラス内部失透粘度(ηd)を求めた。
【0111】
(結晶成長速度)
白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、表面失透温度付近に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、ガラスの表面に微小な結晶初晶を析出させた初晶サンプルを複数作製する。作製した初晶サンプルをガラス粘度が104~106dPa・sとなる温度範囲で、20℃間隔で1~4時間保持し、各保持温度において結晶を成長させる。各保持温度で保持する前と後の結晶粒において最も長い部分を測長し、各保持温度で保持する前と後の結晶サイズの差分を求め、結晶サイズの差分を保持時間で割り、各保持温度における成長速度を求めた。ガラス粘度が104~106dPa・sとなる温度範囲における成長速度の最大値を結晶成長速度とした。
【0112】
(エッチングレート)
各成分の原料を、表1,2に示す目標組成になるように調合し、電気炉にて溶解、清澄を行い、無アルカリガラス母材を得た。無アルカリガラス母材を鏡面研磨し、20mm×30mmに切断して得た0.5mmtの無アルカリガラス基板1を洗浄後、乾燥した後に質量を測定した。
フッ酸5質量%、塩酸2質量%となるように調整した水溶液(薬液)をテフロン(登録商標)製の容器に入れ、恒温槽を用いて薬液を40℃に保持し、無アルカリガラス基板全体を薬液中に20分間浸漬した。浸漬後の無アルカリガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後に質量を測定した。
サンプル寸法から表面積を算出し、質量減少量を密度で割った値を表面積で割り、さらに浸漬時間で割ることで、単位時間当たりのエッチングレートを算出した。
(スラッジ体積)
エッチングレートの算出に用いた無アルカリガラス基板1を再度40℃の薬液に浸漬し、無アルカリガラス基板1を完全に溶解させた。エッチングによるフッ酸の消費量を補うため、上記薬液に50質量%フッ酸を1.8ml添加し、サイズが20mm×30mm×0.5mmtの新しい無アルカリガラス基板2を薬液に浸漬し、新しい無アルカリガラス基板2も完全に溶解させた。さらに上記薬液に50質量%フッ酸を1.8ml添加し、同様の手順でサイズが20mm×30mm×0.5mmtの新しい無アルカリガラス基板3を薬液に完全に溶解させた。無アルカリガラス基板3を溶解した後、薬液をマグネットスターラーで撹拌したまま一昼夜(24時間)保持し、薬液中に不溶物であるスラッジを生成させた。なお、薬液の蒸発を防ぐため、試験中はテフロン(登録商標)製のフタをした。その後、テフロン(登録商標)容器内の混合薬液とスラッジをメスシリンダーに移し、24時間おいてスラッジを沈降させた後、スラッジの体積をメスシリンダーの目盛りで計測し、これをスラッジ体積とした。
(比弾性率)
比弾性率は、上記手順で求まるヤング率を、密度で除して求める。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
式(A)の値が82.5以上の例1~5、例9~13はヤング率が83GPa以上であった。一方、式(A)の値が82.5未満の例6、例14はヤング率が83GPa未満であった。
式(B)の値が690以上、800以下の例1~5、例9~13は歪点が690℃以上であった。式(B)の値が690未満の例7、例15は、歪点が690℃未満であった。
式(C)の値が100以下の例1~5、例9~13は結晶成長速度が100μm/hr以下であった。一方、式(C)の値が100超の例8、例16は結晶成長速度が100μm/hr超であった。
式(D)の値が20以下の例1~5、例9~13はスラッジ体積が30ml以下であった。一方、式(D)の値が20超の例8、例16はスラッジ体積が30ml超であった。
例1~5、例9~13は、表面失透粘度ηcが104.2dPa・s以上であった。例7、例15は、表面失透粘度ηcが104.2dPa・s未満であった。
【0116】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2019年2月7日出願の日本特許出願2019-20257、2019年3月19日出願の日本特許出願2019-51570、2019年7月31日出願の日本特許出願2019-141422、2019年10月10日出願の日本特許出願2019-186805、および2020年2月5日出願の日本特許出願2020-17692に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
上述した特徴を有する本発明の無アルカリガラスは、ディスプレイ用基板、フォトマスク用基板、電子デバイス支持用基板、情報記録媒体用基板、平面型アンテナ用基板、調光積層体用基板、車両用窓ガラス、音響用振動板等の用途に好適である。