(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241126BHJP
B29D 11/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G02B5/30
B29D11/00
(21)【出願番号】P 2021013301
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐二
【審査官】南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-346507(JP,A)
【文献】特開2003-231143(JP,A)
【文献】特開2002-311245(JP,A)
【文献】特開2016-026909(JP,A)
【文献】特開2009-251011(JP,A)
【文献】特開2018-189724(JP,A)
【文献】特開2009-145662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂(a)からなる層を備えるフィルム(pA)を用意する工程(I)と、
前記フィルム(pA)の少なくとも片面に、溶媒を接触させ、フィルム(qA)とする工程(II)と、
前記フィルム(qA)を、0.1g/sec・m
2以上の乾燥速度にて0.1秒以上60秒以下の乾燥時間で乾燥させ、溶媒含有率を6重量%以下まで低下させ、フィルム(rA)とする工程(III)とを含む、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルム(rA)を延伸する工程をさらに含む、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒の沸点がBpS(℃)であり、
前記工程(II)が、前記フィルム(pA)を、20℃以上(BpS+10)℃以下の前記溶媒に0.5秒以上300秒以下浸漬させることを含む、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記光学フィルムのNZ係数が、0より大きく1未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記光学フィルムが単層のフィルムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記結晶性樹脂(a)の固有複屈折値が正である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記結晶性樹脂(a)が、脂環式構造含有重合体を含む樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム(rA)のNZ係数NZ(rA)が0未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム(rA)のNZ係数NZ(rA)が-1以下である、請求項8に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルム(rA)のNZ係数NZ(rA)が-10以下である、請求項9に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記フィルム(rA)の厚み方向レターデーションRth(rA)が-460nm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定の光学的特性を有する樹脂フィルムを、光学的な用途に用いることが行われている。例えば、NZ係数が0<NZ<1を満たすフィルムは三次元位相差フィルムと呼ばれる。三次元位相差フィルムは、液晶表示装置等の表示装置に設けられた場合、傾斜方向から見た表示面の色付きを低減するといった効果を発現することができることが知られている。
【0003】
三次元位相差フィルムは、y軸方向(即ち面内遅相軸方向に直交する面内方向)の位相差よりも、z軸方向(即ち厚み方向)において大きい位相差を有する。そのため、通常の固有複屈折が正の光学フィルム用樹脂を単に延伸するといった、通常の位相差フィルムの製造方法では製造することができない。そのため、複数種類の樹脂を組み合わせたり、複雑な延伸工程を行うことにより、三次元位相差フィルム又はそれに類するフィルムを製造することが、これまで提案されている(例えば、特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/188205号
【文献】国際公開第2020/137409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで提案されている三次元位相差フィルムの製造方法では、大きな厚み方向の複屈折(大きなRth絶対値)を得ることが難しく、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現しうるフィルムを容易に製造することが困難であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現しうる光学フィルムを容易に製造することができる、光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。検討の過程で、本発明者は、結晶性を有する重合体を含む樹脂のフィルムを、溶媒に接触させて、樹脂に溶媒を含浸させた状態とすることで、フィルムの厚み方向の複屈折を変化させ、それにより三次元位相差フィルムを製造することについて検討した。しかしながら、検討の過程で、そのような製造方法においては、厚み方向の複屈折の発現を容易に十分な値とすることが困難であることが問題となった。
【0008】
この点について本発明者がさらに検討を進めたところ、溶媒とフィルムとの接触の後、特定の乾燥方法による乾燥を行うことにより、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現することができるフィルムを容易に製造することができることが分かった。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0009】
〔1〕 結晶性樹脂(a)からなる層を備えるフィルム(pA)を用意する工程(I)と、
前記フィルム(pA)の少なくとも片面に、溶媒を接触させ、フィルム(qA)とする工程(II)と、
前記フィルム(qA)を、0.1g/sec・m2以上の乾燥速度にて0.1秒以上60秒以下の乾燥時間で乾燥させ、溶媒含有率を6重量%以下まで低下させ、フィルム(rA)とする工程(III)とを含む、光学フィルムの製造方法。
〔2〕 前記フィルム(rA)を延伸する工程をさらに含む、〔1〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔3〕 前記溶媒の沸点がBpS(℃)であり、
前記工程(II)が、前記フィルム(pA)を、20℃以上(BpS+10)℃以下の前記溶媒に0.5秒以上300秒以下浸漬させることを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔4〕 前記光学フィルムのNZ係数が、0より大きく1未満である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔5〕 前記光学フィルムが単層のフィルムである、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔6〕 前記結晶性樹脂(a)の固有複屈折値が正である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔7〕 前記結晶性樹脂(a)が、脂環式構造含有重合体を含む樹脂である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現しうる光学フィルムを容易に製造することができる、光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、フィルム等の層状の構造物の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。層状の構造物の厚み方向レターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。層状の構造物のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。
【0013】
nxは、層状の構造物の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層状の構造物の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、層状の構造物の厚み方向の屈折率を表す。dは、層状の構造物の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0014】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0015】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0016】
以下の説明において、層状の構造物の遅相軸は、別に断らない限り、面内の遅相軸である。
【0017】
〔光学フィルムの製造方法:概要〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、下記工程(I)~(III)を含む。本発明の光学フィルムの製造方法は、工程(I)~(III)に加えて、下記工程(IV)をさらに含みうる。本発明の光学フィルムの製造方法は、温度及び圧力について別に断らない限り(例えば、加熱、冷却、加圧、減圧等についての明示の記載が無い事項について)は、常温常圧の条件下で行いうる。
【0018】
工程(I):結晶性樹脂(a)からなる層を備えるフィルム(pA)を用意する工程。
工程(II):フィルム(pA)の少なくとも片面に、溶媒を接触させ、フィルム(qA)とする工程。
工程(III):フィルム(qA)を、0.1g/sec・m2以上の乾燥速度にて0.1秒以上60秒以下の乾燥時間で乾燥させ、溶媒含有率を6重量%以下まで低下させ、フィルム(rA)とする工程。
工程(IV):フィルム(rA)を延伸する工程。
【0019】
〔工程(I)〕
工程(I)では、結晶性樹脂(a)からなる層を備えるフィルム(pA)を用意する。フィルム(pA)の用意は、単に市販品を入手することによって行ってもよく、結晶性樹脂(a)を材料として用いフィルム(pA)を製膜することによって行ってもよい。
【0020】
フィルム(pA)は、結晶性樹脂(a)からなる層以外の層を備えていてもよいが、結晶性樹脂(a)のみからなるフィルムであってもよい。フィルム(pA)が結晶性樹脂(a)からなる層以外の層を備える場合は、フィルム(pA)のオモテ面及びウラ面のうち少なくとも一方は結晶性樹脂(a)からなる層である。またフィルム(pA)は、結晶性樹脂(a)からなる層を2層以上有していてもよいが、通常は、1層の結晶性樹脂(a)からなる層のみからなる単層のフィルムである。したがって、本発明の製造方法により得られる光学フィルムも、結晶性樹脂(a)からなる層以外の層を備えていてもよいが、結晶性樹脂(a)のみからなるフィルムであってもよく、また結晶性樹脂(a)からなる層を2層以上有していてもよいが、通常は、1層の結晶性樹脂(a)からなる層のみからなる単層のフィルムである。
【0021】
本発明の製造方法は、工程(I)においてフィルム(pA)を長尺のフィルムとして製膜した場合、製造ラインにおいてフィルム(pA)を長手方向に沿って搬送し、その後の工程を連続的に行いうる。かかる方式により製造方法を実施することによって、効率的な製造を行うことができる。但し本発明の製造方法はこれに限られない。例えば工程(I)においてフィルム(pA)を長尺のフィルムとして製膜した後、フィルム(pA)を裁断して矩形等の形状を有する枚葉状のフィルムとし、これを順次その後の工程に供することにより製造方法を実施してもよい。
【0022】
工程(I)を、結晶性樹脂(a)を材料として用いフィルム(pA)を製膜することによって行う場合の製膜は、既知の各種の製膜方法により行いうる。特に、溶融押出成形により製膜を行うことが、製造効率の観点から好ましい。成膜の条件は、結晶性樹脂(a)の性質に応じて適宜調整しうる。工程(I)にて成膜するフィルム(pA)の厚みは、特に限定されず、製品としての光学フィルムの厚みが所望の値となるよう適宜調整しうる。フィルム(pA)は、光学異方性を有するフィルムであってもよいが、特に光学異方性を有していない状態であっても、この後の工程に供することにより、本発明の光学フィルムを容易に製造しうる。
【0023】
〔樹脂(a)〕
樹脂(a)は、結晶性重合体、即ち結晶性を有する重合体を含む樹脂としうる。結晶性を有する重合体とは、融点Tmを有する重合体を表す。すなわち、結晶性を有する重合体とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる重合体を表す。結晶性重合体を主成分として含む樹脂は、結晶性重合体に基づく性質を発現しうる。このような樹脂を、結晶性樹脂という場合がある。結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
【0024】
結晶性重合体は、正の固有複屈折を有し、それにより、結晶性樹脂が正の固有複屈折値を有することが好ましい。結晶性樹脂であり且つ正の固有複屈折を有する樹脂を用いることにより、NZ係数に関して特に有用な性質を備える光学フィルムを特に容易に製造できる。
【0025】
結晶性重合体は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;等でもよく、特に限定されることはないが、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いることにより、フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0026】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0027】
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0028】
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0029】
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0030】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0031】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0032】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた光学フィルムを得ることができる。
【0033】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度を有し、したがって結晶性重合体を主成分とする結晶性樹脂についても、結晶性重合体のガラス転移温度に基づくガラス転移温度が観測されうる。結晶性重合体のガラス転移温度Tgは、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0034】
ガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、サンプルを、加熱によって融解させ、融解したサンプルをドライアイスで急冷する。続いて、このサンプルについて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、ガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0035】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0036】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0037】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0038】
本発明の製造方法により光学フィルムとなった時点での、結晶性樹脂(a)に含まれる結晶性重合体の結晶化度は、特段の制限はないが、通常は、ある程度以上高い。結晶性重合体を含む樹脂の結晶化度を測定した場合、具体的な結晶化度の範囲は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0039】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
結晶性樹脂(a)における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記下限値以上である場合、得られる光学フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下、又は99.999重量%以下でありうる。
【0041】
結晶性樹脂(a)は、結晶性重合体及び溶媒に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0042】
〔工程(II)〕
工程(II)では、フィルム(pA)を、溶媒に接触させる。溶媒としては、結晶性樹脂(a)を溶解させずに当該樹脂中に浸入できる溶媒を適宜選択しうる。溶媒としては、通常は有機溶媒が用いられる。好ましい有機溶媒としては、例えば、トルエン、デカヒドロナフタレン、及びリモネン等の炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン;クロロベンゼン;及び二硫化炭素が挙げられる。溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0043】
工程(II)における接触は、任意の操作により達成しうる。接触の操作の例としては、フィルム(pA)の表面に溶媒をスプレーするスプレー法;フィルム(pA)の表面に溶媒を塗布する塗布法;及びフィルム(pA)を溶媒中に浸漬する浸漬法が挙げられる。連続的な接触を容易に行える観点からは、浸漬法が好ましい。但し、接触させる溶媒の量を塗布厚み等により制御する必要がある場合は、スプレー法及び塗布法を好ましく行いうる。
【0044】
フィルム(pA)と溶媒とを浸漬により接触させる場合、接触時間は、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1.0秒以上、特に好ましくは5.0秒以上であり、好ましくは300秒以下、より好ましくは80秒以下、特に好ましくは60秒以下である。
【0045】
工程(II)の接触時における溶媒の温度は、溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、溶媒の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。特に、溶媒の温度は溶媒の沸点BpS(℃)と相対的に設定しうる。具体的には、溶媒の温度の下限は、室温以上、例えば20℃以上としうる。溶媒の温度の上限は、好ましくは(BpS+10)℃以下、より好ましくはBpS℃以下、さらにより好ましくは(BpS-10)℃以下としうる。かかる温度範囲の溶媒との接触を行うことにより、良好な厚み方向複屈折の変化を達成することができる。特に、フィルム(pA)と溶媒とを浸漬により接触させる場合は、上記温度範囲の溶媒との接触を行うことが好ましい。溶媒の沸点BpS(℃)は1気圧における沸点であり、沸点以上の温度での接触を行う場合は、例えば加圧条件下において接触を行いうる。
【0046】
フィルム(pA)と溶媒とを、溶媒の塗布により接触させる場合、塗布面積及び溶媒の供給量から計算される塗布厚みを適宜調整しうる。塗布厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、一方好ましくは100μm以下としうる。
【0047】
接触時間又は塗布厚みが前記下限値以上である場合、溶媒との接触による光学フィルムのNZ係数の調整を効果的に行うことができる。他方、接触時間を前記上限より長くしたり塗布厚みを前記上限より厚くしてもNZ係数の調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間又は塗布厚みが前記上限値以下である場合、光学フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0048】
工程(II)での溶媒との接触の結果、フィルム(pA)は、フィルム(qA)となる。フィルム(qA)は、フィルム(pA)と比べて、その厚み、及びその厚み方向の複屈折が変化したものとなり得る。このような、溶媒との接触によりもたらされる変化は、光学フィルム用樹脂を単に延伸するといった、通常の位相差フィルムの製造方法では得ることが困難なものである。したがって、かかる変化の結果、三次元位相差フィルム等の有用な光学フィルムの容易な製造が可能となる。
【0049】
工程(II)に供する前の樹脂(a)は、有機溶媒を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。工程(II)の結果得られたフィルム(qA)では、樹脂(a)が、接触の結果含浸した溶媒を含んだ状態となり、工程(II)に供する前の樹脂(a)より多い量の有機溶媒を含むことになる。フィルム(qA)の溶媒含有率、即ちフィルム(qA)単位量中に含まれる溶媒の量は、重量比で、好ましくは6重量%以上、より好ましくは10重量%以上であり、一方好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。溶媒含有率が前記範囲内であることにより、良好な厚み方向屈折率の変化を達成することができる。フィルム中の溶媒の含有量は、熱質量分析によって測定しうる。
【0050】
〔工程(III)〕
工程(III)では、所定の乾燥速度にて所定の時間でフィルム(qA)を乾燥させ、それによりフィルム(qA)の溶媒含有率を所定の値まで低下させ、フィルム(rA)とする。
【0051】
乾燥は、何らかの操作によりフィルム(qA)を加熱し、溶媒を揮発させることにより行いうる。具体的な乾燥の操作としては、オーブンによる加熱、加熱したローラーを接触させることによる加熱、電子線(例えば赤外線及びマイクロ波等)の照射による加熱、及びこれらの組み合わせが挙げられる。加熱したローラーをフィルムに接触させることによりフィルムの加熱を行う場合、加熱を行うのと同時に、ローラーの表面形状をフィルムに転写することが可能である。例えば、ローラーとして表面の平滑性の高いものを使用した場合、得られるフィルム(rA)の表面の平滑性を高めることが可能である。
【0052】
工程(III)の乾燥時間は、0.1秒以上60秒以下とする。乾燥時間は、好ましくは1秒以上であり、一方好ましくは30秒以下である。
【0053】
工程(III)においては、当該乾燥時間において、乾燥速度0.1g/sec・m2以上の乾燥を行い、それによりフィルムの溶媒含有率を6重量%以下まで低下させる。乾燥速度は、当該乾燥の開始直前のフィルムの溶媒含有率、及び乾燥終了直後のフィルムの溶媒含有率、及び乾燥時間の長さから求められる値である。乾燥速度は、好ましくは0.2g/sec・m2以上、より好ましくは0.3g/sec・m2以上であり、一方好ましくは10g/sec・m2以下、より好ましくは5g/sec・m2以下である。工程(III)により低下した溶媒含有率は、好ましくは6重量%、より好ましくは5.8重量%としうる。溶媒含有率の下限は、例えば0.5重量%以上としうる。本発明者が見出したところによれば、上に述べた乾燥速度、乾燥時間及び乾燥後溶媒含有率を満たす乾燥を行うことにより、良好な厚み方向屈折率の変化を達成することができ、その結果、Rthの絶対値が大きい光学フィルムを容易に製造することが可能となる。
【0054】
工程(III)の結果得られたフィルム(rA)は、そのまま、または必要に応じてさらなる工程を経て、製品たる光学フィルムとしうる。工程(I)~(III)による処理の結果、フィルム(rA)のNZ係数NZ(rA)は、通常1未満としうる。より具体的には、NZ(rA)は、0<NZ(rA)<1を満たすか、又は、NZ(rA)<0を満たすものとしうる。前者は、所謂三次元位相差フィルムとして有用に用いうる。後者は、三次元位相差フィルムを製造するための材料として有用に用いうる。即ち後者の場合、工程(IV)における一軸延伸等の簡単な処理により、容易に0<NZ<1を満たすフィルムに変換しうる。NZ(rA)<0である場合、その上限は好ましくは-1以下、より好ましくは-10以下である。NZ(rA)の下限は、特に限定されないが-1000以上としうる。0<NZ(rA)<1である場合のその好ましい範囲は、後述するNZ(sA)についての範囲と同様としうる。
【0055】
工程(III)の結果得られたフィルム(rA)を工程(IV)に供する場合、フィルム(rA)は工程(III)の終了後直ちに工程(IV)に供してもよく、工程(III)の終了後に任意の工程を経た後に工程(IV)に供してもよい。例えば、追加的な乾燥を行ってもよい。
【0056】
〔工程(IV)〕
工程(IV)では、工程(III)の後に、フィルム(rA)を延伸して、フィルム(sA)とする。かかる延伸により、フィルム(rA)に含まれる重合体の分子は、延伸方向に応じた方向に配向される。フィルム(rA)は、工程(II)及び(III)を経ているため、光学フィルム用樹脂を単に延伸するといった通常の位相差フィルムの製造方法では得ることが困難な光学特性を備える光学フィルムとしてのフィルム(sA)を容易に得ることができる。
【0057】
工程(IV)における延伸は、一軸延伸でもよく、二軸以上の延伸でもよい。また延伸の回数は一回のみでもよく、二回以上でもよい。好ましくは一回の一軸延伸、又は一回の一方向への延伸及び一回の他の一方向への延伸の同時又は逐次の実施による二軸延伸である。フィルム(rA)は、工程(II)及び(III)を経ているため、このような単純な延伸によって、通常の位相差フィルムの製造方法では得ることが困難な光学特性を備える光学フィルムとしてのフィルム(sA)を容易に得ることができる。
【0058】
一軸延伸を行う場合、延伸は自由端一軸延伸であってもよく、固定端一軸延伸であってもよい。フィルムの自由端一軸延伸とは、面内方向のうち、延伸方向と直交する方向における収縮を許容する態様で行う一軸延伸である。これに対して、固定端一軸延伸とは、延伸方向と直交する方向における寸法を固定し、当該方向への収縮を許容しない態様で行う一軸延伸(即ち延伸方向と直交する方向への延伸倍率を1倍に設定する延伸)である。
【0059】
工程(IV)における延伸方向に制限はなく、例えば、矩形のフィルムの長手方向、幅方向、斜め方向などが挙げられる。ここで、斜め方向とは、厚み方向に対して垂直な方向であって、幅方向とがなす角が0°でも無く90°でも無い方向(即ち幅方向とがなす角が0°超90°未満である方向)を表す。
【0060】
工程(II)及び(III)を伴わない製造方法により三次元位相差フィルムを製造しようとする場合、通常はより複雑な延伸工程、及びより複雑な樹脂フィルムの構成が必要になり、製造効率の観点からの不利益が大きい。これに対して、本発明の製造方法では、より単純な工程によって三次元位相差フィルムとして使用しうる光学フィルムを得ることができる。
【0061】
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは20.0倍以下、より好ましくは10.0倍以下、更に好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製品たる光学フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
【0062】
延伸温度は、結晶性重合体のガラス転移温度Tgと相対的に規定しうる。延伸温度は、好ましくは「Tg+5」℃以上、より好ましくは「Tg+10」℃以上であり、好ましくは「Tg+100」℃以下、より好ましくは「Tg+90」℃以下である。延伸温度が前記下限値以上である場合、フィルムを十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記上限値以下である場合、結晶性重合体の結晶化の進行によるフィルムの硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。さらに、通常は、得られる光学フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。また、かかる温度での延伸を行うことにより、結晶性重合体の結晶化度が高まり、その結果得られる光学フィルムの光学特性を容易に所望の範囲に調整することができる。
【0063】
工程(IV)により複屈折が変化しうるので、NZ係数の調整を行うことができる。よって、工程(IV)による延伸によって所望の光学特性を有する光学フィルムとしてのフィルム(sA)が得られる。工程(IV)の結果得られたフィルム(sA)は、そのまま製品たる光学フィルムとして利用することができる。または、得られたフィルムにさらに任意の処理を行い、製品たる光学フィルムとすることもできる。任意の工程の例としては、延伸された寸法を維持した状態での熱処理又は延伸された寸法を縮めての緩和処理等の処理による複屈折の調整が挙げられる。
【0064】
本発明の製造方法により得られる光学フィルムのNZ係数は好ましくは0より大きく、より好ましくは0.2以上であり、一方好ましくは1より小さく、より好ましくは0.8以下である。このようなNZ係数を有するフィルムは、三次元位相差フィルムと呼ばれる。三次元位相差フィルムは、液晶表示装置等の表示装置に設けられた場合、傾斜方向から見た表示面の色付きを低減するといった効果を発現することができる。
【0065】
光学フィルムの面内レターデーションReの値は、光学フィルムの用途に適合した値に調整しうる。ある例においては、波長590nmにおける面内レターデーションRe(590)の好ましい範囲は137.5nm又はそれに近い値、具体的には好ましくは127.5~147.5nm、より好ましくは130.5~144.5nmの範囲としうる。Re(590)の値を当該範囲内とすることにより、光学フィルムをλ/4波長板として用いうる。別のある例においては、Re(590)の好ましい範囲は275nm又はそれに近い値、具体的には好ましくは265~285nm、より好ましくは268~282nmの範囲としうる。Re(590)の値を当該範囲内とすることにより、光学フィルムをλ/2波長板として用いうる。
【0066】
一般に表示装置等の装置に用いる光学フィルムは、光学的特性を発現するためにある程度以上の厚みを必要とする一方、装置の薄型化の要請から、薄いことが求められる。本発明の製造方法により得られる光学フィルムの厚みは、特に限定されないが、厚みが薄くても所望の光学的特性を満たすフィルムとすることが可能である。具体的には、光学フィルムの厚みは、好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下、さらにより好ましくは100μm以下としうる。光学フィルムの厚みの下限は、特に限定されないが例えば20μm以上としうる。
【0067】
本発明の製造方法により得られた光学フィルムにおいては、樹脂(a)は、有機溶媒を含みうる。この有機溶媒は、通常、本発明の製造方法の工程(II)において使用した有機溶媒が、フィルム中に取り込まれ、その後の乾燥の工程においても除去されず残存したものである。工程(II)においてフィルム中に取り込まれた有機溶媒の全部または一部は、重合体の内部に入り込みうる。したがって、その後の乾燥の工程を行ったとしても、容易には溶媒を完全に除去することは難しい。よって、本発明の製造方法により得られた光学フィルムは、有機溶媒を含むことが通常である。
【0068】
本発明の製造方法により得られた光学フィルム100重量%に対する、その中に含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは6重量%以下、より好ましくは5.8重量%以下、特に好ましくは5.5重量%以下である。溶媒含有率の下限は特に限定されないが、0.001重量%以上、又は0.01重量%以上としうる。フィルム中の溶媒の含有量は、熱質量分析によって測定しうる。
【0069】
〔用途〕
本発明の光学フィルムは、必要に応じて矩形などの所望の形状に加工した上で、表示装置等の光学装置の構成要素として使用しうる。本発明の光学フィルムを表示装置の構成要素として用いた場合、表示装置に表示される画像の視野角、コントラスト、画質等の表示品質を改善することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0071】
〔評価方法〕
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0072】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0073】
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
【0074】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0075】
(フィルムのレターデーションRe及びRth等の光学特性の測定方法)
フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRth等の光学特性は、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定した。測定波長は590nmであった。
【0076】
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの厚みは、接触式厚さ計(MITUTOYO社製 Code No. 543-390)を用いて測定した。
【0077】
(溶媒含有率の測定方法)
フィルム(pA)について、熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃におけるフィルム(pA)の重量WO(30℃)から300℃におけるフィルムの重量WO(300℃)を引き算して、300℃におけるフィルムの重量減少量ΔWOを求めた。後述する実施例及び比較例で用いたフィルム(pA)は、溶融押出法によって製造されたものであるので、溶媒を含まない。よって、このフィルム(pA)の重量減少量ΔWOを、後述する式(X)ではリファレンスとして採用した。
【0078】
測定対象のフィルムについて、前記と同じく熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃におけるフィルムの重量WR(30℃)から300℃におけるフィルムの重量WR(300℃)を引き算して、300℃におけるフィルムの重量減少量ΔWRを求めた。
【0079】
前記の300℃におけるフィルム(pA)の重量減少量ΔWO、及び、300℃における測定対象フィルムの重量減少量ΔWRから、以下の式(X)により、フィルムにおける溶媒含有率を算出した。
溶媒含有率(%)={(ΔWR-ΔWO)/WR(30℃)}×100 (X)
【0080】
〔製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性樹脂の製造〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0081】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0082】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0083】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0084】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0085】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名「TEM-37B」、東芝機械社製)に投入した。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物及び酸化防止剤の混合物を、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形した後、ストランドカッターにて細断して、ペレット形状の結晶性樹脂(a)を得た。前記の二軸押出し機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
【0086】
〔実施例1〕
(1-1.工程(I):フィルム(pA)の製造)
製造例1で製造した結晶性樹脂(a)を、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(Optical Control Systems社製「Measuring Extruder Type Me-20/2800V3」)を用いて成形し、1.5m/分の速度でロールに巻き取って、およそ幅120mmの長尺のフィルム(pA)(厚み50μm)を得た。前記のフィルム成形機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=280℃~300℃
・ダイ温度=270℃
・スクリュー回転数=30rpm
・キャストロール温度=80℃
【0087】
フィルム(pA)を、100mm×100mmにカットし、複数枚の矩形のフィルム(pA)とした。フィルム(pA)の光学特性を測定した。フィルム(pA)の面内レターデーションReは5nm、厚み方向レターデーションRthは6nmであった。この樹脂フィルムは、前記のように高温(280℃~300℃)での熱溶融押出によって製造されているので、樹脂フィルムは溶媒を含まないと考えられることから、その溶媒含有率は0.0%である。
【0088】
(1-2.工程(II):フィルム(pA)と溶媒との接触)
バットをトルエンで満たした。トルエンの温度は23℃に調節した。トルエンの中に矩形のフィルム(pA)を10秒間浸漬させた。その後、トルエンからフィルムを取り出し、フィルム(qA)を得た。フィルム(qA)の一部を、取り出し後直ちに溶媒含有率の測定に供し、溶媒含有率を求めたところ、溶媒含有率は32%であった。
【0089】
(1-3.工程(III):フィルム(qA)の乾燥)
フィルム(qA)の他の一部を、取り出し後直ちに90℃の乾燥炉で60秒間乾燥し、光学フィルム(rA)を得た。
【0090】
光学フィルム(rA)の光学特性及び物性を評価した。光学フィルム(rA)の面内レターデーションReは16nm、厚み方向レターデーションRthは-560nm、厚みは64μm、結晶化度は12%、溶媒含有率は5.6%であった。
【0091】
フィルム(qA)の溶媒含有率と、光学フィルム(rA)の溶媒含有率との差から、溶媒揮発量(単位:g/m2)を求めた。溶媒揮発量を乾燥時間(本実施例では60秒)で割った値を乾燥速度として求めたところ、0.3g/sec・m2であった。
【0092】
〔実施例2〕
フィルム(qA)の乾燥温度を160℃、乾燥時間を10秒とした他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルム(rA)を得て評価した。光学フィルム(rA)の面内レターデーションReは14nm、厚み方向レターデーションRthは-636nm、厚みは64μm、結晶化度は12%、溶媒含有率は5.3%であった。乾燥速度は1.8g/sec・m2であった。
【0093】
〔実施例3〕
フィルム(pA)の浸漬時間を60秒とした他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルム(rA)を得て評価した。光学フィルム(rA)の面内レターデーションReは15nm、厚み方向レターデーションRthは-602nm、厚みは64μm、結晶化度は12%、溶媒含有率は5.8%であった。乾燥速度は0.46g/sec・m2であった。
【0094】
〔実施例4〕
実施例1の(1-1)で得た矩形のフィルム(pA)に対してバーコートを用いてトルエンを20μm塗布し、フィルム(qA)を得た。溶媒含有率を求めたところ、溶媒含有率は23%であった。塗布後直ちに、フィルム(qA)を90℃の乾燥炉で60秒間乾燥し、光学フィルム(rA)を得た。光学フィルム(rA)の面内レターデーションReは13nm、厚み方向レターデーションRthは-460nm、厚みは64μm、結晶化度は11%、溶媒含有率は5.7%であった。乾燥速度は0.18g/sec・m2であった。
【0095】
〔比較例1〕
フィルム(qA)の乾燥温度を60℃、乾燥時間を600秒とした他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルム(rA)を得て評価した。光学フィルム(rA)の面内レターデーションReは9nm、厚み方向レターデーションRthは-258nm、厚みは64μm、結晶化度は9%、溶媒含有率は5.8%であった。乾燥速度は0.03g/sec・m2であった。
【0096】
〔比較例2〕
フィルム(qA)の乾燥温度を60℃、乾燥時間を60秒とした他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルム(rA)を得て評価した。光学フィルム(rA)の厚みは69μm、溶媒含有率は25%であった。乾燥速度は0.09g/sec・m2であった。乾燥終了直後では、多量の溶媒を含んでおり状態が不安定であったため、光学フィルム(rA)のRe、Rth及び結晶化度は測定できなかった。
【0097】
実施例1~4及び比較例の概要及び結果を、表1に示す。
【0098】
【0099】
〔実施例5〕
延伸装置(エトー株式会社製「SDR-562Z」)を用意した。この延伸装置は、矩形の樹脂フィルムの端部を把持可能なクリップと、オーブンとを備えていた。クリップは、樹脂フィルムの1辺当たり5個、及び、樹脂フィルムの各頂点に1個の合計24個設けられていて、これらのクリップを移動させることで樹脂フィルムの延伸が可能であった。また、オーブンは2つ設けられており、延伸温度及び熱処理温度にそれぞれ設定することが可能であった。さらに、この延伸装置では、一方のオーブンから他方のオーブンへの樹脂フィルムの移行は、クリップで把持したまま行うことができた。
【0100】
実施例1で得られた光学フィルム(rA)を、延伸装置に取り付け、光学フィルム(rA)を予熱温度110℃で10秒間処理した。その後、光学フィルム(rA)を、延伸温度110℃で、縦延伸倍率1倍、横延伸倍率1.5倍、延伸速度1.5倍/10秒で延伸した。前記の「縦延伸倍率」は、長尺の原反フィルムの長手方向に一致する方向への延伸倍率を表し、「横延伸倍率」は、長尺の原反フィルムの幅方向に一致する方向への延伸倍率を表す。これにより、光学フィルム(rA)に延伸処理を施し、光学フィルム(sA)を得た。
【0101】
光学フィルム(sA)の光学特性及び物性を評価した。光学フィルム(sA)の面内レターデーションReは362nm、厚み方向レターデーションRthは-15nm、厚みは47μm、結晶化度は14%であった。
【0102】
上記の結果から明らかな通り、本発明の要件を満たした乾燥の工程を行った実施例では、大きな厚み方向の複屈折(大きなRth絶対値)を容易に得ることができ、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現しうるフィルムを容易に製造することができることが分かる。