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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】積層体及びエレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20241126BHJP
   C09K 9/00 20060101ALI20241126BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G02F1/15 508
C09K9/00 A
C09K9/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021039826
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139439
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
(72)【発明者】
【氏名】金子 史育
(72)【発明者】
【氏名】福田 智男
(72)【発明者】
【氏名】油谷 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】筒井 隆司
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090677(JP,A)
【文献】特表2019-534934(JP,A)
【文献】特開2017-226782(JP,A)
【文献】特開2013-075979(JP,A)
【文献】特開2011-253753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0131771(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂及び支持電解質を含有する電解質組成物の硬化物を含むゲル電解質膜と、前記ゲル電解質膜の両面に配置された非粘着性保護フィルム層と、を有する積層体であって、
前記ゲル電解質膜は、25℃の環境条件下、平均厚み700μmの前記ゲル電解質に対し、直径5mmのステンレス鋼製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、前記プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすプローブタック試験によって応力、剥離距離及び最大応力を測定し、前記最大応力を、前記応力を前記剥離距離で積分した積分値で除した剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下であることを特徴とする積層体
【請求項2】
前記支持電解質がイオン液体を含む、請求項1に記載の積層体
【請求項3】
前記イオン液体が、エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミドである、請求項2に記載の積層体
【請求項4】
前記バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート鎖を有するポリマーを含む、請求項1から3のいずれかに記載の積層体
【請求項5】
前記バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート鎖を有するポリマーを架橋した架橋体を含む、請求項4に記載の積層体
【請求項6】
前記ゲル電解質膜における前記イオン液体の含有量が70質量%以上である、請求項2又は3に記載の積層体
【請求項7】
前記ゲル電解質膜における前記イオン液体の含有量が80質量%以上である、請求項6に記載の積層体
【請求項8】
前記ゲル電解質膜のせん断貯蔵弾性率が0.02MPa以上である、請求項1から7のいずれかに記載の積層体
【請求項9】
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、エレクトロクロミック化合物を含むエレクトロクロミック層と、電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記電解質層は、ゲル電解質膜であり、
前記ゲル電解質膜は、25℃の環境条件下、平均厚み700μmの前記ゲル電解質膜に対し、直径5mmのステンレス鋼製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、前記プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすプローブタック試験によって応力、剥離距離及び最大応力を測定し、前記最大応力を、前記応力を前記剥離距離で積分した積分値で除した剥離指標値が5.5mm -1 以上7.5mm -1 以下であることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質及びエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック材料を用いたエレクトロクロミック素子において、透明な表示デバイスを得る場合、及びシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3層の発色層を積層させた構成のデバイスを構築する場合には、無色透明の状態を有する材料により構成されていることに加えて、各層にシワ及び凹凸などの光学的歪がなく、光学均一性に優れていることが重要である。
【0003】
多くの電気化学素子の電解質としては、水又は有機溶媒に支持電解質を溶解した液体電解質が用いられている。しかし、液体電解質は電気化学素子の長期保存による経時変化、破損による電解液の漏洩、小型化及び薄型化が困難であるという問題がある。このため、電解質を固体化させ、取り扱いが容易であり、安全性が高く、かつイオン伝導度の大きい固体薄膜電解質材料の研究開発が活発に行われている。
【0004】
高分子固体電解質の研究には大きく二つのアプローチがある。一つは網の目になったポリマーマトリックス中に液体電解質を包含するゲル電解質であり、もう一つは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル構造を有するポリマーに支持電解質を溶解した高分子固体電解質である。
【0005】
前記ゲル電解質は、モノマーを混合した液体電解質中で重合反応を行うことにより液体電解質で膨潤した重合体として作製されたり、予め重合したポリマーマトリックスを液体電解質に浸してポリマーを膨潤させることによって作製される。
【0006】
前記ゲル電解質においては、ポリマーマトリックスは基本的に液体電解質を包含する機能を有するだけでありイオン伝導には寄与せず、主としてイオン伝導を担うのは、ポリマーマトリックス中の液体電解質である。ポリマーマトリックス中においてイオンは比較的自由に移動できるため、ゲル電解質のイオン伝導度は液体電解質に準じる高い値が比較的容易に実現できる。
【0007】
このようなゲル電解質は液体電解質の含有量が多いため、自己粘着性が発現しにくく、大量成膜時に用いられるロール トゥ ロールのプロセスにおける輸送時及びロール状での保管時に、ゲル電解質から保護フィルムが剥離し、ゲル電解質の変形及び損壊が発生することがある。
【0008】
そのため、例えば、自己粘着性を持たないゲル電解質においては、輸送時及び保存時の電解質膜のシワ及び凹凸の発生を防止し、使用時のゲル電解質から保護フィルムを剥離する手段として、粘着層を設けた保護フィルムでゲル電解質の両面を挟み込む方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
一方、もう一つのポリエーテル構造を有するポリマーに支持電解質を溶解した高分子固体電解質は、エーテル構造の酸素原子4個で1価のカチオン1個を溶解することができ、このカチオンが高分子鎖のエーテル構造をホッピングしながらイオン伝導する。このような高分子固体電解質は、液体電解質を含まないため、自己粘着性が発現しやすいという特徴がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ゲル電解質の変形による光学的歪の発生を防ぐために、輸送時及び保管時に非粘着保護フィルムから剥離せず、かつ使用時には非粘着性保護フィルムから容易に剥離できる自己粘着性を有するゲル電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としての本発明のゲル電解質は、バインダー樹脂及び支持電解質を含有する電解質組成物の硬化物を含むゲル電解質であって、25℃の環境条件下、平均厚み700μmのゲル電解質に対し、直径5mmのステンレス鋼製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、前記プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすプローブタック試験によって応力、剥離距離、及び最大応力を測定し、前記最大応力を、前記応力を前記剥離距離で積分した積分値で除した剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ゲル電解質の変形による光学的歪の発生を防ぐために、輸送時及び保管時に非粘着保護フィルムから剥離せず、かつ使用時には非粘着性保護フィルムから容易に剥離できる自己粘着性を有するゲル電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のゲル電解質のタック力の測定結果の一例を示すグラフである。
図2図2は、剥離距離と応力との関係を示すグラフである。
図3図3は、本発明のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
図4図4は、測定温度25℃によるインピーダンスの測定により得られた波形を示すグラフの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ゲル電解質)
本発明のゲル電解質は、バインダー樹脂及び支持電解質を含有する電解質組成物の硬化物を含むゲル電解質であって、25℃の環境条件下、平均厚み700μmのゲル電解質に対し、直径5mmのステンレス鋼製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、前記プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすプローブタック試験によって応力、剥離距離、及び最大応力を測定し、前記最大応力を、前記応力を前記剥離距離で積分した積分値で除した剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下である。
【0015】
従来技術(特開2011-253753号公報)では、電解質膜へ粘着層が移行することや、被転写体への転写時に十分な密着性が得られず、安定した保護フィルムの剥離が困難であるという問題がある。
また、従来技術である輸送時及び保存時のシワ及び凹凸の発生を防止するため、フッ素系の柔らかい高分子固体電解質を非粘着性保護フィルムに挟み込む方法では、フッ素系高分子固体電解質は、液体電解質と比較して移動度が低いため、高いイオン伝導度を実現するためには、キャリアがイオン半径の小さなプロトンである必要があることや、高湿環境下で使用する必要があることなどの制約条件が多いという問題がある。
【0016】
したがって、本発明においては、25℃の環境条件下、平均厚み700μmのゲル電解質を、直径5mmのSUS304製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすという、プローブタック試験を行い応力、剥離距離を測定すると、図1に示すピークが得られる。そして、図1中の最大応力8(単位gf)と、応力を剥離距離で積分した積分値9(単位gf・mm)が得られる。最大応力8を積分値9で除した数値を剥離指標値(単位mm-1)と定義する。プローブタック試験は、例えば、タックキング試験機(株式会社レスカ製、TAC-II)を用いて行うことができる。
なお、平均厚み700μmのゲル電解質は、平均厚みが700μmになるように積層されたゲル電解質の積層体であってもよい。
【0017】
前記剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲を充たすことによって、(1)ロール トゥ ロールの輸送時及び保管時には非粘着保護フィルムから剥離しない密着性と、(2)使用時には非粘着性保護フィルムから容易に剥離することができる剥離性という、相反する2つの特性を両立することができる。
図2に示すように、前記剥離指標値は、最大応力(最大荷重)8と積分値9との比であり、応力の剥離距離プロファイルの曲線形状が数値化されたものであるため、上記剥離指標値が大きいほど鋭いピークとなり、上記剥離指標値が小さいほどピークは低くなだらかになる。そして、上記(1)と(2)の特性を両立できるのは適正な大きさのピークBである(剥離指標値6.3mm-1)。上記(1)のみを充たす低くなだらかなピークCは剥がれ難くなる(剥離指標値4.0mm-1)。上記(2)のみを充たす鋭く大きなピークAは剥がれ易くなる(剥離指標値7.6mm-1)。
したがって、図2に示すように、本発明においては、上記(1)と(2)の特性を両立する上で、剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲を充たすことが重要である。
【0018】
前記剥離指標値は、前記プローブタック試験における最大応力で前記ゲル電解質を引き延ばしたときの歪量の逆数、即ち変形のし難さを意味している。したがって、上記剥離指標値は、フックの法則に基づき、動的粘弾性測定より求められる弾性率から、前記最大応力を除して求められた歪量と高い相関性を示す。
【0019】
両面を保護フィルムで挟んだゲル電解質の輸送時及び保管時の剥離は、曲げ、捻りなどによってゲル電解質と保護フィルムとの界面に生じた圧縮応力度が座屈許容応力度を超えた場合に発生する座屈現象が原因していると考えられる。保護フィルム条件を固定した時、ゲル電解質と保護フィルムとの界面に生じる圧縮応力度はゲル電解質の弾性率と厚みから計算される剛性によって決まり、剛性が小さいほど座屈に対する耐性は強くなることが期待される。また、ゲル電解質のタック力が大きいほど、座屈許容応力度は大きくなり、高い座屈耐性を示すことが期待される。
一方、加工時にゲル電解質から保護フィルムを反らして剥離する場合には、ゲル電解質が反らせた保護フィルムに追従しないこと、即ち剛性は大きいことが好ましい。
このため、輸送時及び保管時の座屈耐性と、加工時の良好な剥離性を両立させるためには、ゲル電解質のタック力と、ゲル電解質の剛性のバランスが極めて重要であり、ゲル電解質を引き延ばしたときの変形のし難さを表す上記剥離指標値は、このバランスを評価するのに適している。
【0020】
大量成膜時にはロール トゥ ロール工程において、搬送ローラー部分で搬送方向が切り替わる場合、及びローラー状のコアに巻きつけて保管する場合には、ゲル電解質と保護フィルムには座屈現象の原因となる圧縮応力度が加わるが、上記剥離指標値が7.5mm-1以下であると、これら対して優れた座屈耐性が達成できる。
【0021】
加工時の良好な保護フィルムの剥離性は、上記剥離指標値が5.5mm-1以上であると、十分に達成することができる。上記剥離指標値が5.5mm-1未満であると、ゲル電解質はフィンガリングの不安定性による塑性変形又は損壊を生じる頻度が著しく高くなる。
【0022】
本発明のゲル電解質は、上記剥離指標値が7.5mm-1以下であることによって、輸送時及び保管時における非粘着性保護フィルムの剥離に伴う高分子膜の変形又は損壊を防ぐことができる。これは、ゲル電解質が曲げられたときに生じる圧縮応力度が、ゲル電解質の自己粘着性によって補強される座屈許容応力度以下に抑えられることに基づいている。
【0023】
前記「輸送時及び保管時における非粘着性保護フィルムの剥離」とは、両面を非粘着性保護フィルムで挟まれたゲル電解質を、一般によく用いられる搬送ローラーによって輸送した場合、又はローラー状のコアに巻き付けた状態で保管した場合に、座屈現象により保護フィルムがゲル電解質から剥離することを意味する。
【0024】
本発明のゲル電解質は、上記剥離指標値が5.5mm-1以上であることによって、非粘着性保護フィルムの良好な剥離性が得られ、変形又は損壊なく被転写体への転写が可能となる。これは被転写体への粘着力と、非粘着性保護フィルムを反らせて剥離した場合にゲル電解質の剛性によって生じる抵抗力の合力が、非粘着性保護フィルムとゲル電解質の粘着力を上回ることに基づいている。
【0025】
前記「非粘着性保護フィルムの良好な剥離性」とは、電解質膜から非粘着性保護フィルムを必要に応じて剥離した際に、剥離したい側の非粘着性保護フィルムに電解質膜が追随して変形又は損壊することが抑制されることを意味する。
【0026】
本発明においては、ゲル電解質のせん断貯蔵弾性率は0.02MPa以上であることが好ましく、0.04MPa以上であることがより好ましい。
ゲル電解質のせん断貯蔵弾性率が0.02MPa以上であると、上記プローブタック試験において優れた剥離指標値を示すゲル電解質を得ることが可能となる。ゲル電解質のせん断貯蔵弾性率が0.02MPa未満であるゲル電解質膜は比較的変形しやすいため、上記剥離指標値を満たしていても別要因(例えば、加圧しすぎなど)によって変形する恐れがある。
ゲル電解質膜を被転写物へ転写する際は、気泡が入り込まないよう真空条件下で実施するケースが多い。例えば真空ラミネーターによる転写がそれにあたるが、その場合はゲル電解質膜に大気圧(0.101MPa)の加圧がなされるが、0.04MPa以上のせん断貯蔵弾性率を有するゲル電解質膜の場合、上記加圧でも変形することがない。
ゲル電解質のせん断貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、Rheosol-G5000)により測定することができる。
【0027】
本発明のゲル電解質を構成する電解質組成物は、バインダー樹脂及び支持電解質を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0028】
<支持電解質>
前記支持電解質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カチオンとアニオンの組み合わせからなる室温で固体の固体電解質、イオン液体が挙げられる。
【0029】
-固体電解質-
前記固体電解質のカチオンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Li塩、Na塩、K塩、Mg塩等の金属イオン系;N、N-ジメチルイミダゾール塩、N、N-メチルエチルイミダゾール塩、N、N-メチルプロピルイミダゾール塩、N、N-メチルブチルイミダゾール塩、N、N-アリルブチルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N、N-ジメチルピリジニウム塩、N、N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;N,N-ジメチルピロリジニウム塩、N-エチル-N-メチルピロリジニウム塩、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム塩、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム塩、N-メチル-N-ペンチルピロリジニウム塩、N-ヘキシル-N-メチルピロリジニウム塩等のピロリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系などが挙げられる。
【0030】
前記固体電解質のアニオンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、BF 、BFCF 、BF 、PF 、NO 、CFCO 、CFSO 、(CFSO、(FSO、(CFSO)(FSO)N、(CN)、(CN)、(CN)、(CFSO、(CSO、(CPF 、AlCl 、AlCl などが挙げられる。
前記カチオン及びアニオンはそれぞれ自由に組み合わせて用いることができ、それぞれ1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記固体電解質は、バインダー樹脂に直接溶解させてもよいが、前記固体電解質のバインダー樹脂に対する溶解性が低い場合には、前記固体電解質を少量の溶媒に溶解させた溶液をバインダー樹脂と混合して用いてもよい。
【0032】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記支持電解質としては、融点が室温以下になるアニオンとカチオンの組み合わせが好ましい。即ち、前記支持電解質としてはイオン液体を用いることが好ましい。イオン液体はバインダー樹脂の良好な保液性が得られるためタック性が発現しやすくなり、高濃度のイオン液体を含む場合においても、上記プローブタック試験において優れた剥離指標値を示すゲル電解質を得ることが可能となる。
【0034】
-イオン液体-
前記イオン液体としては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(メルク社製)、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(関東化学株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムトリペンタフルホロエチルトリフロオロホスフェート(メルク社製)、エチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(関東化学株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェ-ト(東京化成株式会社製)、ブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(東京化成株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(東京化成株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムアセテート(東京化成株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムトリシアノメタニド(東京化成株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムジシアナミド(東京化成株式会社製)、メチルオクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(東京化成株式会社製)、メチルプロピルピロリジニウムビスフルオロスルホンイミド(関東化学株式会社製)、ブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(東京化成株式会社製)、ブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成株式会社製)、ヘキシルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(関東化学株式会社製)、アリルブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(関東化学株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、エチルメチルイミダゾリウムトリペンタフルホロエチルトリフロオロホスフェート、アリルブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが好ましく、エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミドが特に好ましい。
【0035】
前記イオン液体の含有量は、ゲル電解質を構成する電解質組成物の全量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。前記イオン液体の含有量が70質量%以上であると、より高いイオン伝導度を示すゲル電解質を得ることができる。
【0036】
<バインダー樹脂>
前記バインダー樹脂は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース誘導体等の多糖類系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、光重合性モノマー及び光重合性オリゴマーを重合させた樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、製造が容易な点から、光重合性モノマー及び光重合性オリゴマーを重合させた樹脂が特に好ましい。
光重合性モノマーとしては、単官能の光重合性モノマー、2官能の光重合性モノマー及び3官能以上の光重合性モノマーの多官能の光重合性モノマーが用いられる。
【0037】
単官能の光重合性モノマーとしては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メチルメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、アクリロイルモルフォリン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート又はスチレンモノマーが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
2官能の光重合性モノマーとしては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート又はネオペンチルグリコールジアクリレートが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記において、「EO変性」はエチレンオキシ変性を指し、「PO変性」はプロピレンオキシ変性を指す。
【0039】
3官能以上の光重合性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート又は2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
光重合性のオリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、各種反応性ポリマーなどが挙げられる。
光重合性のオリゴマーとしては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、ブレンマー(R)DA―800AU(日油株式会社製)、ブレンマー(R)TA―604AU(日油株式会社製)、CN9030(巴工業株式会社製)、CN9010 NS(巴工業株式会社製)、CN9029(巴工業株式会社製)、CN8885 NS(巴工業株式会社製)、CN9013 NS(巴工業株式会社製)CN970(巴工業株式会社製)、CN971(巴工業株式会社製)、CN972(巴工業株式会社製)、CN975 NS(巴工業株式会社製)、UX-3204(日本化薬株式会社製)、UX-4101(日本化薬株式会社製)、UXT-6100(日本化薬株式会社製)、UX6101(日本化薬株式会社製)、UX8101(日本化薬株式会社製)、UX0937(日本化薬株式会社製)、UXF-4001-M35(日本化薬株式会社製)、UXF-4002(日本化薬株式会社製)、UX-5000(日本化薬株式会社製)、UA-4200(新中村化学工業株式会社製)、UA-160TM(新中村化学工業株式会社製)、UA-290TM(新中村化学工業株式会社製)、UA-7100(新中村化学工業株式会社製)、UA-W2A(新中村化学工業株式会社製)、UV-3000B(三菱ケミカル株式会社製)、UV-3200B(三菱ケミカル株式会社製)、UV-3300B(三菱ケミカル株式会社製)、UV3640B(三菱ケミカル株式会社製)、UV-3640PE80(三菱ケミカル株式会社製)、UA-306H(共栄社化学株式会社製)、UA-306T(共栄社化学株式会社製)、UA-306I(共栄社化学株式会社製)等のウレタンアクリレート;BAEA-100(ケーエスエム株式会社製)、BAEM-100(ケーエスエム株式会社製)、R-115F(日本化薬株式会社製)、R-130(日本化薬株式会社製)、R-381(日本化薬株式会社製)、EAM-2160(日本化薬株式会社製)、ZFA-266H(日本化薬株式会社製)、EA-1010N(新中村化学工業株式会社製)、EA-1010LC(新中村化学工業株式会社製)、EA-1010NT2(新中村化学工業株式会社製)、EA-1020LC3(新中村化学工業株式会社製)等のエポキシアクリレート;EBECRYL 303(ダイセル・オルネクル株式会社製)、EBECRYL 1710(ダイセル・オルネクル株式会社製)、EBECRYL 767(ダイセル・オルネクル株式会社製)等のアクリルアクリレート;CN2203(巴工業株式会社製)、CN2270(巴工業株式会社製)、CN22073(巴工業株式会社製)、CN2274(巴工業株式会社製)、EBECRYL 820(ダイセル・オルネクル株式会社製)等のポリエステルアクリレート;AM-90G(新中村化学工業株式会社製)、AM-130G(新中村化学工業株式会社製)、AM-450G(新中村化学工業株式会社製)等のポリエチレングリコールアクリレート;AM45%AA-6(東亞合成株式会社製)、AA-6SR(東亞合成株式会社製)、AA-6(東亞合成株式会社製)等のメチルメタクリレート;AN-6S(東亞合成株式会社製)、AB-6(東亞合成株式会社製)、AW―6S(東亞合成株式会社製)等のブチルメタクリレート;RP-274S(ケーエスエム株式会社製)、RP-310(ケーエスエム株式会社製)等の反応性ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記バインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖を有するポリマーが好ましい。PMMA鎖を有するポリマーはイオン液体を多く含有する場合においてもタック性が発現しやすくなり、上記プローブタック試験において優れた剥離指標値を示すゲル電解質を得ることが可能となる。
PMMA鎖を有するポリマーとしては、例えば、MB-1(東亞合成株式会社製)、MB-1P(東亞合成株式会社製)、ハイパールM4501(根上工業株式会社製)などが挙げられる。
【0042】
前記バインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖を有するポリマーの架橋体がより好ましい。PMMA鎖を有するポリマーの架橋体は、電解質組成物の段階において直鎖PMMAと比べて相溶性に優れた低分子量のPMMA系モノマーを使用できるため、含有量を多くすることができ、タック性の発現がより容易となる。
PMMAを有するポリマーの架橋体としては、例えば、PMMA鎖を有する反応性オリゴマーや反応性ポリマーを架橋反応させたものなどが挙げられる。
PMMA鎖を有する反応性オリゴマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マクロモノマーAA-6(東亞合成株式会社製)などが挙げられる。
【0043】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合開始剤などが挙げられる。
【0044】
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。
【0045】
前記熱重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ化合物;2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のケタール系光重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全モノマー成分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下が特に好ましい。
【0048】
<ゲル電解質膜の製造方法>
本発明のゲル電解質膜は、まず、前記電解質組成物、及び前記バインダー樹脂、更に必要に応じて、重合開始剤を混合して電解質組成物を作製し、作製した電解質組成物を剥離強度の異なる2種類のフィルムに挟んで重合させることより製造することができる。
前記重合反応としては、ラジカル重合反応が好ましく、熱ラジカル重合反応、光ラジカル重合反応がより好ましい。
【0049】
前記フィルムのうち、剥離強度が小さいものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、離型層付のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、液晶ポリエステルフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、アラミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムなどが挙げられる。
前記フィルムの剥離強度下限値については、特に制限されないが、JIS Z0237:2009に準拠した90°剥離試験における剥離強度が0.15N/50mm以上であることが好ましい。前記フィルムのうちもう一方の剥離強度の大きいフィルムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、軽剥離側のフィルムよりも剥離強度が1.5倍以上大きいことが好ましい。
【0050】
本発明のゲル電解質の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。ゲル電解質の平均厚みが10μm以上100μm以下であると、輸送時及び保管時の座屈耐性と、加工時の良好な剥離性がより顕著なものとなる。
【0051】
<ゲル電解質の用途>
本発明のゲル電解質は、ゲル電解質の変形による光学的歪の発生を防ぐために、輸送時及び保管時に非粘着性保護フィルムから剥離せず、かつ使用時には非粘着性保護フィルムから容易に剥離できる自己粘着性を有しているので、例えば、エレクトロクロミック素子、リチウムイオン二次電池、太陽電池、燃料電池、イオン伝導型アクチュエータなどの種々の電気化学デバイスに好適に使用できるが、以下に説明するエレクトロクロミック素子の電解質層に特に好適に用いられる。
【0052】
(エレクトロクロミック素子)
本発明のエレクトロクロミック素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、エレクトロクロミック化合物を含むエレクトロクロミック層と、電解質層とを有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0053】
<電解質層>
前記電解質層としては、本発明のゲル電解質を用いる。
前記ゲル電解質からなる電解質層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上1,000μm以下が好ましい。
【0054】
<エレクトロクロミック層>
前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック化合物を含み、エレクトロクロミズムを示す機能層である。前記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック化合物と導電性又は半導体性ナノ構造体とが結合されて層が構成されている形態や、エレクトロクロミック化合物がラジカル重合性化合物であり、その重合膜から層が構成されている形態などが挙げられる。
【0055】
-エレクトロクロミック化合物-
前記エレクトロクロミック化合物は、酸化反応又は還元反応により色の変化を起こす材料であり、例えば、ラジカル重合性化合物、ポリマー系化合物などが挙げられる。
前記エレクトロクロミック化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知のエレクトロクロミック化合物を選択することができ、例えば、色素系化合物、金属錯体系化合物、金属酸化物系化合物などが挙げられる。
前記色素系化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物;ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。
前記金属錯体系化合物、及び前記金属酸化物系化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機系エレクトロクロミック化合物などが挙げられる。
【0056】
-導電性乃至半導体性ナノ構造体-
前記導電性乃至半導体性ナノ構造体とは、ナノ粒子又はナノポーラス構造体等のナノスケールの凹凸を有するナノ構造体を意味する。
前記エレクトロクロミック化合物が、結合又は吸着構造として、ホスホン酸基、リン酸基又はカルボキシル基を有するとき、前記エレクトロクロミック化合物は、容易に前記ナノ構造体と複合化し、発色画像保持性に優れたエレクトロクロミック組成物となり、前記エレクトロクロミック組成物からエレクトロクロミック層を形成することができる。
【0057】
前記導電性乃至半導体性ナノ構造体を構成する材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、透明性や導電性の点から、金属酸化物が好ましい。
前記金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、酸化インジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とするものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性、光学的性質等の物理的特性、及び発消色の応答速度の点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンが好ましい。
【0058】
<第1の電極及び第2の電極>
前記第1の電極及び第2の電極としては、前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくともいずれかが透明であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の導電体を選択することができる。
【0059】
前記透明である電極としては、導電性を有する透明材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」とも称することがある)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」とも称することがある)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」とも称することがある);ITO、InSnO、GaZnO、SnO、In、酸化亜鉛(ZnO)等の無機材料などが挙げられる。
【0060】
また、透明性を有するカーボンナノチューブや、他のAu、Ag、Pt、Cuなど高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して、透明度を保持したまま、導電性を改善した電極を用いてもよい。
【0061】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、支持体、封止材、絶縁性多孔質層、劣化防止層、保護層などが挙げられる。
【0062】
-支持体-
前記支持体としては、各層を支持できる透明材料であれば、周知の有機材料や無機材料をそのまま用いることができる。
【0063】
前記支持体としては、例えば、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス基板;ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基板などが挙げられる。
【0064】
前記支持体の表面としては、水蒸気バリア性、ガスバリア性、紫外線耐性、及び視認性を高めるために、透明絶縁層、UVカット層、反射防止層などがコーティングされていてもよい。
【0065】
前記支持体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、長方形、丸型などが挙げられる。
【0066】
前記支持体としては、複数重ねあわせでもよく、例えば、2枚のガラス基板でエレクトロクロミック素子を挟持する構造にすることで、水蒸気バリア性、及びガスバリア性を高めることができる。
【0067】
-封止材-
前記封止材は、貼り合せたエレクトロクロミック素子の側面を封止し、大気中の水分や酸素などエレクトロクロミック素子が安定的に動作するために不要なものの侵入を防ぐなどの機能を有する。
前記封止材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紫外線硬化型、熱硬化型の樹脂などが挙げられ、具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0068】
-絶縁性多孔質層-
前記絶縁性多孔質層は、前記第1の電極と前記第2の電極とが電気的に絶縁されるように隔離すると共に、電解質を保持する機能を有する。
前記絶縁性多孔質層の材料としては、多孔質であれば特に制限はなく、絶縁性、及び耐久性が高く成膜性に優れた有機材料や無機材料、及びそれらの複合体を用いることが好ましい。
【0069】
前記絶縁性多孔質層の形成方法としては、例えば、焼結法(高分子微粒子や無機粒子を、バインダー等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)、抽出法(溶剤に可溶な有機物又は無機物類と溶剤に溶解しないバインダー等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物又は無機物類を溶解させ細孔を得る)、発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子化合物等の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法などが挙げられる。
【0070】
-保護層-
前記保護層は、外的応力や洗浄工程の薬品からエレクトロクロミック素子を守ることや、ゲル電解質の漏洩を防ぐこと、大気中の水分や酸素などエレクトロクロミック素子が安定的に動作するために不要なものの侵入を防ぐことなどの機能を有する。
【0071】
前記保護層の材料としては、特に制限されないが、例えば、紫外線硬化型や熱硬化型の樹脂などが挙げられ、具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0072】
ここで、図3は本発明のゲル電解質を有する本発明のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
図3に示すように、第1の電極3と、第2の電極2と、前記第1の電極3と前記第2の電極2との間にゲル電解質6とを有し、前記第1の電極3及び前記第2の電極2は、支持体1により挟持され、前記第1の電極3表面には、エレクトロクロミック層5を有し、前記第2の電極2表面にエレクトロクロミック層7を有していてもよく、前記エレクトロクロミック層5、7中にエレクトロクロミック化合物4を有することが好ましい。
【0073】
<エレクトロクロミック素子の用途>
本発明のエレクトロクロミック素子は、透明性が高く発色応答性に優れているので、例えば、エレクトロクロミックディスプレイ、株価の表示板等の大型表示板、防眩ミラー、調光ガラス等の調光素子、タッチパネル式キースイッチ等の低電圧駆動素子、光スイッチ、光メモリー、電子ペーパー、電子アルバムなどに好適に使用することができる。
【実施例
【0074】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<電解質膜の作製>
バインダー樹脂としてウレタンアクリレート(商品名:UXF4002、日本化薬株式会社製)に対して、質量比(バインダー樹脂/重合開始剤)が99.5/0.5となるように重合開始剤としてirgacure184(BASF社製)を溶解し、モノマー溶液を得た。
次に、得られたモノマー溶液に支持電解質として過塩素酸トリブチルアンモニウム(TBAP、東京化成株式会社製)の1mol/L炭酸プロピレン(PC、富士フィルム和光純薬株式会社製)溶液を質量比で20質量%となるように混合溶解して電解質組成物を作製した。
次に、得られた電解質組成物500μLを軽剥離側の離型層付き非粘着性保護フィルム1(商品名:SPPET―50-O1BU、三井東セロ株式会社製)に滴下し、更に重剥離側の離型層付き非粘着性保護フィルム2(商品名:SPPET―50-O3BU、三井東セロ株式会社製)を被せることで電解質組成物を塗り広げ、UV(波長250nm)照射装置(アイグラフィックス株式会社製)により2J/cm照射し、非粘着性保護フィルム1/ゲル電解質/非粘着性保護フィルム2の積層体を得た。
【0076】
次に、以下のようにして、剥離指標値及びせん断貯蔵弾性率を求め、座屈耐性及び剥離性を評価した。結果を表1-2に示した。
【0077】
<せん断貯蔵弾性率の測定>
直径5mmの円柱状に加工した平均厚みが700μmのゲル電解質を、直径5mmのSUS304製のパラレルプレートに挟み込み、歪量を上記ゲル電解質が塑性変形しない範囲とし、周波数を1Hzとする条件で、25℃の環境下、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、Rheosol-G5000)を用い、せん断貯蔵弾性率を測定した。
【0078】
<剥離指標値の測定>
平均厚みが700μmのゲル電解質を、直径5mmのSUS304製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、25℃の環境下、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすようにしてタックキング試験機(株式会社レスカ製、TAC-II)を用いプローブタック試験を実施した。図1に示すように、前記測定条件での最大応力8を、応力を引き剥がした剥離距離で積分した積分値9で除することにより剥離指標値を算出した。
【0079】
<座屈耐性の評価>
ゲル電解質の厚みが50μmである非粘着性保護フィルム1/ゲル電解質/非粘着性保護フィルム2の積層体を用いて座屈耐性を評価した。具体的には、前記非粘着性保護フィルム1が外周側となるよう外径20mmの円柱棒側面に円周1/4周分だけ巻きつけたときに非粘着性保護フィルム1がゲル電解質から剥離するかを観察し、下記の基準で評価した。
[判定基準]
〇:座屈耐性があり、非粘着性保護フィルム1がゲル電解質から剥離している様子が視認できない。
×:座屈耐性がなく、非粘着性保護フィルム1がゲル電解質から剥離している様子が視認できる。
なお、前記判定基準は、前記評価方法で剥離が生じない場合には、一般にロール トゥ ロール工程などで用いられる外形100mm搬送ローラーによる輸送時や、外形100mmのコアに巻きつけての保管時に、非粘着性保護フィルムの剥離が発生しないという知見に基づいている。
【0080】
<剥離性の評価>
ゲル電解質の厚みが50μmである前記非粘着性保護フィルム1/ゲル電解質/非粘着性保護フィルム2の積層体を用いて剥離性を評価した。具体的には、非粘着性保護フィルム1が上側となるよう平板上ステージへ設置し、外形30mmの粘着性ローラーを用いて非粘着性保護フィルム1を剥離させた場合に、下記判定基準に従い、ゲル電解質が変形又は損壊するか評価した。
[判定基準]
〇:剥離性が良好であり、ゲル電解質が剥離したい非粘着性保護フィルムに追随する様子が視認されず、かつ変形や損壊が視認されない
×:剥離性が不良であり、ゲル電解質が剥離したい非粘着性保護フィルムに追随する様子が視認される、又は変形や損壊が視認される
【0081】
(実施例2~27及び比較例1~26)
実施例1において、ゲル電解質膜に用いるバインダー樹脂及び支持電解質として、表1-1及び表1-2に記載の組成及び質量比に基づき作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~27及び比較例1~26のゲル電解質を作製した。
次に、得られた実施例2~27及び比較例1~26のゲル電解質において、実施例1と同様にして、剥離指標値、せん断貯蔵弾性率、座屈耐性、及び剥離性を評価した。結果を表1-2に示した。
【0082】
【表1-1】
【0083】
【表1-2】
【0084】
表1-1及び表1-2中の略号の詳細については、以下に示すとおりである。
-ポリメチルメタクリレート(PMMA)アクリレート(PMMA鎖を有するポリマー)-
・AA-6(東亞合成株式会社製)
【0085】
-その他のバインダー樹脂-
・UXF4002(日本化薬株式会社製)
・UV3640PE80(三菱ケミカル株式会社製)
・UV3000B(三菱ケミカル株式会社製)
・AM-90G(新中村化学工業株式会社製)
・A-BPE-30(新中村化学工業株式会社製)
・ACMO(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0086】
―非重合性ポリマー―
・M4501(根上工業株式会社製)
・M5000(根上工業株式会社製)
・M5001(根上工業株式会社製)
【0087】
―支持電解質―
・TBAP(過塩素酸トリブチルアンモニウム、東京化成株式会社製)
・PC(炭酸プロピレン、富士フィルム和光純薬株式会社製)
・EMIMFSI(エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社製)
・EMIMTCB(エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、メルク社製)
・EMIMTFSI(エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、関東化学株式会社製)
・EMIMFAP(エチルメチルイミダゾリウムトリペンタフルホロエチルトリフロオロホスフェート、メルク社製)
・ABIMBF4(アリルブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、関東化学株式会社製)
・P13FSI(メチルプロピルピロリジニウムビスフルオロスルホンイミド、関東化学株式会社製)
【0088】
表1-1及び表1-2の結果から、実施例1~27のゲル電解質は、上記プローブタック試験における剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲内であり、いずれも良好な座屈耐性及び剥離性を示すことがわかった。
実施例2~27の結果から、支持電解質としてイオン液体を用いることで、支持電解質の含有量を多い場合でも上記プローブタック試験における剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲内に収まり、良好な座屈耐性及び剥離性を示すゲル電解質が得られることがわかった。
実施例4~18、及び20~22の結果から、バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖を有するポリマーである場合、イオン液体の含有量が70質量%以上であっても、上記プローブタック試験における剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲内に収まり、良好な座屈耐性及び剥離性を示すゲル電解質が得られることがわかった。
実施例8~18、及び20~22の結果から、バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖を有するポリマーを架橋した架橋体を含む場合、イオン液体との相溶性に優れるためバインダー樹脂に対するPMMA含有量を多くすることができ、イオン液体の含有量が80質量%以上であっても、上記プローブタック試験における剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下の範囲内に収まるゲル電解質がより容易に得られることがわかった。
【0089】
(実施例28)
実施例2と同じ電解質組成物を対向する白金電極の間に注入し、UV(波長250nm)照射装置(アイグラフィックス株式会社製)により2J/cm照射することによって得られたゲル電解質を用いて、下記のようにしてインピーダンスを測定した。
【0090】
<イオン伝導度の評価>
交流インピーダンス法にてデバイスのインピーダンスを測定した。測定装置は、モジュール式電気化学測定システム(装置名:modulab、株式会社東洋テクニカ製)を使用し、印加交流電圧:10mV、測定周波数範囲:1Hz~1,000,000Hz、測定温度が25℃の条件で測定を行った。測定の結果、図4に示すような形状のインピーダンス波形が得られた。このときの円弧の弦の長さをゲル電解質のイオン伝導度として測定した。結果を表2に示した。
【0091】
(実施例29~37及び比較例27~28)
実施例28において、電解質組成物におけるバインダー樹脂及び支持電解質として、表2に記載の組成に基づき作製した以外は、実施例28と同様にして、実施例29~37及び比較例27~28のゲル電解質を作製した。
次に、得られた実施例29~37及び比較例27~28のゲル電解質において、実施例28と同様にしてインピーダンスを測定した。結果を表2に示した。
【0092】
【表2】
表2の結果から、実施例32~33及び36~37は、イオン液体の含有量が70質量%以上の場合、ゲル電解質は1mS/cm以上の高いイオン伝導度を示し、特にイオン液体の含有量が80質量%以上の場合には5mS/cm以上の極めて高いイオン伝導度を示すことがわかった。
【0093】
(実施例38)
<エレクトロクロミック素子の作製例>
-第1の電極の表面へのエレクトロクロミック層の形成-
第1の電極としてのITOガラス基板(40mm×40mm、平均厚み:0.7mm、ITO膜厚:約100nm)上に、ポリエチレングリコールジアクリレート(商品名:PEG-400DA、日本化薬株式会社製)と、irgacure184(BASF社製)と、下記構造式(1)で表される化合物と2-ブタノンを質量比(57/3/140/800)で混合した溶液をスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下でUV硬化させて第1の電極上に構造式で表される化合物を含む平均厚みが1.1μmのエレクトロクロミック層を形成した。
【0094】
[構造式(1)で表される化合物]
【化1】
【0095】
<第2の電極上へのエレクトロクロミック層の形成>
第2の電極としてのITOガラス基板(40mm×40mm、平均厚み:0.7mm、ITO膜厚:約100nm)上に、酸化チタンナノ粒子分散液(商品名:SP210、昭和タイタニウム株式会社製、平均粒子径:約20nm)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成した。この酸化チタン粒子膜に下記構造式(2)で表される化合物の2質量%の2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことによって第2の電極上に酸化チタン粒子表面に構造式(2)で表される化合物を吸着させた平均厚みが1.0μmのエレクトロクロミック層を形成した。
【0096】
[構造式(2)]
【化2】
【0097】
<セルの作製>
前記エレクトロクロミック層を形成した前記第2の電極に、実施例2と同じゲル電解質を貼り合わせ、更に前記エレクトロクロミック層を形成した前記第1の電極を貼り合わせ、端部をUV接着剤(フォトレックE、低透湿タイプ、積水化学工業株式会社製)で封止し、セルを作製した。
【0098】
<ヘイズ値>
光学的歪の簡易的な評価として、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH-5000)を用いて前記セルのヘイズ値を測定した。結果を表3-2に示した。
【0099】
(実施例39~48及び比較例29~31)
実施例38において、電解質組成物におけるバインダー樹脂及び支持電解質として、表3-1及び表3-2に記載の組成に基づき作製した以外は、実施例38と同様にして、実施例39~48及び比較例29~31のゲル電解質を作製した。
次に、得られた実施例39~48及び比較例29~31のゲル電解質において、実施例38と同様にして、ヘイズ値を測定した。結果を表3-2に示した。
【0100】
【表3-1】
【0101】
【表3-2】
【0102】
表3-1及び表3-2の結果から、良好な座屈耐性及び良好な剥離性を示す実施例38~48は、ゲル電解質の光学的歪がないため、エレクトロクロミック素子作製時にゲル電解質とエレクトロクロミック層との界面に空隙が生じず、優れたヘイズ値を示すことがわかった。
【0103】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> バインダー樹脂及び支持電解質を含有する電解質組成物の硬化物を含むゲル電解質であって、
25℃の環境条件下、平均厚み700μmのゲル電解質に対し、直径5mmのステンレス鋼製のプローブを120mm/秒の速度で上方から接触させ、押し付け荷重を40gfとし、押し付け荷重保持時間を5秒とする条件で、前記プローブを400mm/秒の速度で垂直方向に引き剥がすプローブタック試験によって応力、剥離距離及び最大応力を測定し、前記最大応力を、前記応力を前記剥離距離で積分した積分値で除した剥離指標値が5.5mm-1以上7.5mm-1以下であることを特徴とするゲル電解質である。
<2> 前記支持電解質がイオン液体を含む、前記<1>に記載のゲル電解質である。
<3> 前記イオン液体が、エチルメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミドである、前記<2>に記載のゲル電解質である。
<4> 前記バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート鎖を有するポリマーを含む、前記<1>から<3>のいずれかに記載のゲル電解質である。
<5> 前記バインダー樹脂がポリメチルメタクリレート鎖を有するポリマーを架橋した架橋体を含む、前記<4>に記載のゲル電解質である。
<6> 前記イオン液体の含有量が70質量%以上である、前記<2>から<5>のいずれかに記載のゲル電解質である。
<7> 前記イオン液体の含有量が80質量%以上である、前記<6>に記載のゲル電解質である。
<8> せん断貯蔵弾性率が0.02MPa以上である、前記<1>から<7>のいずれかに記載のゲル電解質である。
<9> エレクトロクロミック素子に用いられる、前記<1>から<8>のいずれかに記載のゲル電解質である。
<10> 第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、エレクトロクロミック化合物を含むエレクトロクロミック層と、電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記電解質層が前記<1>から<9>のいずれかに記載のゲル電解質であることを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
【0104】
前記<1>から<9>のいずれかに記載のゲル電解質、及び前記<10>に記載のエレクトロクロミック素子によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 支持体
2 第2の電極
3 第1の電極
4 エレクトロクロミック化合物
5 エレクトロクロミック層
6 ゲル電解質
7 エレクトロクロミック層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0106】
【文献】特開2011-253753号公報
図1
図2
図3
図4