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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】シンチレータ構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20241126BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G21K4/00 A
G01T1/20 G
G01T1/20 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021041274
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141118
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中橋 正信
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173226(JP,A)
【文献】特開2004-309169(JP,A)
【文献】特開2016-186455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0296625(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルと、前記複数のセルを覆う反射材と、を備える、シンチレータ構造体であって、
前記複数のセルのそれぞれは、樹脂と蛍光体とを含み、
前記複数のセルの上面および側面で、前記複数のセルのそれぞれと前記反射材とは、化学的に結合されている、シンチレータ構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ構造体において、
前記複数のセルのそれぞれと前記反射材とは、架橋されている、シンチレータ構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシンチレータ構造体において、
前記反射材は、波長が450nmから650nmの範囲の光に対して透光性を有する透光性樹脂と、反射粒子とを含むシンチレータ構造体。
【請求項4】
請求項1または2に記載のシンチレータ構造体において、
前記セルは、波長が450nmから650nmの範囲の光に対して透光性を有する透光性樹脂と、前記蛍光体とを含むシンチレータ構造体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のシンチレータ構造体において、
前記蛍光体は、ガドリニウム酸硫化物を含む、シンチレータ構造体。
【請求項6】
樹脂および蛍光体を含む複数のセルと前記複数のセルのそれぞれを覆う反射材とを備えるシンチレータ構造体の製造方法であって、
(a)樹脂と蛍光体との混合物からなる基板を作製する工程、
(b)前記基板を半架橋する工程、
(c)半架橋した前記基板を個片化することにより、前記複数のセルを形成する工程、
(d)半架橋状態の前記複数のセルを覆う前記反射材を形成する工程、
(e)前記複数のセルのそれぞれが半架橋状態で、前記反射材を架橋する工程、を備え、
前記(e)工程では、前記複数のセルのそれぞれと前記反射材との界面が架橋される、シンチレータ構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のシンチレータ構造体の製造方法において、
前記半架橋状態の前記複数のセルのそれぞれは、ゲル分率が80%以上95%以下である、シンチレータ構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項またはに記載のシンチレータ構造体の製造方法において、
前記半架橋状態とは、架橋反応が完全に終了していない状態である、シンチレータ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ構造体およびその製造方法に関し、例えば、それぞれ樹脂と蛍光体とを含む複数のセルを有するシンチレータ構造体およびその製造方法に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平2-17489号公報(特許文献1)には、放射線検出器に使用される蛍光体に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-17489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シンチレータは、X線やガンマ線に代表される放射線が当たると、放射線のエネルギーを吸収して可視光を発生させる物質である。このシンチレータは、シンチレータと反射材とを含むシンチレータ構造体として製品化され、シンチレータ構造体とフォトダイオードなどの光電変換素子とを組み合わせたX線検出器が、例えば、X線CTなどの医療機器、分析機器、放射線を用いた非破壊検査装置、放射線漏洩検査装置などに用いられている。
【0005】
例えば、シンチレータには、ガドリニウム酸硫化物(GdS)からなるセラミックスが使用されている。ここで、本明細書では、ガドリニウム酸硫化物を「GOS」と呼ぶことにする。なお、厳密には、ガドリニウム酸硫化物自体はほとんど発光せず、ガドリニウム酸硫化物にプラセオジウムやテルビウムなどを含有させることによって発光する。このことから、本明細書で「GOS」という文言は、ガドリニウム酸硫化物自体にプラセオジウムやテルビウムなどが含有されて発光する物質(蛍光体)を暗に意図して使用することにする。ただし、ガドリニウム酸硫化物自体にプラセオジウムやテルビウムなどが含有されていることを明示的に示す必要がある場合、プラセオジウムを含有する「GOS」やテルビウムを含有する「GOS」と表現することがある。
【0006】
また、シンチレータを「GOS」単体から構成する場合、「GOS」はセラミックから構成される。一方、後述するように、シンチレータを「GOS」と樹脂の混合物から構成することも検討されており、この場合の「GOS」は粉体から構成される。したがって、本明細書では、特にセラミックと粉体とを明示する必要がないときには、単に「GOS」と表現する。これに対し、セラミックを明示する必要があるときは「GOS」セラミックと呼ぶ。一方、粉体を明示する必要があるときは「GOS」粉体と呼ぶことにする。
【0007】
この「GOS」は、タングステン酸カドミウム(CdWO)よりも可視光の発光出力が大きいという利点を有する一方、製造コストが高い。
【0008】
このことから、シンチレータ構造体の製造コストを低減するため、シンチレータとして「GOS」粉体と樹脂の混合物を使用することが検討されている。
【0009】
ところが、「GOS」粉体と樹脂の混合物を使用すると、シンチレータから構成されるセルと反射材との密着性の観点から改善の余地が存在することを本発明者は新規に見出した。したがって、シンチレータとして「GOS」粉体と樹脂の混合物を使用する場合、シンチレータから構成されるセルと反射材との密着性を確保することが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、複数のセルと反射材との密着性を向上することができるシンチレータ構造体およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施の形態におけるシンチレータ構造体は、複数のセルと、複数のセルを覆う反射材とを備える。ここで、複数のセルのそれぞれは、樹脂と蛍光体とを含み、複数のセルのそれぞれと反射材とは、化学的に結合されている。
【0012】
一実施の形態におけるシンチレータ構造体の製造方法は、それぞれ樹脂および蛍光体を含む複数のセルと複数のセルを覆う反射材とを備えるシンチレータ構造体の製造方法である。このシンチレータ構造体の製造方法は、(a)樹脂と蛍光体との混合物からなる基板を作製する工程、(b)基板を半架橋する工程、(c)半架橋した基板を個片化することにより、複数のセルを形成する工程、(d)半架橋状態の複数のセルを覆う反射材を形成する工程、(e)複数のセルのそれぞれが半架橋状態で、反射材を架橋する工程を備える。このとき、(e)工程では、複数のセルのそれぞれと反射材とが架橋される。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、複数のセルと反射材との密着性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】X線検出器を模式的に示す図である。
図2】関連技術における製造工程を示すフローチャートである。
図3】実施の形態における製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0016】
<X線検出器の概要>
図1は、X線検出器を模式的に示す図である。
【0017】
図1において、X線検出器100は、シンチレータ構造体10と受光素子20とを有している。シンチレータ構造体10は、X線検出器100に入射されるX線から可視光を発生する複数のシンチレータ11と、これらの複数のシンチレータ11のそれぞれを覆う反射材12から構成されている。一方、受光素子20は、シンチレータ11で発生した可視光から電流を生成する機能を有し、例えば、フォトダイオードに代表される光電変換素子から構成されている。この受光素子20は、例えば、支持体30に設けられており、複数のシンチレータ11のそれぞれに対応して設けられている。
【0018】
シンチレータ11は、X線を吸収して可視光を発生させる機能を有し、蛍光体11aと樹脂11bから構成されている。ここで、本明細書では、蛍光体11aを構成する「GOS」粉体と樹脂11bとを混合した材料を「樹脂GOS」と呼ぶこともある。つまり、本実施の形態におけるシンチレータ11は、「樹脂GOS」から構成されている。蛍光体11aは、プラセオジウムやテルビウムなどを含有するガドリニウム酸硫化物であり、樹脂11bは、例えば、エポキシ樹脂である。また、反射材12は、酸化チタンからなる反射粒子12aを含有する樹脂12bから構成されている。
【0019】
近年では、図1に示すように、シンチレータ構造体10において、シンチレータ11は、複数のセル(CL)に分割されている。すなわち、X線画像の解像度を向上する観点から、複数の受光素子20のそれぞれに合わせてシンチレータ11を複数のセルCLに分割することが行われている(シンチレータ11のアレイ化)。このように、シンチレータ構造体10は、複数のセルCLと、複数のセルCLを覆う反射材12とを備えている。具体的に、セルCLの上面と4つの側面は、反射材12で覆われる。一方、セルCLの下面は、受光素子20と接触させる必要があるため、反射材12で覆われてはいない。
【0020】
このように構成されているX線検出器は、以下に示すように動作する。
【0021】
すなわち、X線がシンチレータ構造体10のシンチレータ11に入射すると、シンチレータ11を構成する蛍光体11a内の電子は、X線のエネルギーを受け取って基底状態から励起状態に遷移する。その後、励起状態の電子は、基底状態に遷移する。この際、励起状態と基底状態との間のエネルギー差に相当する可視光が放出される。このようなメカニズムによって、シンチレータ11は、X線を吸収して可視光を発生させる。
【0022】
そして、シンチレータ11から発生した可視光のうちの一部の可視光は、直接的に受光素子20に入射するとともに、シンチレータ11から発生した可視光のうちの他の一部の可視光は、シンチレータ11を覆う反射材12での反射を繰り返しながら受光素子20に集光される。続いて、例えば、フォトダイオードから構成される受光素子20に可視光が入射すると、この可視光のエネルギーによって、フォトダイオードを構成する半導体材料の電子が価電子帯から伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に励起した電子に起因する電流がフォトダイオードに流れる。そして、フォトダイオードから出力された電流に基づいて、X線画像が取得される。このようにして、X線検出器100によれば、X線画像を取得することができる。
【0023】
例えば、図1に示すように、シンチレータ構造体10は、直方体形状をしたシンチレータ11とシンチレータ11を覆う反射材12から構成されている。ここで、直方体形状をしたシンチレータ11は、ダイシング工程や研削工程などの加工工程を経て形成されることから、直方体形状の表面には、加工面が形成される。すなわち、「加工面」とは、機械的な加工が施された面をいう。具体的に、「加工面」には、ワーク厚み出しを実施するにあたり、研削砥石にて研削した面、もしくは、ダイシング処理を実施するためにスライシングブレードにてワークを切断した表面が含まれる。
【0024】
例えば、「樹脂GOS」を使用したシンチレータ11において、「加工面」とは、樹脂が露出する面と「GOS」粉体が破断した面とが混在する面として定義される。例えば、図1では、「樹脂GOS」を使用したシンチレータ11において、シンチレータ11と反射材12との界面が「加工面」である場合を模式的に表している。この場合、「加工面」においては、樹脂11bを切断する領域と蛍光体11a(「GOS」粉体)が破断する領域が混在することがわかる。このようにして、X線検出器100が構成されている。
【0025】
<「樹脂GOS」の採用理由>
上述したように、本実施の形態では、シンチレータ11として「樹脂GOS」が採用されている。以下では、この理由について説明する。
【0026】
例えば、シンチレータ構造体10を構成するシンチレータ11として、タングステン酸カドミウム(以下、「CWO」と呼ぶ)が使用されているが、この「CWO」には、RoHS指令/REACH規則対象物質であるカドミウムが含まれている。このことから、シンチレータ11として、カドミウムを含有する「CWO」に替えて「GOS」セラミックが使用されてきている。この「GOS」セラミックは、「CWO」に比べて、可視光の発光出力が高いというメリットを有している一方、製造コストが高くなるデメリットがある。
【0027】
そこで、製造コストを削減する観点から、シンチレータ11として、「GOS」セラミックに替えて、エポキシ樹脂などからなる樹脂と「GOS」粉体とを混合した「樹脂GOS」を採用することが検討されている。すなわち、「GOS」セラミックによる製造コストの上昇を抑制するために、「GOS」セラミックよりも価格の安い「樹脂GOS」をシンチレータ11に使用する動きがある。
【0028】
ここで、「樹脂GOS」には、プラセオジウム(Pr)とセリウム(Ce)をガドリニウム酸硫化物に添加した「GOS」粉体とエポキシ樹脂とを混合した「第1樹脂GOS」と、テルビウム(Tb)とセリウム(Ce)をガドリウム酸硫化物に添加した「GOS」粉体とエポキシ樹脂とを混合した「第2樹脂GOS」とがある。
【0029】
そして、「第1樹脂GOS」と「第2樹脂GOS」は、ともに、「CWO」に比べて、発光出力が高いという利点を有している。さらには、「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」と同等であるという利点もある。すなわち、シンチレータ構造体10の性能としては、発光出力が大きいだけでなく、残光特性が良好であることも要求される。
【0030】
そこで、残光特性について説明する。シンチレータ構造体10を構成するシンチレータ11は、X線を当てると可視光を発生させる物質である。シンチレータ11において、X線を当てると可視光を発生させるメカニズムは、以下のようなものである。すなわち、シンチレータ11にX線を照射すると、シンチレータ11内の電子がX線からエネルギーを受け取って、エネルギーの低い基底状態からエネルギーの高い励起状態に遷移する。そして、励起状態にある電子は、エネルギーの低い基底状態に遷移する。このとき、励起された電子の大部分は、直ちに基底状態に遷移する。一方、励起された電子のうちの一部の電子は、ある程度の時間が経過した後に基底状態に遷移する。このある程度の時間が経過した後に生じる電子の励起状態から基底状態への遷移によって発生する可視光が残光になる。つまり、残光とは、励起状態から基底状態に遷移するタイミングがX線を照射した時刻からある程度時間が経過後に生じることによって発生する可視光である。そして、この残光が大きいということは、X線を照射してからもある程度の時間経過後まで発生する可視光の強度が大きいことを意味する。この場合、次のX線を照射するときまで前のX線照射で発生した残光が残存することになり、残存した残光はノイズとなる。このことから、残光は小さいことが望ましい。つまり、残光特性が良好であるとは、残光が小さいことを意味する。この点に関し、「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」の残光特性と同等である。したがって、「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて、以下に示す利点を有していることから、性能と製造コストを両立可能なシンチレータ11として優れている。
【0031】
(1)「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて発光出力が高い。
(2)「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」の残光特性と同等である。
(3)「樹脂GOS」では、カドミウムを使用しない。
(4)「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて製造コストが低い。
【0032】
また、シンチレータ11としてヨウ化セシウム(CsI)が使用されるが、「樹脂GOS」は、「CsI」に比べても、以下に示す利点を有している。
【0033】
(1)「第2樹脂GOS」は、「CsI」に比べてX線のストッピング特性がよい。
(2)「第2樹脂GOS」の残光特性は、「CsI」の約1/70である。
(3)「樹脂GOS」は、潮解性のない安定した物質である。
【0034】
さらに、「樹脂GOS」は、「GOS」セラミックに比べて、以下に示す利点も有している。すなわち、「樹脂GOS」や「GOS」セラミックには、「Gd」、「Ga」または「Bi」などの重金属が含まれている。これらの重金属は、比較的高価であるとともに、流出による生体や環境への悪影響が懸念される。したがって、シンチレータ11に含まれる重金属は、できるだけ少ないことが望ましい。この点に関し、「GOS」粉体と樹脂の混合物から構成される「樹脂GOS」は、バルクである「GOS」セラミックよりも「GOS」の使用量が少ない。このことは、「樹脂GOS」によれば、「GOS」セラミックよりも、重金属の含有量が少ないシンチレータ11を構成できることを意味する。このことから、重金属の含有量の少ないシンチレータ11を提供できる点で、「樹脂GOS」は、「GOS」セラミックよりも優れているということができる。
【0035】
以上のことから、「樹脂GOS」は、性能と製造コストを両立可能なシンチレータ11として有望視されていることになる。
【0036】
<具体的な材料>
続いて、シンチレータ構造体10を構成する構成要素の具体的な材料について説明する。
【0037】
<<蛍光体11a>>
本実施の形態で使用される蛍光体11aは、例えば、ガドリウム酸硫化物、または、ガドリニウム-アルミニウム-ガリウムガーネット(GGAG)から構成される。ここで、ガドリウム酸硫化物は、例えば、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)あるいはテルビウム(Tb)から選ばれた少なくとも1種類で賦活した「GdS」の組成を有する。一方、「GGAG」は、例えば、セリウム(Ce)やプラセオジウム(Pr)などから選ばれた少なくとも1種類で賦活した(Gd1-XLu3+a(GaAl1-u5-a12(x=0~0.5、u=0.2~0.6、a=-0.05~0.15)の主組成を有する。ただし、蛍光体11aは、特定の組成物に限定されるものではない。
【0038】
<<樹脂11bおよび樹脂12b>>
樹脂11bおよび樹脂12bは、透光性を有する樹脂から構成される。特に、樹脂11bおよび樹脂12bは、波長450nm~650nmの範囲で、85%以上の光透過率を有していることが望ましい。例えば、樹脂11bおよび樹脂12bとしては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ビニール樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種類の樹脂を単独で使用してもよいし、2種類以上の樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
<<反射粒子12a>>
反射粒子12aの構成材料としては、例えば、「TiO」(酸化チタン)、「Al」(酸化アルミニウム)、「ZrO」(酸化ジルコニウム)などの白色粒子を挙げることができる。ここで、反射粒子12aは、例えば、バルクまたは粉体と樹脂の混合物を使用することができる。特に、「ルチル型TiO」からなる反射粒子12aは、光反射効率に優れており望ましい粒子である。反射粒子12aの光反射率は、受光素子20での受光効率を向上させる観点から、80%以上であることが望ましく、さらに、反射粒子12aの光反射率は、90%以上であることが望ましい。
【0040】
<<その他の添加剤>>
シンチレータ11および反射材12には、上述した成分以外に、その他の添加剤が配合されていてもよい。例えば、樹脂の硬化時間を短縮させるために、硬化触媒を配合することが望ましい。
【0041】
<改善の検討>
上述した構成を有するシンチレータ構造体10について、本発明者が検討したところ、以下に示す改善の余地を新規に見出したので、この点を説明する。すなわち、シンチレータ構造体10は、高温高湿の環境下で使用されることがあり、この場合、シンチレータ11と反射材12との間の界面において剥離が生じやすくなることを本発明者は新規に見出した。このように、シンチレータ構造体10には、信頼性を向上する観点から改善の余地が存在する。そこで、本実施の形態では、上述した改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0042】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、シンチレータ11と反射材12とを化学的に結合する思想である。これにより、シンチレータ11と反射材12との間の界面が化学的に強固に結合することができる結果、たとえ、シンチレータ構造体10が高温高湿の環境下で使用されたとしても、シンチレータ11と反射材12との間の界面における剥離を抑制できる。つまり、基本思想によれば、シンチレータ構造体10の信頼性を向上できる。
【0043】
特に、本実施の形態において、シンチレータ11と反射材12とを化学的に結合するという基本思想は、例えば、シンチレータ11からなる複数のセルCLのそれぞれと反射材12とを架橋させることにより実現することができる。つまり、本実施の形態では、上述した基本思想を複数のセルCLのそれぞれと反射材12とを架橋させることで具現化している。これにより、本実施の形態によれば、複数のセルCLの樹脂11bと反射材12の樹脂12bとの間の界面が架橋によって強固に結合されることから、複数のセルCLのそれぞれと反射材12との密着性が向上することを通じて、シンチレータ構造体10の信頼性を向上できるという顕著な効果が得られる。
【0044】
以下では、シンチレータ11と反射材12とを化学的に結合する思想を具現化するにあたって、シンチレータ11からなる複数のセルCLのそれぞれと反射材12とを架橋させることを想到した経緯について、関連技術を使用しながら説明する。
【0045】
本明細書でいう「関連技術」とは、公知技術ではないが、本発明者が見出した課題を有する技術であって、本願発明の前提となる技術である。
【0046】
図2は、関連技術におけるシンチレータ構造体の製造方法を説明するフローチャートである。図2において、まず、「GOS」粉体と樹脂との混合物である「樹脂GOS」からなる基板を作製する(S101)。そして、架橋反応を利用することにより、基板を完全に架橋する(S102)。このとき、架橋反応は完全に終了するまで行われる結果、基板を構成する「樹脂GOS」が完全に架橋される。その後、基板を個片化することにより、架橋された「樹脂GOS」から構成される複数のセルを取得する(S103)。次に、複数のセルを覆う反射材を形成した後(S104)、架橋反応を利用することにより、反射材を完全に架橋する(S105)。このようにして、シンチレータ構造体を製造できる。
【0047】
ここで、関連技術では、「樹脂GOS」での架橋反応を完全に行った後、反射材での架橋反応を行っている。つまり、関連技術では、「樹脂GOS」の架橋反応と、反射材の架橋反応とを関連付けることなく独立別個に行っている。このことから、関連技術では、「樹脂GOS」と反射材のそれぞれを架橋することができる一方で、「樹脂GOS」と反射材との間の界面を架橋させることはできない。したがって、関連技術では、「樹脂GOS」と反射材との密着性を向上することが困難となる結果、高温高湿の環境下でシンチレータ構造体を使用すると、「樹脂GOS」と反射材12との間の界面において剥離が生じやすくなるのではないかと本発明者は推測している。裏を返せば、本発明者は、「樹脂GOS」の架橋反応と、反射材の架橋反応とを関連付けて行うことができれば、「樹脂GOS」と反射材との間の界面も架橋させることができ、これによって、「樹脂GOS」と反射材との密着性を向上することができるのではないかという新規な知見を見出した。
【0048】
そこで、本発明者は、上述した新規な知見に基づいて、関連技術に対して工夫を施している。すなわち、本発明者は、「樹脂GOS」の架橋反応と、反射材の架橋反応とを関連付けて行うことにより、「樹脂GOS」と反射材との間の界面も架橋させることができる結果、「樹脂GOS」と反射材との密着性を向上することができるシンチレータ構造体の製造方法を想到している。本発明者によって想到されたシンチレータ構造体の製造方法が、本実施の形態におけるシンチレータ構造体の製造方法であり、以下では、本実施の形態におけるシンチレータ構造体の製造方法について説明する。
【0049】
<実施の形態におけるシンチレータ構造体の製造方法>
図3は、シンチレータ構造体10の製造工程の流れを説明するフローチャートである。
【0050】
図3において、まず、原料粉末とフラックス成分を所定量秤量して混合した後、この混合物を坩堝に充填し、1300℃~1400℃の大気炉中で7~9時間焼成することにより、「GOS」粉体を生成する。そして、「GOS」粉体中に含まれるフラックス成分や不純物を塩酸と温水を使用した洗浄により除去する。次に、「GOS」粉体にエポキシ樹脂を滴下することにより、「GOS」粉体にエポキシ樹脂を浸み込ませる。これにより、「樹脂GOS」からなる基板が作製される(S201)。次に、「樹脂GOS」からなる基板に対して架橋を行う。このとき、本実施の形態では、基板に対して完全に架橋反応を起こさせるのではなく、基板を半架橋状態にする(S202)。これにより、半架橋状態の「樹脂GOS」からなるシンチレータ11を形成することができる。
【0051】
ここで、「半架橋状態」とは、化学反応(架橋反応)が完全に終了していない状態として定義され、例えば、ゲル状態が含まれる。特に、本明細書でいう「半架橋状態」とは、ゲル分率が80%以上95%以下である状態である。ゲル分率が80%よりも小さいと、個片化したセルの形状を保つことが難しい一方、ゲル分率が95%を超えると、反応性が劣るためである。
【0052】
このゲル分率は、以下に示す式により算出することができる。
【0053】
ゲル分率(%)=乾燥後質量/初期質量×100
ゲル分率の測定は、以下の手順で行われる。すなわち、始めにサンプルの初期質量を測定する。その後、サンプルをキシレン溶液に24時間浸漬し、キシレン溶液から取り出したサンプルを一晩自然乾燥させた後、真空乾燥を行って、乾燥後質量を測定する。
【0054】
続いて、シンチレータ11が形成された基板をダイシングすることにより、基板を複数のセルCLに個片化する(S203)。個片化された複数のセルCLは、再配列された後、複数のセルCLを覆うように反射材12が形成される(S204)。そして、反射材12に対して架橋を行う(S205)。このとき、反射材12自体が架橋されるだけでなく、化学反応が完全に終了していない半架橋状態の複数のセルCLのそれぞれと反射材12とが化学的に結合する。つまり、複数のセルCLのそれぞれと反射材12とが架橋される。この結果、本実施の形態によれば、複数のセルCLのそれぞれと反射材12との間の密着性を著しく向上させることができる。そして、シンチレータ構造体10としての不要部を切断した後、検査をパスしたシンチレータ構造体10が出荷される。
【0055】
<実施の形態における特徴>
本実施の形態における特徴点は、「樹脂GOS」の架橋反応と、反射材の架橋反応とを独立別個に行うのではなく、互いに関連付けて行うことにより、「樹脂GOS」と反射材との間の界面も架橋させる点である。具体的に、本実施の形態では、「樹脂GOS」の架橋反応と反射材の架橋反応とを互いに関連付けるために、「樹脂GOS」の架橋反応を完全に終了させる前の「半架橋状態」を維持しながら、基板を複数のセルに個片化するとともに、複数のセルを覆う反射材を形成した後、反射材に対して架橋反応を生じさせる。この場合、反射材に対して架橋反応を生じさせると、「半架橋状態」の複数のセルにおいても架橋反応が進行する。このことは、「樹脂GOS」の架橋反応と反射材の架橋反応とが互いに関連付けられていることを意味する。これにより、「半架橋状態」の複数のセルのそれぞれと反射材の両方に架橋反応が同時進行することになり、これによって、複数のセルのそれぞれ自体の架橋反応と反射材自体の架橋反応だけでなく、複数のセルのそれぞれと反射材とを繋ぐ架橋反応も生じさせることができる。この結果、本実施の形態によれば、複数のセルのそれぞれと反射材とが架橋によって化学的に結合することから、複数のセルのそれぞれと反射材との密着性を向上することができる。したがって、本実施の形態におけるシンチレータ構造体によれば、たとえ、高温高湿の環境下で使用されたとしても、複数のセルのそれぞれと反射材との間の界面における剥離の発生を抑制できる。つまり、本実施の形態によれば、シンチレータ構造体の信頼性を向上できる。
【0056】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
10 シンチレータ構造体
11 シンチレータ
11a 蛍光体
11b 樹脂
12 反射材
12a 反射粒子
12b 樹脂
20 受光素子
30 支持体
100 X線検出器
CL セル
図1
図2
図3